【文献】
Proc. Natl. Acad. Sci.,2010年,Vol.107, No.47, p.20565-20570
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
配列番号40、配列番号44、配列番号48、配列番号52、配列番号56、配列番号60、配列番号64、配列番号68、配列番号72、もしくは、配列番号76のいずれか1つに記載された配列を含むか、もしくは、それからなる、請求項1に記載のポリペプチド。
ヒトCXCR4(配列番号105)のC28、E32、V112、Y184、F189、P191、D193、W195、D262、L266、E268及びE288からなる群から選択されるCXCR4の1つ以上の残基と結合する、請求項1または2に記載のポリペプチド。
【発明を実施するための形態】
【0120】
配列一覧の解説
配列番号1:Homo sapiens NCAMドメイン1をコードするアミノ酸配列
配列番号2:i−body足場をコードするアミノ酸
配列番号3:Bos taurus NCAMドメイン1をコードするアミノ酸配列
配列番号4:Mus musculus NCAMドメイン1をコードするアミノ酸配列
配列番号5:Rat rattus NCAMドメイン1をコードするアミノ酸配列
配列番号6:Gallus gallus NCAMドメイン1をコードするアミノ酸配列
配列番号7:Xenopus laevis NCAM2ドメイン1をコードするアミノ酸配列
配列番号8:Xenopus laevis NCAM1ドメイン1をコードするアミノ酸配列
配列番号9:Homo sapiens NCAM2ドメイン1をコードするアミノ酸配列
配列番号10:Mus musculus NCAM2ドメイン1をコードするアミノ酸配列
配列番号11:ADCX−99をコードするアミノ酸配列
配列番号12:ADCX−99 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号13:ADCX−99 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号14:ADCX−272をコードするアミノ酸配列
配列番号15:ADCX−272 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号16:ADCX−272 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号17:ADCX−6をコードするアミノ酸配列
配列番号18:ADCX−6 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号19:ADCX−6 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号20:ADCX−54をコードするアミノ酸配列
配列番号21:ADCX−54 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号22:ADCX−54 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号23:ADCX−LSをコードするアミノ酸配列
配列番号24:ADCX−LS CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号25:ADCX−LS CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号26:ADCX−668をコードするアミノ酸配列
配列番号27:ADCX−668 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号28:ADCX−668 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号29:ADCX−306をコードするアミノ酸配列
配列番号30:ADCX−306 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号31:ADCX−306 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号32:ADCX−99をコードするヌクレオチド配列
配列番号33:ADCX−272をコードするヌクレオチド配列
配列番号34:ADCX−6をコードするヌクレオチド配列
配列番号35:ADCX−54をコードするヌクレオチド配列
配列番号36:ADCX−LSをコードするヌクレオチド配列
配列番号37:ADCX−668をコードするヌクレオチド配列
配列番号38:ADCX−306をコードするヌクレオチド配列
配列番号39:親和性成熟したi−bodyのコンセンサスアミノ酸配列
配列番号40:AM3−114をコードするアミノ酸
配列番号41:AM3−114 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号42:AM3−114 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号43:AM3−114をコードするヌクレオチド配列
配列番号44:AM3−920をコードするアミノ酸配列
配列番号45:AM3−920 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号46:AM3−920 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号47:AM3−920をコードするヌクレオチド配列
配列番号48:AM4−1121をコードするアミノ酸配列
配列番号49:AM4−1121 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号50:AM4−1121 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号51:AM4−1121をコードするヌクレオチド配列
配列番号52:AM4−613をコードするアミノ酸配列
配列番号53:AM4−613 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号54:AM4−613 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号55:AM4−613をコードするヌクレオチド配列
配列番号56:AM3−523をコードするアミノ酸配列
配列番号57:AM3−523 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号58:AM3−523 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号59:AM3−523をコードするヌクレオチド配列
配列番号60:AM4−661をコードするアミノ酸配列
配列番号61:AM4−661 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号62:AM4−661 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号63:AM4−661をコードするヌクレオチド配列
配列番号64:AM3−466をコードするアミノ酸配列
配列番号65:AM3−466 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号66:AM3−466 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号67:AM3−466をコードするヌクレオチド配列
配列番号68:AM5−245をコードするアミノ酸配列
配列番号69:AM5−245 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号70:AM5−245 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号71:AM5−245をコードするヌクレオチド配列
配列番号72:AM4−272をコードするアミノ酸配列
配列番号73:AM4−272 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号74:AM4−272 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号75:AM4−272をコードするヌクレオチド配列
配列番号76:AM4−746をコードするアミノ酸配列
配列番号77:AM4−746 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号78:AM4−746 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号79:AM4−746をコードするヌクレオチド配列
配列番号80:AM3−114−Im7−FH−SA21二重特異性i−bodyをコードするアミノ酸配列
配列番号81:AM3−114−Im7−FH−SA21二重特異性i−bodyをコードするヌクレオチド配列
配列番号82:21H5 i−bodyをコードするアミノ酸配列
配列番号83:AM4−774 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号84:AM4−774 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号85:AM4−208 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号86:AM4−208 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号87:AM4−1088 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号88:AM4−1088 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号89:AM4−239 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号90:AM4−239 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号91:AM3−32 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号92:AM3−32 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号93:AM4−757 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号94:AM4−757 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号95:AM4−386 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号96:AM4−386 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号97:AM4−352 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号98:AM4−352 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号99:AM3−182 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号100:AM3−182 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号101:AM4−203 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号102:AM4−203 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号103:AM5−95 CDR1をコードするアミノ酸配列
配列番号104:AM5−95 CDR3をコードするアミノ酸配列
配列番号105:ヒトCXCR4をコードするアミノ酸配列
【0121】
一般
用語「及び/または」、例えば「X及び/またはY」は、「X及びY」または「XまたはY」のいずれをも意味すると理解されるべきであり、両方の意味またはいずれかの意味を明示的に裏付けるものと解釈されるべきである。
【0122】
本明細書を通じて、特に別段の記載がない限り、または文脈上必要とされない限り、単一の工程、組成物、工程群または組成物群への言及は、これらの工程、組成物、工程群または組成物群の単数及び複数(すなわち1つ以上)を包含すると解釈すべきである。
【0123】
当業者は、本明細書に記載する本発明が、具体的に記載されたもの以外に変形及び改変の余地があることを理解されるだろう。本発明には、そのような全ての変形及び改変が含まれると理解すべきである。本発明はまた、本明細書で個々にまたは一括して参照または記載された工程、特徴、組成物及び化合物の全て、ならびに前記工程または特徴のあらゆる全ての組み合わせまたは任意の2つ以上を含む。
【0124】
本開示は、本明細書に記載する特定の実施形態によって範囲を限定されるものではなく、例示目的のみを意図する。機能的に等価な産物、組成物及び方法は、明らかに、本明細書に記載する本開示の範囲内である。
【0125】
特に別段の記載のない限り、本明細書のいかなる例も、他のいかなる例に準用されるものと解釈すべきである。
【0126】
選択定義
本明細書を通じて、用語「comprise(を含む)」、または「comprises(を含む)」もしくは「comprising(含んでいる)」などの変形は、指定された要素、整数もしくは工程、または要素群、整数群もしくは工程群を包含するが、いかなる他の要素、整数もしくは工程、または要素群、整数群もしくは工程群をも排除することを意味しないことが理解されるだろう。
【0127】
本明細書で使用される場合、用語「親和性」は、単一の分子がそのリガンドと結合する強さを指し、通常は2つの薬剤が可逆的に結合する際の平衡解離定数(K
D)として表される。K
Dは、本開示のi−bodyまたはCXCR4結合ポリペプチドとCXCR4とのK
off/K
on比で測定される。K
Dと親和性は反比例する。K
D値は、i−bodyまたはCXCR4結合ポリペプチドの濃度と相関性があるため、K
D値が低下(濃度が低下)すれば、抗体の親和性は高くなる。本開示のi−bodyまたはCXCR4結合ポリペプチドのCXCR4に対する親和性は、例えば、約100ナノモル(nM)〜約0.1nM、約100nM〜約1ピコモル(pM)、または約100nM〜約1フェムトモル(fM)以上であり得る。
【0128】
CXCR4結合分子またはポリペプチドの標的との相互作用と関連して本明細書で使用される場合、用語「結合する」は、相互作用が標的上の特定の構造(例えば、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存することを意味する。例えば、CXCR4結合分子またはポリペプチドは、一般にタンパク質よりむしろ、特異的タンパク質構造を認識して、それと結合する。
【0129】
本明細書で使用される場合、用語「保存的アミノ酸置換」は、ある種の共通する特性を基準としたアミノ酸の分類を指す。個々のアミノ酸間の共通する特性を定義する機能的な方法は、同種の生物の対応するタンパク質間でのアミノ酸の変化頻度を正規化して分析することである。このような分析により、群内のアミノ酸が互いに優先的に交換され、その結果、全体のタンパク質構造に与える影響が互いにほぼ同じであるアミノ酸群を定義することができる(Schulz GE and RH Schirmer,Principles of Protein Structure,Springer−Verlag)。このように定義されるアミノ酸群の例は、以下を含む:
(i)Glu、Asp、Lys、Arg及びHisからなる荷電基、
(ii)Phe、Tyr及びTrpからなる芳香族基、
(iii)His及びTrpからなる窒素環基、
(iv)Met及びCysからなる微極性基など。
【0130】
本明細書で使用される場合、用語「CXCR4関連の疾患または病態」は、CXCR4結合分子もしくはポリペプチドのいずれか、または本開示の組成物及び/もしくはCXCR4もしくはCXCR4が関与する生物学的経路もしくは機構に対して活性である既知の有効成分の組成物を、それを必要とする(すなわち疾患もしくは障害もしくはその少なくとも一症状を有する、ならびに/または疾患もしくは障害を誘引もしくは発現する危険性がある)対象に好適に投与することにより、それぞれ予防及び/または治療できる疾患及び障害を意味するものと解釈すべきである。用語「CXCR4関連の疾患または病態」はまた、CXCR4を介した疾患または障害を含む。
【0131】
本明細書で使用される場合、用語「相同性」は、類似した機能またはモチーフを有する遺伝子またはタンパク質を同定するために使用される配列類似性の数値による比較を示す。本開示のポリペプチド配列を「問い合わせ配列」として使用し、公共データベースに対して検索を実行することで、例えば、他のファミリーメンバー、関連配列またはホモログを同定することができる。このような検索は、BLASTプログラム(Altschul et al(1990)J.Mo. Biol.215:403−10)を使用して実行することができる。比較目的としてギャップありアライメントを得るために、Altschul et al(1997)Nuc Acids Res.25(17):3389−3402に記載されるようなGapped BLASTを利用することができる。
【0132】
本明細書で使用される場合、用語「同一性」は、配列の一致が最大となるように、すなわちギャップ及び挿入を考慮して配列を整列させたとき、2つ以上の配列の対応部分が一致するヌクレオチドまたはアミノ酸残基の比率を意味する。同一性は、Computational Molecular Biology,Lesk AM ed.Oxford University Press New York,1988;Computer Analysis of Sequence data,Part I Griffin AM and Griffin HG eds.,Humana Press,New Jersey,1994;Sequence analysis in molecular biology,von Heinje G,Academic Press,New Jersey,1994)に記載されているものを含むが、これに限定されない既知の方法を使用して容易に算出することができる。同一性を決定する方法は、試験配列間の最大一致が得られるように設計する。更に、同一性の決定方法は、一般に公開されているコンピュータープログラムで体系化されている。2つの配列間の同一性を決定するコンピュータープログラム方法としては、GCGプログラムパッケージ、BLASTP、BLASTN及びFASTAが挙げられるが、これらに限定されない。周知であるSmith Watermanアルゴリズムも、同一性の決定に使用することができる。
【0133】
本明細書で使用される場合、用語「治療すること」、「治療する」または「治療」は、指定した障害の少なくとも1つの症状を軽減または解消するのに十分な治療有効量の本開示のポリペプチド、核酸分子、コンジュゲートまたは多量体を投与することを含む。一例では、治療は、CXCR4関連の疾患または障害を治療または予防するために、治療有効量のポリペプチド、核酸分子、コンジュゲートまたは多量体を投与することを伴う。一例では、治療はまた予防療法を指す。
【0134】
本明細書で使用される場合、用語「予防すること」、「予防する」または「予防」は、指定した障害の少なくとも1つの症状の発現を停止または防止するのに十分な治療有効量の本開示のポリペプチド、核酸分子、コンジュゲートまたは多量体を投与することを含む。
【0135】
本明細書で使用される場合、用語「特異的結合」または「特異的に結合する」は、本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドが、代わりの標的または細胞に対して作用するよりも、CXCR4を発現する特定の標的または細胞と、高頻度で、急速に、長い持続時間及び/または高親和性で反応または会合することを意味すると解釈されるものとする。より詳細には、CXCR4結合分子またはポリペプチドは、他のケモカイン受容体、例えばCCR5、CXCR7またはCCR7に対してよりも高い親和性で、CXCR4を発現する標的または細胞と結合する。例えば、標的と特異的に結合するCXCR4結合分子またはポリペプチドは、それが他のGPCR、例えば、構造または配列に類似性がある他のGPCRと結合するよりも高親和性(例えば2倍、10倍、20倍または40倍または60倍または80倍〜100倍または150倍または200倍高い親和性)、高結合活性で、急速に及び/または長い持続時間で、その標的と結合する。CXCR4と特異的に結合するポリペプチドは、他のケモカイン受容体または親和性と関連する分子と、ある程度の交差反応性を示す場合があるが、このような交差反応性はCXCR4結合の生物学的機構応答または効果を実質的に調節しない程度に限定的である。
【0136】
本明細書で使用される場合、「類似した」結合レベルという表現は、CXCR4結合分子またはポリペプチドが、別の標的と結合するレベルの約30%または25%または20%の範囲内のレベルで、標的と結合することを意味すると理解される。この用語は、ある結合分子またはポリペプチドが、別の結合分子またはポリペプチドが同じ標的と結合するレベルの約30%または25%または20%の範囲内のレベルで標的と結合することを意味することもできる。
【0137】
結合と関連して本明細書で使用される場合、用語「実質的に」は、ポリペプチドが別の標的と結合するレベルの約15%、または10%または5%の範囲内のレベルでCXCR4と結合することを指す。この用語は、ある結合分子またはポリペプチドが、別の結合分子またはポリペプチドが同じ標的と結合するレベルの約5%または4%または3%の範囲内のレベルで標的と結合することを意味することもできる。
【0138】
本明細書で使用される場合、用語「ランダムループ配列」は、βストランドのコンフォメーションまたは中間(Iセット)ドメインのβストランドのコンフォメーションから伸長する、あるいはその間に伸長するペプチド配列の一部を指す。ループ領域は通常、伸長したβストランドのコンフォメーションを含まない。ループ領域4は、従来のCDR1ループに類似している。ループ領域8は、従来のCDR3ループに類似している。
【0139】
本明細書で使用される場合、用語「相補性決定領域」(同義語CDR;すなわち、CDR1、CDR2及びCDR3)は、その存在が特異的抗原結合の主要な一因である、免疫グロブリンのスーパーファミリードメイン内のアミノ酸残基を指す。
【0140】
本明細書で使用される場合、用語「足場」または「i−bodyの足場」は、アミノ酸1〜26、33〜79及び88〜97によって定義される、IセットヒトNCAM1免疫グロブリン(Ig)ドメイン1の足場領域が表す配列(配列番号1)を指すことを意図する。
【0141】
単離されたポリペプチドまたは単離された結合ポリペプチドと関連して本明細書で使用される場合、用語「単離された」は、タンパク質が、その派生物の起源または出所によって、天然に存在するタンパク質と会合しないか、同じ出所に由来する他のタンパク質を含まないか、異なる種からの細胞によって発現しないか、あるいは天然に存在しないタンパク質または組換えもしくは合成起源またはそのいくつかの組み合わせを指す。
【0142】
用語「治療有効量」は、単独で、または他の治療薬と併用して細胞、組織または対象に投与したとき、疾患の病態または疾患の進行を予防または改善する効果がある治療薬の量を指す。
【0143】
用語「ペプチド模倣体(peptide mimetic)」または「ペプチド模倣薬(peptidomimetic)」は、それが構造的にベースとするペプチド基質のモデルとして機能することが可能であるペプチド様の分子を意味する。このようなペプチド模倣薬は化学修飾ペプチド、天然に存在しないアミノ酸を含有するペプチド様分子、及びペプトイドを含み、N置換グリシンのオリゴマーアセンブリから得られるペプチド様分子である(例えば、Goodman and Ro,Peptidomimetics for Drug Design,in BURGER’S MEDICINAL CHEMISTRY AND DRUG DISCOVERY Vol.1(ed.M.E.Wolff;John Wiley & Sons 1995),ページ803−861を参照のこと)。
【0144】
種々のペプチド模倣体が当技術分野で既知であり、これには例えば、拘束されたアミノ酸を含むペプチド様分子、ペプチド二次構造を模倣する非ペプチド成分、またはアミド結合等価体を含む。拘束された、天然に存在しないアミノ酸を含む模倣ペプチドは、例えば、α−メチル化アミノ酸;α,α−ジアルキル−グリシンもしくはα−アミノシクロアルカンカルボン酸;Nα−Cα環式アミノ酸;Nα−メチル化アミノ酸;β−もしくはγ−アミノシクロアルカンカルボン酸;α,β−不飽和アミノ酸;β,β−ジメチルもしくはβ−メチルアミノ酸;β−置換−2,3−メタノアミノ酸;NCδもしくはCα−Cδ環式アミノ酸;または置換プロリンもしくは別のアミノ酸模倣体を含み得る。
【0145】
加えて、ペプチド二次構造を模倣するペプチド模倣体は、例えば、非ペプチド性のβターン模倣体、γターン模倣体、βシート構造の模倣体、またはヘリカル構造の模倣体を含むことができ、これらはそれぞれ、当技術分野において周知である。ペプチド模倣体はまた、例えば、レトロインベルソ修飾体などのアミド結合等価体;還元アミド結合;メチレンチオエーテルもしくはメチレンスルホキシド結合;メチレンエーテル結合;エチレン結合;チオアミド結合;trans−オレフィンもしくはフルオロオレフィン結合;1,5−二置換テトラゾール環;ケトメチレンもしくはフルオロケトメチレン結合または別のアミド等価体を含むペプチド様分子であり得る。当業者は、上記及びその他のペプチド模倣薬成分が、本明細書で使用される用語「ペプチド模倣体」の意味に包含されることを理解している。別途明示されない限り、用語「ポリペプチド」または「ペプチド」はペプチド模倣薬を含む。
【0146】
i−bodyの足場及びCXCR4結合分子
本開示は、修飾されたCDR1及びCDR3領域を有する足場を含む、結合ポリペプチド(すなわち「i−body」)を提供する。一例では、足場領域は、配列番号1に示すヒトNCAM1のドメイン1、または強調表示されたCDR1及びCDR3領域を除いて、配列番号1と少なくとも45%の同一性または少なくとも75%の相同性を有する関連したドメイン配列を含む。
【0147】
NCAM(すなわち神経細胞接着分子)は、免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリーのIセットドメインすなわち中間セット(intermediate−set)ドメインの糖タンパク質である。NCAMの細胞外ドメインは、5つの免疫グロブリン様(Ig)ドメインに続く、2つのフィブロネクチンタイプIII(FNIII)ドメインからなる。
【0148】
関連するドメイン配列は、それぞれウシ、マウス、ラット、ニワトリ及びカエルのNCAM 1ドメイン配列を示す配列番号3、4、5、6及び8、ならびにそれぞれカエル、ヒト及びマウスのNCAM 2ドメイン配列を示す配列番号7、9及び10を含む。
【0149】
これらの関連するドメイン間の配列同一性は、以下の通りである:
【0151】
これらの関連するドメイン間の配列相同性は、以下の通りである:
【0153】
ヒトNCAMのドメイン1は、細菌発現系で組換えポリペプチドとして作製された(Frei et al.(1992)J.Cell Biol.118:177−194)。
【0154】
本開示は、ドメイン(または「i−body」)の結合特性を変化させることがわかっている、i−body足場に組み込まれるCDR1及び/またはCDR3領域の修飾体について記載している。特に、発明者らは、驚いたことに高い親和性及び特異性でCXCR4と結合し、CXCR4誘導性の細胞遊走を阻害または低減することが可能である修飾されたi−bodyアミノ酸及びポリペプチドを開発した。特に、本開示のCXCR4結合ポリペプチドまたはi−bodyは、癌転移、抗炎症及び線維症関連疾患の阻害に有用である。
【0155】
したがって、本開示は、i−body足場のアミノ酸配列を含む、CXCR4と結合する数多くのポリペプチドを提供する。このとき、i−body足場のCDR1またはCDR3領域が修飾されており、足場分子は50uM未満、40μM未満、20μM未満、10uM未満、1uM未満、700nM未満、600nM未満、500nM未満、400nM未満、300nM未満、200nM未満、100nM未満、50nM未満、10nM未満、または5nM未満、または1nM未満の親和性でヒトCXCR4と結合する。
【0156】
一実施形態では、ポリペプチドのCDR1及び/またはCDR3領域全体が、ランダムループ配列で置換される。
【0157】
例えば、ポリペプチドのCDR1ループ領域を、配列番号12、配列番号15、配列番号18、配列番号21、配列番号24、配列番号27、配列番号30、配列番号41、配列番号45、配列番号49、配列番号53、配列番号57、配列番号61、配列番号65、配列番号69、配列番号73、もしくは配列番号77に示された配列、またはそれと少なくとも50%の同一性を有する配列を持つループ領域と置換することができる。
【0158】
例えば、ポリペプチドのCDR1ループ領域を、配列番号12、配列番号15、配列番号18、配列番号21、配列番号24、配列番号27、配列番号30、配列番号41、配列番号45、配列番号49、配列番号53、配列番号57、配列番号61、配列番号65、配列番号69、配列番号73、もしくは配列番号77に示された配列、またはそれと少なくとも50%の相同性を有する配列を持つループ領域と置換することができる。
【0159】
別の例では、ポリペプチドのCDR3ループ領域を、配列番号13、配列番号16、配列番号19、配列番号22、配列番号25、配列番号28、配列番号31、配列番号42、配列番号46、配列番号50、配列番号54、配列番号58、配列番号62、配列番号66、配列番号70、配列番号74、もしくは配列番号78に示された配列、またはそれと少なくとも70%の同一性を有する配列を持つループ領域と置換することができる。
【0160】
別の例では、ポリペプチドのCDR3ループ領域を、配列番号13、配列番号16、配列番号19、配列番号22、配列番号25、配列番号28、配列番号31、配列番号42、配列番号46、配列番号50、配列番号54、配列番号58、配列番号62、配列番号66、配列番号70、配列番号74、もしくは配列番号78に示された配列、またはそれと少なくとも70%の相同性を有する配列を持つループ領域と置換することができる。
【0161】
一例では、ポリペプチドは、配列番号11、配列番号14、配列番号17、配列番号20、配列番号23、配列番号26、配列番号29、配列番号40、配列番号44、配列番号48、配列番号52または配列番号56、配列番号60、配列番号64、配列番号68、配列番号72、または配列番号76に対して、少なくとも80%の同一性、少なくとも90%の同一性、または少なくとも95%の同一性、または少なくとも97%の同一性、または少なくとも98%の同一性、または少なくとも99%の同一性を有する配列を含む。
【0162】
一例では、ポリペプチドは、配列番号11、配列番号14、配列番号17、配列番号20、配列番号23、配列番号26、配列番号29、配列番号40、配列番号44、配列番号48、配列番号52または配列番号56、配列番号60、配列番号64、配列番号68、配列番号72、または配列番号76に対して、少なくとも80%の相同性、少なくとも90%の相同性、または少なくとも95%の相同性、または少なくとも97%の相同性、または少なくとも98%の相同性、または少なくとも99%の相同性を有する配列を含む。
【0163】
一例では、ポリペプチドは、配列番号11、配列番号14、配列番号17、配列番号20、配列番号23、配列番号26、配列番号29、配列番号40、配列番号44、配列番号48、配列番号52または配列番号56、配列番号60、配列番号64、配列番号68、配列番号72、または配列番号76を含むか、またはそれからなる。
【0164】
一例では、ポリペプチドは、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個または10個のアミノ酸置換を含む配列番号11を含むか、またはそれからなる。
【0165】
一例では、ポリペプチドは、配列番号11を含むか、またはそれからなる。
【0166】
本開示はまた、本明細書に記載するポリペプチドをコードする核酸分子を形成する。
【0167】
一例では、核酸分子は、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号43、配列番号47、配列番号51、配列番号55、配列番号59、配列番号63、配列番号67、配列番号71、配列番号75、または配列番号79のいずれか1つに対して、少なくとも80%の同一性、少なくとも90%の同一性、または少なくとも95%の同一性、または少なくとも97%の同一性、または少なくとも98%の同一性、または少なくとも99%の同一性、または100%の同一性を有する配列を含む。
【0168】
一例では、核酸分子は、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号43、配列番号47、配列番号51、配列番号55、配列番号59、配列番号63、配列番号67、配列番号71、配列番号75、または配列番号79のいずれか1つに対して、少なくとも80%の相同性、少なくとも90%の相同性、または少なくとも95%の相同性、または少なくとも97%の相同性、または少なくとも98%の相同性、または少なくとも99%の相同性、または100%の相同性を有する配列を含む。
