特許第6863951号(P6863951)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ファナック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6863951-ワイヤ断線予測装置 図000002
  • 特許6863951-ワイヤ断線予測装置 図000003
  • 特許6863951-ワイヤ断線予測装置 図000004
  • 特許6863951-ワイヤ断線予測装置 図000005
  • 特許6863951-ワイヤ断線予測装置 図000006
  • 特許6863951-ワイヤ断線予測装置 図000007
  • 特許6863951-ワイヤ断線予測装置 図000008
  • 特許6863951-ワイヤ断線予測装置 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863951
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】ワイヤ断線予測装置
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/02 20060101AFI20210412BHJP
   B23H 1/02 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   B23H7/02 S
   B23H1/02 D
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-210344(P2018-210344)
(22)【出願日】2018年11月8日
(65)【公開番号】特開2020-75321(P2020-75321A)
(43)【公開日】2020年5月21日
【審査請求日】2020年4月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】嶽本 政信
(72)【発明者】
【氏名】羽田 啓太
【審査官】 黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/089648(WO,A1)
【文献】 特開2013−50759(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/050405(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/068679(WO,A1)
【文献】 特開平5−138444(JP,A)
【文献】 特開2008−36812(JP,A)
【文献】 特開2012−86295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 1/00 − 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ放電加工機におけるワークの加工時のワイヤ断線リスクを推定するワイヤ断線予測装置であって、
前記ワイヤ放電加工機によるワークの加工時に、ワイヤが断線していない状態におけるワークの加工に係るデータを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部が取得したデータに基づいて、ワークの加工において指令される加工条件に係る条件である加工条件データと、加工に用いられる部材に係る加工部材データと、ワークの加工時の加工状態データとを、加工の状態を示す状態データとして作成する前処理部と、
前記前処理部が作成した状態データに基づいて、MT法により該状態データと前記ワイヤ放電加工機のワイヤが断線しない状態との相関性を示す学習モデルを生成する学習部と、
を備えたワイヤ断線予測装置。
【請求項2】
ワイヤ放電加工機におけるワークの加工時のワイヤ断線リスクを推定するワイヤ断線予測装置であって、
前記ワイヤ放電加工機によるワークの加工時に、ワークの加工に係るデータを取得するデータ取得部と、
前記データ取得部が取得したデータに基づいて、ワークの加工において指令される加工条件に係る条件である加工条件データと、加工に用いられる部材に係る加工部材データと、ワークの加工時の加工状態データとを、加工の状態を示す状態データとして作成する前処理部と、
MT法により、加工の状態を示す状態データと前記ワイヤ放電加工機のワイヤが断線しない状態との相関性を学習した学習モデルを記憶する学習モデル記憶部と、
