特許第6863919号(P6863919)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6863919炉壁状態評価装置、炉壁状態評価方法、および炉壁状態評価プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863919
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】炉壁状態評価装置、炉壁状態評価方法、および炉壁状態評価プログラム
(51)【国際特許分類】
   F27D 1/00 20060101AFI20210412BHJP
【FI】
   F27D1/00 V
【請求項の数】13
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2018-53936(P2018-53936)
(22)【出願日】2018年3月22日
(65)【公開番号】特開2019-168121(P2019-168121A)
(43)【公開日】2019年10月3日
【審査請求日】2019年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱パワー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山本 潤一郎
【審査官】 小川 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−178930(JP,A)
【文献】 特開平08−159441(JP,A)
【文献】 特開2014−136764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 1/00
C10J 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温炉を形成する炉壁の状態を評価する炉壁状態評価装置であって、
前記炉壁に設置されるバーナ装置に供給される燃料の燃料供給量または燃焼用ガスのガス供給量の少なくとも一方の条件を含む運転条件であって過去に用いられた前記運転条件である過去運転条件と、前記炉壁の減肉速度または熱疲労指標の少なくとも一方を含む炉壁状態評価指標であって、前記過去運転条件下での炉壁計器による計測を通して求められた過去炉壁状態評価指標と、を対応付けた学習データを学習することにより作成される、前記運転条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出するための予測モデルを取得する予測モデル取得部と、
前記予測モデルに入力する前記運転条件である入力運転条件を含むモデル入力条件を取得するモデル入力条件取得部と、
前記予測モデルを用いて、前記モデル入力条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出する予測値算出部と、を備え
前記バーナ装置は、複数のバーナを有し、
前記運転条件は、前記複数のバーナ毎の前記運転条件を含み、
前記炉壁計器は、前記複数のバーナにそれぞれ関連する前記炉壁の部分毎に、前記炉壁状態評価指標を求めるのに必要な前記炉壁の厚さ又は温度の経時変化を計測するよう構成される
ことを特徴とする炉壁状態評価装置。
【請求項2】
高温炉を形成する炉壁の状態を評価する炉壁状態評価装置であって、
前記炉壁に設置されるバーナ装置に供給される燃料の燃料供給量または燃焼用ガスのガス供給量の少なくとも一方の条件を含む運転条件であって過去に用いられた前記運転条件である過去運転条件と、前記炉壁の減肉速度または熱疲労指標の少なくとも一方を含む炉壁状態評価指標であって、前記過去運転条件下での炉壁計器による計測を通して求められた過去炉壁状態評価指標と、を対応付けた学習データを学習することにより作成される、前記運転条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出するための予測モデルを取得する予測モデル取得部と、
前記予測モデルに入力する前記運転条件である入力運転条件を含むモデル入力条件を取得するモデル入力条件取得部と、
前記予測モデルを用いて、前記モデル入力条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出する予測値算出部と、を備え、
前記炉壁計器は、前記炉壁の炉内側の炉内壁面に付着する溶融スラグの厚さであるスラグ液膜厚を計測するためのスラグ液膜厚計測装置を含み、
前記学習データは、前記過去運転条件と、該過去運転条件下において前記スラグ液膜厚計測装置によって計測された過去の前記スラグ液膜厚と、該過去運転条件下での前記過去炉壁状態評価指標と、を対応付けることにより生成されており、
前記モデル入力条件は、前記スラグ液膜厚計測装置によって計測された前記スラグ液膜厚を、さらに含むことを特徴とする炉壁状態評価装置。
【請求項3】
前記炉壁状態評価指標の予測値に基づいて、前記炉壁の予測残寿命を算出する予測残寿命算出部を、さらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の炉壁状態評価装置。
【請求項4】
前記高温炉の累積の運転時間と、前記予測残寿命と、前記高温炉の計画運転時間とに基づいて、前記予測残寿命を延長することが可能な前記運転条件である修正運転条件を決定する修正運転条件決定部と、さらに備えることを特徴とする請求項3に記載の炉壁状態評価装置。
【請求項5】
前記修正運転条件、前記修正運転条件下で予測される前記炉壁状態評価指標の予測値、または前記修正運転条件下で予測される前記予測残寿命の少なくとも1つを出力装置に出力する出力部を、さらに備えることを特徴とする請求項4に記載の炉壁状態評価装置。
【請求項6】
過去事例、前記修正運転条件を決定する際の決定根拠、または、問い合わせ先の少なくとも1つの関連情報を記憶する関連情報データベースを、さらに備え、
前記出力部は、さらに、前記関連情報を前記出力装置に出力することを特徴とする請求項5に記載の炉壁状態評価装置。
【請求項7】
前記予測モデルを作成する予測モデル作成部を、さらに備え、
前記予測モデル作成部は、
前記学習データを生成する学習データ生成部と、
前記学習データの機械学習を実行することにより、前記予測モデルを作成する機械学習実行部と、を有することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の炉壁状態評価装置。
【請求項8】
前記学習データは、前記モデル入力条件を用いた熱流動シミュレーションにより得られる、前記炉壁に対する熱流束分布および前記炉壁の炉内側の炉内壁面に付着する溶融スラグの厚さの分布であるスラグ液膜厚分布に基づいて補正された計測値、または、前記炉壁に対する前記熱流束分布および前記スラグ液膜厚分布に基づいて補完された、前記炉壁計器の計測点以外の位置における補完計測値に基づいて作成された前記個別学習データを含むことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の炉壁状態評価装置。
【請求項9】
前記高温炉は、コンバスタ部とリダクタ部とを有する、炭素含有燃料をガスに転換するためのガス化炉であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の炉壁状態評価装置。
【請求項10】
高温炉を形成する炉壁の状態を評価する炉壁状態評価方法であって、
前記炉壁に設置されるバーナ装置に供給される燃料の燃料供給量または燃焼用ガスのガス供給量の少なくとも一方の条件を含む運転条件であって過去に用いられた前記運転条件である過去運転条件と、前記炉壁の減肉速度または熱疲労指標の少なくとも一方である炉壁状態評価指標であって、前記過去運転条件下での炉壁計器による計測を通して求められた過去炉壁状態評価指標と、を対応付けた学習データを学習することにより作成される、前記運転条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出するための予測モデルを取得する予測モデル取得ステップと、
前記予測モデルに入力する前記運転条件である入力運転条件を含むモデル入力条件を取得するモデル入力条件取得ステップと、
前記予測モデルを用いて、前記モデル入力条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出する予測値算出ステップと、を備え
前記バーナ装置は、複数のバーナを有し、
前記運転条件は、前記複数のバーナ毎の前記運転条件を含み、
前記炉壁計器は、前記複数のバーナにそれぞれ関連する前記炉壁の部分毎に、前記炉壁状態評価指標を求めるのに必要な前記炉壁の厚さ又は温度の経時変化を計測するよう構成される
ることを特徴とする炉壁状態評価方法。
【請求項11】
高温炉を形成する炉壁の状態を評価する炉壁状態評価方法であって、
前記炉壁に設置されるバーナ装置に供給される燃料の燃料供給量または燃焼用ガスのガス供給量の少なくとも一方の条件を含む運転条件であって過去に用いられた前記運転条件である過去運転条件と、前記炉壁の減肉速度または熱疲労指標の少なくとも一方である炉壁状態評価指標であって、前記過去運転条件下での炉壁計器による計測を通して求められた過去炉壁状態評価指標と、を対応付けた学習データを学習することにより作成される、前記運転条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出するための予測モデルを取得する予測モデル取得ステップと、
前記予測モデルに入力する前記運転条件である入力運転条件を含むモデル入力条件を取得するモデル入力条件取得ステップと、
前記予測モデルを用いて、前記モデル入力条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出する予測値算出ステップと、を備え、
前記炉壁計器は、前記炉壁の炉内側の炉内壁面に付着する溶融スラグの厚さであるスラグ液膜厚を計測するためのスラグ液膜厚計測装置を含み、
前記学習データは、前記過去運転条件と、該過去運転条件下において前記スラグ液膜厚計測装置によって計測された過去の前記スラグ液膜厚と、該過去運転条件下での前記過去炉壁状態評価指標と、を対応付けることにより生成されており、
前記モデル入力条件は、前記スラグ液膜厚を含むことを特徴とする炉壁状態評価方法。
【請求項12】
高温炉を形成する炉壁の状態を評価する炉壁状態評価プログラムであって、
コンピュータに、