【0169】
ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの%同一性は、ギャップ生成ペナルティ=5及びギャップ伸長ペナルティ=0.3に設定した、GAP(Needleman and Wunsch,1970)分析(GCGプログラム)で測定される。問い合わせ配列は少なくとも50残基長であり、GAP分析により、2つの配列が少なくとも50残基の領域にわたってアライメントされる。例えば、問い合わせ配列は少なくとも100残基長であり、GAP分析により、2つの配列が少なくとも100残基の領域にわたってアライメントされる。一例では、2つの配列は、その全長にわたってアライメントされる。
【0170】
本開示の目的では、配列のアライメント及び相同性スコアの算出は、タンパク質とDNAいずれのアライメントにも有用である、Needleman−Wunschアライメント(すなわちグローバルアライメント)を使用して行う。タンパク質及びDNAのアライメントに、それぞれデフォルトのスコア行列BLOSUM50及び単位行列を使用する。ギャップ内の最初の残基に対するペナルティは、タンパク質に対して−12、DNAに対して−16であり、一方、ギャップ内の追加残基に対するペナルティは、タンパク質に対して−2、DNAに対して−4である。アライメントは、FASTAパッケージ版v20u6(W.R.Pearson and D.J.Lipman(1988),“Improved Tools for Biological Sequence Analysis”,PNAS 85:2444−2448,及びW.R.Pearson (1990)“Rapid and Sensitive Sequence Comparison with FASTP and FASTA”,Methods in Enzymology,183:63−98)に基づく。
【0171】
本開示は、本開示の結合タンパク質の変異体形態を企図する。例えば、このような変異体結合タンパク質は、本明細書で指定される配列と比較して、1つ以上の保存的アミノ酸置換を含む。いくつかの例では、結合タンパク質は、10個以下、例えば、9個または8個または7個または6個または5個または4個または3個または2個または1個の保存的アミノ酸置換を含む。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が、類似した側鎖及び/またはハイドロパシー性及び/または親水性を有するアミノ酸残基で置換されているものである。
【0172】
当技術分野では、類似した側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーが定義されており、これには、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電の極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。ハイドロパシー指標については、例えばKyte and Doolittle(1982)に記載されており、親水性指標については、例えばUS4554101に記載されている。
【0173】
本開示はまた、非保存的アミノ酸変化について考察する。例えば、荷電アミノ酸の別の荷電アミノ酸による、及び中性または正荷電アミノ酸による置換を特に目的とする。いくつかの例では、結合タンパク質は、10個以下、例えば、9個または8個または7個または6個または5個または4個または3個または2個または1個の非保存的アミノ酸置換を含む。
【0174】
本明細書に記載するCXCR4結合タンパク質の変異体は、CXCR4と結合する能力を保持する。CXCR4に対する特異的な結合を決定する方法を本明細書で記載する。
【0175】
親和性成熟
更なる例では、増加した親和性、特異性または活性でCXCR4と結合できるi−bodyを作製するために、または発現または溶解性を増加させたi−bodyを作製するために、本開示のポリペプチドが親和性成熟される。例えば、本開示のポリペプチドをコードする配列を、1個以上のアミノ酸置換を誘導するように変異させる。次に、得られた変異体ポリペプチドを、例えば競合アッセイでスクリーニングして、CXCR4との結合を検出するか、他のケモカイン受容体(例えばCCR10、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CX3CR1、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR5、CXCR6、CXCR7、CCR1、XCR1;
図9を参照)に対する特異性の増加をスクリーニングするか、または発現の増加または溶解性の増加をスクリーニングするか(
図7を参照)、または以下で説明する親和性アッセイによってCXCR4に対する親和性の増加をスクリーニングする。
【0176】
ポリペプチド及びタンパク質の親和性成熟には、いくつかのプロトコルがある。これには、DNAシャッフリング(Stemmer Proc Natl Acad Sci USA.(1994);91(22):10747−10751)、エラープローンPCR法(Hawkins et al.(1992)J.Mol.Biol.226;889−896及びHenderson et al.(2007)Structure 15:1452−66)、及び足場全体を無作為化する細菌突然変異誘発遺伝子細胞(Irving et al.(1996)Immunotechnology 2:127−43.3)、ならびにそれ以外の標的化方法、例えばドープによるオリゴヌクレオチド突然変異誘発(Hermes et al.(1989)Gene,84;143−1514))が含まれる。親和性成熟シングルドメイン、結合タンパク質及びポリペプチドには、Qベータバクテリオファージ由来のエラープローンRNA依存性RNAポリメラーゼと連結したリボソームディスプレイも使用されている(Kopsidas et al,(2006)Immunology Letters 107 163−168)。
【0177】
本開示によるポリペプチドは、可溶性分泌型タンパク質であってもよく、または細胞もしくは粒子表面に融合タンパク質として存在してもよい(例えば、ファージもしくはその他のウイルス、リボソームまたは生殖細胞)。例示的なファージディスプレイ方法は、例えば、US5821047、US6248516及びUS6190908に記載されている。次に、これらの方法を用いて作製されたファージディスプレイ粒子をスクリーニングして、CXCR4との結合に十分なコンフォメーションを有する提示された結合タンパク質、またはCXCR4に対する改善された結合物質を同定する。
【0178】
見かけの親和性は、例えば、当業者によく知られている酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)またはその他のいずれかの技術によって測定することができる。結合活性は、例えば、当業者によく知られているスキャッチャード分析またはその他のいずれかの技術によって測定することができる。当業者によく知られている見かけの結合親和性を測定するもう一つの技術が、表面プラズモン共鳴法(BIACORE 2000システムで分析される)である(Liljeblad,et al.,Glyco.J.2000,17:323−329)。標準測定値及び従来の結合アッセイについては、Heeley,R.P,Endocr.Res.2002,28:217−229に記載されている。
【0179】
一例では、本開示の親和性成熟されたi−bodyは、親和性成熟されていないi−bodyの結合親和性よりも高い結合親和性(例えば、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約50倍、少なくとも約100倍、少なくとも約500倍、または少なくとも約1000倍以上)でヒトCXCR4と特異的に結合する。
【0180】
タンパク質の生産
一例では、本開示のポリペプチドは、例えば、本明細書に記載する及び/または当技術分野において既知である、タンパク質生産に十分な条件下で、細胞株(例えば、E.Coli細胞株)を培養することにより生産される。
【0181】
組換え発現
組換えタンパク質の場合、それをコードする核酸を、1つ以上の発現構築物、例えば、発現ベクター(複数可)に導入し、その後、ジスルフィドブリッジまたはジスルフィド結合を生じさせることができる細胞、例えばE.coli細胞、酵母細胞、昆虫細胞または哺乳動物細胞を含む細菌細胞などの宿主細胞にトランスフェクトする。例示的な哺乳動物細胞としては、サルのCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、またはそれ以外の免疫グロブリンタンパク質を産生しない骨髄腫細胞が挙げられる。例示的な細菌細胞としては、いずれもNovagenから入手可能である、BL21(DE3)、BL21(DE3)−pLysS、Tuner、Tuner pLysS、Origami、Origami B、Origami B pLysS、Rosetta、AD494、HMS174が挙げられる。
【0182】
このような目的を達成するための分子クローニング技術は、当技術分野において既知であり、例えば、Ausubel F M(1987)Current Protocols in Molecular Biology.New York.NY,John Wiley & Sons or Sambrook,Fritsch and Maniatis Molecular Cloning:a laboratory manual Cold Spring Harbor NY.Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載されている。組換え核酸の構築に適したクローニング及びin vitro増幅方法は多種多様である。
【0183】
単離に続いて、本開示のタンパク質をコードする核酸を発現構築物または複製可能ベクターに挿入し、更なるクローニング(DNAの増幅)を行うか、または無細胞系または細胞内で発現させる。例えば、核酸はプロモーターに操作可能に連結される。
【0184】
本明細書で使用される場合、用語「プロモーター」は最も広義に解釈されるものとし、ゲノム遺伝子の転写調節配列を含み、これには、核酸の発現を変更する付加的な調節エレメント(例えば、上流活性化配列、転写因子結合部位、エンハンサー及びサイレンサー)の有無にかかわらず、例えば、発現刺激及び/または外部刺激に応答して、または組織特異的に、正確な転写を開始するのに必要となる、TATAボックスまたは開始エレメントが含まれる。本発明の文脈で、用語「プロモーター」はまた、組換え、合成もしくは融合核酸、またはプロモーターに操作可能に連結される核酸の発現を付与、活性化、または増強する誘導体を記載する際にも使用される。例示的なプロモーターは、発現を更に増強する、ならびに/または前記核酸の空間的発現及び/もしくは一過性発現を改変するために、1つ以上の特異的調節エレメントの追加コピーを含むことができる。
【0185】
本明細書で使用される場合、用語「に操作可能に連結される」は、核酸の発現がプロモーターによって制御されるように核酸と相対してプロモーターを配置することを意味する。
【0186】
無細胞発現系もまた、本開示で企図される。例えば、CXCR4結合ポリペプチドをコードする核酸を、好適なプロモーター、例えば、T7、T5またはSP6プロモーターに操作可能に連結して、転写及び翻訳に十分な条件下に置き、発現構築物を生じさせる。in vitro発現または無細胞発現のための典型的な発現ベクターが記載済みであり、これには限定されないが、TNT T7及びTNT T3システム(Promega)、pEXP1−DEST及びpEXP2−DESTベクター(Invitrogen)を含む。
【0187】
細胞内発現のためのベクターは数多く提供されている。ベクター成分は一般に、シグナル配列、本開示のポリペプチドをコードする配列(例えば、本明細書に記載する情報に由来する)、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終結配列のうちの1つ以上を含むが、これに限定されない。当業者は、タンパク質の発現に適した配列を周知しているはずである。ベクターは、必要に応じてプラスミド、ウイルス、例えばファージ、またはファージミドであり得る。例えば、核酸構築物の調製、突然変異誘発、細胞へのDNAの導入及び遺伝子発現における核酸操作、ならびにタンパク質解析のための数多くの既知の技術及びプロトコルが、例えばAusubel F M(1987)Current Protocols in Molecular Biology.New York.NY,John Wiley & Sonsに記載されている。多種多様な宿主/発現ベクターの組み合わせを本開示のi−bodyのDNA配列の発現に用いることができる。有用な発現ベクターは、例えば、染色体DNA配列、非染色体DNA配列及び合成DNA配列のセグメントからなり得る。好適なベクターとしては、SV40誘導体及び既知の細菌プラスミド(例えばE.coliプラスミドcol El、Perl、Pbr322、Pmb9及びその誘導体)、プラスミド(例えばRP4);ファージDNA(例えば、多数のファージ誘導体(例えばNM989))及びその他のファージDNA(例えばM13及び糸状一本鎖ファージDNA);酵母プラスミド(例えば、2uプラスミドまたはその誘導体);真核細胞に有用なベクター(例えば、昆虫細胞または哺乳動物細胞に有用なベクター);プラスミド及びファージDNAの組み合わせに由来するベクター(例えば、ファージDNAまた他の発現制御配列が機能するように改変されたプラスミド)などが挙げられる。
【0188】
例示的なシグナル配列としては、原核生物の分泌シグナル(例えば、DsbA、pelB、アルカリホスファターゼ、ペニシリナーゼ、Ippまたは耐熱性エンテロトキシンII)、酵母の分泌シグナル(例えば、インベルターゼリーダー、α因子リーダーまたは酸性ホスファターゼリーダー)または哺乳動物の分泌シグナル(例えば、単純ヘルペスgDシグナル)が挙げられる。
【0189】
例示的なリーダーペプチドとしては、原核生物において活性であるもの(例えばPelB、OmpA、PIII、DsbA、TorT、TolB、phoAプロモーター、β−ラクタマーゼ及びラクトースプロモータ系、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系、ならびにtacプロモーターなどのハイブリッドプロモーター)が挙げられる。
【0190】
好適な細菌性プロモーターとしては、E.coli lacI及びlacZプロモーター、T3及びT7、T5プロモーター、gptプロモーター、ラムダPR及びPLプロモーターならびにtrpプロモーターが挙げられる。真核性プロモーターとしては、CMV最初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、初期/後期SV40プロモーター、レトロウイルスLTRのプロモーター(例えばラウス肉腫ウィルス(RSV)のもの)、及びメタロチオネインプロモーター(例えばマウスメタロチオネイン−Iプロモーター)が挙げられる。
【0191】
哺乳動物細胞で有効である例示的なプロモーターとしては、サイトメガロウィルス最初期プロモーター(CMV−IE)、ヒト伸長因子1−αプロモーター(EF1)、核内低分子RNAプロモーター(U1a及びU1b)、α−ミオシン重鎖プロモーター、シミアンウイルス40プロモーター(SV40)、ラウス肉腫ウィルスプロモーター(RSV)、アデノウイルス主要後期プロモーター、β−アクチンプロモーター;CMVエンハンサー/β−アクチンプロモーターもしくは免疫グロブリンプロモーターを含むハイブリッド調節エレメントまたはその活性断片が挙げられる。有用な哺乳動物宿主細胞系の例としては、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1系(COS−7、AUSTRALIAN CELL BANK CRL 1651);ヒト胎児腎系(293細胞または懸濁培養による増殖用にサブクローニングした293細胞);仔ハムスター腎臓細胞(BHK、AUSTRALIAN CELL BANK CCL 10);またはチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)が挙げられる。
【0192】
酵母細胞、例えば、Pichia pastoris、Saccharomyces cerevisiae及びS.pombeからなる群から選択される酵母細胞などの発現に適した典型的なプロモーターとしては、ADH1プロモーター、GAL1プロモーター、GAL4プロモーター、CUP1プロモーター、PHO5プロモーター、nmtプロモーター、RPR1プロモーターまたはTEF1プロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0193】
単離された核酸分子またはそれを含む遺伝子構築物を、発現させる細胞に導入する手段は、当業者に既知である。所与の細胞に使用する技術は、既知の適切な方法によって異なる。組換えDNAを細胞に導入する手段としては特に、マイクロインジェクション、DEAE−デキストランを介するトランスフェクション、lipofectamine(Gibco,MD,USA)及び/またはcellfectin(Gibco,MD,USA)を用いるなどのリポソームを介したトランスフェクション、PEG化を介したDNA取り込み、エレクトロポレーション、ウイルスによる形質導入(例えば、レンチウイルスを使用)、ならびにDNAをコーティングしたタングステンまたは金粒子(Agracetus Inc.,WI,USA)を用いるなどの微粒子の打ち込みが挙げられる。
【0194】
場合によって、特に、目的とするポリペプチドが多少短い、通常可溶性である及び/または宿主細胞中のタンパク質分解を受けやすい場合は、不溶性形態のタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを発現させることが有用である。不溶性形態のタンパク質の生産は、容易な回収に役立つとともに、望ましくないタンパク質分解からポリペプチドを保護する。不溶性形態のポリペプチドを得る一手段は、封入体の形成を誘導する少なくとも1つのペプチドタグ(すなわち、封入体タグ)を融合構築物に搭載することにより、不溶性融合タンパク質の一部としてポリペプチドを組換え生産することである。通常、その後に、目的とするポリペプチドを融合タンパクから回収できるように、融合タンパク質は少なくとも1つの切断可能ペプチドリンカーを含むように設計される。融合タンパク質は、複数の封入体タグ、切断可能なペプチドリンカー、目的とするポリペプチドをコードする領域を含むように設計することができる。
【0195】
不溶性タンパク質の発現を容易にするペプチドタグを含む融合タンパク質は、当技術分野において周知である。通常、キメラタンパク質または融合タンパク質のタグ部分が大きいため、融合タンパク質が不溶性となる可能性が高くなる。通常使用される大型ペプチドタグの例としては、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ(Dykes et al.,Eur.J.Biochem.,174:411(1988))、ベータ−ガラクトシダーゼ(Schellenberger et al.,Int.J.Peptide Protein Res.,41:326(1993);Shen et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 281:4627(1984);及びKempe et al.,Gene,39:239(1985))、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(Ray et al.,Bio/Technology,11:64(1993)及びHancock et al.(WO94/04688))、L−リブロキナーゼのN末端(米国特許第5,206,154号及びLai et al.,Antimicrob.Agents & Chemo.,37:1614(1993))、バクテリオファージT4 gp55タンパク質(Gramm et al.,Bio/Technology,12:1017(1994))、細菌ケトステロイドイソメラーゼタンパク質(Kuliopulos et al.,J.Am.Chem.Soc.116:4599(1994))、ユビキチン(Pilon et al.,Biotechnol.Prog.,13:374−79(1997))、ウシプロキモシン(Naught et al.,Biotechnol.Bioengineer.57:55−61(1998))、及び殺菌性/浸透性を増加させるタンパク質(“BPI”;Better,M.D.及びGavit,P D.,米国特許第6,242,219号)が挙げられるが、これらに限定されない。当技術分野にはこの技術の具体例が豊富である。例えば、タンパク質性タグと可溶性タンパク質との融合タンパク質、及び細胞可溶化物からのその後の精製について記載している米国特許第6,613,548号;発現したキメラタンパク質を特異的プロテアーゼから保護するタグを教示している米国特許第6,037,145号;目的とするタンパク質を容易に精製するためのタグ及び切断可能なリンカーを有する融合タンパク質の合成を教示している米国特許第5,648,244号;及び米国特許第5,215,896号;同第5,302,526号;同第5,330,902号;ならびにキメラタンパク質またはペプチドの不溶性を増加させるように特異的に設計されたアミノ酸組成物を含有する融合タグについて記載しているUS2005221444を参照のこと。
【0196】
近年、Zea maysゼインタンパク質(米国特許出願第11/641,936号)、Daucus carotaシスタチン(米国特許出願第11/641,273号)、Caenorhabditis elegans由来のアミロイド様仮想タンパク質(米国特許出願第11/516,362号)から、更に短い封入体タグが開発されている(各文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。短い封入体タグの使用は、組換え宿主細胞内に産生される標的ペプチドの収率を増加させる。
【0197】
本発明ではまた、1種以上のポリヌクレオチド構築物を含む、組換え宿主細胞も提供する。本開示のi−bodyをコードするポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドからの発現を含むi−bodyの生産方法と同様に本明細書に包含される。発現は、例えば、ポリヌクレオチドを含む組換え宿主細胞を適切な条件下で培養することにより達成され得る。
【0198】
本開示の結合分子またはポリペプチドの生産に使用する宿主細胞は、使用する細胞型に応じて種々の培地で培養することができる。市販の培地、例えばHam’s Fl0(Sigma)、最小必須培地((MEM)、Sigma)、RPMl−1640(Sigma)、及びダルベッコの改良イーグル培地((DMEM)、Sigma)が哺乳動物細胞の培養に適している。本明細書で述べる他の細胞型を培養するための培地は、当技術分野において既知である。
【0199】
尚、必ずしも全てのベクター、発現制御配列及び宿主が、等しく適切にDNA配列を発現するように機能するとは限らない。同様に、全ての宿主が、同じ発現系で等しく適切に機能するわけではない。しかしながら、当業者は、過度な実験をすることなく、適切なベクター、発現制御配列及び宿主を選択して、本出願の範囲を逸脱せずに目的とする発現を達成できるであろう。例えば、ベクターが宿主で機能しなければならないため、ベクターを選択する際には宿主を考慮しなければならない。ベクターのコピー数、そのコピー数を制御する能力、及びベクターによってコードされる他のいかなるタンパク質(例えば抗生物質マーカー)の発現も考慮すべきであろう。
【0200】
本開示はまた、本明細書で開示する1種以上のポリヌクレオチドを含む宿主細胞も提供する。本開示はまた、上記のいずれかの好適な技術によって、このような1種以上のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入する方法も提供する。
【0201】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入した後は、例えば、1種以上のポリヌクレオチドから1種以上のポリペプチドが発現する条件下で宿主細胞を培養することにより、ポリヌクレオチドの発現が行われ得る。
【0202】
本開示のi−bodyをコードするポリヌクレオチドは、クローニングに加えて、またはクローニングの代わりに、組換え/合成により調製することができる。CXCR4結合ポリペプチドに適したコドンを用いて、ポリヌクレオチドを設計することができる。一般に、配列を発現に使用する場合、意図した宿主に好適なコドンを選択する。完全なポリヌクレオチドは、標準方法によって調製して完全なコード配列にアセンブリした重複オリゴヌクレオチドからアセンブリすることができる。例えば、Edge,Nature,292:756(1981);Nambair et al.,Science,223:1299(1984);Jay et al.,J.Biol.Chem.,259:6311(1984)を参照のこと。
【0203】
タンパク質の単離
本開示のCXCR4結合分子もしくはポリペプチドまたはi−bodyは、単離または精製することができる。
【0204】
本開示のポリペプチドの精製方法は、当技術分野において既知である、及び/または本明細書に記載されている。
【0205】
組換え技術を使用する場合、本開示のポリペプチドは、細胞内、すなわち細胞周辺腔内で生産することも、または培地中で直接分泌させることもできる。タンパク質を細胞内で生産する場合、第一段階として、例えば、遠心分離または限外濾過により、宿主細胞または溶解した断片の粒子破片を除去する。タンパク質を培地に分泌させる場合、このような発現系からの上清を、最初に市販のタンパク質濃度フィルター、例えばAmiconまたはMillipore Pellicon限外濾過ユニットを使用して濃縮することができる。タンパク質分解を阻害するため、前述の段階のいずれかでPMSFなどのプロテアーゼ阻害剤を追加してもよく、また外来不純物の増殖を防止するため、抗生物質を追加してもよい。
【0206】
細胞から調製されたタンパク質を、例えば、イオン交換、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、アフィニティクロマトグラフィー(例えば、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーまたはプロテインGクロマトグラフィー)、熱または前述のいずれかの組み合わせを使用して精製することができる。これらの方法は、当技術分野において既知であり、例えばWO99/57134に記載されている。
【0207】
当業者はまた、本開示のポリペプチドを修飾して、精製または検出を容易にするタグ、例えばヘキサヒスチジンタグなどのポリヒスチジンタグ、またはインフルエンザウイルス血球凝集素(HA)タグ、またはシミアンウイルス5(V5)タグ、またはFLAGタグ、またはグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)タグを付加できることを承知している。例えば、タグはヘキサヒスチジン(his)タグである。次に、得られたタンパク質を、当技術分野で既知の方法、例えばアフィニティ精製を使用して精製する。例えば、固体または半固体支持体に固定化されたヘキサhisタグへ特異的結合するニッケル−ニトリロ三酢酸(Ni−NTA)と、タンパク質を含むサンプルを接触させ、該サンプルを洗浄して非結合タンパク質を除去した後、結合したタンパク質を溶出することにより、ヘキサhisタグを含むタンパク質を精製することができる。その代わりに、またはそれに加えて、タグへ結合するポリペプチド、リガンドまたは抗体をアフィニティ精製方法に使用する。
【0208】
コンジュゲート
本開示はまた、本明細書に記載するCXCR4結合分子またはポリペプチドのコンジュゲートを形成する。本開示のポリペプチドへコンジュゲートできる化合物の例は、放射性同位体、検出可能標識、治療化合物、コロイド、毒素、核酸、ペプチド、タンパク質、対象の体内でのタンパク質半減期を延長する化合物及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0209】
例示的な治療薬としては、抗血管形成薬、抗新生血管薬及び/もしくはその他の血管新生薬、抗増殖薬、プロアポトーシス薬、化学療法剤、抗有糸分裂薬(例えば抗有糸分裂薬アウリスタチン、Angew.Chem.Int.Ed.2014,53,1−6によるMMAF/MMAE)または治療用核酸が挙げられるが、これらに限定されない。
【0210】
毒素には、細胞に対して有害である(例えば、殺傷する)いかなる薬剤をも含む。当技術分野において既知である薬物のクラス及びその作用機序の説明については、Goodman et al.,(1990)を参照のこと。抗体の免疫毒素コンジュゲートの調製に関連する付加的な技術は、例えばUS5194594に記載されており、これを本開示に利用してもよい。例示的な毒素としては、ジフテリア毒素A鎖、ジフテリア毒素の非結合性活性断片、外毒素A鎖(Pseudomonas aeruginosa由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファ−サルシン、Aleurites fordiiタンパク質、ジアンチンタンパク質、Phytolaca americanaタンパク質(PAPI、PAPII及びPAP−S)、momordica charantia阻害剤、クルシン、クロチン、sapaonaria officinalis阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン、及びトリコテセンが挙げられる。例えば、WO93/21232を参照のこと。
【0211】
いくつかの例では、CXCR4結合分子もしくはポリペプチドまたはi−bodyを、共有結合または非共有結合により細胞毒または他の細胞増殖阻害化合物と結合させて、腫瘍細胞への該薬剤の送達を局在化することができる。例えば、薬剤は、酵素阻害剤、増殖阻害剤、溶解剤、DNAまたはRNA合成阻害剤、膜透過性調整剤、DNA代謝産物、ジクロロエチルスルフィド誘導体、タンパク質生産阻害剤、リボソーム阻害剤、アポトーシス誘導剤及び神経毒からなる薬剤の群から選択することができる。
【0212】
本開示の免疫複合体の形成に適した化学療法剤としては、タキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テニポシド(tenoposide)、ビンクリスチン、ビンブラスチン、コルヒチン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール及びピューロマイシン、代謝拮抗剤(例えばメトトレキサート、6−メルカプトプリン、6チオグアニン、シタラビン、フルダラビン(fludarabin)、5−フルオロウラシル、デカルバジン(decarbazine)、ヒドロキシウレア、アスパラギナーゼ、ゲムシタビン、クラドリビン)、アルキル化剤(例えばメクロレタミン、チオエパ(thioepa)、クロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)、ロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、ダカルバジン(DTIC)、プロカルバジン、マイトマイシンC、シスプラチン及びカルボプラチンなどのその他の白金誘導体)、抗生物質(例えばダクチノマイシン(旧名称アクチノマイシン)、ブレオマイシン、ダウノルビシン(旧名称ダウノマイシン)、ドキソルビシン、イダルビシン、ミトラマイシン、マイトマイシン、ミトキサントロン、プリカマイシン、アントラマイシン(AMC))が挙げられる。
【0213】
一例では、本明細書に記載するCXCR4結合分子またはポリペプチドは、本開示の別のCXCR4結合分子もしくはポリペプチド、または本明細書に記載するCDR1及び/またはCDR3領域を含むタンパク質を含めた、別のタンパク質(例えばヒト血清アルブミンすなわちHSA)とコンジュゲートまたは連結される。本明細書に記載するCXCR4結合分子またはポリペプチドはまた、例えば、腫瘍抗原、または何らかの循環T細胞を腫瘍にリダイレクトして活性化する可能性がある標的(例えばCD3)、または単球及びマクロファージに顕著に発現し、好中球での活性を上方調節する標的(例えばCD64)、またはナチュラルキラー細胞、好中球多形核白血球、単球及びマクロファージの表面に発現する標的を標的化する別の結合分子またはポリペプチドにコンジュゲートすることができる。一例では、結合分子またはポリペプチドは、IgG(例えばCD16)の低親和性結合物質、または主として好中球、単球、マクロファージ及び好酸球に恒常的発現する標的(例えばCD89)の低親和性結合物質である。それ以外のタンパク質またはコンジュゲートパートナーも包含される。追加のタンパク質は当業者に明らかであり、これには特に、例えば免疫賦活剤、または半減期を延長するタンパク質、または血清アルブミンと結合するペプチドもしくはポリペプチドもしくはその他のタンパク質を含む。
【0214】
例示的な血清アルブミン結合ペプチドまたはタンパク質は、US20060228364またはUS20080260757に記載されている。
【0215】
一例では、本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドは、Schellenberger et al(2009)Nature Biotechnology 27(12):1186−1192に記載されるXTENポリペプチドにコンジュゲートされる。
【0216】
一例では、本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドは、Schlapschy et al (2013)Protein Engineering,Design & Selection vol.26 no.8 pp.489−501に記載されるポリペプチドにコンジュゲートされる。
