(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した特許文献1に記載の光電変換素子は、電解質中のポリハロゲン化物イオンの濃度が低い場合(例えば0.05M以下である場合)に、耐久性の点で改善の余地を有していた。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、電解質中のポリハロゲン化物イオンの濃度が低い場合に優れた耐久性を有する光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記特許文献1記載の光電変換素子において上記課題が生じる原因について検討を行った。その結果、上記特許文献1記載の光電変換素子において、電解質中のポリハロゲン化物イオンの濃度が低い場合(例えば0.05M以下である場合)には、電解質中への酸素の透過速度が大きすぎると耐久性が低下する一方、電解質中への酸素の透過速度が小さすぎても耐久性が低下することに本発明者らは気付いた。そこで、本発明者らはさらに鋭意研究を重ねた結果、1日当たりの封止部内への酸素の透過量、すなわち、封止部内への酸素透過速度と、封止部内の電解質の量との比が一定の範囲内にある場合に上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、少なくとも1つの光電変換セルを備え、前記光電変換セルが、電極基板と、前記電極基板に対向する対向基板と、前記電極基板又は前記対向基板に設けられる酸化物半導体層と、前記電極基板及び前記対向基板を接合する環状の封止部と、前記電極基板、前記対向基板及び前記封止部によって形成されるセル空間に充填される電解質とを備え、前記電解質がハロゲン化物イオン及びポリハロゲン化物イオンからなる酸化還元対を含み、前記電解質中の前記ポリハロゲン化物イオンの濃度が0.05M以下であり、下記式(1)で表されるRが0.00040〜0.00200cm
3(STP)/(day・mL)である、光電変換素子である。
R=v/m (1)
(上記式(1)中、vは下記式(2)で表される前記封止部の酸素透過速度(cm
3(STP)/day)を表し、mは前記電解質の量(mL)を表す)
v=d×C×a/w (2)
(上記式(2)中、dは前記封止部の酸素透過係数(cm
3(STP)・mm/(m
2・day・atm))を表し、aは前記封止部における酸素の透過面積(m
2)を表し、Cは前記セル空間の内部における酸素分圧と前記セル空間の外部における酸素分圧との差の絶対値(atm)を表し、wは前記封止部の幅(mm)を表す)
【0009】
本発明の光電変換素子は、電解質中のポリハロゲン化物イオンの濃度が低い場合(0.05M以下である場合)に、優れた耐久性を有することが可能となる。
【0010】
なお、本発明者らは、本発明の光電変換素子によって上記の効果が得られる理由について以下のように推察している。
【0011】
すなわち、本発明の光電変換素子においては、セル空間の内部に、電解質の量に対して多量の酸素が侵入することが抑制される。このため、光電変換素子に光が入射される際に、侵入した酸素の活性化に次ぐハロゲン化物イオンからポリハロゲン化物イオンへの酸化反応の進行によるものと思われる電解質中のポリハロゲン化物イオンの濃度の増加が進行しにくくなり、最大出力動作電流の低下が十分に抑制される。また、本発明の光電変換素子によれば、セル空間の内部に、電解質の量に対して、酸素が完全に侵入しなくなることが抑制され、ポリハロゲン化物イオンからハロゲン化物イオンへの還元反応によるものと思われる電解質中のポリハロゲン化物イオンの濃度の減少が進行しにくくなり、最大出力動作電流の低下が起こりにくくなる。このように、本発明の光電変換素子によれば、電解質中のポリハロゲン化物イオンの濃度が低く、ポリハロゲン化物イオンの濃度の変化率が大きいにもかかわらず、最大出力動作電流の低下が起こりにくくなる。その結果、光電変換素子の最大出力の低下がより十分に抑制される。従って、本発明の光電変換素子は、電解質中のポリハロゲン化物イオンの濃度が低い場合に優れた耐久性を有することが可能になるものと考えられる。
【0012】
上記光電変換素子においては、前記式(2)中の酸素透過係数dが46〜195cm
3(STP)・mm/(m
2・day・atm)であることが好ましい。
【0013】
この場合、上記式(2)中の酸素透過係数dが46cm
