特許第6863959号(P6863959)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6863959サーフェイサー及びトップコートからなる被覆の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6863959
(24)【登録日】2021年4月5日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】サーフェイサー及びトップコートからなる被覆の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/36 20060101AFI20210412BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20210412BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20210412BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   B05D1/36 A
   B05D7/24 303A
   B05D1/36 B
   B05D3/00 D
   B32B27/20 A
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-503244(P2018-503244)
(86)(22)【出願日】2016年7月15日
(65)【公表番号】特表2018-521853(P2018-521853A)
(43)【公表日】2018年8月9日
(86)【国際出願番号】EP2016066983
(87)【国際公開番号】WO2017013041
(87)【国際公開日】20170126
【審査請求日】2018年3月14日
(31)【優先権主張番号】15177765.3
(32)【優先日】2015年7月21日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ハンニンク,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】マイアー,ベルント
(72)【発明者】
【氏名】ゼントカー,マイノルフ
(72)【発明者】
【氏名】フィーッツェ,カルシュテン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィージンク,ラインハルト
【審査官】 團野 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−210225(JP,A)
【文献】 特開2012−116879(JP,A)
【文献】 特開2009−102452(JP,A)
【文献】 特開2002−224614(JP,A)
【文献】 特開2000−070833(JP,A)
【文献】 特開2003−164803(JP,A)
【文献】 特開平08−294662(JP,A)
【文献】 特開昭59−183867(JP,A)
【文献】 特開2005−218977(JP,A)
【文献】 特許第5324715(JP,B2)
【文献】 特開2012−061451(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/128684(WO,A1)
【文献】 特開2005−177541(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0202341(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B32B 1/00−43/00
B05D 1/00− 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化したサーフェイサーコート及び硬化したトップコートからなる被覆を基材上に製造する方法であって、
i)被覆系の製造、すなわち
i−a)第一の工程において、未処理の基材又は少なくとも硬化した電着被覆で被覆した基材に、少なくとも1種の着色顔料を含み、及び少なくとも1種の自己架橋性の、外部架橋性の又は物理的に乾燥するバインダーを主バインダーとして含む塗料を施与することによるサーフェイサーコートの形成、
i−b)第二の工程において、前記サーフェイサーコートに、少なくとも1種の着色顔料を含み、及び少なくとも1種の自己架橋性の、外部架橋性の又は物理的に乾燥するバインダーを主バインダーとして含む塗料を施与することによるトップコートの形成、による被覆系の製造、及び、
ii)工程i)で製造した被覆系を硬化させることによる被覆の形成、
を含み、
前記被覆系のi−a)及びi−b)で使用する前記塗料は、DIN EN ISO 12944−5:2008−01に従い相溶性があり、及び、
i−b)で前記トップコートを形成するための前記塗料の施与は、i−a)の前記サーフェイサーコートを形成する前記塗料がDIN 53150:2002−09に従う乾燥段階1に達する前に行い、その乾燥段階はEN ISO 9117−3:2010に従って測定することを特徴とし、
前記工程i−a)とi−b)との間のフラッシュオフタイムは480秒以下であ
前記サーフェイサーコート及び前記トップコートを形成するための前記塗料が、溶媒として、複素環式炭化水素、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、一価アルコール、多価アルコール、エーテル、エステル、ケトン及びアミドから成る群より選択される有機溶媒を実質的に含み、且つ
前記サーフェイサーコート及び前記トップコートを形成するための前記塗料の前記主バインダーは、イソシアネート架橋性の、ポリヒドロキシル基含有ポリエステル及びポリアクリレート樹脂及びそれらの混合物からなる群より選択される、
製造方法。
【請求項2】
i−a)の前記サーフェイサーコートを形成する前記塗料がフィラーを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記サーフェイサーコートを形成するための前記塗料の前記主バインダー及び前記トップコートを形成するための前記主バインダーは、DIN EN ISO 12944−5:2008−01に従い相溶性がある、請求項1に記載のサーフェイサーコート及びトップコートからなる被覆の製造方法。
【請求項4】