前記前処理部が作成した状態データと前記学習モデルにおける単位空間の中心位置とのマハラノビス距離を算出し、算出したマハラノビス距離に基づいて前記ワイヤ放電加工機のワイヤ断線リスクを推定する推定部と、
を備えたワイヤ断線予測装置。
【請求項3】
前記推定部が推定した前記ワイヤ放電加工機のワイヤ断線リスクに基づいて、前記ワイヤ放電加工機の加工条件を変更する加工条件変更部を更に備える、
請求項2に記載のワイヤ断線予測装置。
【請求項4】
前記推定部は、算出した前記マハラノビス距離の大小に応じて前記ワイヤ放電加工機のワイヤ断線リスクの大小を推定し、
前記加工条件変更部は、前記推定部が推定した前記ワイヤ放電加工機のワイヤ断線リスクの大小に基づいて変更する加工条件の強弱を調整する、
請求項3に記載のワイヤ断線予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ断線予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工機では、加工対象となるワークを加工している最中に、加工に用いているワイヤ電極が断線することがある。ワイヤの断線は、放電加工の状況に応じて、発生し難い場合と、発生し易い場合とがある。
【0003】
例えば、図6に示されるように、加工対象となるワークに段差がある場合、ワークの厚い部分を加工する際には、厚板用の加工条件(エネルギーの供給量が大きい加工条件)でワークを加工するが(図6上)、そのような加工条件のままでワークの薄い部分の加工に入ると(図6下)、加工のパワーが強すぎてワイヤが断線し易くなる。
【0004】
また、図7に例示されるように、放電加工中はワイヤのガイド部分に配置されるノズルからワイヤとワークとの間に加工液が供給されている。ノズルから供給される加工液は、直線部の加工時には、ワイヤの移動方向に対して後方へと流れてスラッジ(加工屑)が効率良く排出されていくが、コーナ部を加工している時は、ワイヤ移動方向の後方が行き止まりになっているため、スラッジ(加工屑)が効率良く排出されなくなり、正常放電が十分に行われず断線し易くなる。
【0005】
図8のようにワイヤをワークに対して切込む時は、ノズルから供給される加工液が加工部分から周りへと拡散しやすくなり、加工部分に十分な加工液が供給されなくなる現象が発生する。そのため、ワークに対する切込み時は、ワイヤが断線し易くなる。
その他にも、ワークに不純物が混ざっている場合等には、ワークの素材の部分と不純物の部分とでアーク放電の発生頻度が変わるため、偏った放電が発生し易くなり、これが原因でワイヤの断線が発生しやすくなる。
【0006】
この様なワイヤの断線は、加工面に発生する筋目の原因となる等、加工品質に対して影響を与える他、断線した時点で加工を中断し、上下ガイドの位置をワークの加工開始点まで戻してワイヤの結線を行い、断線した位置に上下ガイド(ワイヤ)を移動させて加工を再開する必要があるため、加工効率が低下するという問題がある。
【0007】
ワイヤ断線を防止するための従来技術として、例えば特許文献1には、ワークの板厚が変わる段差部位において加工条件を変更する技術が開示されている。また、特許文献2には、ワイヤ電極とワークとの間にかかる電圧に異常を検出した場合、電流のバイパス用のスイッチをオンにして断線を回避する技術が開示されている。更に、特許文献3には、試し加工工程において板厚毎の断線閾値と適切な加工条件を取得して、加工中に板厚に応じた適切な加工条件を設定できるようにする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−240761号公報
【特許文献2】特許第3078546号公報
【特許文献3】国際公開第2011/089648号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ワイヤ放電加工機でのワイヤの断線は、上記で示したように様々な状況において発生する。そのため、特許文献1に示される加工条件を変更する方法を取るにしても、断線が発生しやすくなる様々な状況に対して予め実験等を行っておく必要がある他、複数の状況の組み合わせによって予め想定できなかった断線リスクが発生することに対して対応することが難しいという課題がある。また、特許文献2に示される技術においても、異常な電圧であると判断する閾値は加工の状況によって変わってくるため、所定の電圧を検出した際に状況を考慮せずに一律にバイパスするようにしても効率の良い加工を行えるとは限らないという問題がある。また、特許文献3に示される技術では、様々な加工の状況(ワークの種類やワイヤ径等)毎に、予め複数の板厚での試し加工工程を行う必要があり、あらゆる状況に対応するには手間がかかるという問題がある。