3(STP)・mm/(m
2・day・atm)未満である場合と比べて、封止部の幅wを十分に大きくすることが可能となり、封止部と電極基板との接着面積、および、封止部と対向基板との接着面積を増加させることができるため、封止部と電極基板との接着性、および、封止部と対向基板との接着性がより向上する。その結果、光電変換素子の耐久性がより向上する。また、上記式(2)中のdが195cm
3(STP)・mm/(m
2・day・atm)より大きい場合と比べて、封止部の酸素透過能をより低減できるため、封止部と電極基板との接着面の酸化、及び、封止部と対向基板との接着面の酸化がより十分に抑制される。このため、封止部と電極基板との接着性、および、封止部と対向基板との接着性の低下がより十分に抑制される。その結果、光電変換素子の耐久性がより向上する。
【0014】
なお、本発明において、「cm
3(STP)」とは、封止部を透過する酸素の体積が標準状態、すなわち、0℃、1atmの条件で測定された体積であることを示す。
【0015】
また、本発明において、「封止部における酸素の透過面積」とは、環状の封止部の外周の周長と封止部の高さとの積を言う。ここで、「封止部の外周の周長」とは、「封止部と電極基板との界面(以下、「第1界面」と呼ぶ)における封止部の外周の周長」及び「封止部と対向基板との界面(以下、「第2界面」と呼ぶ)における封止部の外周の周長」のうち、より短い方の周長を言い、「第1界面における封止部の外周の周長」及び「第2界面における封止部の外周の周長」が同一の長さである場合にはその周長を言う。また、「封止部の高さ」とは、第1界面から第2界面までの距離を言う。
【0016】
また本発明において、「封止部の幅」とは、「第1界面における環状の封止部の幅」及び「第2界面における環状の封止部の幅」のうち、より短い方の幅を言い、「第1界面における環状の封止部の幅」及び「第2界面における環状の封止部の幅」が同一の幅である場合にはその幅を言う。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電解質中のポリハロゲン化物イオンの濃度が低い場合に優れた耐久性を有する光電変換素子が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の光電変換素子の第1実施形態について
図1を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の光電変換素子の第1実施形態を示す切断面端面図である。
【0020】
図1に示すように、光電変換素子100は1つの光電変換セル50を備えている。光電変換セル50は、電極基板10と、電極基板10に対向する対向基板20と、電極基板10上に設けられる酸化物半導体層13と、酸化物半導体層13に吸着される色素と、電極基板10及び対向基板20を接合する環状の封止部30と、電極基板10、対向基板20及び封止部30によって形成されるセル空間に充填される電解質40とを備える。
【0021】
電解質40はハロゲン化物イオン及びポリハロゲン化物イオンからなる酸化還元対を含み、電解質40中のポリハロゲン化物イオンの濃度が0.05M以下となっている。
【0022】
また、光電変換素子100においては、下記式(1)で表されるRが、0.00040〜0.00200cm
3(STP)/(day・mL)となっている。
R=v/m (1)
(上記式(1)中、vは下記式(2)で表される封止部30の酸素透過速度(cm
3(STP)/day)を表し、mは電解質の量(mL)を表す)
v=d×C×a/w (2)
(上記式(2)中、dは封止部30の酸素透過係数(cm
3(STP)・mm/(m
2・day・atm))を表し、aは封止部30における酸素の透過面積(m
2)を表し、Cはセル空間の内部における酸素分圧とセル空間の外部における酸素分圧との差の絶対値(atm)を表し、wは封止部30の幅(mm)を表す)
【0023】
この光電変換素子100は、電解質40中のポリハロゲン化物イオンの濃度が低い場合に優れた耐久性を有することが可能となる。
【0024】
次に、電極基板10、対向基板20、酸化物半導体層13、封止部30、電解質40及び色素について詳細に説明する。
【0025】
<電極基板>
電極基板10は、透明基板11と、透明基板11の上に設けられる透明導電層12とを備えている(
図1参照)。
【0026】
