(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記管理範囲は、予め求められた前記キャリヤユニットのユニット温度の変化に対する前記転動体起動荷重の変化率に従って、前記キャリヤユニットのユニット温度の変化に伴い増減する管理上限値と管理下限値の間の範囲として設定され、
前記変化率は、予め求められた前記ユニット温度の単位量あたりのアキシャルつまり量の変化量と、予め求められた前記アキシャルつまり量の変化に対する前記転動体起動荷重の変化率とに基づいて算出される請求項6に記載の遊星歯車装置の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態、変形例では、同一の構成要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、各図面では、説明の便宜のため、構成要素の一部を適宜省略したり、構成要素の寸法を適宜拡大、縮小して示す。
【0011】
(第1の実施の形態)
図1は、第1実施形態の遊星歯車装置10を示す側面断面図である。本実施形態の遊星歯車装置10は、内歯歯車と噛み合う外歯歯車を揺動させることで、内歯歯車及び外歯歯車の一方の自転を生じさせ、その生じた運動成分を出力部材から被駆動装置に出力する偏心揺動型歯車装置である。
【0012】
遊星歯車装置10は、主に、入力軸12と、外歯歯車14と、内歯歯車16と、キャリヤ18、20と、ケーシング22と、主軸受24、26と、つまり量調整部材28と、を備える。以下、内歯歯車16の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。また、以下、便宜的に、軸方向の一方側(図中右側)を入力側といい、他方側(図中左側)を反入力側という。
【0013】
入力軸12は、駆動装置(不図示)から入力される回転動力によって回転中心線周りに回転させられる。本実施形態の遊星歯車装置10は、入力軸12の回転中心線が内歯歯車16の中心軸線Laと同軸線上に設けられるセンタークランクタイプである。駆動装置は、たとえば、モータ、ギヤモータ、エンジン等である。
【0014】
本実施形態の入力軸12は、外歯歯車14を揺動させるための複数の偏心部12aを有するクランク軸である。偏心部12aの軸芯は、入力軸12の回転中心線に対して偏心している。本実施形態では2個の偏心部12aが設けられ、隣り合う偏心部12aの偏心位相は180°ずれている。
【0015】
外歯歯車14は、複数の偏心部12aのそれぞれに対応して個別に設けられる。外歯歯車14は、偏心軸受30を介して対応する偏心部12aに回転自在に支持される。外歯歯車14には、ピン部材32が貫通するピン孔14aが形成される。ピン部材32とピン孔14aの間には外歯歯車14の揺動成分を吸収するための遊びとなる隙間が設けられる。ピン部材32とピン孔14aの内壁面とは一部で接触する。
【0016】
内歯歯車16は、外歯歯車14と噛み合う。本実施形態の内歯歯車16は、ケーシング22の内周部に支持されるとともに内歯歯車16の内歯を構成する複数の外ピン16aを有する。内歯歯車16の内歯数(外ピン16aの数)は、本実施形態において、外歯歯車14の外歯数より一つ多い。
【0017】
ケーシング22は、全体として筒状をなし、その内周部には内歯歯車16が設けられる。ケーシング22の外周部には円環状のフランジ部22aが設けられる。フランジ部22aは、内歯歯車16と外歯歯車14の噛み合い箇所に対して径方向外側に設けられる。フランジ部22aには、ねじ部材をねじ込み可能な雌ねじ孔22bが周方向に間を置いて形成される。
【0018】
キャリヤ18、20は、外歯歯車14の軸方向側部に配置される。キャリヤ18、20には、外歯歯車14の入力側の側部に配置される入力側キャリヤ18と、外歯歯車14の反入力側の側部に配置される反入力側キャリヤ20とが含まれる。キャリヤ18、20は円盤状をなしており、入力軸軸受34を介して入力軸12を回転自在に支持する。
【0019】
入力側キャリヤ18と反入力側キャリヤ20はピン部材32を介して連結される。ピン部材32は、外歯歯車14の軸芯から径方向にオフセットした位置において、複数の外歯歯車14を軸方向に貫通する。本実施形態のピン部材32は、反入力側キャリヤ20と同じ部材の一部として設けられるが、キャリヤ18、20と別体に設けられていてもよい。ピン部材32は、内歯歯車16の中心軸線La周りに間を置いて複数設けられる。
【0020】
本実施形態のピン部材32には、軸方向の端面に開口する雌ねじ穴32aが形成される。入力側キャリヤ18には、入力側キャリヤ18を挟んでピン部材32とは反対側からねじ部材36が挿通される段付きの挿通穴38が形成される。ピン部材32は、ねじ部材36を雌ねじ穴32aにねじ込むことで入力側キャリヤ18に固定される。なお、本実施形態の入力側キャリヤ18には、ピン部材32の先端部が差し込まれるピン穴40が形成される。
【0021】
