(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも1種の有機溶媒を更に含み、前記少なくとも1種の有機溶媒が、メチルエチルケトン、メチルn−アミルケトン、メチルイソブチルケトン、キシレン、アセトン、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1〜6のいずれかに記載の前駆体硬化性組成物。
少なくとも1種の第2のエポキシ樹脂を更に含み、前記少なくとも1種の第2のエポキシ樹脂が、9,9−ビス[4−ヒドロキシ−フェニル]フルオレン、ビスフェノールA、もしくはレゾルシノールのジグリシジルエーテル、o−クレジルグリシジルエーテル、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1〜8のいずれかに記載の前駆体硬化性組成物。
【発明を実施するための形態】
【0020】
前述したように、(a)例えばビスフェノールF型エポキシ樹脂またはフェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂またはこれらの混合物などの少なくとも1種の第1のエポキシ樹脂;(b)少なくとも1種の潜在性触媒;(c)任意選択的な少なくとも1種の硬化剤;(d)任意選択的な少なくとも1種の有機溶媒;及び(e)任意選択的な少なくとも1種の第2のエポキシ樹脂;を含有する、炭素−炭素複合材料の作製に有用な前駆体硬化性組成物が本明細書中で開示される。これらの前駆体組成物は、高い熱安定性、低い粘度、及び少なくとも50%の高い炭素収率を示す。前駆体硬化性組成物は硬化されることで硬化した前駆体複合材料を形成する。これらの硬化した前駆体複合材料は、少なくとも50%の高い炭素収率を有する炭素−炭素複合材料の作製に有用である。
【0021】
(1)前駆体硬化性組成物
ある態様においては、前駆体硬化性組成物は、(a)少なくとも1種のエポキシ樹脂と(b)少なくとも1種の潜在性触媒を含有する。任意選択的には、前駆体組成物は(c)少なくとも1種の硬化剤、(d)少なくとも1種の有機溶媒、及び(e)第2のエポキシ樹脂も含有していてもよい。当業者に公知の追加的な化合物も組成物に添加されてもよい。
【0022】
(a)少なくとも1種の第1のエポキシ樹脂
少なくとも1種の第1のエポキシ樹脂化合物である成分(a)は、単独で使用される単一のエポキシ樹脂化合物であっても、組み合わせて使用される2種以上のエポキシ化合物の混合物であってもよい。第1のエポキシ樹脂化合物は、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を含んでいてもよい。ビスフェノールF型エポキシ樹脂構造の芳香族基は、脂肪族、脂環式、環式、ヘテロ環式、芳香族、多環芳香族、または不飽和の炭化水素基で独立に置換されていてもよい。
【0023】
例えば、「ビスフェノールF型エポキシ樹脂」とは、次の構造:
【化1】
で示されるような、1,1’−メチレンビス[ベンゼン]のビスフェノールF基本構造を有するエポキシ樹脂のことをいう。
【0024】
上の構造(I)中、nは0以上であり、各Rは独立に、脂肪族、脂環式、環式、ヘテロ環式、芳香族、多環芳香族、または不飽和炭化水素基で1箇所以上置換されていてもよい。炭化水素はC1〜C30であってもよい。ビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、例えばフェノール−ホルムアルデヒドノボラックエポキシ樹脂(エポキシ化フェノール−ホルムアルデヒドノボラック)、ビスフェノールFエポキシ樹脂(ビスフェノールFのジグリシジルエーテル)、またはこれらの混合物を挙げることができる。
【0025】
好適な市販の少なくとも第1のエポキシ樹脂化合物は、The Dow Chemical Companyから市販されているエポキシ樹脂であってもよい。The Dow Chemical Companyからのこれらの市販のエポキシ樹脂の非限定的な例は、DER354などのD.E.R.(商標)300シリーズ、D.E.N.(商標)400シリーズ、及びこれらの混合物などであってもよい。D.E.N.(商標)400シリーズのエポキシ樹脂は、エポキシノボラック樹脂である。市販のエポキシ樹脂化合物の好ましい実施形態のいくつかの非限定的な例は、D.E.R.354(The Dow Chemical Company)などのビスフェノールF型エポキシ樹脂;D.E.N.438またはD.E.N.439(The Dow Chemical Company)などのビスフェノールFエポキシノボラック樹脂;例えばD.E.N.438−A85(D.E.N438の15%アセトン溶液)、D.E.N.438−EK85(D.E.N438の15%メチルエチルケトン溶液)、D.E.N.438−MAK80(D.E.N438の20%メチルn−アミルケトン溶液)、D.E.N.438−MK75(D.E.N438の25%メチルイソブチルケトン溶液)、D.E.N.438−X80(D.E.N438の20%キシレン溶液)、及びD.E.N.439−EK85(D.E.N439の15%メチルエチルケトン溶液)などの溶媒を有するビスフェノールFエポキシノボラック樹脂(The Dow Chemical Company);並びにこれらの混合物であってもよい。
【0026】
第1のビスフェノールF型エポキシ樹脂である成分(a)として有用な他の好適なエポキシ樹脂は、米国特許第3,018,262;7,163,973;6,887,574;6,632,893;6,242,083;7,037,958;6,572,971;6,153,719;8,048,819,7,655,174;5,405,688;及びPCT公報WO2006/052727中に開示されており、これらのそれぞれは参照により本明細書に組み込まれる。組成物中での使用に好適な第1のビスフェノールF型エポキシ樹脂の例も、例えば米国特許第5,137,990及び6,451,898の中に開示されており、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0027】
第1のエポキシ樹脂化合物である成分(a)には、例えばナフタレンジグリシジルエーテルも含まれ得る。ナフタレンジグリシジルエーテル構造のそれぞれの芳香環は独立に、脂肪族、脂環式、環式、ヘテロ環式、芳香族、多環芳香族、または不飽和の炭化水素基のうちの1つ以上で置換されていてもよい。
【0028】
(b)少なくとも1種の潜在性触媒化合物
少なくとも1種の潜在性触媒化合物、成分(b)は、単一の潜在性触媒化合物であっても、2種以上の潜在性触媒化合物の組み合わせであってもよい。潜在性触媒は硬化触媒として機能する。「潜在性触媒」または「硬化触媒(curing catalyst、cure catalyst)」とは、少なくとも1種のエポキシ樹脂の硬化反応を促進するために使用される化合物のことをいう。潜在性触媒は、前駆体硬化性組成物中で用いられるエポキシ樹脂;及び/または任意選択的な硬化触媒または溶媒などの前駆体硬化性組成物中で用いられるいずれかの任意選択的な成分;に基づいて選択することができる。潜在性触媒の非限定的な例は、イミダゾール、三級アミン、ホスホニウム錯体、ルイス酸、ルイス塩基、遷移金属触媒、及びこれらの混合物であってもよい。潜在性触媒としては、三フッ化ホウ素錯体などのルイス酸;ジアザビシクロウンデセンのような三級アミン及び2−フェニルイミダゾールなどのルイス塩基;臭化テトラブチルホスホニウム及び臭化テトラエチルアンモニウムなどの四級塩;及びトリフェニルアンチモンテトラアイオダイド及びトリフェニルアンチモンジブロマイドなどの有機アンチモンハライド;並びにこれらの混合物を挙げることができる。好ましい実施形態においては、潜在性触媒は、パラトルエンスルホン酸メチル(MPTS);パラトルエンスルホン酸エチル(EPTS);メタンスルホン酸メチル(MMS)、及びこれらの混合物であってもよい。
【0029】
ある例示的な実施形態においては、潜在性触媒は、エポキシ化合物の硬化反応を促進するための少なくとも1種の酸性化合物関連の硬化触媒であってもよい。例えば、潜在性触媒としては、例えばブレンステッド酸(例えばCytecから市販されているCYCAT(登録商標)600)、ルイス酸、及びこれらの混合物などの、米国特許出願番号第14/348,207に記載されているいずれかの1種以上の触媒を挙げることができる。別の実施形態においては、触媒は例えばWO9518168(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているいずれかの1種以上の触媒などの潜在性アルキルエステルであってもよい。
【0030】
別の実施形態においては、潜在性アルキルエステル硬化触媒はスルホン酸のエステルであってもよい。スルホン酸エステルの非限定的な実施形態は、p−トルエンスルホン酸メチル(MPTS)、p−トルエンスルホン酸エチル(EPTS)、及びメタンスルホン酸メチル(MMS)などのパラトルエンスルホン酸及びメタンスルホン酸のアルキルエステル;トリクロロ酢酸メチル(MTCA)及びトリフルオロ酢酸メチル(MTFA)などのα−ハロゲン化カルボン酸のアルキルエステル;及びテトラエチレンジホスフェートなどのリン酸のアルキルエステル;またはこれらの任意の組み合わせであってもよい。使用される硬化触媒のある好ましい実施形態としては、例えばMPTSを挙げることができる。他の硬化触媒としては、同時係属中の米国仮特許出願第61/660,397(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているものを挙げることができる。
【0031】
通常、潜在性触媒の量は1重量%〜約15重量%の範囲であってもよい。様々な実施形態においては、潜在性触媒の量は、1重量%〜15重量%、1重量%〜14重量%、2重量%〜13重量%、3重量%〜12重量%、または4重量%〜10重量%の範囲であってもよい。約1重量%未満の低水準の潜在性触媒を使用すると、反応性が低下して少ない架橋の網目となるであろう。約15重量%より多い高水準の潜在性触媒を使用すると、不経済な傾向になるであろう。
【0032】
(c)任意選択的な少なくとも1種の硬化剤、成分(c)
少なくとも1種の硬化剤である任意選択的な成分(c)が組成物に添加されてもよい。通常、硬化剤(curing agentまたはhardener、架橋剤とも呼ばれる)を、エポキシ樹脂である成分(a)及び潜在性触媒である成分(b)とブレンドすることで、硬化性組成物が調製される。次いで、硬化性組成物を硬化条件下でその後硬化させることで、固体炭素の硬化した複合材料の形態の硬化製品または熱硬化品が形成される。任意選択的な硬化剤は、ブレンステッド酸、ルイス酸、ルイス塩基、アルカリ塩基、ルイス酸−ルイス塩基錯体、四級アンモニウム化合物、四級ホスホニウム化合物、またはこれらの混合物であってもよい。任意選択的な硬化剤の非限定的な例は、硫酸、スルホン酸、過塩素酸、リン酸、リン酸の部分エステル、三フッ化ホウ素、三級アミン、イミダゾール、アミジン、置換尿素、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、三フッ化ホウ素−エチルアミン錯体、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム、水酸化テトラブチルホスホニウム、及びこれらの混合物であってもよい。
【0033】
任意選択的な硬化剤は、同時係属の米国特許出願番号第14/391,732に記載されており、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0034】
