【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る炉壁状態評価装置は、
高温炉を形成する炉壁の状態を評価する炉壁状態評価装置であって、
前記炉壁に設置されるバーナ装置に供給される燃料の燃料供給量または燃焼用ガスのガス供給量の少なくとも一方の条件を含む運転条件であって過去に用いられた前記運転条件である過去運転条件と、前記炉壁の減肉速度または熱疲労指標の少なくとも一方を含む炉壁状態評価指標であって、前記過去運転条件下での炉壁計器による計測を通して求められた過去炉壁状態評価指標と、を対応付けた複数の個別学習データからなる学習データを学習することにより作成される、前記運転条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出するための予測モデルを取得する予測モデル取得部と、
前記予測モデルに入力する前記運転条件である入力運転条件を含むモデル入力条件を取得するモデル入力条件取得部と、
前記予測モデルを用いて、前記モデル入力条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出する予測値算出部と、を備える。
【0008】
上記(1)の構成によれば、過去に行われた高温炉の運転条件と炉壁状態評価指標(減肉速度、熱疲労指標)との関係を機械学習(深層学習を含む)することによって作成された、ガス化炉などの高温炉の運転条件から炉壁状態評価指標の予測値を算出するための予測モデルを用いて、任意の運転条件(入力運転条件)で高温炉を運転した場合の壁状態評価指標の値を予測する。これによって、事前に燃料の灰組成分析や、炉内における燃焼用ガスの組成が炉壁(耐火材)に与える影響等の試験評価をすることなく、燃料の種類や炉内の燃焼用ガス等によって異なる減肉速度や、熱疲労指標(応力振幅と繰返し数)を精度良く予測することができる。また、高温炉の運転中の計測データにより予測モデルを校正していくようにすれば、予測精度をより高めることができる。
【0009】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記炉壁計器は、前記炉壁の炉内側の炉内壁面に付着する溶融スラグの厚さであるスラグ液膜厚を計測するためのスラグ液膜厚計測装置を含み、
前記学習データは、前記過去運転条件と、該過去運転条件下において前記スラグ液膜厚計測装置によって計測された過去の前記スラグ液膜厚と、該過去運転条件下での前記過去炉壁状態評価指標と、を対応付けることにより生成されており、
前記モデル入力条件は、前記スラグ液膜厚計測装置によって計測された前記スラグ液膜厚を、さらに含む。
【0010】
燃料の燃焼により生じた溶融スラグは、炉壁に付着することによって高温負荷などから炉壁を保護する保護膜となる。そして、溶融スラグは、その厚さ(スラグ液膜厚)に応じて炉内壁面に向かう熱流束を低下させることにより、スラグ液膜厚に応じて炉壁の保護効果が異なる。
【0011】
上記(2)の構成によれば、運転条件と、スラグ液膜厚と、炉壁状態評価指標との相関関係を導出した予測モデルを用いて、炉壁状態評価指標の予測値を算出する。これによって、予測精度をより高めることができる。
【0012】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(2)の構成において、
前記炉壁状態評価指標の予測値に基づいて、前記炉壁の予測残寿命を算出する予測残寿命算出部を、さらに備える。
上記(3)の構成によれば、例えば、予測時の炉壁の厚さと減肉速度の予測値とから炉壁の予測残寿命を求めることや、熱変動に伴う応力振幅と繰返し頻度といった熱疲労指標の予測値から予測残寿命(熱疲労寿命)を求めることができる。
【0013】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)の構成において、
前記高温炉の累積の運転時間と、前記予測残寿命と、前記高温炉の計画運転時間とに基づいて、前記予測残寿命を延長することが可能な前記運転条件である修正運転条件を決定する修正運転条件決定部と、さらに備える。
上記(4)の構成によれば、予測寿命時間が計画運転時間よりも小さい場合には、予測残寿命が長くなるような修正運転条件を決定する。これによって、修正運転条件によって高温炉を運転するようにすれば、高温炉の運転時間が計画値(設計値)以上となるように図ることができる。
