(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記のような点に鑑みてなされたものであって、その目的は、高い飽和磁束密度および優れた高周波特性を有するので、小型軽量化した部品への活用が可能であり、低い保磁力など磁気損失が少ないため、高性能/高効率の部品としての用途展開が非常に容易なFe系軟磁性合金を提供することにある。
【0007】
また、本発明の他の目的は、希土類元素などのコストが高い成分を含まないにもかかわらず、結晶相が制御されることに伴って、高い水準の磁気的特性を発現できるFe系軟磁性合金を提供することにある。
【0008】
さらに、本発明のさらに他の目的は、Fe系軟磁性合金の成分が製造過程で容易にコントロールされることにより、合金をより容易に且つ大量で生産可能であるにもかかわらず、発現する磁気的特性は、従来に比べて同等またはそれ以上で発現するFe系軟磁性合金の製造方法を提供することにある。
【0009】
さらに、本発明のさらに他の目的は、エネルギー供給および変換機能を良好に行うことができる本発明によるFe系軟磁性合金を含む各種電気、電子機器の磁性部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、実験式Fe
aB
bC
cCu
dで表示されるFe系軟磁性合金を提供する。ただし、前記実験式でa、b、cおよびdは、当該元素のat%(atomic percent)であり、78.5≦a≦86、13.5≦b+c≦21、0.5≦d≦1.5である。
【0011】
本発明の一実施例によれば、前記実験式でaは、82〜86at%であり、bとcは、和が13.5〜17.5at%であり、下記の数式1による値が0.38〜28.5であり得る。また、より好ましくはは、下記数式1による値は、0.65〜16.1であり得る。
【0012】
[数式1]
【数1】
【0013】
また、前記実験式でaおよびdは、下記数式2による値が2.92〜3.70であり得る。
【0014】
[数式2]
【数2】
【0015】
また、前記実験式でcは、1.0〜4.0at%であり得る。
【0016】
また、本発明の他の実施例によれば、前記実験式でaは、78.5〜82.0at%未満であり、bとcは、和が1
7.5at%超過〜21at%であり、下記数式3の値が0.67以上であり得、より好ましくは0.85〜200であり得る。
【0017】
[数式3]
【数3】
【0018】
また、前記実験式でaおよびdは、下記数式4の値が8.3〜12.8であり得る。
【0019】
[数式4]
【数4】
【0020】
また、前記Fe系軟磁性合金は、非晶質、結晶質、または非晶質領域および結晶質領域を全部含む異形の原子配列構造であり得る。
【0021】
また、前記異形の原子配列構造のFe系軟磁性合金は、非晶質領域および結晶質領域が5.5:4.5〜1:9の体積比を有し得る。
【0022】
また、前記結晶質または異形の原子配列構造の結晶質は、ナノ結晶粒であり得る。
【0023】
また、前記Fe系軟磁性合金は、FeおよびBのうちいずれか一つ以上の元素の一部をSiで置換しない合金であり得る。
【0024】
また、前記Fe系軟磁性合金の形状は、粉末、リボン、平板、ドーナツ、円柱またはロッド(rod)型であり得る。
【0025】
また、本発明は、実験式Fe
aB
bC
cCu
dで表示され、平均粒径が30nm以下のナノ結晶粒を含むFe系軟磁性合金を提供する。ただし、前記実験式でa、b、cおよびdは、当該元素のat%(atomic percent)であり、78.5≦a≦86、13.5≦b+c≦21、0.5≦d≦1.5である。
【0026】
本発明の一実施例によれば、前記ナノ結晶粒は、平均粒径が16〜25nmであり得る。
【0027】
また、本発明は、実験式Fe
aB
bC
cCu
dで表示され、α−Fe、およびFeとB、CおよびCuのうち少なくとも一つの元素間形成される金属化合物を含むFe系軟磁性合金を提供する。ただし、前記実験式でa、b、cおよびdは、当該元素のat%(atomic percent)であり、78.5≦a≦86、13.5≦b+c≦21、0.5≦d≦1.5である。
【0028】
本発明の一実施例によれば、前記金属化合物は、Fe−B化合物およびFe−C化合物を含むことができる。また、前記Fe−C化合物は、Fe
3C、Fe
93C
7およびFe
4C
0.63のうちいずれか一つ以上の化合物を含むことができる。
【0029】
前記Fe系軟磁性合金は、下記関係式1による結晶化した面積値が45〜90%であり得、より好ましくは53〜83%であり得る。
【0030】
[関係式1]
【数5】
【0031】
この際、前記面積は、Fe系軟磁性合金に対する0〜90°アングル(2θ)でX線回折(XRD)分析時に測定された結晶質領域または非結晶質領域に対する積分値を意味する。
【0032】
また、本発明は、実験式Fe
aB
bC
cCu
dで表示され、前記実験式でa、b、cおよびdは、当該元素のat%(atomic percent)であり、78.5≦a≦86、13.5≦b+c≦21、0.5≦d≦1.5であるFe系初期合金を製造する段階と;前記Fe系初期合金を熱処理する段階と;を含むFe系軟磁性合金の製造方法を提供する。
【0033】