【0217】
一例では、本開示のポリペプチドは、例えば、Peters et al(2010),Blood Vol.115 no.10 2057−2064、Kim et al,(2009)BMB Rep.42:212−216、及びNagashima et al(2011)J Biochem.149:337−346に記載されるように、免疫グロブリンのFc領域にコンジュゲートされる。
【0218】
CXCR4結合ポリペプチドコンジュゲート(二重特異性分子)は、当技術分野で既知の方法を使用して調製することができる。例えば、二重特異性分子の結合特異性をそれぞれ個別に生成した後、互いにコンジュゲートすることができる。タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドが結合特異性である場合、種々のカップリング剤または架橋剤を使用して、共有結合によりコンジュゲートすることができる。架橋剤の例としては、プロテインA、カルボジイミド、N−スクシンイミジル−S−アセチル−チオアセテート(SATA)、5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)、o−フェニレンジマレイミド(oPDM)、N−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)及びスルホスクシンイミジル4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン(cyclohaxane)−1−カルボキシレート(スルホ−SMCC)が挙げられる(例えば、Karpovsky el al.(1984)J.Exp.Med 160 1686、Liu,MA et al.(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82 8648を参照)。他の方法としては、Paulus(1985)Behring Ins Mitt No 78,1 18−132、Brennan et al.(1985)Science 229 81−83、及びGlennie et al.(1987).J Immunol 39 2367−2375)に記載されているものが挙げられる。
【0219】
放射性物質をコンジュゲートしたタンパク質の作製に、種々の放射性核種を利用できる。例としては、(例えば診断目的に適する)低エネルギー放射性原子核、例えば13C、15N、2H、125I、123I、99Tc、43K、52Fe、67Ga、68Ga、111In等が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、放射性核種は、投与からイメージング部位への局在までの経過時間以降も活性または検出が可能である、適した半減期を有するガンマ線、光子またはポジトロン放出放射性核種である。本開示はまた、(例えば治療を目的とする)高エネルギー放射性原子核、例えば125I、131I、123I、111In、105Rh、153Sm、67Cu、67Ga、166Ho、177Lu、186Re及び188Reも包含する。これらの同位体は通常、短飛程を有する高エネルギーのα粒子またはβ粒子を発生する。このような放射性核種は、それが近接する細胞、例えばコンジュゲートが付着した、または侵入した腫瘍性細胞を殺傷する。放射性核種は、局在しない細胞に対しては、ほとんどまたは全く影響を及ぼさず、また本質的に非免疫原性である。あるいは、高エネルギー同位体は、本来は安定である同位体の熱照射、例えばホウ素中性子捕捉療法(Guan et al.,1998)によって生成し得る。好適であり得る他の同位体は、Carter.(2001)Nature Reviews Cancer 1,118−129、Goldmacher et al.(2011)Therapeutic Delivery 2;397−416、Payne(2003)Cancer Cell 3,207−212、Schrama et al,(2006)Nature Rev.Drug Discov.5,147−159、Reichert et al.(2007)Nature Reviews Drug Discovery 6;349−356に記載されている。
【0220】
別の例では、タンパク質を細胞のプレターゲティングに用いる「受容体」(例えばストレプトアビジン)にコンジュゲートし、そのコンジュゲートを患者に投与して、その後、結合していないコンジュゲートを除去剤を用いて血流から除去した後、治療薬(例えば、放射性ヌクレオチド)とコンジュゲートされた「リガンド」(例えば、アビジン)を投与する。
【0221】
本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドは、当技術分野において既知であり、容易に利用できる補助的な非タンパク質成分を含有するように修飾することができる。例えば、タンパク質の誘導体化に適した成分は、生理的に許容されるポリマー、例えば水溶性ポリマーである。このようなポリマーは、本開示のCXCR4結合ポリペプチドの安定性の増大、及び/または(例えば腎臓による)クリアランスの低減、及び/または免疫原性の低減に有用である。水溶性ポリマーの非限定的な例としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、またはプロプロピレングリコール(PPG)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0222】
一例では、本明細書に記載するCXCR4結合分子またはポリペプチドは、検出及び/または単離を容易にする1種以上の検出可能なマーカーを含む。例えば、この化合物は、例えば、フルオレセイン(FITC)、5,6−カルボキシメチルフルオレセイン、テキサスレッド、ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル(NBD)、クマリン、塩化ダンシル、ローダミン、4’−6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)、ならびにシアニン色素Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5及びCy7、フルオレセイン(5−カルボキシフルオレセイン−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル)、ローダミン(5,6−テトラメチルローダミン)のような蛍光標識を含む。このような蛍光物質の最大吸収波長及び最大発光波長は、それぞれFITC(490nm、520nm)、Cy3(554nm、568nm)、Cy3.5(581nm、588nm)、Cy5(652nm、672nm)、Cy5.5(682nm、703nm)、及びCy7(755nm、778nm)である。
【0223】
ある特定の例では、本開示のi−bodyを腫瘍のイメージングに有用な薬剤と連結することができる。このような薬剤としては、金属;金属キレート剤;ランタニド;ランタニドキレート剤;放射性金属;放射性金属キレート剤;ポジトロン放出原子核;マイクロバブル(超音波用);リポソーム;リポソームまたはナノスフェア中にマイクロカプセル化された分子;単結晶酸化鉄ナノ化合物;磁気共鳴イメージング造影剤;光吸収剤、反射剤及び/または散乱剤;コロイド粒子;近赤外蛍光団などの蛍光団が挙げられる。数多くの例において、このような二次的機能/部分は比較的大きく、例えば、サイズが少なくとも25amuであり、多くの場合、サイズが少なくとも50、100または250amuであり得る。ある特定の例では、二次的機能は、金属をキレート化するキレート成分、例えば、放射性金属または常磁性イオンのキレート剤である。追加例としては、放射線療法またはイメージング工程に有用な放射性核種のためのキレート剤である。
【0224】
代わりにまたは加えて、本明細書に記載するCXCR4結合分子またはポリペプチドは、例えば蛍光半導体ナノ結晶で標識される(例えば、US6306610に記載)。
【0225】
代わりにまたは加えて、CXCR4結合分子またはポリペプチドは、例えば、鉄、鋼、ニッケル、コバルト、希土類、ネオジム−鉄−ホウ素、鉄−クロム−コバルト、ニッケル−鉄、コバルト−プラチナ、またはストロンチウムフェライトなどの磁性または常磁性化合物で標識される。
【0226】
タンパク質の固定化
一例では、本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドは、固体または半固体マトリックスに固定化される。用語「固定化」は、例えばWO99/56126またはWO02/26292に記載されているように、特定のマトリックスにタンパク質を固定化する種々の方法及び技術を含むと理解されるものとする。例えば固定化は、特に保存期間中、または1回分使用量形態において、生物学的、化学的または物理的曝露によってタンパク質の活性が低下または劣化することがないように、タンパク質を安定化する役割を果たす。
【0227】
タンパク質をマトリックスに固定化する種々の方法が、当該技術分野において既知であり、これには架橋、担体への結合、及び半透過性マトリックス内での保持が含まれる。
【0228】
例示的なマトリックスとしては、多孔性ゲル、酸化アルミニウム、ベントナイト、アガロース、デンプン、ナイロンまたはポリアクリルアミドが挙げられる。
【0229】
本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドの活性試験
結合アッセイ
Gタンパク質共役受容体に対して最も特異的かつ強力な抗体は通常、タンパク質の三次構造によって形成される高次構造的に複雑なエピトープを標的としている。ネイティブ構造が完全な脂質二重層に依存する膜貫通タンパク質には、可溶性タンパク質標的に対して使用される方法は効果的ではない。
【0230】
本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドは、例えば、標準のフローサイトメトリー方法によってCXCR4との結合性を試験することができる。本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドは、ヒトCXCR4をそのネイティブコンフォメーションで認識することが好ましいため、CXCR4のネイティブコンフォメーションを発現する試薬を利用したアッセイを用いてCXCR4への結合を特定することが好ましい。結合アッセイに使用できるネイティブコンフォメーションのCXCR4を発現する試薬の非限定的な例としては、CXCR4を自然発現する細胞、CXCR4を発現するようにトランスフェクトされた細胞(例えばCXCR4発現ベクターによってトランスフェクトされたR1610細胞)が挙げられる。CXCR4を発現する好適な細胞の例としては、MDA−MB−231、MDA−MB−468、MDA−MB−361、MDA−MB−549、Ramos、Namalwa、MOLT−4、DU−4475、DU−145、PC3、LNcaP、SW480、HT29、NCI−H69、SJSA−1−met−luc及びHL−60細胞が挙げられる。簡潔には、フローサイトメトリーアッセイでは、CXCR4を発現する細胞を、試験用CXCR4結合分子またはポリペプチドとともにインキュベートし、洗浄して、試験用抗体と結合可能な標識二次試薬とともにインキュベートし、再度洗浄して、二次試薬の細胞への結合を検出する分析を行う(例えばFACS装置を使用する)。フローサイトメトリーによって評価したときに、細胞を明瞭に染色しているCXCR4分子またはポリペプチドを以降の試験に使用する。本開示による使用に適した結合アッセイの例としては、例えばフィルトレーションアッセイ(PerkinElmer)もしくはSPAアッセイ(PerkinElmerまたはGE Healthcare)などの放射性リガンド結合アッセイ、または例えばDELFIA(商標) TRF(PerkinElmer)、LanthaScreen(商標)システム(Invitrogen)、もしくはTag−lite(商標)システム(Cisbio)などの標識リガンド結合アッセイが挙げられる。
【0231】
あるいは、CHO細胞株のような細胞株を、膜貫通形態のCXCR4をコードする発現ベクターを用いてトランスフェクトすることができる。トランスフェクトされたタンパク質は、好ましくはN末端に、タグに対する抗体を使用して検出されるmycタグなどのタグを含んでいてもよい。本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドの結合は、トランスフェクトした細胞をCXCR4結合ポリペプチドとともにインキュベートし、結合したポリペプチドを検出することにより測定することができる。トランスフェクトしたタンパク質上のタグに結合する抗体を陽性対照として使用することができる。
【0232】
結合性を評価する更なる方法には、高濃度のネイティブコンフォメーションの標的膜タンパク質を組み込むことができる脂質粒子(例えばCXCR4を組み込んだ磁性プロテオリポソームまたはCXCR4を組み込んだリポソーム粒子)の使用が必要である。このようなリポタンパク質は、例えばWO2005/042695、WO2011/083141、Banik et al(2009)Drug Discovery & Development 12(9):14−17、Willis S et al(2008)Biochemistry 47:6988−90に記載されている。目的の膜タンパク質(例えばCXCR4)とともにレトロウイルスの構造的コアポリタンパク質(Gag)を同時発現することにより、哺乳動物細胞由来の脂質粒子を作製する。Gagコアタンパク質は形質膜に自己集合し、そこで標的の膜タンパク質を切断して捕捉する。リポタンパク質は直径約150nmであるため、容易に水溶液に懸濁させ接種に使用することができる。脂質粒子内の膜タンパク質は、機械的破壊または洗剤なしで細胞表面から直接抽出されるため、膜タンパク質のネイティブ構造及び配向が保持される。リポタンパク質には、標的外の免疫応答を生じ得る細胞質タンパク質または反転した膜タンパク質が含まれない。標準技術を使用して、本開示によるCXCR4分子またはポリペプチドが結合する固体支持体上にリポタンパク質を固定化し、表面プラズモン共鳴法によって分析することができる(例えば、Maynard JA et al(2009)Biotechnol J 4(11):1542−1558、Stenlund P et al(2003)Anal Biochem 316(2):243−50、Hoffman et al(2000)Proc Natl Acad Sci 97:11215−11220、WO2005/042695を参照)。
【0233】
更に脂質粒子は、本開示のCXCR4結合ポリペプチドが結合するCXCR4残基であると特定された残基によって残基を変異させたものであってもよい。これにより、結合するCXCR4結合ポリペプチドとCXCR4エピトープ間の相互作用に、その側鎖が最大のエネルギーを寄与するアミノ酸を表す重要な残基が有効になる(Bogan and Thorn,(1998)J.Mol.Biol.280,1−9;Lo Conte et al.,(1999)J.Mol.Biol.285, 2177−2198)。i−bodyのAM3−114、i−bodyのAM4−272及びi−bodyのAM3−523の結合に重要であると同定された残基は、CXCR4二量体構造で可視化した(PDB ID#3ODUから誘導;Wu et al.,(2010)Science 330:1066−1071)。
【0234】
もう一つのアッセイは、例えばScopes In:Protein purification:principles and practice,Third Edition,Springer Verlag,1994に記載されているような抗原結合アッセイである。このような方法には、一般にCXCR4結合分子またはポリペプチドを標識し、それを固定化標的またはその断片、例えばヒトCXCR4またはCXCR4陽性脂質粒子と接触させることを伴う。洗浄して非特異的結合タンパク質を除去した後、標識の量及びその結果としての結合したタンパク質の量を検出する。無論、CXCR4結合分子またはポリペプチドを固定化し、標的を標識化することもできる。また、パニング型アッセイを使用することもできる。
【0235】
CXCR4活性の阻害剤を決定する例示的方法は、競合結合アッセイである。例えば、標識したSDF−1をCXCR4結合分子またはポリペプチドとともに、またはCXCR4結合分子またはポリペプチドの添加後に、CXCR4を発現する細胞または固定化されたCXCR4陽性脂質粒子に付加する。結合していないSDF−1及び/またはCXCR4結合分子もしくはポリペプチドを洗浄により除去した後、CXCR4に結合した標識の量を検出する。この量を、CXCR4結合分子またはポリペプチドの非存在下で培養した後に結合した量と比較して、SDF−1結合(すなわち結合した標識)の量が低減したCXCR4結合分子またはポリペプチドがCXCR4阻害剤と考えられる。
【0236】
結合アッセイはまた、受容体を介したGタンパク質活性の検出に使用することもできる(例えば、Regulation of G Protein−Coupled Receptor Function and Expression ed.Benovic JL pp119−132(2000)Wiley−Liss NY)。このようなアッセイには、Gαサブユニットへの受容体刺激性GTP結合を含む。GPCRの活性化は、GαサブユニットでのGDP−GTP交換を生じさせるため、この交換を定量化して、受容体−Gタンパク質の相互作用の直接的な測定値として使用することができる。これには通常、無細胞膜標本または人工脂質膜内の受容体と、放射性標識したグアニンヌクレオチドの使用を伴う。取り込まれた放射性標識の量は、Gタンパク質の活性化範囲の測定値として使用される。
【0237】
抗原結合親和性の試験方法は当技術分野において周知であり、これには最大半数結合試験、競合アッセイ及びスキャッチャード分析も含まれる。
【0238】
親和性アッセイ
場合により、CXCR4結合ポリペプチドの解離速度定数(Kd)、会合速度定数(Ka)または結合定数/平衡解離定数(K
D、すなわちKoff/Kon)を測定する。CXCR4結合ポリペプチドのこれらの定数は、放射性標識または蛍光標識したCXCR4の結合アッセイによって測定することができる。このアッセイでは、CXCR4陽性脂質粒子の濃度でCXCR4結合ポリペプチドが平衡化する。結合していないCXCR4を洗浄により除去した後、CXCR4結合ポリペプチドの量を測定する。別の例によれば、定数は、CXCR4陽性脂質粒子を固定化した表面プラズモン共鳴分析、例えばBIAcore表面プラズモン共鳴(BIAcore,Inc.,Piscataway,NJ)を使用して測定する(WO2005/042695)。
【0239】
結合分子がその標的からどれくらい速く解離するかを算出するために使用される定数である解離速度定数(Kd)を使用してオフレート(koff)を算出する。BIAcore SPR分析では勾配が平坦に見えるほど、オフレートは低速であり、従って結合は強くなる。下降が急になるほど、オフレートは高速であり、抗体結合は弱くなることを意味する。
【0240】
結合分子がその標的とどれくらい速く結合するかを特性決定するために使用される定数である会合速度定数(Ka)は、オンレートの算出に使用される反応部分である。
【0241】
実験で測定されたオフレートとオンレートの比(Koff/Kon)を使用して、K
D値を算出する。大部分の結合分子は、低マイクロモル(10
−6)からナノモル(10
−7〜10
−9)の範囲のK
D値を有する。高親和性抗体は一般に低ナノモル範囲(10
−9)であり、極めて高親和性の抗体はピコモル(10
−12)範囲であると考えられる。
【0242】
機能性アッセイ
アゴニストまたはSDF−1などのリガンドがCXCR4に結合すると、このGタンパク質共役受容体によるシグナル伝達及びGタンパク質の活性、ならびに他の細胞内シグナル伝達分子の刺激が生じ得る。本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドの抑制性活性または刺激性活性を、リガンドあり、またはなしで、好適なアッセイで測定することができ、ならびにリガンドの存在下または非存在下で活性を阻害または刺激するCXCR4結合分子またはポリペプチドの能力を評価することができる。
【0243】
本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドによるCXCR4受容体の活性は、例えば、β−アレスチン調節の変化、細胞内Ca
2+濃度の変化、ホスホリパーゼCの活性化、細胞内イノシトール三リン酸QP3濃度の変化、細胞内ジアシルグリセロール(DAG)濃度の変化、及び細胞内アデノシン環状3’,5’−モノホスフェート(cAMP)濃度の変化など、多数の方法で測定することができる。
【0244】
GTPのGDPへの加水分解などのGタンパク質活性、またはその後の細胞内(サイトゾル)遊離カルシウム濃度の急速かつ一過性の増加の開始などの、受容体結合によって誘導されるシグナル伝達イベントは、当技術分野で既知の方法または他の好適な方法によって分析することができる(例えば、Neote et al(1993)Cell 72:415−425;Van Riper et al (1993)J.Exp.Med 177:851−856)。
【0245】
cAMPアッセイ
本発明のポリペプチドによるGPCRの活性は、蛍光色素を有する細胞内cAMPの増減を測定することによりモニターすることができる。細胞内cAMPの測定方法は、当技術分野において既知である。cAMPの細胞レベルを測定するアッセイは、Gα
sまたはGα
i/oタンパク質へのGPCRの結合によって調節されるアデニル酸シクラーゼの活性に依存する。アデニル酸シクラーゼは、フォルスコリンによる前刺激を必要とする。加えて、ホスホジエステラーゼ(PDE)酵素による、cAMPのAMPへの自然分解を抑制するため、アッセイ中の系の最適化に、PDE(例えばIBMX)の阻害剤が必要な場合がある。有用な膜透過性色素の例としては、細胞内エステラーゼによって切断されて遊離酸を形成できるアセトキシメチルエステル形態の色素が挙げられる。遊離酸はもはや膜透過性がなく、細胞内に捕捉されたままである。また、GPCRによるアデニル酸シクラーゼ活性の調節によって生成されるcAMPのレベルを直接測定するように設計されたアッセイを用いることもできる。このようなアッセイは、内因性のcAMPと外因的に添加されたビオチン化cAMPとの競合に基づく。cAMPの捕捉は、固体材料、例えば捕捉ビーズにコンジュゲートされた特異抗体を用いて行う。
【0246】
SPA cAMPアッセイ(GE Healthcare)などの放射測定アッセイ、及びPerkinElmer製の
125I標識化cAMPを用いたFlashPlate(商標)cAMP分析が広く使用されている。近年、放射能の使用を回避するため、これらのアッセイに代わり、発光または蛍光によるホモジニアスアッセイが用いられている。更に別のアッセイは、DiscovRxによる酵素断片相補性アッセイ(HitHunter(商標))である。細胞性cAMPは、β−ガラクトシダーゼの小さいペプチド断片で標識されたcAMPと、抗cAMP抗体への結合を競合する。得られた遊離標識cAMPは酵素断片と相補し、蛍光または発光物質を用いて検出される活性β−ガラクトシダーゼを生成する。AlphaScreen(商標)(PerkinElmer)は、高感度ビーズによる近傍化学発光アッセイである。ストレプトアビジンドナービーズ、及び抗cAMP抗体をコンジュゲートしたアクセプタービーズによって認識されるビオチン化cAMPプローブと、細胞のcAMPが競合する。抗体からビオチン化cAMPが放出されると、ストレプトアビジンドナーはそのアクセプターから解離する。これを化学発光シグナルの減少として測定することができる。
【0247】
加えて、蛍光偏光法(FP)に用いるcAMPキットが、Perkin−Elmer、Molecular Devices及びGE Healthcareから入手可能である。更にまた、HTRFによるcAMPの検出法が、Cisbioから提供されている。この方法では、新たなドナー(ユーロピウムクリプテートを標識したcAMP抗体)とアクセプター(修飾したアロフィコシアニン色素で標識したcAMP)の対が、シグナルの安定性を増幅させ、このアッセイをcAMP測定に対して高感度かつ再現可能にするように設計されている。
【0248】
より最近の商用アッセイ(例えばcAMP−Glo(商標)アッセイ(Promega))は、Gαタンパク質に連結されるGPCRを調節して、それによりアデニル酸シクラーゼを調節することが可能である。このアッセイは、cAMPを、四量体の不活性cAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)の強力な活性化因子として用い、cAMPが結合した調節サブユニットを解離し、遊離した活性触媒サブユニットを放出させる。ルシフェラーゼ/ルシフェリンによる反応を用いて、キナーゼ反応におけるAPT消費量を測定することにより、PKAの活性を測定することができる。ATPの消費量は、cAMPによるPKAの活性を表す。
【0249】
β−アレスチン動員アッセイ
β−アレスチンは、GPCRの活性化後、細胞表面に動員される細胞内タンパク質である。これはGタンパク質共役受容体(GPCR)の活性を調節する(Luttrell et al.(2002)Journal of Cell Science,115:455−465)。この場合、本発明のポリペプチドにより、内在化する受容体の脱感作と標的化を引き起こす。β−アレスチンは、受容体脱感作、Gタンパク質結合シグナル伝達の終結、及び内在化における役割に加え、足場タンパク質として作用し、活性化したGPCRを付加的な細胞内シグナル伝達経路、例えばc−Src、ERK 1/2及びAktなどのGタンパク質に依存しない活性化に連結する。β−アレスチンの動員を測定するにはいくつかの方法を利用することができる。例えば、TransFluor(登録商標)アッセイ(Molecular Devices)では、β−アレスチンをGFPと結合し、受容体が活性化すると、GFPの変化が細胞質分配を拡散させ、ハイコンテントイメージングシステムによって可視化されるピットまたは小胞を含有するGFPを形成する。
【0250】
Xu Y et al(1999)Proc Natl Acad Sci 96:151−6に記載されている生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)、PathHunter(商標)技術(DiscoveRx)及びTango(商標)アッセイ(Invitrogen)などの複数の非イメージングによるβ−アレスチン動員アッセイを利用できる。BRETアッセイでは、目的とする受容体のC末端を蛍光タンパク質タグ(例えばeGFP2、GFP10またはYFP)で標識し、β−アレスチンをレニラルシフェラーゼ(RLuc)で標識するか、またはその逆に標識する。β−アレスチンが動員されると、2つのタグが近接し、RLuc反応による発光がGFPを励起し、次いでそれによって高波長の検出可能なシグナルが放出される。BRETは2つの発光の比(GFP/RLuc)で算出する。
【0251】
InvitrogenのTango(商標)GPCR Assay Systemは、プロテアーゼ活性化レポーター遺伝子に基づくプラットフォームである。β−アレスチンをTEVプロテアーゼと融合し、その一方でGPCRを、プロテアーゼ切断部位と、それに続く転写因子Gal−VP16を有するC末端に伸長させる。GPCRが活性化すると、プロテアーゼ標識されたアレスチンが受容体に動員され、受容体に融合されたGal−VP16が切断されて、核内に侵入し、β−ラクタマーゼレポーター遺伝子の転写を調節する。β−ラクタマーゼが2つの蛍光団で標識された修飾基質の切断を触媒し、この2つの蛍光団間のFRETシグナル変化をモニターできるようになる。
【0252】
PathHunter(商標)アッセイ(DiscoveRx)は、β−ガラクトシダーゼの酵素断片の補完と、それに続く酵素活性を利用して受容体とβ−アレスチン間の相互作用を測定する。このアッセイでは、触媒に不活性であるβ−ガラクトシダーゼのN末端欠失突然変異体にβ−アレスチンを融合し、GPCRのC末端を、β−ガラクトシダーゼの欠失したN末端配列に由来する小さい(4kDa)断片(ProLink(商標))で標識する。GPCRとβ−アレスチン間の相互作用により、β−ガラクトシダーゼの2つの部分が近接し、その結果、酵素の活性化、基質の切断、及び化学発光シグナルの生成がもたらされる。
【0253】
カルシウムアッセイ
本発明のポリペプチドによるGPCR活性は、蛍光色素を用いて細胞内カルシウムの増減を測定することによりモニターすることができる。Ca2+アッセイは、細胞透過性Ca2+−感受性蛍光色素(例えばFluo−3及びFluo−4)及び自動化リアルタイム蛍光プレートリーダー、例えばFLIPR(商標)(Molecular Device)が利用可能になったことで、GPCRスクリーニングにおいて非常に普及している。Molecular Deviceはまた、独自の消光分子が含まれた蛍光色素キットも提供しており、これは細胞内に色素がロードされた後、過剰な色素を除去するために細胞を洗浄する必要がない。FLIPR(商標)の統合型注入機能により、アゴニスト、アンタゴニスト及びモジュレーターの全てを1回のアッセイで検出できる、384-ウェルまたは1536-ウェル形式の超ハイスループットスクリーニングが可能である。蛍光色素を使用する代わりに、Ca
2+−感受性バイオセンサーを使用することもできる。GPCRの機能的スクリーニングに向け、セレンテラジン誘導体の存在下で、高い細胞内Ca
2+に応答して強度の発光シグナルを発生させるクラゲ発光タンパク質エクオリンの組換え発現も開発されている(Eglen RM et al(2008)Assay Drug Dev Technol 6:659−71)。
【0254】
それ以外の市販アッセイとしては、Fluo−4/Fluor−8カルシウム動員アッセイ(Invitrogen)及びTango(商標)GPCRアッセイ(Life Technologies)が挙げられる。
【0255】
走化性アッセイ
走化性アッセイを使用して、本発明のCXCR4結合ポリペプチドの、CXCR4に対するリガンドの結合を遮断する能力及び/または受容体へのリガンドの結合と関連した機能を阻害する能力を評価することもできる(Fernandis et al.(2004)Oncogene 23:157−167)。このアッセイは、化合物(化学誘引物質)によって誘導される、in vitroまたはin vivoでの細胞の機能的遊走に基づく。走化性は、任意の好適な手段、例えば、96ウェル走化性プレートを利用したアッセイ、または走化性を評価する当技術分野で認識された他の方法によって評価することができる。一例では、走化性アッセイを利用して、Jurkat細胞、MDA−MB−231、MDA−MB−468、PC3またはNCI−H69細胞の遊走を評価することができる。例えば、Jurkat細胞(200mlのRPMI−1640中に5x10
5細胞)を本発明のポリペプチド及びSDF−1を加えて、及び加えずにプレインキュベートし、0.25%のBSAを入れた直径6.5mm、5mM孔ポリカーボネートのTranswell培養インサート(Costar、Cambridge,MA)の上部ウェルに添加する。SDF−1(固定濃度)を下部ウェルに添加して、細胞を37℃で4時間インキュベートし、遊走させる。下部チャンバ内の遊走細胞は、ZM Coulterカウンター(Coulter Diagnostics、Hialeah,FL)を用いて計数する。
【0256】
増殖アッセイ
本開示のCXCR4結合ポリペプチドが、腫瘍細胞(例えば、MDA−MB−231、MDA−MB−361、MDA−MB−549、Ramos、Namalwa、MOLT−4、DU−4475、DU−145、PC3、LNcaP、SW480、HT29、NCI−H69及びHL60などの、CXCR4を表面に発現する腫瘍細胞)、またはCXCR4を発現するように操作された細胞株において細胞増殖を阻害する能力を評価することができる。また、本開示のCXCR4結合ポリペプチドが、CD34
+前駆細胞の細胞増殖を阻害する能力を評価することもできる(例えば、Kahn et al.Overexpression of CXCR4 on human CD34+ progenitors increases their proliferation,migration,and NOD/SCID repopulation((2004)Blood.103:2942−2949)。細胞増殖アッセイは当業者に既知であろう。細胞増殖アッセイの例としては、例えばWO01/081614及びUS5972639に記載されている、MTT細胞増殖アッセイ(ATCC)、CellTiter Aqueous細胞増殖アッセイ(Promega)、alamarBlueアッセイ(Invitrogen)、CyQUANT Direct細胞増殖アッセイ(Life Technologies)が挙げられる。
【0257】
アポトーシスアッセイ
本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドが、アポトーシスを誘導する能力を評価することができる。当業者に既知である種々の形式のアポトーシスアッセイが利用可能である。以下はその例である:
(i)カスパーゼアッセイ、例えばPhiPhiLux(登録商標)(OncoImmunin,Inc)、カスパーゼ3活性アッセイ(Roche Applied Science)、caspase−Glo(商標)アッセイ(Promega)、CaspACE(商標)アッセイシステム(Promega)、EnzChek(登録商標)カスパーゼ−3アッセイキット(Invitrogen)、活性カスパーゼ−3検出キット(Stratagene)、カスパーゼ媒介性アポトーシス製品(BioVision)、CasPASE(商標)アポトーシスアッセイキット(Genentech);