【0010】
そこで本発明の目的は、ワイヤ放電加工機による加工における様々な加工状況に応じたワイヤの断線予測を可能とするワイヤ断線予測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、ワイヤ放電加工機による加工時に取得される加工の状況に係る加工データと機械学習モデルを用いてワイヤ断線リスクを予測することにより、上記課題を解決する。本発明のワイヤ断線予測装置が用いる学習モデルとしては、加工条件とワイヤ断線リスクとの相関値を算出可能なものを用いることを想定しており、本明細書ではその一例として、機械学習を使った異常検知方法としてよく用いられるMT(マハラノビス・タグチ)法を利用した例を示す。MT法を用いたワイヤ断線予測のための学習において、ワイヤ断線予測装置は、ワイヤが断線しない加工時に取得された加工データを用いて学習を行うことで学習モデルを作成する。そして、ワイヤ断線予測装置によるワイヤ断線予測時には、ワイヤ断線予測装置は、加工時に取得された加工データを該学習モデルへ入力し、取得された加工データとワイヤが断線しない時の加工データとの距離(マハラノビス距離)を算出して、その算出結果からワイヤ断線リスクを推定する。そして、ワイヤ断線予測装置は、推定したワイヤ断線リスクに基づいてワイヤ放電加工機による加工条件を最適化する。
【0012】
そして、本発明の一態様は、ワイヤ放電加工機におけるワークの加工時のワイヤ断線リスクを推定するワイヤ断線予測装置であって、前記ワイヤ放電加工機によるワークの加工時に、ワイヤが断線していない状態におけるワークの加工に係るデータを取得するデータ取得部と、前記データ取得部が取得したデータに基づいて、ワークの加工において指令される加工条件に係る条件である加工条件データと、加工に用いられる部材に係る加工部材データと、ワークの加工時の加工状態データとを、加工の状態を示す状態データとして作成する前処理部と、前記前処理部が作成した状態データに基づいて、MT法により該状態データと前記ワイヤ放電加工機のワイヤが断線しない状態との相関性を示す学習モデルを生成する学習部と、を備えたワイヤ断線予測装置である。
【0013】
本発明の他の態様は、ワイヤ放電加工機におけるワークの加工時のワイヤ断線リスクを推定するワイヤ断線予測装置であって、前記ワイヤ放電加工機によるワークの加工時に、ワークの加工に係るデータを取得するデータ取得部と、前記データ取得部が取得したデータに基づいて、ワークの加工において指令される加工条件に係る条件である加工条件データと、加工に用いられる部材に係る加工部材データと、ワークの加工時の加工状態データとを、加工の状態を示す状態データとして作成する前処理部と、MT法により、加工の状態を示す状態データと前記ワイヤ放電加工機のワイヤが断線しない状態との相関性を学習した学習モデルを記憶する学習モデル記憶部と、前記前処理部が作成した状態データと前記学習モデルにおける単位空間の中心位置とのマハラノビス距離を算出し、算出したマハラノビス距離に基づいて前記ワイヤ放電加工機のワイヤ断線リスクを推定する推定部と、を備えたワイヤ断線予測装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、ワイヤ放電加工機による加工における様々な加工状況に応じたワイヤの断線予測が可能となり、また、予測したワイヤ断線リスクに基づいてワイヤ放電加工機の加工条件を自動的に調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態によるワイヤ断線予測装置の概略的なハードウェア構成図である。
図2】第1実施形態によるワイヤ断線予測装置の概略的な機能ブロック図である。
図3】学習部が生成する学習モデルのイメージを例示する図である。
図4】第2実施形態によるワイヤ断線予測装置の概略的な機能ブロック図である。
図5】推定部によるワイヤ断線リスクの推定のイメージを例示する図である。
図6】ワイヤ放電加工機におけるワイヤ断線リスクの例を示す図である。
図7】ワイヤ放電加工機におけるワイヤ断線リスクの他の例を示す図である。