本発明の一実施例によれば、前記熱処理は、200〜410℃の熱処理温度で40〜100秒間行うことができ、より好ましくは280〜410℃の熱処理温度で熱処理され得る。
【0034】
また、所定の前記熱処理温度まで90℃/min以下の昇温速度で熱処理され得、より好ましくは28〜82℃/minであり得る。
【0035】
また、本発明は、本発明によるFe系軟磁性合金;を含む電磁波遮蔽部材を提供する。
【0036】
また、本発明は、本発明によるFe系軟磁性合金;を含む磁心を提供する。
【0037】
また、本発明は、本発明による磁心と;前記磁心の外部を
囲むコイルと;を含むコイル部品を提供する。
【0038】
以下、本発明において使用した用語について説明する。
【0039】
本発明において使用した用語であって、「初期合金」は、製造された合金の特性変化などのために別途の処理、例えば熱処理などの工程を経ない状態の合金を意味する。
【0040】
また、本発明において使用した用語であって、「高周波」は、数十kHz〜数十MHzの周波数帯域を意味する。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、Fe系軟磁性合金は、高い飽和磁束密度、優れた高周波特性および低い保磁力を有することに伴って、高性能/高効率の小型/軽量化した部品としての用途展開が非常に容易である。また、本発明は、製造コストが非常に低く、合金に含まれる成分が合金の製造過程で容易にコントロールされることにより、合金の製造が容易で、大量生産が可能であることに伴って、大出力レーザー、高周波電源、高速パルス発生器、SMPS、高周波フィルター、低損失の高周波トランスフォーマー、高速スイッチ、無線電力伝送、電磁気波遮蔽などの電気、電子機器の磁性部品として広く応用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】
図1および
図2は、本発明の様々な実施例によるFe系軟磁性合金の熱処理前の初期合金状態におけるXRDパターンである。
【
図2】
図1および
図2は、本発明の様々な実施例によるFe系軟磁性合金の熱処理前の初期合金状態におけるXRDパターンである。
【
図3】
図3は、本発明の比較例によるFe系軟磁性合金の熱処理前の初期合金状態におけるXRDパターンである。
【
図4a】
図4aおよび
図4bは、本発明の一実施例によるFe系軟磁性合金の熱処理後のXRDパターンである。
【
図4b】
図4aおよび
図4bは、本発明の一実施例によるFe系軟磁性合金の熱処理後のXRDパターンである。
【
図5a】
図5aおよび
図5bは、本発明の他の実施例によるFe系軟磁性合金の熱処理後のXRDパターンである。
【
図5b】
図5aおよび
図5bは、本発明の他の実施例によるFe系軟磁性合金の熱処理後のXRDパターンである。
【
図6a】
図6aおよび
図6bは、本発明のさらに他の実施例によるFe系軟磁性合金の熱処理後のXRDパターンである。
【
図6b】
図6aおよび
図6bは、本発明のさらに他の実施例によるFe系軟磁性合金の熱処理後のXRDパターンである。
【
図7a】
図7aおよび
図7bは、本発明のさらに他の実施例によるFe系軟磁性合金の熱処理後のXRDパターンである。
【
図7b】
図7aおよび
図7bは、本発明のさらに他の実施例によるFe系軟磁性合金の熱処理後のXRDパターンである。
【
図8a】
図8aおよび
図8bは、本発明のさらに他の実施例によるFe系軟磁性合金の熱処理後のXRDパターンである。
【
図8b】
図8aおよび
図8bは、本発明のさらに他の実施例によるFe系軟磁性合金の熱処理後のXRDパターンである。
【
図9a】
図9aおよび
図9bは、本発明のさらに他の実施例によるFe系軟磁性合金の熱処理後のXRDパターンである。
【
図9b】
図9aおよび
図9bは、本発明のさらに他の実施例によるFe系軟磁性合金の熱処理後のXRDパターンである。
【
図10a】
図10a〜
図10eは、本発明の様々な実施例の製造過程のうちFe系軟磁性合金の熱処理前の初期合金状態におけるVSMグラフである。
【
図10b】
図10a〜
図10eは、本発明の様々な実施例の製造過程のうちFe系軟磁性合金の熱処理前の初期合金状態におけるVSMグラフである。
【
図10c】
図10a〜
図10eは、本発明の様々な実施例の製造過程のうちFe系軟磁性合金の熱処理前の初期合金状態におけるVSMグラフである。
【
図10d】
図10a〜
図10eは、本発明の様々な実施例の製造過程のうちFe系軟磁性合金の熱処理前の初期合金状態におけるVSMグラフである。
【
図10e】
図10a〜
図10eは、本発明の様々な実施例の製造過程のうちFe系軟磁性合金の熱処理前の初期合金状態におけるVSMグラフである。
【
図11a】
図11a〜
図11eは、本発明の様々な実施例によるFe系軟磁性合金の熱処理後のVSMグラフである。
【
図11b】
図11a〜
図11eは、本発明の様々な実施例によるFe系軟磁性合金の熱処理後のVSMグラフである。
【
図11c】
図11a〜
図11eは、本発明の様々な実施例によるFe系軟磁性合金の熱処理後のVSMグラフである。
【
図11d】
図11a〜
図11eは、本発明の様々な実施例によるFe系軟磁性合金の熱処理後のVSMグラフである。
【
図11e】
図11a〜
