特許第6863886号(P6863886)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863886
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】インフラマソーム活性化抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20210412BHJP
   A61K 31/365 20060101ALN20210412BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALN20210412BHJP
   A61K 36/28 20060101ALN20210412BHJP
   A61K 36/634 20060101ALN20210412BHJP
   A61P 27/02 20060101ALN20210412BHJP
【FI】
   A23L33/105
   !A61K31/365
   !A61K31/7048
   !A61K36/28
   !A61K36/634
   !A61P27/02
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-248598(P2017-248598)
(22)【出願日】2017年12月26日
(62)【分割の表示】特願2017-525435(P2017-525435)の分割
【原出願日】2017年2月8日
(65)【公開番号】特開2018-80186(P2018-80186A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2019年12月12日
(31)【優先権主張番号】特願2016-21844(P2016-21844)
(32)【優先日】2016年2月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306018376
【氏名又は名称】クラシエホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150142
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 礼路
(74)【代理人】
【識別番号】100174849
【弁理士】
【氏名又は名称】森脇 理生
(72)【発明者】
【氏名】渡部 晋平
(72)【発明者】
【氏名】荒居 彩子
(72)【発明者】
【氏名】高城 雄一
(72)【発明者】
【氏名】稲益 悟志
(72)【発明者】
【氏名】与茂田 敏
(72)【発明者】
【氏名】大野 晶子
(72)【発明者】
【氏名】北原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】金谷 太作
【審査官】 古閑 一実
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第104138387(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第103933056(CN,A)
【文献】 特開2014−094917(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/016178(WO,A1)
【文献】 特表2010−520233(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/141082(US,A1)
【文献】 KIM, Hyun-A et al.,Screening and Biotransformation of Interleukin-1β Converting Enzyme Production Inhibitors from Arct,J. Microbiol. Biotechnol.,2005年,15(2),p.269-273,特にAbstract欄、p.269右欄第1行−第17行
【文献】 畑直樹,アルクチン・アルクチゲニンの多機能性と高含有植物の利用,農業および園芸,2011年,86(1),p.10-20,特にp13-p.15「4.アルクチン・アルクチゲニンの生理・生物活性」欄
【文献】 Inflammopharmacol,2011年,Vol.19,p.245-254
【文献】 Arch. Pharm. Res.,2010年,Vol.33, No.6,p.947-957
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00−33/29
A61K 31/00−33/44
A61K 36/00−36/9068
A61P 1/00−43/00
A61K 47/00−47/69
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、インフラマソーム活性化抑制を介した、加齢性黄斑変性症抑制用食品組成物。
【請求項2】
前記アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらから抽出したエキスとして含有する、請求項1に記載の食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インフラマソーム活性化抑制剤、インフラマソーム活性化抑制用組成物およびインフラマソーム活性化抑制用食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インフラマソームは、複数のタンパク質の複合体であり、炎症反応の誘導や進展に重要な役割を果たしているといわれている。インフラマソームは、NLRC4、NLRP1およびNLRP3などのNOD様受容体(NLRs:NOD-like receptors)またはAIM2(absent in melanoma 2)などのパターン認識受容体と、アダプタータンパク質ASC(apoptosis-associated speck-like protein containing caspase recruitment domain)と、カスパーゼ-1前駆体とによって構成される。NLRC4、NLRP1、NLRP3およびAIM2が外来性または内在性の危険シグナルを認識するとインフラマソームが形成され、その結果カスパーゼ-1(Caspase-1)が活性化される。活性化されたカスパーゼ-1(以下、「活性型カスパーゼ-1」または単に「カスパーゼ-1」とも表記する。)は、IL-1βおよびIL-18などの炎症性サイトカインを活性化させる。
【0003】
インフラマソームは、病原体成分、UV照射およびアスベストなどの外来性因子並びにATP、コレステロール結晶、アミロイドβ、飽和脂肪酸および尿酸結晶(MSU)などの内在性因子によって活性化される。インフラマソームは、感染症、自己炎症性疾患、アレルギー疾患、加齢黄斑変性症、心血管病、虚血傷害、痛風、認知症および肥満関連炎症疾患などの発症および進行に中心的な役割を果たしている。そのため、これらの疾患に対して、インフラマソームを標的とした新しい治療方法が開発されている。
