(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スピドロイン(spidroin)フラグメントと、インテグリンに対する選択性を有する細胞結合モチーフとを含む組換え融合タンパク質であって、前記細胞結合モチーフが、アミノ酸配列
C1X1X2RGDX3X4X5C2
を含み、
ここで
X1は、Tであり;
X2は、Gであり;
X3は、Sであり;
X4は、Pであり;そして
X5は、Aであり;そして
C1及びC2は、ジスルフィド結合を介して接続されており;
ここで前記スピドロインフラグメントが、タンパク質部分REP及びCTを含み、
ここで前記REPは、L(AG)nL、L(AG)nAL、L(GA)nL及びL(GA)nGLからなる群から選択される、70〜300アミノ酸残基の反復フラグメントであり、
ここで、nは2〜10の整数であり;
各個々のAセグメントは、8〜18アミノ酸残基のアミノ酸配列であり、ここで、0〜3個のアミノ酸残基はAlaではなく、残りのアミノ酸残基はAlaであり;
各個々のGセグメントは、12〜30アミノ酸残基のアミノ酸配列であり、ここでアミノ酸残基の少なくとも40%がGlyであり;そして
各個々のLセグメントは、0〜30アミノ酸残基のリンカーアミノ酸配列であり;そして
ここで前記CTが、配列番号3及び29〜59のいずれか1つに対して少なくとも90%の同一性を有する、70〜120アミノ酸残基のフラグメントである、
組換え融合タンパク質。
反復単位として、スピドロイン(spidroin)フラグメントと、インテグリンに対する選択性を有する細胞結合モチーフとを含む組換え融合タンパク質を含むタンパク質ポリマーを含む細胞足場材料であって、前記細胞結合モチーフが、アミノ酸配列
C1X1X2RGDX3X4X5C2
を含み、
ここで
X1は、Tであり;
X2は、Gであり;
X3は、Sであり;
X4は、Pであり;そして
X5は、Aであり;そして
C1及びC2は、ジスルフィド結合を介して接続されており;
ここで前記スピドロインフラグメントが、タンパク質部分REP及びCTを含み、
ここで前記REPは、L(AG)nL、L(AG)nAL、L(GA)nL及びL(GA)nGLからなる群から選択される、70〜300アミノ酸残基の反復フラグメントであり、
ここで、nは2〜10の整数であり;
各個々のAセグメントは、8〜18アミノ酸残基のアミノ酸配列であり、ここで、0〜3個のアミノ酸残基はAlaではなく、残りのアミノ酸残基はAlaであり;
各個々のGセグメントは、12〜30アミノ酸残基のアミノ酸配列であり、ここでアミノ酸残基の少なくとも40%がGlyであり;そして
各個々のLセグメントは、0〜30アミノ酸残基のリンカーアミノ酸配列であり;そして
ここで前記CTが、配列番号3及び29〜59のいずれか1つに対して少なくとも90%の同一性を有する、70〜120アミノ酸残基のフラグメントである、
細胞足場材料。
前記細胞が、その細胞表面上にα5β1インテグリンを提示しているものであって;ここで、前記組換え融合タンパク質の前記細胞結合モチーフは、α5β1インテグリンに対する選択性を有する、請求項11に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0050】
〔発明の詳細な説明〕
組換えで生産されたスパイダーシルク及び多くの他の材料は哺乳類細胞の培養のマトリックスとして有用である。細胞外マトリックス(ECM)から誘導された細胞接着モチーフをそれらの材料に組み入れると、細胞表面でのインテグリンとの相互作用により、細胞付着及び増殖を増強する。インテグリンは細胞と周囲の間の物理的結合だけでなく、例えば細胞成長、極性、増殖及び生存を制御するシグナルを調節する。さらに、インテグリンは細胞の「足」として作用するので細胞遊走に対して不可欠である。
【0051】
最も広く解析されている細胞接着モチーフはフィブロネクチン中に最初に発見されたRGDペプチドである。RGDモチーフは、又、多くの他の天然のECM分子中に、例えばビトロネクチン、フィブリノーゲン中に、さらに、コラーゲンI及びいくつかのラミニンα鎖中の両方の隠れた場所で発見されている。α3β1、α5β1、α8β1、αvβ1、αIIbβ3、αvβ3、αvβ5、αvβ6a及びαvβ8を含む既知のインテグリンの約半分は、RGD依存の方法でECMを結合することが示されている。しかしながら、一般的な細胞接着モチーフとしてのRGDが最初に証明された後、インテグリンは、一般に、短いRGDペプチドよりもタンパク質を含有する大きいRGDに高い親和性で結合することがすぐに明らかになった。結合の好ましい条件は異なるインテグリン間でも変わるようである。
【0052】
本発明は設計された細胞結合モチーフに基づいている。特定の理論に縛られることを望まないが、本明細書に示される細胞結合モチーフモチーフは、RGD配列に隣接するシステインを精確な位置に配置することで、フィブロネクチンのα5β1特異的なRGDループモチーフを模倣し、分子鎖を折り返しループと類似の型に拘束するジスルフィド架橋を形成すると考えられる。この環状RGD細胞結合モチーフは、組換えで生産されたスパイダーシルクタンパク質又は合成ペプチドなどの細胞結合モチーフを含むタンパク質で作られたマトリックスへの細胞接着効率を高くする。
【0053】
本明細書で用いられる用語「環状」は、二つのアミノ酸残基がそれらの側鎖を介して、さらに具体的には二つのシステイン残基間のジスルフィド結合を通じて、共有結合しているペプチドを指す。
【0054】
本明細書では、環状RGD細胞結合モチーフをシステイン結合したループに導入すると、直鎖状RGDペプチドを加えた時に比べ、材料の細胞接着性能が著しく増強されることが示される。さらに、本明細書に提示される環状RGD細胞結合モチーフは初代細胞の増殖及び初代細胞による遊走の両方を促進する。環状RGD細胞結合モチーフ細胞を含有する細胞足場材料で培養されたヒト初代細胞では、直鎖状RGDペプチドを含有する同じ材料に比べ、付着、拡散、張線維の形成及び接着斑が増加した。
【0055】
本明細書に提示された環状RGD細胞結合モチーフは、細胞が単層培養物を容易に形成できる自立型マトリックス、特に、スパイダーシルクを含有するマトリックスにも適している。そのような自立型マトリックスは、細胞シートの移植に有用である。従って、本明細書に提示された環状RGD細胞結合モチーフを含有する材料(例えばスパイダーシルク材料)は、接着細胞が効率的に拡張する必要があるインビトロ状況に対しても、細胞が細胞シートとして創傷領域などに移植される必要のあるインビボの状況でも有用である。この結果は、本明細書に提示された環状RGD細胞結合モチーフを含有する材料(例えばスパイダーシルク材料)が、創傷の端(通常、創傷治癒の間にそこから皮膚ケラチノサイトがリクルートされる場所)などから創傷領域内への遊走のために、固有の細胞を効率的に引き込むことができることを支持している。本明細書に提示される環状RGD細胞結合モチーフを含有する細胞足場へ細胞結合は、α5β1インテグリンを含み、かつケラチノサイトの増殖及び遊走を支援することが示される。
【0056】
本発明者は、RGDモチーフが折り返しループに存在しているフィブロネクチンの細胞結合モチーフを改変するためにDNA技術を用いた。このことは、RGDがフィブロネクチンの10番目のIII型ドメインに塩基として配置されたアミノ酸配列で達成された(
図1b)。最初に、フィブロネクチンの折り返しループと同じであるデカペプチド(VTGRGDSPAS;配列番号9)をタンパク質にN−末端で導入し、FN
VSで示される構築物を得た(
図1a)。特定の理論に縛られることを望まないが、細胞結合モチーフは、バリン及びセリン残基を、空間的に互いに非常に近い、それぞれRGDモチーフの3位前、4位後ろに配置することによってより効果的になると仮定される。本発明者は、それゆえ、これら二つの残基をシステインに変更し(
図1a、c)、RGDを含有するモチーフのそれぞれの側に一つのシステインを配置した。システインは空間的に2Å未満しか離れておらず、したがってペプチド鎖をジスルフィド架橋ループ(FN
CCで示される;配列番号10)に結合する。対照として、二つのシステインをセリンに変更した変異体(FN
SSで示される;配列番号11)も構築した。本発明の発明者は、タンパク質マトリックスに導入されたときの、ヒト由来の初代接着細胞での初期の付着(拡散、張線維形成、接着斑及びインテグリン結合を含む)に関する種々のメカニズムにおける、これらのFNモチーフの効果を調べた。環状RGD細胞結合モチーフを含有するFN
CC変異体は、参照のFN
VS及びFN
SSに比べて、細胞結合モチーフを含有するタンパク質で作られたマトリックスへの細胞接着効率を増すことが見いだされた。
【0057】
Leahy DJ et al., Cell 84(1): 155-164 (1996)によって決定されたフィブロネクチンの9番目及び10番目のドメインの結晶構造から、空間的に互いに非常に近い、RGDモチーフのそれぞれ3位前、4位後ろに位置するバリン及びセリン残基は、互いに空間的に極めて近い位置であることが分かる(
図1c)。再び、特定の理論に縛られることを望まないが、それゆえ、本明細書に提示される細胞結合モチーフは、RGD配列に隣接してシステインを配置することにより、フィブロネクチンのα5β1特異的なRGDループモチーフを模倣し、分子鎖を折り返しループと類似の型に拘束するジスルフィド架橋を形成すると考えられる。結果として、本明細書に提示される細胞結合モチーフはα5β1インテグリンに特に選択的であると結論づけられる。
【0058】
このように、フィブロネクチンから誘導された細胞結合モチーを持つ関連シルクの構築物を
図1に示す。
図1aに、N−末端に遺伝的に導入された異なるRGDモチーフを持つシルクタンパク質4RepCTを図示する。
図1aの「RGD」は、Widhe M et al., Biomaterials 34(33): 8223-8234 (2013)が用いたペプチドを含有するRGDを指す(配列番号12)。「FN
VS」は、フィブロネクチン由来のデカペプチドを含有するRGDを指す(配列番号9)。「FN
CC」は、V及びSをCに交換した同じペプチドを指す(配列番号10)。「FN
SS」は、V及びSをSに交換した同じペプチドを指す(配列番号11)。
図1bに、RGDモチーフを含有する折り返しループを提示するフィブロネクチンの9番目及び10番目のドメイン(配列番号60)の構造を示す。
図1cに、残基V及びSをCに変更したフィブロネクチンから採ったRGDループの構造モデルを示す(出典1FNF.pdb)
【0059】
本明細書に提示される細胞結合モチーフは、細胞表面に存在するインテグリン、好ましくは例えば、α5β1インテグリンへの結合に対して選択的である。本発明の文脈において、細胞結合モチーフのその標的インテグリンとの「特異的」又は「選択的」相互作用とは、相互作用が特異的と非特異的相互作用との間、又は選択的と非選択的相互作用との間の差異が有意であるようなものであることを意味する。二つのタンパク質の間の相互作用は解離定数で測定されることがある。解離定数は、二つの分子の間の結合(又は親和性)の強さを表す。典型的には、抗体とその抗原の間の解離定数は10