前記サーフェイサーコートを形成するための前記塗料の前記主バインダーと、前記トップコートを形成するための前記塗料の前記主バインダーが同じバインダー類に属する、請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記サーフェイサーコートを形成するための前記塗料の前記主バインダー及び前記トップコートを形成するための前記塗料の前記主バインダーが同一である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法
【請求項6】
前記サーフェイサーコート及び前記トップコートを形成するための前記塗料の、前記主バインダー及び前記溶媒の両方が同一である、請求項1〜5のうちいずれか1項に記載の方法
【請求項7】
前記サーフェイサーコート及び前記トップコートを形成するための前記塗料は、少なくとも40質量%の固形分を有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記サーフェイサーコートを形成するための前記塗料及び前記トップコートを形成するための前記塗料は、空気スプレー及び/又は静電スプレーによって施与される、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記サーフェイサーコート及び前記トップコートを形成するための前記塗料は、前記硬化サーフェイサーコートの乾燥膜厚が25〜35μmとなり、及び前記硬化トップコートの乾燥膜厚が40〜80μmとなるようなぬれ膜厚でそれぞれ施与される、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記基材は、自動車の車体又はその一部である、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法によって製造された、硬化サーフェイサーコート及び硬化トップコートからなる被覆で被覆された基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーフェイサーコート及びトップコートからなる被覆を基材上に製造する方法、及びまた、本発明の方法によって被覆した基材に関する。基材は、自動車の車体又は車室、又はその構成要素を含むことが好ましい。本発明の方法は特に、自動車及びトラック、バン又はバス等の業務用車両への被覆を製造するのに適している。
【背景技術】
【0002】
先行技術より公知であるのは、一般的な複数段階工程による自動車の車体又は車室の被覆であり、この被覆からは多層塗装系が得られる。これら公知の仕上げ方法には、一般的に以下の工程が含まれる。
1)基材のリン酸塩処理;
2)陰極電着塗装の施与と電着塗料の硬化、この結果として防食性電着塗装が得られる;
3)サーフェイサーコートを形成するための塗料の施与。この施与は、一般的に2回のスプレーパス(spray passes)で行われる。施与後、得られたサーフェイサーコートをまずフラッシュオフさせ(フラッシュオフタイム)、次いで(例えば60〜150℃で)熱硬化させて、硬化サーフェイサーコートを形成する。硬化したサーフェイサーコートの典型的な膜厚は30μm〜80μmである。硬化したサーフェイサーコートの研磨が意図されている場合は、後者の膜厚を使用する。
4)a)単一被覆トップコートを形成するための塗料の施与。この施与は、一般的には少なくとも2回のスプレーパスで行われる。単一被覆トップコートを形成するための塗料は、通常、単色で顔料着色した塗料である。施与後、得られたトップコートをまずフラッシュオフさせ、次いで熱硬化させる。硬化したトップコートの典型的な膜厚は、色相及び隠ぺい力に依存して、50〜80μmである。
b)a)に代わり、ベースコートを形成するための塗料の施与を、後続するクリアコートを形成するための塗料の施与と一緒に実施してもよい。クリアコートを形成するための塗料を施与する前にベースコートをフラッシュオフさせ、膜厚は約10〜20μmに達する。フラッシュオフタイムに関して、フラッシュオフタイムを延長すると、当該膜の上のクリアコートの外観が改善されるという一般的な法則がある。対応するフラッシュオフタイム後、クリアコートを形成するための塗料を施与する。このクリアコートは、任意にフラッシュオフさせ、それから熱硬化させる。硬化したクリアコートの典型的な膜厚は、およそ50μmである。
5)3項と4a項の組み合わせに代わり、トップコートはまた、直接、すなわち硬化したサーフェイサーコートなしで、硬化した電着塗料に施与される。しかしながら、硬化したサーフェイサーコートがないと、紫外線の透過が可能となり、例えば、硬化した電着塗料の白亜化及び接着の喪失につながる可能性がある。UV吸収剤の量を増加させると、材料費が著しく高くなる結果となることがある。種々の基材又は異なった基材が使用される場合、特に隠ぺい力が低い色相の場合は、所望の被覆性を得るために、膜厚を著しく上げて施与する必要がある。高級品への利用については、この選択肢は品質及び/又は費用を理由に除外される。
6)3項と4a項の組み合わせに代わり、「統合化」仕上げ方法が使用されるが、ここでは硬化したサーフェイサーコートの特性が第一のベースコートの施与によって達成される。このような統合化された方法において、まず最初に施与されるのは第一のベースコートを形成するための塗料であり、この材料は例えば、効果顔料は含まないが、代わりに追加の機能性充填剤を含む。この第一のベースコートは、第二のベースコートを形成するための塗料が施与される前に任意にフラッシュオフされる。第一のベースコートの乾燥膜厚は約20μmである。これに続き、第二のベースコートを形成するための更なる塗料が施与される。この被覆は、色相を設定するために使用される。この第二のベースコートの乾燥膜厚は、一般的に20μm未満である。第二のベースコートを形成するための第二の塗料の施与に続き、第一及び第二のベースコートを、フラッシュオフ区域で少なくとも指触乾燥状態までフラッシュオフする。これに続いて、クリアコートを形成するための顔料を含まない塗料を施与する。この被覆は、この被覆を最終的に熱硬化させる前に、任意に順番にフラッシュオフさせる。
【0003】
上述の工程で使用される塗料は、原則として複数の成分を含む:バインダー、顔料及び充填剤、及びまた、用語「バインダー」の定義によるバインダーに該当し添加されることがある添加剤を有する溶媒である。バインダーは原則として、基材上に架橋膜を形成するのに関与する。「主バインダー」という用語は、架橋膜の形成に主として関与するバインダー成分をいう。塗料は原則として、物理的に硬化、自己架橋、又は外部架橋するものである。一般的に塗料は、1成分系(1−K)と2成分系(2−K)とに分けられる。2−K系はすべて、塗料を硬化させるために処理の直前に架橋性成分を添加しなければならない塗料である。塗料を硬化させるために処理の直前に架橋性成分が添加されない残りの塗料は、1−K系という。2成分系塗料の場合、架橋される成分と対応する架橋剤の両方が、主バインダーを形成する。