図8】ワイヤ放電加工機におけるワイヤ断線リスクの他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は本発明の一実施形態によるワイヤ断線予測装置の要部を示す概略的なハードウェア構成図である。本実施形態のワイヤ断線予測装置1は、ワイヤ放電加工機を制御する制御装置として実装することができる。また、ワイヤ断線予測装置1は、ワイヤ放電加工機を制御する制御装置と併設されたパソコンや、ワイヤ放電加工機を制御する制御装置とネットワークを介して接続された管理装置3,エッジコンピュータ、セルコンピュータ、ホストコンピュータ、クラウドサーバ等のコンピュータとして実装することが出来る。本実施形態では、ワイヤ断線予測装置1を、ワイヤ放電加工機を制御する制御装置と有線/無線のネットワーク7を介して接続されたコンピュータとして実装した場合の例を示す。
【0017】
本実施形態によるワイヤ断線予測装置1が備えるCPU11は、ワイヤ断線予測装置1を全体的に制御するプロセッサである。CPU11は、バス22を介して接続されているROM12に格納されたシステム・プログラムを読み出し、該システム・プログラムに従ってワイヤ断線予測装置1全体を制御する。RAM13には一時的な計算データや表示装置70に表示するための表示データ、入力装置71を介してオペレータが入力した各種データ等が格納される。
【0018】
不揮発性メモリ14は、例えば図示しないバッテリでバックアップされたメモリやSSD(Solid State Drive)等で構成され、ワイヤ断線予測装置1の電源がオフされても記憶状態が保持されるメモリとして構成される。不揮発性メモリ14には、ワイヤ断線予測装置1の動作に係る設定情報が格納される設定領域や、入力装置71から入力されたデータ、それぞれのワイヤ放電加工機2から取得される各種データ(ワーク材質、ワーク形状、ワイヤ材質、ワイヤ径等)、それぞれのワイヤ放電加工機2の動作において検出される各種物理量(加工経路、加工電圧、電流、速度、加工液量、加工液圧、正常放電回数、異常放電回数等)、図示しない外部記憶装置やネットワークを介して読み込まれたデータ等が記憶される。不揮発性メモリ14に記憶されたプログラムや各種データは、実行時/利用時にはRAM13に展開されても良い。また、ROM12には、各種データを解析するための公知の解析プログラム等を含むシステム・プログラムが予め書き込まれている。
【0019】
ワイヤ断線予測装置1は、インタフェース20を介して有線/無線のネットワーク7と接続されている。ネットワーク7には、少なくとも1つのワイヤ放電加工機2や、該ワイヤ放電加工機2による加工作業を管理する管理装置3等が接続され、ワイヤ断線予測装置1との間で相互にデータのやり取りを行っている。
【0020】
ワイヤ放電加工機2は、加工液中のワイヤ電極とワークに電圧を印加して、アーク放電を発生させ、この放電の熱でワークを溶融すると同時に、急激に加熱された加工液の気化爆発により溶融したワークを吹き飛ばすことでワークを加工する加工機である。ワイヤ放電加工機2は、上下ガイド、上下ノズル、ワイヤ、モータ、加工電源等の様々な機材で構成されており、各部の状態がセンサ等で検出され、各部の動作が制御装置により制御される。
【0021】
表示装置70には、メモリ上に読み込まれた各データ、プログラム等が実行された結果として得られたデータ等がインタフェース18を介して出力されて表示される。また、キーボードやポインティングデバイス等から構成される入力装置71は、作業者による操作に基づく指令,データ等をインタフェース19を介してCPU11に渡す。
【0022】
インタフェース23は、ワイヤ断線予測装置1へ機械学習装置300を接続するためのインタフェースである。機械学習装置300は、機械学習装置300全体を統御するプロセッサ301と、システム・プログラム等を記憶したROM302、機械学習に係る各処理における一時的な記憶を行うためのRAM303、及び学習モデル等の記憶に用いられる不揮発性メモリ304を備える。機械学習装置300は、インタフェース23を介してワイヤ断線予測装置1で取得可能な各情報(例えば、ワーク材質、ワーク形状、ワイヤ材質、ワイヤ径、加工経路、加工電圧、電流、速度、加工液量、加工液圧、正常放電回数、異常放電回数等)を観測することができる。また、ワイヤ断線予測装置1は、機械学習装置300から出力される処理結果をインタフェース23を介して取得し、取得した結果を記憶したり、表示したり、他の装置に対して図示しないネットワーク等を介して送信する。
【0023】