【0004】
また、加齢に伴いインフラマソーム活性化により慢性炎症が惹起することが知られている。これは感染免疫とは関連がなく体内で長時間くすぶり続ける慢性炎症であり、肥満、糖尿病、がん、神経変性疾患および自己免疫疾患など多彩な疾患の基盤病態になっている。このことは、高齢者では、感染症などの明らかな徴候がないにもかかわらず、CRPやIL-6、TNF-αなどの炎症性サイトカイン濃度が高いことからも支持されている。それゆえに、健康長寿の達成には慢性炎症の制御が重要であるといえる。
【0005】
インフラマソームの活性化を抑制する薬剤として、たとえば、特許文献1には、イソリクイリチゲニン、リクイリチゲニンまたはグリチルリチンを有効成分として含有するインフラマソーム活性化抑制剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国公開特許公報「特開2014-094917号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、インフラマソームが関わる様々な疾患に対する新たな治療方法を確立するため、インフラマソームの活性化を抑制することができる新規のインフラマソーム活性化抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アルクチゲニンにインフラマソーム活性化を抑制する作用があることを見出した。本発明者らは、単球由来の細胞をPMA(phorbol 12-myristate acetate)処理によってマクロファージ様細胞へと分化させた後、LPS処理によりIL-1β前駆体の発現を誘導し、アルクチゲニンで処理した後、NLRP3インフラマソーム誘導剤(ATP、パルミチン酸およびMSU)およびAIM2インフラマソーム誘導剤(Poly(dA:dT))で処理することによりインフラマソームを活性化させた。
【0009】
その結果、本発明者らは、アルクチゲニンが、ATP、パルミチン酸、MSUおよびPoly(dA:dT)によって刺激したときの1L-1βの放出量および活性型カスパーゼ-1の量を減少させることを見出した。したがって、アルクチゲニンがATP、パルミチン酸およびMSUによるNLRP3インフラマソームの活性化およびPoly(dA:dT)によるAIM2インフラマソームの活性化を抑制する作用を有することが強く示唆された。また、アルクチゲニンの前駆体であるアルクチインは、生体内で代謝されアルクチゲニンになることが知られており、アルクチゲニンと同様の作用を有することが期待される。
【0010】
本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、インフラマソーム活性化抑制剤を提供する。
【0011】
また本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、インフラマソーム活性化抑制用組成物を提供する。
【0012】
また本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらから抽出したエキスとして含有する上記インフラマソーム活性化抑制用組成物を提供する。
【0013】
また本発明は、上記インフラマソーム活性化抑制用組成物を含有する医薬品を提供する。
【0014】
また本発明は、上記インフラマソーム活性化抑制用組成物を含有する化粧品を提供する。
【0015】
また本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、インフラマソーム活性化抑制用食品組成物を提供する。
【0016】
また本発明は、上記アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウ葉またはこれらから抽出したエキスとして含有する、インフラマソーム活性化抑制用食品組成物を提供する。
【0017】
また本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを対象に投与する工程を含む、インフラマソーム活性化を抑制する方法を提供する。本発明の方法では、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらから抽出したエキスとして投与してもよい。
【0018】
また本発明は、インフラマソーム活性化の抑制に用いるための、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを提供する。
【0019】
また本発明は、インフラマソーム活性化を抑制するための、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインの使用を提供する。本発明の使用において、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインは、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらから抽出したエキスに含有された形態で使用してもよい。
【0020】
また本発明は、インフラマソーム活性化抑制剤を製造するための、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインの使用を提供する。本発明の使用において、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインは、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらから抽出したエキスに含有された形態で使用してもよい。
【0021】
また本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、カスパーゼ-1生成抑制剤を提供する。また本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、カスパーゼ-1生成抑制用組成物を提供する。また本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、カスパーゼ-1生成抑制用食品組成物を提供する。アルクチゲニンおよび/またはアルクチインは、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらから抽出したエキスとして含有されてもよい。
【0022】
また本発明は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを対象に投与する工程を含む、カスパーゼ-1生成を抑制する方法を提供する。本発明の方法では、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらから抽出したエキスとして投与してもよい。
【0023】