−7〜10
−11Mである。しかしながら、高選択性は高親和性を必ずしも必要としない。対応する分子に対して低親和性(モル範囲で)の分子は、より高い親和性の分子と同様に特異的である。本発明の場合、特異的又は選択的相互作用とは、一定条件の下で、他のタンパク質又は細胞の存在下で、天然起源の又は処理された生物学的又は生化学的の液体の試料中で標的インテグリン又はそのフラグメントを提示する、特異タンパク質又は細胞型に優先的に結合する特定の方法までを指す。言い換えると、特異性すなわち選択性とは関係タンパク質及び細胞型の間を区別する能力である。特異的及び選択的は本明細書では区別しないで使われることがある。
【0060】
環状RGD細胞結合モチーフは以下のアミノ酸配列を含むか、以下のアミノ酸配列からなる:C
1X
1X
2RGDX
3X
4X
5C
2
[式中、X
1、X
2、X
3、X
4及びX
5はそれぞれシステイン以外の天然アミノ酸残基から独立に選択され、かつ
C
1及びC
2はジスルフィド結合を介して接続されている]。
【0061】
好ましくは、X
1、X
2、X
3、X
4及びX
5はそれぞれ、G、A、V、S、T、D、E、M、P、N及びQからなるアミノ酸残基の群から独立に選択される。
【0062】
より好ましくは、X
1及びX
3はそれぞれ、G、S、T、M、N及びQからなるアミノ酸残基の群から独立に選択され;及び、X
2、X
4及びX
5はそれぞれG、A、V、S、T、P、N及びQからなるアミノ酸残基の群から独立に選択される。得られた細胞結合モチーフは、細胞結合効率にとって不利になるいかなる帯電した残基あるいはかさ高い残基も含まない。
【0063】
特に好ましくは:
−X
1は、G、S、T、N及びQからなるアミノ酸残基の群から選択され;
−X
3はS、T及びQからなるアミノ酸残基の群から選択され;かつ
−X
2、X
4及びX
5はそれぞれG、A、V、S、T、P及びNからなるアミノ酸残基の群から独立に選択される。
【0064】
さらに好ましくは
−X
1は、S又はTであり;
−X
2は、G、A又はV、好ましくはG又はA、より好ましくはGであり;
−X
3は、S又はT、好ましくはSであり;
−X
4は、G、A、V又はP、好ましくはG又はP、より好ましくはPであり;かつ
−X
5は、G、A又はV、好ましくはG又はA、より好ましくはAである。
【0065】
特に好ましい環状RGD細胞結合モチーフは、以下のアミノ酸配列を含むか、以下のアミノ酸配列からなる:CTGRGDSPAC(FN
CC;配列番号10)。
【0066】
本発明によるさらに好ましい環状RGD細胞結合モチーフは、1位及び10位が常にCであり、4位は常にRであり、5位は常にGであり、6位は常にDであり、かつ2〜3位及び7〜9位は決してシステインではないという条件で、少なくとも60%、例えば少なくとも70%、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも90%のCTGRGDSPAC(FN
CC;配列番号10)との同一性を示す。当然のことだが、2〜3位及び7〜9位の中の同一でない位置は上に示したように、自由に選択することができる。
【0067】
このようにして同定された環状RGD細胞結合モチーフはいかなる組換え又は合成タンパク質又はペプチドにも有用であり、インテグリン、特にα5β1インテグリンへの特異的結合をもたらす。このようにして、α5β1インテグリンなどのインテグリンに対する選択性をもつ細胞結合モチーフを含む組換えタンパク質が提供される。組換えタンパク質は、インテグリン、特にα5β1インテグリンをその細胞表面に提示する細胞、例えば、哺乳類細胞の培養に有用である。
【0068】
好ましい細胞は骨格筋細胞、内皮細胞、幹細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト及び細胞株から選択されるが、これらに限定されない。
【0069】
フィブロネクチンは、インテグリンファミリーの少なくとも10個の細胞表面受容体によって認識される。それらのうちの5個(α3β1、α4β1、α5β1、α8β1、αvβ1)はβ1サブユニットを含む。α5サブユニットは、β1サブユニットとの組み合わせのみが見いだされており、α5β1インテグリンはフィブロネクチンの結合のみに特化されているのでユニークであり、それゆえに最初にフィブロネクチン受容体と表された。α5β1とフィブロネクチンの間の特異的相互作用は、α5β1又はフィブロネクチンのいずれかが欠如すると早期に胚性致死をもたらすので脊椎動物の成長に基本的なものであるように思われる。フィブロネクチン及びα5β1は、又、気道上皮の創傷の修復過程にとって重要であることが示されている。ここで、両者は創傷領域内で遊走細胞によってもっぱら発現し、インビトロでの内皮細胞の遊走及びインビボでの血管新生において重要な役割を演じていることが観察されている。
【0070】
インテグリン、例えば、α5β1インテグリンに対して選択性を有する細胞結合モチーフを含む組換え又は合成のタンパク質又はペプチドを提供する。ここで、細胞結合モチーフは上に示した通りである。
【0071】
好ましい組換えタンパク質は、インテグリン、例えばα5β1インテグリンに対して選択性を有する細胞結合モチーフを含む。ここで、細胞結合モチーフはアミノ酸配列
C
1X
1X
2RGDX
3X
4X
5C
2
[式中、X
1は、G、S、T、N及びQからなるアミノ酸残基の群から選択され;
X
3はS、T及びQからなるアミノ酸残基の群から選択され;かつ
X
2、X
4及びX
5はそれぞれG、A、V、S、T、P及びNからなるアミノ酸残基の群から独立に選択され、かつ
C
1及びC
2はジスルフィド結合を介して接続されている]、を含む。
【0072】
細胞結合モチーフの好ましい実施態様を本明細書に提示する。特に好ましくは:
X
1は、S又はT、好ましくはTであり;
X
2は、G、A又はV、好ましくはG又はA、好ましくはGであり;
X
3は、S又はT、好ましくはSであり;
X
4は、G、A、V又はP、好ましくはG又はP、より好ましくはPであり;
X
5は、G、A又はV、好ましくはG又はA、より好ましくはAである。
【0073】
好ましい特定の細胞結合モチーフは、アミノ酸配列CTGRGDSPAC(FN
CC;配列番号10)を含む。
【0074】
組換えタンパク質は細胞足場材料で有用である。それは、細胞表面にインテグリンを提示する細胞の培養、特にその細胞表面にα5β1インテグリンを提示している細胞の培養に有用である。
【0075】
好ましい細胞は骨格筋細胞、内皮細胞、幹細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト及び細胞株から選択されるが、これらに限定されない。
【0076】
組換え又は合成タンパク質は、例えば10〜50個、又は10〜30アミノ酸残基を含有する細胞結合モチーフを含む、又はそれらからなる短いペプチドによって構成されてもよい。これらのペプチドは、当業者に知られているように、表面に化学的に結合又は固定化される。有利に、ペプチドは、細胞結合モチーフにより接近しやすくするスペーサーを含むか、又はスペーサーに結合している。このように固定化した(すなわち溶液中でない)組換えタンパク質は、意外にも、インテグリンをその細胞表面に提示する細胞、特に、細胞がその細胞表面にα5β1インテグリンを提示している細胞の培養に有用である。
【0077】
細胞結合モチーフは、融合タンパク質の一部として、スパイダーシルクタンパク質、特に、小規模のスパイダーシルクタンパク質と共に存在しているのが好都合である。用語ス「スピドロイン(spidroins)」及び「スパイダーシルクタンパク質」は本記述を通して互換的に用いられ、典型的には「MaSp」、又はニワオニグモ(Araneus diadematus)の場合は「ADF」と略される、大瓶状腺(major ampullate)スパイダーシルクタンパク質を含む全ての既知のスパイダーシルクタンパク質を含む。これらの大瓶状腺スパイダーシルクタンパク質は一般に1と2の二つの型がある。これらの用語は、さらに、既知のスパイダーシルクタンパク質と高度に同一性及び/又は類似性をもつ非天然タンパク質を含む。
【0078】
上に述べたように、スピドロインフラグメント及びインテグリン、例えばα5β1インテグリンに対して選択性を持つ細胞結合モチーフを含む組換え融合タンパク質を提供する。スピドロインフラグメントは、好ましくは、タンパク質部分REP及びCTを含むか、REP及びCTからなり、ここで、
REPは、L(AG)
nL、L(AG)
nAL、L(GA)
nL及びL(GA)
nGLからなる群から選択される70〜300アミノ酸残基の反復フラグメントであり、
nは2〜10の整数であり;
各個別のAセグメントは、8〜18アミノ酸残基のアミノ酸配列であり、0〜3アミノ酸残基はAlaではなく、残りのアミノ酸残基はAlaであり;
各個別のGセグメントは、12〜30アミノ酸残基のアミノ酸配列であり、アミノ酸残基の少なくとも40%がGlyであり;かつ
各個別のLセグメントは、0〜30アミノ酸残基のリンカーアミノ酸配列であり;かつ
CTは、70〜120アミノ酸残基のフラグメントであり、配列番号3に対して少なくとも70%の同一性を有する。
【0079】
本発明による融合タンパク質は、細胞結合モチーフ中の所望の選択的細胞結合活性、及び、スピドロインフラグメント中の内部固体担持活性の両方を持つ。融合タンパク質の結合活性は、それが構造的に再配置され高分子固体構造を形成したときに保持される。これらのタンパク質構造、又はタンパク質ポリマーは、インテグリン、例えばα5β1インテグリンに対する選択的相互作用活性をもった細胞結合モチーフの高くかつ予測可能な密度をもたらす。このように固定化した細胞結合モチーフはインテグリンの活性化及び細胞結合を促進する。RGDで機能化されたバイオ材料が異なる細胞応答を刺激する方法は、用いられたRGDモチーフの型だけでなく、結果として得られたリガンドの表面濃度にも影響を受ける。本研究で用いられるある程度小さいシルクタンパク質は、それぞれの分子がRGDモチーフを運ぶ多層(multilayer)へと自己組織化するので、高密度表面の発現が予想される。しかしながら、よりまばらな表面濃度を求める場合は、シルクタンパク質を本明細書に開示された環状RGD細胞結合モチーフと異なる比率で混合するか、混合しないかで、目的とする細胞応答を目指すことにより、任意の表面密度を容易に達成できる。
【0080】
RGDを含むように設計されたほとんどのタンパク質では、モチーフはN−又はC−末端のいずれにも直鎖状の伸長として導入される。したがって、タンパク質の残りの部分は分子鎖の拘束は最小限に抑えられ露出と柔軟性の可能性が高くなる。タンパク質の折り畳みの中に置かれたRGDモチーフを有するいくつかの構築物は、RGDモチーフの柔軟性を低減するように作製されたが、同時に、露出も低減した。本明細書に開示された環状RGD細胞結合モチーフは、有利に、N−又はC−末端のいずれにも直鎖状の伸長として存在し、したがって露出可能性が高くなる。同時に、その環状の特性は、柔軟性を制限し、高度に有用な細胞結合特性に寄与すると考えられる。さらに、折り畳まれたタンパク質分子鎖へのペプチドの共有結合性の組み込みは外見上効率的な、α5β1を含むインテグリン媒介の細胞結合に寄与する。