被駆動装置に回転動力を出力する部材を出力部材とし、遊星歯車装置10を支持するための外部部材に固定される部材を被固定部材とする。本実施形態の出力部材はケーシング22であり、被固定部材は反入力側キャリヤ20である。出力部材は、被固定部材に主軸受24、26を介して回転自在に支持される。
【0022】
図2は、主軸受24、26を周辺構造の一部とともに示す拡大図である。主軸受24、26には、入力側キャリヤ18とケーシング22の間に配置される入力側主軸受24と、反入力側キャリヤ20とケーシング22の間に配置される反入力側主軸受26とが含まれる。本実施形態において、一対の主軸受24、26は、いわゆる背面組み合わせの状態で配置され、それぞれの作用線Lw(後述する)が主軸受24、26に対して径方向外側にオフセットした位置で交差する。
【0023】
本実施形態の主軸受24、26は、複数の転動体42の他に、リテーナ44を備える。複数の転動体42は、周方向に間を置いて設けられる。本実施形態の転動体42は球体である。リテーナ44は、複数の転動体42の相対位置を保持するとともに複数の転動体42を回転自在に支持する。
【0024】
本実施形態の主軸受24、26は、転動体42が転動する外側転動面46が設けられる外輪48を備えるが、転動体42が転動する内側転動面50が設けられる内輪を備えない。この代わりに、内側転動面50はキャリヤ18、20の外周面に設けられる。外側転動面46は転動体42の径方向外側に設けられ、内側転動面50は転動体42の径方向内側に設けられる。外輪48は、締まり嵌め、中間嵌め等の嵌め合いにより、ケーシング22と一体化される。
【0025】
主軸受24、26は、予圧Fpが付与されるタイプの軸受である。主軸受24、26は予圧Fpの調整を必要とするタイプの軸受であるともいえる。本実施形態では、このタイプの軸受として、アンギュラ玉軸受を例示する。このタイプの軸受として、この他にも、後述するテーパーローラ軸受、アンギュラコロ軸受等の転がり軸受が挙げられる。予圧Fpは、主には、主軸受24、26のモーメント剛性等の軸受特性の確保のために付与される。
【0026】
予圧Fpは、転動体42に作用する荷重の作用線Lwに沿った方向に付与される。この作用線Lwは、転動体42が球体の場合、転動体42と内側転動面50の接触点と、転動体42と外側転動面46の接触点とを結ぶ直線となる。本実施形態の主軸受24、26は、軸方向に直交する直交面に対して作用線Lwが傾斜しており、その直交面に対して作用線Lwのなす接触角θが0度超となる。本実施形態の接触角θは、40°〜55°の範囲であり、好ましくは45°〜55°の範囲である。
【0027】
つまり量調整部材28は、主軸受24、26の予圧Fpの調節に用いられる。主軸受24、26の内部すきまがゼロになってから、前述の作用線Lwに沿った方向で転動体42がつまる量(縮む量)をつまり量とし、つまり量の軸方向成分をアキシャルつまり量とする。主軸受24、26の予圧Fpは、つまり量調整部材28を用いてアキシャルつまり量を調整することで調節される。
【0028】
つまり量調整部材28は、ケーシング22及びキャリヤ18、20とは別体に設けられる。本実施形態のつまり量調整部材28は主軸受24、26の構成部品とは別体の板状のシムであり、その厚みを変えることでアキシャルつまり量が調整される。本実施形態のつまり量調整部材28は、ピン部材32の軸方向の端面と入力側キャリヤ18の間に配置される。このような箇所に配置される場合、つまり量調整部材28の厚みを薄くするほどアキシャルつまり量を増大させることができる。
【0029】
ケーシング22とキャリヤ18、20は、線膨張係数[1/K]が異なる素材で構成される。本実施形態において、ケーシング22はアルミニウム系の素材で構成され、入力側キャリヤ18及び反入力側キャリヤ20の両方は鉄系の素材で構成される。たとえば、アルミニウム系の素材の線膨張係数は20×10
−6〜25×10
−6[1/K]であり、鉄系の素材の線膨張係数は10×10
−6〜15×10
−6[1/K]である。ケーシング22は、キャリヤ18、20より線膨張係数の大きい素材で構成されることになる。なお、本実施形態において、主軸受24、26の構成部品(本例では転動体42、外輪48)もキャリヤ18、20と同じ鉄系の素材で構成される。詳しくは、キャリヤ18、主軸受24、26の構成部品は軸受鋼で構成され、キャリヤ20はJISにSCM420で規定されるクロムモリブデン鋼で構成される。
【0030】
以上の遊星歯車装置10の動作を説明する。駆動装置から入力軸12に回転動力が伝達されると、入力軸12の偏心部12aが入力軸12を通る回転中心線周りに回転し、その偏心部12aにより外歯歯車14が揺動する。このとき、外歯歯車14は、自らの軸芯が入力軸12の回転中心線周りを回転するように揺動する。外歯歯車14が揺動すると、外歯歯車14と内歯歯車16の噛合位置が順次ずれる。この結果、入力軸12が一回転する毎に、外歯歯車14と内歯歯車16との歯数差に相当する分、外歯歯車14及び内歯歯車16の一方の自転が発生する。
【0031】