【0004】
溶媒に関して、一般には、塗料が実質的に溶媒ベースである又は実質的に水性である可能性が存在する。
【0005】
上述した先行技術からの被覆方法における、2つ又はそれ以上の被覆を製造するための被覆方法に共通の特徴は、予め施与された被覆への塗料の施与が開始されるのが、常に当該被覆が少なくとも指触乾燥状態に達したときのみということである。これにより、異なる被覆の塗料が液体状態で互いに相溶性がある必要のないことが確保され、種々の被覆の非常に異なる塗料を互いに組み合わせることができる。従って、例えば、水性塗料と溶媒系塗料とを、又はエポキシド系バインダーとポリウレタン系バインダーとを組み合わせることが可能である。文献では、間違って、まだ完全に硬化していない既存の被覆に塗料を施与する被覆法は、「ウェット・オン・ウェット」法と呼ばれている。
【0006】
更に、サーフェイサーコート及びトップコートを製造するために、いわゆる「ウェットオンウェット」製品が市販されている。これらの製品も、トップコートが施与できるようになる前に、サーフェイサーコートを少なくとも指触乾燥状態までフラッシュオフさせる(但し熱硬化ではない)ことが必ず要求される。従って、ここでも同様に、「ウェットオンウェット」という用語は誤解を招きやすく、正しく適用されていない。
【0007】
多層塗装系の所望される特性プロファイルに依存して、個々の被覆に対する塗料は、それぞれほぼ独立して選択することが可能である。従って、上述した実績のある仕上げ方法は、変動に対して非常に複雑な可能性を提供し、多層塗装系の非常に特殊な要求さえも満たすことができる。
【0008】
しかしながら、変動の数多くの可能性を考慮すると、その仕上げ方法はまた、失敗の数多くの可能性を必然的に伴い、この可能性は、複雑でそのため高額となる補正工程によってのみ、排除することができる。考えられる失敗の原因の例は、サーフェイサー施与における失敗であり、これは、硬化したサーフェイサーコートをトップコートを施与する前に研磨することで排除しなければならない。更に、仕上げ作業の間に、本体又はその構成要素は、作業の結果緩衝区域に一時的に保持され、ここで汚染されることがある。この系に固有のリスクは、例えば、適切に洗浄されていない表面にトップコートを形成するための塗料が施与され、引き続いて硬化したトップコートが表面欠陥を示すことである。こうした欠陥はその後、費用と不便さと引き換えに、除去されなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、複雑性が低く、失敗の可能性が削減されることが特徴である多層塗装系を製造するための新しい方法を提供することである。同時に、本発明の方法は、処理時間及び処理費用の削減を必然的に伴う。得られる多層塗装系の特性プロファイルは、従来技術から公知の仕上げ方法を用いて製造された多層塗装系の特性プロファイルと、少なくとも同等となるものである。特に、本発明の方法で製造された多層塗装系は、その視覚的特性(外観、光沢、レベリング等)及び、その技術機械的特性(例えば耐候性及び耐薬品性等)に関して、従来技術からの方法によって製造された被覆と少なくとも同等となるものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、硬化したサーフェイサーコート及びトップコートからなる被覆を基材上に製造する方法であって、
i)以下による被覆系の製造、
i−a)第一の工程において、未処理の基材又は少なくとも硬化した電着被覆で被覆した基材に、少なくとも1種の着色顔料を含み、及び少なくとも1種の自己架橋性の、外部架橋性の又は物理的に乾燥するバインダーを主バインダーとして含む塗料を施与することによるサーフェイサーコートの形成、
i−b)第二の工程において、サーフェイサーコートに、少なくとも1種の着色顔料を含み、及び少なくとも1種の自己架橋性の、外部架橋性の又は物理的に乾燥するバインダーを主バインダーとして含む塗料を施与することによるトップコートの形成、並びに、
ii)工程i)で製造した被覆系を硬化させることによる被覆の形成、
を含む製造方法を提供することによって達成される。
この製造方法において、被覆系のi−a)及びi−b)で使用する塗料は、DIN EN ISO 12944−5:2008−01に従い相溶性(compatible)があり、及び、
i−b)のトップコートを形成するための塗料の施与は、i−a)のサーフェイサーコートを形成するための塗料がDIN 53150:2002−09に従う乾燥段階1に達する前に行い、その乾燥段階は、EN ISO 9117−3:2010に従って測定する。
【0011】
本発明は更に、硬化したサーフェイサーコート及びトップコートからなる被覆を基材上に製造する方法であって、
i)以下による被覆系の製造、
i−a)第一の工程において、未処理の基材又は少なくとも硬化した電着被覆で被覆した基材に、少なくとも1種の自己架橋性の、外部架橋性の又は物理的に乾燥するバインダーを主バインダーとして含む塗料を施与することによるサーフェイサーコートの形成、
i−b)第二の工程において、サーフェイサーコートに、少なくとも1種の自己架橋性の、外部架橋性の又は物理的に乾燥するバインダーを主バインダーとして含む塗料を施与することによるトップコートの形成、並びに、
ii)工程i)で製造した被覆系を硬化させることによる被覆の形成、
を含む製造方法に関する。
【0012】
この製造方法において、被覆系のi−a)及びi−b)で使用する塗料は、DIN EN ISO 12944−5:2008−01に従い相溶性があり、及び、
i−b)のトップコートを形成するための塗料の施与は、i−a)のサーフェイサーコートを形成するための塗料がDIN 53150:2002−09に従う乾燥段階1に達する前に行い、その乾燥段階は、EN ISO 9117−3:2010に従って測定する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書の意味の範囲において、以下の用語の定義を導入する。
【0014】
「被覆」という用語は、基材に施与されている、又は基材に施与されることとなる硬化した塗膜の全体を表す。「塗膜」という用語は、基材に塗料を単回又は複数回施与して形成される連続した塗膜をいう。塗膜は、硬化させることにより硬化塗膜に変換される。硬化塗膜を1つだけ有する被覆の場合、被覆及び硬化塗膜という用語は、同義である。
【0015】
「被覆系」という用語は、基材に施与されている、又は基材に施与されることとなる塗料の塗膜の全体をいう。
【0016】