(ii)Tunnel及びDNA断片アッセイ、例えばApoptotic DNA Ladder Kit(Roche Applied Science)、細胞DNA断片ELISA(Roche Applied Science)、DeadEnd(商標)TUNELシステム(Promega)、APO−BrdU(商標)TUNELアッセイキット(Invitrogen)、TUNELアポトーシス検出キット(Upstate)、Apoptosis Mebstainキット(Bechman Coulter))、核媒介性アポトーシスキット(BioVision)、アポトティックDNAラダーキット(Genentech);
(iii)細胞透過性アッセイ、例えばAPOPercentage(商標)アッセイ(Biocolor Assays);
(iv)アネキシンVアッセイ、例えばアネキシンVであるAlexa Fluor(登録商標)(Invitrogen)、Rhodamine 110、すなわちビス−(L−アスパラギン酸アミド)、トリフルオロ酢酸塩(Invitrogen)、アネキシンVアポトーシスキット(BioVision);
(v)タンパク質切断アッセイ、例えば抗ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ(Roche Applied Science)、M30 CytoDEATH(Roche Applied Science);
(vi)ミトコンドリア及びATP/ADPアッセイ、例えばApoGlow(登録商標)アポトーシススクリーニングキット、ミトコンドリア膜電位検出キット(Stratagene)及びミトコンドリア媒介性アポトーシス製品(BioVision);ならびに
(vii)本明細書に開示された例に記載される、アネキシンVとヨウ化プロピジウムの併用。
【0258】
血管形成アッセイ
血管形成は、内皮細胞遊走、浸潤及び毛細管への分化を含む多くの細胞事象を特徴とする。in vitro内皮管形成アッセイは、内皮分化と、抗血管形成薬による内皮管形成の調節を試験するためのモデルとして使用される(例えば、Sharon McGonigle and Victor Shifrin Current Protocols in Pharmacology DOI:10.1002/0471141755.ph1212s43、またはLiang et al,(2007)Biochem Biophys Res Commun.August 3;359(3):716−722を参照)。典型的な内皮管形成アッセイは、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)、HMVEC及びHMEC−1細胞を使用して行う。1%のFBSと200ng/mlのCXCL12を加えたM199培地のマトリゲル層に1x10
5細胞/mlの密度で細胞を播種する。18時間後、ウェルを4倍率で撮影し、ウェルの脈管網の数を計数する。
【0259】
受容体二量体アッセイ
CXCR4は、CXCR7、CCR5、β
2AR(β
2アドレナリン受容体)、CCR2、DOR(デルタオピオイド受容体)及びCCR7と形質膜で相互作用し、CXCR4とのホモ二量体を含む、ヘテロ二量体、オリゴマーまたは更に高次の複合体を形成する。GPRCヘテロ二量体を特異的標的とする化合物、または受容体の二量体化に影響を及ぼす化合物は、特異的治療効果を実現する可能性を有し得る(Rozenfeld R et al(2011)Biochem J 433:11−8)。受容体の二量体化をモニターするために、共鳴エネルギー移動法(FRETまたはBRET)を含む、種々の技術が確立されている。
【0260】
よく用いられるFRETまたはBRETによる方法では、ドナー分子及びアクセプター分子をGPCRのC末端に遺伝的融合し、それを細胞中で過剰発現させる。GPCRが二量体化された結果、ドナー分子及びアクセプター分子が近接すると、共鳴エネルギー移動が発生する(Achour L et al(2011)Methods Mol Biol 756:183−200に概説)。ただし、このような従来のFRET及びBRETアッセイの限界の一つは、過剰発現系において、細胞内区画内でも共鳴エネルギー移動が発生し、それによって細胞表面でのタンパク質の直接的な相互作用によってのみ生じる特異的シグナルを証明することが困難なことである。
【0261】
米国特許8,283,127号、表題「Detection System and Uses Therefor」に記載されているGPCR二量体化アッセイは、任意の2つのタンパク質のヘテロマーのリガンド依存的同定、モニタリング及びスクリーニングのためのDimerixのHeteromer Identification Technology(HIT)アッセイ構成を対象とする。これはまた、近傍性に基づいたレポーター系全てによるDimerixの応用アッセイも対象とする。
【0262】
Tag−lite(商標)を用いたGPCR二量体アッセイは、TR−FRETとSNAP−tag(商標)技術(Cisbio)を組み合わせて、96ウェルまたは384ウェル形式における生細胞表面でのタンパク質−タンパク質相互作用の定量分析を可能にする方法である。このアッセイでは、GPCRのN末端をSNAPタグまたはCLIPタグのいずれかで標識し、その後、適切なTR−FRET適合性蛍光団(通常はドナーとしてテルビウムクリプテートを、アクセプターとして緑色または赤色蛍光分子を使用する)を担持した、GPCRと対応する細胞非透過性物質で標識する。本アッセイには、いくつかの可能な二量体の組み合わせが存在する。二量体の1/4は両方ともドナー標識された受容体を含み、二量体の1/4は両方ともアクセプター標識された受容体を含み、二量体の1/2はドナー標識された受容体1つと、アクセプター標識された受容体1つを含む。最後の1/2のみがFRETシグナルを発生する。
【0263】
PathHunter(商標)システム(DiscoveRx)は、GPCRヘテロ二量体の分析に使用できる、もう一つのプラットフォームである。前述のPathHunter(商標)β−アレスチン動員アッセイに利用した細胞株を出発物質として使用することができる。この細胞株では、β−アレスチンがβ−ガラクトシダーゼ酵素アクセプターの大きい部分に融合され、小さい42アミノ酸のProLink(商標)タグがGPCR標的の1つに結合されている。第2の未標識GPCRを細胞に導入することができ、この未標識GPCRのProLink(商標)標識したGPCRに対するトランス活性化効果を、PathHunter検出試薬を使用して、標識GPCRへのβ−アレスチンの動員によって測定することができる。トランス活性化強度は、未標識GPCRのアゴニストに対する細胞応答とProlink(商標)−GPCRのアゴニストに対する応答との比として評価することができる。このアッセイを使用して、GPCR対間、例えばCXCR4とCXCR7、CXCR4とCCR5、またはCXCR4とβ
2AR、またはCXCR4とDOR、またはCXCR4とCCR2、またはCXCR4とCCR7の間の相互作用を調べるとともに、384ウェル形式でのGPCRヘテロ二量体化の促進と分離によって、GPCP活性を調節する化合物をスクリーニングすることができる。
【0264】
競合アッセイ
競合試験を使用して、リガンドSDF−1またはポリペプチド(i−body)を含むCXCR4結合分子がCXCR4への結合を競合する能力を決定することができる。通常、一定濃度のSDF−1またはFITC標識ヒト抗CXCR4抗体(例えば12G5)の存在下で、例えば100nm〜5pMの濃度範囲になるように、CXCR4 i−bodyを連続した1:3階段希釈で滴定する。次に、その混合物をCXCR4発現細胞に添加し、結合させる。各i−bodyが、CXCR4発現細胞への結合を12G5と競合する能力は、蛍光サイトメトリー及びFITCの検出によって評価することができる。
【0265】
競合試験はまた、WO2005/042695に記載のリポタンパク質(IntegraMolecular)を含有するCXCR4を利用して行うこともできる。
【0266】
本開示のi−bodyが種々の異なる細胞株と結合する能力は、フローサイトメトリーによってFACS滴定を実施することにより検討することもできる。増加量のi−bodyを100,000細胞とインキュベートし、結合をフローサイトメトリーによって評価することができる。Bmax値も決定することができ、これは各細胞に存在するCXCR4分子の概算の数を示した。結合曲線に基づいて、i−body結合のEC50を決定することができる。好適な細胞株の例としては、Ramos、Raji、Namalwa、L540、DMS79、MDA−MB−231、MDA−MB−361、MDA−MB−549、MOLT−4、DU−4475、DU−145、PC3、LNcaP、SW480、HT29、NCI−H69及びHL60が挙げられる。
【0267】
本開示のi−bodyが、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)の異なるサブセットと結合する能力も検討することができる。ヒトPBMCを標準方法によって分離し、更に細胞サブセットをFACSによって分離することができる。細胞サブセットの例には、CD3+、CD20+、CD11b+及びCD14+のうちの1つ以上を含む。結合性を、本明細書の実施例に示すような好適な対照と比較して、フローサイトメトリーによって評価することができる。
【0268】
競合アッセイは、ヨウ素125で標識したSDF−Iと、CXCR4またはCXCR4脂質粒子を自然に発現する細胞株を使用して行うことができる。i−bodyのCXCR4発現細胞株へのSDF−I結合の阻害に関する比較は、標準的な放射性標識リガンド結合アッセイによって行うことができる。i−bodyを1:3に順次希釈し、一定範囲の濃度を得ることができたら、比活性2000Ci/mmoleの
125I−SDF−Iの存在下で、CXCR4発現細胞に添加する(Amersham、カタログ番号EM314−25UCI)。i−bodyの非存在下で
125I−SDF−IをCXCR4発現細胞に40℃で2時間、結合させることにより、結合が可能な放射性標識リガンド総量を決定することができる。1μMの未標識SDF−I(Peprotech、カタログ番号300−28A)の存在下で、
125I−SDF−Iを結合させることにより、放射性標識リガンドの非特異的結合を決定することができる。次に、細胞と会合した
125I−SDF−Iの量を標準方法で測定する。
【0269】
あるいは、未標識SDF−1を使用して、CXCR4を過剰発現する脂質粒子への結合をi−bodyと競合させてもよい。i−bodyのこのような脂質粒子への結合は、Hisタグに対する抗体またはFLAGタグに対する抗体を用いて検出することができる。増加濃度のSDF−1を添加し、結合が残存しているi−bodyの量を測定する。これは、CXCR4脂質粒子がプラスチックに固定化されたELISA形式で行うことができる。この情報により、CXCR4上のi−bodyの結合部位がリガンドSDF−1と同一であるか、または近似するか、または異なるかが決定する。
【0270】
タンパク質検出アッセイ
本開示の一例では、CXCR4またはそれが発現する細胞、または膜内にCXCR4を含んでいる脂質粒子の存在を検出する。タンパク質または細胞の量、レベルまたは存在は、例えば、フローサイトメトリー、免疫組織化学染色、免疫蛍光法、免疫ブロット、ウェスタンブロット、ドットブロット、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、放射性免疫アッセイ(RIA)、酵素免疫アッセイ、蛍光共鳴エネルギー移動法(FRET)、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型法(MALDI−TOF)、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)、質量分析法(タンデム型質量分析法、例えばLC MS/MSを含む)、バイオセンサー技術、エバネッセントファイバーオプティックス技術またはタンパク質チップ技術からなる群から選択される技術などの当事者に既知である種々の技術のいずれかを使用して決定される。
【0271】
一例では、タンパク質の量またはレベルを決定するために使用されるアッセイは、半定量分析である。
【0272】
別の例では、タンパク質の量またはレベルを決定するために使用されるアッセイは、定量分析である。
【0273】
例えば、タンパク質は免疫アッセイによって、例えば、免疫組織化学染色、免疫蛍光法、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、蛍光結合免疫吸着アッセイ(FLISA)、ウェスタンブロッティング、放射性免疫アッセイ(RIA)、バイオセンサーアッセイ、タンパク質チップアッセイ及び免疫染色アッセイ(例えば免疫蛍光法)からなる群から選択されるアッセイを使用して検出する。
【0274】
標準的な固相ELISAまたはFLISA形式は、種々のサンプル由来のタンパク質濃度の決定に特に有用である。
【0275】
一形態では、ELISAまたはFLISAは、例えばメンブレン、ポリスチレンもしくはポリカーボネートのマイクロウェル、ポリスチレンもしくはポリカーボネートのディップスティック、またはガラス支持体などの固体マトリックス上にCXCR4脂質粒子を固定化することを含む。次に、本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドを含むサンプルを、固定化されたCXCR4タンパク質と物理的に相対させ、結合すなわち「捕捉」させる。次いで、結合したCXCR4結合分子またはポリペプチドを、CXCR4結合分子またはポリペプチドの末端に位置するタグ配列と結合する第2の標識化合物を使用して検出する。
【0276】
本明細書に記載するアッセイ形式が、例えばスクリーニング工程の自動化またはマイクロアレイ形式などのハイスループット形式に適していることは当業者にとって明らかであろう。更に上記アッセイの変形、例えば競合ELISAなどは、当業者にとって明らかであろう。
【0277】
代替例では、当技術分野で既知の方法、例えば免疫組織化学染色または免疫蛍光法などを用いて、細胞内または細胞上のポリペプチドを検出する。免疫蛍光法を用いた方法は定量的または少なくとも半定量的であるため、典型例となる。染色された細胞の蛍光度を定量化する方法は、当技術分野において既知である。
【0278】
CXCR4を含有する脂質粒子を使用して、本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドのCXCR4との結合を評価することができる。脂質粒子に埋め込まれたCXCR4タンパク質は、可溶性タンパク質または全細胞を使用できないアッセイ、例えば目的とするタンパク質(例えばCXCR4)が支持体または基材に結合されなければならないアッセイ、例えば、バイオセンサーアッセイなどのマイクロ流体デバイスを用いたアッセイなどで使用することができる。いくつかの例では、リポタンパク質を表面に付着させた後、本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドと接触させ、バイオセンサーにより本発明のCXCR4ポリペプチドの脂質粒子への結合を検出する。検出は、表面プラズモン共鳴、比色分析の回折格子、マイクロカンチレバーの偏向(Weeks BL et al(2003)Scanning 25(6):297−9)、または音波反応(Coper MA et al(2001)Nature Biotechnology 19,833−837)による。いくつかの例では、CXCR4結合分子またはポリペプチドを、センサーの一部である表面に付着させた後、脂質粒子と接触させ、結合を検出する。検出は、表面プラズモン共鳴、比色分析の回折格子、マイクロカンチレバーの偏向、または音波反応による。いくつかの例では、CXCR4結合分子またはポリペプチドと脂質粒子とを溶液中で接触させる。
【0279】
バイオセンサー装置は、生体分子間の相互作用を測定するように設計されている。バイオセンサー装置は一般に、電極表面と電流の組み合わせ、またはデバイスに組み込まれたインピーダンス測定素子とアッセイ基質との組み合わせ(US5567301に記載されているものなど)を用いている。通常、バイオセンサーは、目的とするタンパク質とそれに結合できる可能性があるリガンドとの間の直接的な相互作用を測定する。バイオセンサーは通常、非常に高感度であり、微弱なまたは極少量の相互作用でも作動して検出することができる。光学チップ、ファイバーオプティクス、スペクトロメーター検出器、マイクロチャネルチップ、ナノウェル及びマイクロカンチレバー、ならびに音波装置からなるバイオセンサー装置が作製されている。当技術分野において既知のバイオセンサーのうち、一部の形態はまた、表面プラズモン共鳴を利用してタンパク質の相互作用を検出する。このとき表面プラズモン共鳴の反射面の変化が、リガンドまたは抗体へのタンパク質の結合を示す(US5485277及びUS5492840)。
【0280】
一例では、脂質粒子をセンサー表面に付着させる。ここでの「センサー表面」とは、表面を分子またはポリペプチドと接触させることによってもたらされる基材の特性変化を検出して、このような接触がない表面と比較することができるあらゆる基材である。ただし、他の例では、脂質粒子はセンサー表面に既に付着されている。センサー表面がバイオセンサーチップであり得る一方、センサー表面はまた、例えばBiacore C1チップ、F1チップ、例えば金のコーティングを含むガラス基材などの、当技術分野で既知であるいかなるバイオセンサーチップをも含む。
【0281】
バイオセンサーは、このような系をマイクロスケールまたはナノスケールに適応させることが容易であるため、ハイスループット分析において特に有用である。更に、このような系を、複数の検出試薬を組み込むように好都合に適合させ、単一のバイオセンサー単位で診断試薬を多重化することが可能である。これにより、少量の体液で数種類のタンパク質またはペプチドを同時に検出することが可能になる。
【0282】
本開示はまた、目的とするタンパク質が膜成分(例えばCXCR4)であり、かつ結合分子またはポリペプチドとのタンパク質の結合試験が、脂質二重層と関連するタンパク質の提示、及び/または支持体または固体基材へのタンパク質の付着を必要とする、またはそれによって容易になる、あらゆるアッセイも包含する。このようなアッセイとしては、マイクロ流体デバイス、光学バイオセンサー、内部全反射フーリエ変換赤外分光法(19998,Chem.Phys.Lipids 96:69−80)を使用する種類のバイオセンサーであるPATIR−FTIR分光計、CPRWバイオセンサー(Salamon et al(1997)Biophys J 73:2791−2197に記載されたような結合プラズモン導波路共鳴(Coupled Plasmon−wavelength resonance、CPWR)分光計)、Signature biosceincesに記載されたような多重極結合分光計(multipole coupling spectroscopy、MCS)、Walt et al(200)Science 287:451−52及びDickinson et al(1996)Nature 382:697−700に記載されたような光ファイバーバイオセンサー(Illumina)、Sundberg et al Current Opin in Biotech 11:47−53に記載されたようなラボオンチップマイクロ流体、マイクロチャネル(コンパクトディスクを基板とするデバイスにエッチングされたGyrosのマイクロチャネル)、Tamayo et al(2001)Ultramicroscopy 86:167−173に記載されたようなマイクロカンチレバー、WO01/02551に記載されたような共焦点顕微鏡とナノウェルによる検出、及びマイクロウェル結合アッセイを使用するアッセイが挙げられる。一例では、センサー表面は96ウェル、384ウェル、1536ウェルのナノウェル、光ファイバーまたはスライド形式を含む。
【0283】
イメージング方法
上記から当業者には明らかであるが、本開示はまた、本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドを使用したイメージング方法も企図する。イメージングでは、一般にCXCR4結合分子またはポリペプチドを検出可能標識とコンジュゲートするが、この標識は、イメージングによって検出可能であるシグナルを発することができる何らかの分子または薬剤であり得る。ただし、本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドと特異的に結合する第2の標識化合物もまた使用することができる。例示的な検出可能標識としては、タンパク質、放射性同位体、蛍光団、可視光発光蛍光団、赤外発光蛍光団、金属、強磁性体、電磁放射体、特定の磁気共鳴(MR)分光学的特徴を有する物質、X線吸収もしくは反射物質、または音響変化物質が挙げられる。
【0284】
本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチド(及び使用する場合は二次標識化合物)は、全身に、または局所の臓器もしくは組織(もしくは癌の場合は腫瘍)に投与して画像化した後、画像処理することができる。一般にCXCR4結合分子またはポリペプチドは、腫瘍、組織または臓器の望ましい光学画像を実現するのに効果的な用量で投与される。そのような用量は、使用される特定のCXCR4結合分子またはポリペプチド、画像化する病態、イメージング工程を施す組織または臓器、使用されるイメージング装置等に依存して大幅に変化し得る。
【0285】
本開示のいくつかの例では、CXCR4結合分子またはポリペプチドは、これに限定されないが、腫瘍のイメージング、臓器の断層撮影、臓器機能の監視、冠動脈造影、蛍光内視鏡検査、レーザー誘導手術、光音響法及び音響蛍光法(sonofluorescence method)などの種々の生物医学的応用において組織及び臓器のin vivo光学造影剤として使用される。
【0286】
イメージング方法の例としては、核磁気共鳴映像法(MRI)、MR分光法、X線撮影、コンピューター断層撮影(CT)、超音波、ガンマカメラ平面画像撮影、単光子放射型コンピューター断層撮影法(SPECT)、ポジトロン放出断層撮影法(PET)、その他の核医学に基づくイメージング、可視光を用いた光学イメージング、ルシフェラーゼを用いた光学イメージング、蛍光団を用いた光学イメージング、その他の光学イメージング、近赤外光を用いたイメージング、または赤外光を用いたイメージングが挙げられる。
【0287】
いくつかの例において、造影剤は、例えば本明細書に記載するモデルを使用して、ヒトに使用する前にin vitroまたはin vivoアッセイを用いて試験される。
【0288】
サンプル
本開示の方法が、in vivoに基づくスクリーニングとしてではなく、単離した組織サンプルに対してin vitroで実施される場合に限り、「サンプル」は、対象由来の生体物質のあらゆるサンプル、例えばこれに限定されないが、体液(例えば、血液または滑液または脳脊髄液)、細胞物質(例えば組織吸引物)、組織生検標本または外科的標本などを意味すると理解すべきである。
【0289】
本開示の方法に従って使用されるサンプルは、直接使用される場合もあれば、使用前に何らか形で処理を必要とする場合もある。例えば、生検サンプルまたは外科的サンプルは、使用前にホモジナイゼーションまたは他の形態の細胞分散を必要とし得る。更にまた生体サンプルが液状でない場合に限り、(そのような形式が必要とされるまたは望ましい場合)緩衝液などの試薬を添加してサンプルを流動化することが必要となる場合がある。
【0290】
上記の説明から明らかなように、このようなアッセイには、例えば定量化に適した対照、例えば正常もしくは健常な個体または典型的な集団を使用することが必要となる場合がある。
【0291】
「健常な対象」は、病態、例えばCXCR4関連の疾患または障害に罹患していると診断されていないもの、及び/またはそのような疾患または障害を発現するリスクのないものである。
【0292】
あるいは、または加えて、好適な対照サンプルとは、病態に罹患していないことがわかっている典型的な対象集団について試験したマーカー測定値を含む対照データセットである。
【0293】
一例では、基準サンプルはアッセイに含まれない。その代わり、好適な基準サンプルは、典型的な集団から事前に得た確立されたデータセットに由来する。試験用サンプルの処理、分析及び/または試験から得たデータを、更にサンプル集団に関して得たデータと比較する。
【0294】
医薬組成物
本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチド(活性成分と同義)は、非経口、外用、経口、もしくは局所投与、エアロゾル投与、または経皮投与用の医薬組成物、予防的治療用の医薬組成物、または治療的処置用の医薬組成物に製剤化するのに有用である。医薬組成物は、投与方法に応じて種々の単位剤形で投与することができる。例えば、経口投与に適した単位剤形として、粉末、錠剤、丸薬、カプセル剤及びトローチ剤が挙げられる。
【0295】
本開示の医薬組成物は、非経口投与、例えば静脈内投与または皮下投与または臓器もしくは関節の体腔もしくは管腔への投与に有用である。投与用の組成物は一般に、薬学的に許容される担体、例えば水性担体中に溶解した本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドの溶液を含む。種々の水性担体、例えば緩衝生理食塩水等を使用することができる。組成物は、生理的条件に近づけるために必要な薬学的に許容される担体、例えばpH調整剤及び緩衝剤、毒性調整剤等、例えば酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウム等を含有することができる。こうした製剤中の本開示の結合分子またはポリペプチドの濃度は広範囲に変更可能であり、また選択した特定の投与モードと患者の必要性に従って、主に液量、粘度、体重等に基づいて選択することになる。例示的な担体としては、水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、及び5%ヒト血清アルブミンが挙げられる。混合油及びオレイン酸エチルなどの非水性ビヒクルも使用することができる。リポソームを担体として使用することもできる。ビヒクルは、等張性及び化学安定性を増強する少量の添加剤、例えば緩衝液及び保存剤を含有することができる。
【0296】
本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドは、非経口投与用に製剤化でき、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、経皮、またはその他の類する経路を介する注入、例えば腫瘍部位もしくは疾患部位への蠕動投与及び直接的点滴注入(腔内投与)用に製剤化することができる。本開示の化合物を活性成分として含有する水性組成物の調製は、当業者には既知であろう。
【0297】
本発明による好適な医薬組成物は一般に、使用目的に応じた最終濃度範囲を得るように、許容される薬学的担体、例えば滅菌水溶液と混合された、ある量の本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドを含む。調製手法は一般に、Remington’s Pharmaceutical Sciences,16th Ed.Mack Publishing Company,1980に例示されるように、当技術分野において既知である。
【0298】
製剤化された本開示の化合物は、剤形に適合する方法で、及び治療効果/予防効果がある量で投与される。本発明の化合物の好適な投与量は、具体的な化合物、治療すべき病態及び/または治療を受ける対象に応じて異なるはずである。例えば、最適なまたは有用な投与量を決定するために、最適投与量以下で開始し、投与量を徐々に増加させることにより好適な投与量を決定することは、熟練医の能力の範囲内である。
【0299】
本明細書の開示に基づけば、投与の例示的な投与量及びタイミングは当業者に明らかであろう。
【0300】
本開示の組成物は、他の治療成分またはイメージング/診断成分と併用することができる。例えば、本開示の医薬組成物は、ビスホスホネート、活性ビタミンD3、カルシトニン及びその誘導体、エストラジオールなどのホルモン製剤、SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)、イプリフラボン、ビタミンK2(メナテトレノン)、カルシウム製剤、PTH(副甲状腺ホルモン)製剤、非ステロイド抗炎症薬、可溶性TNF受容体製剤、抗TNFα結合分子、抗体もしくは当該抗体の機能的断片、抗PTHrP(副甲状腺ホルモン関連タンパク質)結合分子、抗体もしくは当該抗体の機能的断片、IL−1受容体アンタゴニスト、抗IL−6受容体結合分子、抗体もしくは当該抗体の機能的断片、抗VEGF−A結合分子もしくは抗体、抗CD20結合分子もしくは抗体、抗PDL−1もしくは抗PD1結合分子もしくは抗体、抗CCL2結合分子もしくは抗体、抗CCR2結合分子もしくは抗体、抗RANK−L結合分子もしくは当該抗体の機能的断片、またはi−bodyからなる群から選択される追加の活性薬を含み得る。
【0301】
本開示の医薬組成物はまた、薬学的に許容される抗酸化剤を含み得る。薬学的に許容される抗酸化剤の例としては、(1)水溶性抗酸化剤(例えばアスコルビン酸、塩酸システイン、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等)、(2)油溶性抗酸化剤(例えばアスコルビン酸パルミテート、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファ−トコフェロール等)、及び(3)金属キレート剤(例えばクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸等)が挙げられる。
【0302】
本開示の医薬組成物はまた、併用療法で、すなわち他の薬剤と組み合わせて投与することができる。例えば、併用療法には、少なくとも1つの他の抗癌剤、抗炎症剤または免疫抑制剤と組み合わせた本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドを含むことができる。
【0303】
抗癌剤または化学療法剤の例としては、ミトキサントロン、エトポシド、アザシチジン、レナリドミド、テモゾロミド、デシタビン、ガネテスピブ、クロファラビン、シタラビン、ダウノルビシン、ビノレルビン、アザシチジン、ソラフェニブ、リツキシマブ、ベバシズマブまたはボルテゾミブが挙げられる。
【0304】
こうした組成物はまた、アジュバント、例えば保存剤、湿潤剤、乳化剤及び分散剤も含み得る。滅菌処理によって、及び種々の抗細菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸を含めることによって、微生物の存在を確実に防止することができる。また、等張剤、例えば糖、塩化ナトリウム等を組成物に含むことが望ましい場合もある。加えて、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなどの吸収遅延剤を含めることによって、注射用医薬形態の持続的な吸収をもたらすことができる。
【0305】
一回用量形態を得るため、薬学的に許容される担体と合剤化できる活性成分の量は、治療される対象及び特定の投与様式に応じて異なる。一回用量形態を得るため、担体物質と合剤化できる活性成分の量は一般に、治療効果を生じさせる組成物の活性成分量である。一般に、この量は100パーセントのうち、活性成分(すなわちCXCR4結合ポリペプチド)が約0.01パーセント〜約99パーセントの範囲であり、薬学的に許容される担体と組み合わせた活性成分が、一例では約0.1パーセント〜約70パーセント、一例では約1パーセント〜約30パーセントの範囲である。投与計画は、最適な望ましい反応(例えば治療反応)を実現するように調整される。例えば、単一のボーラスを投与しても、複数に分割した用量を経時的に投与しても、治療状況の緊急性によって必要とされる容量に比例して増減してもよい。投与の容易性及び投与量の均一化のため、非経口組成物を単位剤形で製剤化すると特に有利である。本明細書で使用される場合、用語「単位剤形」は、治療される対象に応じた投与単位として適する物理的な個別単位を指す。各単位には、必要とされる薬学的担体と会合されたとき、望ましい治療効果を生じさせるように計算された活性化合物の所定量を含有する。本開示の単位剤形の規格は、(a)活性化合物固有の特徴及び達成される特定の治療効果、ならびに(b)個体の感受性を治療するためのそのような活性化合物を調剤する技術分野に固有の制限により決定され、それに直接依存する。CXCR4結合分子またはポリペプチドの投与では、投与量は、宿主体重当たり約0.0001〜100mg/kg及び通常は0.01〜5mg/kgの範囲である。例えば、投与量は、0.3mg/kg体重、1mg/kg体重、3mg/kg体重、5mg/kg体重、または10mg/kg体重であり得、または1〜10mg/kgの範囲内であり得る。例示的な治療計画は、1日1回、週1回、2週毎に1回、3週毎に1回、4週毎に1回、月1回、3か月毎に1回、または3〜6か月毎に1回の投与を必要とする。本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドの好ましい投与計画には、(i)6投与量を4週毎、次いで3か月毎、(ii)3週毎、(iii)3mg/kg体重を1回、続いて1mg/kg体重を3週毎のうち、いずれか1つの投薬スケジュールを用いて、抗体とともに、静脈内投与経由で1mg/kg体重または3mg/kg体重を与えることを含む。
【0306】