透明基板11を構成する材料は、透明な材料であればよく、このような透明な材料としては、例えばホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、白板ガラス、石英ガラスなどのガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、及び、ポリエーテルスルフォン(PES)などの絶縁材料が挙げられる。透明基板11の厚さは、光電変換素子100のサイズに応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、例えば50〜40000μmの範囲にすればよい。
【0027】
透明導電層12を構成する材料としては、例えばスズ添加酸化インジウム(ITO)、酸化スズ(SnO
2)、及び、フッ素添加酸化スズ(FTO)などの導電性金属酸化物が挙げられる。透明導電層12は、単層でも、異なる導電性金属酸化物で構成される複数の層の積層体で構成されてもよい。透明導電層12が単層で構成される場合、透明導電層12は、高い耐熱性及び耐薬品性を有することから、FTOで構成されることが好ましい。透明導電層12の厚さは例えば0.01〜2μmの範囲にすればよい。
【0028】
<対向基板>
対向基板20は、本実施形態では、導電性基板21と、導電性の触媒層22とを備える(
図1参照)。
【0029】
導電性基板21は、例えばチタン、ニッケル、白金、モリブデン、タングステン、アルミニウム、ステンレス等の金属材料で構成される。この場合、導電性基板21は、基板と電極を兼ねることになる。また、導電性基板21は、基板と電極を分けて、上述した絶縁性の透明基板11に電極としてITO、FTO等の導電性酸化物からなる透明導電層を形成した積層体で構成されてもよい。
【0030】
導電性基板21の厚さは、光電変換素子100のサイズに応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、例えば0.005〜4mmとすればよい。
【0031】
触媒層22は、白金、炭素系材料又は導電性高分子などから構成される。ここで、炭素系材料としては、カーボンナノチューブが好適に用いられる。なお、対向基板20は、導電性基板21が触媒機能を有する場合(例えばカーボンなどを含有する場合)には触媒層22を有していなくてもよい。
【0032】
<酸化物半導体層>
酸化物半導体層13は酸化物半導体粒子で構成されている。酸化物半導体粒子は、例えば酸化チタン(TiO
2)、酸化ケイ素(SiO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タングステン(WO
3)、酸化ニオブ(Nb
2O
5)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3)、酸化スズ(SnO
2)又はこれらの2種以上で構成される。
【0033】
酸化物半導体層13の厚さは特に制限されるものではないが、通常は2〜40μmであり、好ましくは10〜30μmである。
【0034】
<封止部>
封止部30を構成する材料は、特に限定されるものではないが、封止部30を構成する材料としては、例えば変性ポリオレフィン樹脂、ビニルアルコール重合体などの熱可塑性樹脂、及び、紫外線硬化樹脂などの樹脂が挙げられる。変性ポリオレフィン樹脂としては、例えばアイオノマー、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、エチレン−ビニル酢酸無水物共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体およびエチレン−ビニルアルコール共重合体などが挙げられる。中でも、無水マレイン酸変性ポリオレフィンが好ましい。この場合、電極基板10及び対向基板20に対して、より高い接着強度が得られる。
【0035】
封止部30の酸素透過速度vは上記式(2)で表され、特に限定されるものではないが、0.000016〜0.00027cm
3(STP)/dayであることが好ましい。この場合、酸化物半導体層13を電極基板10側から平面視した場合の面(発電面)内における出力密度のムラがより生じにくくなる。
【0036】