塗料は、基材に施与されたときに塗膜を生成する液体製品である。硬化後は、この塗膜の硬化塗膜が得られる。2つ以上の塗料を連続で施与し、各場合とも1つの塗膜を形成させると、被覆系が得られる。この被覆系を硬化させると、それぞれの硬化塗膜からなる被覆が得られる。定義を簡略化するため、それぞれの塗膜を形成する被膜材料は、その塗膜に応じて命名される:これは、サーフェイサーコートを形成するための塗料はサーフェイサーと言い、トップコートを形成するための塗料はトップコートと言うことを意味する。
【0017】
「フラッシュ(オフ)」は、膜形成が完了する前、及び/又は、更なる被覆組成物が施与される前に、塗料の揮発性画分が部分蒸発することである。フラッシュ時間は、フラッシュオフタイムともいう。
【0018】
硬化又は物理的乾燥は、液体の形態で施与された塗料が、基材に完全に接着した固体膜に転移することに関連する過程、反応順序、変化等の複合の全体である。硬化の結果は、架橋膜である。これは、化学的又は物理的架橋、すなわち溶媒の完全な除去によるポリマー鎖の相互ループによって達成され得る。
【0019】
一般的な用語「バインダー」は、DIN4618:2007−03に従って、顔料及び充填剤を含まない塗料の不揮発性画分である。「固形分」という用語は、塗料の不揮発性画分を表す。
【0020】
工程i−a)及びi−b)で使用される塗料が、DIN EN ISO 12944−5:2008−01に従い被覆系で相溶性があることは、本発明にとって必須である。本発明の意味における相溶性とは、被覆系において使用される2種以上の塗料が、望ましくない副次的影響を生じさせない性質を意味する。
【0021】
本発明において更に必須であるのは、i−b)のトップコートを形成するための塗料の施与を、i−a)のサーフェイサーコートを形成するための塗料がDIN 53150:2002−09に従う乾燥段階1に達する前に行うことである。その乾燥段階は、EN ISO 9117−3:2010に従って測定する。DIN 53150:2002−09によると、乾燥段階1は、散乱させて施与した所定の大きさのガラスビーズを、柔らかい獣毛ブラシを用いて残留物を残さず、表面を損傷することもなく容易に除去できたときに達成される。指触乾燥の概念もまた、乾燥段階1の概念と同義語として使用する。
【0022】
本発明の方法において、工程i)で、まず最初に被覆系を製造する。この目的のために、工程i−a)において、少なくとも1種の着色顔料を含む塗料を、未処理の基材又は少なくとも硬化した電着被覆で被覆した基材に施与し、サーフェイサーコートを形成する。
【0023】
サーフェイサーコートの目的は、基材の色相のむら及び/又は差異をなくすことである。同時に、この塗膜は、硬化状態にあるとき、エネルギーを吸収し、当該塗膜の下にある基材表面をUV透過から保護する作用がある。
【0024】
第二の工程において、工程i−b)で、少なくとも1種の着色顔料を含む更なる塗料を施与し、トップコートを形成する。
【0025】
トップコートを形成するための塗料は、サーフェイサーコートを形成するための塗料がDIN 53150:2002−09に従う乾燥段階1に達する前にサーフェイサーコートに施与することが、本発明において必須である。その乾燥段階は、EN ISO 9117−3:2010に従って測定する。
【0026】
この結果が、2つの塗料の直接的な「ウェットオンウェット」施与であり、サーフェイサーコートとトップコートとの間には形成された分離境界層が存在しない。従って、硬化したサーフェイサーコートと硬化したトップコートとの間には、自動的に塗膜間接着(intercoat adhesion)が存在する。
【0027】
作業の結果として、工程i−a)及びi−b)の間に回避できないフラッシュオフタイムが生じる。これは、塗料を施与するときのサイクル時間に起因し、また、追加操作を実施した場合、例えばビーズや縁のようなきわどい箇所での予備被覆等を実施した場合は、この追加操作の結果によるものである。先行技術から公知の統合化仕上げ方法とは対照的に、こうした回避できないフラッシュオフタイムは、得られる被覆の外観を損なうため、本発明の方法においては、できるだけ短く保つべきである。
【0028】
本発明においては更に、トップコートを形成するための塗料を、サーフェイサーコートが指触乾燥する前に施与する結果として、i−a)及びi−b)で使用される塗料が、DIN EN ISO 12944−5:2008−01に従い被覆系で相溶性があることは必須である。一般にこれは、まだ指触乾燥していないサーフェイサーコートにトップコートが施与されるときに、望ましくない影響が生じないことを意味する。これは特に、負の物理的又は化学的相互作用は生じず、膜形成又は得られる被覆の特性に負の影響を及ぼさないことを意味する。本発明の意味における望ましくない影響とは特に、サーフェイサーコートとトップコートとの間に分離相の境界が発生して、サーフェイサーコートとトップコートが部分的に混合するのを防げることである。更に、それぞれの塗料の分離が起こることも望ましくない。なぜならば、例えば、当該塗膜内の主バインダーの勾配(gradient)をもたらす可能性があるためである。他の望ましくない副次的影響は、被覆系における析出の発生である。これは例えば、サーフェイサーコートを形成するための塗料の成分と、トップコートを形成するための塗料の成分との(析出)反応に起因して、被覆系内に固形分が形成されることによりもたらされる。他の望ましくない副次的影響はまた、湿潤の転移である。これは例えば、サーフェイサーコートの湿潤添加剤がトップコートの湿潤添加剤と相互作用し、顔料又はフィラーの不安定化につながる場合である。本発明の意味においては、望ましくない影響には、得られる被覆の望ましくない表面効果も含まれ、例えば被覆のへこみ、ピンホール又は同様な欠陥の発生等も含まれる。
【0029】
サーフェイサーコート及びトップコートからなる被覆系の製造に続き、製造された被覆系を工程ii)で硬化して、硬化サーフェイサーコート及び硬化トップコートからなる被覆を形成する。ここで使用する硬化条件は、サーフェイサーコート及びトップコートを形成するための相溶性のある塗料の共同硬化が可能であるような条件である。
【0030】
サーフェイサーコート及びトップコートを形成するための塗料は、少なくとも1種の着色顔料を含む。
【0031】
DIN EN ISO 4618に従う顔料は、塗料の液相に不溶で、その光学的、保護的及び/又は装飾的性質のために使用される微粒子からなる着色剤である。ここでの「着色剤」という用語には、黒色又は白色の着色剤が含まれる。好ましい顔料は、着色顔料及び/又は効果顔料及び防食顔料である。効果顔料は、特に光の反射から得られる光学効果を加える顔料である。
【0032】