【0081】
用語「融合タンパク質」は、ここでは、組換え核酸、すなわち、通常は同時には生じない2つ以上の核酸配列を結合して人工的に創られたDNA又はRNAが発現して作られたタンパク質を指す(遺伝子工学)。本発明による融合タンパク質は、組換えタンパク質であり、それゆえ、それらは天然起源のタンパク質と同一ではない。特に、野生型スピドロインは、上記のような組換え核酸が発現したものではないので、本発明による融合タンパク質ではない。結合した核酸配列は、特定の機能特性を持った、異なるタンパク質、部分的なタンパク質又はポリペプチドをコードする。結果として得られた融合タンパク質、すなわち組換え融合タンパク質は、元のタンパク質、部分的タンパク質又はポリペプチドのそれぞれから誘導される機能特性を持った単一タンパク質である。さらに、本発明による融合タンパク質及び対応する遺伝子はキメラである。すなわち、タンパク質/遺伝子断片は少なくとも2つの異なる種から誘導される。
【0082】
融合タンパク質は、典型的には170〜2000アミノ酸残基、例えば170〜1000アミノ酸残基、例えば170〜600アミノ酸残基、好ましくは170〜500アミノ酸残基、例えば170〜400アミノ酸残基からなる。スパイダーシルクタンパク質を含有する長いタンパク質フラグメントは、溶解及び高分子化のために強い溶媒を必要とする無定形の凝集体を形成するので、サイズの小さいものが有利である。
【0083】
融合タンパク質は1つ以上のリンカーペプチド、すなわちLセグメントを含んでもよい。リンカーペプチド(単数又は複数)は、融合タンパク質の任意の断片の間、例えば、REP及びCT部分の間に、融合タンパク質の両末端、又は、スピドロインフラグメントと細胞結合モチーフの間に配置されてもよい。リンカー(単数又は複数)は、融合タンパク質の機能単位の間にスペーサーを提供してもよいが、しかし、融合タンパク質の同定及び精製のための、例えばHis及び/又はTrxタグなどの手がかりを構成してもよい。融合タンパク質が、融合タンパク質の同定及び精製のために2つ以上のリンカー ペプチドを含む場合は、例えば、His
6−スペーサー−His
6−のように、区切られていることが望ましい。リンカーは又、シグナルペプチド、例えば、シグナル認識粒子を構成してもよく、それらは融合タンパク質を膜に導き、及び/又は宿主細胞から周囲の培地への融合タンパク質の分泌を引き起こす。融合タンパク質は、そのアミノ酸配列に、リンカー(単数又は複数)及び/又は他の関連部分の開裂及び除去を可能にする開裂部位を含んでもよい。種々の開裂部位、例えば、Met残基の後のCNBr及びAsn−Gly残基間のヒドロキシルアミンなどの化学試薬に対する開裂部位、トロンビン又はプロテアーゼ3Cなどのプロテアーゼ、及び、インテイン自己スプライシングなどの自己スプライシング配列に対する開裂部位が、当業者に知られている。
【0084】
スピドロインフラグメント及び細胞結合モチーフは直接又は間接的に互いに結びついている。直接の結合は、リンカーなどの介在する配列なしに部分(moieties)間の直接の共有結合を意味する。間接的結合では、部分が、共有結合によって結びついているが、リンカー及び/又は1つ以上の更なる部分(例えば1−2NT部分)などの介在する配列が存在することになる。
【0085】
細胞結合モチーフは融合タンパク質の内部に配置されても、いずれかの末端、すなわち、C−末端配置又はN−末端配置で、配置されてもよい。好ましくは、細胞結合モチーフは融合タンパク質のN−末端に配置される。融合ンパク質が、融合タンパク質の同定及び精製のための一つ以上のリンカーペプチド(単数又は複数)、例えばHis及び/又はTrxタグ(単数又は複数)を含む場合は、融合タンパク質のN−末端に配置されるのが好ましい。
【0086】
好ましい融合タンパク質は、0〜30アミノ酸残基、例えば、0〜10アミノ酸残基のリンカー ペプチドでREP部分に結合されて、N−末端に配置された細胞結合モチーフの形態を有する。任意に、融合タンパク質はN−末端又はC−末端リンカー ペプチドを有し、それらはHisタグなどの精製タグ、及び開裂部位を含んでもよい。
【0087】
この組換えタンパク質は細胞足場材料に有用である。それは、その細胞表面にインテグリンを提示する細胞、特にその細胞表面にα5β1インテグリンを提示する細胞の培養にも有用である。
【0088】
好ましい細胞は骨格筋細胞、内皮細胞、幹細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト及び細胞株から選択されるがこれらに限定されない。
【0089】
特定の理論に縛られることを望まないが、細胞結合モチーフは、結果として得られる細胞足場材料の表面に機能的に提示されると考えられる。この細胞足場材料は、本明細書において、意外にも、哺乳類細胞に関して、結合能力で有利であった。実施態様6〜9を参照。
【0090】
本明細書に提示される環状RGD細胞結合モチーフを含有する細胞足場材料の突出した有効性は、初代細胞の初期付着(0.5〜3時間以内)ですでに明白である。細胞の材料上への強くかつ速い付着は、種々の臨床的応用ではかなり重要であると思われる。臨床的応用では、細胞の現実の環境は最適なものからはかけ離れており、細胞の生存には速い構築が必要である。一つの例は、しばしば細菌の高負荷や壊死を伴う慢性創傷のストレスの多い環境である。ここで、遊走するケラチノサイトは、スパイダーシルク融合タンパク質などの環状RGD細胞結合モチーフからなる又はこのモチーフを含む適切に設計されたバイオ材料の支持体から恩恵を受けるかもしれない。また、近接した環境が必然的に、通過する体液、例えば心臓のステント又は移植血管を通過する血液の粘度のような物理的なストレスを伴う臨床的状況においては、内皮細胞が、迅速にかつ確実に、移植組織に付着するのを容易にする材料が、結果が成功するためには、重要であり、したがって、決定的ですらある。
【0091】
再生医療を対象とした足場は、明らかに、細胞培養の状況よりも厳しい取扱い及び環境にさらされる。それが、環状RGD細胞結合モチーフを含有するスパイダーシルク材料で観察された安定性の改良に価値がある理由である。野生型のシルクに比較したこの安定性の向上は移植可能な足場、例えば、本明細書に示される自立型フィルムの調製を可能にする。
【0092】
タンパク質部分REPは、アラニンリッチストレッチとグリシンリッチストレッチの間を交互に繰り返す反復特性をもったフラグメントである。REPフラグメントは一般に70を超える、例えば140を超え、かつ300未満、好ましくは240未満、例えば200未満のアミノ酸残基を含み、かつ、下記により詳細に述べるように、それ自身をいくつかのL(リンカー)セグメント、A(アラニンリッチ)セグメント及びG(グリシンリッチ)セグメントに分割できる。典型的には、前記リンカーセグメントは任意であり、REPフラグメントの末端に位置し、一方、残りのセグメントは順にアラニンリッチ及びグリシンリッチである。従って、REPフラグメントは一般に以下の構造のいずれかを有することができ、ここでnは整数である:
L(AG)
nL、例えばLA
1G
1A
2G
2A
3G
3A
4G
4A
5G
5L;
L(AG)
nAL、例えばLA
1G
1A
2G
2A
3G
3A
4G
4A
5G
5A
6L;
L(GA)
nL、例えばLG
1A
1G
2A
2G
3A
3G
4A
4G
5A
5L;又は
L(GA)
nGL、例えばLG
1A
1G
2A
2G
3A
3G
4A
4G
5A
5G
6L。
【0093】
従ってアラニンリッチセグメント又はグリシンリッチセグメントがN−末端又はC−末端のリンカーセグメントに隣接しているかどうかは重要ではないということになる。nは2〜10の整数であることが好ましく、好ましくは2〜8、好ましくは4〜8、より好ましくは4〜6、すなわち、n=4、n=5又はn=6である。
【0094】
いくつかの実施態様では、REPフラグメントのアラニン含有量は20%より大きく、好ましくは25%より大きく、より好ましくは30%より大きく、かつ50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは35%未満である。アラニン含有量が高いほど、より硬い、及び/又はより強い、及び/又はより少ない伸長可能な繊維になると考えられる。
【0095】
特定の実施態様では、REPフラグメントはプロリン残基を欠いている、すなわち、REPフラグメントにはPro残基がない。
【0096】
次にREPフラグメントを構成するセグメントを見てみると、それぞれのセグメントは個別であること、すなわち、特定のREPフラグメントの任意の2つのAセグメント、任意の2つのGセグメント又は任意の2つのLセグメント同一であってもよいし、同一でなくてもよいことを強調しておく。従って、それぞれのセグメントの型が特定のREPフラグメント内で同一であるということはスピドロインの一般的な特徴ではない。むしろ、以下の開示では、個別のセグメントをどのように設計し、それらを細胞足場材料に有用な機能性スパイダーシルクタンパク質の一部であるREPフラグメントにまとめるかの指針を当業者に提供するものである。
【0097】
各個別のAセグメントは、8〜18アミノ酸残基を有するアミノ酸配列である。好ましくは、各個別のAセグメントは13〜15アミノ酸残基を含む。Aセグメントの大部分又は3つ以上は、13〜15のアミノ酸残基を含み、かつAセグメントの少数部分、例えば1つ又は2つは8〜18、例えば、8〜12又は16〜18アミノ酸残基を含むことも可能である。これらのアミノ酸残基の圧倒的多数はアラニン残基である。より具体的には、アミノ酸残基の0〜3個がアラニン残基ではなく、残りのアミノ酸残基はアラニン残基である。従って、各個別のAセグメントの全てのアミノ酸残基は、除外することなく、又は、1個、2個又は3個のアミノ酸残基が任意のアミノ酸であってもよい例外を除き、アラニン残基である。好ましくは、アラニンを置換するアミノ酸は天然アミノ酸、好ましくはセリン、グルタミン酸、システイン及びグリシンからなる群から個別に選択され、より好ましくはセリンである。もちろん、1つ以上のAセグメントがすべてアラニンセグメントであり、一方、残りのAセグメントが1〜3個の非アラニン残基、例えばセリン、グルタミン酸、システイン又はグリシンを含むことは可能である。
【0098】
一実施態様では、各Aセグメントは、10〜15のアラニン残基及び0〜3の上記の非アラニン残基を含む13〜15のアミノ酸残基を含む。より好ましい実施態様では、各Aセグメントは12〜15のアラニン残基及び0〜1つの上記の非アラニン残基を含む13〜15のアミノ酸残基を含む。
【0099】