また本発明は、カスパーゼ-1生成の抑制に用いるための、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを提供する。
【0024】
また本発明は、カスパーゼ-1生成を抑制するための、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインの使用を提供する。本発明の使用において、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインは、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらから抽出したエキスに含有された形態で使用してもよい。
【0025】
また本発明は、カスパーゼ-1生成抑制剤を製造するための、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインの使用を提供する。本発明の使用において、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインは、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらから抽出したエキスに含有された形態で使用してもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、インフラマソーム活性化を効果的に抑制することができるため、インフラマソームが関わる様々な疾患を治療、改善および予防するための新たな治療方法を確立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】アルクチゲニン処理したときの、ATP刺激により放出されるIL-1βの放出量を示すグラフ。
図2】アルクチゲニン処理したときの、ATP刺激によるカスパーゼ-1の量を示すグラフ。
図3】アルクチゲニン処理したときの、パルミチン酸刺激により放出されるIL-1βの放出量を示すグラフ。
図4】アルクチゲニン処理したときの、パルミチン酸刺激によるカスパーゼ-1の量を示すグラフ。
図5】アルクチゲニン処理したときの、MSU刺激により放出されるIL-1βの放出量を示すグラフ。
図6】アルクチゲニン処理したときの、MSU刺激によるカスパーゼ-1の量を示すグラフ。
図7】アルクチゲニン処理したときの、Poly(dA:dT)刺激により放出されるIL-1βの放出量を示すグラフ。
図8】アルクチゲニン処理したときの、Poly(dA:dT)刺激によるカスパーゼ-1の量を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、インフラマソームの活性化を抑制するインフラマソーム活性化抑制剤を提供する。
【0029】
本発明においてインフラマソームは、NLRC4、NLRP1、NLRP3およびAIM2などのパターン認識受容体、ASC(apoptosis-associated speck-like protein containing caspase recruitment domain)ならびにカスパーゼ-1前駆体によって構成されるタンパク質複合体である。本発明のインフラマソーム活性化抑制剤の対象となるインフラマソームは、特に限定されず、たとえばNLRP3インフラマソームおよびAIM2インフラマソームなどであることができる。
【0030】
本明細書において「インフラマソームの活性化」とは、ATP、飽和脂肪酸、MSUおよび病原体成分などの刺激因子によってNLRP3、AIM2などのパターン認識受容体がASCおよびカスパーゼ-1前駆体と会合してインフラマソームを形成し、カスパーゼ-1を活性化させることをいう。本発明のインフラマソーム活性化抑制剤は、このインフラマソーム活性化を抑制することにより、活性型カスパーゼ-1の生成を抑制する。これにより、本発明のインフラマソーム活性化抑制剤は、さらにIL-1α、IL-1β、IL-6、IL-18、IL-33、TNF-αおよびHMGB1などの炎症性サイトカインの放出を抑制することができる。
【0031】
本明細書において「インフラマソームの活性化を抑制する」とは、刺激因子によるインフラマソームの活性化を完全に、または部分的に抑制することをいう。言い換えれば、「インフラマソームの活性化を抑制する」とは、本発明のインフラマソーム活性化抑制剤で処理しない場合と比較して、活性型カスパーゼ-1の生成量または炎症性サイトカインの放出量を減少させることをいう。
【0032】
本明細書において「カスパーゼ-1の生成を抑制する」とは、カスパーゼ-1(活性型カスパーゼ-1)の量(生成量)を減少させることまたはカスパーゼ-1(活性型カスパーゼ-1)の量(生成量)の増加を抑制することをいう。
【0033】
本発明のインフラマソーム活性化抑制剤は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する。アルクチゲニンおよびアルクチインは、ゴボウ等の植物に含まれるジフェニルプロパノイド(リグナン類)の1つである。アルクチインは、アルクチゲニンの前駆体であり、生体内で代謝されてアルクチゲニンになることが知られている。アルクチゲニンおよび/またはアルクチインとして、化学的に合成したアルクチゲニンおよび/またはアルクチインを用いてもよいし、植物から単離したアルクチゲニンおよび/またはアルクチインを用いてもよい。また、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインとして、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを含む植物そのものまたは植物から抽出したエキスを用いてもよい。アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを含む植物には、たとえばゴボウ(スプラウト・葉・根茎・ゴボウシ)、アイノコレンギョウ(花・葉・果実・根茎)、チョウセンレンギョウ(花・葉・果実・根茎)、レンギョウ(花・葉・果実・根茎)、シナレンギョウ(花・葉・果実・根茎)、ベニバナ、ヤグルマギク、アメリカオニアザミ、サントリソウ(ギバナアザミ)、カルドン、ゴロツキアザミ、アニウロコアザミ、ゴマ、モミジヒルガオ、シンチクヒメハギ、チョウセンテイカカズラ、テイカカズラ、ムニンテイカカズラ、ヒメテイカカズラ、トウキョウチクトウ、ケテイカカズラ、リョウカオウ、オオケタデ、ヤマザクラ、シロイヌナズナ、アマランス、クルミ、エンバク、スペルタコムギ、軟質コムギ、メキシコイトスギおよびカヤが含まれる。なかでも、ゴボウ(特にゴボウシおよびゴボウスプラウト)およびレンギョウ(特に葉)は、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインの含有量が高いため好ましい。植物そのものを用いる場合、生または乾燥して刻んだもの、或いは乾燥して粉末としたものを用いることができる。
【0034】