また、上記式(2)中のCは、セル空間の内部における酸素分圧とセル空間の外部における酸素分圧との差の絶対値である。例えば大気圧下では、通常、セル空間の外部における酸素分圧が0.209atmであり、この酸素分圧は通常、セル空間の内部における酸素分圧よりも十分に大きいため、Cは0.209(atm)と近似できる。なお、セル空間の外部における酸素分圧が変化すれば、Cの値も変化する。
【0037】
また上記式(2)中の透過面積aは、封止部30の高さ(厚さ)と封止部30の外周の周長との積を表す。
【0038】
また上記式(2)中の幅wは、封止部30の幅を表し、封止部30における酸素の透過距離に相当する。
【0039】
上記式(2)中の透過面積aと幅wとの比(a/w)は、特に限定されるものではないが、a/wは0.0005〜0.0070であることが好ましい。この場合、封止部30の形状安定性がより向上することにより、光電変換素子100の耐久性をより向上させることができる。
【0040】
また上記式(2)中の酸素透過係数dは特に限定されるものではないが、46〜195cm
3(STP)・mm/(m
2・day・atm)であることが好ましい。この場合、上記式(2)中の酸素透過係数dが、46cm
3(STP)・mm/(m
2・day・atm)未満である場合と比べて、封止部30の幅wを十分に大きくすることが可能となり、封止部30と電極基板10との接着面積、および、封止部30と対向基板20との接着面積を増加させることができるため、封止部30と電極基板10との接着性、および、封止部30と対向基板20との接着性がより向上する。その結果、光電変換素子100の耐久性がより向上する。また、上記式(2)中のdが195cm
3(STP)・mm/(m
2・day・atm)より大きい場合と比べて、封止部30の酸素透過能をより低減できるため、封止部30と電極基板10との接着面の酸化、及び、封止部30と対向基板20との接着面の酸化がより十分に抑制される。このため、封止部30と電極基板10との接着性、および、封止部30と対向基板20との接着性の低下がより十分に抑制される。その結果、光電変換素子100の耐久性がより向上する。
【0041】
上記式(2)中の酸素透過係数dは60〜160cm
3(STP)・mm/(m
2・day・atm)であることがより好ましい。この場合、封止部30を構成する材料をあらかじめ減圧下に置いて、封止部30を構成する材料中に含まれる酸素を除去した材料を用いることができる。これにより、酸素透過能をより低減でき、酸素の透過による光電変換素子100の耐久性の低下をより十分に抑制できる。
【0042】
封止部30の高さは特に制限されるものではないが、40μm以下であることが好ましい。この場合、封止部30の高さが40μmを超える場合に比べて、セル空間の内部に多量の酸素が侵入しにくくなり、光電変換素子100に光が照射される際、侵入した酸素の活性化に次ぐハロゲン化物イオンからポリハロゲン化物イオンへの酸化反応の進行による最大出力動作電流の低下がより十分に抑制される。その結果、光電変換素子100の出力の低下がより十分に抑制され、光電変換素子100がより優れた耐久性を有することが可能となる。封止部30の高さは、25μm以下であることが好ましい。但し、電極基板10及び対向基板20に対する封止部30の接着性を考慮すると、封止部30の高さは、10μm以上であることが好ましい。
【0043】
<電解質>
電解質40は、上述したように、ハロゲン化物イオン及びポリハロゲン化物イオンからなる酸化還元対を含み、電解質40中のポリハロゲン化物イオンの濃度は0.05M以下である。電解質40中のポリハロゲン化物イオンの濃度が0.05Mを超えると、Rの値にかかわらず、光電変換素子100の出力が低下しにくくなる。但し、電解質40中のポリハロゲン化物イオンの濃度は0.002M以上であることが好ましい。この場合、電解質40中のポリハロゲン化物イオンの濃度が0.002M未満である場合に比べて、照度が高い環境下でより高い発電性能が得られる。
【0044】
酸化還元対は、ハロゲン化物イオン及びポリハロゲン化物イオンからなるものであればよい。このような酸化還元対としては、ヨウ化物イオン及びポリヨウ化物イオン、臭化物イオン(臭素イオン)及びポリ臭化物イオンなどのレドックス対が挙げられる。なお、ヨウ化物イオン及びポリヨウ化物イオンは、ヨウ素(I
2)と、アニオンとしてのアイオダイド(I