様々な実施形態において、任意選択的な硬化剤化合物は、ジメチルベンジルアミン(BDMA)、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−30)、及び1,4−ジアザビシクロ−[2.2.2]オクタン(DABCO)などの三級アミン;三塩化ホウ素−N,N−ジメチルオクチルアミン付加体(Araldite DY9577,BCl3−DMOA)及び三フッ化ホウ素モノエチルアミン(BF
3−MEA)などのルイス酸錯体;4−メチル−2−フェニルイミダゾール(2P4MZ)及び1−アジン−2−メチルイミダゾール(2MZA−PW)などのイミダゾール;並びにこれらの混合物であってもよい。
【0035】
通常、任意選択的な硬化剤の量は0重量%〜約3重量%の範囲であってもよい。様々な実施形態においては、任意選択的な硬化剤の量は、0重量%〜3重量%、0.01重量%〜約2.5重量%、0.02重量%〜約2重量%、または0.05重量%〜約1.5重量%の範囲であってもよい。
【0036】
(d)任意選択的な溶媒、成分(d)
溶媒である任意選択的な成分(d)が組成物に添加されてもよい。任意選択的な溶媒は、必要に応じて組成物の粘度をその初期粘度から下げるために前駆体硬化性組成物の中で使用することができる。例えば、任意選択的な溶媒成分としては、前駆体硬化性組成物中の成分に本質的に不活性であり、かつ前駆体硬化性組成物の初期粘度を下げるために必要な溶解性を付与する、任意の溶媒または希釈剤を挙げることができる。
【0037】
通常、任意選択的な溶媒または希釈剤としては、アルコール、エステル、グリコールエーテル、ケトン、脂肪族及び芳香族炭化水素、これらの組み合わせ等を挙げることができる。任意選択的な溶媒の非限定的な例は、イソプロパノール、n−ブタノール、三級ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn−アミルケトン、ブチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールn−ブチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、キシレン、及びこれらの混合物であってもよい。
【0038】
通常、任意選択的な溶媒または希釈剤の量は0重量%〜約40重量%の範囲であってもよい。様々な実施形態においては、任意選択的な溶媒または希釈剤の量は、0重量%〜40重量%、0.001重量%〜37重量%、0.01重量%〜約35重量%、1重量%〜約25重量%、5重量%〜約20重量%、または10重量%〜15重量%の範囲であってもよい。
【0039】
(e)任意選択的な少なくとも1種の第2のエポキシ樹脂
前駆体硬化性組成物は、任意選択的には少なくとも1種の第2のエポキシ樹脂である任意選択的な成分(e)も含んでいてもよい。任意選択的第2のエポキシ樹脂は、硬化性組成物の別個の独立した成分であり、第2のエポキシ樹脂は第1のエポキシ樹脂と同じではない。例えば、第1のエポキシ樹脂がビスフェノールF型エポキシ樹脂を含む場合、第2のエポキシ樹脂はビスフェノールF型エポキシ樹脂とは異なり、当該技術分野で周知の他のエポキシ樹脂を含み得る。本発明の硬化性組成物中で有用な任意選択的な第2のエポキシ樹脂は、少なくとも1つの隣接エポキシ基を含むモノマー状、オリゴマー状、またはポリマー状の化合物であってもよい。更に、第2のエポキシ樹脂は、脂肪族、脂環式、芳香族、環式、ヘテロ環式、またはこれらの混合物であってもよい。第2のエポキシ樹脂は、飽和であっても不飽和であってもよい。第2のエポキシ樹脂は、置換されていても無置換であってもよい。本発明で有用な第2のエポキシ樹脂の詳しい一覧は、Lee,H.and Neville,K.,“Handbook of Epoxy Resins,”McGraw−Hill Book Company,New York,1967,Chapter2,pages257−307(参照により本明細書に組み込まれる)の中で見られる。
【0040】
第2のエポキシ樹脂は、前駆体硬化性組成物が使用される用途に応じて様々であってもよく、これには従来の市販のエポキシ樹脂が含まれていてもよい。ポリエポキシドとも呼ばれる第2のエポキシ樹脂は、平均で1分子当たり1つより多い未反応エポキシド単位を有する製品であってもよい。第2のエポキシ樹脂の選択においては、前駆体硬化性組成物の粘度、及び前駆体硬化性組成物の処理に影響を与え得る前駆体硬化性組成物の他の特性、並びに前駆体硬化性組成物から製造される最終的な複合材料製品の望ましい特性を考慮する必要がある。
【0041】
前駆体硬化性組成物中で使用される好適な従来の第2のエポキシ樹脂化合物は、例えば、エピハロヒドリンと、(1)フェノールもしくはフェノール型化合物、(2)アミン、または(3)カルボン酸との反応に基づく反応生成物などの、当該技術分野で公知の方法によって合成することができる。使用される好適な従来の第2のエポキシ樹脂は、不飽和化合物の酸化によっても合成することができる。第2のエポキシ樹脂の非限定的な例は、エピクロロヒドリンと、多価アルコール、フェノール、ビスフェノール、ハロゲン化ビスフェノール、水素化ビスフェノール、ノボラック樹脂、o−クレゾールノボラック、フェノールノボラック、ポリグリコール、ポリアルキレングリコール、環式脂肪族、カルボン酸、芳香族アミン、アミノフェノール、またはこれらの組み合わせ、との反応生成物であってもよい。任意選択的な第2のエポキシ化合物の合成は、例えばKirk− Othmer,Encyclopedia of Chemical Technology,3rd Ed.,Vol.9,pp267−289に記載されている。
【0042】
通常、エポキシ樹脂を合成するためのエピハロヒドリンとの反応に有用な好適なフェノール、フェノール型、または多価フェノール化合物は、1分子当たり平均1つより多い芳香族ヒドロキシル基を有する多価フェノール化合物であってもよい。これらの多価フェノール化合物の非限定的な例は、ビスフェノールA、ビスフェノールAP(1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン)、ビスフェノールF、またはビスフェノールKなどのジヒドロキシフェノールまたはビフェノール;テトラメチル−テトラブロモビフェノールまたはテトラメチルトリブロモビフェノールなどのハロゲン化ビフェノール;テトラブロモビスフェノールAまたはテトラクロロビスフェノールAなどのハロゲン化ビスフェノール;テトラメチルビフェノールなどのアルキル化ビフェノール;アルキル化ビスフェノール;トリスフェノール;フェノール−ホルムアルデヒドボラック樹脂、アルキル置換フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、フェノール−ヒドロキシベンズアルデヒド樹脂、アルキル化フェノール−ヒドロキシベンズアルデヒド樹脂、またはクレゾール−ヒドロキシベンズアルデヒド樹脂などのフェノール−アルデヒドノボラック樹脂(すなわちフェノールと単純アルデヒド(好ましくはホルムアルデヒド)との反応生成物);ハロゲン化フェノール−アルデヒドノボラック樹脂;置換フェノール−アルデヒドノボラック樹脂;フェノール−炭化水素樹脂;置換フェノール−炭化水素樹脂;炭化水素−フェノール樹脂;炭化水素−ハロゲン化フェノール樹脂;炭化水素−アルキル化フェノール樹脂;レゾルシノール;カテコール;ヒドロキノン;ジシクロペンタジエン−フェノール樹脂;ジクロロペンタジエン−置換フェノール樹脂;またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0043】
別の実施形態においては、少なくとも1種の第2のエポキシ樹脂は、アミンとエピハロヒドリンとの反応生成物であってもよい。これらのアミンの非限定的な例は、ジアミノジフェニルメタン、アミノフェノール、キシレンジアミン、アニリン、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0044】
また別の実施形態においては、少なくとも1種の第2のエポキシ樹脂は、カルボン酸とエピハロヒドリンとの反応生成物であってもよい。有用なカルボン酸の非限定的な例は、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ−及び/もしくはヘキサヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、イソフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、またはこれらの組み合わせであってもよい。
【0045】
任意選択的な第2のエポキシ樹脂の少数の非限定的な実施形態は、エピハロヒドリンとポリグリコールとの反応から合成される脂肪族エポキシドであってもよい。これらの脂肪族エポキシドの非限定的な例は、トリメチルプロパンエポキシド;ジグリシジル−1,2−シクロヘキサンジカルボキシレートまたはこれらの混合物;ビスフェノールAのジグリシジルエーテル;レゾルシノールジグリシジルエーテル;パラ−アミノフェノールのトリグリシジルエーテル;テトラブロモビスフェノールAのジグリシジルエーテルなどのハロゲン(例えば塩素または臭素)含有エポキシ樹脂;エポキシ化ビスフェノールA−ホルムアルデヒドノボラック;オキサゾリドン−変性エポキシ樹脂;エポキシ末端ポリオキサゾリドン;及びこれらの混合物であってもよい。
【0046】
別の実施形態においては、少なくとも1種の第2のエポキシ樹脂は、市販のエポキシ樹脂であってもよい。好適な市販の第2のエポキシ樹脂化合物は、The Dow Chemical Companyから市販のエポキシ樹脂であってもよい。これらの市販のエポキシ樹脂の非限定的な例は、エポキシ樹脂のD.E.R.(商標)300シリーズ、D.E.R.(商標)500シリーズ、D.E.R.(商標)600シリーズ、及びD.E.R.(商標)700シリーズであってもよい。ビスフェノールA型エポキシ樹脂の例としては、The Dow Chemical Companyから市販のD.E.R.(商標)300シリーズ及びD.E.R.(商標)600シリーズのうちのいくつかなどの市販のエポキシ樹脂を挙げることができる。
【0047】
第2のエポキシ樹脂として有用な好ましいD.E.R.(商標)300シリーズエポキシ樹脂化合物の少数の任意選択的な非限定的な例は、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルなどのビスフェノールA型エポキシ樹脂、または第1のビスフェノールF型エポキシ樹脂とは異なるビスフェノールFの他のジグリシジルエーテルなどの他のビスフェノールF型エポキシ樹脂であってもよい。例えば、第2のエポキシ樹脂化合物としては、D.E.R383(約175〜約185のエポキシド当量、約9.5Pa−sの粘度、及び約1.16g/ccの密度を有するビスフェノールAのジグリシジルエーテル(DGEBPA))などの液体エポキシ樹脂を挙げることができる。エポキシ樹脂成分のために使用できる他の市販の第2のエポキシ樹脂は、D.E.R.330及びD.E.R.332であってもよい。
【0048】
通常、純粋なビスフェノールF型エポキシ樹脂またはその混合物の合計濃度は、約50重量%〜約99重量%の範囲であってもよい。様々な実施形態においては、純粋なビスフェノールF型エポキシ樹脂またはその混合物の合計濃度は、前駆体硬化性組成物の成分の総重量基準で約50重量%〜約99重量%、60重量%〜約98重量%、70重量%〜約97重量%、及び73重量%〜約95重量%の範囲であってもよい。