図2は、第1実施形態によるワイヤ断線予測装置1と機械学習装置300の概略的な機能ブロック図である。図2に示されるワイヤ断線予測装置1は、機械学習装置300が学習を行う場合に必要とされる構成を備えている(学習モード)。図2に示した各機能ブロックは、図1に示したワイヤ断線予測装置1が備えるCPU11、及び機械学習装置300のプロセッサ301が、それぞれのシステム・プログラムを実行し、ワイヤ断線予測装置1及び機械学習装置300の各部の動作を制御することにより実現される。
【0024】
本実施形態のワイヤ断線予測装置1は、データ取得部30、前処理部32を備え、ワイヤ断線予測装置1が備える機械学習装置300は、学習部110を備えている。また、不揮発性メモリ14(図1)上には、データ取得部30がワイヤ放電加工機2から取得したデータを記憶する取得データ記憶部50が設けられており、機械学習装置300の不揮発性メモリ304(図1)上には、学習部110による機械学習により構築された学習モデルを記憶する学習モデル記憶部130が設けられている。
【0025】
データ取得部30は、ワイヤ放電加工機2から各種データを取得する機能手段である。データ取得部30は、例えば、ワイヤ放電加工機2の加工中に、ワーク材質、ワーク形状、ワイヤ材質、ワイヤ径、加工経路、加工電圧、電流、速度、加工液量、加工液圧、正常放電回数、異常放電回数等の各データを取得し、取得データ記憶部50に記憶する。データ取得部30は、ワイヤ放電加工機2において正常に加工が行われている時(即ち、ワイヤが断線しない時)のワイヤ放電加工機2に係る複数のデータを取得する。データ取得部30は、ワイヤ放電加工機2の制御装置に設定された加工に係る条件や、ワイヤ放電加工機2の制御装置が各部に指令する指令値、ワイヤ放電加工機2の制御装置が各部から計測した計測値、別途設置したセンサ等による検出値等としてデータを取得することができる。データ取得部30は、図示しない外部記憶装置や有線/無線のネットワークを介して他の装置からデータを取得するようにしても良い。
【0026】
前処理部32は、データ取得部30が取得したデータに基づいて、機械学習装置300による学習に用いられる学習データを作成する。前処理部32は、各データを機械学習装置300において扱われる統一的な形式へと変換(数値化、サンプリング等)した学習データを作成する。前処理部32は、機械学習装置300が行う所謂教師なし学習のための所定の形式の状態データSを学習データとして作成する。前処理部32が作成する状態データSは、ワイヤ放電加工機2のワークの加工に係る加工電圧、加工電流、加工速度、加工液量、加工液圧の指令値を含む加工条件データS1と、ワイヤ放電加工機2で加工に用いられるワイヤの材質やワイヤ径、加工するワークの材質等を含む加工部材データS2と、ワイヤ放電加工機2のワークの加工において計測された電圧、電流、正常放電回数、異常放電回数等を含む加工状態データS3とを含む。
【0027】
加工条件データS1は、データ取得部30が取得した、ワイヤ放電加工機2の制御装置が各部に指令する指令値等を用いることができる。加工条件データS1は、加工プログラムによる指令や、ワイヤ放電加工機2に設置された各種指令値を用いるようにして良い。
【0028】
加工部材データS2は、データ取得部30が取得した、ワイヤ放電加工機2の制御装置に設定されているワイヤやワークの情報を用いることができる。
【0029】
加工状態データS3は、データ取得部30が取得した、ワイヤ放電加工機2の制御装置が各部から計測した計測値、別途設置したセンサ等による検出値等を用いることができる。加工状態データS3は、例えば加工時に計測された電圧値の時系列データや電圧波形を示すパラメータ(放電パルス時間、休止パルス時間、ピーク値、パルス幅等のワイヤ放電加工における公知のパラメータ)、電流値の時系列データ電流波形を示すパラメータ(放電パルス時間、休止パルス時間、ピーク値、パルス幅等のワイヤ放電加工における公知のパラメータ)、所定の時間周期内における正常放電(例えば、極間電圧値が、判定レベルを超えてから判定時間が経過した後に判定レベルを下回ったもの)、異常放電(例えば、極間電圧値が、判定レベルを超えてから判定時間が経過する前に判定レベルを下回ったものや、判定レベルを超えないもの等)の回数を用いれば良い。
【0030】
学習部110は、前処理部32が作成した学習データを用いた教師なし学習を行い、ワイヤ放電加工機2におけるワイヤが断線しない状況と、その時の状態データSとの相関性を学習した学習モデルを生成する(学習する)機能手段である。本実施形態の学習部110は、ワイヤ放電加工機2におけるワイヤが断線しない状況と、その時の状態データSとの相関性を、例えばMT(Mahalanobis Taguchi)法により学習する。MT法は、多次元の情報で構成されたデータの集合に対して一つの尺度を導入し、その傾向を認識するための情報処理技術である。