−)を含む塩(イオン性液体や固体塩)とによって形成することができる。アニオンとしてアイオダイドを有するイオン性液体を用いる場合には、ヨウ素のみ添加すればよく、有機溶媒や、アニオンとしてアイオダイド以外のイオン性液体を用いる場合には、LiIやテトラブチルアンモニウムアイオダイドなどのアニオンとしてアイオダイド(I
−)を含む塩を添加すればよい。
【0045】
また電解質40は、通常、有機溶媒を含んでいる。電解質40に含まれる有機溶媒としては、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、メトキシプロピオニトリル、プロピオニトリル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、バレロニトリル、ピバロニトリルなどを用いることができる。
【0046】
また電解質40は、有機溶媒に代えて、イオン液体を用いてもよい。イオン液体としては、例えばピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩等の既知のヨウ素塩であって、室温付近で溶融状態にある常温溶融塩が用いられる。このような常温溶融塩としては、例えば、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムアイオダイド、1−エチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアイオダイド、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムアイオダイド、又は、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイドが好適に用いられる。
【0047】
また電解質40は、上記有機溶媒に代えて、上記イオン液体と上記有機溶媒との混合物を用いてもよい。
【0048】
また電解質40には添加剤を加えることができる。添加剤としては、LiI、4−t−ブチルピリジン、グアニジウムチオシアネート、1−メチルベンゾイミダゾール、1−ブチルベンゾイミダゾールなどが挙げられる。
【0049】
さらに電解質40としては、上記電解質にSiO
2、TiO
2、カーボンナノチューブなどのナノ粒子を混練してゲル様となった擬固体電解質であるナノコンポジットゲル電解質を用いてもよく、また、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド誘導体、アミノ酸誘導体などの有機系ゲル化剤を用いてゲル化した電解質を用いてもよい。
【0050】
電解質40の量mと封止部30の酸素透過速度vとの比、すなわち、上記式(1)で表されるRは0.00040〜0.00200cm
3(STP)/(day・mL)である。この場合、上記式(1)で表されるRが上記範囲を外れる場合と比べて、最大出力動作電流の低下が起こりにくくなり、その結果、光電変換素子100の最大出力の低下がより十分に抑制される。従って、光電変換素子100は、電解質40中のポリハロゲン化物イオンの濃度が低い場合に優れた耐久性を有することが可能になる。
【0051】
上記式(1)のRは0.00090〜0.00150cm
3(STP)/(day・mL)であることが好ましい。この場合、酸化物半導体層13を電極基板10側から平面視した場合の面(発電面)内における出力密度のムラがより生じにくくなる。
【0052】
<色素>
色素としては、例えばビピリジン構造、ターピリジン構造などを含む配位子を有するルテニウム錯体、ポルフィリン、エオシン、ローダニン、メロシアニンなどの有機色素などの光増感色素や、ハロゲン化鉛系ペロブスカイト結晶などの有機−無機複合色素などが挙げられる。ハロゲン化鉛系ペロブスカイトとしては、例えばCH
3NH
3PbX
3(X=Cl、Br、I)が用いられる。ここで、色素として光増感色素を用いる場合には、光電変換素子100は色素増感光電変換素子となり、光電変換セル50は色素増感光電変換セルとなる。
【0053】
上記色素の中でも、ビピリジン構造又はターピリジン構造を含む配位子を有するルテニウム錯体からなる光増感色素が好ましい。この場合、光電変換素子100の光電変換特性をより向上させることができる。
【0054】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、電極基板10が透明基板11を有し、透明基板11上に透明導電層12を介して酸化物半導体層13が設けられているが、酸化物半導体層13が対向基板20の導電性基板21上に設けられていてもよい。但し、この場合、触媒層22は電極基板10の透明導電層12上に設けられることとなる。