各個々のAセグメントは、配列番号5のアミノ酸残基7−19、43−56、71−83、107−120、135−147、171−183、198−211、235−248、266−279、294−306、330−342、357−370、394−406、421−434、458−470、489−502、517−529、553−566、581−594、618−630、648−661、676−688、712−725、740−752、776−789、804−816、840−853、868−880、904−917、932−945、969−981、999−1013、1028−1042及び1060−1073の群から選択されるアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは100%の同一性を有することが望ましい。この群の各配列は、ユープロステノプスオーストラリス(Euprosthenops australis)MaSp1タンパク質の天然起源の配列のセグメントに対応し、対応するcDNAのクローニングから推定される(WO2007/078239参照)。代わりに、各個別のAセグメントは配列番号2のアミノ酸残基25−36、55−69、84−98、116−129及び149−158の群から選択されるアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは100%の同一性を有する。この群の各配列はタンパク質が適切な条件下でシルク繊維を形成する可能性を有する発現した非天然のスパイダーシルクタンパク質のセグメントに対応する。従って、スピドロインの特定の実施態様では、各個別のAセグメントは、上記アミノ酸セグメントから選択されたアミノ酸配列と同一である。特定の理論に縛られることを望まないが、本発明によるAセグメントはらせん構造又はベータシートを形成すると予想される。
【0100】
さらに、各個別のGセグメントは、12〜30アミノ酸残基のアミノ酸配列であることが、実験データから結論付けられている。各個別のGセグメントは14〜23アミノ酸残基からなることが好ましい。各Gセグメントのアミノ酸残基の少なくとも40%はグリシン残基である。典型的には、各個別のGセグメントのグリシン含有量は40〜60%の範囲である。
【0101】
各個別のGセグメントは、配列番号5のアミノ酸残基20−42、57−70、84−106、121−134、148−170、184−197、212−234、249−265、280−293、307−329、343−356、371−393、407−420、435−457、471−488、503−516、530−552、567−580、595−617、631−647、662−675、689−711、726−739、753−775、790−803、817−839、854−867、881−903、918−931、946−968、982−998、1014−1027、1043−1059及び1074−1092の群から選択されるアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは100%の同一性を有することが好ましい。この群の各配列は、ユープロステノプスオーストラリス(Euprosthenops australis)MaSp1タンパク質の天然起源の配列のセグメントに対応し、対応するcDNAのクローニングから推定される(WO2007/078239参照)。代わりに、各個別のGセグメントは配列番号2のアミノ酸残基1−24、37−54、70−83、99−115及び130−148の群から選択されるアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは100%の同一性を有する。この群の各配列はタンパク質が適切な条件下でシルク繊維を形成する可能性を有する発現した非天然のスパイダーシルクタンパク質のセグメントに対応する。従って、細胞足場材料中のスピドロインの特定の実施態様では、各個別のGセグメントは、上記のアミノ酸セグメントから選択されたアミノ酸配列と同一である。
特定の実施態様では、各Gセグメントの最初の2つのアミノ酸残基は、−Gln−Gln−ではない。
【0102】
Gセグメントには3つのサブタイプがある。この分類は、ユープロステノプスオーストラリス(Euprosthenops australis)MaSp1タンパク質配列の注意深い解析に基づいており(WO2007/078239参照)、その情報は新規の非天然スパイダーシルクタンパク質の構築において用いられかつ検証されている。
【0103】
Gセグメントの第一のサブタイプは、アミノ酸の一文字コンセンサス配列第一のGQG(G/S)QGG(Q/Y)GG(L/Q)GQGGYGQGAGSS(配列番号6)により表される。この第一の、そして一般的に最長のGセグメントサブタイプは、典型的には、23アミノ酸残基を含むが、わずか17アミノ酸残基しか含まない場合もあり、荷電残基を欠損するか又は一つの荷電残基を含む。従って、この第一のGセグメントサブタイプは、典型的には17〜23アミノ酸残基を含むことが好ましいがが、わずか12個の、又は30個もの多くのアミノ酸残基を含み得ることが考えられる。特定の理論に縛られることを望まないが、本発明によるGセグメントはコイル構造又は3
1−らせん構造を形成すると予想される。この第一のサブタイプの代表的なGセグメントは、アミノ酸配列5のアミノ酸残基20−42、84−106、148−170、212−234、307−329、371−393、435−457、530−552、595−617、689−711、753−775、817−839、881−903、946−968、1043−1059及び1074−1092である。特定の実施態様では、本発明によるこの第一のサブタイプの各Gセグメントの最初の2つのアミノ酸残基は、−Gln−Gln−ではない。
【0104】
Gセグメントの第ニのサブタイプは、アミノ酸の一文字コンセンサス配列GQGGQGQG(G/R)YGQG(A/S)G(S/G)S(配列番号7)により表わされる。この第二の、一般には中規模の、Gセグメントサブタイプは、典型的には17アミノ酸残基を含み、荷電残基を欠損するか又は一つの荷電残基を含む。この第二のGセグメントサブタイプは、典型的には14〜20アミノ酸残基を含むことが好ましいが、わずか12個又は30個もの多くのアミノ酸残基を含み得ることが考えられる。特定の理論に縛られることを望まないが、このサブタイプはコイル構造を形成すると予想される。この第二のサブタイプの代表的なGセグメントは、配列番号5のアミノ酸残基249−265、471−488、631−647及び982−998である。
【0105】
Gセグメントの第三のサブタイプは、アミノ酸の一文字コンセンサス配列G(R/Q)GQG(G/R)YGQG(A/S/V)GGN(配列番号8)により表わされる。この第三のGセグメントサブタイプは、典型的には14アミノ酸残基を含み、一般的にはGセグメントサブタイプの中で最も短い。この第三のGセグメントサブタイプは、典型的には12〜17アミノ酸残基を含むことが好ましいが、23個もの多くのアミノ酸残基を含み得ることが考えられる。特定の理論に縛られることを望まないが、本発明によるGセグメントはターン構造を形成すると予想される。この第三のサブタイプの代表的なGセグメントは、配列番号5のアミノ酸残基57−70、121−134、184−197、280−293、343−356、407−420、503−516、567−580、662−675、726−739、790−803、854−867、918−931、1014−1027である。
【0106】
従って、細胞足場材料中のスピドロインの好ましい実施態様において、各個別のGセグメントは、配列番号6、配列番号7及び配列番号8から選択されるアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは95%の同一性を有する。
【0107】
REPフラグメントのAセグメントとGセグメントの交互配列の一実施態様では、全ての第二のGセグメントは、第一のサブタイプのものであり、一方、残りのGセグメントは、第三のサブタイプ、例えば...A
1G
shortA
2G
longA
3G
shortA
4G
longA
5G
short...である。REPフラグメントの別の実施態様では、第二のサブタイプの一つのGセグメントが、挿入部、例えば...A
1G
shortA
2G
longA
3G
midA
4G
shortA
5G
long...を介して、規則的にGセグメントに割り込む。
【0108】
各個別のLセグメントは任意のリンカーアミノ酸配列を表し、0〜30個のアミノ酸残基、例えば、0〜20個のアミノ酸残基を含む。このセグメントは任意であり、かつ、スパイダーシルクタンパク質の機能にとって本質的ではないものの、その存在はなお、繊維、フィルム、発泡体及び他の構造体を形成するスパイダーシルクタンパク質及びそのポリマーにとって十分に機能をもつ。また、ユープロステノプスオーストラリス(Euprosthenops australis)由来のMaSp1タンパク質の推定アミノ酸配列の反復部分(配列番号5)に存在するリンカーアミノ酸配列もある。特に、リンカーセグメントのアミノ酸配列は、記載されたAセグメント又はGセグメントの何れかに似ている可能性があるが、通常は、本明細書で定義されるような基準を満たすには十分でない。
【0109】
WO2007/078239に示されるように、REPフラグメントのC−末端部分に配置されたリンカーセグメントは、アラニンの多いアミノ酸一文字コンセンサス配列ASASAAASAASTVANSVS(配列番号22)及びASAASAAA(配列番号23)によって表される。事実、第一の配列がこの定義によるAセグメントに対し高度な同一性を有するのに対して、第二の配列は、本明細書の定義によるAセグメントであると考えられる。リンカーセグメントの別の例は、アミノ酸一文字コンセンサス配列GSAMGQGS(配列番号24)を有し、この配列は、グリシンリッチで、本明細書の定義によるGセグメントに対し高度な同一性を有する。リンカーセグメントの別の例はSASAG(配列番号25)である。
【0110】
代表的なLセグメントは、配列番号5のアミノ酸残基1−6及び1093−1110;及び配列番号2のアミノ酸残基159−165であるが、当業者は、これらのセグメントについて多くの適切な代替アミノ酸配列があることを容易に認識するであろう。REPフラグメントの一実施態様において、Lセグメントの一つは0個のアミノ酸を含む、即ち、Lセグメントの一つが欠けている。REPフラグメントの別の実施態様では、両方のLセグメントが0個のア ミノ酸を含む、即ち、両方のLセグメントが欠けている。従って、本発明によるREPフラグメントのこれらの 実施態様は、以下のように模式的に表わすことができる;(AG)
nL、(AG)
nAL、(GA)
nL、(GA)
nGL;L(AG)
n、L(AG)
nA、L(GA)
n、L(GA)
nG;及び(AG)
n、(AG)
nA、(GA)
n、(GA)
nG。任意のこれらのREPフラグメントは、以下に定義するCTフラグメントに適している。
【0111】
細胞足場材料中のスピドロインのCTフラグメントは、スパイダーシルクタンパク質のC−末端アミノ酸配列に高度の同一性を有している。WO2007/078239に示されるように、このアミノ酸配列はMaSp1及びMaSp2を含む様々な種及びスパイダーシルクタンパク質によく保存されている。MaSp1及びMaSp2のC−末端領域のコンセンサス配列は配列番号4として提供される。