【0031】
本実施形態では、学習部110は、前処理部32が作成した学習データ(加工条件データS1、加工部材データS2,加工状態データS3)を基準となる正常データ群として、各学習データのデータ項目を要素とするベクトルxを考えた時の該正常データ群の集合を単位空間とする。次に、学習部110は、該正常データ群を構成する各データに基づいて、単位空間の中心位置(平均ベクトル)を求め、また、該正常データ群を構成する各データに基づいて、単位空間の相関係数行列を推定する。そして、学習部110は、該正常データ群を構成する各データについて中心位置からのマハラノビス距離を計算し、その計算結果に基づいて閾値を定め、これら算出した各値を学習モデルとして学習モデル記憶部130に記憶する。なお、MT法の詳細については、すでに多くの文献により公知となっているため、本明細書における詳細な説明は省略する。
【0032】
図3は、学習部110が作成する学習モデルのイメージを例示する図である。図3では、学習モデルのイメージを把握しやすくするために、学習データが加工電圧、加工速度、異常放電回数の3つのパラメータから構成されているものとして示している。そして、新たにワイヤ放電加工機2から加工中のデータ(状態データ)が取得された時、学習データのベクトル空間における単位空間の中心位置からのマハラノビス距離が、定められた閾値を超えた場合に、加工状態が異常(ワイヤが断線するリスクがある)と判定することができるようになる。
【0033】
図4は、第2実施形態によるワイヤ断線予測装置1と機械学習装置300の概略的な機能ブロック図である。本実施形態のワイヤ断線予測装置1は、機械学習装置300が推定を行う場合に必要とされる構成を備えている(推定モード)。図4に示した各機能ブロックは、図1に示したワイヤ断線予測装置1が備えるCPU11、及び機械学習装置300のプロセッサ301が、それぞれのシステム・プログラムを実行し、ワイヤ断線予測装置1及び機械学習装置300の各部の動作を制御することにより実現される。
【0034】
本実施形態のワイヤ断線予測装置1は、第1実施形態と同様にデータ取得部30、前処理部32を備え、更に加工条件変更部34を備える。また、ワイヤ断線予測装置1が備える機械学習装置300は、推定部120を備えている。更に、不揮発性メモリ14(図1)上には、データ取得部30がワイヤ放電加工機2から取得したデータを記憶する取得データ記憶部50が設けられており、機械学習装置300の不揮発性メモリ304(図1)上には、学習部110(図2)による機械学習により構築された学習モデルを記憶する学習モデル記憶部130が設けられている。
【0035】
本実施形態によるデータ取得部30、前処理部32は、第1実施形態のデータ取得部30、前処理部32と同様の機能を備える。
【0036】
推定部120は、前処理部32が作成した状態データSに基づいて、学習モデル記憶部130に記憶された学習モデルを用いたワイヤ放電加工機2のワイヤ断線リスクの推定を行う。本実施形態の推定部120では、学習部110(図2)により作成された学習モデル(ワイヤ放電加工機2におけるワイヤが断線しない状況と、その時の状態データSとの相関性)の下で、ワイヤが断線せずに加工ができているときに取得されたデータ群から、前処理部32から入力された状態データSがどの程度離れているのかを示す距離(相関性を考慮した距離)を求め、その結果に基づいてワイヤ放電加工機2のワイヤ断線リスクを推定する。本実施形態の推定部120は、ワイヤ放電加工機2のワイヤ断線リスクをMT法により推定する。
【0037】
本実施形態では、推定部120は、前処理部32が作成した推定対象となる状態データS(加工条件データS1、加工部材データS2,加工状態データS3)について、状態データSのデータ項目を要素とするベクトルxを考えた時に、該ベクトルxと学習データのベクトル空間における単位空間の中心位置とのマハラノビス距離が、定められた閾値を超えた場合に、加工状態が異常(ワイヤが断線するリスクがある)と推定する。推定部120は、単位空間の中心位置とベクトルxとのマハラノビス距離の、閾値からどれだけ離れているかの度合いに応じて、ワイヤ断線リスクの度合いが高くなると推定するようにしても良く、この時、単位空間の中心位置とベクトルxとのマハラノビス距離に対して予め定めた所定の係数を掛けた値をワイヤ断線リスク値とするようにしても良い。