【0014】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)の構成において、
前記修正運転条件、前記修正運転条件下で予測される前記炉壁状態評価指標の予測値、または前記修正運転条件下で予測される前記予測残寿命の少なくとも1つを出力装置に出力する出力部を、さらに備える。
上記(5)の構成によれば、修正運転条件や、修正運転条件の下での炉壁状態評価指標や予測残寿命をディスプレイなどの出力装置に出力して表示することにより、オペレータに修正運転条件の提示(提案)や、修正運転条件で高温炉を運転することによる効果を提示することができる。あるいは、修正運転条件を高温炉の運転装置である出力装置に出力することにより、修正運転条件によって高温炉の運転を行うようにすることで、高温炉の寿命の延長を図ることができる。
【0015】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)の構成において、
過去事例、前記修正運転条件を決定する際の決定根拠、または、問い合わせ先の少なくとも1つの関連情報を記憶する関連情報データベースを、さらに備え、
前記出力部は、さらに、前記関連情報を前記出力装置に出力する。
【0016】
上記(6)の構成によれば、関連情報データベースに記憶される関連情報は専門家の知識、ノウハウに関連する情報であり、修正運転条件および関連情報を出力装置に出力する。これによって、高温炉のオペレータに対して、修正運転条件や予測残寿命などを補足するような情報を提示することができる。よって、オペレータが、関連情報データベースに登録されていないような新規事象であったとしても関連情報を確認するなどすることにより、修正運転条件による効果の確度を見極めることができるように図ることができる。
【0017】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(6)の構成において、
前記バーナ装置は、複数のバーナを有し、
前記運転条件は、前記複数のバーナ毎の前記運転条件を含み、
前記炉壁計器は、前記複数のバーナにそれぞれ関連する前記炉壁の部分毎に、前記炉壁状態評価指標を求めるのに必要な前記炉壁の厚さ又は温度の経時変化を計測するよう構成される。
【0018】
一般に、高温炉には複数のバーナが設置されるが、これらの複数のバーナは、その各々から発生する火炎が高温炉を構成する炉壁の互いに異なる部分(炉壁部分)に向かうように炉壁に設置される。そして、炉壁状態評価指標は、バーナの火炎の状態(温度など)の影響を受ける。また、バーナの火炎の状態は燃料供給量やガス供給量に応じたものとなる。よって、炉壁状態評価指標は、複数のバーナの各々の運転条件に応じて炉壁部分毎に異なる場合がある。
【0019】
上記(7)の構成によれば、炉壁状態評価指標を求めるのに必要な指標は、複数のバーナの各々との関係でそれぞれ計測される。これによって、炉壁部分毎に炉壁状態評価指標値が得ることができ、バーナ毎に運転条件の調整を行うことができる。
【0020】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(7)の構成において、
前記予測モデルを作成する予測モデル作成部を、さらに備え、
前記予測モデル作成部は、
前記学習データを生成する学習データ生成部と、
前記学習データの機械学習を実行することにより、前記予測モデルを作成する機械学習実行部と、を有する。
上記(8)の構成によれば、機械学習により、任意の運転条件から炉壁状態評価指標の予測値を算出する予測モデルを作成することができる
【0021】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(8)の構成において、
前記学習データは、前記モデル入力条件を用いた熱流動シミュレーションにより得られる、前記炉壁に対する熱流束分布および前記炉壁の炉内側の炉内壁面に付着する溶融スラグの厚さの分布であるスラグ液膜厚分布に基づいて補正された計測値、または、前記炉壁に対する前記熱流束分布および前記スラグ液膜厚分布に基づいて補完された、前記炉壁計器の計測点以外の位置における補完計測値に基づいて作成された前記個別学習データを含む。