本実施形態のように、ケーシング22が出力部材となり、反入力側キャリヤ20が外部部材に固定される場合、内歯歯車16の自転が発生する。一方、反入力側キャリヤ20が出力部材となり、ケーシング22が外部部材に固定される場合、外歯歯車14の自転が発生する。入力軸12の回転は、外歯歯車14と内歯歯車16の歯数差に応じた減速比で減速されて、出力部材から被駆動装置に出力される。
【0032】
ここで、本実施形態の遊星歯車装置10では、転動体42に付与される予圧Fpを管理するため、キャリヤユニット52の転動体起動荷重Fbrgを用いている。このキャリヤユニット52とは、ケーシング22と、一対のキャリヤ18、20と、一対の主軸受24、26とからなるユニットである。
図2は、キャリヤユニット52の一部を示す側面断面図でもある。キャリヤユニット52には、一対のキャリヤ18、20を連結するピン部材32やねじ部材36の他に、つまり量調整部材28が含まれる。キャリヤユニット52は、これらキャリヤユニット52の構成部品以外の遊星歯車装置10の構成部品を除いたものであり、入力軸12、外歯歯車14、入力軸軸受34、オイルシール(不図示)等を含まない。キャリヤユニット52は、遊星歯車装置10を分解したうえで、これら入力軸12、外歯歯車14等を取り外した後、キャリヤユニット52の構成部品を組み合わせることで得られる。
【0033】
転動体起動荷重Fbrgとは、このキャリヤユニット52において、一対のキャリヤ18、20に対してケーシング22が回転し始めるときに主軸受24、26の転動体42に付与される荷重をいう。この転動体起動荷重Fbrgは、主軸受24、26の転動体42に付与される予圧Fpとの間で正の相関関係を持つ。このため、この転動体起動荷重Fbrgを用いることで、転動体42に付与される予圧Fpを管理できることになる。
【0034】
図3は、キャリヤユニット52の温度であるユニット温度Tuと転動体起動荷重Fbrgとの関係を示すグラフである。ここで、本実施形態のキャリヤユニット52は、−10℃〜50℃の温度範囲Raにおける転動体起動荷重Fbrgが所定の許容範囲Rb内に収まるように構成されることを特徴とする。ここでの「−10℃〜50℃の温度範囲Raにおける」とは、−10℃〜50℃の温度範囲Raのいずれの温度においても、言及している条件を満たすことを意味する。
【0035】
この−10℃〜50℃の温度範囲Raは、遊星歯車装置10を使用するときに満たすと想定される環境温度範囲で使用したときに、遊星歯車装置10の構成部品が満たすと想定される温度範囲として定めている。ここでの環境温度範囲は、−10℃〜40℃の範囲を想定している。この環境温度範囲で使用したとき、内歯歯車16と外歯歯車14の噛合箇所や、主軸受24、26の転動面46、50での発熱の影響により、遊星歯車装置10の構成部品は、その環境温度より加熱されることが想定される。そこで、ここでの温度範囲Raは、その想定される環境温度範囲の上限値に対して、予め想定される最大加熱温度(10℃)を加算した−10℃〜50℃の温度範囲を設定している。
【0036】
転動体起動荷重Fbrgの許容範囲Rbは、3kgf〜25kgfに設定している。転動体起動荷重Fbrgが3kgf未満となると、寸法誤差等のばらつきの影響を受けて、主軸受24、26にほとんど又は全く予圧が付与されない状態になり得る。この場合、所要のモーメント剛性を得られなくなる恐れがある。転動体起動荷重が25kgf超になると、主軸受24、26に付与される予圧が過大となり、主軸受24、26の寿命の低下によって、所要の寿命を得られなくなる恐れがある。3kgf〜25kgfの場合、ばらつきの影響を受けても主軸受24、26に予圧が付与された状態にでき、所要のモーメント剛性を安定して得られる。また、過大な予圧が主軸受24、26に付与される事態を避けられ、所要の主軸受24、26の寿命を確保できる。
【0037】
主軸受24、26がアンギュラ玉軸受の場合、転動体起動荷重Fbrgの好ましい許容範囲Rcは、3kgf〜15kgfに設定される。転動面46、50に転動体42が点接触するアンギュラ玉軸受の場合、転動面46、50に転動体42が線接触するころ軸受と比べ、転動面46、50と転動体42の接触箇所に大荷重が付与される。よって、アンギュラ玉軸受の場合、主軸受24、26の寿命の低下を避ける観点から、後述するころ軸受と比べ、主軸受24、26に付与すべき予圧が小さい方が好ましい。この観点から、許容範囲の上限値を15kgfに設定している。好ましい許容範囲Rcの下限値の理由は、前述と同様である。
【0038】
本図では、特定のキャリヤユニット52から測定により得られるユニット温度Tuと転動体起動荷重Fbrgの関係を示す温度−荷重特性C1を示す。このように、キャリヤユニット52の温度−荷重特性C1は特定の相関関係を持っている。本例では、ユニット温度Tuの増大に伴い転動体起動荷重Fbrgが減少する負の相関関係を持つ例を示す。このため、前述の温度範囲Raで転動体起動荷重を許容範囲Rb内に収めるという荷重条件を満たすうえで、キャリヤユニット52は、この温度範囲の最小値と最大値で転動体起動荷重が許容範囲Rbに収まればよいことになる。言い換えると、キャリヤユニット52は、−10℃での転動体起動荷重Fbrgが許容範囲Rb内であり、かつ、50℃での転動体起動荷重Fbrgが許容範囲Rb内となるように構成されていればよいことになる。