図11eは、本発明の様々な実施例によるFe系軟磁性合金の熱処理後のVSMグラフである。
【
図12】
図12は、熱処理時間を異にして製造された本発明の様々な実施例によるFe系軟磁性合金の熱処理後のVSMグラフである。
【
図13a】
図13a〜
図13cは、熱処理時間を異にして製造された本発明の様々な実施例によるFe系軟磁性合金のVSMグラフである。
【
図13b】
図13a〜
図13cは、熱処理時間を異にして製造された本発明の様々な実施例によるFe系軟磁性合金のVSMグラフである。
【
図13c】
図13a〜
図13cは、熱処理時間を異にして製造された本発明の様々な実施例によるFe系軟磁性合金のVSMグラフである。
【
図14a】
図14a〜
図15cは、昇温速度を異にして製造された本発明の様々な実施例によるFe系軟磁性合金のVSMグラフである。
【
図14b】
図14a〜
図15cは、昇温速度を異にして製造された本発明の様々な実施例によるFe系軟磁性合金のVSMグラフである。
【
図14c】
図14a〜
図15cは、昇温速度を異にして製造された本発明の様々な実施例によるFe系軟磁性合金のVSMグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施例について本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施することができるように詳細に説明する。本発明は、様々な異なる形態で具現され得、ここで説明する実施例に限定されない。
【0044】
本発明によるFe系軟磁性合金は、実験式Fe
aB
bC
cCu
dで表示される合金であり、前記実験式でa、b、cおよびdは、当該元素のat%(atomic percent)であり、78.5≦a≦86、13.5≦b+c≦21、0.5≦d≦1.5を満たす。
【0045】
まず、前記Feは、磁性を発現させる合金の主元素であって、飽和磁束密度の向上のために、Feは、78.5at%以上で合金内に含まれる。もし、Feが78.5at%未満である場合、目的とする水準の飽和磁束密度を具現しないことがある。また、Feは、86at%以下で合金内に含まれるが、もし、Feが合金内86.0at%を超過して含まれる場合、初期合金製造のための液体急冷時に初期合金の結晶相を非晶質相で製造しにくいことがあり、初期合金に生成された結晶は、特性変化のための熱処理工程で均一な結晶性長を妨害し、生成された結晶のサイズが過度に大きくなることに伴って、保磁力が増加するなど磁気損失が増加し得る。
【0046】
次に、前記実験式でBとCは、非晶質形成能を有する元素であって、これらの元素を用いて初期合金を非晶質相で形成させることができる。また、C元素は、B元素と組合わせられることにより、B元素のみを含む場合に比べて生成されるα−Fe結晶の粒度を目的とする水準で制御することに容易であり、初期合金の熱的安定性を向上させて、熱処理時に均質なα−Fe結晶を収得するのに有利であるという利点がある。もし、B元素とC元素の総和が合金内13.5at%未満である場合、製造された初期合金が結晶質であり得、初期合金内結晶は、磁気的特性変化のための熱処理時に生成される結晶の均一な成長を難しくし、粗大化した粒径を有する結晶が含まれ得、そのため、磁気損失が増加し得る。また、合金内C元素およびB元素の総和が21at%を超過して含まれる場合、熱処理後にナノ結晶粒の合金で製造するために、後述するCu元素の含量をさらに増加させなければならないことに伴って、相対的に合金内Fe元素の含量がさらに低下し得、これに伴って、目的とする水準の飽和磁束密度を具現しないことがある。また、α−Fe結晶以外にFeがBおよび/またはCと化合物を形成することが容易になり、形成された化合物の量が多くなることに伴って、飽和磁束密度など磁性特性が減少し得る。
【0047】
次に、前記実験式でCuは、合金においてα−Fe結晶を生成させることができる核生成サイトとしての役割を担当する元素であって、非晶質相の初期合金がナノ結晶粒合金で容易に具現されるようにする。前記Cu元素は、初期合金の結晶相が非晶質でありながらも、熱処理後に生成された結晶がナノ結晶粒になるようにし、目的とする物性の顕著な発現のために、合金内0.5〜1.5at%で含まれ、好ましくは合金内0.5〜1.1at%で含まれ得る。もし、前記Cu元素が合金内0.5at%未満で含まれる場合、製造される合金の比抵抗が大きく減少して渦電流による磁気損失が大きくなり得、熱処理された合金に目的とする水準でα−Feのナノ結晶粒が生成されず、結晶が生成された場合、生成された結晶の粒径の制御が容易でないことがある。また、もし、Cu元素が合金内1.5at%を超過して含まれる場合、製造された初期合金の結晶相が結晶質であり得、初期合金で既に生成された結晶は、熱処理時に生成される結晶の粒度を不均一し、目的とする水準以上のサイズで成長した結晶が合金に含まれ得、そのため、磁気損失が増加するなど目的とする水準の磁気的特性を発現しないことがある。また、前述したFe、B、C元素の含量が相対的に減少することに伴って、当該元素による効果が減少し得る。
【0048】