適切な無機着色顔料の例は、白色顔料、例えば亜鉛白、硫化亜鉛又はリトポン;黒色顔料、例えばカーボンブラック、鉄マンガン黒又はスピネル黒;有彩顔料、例えば酸化クロム、水和酸化クロムグリーン、コバルトグリーン又はウルトラマリングリーン、コバルトブルー、ウルトラマリンブルー又はマンガンブルー、ウルトラマリンバイオレット又はコバルトバイオレット及びマンガンバイオレット、酸化鉄赤、硫セレン化カドミウム、モリブデンレッド又はウルトラマリンレッド;酸化鉄褐色、混合褐色、スピネル相及びコランダム相又はクロムオレンジ;又は酸化鉄イエロー、ニッケルチタンイエロー、クロムチタンイエロー、硫化カドミウム、硫化亜鉛カドミウム、クロムイエロー又はバナジウム酸ビスマスである。
【0033】
更に、無機着色顔料は、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化アルミニウム水和物、とりわけベーマイト、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、及びそれらの混合物である。
【0034】
適切な有機着色顔料の例は、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、アントラキノン顔料、ベンズイミダゾール顔料、キナクリドン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ジオキサジン顔料、インダントロン顔料、イソインドリン顔料、イソインドリノン顔料、アゾメチン顔料、チオインジゴ顔料、金属錯体顔料、ペリノン顔料、ペリレン顔料、フタロシアニン顔料、又はアニリンブラックである。
【0035】
一般的には、手動の試験で2つの塗料の相溶性を確認することが可能である。この目的のために、顔料を含まない塗料の場合、材料は透明な容器内で混合する。顔料を含む塗料の場合、顔料を含有しない塗料の抽出物を調製する。混合時に、2つの塗料が透明な均質で安定した溶液を形成した場合、塗料は互いに相溶性がある。混合物を−40℃まで冷却し、透明度及び透光度の観点から透明性を評価することで、塗料のあらゆる所望の混合物又はバインダーのあらゆる所望の組み合わせについて、相溶性を評価することが可能である。温度と同様に、可変要因として他にも、選択した冷却速度、冷却時間及び保持時間、及び使用した量が含まれる。従って、比較試験について、変数は一定又は十分同等に保つことが可能である。視覚的評価に加えて、別の技術的な可能性は、測光技術に類似した「濁度測定」の可能性である。これにより、結果をより効果的に定量化することができる。
【0036】
i−a)及びi−b)で使用する塗料の相溶性は、好ましくは、サーフェイサーコートを形成するための塗料の主バインダーが、DIN EN ISO 12944−5:2008−01に従いトップコートを形成するための塗料の主バインダーと相溶性があることで達成される。バインダーの相溶性に関して望ましくない副次的影響は特に、本発明の目的において、塗料の観点から既に述べた副次的影響に加え、1つの主バインダーの硬化が他方の主バインダーの硬化に干渉せず、得られる被覆に例えば表面欠陥のような欠陥が生じることである。これを説明するために、以下の実施例を挙げる:サーフェイサーコート及びトップコートを形成するための塗料の主バインダーは、非常によく、制限なく混和する。1つの主バインダーは主に、非常に反応性のある第1級ヒドロキシル基を含有し、他方の主バインダーは、反応性が少ししかないヒドロキシル基を含有する。トップコートを形成するための塗料を、サーフェイサーコートが指触乾燥を達成する前にサーフェイサーコートに施与する結果、塗料は部分的に混合し、それにより主バインダーも部分的に混合し、2つの主バインダーは、各場合とも他方の塗膜の一部となる。2つの主バインダーのヒドロキシル基の化学的架橋による硬化は、時間の観点から非常に異なって起こり、その結果表面は非常に不均一になる。
【0037】
相溶性は、好ましくは、両方の塗料の主バインダーが同様に硬化されることにより達成される。これはまず、両方の塗料又はその中に存在する主バインダーが、好ましくは交互に物理的に硬化又は自己架橋又は外部架橋することを意味する。特に好ましいのは、サーフェイサー及びトップコートの主バインダーが、外部架橋することである。
【0038】
物理的に乾燥する塗料の場合、物理的乾燥は同様の条件下で実施可能であることが好ましい。乾燥条件には、温度や乾燥時間等の要因が含まれる。更に、相対湿度及び塗料を通過する体積流量も重要な役割を果たすことがある。
【0039】
例えば、物理的乾燥における同様の条件は、同様の温度により達成できる。物理的硬化に関して同様の温度とは、塗料の硬化温度の差異が、好ましくは30℃を超えず、より好ましくは20℃、非常に好ましくは5℃であることを意味する。サーフェイサーとトップコートが物理的に乾燥する温度が、同一であることが特に好ましい。
【0040】
サーフェイサー及びトップコートが物理的に乾燥する乾燥条件全般が同一であることも特に好ましい。
【0041】
サーフェイサーコート及びトップコートを形成するために、自己架橋バインダーを主バインダーとして含有する塗料が使用される場合、この塗料は、同様の硬化条件下で硬化させることが好ましい。自己架橋バインダーの場合、例えば、上昇した温度で非ブロック化されて反応性架橋性成分を形成するブロック化架橋性成分が、自己架橋バインダーに1つ以上含まれる可能性がある。この場合、主バインダーの架橋性成分は、特に非ブロック化の温度及び時間に関し、同様の非ブロック化条件を有することが好ましい。サーフェイサー及びトップコートの硬化温度が同一であることは、特に好ましい。自己架橋バインダーは、例えば化学線に暴露して硬化させてもよい。この場合、塗料中に存在するバインダーを硬化させるのに必要な放射は、同様の波長範囲内に位置していることが好ましい。
【0042】
塗料中の主バインダーとして、外部架橋するバインダーを使用する場合、架橋される成分の反応基に対する架橋性成分の反応基の比は、両方の塗料の主バインダー中で同様であることが好ましい。この文脈において同様であるというのは、反応基の互いに対する比の差異が、好ましくは20%を超えず、より好ましくは10%、非常に好ましくは5%であることを意味する。非常に好ましくは、架橋される成分の反応基に対する架橋性成分の反応基の比は、バインダー中で同一である。更に、塗料のバインダー中の架橋性成分の反応基及びまた架橋される成分の反応基は、化学的に極めて類似していることが好ましく、化学的に同一であることが更に好ましい。上記記述で好ましいという形は、サーフェイサーコート及びトップコートを製造するための塗料において、主バインダー間の相溶性はどのように達成されることが可能かを例示している。2つの塗料の主バインダーの相溶性は、好ましくは、トップコートを形成するための塗料の主バインダーと同じバインダー類に属する、サーフェイサーコートを形成するための塗料の主バインダーによって達成される。