【0039】
前述の荷重条件を満たすように構成するうえでは、第一に、つまり量調整部材28によりアキシャルつまり量を調整する手法がある。たとえば、ユニット温度Tuと転動体起動荷重が負の相関関係を持つ場合、−10℃での転動体起動荷重Fbrgが許容範囲Rbの上限値を上回るときは、アキシャルつまり量を減少させるように調整することで転動体起動荷重Fbrgを減少させる。また、50℃での転動体起動荷重Fbrgが許容範囲Rbの下限値を下回るときは、アキシャルつまり量を増大させるように調整することで転動体起動荷重Fbrgを増大させる。この調整手法を用いた場合、
図3の例でいうと、全温度範囲において温度−荷重特性C1の転動体起動荷重Fbrgが一様に増減するように変化する。
【0040】
また、前述の荷重条件を満たすように構成するうえでは、第二に、キャリヤユニット52の温度−荷重特性の傾きに影響を及ぼしていると考えられるケーシング22及びキャリヤ18、20の線膨張係数、キャリヤユニット52の寸法条件を調整する手法がある。ここでの温度−荷重特性の傾きとは、ユニット温度Tuの変化に対する転動体起動荷重Fbrgの変化率をいう。これら線膨張係数、寸法条件等のパラメータと温度−荷重特性の傾きの関係は後述する。たとえば、−10℃、50℃の何れか一方又は両方での転動体起動荷重Fbrgが許容範囲Rb外になる場合、その転動体起動荷重Fbrgが許容範囲Rb内に収まるように、これらパラメータを調整することで温度−荷重特性の傾きを小さくする。
【0041】
第一の調整手法を用いた場合、ケーシング22及びキャリヤ18、20の素材、寸法を調整することなく、転動体起動荷重Fbrgを容易に調整できる利点がある。第二の調整手法を用いた場合、アキシャルつまり量の調整により前述の荷重条件を満たせない場合でも、温度−荷重特性の傾きの調整を通じて、前述の荷重条件を満たせる利点がある。
【0042】
以上のように、本実施形態のキャリヤユニット52は、環境温度の変化を考慮して転動体起動荷重Fbrgが許容範囲Rb内に収まるように構成されている。よって、ケーシング22とキャリヤ18、20の線膨張係数が異なる場合に、環境温度が変化しても、主軸受24、26のモーメント剛性等に関して所要の軸受特性を確保し易くなる。
【0043】
次に、転動体起動荷重Fbrgの測定方法を説明する。まず、キャリヤユニット52を用いて、一対のキャリヤ18、20の回転を規制した状態で、一対のキャリヤ18、20に対してケーシング22が回転し始めるときに、ケーシング22の所定の計測箇所に付与されるケーシング起動荷重Fm[kgf]を計測する。この計測箇所は、ケーシング22の雌ねじ孔22bにねじ込むことでケーシング22に固定されたねじ部材54の頭部54a(
図1参照)とする。ケーシング起動荷重Fmはプッシュプルゲージを用いて計測する。プッシュプルゲージは、ケーシング22に固定されたねじ部材54の頭部54aに取り付け、内歯歯車16の中心軸線Laを中心としてねじ部材54の頭部54aを通る円の接線方向に向けて引っ張る。プッシュプルゲージを引っ張り始めてからケーシング22が回転し始めるまでの間で、プッシュプルゲージにより計測された最大引張荷重をケーシング起動荷重Fmの計測値とする。
【0044】
主軸受24、26の転動体42のピッチ円直径の半分の値をRbrg[m]とする。内歯歯車16の中心軸線Laからケーシング起動荷重Fmの計測箇所までの径方向距離をRm[m]とする。このとき、ケーシング起動荷重Fmの計測値と、次の式(A)を用いて、転動体42のピッチ円を通る箇所に付与される荷重Fbrgに換算し、その換算値Fbrgを転動体起動荷重Fbrgの測定値とする。
Fbrg=Fm×(Rm/Rbrg) ・・・(A)
【0045】
転動体起動荷重Fbrgを測定するうえでは、キャリヤユニット52のケーシング22とキャリヤ18、20の温度が同程度の温度になるまで、キャリヤユニット52の温度を加熱又は冷却により変化させる。そして、ケーシング22の所定の測温箇所の温度測定値に対して、キャリヤ18、20の所定の測温箇所の温度測定値が±1℃の範囲内になったとき、ケーシング22の温度測定値をユニット温度Tuの測定値として用いる。ここでのケーシング22の測温箇所は、内歯歯車16の外歯歯車14との噛み合い箇所に対して径方向の最も外側に位置するケーシング22の外周面22cとして定める。また、キャリヤ18、20の測温箇所は、キャリヤ18、20の軸方向の端面として定める。これら測温箇所に接触式温度計を当てることで、測温箇所の温度を測定する。
【0046】
なお、転動体起動荷重Fbrgを測定するうえでは、次の手順を経て得られる温度測定値をユニット温度Tuの測定値として用いてもよい。まず、所定の温度に保持された閉空間にキャリヤユニット52を配置し、キャリヤユニット52のケーシング22とキャリヤ18、20の温度が閉空間の温度となるのに十分な所定の保持時間に亘り保持する。これにより、ケーシング22とキャリヤ18、20の温度が閉空間の温度と同程度の温度になっているため、そのときの閉空間の温度測定値をユニット温度Tuの測定値として用いてもよい。