前記炉壁に設置されるバーナ装置に供給される燃料の燃料供給量または燃焼用ガスのガス供給量の少なくとも一方の条件を含む運転条件であって過去に用いられた前記運転条件である過去運転条件と、前記炉壁の減肉速度または熱疲労指標の少なくとも一方である炉壁状態評価指標であって、前記過去運転条件下での炉壁計器による計測を通して求められた過去炉壁状態評価指標と、を対応付けた学習データを学習することにより作成される、前記運転条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出するための予測モデルを取得する予測モデル取得ステップと、
前記予測モデルに入力する前記運転条件である入力運転条件を含むモデル入力条件を取得するモデル入力条件取得ステップと、
前記予測モデルを用いて、前記モデル入力条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出する予測値算出ステップと、を実行させるように構成され、
前記バーナ装置は、複数のバーナを有し、
前記運転条件は、前記複数のバーナ毎の前記運転条件を含み、
前記炉壁計器は、前記複数のバーナにそれぞれ関連する前記炉壁の部分毎に、前記炉壁状態評価指標を求めるのに必要な前記炉壁の厚さ又は温度の経時変化を計測するよう構成される
炉壁状態評価プログラム。
【請求項13】
高温炉を形成する炉壁の状態を評価する炉壁状態評価プログラムであって、
コンピュータに、
前記炉壁に設置されるバーナ装置に供給される燃料の燃料供給量または燃焼用ガスのガス供給量の少なくとも一方の条件を含む運転条件であって過去に用いられた前記運転条件である過去運転条件と、前記炉壁の減肉速度または熱疲労指標の少なくとも一方である炉壁状態評価指標であって、前記過去運転条件下での炉壁計器による計測を通して求められた過去炉壁状態評価指標と、を対応付けた学習データを学習することにより作成される、前記運転条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出するための予測モデルを取得する予測モデル取得ステップと、
前記予測モデルに入力する前記運転条件である入力運転条件を含むモデル入力条件を取得するモデル入力条件取得ステップと、
前記予測モデルを用いて、前記モデル入力条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出する予測値算出ステップと、を実行させるように構成され、
前記炉壁計器は、前記炉壁の炉内側の炉内壁面に付着する溶融スラグの厚さであるスラグ液膜厚を計測するためのスラグ液膜厚計測装置を含み、
前記学習データは、前記過去運転条件と、該過去運転条件下において前記スラグ液膜厚計測装置によって計測された過去の前記スラグ液膜厚と、該過去運転条件下での前記過去炉壁状態評価指標と、を対応付けることにより生成されており、
前記モデル入力条件は、前記スラグ液膜厚計測装置によって計測された前記スラグ液膜厚を、さらに含む炉壁状態評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高温炉を形成する炉壁の状態の評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばガス化炉、ごみ溶融炉などの高温炉では、高温の熱による熱負荷によって炉内側から炉壁が減肉(浸食)されていくなど、運転時間の経過に従って炉壁の損傷が進行する。そこで、例えば特許文献1は、高炉内を領域分けし、その領域毎の温度計測結果と入力運転状態量から炉内のガス流動挙動を予測し、予測結果をグラフ化して表示することによって運転状態の把握と寿命予測を行うことを開示している。また、特許文献2は、炉内に面する炉内壁面を形成する耐火材の寿命評価のために、超音波を用いた耐火材厚さの計測を行い、その経時変化を監視することによって寿命を予測し、運転改善の参考とすることを開示している。
【0003】
また、特許文献3には、ガス化炉のコンバスタなど、高温となる炉内壁面の保護対策として、コンバスタの炉内壁面に溶融した状態のスラグ(溶融スラグ)による保護膜を形成することが開示されている。ガス化炉内に供給された石炭およびチャーの中に含まれる灰分(スラグ)は、コンバスタ内部の燃焼熱により溶融するが、炉内壁面に付着した溶融スラグによって保護膜が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2017−525854号公報
【特許文献2】特許第5781569号公報
【特許文献3】特開2014−136764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炉内壁面が高温になるほど、炉壁(炉内壁面の炉内側の少なくとも一部を形成する耐火材)の減肉による損傷や、熱疲労による損傷は進行し易い。また、高温炉に設置されるバーナからの火炎の温度は、燃料(灰量)、および、燃料と燃焼用ガスとの供給量バランス(空気比、当量比等)が支配的であり、火炎の温度や、火炎からの距離に応じて、炉内壁面の温度は部分的に異なる。このことから、本発明者らは、供給量バランスに関する条件を含む運転条件が、炉内壁面からの炉壁の減肉速度や熱疲労による損傷の進行速度との相関が高く、この相関関係を学習することにより、減肉速度や熱疲労等の損傷の進行速度を予測することが可能であることを見出した。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、機械学習により導出した高温炉の運転条件と炉壁の損傷の進行度合いとの関係に基づいて炉壁の状態を評価する炉壁状態評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る炉壁状態評価装置は、
高温炉を形成する炉壁の状態を評価する炉壁状態評価装置であって、
前記炉壁に設置されるバーナ装置に供給される燃料の燃料供給量または燃焼用ガスのガス供給量の少なくとも一方の条件を含む運転条件であって過去に用いられた前記運転条件である過去運転条件と、前記炉壁の減肉速度または熱疲労指標の少なくとも一方を含む炉壁状態評価指標であって、前記過去運転条件下での炉壁計器による計測を通して求められた過去炉壁状態評価指標と、を対応付けた複数の個別学習データからなる学習データを学習することにより作成される、前記運転条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出するための予測モデルを取得する予測モデル取得部と、
前記予測モデルに入力する前記運転条件である入力運転条件を含むモデル入力条件を取得するモデル入力条件取得部と、
前記予測モデルを用いて、前記モデル入力条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出する予測値算出部と、を備える。
【0008】
上記(1)の構成によれば、過去に行われた高温炉の運転条件と炉壁状態評価指標(減肉速度、熱疲労指標)との関係を機械学習(深層学習を含む)することによって作成された、ガス化炉などの高温炉の運転条件から炉壁状態評価指標の予測値を算出するための予測モデルを用いて、任意の運転条件(入力運転条件)で高温炉を運転した場合の壁状態評価指標の値を予測する。これによって、事前に燃料の灰組成分析や、炉内における燃焼用ガスの組成が炉壁(耐火材)に与える影響等の試験評価をすることなく、燃料の種類や炉内の燃焼用ガス等によって異なる減肉速度や、熱疲労指標(応力振幅と繰返し数)を精度良く予測することができる。また、高温炉の運転中の計測データにより予測モデルを校正していくようにすれば、予測精度をより高めることができる。
【0009】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記炉壁計器は、前記炉壁の炉内側の炉内壁面に付着する溶融スラグの厚さであるスラグ液膜厚を計測するためのスラグ液膜厚計測装置を含み、
前記学習データは、前記過去運転条件と、該過去運転条件下において前記スラグ液膜厚計測装置によって計測された過去の前記スラグ液膜厚と、該過去運転条件下での前記過去炉壁状態評価指標と、を対応付けることにより生成されており、
前記モデル入力条件は、前記スラグ液膜厚計測装置によって計測された前記スラグ液膜厚を、さらに含む。
【0010】
燃料の燃焼により生じた溶融スラグは、炉壁に付着することによって高温負荷などから炉壁を保護する保護膜となる。そして、溶融スラグは、その厚さ(スラグ液膜厚)に応じて炉内壁面に向かう熱流束を低下させることにより、スラグ液膜厚に応じて炉壁の保護効果が異なる。
【0011】
上記(2)の構成によれば、運転条件と、スラグ液膜厚と、炉壁状態評価指標との相関関係を導出した予測モデルを用いて、炉壁状態評価指標の予測値を算出する。これによって、予測精度をより高めることができる。
【0012】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(2)の構成において、
前記炉壁状態評価指標の予測値に基づいて、前記炉壁の予測残寿命を算出する予測残寿命算出部を、さらに備える。
上記(3)の構成によれば、例えば、予測時の炉壁の厚さと減肉速度の予測値とから炉壁の予測残寿命を求めることや、熱変動に伴う応力振幅と繰返し頻度といった熱疲労指標の予測値から予測残寿命(熱疲労寿命)を求めることができる。
【0013】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)の構成において、
前記高温炉の累積の運転時間と、前記予測残寿命と、前記高温炉の計画運転時間とに基づいて、前記予測残寿命を延長することが可能な前記運転条件である修正運転条件を決定する修正運転条件決定部と、さらに備える。
上記(4)の構成によれば、予測寿命時間が計画運転時間よりも小さい場合には、予測残寿命が長くなるような修正運転条件を決定する。これによって、修正運転条件によって高温炉を運転するようにすれば、高温炉の運転時間が計画値(設計値)以上となるように図ることができる。
【0014】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)の構成において、
前記修正運転条件、前記修正運転条件下で予測される前記炉壁状態評価指標の予測値、または前記修正運転条件下で予測される前記予測残寿命の少なくとも1つを出力装置に出力する出力部を、さらに備える。