【0049】
(f)他の任意選択的な成分
前駆体硬化性組成物に添加され得る他の任意選択的な成分としては、当業者に公知の硬化性樹脂組成物中で通常使用される化合物を挙げることができる。例えば、任意選択的な成分としては、塗布特性(例えば表面張力調整剤または流動助剤)、信頼特性(例えば接着促進剤)、反応速度、反応の選択性、及び/または触媒の寿命を高めるために組成物に添加することができる化合物を挙げることができる。これらの任意選択的な化合物の非限定的な例は、フィラー;顔料;強化剤;柔軟剤;加工助剤;流動性調整剤;接着促進剤;希釈剤;安定化剤;可塑剤;触媒不活性化剤;難燃剤;芳香族炭化水素樹脂;コールタールピッチ;石油ピッチ;カーボンナノチューブ;グラフェン;カーボンブラック;炭素繊維;またはこれらの混合物であってもよい。
【0050】
通常、これらの他の任意選択的な化合物の量は0重量%〜約80重量%の範囲であってもよい。様々な実施形態においては、これらの他の任意選択的な化合物の量は、0重量%〜約80重量%、0.01重量%〜約60重量%、10重量%〜約50重量%、及び20重量%〜約40重量%の範囲であってもよい。
【0051】
(g)実例
優れた有用性を示すある例示的な実施形態においては、エポキシ樹脂を主体とする前駆体硬化性組成物は溶媒なしで使用することができ、そのような場合、前駆体硬化性組成物についての許容される成分範囲は次の通りであってもよい:88重量%〜約94重量%のビスフェノールF型樹脂またはその混合物;0重量%〜約1.5重量%の硬化剤;及び4重量%〜約12重量%の潜在性触媒。
【0052】
ビスフェノールFエポキシ樹脂から出発する前駆体の調製についての別の例示的な実施形態においては、前駆体硬化性組成物について許容される成分範囲は次の通りとすることができる:88重量%〜約96重量%のビスフェノールFエポキシ樹脂またはビスフェノールFエポキシ樹脂とフェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂との混合物;及び4重量%〜約12重量%の潜在性触媒。
【0053】
更に別の例示的な実施形態においては、前駆体硬化性組成物について許容される成分範囲は次の通りであってもよい:74重量%〜約88重量%のフェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂;0.8重量%〜約1.0重量%の硬化剤;4.8重量%〜約5.7重量%の潜在性触媒;及び5重量%〜約20重量%の有機溶媒。
【0054】
粘性エポキシ樹脂を主体とする前駆体硬化性組成物から出発する炭素−炭素複合材料の作製のための本発明のまた別の例示的な実施形態においては、前駆体硬化性組成物について許容される成分範囲は次の通りとすることができる:74重量%〜約88重量%のビスフェノールFエポキシノボラック樹脂;3.5重量%〜約10重量%の潜在性触媒;及び5重量%〜約20重量%の有機溶媒。
【0055】
また更に別の例示的な実施形態においては、前駆体硬化性組成物について許容される成分範囲は次の通りであってもよい:0重量%〜約30重量%のビスフェノールFエポキシノボラック樹脂;60重量%〜約96重量%のビスフェノールFエポキシ樹脂;1重量%〜約2重量%の硬化剤;及び3重量%〜約10重量%の潜在性触媒。
【0056】
また更に別の例示的な実施形態においては、前駆体硬化性組成物について許容される成分範囲は次の通りとすることができる:0重量%〜30重量%のフェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂;60重量%〜約94重量%のビスフェノールFエポキシ樹脂;及び約4重量%〜約12重量%の潜在性触媒。
【0057】
h)前駆体硬化性組成物の特性
前駆体硬化性組成物の熱安定性及び炭素収率は、エポキシ樹脂、潜在性触媒、及び硬化剤の種類及び濃度の微妙なバランスに基づく。望ましい熱安定性(例えば50℃で16日間置いた場合に増加する粘度が20%を超えない)及び望ましい炭素収率(例えば少なくとも50%超)を示す前駆体硬化性組成物は、上述の潜在性触媒を用いて達成することができる。しかし、上述したような任意選択的な硬化剤を使用すると、有利に炭素収率の増加を維持しながらも、前駆体硬化性組成物中で使用される潜在性触媒の量を減らすことができる。前駆体硬化性組成物中で使用される様々な第1のエポキシ樹脂間にわずかな差が存在することから、組成物の炭素収率は、特定の用途のための望ましい炭素収率を達成するために「微調整」することができる。「微調整」は、様々な種類の第1のエポキシ樹脂、潜在性触媒、及び任意選択的な化合物を利用することによって、及び/または様々な量の成分を使用することによって、行うことができる。例えば、前駆体硬化性組成物の好ましい炭素収率はビスフェノールFエポキシ樹脂を使用して達成できる一方で、フェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂はビスフェノールFエポキシ樹脂と比較して芳香族繰り返し単位数が多いことから、前駆体硬化性組成物の炭素収率はフェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂を使用することによって増加させることができる。
【0058】
前駆体硬化性組成物の1つの重要な特性は、組成物が、硬化した固体状態へと組成物を加工するための液体形態にあることである。ある実施形態においては、例えば第1のエポキシ樹脂としてビスフェノールFエポキシ樹脂を含むか、第1のエポキシ樹脂としてビスフェノールFエポキシ樹脂とフェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂との混合物を含む硬化性前駆体組成物は、硬化性前駆体組成物を従来の組成物の装置で加工及び扱うことが可能な程度に十分低い粘度を示す。例えば、上述の方法によって調製されるエポキシ系硬化性前駆体組成物は、有利には25℃で約12.0Pa−s以下(≦)の十分に低い粘度を示す。
【0059】
通常、第1のエポキシ樹脂としてのビスフェノールFエポキシ樹脂、または第1のエポキシ樹脂としてのビスフェノールFエポキシ樹脂とフェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂との混合物を使用する前駆体硬化性組成物の粘度は、0.1Pa−s〜約50Pa−sの範囲であってもよい。様々な実施形態においては、前駆体硬化性組成物の粘度は、25℃で0.1Pa−s〜約50Pa−s、1.0Pa−s〜約20Pa−s、及び1.5Pa−s〜約12.0Pa−sの範囲であってもよい。前駆体硬化性組成物は十分に低い粘度を有していることから、前駆体硬化性組成物は、前駆体硬化性組成物に溶媒または希釈剤を添加することなしに使用することができる。溶媒または希釈剤は、前駆体硬化性組成物の粘度の低減及び前駆体硬化性組成物の加工性の向上の目的のみのために必要とされる。つまり、前駆体硬化性組成物は、熱硬化製品の形成のための最終用途の加工で容易に加工することができ、また容易に取り扱うことができる。しかし、溶媒が使用される場合があり、そのため溶媒化合物は上述のように任意選択的である。
【0060】
フェノール−ホルムアルデヒドノボラックエポキシ樹脂を使用する前駆体硬化性組成物は、50℃で約25.0Pa−s〜約250.0Pa−sの範囲の粘度を示す。前駆体硬化性組成物は、組成物の粘度を下げるために高温にする必要性を減らすのに十分な、及び炭素繊維を濡らすと同時に硬化の早すぎる開始を抑制することを可能にするのに十分な、低い粘度を示す。しかし、少量の有機溶媒の添加は、前駆体硬化性組成物の加工性に役立ち、また大量の溶媒なしに[例えば約50%未満]、炭素繊維を濡らす能力を向上させる。例えば、硬化性前駆体組成物は、有利には25℃で約80.0Pa−s以下(≦)、または50℃で約4.0Pa−s以下(≦)の粘度を示す。
【0061】
通常、フェノール−ホルムアルデヒドノボラックエポキシ樹脂を使用する前駆体硬化性組成物の粘度は、25℃で0.1Pa−s〜約100Pa−sの範囲であってもよい。様々な実施形態においては、フェノール−ホルムアルデヒドノボラックエポキシ樹脂を使用する前駆体硬化性組成物の粘度は、25℃で0.1Pa−s〜約100Pa−s、10.0Pa−s〜約90Pa−s、及び0.4Pa−s〜約80.0Pa−sの範囲であってもよい。
【0062】
通常、前駆体硬化性組成物の粘度は、50℃で0.1Pa−s〜約12.0Pa−sの範囲であってもよい。様々な実施形態においては、前駆体硬化性組成物の粘度は、50℃で0.1Pa−s〜約12.0Pa−s、0.2Pa−s〜約8.0Pa−s、及び0.4Pa−s〜約4.0Pa−sの範囲であってもよい。
【0063】
前駆体硬化性組成物が有する別の有益な特性としては、50℃で置いた場合に16日間で20%未満の粘度の増加であることに関係する熱安定性が挙げられる。通常、粘度の増加(組成物の最初の粘度から)によって測定される前駆体硬化性組成物の熱安定性は、0%〜約20%の範囲であってもよい。様々な実施形態においては、前駆体硬化性組成物の熱安定性は、50℃で16日間置いた場合に、0%〜約20%、2%〜約19%、及び約3%〜約18%の範囲であってもよい。約20%の範囲を超えると、組成物は急速にゲル化する傾向があり、ゲル化は、組成物が16日より長い期間室温でその最初の粘度を保たないことの指標である。
【0064】
(II)前駆体硬化性組成物の製造方法
別の態様は、前駆体硬化性組成物の調製方法を包含する。方法は、次の成分:(a)少なくとも1種のエポキシ樹脂であって第1のエポキシ樹脂はビスフェノールF型エポキシであってもよい少なくとも1種のエポキシ樹脂;及び(b)少なくとも1種の潜在性触媒;を混合し、その後成分を混合して前駆体硬化性組成物を製造するのに十分な温度で混合物を加熱することを含む。任意選択的には、前駆体硬化性組成物は、(c)硬化触媒、(d)有機溶媒、及び(d)第2のエポキシ樹脂、も更に含有していてもよい。上述したように、当業者に公知の追加的な化合物を組成物に添加してもよい。
【0065】
前駆体硬化性組成物の全ての化合物は、典型的には、具体的な用途のための特性の望ましいバランスを有する効果的な前駆体硬化性組成物の調製を可能にする温度で混合及び分散される。通常、全ての成分の混合及び分散のための温度は、−10℃〜約80℃の範囲であってもよい。様々な実施形態においては、全ての成分の混合及び分散のための温度は、−10℃〜約80℃、0℃〜約60℃、10℃〜約50℃、または20℃〜約40℃の範囲であってもよい。混合温度を下げることは、前駆体硬化性組成物中のエポキシドの前反応を最小限にすること、及び前駆体硬化性組成物のポットライフを最大限にすることに役立つ。
【0066】
前駆体硬化性組成物の調製及び/またはその工程のいずれも、バッチプロセスであっても連続プロセスであってもよい。プロセス中で使用される混合装置は、当業者に周知の任意の容器及び補助装置であってもよい。
【0067】
(III)硬化した前駆体複合材料の作製方法
別の態様は、硬化した前駆体複合材料の作製方法または前駆体硬化性組成物の硬化方法を提供する。方法は、前駆体硬化性組成物を準備することと、硬化性組成物を熱に曝露して熱硬化または硬化した複合材料を形成することとを含む。あるいは、前駆体硬化性組成物を物品の上に塗布し、その後硬化性組成物を熱に曝露してプリプレグ前駆体複合材料、熱硬化または硬化した複合材料を形成してもよい。通常、前駆体硬化性組成物は、硬化のために加熱される前に、被覆される物品の表面の少なくとも一部に塗布されてもよく、または物品に前駆体硬化性組成物を含浸させてもよい。