一方、本発明によるFe系軟磁性合金の組成には、通常のFe系軟磁性合金に含まれるSi元素が含まれない。前記Si元素は、Fe系合金の非晶質形成能を向上させると同時に、生成されるα−Fe結晶の粒径の均一化に助けになる。ただし、前記Siを合金内含ませる場合、Fe以外の半金属、例えばB、C、Cuの含量を減少させたり、Feの含量を減少させなければならない問題があり、Feの含量の減少は、高飽和磁束密度のFe系合金の具現を難しくする。これに伴って、本発明のFe系合金は、Si元素を含まない代わりに、Fe元素の含量を増加させて高飽和密度を具現するが、Si元素が含まないので、合金内結晶の粒径の制御が非常に困難で、均一な粒径を有する合金の製造が非常に容易でない不利さも同時に内在している。このような不利さを解決するために、本発明は、合金内鉄の含量によってB元素とC元素を適宜調節して製造された初期合金の熱処理時にFe−C系化合物が適正な水準で生成され得、これにより、Si元素が含まないにもかかわらず、α−Fe結晶の粒径の制御を目的とする水準で達成できるようにする。
【0049】
ただし、前記実験式で鉄の含量であるaが、82at%を境界にbとcの含量の和とこれら間の関係が変わり得るが、aが82at%以上、すなわち、aが82〜86at%であるとき、bとcは、和が13.5〜17.5at%であり、下記の数式1による値が0.38〜28.5であり得る。また、前記実験式でaが82at%未満、すなわちaが78.5〜82.0at%未満であるとき、bとcは、和が16.5at%超過〜21at%であり、下記数式3の値が0.67以上であり得る。
【0050】
まず、前記実験式でaが82〜86at%であるときについて説明すれば、もし、aが82〜86at%であるとき、bとcの和が17.5at%を超過すれば、Cuの含量であるd値が相対的に少なくなって、製造された初期合金が非晶質相で製造されても、製造された初期合金を熱処理時に、粒径が小さく且つ均一な結晶を生成させることが難しくなり、これにより、製造されたFe系軟磁性合金の磁気損失が大きくなり得る恐れがある。
【0051】
また、aが82〜86at%であるとき、bとcは、和が13.5〜17.5at%であると同時に、下記数式1による値が0.38〜28.5であり得るが、これにより、製造された初期合金の結晶相が非晶質で具現されるのに有利であり、熱処理された後に生成された合金内結晶のうちα−Fe、およびFeとB、CおよびCuのうち少なくとも一つの元素間形成される金属間化合物の含量が適宜調節されることに伴って、大きい飽和磁束密度を発現すると同時に、保磁力など磁気損失が少なくなって、高効率の磁性特性を発現することができ、高周波で優れた磁気的特性を発現することができる。
【0052】
[数式1]
【数1】
【0053】
もし、前記数式1による値が0.38未満である場合、製造された初期合金の結晶相が結晶質であり得、この場合、熱処理時に粗大な結晶が容易に生成されることに伴って、磁気損失が大きくなり得、特に高周波で磁気損失が顕著に増加する恐れがある。また、初期合金が結晶質ではないとしても、熱処理後に生成された結晶のうちFeとC間化合物の量が過度に多くなることに伴って、磁気特性の低下を招くことができる。また、もし、前記数式1による値が28.5を超過する場合、合金内Bに比べてCの含量が相対的に大きく減少することに伴って、初期合金の熱的安定性が低下して熱処理時にα−Feの結晶以外にFe−B系金属間化合物の生成が顕著に増加できることに伴って、熱処理工程の制御が非常に困難になることがあり、初期合金または熱処理後に合金の飽和磁束密度が減少したり、磁気損失が増加し得る問題があり、生成されるα−Fe結晶の粒度を目的とする水準で制御することが困難になり得るので、均一な粒度を有するα−Fe結晶を含む磁性材料を製造できないことがある。
【0054】
一方、前記数式1による値は、より好ましくは0.65〜16.1であり得るが、もし、数式1による値が0.65未満である場合、非晶質相の形成が不可能なことがあり、そのため、軟磁性材料の特性を失う恐れがある。
【0055】
また、数式1による値が16.1を超過する場合、初期合金を非晶質相で製造しにくいことがあり、初期合金が非晶質相で具現される場合にも、熱処理後に生成された結晶が粗大化され得、軟磁性材料の特性を失うことができる。
【0056】
また、aが82〜86at%であるとき、C元素は、合金内1〜4at%で含まれ得る。もし、C元素が合金内1at%以下で含まれる場合、初期合金を非晶質相で製造しにくくて、このために、前述したB元素を増加させる場合、初期合金の熱的安定性が低下する2次問題を誘発することができる。また、製造された初期合金の熱処理時に生成されるα−Fe結晶の粒度の制御が困難になり、均一な粒度を有するα−Fe結晶を有する磁性材料を製造できないことがある。また、もし、C元素が合金内4at%を超過して含まれる場合、相対的にBの含量が減少して、初期合金で30nm以上の粒径を有するα−Fe結晶が生成され得、このような初期合金の結晶は、熱処理工程でα−Fe結晶の粒度の制御を難しくする問題がある。また、初期合金でFeとC間の金属間化合物が生成され得るので、熱処理時に生成されるα−Fe結晶の合金内の量が目的とする水準より少ないことがある。さらに、保磁力が増加して磁気損失が大きいことに伴って、目的とする水準の磁気的特性が発現しないので、小型化した磁性材料として応用が難しいことがある。
【0057】