上記(5)の構成によれば、修正運転条件や、修正運転条件の下での炉壁状態評価指標や予測残寿命をディスプレイなどの出力装置に出力して表示することにより、オペレータに修正運転条件の提示(提案)や、修正運転条件で高温炉を運転することによる効果を提示することができる。あるいは、修正運転条件を高温炉の運転装置である出力装置に出力することにより、修正運転条件によって高温炉の運転を行うようにすることで、高温炉の寿命の延長を図ることができる。
【0015】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)の構成において、
過去事例、前記修正運転条件を決定する際の決定根拠、または、問い合わせ先の少なくとも1つの関連情報を記憶する関連情報データベースを、さらに備え、
前記出力部は、さらに、前記関連情報を前記出力装置に出力する。
【0016】
上記(6)の構成によれば、関連情報データベースに記憶される関連情報は専門家の知識、ノウハウに関連する情報であり、修正運転条件および関連情報を出力装置に出力する。これによって、高温炉のオペレータに対して、修正運転条件や予測残寿命などを補足するような情報を提示することができる。よって、オペレータが、関連情報データベースに登録されていないような新規事象であったとしても関連情報を確認するなどすることにより、修正運転条件による効果の確度を見極めることができるように図ることができる。
【0017】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(6)の構成において、
前記バーナ装置は、複数のバーナを有し、
前記運転条件は、前記複数のバーナ毎の前記運転条件を含み、
前記炉壁計器は、前記複数のバーナにそれぞれ関連する前記炉壁の部分毎に、前記炉壁状態評価指標を求めるのに必要な前記炉壁の厚さ又は温度の経時変化を計測するよう構成される。
【0018】
一般に、高温炉には複数のバーナが設置されるが、これらの複数のバーナは、その各々から発生する火炎が高温炉を構成する炉壁の互いに異なる部分(炉壁部分)に向かうように炉壁に設置される。そして、炉壁状態評価指標は、バーナの火炎の状態(温度など)の影響を受ける。また、バーナの火炎の状態は燃料供給量やガス供給量に応じたものとなる。よって、炉壁状態評価指標は、複数のバーナの各々の運転条件に応じて炉壁部分毎に異なる場合がある。
【0019】
上記(7)の構成によれば、炉壁状態評価指標を求めるのに必要な指標は、複数のバーナの各々との関係でそれぞれ計測される。これによって、炉壁部分毎に炉壁状態評価指標値が得ることができ、バーナ毎に運転条件の調整を行うことができる。
【0020】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(7)の構成において、
前記予測モデルを作成する予測モデル作成部を、さらに備え、
前記予測モデル作成部は、
前記学習データを生成する学習データ生成部と、
前記学習データの機械学習を実行することにより、前記予測モデルを作成する機械学習実行部と、を有する。
上記(8)の構成によれば、機械学習により、任意の運転条件から炉壁状態評価指標の予測値を算出する予測モデルを作成することができる
【0021】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(8)の構成において、
前記学習データは、前記モデル入力条件を用いた熱流動シミュレーションにより得られる、前記炉壁に対する熱流束分布および前記炉壁の炉内側の炉内壁面に付着する溶融スラグの厚さの分布であるスラグ液膜厚分布に基づいて補正された計測値、または、前記炉壁に対する前記熱流束分布および前記スラグ液膜厚分布に基づいて補完された、前記炉壁計器の計測点以外の位置における補完計測値に基づいて作成された前記個別学習データを含む。
【0022】
上記(9)の構成によれば、熱流動シミュレーションを利用して学習データを生成することにより、予測モデルを用いた、モデル入力条件からの炉壁状態評価指標の予測精度の向上を図ることができる。また、炉壁計器が計測する計測点から離れた位置の計測値を補完することにより、計測点以外の領域でスラグ液膜厚が低下し、炉壁の減耗の進行が早まるといった危険の防止を図ることができる。さらに、炉壁計器に異常が生じているような場合であっても、熱流動シミュレーションによる結果との比較を通して、異常を検出することができ、異常な計測値を含む学習データに基づいて予測モデルが作成されることの防止を図ることができる。
【0023】
(10)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(9)の構成において、
前記高温炉は、コンバスタ部とリダクタ部とを有する、炭素含有燃料をガスに転換するためのガス化炉である。
上記(10)の構成によれば、高温炉はガス化炉である。ガス化炉は、通常、空気比が1以下の還元雰囲気で運転を行うが、この還元雰囲気では、空気比に対して火炎の温度が概ね線形で変化するため、炉内壁面に到達する熱流束も概ね線形で変化する(後述する図4図5参照)。つまり、運転条件と火炎の温度との相関関係を機械学習によってより適切に導出することが可能となる。したがって、運転条件と火炎の温度との関係が線形であるなど、両者の相関が高いガス化炉のような高温炉の炉壁の状態を適切に評価することができる。
【0024】
(11)本発明の少なくとも一実施形態に係る炉壁状態評価方法は、
高温炉を形成する炉壁の状態を評価する炉壁状態評価方法であって、
前記炉壁に設置されるバーナ装置に供給される燃料の燃料供給量または燃焼用ガスのガス供給量の少なくとも一方の条件を含む運転条件であって過去に用いられた前記運転条件である過去運転条件と、前記炉壁の減肉速度または熱疲労指標の少なくとも一方である炉壁状態評価指標であって、前記過去運転条件下での炉壁計器による計測を通して求められた過去炉壁状態評価指標と、を対応付けた複数の個別学習データからなる学習データを学習することにより作成される、前記運転条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出するための予測モデルを取得する予測モデル取得ステップと、
前記予測モデルに入力する前記運転条件である入力運転条件を含むモデル入力条件を取得するモデル入力条件取得ステップと、
前記予測モデルを用いて、前記モデル入力条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出する予測値算出ステップと、を備える。
【0025】
上記(11)の構成によれば、上記(1)と同様の効果を奏する。
【0026】
(12)幾つかの実施形態では、上記(11)の構成において、
前記炉壁計器は、前記炉壁の炉内側の炉内壁面に付着する溶融スラグの厚さであるスラグ液膜厚を計測するためのスラグ液膜厚計測装置を含み、
前記学習データは、前記過去運転条件と、該過去運転条件下において前記スラグ液膜厚計測装置によって計測された過去の前記スラグ液膜厚と、該過去運転条件下での前記過去炉壁状態評価指標と、を対応付けることにより生成されており、
前記モデル入力条件は、前記スラグ液膜厚を含む。
【0027】
上記(12)の構成によれば、上記(2)と同様の効果を奏する。
【0028】
(13)幾つかの実施形態では、上記(11)〜(12)の構成において、
前記炉壁状態評価指標の予測値に基づいて、前記炉壁の予測残寿命を算出する予測残寿命算出ステップを、さらに備える。
上記(13)の構成によれば、上記(3)と同様の効果を奏する。
【0029】
(14)幾つかの実施形態では、上記(13)の構成において、
前記高温炉の累積の運転時間と、前記予測残寿命と、前記高温炉の計画運転時間とに基づいて、前記予測残寿命を延長することが可能な前記運転条件である修正運転条件を決定する修正運転条件決定ステップと、さらに備える。
上記(14)の構成によれば、上記(4)と同様の効果を奏する。
【0030】
(15)幾つかの実施形態では、上記(14)の構成において、
前記修正運転条件、前記修正運転条件下で予測される前記炉壁状態評価指標の予測値、または前記修正運転条件下で予測される前記予測残寿命の少なくとも1つを出力装置に出力する出力ステップを、さらに備える。
上記(15)の構成によれば、上記(5)と同様の効果を奏する。
【0031】
(16)幾つかの実施形態では、上記(15)の構成において、
過去事例、前記修正運転条件を決定する際の決定根拠、または、問い合わせ先の少なくとも1つの関連情報を記憶する関連情報データベースを、さらに備え、
前記出力ステップは、さらに、前記関連情報を前記出力装置に出力する。
【0032】
上記(16)の構成によれば、上記(6)と同様の効果を奏する。
【0033】
(17)幾つかの実施形態では、上記(11)〜(16)の構成において、
前記バーナ装置は、複数のバーナを有し、
前記運転条件は、前記複数のバーナ毎の前記運転条件を含み、
前記炉壁計器を用いて、前記複数のバーナにそれぞれ関連する前記炉壁の部分毎に、前記炉壁状態評価指標を求めるのに必要な前記炉壁の厚さ又は温度の経時変化を計測する計測ステップを、さらに備える。
【0034】
上記(17)の構成によれば、上記(7)と同様の効果を奏する。
【0035】
(18)幾つかの実施形態では、上記(11)〜(17)の構成において、
前記予測モデルを作成する予測モデル作成ステップを、さらに備え、
前記予測モデル作成ステップは、
前記学習データを生成する学習データ生成ステップと、
前記学習データの機械学習を実行することにより、前記予測モデルを作成する機械学習実行ステップと、を有する。
上記(18)の構成によれば、上記(8)と同様の効果を奏する。
【0036】
(19)幾つかの実施形態では、上記(11)〜(18)の構成において、
前記モデル入力条件を用いた熱流動シミュレーションにより得られる、前記炉壁に対する熱流束分布および前記炉壁の炉内側の炉内壁面に付着する溶融スラグの厚さの分布であるスラグ液膜厚分布に基づいて、前記炉壁計器の計測点における計測データの補正または前記計測点以外の位置における計測データを補完する計測補完値取得ステップと、をさらに備える。
【0037】
上記(19)の構成によれば、上記(9)と同様の効果を奏する。
【0038】
(20)幾つかの実施形態では、上記(11)〜(19)の構成において、
前記高温炉は、コンバスタ部とリダクタ部とを有する、炭素含有燃料をガスに転換するためのガス化炉である。
上記(20)の構成によれば、上記(10)と同様の効果を奏する。
【0039】
(21)本発明の少なくとも一実施形態に係る炉壁状態評価プログラムは、