図9に、以下のMaSpタンパク質を列挙し、あてはまるGenBankの登録エントリーを表示する:
【表1-1】
【表1-2】
【0112】
特定のCTフラグメントが細胞足場材料中のスパイダーシルクタンパク質に存在することは重要ではない。従って、CTフラグメントは、
図9及び表1に示される任意のアミノ酸配列又は高度の同一性を持つ配列から選択される。多様なC−末端配列をスパイダーシルクタンパク質に用いることができる。
【0113】
CTフラグメントの配列は、
図9のアミノ酸配列に基づくコンセンサスアミノ酸配列(配列番号4)に対して、少なくとも50%の同一性、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%の同一性、又はさらに少なくとも70%の同一性を有する。
【0114】
代表的CTフラグメントは、ユープロステノプスオーストラリス(Euprosthenops australis)配列(配列番号3)、又は配列番号13のアミノ酸残基180−277である。従って、一実施態様では、CTフラグメントは配列番号3、配列番号13のアミノ酸残基180−277、又は
図9及び表1の任意の個別のアミノ酸配列に対して、少なくとも70%、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも95%の同一性を有する。例えば、CTフラグメントは、配列番号3、配列番号13のアミノ酸残基180−277、又は
図9及び表1の任意の個別のアミノ酸配列と同一であってもよい。
【0115】
CTフラグメントは、典型的には70〜120アミノ酸残基からなる。好ましくは、CTフラグメントは、少なくとも70、又は80より多い、好ましくは90より多いアミノ酸残基を含む。また、好ましくは、CTフラグメントは、多くとも120、又は110未満のアミノ酸残基を含む。典型的なCTフラグメントは約100アミノ酸残基を含む。
【0116】
本発明で用いられる用語「%同一性」は、以下のように計算される。クエリ配列をCLUSTAL Wアルゴリズム(Thompson et al, Nucleic Acids Research, 22:4673-4680 (1994))を使用して、標的配列に対して列挙する。列挙した配列の最短のものに対応するウィンドウに対して比較を行う。各位置のアミノ酸配列を比較し、標的配列において同一の対応を有するクエリ配列における位置の割合を、%同一性として報告する。
【0117】
本発明で用いられる用語「%類似性」は、疎水性残基Ala、Val、Phe、Pro、Leu、Ile、Trp、Met及びCysは類似し;塩基性残基Lys、Arg及びHisは類似し;酸性残基GluとAspは類似し;親水性、非荷電残基Gln、Asn、Ser、Thr及びTyrは類似していることを例外として、上記の「%同一性」で説明したように計算される。これに関連して、残りの天然アミノ酸Glyは他のいずれのアミノ酸にも類似していない。
【0118】
この記述を通して、本発明による代替の実施態様では、特定の同一性の割合の代わりに、対応する類似性の割合を用いる。別の代替の実施態様では、各配列に対する同一性の好ましい割合の群から選択された、別のより高い割合の類似性と同様に、特定の同一性の割合を用いる。例えば、配列は別の配列に70%類似していてもよく;又はそれは別の配列に70%同一であってもよく;又はそれは別の配列に70%同一で90%類似であってもよい。
【0119】
本発明による好ましい融合タンパク質では、REP−CTフラグメントは、配列番号2に対して、又は配列番13のアミノ酸残基18−277に対して、少なくとも70%、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも95%の同一性を有する。
【0120】
本発明による一つの好ましい融合タンパク質では、タンパク質は、配列番号13に対して少なくとも70%、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、例えば少なくとも95%の同一性を有する。特に好ましい実施態様では、本発明による融合タンパク質は配列番号13である。
【0121】
本発明による細胞足場材料は、環状RGD細胞結合モチーフを提示する本発明によるタンパク質又はペプチドを含む。環状RGD細胞結合モチーフは、短い合成ペプチド類又は長い合成あるいは組換えタンパク質から露出され、次にマトリックス又は支持体に付着又は結合する。
【0122】
細胞足場材料は、好ましくはタンパク質ポリマーを含み、そのタンパク質ポリマーが、次に反復構造単位として、本発明による組換え融合タンパク質を含む。すなわち、タンパク質ポリマーは、本発明による組換え融合タンパク質のポリマーを含むか、このポリマーからなる。このことは、必然的に、タンパク質ポリマーは、正しく並べられた複数の本発明による融合タンパク質、典型的には100個を優に上回る融合タンパク質単位、例えば、1000個超の融合タンパク質単位を含むか、それらの融合タンパク質単位からなることになる。好ましい実施態様では、本発明による細胞足場材料はタンパク質ポリマーからなる。
【0123】
ポリマー中の融合タンパク質単位の規模は、必然的に、タンパク質ポリマーがかなりの大きさを得ることを意味する。好ましい実施態様では、タンパク質ポリマーは少なくとも二次元で少なくとも0.01μmの大きさを有する。従って、本明細書で用いられる用語「タンパク質ポリマー」は、少なくとも0.01μmの厚さを有する融合タンパク質ポリマー、好ましくはヒトの肉眼で見える、すなわち少なくとも1μmの厚さを有する巨視的なポリマーを指す。用語「タンパク質ポリマー」は構造をとらない凝集体又は沈殿物を含まない。融合タンパク質の単量体/二量体が水溶性であるのに対し、当然のことだが、本発明によるタンパク質ポリマーは固体構造である、すなわち水に不溶である。タンパク質ポリマーは本発明による組換え融合タンパク質の単量体を反復構造単位として含んでいる。
【0124】
本発明によるタンパク質ポリマーは、典型的には繊維、フィルム、コーティング、発泡体、網、繊維メッシュ、球体及びカプセルからなる群から選択される物理的形態で提供される。一つの実施態様によれば、本発明によるタンパク質ポリマーは、繊維、フィルム又は繊維メッシュであることが好ましい。特定の実施態様によれば、タンパク質ポリマーは発泡体又は繊維メッシュなど三次元形態を有することが好ましい。一つの好ましい実施態様は、タンパク質ポリマーで作られた薄い(典型的には、厚さ0.01〜0.1μm)コーティングを含み、それらはステント及び他の医療用機器のコーティングに有用である。用語「発泡体」は、発泡体の泡が連通したチャネルを持つ多孔質発泡体を含んでおり、時には繊維の三次元の網又はメッシュとみなすことさえもできる範囲まで含んでいる。
【0125】
好ましい実施態様では、タンパク質ポリマーは、自立型フィルムなどの自立型マトリックスの物理的形態である。これは高度に有用であり、例えば、細胞シートとして例えば創傷領域に移植されることが必要なインビボの状況で、必要とされる細胞シートの移植を可能にする。
【0126】
繊維、フィルム又繊維メッシュは、典型的には少なくとも0.1μm、好ましくは少なくとも1μmの厚さを有する。繊維、フィルム又繊維メッシュは、1〜400μm、好ましくは60〜120μmの範囲の厚さを有することが望ましい。繊維は、0.5〜300cm、好ましくは1〜100cmの範囲の長さを有することが好ましい。他の好ましい範囲は、0.5〜30cm及び1〜20cmである。繊維は取扱いの間に損傷を受けない状態を保つ性質を有する、すなわち紡糸、織り、撚り、かぎ針編み及び類似の処理に用いることができる。フィルムは、固体構造、例えば、マイクロタイタープレートのプラスチックに、密着し接着する点で有利である。フィルムのこの性質は、洗浄や再生処理を容易にし、分離目的に極めて有用である。
【0127】
本発明による融合タンパク質は、環状RGD細胞結合モチーフ中の所望の細胞結合活性及びREP−CT断片中の内部固体担持活性の両方を持ち、これらの活性は細胞足場材料に使用される。細胞足場材料は有機標的への選択的相互作用活性の高く予想通りの密度をもたらす。全ての発現されたタンパク質断片は細胞足場材料と結合するので、選択的相互作用活性をもつ有益なタンパク質部分の損失を最小化する。
【0128】
本発明による融合タンパク質から形成されるポリマーは固体構造であり、それらの物理的性質に対して有用で、特に高い強度、伸縮性及び軽量性を併せ持つ点で有用である。特に有用な特徴は、融合タンパク質のREP−CT部分が、生化学的に堅固であり、例えば、酸、塩基、又はカオトロピック剤を用いる再生に適しており、又、例えばオートクレーブで120℃20分の加熱殺菌に適していることである。ポリマーは又、細胞接着及び成長を支援する能力でも有用である。
【0129】
REP−CT部分から導かれる特性は、医療用又は産業用の新材料の開発にも魅力的である。特に、本発明による細胞足場材料は、細胞固定、細胞培養、細胞分化、再生医療及び細胞誘導再生のための足場として有用である。それらはまた、クロマトグラフィー、細胞捕獲、選択及び培養、能動フィルタ及び診断などの分取及び分離分析手段に有用である。本発明による細胞足場材料はまた、移植及びステントなどの医療機器として、例えばコーティングとして有用である。
【0130】
好ましい実施態様では、細胞足場材料は、反復構造単位としての本発明による組換え融合タンパク質からなるタンパク質ポリマーを含む。また、さらに好ましい実施態様では、細胞足場材料は、反復構造単位としての本発明による組換え融合タンパク質からなるタンパク質ポリマーである。
【0131】
更なる態様によれば、本発明は、
細胞のサンプルを提供する工程;
サンプルを、細胞足場材料に適用する工程;及び
適用された細胞を有する細胞足場材料を、細胞培養に適した条件下で維持する工程を含み、
ここで、前記細胞足場材料は、反復構造単位として、本発明による組換え融合タンパク質などの組換えタンパク質を含む、タンパク質ポリマーを含む、細胞の培養方法を提供する。
【0132】
好ましい実施態様では、細胞はその細胞表面にα5β1インテグリンを提示し;かつ、組換え融合タンパク質の細胞結合モチーフはα5β1インテグリンに対して選択性を有する。
【0133】
好ましい実施態様では、この環状RGD細胞結合モチーフを含有する組換えタンパク質は、例えば、固体支持体(すなわち溶液でない)に、例えば、細胞培養機器の表面又は細胞結合及び成長を所望する任意の型の表面に、固定化される。このように固定化された環状RGD細胞結合モチーフが結果として露出すると、意外なことに、インテグリンの活性化及びこの環状RGD細胞結合モチーフを含有する固定化された組換えタンパク質への細胞結合を促進する。
【0134】
内部スピドロインフラグメントが、融合タンパク質に要求されたポリマーをもたらし、それにより、固定化された(すなわち溶液でない)細胞結合モチーフへ内部固体支持体を提供するので、この環状RGD細胞結合モチーフを含有する組換え融合タンパク質は、特にその細胞表面にインテグリンを提示する細胞の培養に有用であるためである。固定化された環状RGD細胞結合モチーフが結果として露出すると、意外なことに、インテグリンの活性化及び組換え融合タンパク質のポリマーへの細胞結合を促進する。