【0043】
本発明の文脈において、バインダー類の概念は、主バインダーが同じ化合物類に属するということである。本発明の意味における化合物類の例は、アルキド樹脂、飽和及び不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、シリコーン樹脂のような重縮合樹脂、及びまたフェノール樹脂及び尿素樹脂のような架橋性樹脂である。更に、ポリウレタン又は例えばエポキシ樹脂のような重付加樹脂、及び、ポリオレフィン、ポリビニル化合物又は例えばポリ(メタ)アクリレートのような付加重合樹脂は、化合物類を構成する。
【0044】
塗料の 主バインダーは、好ましくは、イソシアネート架橋性の、ポリヒドロキシル基含有ポリエステル樹脂及びポリアクリレート樹脂及びそれらの混合物からなる群より、より好ましくは、ポリヒドロキシル基含有ポリアクリレート樹脂から選択される。
【0045】
サーフェイサーコート及びトップコートを製造するための塗料の主バインダーは、同一であることが特に好ましい。
【0046】
サーフェイサーコート及びトップコートを形成するための塗料は、好ましくは、溶媒として、実質的に有機溶媒を含むか、又は実質的に水性であることが好ましく、その塗料は相互に依存し、溶媒として、実質的に有機溶媒を含むか、又は実質的に水性である。ここで、溶媒は選択された反応条件下で反応しないか、又は反応相手との無視できる程度の反応性を有すること、及び、反応物及び反応生成物は当該溶媒中で少なくとも部分的に可溶であることが、一般的に確保されるべきである。
【0047】
本発明の方法に関連して、「実質的に有機溶媒を含む」という表現は、好ましくは、溶媒として有機溶媒を主成分で含み、従って実質的に水を含まない塗料を指す。しかしながら、塗料には水が少量含まれていることがある。水の割合は、各場合とも塗料中に存在する溶媒の全画分に基づいて、好ましくは1.0質量%を超えず、より好ましくは0.5質量%を超えず、非常に好ましくは0.1質量%を超えず、とりわけ0.01質量%を超えない。有機溶媒の例に含まれるのは、複素環式、脂肪族又は芳香族炭化水素、一価又は多価アルコール、エーテル、エステル、ケトン及びアミド、例えば、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、トルエン、キシレン、ブタノール、エチルグリコール及びブチルグルコール及びそれらのアセテート、ブチルジグリコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセトン、イソホロン、又はそれらの混合物である。特に好ましくは、有機溶媒は、2−ヘプタノン(MAK)、ブチルグリコールアセテート(BGA)、酢酸ブチル、及びそれらの混合物からなる群より選択される。
【0048】
本発明の方法に関連して、「実質的に水性」という用語は、好ましくは、溶媒として水を主成分で含み、従って実質的に有機溶媒を含まない塗料のことを指す。しかしながら、塗料にはおそらく少なくとも1つの有機溶媒が少量含まれている場合がある。そのような有機溶媒の例は、既に上記に列挙した有機溶媒である。有機溶媒の割合は、各場合とも塗料中に存在する溶媒の全画分に基づいて、好ましくは1.0質量%を超えず、より好ましくは0.5質量%を超えず、非常に好ましくは0.1質量%を超えず、とりわけ0.01質量%を超えない。
【0049】
サーフェイサーコート及びトップコートを形成するための塗料は、溶媒として実質的に有機溶媒を含むことが特に好ましい。ここで、塗料は、同様の溶媒又は溶媒混合物、より好ましくは同一の溶媒又は溶媒混合物を含むことが更に好ましい。溶媒又はその混合物の同様性とは、特に溶媒又はその混合物が同様の極性を有することを意味する。
【0050】
サーフェイサーコート及びトップコートを形成するための塗料の主バインダー及び溶媒の両方が同一であることが特に好ましい。
【0051】
サーフェイサーコートを形成するための塗料は、好ましくはフィラーを含む。
【0052】
フィラーは、DIN EN ISO 4618によると、粒状又は粉末形状の材料で、塗料の液相に不溶であり、定義された物理的性質を達成する又はそれに影響を及ぼすために使用される。意図する用途に関して顔料とフィラーとで重複する場合があるので、その区別のために屈折率が用いられることが多い。フィラーの場合、屈折率は1.7未満であるが、この部類の製品が顕著な散乱及び隠ぺい力を達成しないことを意味している。
【0053】
サーフェイサーコート及びトップコートを形成するための塗料は、好ましくはそれぞれ少なくとも40質量%、より好ましくは少なくとも50質量%、非常に好ましくは65質量%の固形分を有する。これは、サーフェイサーコート及びトップコートを形成するために使用される塗料が、好ましくは高固形分(HS)と呼ばれる又は、より好ましくは超高固形分(UHS)と呼ばれる塗料であることを意味する。好ましい高固形分含量を通して、1回のスプレーパスで所望の膜厚の施与を確実とすることが可能である。
【0054】
MS(中固形分(medium solid))、HS(高固形分(high solid))又はUHS(超固形分(ultrahigh solid))という用語について、一般的に有効な定義は存在しない。排出空気を熱的浄化(焼却)しない仕上げ装置の場合、環境保護の理由から、スプレー可能な混合物中の溶媒含量は、できるだけ低く保たれなければならない。従ってEU内(しかし他の地域でも)では、そのような装置の運転を承認するために、施与分野に応じて異なった制限が策定されている。この定義において、MS被覆は、VOC>420g/l、HS<420g/l及びUHS<350g/lを有する。この測定は、例えば、DIN EN ISO 11890又はASTM D2369に従って行われ、以下の式に従って計算される:
VOC(g/l)=(揮発性画分の質量[g]−水の質量[g])/(塗料の容積[l]−水の容積[l])。
【0055】
有機化合物は、293.15Kで0.01kPaの蒸気圧を有する場合、揮発性であると分類される。
【0056】
毎回水画分を差し引いて基準点が水を含まない塗料の容積であると仮定すると、同じ施与(施与効率、スプレーパス回数等)及び同じ仕上げ領域について、着色顔料が異なる塗料においてさえも、排出量が同等となる。対応する定義を、本発明に適用する。
【0057】
サーフェイサーコート及びトップコートを形成するための塗料は、それらが十分な流動安定性(run stability)及びポップ安定性(pop stability)を示すようレオロジー最適化されていることが好ましい。これは、レオロジー剤及び任意に消泡剤の使用によって達成されることが好ましい。塗料のレオロジー特性を制御するため、本発明の方法において好ましく使用可能なレオロジー剤の例は、ヒュームドシリカ、ベントナイト、及び尿素官能化ポリマーである。