【0047】
次に、前述の荷重条件を満たし易くするうえで考案した、転動体起動荷重Fbrgの管理範囲Rma(
図3参照)の設定方法を説明する。この方法では、次の二つのパラメータを求め、その二つのパラメータを用いて温度−荷重特性の傾きを求め、その温度−荷重特性の傾きに基づいて転動体起動荷重Fbrgを収めることができる範囲として管理範囲Rmaを設定する。この二つのパラメータとは、ユニット温度Tuの単位量(たとえば、1℃)あたりのアキシャルつまり量の変化量と、アキシャルつまり量の変化に対する転動体起動荷重Fbrgの変化率である。
【0048】
まず、ユニット温度Tuの単位量あたりのアキシャルつまり量の変化量を説明する。これは、次に説明する式を用いた計算により算出される。
【0049】
図2を参照する。主軸受24、26の軸方向変位を規制している主軸受24、26に対するケーシング22の接触箇所をケーシング22のアキシャル変位規制箇所56とする。主軸受24、26の軸方向変位を規制している主軸受24、26に対するキャリヤ18、20の接触箇所をキャリヤ18、20のアキシャル変位規制箇所58とする。本実施形態において、ケーシング22のアキシャル変位規制箇所56は、主軸受24、26の外輪48と軸方向に対向する箇所にてケーシング22に設けられる。また、本実施形態において、キャリヤ18、20のアキシャル変位規制箇所58は、キャリヤ18、20の内側転動面50の転動体42との接触点である。
【0050】
一対の主軸受24、26それぞれに対応するケーシング22のアキシャル変位規制箇所56の間の軸方向距離をL0とする。ユニット温度TuがΔTだけ変化したときのケーシング22の軸方向距離L0の変化量をケーシング22の軸方向膨張量δL0とする。このとき、δL0は、次の式(1)で表される。なお、ΔTはユニット温度Tuの所定の基準温度からの変化量[℃]、α0はケーシング22の線膨張係数[1/K]である。
δL0=L0×α0×ΔT ・・・ (1)
【0051】
一対の主軸受24、26それぞれに対応するキャリヤ18、20のアキシャル変位規制箇所58の間の軸方向距離をLiとする。ユニット温度TuがΔTだけ変化したときのキャリヤ18、20の軸方向距離Liの変化量をキャリヤ18、20の軸方向膨張量δLiとする。このとき、δLiは、次の式(2)で表される。なお、αiはキャリヤ18、20の線膨張係数[1/K]である。
δLi=Li×αi×ΔT ・・・ (2)
【0052】
ケーシング22の軸方向膨張量δL0とキャリヤ18、20の軸方向膨張量δLiの差δLは、これらを用いて、次の式(3)で表される。ケーシング22の軸方向膨張量δL0がキャリヤ18、20の軸方向膨張量δLiより大きくなるほど、この差δLが大きくなり、その分、転動体42のアキシャルつまり量が大きくなると捉えられる。
δL=δL0−δLi ・・・ (3)
【0053】
主軸受24、26の径方向変位を規制している主軸受24、26に対するケーシング22の接触箇所をケーシング22のラジアル変位規制箇所60とする。主軸受24、26の径方向変位を規制している主軸受24、26に対するキャリヤ18、20の接触箇所をキャリヤ18、20のラジアル変位規制箇所62とする。本実施形態において、ケーシング22のラジアル変位規制箇所60は、主軸受24、26の外輪48と径方向に対向する箇所にてケーシング22の内周面に設けられる。本実施形態において、キャリヤ18、20のラジアル変位規制箇所62は、キャリヤ18、20の内側転動面50の転動体42との接触点である。
【0054】
ケーシング22のラジアル変位規制箇所60の径方向寸法をD0とする(
図1も参照)。ユニット温度TuがΔTだけ変化したときのケーシング22の径方向寸法D0の変化量をケーシング22の径方向膨張量δD0とする。このとき、δD0は、次の式(4)で表される。
δD0=D0×α0×ΔT ・・・ (4)
【0055】
キャリヤ18、20のラジアル変位規制箇所62の径方向寸法をDiとする(
図1も参照)。ユニット温度TuがΔTだけ変化したときのキャリヤ18、20の径方向寸法Diの変化量をキャリヤ18、20の径方向膨張量δDiとする。このとき、δDiは、次の式(5)で表される。
δDi=Di×αi×ΔT ・・・ (5)
【0056】
ケーシング22の径方向膨張量δD0とキャリヤ18、20の径方向膨張量δDiの差δDは、これらを用いて、次の式(6)で表される。
δD=δD0−δDi ・・・ (6)
【0057】
主軸受24、26のつまり量の径方向成分をラジアルつまり量という。ケーシング22とキャリヤ18、20の径方向膨張量の差δDの分だけラジアルつまり量が変化したとき、その変化の前後で主軸受24、26の接触角θが変化しないとする。このとき、主軸受24、26のアキシャルつまり量は、主軸受24、26の接触角θの正接値(tanθ)とラジアルつまり量δDの積の分だけ変化する。このケーシング22とキャリヤ18、20の径方向膨張量の差δDに起因する軸方向膨張量の変化量をδ’Lとすると、このδ’Lは次の式(7)で表される。δDに負の符号を付したのは、ケーシング22やキャリヤ18、20が温度上昇したとき、軸方向膨張量の差δLに起因して転動体42が軸方向につまる一方で、径方向膨張量の差δDに起因して転動体42が軸方向にゆるむことを考慮したためである。