本開示の医薬組成物中の活性成分の実際の投与量レベルは、対象に対して毒性がなく、特定の患者、組成物、及び投与様式について望ましい治療応答を達成するために有効である活性成分量が得られるように変更してもよい。選択する投与量レベルは、使用する本開示の特定の組成物、またはそのエステル、塩もしくはアミドの活性、投与経路、投与時間、使用する特定の化合物の排泄速度、治療の持続期間、使用する特定の化合物と併用される他の薬物、化合物及び/または物質、治療対象の患者の年齢、性別、体重、病態、全身健康状態及び以前の病歴、ならびに医学分野で周知の同様の因子を含めた、様々な薬物動態因子に依存する。「治療有効投与量」の本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドは、疾患症状の重症度の軽減、疾患の無症状期間の頻度及び期間の増加、または疾患の苦痛を原因とする損傷または廃疾の予防をもたらすことが好ましい。例えば、CXCR4
+腫瘍の治療の場合、「治療有効投与量」が、無治療対象と比較して少なくとも約20%、少なくとも約40%、少なくとも約60%または少なくとも約80%、細胞成長または腫瘍成長を阻害することが好ましい。化合物が腫瘍成長を阻害する能力を動物モデル系で評価し、ヒト腫瘍での有効性を予測することができる。あるいは、組成物のこの特性は、化合物が細胞成長を阻害する能力を調べることによって評価することができ、このような阻害は、当業者に既知であるアッセイによってin vitroで測定することができる。治療有効量の治療化合物は、腫瘍サイズを減少させることができ、あるいは減少しない場合でも対象の症状を改善することができる。当業者であれば、そのような量を対象の大きさ、対象の症状の重症度、及び選択された特定の組成物または投与経路のような要因に基づいて決定することが可能である。
【0307】
治療組成物は、当技術分野で既知の医療装置によって投与することができる。例えば、本開示の治療組成物は、米国特許第5,399,163号、同第5,383,851号、同第5,312,335号、同第5,064,413号、同第4,941,880号、同第4,790,824号または同第4,596,556号に開示される装置などの無針皮下注射装置によって投与することができる。本開示に有用である周知のインプラント及びモジュールの例としては、制御速度で薬剤を分注するための移植可能なマイクロ注入ポンプを開示する米国特許第4,487,603号、皮膚経由で薬剤を投与するための治療装置を開示する米国特許第4,486,194号、正確な注入速度で薬剤を送達するための薬剤注入ポンプを開示する米国特許第4,447,233号、連続した薬物送達のための可変流の移植可能な注入装置を開示する米国特許第4,447,224号、マルチチャンバ区画を有する浸透圧薬物送達系を開示する米国特許第4,439,196号、及び浸透圧薬物送達系を開示する米国特許第4,475,196号が挙げられる。それ以外にも数多くのそのようなインプラント、送達系及びモジュールが当業者に既知である。
【0308】
一例では、ヒト患者に投与できるように、組成物はパイロジェンフリーに調製される。
【0309】
本開示はまた、本開示の障害を治療するための医薬の製造に、本開示のいずれかのCXCR結合ポリペプチド/i−body組成物を使用することも企図している。薬剤は、ラベルの表示に従って病院及びクリニックへ配布するため、該当するラベルを付けた適切な医薬パッケージで包装することができる。
【0310】
CXCR4結合ポリペプチドの使用
本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドは、CXCR4関連の疾患及び障害の診断及び治療を含む、多数のin vitro及びin vivoの診断及び治療有用性を有する。例えば、この分子を、培養中、in vitro、もしくはex vivoの細胞に、またはヒト対象(例えばin vivo)に投与して、種々の障害を治療、予防及び診断することができる。好適な対象は、CXCR4活性によって媒介される、もしくは調節される障害、またはCXCR4/SDF−1経路と関連する障害を有するヒト対象を含む。CXCR4結合ポリペプチドを他の薬剤とともに投与する場合、2つを順にまたは同時に投与することができる。本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドがCXCR4に対して特異的結合する場合、これを用いて、細胞表面でのCXCR4発現を特異的に検出することができ、更にこれを用いて免疫アフィニティ精製によりCXCR4陽性細胞を精製することができる。
【0311】
標的特異的エフェクター細胞、例えば本開示の組成物に結合されたエフェクター細胞を治療薬として使用することもできる。標的化のためのエフェクター細胞は、ヒト白血球、例えばマクロファージ、好中球または単球であり得る。他の細胞としては、好酸球、ナチュラルキラー細胞、及びIgG受容体またはIgA受容体を持つその他の細胞が挙げられる。必要に応じて、エフェクター細胞を、治療する対象から得ることができる。標的特異的エフェクター細胞は、生理学的に許容される溶液の細胞懸濁液として投与することができる。投与する細胞数は、治療目的に応じて異なる。一般に、その量は、標的細胞、例えばCXCR4を発現している腫瘍細胞で局在化するのに十分であり、また例えば貪食作用による細胞殺傷をもたらすのに十分である。
【0312】
標的特異的エフェクター細胞による治療は、標的細胞を排除する他の技術と併用して行うことができる。例えば、本開示の組成物及び/またはこの組成物によって増強されたエフェクター細胞を用いた抗腫瘍療法を化学療法と併用することができる。加えて、併用免疫療法を用いて、2種類の細胞毒性エフェクター集団を腫瘍細胞の排除へと誘導させてもよい。例えば、抗Fc−ガンマ受容体または抗CD3と結合されたCXCR4結合ポリペプチドを、IgG受容体またはIgA受容体特異的結合薬と併用してもよい。本開示の二重特異性及び多重特異性分子は、細胞表面の受容体のキャッピング及び排除などによる、エフェクター細胞でのFcγRまたはFcγRレベルの調節に使用することもできる。
【0313】
CXCR4は、HIVがT細胞に侵入する際の補助受容体として、HIV感染症に関与することが知られている。加えて、CXCR4/SDF−1経路は炎症性病態への関与が示されている。更にまた、CXCR4/SDF−1経路は、血管形成または新生血管への関与も示されている。したがって、本開示のCXCR4結合ポリペプチドを使用して、以下で詳述するような多くの臨床状況においてCXCR4の活性を調節することができる。
【0314】
本開示はまた、本明細書に記載するCXCR4関連の疾患または障害を診断または検出する方法も提供する。CXCR4の検出及び分析に適したあらゆる方法を用いることができる。本明細書で使用される場合、用語「サンプル」は、ヒト、動物由来のサンプル、または研究用サンプル、例えば細胞、組織、臓器、液体、気体、エアロゾル、スラリー、コロイドまたは凝固物質を指す。サンプルはまた、細胞のタンパク質または膜抽出物、体液(例えば痰、血液、血清、血漿または尿)、または生体サンプル(例えば本明細書に記載する抗体を使用している、ホルマリン固定または冷凍された組織切片)を含むが、これらに限定されない。用語「サンプル」はまた、ヒトもしくは動物から新たに採取された細胞、組織、臓器もしくは体液、または処理もしくは保存された細胞、組織、臓器もしくは体液を指す。例えばサンプルは、ヒトまたは動物から除去せずにin vivoで試験することも、またはin vitroで試験することもできる。サンプルは、例えば組織学的方法による処理後に試験することができる。
【0315】
当技術分野で既知の種々の診断検査技術、例えば、競合結合アッセイ、直接的または間接的なサンドイッチアッセイ、及び不均一相または均一相で行われる免疫沈降アッセイを使用することができる(Zola,Monoclonal Antibodies:A Manual of Techniques,CRC Press,Inc.(1987)pp.147−158)。診断検査法で使用する抗体は、検出可能な成分で標識することができる。検出可能な成分は、検出可能なシグナルを直接的または間接的に発生する。例えば、検出可能な成分は、本明細書に記載するもののいずれか、例えば3H、14C、32P、35Sもしくは125Iなどの放射性同位体、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テキサスレッド、シアニン、フォトシアン、ローダミンもしくはルシフェリンなどの蛍光性もしくは化学発光性化合物、またはアルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼもしくは西洋ワサビペルオキシダーゼなどの酵素であり得る。検出可能な成分に抗体をコンジュゲートするための当技術分野で既知のあらゆる方法、例えばHunter et al.,Nature,144:945(1962);David et al.,Biochemistry,13:1014(1974);Pain et al.,J.Immunol.Meth.,40:219(1981);及びNygren,J.Histochem.and Cytochem.,30:407(1982)によって記載された方法を用いることができる。
【0316】
本明細書では、CXCR4と関連する病態の診断方法を提供する。これには対象サンプル中のCXCR4及び/またはSDF−1のレベルを評価することを含み、このとき、基準サンプルと比較した、サンプル中のCXCR4及び/またはSDF−1レベルの変化が、腫瘍または転移または線維症の存在または増加を示す。一態様では、CXCR4またはSDF−1と関連する病態は、腫瘍、転移、血管形成または線維症である。基準サンプルと比較した、サンプル中のCXCR4及び/またはSDF−1レベルの増加は、腫瘍もしくは転移の存在、または腫瘍もしくは転移性増殖もしくは線維症の増加を示し得る。基準サンプルは、早期の時点で対象から採取したサンプル、または別の個体から採取したサンプルであり得る。本明細書に記載するCXCR4結合分子、ポリペプチドまたはそのi−bodyとサンプルを接触させることにより、サンプル中のCXCR4レベル及び/またはSDF−1レベルを検出することができる。一実施形態では、CXCR4結合分子、ポリペプチドまたはそのi−bodyは、検出可能に標識される。
【0317】
別の例では、腫瘍を有する対象の癌転移を診断する方法を提供する。これには、腫瘍のCXCR4レベルまたは活性を評価することを含み、このとき、基準サンプルと比較した、腫瘍中のCXCR4レベルまたは活性の変化が、転移性腫瘍増殖の存在を示す。場合によっては、腫瘍のCXCR4レベルまたは活性が、以前に測定したときよりも増加している可能性があり、このことは、その対象が癌転移のリスクが高いこと、癌が転移していること、または癌転移が増加していることを示し得る。基準サンプルは、同じ対象由来のもの、異なる時点の同じ腫瘍から、もしくは身体の他の部位から採取したもの、または別の個体由来のものであり得る。
【0318】
別の例では、線維症を有する対象の線維症の進行のレベルまたは速度を診断する方法を提供する。これには、組織、血液、血漿または体液のCXCR4レベルまたは活性を評価することを含み、このとき、基準サンプルと比較したCXCR4レベルの変化が線維症の存在を示す。場合によっては、CXCR4レベルまたは活性が、以前に測定したときよりも増加している可能性があり、このことは、その対象が急速進行性の疾患であることを示す。基準サンプルは、同じ対象由来のもの、異なる時点の同じ組織、血液、血漿もしくは体液から、または身体の他の部位から、または別の個体から採取したものであり得る。
【0319】
治療方法
本明細書では、CXCR4関連の疾患または障害を治療または予防する方法を提供する。この方法には、治療有効量のCXCR4結合分子またはポリペプチド及び別の治療薬を投与することを含む。
【0320】
CXCR4は様々な癌種によって発現することが示されており、特定の状況においてCXCR4の発現と対象の予後または生存との間には、逆の相関が認められた。CXCR4発現と関連した癌種の非限定的な例としては、乳癌、前立腺癌、非小細胞肺癌、膵臓癌、甲状腺癌、鼻咽頭癌、黒色腫、腎細胞癌、リンパ腫(例えば非ホジキンリンパ腫)、神経芽細胞腫、膠芽腫、横紋筋肉腫、大腸癌、腎臓癌、骨肉腫、急性リンパ芽球性白血病及び急性骨髄性白血病が挙げられる。
【0321】
したがって、本開示による一例では、本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドを、CXCR4関連の疾患または障害の治療に使用することができ、この場合の疾患は癌であり、また、当該癌は、膀胱癌、乳癌、大腸癌、子宮内膜癌、頭頸部癌、白血病、肺癌、リンパ腫、黒色腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、前立腺癌、精巣癌、子宮癌、子宮頸癌、甲状腺癌、胃癌、脳幹神経膠腫、小脳星状細胞腫、大脳星状細胞腫、上衣細胞腫、ユーイング肉腫系統の腫瘍、胚細胞腫瘍、頭蓋外癌、ホジキン病、白血病、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、肝癌、髄芽腫、神経芽細胞腫、脳腫瘍全般、非ホジキンリンパ腫、骨肉腫、骨の悪性線維性組織球腫、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、軟組織肉腫全般、テント上方未分化神経外胚葉性及び松果体部腫瘍、視覚路及び視床下部神経膠腫、ウイルムス腫瘍、急性リンパ性白血病、成人急性骨髄性白血病、成人非ホジキンリンパ腫、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、食道癌、有毛細胞白血病、腎臓癌、多発性骨髄腫、口腔癌、膵癌、原発性中枢神経系リンパ腫、皮膚癌、骨髄異形成症候群ならびに小細胞肺癌からなる群から選択される癌を含むが、これに限定されない。
【0322】
本開示による一例では、本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドは、転移性腫瘍細胞成長の阻害に使用することができる。
【0323】
本開示による一例では、本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドは、線維症の治療に使用することができる。
【0324】
本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドは単独で使用することも、手術及び/もしくは放射線などの他の癌治療、ならびに/または上記で述べ、指定した抗腫瘍薬などの他の抗腫瘍薬(CD20、Her2、PD−1、PDL−1、IL−2、PSMA、Campath−1、EGFR等を結合するものなどの化学療法薬及び他の抗腫瘍抗原抗体を含む)と併用することもできる。
【0325】
本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドは、単独で使用することも、他の炎症及び線維症治療と併用することもできる。
【0326】
CXCR4はHIVがT細胞に侵入するための補助受容体であることが示されており、加えて、ある特定のマウス抗CXCR4抗体はT細胞へのHIV分離株の侵入を阻害できることが実証されている(Hou,T et al.(1998)J Immunol 160 180−188、Carnec,X et al.(2005)J Virol 79 1930−1938を参照)。したがって、CXCR4を細胞に侵入するウイルスによる受容体として使用し、抗体または他の遮断薬を、CXCR4を受容体として使用するようなウイルスの細胞侵入を阻害するために使用することができる。よって、一例では、本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドは、細胞へのウイルスの侵入を阻害するために使用することができ、この場合、ウイルスは細胞侵入のための受容体としてCXCR4を使用し、それによってウイルス感染が阻害される。一例では、CXCR4結合分子またはポリペプチドは、例えばHIV/AIDSの治療または予防において、T細胞へのHIVの侵入を阻害するために使用される。CXCR4結合分子またはポリペプチドは単独で使用することも、他の抗ウイルス薬、例えば抗レトロウイルス薬(例えばAZTまたはプロテアーゼ阻害剤)と併用することもできる。
【0327】
CXCR4は、CXCR7とヘテロ二量体を形成することがわかっており、CXCL12を介するGタンパク質シグナル伝達を調節した(Levoye A et al(2009)Blood 113(24):6085−6093)。CXCR4/CXCR7ヘテロ二量体は、ベータ−アレスチンを動員し、細胞遊走を増強することもわかっている(Decaillot FM et al(2011)J Biol Chem 286(37):32188−97)。したがって、本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドは単独で投与することも、例えば、WO2007/115231、WO2007/115232、WO2008/048519、WO2008/109154、WO2010/054006に記載されているCXCR7受容体を標的とする薬剤とともに投与することもできる。CXCR4はまた、CCR5(Sohy et al J Biol Chem.2009 284;31270−31279)、β
2AR(La Rocca et al J Cardiovasc Pharmacol.2010 56;548−559)、CCR2(Sohy et al J Biol Chem.2007 282;30062−30069)、DOR(デルタオピオイド受容体)(Pello et al Eur.J.Immunol.2008 38;537−549)またはCCR7とヘテロ二量体を形成することもわかっている。したがって、本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドは単独で投与することも、またはこれらの受容体を標的とする薬剤とともに投与することもできる。
【0328】
CXCR4/SDF−1経路は、炎症性肝疾患(Terada,R et al.(2003)Lab.Invest 83:665−672)、自己免疫関節炎症(Matthys,P et al.(2001)J.Immunol 167 4686−4692)、アレルギー性気道疾患(Gonzalo,J A et al(2000)J.Immunol 165−499−508)、及び歯周病疾患(Hosokawa,Y et al(2005)CIin.Exp.Immunol 4:467−474)を含むが、これに限定されない種々の炎症病態において役割を担うことが示されている。
【0329】
したがって、SDF−1のCXCR4への結合を阻害する本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドを使用して、炎症性肝疾患、自己免疫関節炎症、アレルギー性気道疾患、歯周病疾患(Porphyromonas gingivalisによって誘発される)(Hajishengallis et al PNAS 2008 105;13532−13537)、関節リウマチ、炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデス、I型糖尿病、炎症性皮膚疾患(例えば、乾癬、扁平苔癬)、皮膚修復及び再生(熱傷、瘢痕)、眼炎症(AMD、ブドウ膜炎)、全身性強皮症、放射線誘発線維症、自己免疫性甲状腺疾患、シェーグレン症候群、肺炎症(例えば、慢性閉塞性肺疾患、肺サルコイドーシス、リンパ性肺胞炎、特発性肺胞線維症)、多発性硬化症(Kohler et al Brain Pathology 2008,18;504−516)、敗血症(Ding et al Crit Care Med 2006 34;3011−3017)及び炎症性腎臓疾患(例えば、IgA腎症、糸球体腎炎)からなる群から選択される障害を含む、炎症、炎症性障害を阻害することができる。CXCR4結合ポリペプチドは単独で使用することも、他の抗炎症薬、例えば非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、コルチコステロイド(例えば、プレドニソン、ハイドロコーチゾン)、メトトレキサート、COX−2阻害剤、TNFアンタゴニスト(例えば、エタネルセプト、インフリキシマブ、アダリムマブ)及び免疫抑制剤(例えば、6−メルカプトプリン、アザチオプリン及びシクロスポリンA)と併用することもできる。
【0330】
したがって、SDF−1のCXCR4への結合を阻害する本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドを使用して、肺線維症(特発性肺胞線維症、真菌嚢胞性線維症(Carevic et al Eur Respir J 2015 46;395−404)、肺動脈高血圧症(Farkas et al PLoSONE 2014 9;e89810)、放射線誘発線維症(Shu et al PLoSONE 2013;8;e79768)及び全身性強皮症、喘息(Lukacs et al AJP 2012 160;1353−1360及びNagase et al J Immunol 2000;164:5935−5943)、肝線維症(非アルコール性脂肪肝炎(NASH)(Boujedidi et al Clinical Science 2015 128;257−267)、腎臓線維症(高血圧及び慢性腎疾患(Yuan et al Am J Physiol Renal Physiol.2014 308;459−472)、眼線維症(増殖性硝子体網膜症、糖尿病性網膜症(Butler et al The Journal of Clin Invest 2005 115;86−93)、未熟児網膜症(Villalvilla et al Life Sciences 2012 91;264−270)、非伝染性ブドウ膜炎(Zhang et al Experimental Eye Research 2009 89;522−531)、及び滲出型AMD(US_7964191)、心臓線維症(高血圧、虚血性心筋症、心内膜心筋線維症、動脈線維症(Chu et al Circ Heart Fail.2011 4;651−658)、皮膚線維症(肥厚性瘢痕(Ding et al Wound Rep and Reg 2014 22;622−630)、熱傷随伴性瘢痕(Avniel et al Journal of Investigative Dermatology 2006 126;468−476)、糖尿病外傷、強皮症、または全身性強皮症(Tourkina et al Fibrogenesis & Tissue Repair 2011,4;10.1186/1755−1536−4−15)からなる群から選択される障害を含む、線維症障害において線維症を阻害することができる。本発明のCXCR4結合分子またはポリペプチドは単独で使用することも、または他の抗線維化薬、例えばピルフェニドンまたはニンテダニブと併用することもできる。
【0331】
SDF−1はCXCR4を発現するヘマンジオサイトの動員を経て新生血管を誘導することが示された(Jin,D.K.et al.(2006)Nat Med.12:557−567)。CXCR4はまた、胃腸管の血管成長に不可欠であることもわかっている(Tachibana et al.(1998)Nature 393(6685):591−4)。更に、SDF−1/CXCR4経路の遮断は、VEGFに依存しない方法で血管形成を阻害することにより、in vivoの腫瘍成長を減衰させることができる(Guleng,B.et al.(2005)Cancer Res.65:5864−58−71)。したがって、SDF−1のCXCR4への結合を阻害する本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドを使用して、SDF−1/CXCR4経路を妨げることにより血管形成を阻害することができる。血管形成の阻害は、例えば、腫瘍成長または腫瘍転移(腫瘍がCXCR4
+であるかどうかは問わない)を阻害するために使用することができる。CXCR4結合分子またはポリペプチドは単独で使用することも、または他の抗血管形成薬、例えば抗VEGF(Grunewald M et al(2006)Cell 124(1):175−89)もしくはPDGF−D抗体または抗体の断片と併用することもできる。
【0332】
本開示のi−bodyによる幹細胞の動員欠如−潜在用途
種々のサイトカイン、ケモカイン及び接着分子は、CXCR4とSDF−1の相互作用を含む、CD34
+幹細胞の動員の調節(Gazitt,Y.(2001).J Hematother.Stem Cell Res.10:229−236に概説)に関与している。更に、小分子CXCR4アンタゴニストは、骨髄から末梢へのCD34
+幹細胞の迅速な動員を刺激することが示されている(例えば、Devine,S M et al.(2004)J.Clin.Oncol 22 1095−1 102;Broxmeyer,H E et al.(2005) J.Exp.Med 201:1307−1318,Flomenberg,N et al(2005)Blood 106:1867−1874を参照)。
【0333】
対称的に、本開示のi−bodyの一部は、幹細胞の動員能力を欠くことがわかった。幹細胞を動員しないCXCR4阻害剤/アンタゴニスト(例えば本明細書に記載するi−body)は、長期研究及び慢性疾患の治療に有用となることを示す研究が複数ある。
【0334】
i)線維症治療
損傷への反応には、ホメオスタシスを維持するだけでなく、組織修復も誘導するように設計された適応機構の活性化を伴う。この再生修復のための潜在能力は、以下の肝臓切除または急性尿細管壊死などの、ある特定の状況にあるヒトにおいて顕在化する。しかしながら、慢性損傷または反復損傷が認められる場合、反応の大部分が、障害を受けた実質細胞の再生と、関連する大量のECMの産生との連係を伴い、最終的に結合組織による瘢痕の形成に至る。この結合組織による修復は、例えば、皮膚損傷後の器官完全性の保持を助けることは明らかだが、心臓、腎臓及び肺などの他の臓器でのその存在は不利益である場合が多い(Wynn et al Nat Med(2012)18:1028−1040)。
【0335】
線維症の治療には未対応の臨床ニーズがある(Luppi et al Curr Respir Care Rep(2012)1:216−223、Friedman et al Sci Transl Med.(2013)5:167sr1)。重要なことに、線維症促進性炎症過程を標的とする現行の治療方策はないことから、これが未対応の臨床ニーズであることは明らかであり、新規治療薬の開発が必要である。したがって、炎症誘発性サイトカインの活性化及びECMの病理的異常蓄積を阻害する方策は、病理学的な臓器線維症の予防にとって潜在的な治療標的となる。
【0336】
(a)肺線維症:特発性肺胞線維症(IPF)
特発性肺胞線維症(IPF)は、肺の瘢痕及び線維症を特徴とし、最終的には末期呼吸機能不全に至る間質性炎症性疾患である。最近の研究では、CXCR4を発現する循環線維芽細胞が肺線維症の病因に関与するという証拠が提示されている(Phillips et al J Clin Invest(2004)114:438−446.)。上記及び他の最近の研究は、この線維芽細胞でのCXCR4の活性を阻害することが、肺疾患、糖尿病及び心臓血管疾患を伴う線維症を含む、様々な種類の線維症を有する患者の治療に有用な方法であり得ることを示唆している。
【0337】
b)眼線維症
後眼部の新しい血管の病理的異常成長は、加齢黄斑変性、増殖性糖尿病性網膜症及び未熟児網膜症を含む多くの疾患の破壊的悪化による結果である。視力を脅かす進行した加齢黄斑変性(滲出型AMDと呼ばれる)は、85歳以上の全人口のうち5.7%が罹患している。糖尿病性網膜症は、糖尿病で最も恐れられている合併症であり、II型糖尿病を有する患者の約40%、I型糖尿病を有する患者の約86%が罹患している(Cheung et al Lancet 2010;376:124−36)。未熟児網膜症と呼ばれる、もう一つの網膜血管疾患は、早産の破壊的悪化による結果であり、未だに西側諸国の小児失明の主因である。このような病態に共通する特徴は、血管の異常成長と、それに続く瘢痕形成であり、これが失明に至る決定的な事象となる。このような疾患による失明を回避するために、網膜血管の異常成長ならびにそれに続く瘢痕の両方を標的とする治療が必要とされている。
【0338】
滲出型AMDは現在、血管形成成長因子である血管内皮成長因子(VEGF)の作用を妨げるヒト化抗体または抗体断片を毎月または隔月で眼球に注射することにより治療する。これらの新たな治療は、滲出型AMD保有者の臨床医療を一変させ、大多数の患者の突然の失明を防止している(Rosenfeld et al N Engl J Med 2006;355:1419−31;Brown et al N Engl J Med 2006;355:1432−44)。硝子体網膜症、糖尿病性網膜症及び未熟児網膜症を含む、瘢痕及び線維症関連の眼障害の治療に、本発明のCXCR4結合分子またはポリペプチドを使用することができる。
【0339】
ii)アテローム性動脈硬化症の治療
Zerneckeら(Zernecke et al(2008)Circulation Research 102:09−217)は、CXCL12/CXCR4軸がアテローム性動脈硬化症を防止すること、またこの防止効果が骨髄性細胞ホメオスタシスの制御によるという証拠を示している。この研究は、小分子アンタゴニストAMD3465によるCXCR4の長期的阻害が、2種類の異なるマウス株(Apoe
−/−マウス及びLdlr
−/−)の食餌誘発性アテローム硬化性病変の発現を悪化させたことを示している。AMD3465によるCXCR4の拮抗作用は、骨髄からの好中球の放出に対してAMD3100よりも10倍効果的であることが示されている(Hatse et al.Biochem Pharmacol.2005;70:752−761)。Zerneckeらはまた、AMD3465による持続的な治療が骨髄性好中球の拡大と、単球のわずかな増加をもたらし、骨髄リンパ球の減少と相関性が見られることを実証した。その結論によると、「CXCR4アンタゴニストは造血細胞を動員することができるが、斑安定化前駆体サブセットの動員を阻害する場合があり、それによってアテローム性動脈硬化症を促進し得るため、治療を試みる場合は注意を要すると思われる」。したがって、造血細胞を動員する能力を欠く薬剤は、アテローム性動脈硬化の治療に有用であり得る。本発明のCXCR4結合分子またはポリペプチドは、抗アテローム性効果を及ぼすと同時に、幹細胞の動員を増加させない能力を有する。
【0340】
iii)腎臓疾患
Zuk et al(2014)Am J Physiol Renal Physiol Oct1;307(7):F783−97による研究は、CXCR4の阻害が、造血幹細胞またはその動員に対する何らかの効果によってではなく、白血球浸潤及び炎症誘発性サイトカインの発現を阻害することによって、急性腎臓損傷を改善するという説得力のある証拠を示している。したがって、本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドは、腎臓疾患の治療に有用であり得る。
【0341】
iv)血管形成
SDF−1とその受容体であるCXCR4は、血管形成及び瘢痕形成(線維症)に関与している(Ferrara et al Nature 2005;438:967−74)。事実、SDF−1は、滲出型AMD、増殖性糖尿病性網膜症及び未熟児網膜症を有する患者の硝子体で増加する(Scotti et al Retina 2014;34:1802−10、Butler et al J Clin Invest 2005;115:86−93、Sonmez et al Ophthalmology 2008;115:1065−1070)。その受容体CXCR4は、病理学的に異常な成長をする血管の成長端に局在する。更に、CXCR4の阻害は、脈絡膜新生血管及び未熟児網膜症の齧歯目モデルでの血管の異常成長を防止することが示されている(Lima e Silva et al FASEB J 2007;21:3219−30)。別の調査は、循環線維芽細胞が増殖性硝子体網膜症(PVR)膜の筋線維芽細胞の前駆体として機能できることを示している。PVR網膜上膜にはCXCL12及びCXCR4を発現する多数の細胞が存在した。このことは、CXCL12/CXCR4ケモカイン軸が優勢であると、PVRを有する患者の眼に線維芽細胞が動員されることが明らかであることを示唆していた(Abu El−Asar et al Br J Ophthalmol 2008;92:699−704)。
【0342】
これらの血管疾患の臨床管理を改善するには、血管形成とそれに続く線維症の両方を標的とする治療が必要である。本開示の新規ポリペプチドまたはi−bodyは、そのような治療に有用である。
【0343】
したがって、本開示のCXCR4結合分子、ポリペプチドまたはi−bodyは、AMD、増殖性糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、増殖性硝子体網膜症、ブドウ膜炎、角膜血管形成における後眼部血管疾患モデルにおいて、血管形成とそれに続く瘢痕を低減するのに効果的であり得る。
【0344】
炎症性モデル
本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドの炎症阻害能を、炎症性マウスモデルで検討することができる。これらのモデルには、Liang Zhongxing et al(2012)PLoS ONE 7(4):e34038.doi:10.1371に記載されている、マウスの実験的大腸炎モデル、カラギーナン誘発足浮腫モデル、及びブレオマイシン誘発肺線維症モデルが含まれる。
【0345】
線維症モデル
本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドの線維症阻害能を、ブレオマイシン齧歯類モデルで検討することができる。特発性肺線維症(IPF)の模倣に頻繁に使用される齧歯類のブレオマイシンモデルにおいて、血清及び気管支肺胞洗浄流体中のSDF−1レベルが増加している。更に、CXCR4及び小分子CXCR4アンタゴニスト(AMD3100)に対する中和抗体は、肺好酸球増多症を低減することが見出された。これは、CXCR4を介したシグナルがアレルギー性気道疾患のマウスモデルの肺炎症に関与することを示している(Gonzalo et al J Immunol.2000;165:499−508、Lukacs et al Am J Pathol.2002;160:1353−60)。このデータは、CXCR4が再上皮形成よりも線維症を促進する上で顕著な役割を有することを明確に示している。本発明のCXCR4結合分子またはポリペプチドを、抗線維化薬として使用することができる。