アルクチゲニンおよび/またはアルクチインとして植物から抽出したエキスを用いる場合、エキスは、たとえば以下の方法によって植物から調製してもよい。本発明において使用されるエキスは、たとえばアルクチゲニンおよび/またはアルクチインを含む植物から、酵素変換工程および有機溶媒による抽出工程の2段階により抽出してもよい。
【0035】
酵素変換工程は、植物に内在する酵素であるβ-グルコシダーゼにより、該植物に含まれているアルクチインをアルクチゲニンに酵素変換する工程である。具体的には、植物を乾燥し切栽したものを適切な温度に保持することにより内在のβ-グルコシダーゼを作用させて、アルクチインからアルクチゲニンへの反応を進行させる。たとえば、切裁した植物に水などの任意の溶液を加えて、30℃付近の温度(20〜50℃)の間にて攪拌することなどにより、植物を任意の温度に保持することができる。
【0036】
有機溶媒による抽出工程は、任意の適切な有機溶媒を使用して、植物からアルクチゲニンおよびアルクチインを抽出する工程である。すなわち、上記の酵素変換工程によりアルクチゲニンが高含量となった状態で、適切な溶媒を添加して、植物からエキスを抽出する工程である。たとえば、植物に適切な溶媒を添加して、適切な時間加熱攪拌してエキスを抽出する。また、加熱攪拌以外にも、加熱還流、ドリップ式抽出、浸漬式抽出または加圧式抽出法などの当業者に公知の任意の抽出法を使用して、エキスを抽出することができる。
【0037】
アルクチゲニンは水難溶性であることから、有機溶媒を添加することにより、アルクチゲニンの収率を向上させることができる。有機溶媒は、任意の有機溶媒を使用することができる。たとえば、メタノール、エタノールおよびプロパノールなどのアルコール、並びにアセトンを使用することができる。安全性の面を考慮すると、本発明のインフラマソーム活性化抑制剤に用いるエキスの製造方法では、有機溶媒として30%量のエタノールを使用することが好ましい。エキスから溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物を得ることができる。
【0038】
本発明のインフラマソーム活性化抑制剤は、任意の形態の製剤であることができる。インフラマソーム活性化抑制剤は、経口投与製剤として、たとえば糖衣錠、バッカル錠、コーティング錠およびチュアブル錠等の錠剤;トローチ剤;丸剤;散剤;硬カプセル剤および軟カプセル剤を含むカプセル剤;顆粒剤;ならびに懸濁剤、乳剤、シロップ剤およびエリキシル剤等の液剤などであることができる。
【0039】
また、本発明のインフラマソーム活性化抑制剤は、静脈注射、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射、経皮投与、経鼻投与、経肺投与、経腸投与、口腔内投与および経粘膜投与などの非経口投与製剤であることができる。本発明のインフラマソーム活性化抑制剤は、たとえば、注射剤、経皮吸収テープ、エアゾール剤および坐剤などであることができる。
【0040】
また、本発明のインフラマソーム活性化抑制剤は、外用剤として提供されることができる。本発明の外用剤は、医薬品および化粧品などであることができる。本発明の外用剤は、皮膚、頭皮、毛髪、粘膜および爪などに適用するための外用剤であることができる。外用剤には、たとえばクリーム剤、軟膏剤、液剤、ゲル剤、ローション剤、乳液剤、エアゾール剤、スティック剤、シートマスク剤、固形剤、泡沫剤、オイル剤およびチック剤等の塗布剤;パップ剤、プラスター剤、テープ剤およびパッチ剤等の貼付剤;並びにスプレー剤などが含まれる。
【0041】
また、本発明のインフラマソーム活性化抑制剤は、食用に適した形態であることができ、たとえば固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状およびペースト状などであってもよい。
【0042】
本発明はまた、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、インフラマソーム活性化抑制用組成物を提供する。本発明のインフラマソーム活性化抑制用組成物は、上述したインフラマソーム活性化抑制剤と同様に構成されることができる。本発明のインフラマソーム活性化抑制用組成物は、医薬品、化粧品および食品などに用いるための組成物であることができる。本発明のインフラマソーム活性化抑制用組成物は、医薬品、化粧品および食品に通常用いられる任意の成分をさらに含むことができる。たとえば、本発明のインフラマソーム活性化抑制用組成物は、薬学的に許容される基剤、担体、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤および着色剤などをさらに含んでもよい。
【0043】
インフラマソーム活性化抑制用組成物に使用する担体および賦形剤の例には、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、デキストリン、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムおよび結晶セルロースなどを含む。
【0044】
結合剤の例には、デンプン、ゼラチン、シロップ、トラガントゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースなどを含む。
【0045】
崩壊剤の例には、デンプン、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびカルボキシメチルセルロースカルシウムなどを含む。
【0046】
滑沢剤の例には、ステアリン酸マグネシウム、水素添加植物油、タルクおよびマクロゴールなどを含む。着色剤は、医薬品、化粧品および食品に添加することが許容されている任意の着色剤を使用することができる。
【0047】
また、インフラマソーム活性化抑制用組成物は、必要に応じて、白糖、ゼラチン、精製セラック、ゼラチン、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレートおよびメタアクリル酸重合体などで一層以上の層で被膜してもよい。
【0048】
また、インフラマソーム活性化抑制用組成物は、必要に応じて、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、希釈剤、コーティング剤、甘味剤、香料および可溶化剤などを添加してもよい。
【0049】
本発明はまた、本発明のインフラマソーム活性化抑制用組成物を含有する医薬品を提供する。本発明の医薬品は、インフラマソーム活性化を抑制するための医薬品、すなわちインフラマソーム活性化抑制剤であることができる。また、本発明の医薬品は、感染症、自己炎症性疾患、アレルギー疾患、加齢黄斑変性症、心血管病、虚血傷害、痛風および肥満関連炎症疾患(糖尿病、脂肪肝炎および動脈硬化など)並びに炎症性皮膚疾患(乾癬、脱毛症、尋常性ざ瘡およびアトピー性皮膚炎など)などの疾患および状態を治療、改善または予防するための医薬品であることができる。さらに、加齢とともに増加するがん、脂質異常症、痛風、CKD(慢性腎臓病)、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病、脳卒中および慢性関節リウマチなどの種々の疾患、さらには老化そのものも、インフラマソーム活性化による慢性的な炎症性の変化によって症状が進行するのではないかと考えられる証拠が見つかっており、本発明の医薬品は、これらの疾患および状態を治療、改善または予防するための医薬品であることができる。