δ’L=−δD×tanθ ・・・(7)
【0058】
以上のケーシング22とキャリヤ18、20の軸方向膨張量の差δLと、径方向膨張量の差δDに起因する軸方向膨張量の変化量δ’Lとを用いて、ユニット温度TuがΔTだけ変化したときのアキシャルつまり量の変化量δL
totalは、次の式(8)で表される。
δL
total=δL+δ’L ・・・ (8)
【0059】
δL
totalは、式(1)〜(8)を用いて、次の式(9)で表される。このように、アキシャルつまり量の変化量δL
totalは、ケーシング22及びキャリヤ18、20の線膨張係数α0、αi、主軸受24、26の接触角θ、一対の主軸受24、26の軸方向距離L0、Li、主軸受24、26の径方向寸法D0、Di、ユニット温度Tuの基準温度からの変化量ΔTを用いた関係式により表される。この変化量ΔTをユニット温度Tuの単位量(たとえば、1℃)としたとき、下記の式(9)は、ユニット温度Tuの単位量あたりのアキシャルつまり量の変化量δL
totalを表すことになる。
δL
total=ΔT×{(L0×α0−Li×αi) −(D0×α0−Di×αi)×tanθ} ・・・ (9)
【0060】
次に、アキシャルつまり量の変化に対する転動体起動荷重Fbrgの変化率を説明する。これは、以下では実験的手法により求める例を説明するが、解析的手法等により求めてもよい。
【0061】
まず、予め準備しておいたキャリヤユニット52を用いて、アキシャルつまり量を変えた複数の条件のもとで転動体起動荷重Fbrgを測定する。アキシャルつまり量は、つまり量調整部材28を用いることで調整する。本実施形態ではつまり量調整部材28の厚みを変えることでアキシャルつまり量を調整する。転動体起動荷重の測定方法は前述の通りである。つまり、アキシャルつまり量を変えた複数の条件のもとでケーシング起動荷重Fmを計測し、その計測値に基づいて、複数の条件のもとでの転動体起動荷重Fbrgの測定値を取得する。
図4は、転動体起動荷重Fbrgの測定結果を丸印でプロットして示す。
【0062】
次に、複数の転動体起動荷重Fbrgの測定値を用いて、回帰分析等の分析手法を用いて、アキシャルつまり量Lと転動体起動荷重Fbrgの関係を示す関係式を算出する。本実施形態では、複数の測定値から最小二乗法等により、このような関係式の一例となる回帰直線Lr(Fbrg=a×L+b 切片bは定数)を求めている。この関係式の傾きは、アキシャルつまり量の変化に対する転動体起動荷重の変化率dFbrg/dLを示す。この変化率dFbrg/dLは、本例のような回帰直線Lrを関係式として算出した場合、その回帰直線Lrの傾きa(定数)により表される。
【0063】
以上により、ユニット温度Tuの単位量あたりのアキシャルつまり量の変化量δL
totalと、アキシャルつまり量の変化に対する転動体起動荷重の変化率dFbrg/dLとが得られる。これらのパラメータを用いることで、以下の式(10)で示すような、ユニット温度Tuの変化に対する転動率起動荷重Fbrgの変化率ΔFbrgを示す関係式が得られる。この変化率ΔFbrgは、δL
totalとdFbrg/dLに基づき算出されることになる。この関係式は、前述のα0、αi、θ、L0、Li、D0、Diを用いて表される。この割合は、前述の温度−荷重特性の傾きを示す。
ΔFbrg=(dFbrg/dL)×δL
total ・・・ (10)
【0064】
次に、
図3を参照して、この温度−荷重特性の傾きΔFbrgを用いた転動体起動荷重Fbrgの管理範囲Rmaの設定方法を説明する。この管理範囲Rmaは、前述の温度−荷重特性の傾きΔFbrに従って、ユニット温度Tuの変化に伴い増減する管理上限値Rmaxと管理下限値Rminの間にある転動体起動荷重Fbrgの範囲として設定される。この管理範囲Rmaは、−10℃〜50℃の温度範囲Raにおいて前述の転動体起動荷重Fbrgの許容範囲Rbに収まるように設定される。管理範囲Rmaの管理上限値Rmaxから管理下限値Rminまでの幅である管理幅Rwは、たとえば、2〜5kgfに設定される。
【0065】
本発明者は、このように設定される管理範囲Rmaを用いて温度−荷重特性の傾きを精度よく予測できているか否か確認するため、次の実験的検討を行った。まず、予め準備しておいたキャリヤユニット52を用いて、前述の式(10)を用いてユニット温度の変化に対する転動体起動荷重Fbrgの変化率ΔFbrgを求め、図示の管理範囲Rmaを設定した。
【0066】
次に、同じキャリヤユニット52を用いて、そのキャリヤユニット52のユニット温度Tuを変えた複数の条件のもとで転動体起動荷重Fbrgを測定した。図中の温度−荷重特性C1上のプロットは転動体起動荷重Fbrgの測定値を示す。前述の転動体起動荷重Fbrgの変化率ΔFbrgに基づき設定した管理範囲Rmaの管理上限値Rmaxや管理下限値Rminの傾きは、この複数の測定値が示す温度−荷重特性C1の傾きと概ね一致していることが把握できる。このことから、前述の転動体起動荷重Fbrgの変化率ΔFbrgに基づき設定した管理範囲Rmaを用いることで温度−荷重特性を精度よく予測できることが把握できる。