【0135】
好ましい細胞は、特にヒト由来の、骨格筋細胞、内皮細胞、幹細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト及び細胞株から選択されるが、これらに限定されない。
【0136】
この方法は、内皮細胞、ヒト間葉系幹細胞及び特にヒト由来のケラチノサイトの培養に有用であるがこれらに限定されない。この方法はケラチノサイトの培養に特に有用である。
【0137】
この細胞培養方法は、有利なことにインビトロでもインビボでも実施できる。
【0138】
以下に、本発明を実施例によりさらに説明するが、以下の実施例に限定されない。
【実施例】
【0139】
統計データ
一方向ANOVAとそれに続くTukeyの多重比較試験をGraphPad Prism version 6.05 for Windows, GraphPad Software, La Jolla California USA, www.graphpad.comを用いて実施した。
【0140】
実施例1−フィブロネクチン由来の細胞結合モチーフの組換えスパイダーシルクへの遺伝子組み込み
組換えスパイダーシルクタンパク質4RepCT(配列番号2、本明細書ではWTと表される)を、フィブロネクチンタイプIIIモジュール10から、細胞結合モチーフを含有するRGDで、4つのわずかに異なるバージョンに遺伝子学的に機能化した(
図1)。1番目(FN
CC−4RepCT;配列番号13)では、RGD配列に配置された二つのアミノ酸をシステインに置換し、モチーフ(CTGRGDSPAC;配列番号10)のループ形成を可能にした。2番目(FN
SS−4RepCT;配列番号14)では、導入されたシステインをセリンに置換し、直鎖状の対照(STGRGDSPAS;配列番号11)を創出した。ここで、アミノ酸セリンを選択したが、これはシステインと類似性があるが、ジスルフィド結合を形成する能力がないことによる。3番目(FN
VS−4RepCT;配列番号15)では、フィブロネクチンモチーフ(VTGRGDSPAS;配列番号9)の元の配列を直鎖状野生型の対照として用いた。4番目(RGD−4RepCT;配列番号16)では、Widhe M et al., Biomaterials 34(33): 8223-8234 (2013)で用いられたRGD含有ペプチド(配列番号12)をさらなる直鎖状対照として用いた。
【0141】
機能化された変異体(FN
CC−4RepCT、DNA−配列番号17;FN
SS−4RepCT、DNA−配列番号18;FN
VS−4RepCT、DNA−配列番号19;及びRGD−4RepCT、DNA−配列番号20)をコード化する遺伝子を、異なるモチーフをベクターコード化4RepCT(4RepCT、DNA−配列番号1)にコード化するオリゴのクローニングにより制限酵素を用いて作製した。新規の配列をN−末端で4RepCTに導入し、塩基配列決定法により確認した。
【0142】
実施例2−フィブロネクチン由来細胞結合モチーフを含有する融合タンパク質の発現
実施例1で得られた遺伝子構築物の大腸菌(E. coli)でのタンパク質生産及びそれに続く精製を、基本的にHedhammar M et al., Biochemistry 47(11):3407-3417 (2008)及びHedhammar M et al., Biomacromolecules 11: 953-959 (2010)に記載の通りに実施した。
【0143】
簡潔に述べると、標的タンパク質に対する発現ベクターをもつ大腸菌(Escherichia coli)BL21(DE3)細胞(Merck Biosciences)を、カナマイシンを含有するLuria-Bertani培地中30℃で、OD
6000.8〜1まで成長させ、次に、イソプロピルβ−D−チオガラクトピラノシドで誘導し、さらに、少なくとも2時間インキュベートした。その後、細胞を採取し、リゾチーム及びデオキシリボヌクレアーゼ(DNase)Iを添加した20mMのトリス−HCl(pH8.0)に再懸濁した。完全に溶解した後、15,000gで遠心分離した上澄みをNiセファロース(GE Healthcare, Uppsala, Sweden)を充填したカラムに投入した。カラムを十分に洗浄した後、結合したタンパク質を300mMのイミダゾールで溶出した。標的タンパク質を含有する分画をまとめ、20mMのトリス−HCl(pH8.0)に対して透析した。標的タンパク質をタンパク質分解開裂によりタグから外した。外したHisTrxHisタグを除去するため、開裂混合物を第2のNiセファロースカラムに投入し、流出物を集めた。タンパク質含有量を280nmでの吸光度から求めた。
【0144】
得られたタンパク質溶液をHedhammar et al., Biomacromolecules 11:953-959 (2010)に記載の通りに、リポ多糖(lps)から精製した。足場(フィルム、発泡体、コーティング又は繊維)の調製に用いる前に、タンパク質溶液を無菌ろ過(0.22μm)した。
【0145】
組換えスパイダーシルクタンパク質は、大腸菌(E. coli)中での発現に成功し、元の4RepCT(WT;配列番号2)と同様の収率と純度で精製された。
【0146】
実施例3−細胞培養マトリックスの制作
精製後、フィルムを調製する前に、Widhe M et al., Biomaterials 31(36): 9575-9585 (2010)及びWidhe M et al., Biomaterials 34(33): 8223-8234 (2013)に記載の通りに、実施例2で得られたタンパク質溶液を無菌ろ過し(0.22μm)遠心ろ過(Amicon Ultra, Millipore)により濃縮した。
【0147】
簡潔に述べると、ペトリ皿を室温で濃度0.3mg/mlの組換えスパイダーシルク溶液で被覆し、フィルムを創り出した。発泡体はシルク溶液の高速ピペット操作で作製し、繊維は15mlの試験管中でゆっくり振り動かし、その後より小さい片に切断した。
【0148】
早期付着及び再増殖を調べるために、タンパク質濃度0.3mg/mlの溶液を、1%プルロニックでプレコートしてプラスチック表面への細胞接着を制限した96−及び24ウエルの細胞培養プレート(Sarstedt, suspension cells)それぞれの中でフィルムにキャストした。対照実験では、還元剤(5mMのジチオスレイトール、20mMのβ−メルカプトエタノール又は10mMのトリス(2−カルボキシエチルホスフィンHClのいずれか)を、フィルムを調製する前に、タンパク質溶液に直接加えた。
【0149】
顕微鏡研究用に、タンパク質をチャンバースライドガラス(LabTekII)中でフィルムにキャストした。全てのウエルの被覆が望ましいアラマーブルー実験用には、液体を除去する前に、細胞培養ウエルを0.3mg/mlの被覆タンパク質溶液で2時間コートした。フィルム及びコートした表面を無菌条件下、25℃、30%rhで一晩乾燥し、次に、無菌20mMリン酸緩衝液、pH7.4で2回洗浄し、細胞播種の前に、完全細胞培地を用いて、37℃、5%CO
2で1時間プレインキュベートした。
【0150】
自立型フィルムを、タンパク質溶液(3mg/ml)の液滴を、96−ウェルプレートのウエルにつないで吊り下げた金属ワイヤの約3mm幅の枠上に塗布して調製し、無菌条件下25℃、30%rhで一晩乾燥した。
【0151】
対照のウシフィブロネクチン(Sigma-Aldrich F1137 )を推奨濃度(5μg/cm
2)で、一晩、37℃でコートした。
【0152】
ジスルフィド−ループ化RGDモチーフで機能化されたスパイダーシルクタンパク質は、安定したマトリックスの中に自己組織化することが観察された。
図2aの顕微鏡写真に示すように、FN
CC−4RepCT(配列番号13)タンパク質は繊維(上)、フィルム(中)、及び自立型フィルム(下)の形式でマトリックスとして存在できた。
図2aのスケールバーは500μm(上及び中)及び1000μm(下)を示す。意外にも、FN
CC−4RepCTタンパク質は、直鎖状のRGDシルクタンパク質(RGD−4RepCT、配列番号16)及びWTシルクタンパク質(4RepCT、配列番号2)で言及されているよりも高い安定性及び完全性を示す繊維、フィルム及び発泡体を形成できた。FN
CC−4RepCTタンパク質では、自立型フィルムの形成さえ可能であった。マトリックス形態の影響を排除するために、滑らかなフィルム形式(キャスト及び自立型)をこの後の細胞接着実験に用いた。
【0153】
実施例4−マトリックスの構造分析
実施例3で得られた繊維、キャストフィルム及び自立型フィルムのフーリエ変換赤外分光(FTIR)スペクトルをFTIR分光分析計(Bruker)で測定した。全反射減衰法でIRスペクトルを測定するために、フィルムを結晶に取り付けた。各スペクトルは、100スキャンを平均した。それぞれα−らせん(1654cm
−1)及びβ−シート(1629cm
−1)構造のピーク高さを比較するために、アミドI領域をさらに解析した。
【0154】
図2bに繊維(上)、フィルム(中)、及び自立型フィルム(下)の形式でのFN
CC−4RepCT(配列番号13)シルクマトリックスのFTIRスペクトルを示す。α−らせん及びβ−シートそれぞれの典型的なシグナルのピークを線で示す。興味深いことに、
図2bのFTIRデータはキャストフィルムとは反対に、自立型フィルムはβ−シート構造に完全に転換していることを示している。
【0155】
実施例5−細胞培養
成人ドナーの表皮から単離されたヒト皮膚微小血管内皮細胞(EC)(HDMEC, PromoCell GmbH, Germany)をゼラチン(Sigma Aldrich)でコートした培養フラスコ中、5%ウシ胎児血清(PromoCell GmbH, Germany)を含有する完全内皮細胞培地MVで成長させた。
【0156】
骨髄のヒト間葉系幹細胞(hMSC, Gibco)をCELLstart (Gibco)でコートした培養フラスコ中、25ng/μlの繊維芽細胞成長因子β(Gibco)及び2mMのGlutamax(Gibco)を含有する完全StemPro MSC血清フリー培地CTS(Gibco)で成長させた。
【0157】
成人皮膚の正常なヒト上皮細胞ケラチノサイト(NHEK-ad)をLonzaから購入した。継代培養、増殖及び遊走実験を、ウシ脳下垂体抽出物を含有するKGM-Gold(Lonza)中で実施し、一方、接着実験を1.2mMのCa
2+を与えるようにCaCl
2を添加したKGM-CD(既知組成培地)で実施した。
【0158】
ケラチノサイト及び間葉系幹細胞培養を、実験と同様に、潜在的に細胞接着の増加を引き起こす可能性のあるマトリックスと血清タンパク質との間の考えられる相互作用を避けるために、血清フリー条件下で実施した。
【0159】
培地は2〜3日ごとに変えた。培養密度80%に達したときに細胞をTrypLE(Life Technologies)で継代培養又は実験用に採取した。全ての実験は、37℃、5%CO
2及び95%湿度で実施した。
実施例6−接着細胞の早期付着に及ぼすマトリックスの影響
A.早期付着試験
【0160】