また、aが82〜86at%であるとき、前記実験式でaおよびdは、下記数式2による値が2.92〜3.70であり得、これにより、初期合金が非晶質相であり得、初期合金の熱処理後に生成された結晶がナノ結晶粒であると同時に、均一な粒度分布を有するのに有利である。もし、下記数式2による値が2.92未満である場合、初期合金に結晶が生成されて、熱処理後に均一な粒度の結晶を収得することが難しくなり、粗大化した結晶が生成され得、そのため、磁気損失が増加できるなど目的とする水準の磁気的特性を発現できないことがある。また、下記数式2による値が3.70を超過する場合、製造される合金の比抵抗が大きく減少して渦電流による磁気損失が大きくなり得、熱処理された合金に目的とする水準でα−Feのナノ結晶粒が生成されず、結晶が生成された場合、生成された結晶の粒径の制御が容易でないことがある。
【0058】
[数式2]
【数2】
【0059】
次に、前記実験式でaが78.5〜82.0at%未満であるときについて説明する。aが78.5〜82.0at%未満であるとき、bとcの和は、1
7.5at%超過〜21at%であり得るが、もし、bとcの和が1
7.5at%以下であれば、初期合金が結晶質であり得、初期合金で既に生成された結晶は、熱処理時に生成される結晶の粒度を不均一にし、目的とする水準以上のサイズで成長した結晶が合金に含まれ得、そのため、磁気損失が増加するなど目的とする水準の磁気的特性を発現しないことがある。また、前述したFe、B、C元素の含量が相対的に減少することに伴って、当該元素による効果が減少し得る。
【0060】
また、下記数式3の値が0.67以上であり、より好ましくは0.85〜200であり得、これにより、製造された初期合金が非晶質になるのに有利であり、熱処理後に生成される結晶の粒度が均一であり、α−Feの含量とFeとBやC間金属間化合物の含量が適宜維持され得るので、Feの含量が多少低くなっても、低い保磁力を通じて優れた磁気的特性を発現することができる。
【0061】
[数式3]
【数3】
【0062】
もし、前記数式3の値が0.67未満である場合、初期合金または熱処理後に合金内Fe−C間化合物の含量が急増し得、熱処理後に均一な粒度分布を有する結晶の生成を難しくすることができ、そのため、飽和磁束密度の低下および/または保磁力の上昇を誘発して、磁気的特性を阻害することができる。ただし、もし、前記数式3の値が200を超過する場合、初期合金の熱的安定性が低下して、熱処理時にα−Feの結晶以外にFe−B系金属間化合物の生成が顕著に増加できることに伴って、熱処理工程の制御が非常に困難になり得、初期合金または熱処理後に合金の飽和磁束密度が減少したり、磁気損失が増加し得る問題があり、生成されるα−Fe結晶の粒度を目的とする水準で制御することが容易でないので、均一な粒度を有するα−Fe結晶を生成させにくいことがある。
【0063】
また、aが78.5〜82.0at%未満であるとき、前記実験式でaおよびdは、下記数式4の値が8.3〜12.8であり得る。これにより、初期合金が非晶質相であり得、初期合金の熱処理後に生成された結晶がナノ結晶粒であると同時に、均一な粒度分布を有するのに有利である。もし、下記数式4による値が8.3未満である場合、初期合金に結晶が生成される恐れがあり、熱処理後に均一な粒度の結晶を収得することが難しくなり、粗大化した結晶が生成され得、そのため、磁気損失が増加し得るなど目的とする水準の磁気的特性を発現できないことがある。また、下記数式4による値が12.8を超過する場合、製造された初期合金が非晶質相で製造されても、製造される合金の比抵抗が大きく減少して渦電流による磁気損失が大きくなり得、熱処理された合金に目的とする水準でα−Feのナノ結晶粒が生成されず、結晶が生成された場合、生成された結晶の粒径の制御が容易でないので、粒径が小さくて且つ均一な結晶を生成させにくいことがあり、そのため、製造されたFe系軟磁性合金の磁気損失が大きくなり得る恐れがある。
【0064】
[数式4]
【数4】
【0065】
前述した本発明の一実施例によるFe系軟磁性合金は、結晶相が非晶質または結晶質であり得、または非晶質領域と結晶質領域を全部含む異形の原子配列構造であり得る。
【0066】
この際、前記非晶質相を有するFe系軟磁性合金は、熱処理されない初期合金であり得る。また、前記結晶質相を有するFe系軟磁性合金は、初期合金を熱処理した後の合金であり得、前記結晶質相は、ナノ結晶粒であり得、前記ナノ結晶粒の平均粒径は、30nm以下、好ましく25nm以下、より好ましくは22nm以下、さらに好ましくは16〜22nmであり得る。また、前記異形の原子配列構造は、初期合金または熱処理した後の合金における構造であり得る。この際、異形の原子配列構造が初期合金状態では、結晶質の化合物は、平均粒径が10nm以下の微細な粒径を有し得る。また、前記異形の原子配列構造が熱処理した後の合金状態の場合、結晶質相は、ナノ結晶粒であり得、前記ナノ結晶粒の平均粒径は、30nm以下、好ましく25nm以下、より好ましくは16〜22nm以下であり得る。
【0067】
本発明の一実施例によるFe系軟磁性合金が異形の原子配列構造の場合、非晶質領域および結晶質領域が5.5:4.5〜1:9の体積比を有し得る。もし、非晶質領域および結晶質領域が5.5:4.5の体積比を超過して非晶質領域がさらに多くなる場合、目的とする水準の飽和磁束密度など目的とする磁気的特性を発現させないことがある。また、もし、非晶質領域および結晶質領域が1:9の体積比未満で結晶質領域がさらに多くなる場合、生成された結晶のうちα−Fe結晶以外他の化合物の結晶生成が増加し得、目的とする磁気的特性を発現できないことがある。