【0067】
以下、この管理範囲Rmaを用いた遊星歯車装置10の製造方法を説明する。まず、前述の転動体起動荷重Fbrgの変化率ΔFbrgに基づいて、−10℃〜50℃の温度範囲Raにおいて所定の転動体起動荷重Fbrgの許容範囲Rbに収めることができると想定される範囲として管理範囲Rmaを設定する。この管理範囲Rmaの設定にあたって、前述のα0、αi、L0、Li、D0、Diは、遊星歯車装置10に組み込もうとするキャリヤユニット52について、所定の基準温度にあるときの位置関係をもとに設定する。本実施形態での基準温度は室温を想定しており、より具体的には20℃である。
【0068】
この管理範囲Rmaは、全温度範囲で管理範囲Rmaの転動体起動荷重Fbrgを増減させたり、管理幅Rwを増減させることで、前述の温度範囲Raで転動体起動荷重Fbrgの許容範囲Rbに収めるという荷重条件を満たすように設定する。この手法を用いても、前述の荷重条件を満たせない場合、温度−荷重特性の傾きに影響を及ぼしているパラメータ(α0、αi等)も調整することで、前述の荷重条件を満たすように設定する。
【0069】
次に、遊星歯車装置10に組み込もうとするキャリヤユニット52を用いて、キャリヤユニット52の転動体起動荷重Fbrgを基準温度で測定し、その測定値が基準温度で管理範囲内か否かを判定する。転動体起動荷重Fbrgの測定値が基準温度で管理範囲Rma外にある場合、キャリヤユニット52を分解してアキシャルつまり量を調整する。一方、転動体起動荷重Fbrgの測定値が基準温度で管理範囲Rma内にある場合、そのときのアキシャルつまり量を適正つまり量として特定する。つまり、転動体起動荷重Fbrgの測定値が基準温度で管理範囲Rmaに収まるまで転動体起動荷重Fbrgの測定とアキシャルつまり量の調整を繰り替えす。
【0070】
この基準温度での管理範囲Rmaに転動体起動荷重Fbrgの測定値が収まらない場合、つまり量調整部材28によるアキシャルつまり量の調整を通じて転動体起動荷重Fbrgを調整する。たとえば、転動体起動荷重Fbrgが管理下限値Rminを下回る場合、アキシャルつまり量が増大させるように調整して、基準温度での転動体起動荷重Fbrgを増大させる。また、転動体起動荷重Fbrgが管理上限値Rmaxを上回る場合、アキシャルつまり量が減少するように調整して、基準温度での転動体起動荷重Fbrgを減少させる。いずれの場合も、キャリヤユニット52を分解し、既存のつまり量調整部材28を厚みの異なる他のつまり量調整部材28と交換し、キャリヤユニット52を再び組み立てたうえで、前述の転動体起動荷重Fbrgの測定をする。
【0071】
次に、主軸受24、26のアキシャルつまり量が適正つまり量となるように遊星歯車装置10を組み立てる。このとき、転動体起動荷重Fbrgの測定に用いられたキャリヤユニット52を分解したうえで、その分解したキャリヤユニット52の構成部品と、入力軸12、外歯歯車14等の遊星歯車装置10の他の構成部品とを組み合わせて、遊星歯車装置10を組み立てる。このとき、主軸受24、26のアキシャルつまり量を適正つまり量とするため、つまり量調整部材28によるアキシャルつまり量の調整量は、適正つまり量が得られたときの条件と同じにする。これにより、−10℃〜50℃の温度範囲Raにおける転動体起動荷重Fbrgを許容範囲Rb内に安定して収められる。
【0072】
なお、適正つまり量を特定してから遊星歯車装置10を組み立てるのは、キャリヤユニット52によって寸法公差等の影響により転動体起動荷重Fbrgにばらつきがあるので、そのばらつきの影響を受けることなく所要の軸受特性を得るためである。
【0073】
前述した荷重条件を満たすための第二の調整手法を補足する。キャリヤユニット52の温度−荷重特性の傾きには、式(9)、(10)に示すように、ケーシング22及びキャリヤ18、20の線膨張係数α0、αi、主軸受24、26の接触角θ、一対の主軸受24、26の軸方向距離L0、Li、主軸受24、26の径方向寸法D0、Diが影響している。そこで、これらの寸法条件の調整、設定を通じて、キャリヤユニット52の温度−荷重特性の傾きを調整することで、−10℃〜50℃の温度範囲Raで転動体起動荷重Fbrgが許容範囲Rb内に収まるように構成できる。
【0074】
(第2の実施の形態)
図5は、第2実施形態の遊星歯車装置10を示す側面断面図である。第1実施形態の遊星歯車装置はセンタークランクタイプの偏心揺動型歯車装置を例に説明した。本実施形態の遊星歯車装置は、いわゆる振り分けタイプの偏心揺動型歯車装置である。
【0075】
遊星歯車装置10は、第1実施形態と比べ、主には、複数の入力歯車70を備える点や、入力軸12、主軸受24、26の点で異なる。
【0076】