【0058】
サーフェイサーコートを形成するための塗料及びトップコートを形成するための塗料の施与は、好ましくは、空気及び/又は静電スプレー(ESTA)によって行われる。これらの操作は、手動操作によって補足してもよく、例えばきわどい場所の予備仕上げとして施与することができる。
【0059】
サーフェイサーコート及びトップコートを形成するための塗料は、硬化サーフェイサーコートの乾燥膜厚が25〜35μmとなるような、及び硬化トップコートの乾燥膜厚が40〜80μmとなるようなぬれ膜厚で、それぞれ施与することが好ましい。
【0060】
硬化サーフェイサーコートの及び硬化トップコートの乾燥膜厚は、横断面を用いて顕微鏡的に測定する。この目的のために、製造した硬化被覆を、適切な道具、例えば外科用メス等を使用して基材から分離する。このようにして得られた膜部分をスライドホルダーに固定し、被覆を顕微鏡で観察できるようにする(いわゆる横断面)。画像解析と併せて適切に較正された顕微鏡検査によって、膜厚の測定を±1μmの精度で行うことが可能である。
【0061】
本発明の方法は、自動車及びトラック、バン又はバス等の業務用車両に被覆を製造するのに特に適している。従って基材は、好ましくは自動車の車体又は車室又はその一部である。より好ましくは、基材は、自動車又は業務用車両、とりわけトラック、バン又はバスの車体又は車室である。
【0062】
本発明は、更に、硬化サーフェイサーコート及び硬化トップコートからなる被覆で被覆された基材であって、その被覆が本発明の方法によって製造されている基材に関する。
【0063】
上記の観察は、本発明の方法によって、被覆の製造に関わる複雑さを大幅に低減することが可能であることを示している。従って、例えばサーフェイサー及びトップコートで同一の架橋性成分を使用している2成分系塗料の場合、本発明の方法により、工場技術に関して、架橋性成分について更なる別個の導管なしで済ませることが可能になる。更に、サーフェイサーコートを形成するための及びトップコートを形成するための塗料は、1つの装置で処理することができる。その結果、サーフェイサーコートを施与するための別個のラインを省くことで実質的な能力拡大が可能となり、これにより被覆表面積当たりの設備投資費用の大幅な低減が実現できるようになる。
【0064】
失敗の可能性、処理時間、及び運転費用の削減目標は、失敗の影響を受けやすい作業工程を省略することで達成される。これに応じて省略されるのは、オーブンでのサーフェイサーコートのフラッシュ又は硬化、必要性が予測される硬化サーフェイサーコートの補正研磨、サーフェイサーコートで被覆した車体又はその部品の緩衝区域における一時保管、及び、トップコートを形成するための塗料を施与する前のその車体又はその部品について必要性が予測される洗浄である。結果として、不適切な施与により、及び/又は、準最適な組み合わせの塗料により引き起こされる表面欠陥を低減することが可能である。表面欠陥は、例えば、フラッシュ又は乾燥が不十分な水性サーフェーサーコートからの水に起因する溶媒ベースのトップコートにおけるポップ(pop)の発生である。本発明の方法はまた、表面エネルギーが低い基材上の湿潤性欠陥(へこみ)の発生を最小限にする。
【0065】
本発明の方法によって製造した被覆は、従来技術からの公知の方法に従って製造した被覆の特性と少なくとも同等の特性プロファイルを示す。同一の塗料で個別に被覆し焼成した被覆と比較すると、本発明の方法によって製造した被覆は、その外観が、例えば垂直面においても、より著しく良好である。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を、次の実施例によって更に説明する。
【0067】
以下、他に記載がない限り、「部」で示す量は質量部であり、百分率で示す量は質量%を意味する。
【0068】
本明細書において、他に指示がない限り、表示規格の全ては、本発明の出願日における最新の規格を指す。
【0069】
略語と出発材料
TNP 1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)プロパン
HHPAn ヘキサヒドロフタル酸無水物
Cardura E10(登録商標) ネオデカン酸のグリシジルエステル;製造者:モメンティブ
HDI ヘキサメチレンジイソシアネート
IPDI イソホロンジイソシアネート
【0070】
塗料の不揮発性画分、すなわち固形分(固形画分)は、DIN EN ISO 3251(日付:2008年6月)に従って測定する。この試験時間は、130℃の温度で60分である。乾燥後に残留する不揮発性画分は、初期質量に関して表し、塗料成分の固形分百分率を示す。
【0071】
OH価の測定:OH価は、使用する成分の化学量論によって計算する。OH価は、使用するOH官能性成分から、得られた酸価を引いたものに、開環反応より生じる更なるOH基を加えたものから計算する。
【0072】
酸価の決定:酸価は、DIN EN ISO 2114に従ったKOH溶液を用いる滴定により測定する。ここでの酸価は、それぞれの成分1gの中和で消費される水酸化カリウムのmg単位の量を示す。報告するOH価及び酸価は、各場合とも塗料の固形画分に関連する。
【0073】
分子量の測定:分子量測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を40℃で実施し、高圧液体クロマトグラフィーポンプ及び屈折率検出器を用いて行う。使用する溶離液はテトラヒドロフランで、溶出速度は1ml/分である。校正はポリMMA標準を使用して実行する。数平均分子量Mn、質量平均分子量Mw及びMpは、Mp=Mw/Mnで計算される多分子指数Mpを用いて求めた。
【0074】
ガラス転移温度Tgの測定は、DIN53765に従って実施する。
【0075】
粘度の測定は、ブルックフィールド社の回転粘度計CAP2000+モデルで、せん断速度1250s−1のスピンドル3を使用し、23℃で実施した。
【0076】
以下の実施例では、各場合ともESTAにより陰極電着基材への施与を実施した;乾燥膜厚:サーフェイサー各場合とも30μm、トップコート各場合とも50μm。
【0077】
従来技術:市販のサーフェイサー(サーフェイサー1)及び市販の白色2成分系トップコート(トップコート1)(いずれもBASF Coatings GmbH Muensterから)を用いた比較例1:
【0078】