【0068】
(a)前駆体硬化性組成物
前駆体硬化性組成物は上述の通りである。
【0069】
(b)物品
別の態様においては、硬化した前駆体複合材料の作製方法が本明細書中で開示される。更に、本明細書に開示の方法は、基材の少なくとも一部に接着しているか物品を含浸している硬化したまたは未硬化の硬化性エポキシ樹脂組成物を含む物品を包含する。物品は、大まかには、前駆体硬化性組成物が最初に塗布され、基材の少なくとも1つの表面の少なくとも一部に接着する材料として定義することができる。前駆体硬化性組成物を有する物品は、任意の公知の形状に形成されてもよい。硬化性コーティング組成物は、熱硬化または硬化した組成物を形成するために、物品ありまたはなしで組成物を熱に曝露することにより硬化させることができる。硬化性組成物が、物品がある状態で硬化することができる場合、コーティングは基材に結合していてもよい。
【0070】
更なる実施形態においては、物品は繊維であってもよい。繊維の非限定的な例は、ポリエステル、ナイロン、レーヨン、ケブラー、ガラス繊維、炭素繊維、Nomex、ポリエステル、及び超高分子量ポリエチレン、並びにこれらの組み合わせであってもよい。好ましい実施形態においては、繊維は炭素繊維であってもよい。
【0071】
様々な実施形態においては、物品は様々な形態であってもよい。物品の非限定的な形態の例は、繊維、ロール、シート、ワイヤー、ストランド、布、及びこれらの組み合わせであってもよい。物品の形態は、様々な寸法、形状、厚さ、及び重さのものであってもよい。
【0072】
(c)硬化性組成物の塗布
方法は、物品の少なくとも1つの表面の一部に硬化性エポキシ樹脂組成物を塗布することを更に含む。好適な物品は上述の通りである。硬化性コーティング組成物の塗布は、様々な手段によって塗布することができる。例えば、コーティング組成物は、ドローダウンバー、ローラー、ナイフ、刷毛、噴霧器、ディッピング、浸漬、真空浸潤、または当業者に公知の他の方法を使用して塗布されてもよい。上述したように、硬化性コーティング組成物は、コーティングされる物品の1つ以上の表面に塗布されてもよい。
【0073】
(d)前駆体硬化性組成物の硬化
方法は、前駆体硬化性組成物を硬化させることまたは物品の少なくとも1つの表面の一部に前駆体硬化性組成物を硬化させることを更に含む。硬化した前駆体複合材料、硬化した組成物、または熱硬化物を形成するために、前駆体硬化性組成物は、組成物を熱に所定の時間曝露することによって硬化されてもよい。
【0074】
通常、硬化した前駆体複合材料を製造するための反応プロセスは、具体的な用途のための、特には炭素−炭素複合材料製品を形成するための、望ましい特性のバランスを有する効果的な硬化した前駆体複合材料を作製することが可能なプロセス条件で硬化反応を行うことを含む。硬化した前駆体複合材料を作製するための反応プロセスを行うための反応温度は、−10℃〜約300℃の範囲であってもよい。様々な実施形態においては、反応温度は−10℃〜約300℃、10℃〜約280℃、約20℃〜約260℃、及び50℃〜250℃の範囲であってもよい。
【0075】
通常、硬化した前駆体複合材料、硬化した組成物、または熱硬化物を作製するための反応プロセスを行うための反応圧力は、1psig(6.9kPa)〜約150psig(1,034.2kPa)の範囲であってもよい。様々な実施形態においては、反応圧力は、1psig(6.9kPa)〜約150psig(1,034.2kPa)、5psig(34.5kPa)〜約80psig(551.6kPa)、及び10psig(68.9kPa)〜約20psig(137.9kPa)の範囲であってもよい。
【0076】
硬化した前駆体複合材料を作製するための反応プロセスを行うための反応時間は、2分〜約90日の範囲であってもよい。様々な実施形態においては、反応時間は、2分〜約90日、3分〜約30日、4分〜約7日、5分〜約1日、6分〜約8時間、または7分〜約4時間の範囲であってもよい。
【0077】
硬化した前駆体複合材料、プリプレグ、硬化した組成物、または熱硬化物の作製は、バッチプロセスであっても連続プロセスであってもよい。反応を行うために用いられる装置としては、当業者に公知の装置が挙げられる。
【0078】
前駆体硬化性組成物から硬化した材料を製造することの有益な結果の1つには、通常少なくとも約50重量%の高い炭素収率を有する硬化製品が製造されることが含まれる。通常、TGAにより測定される硬化製品の炭素収率は、50重量%〜約95重量%の範囲であってもよい。様々な実施形態においては、炭素収率は、硬化した組成物の総重量基準で50重量%〜約95重量%、55重量%〜約90重量%、60重量%〜約75重量%、及び52重量%〜約62重量%の範囲であってもよい。
【0079】
溶媒を含まないエポキシ樹脂を主体とする前駆体硬化性組成物から作製されたプリプレグ(すなわち硬化した前駆体複合材料)の製造のためには、フェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂を加熱のために許容される温度範囲は、約70℃〜約90℃とすることができる。前駆体硬化性組成物の加熱は、潜在性触媒及び/または硬化剤の添加前及び添加中に行うことができる。前駆体硬化性組成物の混合時間について許容される範囲は、ある実施形態においては約5分〜約48時間とすることができる。混合時間は、調製された前駆体硬化性組成物の大きさ/量(例えば約0.005kg〜約3kg)に応じて変えることができる。
【0080】
溶媒を含むエポキシ樹脂を主体とする前駆体硬化性組成物から作製されたプリプレグの製造のためには、フェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂の加熱のために許容される温度範囲は、60℃〜約70℃であってもよい。前駆体硬化性組成物の加熱は、前駆体硬化性組成物への溶媒の添加前及び/または添加中に行ってもよい。別の実施形態においては、溶媒中のフェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂について許容される温度範囲は、約25℃〜約30℃であってもよい。通常、溶媒中のフェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂について許容される温度範囲は、約25℃〜約70℃の温度範囲であってもよい。様々な実施形態においては、許容される温度は、25℃〜約70℃、30℃〜約60℃、または40℃〜約50℃の範囲であってもよい。前駆体硬化性組成物の加熱は、潜在性触媒及び/または硬化剤の添加前及び/または添加中に行ってもよい。混合時間について許容される範囲は、ある実施形態においては約5分〜約24時間とすることができる。混合時間は、前駆体硬化性組成物の大きさ/量(例えば約0.005kg〜約3kg)に応じて変えてもよい。
【0081】
ビスフェノールFエポキシ樹脂またはビスフェノールFエポキシ樹脂とフェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂との混合物を含む、中程度の粘度のエポキシを主体とする組成物から作製されるプリプレグの製造のためには、ビスフェノールF型エポキシ系樹脂の加熱のために許容される温度範囲は、約65℃〜約85℃であってもよい。前駆体硬化性組成物の加熱は、潜在性触媒及び/または硬化剤の添加前及び/または添加中に行ってもよい。混合時間について許容される範囲は、約5分〜約24時間であってもよい。混合時間は、前駆体硬化性組成物の大きさ/量(例えば約0.005kg〜約3kg)に応じて変えることができる。
【0082】
(IV)硬化した前駆体複合材料の炭化
別の態様における、硬化した前駆体複合材料の炭化方法または熱分解方法。方法は、(a)上述した前駆体硬化性組成物を調製する工程;(b)工程(a)の前駆体硬化性組成物で炭素繊維を含浸する工程;(c)工程(b)の前駆体硬化性組成物で含浸された炭素繊維材料を硬化して硬化した前駆体複合材料(「プリプレグ」)を形成する工程;及び(d)工程(c)のプリプレグを炭化して炭素−炭素複合材料製品を形成する工程;を含み、前駆体硬化性組成物の炭素収率は、工程(b)で使用される炭素繊維の量を除いた工程(b)で使用される硬化した前駆体硬化性組成物の量を基準として少なくとも約50重量%である。
【0083】
ある実施形態は、上述のプリプレグから炭素−炭素複合材料製品または物品を製造することを含む。例えば、プリプレグの炭化は、プリプレグを炭化して炭素−炭素複合材料を形成するのに十分な所定の温度及び所定の時間で行うことができる。炭化は、不活性雰囲気の存在下で行ってもよい。通常、本発明の炭素−炭素複合材料の製造のための炭化反応プロセスは、特定の用途のための特性の望ましいバランスを有する有効な炭素−炭素複合材料を作製することが可能なプロセス条件で炭化反応を行うことを含む。
【0084】
例えば、炭素−炭素複合材料製品を作製するための炭化温度は、30℃〜約1,000℃の範囲であってもよい。様々な実施形態においては、炭化温度は30℃〜約1,000℃、250℃〜約900℃、及び300℃〜約800℃の範囲であってもよい。
【0085】
例えば、炭素−炭素複合材料製品を作製するための反応プロセスを行うための反応時間は、約2時間〜約90日、4時間〜約30日、6時間〜約14日、10時間〜約7日、または12時間〜約24時間の範囲であってもよい。
【0086】
炭素−炭素複合材料製品の作製及び/またはその工程のいずれも、バッチプロセスであっても連続プロセスであってもよい。反応を行うために用いられる装置としては、当業者に公知の装置が挙げられる。
【0087】
(V)炭素−炭素複合材料の特性
炭素−炭素複合材料は、鋼材やチタンなどの高性能材料と比較して低密度材料の、優れているか同等の熱的、電気的、機械的、及び化学的特性などの複数の有益な特性を備える。複数の因子が炭素−炭素複合材料の特性に影響を与える。例えば、使用する炭素繊維の種類及び量だけでなく、炭素繊維を結合させるために使用されるマトリックス材料の種類も、望ましいCCC特性の決定において考慮される有用な因子である。炭素マトリックスの炭素繊維への接着の増加も、表面及び内部の欠陥がない材料を与えるだけでなく、考慮すべき事項である。マトリックスと炭素繊維の種類の組み合わせを有する炭素−炭素複合材料の典型的な特性は、Morgan,P.(2005),Properties of Carbon Fibers,Carbon Fibers and their Composites (pp791−860).Boca Raton,FL:CRC Pressの中に記載されている。
【0088】
炭素−炭素複合材料の特性は、他の炭素−炭素複合材料よりも多くの優れた特性またはこれらと同等の特性を備えている。通常、炭素−炭素複合材料の密度は、1.5g・cm
−3〜約1.8g・cm
−3の範囲であってもよい。様々な実施形態においては、炭素−炭素複合材料の密度は、1.5g・cm
−3〜約1.8g・cm
−3、1.5g・cm
−3〜約1.6g・cm
−3、1.6g・cm
−3〜約1.7g・cm
−3、または1.7g・cm
−3〜約1.8g・cm
−3の範囲であってもよい。
【0089】
炭素−炭素のもう1つの有益な特性は引張強度である。通常、引張強度は、10MPa〜約70MPaの範囲であってもよい。様々な実施形態においては、炭素−炭素複合材料の引張強度は、10MPa〜約70MPa、20MPa〜約60MPa、または30MPa〜約50MPaの範囲であってもよい。