細胞を継代3〜8で採取し、20,000/cm
2で播種し、細胞インキュベーター中でフィルム又は対照に1時間接着させた後、あらかじめ温めたリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回穏やかに洗浄し、その後、96%エタノールで10分間固定した。水で3回洗浄後、細胞を0.1%クリスタルバイオレット水溶液で30分間染色した。プレートをさらに洗浄後乾燥した。
【0161】
実施例3で得られたフィルムに結合した細胞の付着及び形態を、倒立明視野顕微鏡で、2x倍率及び10x倍率で顕微鏡写真撮影し記録した。色素を40μLの20%酢酸で10分間溶解し、溶液35μLを595nmでの光学密度測定(TECAN Infinite M200)用に384−ウェルプレートに移した。前洗浄なしで固定した細胞のウエルを陽性対照として用いた。細胞のないウエルを空試験として用いた。実験は各サンプル6ウェル(hexaplicate)で実施し、3回繰り返した。
【0162】
顕微鏡写真(2x倍率)の一定領域(9.12mm
2)の細胞被覆面積の測定をソフトウェアNIS elements BR (Nikon)を用いて行った。
B.細胞の染色
【0163】
細胞を継代3〜8で採取し、3500/cm
2で播種し、20分、1時間又は3時間、チャンバースライドでフィルムに接着した。穏やかに洗浄した後、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、0.1%トリトンX−100PBS溶液で透過処理し、1%ウシ血清アルブミン(BSA, AppliChem)PBS溶液でブロッキング処理した。
【0164】
一次抗体を以下の1%BSA中濃度で用いた:マウス抗ヒトビンキュリン(Sigma V9131)9.5μg/ml、マウス−抗ヒトβ−1インテグリン(活性化構造、クローンHUTS−4)3.3μg/mL、又はマウス−抗ヒトα5−インテグリン(リガンド結合構造、クローンSNAKA−51)2.5μg/mL、いずれもMillipore。
【0165】
二次抗体はAlexaFlour488ヤギ抗マウスIgG(H+L)、クロス吸着型(Invitrogen)を1:500で用いた。線維状アクチンを検出するために、Phalloidin-AlexaFluor594(Life Technologies)を1:40で用いた。DAPIを核染色に用いた。スライドを蛍光固定媒体(Dako, Copenhagen)に固定した。
【0166】
染色した細胞を、倒立顕微鏡(Nikon Eclipse Ti)を用いて4x及び10x倍率で分析した。赤色蛍光には、563/45nmでの励起及625/50nmでの検出を用い、一方、青色蛍光のモニターには、387/11nmでの励起及び447/60nmでの検出を用いた。
【0167】
細胞接着(接着斑及び張線維の形成)の顕微鏡分析には、共焦点顕微鏡(Carl Zeiss LSM 710)を10x及び63x倍率で用いた。
【0168】
張線維の存在は、強く染色された突起して厚いf−アクチンフィラメントで決定し、0〜4(0=なし、1=わずか〜いくらか、2=多い、3=ほとんど、4=すべての細胞が張線維を示す)で等級付けした。
【0169】
接着斑の存在は、接着斑を示す細胞の割合で評価した。接着斑の品質を、小さく不鮮明な接着斑(=1p)、小さくはっきりした接着斑(=2p)、豊富な接着斑(=3p)及び大きく明るい接着斑(=4p)の存在で1〜4に等級付し、この特定の接着斑を発現する陽性細胞の比率(0−4、ここで、接着斑陽性細胞が0≒なし、1≒4分の1、2≒2分の1、3≒4分の3、4≒すべて)を乗じた。
C.FN
CC−シルクは接着細胞の早期付着を促進する。
【0170】
最初に、実施例3で得られた直鎖状RGDタンパク質(RGD−4RepCT、配列番号16)及びWTシルクタンパク質(4RepCT、配列番号2)と比較して、FN
CC−シルク(FN
CC−4RepCT、配列番号13)にウエル接着細胞がどのように付着し拡がるかを検討した。三つの異なる変異体のシルクフィルムを細胞培養プレート中で調製し、ヒト初代内皮細胞(EC)、間葉系幹細胞(MSC)又はケラチノサイト(KC)を1時間接着させ、固定して染色した。
【0171】
図3aにWTシルク(配列番号2)、又は、RGD(配列番号16)あるいはFN
CC(配列番号13)で機能化したシルクのフィルムに1時間接着させ、クリスタルバイオレットで染色したEC、MSC及びKCの顕微鏡写真(10x倍率)を示す。スケールバー50μm。
【0172】
図3bに異なるシルク変異体に接着した細胞(EC(上パネル)、及びMSC(中パネル))から溶解したクリスタルバイオレットのOD、及び、一定領域(9.12mm
2)内のKCの細胞被覆面積(下パネル)を示す。EC及びMSC:3ウエル又は2ウエル、KC:4ウェル。すべての細胞タイプでn=3。播種密度20,000/cm
2。箱ひげ図:線=中央値、箱:25%〜75%、ひげ=平均値及び最大値。統計データ:*P<0.05、**P<0.01、****P<0.0001。
【0173】
図3に示す顕微鏡写真から、RGD及びWTいずれと比べても、FN
CCフィルムでは、3つ全ての細胞タイプに対して、付着の明らかな改良が見られた。画像化後、EC及びMSCそれぞれで捕獲された色素を溶解し、ODを測定して、結合細胞の数の尺度として用いた(
図3b、上及び中パネル)。両方の細胞タイプで、WTシルクに比べて、著しく多い細胞が、1時間後FN
CC−シルクに結合した(ECではP<0.01、MSCではP<0.05)。RGDシルクに比べても、著しく多いECがFN
CC−シルクに結合した(p<0.01)。この比色分析法はKCには適さない。なぜならば、この細胞タイプでは、かなりの細胞が又フィルム表面の外にも付着し、シルクフィルムに結合していなくても、OD値に寄与するからである。代わりに、
図3b(下パネル)に示すように、フィルムに結合した細胞の面積を2x倍率での画像分析で測定した。FN
CCに結合したKCの面積は、WT−及びRGD−シルク両方よりも大きかった(P<0.0001)。
D.FN
CC−シルク及びウシフィブロネクチンへの同様に良好な初代KC接着
【0174】
導入したFN
CCモチーフのこの陽性効果を見て、RGDが構造で拘束された折り返しループに存在する野生型完全長フィブロネクチンと比べて、FN
CC−シルクが、いかに良いかを調べた。従って、ウシ血漿(BFN)から得たフィブロネクチンを用いて細胞培養ウエルと、むき出しの細胞培養処理プラスチックをコートした。そこでは、対照と同様にKCを培養できる。潜在的に細胞接着の増加を引き起こす可能性のある、マトリックスと血清タンパク質との間の考えられる相互作用を避けるために、血清フリー実験条件を選択した。
【0175】
FN
CCで機能化したシルク、ウシフィブロネクチンでコートした表面(BFN)又は組織培養処理(TCT)した細胞プラスチックいずれかに対するKCの1時間接着後の結果を
図4に示す。
図4aにクリスタルバイオレット染色後の10x倍率の顕微鏡写真を示す。播種密度40,000/cm
2。スケールバー50μm。
図4bに、一定領域(9.12mm
2)内の細胞被覆面積を示す(4ウェル、n=3)。播種密度20,000/cm
2。箱ひげ図:線=中央値、箱:25%〜75%、ひげ=平均値及び最大値。統計データ(対TCT):****P<0.0001。
【0176】
細胞被覆面積を比較すると、KCはBFN及びFN
CC−シルクに1時間後接着で等しく良好に結合しており、重要なことに、いずれもTCTより著しく良好である(P<0.0001)ことが明らかである(
図4)。
【0177】
実施例7−FNCC−シルク中のRGD提示に対するシステインループ構造の効果
これらの結果に勇気づけられ、さらに前進し、細胞が好む表面をFN
CC−シルク(配列番号13)が創出するメカニズムを検証した。この目的では、直鎖状RGDの提示が予測される二つのFN−シルク変異体を用いた(
図1a)。第1の変異体(FN
VS;配列番号15)は、RGD含有モチーフの元の配列を含み、ループ構造の影響なしに、野生型に配置しているアミノ酸の効果を示す。第2の変異体(FN
SS;配列番号14)では、FN
CCに配置している二つのシステインが、システインに類似しているが、−SH基がなく、したがってジスルフィド架橋を形成できないセリンで置換された。RGD−シルク(配列番号16)及びWT−シルク(配列番号2)と併せて、異なるFN−シルク変異体を、初代KCで評価した。細胞を早期付着(
図5)、拡散及び張線維の形成(
図6)、さらに接着斑(
図7)について解析した。早期付着試験及び細胞染色は実施例6に詳述の通り実施した。
A.早期付着
【0178】
WT−シルク(配列番号2)、又は、FN
CC(配列番号13)、FN
VS(配列番号15)、FN
SS(配列番号14)あるいはRGD(配列番号16)で機能化したシルクのフィルムへの1時間接着後のKCの結果を
図5に示す。
図5aに、クリスタルバイオレット染色後の10x倍率での顕微鏡写真を示す。播種密度20,000/cm
2。
図5bに、一定領域(9.12mm
2)内の細胞被覆面積を示す(各4ウエル、n=3)。箱ひげ図:線=中央値、箱:25%〜75%、ひげ=平均値及び最大値。統計データ:****P<0.0001。
【0179】
最初の実験では、KCをWT、RGD及びFN−シルク変異体のフィルム上に1時間接着させ、検出及び形態用にクリスタルバイオレットで染色した(
図5a)。3回の実験(6ウェル)の画像分析のデータをまとめると、FN
CC−シルクは、FN
SS及びFN
VSの両方と比較して、付着(すなわち細胞によって被覆された面積)の増加を示した(P<0.0001、
図5b)。FN
CC−シルクはまた、RGD−シルクと比較して、KCの接着が著しく高かった(P<0.0001)。すべてのFN−シルク変異体が、WT−シルクと比較して、接着が著しく増加した(P<0.0001)。
【0180】
さらに、クリスタルバイオレットを細胞から溶解し、それらのODをプレートリーダーで測定した8回の実験をまとめると、これらの実験で、細胞は、ある程度はシルク−フィルムの外の細胞プラスチックに接着した(データは示されていない)としても、極めて似た結果を示した(FN
CC対FN−対照、P<0.0001)。
B.細胞拡散及び張線維の形成
【0181】
WT−シルク (配列番号2)、又はFN
CC(配列番号13)、FN
VS(配列番号15)、FN
SS(配列番号14)あるいはRGD(配列番号16)で機能化されたシルクのフィルムへの3時間接着後のKCの結果を
図6に示す。
図6aに細胞被覆面積(2ウェル、n=4)を示す。箱ひげ図:線=中央値、箱:25%〜75%、ひげ=平均値及び最大値。
図6bに張線維等級(平均値及び標準偏差、単ウエル、n=3)を示す。播種密度3,500/cm
2。統計データ:***P<0.001、*P<0.05。
【0182】
F−アクチンを染色することによって、3時間接着後のKCにおける細胞拡散及び張線維の形成を検討した(
図6)。その結果、4x顕微鏡写真中の全細胞面積を測定したときに、FN
CCフィルムはRGD−フィルム(p<0.05)及びWT−フィルム(p<0.001)と比べて、KCの拡散が著しく増加したが、FN