サーフェイサー1は、メラミン樹脂で架橋したポリエステルをベースとする1成分系(1−K)水性サーフェイサーである。代わりに、市販の溶媒系フィラー、例えば、ポリアミン架橋エポキシ樹脂又はオリゴイソシアネート架橋OH官能アクリレート樹脂のようなフィラーを使用することも可能である。
【0079】
トップコート1は、オリゴイソシアネート(成分がトップコート2のトップコート成分と同様)と架橋されているOH官能性アクリレート樹脂をベースとする2成分系(2−K)トップコート(白)である。
【0080】
本発明の方法のためのフィラー及びトップコート:2−Kサーフェイサー(サーフェイサー2)及び2−Kトップコート(白)(トップコート2)
【0081】
本発明の方法における実施例のバインダー組成物を製造するための個別の合成の説明:
【0082】
ポリエステル:
類似物:参照:Research Disclosure(2006)、505(5月)、P520−P521(No.505044)CODEN:RSDSBB;ISSN:0374−4353
【0083】
上記に同定した参考文献の例Aと同様に、1molのTNPを2molのHHPAnと反応させ、次いで、得られた生成物を第二段階で2molのCardura E10(登録商標)と120℃で反応させる。この温度で更に2時間後、製品を冷却し、キシレンの2部及びソルベントナフサ160/180の1部との混合物で希釈して固形分84%±1%とする。これにより、3400〜4800mPasの粘度を有する粘性溶液が得られる。
【0084】
OH官能性アクリレート1:
ソルベントナフサ160/180中で重合したOH官能性アクリレートで、OH価が115〜125mgKOH/g、Tが33℃、酸価が5〜8mgKOH/g、数平均分子量が1200〜2000ダルトン及び質量平均分子量が3300〜5100ダルトン(ポリメチルメタクリレート基準に対し測定)及び、固形分が65±1%である。重合温度は過圧下で160℃(絶対圧3バール)である。
【0085】
溶媒は、ソルベントナフサ160/180とn−ブチルアセテートの割合が4:1の混合物である。OHアクリレートは、粘度が650〜1000mPasである。モノマー組成物は、ほぼ等しい部数(part)のスチレン、ヒドロキシエチルメタクリレート、メチルメタクリレート及びイソデシルメタクリレートから構成される。
【0086】
OH官能性アクリレート2:
ブチルアセテート中で重合したOH官能性アクリレートで、OH価が152〜160mgKOH/g、Tが55℃、酸価が8〜10mgKOH/g、数平均分子量が1600〜2200ダルトン、及び質量平均分子量が3900〜4500ダルトン(ポリメチルメタクリレート基準に対し測定)及び、固形分が55±1%である。溶媒は、ソルベントナフサ160/180とn−ブチルアセテートの割合が7:1の混合物である。
【0087】
OHアクリレートは、粘度が900〜1300mPasである。モノマー組成物は、スチレン、ブチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレートの、及び、少量のシクロヘキシルメタクリレートとアクリル酸から構成される。
【0088】
OH官能性アクリレート3:
ブチルアセテート中で重合したOH官能性アクリレートで、OH価が115〜125mgKOH/g、Tが33℃、酸価が5〜8mgKOH/g、数平均分子量が1300〜1500ダルトン及び質量平均分子量が3700〜4500ダルトン(ポリメチルメタクリレート基準に対し測定)及び、ブチルアセテート中の固形分が78±1%である。重合温度は過圧下で160℃(絶対圧3バール)である。
【0089】
これにより、5800〜6300mPasの粘度を有する粘性溶液が得られる。モノマー組成物は、ほぼ等しい部数のスチレン、ヒドロキシエチルメタクリレート、メチルメタクリレート及びイソデシルメタクリレートから構成される。
【0090】
本発明の方法のためのサーフェイサー処方及びトップコート処方の実施例(サーフェイサー2及びトップコート2)
【0091】
【表1】
【0092】
サーフェイサー及びトップコートの両方を、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)をベースとする市販の脂肪族オリゴイソシアネートで架橋した。代替として、イソホロンジイソシアネート(IPDI)を用いて架橋を実施することも可能である。
【0093】
施与自体は、各場合ともESTA(静電施与)を使用して同一条件で、同一距離から、同一の送達速度、描画速度、ベルの回転速度等を用いて行われた。
【0094】
発明の実施例:本発明の実施例2、3及び4では、トップコートを形成するための塗料を、サーフェイサーコートを形成するための塗料がDIN 53150:2002−09による乾燥段階1に達する前に施与する。実施例は、サーフェイサーコートのフラッシュオフタイムが異なる。
【0095】
サーフェイサー1又はサーフェイサー2を有する比較例:トップコートを、サーフェイサーの硬化後、それぞれの硬化サーフェイサーコートに施与した。
【0096】
実施例1:トップコート施与前にサーフェイサー1を熱硬化
実施例5:トップコート施与前にサーフェイサー2を熱硬化
【0097】
【表2】
【0098】
本発明によるものではないサーフェイサー1とトップコート1又は2の組み合わせ(表には記載されていない)及び、サーフェイサーコートが指触乾燥を達成する前にサーフェイサーコートにトップコートを施与することによって、つやなしのトップコート表面が得られた。これは、望ましくない副次的影響を表す。つやなし面の表面特性は、ウェーブスキャン装置を使用して測定することはできない。
【0099】
光学特性は、市販のByk Gardner社のウェーブ-スキャンデュアル測定器を用いて測定した。この測定器を用いてつやあり面で得られた値は、付属のソフトウェアによって以下の値に変換した:
・長波(LW)、短波(SW)
・N1とN3(BMWの基準に準拠する。それぞれ1mと3mの距離から見た表面を表す。)
・CF(FORDの基準に準拠する。光沢、鮮明性及びゆず肌からなる。)
・DOI(20°の視野角での光沢にほぼ相当する。)
【0100】
光学的結果の評価に関して、より良い光学特性が存在するのは、
・LW及びSWがより小さい、及び/又はLW<SW
・N1及びN3がより小さい
・CFがより大きい
ときである。
【0101】
結果の表は、実施例2(最も短いフラッシュオフタイムを有するサーフェイサー2とトップコート2の本発明による組み合わせ)が最良の光学特性を示すことを明示している。フラッシュオフタイムの延長は、従来技術からの公知の方法による既存の経験に反して、光学特性の劣化を引き起こす。全体的に、本発明の実施例はすべて良好な光学特性を示すことが分かる。特に、本発明の方法によって製造された被覆は、光沢及びレベリングに関し、最良の結果を示す。