高温炉を形成する炉壁の状態を評価する炉壁状態評価プログラムであって、
コンピュータに、
前記炉壁に設置されるバーナ装置に供給される燃料の燃料供給量または燃焼用ガスのガス供給量の少なくとも一方の条件を含む運転条件であって過去に用いられた前記運転条件である過去運転条件と、前記炉壁の減肉速度または熱疲労指標の少なくとも一方である炉壁状態評価指標であって、前記過去運転条件下での炉壁計器による計測を通して求められた過去炉壁状態評価指標と、を対応付けた複数の個別学習データからなる学習データを学習することにより作成される、前記運転条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出するための予測モデルを取得する予測モデル取得ステップと、
前記予測モデルに入力する前記運転条件である入力運転条件を含むモデル入力条件を取得するモデル入力条件取得ステップと、
前記予測モデルを用いて、前記モデル入力条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出する予測値算出ステップと、を実行させる。
【0040】
上記(21)の構成によれば、上記(11)と同様の効果を奏する。
【0041】
(22)幾つかの実施形態では、上記(21)の構成において、
前記炉壁計器は、前記炉壁の炉内側の炉内壁面に付着する溶融スラグの厚さであるスラグ液膜厚を計測するためのスラグ液膜厚計測装置を含み、
前記学習データは、前記過去運転条件と、該過去運転条件下において前記スラグ液膜厚計測装置によって計測された過去の前記スラグ液膜厚と、該過去運転条件下での前記過去炉壁状態評価指標と、を対応付けることにより生成されており、
前記モデル入力条件は、前記スラグ液膜厚計測装置によって計測された前記スラグ液膜厚を、さらに含む。
【0042】
上記(22)の構成によれば、上記(12)と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0043】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、機械学習により導出した高温炉の運転条件と炉壁の損傷の進行度合いとの関係に基づいて炉壁の状態を評価する炉壁状態評価装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の一実施形態に係るガス化炉(高温炉)の断面概略図である。
図2図1のガス化炉のコンバスタ部のAA断面を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係るスラグ液膜厚を計測するスラグ液膜厚計測装置を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係るガス化炉における空気比と断熱火炎温度との関係を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係るガス化炉における空気比と最大熱流束との関係を示す図である。
図6】本発明の一実施形態に係る炉壁状態評価装置の機能を示すブロック図である。
図7】本発明の一実施形態に係る(a)火炎の状態と(b)予測残寿命との関係を模式的に示す図であり、入力運転条件で運転した場合に対応する。
図8】本発明の一実施形態に係る火炎の状態(a)と予測残寿命(b)との関係を模式的に示す図であり、修正運転条件で運転した場合に対応する。
図9】本発明の一実施形態に係る炉壁状態評価方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0046】
図1は、本発明の一実施形態に係るガス化炉7(高温炉)の断面概略図である。図2は、図1のガス化炉7のコンバスタ部7cのAA断面を示す図である。図3は、本発明の一実施形態に係るスラグ液膜厚Stを計測するスラグ液膜厚計測装置91を示す図である。図4は、本発明の一実施形態に係るガス化炉7における空気比と断熱火炎温度との関係を示す図である。また、図5は、本発明の一実施形態に係るガス化炉7における空気比と最大熱流束との関係を示す図である。
【0047】
本発明の高温炉は、燃料の燃焼により炉内が高温になる炉であり、例えば、石炭などの炭素含有燃料を部分燃焼させてCOやH等の可燃ガスを取り出す石炭ガス化炉などのガス化炉7や、ごみを熱分解し、生成した可燃ガスとチャーをさらに高温で燃焼させて、その燃焼熱で灰分、不純物等を溶融するガス化溶融炉などである。
以下、高温炉をガス化炉7として本発明を説明する。
【0048】
図1図2に示す高温炉は炭素含有燃料をガスに転換するガス化炉7である。このようなガス化炉7によって得られたガスは、ガスタービンやガスエンジンなどの燃料や、化学反応を経て生成される化学燃料等として利用されるなど、ガス化炉7は、石炭ガス化複合発電システム(IGCC)や石炭ガス化燃料電池複合発電システム等の次世代火力発電システム、石炭液化用、化学原料用等に用いる水素製造システム等への利用が期待されている。また、ガス化炉7は、バイオマス燃料を熱化学的にガス化する際にも用いられる。
【0049】
より詳細には、図1図2に示すように、ガス化炉7は、コンバスタ部7cとリダクタ部7rとを有し、全体的に円筒形の形状を有している。また、ガス化炉7にはバーナ装置8が設置され、その炉内において燃料の燃焼を行う。図1図2に示す実施形態では、バーナ装置8は、複数のバーナ81で構成されている。具体的には、コンバスタ部7cには、1以上(1または複数。以下同様。)の微粉炭バーナ82(81)、及び、1以上のチャーバーナ84(81)が設けられ、リダクタ部7rには1以上のガス化バーナ86(81)が設置される。
【0050】
微粉炭バーナ82には、炭素含有燃料として微粉状にされた石炭(微粉炭。以下同様。)を、搬送用気体(COや空気など)を用いて供給するための管状の燃料供給ライン74と、ガス化剤である酸素含有ガス(例えば、酸素や、窒素が含まれる空気)を燃焼用ガスGとして供給するための管状の燃焼用空気供給ライン75とが接続される。つまり、微粉炭バーナ82は、石炭と酸素含有ガス(ガス化剤)をガス化炉7の内部に供給するよう構成される。また、チャーバーナ84には、炉内に供給された燃料のうちの未燃炭素および灰分を主成分とする微小な粒子であるチャーを、搬送用気体を用いて供給するための管状のチャー供給ライン76が接続される。ガス化バーナ86には、上述した燃料供給ライン74が接続される。なお、各ライン(74、75、76)は例えば配管で形成される。
【0051】
また、通常、複数の微粉炭バーナ82がガス化炉7に設置される(図2参照)。図1図2に示す実施形態では、ガス化炉7には4本の微粉炭バーナ82が設置されている。より詳細には、複数(図2では4本)の微粉炭バーナ82は、図1のAA断面上で、円筒状のガス化炉の周方向に沿って、互いに等間隔で配列されている。また、複数の微粉炭バーナ82は、それぞれ、炉内に開口する供給口81eがそれぞれ接線方向に向くように配向されている。これによって、各微粉炭バーナ82の供給口81eから、石炭および酸素含有ガスが炉内に接線方向で供給されるため、運転時においては、接線方向に供給された石炭および酸素含有ガスによって炉内には旋回流が形成される。そして、この旋回流により、石炭粒子の滞留時間を確保することで石炭粒子中の固定炭素のガス化反応が促進され、チャーおよび溶融スラグの上方飛散が抑制されるようにしている。同様に、複数のチャーバーナ84や複数のガス化バーナ86がガス化炉7に設置されても良い。
【0052】
また、ガス化炉7に供給された総石炭量(単位時間当たりの石炭量)は、総石炭量に対するリダクタ部7rへの供給量比である給炭量比(R/T)従って、コンバスタ部7cとリダクタ部7rに分配される。さらに、給炭量比で分配された先で、各微粉炭バーナ82や各ガス化バーナ86に接続された個々の燃料供給ライン74に設けられたバルブなどの流量調整手段の開度に従って分配される。よって、給炭量比やバーナ毎のバルブの開度を調整することによって、バーナ毎(82、86)に、設定に応じた燃料供給量Pfの石炭(燃料F)を供給することが可能になっている。同様に、酸素含有ガスも、その設定に従って燃焼用空気供給ライン75に設けられたバルブなどの各種の流量制御手段(不図示)が制御されることにより、バーナ毎(82)に、設定に応じたガス供給量Pgの酸素含有ガス(燃焼用ガスG)を供給することが可能になっている。
【0053】
図1図2に示す実施形態では、微粉炭バーナ82毎に燃料供給量Pfおよびガス供給量Pgの調整が可能となっている。また、ガス化バーナ86毎に燃料供給量Pfの調整が可能となっている。他方、チャーバーナ84については、チャー(燃料)の供給量(燃料供給量Pf)を調整することが可能であると共に、チャーの搬送性を良くするために搬送用気体の量を増やすなど、固気比(チャーと搬送用気体との割合)を調整することが可能である。図2の例示では、燃料供給量Pfおよびガス供給量Pgは、1つ目の微粉炭バーナ82aでPf1、Pg1であり、2つ目の微粉炭バーナ82bでPf2、Pg2であり、3つ目の微粉炭バーナ82cでPf3、Pg3であり、4つ目の微粉炭バーナ82dでPf4、Pg4である。この際、Pf1〜Pf4あるいはPg1〜Pg4は、全て同じ値であっても良いし、少なくとも1つにおいて異なる値であっても良い。
【0054】
そして、ガス化炉7の運転時において、コンバスタ部7cに投入された空気と石炭が燃焼して例えば1800℃などの高温となり、石炭中の灰は溶けて溶融スラグ(液相)となって流れ落ち、コンバスタ部7cで石炭の燃焼により生成された高温のCOやH等の可燃性ガスは上昇する。この高温の可燃性ガスは、リダクタ部7rにおいて新たに投入された石炭と反応する。これによって、効率良く石炭をガスに転換することが可能となっている。
【0055】
この際、溶融スラグは、ガス化炉7の炉壁71の内面(以下、炉内壁面71s)を伝って排出口72から排出される。図1図2に示す実施形態では、炉壁71は、冷却水が流れる複数の金属製の管を所定の間隔で並べると共に、隣接する管の間を板状の部材で接続し、炉内側を耐火材で覆うことにより形成されている。この際、炉内壁面71sに付着して下方に流れ落ちる溶融スラグによって、高温の熱に対して炉壁71を保護する保護膜(以下、スラグ液膜S)が形成される(図3参照)。また、排出口72から排出された溶融スラグは、ガス化炉7の底部に貯留された水と接触して水砕スラグとなり、炉外に排出される。
【0056】