【0068】
前述したFe系軟磁性合金は、熱処理前状態における形状が粉末、ストリップ、リボンであり得るが、これに制限されるものではなく、最終磁性材料の形状、熱処理工程などを考慮して適宜変形され得る。また、前記Fe系軟磁性合金は、熱処理後の形状がリボンまたはロッド型であり得、前記ロッド型の断面は、多角形、円形、楕円形であり得るが、これに制限されるものではない。
【0069】
一方、本発明の他の実施例による実験式Fe
aB
bC
cCu
dで表示されるFe系合金は、平均粒径が30nm以下のナノ結晶粒を含み、前記実験式でa、b、cおよびdは、当該元素のat%(atomic percent)であり、78.5≦a≦86、13.5≦b+c≦21、0.5≦d≦1.5を満たす。
【0070】
前記実験式Fe
aB
bC
cCu
dでそれぞれの元素とその含量に対する説明は、前述したものと同一である。このような実験式を有し、ナノ結晶粒を含むFe系合金は、非晶質の初期合金で製造された後に熱処理されたものであり得、熱処理後に生成された結晶の平均粒径が30nm以下である。もし、ナノ結晶粒の平均粒径が30nmを超過する場合、保磁力が増加するなど目的とする磁気的特性を全部満足させることができないことがある。前記ナノ結晶粒の平均粒径は、好ましくは25nm以下、より好ましくは平均粒径が16〜22nmであり得る。
【0071】
一方、本発明の他の実施例による実験式Fe
aB
bC
cCu
dで表示されるFe系合金は、α−Fe、およびFeとB、CおよびCuのうち少なくとも一つの元素間形成される金属化合物を含み、前記実験式でa、b、cおよびdは、当該元素のat%(atomic percent)であり、78.5≦a≦86、13.5≦b+c≦21、0.5≦d≦1.5である。
【0072】
前記実験式Fe
aB
bC
cCu
dでそれぞれの元素とその含量に対する説明は、前述したものと同一である。前記Fe系合金は、α−Fe以外にFeとB、CおよびCuのうち少なくとも一つの元素間形成される金属化合物を含むが、このような金属化合物を通じて結晶の粒径が目的とする水準で制御されたFe系合金であり得る。すなわち、合金内一定含量生成されたFeと他の半金属間の化合物は、α−Feが目的とする粒径を超過して粗大化することを防ぐ防壁の役割をし、さらに均一な粒径分布のα−Feを含むFe系合金で具現され得る。
【0073】
前記α−Feおよび前記金属化合物は、適正の割合で含まれ、これにより、生成されたα−Feの粒径が目的とする水準で均一に制御され、粗大化したα−Feの生成を抑制することができる。また、具現された合金の均質性が向上する利点がある。
【0074】
前記FeとB、CおよびCuのうち少なくとも一つの元素間形成される金属化合物は、Fe−B化合物およびFe−C化合物のうちいずれか一つ以上を含むことができる。ただし、Fe−B化合物を含むFe系合金は、Fe−C化合物を含むFe系合金に比べて熱的に劣悪し得、生成された結晶内α−Feの含量が少ない金属であり得ることに伴って、均質ある合金を製造できず、目的とする物性を全部発現できない問題がある。これに伴って、より好ましくは金属化合物としてFe−C化合物を含むことができ、これにより、合金の熱的安定性が向上して、さらに均一なα−Feを有する合金が製造されることが容易であり得る。前記Fe−C化合物は、F
3C、Fe
93C
7およびFe
4C
0.63のうちいずれか一つ以上を含むことができる。
【0075】
また、本発明の一実施例によれば、Fe系軟磁性合金は、下記関係式1による結晶化した面積値が45〜90%であり得、より好ましくは53〜83%であり得る。
【0076】
[関係式1]
【数5】
【0077】
この際、前記面積は、Fe系軟磁性合金に対する0〜90°アングル(2θ)でX線回折(XRD)分析時に測定された結晶質領域または非晶質領域に対する積分値を意味する。
【0078】
前記結晶化した面積値が45〜90%を満たすことにより、α−FeおよびFeと他の金属間化合物、例えばFe−C系化合物の結晶が適切な割合で生成されることに伴って、目的とする物性を満足させるのにさらに有利であり得る。もし、結晶化した面積値が45%未満である場合、飽和磁束密度が低いため、優れた磁気的特性発現が困難になり得、合金を利用した磁性部品の製作時に磁気的特性が変動する恐れがある。また、もし、結晶化した面積値が90%を超過する場合、Fe−C系化合物など他の金属間の化合物結晶の生成が大きく増加して飽和磁束密度が低くなり、保磁力など磁気損失は増加し得るので、目的とする水準の物性を発現しないことがある。
【0079】
前述した本発明の一実施例によるFe系軟磁性合金は、初期合金状態で飽和磁束密度が1.5T以上であり得、適宜熱処理された後には、1.71T以上であり得、保磁力は、500A/m以下、より好ましくは250A/m以下、さらに好ましくは185A/m以下であって、磁気損失が少ないため、部品を小型化させるのに適合し得る。
【0080】