複数の入力歯車70は、内歯歯車16の中心軸線La周りに配置される。本図では一つの入力歯車70のみを示す。入力歯車70は、その中央部に挿通される入力軸12により支持され、入力軸12と一体的に回転可能に設けられる。入力歯車70は、内歯歯車16の中心軸線La上に設けられる回転軸(不図示)の外歯部と噛み合う。回転軸には、不図示の駆動装置から回転動力が伝達され、その回転軸の回転により入力歯車70が入力軸12と一体的に回転する。
【0077】
本実施形態の入力軸12は、内歯歯車16の中心軸線Laからオフセットした位置に周方向に間を置いて複数(例えば、3本)配置される。本図では一つの入力軸12のみを示す。
【0078】
本実施形態の主軸受24、26は、テーパーローラー軸受、つまり、ころ軸受である。本実施形態の転動体42は円錐状のころである。本実施形態のように主軸受24、26がころ軸受の場合、主軸受24、26は、通常、外側転動面46が設けられる外輪48の他に、内側転動面50が設けられる内輪72を備える。前述の作用線Lwは、転動体42がころの場合、内歯歯車16の中心軸線Laに沿った切断面において、ころの自転軸方向の中央を通る直線であって、自転軸線Lbに直交する直線をいう。
【0079】
以上の遊星歯車装置10の動作を説明する。駆動装置から回転軸に回転動力が伝達されると、回転軸から複数の入力歯車70に回転動力が振り分けられ、各入力歯車70が同じ位相で回転する。各入力歯車70が回転すると、入力軸12の偏心部12aが入力軸12を通る回転中心線周りに回転し、その偏心部12aにより外歯歯車14が揺動する。外歯歯車14が揺動すると、第1実施形態と同様、外歯歯車14と内歯歯車16の噛合位置が順次ずれ、外歯歯車14及び内歯歯車16の一方の自転が発生する。入力軸12の回転は、外歯歯車14と内歯歯車16の歯数差に応じた減速比で減速されて、出力部材から被駆動装置に出力される。
【0080】
本実施形態のように主軸受24、26がころ軸受の場合、転動体起動荷重Fbrgの好ましい許容範囲は、5kgf〜25kgfに設定される。5kgf未満になると、ころ軸受の場合、主軸受24、26の予圧が不十分となり、かえって主軸受24、26の寿命の低下を招く、若しくは、モーメント剛性の低下につながる恐れがある。許容範囲の上限値の理由は、前述と同様、主軸受24、26の寿命との関係で設定している。
【0081】
第1実施形態では主軸受24、26が内輪を備えない場合を例に説明した。本実施形態では主軸受24、26が内輪72を備える。この場合、キャリヤ18、20のアキシャル変位規制箇所58は、主軸受24、26の内輪72と軸方向に対向する箇所においてキャリヤ18、20に設けられる。キャリヤ18、20のラジアル変位規制箇所62は、主軸受24、26の内輪72と径方向に対向する箇所においてキャリヤ18、20の外周面に設けられる。また、これに伴い、前述のDi、Liの位置が第1実施形態と異なる。他のパラメータの取り扱いは第1実施形態と同様である。
【0082】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0083】
遊星歯車装置10は、偏心揺動型歯車装置を例に説明したが、その種類は特に限定されない。たとえば、単純遊星歯車装置等でもよい。
【0084】
実施形態の出力部材はケーシング22であり、外部部材にはキャリヤ18、20が固定される例を説明した。この他にも、出力部材はキャリヤ18、20であり、外部部材にはケーシング22が固定されてもよい。
【0085】
ケーシング22とキャリヤ18、20は、線膨張係数が異なる素材で構成されていればよく、その具体的な素材は特に限定されない。例えば、一方の素材を樹脂系の素材とし、他方の素材を金属系の素材としてもよい。また、両方の素材を鉄系の素材とし、素材の含有炭素量を異ならせることで線膨張係数を異ならせてもよい。また、本実施形態において、ケーシング22は、キャリヤ18、20より線膨張係数の大きい素材で構成される例を説明したが、キャリヤ18、20より線膨張係数の小さい素材で構成されてもよい。
【0086】
第1実施形態では、主軸受24、26が外輪48を備える場合を例に説明したが、主軸受24、26が外輪48を備えなくともよい。この場合、転動体42の外側転動面46はケーシング22の内周面に設けられる。この場合、ケーシング22のアキシャル変位規制箇所56及びラジアル変位規制箇所60は、ケーシング22の外側転動面46の転動体42との接触点となる。
【0087】
つまり量調整部材28は、主軸受24、26の構成部品とは別体である例を説明したが、主軸受24、26の構成部品が構成していてもよい。たとえば、主軸受24、26の外輪がつまり量調整部材28を構成する場合、外輪の厚みとなる軸方向寸法を変えることでアキシャルつまり量が調整される。また、つまり量調整部材28がシムの場合、その配置位置は特に限定されない。
【0088】
実施形態では、−10℃〜50℃の温度範囲Raにおける転動体起動荷重Fbrgを許容範囲Rbに収めることができる範囲として管理範囲Rmaを設定するうえで、転動体起動荷重Fbrgの変化率ΔFbrgを用いる例を説明した。この他にも、転動体起動荷重Fbrgの変化率ΔFbrgを用いずに、実験等によって、その条件を満たせる基準温度での転動体起動荷重の範囲を求め、その求めた範囲を管理範囲Rmaとして設定してもよい。