なお、図1図2に示す実施形態では、複数の微粉炭バーナ82は、高さ位置が揃えられた複数の微粉炭バーナ82からなる1段で構成されるが、本実施形態に本発明は限定さらない。他の幾つかの実施形態では、複数の微粉炭バーナ82が、互いに高さ位置を上下にずらした2段で構成されるなど、複数の微粉炭バーナ82は、複数段で構成されても良い。複数のチャーバーナ84や複数のガス化バーナ86が設置されたガス化炉7でも同様である。
【0057】
上述したような構成を備えるガス化炉7は、バーナ装置8を構成するバーナ81(82、84、86)毎の燃料F(石炭)の供給量(燃料供給量Pf)、または、燃焼用ガスG(酸素含有ガス)の供給量(ガス供給量Pg)の少なくとも一方の条件を含む運転条件Cに従って運転される。よって、運転条件Cを変えることにより、少なくとも1つのバーナ81の燃料供給量Pfやガス供給量Pgを調整することが可能である。そして、運転条件Cを制御することにより、燃料量に対する空気量の比である空気比(=空気量/燃料量)などを調整し、各バーナ81からの火炎Bの温度や形状などの火炎状態を調整することが可能である。
【0058】
例えば、空気比と断熱火炎温度との関係は、図4に示す実施形態では、空気比が1より小さいa(a<1)から1付近のb(a<b)までは、空気比が大きくなるに従って断熱火炎温度も大きくなり、空気比がbを超えると、空気比が大きくなるに従って断熱火炎温度も小さくなっている。
【0059】
また、火炎Bの温度が高いほど、炉内壁面71sに付着するスラグ液膜Sを通過するなどして、炉内壁面71sの到達する熱流束(W/m)は大きい。図5に示す実施形態では、図4と同様に、空気比がa(a<1)から1付近のb(a<b)までは、空気比が大きくなるに従って最大熱流束も大きくなり、空気比がbを超えると、空気比が大きくなるに従って最大熱流束も小さくなっている。
【0060】
ここで、炉内壁面71sが高温になるほど、炉壁71(炉内壁面71sの炉内側の少なくとも一部を形成する耐火材)の減肉による損傷や、熱疲労による損傷は進行し易い。また、ガス化炉7に設置されるバーナ81からの火炎Bの温度は、燃料(灰量)、および、燃料Fと燃焼用ガスGとの供給量バランス(空気比、当量比等)が支配的であり、火炎Bの温度や、火炎Bからの距離に応じて、炉内壁面71sの温度は部分的に異なる。このことから、本発明者らは、上述した運転条件Cが、炉内壁面71sからの炉壁71の減肉速度Iv(耐火材浸食速度)や熱疲労による損傷の進行速度との相関が高く、この相関関係を学習することにより、炉壁71の減肉速度Ivや熱疲労の損傷の進行速度などを予測することが可能であることを見出した。
【0061】
上記の炉壁71の減肉速度Iv(以下、単に、減肉速度Iv)は、例えば日や時間などの単位時間あたりに減少する炉壁71(耐火材)の厚さである。炉壁71の厚さは、高温負荷(熱による溶融、粒子による摩耗など)によって運転時間の経過に従って減肉していき、炉壁71の厚さが足りなくなる部分が生じると、ガス化炉7は寿命を迎えることになり、炉壁71の交換などの対応が必要となる。そして、ある運転条件Cにおける減肉速度Ivは、その運転条件Cにおいて、炉壁71の厚さを計測可能な炉壁計器9を用いるなどして炉壁71の厚さを任意のタイミング(周期的など)で複数回計測することにより得られる、炉壁71の厚さの経時変化に基づいて算出可能である。
【0062】
他方、炉壁71の熱疲労は、炉壁71における温度変動により生じる応力変動により進行する。よって、ある運転条件Cにおける熱疲労の進行速度は、炉壁71の温度の計測が可能な炉壁計器9(熱電対など)を用いて、炉壁71の温度を任意のタイミング(周期的など)で複数回計測することにより得られる、温度の経時変化に基づいて算出可能である。すなわち、温度の経時変化が得られれば、最大温度および最小温度などの各温度に対応する応力値が算出可能であり、応力振幅Δσを求めることが可能である。また、温度の経時変化から変動周期が得られるので、応力振幅Δσの単位時間当たりの回数(繰返し頻度N)を求めることが可能であり、この繰返し頻度Nが進行速度となる。そして、この応力振幅Δσの繰返し頻度Nが、炉壁71の材料のS−N曲線を参照することにより得られる、その応力振幅Δσに対応する破断繰返し数Nfに達すると、ガス化炉7は寿命を迎えることになり、炉壁71の交換などの対応が必要となる。
【0063】
また、上述したように、ガス化炉7に設置される複数のバーナ81の設置位置や供給口81eの向きが異なる場合には、複数のバーナ81の各々からの火炎Bが向けられる炉壁71の部分(炉壁部分)は配置に応じて異なる。そして、炉壁状態評価指標Iは、バーナ81の火炎Bの火炎状態(温度など)の影響を受ける。また、バーナ81の火炎Bの火炎状態は燃料供給量Pfやガス供給量Pgに応じたものとなる。よって、炉壁状態評価指標Iは、複数のバーナ81の各々の運転条件Cに応じて炉壁部分毎に異なる場合がある。よって、炉壁計器9は、複数のバーナ81にそれぞれ関連する炉壁71の炉壁部分毎に、炉壁状態評価指標Iを求めるのに必要な、上述した炉壁71の厚さ又は温度の経時変化を計測するよう構成される。
【0064】
以下、幾つかの実施形態に係る炉壁状態評価装置1を、図6図8を用いて説明する。図6は、本発明の一実施形態に係る炉壁状態評価装置1の機能を示すブロック図である。図7は、本発明の一実施形態に係る(a)火炎Bの状態と(b)予測残寿命Leとの関係を模式的に示す図であり、入力運転条件Ctで運転した場合に対応する。また、図8は、本発明の一実施形態に係る(a)火炎Bの状態と(b)予測残寿命Leとの関係を模式的に示す図であり、修正運転条件Cmで運転した場合に対応する。なお、図7(b)および図8(b)は、ガス化炉7の炉内壁面71sの一部の側面視であり、4つの微粉炭バーナ82が、上段および下段のそれぞれに設置されている場合に対応する。
【0065】
炉壁状態評価装置1は、ガス化炉7(高温炉)を形成する炉壁71の状態を評価する装置である。より具体的には、炉壁状態評価装置1は、後述する予測モデルMを用いて、運転条件Cに対応する減肉速度Ivまたは熱疲労指標If(応力振幅Δσ、繰返し頻度N)の少なくとも一方を含む炉壁状態評価指標Iを予測可能であり、例えば運転中のガス化炉7の運転条件Cを取得することによってリアルタイムな予測が可能である。そして、図6に示すように、炉壁状態評価装置1は、予測モデル取得部2と、モデル入力条件取得部3と、予測値算出部4と、を備える。上記の機能部について、それぞれ説明する。
【0066】
なお、以下の説明では、バーナ装置8は、ガス化炉7に設置される1又は複数のバーナ81のうち、予測対象となる少なくとも1本を含むものとする。運転条件Cは、炉壁71に設置されるバーナ装置8に供給される燃料Fの燃料供給量Pfおよび燃焼用ガスGのガス供給量Pgを含む。バーナ装置8が複数のバーナ81を含む場合には、運転条件Cは、バーナ81毎の個々の運転条件Cを含む。
【0067】
また、炉壁状態評価装置1は、コンピュータで構成されており、図示しないCPU(プロセッサ)や、ROMやRAMといったメモリや外部記憶装置などとなる記憶装置mを備えている。そして、メモリ(主記憶装置)にロードされたプログラム(炉壁状態評価プログラム)の命令に従ってCPUが動作(データの演算など)することで、各装置が備える上記の各機能部などを実現する。換言すれば、炉壁状態評価プログラムは、コンピュータに上記の各機能部を実現させるためのソフトウェアであり、コンピュータによる読み込みが可能な記憶媒体に記憶されても良い。
【0068】
予測モデル取得部2は、上述した運転条件Cであって過去に用いられた運転条件Cである過去運転条件Cpと、上述した炉壁71の減肉速度Ivまたは熱疲労指標If(応力振幅Δσ、繰返し頻度N)の少なくとも一方を含む炉壁状態評価指標Iであって、過去運転条件Cp下での炉壁計器9による計測を通して求められた炉壁状態評価指標(以下、過去炉壁状態評価指標Ip)と、を対応付けた複数の個別学習データからなる学習データDを学習することにより作成される予測モデルMを取得する。つまり、予測モデルMを用いることにより、後述する入力運転条件Ctなどの任意の運転条件Cを含むモデル入力条件Pから、その運転条件Cに対応する炉壁状態評価指標Iの予測値Eを算出することが可能である。
【0069】
詳述すると、減肉速度Ivについては、ガス化炉7の運転中に、前述のような計測を通して減肉速度Ivを求めることにより、この減肉速度Ivと、その際の運転条件Cとの対応関係が得られる。これを、同一又は異なる運転条件Cで複数回行うことにより、運転条件Cと減肉速度Ivとの対応関係をそれぞれ示す複数の個別学習データで構成される学習データDが得られる。そして、この学習データDを機械学習することにより作成される予測モデルMが作成される。つまり、この予測モデルMは、運転条件と減肉速度Ivとが有する相関関係を機械学習の手法を用いて規定したものである。よって、この相関関係を規定した予測モデルMを用いることにより、任意の運転条件Cにおける減肉速度Ivの予測値Eを求めることが可能となる。
【0070】
他方、上記の熱疲労指標Ifについても、ガス化炉7の運転中に、前述のような計測を通して、応力振幅Δσおよび繰返し頻度Nを求めることにより、応力振幅Δσおよび繰返し頻度Nと、その際の運転条件Cとの対応関係が得られる。これを、同一又は異なる運転条件Cで複数回行うことにより、運転条件Cと、応力振幅Δσおよび繰返し頻度Nとの対応関係をそれぞれ示す複数の個別学習データで構成される学習データDが得られる。そして、この学習データDを機械学習することにより作成される予測モデルMが作成される。つまり、この予測モデルMは、運転条件と、応力振幅Δσおよび繰返し頻度Nとが有する相関関係を機械学習の手法を用いて規定したものである。よって、この相関関係を規定した予測モデルMを用いることにより、任意の運転条件Cにおける熱疲労指標Ifの予測値Eを求めることが可能となる。
【0071】
そして、予測モデル取得部2は、上述のようにして予め作成されている予測モデルMを取得する。図6に示す実施形態では、予測モデル取得部2は、炉壁状態評価装置1が備える記憶装置mに予め記憶されている予測モデルMを読み込むことによって取得する。なお、この予測モデルMは、不図示の通信ネットワークに接続を介して予め取得されて、記憶装置mに記憶されたものであっても良い。なお、学習データDには、他のガス化炉でのデータが含まれていても良い。
【0072】