【0050】
本発明はまた、本発明のインフラマソーム活性化抑制用組成物を含有する化粧品を提供する。本発明の化粧品は、感染症、自己炎症性疾患、アレルギー疾患、加齢黄斑変性症、心血管病、虚血傷害、痛風、認知症および肥満関連炎症疾患(糖尿病、脂肪肝炎および動脈硬化など)並びに炎症性皮膚疾患(乾癬、脱毛症、尋常性ざ瘡およびアトピー性皮膚炎など)などの疾患および状態を改善または予防するための化粧品であることができ、特に炎症性皮膚疾患(乾癬、脱毛症、尋常性ざ瘡およびアトピー性皮膚炎など)の疾患および状態を改善または予防するための化粧品であることができる。
【0051】
本発明の化粧品は、たとえば皮膚(顔面、手指および全身など)、頭皮、毛髪、粘膜、爪、まつ毛および/または眉毛等に適用されることができる。本発明の化粧品は、たとえば洗顔クリーム、洗顔フォーム、フェイスクレンジング、固形石鹸、ボディソープおよびハンドソープなどの皮膚洗浄用化粧料;化粧水、乳液、クリーム、ゲル、シートマスク、美容オイルおよび美容液等のスキンケア化粧料;ファンデーション、口紅、フェイスカラー、アイライナーおよび下地用化粧料などのメークアップ化粧料;制汗剤;日焼け止め化粧料;並びにシャンプー、リンスおよびコンディショナーなどの毛髪用洗浄剤;ヘアスプレー、ヘアムース、ヘアフォーム、ヘアオイル、ヘアミスト、ヘアウォーター、ヘアローション、ヘアブロー、ヘアミルク、ヘアクリーム、ヘアトリートメント、ヘアマスク、ヘアジェル、ヘアバーム、ヘアトニックおよびヘアリキッドなどの毛髪または頭皮用化粧料などであることができる。
【0052】
本発明はまた、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有するインフラマソーム活性化抑制用食品組成物を提供する。本発明のインフラマソーム活性化抑制用食品組成物は、上述したインフラマソーム活性化抑制剤およびインフラマソーム活性化抑制用組成物と同様に構成されることができる。本発明の食品組成物は、感染症、自己炎症性疾患、アレルギー疾患、加齢黄斑変性症、心血管病、虚血傷害、痛風、認知症および肥満関連炎症疾患(糖尿病、脂肪肝炎および動脈硬化など)並びに炎症性皮膚疾患(乾癬、脱毛症、尋常性ざ瘡およびアトピー性皮膚炎など)などの疾患および状態を改善または予防するための食品組成物であることができる。
【0053】
本明細書において「食品組成物」には、一般的な飲食品だけでなく、病者用食品、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品およびサプリメントなどが含まれる。一般的な飲食品には、たとえば各種飲料、各種食品、加工食品、液状食品(スープ等)、調味料、栄養ドリンクおよび菓子類などが含まれる。本明細書において「加工食品」とは、天然の食材(動物および植物など)に対し加工および/または調理を施したものをいい、たとえば肉加工品、野菜加工品、果実加工品、冷凍食品、レトルト食品、缶詰食品、瓶詰食品およびインスタント食品などが含まれる。本発明の食品組成物は、インフラマソーム活性化を抑制する旨の表示を付した食品であってもよい。また、本発明の食品組成物は、袋および容器等に封入された形態で提供されてもよい。本発明において使用する袋および容器は、食品に通常使用される任意の袋および容器であることができる。
【0054】
本発明はまた、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを対象に投与する工程を含む、インフラマソーム活性化を抑制する方法を提供する。本発明はまた、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを対象に摂取させる工程を含む、インフラマソーム活性化を抑制する方法を提供する。本発明の方法では、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらから抽出したエキスとして投与してもよい。
【0055】
本発明の方法が適用される対象には、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマおよびサルなどの哺乳動物が含まれる。本発明の方法において、投与する対象または摂取させる対象は、インフラマソーム活性化の抑制を必要とする対象であることができる。インフラマソーム活性化の抑制を必要とする対象は、たとえば感染症、自己炎症性疾患、アレルギー疾患、加齢黄斑変性症、心血管病、虚血傷害、痛風および肥満関連炎症疾患(糖尿病、脂肪肝炎および動脈硬化など)、炎症性皮膚疾患(乾癬、脱毛症、尋常性ざ瘡およびアトピー性皮膚炎など)、加齢とともに増加するがん、脂質異常症、CKD(慢性腎臓病)、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病、脳卒中および慢性関節リウマチなどの種々の疾患および症状を有する対象であることができる。本発明の方法により、上述した疾患および症状を治療、改善または予防することが可能である。
【0056】
本発明はまた、インフラマソーム活性化の抑制に用いるための、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを提供する。本発明はまた、インフラマソーム活性化により生じる種々の疾患および症状、たとえば感染症、自己炎症性疾患、アレルギー疾患、加齢黄斑変性症、心血管病、虚血傷害、痛風および肥満関連炎症疾患(糖尿病、脂肪肝炎および動脈硬化など)、炎症性皮膚疾患(乾癬、脱毛症、尋常性ざ瘡およびアトピー性皮膚炎など)、加齢とともに増加するがん、脂質異常症、CKD(慢性腎臓病)、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病、脳卒中および慢性関節リウマチなどの疾患および症状の治療、改善または予防に用いるための、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを提供する。
【0057】
本発明はまた、インフラマソーム活性化を抑制するための、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインの使用を提供する。本発明の使用において、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインは、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらから抽出したエキスに含有された形態で使用してもよい。
【0058】