SS又はFN
VSフィルムは増加しなかった(n=4、2ウエル)、(
図6a)。FN
CC−シルク上でのKCの拡散もFN
SS−シルクと比較して、著しく増加した(p<0.05)。RGD、FN
SS−及びFN
VS−シルク上のKCは、丸みを帯びた外観の細胞の比率が高かったが、一方、FN
CC−シルク上では、ほとんどの細胞は明瞭なアクチンフィラメントで広がった形態を有していた。
【0183】
また、F−アクチンを染色したKCを、定着した付着の指標として、張線維の存在を解析した(
図6b)。張線維の存在を、厚くかつ明るく染色されたアクチンフィラメント(束)として定義し、63x倍率(n=3)での検査で分析した。この分析は、面積測定では同様の結果を示したが、統計的には明確な差異はなかった。
C.接着斑の形成
【0184】
細胞内での接着斑の形成を、F−アクチンと接着斑複合体の主成分の一つであるビンキュリンを組み合わせの染色により3時間後に分析した。従って、F−アクチン及びビンキュリンの共染色は、インテグリンを含む、下地層の基質への細胞の確実な結合のしるしである。接着斑はF−アクチンフィラメントの黄緑色の伸長として現れ、しばしば細胞膜に近接して位置する。
【0185】
WT−シルク(配列番号2)又は、FN
CC(配列番号13)、FN
VS(配列番号15)、FN
SS(配列番号14)あるいはRGD(配列番号16)で機能化されたシルクのフィルムに3時間接着後のKC中の接着斑の形成とキャラクタリゼーションの分析結果を
図7に示す。スライドを、共焦点顕微鏡共焦点顕微鏡を用いて、全体は10xで(
図7a)、詳細は63xで走査した(
図7b)。細胞中の接着斑を二つの方式で等級付した。
【0186】
1番目では、接着斑を示す細胞の比率をそれぞれのウエル中のフィルム全体を外観検査により10x倍率で評価した。3回の実験をまとめたデータは、RGD及びWTと比較して、FN
CC−シルク上に接着斑を発現している細胞の割合は明らかな増加を示した(p<0.05)、(
図7a)。
図7aは接着斑を示す細胞の割合(平均値及び標準偏差)を示すグラフである。実験は各2ウエル、n=3で行った。統計データ:*P<0.05。
【0187】
2番目では、接着斑を示す細胞の存在量だけでなく、細胞中に見られる接着斑の特徴も異なるシルク変異体で違いを示したので、さらに調べることにした。従って、各陽性細胞に中の接着斑の外観を等級付けで評価した。簡単に述べると、等級付けは、小さく不鮮明で細胞の中にまばらに現れる(「微妙」)から、大きく明るく、細胞の中に豊富に現れる(「卓越した」)に及んだ。この方法で、これらの構造を示すフィルム上の細胞がいくつあるかとは独立して、接着斑の品質を判断できた。この分析の結果は、他のシルク型に比較して、FN
CC−シルクに付着した細胞中に、より卓越した接着斑の傾向を示した。
図7bに発見された陽性細胞の総数とは独立して接着斑を等級付けしたグラフを示す(平均値及び標準偏差)。等級付は1つのウエルでn=3で行った。
【0188】
その結果、接着斑の品質のばらつきは、FN
CC−シルク上よりもRGD、FN
SS及びFN
VS上の細胞の方が大きかった。このことは、FN
SS及びFN
VS上の細胞中には、卓越した接着斑と微妙な接着斑の両方が存在するのに対し、FN
CC−シルク上には卓越した接着斑がほとんどであったことを反映している。興味深いことに、このような卓越した接着斑は、FN
CC上に播種した20分後という早期に出現していた。
【0189】
各個別の実験で、FN
CC−シルクは、例外なく、試験したフィルムの中で最も効率的な接着を示した。対照的に、FN
SS−及びFN
VS−シルク上への付着は、RGD−シルクと同程度から、FN
CC−シルク上よりもいくらか低いものまでばらつきがあった。
【0190】
システイン架橋ループのRGDモチーフの提示に対する役割をさらに解明するために、フィルムをキャストする前に、還元剤をFN
CC−シルク溶液に直接加える実験を行った。これらのフィルムでのジスルフィドの形成を阻み、直鎖状でループのないモチーフを生成するという考えである。しかしながら、還元していないFN
CCフィルムと比較して、何ら違いは見られなかった。製造工程の間にフィルムが完全に乾燥されることを考えると、緩衝剤がないと、還元剤はもはやジスルフィド結合が起こるのを押さえることができないと仮定することができる。従って、FN
SSが、達成可能な最も適切なループのない対照と考える。
【0191】
実施例8−FNCC−シルクに接着するKC中のインテグリンα5β1の関与
インテグリンα5β1はフィブロネクチンに選択的に結合することが知られているので、このインテグリンがFN
CC−シルク(配列番号13)へのKCの結合中に含まれるかどうかを検証した。これを行うため、α5インテグリン(SNAKA-51)のリガンド結合構造及び、β1インテグリン(HUTS-4)の活性化された構造をそれぞれ具体的に認識するために開発された二つのモノクローナル抗体を選択し、それらをKCの染色と組み合わせてFN
CC−シルクに3時間接着するのに用いた。染色は実施例6〜7で行ったように、F−アクチンに対するファロイジンでの染色と組み合わせた。細胞の分析では、弱いが、ビンキュリンで染色したときに見られたパターンに類似したはっきりした染色パターンが現れた。
【0192】
実施例9−FNCC−シルクの応用
接着細胞の早期付着に関するFN
CC−シルクのこのような優れた結合特性の発見に触発されて、種々の細胞培養の利用を支援する能力を把握するためのいくつかの予備研究を行った。はじめに、細胞増殖におけるFN
CCモチーフの効果を評価した。
A.アラマーブルーを用いた細胞生死判別分析
【0193】
WT−シルク(配列番号2)又はFN
CC−シルク(配列番号13)のフィルムでコートした96−ウェルプレートのウエルに最初に低播種密度3,500細胞/cm
2で播種した初代ケラチノサイト(NHEK)の細胞成長を培養期間中、3日ごとに、アラマーブルー細胞生死判別試験(Molecular Probes)でモニターした。アラマーブルー(細胞培地で1:10に希釈)で4時間インキュベートした後、培養液の上澄み90μLの蛍光を、励起に544nm、発光に595nmを用いて、蛍光プレートリーダー(CLARIOstar, BMG Labtech)で測定した。フィルムを各試料6ウエルで分析する二つの独立した実験を行った。異なる細胞結合モチーフを有するシルクに播種した細胞の成長プロファイルを得るために、各ウエル中の生存細胞の数に関係する蛍光強度を時間に対してプロットした。
図8に示した結果は、WT−シルクと比較して、FN
CC−シルク上の生存細胞は高いレベルを示しており(P<0.001、3日目及びP<0.0001、6日目;****P<0.0001、***P<0.001)、FN
CCモチーフによって伝えられる細胞増殖を支援する能力が改良されていることを示唆している。
B.再増殖試験
【0194】
開放創領域の再増殖を支援する異なるシルク変異体の能力を評価するため、皮膚ケラチノサイト(NHEK)をオレゴングリーン細胞追跡剤(Life Technologies)で染色し、24ウェルプレートでFN
CC−シルク(配列番号13)及びWT−シルク(配列番号2)のフィル上に、20,000細胞/cm
2で播種した。細胞播種の前に創傷領域挿入物(CytoSelectTM Wound healing assay, Cell Biolabs)をウエルに加え、フィルムを無傷に保ちながら0.9mm幅の開放創を細胞単層に生成した。16時間後に、挿入物を除去し、再増殖過程を毎日追跡し、倒立蛍光顕微鏡法で、0日(挿入物除去)2日目及び4日目に記録した。6日目に、試験法プロトコールに従って、細胞を固定し、染色して、倒立明視野顕微鏡法で画像化した。
【0195】
このようにして、緑色トレース細胞を、細胞がシルクフィルムの一定の部分「創傷領域」に達するのを防ぐ挿入物と共に、高密度でウエルに播種した。創傷領域の外側に単層が形成された後、挿入物を除去し、隙間の再増殖を培養の6日間記録し、細胞を遊走させ増殖させた。ケラチノサイトは、FN
CC−シルク上の創傷領域を効率よく再増殖し、実験の終わりにはほぼ完全に細胞で被覆された。
C.移動可能な細胞単層
【0196】
NHEKを採取し、AMCA orange cell tracker(Life Technologies)で追跡し、金属枠に装着したFN
CC−シルク(配列番号13)の自立型フィルムに20,000細胞/cm2で播種した。形成された単層を倒立蛍光顕微鏡法で記録した。
【0197】
そのような自立型フィルム上に播種された初代ケケラチノサイトは、培養ウエル間で容易に移動できる単層を形成した。
【0198】
実施例10−固定化されたペプチドを有する表面への細胞接着
シリコン(SiO)表面を有機シラン(例えば3−アミノプロピルトリエトキシシラン、APTES)を用いて活性化し、その後、例えばEDC/NHS化学を用いてアミノ反応性ペプチドを(それらのN−末端を介して)固定した。
固定に用いたペプチドをグリシンスペーサーで以下の通り設計した:
1.GGGGGCTG
RGDSPAC(配列番号21)
2.GGGGGVTG
RGDSPAS(配列番号22)
3.GGGGGSTG
RGDSPAS(配列番号23)
4.GGGGGCDW
RGDNQFC(配列番号24)
【0199】
固定化されたペプチドを有する表面への早期付着を20,000/cm
2で播種したヒトケラチノサイト(HaCAT)を用いて分析した。細胞を次に細胞インキュベーターで1時間接着させ、あらかじめ温めたリン酸緩衝生理食塩水で穏やかに2回洗浄し、続いて96%エタノールで10分間固定化した。水で3回洗浄後、細胞を0.1%クリスタルバイオレット水溶液で30分間染色した。
【0200】
細胞の付着及び形態を、倒立明視野顕微鏡を用いて2x及び10x倍率で顕微鏡写真を撮り記録した。次に、クリスタルバイオレット色素を40μLの20%酢酸で10分間溶解し、溶液35μLを384−ウェルプレートに移し、595nmの光学密度を測定(TECAN Infinite M200)した。あらかじめ洗浄せずに固定した細胞を陽性対照(参照)として用いた。
【0201】
実施例11−FNccシルクマトリックス上での細胞培養
精製後、FNccシルクタンパク質(配列番号13)の溶液を用いて、細胞培養プレート(Sarstedt、懸濁細胞用疎水性プレート)をコートした。簡単に述べると、タンパク質溶液をトリス緩衝液中0.1mg/mlまで希釈し、室温で30分インキュベートし、除去し洗浄した。
【0202】
トリプシン処理(TrpLE)を用いて細胞を採取し、FNcc−シルクコーティング上に適切な細胞密度(3〜10,000細胞/cm
2)で播種した。細胞の成長をアラマーブルー細胞生死判別試験(Molecular Probes)で定期的(2〜3日ごと)にモニターした。7〜14日後の終点で生/死染色を行った。以下の細胞タイプが、陽性の成長プロファイルを示し、終点において、生存細胞が大部分(>80%)であった。
ヒト骨格筋サテライト細胞
ヒト皮膚微小血管内皮細胞
ヒト間葉系幹細胞
マウス間葉系幹細胞
ヒト皮膚線維芽細胞
HaCaTケラチノサイト
MIN6−m9膵臓細胞株