【0090】
通常、炭素−炭素複合材料の弾性率は、7GPa〜約170GPaの範囲であってもよい。様々な実施形態においては、弾性率は、7GPa〜約170GPa、20GPa〜約140GPa、50GPa〜約120GPa、または80GPa〜約100GPaの範囲であってもよい。
【0091】
更に、炭素−炭素複合材料の圧縮強度は、100MPa〜約160MPaの範囲であってもよい。様々な実施形態においては、圧縮強度は100MPa〜約160MPa、約120MPa〜約150MPa、または130MPa〜約140MPaの範囲であってもよい。
【0092】
通常、熱伝導率は、20W・m
−1・K
−1〜約150W・m
−1・K
−1の範囲であってもよい。様々な実施形態においては、熱伝導率は、20W・m
−1・K
−1〜約150W・m
−1・K
−1、40W・m
−1・K
−1〜約130W・m
−1・K
−1、60W・m
−1・K
−1〜約110W・m
−1・K
−1、及び80W・m
−1・K
−1〜約100W・m
−1・K
−1の範囲であってもよい。
【0093】
炭素−炭素複合材料は、2.0 10−6℃〜約4.5 10−6℃の範囲の熱膨張係数を与える。様々な実施形態においては、2.0 10−6℃〜約4.5 10−6℃、2.5 10−6℃〜約4.0 10−6℃、及び3.0 10−6℃〜約3.5 10−6℃の熱膨張係数である。
【0094】
炭素−炭素複合材料の他の特性は、実施例の中に示されている。
【0095】
本発明の炭素−炭素複合材料製品である最終用途のいくつかの非限定的な例は、高速列車、レーシングカー、オートバイ、戦車、高性能機、及び軍用機のためのブレーキディスク、パッド、クラッチプレート、ローター、及びステーターなどのブレーキ系;航空宇宙産業における物体先端、再突入熱シールド、ロケットモーターノズル、翼前縁部、及びロケット出口コーン;タービンホイール、ベアリング及びシール、バルブガイド、並びにピストンなどのガスタービンエンジン部品;生体医学産業におけるインプラント;蒸留カラムのカラム充填剤、蒸留トレー及び支持体、スパージャチューブ、供給管、ミストエリミネータ、サーモウェル、並びにポンプインペラー;加熱プレス用のダイ及びモールド;炉の要素構造体の断熱材及び部品;であってもよい。
【0096】
定義
本明細書に記載の実施形態の要素を紹介する際の冠詞「a」、「an」、「the」、及び「前記」は、1つまたはそれ以上の要素の存在を意味することが意図されている。用語「含む」、「含有する」、及び「有する」(comprising、including、having)は、包括的であることが意図されており、列挙されている要素以外の追加的な要素が存在していてもよいことを意味する。
【0097】
用語「前駆体」は、硬化性樹脂組成物のことであり、炭素−炭素複合材料の作製におけるマトリックスとして使用される、25℃での測定値が約0.1Pa−s〜約100.0Pa−sであり50℃での測定値が約0.1Pa−s〜約250.0Pa−sである、潜在性触媒と任意選択的な硬化触媒と任意選択的な有機溶媒とを含有する液体エポキシ系樹脂を意味する。
【0098】
用語「ガラス状炭素」とは、約1,000℃〜約3,000℃の熱分解温度での、架橋した熱硬化性ポリマーの熱分解により典型的には形成される、等方性の非黒鉛化低結晶性炭素構造を有する炭素を主成分とする材料のことをいう。
【0099】
用語「炭素−炭素複合材料(CCC)」とは、炭素マトリックスによって互いに結合された、一続きの積層された炭素繊維織布強化材料のことをいう。炭素−炭素複合材料の作製方法は、通常、積層された炭素繊維織布を熱硬化性樹脂組成物で含浸することを含む。樹脂で含浸された炭素繊維は、グリーンカーボン複合材料を作製するために硬化され、その後、グリーンカーボン複合材料は、最終的な炭素−炭素複合材料を作製するために約1,000℃以上の温度まで熱分解(炭化)される。
【0100】
用語「プリフォーム」とは、特定の形状への積層及び成形がなされた炭素繊維のことをいう。
【0101】
用語「炭化(carbonize、carbonizing、carbonization)」または「熱分解」とは、窒素などの不活性雰囲気下で約25℃から約1,000℃まで10℃/分の温度で組成物を加熱することにより炭素以外の元素の大部分を組成物から除去することをいう。
【0102】
硬化した組成物に関しての用語「炭素収率」は、任意選択的な有機溶媒の非存在下で熱重量分析(TGA)によって測定される、窒素などの不活性雰囲気下で約25℃から約1,000℃まで10℃/分で処理された炭素含有組成物の硬化した試料に残存する炭素のパーセント重量を意味する。本明細書において、硬化した組成物に関しての「高炭素収率」は、硬化した組成物の総重量基準で少なくとも約50%を意味する。
【0103】
組成物に関しての用語「硬化(cure、curing)」及び「硬化性」は、液体樹脂前駆体を不溶性の固体高分子網目へと不可逆的に変換するプロセスを意味する。
【0104】
用語「潜在性触媒」とは、DSC Tonsetに基づく85〜250℃などの高温でのエポキシド単独重合により芳香族エポキシ樹脂のエポキシド基と反応してエポキシ樹脂の硬化及び/または重合を開始させるが、50℃などの中程度の温度では顕著な粘度の増加を生じさせない化合物のことをいう。
【0105】
用語「硬化剤」とは、エポキシ樹脂のエポキシド基と硬化触媒の官能基との縮合によって硬化及び/または重合を生じさせる、エポキシ樹脂のエポキシドと反応する官能基を有する化合物のことをいう。
【0106】
組成物に関しての用語「高い芳香族性」は、熱硬化性ポリマーの繰り返し単位中の2つ以上の芳香族ベンゼン基を意味する。
【0107】
組成物に関しての用語「熱安定性」は、樹脂組成物が50℃で置かれた場合の、16日間で最大で20%以下の粘度の増加を意味する。
【0108】
組成物に関しての用語「環化能力」は、拡張黒鉛構造を生成するための、硬化した熱硬化性樹脂前駆体の架橋したポリマー構造の中での飽和及び不飽和の炭化水素の縮合を意味する。
【0109】
用語「界面接着」とは、樹脂マトリックスが炭素繊維にどの程度強く接着しているかを定量化するために使用することができる、3点曲げにおける界面せん断強度の測定のことをいう。
【0110】
用語「収縮整合」とは、しばしば界面及び/またはマトリックスの割れを生じさせる、異なる量及び異なる速度で繊維と樹脂マトリックスが収縮する、熱分解時のプロセスのことをいう。繊維は樹脂よりも収縮する。樹脂マトリックスで含浸する前に繊維を前処理(例えば熱により)すると、定量化されない量の収縮が生じ、また繊維表面が酸化されることで、界面接着が改善され、繊維と樹脂マトリックスとの間のより良好な接着が促進されるだけでなく熱分解時の収縮量及び収縮速度の差も低減される。
【0111】
本発明を詳細に述べてきたが、添付の請求項で規定される本発明の範囲から逸脱することなしに修正及び変更が可能なことは明白であろう。
本願発明には以下の態様が含まれる。
項1.
(a)少なくとも1種の第1のエポキシ樹脂;
(b)少なくとも1種の潜在性触媒;
(c)任意選択的な少なくとも1種の硬化剤;
(d)任意選択的な少なくとも1種の有機溶媒;及び
(e)任意選択的な少なくとも1種の第2のエポキシ樹脂;
を含有する炭素−炭素複合材料の作製に有用な前駆体硬化性組成物であって、
増加した25℃での粘度によって測定される、50℃で16日間置いた場合の前記前駆体硬化性組成物の熱安定性が0%〜約20%であり、前記前駆体硬化性組成物が硬化された場合に、熱重量分析によって測定される前記硬化した前駆体硬化性組成物の炭素収率が、前記任意選択的な有機溶媒を除く前記硬化した組成物の総重量基準で少なくとも約50%である、
前記前駆体硬化性組成物。
項2.
前記少なくとも1種の第1のエポキシ樹脂がビスフェノールF型エポキシ樹脂である、項1に記載の前駆体硬化性組成物。
項3.
前記少なくとも1種の第1のエポキシ樹脂がナフタレンジグリシジルエーテルである、項1または2に記載の前駆体硬化性組成物。
項4.
前記少なくとも1種の第1のエポキシ樹脂がビスフェノールFエポキシ樹脂、フェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂、またはこれらの混合物である、項1〜3のいずれかに記載の前駆体硬化性組成物。
項5.
前記少なくとも1種の第1のエポキシ樹脂の濃度が前記組成物の総重量の約50重量%〜約99重量%である、項1〜4のいずれかに記載の前駆体硬化性組成物。
項6.
前記潜在性触媒がパラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸のアルキルエステル、またはこれらの混合物である、項1〜5のいずれかに記載の前駆体硬化性組成物。
項7.
前記潜在性触媒が、p−トルエンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸エチル、メタンスルホン酸メチル、及びこれらの混合物からなる群から選択される、項1〜6のいずれかに記載の前駆体硬化性組成物。
項8.
前記少なくとも1種の潜在性触媒の濃度が前記組成物の総重量の約1重量%〜約15重量%である、項1〜7のいずれかに記載の前駆体硬化性組成物。
項9.
少なくとも1種の硬化剤を更に含み、前記少なくとも1種の硬化剤が、ジメチルベンジルアミン、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、または1,4−ジアザビシクロ−[2.2.2]オクタンなどの三級アミン;三塩化ホウ素−N,N−ジメチルオクチルアミン付加体などのルイス酸錯体;4−メチル−2−フェニルイミダゾール及び1−アジン−2−メチルイミダゾールなどのイミダゾール;並びにこれらの混合物である、項1〜8のいずれかに記載の前駆体硬化性組成物。
項10.
前記硬化剤の濃度が前記組成物の総重量の約0.5重量%〜約3重量%である、項1〜9のいずれかに記載の前駆体硬化性組成物。
項11.
少なくとも1種の有機溶媒を更に含み、前記少なくとも1種の有機溶媒が、メチルエチルケトン、メチルn−アミルケトン、メチルイソブチルケトン、キシレン、アセトン、またはこれらの混合物である、項1〜10のいずれかに記載の前駆体硬化性組成物。
項12.
前記有機溶媒の濃度が前記組成物の総重量の約5重量%〜約40重量%である、項1〜11のいずれかに記載の前駆体硬化性組成物。
項13.
少なくとも1種の第2のエポキシ樹脂を更に含み、前記少なくとも1種の第2のエポキシ樹脂が、9,9−ビス[4−ヒドロキシ−フェニル]フルオレン、ビスフェノールA、もしくはレゾルシノールのジグリシジルエーテル、o−クレジルグリシジルエーテル、またはこれらの混合物である、項1〜12のいずれかに記載の前駆体硬化性組成物。
項14.
(a)少なくとも1種の第1のエポキシ樹脂;
(b)少なくとも1種の潜在性触媒;
(c)任意選択的な少なくとも1種の硬化剤;
(d)任意選択的な少なくとも1種の有機溶媒;及び
(e)任意選択的な少なくとも1種の第2のエポキシ樹脂;
を混合することを含む、炭素−炭素複合材料の作製に有用な前駆体硬化性組成物の調製方法であって、
増加した25℃での粘度によって測定される、50℃で16日間置いた場合の前記前駆体硬化性組成物の熱安定性が0%〜約20%であり、前記前駆体硬化性組成物が硬化された場合に、熱重量分析によって測定される前記硬化した前駆体硬化性組成物の炭素収率が、前記任意選択的な有機溶媒を除く前記硬化した組成物の総重量基準で少なくとも約50%である、
前記前駆体硬化性組成物の調製方法。
項15.