本発明はまた、インフラマソーム活性化抑制剤、インフラマソーム活性化抑制用組成物またはインフラマソーム活性化抑制用食品組成物を製造するための、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインの使用を提供する。本発明の使用において、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインは、ゴボウ、ゴボウシ、ゴボウスプラウトもしくはレンギョウまたはこれらから抽出したエキスに含有された形態で使用してもよい。
【0059】
本発明はまた、アルクチゲニンおよび/またはアルクチインを有効成分として含有する、カスパーゼ-1生成抑制剤、カスパーゼ-1生成抑制用組成物およびカスパーゼ-1生成抑制用食品組成物を提供する。本発明のカスパーゼ-1生成抑制剤、カスパーゼ-1生成抑制用組成物およびカスパーゼ-1生成抑制用食品組成物は、上述したインフラマソーム活性化抑制剤、インフラマソーム活性化抑制用組成物およびインフラマソーム活性化抑制用食品組成物と同様に構成されることができる。
【0060】
本発明のカスパーゼ-1生成抑制剤、カスパーゼ-1生成抑制用組成物およびカスパーゼ-1生成抑制用食品組成物は、カスパーゼ-1の生成を抑制することにより、炎症性サイトカインの放出を抑制することができる。したがって、本発明のカスパーゼ-1生成抑制剤、カスパーゼ-1生成抑制用組成物およびカスパーゼ-1生成抑制用食品組成物は、感染症、自己炎症性疾患、アレルギー疾患、加齢黄斑変性症、心血管病、虚血傷害、痛風および肥満関連炎症疾患(糖尿病、脂肪肝炎および動脈硬化など)並びに炎症性皮膚疾患(乾癬、脱毛症、尋常性ざ瘡およびアトピー性皮膚炎など)などの疾患および状態を治療、改善または予防するために用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
(酵素活性の測定)
ゴボウシ中のβ−グルコシダーゼ活性は、以下の方法で測定した。産地やロットが異なるゴボウシをウイレー氏粉砕機により粉砕し、このゴボウシ粉砕品0.1gを10mLの水で希釈し、試料溶液とした。
【0063】
基質溶液として、p-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド0.15gに水を加えて25mLに定容し、20mmol/L p-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド水溶液を調製した。0.1mol/L酢酸緩衝液1mLに20mmol/L p-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド水溶液0.5mLを加えて、反応混液を調製し、37℃で約5分予備加熱を行った。
【0064】
反応混液に試料溶液0.5mL加えて37℃で15分反応させた後、反応停止液である0.2mol/L炭酸ナトリウム水溶液を2mL加えて反応を停止させた。この液の400nmにおける吸光度を測定し、酵素反応を行わないブランク溶液からの変化量から下式により酵素活性を求めた。
酵素活性(U/g)=(試料溶液の吸光度-ブランク溶液の吸光度)×4mL×1/18.1(p-ニトロフェノールの上記測定条件下でのミリモル分子吸光係数:cm2/μmol)×1/光路長(cm)×1/反応時間(分)×1/0.5mL×1/試料溶液濃度(g/mL)
【0065】
(実施例1 ゴボウシ抽出物の製造1)
本発明のインフラマソーム活性化抑制用組成物の一実施例として、ゴボウシからエキス(抽出物)を抽出した。ゴボウシ(酵素活性8.23U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを29〜33℃に保温した水560Lに加えて30分間攪拌した。次いで、エタノール265Lを加えて85℃に昇温し、さらに60分間加熱還流した。この溶液を遠心分離し、ゴボウシ抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン20%を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.2%および7.1%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.89のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン20%含有)が得られた。
【0066】
(実施例2 ゴボウシ抽出物の製造2)
本発明のインフラマソーム活性化抑制用組成物の一実施例として、ゴボウシからエキス(抽出物)を抽出した。ゴボウシ(酵素活性8.23U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを30〜33℃に保温した水560Lに加えて30分間攪拌した後、エタノール265Lを加えて85℃に昇温し、さらに30分間加熱還流した。この溶液を遠心分離し、ゴボウシ抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン20%を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.0%および6.8%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.87のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン20%含有)が得られた。
【0067】
(実施例3 ゴボウシ抽出物の製造3)
本発明のインフラマソーム活性化抑制用組成物の一実施例として、ゴボウシからエキス(抽出物)を抽出した。ゴボウシ(酵素活性7.82U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを30〜32℃に保温した水560Lに加えて40分間攪拌した後、60分後にエタノール258Lを加えて85℃に昇温し、さらに30分間加熱還流した。この液を遠心分離し、ゴボウシ抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン20%を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.2%および6.7%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.93のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン20%含有)が得られた。
【0068】
(実施例4 ゴボウシ抽出物の製造4)
本発明のインフラマソーム活性化抑制用組成物の一実施例として、ゴボウシからエキス(抽出物)を抽出した。ゴボウシ(酵素活性7.82U/g)を切裁し、9.5mmの篩を全通するものをさらに0.85mmの篩に通し、75%が残ることを確認した。このゴボウシ細切80kgを30〜32℃に保温した水560Lに加えて30分間攪拌した後、エタノール253Lを加えて85℃に昇温し、さらに40分間加熱還流した。この液を遠心分離し、得られた抽出液を得た。この操作を2回繰り返して得られた抽出液を合わせて、減圧濃縮し、抽出物固形分に対してデキストリン25%を加えて、噴霧乾燥した。アルクチゲニンおよびアルクチイン含量は、それぞれ6.4%および7.2%であり、アルクチゲニン/アルクチイン(重量比)=0.89のゴボウシ抽出物粉末(デキストリン25%含有)が得られた。