前述した本発明の一実施例に含まれるFe系軟磁性合金は、後述する製造方法で製造され得るが、これに制限されるものではない。
【0081】
本発明の一実施例に含まれるFe系初期合金は、前述したFe系合金の実験式を満たすように、それぞれの元素を含む母材が称量されて混合されたFe系合金形成組成物またはFe系母合金を溶融後に急冷凝固させて製造することができる。前記急冷凝固時に使用される具体的な方法により製造されるFe系初期合金の形状が変わり得る。前記急冷凝固に使用される方法は、通常の公知された方法を採用できるので、本発明は、これに特に限定しない。ただし、これに関する非制限的な例として、前記急冷凝固は、溶融したFe系母合金またはFe系合金形成組成物が噴射される高圧ガス(例えば、Ar、N
2、Heなど)および/または高圧水を介して粉末状で製造されるガス噴射法(automizing法)、溶融金属を速く回転する円板を利用して粉末状を製造する遠心分離法、速い速度で回転するロールによりリボンが製造されるメルトスピニング法などがある。このような方法により形成されるFe系初期合金の形状の形状は、粉末、ストリップ、リボンであり得る。また、前記Fe系初期合金内原子配列は、非晶質相であり得る。
【0082】
一方、前記Fe系初期合金の形状は、バルクであってもよい。Fe系初期合金の形状がバルクである場合、前述した方法により形成された非晶質Fe系合金の粉末が通常的に知られた方法、例えば合体法および凝固法等を用いてバルク非晶質合金で製造され得る。前記合体法に関する非制限的な例として、衝撃固化(shock consolidation)、爆発成形(explosive forming)、粉末焼結(sintering)、熱間押出および圧延(hot extrusion and hot rolling)等の方法が使用できる。これらのうち衝撃固化法について説明すれば、衝撃固化法は、粉末合金重合体に衝撃波を加えることにより、波動が粒子境界に沿って伝達され、粒子の界面でエネルギー吸収が起こり、この際、吸収されたエネルギーが粒子の表面に微細な溶融層を形成することにより、バルク非晶質合金を生産することができる。この際、生成された溶融層は、粒子内部への熱伝達を通じて非晶質状態を維持できるように十分に速く冷却されなければならない。この方法により非晶質合金本来密度の99%までの充填密度を有するバルク非晶質合金を製造することができ、十分な機械的特性を得ることができる利点がある。また、前記熱間押出および圧延法は、高温で非晶質合金の流動性を利用したものであって、非晶質合金粉末をTg近くの温度まで加熱して圧延し、圧延成形後に急冷させることにより、十分な密度と強度を有するバルク非晶質合金を製造することができる。一方、前記凝固法には、銅合金モルド鋳造法(copper mold casting)、高圧ダイカスト(high pressure die casting)、アーク溶解(arc melting)、一方向溶解(unidirectional melting)、スクイズキャスティング(squeez casting)、ストリップキャスティングなどがあり得、それぞれの方法は、公知された方法および条件を採用できるので、本発明は、これに特に限定しない。一例として、前記銅合金モルド鋳造法は、溶湯を高い冷却能を有する銅金型に前記金型内部と外部との圧力差を利用して前記金型の内部に溶湯を注入する吸入法または一定の圧力を外部から加えて溶湯を注入する加圧法を利用する方法であって、加圧または吸入により高速で銅金型に注入される溶湯が金属凝固されることにより、一定のバルク形状の非晶質であるFe系初期合金が製造され得る。
【0083】
次に、製造されたFe系初期合金について熱処理を行うことができる。
【0084】
前記熱処理は、Fe系初期合金の原子配列を非晶質から結晶質に変態させる段階であって、前記熱処理を通じてα−Feを含むナノ結晶粒を生成させることができる。ただし、第2段階で熱処理される温度、昇温速度および/または処理時間などによって生成される結晶のサイズが目的とする水準以上で成長することができることに伴って、熱処理条件の調節が結晶粒径の制御において非常に重要である。特に本発明によるFe系初期合金の組成は、結晶のサイズ成長を防げる防壁の機能を担当するNbなどの元素を含まないので、通常の熱処理条件では、目的とする水準、一例として30nm以下、好ましく25nm以下になるように、ナノ結晶粒の粒径を制御しにくく、大量生産が困難になり得る。
【0085】
具体的に、前記熱処理は、200〜410℃の熱処理温度、より好ましくは280〜410℃の熱処理温度で40〜100秒間行われ得るが、熱処理温度の条件は、組成によって異なり得るが、熱処理温度が200℃未満である場合、ナノ結晶粒が生成されないか、または少なく生成され得、この場合、磁気的特性が低いFe系軟磁性合金が製造され得る。また、もし、前記熱処理温度が410℃を超過する場合、合金内生成される結晶の粒径が粗大化し得、生成される結晶の粒径分布が非常に広くなって粒径の均一性が低下し、α−Fe以外にFeと他の金属間化合物の結晶が過度に生成されて、α−Feの均一なナノ結晶質であるFe系合金を収得できないことがある。
【0086】