【0346】
現在まで、複数のCXCR4アンタゴニストが開発されている(Tsutsumi et al Biopolymers.2007;88:279−289)。TN14003、MSX−122またはAMD3100などのアンタゴニストを用いたCXCR4の遮断は、ブレオマイシン誘発肺線維症を効果的に軽減することが示されている(Xu et al Cell Mol Biol.2007;37:291−299)。FDA認可の小分子CXCR4アンタゴニストであるAMD3100(プレリキサフォル)は、ブレオマイシン治療マウスでも試験済みである。AMD3100は幹細胞のホーミングを妨げる効果がある一方、幹細胞の動員も増加させるため、自家移植に備えた幹細胞の収率増加に用いられるようになった。14merのペプチドであるTN14003は、ブレオマイシン治療マウスでの肺線維症の発現を妨げるが、対する小分子MSX−122はまた、ブレオマイシン誘発肺線維症の完全な防止においてTN14003及びAMD3100よりも優位性を示し(Xu et al Cell Mol Biol.2007;37:291−299)、更にMSX−122を投与された放射線照射マウスには、肺線維症の発現に有意な低減が見られたが、AMD3100はこの線維症過程を有意に抑制しなかった(Shu et al PLoS ONE 2013;8(11):e79768.)。本発明のCXCR4結合分子またはポリペプチドは、幹細胞のホーミングを妨げる一方、幹細胞の動員を増加させない能力を有する。
【0347】
IPFの病因に関する新たな標的の役割を明らかにする代替技術は、疾患患者から線維芽細胞を単離し、メディエーターの放出を健常者からの線維芽細胞と比較することを含む。この方法では、細胞を薬理学的アゴニストとアンタゴニストで処理する。線維芽細胞を3次元マトリックスに埋め込んで培養し、他の細胞型とともに共培養することができる。本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドの線維症阻害能を、ヒト患者線維芽細胞で検討することができる。
【0348】
更にもう一つの翻訳モデルは、IPF患者由来の線維芽細胞を免疫不全マウスに移植することである。本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドの線維症阻害能を、この線維症の動物モデルで検討することができる(Murray et al,American Journal of Respiratory Cell and Molecular Biology Volume 50 Number 5,May 2014)。
【0349】
癌/転移モデル
本開示のCXCR4結合分子またはポリペプチドの転移阻害能を、マウスモデルで検討することができる。これらのモデルには、Liang Zhongxing et al(2012)PLoS ONE 7(4):e34038.doi:10.1371に記載されている、乳癌モデル(MDA−MB−231細胞の投与による)、頭頸部癌動物モデル(686LN−Ms細胞の投与による)、及びブドウ膜黒色腫微小転移モデルが含まれる。
【0350】
in vivo血管形成アッセイ
CXCR4結合分子の血管形成阻害能を、マウスモデルで検討することができる。これらのモデルは、Liang et al,(2007)Biochem Biophys Res Commun.August 3;359(3):716−722に記載されており、ここではMDA−MB−231細胞をヌードマウスの側腹部に皮下移植する。
【0351】
キット
いくつかの例では、CXCR4結合分子またはポリペプチドを、キットまたは医薬パッケージで提供してもよい。
【0352】
一例では、本開示は、本明細書に記載するCXCR4結合分子の投与を行うためのキットに関する。
【0353】
医薬パッケージ及びキットは更に、医薬製剤中の賦形剤、担体、緩衝液、保存剤または安定剤を含む。キットの各構成物は個別容器内に封入することができ、また種々の容器全てを単一のパッケージに収めることができる。発明のキットは、室温または冷蔵保存用に設計することができる。加えて、製剤には、キットの貯蔵寿命を延長させる安定剤を含有することができ、これには例えばウシ血清アルブミン(BSA)または他の既知である従来の安定剤を含む。組成物が凍結乾燥されている場合、キットは製剤を再構成するための調製溶液を更に含むことができる。許容される溶液は当技術分野において周知であり、例えば薬学的に許容されるリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含む。
【0354】
加えて、本明細書で提供する医薬パッケージまたはキットは、本明細書で提供する他の成分のいずれか、例えば他の箇所で詳細に記載する化学療法剤などを更に含むことができる。
【0355】
本発明の医薬パッケージ及びキットは、本明細書で提供するアッセイ、例えばELISAアッセイなどのための成分などを更に含むことができる。あるいは、キットの製剤は、患者組織の生検切片を試験するための免疫組織化学染色などの免疫アッセイに使用される。
【0356】
本発明の医薬パッケージ及びキットは更に、例えば、製品の説明、投与様式及び治療の適応を明記している標記を含む。本明細書で提供する医薬パッケージは、本明細書に記載する成分のいずれかを含むことができる。医薬パッケージは更に、本明細書に記載する疾患徴候のいずれかを予防、そのリスクを低減、または治療することについての標記を含むことができる。
【0357】
本開示のキットは更に、本発明のいずれかの方法にキット成分を使用する上での標記または指示を含むことができる。キットは、本開示の方法で化合物を投与するための指示とともに、パックまたはディスペンサー中の本開示のi−body化合物を含むことができる。指示は、治療、検出、モニタリングまたは診断方法を含む、本明細書に記載する本開示の方法のいずれかを実施する上での指示を含むことができる。指示には更に、十分な臨床エンドポイントもしくは発生し得る有害症状を示す徴候、またはヒト対象での使用にあたり食品医薬品局などの規制当局によって要求される追加情報を含んでもよい。
【0358】
本開示の広い一般的な範囲から逸脱することなく、上述した実施形態に多数の変形及び/または改変を加えてよいことを当業者は理解されるであろう。したがって本実施形態は、あらゆる点で限定ではなく例示と見なすべきである。本開示は以降の非限定的な実施例を含む。
【0359】
一般的な方法
Biacoreアッセイ
(
図2、5、11、17)選択したi−bodyと固定化されたCXCR4脂質粒子との結合の速度論解析を、Biacore T200装置(GE Healthcare、Uppsala,Sweden)を使用して25℃で実施した。ストレプトアビジンの固定化は、1xHBS−P+ランニングバッファー(10mMのHEPES、150mMのNaCl、0.05%[v/v]のTween−20)中で実施した。アミンカップリングキット(GE Healthcare)とその説明書を利用して、ストレプトアビジン(Sigma;10mMの酢酸ナトリウム緩衝液pH4.5で100μg/mLに希釈)を、センサーチップ面上の4つ全ての経路に同時に付着させ、6,000RU未満のストレプトアビジンを結合させた(1RU=1pgタンパク質/mm
2)。脂質粒子を伴う結合実験は全て、計測用のランニングバッファーとして1xHBS/BSA(10mMのHEPES、150mMのNaCl、1mg/mLのBSA)を用いて実施した。ビオチン化CXCR4脂質粒子(WO2005/042695に記載されている、Integral Molecular、カタログ番号LEV−101B;3.6U/mL)は通常、ランニングバッファーで20分の1に希釈し、2,500RU超の捕捉反応レベルになるように、1,800秒間に2μL/mLで注入することにより、ストレプトアビジンを含む経路に固定化した。オフターゲット対照として使用するビオチン化CCR5及び無効な脂質粒子を同様の方法で固定した。結合速度論を決定するために、1xHBS/BSAで希釈したi−bodyの段階希釈液(3倍)を固定化された脂質粒子上に注入し、会合相と解離相をそれぞれ60秒及び600秒間モニターした。二重参照目的で、計測用のランニングバッファー(「ゼロバッファー」ブランク)溶液も含めた。収集した実験データは、Scrubberソフトウェア(www.biologic.com.au)を使用して処理した。速度論パラメーター(ka=会合速度定数及びkd=解離速度定数)、及び平衡解離定数(KD=kd/ka)は、各組の実験データをLangmuir1:1結合モデルにフィッティングさせることにより導出した。全ての相互作用測定を3重に実施し、得られた結合パラメーターを平均値±標準偏差として報告した。
【0360】
β−アレスチン(BRET)アッセイ
(
図3及び14)本試験ではBRETを使用して、以前に検証したBRETを利用したGPCR/β−アレスチン相互作用のモニタリングに基づいて、結果として生じる何らかの近接の増加から、リアルタイム速度論プロファイルを評価した。BRETは、ドナーである相補的レニラルシフェラーゼ(Rluc)変異体とアクセプターである緑色蛍光タンパク質変異体との間に発生する。セレンテラジン基質(第一世代BRET(BRET)用のセレンテラジンhまたは拡張BRET(eBRET)用のEnduRenなど)のRluc触媒酸化によって、10nm以内にある場合、エネルギーがアクセプターへ移動し、その結果アクセプターの発光ピークが特徴的波長となる。BRET β−アレスチンアッセイを前述のように実施した(H.B.,Seeber,R.M.,Kocan,M.,Eidne,K.A.and Pfleger,K.D.(2011)‘Application of G protein−coupled receptor−heteromer identification technology to monitor beta−arrestin recruitment to G protein−coupled receptor heteromers’,Assay Drug Dev Technol,9(1),21−30,10.1089/adt.2010.0336を参照)。CXCR4/Rluc8のcDNA構築物は、Aron Chakera(Oxford University,United Kingdom)から寄贈された、Rlucで標識した対応する受容体cDNAを含むプラスミドから生成した。β−アレスチン2/VenusのcDNA構築物は、Atsushi Miyawaki(RIKEN Brain Science Institute,Wako−city,Japan)から寄贈されたpCS2−Venusから事前に調製した。100nMのSDF−1アゴニストの存在下でCXCR4/Rluc8及びβ−アレスチン2/Venusを一過性発現する細胞のBRET技術を、CXCR4アゴニストのSDF−1/CXCL12及びi−bodyの存在下で評価した。10%のウシ胎仔血清(FCS)及び400mg/mLのジェネテシン(Gibco)を補充した完全培地(0.3mg/mLのグルタミン、100IU/mLのペニシリン及び100mg/mLのストレプトマイシンを含有するダルベッコの改変イーグル培地;Gibco)中に、HEK293FT細胞を、37℃、5%のCO
2で保持した。製造業者の指示に従ってGenejuice(Novagen)を使用し、播種後24時間、トランスフェクションを実施した。0.05%のトリプシン−EDTA(Gibco)を用いて細胞を採取した。FuGene6(Promega)を使用してHEK293FT細胞をトランスフェクトした。HBSS中の5μMのセレンテラジンh(Promega)をルシフェラーゼ基質溶液として使用した。5%のFCSを含有する、HEPES緩衝系フェノールレッドを含まない完全培地中に、トランスフェクションの24時間後に細胞を播種し、ポリ−L−リジンをコーティングした白色96ウェルプレート(Nunc)に添加した。BRETを使用して用量反応曲線を生成し、プレート中の培地を5mMのセレンテラジンh(Molecular Probes)を含有するPBSに置き換えて、直ちにアッセイを実施した。このアッセイでは、トランスフェクションの48時間後、基質平衡に確実に達するようにプレートを30mMのEnduRen(Promega)とともに37℃、5%のCO
2で2時間インキュベートした。全てのBRET測定は、Wallac 1420ソフトウェア搭載VICTOR Lightプレートリーダー(PerkinElmer)を使用して、37℃で取得した。フィルター処理した発光を、400〜475及び520〜540nmで順次測定した。ビヒクル処理した細胞サンプルの、400〜475nmの発光に対する520〜540nmの発光の比率を、様々な濃度のアゴニスト(この場合、SDF−1またはCXCL12の存在下)及びi−body(ADCX−99、ADCX−272、ACDX−6、ACDX−306、ADCX−668)で処理した同じ細胞の第2のアリコートでの同様の比率から減算することにより、BRETシグナルを算出した。データは、2重に実施された4回の独立実験の平均±S.E.M.である。
【0361】
(
図9)製造業者のプロトコルに従って、PathHunter(登録商標)β−アレスチンアッセイ(DiscoveRx)を実施した。細胞を白壁の384ウェル組職培養処理マイクロプレート(Corning)に播種して、総容積20μL中、5,000細胞(または、CXCR4の場合10,000細胞)で正規化した。37℃(5%のCO
2、相対湿度95%)で細胞成長させた。i−bodyまたはAMD3100(Tocris Bioscience)(0.5〜3.8μMで5μL)を単一検体用ウェルに添加し、プレートを37℃で30分間インキュベートした。次に、アゴニストをEC80濃度で添加し、37℃で90分間(または、CCR1の場合180分間)インキュベートを継続した。15μL(50%v/v)のPathHunter検出試薬混合液を単独で添加しアッセイシグナルを生成した後、室温で1時間インキュベートした。マイクロプレートを読み取った後、PerkinElmer Envision装置を用いてシグナルを生成し、相対発光量(RLU)の化学発光シグナルを検出した。CBISデータ解析スイート(ChemInnovation)を使用して化合物活性を解析した。%阻害=100%x[1−(試験サンプルの平均RLU−ビヒクル対照の平均RLU)/(EC80対照の平均RLU−ビヒクル対照の平均RLU)]。
【0362】
Im7−FHはN末端の溶解タグ及び精製タグに対応し、Im7はE.coliタンパク質(Hosse RJ et al(2009)Anal Biochem 15;385(2):346−57)、FHはFlag+6ヒスチジン残基である。
【実施例】
【0363】
実施例1−CXCR4を遮断するi−bodyの同定
サメIgNAR抗体構造から得た原則は、免疫グロブリンスーパーファミリーのヒトIセット領域の結合レパートリー生成に問題なく適用することができる。これについてはWO2005/118629に詳細に記載されている。サメIgNAR抗体は、免疫グロブリンスーパーファミリーのIセットドメイン、例えばNCAMのドメイン1と構造的に近似する。修飾したNCAMドメイン1をi−body足場と呼ぶ。この足場を用いて、ポリペプチドのライブラリを作成してファージ上に提示させ、特定の標的と対照して、その標的に対する特異的結合物質をスクリーニングする。このようなライブラリは、主にCDR1及びCDR3の類似領域に変異性を含むことが予想される。
【0364】
CDR1領域(
図1BにXXXXXXによって表す)及びCDR3領域(
図1BにY’nによって表す)にランダムなアミノ酸配列を有するi−bodyライブラリを作成した。この場合のn(ランダムなCDR3配列内のアミノ酸数)は、配列番号2に従ってアミノ酸の長さと配列が10〜20の間でランダムに変化する。本開示のi−bodyは、配列番号1のアミノ酸残基1〜26、33〜79及び88〜97に対応する足場領域、または少なくともそれと60%同一である配列を含むか、さもなければ1〜5個のアミノ酸付加または置換を含み得る。一例では、足場領域は、配列番号2に指定された配列、または1〜5個のアミノ酸付加または置換を含む配列番号2に指定された配列を含む。
【0365】
配列番号2の相補性決定領域(CDR1及びCDR3)は、それぞれ配列番号1のアミノ酸位27〜32及び80〜86によって表された配列番号1の対応するCDR1及び/またはCDR3領域と比較して、アミノ酸付加及び/または置換によって修飾されている。その結果得られるi−bodyポリペプチドは、50μM未満の親和性でヒトCXCR4と結合することが可能である。
【0366】
一例では、配列番号2のA’及びB’はアミノ酸残基のいずれかである。
【0367】
一例では、配列番号2のA’はアミノ酸QまたはKであり、配列番号2のB’はアミノ酸残基VまたはAである。更なる例では、配列番号2においてA’はQであり、B’はVまたはAである。
【0368】
配列番号2は、M、EAEA、MAまたはMPからなる群から選択される1〜4個の連続したN末端アミノ酸残基を更に含むことができる。
【0369】
脂質粒子に提示されるか、またはHEK細胞株に発現するヒトCXCR4(hCXCR4)と対照して、ファージ上に提示されたi−bodyを選別し、続いてプレートもしくはビーズに捕捉された、または溶液中にCXCR4陽性細胞を含む、i−bodyライブラリ及びhCXCR4脂質粒子をインキュベートした。いずれのフォーマットでも、徹底的な洗浄を完了し、非特異的結合物質を除去した。hCXCR4陽性脂質粒子または細胞の存在量を観察し、単一コロニーを選抜して成長させた。i−body足場の配列は、CDR1及びCDR3領域の特異的領域を除き同一のままである。hCXCR4と特異的に結合した単一コロニーのCDR1及びCDR3配列を、表1に詳述する。CXCR4に対するi−bodyの親和性を表1に、ADCX−99に対する親和性を
図5に、i−bodyのADCX−306、ADCX−272及びADCX−668に対する親和性を
図2に記載する。
【0370】
また、i−body結合物質ADCX−99、ADCX−272、ADCX−6、ADCX−306及びADCX−668がβ−アレスチンを調節する能力を
図3に示す。
【0371】
【表3】
【0372】
加えて、CXCR4と結合しない対照i−bodyを作製し、これを21H5と称した。これをアイソタイプ対照として使用した。このi−bodyの配列を以下に示す:
LQVDIVPSQGEISVGESKFFLCQVAGDAKDKDISWFSPNGEKLTPNQQRISVVWNDDSSSTLTIYNANIDDAGIYKCVVTGSDAMSNYSYPISESEATVNVKIFQ(配列番号82)
【0373】
実施例2−CXCR4を遮断するi−bodyの特性決定
2.1 E.coliにおけるi−bodyの発現及び精製
E.coli発現系を使用してi−bodyを発現させ、精製した。E.coli免疫タンパク質(Im7)FLAG及び6xHISを含む種々の親和性タグ(
図4でIm7−FHと称する)を付けてi−bodyを発現させた。それぞれ抗FLAG樹脂またはNi−NTA樹脂を用いた各種のタグを利用して、i−bodyを周辺質分画及び細胞質から精製した。サイズ排除クロマトグラフィーの結果を
図4に示す。
【0374】
2.2 Pichiaにおけるi−bodyの発現及び精製
i−bodyの遺伝子をPichia発現ベクターにクローニングした。クローン選択の一部最適化後のタンパク質力価は、小規模(2mlスケール)で3〜9mg/Lの範囲であった。発酵スケールでは、収率は26〜150mg/Lであった。更なるパラメーター(例えば温度、pH、供給速度及び供給手法)を発酵レベルで最適化すると、収率を改善することができた。大規模な発現及び精製後、i−bodyをSDS−PAGEによって特性決定した。i−bodyはサイズに応じて移動するとき、本質的に無傷であることが示された(図示せず)。
【0375】
2.3 CXCR4と結合するi−bodyの親和性と特異性
BIAcoreアッセイにおいて、i−body ADCX−99は固定化されたCXCR4陽性脂質粒子(A)と結合することが示されたが、無効な脂質粒子(B)に対して、またはGPCR CCR5(C)に対して陽性であった脂質粒子に対しては、ごくわずかな結合性しか示さなかった。これは、i−body ADCX−99がCXCR4に対して特異的であることを示す(
図5)。
【0376】
CXCR4との親和性が同定されたi−bodyの1つであるADCX−99は、
図5のBiacoreアッセイによる測定では、CXCR4陽性脂質粒子に対して約600nM(622.877nM)のK
Dであった。
【0377】
BIAcoreアッセイにおいて、i−body ADCX−272は固定化されたCXCR4陽性脂質粒子と結合することが示された(
図2)が、無効な脂質粒子に対して、またはELISAによってGPCR CCR5に対して陽性であった脂質粒子に対しては、ごくわずかな結合性しか示さなかった(
図7B)。これは、i−body ADCX−272がCXCR4に対して特異的であることを示す。
【0378】
i−body ADCX−272のCXCR4との親和性は、Biacore(
図2B)による測定で、CXCR4陽性脂質粒子に対して約1.6uMのK
Dであることが決定された。
【0379】
実施例3−i−bodyの親和性成熟
i−body ADCX−99を、エラープローンPCRを使用して親和性成熟した。これは2種類の方法、すなわちCDR1及びCDR3を対象としたランダムな突然変異のライブラリを作成する方法、または配列内のいずれかの場所に平均2〜3のヌクレオチド突然変異を使用する方法のいずれかで実施した。ライブラリは、Henderson et al.(2007)Structure 15:1452−66に従ってパンニングした。この手法を用いて、i−body ADCX−99のCDR1及び/またはCDR3領域を修飾し、親和性または発現を改善した突然変異体のライブラリを作成した。
【0380】
3.1 i−bodyの発現レベル、親和性及び特異性の改善
親和性成熟させたADCX−99の90のランダムな突然変異体i−bodyを96ウェルプレート中で培養した。周辺質分画の分析はタンパク質の発現を示し、親和性レベルは突然変異体クローン間で有意に変化した。ADCX−99と比較して、いくつかの突然変異体クローンは、野生型ADCX−99 i−bodyよりも良好な発現因子であった(
図6)。
【0381】
次に、同じ90のクローンの、CXCR4陽性脂質粒子との結合性について検討すると、大部分のクローンはCXCR4陽性脂質粒子に対して低い親和性を有したが、いくつかのクローンは高い親和性を示したことが観察された(
図7−1)。突然変異体i−bodyクローン36及び39は、野生型ADCX−99 i−bodyと比較して、このアッセイのCXCR4陽性脂質粒子に対して高い結合性を有することが明らかであった。突然変異体i−bodyクローンのCCR5陽性脂質粒子との結合性についても検討した(
図7−2)。i−body突然変異体クローン36及び39は、CXCR4に特異性を示す野生型ADCX−99(
図7−2)と同様に、CCR5に対して低い結合性を有した。
【0382】
ADCX−99の突然変異体クローンに更にもう1周、親和性成熟を施し、1000の突然変異体クローンにわたって親和性及び発現の改善を調べた。
【0383】
親和性成熟したi−bodyのコンセンサス配列を
図1Dに示す(配列番号39)。CD1及びCDR3領域はそれぞれ、SX
1SX
2X
3R及びY’
1RY’
2GY’
3YRHRY’
4LY’
5LGで表される。
【0384】
本開示の親和性成熟されたi−bodyは、配列番号1のアミノ酸残基1〜26、33〜79及び88〜97に対応する足場領域、または少なくともそれと60%同一である配列を含むか、さもなければ1〜5個のアミノ酸付加または置換を含み得る。一例では、ポリペプチドは、配列番号2に指定された配列、または1〜5個のアミノ酸付加または置換を含む配列番号2に指定された配列を含む。
【0385】
一例では、配列番号39のA’及びB’はアミノ酸残基のいずれかである。
【0386】
一例では、配列番号39のA’はアミノ酸QまたはKであり、配列番号39のB’はアミノ酸残基VまたはAである。更なる例では、配列番号39においてA’はQであり、B’はVまたはAである。
【0387】
一例では、Zは存在しないか、M、EAEA、MAまたはMPから選択されるアミノ酸である。改善された親和性成熟配列の一覧を表2に記載する。
【0388】
【表4】
【0389】
ADCX−99のコンセンサス配列(配列番号2及び39)と比較して修飾されたアミノ酸位の一覧を
図1に示す。
図8は、親和性成熟された各i−bodyに対応する特定のアミノ酸残基置換を示す。下線は、各配列のCDR1及びCDR3領域に対応する。
【0390】
表3は、脂質粒子に発現したCXCR4に対する上位20の親和性成熟されたi−bodyのオフレートに関する改善をまとめたものである。
【0391】
【表5-1】
【表5-2】
【0392】
表4は、脂質粒子に発現したCXCR4に対する上位20の親和性成熟されたi−bodyの親和性(Ka、Kd及びK
D)をまとめたものである。
【0393】
【表6】
【0394】
表4の親和性成熟された結合物質の特異性を多数のケモカインに対して決定し、これを
図9に示す。結果は、標的CXCR4と高特異性を示すが、他のケモカインGタンパク質共役受容体(GPCR)との結合性は限定的であることを示している。
【0395】
3.2 親和性成熟されたi−bodyの発現レベル、親和性及び特異性の改善
ADCX−99のCDR1内において28位でG>Kへのアミノ酸置換が、31位でI>Fへのアミノ酸置換が行われ(
図1DにそれぞれX
1及びX
3で指定)、ADCX−99配列のCDR3内において89位でA>Yへのアミノ酸置換(
図1DにY
4で指定)が行われた場合、10mg/Lから14mg/Lへの発現の改善が観察された。これをAM4−661に対応する配列で表す。ADXC−99に対するAM4−661のアライメントを
図10Aに示す。
【0396】
ADCX−99のCDR1内において28位でG>Yへの置換(
図1DにX
1で指定)が、31位でI>Yへの置換(
図1DにX
3で指定)が行われ、ADCX−99のCDR3内において82位でT>Iへの置換(
図1DにY
2で指定)が、89位でA>Yへの置換(
図1DにY
4で指定)が行われた場合、700nM超から1nMへのCXCR4に対する親和性の改善が見られた。これをAM4−272に対応する配列によって明示する。アライメントを
図10Bに示す。
【0397】
ポリペプチドAM3−114、AM5−245及びAM3−523には、CXCR4に対する特異性の改善が観察された。ADCX−99では34%であったCCR4活性(DiscoverX β−アレスチンアッセイで測定)が、AM3−114、AM5−245及びAM3−523ではそれぞれ−3%、−5%及び−2%減少した。全3つのポリペプチドは、ADCX−99のCDR3内の80位にY>Wへの置換(
図1DにY
1で指定)、ADCX−99のCDR1内の30位にD>GまたはHへの置換(
図1DにX
2で指定)を有した。アライメントを
図10Cに示す。
【0398】
実施例4−i−bodyの半減期の改善
4.1 CXCR4及びヒト血清アルブミンに対する二重特異性
18残基のヒト血清アルブミン(HAS)結合ペプチド(N末端)−RLIEDICLPRWGCLWEDD−(C末端)(US20100104588;Dennis MS et al(2002)J.Biol.Chem.277,35035−35043に記載)をAM3−114のC末端にコンジュゲートしてAM3−114−Im7−SA21(配列番号80)を生成することにより、二重特異性i−bodyを作製した。Im7タンパク質は、コンジュゲートの検出を容易にするために使用した。
【0399】
図11に示すように、表面プラズモン共鳴法によってCXCR4及びHSAに対する親和性を測定した。二重特異性CXCR4及びHSA結合物質AM3−114−Im7−SA21は、CXCR4に対して約5〜10nMの親和性、及びヒト血清アルブミン(HSA)に対して約500nMの親和性を示した(
図11A)。CXCR4に対する親和性は、18残基のHSAペプチドSA21を付加してもしなくても変化しなかった(それぞれ
図11C及びD)。i−body AM3−114は、18残基のHSAペプチドSA21を付加しないHSAとは結合しなかった(
図11B)。したがって、このコンジュゲートはCXCR4及びHSA両方と特異的結合を示している。
【0400】
4.2 i−bodyのPEG化
i−body分子の流体力学的半径を増加させ、それによって腎排泄及び肝排泄を低減するため(Konterman et al 2011 Curr Opin Biotech 22:868−8760)、AM3−114−Im7−FH及びAM4−746−Im7−FH[Im7−FHはN末端の溶解性精製タグに対応し、Im7はE.coliタンパク質(Hosse RJ et al(2009)Anal Biochem 15;385(2):346−57)、FHはflag+6Hisである]を、部位特異的コンジュゲート手法(HiPEG(商標)technology,PolyTherics,UK)を利用して30Kの直鎖PEGまたは2x20Kの分岐PEGにコンジュゲートした。
【0401】
4.3 i−bodyの半減期延長の評価
マウスの前臨床薬物動態学的試験において、PEG化材料(AM3−114−30K PEG、AM3−114−2x20K PEG、AM4−746−2x20K PEG)と1つのHSAペプチドのコンジュゲート(AM3−114−Im7−FH−SA21)を、対照i−bodyであるADCX99−9H(ヒスチジン9個のタグ)及びAM3−114−Im7−FH(Im7タンパク質とFLAG+6 Hisタグの両方を含む)と比較して評価した。試験品目を、以下の表4に記載するように、マウス群に1回ずつ静脈内注射投与により投与した。
【0402】
【表7】
【0403】
1、2及び5群の動物に投与された用量容積は3mL/kgであった。3群の動物に投与された用量容積は2mL/kgであった。4群及び6群の動物に投与された用量容積は1.25mL/kgであった。以下の通りの投薬後に、全マウスから一連の血液サンプル(0.3mL、2つの時点/マウス3/群/時点)を採取した。
【0404】
【表8】
【0405】
この目的のために、各マウス(CD−1マウス)を伏在静脈経由、または心臓穿刺によるイソフルラン麻酔法下で採血し、サンプルを血液凝固阻止剤K
2−EDTAを含有する管に採取した。管は処理するまで湿った氷上に配置した。最後の採血後、各動物を頚椎脱臼によって安楽死させ、それ以上検査せずに廃棄した。
【0406】
採取後、サンプルを遠心分離(約4℃)し、得られた血漿を2つのアリコートに分けて回収し、Protein LoBindとラベルした1.5mLの管(エッペンドルフ、カタログ番号022431081)中で冷凍保存(60℃以下)した。ADCX99−9H、AM3−114−IM7−FH、AM3−114−Im7−FH−SA21、AM4−746−2x20K PEG、AM3−114−30K PEG及びAM3−114−2x20K PEGの濃度をLC−MS/MS分析法によって測定した。サンプルの前処理には、ADCX99−9H、AM3−114−IM7−FH、AM3−114−Im7−FH−SA21、AM4−746−2x20K PEG、AM3−114−30K PEG及びAM3−114−2x20K PEGを直接トリプシン消化して、CD−1マウス血漿由来のシグネチャーペプチド(sPeptide)を得ることを必要とした。内部標準物質としてGEKLTPNQQRIGを使用した。ADCX99−9H、AM3−114−IM7−FH、AM3−114−Im7−FH−SA21、AM3−114−30K PEG及びAM3−114−2x20K PEGに関しては理論濃度範囲0.500μg/mL〜100.000μg/mL、及びAM4−746−2x20K PEGに関しては0.083μg/mL〜16.667μg/mLにわたって化合物を同定して定量化した。ADCX99−9H、AM3−114−IM7−FH、AM3−114−Im7−FH−SA21、AM4−746−2x20K PEG、AM3−114−30K PEG及びAM3−114−2x20K PEGの原液は公称−80℃で保存し、GEKLTPNQQRIG内部標準物質は4℃で保存した。
【0407】
Turboイオンスプレーを用いたAB Sciex API 5000またはQTRAP 5500四重極質量分析計を、ADCX99−9H、AM3−114−IM7−FH、AM3−114−Im7−FH−SA21、AM4−746−2x20K PEG、AM3−114−30K PEG及びAM3−114−2x20K PEGの検出に使用した。
【0408】
図12ならびに表6A及び6Bに示すように、AM3−114 i−bodyの半減期は、SA21 HSA結合ペプチドの付加、PEG 30K及びPEG 2x20Kの付加いずれによっても延長された。
【0409】
【表9】
【0410】
4.4 XTENタンパク質配列のi−bodyとの融合
PEG化に代わるものとして、発明者らは、i−bodyのin vivo半減期を延長するためにi−bodyへ約400残基の擬似反復配列を付加し、それに続いて精製/検出のためのC末端Hisタグを利用するXTEN方法の有用性を検討した。XTEN配列は本質的に非構造的に操作されるため、非免疫原性であり、また高親水性でもあるため、必然的に発現/精製/下流応用時にi−bodyの溶解性及び安定性を与える効果がある(Schellenberger et al,(2009)Nature Biotech;27(12):1186−1190)。
【0411】