【0069】
(実施例5 シナレンギョウ葉抽出物の製造1)
本発明のインフラマソーム活性化抑制用組成物の一実施例として、シナレンギョウ葉からエキス(抽出物)を抽出した。アルクチイン2.53%およびアルクチゲニン0.76%を含有するレンギョウ葉小刻み50gに水350mLを加えて37℃で30分間保温後、エタノール150mLを添加し30分間加熱抽出した。この溶液を100メッシュ篩を用いて固液分離し、凍結乾燥を行うことにより、アルクチゲニン含量が5.62%のシナレンギョウ葉抽出物18.62gを得た。
【0070】
(実施例6 シナレンギョウ葉抽出物の製造2)
本発明のインフラマソーム活性化抑制用組成物の一実施例として、シナレンギョウ葉からエキス(抽出物)を抽出した。アルクチイン7.38%およびアルクチゲニン0.78%を含有するレンギョウ葉小刻み720gに水5Lを加えて37°Cで30分間保温後、エタノール2.16Lを添加し30分間加熱抽出した。この溶液を100メッシュ篩を用いて固液分離し、凍結乾燥を行うことにより、アルクチゲニン含量が9.55%のシナレンギョウ葉抽出物343.07gを得た。
【0071】
(実施例7 ゴボウシ抽出物粉末配合顆粒剤)
本発明のインフラマソーム活性化抑制用組成物の一実施例として、ゴボウシ抽出物を用いて顆粒剤を製造した。「日局」製剤総則、顆粒剤の項に準じて顆粒剤を製造した。すなわち、下記(1)〜(3)の成分をとり、顆粒状に製した。これを1.5gずつアルミラミネートフィルムに充填し、1包あたりゴボウシ抽出物粉末を0.5g含有する顆粒剤を得た。
(1)実施例2のゴボウシ抽出物粉末 33.3%
(2)乳糖 65.2%
(3)ヒドロキシプロピルセルロース 1.5%
合計 100%
【0072】
(実施例8 ゴボウシ抽出物粉末配合顆粒剤)
本発明のインフラマソーム活性化抑制用組成物の一実施例として、ゴボウシ抽出物を用いて顆粒剤を製造した。「日局」製剤総則、顆粒剤の項に準じて顆粒剤を製造した。すなわち、下記(1)〜(3)の成分をとり、顆粒状に製した。これを3.0gずつアルミラミネートフィルムに充填し、1包あたりゴボウシ抽出物粉末を2g含有する顆粒剤を得た。
(1)実施例2のゴボウシ抽出物粉末 66.7%
(2)乳糖 30.3%
(3)ヒドロキシプロピルセルロース 3.0%
合計 100%
【0073】
(実施例9 ゴボウシ抽出物粉末配合錠剤)
本発明のインフラマソーム活性化抑制用組成物の一実施例として、ゴボウシ抽出物を用いて錠剤を製造した。「日局」製剤総則、錠剤の項に準じて錠剤を製した。すなわち、下記(1)〜(6)の成分をとり、錠剤を得た。
(1)実施例2のゴボウシ抽出物粉末 37.0%
(2)結晶セルロース 45.1%
(3)カルメロースカルシウム 10.0%
(4)クロスポピドン 3.5%
(5)含水二酸化ケイ素 3.4%
(6)ステアリン酸マグネシウム 1.0%
合計 100%
【0074】
〔アルクチゲニンのインフラマソーム活性化抑制作用〕
アルクチゲニンのインフラマソーム活性化抑制作用について、以下に示す。
【0075】
(細胞の分化誘導)
ヒト単球細胞由来のNLRP3インフラマソームレポーター細胞株THP1-Null細胞(Invivogen)またはTHP-1細胞(JCRB Cell Bank)を、10%FBSおよび4.5%グルコースを添加したRPMI培地(以下THP1培養培地、SIGMA)にて培養した。マクロファージに分化させるため、500nMのPMA(SIGMA)を3時間処理し、PBSにて2回洗浄後、以下の実験に使用した。
【0076】
(インフラマソームの誘導)
分化誘導したTHP1-Null細胞またはTHP-1細胞を、THP1培養培地にて1.0×106cells/mLとなるよう懸濁し、96wellマイクロプレートに180μLずつ播種した(1.8×105cells/well)。24時間毎に培地交換を行い、72時間培養後、TLR4刺激剤としてLPSを1μg/mLとなるよう加え、3時間培養し上清を取り除いた。ここへ、アルクチゲニン添加培地(アルクチゲニン(ゴボウシより精製)をTHP1培養培地に添加したもの)を加え1時間前処理を行った後、THP1-Null細胞にはNLRP3インフラマソーム活性化剤としてATP(終濃度5mM 、SIGMA)、パルミチン酸(終濃度500μM、純正化学)またはMSU(終濃度100μg/mL、SIGMA)を添加した。ATP処理の場合は1時間後、パルミチン酸処理の場合は12時間後、MSUの場合は3時間後に培養上清を回収した。THP-1細胞には、AIM2インフラマソーム活性化剤としてPoly(dA:dT)/LyoVec(商標)(終濃度5μg/mL、Invivogen)を8時間添加し、培養上清を回収した。培養上清中のIL-1β濃度は、IL-1βレポーター細胞株HEK Blue(商標)IL-18/IL-1β細胞(Invivogen)またはELISA法を用いて定量を行った。また、培養上清中のカスパーゼ-1濃度はELISA法を用いて定量した。
【0077】
(IL-1βの測定)
ATP処理後に回収した培地上清のIL-1β濃度の定量には、HEK Blue(商標)IL-18/IL-1β細胞を用いた。HEK Blue(商標)IL-18/IL-1β細胞(Invivogen)を、10%FBSおよび4.5%グルコースを含むDMEM培地(SIGMA)にて培養し、2.8×105cells/mLとなるよう懸濁した。IL-1βの測定用に回収した培養上清およびIL-1β標準液(0-1000pg/mL)を空の96wellマイクロプレートに20μL加え、そこへHEK Blue(商標)IL-18/IL-1β細胞を180μL加え、37℃、5%CO2環境下で24時間培養した。この培養上清を、新たな96wellマイクロプレートに40μL加え、発色試薬であるQUANTI-Blue(商標)(Invivogen、1pouch/100mLに調製した溶液)を160μL添加し37℃で2時間反応させ呈色した。マイクロプレートリーダーで各wellにおける655nmの吸光度を測定し、IL-1βの濃度を測定した。また、パルミチン酸、MSUおよびPoly(dA:dT)/LyoVec(商標)処理後に回収した培地上清のIL-1β濃度の定量には、Quantikine(登録商標)ELISA Human IL-1β/IL-1F2(R&D systems(商標))を用いた。ELISA KitのTDSに則り、培地およびIL-1β標準液をELISA plateに加えて反応させた後、450nmの吸光度を測定し、培地中のIL-1β濃度を算出した。
【0078】
(カスパーゼ-1の測定)