【0055】
また上記実施形態では、導電性基板21と触媒層22とが対向基板20を構成しているが、
図2に示す光電変換素子200のように、光電変換セル250が、対向基板として、対向基板20に代えて、絶縁性基板220を用いてもよい。この場合、絶縁性基板220と封止部30と電極基板10との間の空間には構造体202が配置される。構造体202は、電極基板10のうち絶縁性基板220側の面上に設けられている。構造体202は、電極基板10側から順に、酸化物半導体層13、多孔質絶縁層203及び対極201で構成される。また上記空間には電解質40が配置されている。電解質40は、酸化物半導体層13及び多孔質絶縁層203の内部にまで含浸されている。ここで、絶縁性基板220としては、例えばガラス基板又は樹脂フィルムなどを用いることができる。また対極201としては、対向基板20と同様のものを用いることができる。あるいは、対極201は、例えばカーボン等を含む多孔質の単一の層で構成されてもよい。多孔質絶縁層203は、主として、酸化物半導体層13と対向基板220との物理的接触を防ぎ、電解質40を内部に含浸させるためのものである。このような多孔質絶縁層203としては、例えば酸化物の焼成体を用いることができる。なお、
図2に示す光電変換素子200においては、封止部30と電極基板10と絶縁性基板220との間の空間に構造体202が1つのみ設けられているが、構造体202は複数設けられていてもよい。また、多孔質絶縁層203は、酸化物半導体層13と対極201との間に設けられているが、酸化物半導体層13を囲むように、電極基板10と対極201との間に設けてもよい。この構成でも、酸化物半導体層13と対極201との物理的接触を防ぐことができる。
【0056】
また、上記実施形態では、光電変換素子100は、1つの光電変換セル50を備えているが、光電変換素子は、光電変換セル50を複数備えていてもよい。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
まず、4.1cm×9.1cm×厚さ20μmのフィルムに四角形状の開口を形成し、封止部を形成するための環状の封止部形成体を得た。このとき、封止部形成体の構成材料としては、無水マレイン酸変性ポリエチレン(無水マレイン酸変性PE)1(商品名:バイネル4164、デュポン社製、密度:0.92g/cm
3、酸素透過係数d:195cm
3(STP)・mm/(m
2・day・atm))を用いた。
【0059】
次に、ガラスからなる5.5cm×11cm×2.2mmの透明基板の上に、0.6μmのFTOからなる透明導電層を形成してなる積層体を準備した。
【0060】
次に、透明導電層の上に、酸化物半導体層の前駆体を形成した。酸化物半導体層の前駆体は、透明導電層上に酸化チタンナノペーストを印刷した後、460℃で90分間加熱して焼成することにより2.5cm×7.5cm×厚さ20μmの四角形状の酸化チタン多孔質膜からなる酸化物半導体層を得た。こうして構造体を得た。
【0061】
一方、t−ブタノールとアセトニトリルとの混合溶媒にZ907からなる光増感色素を溶解させて色素溶液を得た。
【0062】
そして、上記のようにして得られた構造体を上記色素溶液中に一晩浸漬することにより、酸化物半導体層の表面に光増感色素を吸着させた。そして、透明導電層上に酸化物半導体層を包囲するように、上記のようにして用意した環状の封止部形成体を配置した。
【0063】
次に、酸化物半導体層上に電解質を0.125mL滴下した。電解質は、アルゴン雰囲気下、3−メトキシプロピオニトリルからなる溶媒中に、ヨウ素と、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイドを添加することにより得た。このとき、電解質中のI
3−の濃度は0.01Mとした。
【0064】
一方、厚さ0.04mmのチタン箔上に白金を、その厚さが5nmとなるようにスパッタして得られる対向基板であって4.1cm×9.1cm×0.04mmの対向基板を用意した。このとき、チタン箔の表面において、封止部を形成する予定の周縁部には、触媒層が成膜されないようにマスキングを施した。そして、対向基板のチタン箔のうち触媒層が成膜されていない周縁部に、上記のようにして得られた封止部形成体を配置し、熱ラミネート法によって接着させた。こうして、封止部形成体を形成した対向基板を用意した。