モデル入力条件取得部3は、予測モデルMに入力する運転条件Cである入力運転条件Ctを含むモデル入力条件Pを取得する。図6に示す実施形態では、この入力運転条件Ctは、ガス化炉7の運転条件Cの制御が可能なガス化炉7の運転装置から取得されるようになっている。ただし、本実施形態に本発明が限定されない。他の幾つかの実施形態では、上記のガス化炉7の運転装置から取得された運転条件Cが、不図示の通信ネットワークを介して、モデル入力条件取得部3に入力されるように構成されていても良い。
【0073】
予測値算出部4は、予測モデルMを用いて、モデル入力条件Pから炉壁状態評価指標Iの予測値Eを算出する。すなわち、入力運転条件Ctを含むモデル入力条件Pを入力に、予測モデルMに従った演算を行うことにより、炉壁状態評価指標Iの予測値Eを得る。例えば、図2に示すように、複数のバーナ81が、バーナ81毎の運転条件Cに従ってそれぞれ運転されている場合には、火炎Bの火炎状態に違いが生じる場合がある(後述する図7参照)。また、バーナ81毎の設置位置や供給口81eの向きが互いに異なる場合には、各バーナ81の火炎Bが向けられる炉壁部分が異なってくる。よって、炉壁状態評価指標Iの予測値Eは、炉壁71の全ての炉壁部分で同じとは限らず、炉壁部分毎に異なる場合がある。このため、図6に示す実施形態では、予測値算出部4は、上述した炉壁状態評価指標Iの予測値Eを、炉壁71の炉壁部分毎に算出するように構成されている。
【0074】
上記の構成によれば、過去に行われた高温炉の運転条件Cと炉壁状態評価指標I(減肉速度Iv、熱疲労指標If)との関係を学習(深層学習を含む機械学習)することによって作成された、高温炉の運転条件Cから炉壁状態評価指標Iの予測値Eを算出するための予測モデルMを用いて、任意の運転条件C(入力運転条件Ct)で高温炉を運転した場合の炉壁状態評価指標Iの値を予測する。これによって、事前に燃料Fの灰組成分析や、炉内における燃焼用ガスGの組成が炉壁71(耐火材)に与える影響等の試験評価をすることなく、燃料Fの種類や炉内の燃焼用ガス組成等によって異なる減肉速度Iv(耐火材浸食速度)や、熱疲労指標If(応力振幅Δσと繰返し頻度N)を精度良く予測することができる。また、高温炉の運転中の計測データにより予測モデルMを校正していくようにすれば、予測精度をより高めることができる。
【0075】
次に、他の幾つかの実施形態における学習データDおよび予測モデルMについて説明する。具体的には、他の幾つかの実施形態では、学習データDは、過去運転条件Cpと、スラグ液膜Sの厚さ(スラグ液膜厚St)と、過去運転条件Cp下での炉壁計器9による計測を通して求められた炉壁状態評価指標Iとを対応付けたものであっても良い。
【0076】
上述したように、火炎温度が高いほど熱流束が大きく(図4図5参照)、また、熱流束が大きいほど、炉内壁面71sの損傷は進行し易いという関係にある。そして、炉内壁面71sに付着する溶融スラグ(以下、スラグ液膜S)は、その厚さに応じた炉壁71の保護機能を有するため、炉壁71の損傷の進行度合いがスラグ液膜厚Stに応じて変わる。よって、本発明者らは、運転条件Cと、スラグ液膜厚Stが分かれば、炉内壁面71sに到達する熱流束がより正確に求められるので、運転条件Cと、スラグ液膜厚Stと、炉壁状態評価指標Iとを対応付けた学習データを機械学習することにより、炉壁状態評価指標Iをより精度よく予測できることを見出した。
【0077】
すなわち、幾つかの実施形態では、炉壁計器9は、炉壁71の炉内側の炉内壁面71sに付着する溶融スラグ(スラグ液膜S)の厚さであるスラグ液膜厚Stを計測するためのスラグ液膜厚計測装置91を含む。そして、学習データDは、過去運転条件Cpと、この過去運転条件Cp下においてにおいてスラグ液膜厚計測装置91によって計測された過去のスラグ液膜厚Stと、過去炉壁状態評価指標Ipと、を対応付けることにより生成されており、予測モデルMは、任意の運転条件C、および、任意のスラグ液膜厚Stを含むモデル入力条件Pから炉壁状態評価指標Iの予測値Eを算出するよう構成される。
【0078】
この場合、上述したモデル入力条件取得部3は、入力運転条件Ctおよびスラグ液膜厚Stを含むモデル入力条件Pを取得する。モデル入力条件取得部3は、スラグ液膜厚計測装置91に直接接続されるなどして、スラグ液膜厚計測装置91によって得られるスラグ液膜厚Stをリアルタイムに取得しても良い。そして、予測値算出部4は、入力運転条件Ctおよびスラグ液膜厚Stから炉壁状態評価指標Iの予測値Eを算出する。
【0079】
詳述すると、図3に示すように、炉内壁面71sには、スラグが固化したスラグ固層Saが形成され、さらに、そのスラグ固層Saの表面にスラグ液膜Sが形成される。そして、本実施形態では、スラグ液膜厚Stを、スラグ液膜厚Stを計測することが可能な炉壁計器9(スラグ液膜厚計測装置91)によって計測する。
【0080】
このスラグ液膜厚計測装置91は、図3に示すように、炉壁71に埋め込むように構成されたりするセンサ部92と、センサ部92の信号に基づいてスラグ液膜厚Stを算出するスラグ液膜厚演算部93と、を備える。図3に示す実施形態では、センサ部92によって、スラグ固層Saの厚さSatとスラグ液膜厚Stとの合計のスラグ厚Ssの計測値が得られる。そして、スラグ液膜厚演算部93は、このスラグ厚Ssと、スラグ液膜Sに到達する熱流束分布とから、スラグ固層Saの厚さSatを求めると共に、スラグ厚Ssから減算することにより、スラグ液膜厚Stを算出する。上記の熱流束分布は、例えば、炉壁71の温度を計測する温度計測手段(不図示)による計測値がスラグ液膜厚演算部93に入力されるように構成されることにより、求めても良い。
【0081】
上記の構成によれば、運転条件Cと、スラグ液膜厚Stと、炉壁状態評価指標Iとの相関関係を導出した予測モデルMを用いて、炉壁状態評価指標の予測値を算出する。これによって、予測精度をより高めることができる。
【0082】
また、幾つかの実施形態では、図6に示すように、上述した炉壁状態評価装置1は、炉壁状態評価指標Iの予測値Eに基づいて、炉壁71の残寿命の予測値である予測残寿命Leを算出する予測残寿命算出部5を、さらに備えても良い。図6に示す実施形態では、予測残寿命算出部5は、上述した予測値算出部4に接続されており、予測値算出部4から炉壁状態評価指標Iの予測値Eが入力されると、記憶装置mに予め記憶されているなどする後述する情報(Wc、W、Nf、Or)を読み込みつつ、予測残寿命Leを算出するように構成されている。
【0083】
具体的には、炉壁71の減肉速度Ivの予測値E(予測減肉速度Ev)を得た場合には、炉壁71の厚さの寿命(設計値)を参照することにより、予測残寿命Leを算出することが可能である。具体的には、炉壁71の厚さがWc以下(Wc≧0)になるとガス化炉7の運転が不可とされるとした場合、予測残寿命Leの算出時の炉壁71の厚さ(計測値)をWとすると、予測残寿命Le=(W−Wc)÷Evとなる。
【0084】
他方、熱疲労指標Ifの予測値E(予測熱疲労指標Ef)を得た場合には、熱疲労指標Ifに含まれる応力振幅Δσと、炉壁71(耐火材)の材料に関するS−N曲線とに基づいて、破断までの破断繰返し数Nfを求める。また、熱疲労指標Ifに含まれる繰返し頻度Nと、ガス化炉7の運用開始からの実際の累積の運転時間(以下、累積運転時間Or)とに基づいて実際の累積の繰返し数の推定値(推定繰返し数Ne)を求める。そして、予測残寿命Le=(Nf−Ne)÷Nの関係を用いて、予測残寿命Leを求めることができる。
【0085】
例えば、図7(a)に示すように、入力運転条件Ctで運転した場合、4本のバーナ81(微粉炭バーナ82)の各々の火炎Bのうち、2つのバーナ81(82a、82d)が、他の2つのバーナ81(82b、82c)よりも炉内において大きく広がっていたとする。この場合、予測残寿命算出部5は、予測値算出部4から入力される複数のバーナ81の各々に対応する炉壁71の炉壁部分毎の炉壁状態評価指標Iの予測値Eを用いて、炉壁71の炉壁部分毎に予測残寿命Leを算出する。
【0086】
その結果、図7(b)に示すように、火炎Bが相対的に他よりも大きく示された2つのバーナ81(82a、82d)の各々の接線方向に位置する炉内壁面71sの炉壁部分(71a、71d)は、火炎Bがより接近している、火炎Bの温度がより高いなどの理由から、予測残寿命Leが相対的に短くなっている。他方、火炎Bが相対的に他よりも小さく示された2つのバーナ81(82b、82c)の各々の接線方向に位置する炉壁71の炉壁部分(71b、71c)は、上記と逆の理由から、予測残寿命Leが比較的長くなっている。
【0087】
上記の構成によれば、例えば、予測時の炉壁71の厚さと減肉速度Ivの予測値Eとから炉壁71の予測残寿命Leを求めることや、熱変動に伴う応力振幅Δσと繰返し頻度Nといった熱疲労指標Ifの予測値から予測残寿命Le(熱疲労寿命)を求めることができる。
【0088】
また、上述した予測残寿命算出部5によって算出される、入力運転条件Ctで運転した場合の予測残寿命Leと、ガス化炉7の運転可能時間の設計値(計画運転時間Ld)との比較により、その入力運転条件Ctの良否を判定しても良い。
【0089】
具体的には、幾つかの実施形態では、図6に示すように、上述した炉壁状態評価装置1は、ガス化炉7(高温炉)の累積運転時間Orと、上述した予測残寿命Leと、ガス化炉7の計画運転時間Ldとに基づいて、予測残寿命Leを延長することが可能な運転条件Cである修正運転条件Cmを決定する修正運転条件決定部6を、さらに備えても良い。図6に示す実施形態では、修正運転条件決定部6は、上述した予測残寿命算出部5に接続されており、予測残寿命算出部5から予測残寿命Leが入力されると、記憶装置mに予め記憶されているなどする上述した累積運転時間Orや計画運転時間Ldを読み込みつつ、修正運転条件Cmを算出するように構成されている。
【0090】
より詳細には、図6に示す実施形態では、修正運転条件決定部6は、ガス化炉7の累積運転時間Orと予測残寿命Leとの合計である予測寿命時間Lr(Lr=Or+Le)を算出する予測寿命時間算出部61と、予測寿命時間Lrがガス化炉7の計画運転時間Ldよりも小さい場合(Lr<Ld)に、上記の修正運転条件Cmを決定する運転条件修正部62と、を有している。なお、修正運転条件決定部6は、Lr≧Ldの場合には、予測寿命時間Lrが計画運転時間Ldを満たすため、現状の運転条件Cを望ましいものと判断して、修正運転条件Cmの決定を行わないようになっている。そして、修正運転条件Cmは、ガス化炉7の運転条件Cを入力運転条件Ctから修正運転条件Cmに切り替えさせるために、ガス化炉7の運転装置に送られても良い。
【0091】