AM3−114を細菌発現ベクター(pET26)にクローニングして、初期発現試験を実施した。ウェスタンブロッティングは、誘導化されていない対照には存在しない抗His抗体と反応性であるバンドを示す。これは、AM3−114−XTEN構築物が確かに発現していることを強く示唆する。AM3−114−XTEN構築物の推定MWは約50kDaであり、目的とするバンドは見かけの分子量で100kDaを少し超える程度である(データ示さず)。このことは、以前に他の非構造化タンパク質について観測された現象である、ibodyの電気泳動移動度の有意な減少を引き起こす高度に非構造的で酸性のXTEN群によって推定される移動度シフトと一致する。
【0412】
この物質をフローサイトメトリーによってRAMOS細胞でのCXCR4との結合性について試験し、用量依存的な方法で結合することを示した。結合性はAM3−114 i−bodyの場合よりもわずかに減少しただけであった。これは114−XTENが有効であったことを示している。AM3−114−XTENをSPRで試験したところ、親和性はわずかに減少したが、脂質粒子上のCXCR4との結合性は依然として保持されることがわかった。興味深いことに、オフレートはXTENのないi−bodyと近似しているため、親和性の低下は主にオンレートによるものであることは明らかである(データ示さず)。
【0413】
4.5 i−bodyのPAS化
i−bodyの半減期を延長するもう一つの方法は、PAS化技術を使用することである。小アミノ酸のプロリン、アラニン及び/またはセリン(「PAS」)の数百個の残基からなるポリペプチド配列とi−bodyを遺伝的に融合する。このPAS配列、特にPAS(400)及びPAS(600)は水溶液中でランダムコイル構造を採ることにより大きな流体力学的容積を生成し、血中でのタンパク質の半減期の延長を可能にする。この配列と融合されたタンパク質はまた、免疫原性及び毒性が極めて低いことも報告されている(Schlapschy et al.Protein Eng Des Sel(2013)26:489)。この配列を標的タンパク質と融合すると、マウス体内での半減期を延長し、また標的タンパク質のドラッグライク特性を向上させることが示されている。
【0414】
i−bodyのC末端にPAS配列を融合し、タンパク質をE.Coli中で発現させる。
【0415】
実施例5−i−bodyの機能的特徴
5.1 CXCR4トランスフェクト細胞でのcAMPの調節
DiscoveRxは、cAMP経由でシグナル伝達する未標識GPCRを安定的に発現する細胞株のパネルを開発した。Hit Hunter(登録商標)cAMPアッセイは、抑制調節性Gタンパク質(Gi)及び刺激調節性Gタンパク質(Gs)の二次メッセンジャーシグナル伝達を介したGPCRの活性化を、DiscoveRxが開発したEnzyme Fragment Complementation(EFC)と呼ばれる技術と機能的レポーターとしてのβ−ガラクトシターゼ(β−Gal)を使用して均質な非イメージングアッセイ形式でモニターする。酵素は、酵素アクセプターであるEAと酵素ドナーであるEDという2つの相補的部分に分かれている。EDはcAMPと融合されており、アッセイにおいてcAMP特異抗体との結合を、細胞が産生するcAMPと競合する。外部からのEAと、いずれかの結合していないED−cAMPとの相補性によって活性型β−Galが形成される。次いで活性酵素により化学発光基質が変換され、生じた出力シグナルを標準的なマイクロプレートリーダーで検出することができる。
【0416】
方法
細胞処理
cAMP Hunterの細胞株を、標準的手順に従って凍結貯蔵株から復元した。次に総容積20μLの細胞を、白壁の384ウェルマイクロプレートに播種し、試験までの適切な時間、37℃でインキュベートした。製造業者の指示に従ってDiscoveRx HitHunter cAMP XS+アッセイを使用してcAMPの変化を測定した。
【0417】
アンタゴニスト形式
アンタゴニストを決定するため、CXCR4を発現するHunter細胞をサンプルとともにプレインキュベートし、続いてEC80濃度のアゴニストを負荷した。(Gi cAMPアッセイの場合、濃度15μMのフォルスコリンを使用した)。培地を細胞から吸引し、10μLの1:1のHBSS/Hepes:cAMP XS+Ab試薬と交換した。CXCR4に対する、5μLの4倍原液のAMD3100またはi−bodyを細胞に添加し、37℃または室温にて30分間インキュベートした。5μLの4倍EC80アゴニストSDF−1を細胞に添加して、37℃または室温にて30または60分間インキュベートした。GiとGPCRの結合には、EC80フォルスコリンを加えた(濃度15μMのフォルスコリンを使用した)。
【0418】
シグナル検出
適切な化合物をインキュベートした後、20μLのcAMP XS+ED/CL細胞溶解混合液を加えて1時間インキュベートした後、20μLのcAMP XS+EA試薬を加えて室温で3時間インキュベートしてアッセイシグナルを生成した。化学発光シグナルを検出するためのPerkinElmer Envision(商標)装置を用いてシグナルを生成してマイクロプレートを読み取った。
【0419】
結果
次に、対照i−body(21H5)、AMD3100及びi−bodyのAM3−114、AM4−272、AM3−523、AM4−746、AM4−1121(IC50)によるcAMPの阻害を測定した。データを表7及び
図13に示す。CXCR4のようなケモカイン受容体は主にGαi結合型であり、したがって二次メッセンジャーcAMPを経由したシグナルである。サイクリックAMP(cAMP)の調節は、SDF−1と種々の細胞シグナル伝達間の相互作用にとって重要であり得る。in vitroでcAMPレベルを調節する能力について、CXCR4 i−bodyのパネルを調べた。前述のアンタゴニストAMD3100は、615nMの推定IC50でcAMPを用量依存的に阻害する効果を示した。i−bodyは、各細胞においてSDF−1誘発性のcAMPの減少を妨げる上で非常に効果的であった。実際、どのi−bodyもAMD3100より低いIC50値を有した。IC50の結果に基づくと、CXCR4結合i−body、AM3−114は、cAMPの強力な阻害剤である。
【0420】
これらのデータは、i−bodyがCXCR4と結合できるとともに、Gαiシグナル伝達経路などの主要な機能的シグナル伝達を阻害することができ、カルシウム流入に影響を及ぼすGq経路を遮断せずにcAMPの調節を制御することを示唆している。このような理由からi−bodyは炎症及び線維症を予防できるだけでなく、幹細胞を動員しないため、長期療法に使用する際に利点となり得る。
【0421】
【表10】
【0422】
5.2 CXCR4トランスフェクト細胞でのカルシウムの調節
CXCR4トランスフェクト細胞をi−bodyまたはAMD3100で30分間処理し、次いで100ng/mlのSDF−1で30分間刺激した。その後、対照またはi−body(IC
50)によるCa2+流入の阻害を測定した。
【0423】
材料
細胞
ヒトCXCR4受容体を安定発現する哺乳動物細胞を、Multispan,Inc(カタログ番号C1004−1)によって内部で作製した。使用する対照アゴニストはSDF−1(Peprotech、カタログ番号300−28A)であった。
【0424】
化合物
40uMまたは10mMの7つの化合物/i−body(21H5、AM3−114、AM4−272、AM3−523、AM4−746、AM4−1121及びAMD3100)を液体形態にて試験した。AMD3100(別名プレリキサフォルまたはモゾビル)は、CXCR4の小分子アンタゴニストであり、市販されている。これを陽性対照として使用した。
【0425】
カルシウムアッセイキット
Screen Quest(商標)Fluo−8 No Washキット(AAT Bioquest、カタログ番号36315)
【0426】
装置
FLIPR 384(分子デバイス)
【0427】
方法
カルシウムアッセイ
細胞を適切な濃度で384ウェルプレートに播種し、一晩培養した。カルシウムアッセイを製造業者のプロトコルに従って実施した。カルシウム色素を負荷した緩衝液を細胞に添加して、37℃で1時間インキュベートした。化合物を19秒間隔でウェルに注入しながら、カルシウム流入を120秒間モニターした。アンタゴニストモードでは、担体または化合物を細胞とともに30分間プレインキュベートした後、用量反応曲線から得たEC80濃度の対照アゴニストを加えてカルシウム流入を測定した。データを表8及び
図14に示す。カルシウム流入はGq経路によって誘導されるため、この結果は、試験したi−bodyの全てがGq経路を有意に調節しないことを示唆している。したがって、i−bodyはカルシウム流入を調節しない。
【0428】
【表11】
【0429】
5.3 CXCR4トランスフェクト細胞でのβ−アレスチンの調節
例えばHeng B et al(2011)Assay and Drug Development Technologies 9(1):21−30に記載されているβ−アレスチンBRETアッセイで、CXCR4へのi−bodyの結合を調べた。i−bodyがCXCR4活性のアゴニストであるかアンタゴニストであるかを特性決定するため、「ビヒクル」及び「SDF−1+ビヒクル」対照とともに、100nMのSDF−1がある場合とない場合の10種の濃度でi−bodyを調べた。
【0430】
各結合物質のβ−アレスチンBRETアッセイの結果を表9及び
図15に示す。AMD3100は、IC50が18nMであるのに対して、親CXCR4 i−body(ADCX−99)はβ−アレスチンの動員に対して極めて弱い効果を有した。おそらくこれは、SPRによって示されたCXCR4に対する低親和性(643nM)によると思われる。i−bodyパネルのIC50値は、AM3−114及び127で164nM、AM3−523で13nMの範囲であった。こうしたβ−アレスチン動員の変化は、結合領域内の1〜10個のアミノ酸の変化によって生じるものである。
【0431】
【表12】
【0432】
実施例6−i−bodyの結合特性
表面にヒトCXCR4を発現するいずれかの細胞を使用して、本明細書に記載するCXCR4結合分子またはポリペプチド(i−body)がネイティブ細胞表面のCXCR4と結合する能力を調べることができる。そのような細胞株の例としては、ヒトT細胞株、CEMならびに他の細胞株、例えばRamos、Raji、Namalwa、L540、DMS79、MDA−MB−231、MDA−MB−361、MDA−MB−549、MOLT−4、DU−4475、DU−145、PC3、LNcaP、SW480、HT29、NCI−H69及びHL60が挙げられる。
【0433】
6.2 フローサイトメトリー分析によるi−bodyのin vitro結合親和性
細胞をi−bodyのAM3−114、AM4−272、AM3−523、AM4−746及びAM4−1121(10μM、1μM及び0.001μM)で処理して、染色強度をフローサイトメトリー分析によって評価した。試験した細胞株は、T47D(CXCR4陰性)、MDA−MB−231(CXCR4低発現)、及びNamalwa、NCI−H69、Jurkat、CCRF−CEM、A498、Ramos(CXCR4高発現)であった。
【0434】
方法
細胞株を採取して、細胞を96ウェル組職培養プレートに移した(2x10
5細胞/ウェル)。次に、培養プレートを1000rpm、4℃で5分間遠心分離した。試験抗体を含有する100uLのPBS緩衝液で細胞を再懸濁し、4℃で60分間インキュベートした。細胞を300ulの氷冷FACS緩衝液で2回、1000rpmで5分間、洗浄して、(i−bodyに対する)抗His−PE抗体を含有する100ulのPBS緩衝液で再懸濁し、暗所にて4℃で40分間インキュベートした。次に、細胞を300ulの氷冷FACS緩衝液で2回、1000rpmで5分間、洗浄して、細胞を300ulの懸濁緩衝液で再懸濁し、標準方法に従ってFACS分析を施した。
【0435】
フローサイトメトリー分析によって実証したCXCR4に対する結合親和性を
図16−1〜16−3に示す。これは、代表するi−body、AM3−114のT47D細胞(A)、Namalwa細胞(B)、MOLP8(C)、MOLT4(D)、Jurkat細胞(E)、CCRF−CEM(F)、A498(G)、Ramos(H)、NCI−H69(I)及びHL−60(J)での結果である。細胞株は、3種類のi−body濃度(10μM、1μM及び0.001μM)で試験した。例外としてNamalwa細胞は4.7、2.1、0.47、0.21、0.1及び0.01μMのi−bodyでも試験した。
【0436】
実施例7−i−bodyによるSDF−1とのCXCR4結合の競合
7.1 i−bodyのCXCR4への結合競合性のSPR分析
WO2005/042695に記載されているように、リポタンパク質(IntegraMolecular)を含有するCXCR4を利用して、SDF−1のCXCR4への結合を阻害するi−bodyの能力を決定する競合試験を実施した。
【0437】
表面プラズモン共鳴(SPR)によって、CXCR4 i−bodyパネルのリガンドSDF−1との競合能力を試験した。
図17は2つのi−bodyの例を示す。1つは用量依存的にSDF−1と競合し(AM3−114、
図17A)、もう1つはあまり競合しなかった(AM4−272、
図17B)。CXCR4脂質粒子を、2nM、50nM及び200nMのi−body及びSDF−1と同時注入した。
【0438】
表12は、各i−bodyがCXCR4陽性脂質粒子への結合をSDF−1と競合する程度(+によって示す)を示す。
【0439】
【表13】
【0440】
7.2 種々のCXCR4結合分子による、i−bodyのCXCR4への結合競合性のフローサイトメトリーアッセイ
N末端配列EAEAを含むCXCR4 i−body(AM3−114−6H、AM4−272−6H及びAM3−523−6H)の、細胞表面に発現したCXCR4への結合性、及びSDF−1の結合を競合する能力を、フローサイトメトリーを使用して評価した。i−bodyを100μlのFACS緩衝液(1xPBS及び2%のFCS)中のRamos細胞とともに4℃で60分間インキュベートした。2mlの氷冷FACS緩衝液で2回洗浄した後、細胞を1,500rpmで5分間遠心分離して、細胞を抗His−PE抗体(MACS Molecular、注文番号:130−092−691)を含有する100μlのFACS緩衝液で再懸濁し、暗所にて4℃で40分間インキュベートした。このアッセイは堅調であり、これを使用して、i−bodyとSDF−1及び他のアンタゴニストとの競合を検討することができる。この場合、各i−body(0.5μM)は単独でまたは過剰なSDF−1(2μM)、MAb12G5(2μM)及びAMD3100(2μM)の存在下で、細胞とともにインキュベートした。3つ全てのi−bodyの結合性が、2μMのAMD3100の添加時に減少した(
図18)。SDF−1は、AM4−272と効果的に競合することが可能であったが、AM3−114及びAM3−523とは部分的にしか競合しなかった。3つ全てのi−bodyがAMD3100と競合した。このことは、i−bodyの結合部位と、この小分子との間に類似性があることを示している。抗CXCR4 MAb 12G5は、ほぼ完全に523の結合性を減少させ、かつAM3−114及びAM4−272の結合を部分的に妨げることが可能であった。
【0441】
実施例8−i−bodyによるCXCR4発現細胞の遊走の阻害
本明細書に開示するCXCR4結合分子またはポリペプチド(i−body)が、SDF−1によって誘導される遊走を阻害する能力を、転移可能性及び転移特性の観点からin vitro及びin vivoの両方で特徴が顕著である乳癌細胞株MDA−MB−468及び前立腺癌細胞株PC3を用いて検討することができる(Kaighn et al 1979 Invest Urol.17(1):16−23.Yoneda et al 2000 Cancer 88:2979−88)。MDA−MB−468細胞は、ヌードマウスの原発性乳房脂肪体腫瘍から肺へ浸潤して転移する。この方法は、Byeong−Chel Lee et al(2004)Mol Cancer Res 2;327に記載されている。簡潔には、フィブロネクチン(50μg/mL)でコーティングしたトランスウェルインサート(Costar Corp.,Cambridge,MA)に細胞を添加する。次に、MDA−MB−468細胞及びPC3細胞を無血清培地中で一晩飢餓状態にした後、抗CXCR4 i−bodyとともにインキュベートし、8μm細孔径のトランスウェルインサートに付着させる。500μLのRPMI 1640中に7x10
4/mLの最終濃度で、細胞を上部チャンバに懸濁させる。順次希釈した組換えSDF−1を下部チャンバに添加する。3〜9時間のインキュベート後、フィルター上面の細胞を綿棒で拭って除去し、下部チャンバの遊走細胞を固定化して、製造業者の指示に従ってHema3キット(Biochemical Sciences Inc.,Swedesboro,NJ)を使用して染色する。次に、4分割した顕微鏡視野の視野ごとに細胞遊出を計数する(Kashima et al Cancer Sci 105(2014)1343−1350;Zhu et al Molecular Cancer Research(2013)11(1)86−94)。
【0442】
実施例9−i−bodyによる血管形成の阻害
HUVEC中の表面SDF−1またはCXCR4の不活化は、マトリゲルでコーティングした表面に管状構造を配列するHUVECの能力を減衰する。HUVECがマトリゲル依存的な管状構造を形成する能力に対する、本開示のi−bodyの効果を、Liang et al,Biochem Biophys Res Commun.2007 August 3;359(3):716−722に従って試験することができる。毛細管形成アッセイを実行するために、CXCR4 i−bodyアンタゴニストを、それぞれ100nM、5μM及び1μg/ml濃度のヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)とともに室温で10分間プレインキュベートした後、播種した。次に、1%のFBS及び200ng/mlのSDF−1を加えた濃度1x10
5細胞/mlのM199培地のマトリゲル層上で細胞を播種する。18時間後に、ウェルを4倍率でランダムに5視野撮影し、それらの脈管網の数を計数する。
【0443】
実施例10−i−bodyによるin vitroでの腫瘍細胞増殖の阻害
本明細書に開示するCXCR4分子またはポリペプチド(i−body)が、Ramos腫瘍細胞、すなわち前述のCXCR4を発現するヒトバーキットリンパ腫細胞株のin vitroでの増殖を阻害する能力を、(Lapteva(2005)Cancer Gene Therapy 12,84−89)に記載されているMTT細胞増殖アッセイで検討した。細胞を96ウェル組職培養プレートで成長させ、ビヒクルまたは抗CXCR4 i−bodyで処理した。次に、MTT溶液を加えて細胞を約4時間インキュベートした。このインキュベーション後、非水溶性ホルマザン色素が形成される。可溶化後、走査マルチウェル分光光度計(ELISAリーダー)を使用してホルマザン色素を定量化する。出現した吸光度は、細胞数と直接相関する。
【0444】
i−bodyのAM3−114は10μMでRAMOS細胞の成長を実質的に阻害できることがわかった。この効果は特に、i−bodyの添加後24〜48時間で顕著であったが、i−bodyの添加から72時間後もまだ細胞の阻害は十分であった。予測した通り、AMD3100もまた、この期間の細胞成長を阻害することが可能であった。2つの対照i−body(21H5及びAM8−7)は、細胞成長にほとんど影響を及ぼさなかった。i−bodyのAM4−272には小さい阻害効果があったが、AM3−523にはこのアッセイで観察可能な効果はなかった。i−bodyは、正常なHEK細胞に影響を及ぼさなかった。
【0445】
実施例11−i−bodyによるアポトーシスの誘導
本発明のi−bodyが、Ramos腫瘍細胞(ヒトバーキットリンパ腫細胞株)のアポトーシスを誘導する能力を、Mishra M et al(2011)J Cell Mol Med 15(11):2462−77に記載されている方法によるアポトーシスアッセイで検討した。i−bodyをRamos細胞とともにインキュベートし、24時間または72時間後にフローサイトメトリーによって検討した。アポトーシスの従来的な標識であるアネキシンV及びヨウ化プロピジウムで細胞を染色した。二重陽性であった細胞はアポトーシス化されたと評価した。3種のCXCR4 i−body(AM3−114−6H、AM4−272−6H及びAM3−523−6H)は、強いアポトーシス誘導が可能であった(
図19)。未処理の細胞は、細胞が本来は健全であったことを示す陰性対照の役割を担った。タプシガルギンは、定評あるアポトーシス誘導試薬であり、アポトーシスの予測レベルを示す。AMD3100は、Ramos細胞において有意なアポトーシスを誘導しない。このことは、ヒト抗CXCR4 mAb MDX−1338が、Ramos細胞においてアポトーシスを誘導することが可能であったが、AMD3100は誘導しなかったことを示す先の報告と整合性がある(Kuhne et al Clin Cancer Res(2013)19(2):357−66)。
【0446】
実施例12−i−bodyのin vivo腫瘍との結合
12.1−CCRF−CEM細胞を静脈内注射したSCID/bgマウスの脾臓及び肝臓内の腫瘍のi−bodyによる染色
130μg/mlの抗CXCR4 i−body(AM3−114−6H、AM4−272−6H及びAM3−523−6H)を使用した免疫組織化学染色を、CCRF−CEM細胞を静脈内注射し、27日後に犠牲死させたSCID/bgマウスの脾臓及び肝臓に実施した。組織を10%の中性緩衝ホルマリン中で一晩固定化した後、組織カセットに移して70%のエタノール中に静置した。次に組織をパラフィン包埋した。4μMの切片を収容したスライドを、キシレンを取り替えて5分ずつ2回、続いて100%のエタノールを取り替えて3分ずつ2回、70%のエタノールで2分間、50%のエタノールで2分間、及び蒸留水で5分間インキュベートすることにより、脱パラフィン及び水和した。10mMのクエン酸溶液(pH6.0)中のスライドを80℃のオーブン内で一晩インキュベートすることにより、抗原回復を実施した。その後、スライドをPBSで洗浄し、0.4%のH
2O
2を含有する10%メタノールに30分間浸漬した。浸漬処理後、CXCR4特異的i−body(AM3−114−6H、AM4−272−6HまたはAM3−523−6H)及び対照i−body(21H5−6H)を加えて、スライドを4℃で一晩染色した。その後、スライド全てをビオチン化抗Hisタグ抗体(Miltenyi Biotech)で染色し、製造業者の指示(R&D systems)に従ってHRP−DAB細胞及び組織染色キットを使用して発色させた。
【0447】
130μg/mlのAM3−114−6H及びAM4272−6Hは、CCRF−CEM細胞を負荷した免疫不全マウスの脾臓及び肝臓内のCCRF−CEM細胞を染色した(図示せず)。
【0448】
12.2−固形腫瘍
CXCR4結合分子またはポリペプチド(i−body)が、in vivoでの定着固形腫瘍の増殖を阻害する能力を、Ramos皮下腫瘍細胞モデル(または、Namawala細胞またはMDA−MB−231またはMDA−MB−468またはPC3細胞)を使用して検討することができる。このアッセイでは、10x10
6細胞/マウスを各マウスの脇腹領域に移植し、腫瘍の長さx幅x高さ/2によって算出される平均サイズを40mm
3に成長させる。次に、マウスに第1の用量のi−body(治療0日目と称する)及び7日目に第2のip用量の抗体を腹腔内(ip)注射により投与する。マウス群を(i)ビヒクル(ii)i−bodyまたは(iii)抗CD20陽性対照のいずれかで処理する。腫瘍容積及びマウス体重を0日目から30日目の投薬後まで定期的に計量する(約2〜3回/週)。
【0449】
このアッセイモデルはまた、i−bodyがマウスの生存時間を延長する能力を評価する際にも用いることができる。
【0450】
12.3−転移
本開示のi−bodyの抗転移効果を、動物モデルにおいて試験することができる。乳癌転移では、MDA−MB−231細胞を静脈内注射して実験的な転移モデルを作成する。6〜8週齢の雌ヌードマウスに尾静脈経由で、i−body(1mM、プレインキュベーション5分未満)を混合した1.5x10
6のMDA−MB−231乳癌細胞を注射する(10匹/群)。翌日から治療群のマウスに毎日4mg/kgのi−bodyをi.p.注射により投与する。動物を腫瘍細胞注射の35日後に犠牲死させる。全肺組織を採取して切片化し、ヒトCXCR4のリアルタイムRT−PCR及びH&E組織染色を行い、顕微鏡により切片あたり5視野の転移性腫瘍領域を評価する。
【0451】
頭頚部癌動物モデルでは、686LN−Ms細胞の転移性サブクローンを、(Yoon Y et al.,(2007)Cancer Res 67:7518−7524)に記載されているMDA−MB−231細胞と同様の方法で注射する。
【0452】
ブドウ膜黒色腫微小転移巣マウスモデルでは、0日目に、HGF/TGF−b/CXCR4/MMP2を発現する1x10
6の野生型OMM2.3細胞を各マウスの右眼の後房に接種する。3日目から、マウスを毎日のi.p.注射により本発明のi−bodyで処理し、その一方で対照マウスには0.1mLの45%(2−ヒドロキシプロピル)−ベータシクロデキストリンを注射する。7日目に、腫瘍のある眼球を摘出する。腫瘍の成長を組織学的方法によって確認する。28日目に、肝組織を採取して10%のホルマリンで固定し、加工してH&E染色し、顕微鏡により肝微小転移巣の数を計数する。肝臓中心を通る6断面を顕微鏡で観察し、微小転移巣(直径100mm)の存在、及び判定する断片当たりの平均微小転移巣数を調べる(Liang et al PLoS One.2012;7(4):e34038)。
【0453】
実施例13−i−bodyによるHIV侵入の阻害
in vitroのHIV阻害アッセイを使用して、CXCR4を発現するT細胞へのHIVの侵入をi−bodyが阻害する能力を実証した。
図20に示すように、AM3−114は、CXCR4を発現するT細胞へのHIVの侵入をAMD3100と類似した有効性で遮断することが可能であった。予測された通り、阻害アッセイにおいてAM3−114及びAMD−3100は50nMのIC
50を有したが、陰性対照i−body(21H5)は効果を有しなかった。
【0454】
細胞生存性アッセイ
第2の実験では、i−bodyがHIV感染に利用された細胞の生存性を損なわないことが実証された。
【0455】
方法
HIV阻害アッセイでは、i−body(陰性対照i−bodyの21H5、抗CXCR4 i−bodyのAM3−114、AM4−272、AM3−523、AM4−746またはAM4−1121)添加の24時間前に、NP2−CD4/CXCR4細胞(100μl中に1x10
4)を平底96ウェルプレートに播種した。次に培地を細胞から除去し、5倍希釈したi−bodyを加えた100μlの新しい培地と交換し、37℃で16時間培養した。CXCR4 i−bodyの濃度範囲は、25μg/ml〜0.008ug/mlであった。未処理ウェル中のPBSは濃度(5.8%、vol/vol)を一定に維持した。時間経過後、培地を除去し、新しい培地と交換した。次の培養期間を通してi−body濃度を維持した。NP2−CD4/CXCR4細胞を37℃で合計72時間インキュベートした。各ウェルの細胞生存性を、製造業者のプロトコルに従ってCellTitre−Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega)を使用して評価した。FLUOStarマイクロプレートリーダー(BMG)を使用して発光を測定した。抗体存在下での細胞生存率を決定するために、抗体で処理した細胞のルシフェラーゼ量を未処理細胞での量との比率で表した。結果を
図21に示す。
【0456】
ウイルス侵入の阻害
全てのCXCR4 i−bodyが、2種類のHIV−1 CXCR4を使用したエンベロープ株NL4.3及び1109−F−30の有意な阻害レベルを引き起こすことを明らかにする。NL4.3はラボ適合性エンベロープであり、対する1109−F−30は慢性感染した個体由来の亜型C臨床用エンベロープである。i−bodyは、無関係な受容体との結合後にエンドサイトーシスを受ける小胞性口内炎ウイルスからのエンベロープである無関係なウイルス(VSVG)の侵入を阻害しなかった。結果を
図22に示す。
【0457】
陰性対照i−body(21H5)は、株1109−F−30にはほとんど影響を与えなかったが、株NL4.3には若干の侵入効果を示した。比較すると、i−bodyのAM3−114、AM4−746及びAM4−1121は全て、約80nMのIC
50で非常に良好に両方のHIV株を阻害した。更に、i−bodyのAM3−114及びAM4−746をサイズ30K(直鎖)及び2x20K(分岐)のPEGとコンジュゲートすると、IC
50は約80nMのまま維持された。先の実験とも一致するが、AM4−272はHIV感染を妨げる効果が最少であった。
【0458】
PEG化したi−bodyが、宿主細胞へのHIV感染を妨げる能力を分析した。3種類のウイルス株のHIV侵入を妨げる能力について、20KのPEGとコンジュゲートしたAM3−114、30KのPEGとコンジュゲートしたAM3−114及び30KのPEGとコンジュゲートしたAM4−746を分析した。これらを非PEG化型のi−bodyと比較した。AM3−114及びAM4−746はいずれも、非PEG化i−bodyと比較してPEG化i−bodyの力価がわずかに減少した以外は、非PEG化型と同様にHIV侵入を妨げることが可能であった(
図23−1)。
【0459】
PEG化i−body及び非PEG化ibodyは、侵入にCCR5を利用するHIV株(YU−2)による宿主細胞へのHIVの侵入を妨げることはできなかった(
図23−2)。これはi−bodyの抗CXCR4活性がHIVの侵入を妨げる上で重要であることを示している。
【0460】
方法
感染の24時間前に、NP2−CD4/CXCR4細胞(100μl中に1x10
4)を平底96ウェルプレートに播種した。抗CXCR4抗体をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で再懸濁した。感染前に、培地を細胞から除去し、5倍希釈した(2倍濃度の)i−bodyを加えた100μlの新しい培地と交換し、37℃で30分培養した。CXCR4抗体の濃度範囲は、25μg/ml〜0.008ug/mlであった。未処理ウェル中のPBSは濃度(5.8%、vol/vol)を一定に維持した。NP2−CD4/CXCR4細胞を、37℃で12時間、100μl中に200 TCID50のEnv偽型ルシフェラーゼレポーターウイルスに感染させた。時間経過後、接種源を除去し、新しい培地と交換した。次の培養期間を通してi−body濃度を維持した。NP2−CD4/CXCR4を37℃で合計72時間インキュベートした。HIV−1の侵入レベルを、製造業者プロトコルに従って細胞可溶化物のルシフェラーゼ活性によって測定した(Promega)。FLUOStarマイクロプレートリーダー(BMG)を使用して発光を測定した。バックグラウンド活性を模擬感染細胞によって評価し、これを全ウェルから減算した。i−body存在下でのHIV−1侵入率を算出するために、i−bodyで処理した細胞のルシフェラーゼ量を未処理細胞での量との比率で表した。
【0461】
実施例14−i−bodyによる幹細胞動員の欠如
プレリキサフォルすなわちAMD3100は小分子ビシクラムCXCR4阻害剤であり、HSCを動員するG−CSFとの併用が承認されている。従来技術のCXCR4阻害剤は、幹細胞の動員を生じることが知られている。本実施例に示す実験で実証されるように、本開示のi−bodyは幹細胞の動員を引き起こす能力を欠く。
【0462】
14.1 種々の造血細胞に対するCXCR4抗体の特異性の評価
種々の造血細胞集団へのCXCR4抗体(FLAG標識)の直接的な結合を確認するために、C57/BL6マウスから採取した骨髄細胞を、5種のCXCR4 i−body(AM4−272、AM4−746、AM4−1121、AM3−114またはAM3−523)の混合薬で染色し、次いで二次的に蛍光性抗FLAG抗体で標識した。これらの細胞を細胞系マーカー、前駆細胞マーカー及びHSCマーカーで染色し、種々の造血細胞集団でCXCR4の発現を評価した。この実験の結果は、原発性マウス造血細胞でのCXCR4 i−bodyの活性を実証している。同様の実験を、ヒト化NSGマウスから採取した骨髄細胞で実施し、原発性ヒト造血細胞集団でのCXCR4 i−body活性を確認した(データ示さず)。
【0463】
i−bodyは全て、骨髄細胞及びヒト臍帯血と結合することが可能であり、CD34
+及びCD38
−であった。
【0464】
14.2 マウスLSK及びLSKSLAM細胞の動員
CXCR4 i−bodyを使用して造血幹細胞の動員の証拠を得るために、CXCR4 i−body(AM4−272、AM4−746、AM4−1121、AM3−114またはAM3−523)をi.v.注射によりマウスに注入した(5マウス/群)。1時間後及び3時間後に、マウスを安楽死させ、末梢血(PB)を採取した。脾臓を採取して計量し、脾腫(脾臓の膨張)を評価する。
図24Aに示すように、PBを計数して白血球含量を評価した。サンプルを溶解して赤血球を除去し、4000個の細胞を播種して、LPP(低増殖能)コロニー及びCFU−HPP(コロニー形成単位−高増殖能)のコロニー(播種後7日のコロニー計数)を得た。抗体混合液で残存細胞を染色して、系統拘束(lineage−committed)細胞、幹細胞及び前駆細胞の計数を評価した。フローサイトメトリー解析を使用して、系統拘束細胞、造血幹細胞及び前駆細胞、ならびにPB容積当たりの濃縮HSCの数を算出した。白血球の動員は、陽性対照AMD3100と比較してi−body(AM4−272、AM4−746、AM4−1121、AM3−114またはAM3−523、
図24A)のいずれでも検出されなかった。陽性対照AMD3100と対照して、マウスLin
−、Sca−1
+、c−Kit
+(LSK細胞)の動員がないことを