【0065】
そして、封止部形成体を形成した対向基板を封止部形成体を介して上記構造体に対向するように配置し、封止形成体を190℃で加熱しながらプレスして透明導電層と対向基板とを接着させた。このとき、封止部形成体に十分な応力をかけることにより、厚さ(高さ)10μm、幅8mmの環状の封止部を得た。ここで、封止部の外周長を26.4cmとし、封止部の厚さ(高さ)を10μmとすることにより、封止部の高さと封止部の外周の周長との積である透過面積aを0.026m
2とした。こうして光電変換素子を得た。
【0066】
上記のようにして得られた光電変換素子について、下記式(1)で表される電解質の量mと封止部の酸素透過速度vとの比R、及び、下記式(2)で表される酸素透過速度vを求めた。結果を表1に示す。なお、式(2)中、Cの値としては、セル空間の外部における酸素分圧が0.209atmであり、セル空間の内部における酸素分圧が約0atmであるため、0.209(atm)を用いた。
R=v/m (1)
(上記式(1)中、vは下記式(2)で表される封止部の酸素透過速度(cm
3(STP)/day)を表し、mは電解質の量(mL)を表す)
v=d×C×a/w (2)
(上記式(2)中、dは封止部の酸素透過係数(cm
3(STP)・mm/(m
2・day・atm))を表し、aは封止部における酸素の透過面積(m
2)を表し、Cはセル空間の内部における酸素分圧とセル空間の外部における酸素分圧との差の絶対値(atm)を表し、wは封止部の幅(mm)を表す)
【0067】
(実施例2〜19、比較例1〜16、及び参考例1〜4)
封止部の構成材料、酸素透過係数d、外周の周長、高さ、透過面積a、幅w、電解質の量m及びI
3−濃度を表1〜3に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0068】
なお、比較例7〜9及び実施例13〜14では、封止部を構成する樹脂として、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH,商品名:エバール、クラレ社製、酸素透過係数d:1cm
3(STP)・mm/(m
2・day・atm))を用い、比較例10〜12及び実施例15では、封止部を構成する樹脂として、無水マレイン酸変性ポリエチレン(無水マレイン酸変性PE)2(商品名:AMPLIFY GR 204、ダウ・ケミカル・カンパニー社製、密度:0.96g/cm
3、酸素透過係数d:46cm
3(STP)・mm/(m
2・day・atm))を用いた。
【0069】
<耐久性>
上記のようにして得られた実施例1〜19、比較例1〜16及び参考例1〜4の光電変換素子について、作製直後に200ルクスの白色光を照射した状態でIV曲線を測定し、このIV曲線から算出される最大出力動作電力Pm
0(μW)を「出力1」として算出した。なお、IV曲線の測定に用いた光源、照度計および電源は以下の通りとした。
光源:白色LED(製品名「LEL−SL5N−F」、東芝ライテック社製)
照度計:製品名「デジタル照度計51013」、横河メータ&インスツルメンツ社製
電源:電圧/電流 発生器(製品名「R6246I」、ADVANTEST製)
【0070】
そして、20000ルクスの白色光照射下で2000時間置いた後、上記光電変換素子を再度200ルクスの上記の白色光を照射した状態でIV曲線を測定し、このIV曲線から算出される最大出力動作電力PW(μW)を「出力2」として算出した。そして、下記式に基づいて出力維持率を算出した。結果を表1〜3に示す。
出力維持率=出力2/出力1
なお、耐久性の合格基準は以下の通りとした。
(合格基準)出力維持率が0.85以上であること
【表1】
【表2】
【表3】
【0071】
表1〜3に示すように、実施例1〜19の光電変換素子は、耐久性の点で合格基準を満たすことが分かった。これに対し、比較例1〜16の光電変換素子は、耐久性の点で合格基準を満たさないことが分かった。なお、参考例1〜5の結果より、ポリハロゲン化物イオンの濃度が0.05Mを超えると、式(1)で表されるRの値にかかわらず、光電変換素子の耐久性は大きく変わらなかった。
【0072】
以上の結果から、本発明の光電変換素子は、電解質中のポリハロゲン化物イオンの濃度が低い場合に優れた耐久性を有することが確認された。