上記の修正運転条件Cmは、バーナ装置8を構成する1以上のバーナ81毎に、燃料供給量Pfまたはガス供給量Pgの少なくとも一方が、修正前の運転条件Cとなる入力運転条件Ctのものとは異なっている。例えば、入力運転条件Ctから、燃料供給量Pfまたはガス供給量Pgの少なくとも一方を変更することにより、変更された運転条件Cに対応するバーナ81の火炎状態が変わる。
【0092】
例えば、図8では、修正運転条件Cmでは、火炎Bが相対的に他よりも大きく示された2つのバーナ81(82a、82d)の各々において、燃料供給量Pfまたはガス供給量Pgの少なくとも一方が、図7に対応する入力運転条件Ctのものから小さくされているものとする。そして、この修正運転条件Cmで運転した場合、図8(a)に示すように火炎状態が変わったものとする。具体的には、図8(a)では、4本のバーナ81(微粉炭バーナ82)の各々の火炎Bが、互いに同様の温度や形状を有するようになっている。つまり、図7(b)において局所的に予測残寿命Leが短く算出された炉壁71の炉壁部分に影響を強く及ぼすバーナ81の火炎状態を調整することにより、図8に示すように、その炉壁部分の熱負荷を低下させ、予測残寿命Leを延長させる。
【0093】
なお、図7図8に示す実施形態では、ガス化炉7の出力の低下を防ぐために、図7(b)において予測残寿命Leが相対的に長く算出された炉壁71の炉壁部分(71b、71c)に対応するバーナ81(82b、82c)の入力運転条件Ctを修正して、燃料供給量Pfまたはガス供給量Pgの少なくとも一方を大きくすることによって、その火炎Bの温度などを高くした結果、その炉壁部分(71a、71d)の予測残寿命Leは短くなっている。ただし、図8(b)に示すように、予測残寿命Leは、最も短かった炉壁部分(71a、71d)で延長されると共に、周方向で同等の長さになっているので、ガス化炉7の寿命は、全体として延長されることになる。このように、バーナ装置8に供給される燃料Fと燃焼用ガスGのバランスを調整することにより、炉壁71の残寿命の長期化を図ることができる
【0094】
また、図7図8に示す実施形態では、修正運転条件Cmによって、4本のバーナ81の火炎Bの火炎状態が等しくなるように修正されているが、本実施形態に本発明は限定されない。他の幾つかの実施形態では、入力運転条件Ctにおける火炎状態が図8(a)であり、修正運転条件Cmによって、火炎状態が図7(a)のようになっても良い。
【0095】
上記の構成によれば、予測寿命時間Lrが計画運転時間Ldよりも小さい場合には、予測残寿命Leが長くなるような修正運転条件Cmを決定する。これによって、修正運転条件Cmによって高温炉を運転するようにすれば、高温炉の運転時間が計画値(設計値)以上となるように図ることができる。
【0096】
また、幾つかの実施形態では、図6に示すように、上述した炉壁状態評価装置1は、修正運転条件Cm、修正運転条件Cm下で予測される炉壁状態評価指標Iの予測値Em、または修正運転条件Cm下で予測される予測残寿命Lmの少なくとも1つを出力装置17に出力する出力部12を、さらに備えていても良い。出力装置17はディスプレイ、ARゴーグルなどウェアラブルデバイスなど出力結果を視覚的に表示する表示装置であっても良いし、音(音声)で出力結果を報知する報知装置であっても良い。この場合には、修正運転条件Cmは、オペレータに提示された上で、オペレータの判断に従って、上述したガス化炉7の運転装置に適用されることになる。あるいは、出力装置17は、上述したガス化炉7の運転装置であっても良く、この場合には、修正運転条件Cmが自動でガス化炉7の運転に反映されることになる。
【0097】
図6に示す実施形態では、出力装置17は、相互に接続(太線)された修正運転条件決定部6から修正運転条件Cmが入力されるように構成されている。また、出力装置17は、修正運転条件Cm下で予測される予測残寿命Lmを得るために予測値算出部4に接続(細線)されており、予測値算出部4に修正運転条件Cmを入力するように構成される。予測値算出部4は、修正運転条件Cmが入力されることによって、修正運転条件Cmと予測モデルMとに基づいて、修正運転条件Cmに対応する炉壁状態評価指標Iの予測値Emを算出することが可能になる。また、予測値算出部4によって算出された修正運転条件Cmに対応する炉壁状態評価指標Iの予測値Emが予測残寿命算出部5に入力されることによって、予測残寿命算出部5は、修正運転条件Cm下で予測される予測残寿命Lmを算出することが可能になる。
【0098】
そして、上述したように算出された修正運転条件Cmや、修正運転条件Cm下で算出された炉壁状態評価指標Iの予測値Emや予測残寿命Lmは記憶装置mなどを介して出力部12に入力される。こうして、出力部12は、修正運転条件Cmや、修正運転条件Cm下で算出された炉壁状態評価指標Iの予測値Emや予測残寿命Lmを出力装置17(図6ではディスプレイ)に出力する。
なお、出力部12は、モデル入力条件Pや、これに対応する炉壁状態評価指標Iの予測値Eや、予測残寿命Leなどのうちの少なくとも1つを、さらに出力しても良い。
【0099】
上記の構成によれば、修正運転条件Cmや、修正運転条件Cmの下での炉壁状態評価指標Iや予測残寿命Leをディスプレイなどの出力装置17に出力して表示することにより、オペレータに修正運転条件Cmの提示(提案)や、修正運転条件Cmでガス化炉7を運転することによる効果を提示することができる。あるいは、修正運転条件Cmをガス化炉7の運転装置である出力装置17に出力することにより、修正運転条件Cmによってガス化炉7の運転を行うようにすることで、ガス化炉7の寿命の延長を図ることができる。
【0100】
また、幾つかの実施形態では、上述した炉壁状態評価装置1は、過去事例、修正運転条件Cmを決定する際の決定根拠、または、問い合わせ先の少なくとも1つの関連情報Riを記憶する関連情報データベース13を、さらに備える。つまり、関連情報Riは、上述した出力装置17に出力する情報を補足するための情報である。そして、上述した出力部12は、さらに、関連情報データベース13から抽出される関連情報Riを出力装置17に出力する。
【0101】
上記の過去事例は、ある運転条件Cを変更した場合に、火炎の温度や形状、減肉速度Ivなどの運転状態がどのように変化したなどの情報である。また、上記の決定根拠は、例えば、燃料供給量Pfやガス供給量Pgなどを増加、あるいは減少した場合に生じる空気比や燃焼状態、スラグ液膜厚Stの変化がどのように変化するかの解説や、スラグ液膜厚Stと熱流束との関係や、熱流束と減肉速度Ivとの関係など解説など、専門家等から得られるなどした物理現象の説明である。問い合わせ先は、過去事例を担当した担当者やその所属、決定根拠の提供元などに連絡することが可能な電話番号やEメールなどの連絡先である。
【0102】
そして、修正運転条件Cmなどと共に、これに関連する上記の関連情報Riが出力されることで、オペレータなどは、修正運転条件Cmの適否の検討に用いることが可能となる。修正運転条件Cmに関連する関連情報Riは、例えば、入力運転条件Ctに含まれる各種の条件のうち、修正運転条件Cmにおいて修正されている条件の修正の方向(増加、減少)や、修正幅、入力運転条件Ctまたは修正運転条件Cmの少なくとも一方の一致度などに基づいて、関連情報データベース13から自動で抽出されても良い。あるいは、オペレータなどが手動で、検索機能を用いるなどして関連情報データベース13から必要な関連情報Riを検索することにより、抽出されても良い。
【0103】
なお、炉壁状態評価装置1に入力された入力運転条件Ctと、決定された修正運転条件Cmとの関係や、実際に修正運転条件Cmで高温炉を運転した場合の結果が関連情報データベース13に蓄積されていくことで、それ以降に利用されても良い。
【0104】
上記の構成によれば、関連情報データベース13に記憶される関連情報Riは専門家の知識、ノウハウに関連する情報であり、修正運転条件Cmおよび関連情報Riを出力装置17に出力する。これによって、高温炉のオペレータに対して、修正運転条件Cmや予測残寿命Leなどを補足するような提示することができる。よって、オペレータが、関連情報データベース13に登録されていないような新規事象であったとしても関連情報Riを確認するなどすることにより、修正運転条件Cmによる効果の確度を見極めることができるように図ることができる。
【0105】
また幾つかの実施形態では、図6に示すように、炉壁状態評価装置1は、上述した予測モデルMを作成する予測モデル作成部14を、さらに備える。そして、この予測モデル作成部14は、学習データ生成部14aと、機械学習実行部14bと、を備える。上記の機能部について、それぞれ説明する。
【0106】
学習データ生成部14aは、既に説明した過去運転条件Cpと、その過去運転条件Cp下での炉壁計器9による計測を通して求められた過去炉壁状態評価指標Ipと、を対応付けた学習データDを生成する。
【0107】
機械学習実行部14bは、学習データ生成部14aによって生成された学習データDの機械学習を実行することにより、上述した予測モデルMを作成する。機械学習実行部14bは、ニューラルネットワーク、一般化線形モデル、回帰分析などの周知な機械学習の手法(アルゴリズム)のいずれかで機械学習を行えば良い。
【0108】
図6に示す実施形態では、予測モデル作成部14は、炉壁状態評価装置1の備える機能部の一つであり、作成した予測モデルMを記憶装置mに記憶するように構成されている。ただし、本実施形態に本発明は限定されない。他の幾つかの実施形態では、予測モデル作成部14は、例えば通信ネットワークなどを介して相互に接続される、炉壁状態評価装置1とは別体の装置に実装されていても良い。
【0109】
なお、予測モデル作成部14は、任意のタイミングで、予測モデルMの再学習を実行しても良い。例えば、入力運転条件Ctを取得した際に、炉壁71の厚さや温度の計測値を取得することにより炉壁71の厚さや温度の経時変化を取得することが可能である。よって、予測モデルMによる予測を行いつつ、運転条件Cと炉壁状態評価指標Iとの対応関係を示す複数のデータをさらに取得することが可能である。このため、これらの新たなデータを含む学習データDを用いて再度学習を行うことにより、予測精度の向上を図ることが可能となる。
【0110】
上記の構成によれば、機械学習により、任意の運転条件Cから炉壁状態評価指標Iの予測値Eを算出する予測モデルMを作成することができる。
【0111】