項1に記載の前記前駆体硬化性組成物を硬化することによって作製される反応生成物を含む、硬化した前駆体複合材料。
項16.
(i)
(a)少なくとも1種の第1のエポキシ樹脂;
(b)少なくとも1種の潜在性触媒;
(c)任意選択的な少なくとも1種の硬化剤;
(d)任意選択的な少なくとも1種の有機溶媒;及び
(e)任意選択的な少なくとも1種の第2のエポキシ樹脂;
を含む前駆体硬化性組成物を準備する工程であって、増加した25℃での粘度によって測定される、50℃で16日間置いた場合の前記前駆体硬化性組成物の熱安定性が0%〜約20%であり、前記前駆体硬化性組成物が硬化された場合に、熱重量分析によって測定される前記硬化した前駆体硬化性組成物の炭素収率が、前記任意選択的な有機溶媒を除く前記硬化した組成物の総重量基準で少なくとも約50%である工程;
(ii)硬化した前駆体複合材料を形成するのに十分な約−10℃〜約300℃の温度で、工程(i)の前記前駆体硬化性組成物を硬化させる工程;
を含む、硬化した前駆体複合材料の製造方法。
項17.
工程(ii)中の前記前駆体硬化性組成物を硬化させる前に、工程(i)の前記前駆体硬化性組成物で炭素繊維材料を含浸する工程を更に含む、項16に記載の方法。
項18.
項15に記載の前記硬化した前駆体複合材料を炭化することによって作製される反応生成物を含む、炭素−炭素複合材料製品。
項19.
(I)
(a)少なくとも1種の第1のエポキシ樹脂;
(b)少なくとも1種の潜在性触媒;
(c)任意選択的な少なくとも1種の硬化剤;
(d)任意選択的な少なくとも1種の有機溶媒;及び
(e)任意選択的な少なくとも1種の第2のエポキシ樹脂;
を含む前駆体硬化性組成物を準備する工程であって、増加した25℃での粘度によって測定される、50℃で16日間置いた場合の前記前駆体硬化性組成物の熱安定性が0%〜約20%であり、前記前駆体硬化性組成物が硬化された場合に、熱重量分析によって測定される前記硬化した前駆体硬化性組成物の炭素収率が、前記任意選択的な有機溶媒を除く前記硬化した組成物の総重量基準で少なくとも約50%の範囲である工程;
(II)工程(I)の前記前駆体硬化性組成物で炭素繊維材料を含浸する工程;
(III)工程(II)の前記前駆体硬化性組成物で含浸された炭素繊維材料を硬化して硬化した前駆体複合材料を形成する工程;及び
(IV)工程(III)の前記硬化した前駆体複合材料を炭化して炭素−炭素複合材料製品を形成する工程;
を含む、炭素−炭素複合材料製品の製造方法であって、
前記硬化した前駆体複合材料の炭素収率が、工程(II)で使用された炭素繊維材料の量を除く工程(II)で使用された前記硬化した前駆体硬化性組成物の総重量基準で少なくとも50%である、
前記炭素−炭素複合材料製品の製造方法。
【実施例】
【0112】
以降の実施例は本発明の様々な実施形態を例示する。以降の実施例において、例えば次のような様々な材料、用語、及び記号が使用される。
【0113】
D.E.N.438エポキシノボラック樹脂は、フェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂であり、The Dow Chemical Companyから市販されている。
【0114】
D.E.R.354エポキシ樹脂は、ビスフェノールFエポキシ樹脂であり、The Dow Chemical Companyから市販されている。
【0115】
ルイス酸錯体であるBCl
3−DMOAは、三塩化ホウ素−N,N−ジメチルオクチルアミン付加体を表す。
【0116】
ルイス酸錯体であるBF
3−MEAは、三フッ化ホウ素モノエチルアミン付加体を表す。
【0117】
三級アミンであるBDMAは、ジメチルベンジルアミンを表す。
【0118】
「DAY00」は、粘度測定の初日である。
【0119】
「MPTS」は、パラトルエンスルホン酸メチルを表す。
【0120】
以下の実施例では、特性を測定するために、例えば次のような標準的な分析装置及び方法が使用される。
【0121】
示差走査熱量測定
示差走査熱量測定(DSC)は、Texas Instruments DSC Q200示差走査熱量計を使用して行われる。最初のベースラインからサーモグラムが逸脱する温度とみなされるDSCベースラインのオンセット温度(Tonset)、及び反応の発熱(ΔH)は、25℃から300℃まで10℃/分の加熱速度での昇温を使用して決定される。試料は、未処理の液体エポキシ樹脂前駆体硬化性組成物から採取される。
【0122】
熱重量分析測定
熱重量分析(TGA)は、Texas Instruments TGA Q5000熱重量分析計を使用して行われる。炭素収率は、30℃から1000℃までの10℃/分の昇温を使用して決定される。炭素収率は、1,000℃に到達した後に残存する物質の重量パーセントとされる。分析用の試料は硬化した試験片から採取される。
【0123】
粘度
樹脂組成物の粘度は、25℃または50℃で、25μmのギャップを用いて、60mm 1°のスチールコーンを備えたTexas Instruments AR2000 EXレオメーターを使用して測定される。
【0124】
組成物実施例1:含浸による炭素−炭素複合材料製品の作製のための中程度の粘度の前駆体硬化性組成物の調製
プロセス1
工程1:温かい(オーブン中で約24時間約70℃に加熱)純粋なビスフェノールFエポキシ樹脂、またはビスフェノールFエポキシ樹脂とフェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂との混合物を容器の中に添加する;
【0125】
工程2:撹拌しながら工程1のエポキシ樹脂に潜在性触媒を添加する;そして
【0126】
工程3:工程2の混合物に硬化剤を添加し、最低5分間混合物を撹拌することで得られる前駆体硬化性組成物を確実に均一にする。
【0127】
プロセス2
工程1:上のプロセス1からの中程度の粘度の前駆体硬化性組成物を使用して、WIPO特許WO2013/188051A(参照により本明細書に組み込まれる)に記載の通り、液体含浸によって、硬化した前駆体複合材料及び炭素−炭素複合材料製品を作製する。
【0128】
組成物実施例2:高粘度の粘着性のプリプレグ作製による、炭素−炭素複合材料の作製のため前駆体硬化性組成物の調製
パートA:ホットメルト含浸のための溶媒なしの前駆体硬化性組成物
プロセス1
工程1:特定の分子量の、または異なる分子量の混合樹脂の、温かい(オーブン中で約24時間約70℃に加熱)純粋なフェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂を容器の中に添加する;
【0129】
工程2:撹拌しながら約65℃で工程1の樹脂に潜在性触媒を添加する;そして
【0130】
工程3:工程2の混合物に硬化剤を添加し、混合物の温度を約65℃に維持しながら約5分〜約60分混合物を撹拌することで得られる前駆体硬化性組成物を形成する。
【0131】
プロセス2
工程1:前駆体硬化性組成物の初期粘度を低下させるのに十分な温度まで前駆体硬化性組成物を加熱する;
【0132】
工程2:米国特許第4,329,387(参照により本明細書に組み込まれる)に記載の通りに、炭素繊維が約65重量%の樹脂を取り込むように、炭素繊維を工程1の加熱した前駆体硬化性組成物で含浸することによってプリプレグシートを作製する;
【0133】
工程3:工程2からのプリプレグシートを積層してプリプレグ積層体を作製する;
【0134】
工程4:工程3のプリプレグ積層体を硬化して硬化した前駆体複合材料を形成する;そして
【0135】
工程5:工程4から硬化した前駆体複合材料を炭化して炭素−炭素複合材料製品を製造する。
【0136】
パートB:室温含浸のための有機溶媒系前駆体硬化性組成物
プロセス1
工程1:確実に均一にするために最低10分間撹拌しながら、容器に、有機溶媒と特定の分子量の温かい(オーブン中で約24時間70℃)純粋なフェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂を添加する、または有機溶媒と分子量の混合の温かい純粋なフェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂を添加する。任意選択的には、望ましい有機溶媒を含む純粋なフェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂を室温(約25℃)で容器に添加してもよい;
【0137】
工程2:撹拌しながら及び樹脂の温度を25℃に維持しながら、工程1の樹脂に潜在性触媒を添加する;そして
【0138】
工程3:工程2の混合物に硬化剤を添加し、混合物の温度を約25℃に維持しながら最低15分間得られた混合物を撹拌する;そして
【0139】
代替工程1:上の工程1の代わりに、最低10分間撹拌しながら、容器の中の純粋なフェノール−ホルムアルデヒドエポキシ樹脂の温かい混合物(オーブン中で30分間70℃)に有機溶媒を添加してもよい。
【0140】
プロセス2
工程1:樹脂の取り込みが少なくとも約65重量%となるように(米国特許第4,329,387(参照により本明細書に組み込まれる)に記載の通り)、炭素繊維を前駆体硬化性組成物で含浸する;
【0141】
工程2:含浸した炭素繊維を70℃のオーブン中で少なくとも1時間乾燥することにより、工程1の含浸した炭素繊維の溶媒を蒸発させてプリプレグシートを形成する;
【0142】
工程3:所定の数のプリプレグシートを積層してプリプレグ積層体を作製する;
【0143】
工程4:工程3のプリプレグ積層体を硬化して硬化した前駆体複合材料を形成する;そして
【0144】
工程5:工程4の硬化した前駆体複合材料を炭化して炭素−炭素複合材料製品を製造する。
【0145】
硬化組成物の実施例1−ビスフェノールF型前駆体硬化性組成物のための硬化スケジュール
パートA:硬化した前駆体硬化性組成物の透明注型板の作製
工程1:望ましい成形装置に前駆体硬化性組成物を添加する;
【0146】
工程2:前駆体硬化性組成物が入っているモールドを通気系を備えた対流式オーブンの中に入れる;
【0147】
工程3:(a)硬化剤としてのルイス酸錯体であるBF
3−MEAを含む前駆体硬化性組成物については、表I中の硬化スケジュールに従ってモールドを硬化させる。(b)硬化剤としてのルイス酸錯体もしくは三級アミン、及び/または潜在性触媒としてのパラトルエンスルホン酸のアルキルエステルを含む前駆体硬化性組成物については、表II中の硬化スケジュールに従ってモールドを硬化させる;そして
【0148】
工程4:オーブンから取り出す前に室温で成形装置を平衡化する。
【0149】
【表1】
【0150】
【表2】
【0151】
パートB:前駆体硬化性組成物を含む硬化した炭素複合材料の作製
工程1:前駆体硬化性組成物のプリプレグ成形板を組み立て、圧縮成形機の中に入れる;そして
【0152】
工程2:表III中の硬化スケジュールに従って圧縮成形機の中で前駆体硬化性組成物プリプレグを硬化させる。
【0153】
【表3】
【0154】
後硬化組成物実施例1−ビスフェノールF型前駆体組成物についての後硬化スケジュール
パートA:後硬化した前駆体硬化性組成物の透明注型板の作製