【0038】
図5は、推定部120による推定処理のイメージを例示する図である。図5では、データ取得部が取得したデータに基づいて前処理部32がデータa,b,cを作成した場合を示している。図5の例において、所定の加工状態において取得されたデータaは単位空間の中心位置からみて閾値の範囲内にあるため、該加工状態ではワイヤが断線するリスクは低いと推定することができる。また、所定の加工状態において取得されたデータb,cはいずれも単位空間の中心位置からみて閾値の範囲外にあるため、該加工状態ではワイヤが断線するリスクは高いと推定することができ、また、データbはデータcと比較して単位空間の中心位置からのマハラノビス距離が長いため、データbが示す加工状態はデータcが示す加工状態よりもワイヤ断線リスクが高いと推定することができる。
【0039】
推定部120が推定した結果(ワイヤ断線リスク)は、表示装置70に表示出力したり、図示しない有線/無線ネットワークを介してホストコンピュータやクラウドコンピュータ等に送信出力して利用するようにしても良い。また、推定部120が推定した結果に基づいて、加工条件変更部34がワイヤ放電加工機2の加工条件を変更するようにしても良い。
【0040】
加工条件変更部34は、推定部120が推定した結果(ワイヤ断線リスク)が「ワイヤが断線するリスクが高い」となっている場合に、ワイヤ放電加工機2の加工条件をワイヤが断線しにくくなるように(例えば、加工部に供給されるパワーが下降するように放電休止時間を長くする、加工位置に供給する加工液の量を上げる等)調整する。また、加工条件変更部34は、推定部120が推定した結果(ワイヤ断線リスク)が「ワイヤが断線するリスクが低い」となっている場合に、ワイヤ放電加工機2の加工条件を加工速度が向上するように(例えば、加工部に供給されるパワーが上昇するように放電休止時間を短くする等)調整する。加工条件変更部34は、推定部120がワイヤ断線リスクの度合いを推定する場合には、推定されたワイヤ断線リスクの度合いに応じて加工条件の変更量を変更するようにしても良い。
【0041】
上記構成を備えたワイヤ断線予測装置1では、ワイヤ放電加工機2から取得されたデータに基づいて、推定部120がワイヤ放電加工機2のワイヤ断線リスクを推定し、その推定結果に基づいてワイヤ放電加工機2の加工条件を調整するため、加工の状態に応じたワイヤが断線しない適切な加工条件での加工を行うことができるようになる。そのため、無人運転時においても一律に加工条件を落とす必要がなくなるため、効率のよいワイヤ放電加工(ワイヤが断線しない範囲で加工速度を高速に維持したワイヤ放電加工)を行わせることができるようになる。
【0042】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述した実施の形態の例のみに限定されることなく、適宜の変更を加えることにより様々な態様で実施することができる。
例えば、上記した実施形態ではワイヤ断線予測装置1と機械学習装置300が異なるCPU(プロセッサ)を有する装置として説明しているが、機械学習装置300はワイヤ断線予測装置1が備えるCPU11と、ROM12に記憶されるシステム・プログラムにより実現するようにしても良い。
【0043】
また、上記した実施形態ではワイヤ断線予測装置1をワイヤ放電加工機2の制御装置とネットワーク7を介して接続されたコンピュータ上に実装した例を示したが、例えば機械学習装置300の部分のみをホストコンピュータ上に実装して、データ取得部30,前処理部32,加工条件変更部34を含むワイヤ断線予測装置1本体をエッジコンピュータ上に実装する等、各構成要素の配置を適宜変更して実装するようにしても良い。
【符号の説明】
【0044】
1 ワイヤ断線予測装置
2 ワイヤ放電加工機
3 管理装置
11 CPU
12 ROM
13 RAM
14 不揮発性メモリ
18,19,20 インタフェース
22 バス
23 インタフェース
30 データ取得部
32 前処理部
34 加工条件変更部
50 取得データ記憶部
70 表示装置
71 入力装置
300 機械学習装置
301 プロセッサ
302 ROM
303 RAM
304 不揮発性メモリ
110 学習部
120 推定部
130 学習モデル記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8