図24Bに示す。陽性対照AMD3100と比較して、i−bodyによるLSK細胞の動員は達成されなかった。
【0465】
図24Cは、i−bodyによるLin
−、Sca−1
+、c−Kit
+、CD150
+、CD48
−、(CD34
−)LSKSLAM細胞の動員がないことを示す。ここでも、全てのi−bodyに動員が観察されなかった。
【0466】
14.3 ヒトCD34+細胞の動員
CXCR4 i−bodyを使用したヒトCD34
+幹細胞及び前駆細胞の動員の証拠を得るために、ヒト化NODSIL2Rγ(NSG)マウスにおいて上記の動員実験を実施した。NSGマウスは極度に免疫不全であり、成熟T細胞、B細胞及びNK細胞を欠く、極度に不完全な先天免疫を有しており、術後の拒絶反応がないヒト細胞の移植が可能である。NSGマウスに、新たに選別されたCD34
+臍帯血細胞を移植して、陽性ヒトCD45/CD34移植(約4〜5週)を確認次第、ヒト幹細胞動員のマウスモデルとして使用した。
【0467】
ヒト化NSGマウスを21H5 i−body、CXCR4 i−body(AM3−114及びAM3−523)、及びこのモデルにおいて以前にCD34
+細胞の有意な動員を示した陽性対照AMD3100で処理した。
【0468】
動員された末梢血を採取し、CD34
+(ヒト幹細胞及び前駆細胞)を評価した。
【0469】
図25に示すi−bodyのAM3−114及びAM4−523を用いた予備実験は、ヒト化NODSIL2Rγ(NSG)マウスモデルにおける陽性対照AMD3100と比較して、これらのi−bodyが幹細胞を動員しないことを示している。この発見は重要であり、幹細胞の動員を引き起こすことが知られている従来技術のCXCR4阻害剤からの転換を意味する。
【0470】
14.4 i−bodyの幹細胞への結合の確認
CXCR4 i−bodyがHSCを結合するかどうかを決定するために、ヒトCD34
+CD38
−細胞に対するin vitro結合分析を評価した。既述のように(Nilsson SK et al,2005 15;106(4):1232−9;Grassinger,2009 2;114(1):49−59)、臍帯血(CB)及びヒト骨髄(BM)を採取した。既述のように(Grassinger、2009)、濃縮したヒトBM CD34
+細胞及び精製したCB CD34+細胞を単離した。ヒトCB及びBM CD34+細胞及びhuNSG BMを、CXCR4 i−body(10μg/ml)、抗His−PEならびにCD34−FITC(BD Biociences#348053)及びCD38−BV421(BD Horizon#562444)を含有する抗体混合液で順次染色し、PBS(0.5%のBSA)で洗浄して、既述のように(Grassinger、2009)Cytopeia Influx(BD)でのフローサイトメトリーによって分析した。ヒト及びマウスのBM及びPB分析では、最大5x10
6の細胞を10〜20,000細胞/秒で分析した。データはFlowJo 10ソフトウェア(FlowJo,LLC)を使用して分析した。huNSG BMの分析では、huCD45−PECy7(BD Biosciences #557748)及びmuCD45−BUV395(BD Biosciences #564279)も抗体混合液に含めた。ヒトCB及びBMからのHSCをCD34+CD38−と定義し、huNSGマウスからのHSCをmuCD45
−huCD45
+CD34
+CD38
−と定義した。3個体のドナーからのCB及びBMサンプル、ならびに3個体のhuNSGマウスからのBMを評価した。
【0471】
i−bodyのAM3−114、AM4−272及びAM3−523は、結合活性を減少させるヒト臍帯血HSCと効果的に結合した(
図26)。AM3−114はまた、ヒト骨髄HSC及びヒト化NODSCIDIL2Rγ
−/−(huNSG)マウスから採取した骨髄に効果的に結合した(
図26)。
【0472】
実施例15−i−bodyによる線維症の予防
15.1 角膜アルカリ熱傷モデル
i−bodyによる線維症誘導(角膜新生血管(NV))を、Cai X et al(2014)PLoS ONE 9(2):e88176に記載されている角膜アルカリ熱傷モデルを使用して検討することができる。この方法は、60mg/kgのネンブタールの腹腔内注射及び1滴のテトラカインの局所投与によりラット(例えばSprague Dawley)を麻酔することが必要である。1NのnaOHに浸漬した直径1.5mm円形片の濾紙を、右眼の中心角膜と40秒間接触させて静置することにより、角膜アルカリ外傷を形成する。アルカリに暴露した直後に、眼球面をPBSで60秒間すすぐ。ラットを無作為に2群に分けた(n=15)。第1群は、正常生理食塩水で処理(10μl、1日に4回)したアルカリ熱傷を施したラットで構成され、第2群は、TMPで処理(10ml容積中1.5mg/ml、1日4回)したアルカリ熱傷を施したラットで構成した。その後、28日目に細隙灯顕微鏡検査法を使用して全眼を観察し、角膜NVを評価した。
【0473】
15.2 角膜のNVの評価
Zhang Z et al(2005)Invest Ophthalmol Vis Sci 46:4062−4071 doi:10.1167/iovs.04−1330に記載されているように、角膜NV(NV)を定量化することができる。簡潔には、研究状況を盲検された眼科医が、アルカリ熱傷後1、2、5及び8日に細隙灯顕微鏡下で全眼を検査する。角膜画像を4分割する。各区画の血管長(Li、i=1〜4)を、ノギスを使用して測定する。次式を使用して角膜NV面積(A)を算出する:A=Σi=1−4 3.1416x{R2−(R−Li)2}(Rはラット角膜の半径である。R=3.5mm、15匹のラットの角膜の測定から算出)。
【0474】
15.3 脈絡膜新生血管
レーザー誘発性脈絡膜新生血管(CNV)は、脈絡膜新生血管の特徴が顕著な一般に認められたモデルである(Fletcher EL et al.(2011)Prog Mol Biol Transl Sci 100:211−286)。また、血管形成及び線維症を標的とする潜在的治療の有効性を決定するには迅速な方法でもある。簡潔には、持続波の光凝固レーザー(532nMダイオード)を使用して、後眼部の最大4箇所にレーザーを照射する。レーザーエネルギーは、ブルック膜の断裂を形成できる程度の強度にする。以降の7〜14日間で、脈絡膜から網膜への血管の成長が発生する。それを免疫細胞化学的に定量化するか、または蛍光眼底血管造影法の使用により定量化する。
【0475】
簡潔には、使用前に10日間以上、周期照明環境(輝度350ルクス未満の閉鎖ケージで12時間点灯、12時間消灯)の動物実験施設に収容された合計20匹のDark agoutiラットまたはC57BL/6マウスに麻酔して、532nmの持続波熱レーザーを視神経周囲の4箇所に照射して処置する。レーザー照射直後に、最大用量のi−body(網膜での濃度が20mg/mlである)で動物を処理する。
【0476】
全てのラットの網膜構造を、齧歯類専用の眼底カメラ/OCT(Micron III、Phoenix Insruments)で観察し、蛍光眼底血管造影法を使用して血管の完全性を定量化する。次に、全ての蛍光損傷のサイズ(直径及び面積)を定量化して血管形成の範囲の測定値を得る。
【0477】
撮影後、動物を深麻酔で殺傷し、後部眼杯を4%のパラホルムアルデヒドで30分間、固定する。次に網膜全載をIB4標識で処理し、網膜下腔への脈絡膜血管の成長範囲を評価する。損傷の直径及び面積から、新生血管の範囲の評価を得る。
【0478】
加えて、脈絡膜血管の浸潤の結果として発現する瘢痕のレベルを、神経膠症マーカーGFAPの免疫標識により定量化する。
【0479】
網膜収縮に加えて、線維化を評価するため、損傷サイズ、小膠細胞及び神経膠細胞の応答変化、ならびにレーザー照射後の治療網膜の線維化促進遺伝子発現も検討する。
【0480】
抗CXCR4 i−bodyのAM3−114−6H(更に対照i−body)は、脈絡膜新生血管のマウスモデルにおいて病理学的血管形成または損傷の特徴を低減する。レーザー照射後、眼におけるCXCR4のレベルを調べたところ(線維化PCRアレイ;SABiosciences)、調節不全であることがわかった。この状況でのCXCR4の上方調節は、CXCR4アンタゴニストi−bodyでの治療が有益な効果を有し得ることを示唆している。
【0481】
マウスは以下のように処理した:
第1群(n=10):両眼にレーザー、片眼にビヒクル、対側眼にi−body
第2群(n=10):片眼にレーザー(i−bodyなし)、対側眼はレーザー非照射
容積1μl、最大濃度20mg/mlのi−body薬を硝子体内注射した。
【0482】
レーザー照射後の治療網膜の網膜収縮、損傷サイズ及び遺伝子発現に対するi−bodyの効果のデータを得た。同一の眼のレーザー非照射領域と比較して、レーザー照射後の網膜には、大幅な収縮があった。AM3−114及びAM4−272いずれで処理した場合にも、レーザー照射領域の収縮に有意な低減が見られた。1つの交絡要因は、ビヒクル対照も極めて有意に収縮比を低減すると思われる点であった。ビヒクルはTBSの単一注射のみで構成しているため、ビヒクルがこのような効果を有する可能性はない。蓋然性が高い説明は、処理した眼から実際にi−bodyが流出して血流に侵入しており、おそらくこれがビヒクル処理された眼への炎症性細胞の浸透を防止したことである。i−bodyのAM3−114の投与時には、損傷サイズの減少も見られた。
【0483】
血管形成及び線維化を伴う遺伝子の発現を検討した。市販のスピンカラム(RNeasy、Qiagen、Valencia CA)を使用して網膜及びRPE/脈絡膜サンプルから全RNAを単離した。PCR遺伝子アレイを使用して、血管形成または線維化を伴う84遺伝子の発現を評価した(Qiagen)。簡潔には、未処理の、レーザー照射眼及び非照射の対側眼(各群n=9、各々25ng)からの全RNAサンプルを、それぞれの対応する処置群にプールし(3つのプールされたサンプルで構成される3件の独立実験)、逆転写(RT2 first strand、Qiagen)した後、cDNA標的テンプレートの前増幅(RT2 pre−AMP、Qiagen)を実施した。サンプルを市販のマスターミックス(RT2 SYBR緑色マスターミックス、Qiagen)に添加し、40サイクル増幅した(ABI 7900HT、Life Technologies、Grand Island NY)。処置群ごとに3つの独立したアレイを実施した。デルタデルタCt(ΔΔCt)を使用してデータを分析し、独立t検定を使用して評価した倍率変化及び調節を表す。AM3−114及びAM4−272で処理した眼の両方から得た、この遺伝子発現データは、Col1A2、TGF−b1、結合組織成長因子(CTGF)、及びメタロプロテイナーゼ(TIMP3)組織阻害因子、トロンボスポンジン2(Thbs2)、セリンペプチダーゼ阻害因子(SerpinH1)、インテグリンβ8サブユニット(ITGB8)、リシルオキシダーゼ(LOX)、エオタキシン(CCL11)、β3インテグリン(ITGB3)、セリン−スレオニンプロテインキナーゼ(Akt1)、SMADファミリーメンバー6(SMAD6)、血小板由来成長因子アルファポリペプチド(PDFGA)、トランスフォーミング増殖因子、ベータ受容体II(Tgfbr2)、骨形成タンパク質7(Bmp7)などの、線維化促進遺伝子に広範な下方調節が見られることを示している(
図27)。
【0484】
実施例16−i−bodyの線維芽細胞との結合
線維芽細胞に発現する可能性を有し、線維症の病因に重要な役割を果たし得る骨由来間葉系細胞の循環(Strieter RM,Keeley EC,Burdick MD and Mehrad B.The Role of Circulating Mesenchymal Progenitor Cells,Fibrocytes,in Promoting Pulmonary Fibrosis.Trans Am Clin Climatol Assoc 2009;120;49−59)と、CD45及びCXCR4を発現しているその細胞は、線維芽細胞を循環させ、ブレオマイシン誘発肺線維症マウスモデルにおいて、SDF−1に応答した遊走及び肺への輸送を可能にする(Phillips RJ,Burdick MD,Hong K,Lutz MA,Murray LA et al.Circulating fibrocytes traffic to the lungs in response to CXCL12 and mediate fibrosis.J Clin Invest(2004)114: 438−44)。
【0485】
i−body(AM3−114)及びCD−45の二重標識を以下の通りに行った。i−bodyのAM3−114を、単離したヒトPBMCとともに室温で4時間インキュベートした。PBMCを顕微鏡スライドに塗布し、4℃で10分間、アセトンで固定した。3回洗浄してPBSで再水和した後、スライドをマウス抗FLAGの1:100希釈液とともに4℃で一晩インキュベートした。洗浄後、ヤギ抗マウスAlex Fluor 568(抗FLAGとの結合によりi−bodyを検出する)とともにスライドを室温で1時間インキュベートした。次に、スライドを洗浄して、マウス抗CD−45 FITC標識抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。更に洗浄後、DAPIを含有するProLong Gold antifade mountantをスライドに載せた。Nikon A1共焦点顕微鏡を使用して画像を取得した。
【0486】
ヒト線維芽細胞をCD45への抗体染色によって同定した。i−bodyのAM3−114の結合を、C末端タグに対する抗FLAG抗体によって同定した。DAPIは、細胞核を染色するために使用した。結果を
図28に示す。この結果は、i−bodyのAM3−114がヒト線維芽細胞と結合できたことを示す。
【0487】
実施例17−in vivoマウス空気嚢モデル
i−bodyの炎症防御能力を、in vivoマウス空気嚢モデルにおいて評価した。皮下(s.c.)空気嚢は、急性及び慢性炎症の研究に使用されるin vivoモデルである(Durate et al,Models of Inflammation:Carrageenan Air Pouch,Current Protocols in Pharmacology 5.6.1−5.6.8,March 2012)。ラットまたはマウスの空気嚢への刺激源の注射により誘発される炎症反応を、生じる滲出液の量、細胞の浸潤及び炎症性メディエーターの放出により定量化することができる。空気嚢はマウスの背中の皮膚下に無菌空気を注入することにより生成する。マウスを、抗炎症化合物または試験物品(i−bodyまたはAMD3100)のいずれかで前処理し、炎症誘導物質であるSDF−1で二次処理する。次に、空気嚢洗浄流体を分析し、細胞輸送及びサイトカイン放出について調べる。
【0488】
空気嚢アッセイは、7週齢BALB/cマウスで行った。1日目及び3日目に、0.2ml/g初期体重(IBW)の無菌空気を背中の皮膚下に注入し、嚢を作成した。6日目に、マウスを群に分け、i−body(AM3−114、AM4−272、AM3−523、AM4−746もしくはAM4−1121)もしくはAMD3100(10mg/kg)を含有するまたは含有しない0.5mlのPBSを腹腔内注射した。30分後、SDF−1(6μg)を嚢に注入した。4時間後に、マウスをCO
2チャンバ内で屠殺し、空気嚢を洗浄した。フローサイトメトリーによって、細胞を採取して計数し、特性決定した。
【0489】
空気嚢中の全細胞は、試験物品が炎症の空気嚢/部位への細胞の遊走を阻害することを示している。i−bodyのAM3−114、AM4−272、AM3−523、AM4−746及びAM4−1121は(AMD3100と同様に)空気嚢への細胞遊走を阻害したが、陰性対照i−body(21H5)は細胞遊走を阻害しなかった。炎症性刺激源のないマウスに注入されたi−bodyは、空気嚢への細胞遊走に影響を及ぼさなかった(
図29)。
【0490】
実施例18−ブレオマイシンマウスモデルにおける特発性肺胞線維症(IPF)の防止
肺線維症を阻害するCXCR4結合分子(i−body)の能力を、疾患マウスモデルにおいて検討した。抗生物質及び抗腫瘍薬であるブレオマイシンは、IPFと似たヒト疾患の実験的モデルにおいて広く使用されている。ブレオマイシンは、脂質過酸化を誘導することによりDNAに対する効果とは独立した細胞障害を引き起こすことが可能である。コラーゲン沈着をもたらすブレオマイシンと肺との相互作用の正確な特徴は確認されていない。しかしながら、サイトカイン及び成長因子、例えばIL−1、IL−6、TNF−α、PDGF及びTGF−βの過剰活性化は、疾患進行に一貫して関与している。最近の証拠は、ブレオマイシンマウスモデルにおいてCXCR4拮抗作用が肺線維症の予防に有効であることを示唆している。
【0491】
マウスIPFモデルは炎症及び線維症の有効なモデルであり、これによると初期(48時間以内)の肺損傷は組織学的に、肺胞内出血及び肺胞壁に加え肺腔内に炎症細胞浸潤を伴う血管周囲浮腫、毛管の鬱血及び肺胞壁肥厚を特徴としていた。このモデルにおいて、巣状気管支周囲及び胸膜下のコラーゲン沈着は通常、ブレオマイシンの投与後1週以内に起こる。
【0492】
ブレオマイシンの至適用量は2U/マウスであり、線維芽細胞の動員を評価する際の最適な時期は4日目であることが確認された。SDF−1濃度を分析するため、4日目に気管支肺胞洗浄(BAL)液体を採取した。肺組織の片半分を使用して、肺の単細胞懸濁液を作成し、この細胞をフローサイトメトリーに使用して、CD45+、CXCR4+及びコラーゲン1+(線維芽細胞)を分析した。肺組織のもう片半分をコラーゲン1の存在を検出するSircolで染色し、RNAのCol−1、Col−3及びSDF−1を調べる。
【0493】
2Uのブレオマイシン/マウス(群当たり10)を使用して、i−bodyとともにマウスに投薬した。i−bodyは、30mg/kgの陰性対照i−body(21H51)、1、10及び30mg/kgの抗CXCR4 i−body、AM3−114、AM4−272、AM3−523であった。SDF−1、線維芽細胞及びコラーゲン沈着を4日目にモニターした。ブレオマイシンの投与直前に、i−bodyを群に投薬した。肺組織の片半分を細かく切り刻み、PBSで洗浄して、コラゲナーゼA及びディスパーゼ処理した肺の単細胞懸濁液を作成した。次に、この細胞をフローサイトメトリーに使用して、CD45+、CXCR4+及びコラーゲン1+線維芽細胞を分析した。
【0494】
30mg/kgのi−body、AM3−114の投与は、ブレオマイシン誘発線維症を有するマウスの肺への線維芽細胞の動員を大幅的に減衰させることができた。また、i−bodyのAM4−272及びAM3−523が、これらのマウスの肺への線維芽細胞の動員を有意に減衰できたことも明らかであった。i−bodyのAM4−272及びAM3−523は、1mg/Kgでも線維芽細胞の動員を妨げることが可能であった。予想されるように、AMD3100及びピルフェニドン(Perfenidone)もまた、線維芽細胞の動員を妨げることが可能であった。ビヒクル単独と、陰性対照i−bodyはいずれも、ブレオマイシン誘導性線維症を有するマウスの肺への線維芽細胞の動員に影響を及ぼさなかった(
図30)。
【0495】
製造業者のプロトコルに従ってSircol染色アッセイ(Biocolour Ltd.Carrickfergus、Northern Ireland)を使用して肺組織を調べ、細胞外マトリックスタンパク質コラーゲンの存在を判定した。30mg/kgのi−body AM3−114、10mg/kgのi−body AM4−272及び30mg/kgのi−body AM−3523は全て、ビヒクル単独または陰性対照i−body(21H5)と比較して、肺のコラーゲン量を減少させた。コラーゲンの減少は、AMD3100及びピルフェニドンにも見られた。
【0496】
PEG化i−bodyの効果を評価するため、マウスでのブレオマイシン肺線維症実験を21日間にわたり実施した。10mg/KgのPEG化i−body、AM4−272の投与は、7日目で、ブレオマイシン誘発線維症を有するマウスの肺への線維芽細胞の動員を減衰させることが可能であった。AM4−272−PEGは7日目で、AMD3100及びピルフェニドンとほぼ同程度に線維芽細胞を減少させた。
【0497】
その後、残存する肺組織を使用して、Phillips et al(2004)J Clin Invest 114,438に従い、CXCL12、Col1a1及びCol3a1の遺伝子発現について、各サンプルからのRNAを分析した。
【0498】
実施例19:エピトープマッピング
ショットガン突然変異誘発(Integral Molecular)を使用して、野生型及び突然変異型ヒトCXCR4と結合する抗CXCR4 i−body、AM3−114、AM4−272及びAM3−523を評価した。CXCR4を発現するHEK−293 T細胞に対して、i−bodyを試験した。高い値のシグナル対バックグラウンド比を得たi−body、AM3−114(1μg/ml)、AM4−272(2μg/ml)及びAM3−523(1μg/ml)の免疫検出及びエピトープマッピングに最適なスクリーニング条件を決定した。スクリーニングで同定された全ての重要残基に対するi−bodyの平均反応率(及び範囲)を表13に示す。対照抗体は、市販の抗flag及び12G5であった。
【0499】
【表14】
【0500】
i−bodyの結合にとって重要なCXCR4タンパク質の残基(灰色)は、i−bodyの結合に対して陰性(AM3−114及びAM4−272では30%WT未満;AM3−523では15%未満)であるが、抗Flag mAbに対しては陽性(70%WT超)であり、また追加の対照mAb 12G5に対しても陽性(50%WT超)である残基と同定された。
【0501】
3つ全てのi−bodyは、AMD3100にも共通して結合する残基D262を有した(Haste et al.,(2001)Molecular Pharmacology 60:164−173)。エピトープマッピングによって同定された全ての重要なアミノ酸は、F189を除いてヒトとマウスのCXCR4間で保存的である。CXCR4の残基E32またはL266と結合する結合薬は、まだ確認されていない。
【0502】
それ以外の一連の残基も、一部のi−bodyの結合に影響を及ぼした。そのような残基はC28、V112、D193、P191、E268及びE288である。
【0503】
実施例20−特発性肺胞線維症(IPF)を有するヒト患者組織におけるi−bodyのCXCR4への結合
正常肺及びIPF肺でのCXCR4の発現を更に確認するため、陰性対照i−bodyの21H5、CXCR4特異的i−body(AM3−114、AM4−272及びAM3−523)を免疫組織化学分析(IHC)に利用した(図示せず)。正常肺及び遅発性IPF肺の生検材料には、CXCR4発現細胞がほとんど検出されなかった。急性IPF肺の生検材料には、CXCR4発現細胞が容易に検出された。最後に、CXCR4はi−bodyによって、急性IPF肺の生検材料の線維性領域に存在する間質細胞内に検出された。本開示のi−bodyは、IPF患者肺生検材料(急性及び遅発性進行患者の両方)からの線維芽細胞とは結合できたが、正常肺組織からの肺生検材料とは結合しなかった。
【0504】
実施例21−特発性肺患者組織からのヒト肺線維芽細胞浸潤の減少
複数のレポートで、CXCL12及びCXCR4が肺浸潤に果たす役割を示す証拠が明らかにされている(Li et al Cancer Lett 2012 322;169−176 & Krook et al Mol Cancer Res 2014 12;953−964)。Lovgren,Aらは、β−アレスチンが肺線維芽細胞浸潤に重要な役割を果たすことを示している(Lovgren et al Sci Transl Med 2011 3;74ra23)。更に、CXCR4が、CXCL12をCXCR7に分配し、β−アレスチン経路の活性化をもたらすことが複数のレポートで示されている。このことは、CXCR4が肺線維芽細胞の浸潤を促進し得ることを示唆している(Coggins et al.2014 PLoS One 9, e98328、Decaillot et al.J Biol Chem 2011 286;32188 32197、及びRajagopal et al PNAS 2010 107;628−632)。
【0505】
線維芽細胞浸潤におけるCXCR4及びCXCL12の役割を決定するために、正常肺及びIPF肺の線維芽細胞を創傷治癒浸潤アッセイに利用した。ImageLock 96ウェルプレート(Essen Bioscience)を50μg/mlの基底膜抽出物(BME;Trevigen)で、室温で1時間コーティングした。正常細胞、及び疾患の遅発進行または急性進行を示す特発性肺胞線維症(IPF)患者の肺生検試料から生成した線維芽細胞を、BMEコーティングされたプレートに播種して(ウェル当たり36,000細胞)、一晩インキュベートした。翌日、細胞をWoundmaker(商標)(Essen Bioscience)を使用してスクラッチし、DPBSで洗浄して、2mg/mlのBME溶液中の、陰性対照i−bodyの21h5、CXCR4特異的i−body(AM3−114、AM4−272;130μg/ml)またはAMD3100(12μM)で処理した。37℃で15分間、プレートをインキュベートすることによりBMEを重合化させた。次に、プレートをIncuCyte Zoomイメージングシステムに挿入し、約50時間、2時間ごとに画像を取得した。IncuCyteソフトウェア(Essen Bioscience)を使用して浸潤を定量化した。
【0506】
IPFの治療用として現在承認済みの多重受容体チロシンキナーゼ阻害剤である、BIBF−1120は、正常線維芽細胞及びIPF線維芽細胞両方の運動性を効果的に阻害した。CXCR4特異的i−bodyのAM3−114−6H及びAM4−272−6Hは、遅発性IPF及び3つのうち2つの急性IPFの浸潤を阻害したが、正常肺の線維芽細胞は阻害しなかった(
図31−1〜31−3は、正常、遅発性及び急性IPF患者からの線維芽細胞の代表例を示す)。
【0507】
実施例22−i−bodyはin vitroで抗線維性特性を示す
肺線維芽細胞の活性化及び細胞外マトリックス生成にCXCR4が果たす潜在的役割を特定するため、線維芽細胞を、CXCR4特異的i−body(AM3−114−6H、AM4−272−6H、AM3−523−6H)、陰性対照i−body(21H5)またはAMD3100で48時間処理し、その後RNAを抽出し、ACTA2、COL1A1、COL3A1及びFN1転写物に対してqPCR解析を実施した。qPCR方法は以下の通りであった。50μg/mlのBMEに線維芽細胞を播種し、130μg/mlのi−bodyまたは12μMのAMD3100で処理した。48時間後に、Trizol試薬を使用してRNAを抽出し、既述のように(Trujillo et al Sci Transl Med 2010 2;57ra82)Superscript II逆転写酵素(Life technology)を使用してcDNAに逆転写した。続いて相補的DNA(cDNA)をTaqmanプレートにロードし、事前設計されたプライマーを使用して、遺伝子発現解析をCOL1A1、COL3A1、FN1及びαSMAに対して実施した。Taqman解析は全て、Applied Bio systemsのViia 7装置(Life technology)を使用して実施した。その後、結果をエクスポートし、18sのRNA発現により正規化し、Data Assistソフトウェア(Life technologies)を使用して倍率変化解析を算出した。CXCR4特異的AM3−114−6Hは、遅発性IPFにおいてACTA2、COL1A1、COL3A1及びFN1の線維化促進遺伝子転写物の発現を著しく減少させたが、正常肺線維芽細胞では減少させなかった(
図32)。
【0508】
i−bodyがIPF肺線維芽細胞の可溶性コラーゲンを調節できるかどうかを検討するために、ELISAを使用した。コラーゲン1は、直接ELISAを使用して検出した。簡潔には、精製したコラーゲン1タンパク質及びコンディショニングした上清を、maxi−sorb ELISAプレートに4℃で一晩コーティングした。翌朝、プレートを洗浄して、1%のBSAで1時間ブロッキングした後、回転シェーカー上でビオチン化抗コラーゲン1抗体(Abcam)とともに室温で2時間インキュベートした。次にプレートを洗浄し、HRPをコンジュゲートしたストレプトアビジンを20分かけてウェルに添加した。20分後、プレートを洗浄し、20分かけてTMB基質で発色させ、その後、停止液を添加し、Synergy H1マイクロプレートリーダー(Biotek)を使用して450nmの吸光度を取得した。
【0509】
CXCR4特異的i−bodyのAM4−272−6Hは、i−bodyによる処理後48時間の線維芽細胞の、コンディショニングした上清において、可溶性コラーゲンタンパク質を著しく減少させた。
【0510】
実施例23−i−bodyは種々のシグナル伝達パートナーを調節する
CXCR4は、CCR2を含む他のケモカイン受容体と連係してシグナル伝達することが、様々なレポートで示されている。CXCR4特異的i−bodyが、潜在的CXCR4シグナル伝達パートナーを調節できるかどうかを判定するために、i−body(AM3−114−6HまたはAM4−272−6H)、AMD3100またはBIBF−1120による処理後48時間の正常、遅発性、及び急性IPF肺線維芽細胞培養液から、コンディショニングした上清を回収し、製造業者(R&D Systems)が推奨しているように、市販のELISAキットを使用して線維芽細胞のコンディショニングした上清中のCCL2、CCL5及びCXCL12を検出した。CXCR4を標的とするi−bodyのAM3−114−6H及びAM4−272−6H、AMD3100ならびにBIBF−1120は、IPF線維芽細胞のコンディショニングした上清においてCCL2タンパク質を著しく増加させたが、正常な上清では増加させなかった。この増加は、急性IPF肺線維芽細胞のコンディショニングした上清において顕著であった。CXCR4を標的とするi−bodyのAM4−272−6Hは、一部のIPF肺線維芽細胞のCCL5レベルを上昇させたが、この効果には一貫性がなく、対照i−bodyの21H5−6Hで処理した、1つの遅発性IPF肺線維芽細胞株において効果が観察された。
【0511】
実施例24−i−bodyは血小板凝集を防止する
i−bodyがSDF−1αによって誘導される血小板凝集を防止できるかどうかを検討するため、実験を実施した。ヒト多血小板血漿懸濁液を、10または20ug/mLのi−bodyのAM3−114、AM3−523、AM4−746またはAM4−1121(または12G5の陽性対照抗CXCR4 Mab)とともに10分間プレインキュベートし、続いて100nMのSDF−1アルファで刺激した。陰性対照i−bodyの21H5(または12G5のアイソタイプ対照:マウスIgG2a)の存在下で、SDF−1は堅調かつ再現可能な凝集(光透過の増加を示す、下降する黒色曲線)を誘発した。これは以前に発表されたことと一致している。全てのi−bodyならびに12G5は阻害効果を有し、これはAM3−114及びAM4−1121で最も効果的であった(
図33)。これらのi−bodyは、強度の持続した凝集阻害を示した。AM3−523及びAM4−746はMAb12G5と同程度に凝集を防げ、AM4−272はごく弱く凝集を防げただけであった。陰性対照i−bodyまたは対照MAbのいずれも、血小板凝集にいかなる影響も及ぼさなかった。
【0512】
実施例25−抗CXCR4 i−bodyは多発性硬化症マウスモデル(実験的な自己免疫脳脊髄炎)において有効である。
Holman et al(Biochimica et Biophysica Acta 2011)が発表した定評ある論文によると、CXCL12が実験的な自己免疫脳脊髄炎(EAE)、すなわち多発性硬化症マウスモデルにおいて約8〜12日の時点で血液脳関門を越えるCXCR4陽性細胞の動員を担っていることを実証したことが示唆されている。加えて、最近の研究で、CXCR4アンタゴニストがEAEにおいて有効性を示すことが実証された(Hanes et al JBC Vol 290(37):22385−22397(2015)、Kohler et al Brain Pathology 2008,18;504−516)。発明者らは、0日目にミエリンオリゴデンドロサイトタンパク質(MOG)の注射によって少数の動物(群当たりn=3)にEAEを誘導し、この動物に7〜10日目(4日間、1日1回注射)まで4mg/Kgのi−body、AM4−272を静脈内投与した。このときに血液脳関門を越える炎症細胞の浸潤に重要であることが報告された。AM4−272 i−bodyを注射した3匹のマウスのうち、1匹は疾患が進行したが、もう2匹はほぼ無疾患であった。i−bodyで処理した動物の15日目の体重は、疾患動物、または陰性対照i−body、21H5を注射した動物と有意差がある。加えて臨床スコアは、14日目及び15日目の両方で、疾患動物または対照i−bodyを注射した動物と比較してi−bodyの注射によって大幅に改善された(
図34)。これらのデータは、本発明のi−bodyが炎症細胞のCXCR4と結合し、末梢血管系から脳への細胞の遊走を阻害できることを示唆している。この遊走の阻害がEAEの症状を軽減できることは明らかである。
【0513】
実験的なマウスの脳の免疫組織化学染色を実施した。疾患動物(MOGのみ)の脳の白質において、及びAM4−272 i−bodyを与えた症状のあるマウスにおいて、炎症細胞の染色が多数見られた。その一方で、ビヒクル対照において、またはAM4−272 i−bodyを与えた症状のないマウスにおいて、炎症性T細胞の染色はほとんど存在しなかった。
【0514】
最初にヘマトキシリン・エオジン染色を、i−body(AM4−272)処理をしたEAEマウス、またはしていないEAEマウスの脳組織に実施し、T細胞の白質への浸潤をハイライトした。対照i−body、21H5で処理したMOGマウスには、T細胞の大幅な浸潤が観察されたが、AM4−272 i−bodyで処理したマウスには観察されなかった。