工程1:硬化剤としてのルイス酸錯体または三級アミン、及び/または潜在性触媒としてのパラトルエンスルホン酸のアルキルエステルを用いて作製した前駆体硬化性組成物が入っている成形装置をオーブンから取り出した後、前駆体硬化性組成物が入っている成形装置を対流式オーブンの中に戻し入れ、表IV中の後硬化スケジュールに従って後硬化させる。
【0155】
パートB:前駆体硬化性組成物を含む後硬化した炭素複合材料の作製
工程1:圧縮成形機から前駆体硬化性組成物が入っている成形装置を取り出した後、前駆体硬化性組成物が入っている成形装置を対流式オーブンの中に入れ、表IV中の後硬化スケジュールに従って後硬化させる。
【0156】
【表4】
【0157】
比較例A〜N
表V中の比較樹脂組成物(比較例A及びB)は、Mackay(Sandia Labs Report(1969)SC−RR−68−651、これは参照により本明細書に組み込まれる)に記載の通りに、ルイス酸錯体であるBF
3−MEAと共に、フェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂であるD.E.N.438エポキシノボラック(The Dow Chemical Companyから市販)を用いて調製した。
【0158】
更に、表V中の比較樹脂組成物(比較例C及びD)は、三級アミンであるBDMA及びルイス酸錯体であるBCl
3−DMOAと共に、フェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂であるD.E.N.438エポキシノボラックを用いて調製した。
【0159】
更に、表VI中の比較樹脂組成物(比較例E及びF)は、上述したD.E.N438の硬化及び炭化のために利用したルイス酸錯体であるBF
3−MEAと共に、ビスフェノールFエポキシ樹脂であるD.E.R.354(The Dow Chemical Companyから市販)を用いて調製した。
【0160】
表VI中の追加的な比較樹脂組成物(比較例G及びH)は、三級アミンであるBDMA及びルイス酸錯体であるBCl
3−DMOAと共に、ビスフェノールFエポキシ樹脂であるD.E.R.354を用いて調製した。
【0161】
表V及びVIに記載されている全ての比較樹脂組成物は、それぞれ組成物実施例2及び1で上述したプロセス1に従って調製した。ルイス酸錯体であるBCl
3−DMOAとBF
3−MEAは、ビスフェノールFエポキシ樹脂と混合する前に、小さい(100mL)ガラスバイアルの中でそれぞれ60℃及び80℃で数時間(2時間)溶かした。DSCを使用して、10℃/分で約25℃から約300℃までの温度で、ベースラインオンセット温度(Tonset)及び得られる液体の反応の反応発熱(ΔH)を得た。
【0162】
比較例A、B、E、Fの各樹脂の5グラム(g)分を、表I及びIVに記載の通りにアルミニウム(Al)パン(直径0.05m)中で硬化及び後硬化させた一方で、比較例C、D、G、及びHの各樹脂の5g分は、表II及びIVに記載の通りにAlパン(直径0.05m)中で硬化及び後硬化させた。
【0163】
各比較例A〜Hの得られた硬化樹脂の一部(11mg)を、10℃/分で約30℃から約1,000℃までの温度で、熱重量分析装置(TA Q5000)の中で炭化させた。
【0164】
有用な前駆体硬化性組成物は、約50%以上の炭素収率を必要とする。表V中に記載されている比較例A、C、及びDは、各そのような比較例の炭素収率が、有用な前駆体硬化性組成物のために必要とされる50%以上ではなかったことを示している。比較例Bの炭素収率は50%を超えていたが、表VII中の比較例Bの熱安定性は有用な前駆体硬化性組成物として満足できるものではない。
【0165】
【表5】
【0166】
表VI中に記載の比較例E、F、G、及びHは、有用な前駆体硬化性組成物に必要とされる50%以上の炭素収率を示さなかった。
【0167】
【表6】
【0168】
比較樹脂組成物(比較例I、J、及びK)は、組成物実施例1で上述したプロセス1に従って、表VIIに記載の通りのルイス酸錯体であるBCl
3−DMOA、BF
3−MEA、及びBDMAと共に、ビスフェノールFエポキシ樹脂であるD.E.R354を用いて作製した。ルイス酸錯体であるBCl
3−DMOAとBF
3−MEAは、ビスフェノールFエポキシ樹脂と混合する前に、小さい(100mL)ガラスバイアルの中でそれぞれ60℃及び80℃で数時間(約2時間)溶かした。
【0169】
比較例試料(1g)の等温25℃での粘度は、25ミクロン(μm)のギャップの60ミリメートル(mm)1°スチールコーンプレートを使用して、TA Instrumentsから供給されたAR2000EX装置上で、混合後に得た(DAY00)。試料を50℃の対流式オーブンの中に入れた。定期的に試料をオーブンから取り出し、25℃に平衡化し、25℃の粘度を前述の方法を使用して得た。
【0170】
硬化剤としてルイス酸錯体または三級アミンを用いると、表VIIに記載の比較例I〜Kを50℃で16日間置いた場合に、粘度が20%超増加した。フェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂を用いた組成物の熱安定性は得られなかった。しかし、比較例I〜K(表VII)中のビスフェノールFエポキシ樹脂と硬化剤とを有する組成物を、フェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂で置き換える場合、同様の熱安定性が期待される。この推定は、比較例A〜D(表V)中のフェノール−ホルムアルデヒドボラックエポキシノ樹脂及び硬化剤を用いた組成物と、比較例E〜H(表VI)中のビスフェノールFエポキシ樹脂及び硬化剤を用いた組成物と、の類似したDSC ΔHデータに基づく。
【0171】
【表7】
【0172】
表VIII中に記載されている比較樹脂組成物(比較例L)は、ルイス酸錯体であるBF
3−MEA及び潜在性触媒としてのパラトルエンスルホン酸のアルキルエステルであるMpTSと共に、フェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂であるD.E.N.438を使用して調製した。
【0173】
更に、表IX中に記載されている比較樹脂組成物(比較例M)は、ルイス酸錯体であるBF
3−MEA及び潜在性触媒としてのパラトルエンスルホン酸のアルキルエステルであるMpTSと共に、ビスフェノールFエポキシ樹脂であるD.E.R.354を使用して調製した。
【0174】
表X中に記載されている追加的な比較樹脂組成物(比較例N)は、ルイス酸錯体であるBF
3−MEA及び潜在性触媒としてのパラトルエンスルホン酸のアルキルエステルであるMpTSと共に、ビスフェノールFエポキシ樹脂であるD.E.R.354を用いて調製した。
【0175】
表VIII中に記載されているように比較樹脂組成物は、組成物実施例2で上述したプロセス1に従って調製した。表IX及びX中に記載されている比較樹脂組成物は、組成物実施例1で上述したプロセス1に従って調製した。ルイス酸錯体であるBF
3−MEAは、ビスフェノールFエポキシ樹脂と混合する前に、小さい(100mL)ガラスバイアルの中で80℃で数時間(約2時間)溶かした。
【0176】
DSCを使用して、10℃/分で約25℃から約300℃までの温度で、ベースラインオンセット温度(Tonset)及び得られる液体の反応の反応発熱(ΔH)を得た。
【0177】
比較例L及びMの各樹脂の5グラム(g)分を、表I及びIVに記載の通りにアルミニウム(Al)パン(直径0.05m)中で硬化及び後硬化させた。
【0178】
各比較例L及びMの得られた硬化樹脂の一部(11mg)を、10℃/分で約30℃から約1,000℃までの温度で、熱重量分析装置(TA Q5000)の中で炭化させた。
【0179】
比較例Nの試料(1g)の等温25℃での粘度は、25ミクロン(μm)のギャップの60ミリメートル(mm)1°スチールコーンプレートを使用して、TA Instrumentsから供給されたAR2000EX装置上で、混合後に得た(DAY00)。試料を50℃の対流式オーブンの中に入れた。定期的に試料をオーブンから取り出し、25℃に平衡化し、25℃の粘度を前述の方法を使用して得た。
【0180】
表VIIIに記載の通り、ビスフェノールFエポキシ樹脂と、硬化剤と、パラトルエンスルホン酸のアルキルエステルとからなる比較例Lは、56%という満足できる炭素収率を有する。しかし、比較例M(表IX)での同様の組成物の熱安定性は、この組成物が本発明の前駆体硬化性組成物としての使用に満足できないものであることを示している。表IXに記載されている比較例Nについての8日目までの50℃での粘度の増加は、表VIIに記載されている比較例Iよりも大きいことが観察される。比較例Iの組成物は、ビスフェノールFエポキシ樹脂であるD.E.R.354と、硬化剤であるBF
3−MEAとからなる一方で、比較例Nの組成物は、ビスフェノールFエポキシ樹脂であるD.E.R.354と、硬化剤であるBF
3−MEAと、潜在性触媒であるMPTSとからなる。この比較は、試料を50℃で最大8日間置いた場合に、潜在性触媒が粘度の増加を減らすことを示す。更に、上の比較例どうしの比較は、潜在性触媒が硬化剤と共に含まれる場合に、50%よりはるかに高い十分な炭素収率が達成されるが、望ましい熱安定性を得るためには潜在性触媒と硬化剤の量の「微調整」が必要であることを教示している。
【0181】
【表8】
【0182】
【表9】
【0183】
表X中に記載されている比較例Nは、56%という満足できる炭素収率を有するが、比較例Nの熱安定性は十分ではないと推定される。比較例Nの熱安定性は測定されなかった。比較例Nの熱安定性は、比較例Mと同様であると推定される。比較例Nは、フェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂であるD.E.N.438と、硬化剤であるBF
3−MEAと、潜在性触媒であるMPTSとからなる一方で、比較例Mは、ビスフェノールFエポキシ樹脂であるD.E.R.354と、硬化剤であるBF
3−MEAと、潜在性触媒であるMPTSとからなる。上述の推定は、ビスフェノールFエポキシ樹脂であるD.E.R.354と、硬化剤であるBF
3−MEAと、潜在性触媒であるMPTSとからなる組成物である比較例Lと、フェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂であるD.E.N.438と、硬化剤であるBF
3−MEAと、潜在性触媒であるMPTSとからなる比較例Nの、DSC ΔHの類似性に基づく。
【0184】
【表10】
【0185】
実施例1〜8:硬化剤及び/または潜在性触媒を有するビスフェノールF型エポキシ樹脂の炭素収率、DSCオンセット温度、及び反応発熱
表XI及び(実施例1及び2)及びXII(実施例5及び6)に記載の通り、ならびにそれぞれ組成物実施例1及び2で上述したプロセス1に従って、ビスフェノールF型エポキシ樹脂であるD.E.R.354またはD.E.N.438;硬化剤としての三級アミンであるBDMAまたはルイス酸錯体であるBF
3−DMOA;及び潜在性触媒としてのパラトルエンスルホン酸のアルキルエステルであるMPTSを用いて樹脂組成物を調製した。
【0186】