【0022】
上記(9)の構成によれば、熱流動シミュレーションを利用して学習データを生成することにより、予測モデルを用いた、モデル入力条件からの炉壁状態評価指標の予測精度の向上を図ることができる。また、炉壁計器が計測する計測点から離れた位置の計測値を補完することにより、計測点以外の領域でスラグ液膜厚が低下し、炉壁の減耗の進行が早まるといった危険の防止を図ることができる。さらに、炉壁計器に異常が生じているような場合であっても、熱流動シミュレーションによる結果との比較を通して、異常を検出することができ、異常な計測値を含む学習データに基づいて予測モデルが作成されることの防止を図ることができる。
【0023】
(10)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(9)の構成において、
前記高温炉は、コンバスタ部とリダクタ部とを有する、炭素含有燃料をガスに転換するためのガス化炉である。
上記(10)の構成によれば、高温炉はガス化炉である。ガス化炉は、通常、空気比が1以下の還元雰囲気で運転を行うが、この還元雰囲気では、空気比に対して火炎の温度が概ね線形で変化するため、炉内壁面に到達する熱流束も概ね線形で変化する(後述する
図4〜
図5参照)。つまり、運転条件と火炎の温度との相関関係を機械学習によってより適切に導出することが可能となる。したがって、運転条件と火炎の温度との関係が線形であるなど、両者の相関が高いガス化炉のような高温炉の炉壁の状態を適切に評価することができる。
【0024】
(11)本発明の少なくとも一実施形態に係る炉壁状態評価方法は、
高温炉を形成する炉壁の状態を評価する炉壁状態評価方法であって、
前記炉壁に設置されるバーナ装置に供給される燃料の燃料供給量または燃焼用ガスのガス供給量の少なくとも一方の条件を含む運転条件であって過去に用いられた前記運転条件である過去運転条件と、前記炉壁の減肉速度または熱疲労指標の少なくとも一方である炉壁状態評価指標であって、前記過去運転条件下での炉壁計器による計測を通して求められた過去炉壁状態評価指標と、を対応付けた複数の個別学習データからなる学習データを学習することにより作成される、前記運転条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出するための予測モデルを取得する予測モデル取得ステップと、
前記予測モデルに入力する前記運転条件である入力運転条件を含むモデル入力条件を取得するモデル入力条件取得ステップと、
前記予測モデルを用いて、前記モデル入力条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出する予測値算出ステップと、を備える。
【0025】
上記(11)の構成によれば、上記(1)と同様の効果を奏する。
【0026】
(12)幾つかの実施形態では、上記(11)の構成において、
前記炉壁計器は、前記炉壁の炉内側の炉内壁面に付着する溶融スラグの厚さであるスラグ液膜厚を計測するためのスラグ液膜厚計測装置を含み、
前記学習データは、前記過去運転条件と、該過去運転条件下において前記スラグ液膜厚計測装置によって計測された過去の前記スラグ液膜厚と、該過去運転条件下での前記過去炉壁状態評価指標と、を対応付けることにより生成されており、
前記モデル入力条件は、前記スラグ液膜厚を含む。
【0027】
上記(12)の構成によれば、上記(2)と同様の効果を奏する。
【0028】
(13)幾つかの実施形態では、上記(11)〜(12)の構成において、
前記炉壁状態評価指標の予測値に基づいて、前記炉壁の予測残寿命を算出する予測残寿命算出ステップを、さらに備える。
上記(13)の構成によれば、上記(3)と同様の効果を奏する。
【0029】
(14)幾つかの実施形態では、上記(13)の構成において、
前記高温炉の累積の運転時間と、前記予測残寿命と、前記高温炉の計画運転時間とに基づいて、前記予測残寿命を延長することが可能な前記運転条件である修正運転条件を決定する修正運転条件決定ステップと、さらに備える。
上記(14)の構成によれば、上記(4)と同様の効果を奏する。
【0030】
(15)幾つかの実施形態では、上記(14)の構成において、