カスパーゼ-1の測定は、Quantikine(登録商標)ELISA Human Caspase-1/ICE(R&D systems(商標))のTDSに則って実施した。カスパーゼ-1の測定用に回収した培地およびカスパーゼ-1標準液をELISA plateに加えて反応させた後、450nmの吸光度を測定し、培地中のカスパーゼ-1含量を算出した。
【0079】
(試験1:ATP刺激に対するアルクチゲニンの作用)
上述した方法を用いて、分化誘導およびLPS処理したTHP1-Null細胞をアルクチゲニンで前処理し、次いでATP処理を行ってインフラマソームを活性化させた後、IL-1βの放出量および活性型カスパーゼ-1の定量を行った。未処理の試料(Normal)およびアルクチゲニン前処理を行わない試料(Control)を対照に用いた。
【0080】
図1は、アルクチゲニン処理したときの、ATP刺激により放出されるIL-1βの放出量を示す。図2は、アルクチゲニン処理したときの、ATP刺激によるカスパーゼ-1の量を示す。図1および図2では、3回の平均±標準誤差(Mean±S.E.M)を表し、Dunnettの多重比較検定(Dunnett's test)の結果、p値が0.05より小さい場合には「*」を、p値が0.01より小さい場合は「**」を付した。図1および図2に示すように、アルクチゲニンを10μM以上の濃度で処理したとき、IL-1β放出量およびカスパーゼ-1量がアルクチゲニン前処理を行わなかった試料(Control)と比較して有意に減少した。したがって、アルクチゲニンはIL-1βの放出を有意に抑制することおよびカスパーゼ-1の活性化を有意に抑制することが示され、ATP刺激によるインフラマソーム活性化を抑制する作用を有することが示唆された。
【0081】
(試験2:パルミチン酸刺激に対するアルクチゲニンの作用)
上述した方法を用いて、分化誘導およびLPS処理したTHP1-Null細胞をアルクチゲニンで前処理し、次いでパルミチン酸処理を行ってインフラマソームを活性化させた後、IL-1βの放出量および活性型カスパーゼ-1の定量を行った。未処理の試料(Normal)およびアルクチゲニン前処理を行わない試料(Control)を対照に用いた。
【0082】
図3は、アルクチゲニン処理したときの、パルミチン刺激により放出されるIL-1βの放出量を示す。図4は、アルクチゲニン処理したときの、パルミチン酸刺激によるカスパーゼ-1の量を示す。図3および図4では、3回の平均±標準誤差(Mean±S.E.M)を表し、Student’s t-testの結果、p値が0.05より小さい場合には「*」を付した。図3に示すように、アルクチゲニンを500 nMの濃度で処理したとき、IL-1β放出量およびカスパーゼ-1量がアルクチゲニン前処理を行わなかった試料(Control)と比較して有意に減少した。したがって、アルクチゲニンは、飽和脂肪酸処理によるIL-1βの放出を有意に抑制することおよびカスパーゼ-1の活性化を有意に抑制することが示され、飽和脂肪酸刺激によるインフラマソーム活性化を抑制する作用を有することが示唆された。
【0083】
(試験3:MSU刺激に対するアルクチゲニンの作用)
上述した方法を用いて、分化誘導およびLPS処理したTHP1-Null細胞をアルクチゲニンで前処理し、次いでMSU処理を行ってインフラマソームを活性化させた後、IL-1βの放出量および活性型カスパーゼ-1の定量を行った。未処理の試料(Normal)およびアルクチゲニン前処理を行わない試料(Control)を対照に用いた。
【0084】
図5は、アルクチゲニン処理したときの、MSU刺激により放出されるIL-1βの放出量を示す。図6は、アルクチゲニン処理したときの、MSU刺激によるカスパーゼ-1の量を示す。図5および図6では、3回の平均±標準誤差(Mean±S.E.M)を表し、Dunnettの多重比較検定(Dunnett's test)の結果、p値が0.05より小さい場合には「*」を、p値が0.01より小さい場合は「**」を付した。図5および図6に示すように、アルクチゲニンを10μM以上の濃度で処理したとき、IL-1β放出量がアルクチゲニン前処理を行わなかった試料(Control)と比較して有意に減少し、カスパーゼ-1量も同様に濃度依存的に減少した。したがって、アルクチゲニンは、MSU処理によるIL-1βの放出を有意に抑制することおよびカスパーゼ-1の活性化を抑制することが示され、MSU処理によるインフラマソーム活性化を抑制する作用を有することが示唆された。
【0085】
試験1〜3の結果から、アルクチゲニンは、NLRP3を含むインフラマソームの活性化を抑制する作用を有することが強く示唆された。
【0086】
(試験4:Poly(dA:dT)刺激に対するアルクチゲニンの作用)
上述した方法を用いて、分化誘導およびLPS処理したTHP-1細胞をアルクチゲニンで前処理し、次いでPoly(dA:dT)処理を行ってインフラマソームを活性化させた後、IL-1βの放出量および活性型カスパーゼ-1の定量を行った。未処理の試料(Normal)およびアルクチゲニン前処理を行わない試料(Control)を対照に用いた。
【0087】
図7は、アルクチゲニン処理したときの、Poly(dA:dT)刺激により放出されるIL-1βの放出量を示す。図8は、アルクチゲニン処理したときの、Poly(dA:dT)刺激によるカスパーゼ-1の量を示す。図7および図8では、3回の平均±標準誤差(Mean±S.E.M)を表し、Student’s t-testの結果、p値が0.05より小さい場合には「*」を付した。図7に示すように、アルクチゲニンを500 nMの濃度で処理したとき、IL-1β放出量がアルクチゲニン前処理を行わなかった試料(Control)と比較して有意に減少した。さらに、図8に示すように、アルクチゲニンを250 nMの濃度で処理したとき、カスパーゼ-1量が有意に減少した。したがって、アルクチゲニンは、Poly(dA:dT)処理によるIL-1βの放出およびカスパーゼ-1の活性化を有意に抑制することが示され、Poly(dA:dT)処理によるインフラマソーム活性化を抑制する作用を有することが示唆された。すなわち、アルクチゲニンは、AIM2を含むインフラマソーム活性化を抑制する作用を有することが示唆された。
【0088】
これらの結果から、アルクチゲニンは、刺激の種類に非依存的にインフラマソーム活性化を抑制する作用を有することが強く示唆された。すなわち、アルクチゲニンは、インフラマソームに含まれる受容体の種類に非依存的に、インフラマソーム活性化を抑制する作用を有することが強く示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のインフラマソーム活性化抑制剤およびインフラマソーム活性化抑制用組成物は、感染症、自己炎症性疾患、アレルギー疾患、加齢黄斑変性症、心血管病、虚血傷害、痛風、認知症、糖尿病、脂肪肝炎、動脈硬化およびその他の肥満関連炎症疾患並びに炎症性皮膚疾患(乾癬、脱毛症、尋常性ざ瘡およびアトピー性皮膚炎など)などの疾患や状態を治療、改善または予防するための医薬品、化粧品および食品に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8