また、幾つかの実施形態では、上述した学習データDは、モデル入力条件Pを用いた熱流動シミュレーションにより得られる、炉壁71に対する熱流束分布および炉壁71の炉内側の炉内壁面71sに付着する溶融スラグの厚さの分布であるスラグ液膜厚分布に基づいて補正された計測値、または、上述した炉壁71に対する熱流束分布およびスラグ液膜厚分布に基づいて補完(予測)された、炉壁計器9の計測点以外の位置における計測値の補完値である計測補完値に基づいて作成された個別学習データを含む。なお、不図示の計測補完値取得部が、熱流束分布およびスラグ液膜厚分布に基づいて、上記の補正または補完を実行しても良い。
【0112】
熱流動シミュレーション(数値流体力学(CFD)による解析)を実行することにより、スラグ液膜厚Stの分布、および、熱流束分布の予測が得られるので、スラグ液膜厚Stの通過後の熱流束分布の予測が得られる。また、熱流束分布の予測が得られることで、炉壁71に対する熱負荷の状態が分かる。このような熱流動シミュレーションの解析結果を用いることで、炉壁計器9の設置個所から離れた位置の熱負荷も予測することができ、学習データDを充実させることが可能である。また、炉壁計器9の計測値が熱流動シミュレーションの解析結果と大きく異なる場合には、そのような計測値を用いないようにするなど、信頼性の低い個別学習データを学習データDに含めることのないように図ることもできる。
【0113】
上記の構成によれば、熱流動シミュレーションを利用して学習データDを生成することにより、予測モデルMを用いた、モデル入力条件Pからの炉壁状態評価指標Iの予測精度の向上を図ることができる。また、炉壁計器9が計測する計測点から離れた位置の計測値を補完することにより、計測点以外の領域でスラグ液膜厚Stが低下し、炉壁71の減耗の進行が早まるといった危険の防止を図ることができる。さらに、炉壁計器9に異常が生じているような場合であっても、熱流動シミュレーションによる結果との比較を通して、異常を検出することができ、異常な計測値を含む学習データDに基づいて予測モデルMが作成されることの防止を図ることができる。
【0114】
以下、上述した炉壁状態評価装置1(炉壁状態評価プログラム)に対応した炉壁状態評価方法について説明する。図9は、本発明の一実施形態に係る炉壁状態評価方法を示す図である。
【0115】
幾つかの実施形態では、図9に示すように、炉壁状態評価方法は、予測モデル取得ステップ(S2)と、モデル入力条件取得ステップ(S3)と、予測値算出ステップ(S4)と、を備える。図9に示す実施形態では、炉壁状態評価方法は、さらに、予測モデル作成ステップ(S1)を備える。また、図9に示すように、予測モデル作成ステップ(S1)の実行前に、計測ステップ(S0)を実行しても良い。
図9のステップ順に、炉壁状態評価方法を説明する。
【0116】
図9のステップS0において、計測ステップ(S0)を実行する。計測ステップ(S0)は、上述した炉壁計器9を用いて、複数のバーナ81にそれぞれ関連する炉壁71の炉壁部分毎に、炉壁状態評価指標Iを求めるのに必要な炉壁の厚さの経時変化、炉壁の温度の経時変化の経時変化、または、スラグ液膜厚Stの経時変化の少なくとも1つを計測するステップである。そして、図9に示す実施形態では、計測ステップ(S0)によって計測された計測データに基づいて、予測モデルMが作成される。
【0117】
なお、炉壁状態評価方法は、これらの計測データに対して、モデル入力条件Pを用いた熱流動シミュレーションにより得られる、炉壁71に対する熱流束分布、およびスラグ液膜Sの厚さの分布に基づいて、炉壁計器9の計測点における計測データの補正または計測点以外の位置における計測データを補完する計測補完値取得ステップを、をさらに備えていても良い。このステップは、既に説明した計測補完値取得部が実行しても良いものとして説明した処理内容と同様であるため、詳細は省略するが、この場合には、計測ステップ(S0)の後に計測補完値取得ステップが行われた後、予測モデルMが作成される。
【0118】
図9のステップS1において、予測モデル作成ステップを実行する。予測モデル作成ステップ(S1)は、上述した予測モデルMを作成するステップである。予測モデル作成ステップ(S1)は、既に説明した予測モデル作成部14が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略する。
【0119】
ステップS2において、予測モデル取得ステップを実行する。予測モデル取得ステップ(S2)は、上述した予測モデル作成ステップ(S1)などによって作成された予測モデルMを取得するステップである。予測モデル取得ステップ(S2)は、既に説明した予測モデル取得部2が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略する。
【0120】
ステップS3において、モデル入力条件取得ステップを実行する。モデル入力条件取得ステップ(S3)は、予測対象となる上述した入力運転条件Ctを含むモデル入力条件Pを取得するステップである。モデル入力条件取得ステップ(S3)は、既に説明したモデル入力条件取得部3が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略する。なお、予測モデルMがスラグ液膜厚Stを入力として必要な場合には、モデル入力条件取得ステップ(S3)において、スラグ液膜厚計測装置91を用いて得られるスラグ液膜厚Stも取得する。
【0121】
ステップS4において、予測値算出ステップを実行する。予測値算出ステップ(S4)は、上述した予測モデル取得ステップ(S2)によって取得した予測モデルMを用いて、上述したモデル入力条件取得ステップ(S3)によって取得したモデル入力条件Pから炉壁状態評価指標Iの予測値Eを算出するステップである。予測値算出ステップ(S4)は、既に説明した予測値算出部4が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略する。
【0122】
上記の構成によれば、事前に燃料Fの灰組成分析や、炉内における燃焼用ガスGの組成が炉壁71(耐火材)に与える影響等の試験評価をすることなく、燃料Fの種類や炉内の燃焼用ガス組成等によって異なる減肉速度Iv(耐火材浸食速度)や、熱疲労指標If(応力振幅Δσと繰返し頻度N)を精度良く予測することができる。
【0123】
また、幾つかの実施形態では、図9に示すように、炉壁状態評価方法は、予測値算出ステップ(S4)で算出した炉壁状態評価指標Iの予測値Eに基づいて、炉壁71の残寿命の予測値である予測残寿命Leを算出する予測残寿命算出ステップ(S5)を、さらに備えていても良い。予測残寿命算出ステップ(S5)は、既に説明した予測残寿命算出部5が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略する。
上記の構成によれば、上述した予測残寿命算出部5によって得られる効果と同様の効果を奏する。
【0124】
また、幾つかの実施形態では、図9に示すように、炉壁状態評価方法は、高温炉の実際の累積運転時間Orと、予測残寿命算出ステップ(S5)によって算出した予測残寿命Leと、高温炉の計画運転時間Ldとに基づいて、予測残寿命Leを延長することが可能な運転条件Cである修正運転条件Cmを決定する修正運転条件決定ステップ(S6)を、さらに備えていても良い。修正運転条件決定ステップ(S6)は、既に説明した修正運転条件決定部6が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略するが、図9に示す実施形態では、ステップS61において、ガス化炉7の予測寿命時間Lr(Lr=Or+Le)が計画運転時間Ldよりも小さいか否かを判定する。そして、予測寿命時間Lrが計画運転時間Ldよりも小さい場合(Lr<Ld)には、ステップS62において計画運転時間Ldを決定する。逆に、予測寿命時間Lrが計画運転時間Ld以上の場合(Lr≧Ld)には、ステップS62を実行することなく、フローを終了する。
上記の構成によれば、上述した修正運転条件決定部6によって得られる効果と同様の効果を奏する。
【0125】
また、幾つかの実施形態では、図9に示すように、炉壁状態評価方法は、修正運転条件Cm、修正運転条件Cm下で予測される炉壁状態評価指標Iの予測値Em、または修正運転条件Cm下で予測される予測残寿命Lmの少なくとも1つを出力装置17に出力する出力ステップ(S7)を、さらに備えていても良い。出力ステップ(S7)は、既に説明した出力部12が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略する。なお、出力ステップ(S7)では、関連情報データベース13から関連情報Riを抽出すると共に、抽出した関連情報Riも、合わせて、出力しても良い。
上記の構成によれば、上述した出力部12によって得られる効果と同様の効果を奏する。
【0126】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【符号の説明】
【0127】
1 炉壁状態評価装置
m 記憶装置
12 出力部
13 関連情報データベース
Ri 関連情報
17 出力装置
2 予測モデル取得部
3 モデル入力条件取得部
4 予測値算出部
5 予測残寿命算出部
6 修正運転条件決定部
61 予測寿命時間算出部
62 運転条件修正部
7 ガス化炉
7c コンバスタ部
7r リダクタ部
71 炉壁
71s 炉内壁面
72 排出口
74 燃料供給ライン
75 燃焼用空気供給ライン
76 チャー供給ライン
8 バーナ装置
81 バーナ
81e バーナの供給口
82 微粉炭バーナ
84 チャーバーナ
86 ガス化バーナ
9 炉壁計器
91 スラグ液膜厚計測装置
92 センサ部
93 スラグ液膜厚演算部


B 火炎
F 燃料
G 燃焼用ガス
Pf 燃料供給量
Pg ガス供給量
S スラグ液膜
Sa スラグ固層
Ss スラグ厚
St スラグ液膜厚

M 予測モデル
D 学習データ
C 運転条件
Cm 修正運転条件
Cp 過去運転条件
Ct 入力運転条件
P モデル入力条件
I 炉壁状態評価指標
Iv 減肉速度
If 熱疲労指標
Ip 過去炉壁状態評価指標
N 繰返し頻度
Ne 推定繰返し数
Nf 破断繰返し数
Nr 推定繰返し数
Ip 過去炉壁状態評価指標
E 炉壁状態評価指標の予測値
Ef 予測熱疲労指標
Ev 予測減肉速度
Ld 計画運転時間
Le 予測残寿命(入力運転条件)
Lm 予測残寿命(修正運転条件)
Lr 予測寿命時間
Or 累積運転時間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9