前記修正運転条件、前記修正運転条件下で予測される前記炉壁状態評価指標の予測値、または前記修正運転条件下で予測される前記予測残寿命の少なくとも1つを出力装置に出力する出力ステップを、さらに備える。
上記(15)の構成によれば、上記(5)と同様の効果を奏する。
【0031】
(16)幾つかの実施形態では、上記(15)の構成において、
過去事例、前記修正運転条件を決定する際の決定根拠、または、問い合わせ先の少なくとも1つの関連情報を記憶する関連情報データベースを、さらに備え、
前記出力ステップは、さらに、前記関連情報を前記出力装置に出力する。
【0032】
上記(16)の構成によれば、上記(6)と同様の効果を奏する。
【0033】
(17)幾つかの実施形態では、上記(11)〜(16)の構成において、
前記バーナ装置は、複数のバーナを有し、
前記運転条件は、前記複数のバーナ毎の前記運転条件を含み、
前記炉壁計器を用いて、前記複数のバーナにそれぞれ関連する前記炉壁の部分毎に、前記炉壁状態評価指標を求めるのに必要な前記炉壁の厚さ又は温度の経時変化を計測する計測ステップを、さらに備える。
【0034】
上記(17)の構成によれば、上記(7)と同様の効果を奏する。
【0035】
(18)幾つかの実施形態では、上記(11)〜(17)の構成において、
前記予測モデルを作成する予測モデル作成ステップを、さらに備え、
前記予測モデル作成ステップは、
前記学習データを生成する学習データ生成ステップと、
前記学習データの機械学習を実行することにより、前記予測モデルを作成する機械学習実行ステップと、を有する。
上記(18)の構成によれば、上記(8)と同様の効果を奏する。
【0036】
(19)幾つかの実施形態では、上記(11)〜(18)の構成において、
前記モデル入力条件を用いた熱流動シミュレーションにより得られる、前記炉壁に対する熱流束分布および前記炉壁の炉内側の炉内壁面に付着する溶融スラグの厚さの分布であるスラグ液膜厚分布に基づいて、前記炉壁計器の計測点における計測データの補正または前記計測点以外の位置における計測データを補完する計測補完値取得ステップと、をさらに備える。
【0037】
上記(19)の構成によれば、上記(9)と同様の効果を奏する。
【0038】
(20)幾つかの実施形態では、上記(11)〜(19)の構成において、
前記高温炉は、コンバスタ部とリダクタ部とを有する、炭素含有燃料をガスに転換するためのガス化炉である。
上記(20)の構成によれば、上記(10)と同様の効果を奏する。
【0039】
(21)本発明の少なくとも一実施形態に係る炉壁状態評価プログラムは、
高温炉を形成する炉壁の状態を評価する炉壁状態評価プログラムであって、
コンピュータに、
前記炉壁に設置されるバーナ装置に供給される燃料の燃料供給量または燃焼用ガスのガス供給量の少なくとも一方の条件を含む運転条件であって過去に用いられた前記運転条件である過去運転条件と、前記炉壁の減肉速度または熱疲労指標の少なくとも一方である炉壁状態評価指標であって、前記過去運転条件下での炉壁計器による計測を通して求められた過去炉壁状態評価指標と、を対応付けた複数の個別学習データからなる学習データを学習することにより作成される、前記運転条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出するための予測モデルを取得する予測モデル取得ステップと、
前記予測モデルに入力する前記運転条件である入力運転条件を含むモデル入力条件を取得するモデル入力条件取得ステップと、
前記予測モデルを用いて、前記モデル入力条件から前記炉壁状態評価指標の予測値を算出する予測値算出ステップと、を実行させる。
【0040】
上記(21)の構成によれば、上記(11)と同様の効果を奏する。
【0041】
(22)幾つかの実施形態では、上記(21)の構成において、
前記炉壁計器は、前記炉壁の炉内側の炉内壁面に付着する溶融スラグの厚さであるスラグ液膜厚を計測するためのスラグ液膜厚計測装置を含み、
前記学習データは、前記過去運転条件と、該過去運転条件下において前記スラグ液膜厚計測装置によって計測された過去の前記スラグ液膜厚と、該過去運転条件下での前記過去炉壁状態評価指標と、を対応付けることにより生成されており、
前記モデル入力条件は、前記スラグ液膜厚計測装置によって計測された前記スラグ液膜厚を、さらに含む。
【0042】
上記(22)の構成によれば、上記(12)と同様の効果を奏する。