あるいは、表XI(実施例3及び4)XII(実施例7及び8)に記載の通り、潜在性触媒としてのパラトルエンスルホン酸のアルキルエステルと共にビスフェノールF型エポキシ樹脂であるD.E.R.354またはD.E.N.438を用いて、樹脂組成物を調製した。
【0187】
ルイス酸錯体であるBCl
3−DMOAは、ビスフェノールF型エポキシ樹脂と混合する前に、小さい(100mL)ガラスバイアルの中で60℃で数時間(約2時間)溶かした。DSCを使用して、10℃/分で約25℃から約300℃までの温度で、ベースラインオンセット温度(Tonset)及び液体の反応の発熱(ΔH)を得た。
【0188】
実施例1〜4の各5g分を、表IIに従って硬化及び後硬化させ、実施例5〜8の各5g分を、表IVに従って硬化及び後硬化させた。各硬化した実施例の一部(11mg)を、10℃/分で約30℃から約1,000℃までの温度で、熱重量分析装置(TA Q5000)の中で炭化させた。
【0189】
表VI中に記載されているように、比較例E、F、G、及びHの炭素収率は、それぞれ約7%〜約41%の範囲であった。比較例E、F、G、及びHは、ビスフェノールFエポキシ樹脂であるD.E.R.354と、ルイス酸硬化剤とから構成された。
【0190】
ルイス酸硬化剤の代わりに本発明の組成物中で潜在性触媒としてのパラトルエンスルホン酸のアルキルエステルを使用することによって、またはルイス酸硬化剤とブレンドされた潜在性触媒としてのパラトルエンスルホン酸のアルキルエステルを使用することによって、表XI中に記載されている実施例1〜4によって示されるように、ビスフェノールFエポキシ樹脂を含む前駆体硬化性組成物について、少なくとも約50%の炭素収率が達成された。
【0191】
【表11】
【0192】
表V中の比較例A、B、C及びDの炭素収率は、それぞれ約3%〜約52%の範囲であった。比較例A、B、C及びDは、フェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂であるD.E.N.438と、ルイス硬化剤とから構成された。
【0193】
ルイス酸硬化剤の代わりに潜在性触媒を使用することによって、またはルイス酸硬化剤とブレンドされた潜在性触媒としてのパラトルエンスルホン酸のアルキルエステルを使用することによって、表XII中の実施例5〜8によって示されるように、フェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂を有する前駆体硬化性組成物について、少なくとも約50%の炭素収率が達成された。
【0194】
【表12】
【0195】
実施例9〜14:硬化剤及び/または潜在性触媒を有するビスフェノールF型エポキシ樹脂の熱安定性
実施例9〜12について表XIIIに記載の通り、並びに組成物実施例1のプロセス1に従って、ビスフェノールFエポキシ樹脂であるD.E.R.354と、硬化剤としての三級アミンまたはルイス酸錯体と、潜在性触媒としてのパラトルエンスルホン酸のアルキルエステルとを用いて樹脂組成物を調製した。
【0196】
あるいは、実施例13及び14について表XIIIに記載の通り、及び組成物実施例1のプロセス1に従って、ビスフェノールF型エポキシ樹脂であるD.E.R.354またはD.E.N.438と、潜在性触媒としてのパラトルエンスルホン酸のアルキルエステルとを用いて樹脂組成物を調製した。
【0197】
ルイス酸錯体であるBCl
3−DMOAは、DOWビスフェノールFエポキシ樹脂と混合する前に、小さい(100mL)ガラスバイアルの中で60℃の温度で数時間(約2時間)溶かした。試料(1g)の等温25℃での粘度は、25ミクロン(μm)のギャップの60ミリメートル(mm)1°のスチールコーンプレートを使用して、AR2000EX装置上で、混合後に得た(DAY00)。試料を50℃の対流式オーブンの中に入れた。定期的に試料をオーブンから取り出し、25℃に平衡化し、25℃の粘度を前述の方法を使用して得た。
【0198】
ルイス酸硬化剤と共にビスフェノールFエポキシ樹脂を含む表VII中に記載されている比較例I〜K、並びに、ルイス酸硬化剤及び潜在性触媒としてのパラトルエンスルホン酸のアルキルエステルと共にビスフェノールFエポキシ樹脂を含む表IX中の比較例Mの粘度の増加は、50℃で16日間置いた場合に20%を超えていた。ルイス酸硬化剤と共に潜在性触媒としてのパラトルエンスルホン酸のアルキルエステルを組み込むことによって、あるいは単に表XIIIの実施例9〜14中の前駆体硬化性組成物中のビスフェノールFエポキシ樹脂と共に潜在性触媒としてのパラトルエンスルホン酸のアルキルエステルを単独で使用することによって、50℃で16日間置いた場合の粘度の増加は20%を超えなかった。
【0199】
表IX中に記載されている比較例M中で使用されているルイス酸硬化剤は、組成物中で使用されているルイス酸錯体であるBF
3−MEAの量を減らすことによって、前駆体硬化性組成物中で使用することができる。比較例Mの組成物はビスフェノールFエポキシ樹脂と、硬化剤としてのBF
3−MEAと、潜在性触媒としてのパラトルエンスルホン酸のアルキルエステルとを含んでいることから、炭素収率は少なくとも約50%である。表XI中に記載されている実施例1〜4及び表XII中に記載されている実施例5〜8についての類似のDSCデータに基づくと、フェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂を含む前駆体硬化性組成物についての熱安定性は、ビスフェノールFエポキシ樹脂を含む同じ組成物と類似しているはずである。
【0200】
実施例1〜4の組成物は、硬化剤としてのルイス酸錯体または三級アミン及び潜在性触媒としてのパラトルエンスルホン酸のアルキルエステルと共に、ビスフェノールFエポキシ樹脂を含む一方で、実施例5〜8の組成物は、フェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂と、硬化剤としてのルイス酸錯体または三級アミンと、潜在性触媒としてのパラトルエンスルホン酸のアルキルエステルとを含む。
【0201】
【表13】
【0202】
実施例15〜20:透明注型物としての中程度の粘度の純粋なまたは混合されたエポキシ樹脂組成物の特性及びその炭素−炭素複合材料の作製
混合されたビスフェノールF型エポキシ樹脂組成物の透明注型物の炭素収率及び粘度
実施例15〜20について表XIVに記載の通り、及び組成物実施例1のプロセス1に上述の手順に従って、ビスフェノールFエポキシ樹脂とフェノール−ホルムアルデヒドノボラックエポキシ樹脂との混合物と、硬化剤としての三級アミンと、潜在性触媒としてのパラトルエンスルホン酸のアルキルエステルとを用いて樹脂組成物を調製した。
【0203】
試料(1g)の粘度は、25℃で1分間、25μmのギャップで、60mm 1°のスチールコーンプレートを用いてAR2000EX装置上で得た。各実施例15〜20の5g分を、表II及びIVに記載の通りにAlパン(直径0.05m)中で硬化及び後硬化させた。各硬化した実施例の一部(11mg)を、10℃/分で約30℃から約1,000℃までの温度で、熱重量分析装置(TA Q5000)の中で炭化させた。
【0204】
実施例15〜20の炭素収率は、有用な前駆体硬化性組成物のための少なくとも約50%(52%から62%)である。実施例15〜20についての25℃での粘度は約12.0Pa−s以下であり、これは有用な前駆体硬化性組成物の加工性及び取り扱い易さのためには十分である。
【0205】
【表14】
【0206】
中程度の粘度前駆体で炭素繊維を含浸することによる炭素−炭素複合材料の作製
炭素繊維織布を上述の前駆体硬化性組成物で含浸することにより、並びに(1)樹脂注入成形;(2)真空補助樹脂注入成形;(3)加圧補助樹脂注入成形;(4)浸漬;(5)浸潤;並びに(6)注入、噴霧、及びローラー塗布などのコーティング;などの複数の方法(WIPO WO2013/188051A1に記載の通り、これは参照により本明細書に組み込まれる)を使用して、炭素−炭素複合材料製品を作製した。その後、含浸した繊維マトリックスを硬化させて硬化した前駆体複合材料を形成した。その後、硬化した前駆体複合材料を炭化させて炭素−炭素複合製品を製造した。
【0207】
実施例21〜26:高粘度の粘着性のプリプレグからの炭素前駆体及び炭素−炭素複合材料の作製
ビスフェノールFノボラック樹脂組成物の透明注型物の炭素収率及び粘度
実施例21、22、及び23〜25についてそれぞれ表XV、XVI、及びXVIIに記載の通り、及び組成物実施例2のパートAのプロセス1の手順に従って、異なる分子量を有するフェノール−ホルムアルデヒドエポキシノボラック樹脂と、硬化剤としての三級アミンと、潜在性触媒としてのパラトルエンスルホン酸のアルキルエステルとを用いてプリプレグ樹脂組成物を調製した。
【0208】
試料(1g)の粘度は、25℃及び50℃で1分間、25μmのギャップで、60mm 1°のスチールコーンプレートを用いてAR2000EX装置上で得た。各実施例21〜25の5g分を、表II及びIVに記載の通りにAlパン中で硬化及び後硬化させた。各硬化した実施例の一部(11mg)を、10℃/分で約30℃から約1,000℃までの温度で、熱重量分析装置(TA Q5000)の中で炭化させた。
【0209】
溶媒あり及びなしでの実施例21〜25の組成物の炭素収率は、少なくとも約50%超である(57%〜58%)。溶媒なしでの、表XV及びXVIにそれぞれ記載されている実施例21及び22の前駆体硬化性組成物の50℃での粘度は、それぞれ約26Pa−s及び227Pa−sである。
【0210】
任意選択的に、組成物実施例2のパートBのプロセス1の手順に従って、組成物の粘度を下げるために、表XVIIに記載のD.E.N.438ノボラック樹脂を含む樹脂組成物に有機溶媒を添加した。実施例23〜25で観察されるように、5重量%という少ない有機溶媒でも、25℃で約80.0Pa−s未満及び50℃で約4.0Pa−s未満の有利な粘度を達成するのに十分である。実施例22の組成物に約20重量%の溶媒を添加すると、25℃で約80.0Pa−s未満及び50℃で約4.0Pa−s未満まで有利に粘度が下がるはずである。
【0211】
【表15】
【0212】
【表16】
【0213】
【表17】
【0214】
プリプレグからの炭素−炭素複合材料の作製
溶媒を含む実施例26の前駆体硬化性組成物約8〜9gを、それぞれ編み込まれた炭素繊維シート(14シート:17.8cm×17.78cm)の上に注ぎ、結果として全部で14シートの繊維の上に溶媒なしで58重量%の樹脂組成物を載せた(表XVIIIに記載の通り)。それぞれのシートを対流式オーブンの中に70℃で2時間つるして溶媒を蒸発させた。粘着性のある含浸された炭素繊維シートを次の配置:0°/45°/90°/45°/90°/45°/90°/90°/45°/90°/45°/90°/45°/90°に従って積層した。14プライ(17.8cm×17.8cm)のプリプレグを、表IIIに記載のスケジュールに従って圧縮成形機の中で加圧しながら硬化させた。
【0215】
【表18】
【0216】
「グリーン」炭素複合材料を炭化して炭素−炭素複合材料を製造する。複合材料を緻密化するために、再び含浸、硬化、及び炭化を行ってもよい。