また、本発明の一実施例によれば、前記熱処理温度までの昇温速度で生成されるナノ結晶粒の粒径の制御に大きい影響を及ぼし、一例として、常温から熱処理温度までの昇温速度は、90℃/min以下、より好ましくは28〜80℃/min以下であり得る。通常、非晶質合金から結晶質合金に変態させるための熱処理工程における昇温速度は、高速昇温、一例として100℃/min以上の場合に、小さくて且つ均一な粒径の結晶を収得するのに有利であると知られているが、本発明によるFe系合金の場合、通常の傾向とは異なって90℃/min以下の昇温速度でゆっくり昇温させた後、目的とする熱処理温度で熱処理を行う場合にのみ、生成される結晶の粒径が平均粒径に近いように均一に生成されるのに有利であり得る。もし、熱処理時に温度までの昇温速度が90℃/minを超過する場合、生成される結晶の粒度分布を目的とする水準で制御しない問題点がある。ただし、昇温速度があまり低い場合、熱処理工程に所要する時間が長期化し、結晶の生成および成長の時間が長くなることに伴って、結晶が粗大化し得る。
【0087】
一方、高速昇温についてさらに説明すると、昇温速度が高い場合、均一な粒径の結晶の生成に役に立つことがあるが、本発明によるFe系軟磁性合金は、組成にSi元素など均一なナノ結晶粒の生成を助ける元素や結晶性長の防壁の役割を行うNb元素などを含んでいないので、粒径の制御が非常に容易でないことがある。これにより、高温昇温に比べて90℃/min以下の昇温が好ましく、これにより、適正な含量でFe−C間化合物が生成およびα−Feの結晶のサイズを制御することに伴って、目的とする均一な粒径のα−Feを製造するのに有利である。また、低温昇温をすることに伴って、大量生産にさらに適合し得、製造コストの削減に利得がある。
【0088】
また、前記第2段階で熱処理温度で熱処理される時間は、40〜100秒間行われ得る。前記熱処理時間は、行われる熱処理温度によって変更され得るが、もし、40秒未満で熱処理される場合、目的とする水準で結晶質への変態が行われないことがあり、もし、100秒を超過して熱処理される場合、生成される結晶の粒径が粗大化する問題がある。
【0089】
一方、前記第2段階は、熱以外に圧力および/または磁場をさらに付加して行われることもできる。このような付加的な処理を通じて、特定の一方向への磁気的異方性を有する結晶を生成するようにすることができる。この際に加えられる圧力または磁場の程度は、目的とする物性の程度によって変わり得るので、本発明では、これを特に限定しせず、公知された条件を採用して行っても構わない。
【0090】
また、前記磁心は、磁気コア機能の実行のために磁心の外部に巻き取られるコイルと共にコイル部品で具現され得、前記コイル部品は、レーザー、トランス、インダクター、モーターや発電機などの部品に応用され得る。
【発明を実施するための形態】
【0091】
下記の実施例により本発明をさらに具体的に説明することとするが、下記実施例が本発明の範囲を制限するものではなく、これは、本発明の理解を助けるものと解釈されるべきである。
【0092】
<実施例1>
実験式Fe
85.3B
13C
1Cu
0.7で表示されるFe母合金が製造されるように、Fe、B、CおよびCuの原料を称量した後、アーク溶解法を利用してFe母合金を製造した。その後、製造されたFe母合金を溶融させた後、Ar雰囲気で60m/sの速度でメルトスピニングを通じて10
6K/secの速度で急速冷却させて、厚さが約20μm、幅が約2mmであるリボン形状のFe系軟磁性初期合金を製造した。
【0093】
その後、製造されたFe系軟磁性初期合金に対して常温で80℃/minの昇温速度で熱処理して、350℃で1分間維持させて、下記表1のようなFe系軟磁性合金を製造した。
【0094】
<実施例2〜52>
実施例1と同一に実施して製造するものの、実験式の組成、および/または熱処理条件を下記表1〜表5のように変更して、下記表1〜表5のようなFe系軟磁性初期合金およびFe系軟磁性合金を製造した。
【0095】
<比較例1〜
6、8〜9>
実施例1と同一に実施して製造するものの、実験式の組成、および/または熱処理条件を下記表6のように変更して、下記表6のようなFe系軟磁性初期合金およびFe系軟磁性合金を製造した。
【0096】
<実験例1>
実施例1〜52で製造された初期合金および熱処理された後の合金の組成について、Feの含量によって下記数式1および数式2または数式3および数式4を計算して、その数値を下記表1〜表5に記載した。
【0097】
(1)実験式でaは、82〜86at%であるとき、数式1および数式2
【0100】
(2)実験式でaは、78.5〜82.0at%未満であるとき、数式3および数式4
【0103】
<実験例2>
実施例1〜52と比較例1〜
6、8〜9で製造された初期合金および熱処理された後の合金について下記の物性をそれぞれ評価して、下記表1〜表6に示した。
【0104】
1.結晶構造の分析
製造された初期合金および熱処理された後の合金に対する結晶相と生成された結晶の平均粒径および結晶化面積値を確認するためにXRDパターンおよびTEMを分析した。
【0105】
分析された結果のうち実施例1〜5に対する初期合金のXRDパターンを
図1に示し、実施例6〜10に対する初期合金のXRDパターンを
図2に示し、比較例1〜5に対する初期合金のXRDパターンを
図3に示した。また、実施例1で熱処理されたFe系軟磁性合金のXRDパターンを
図4aおよび
図4bに示し、実施例2で熱処理されたFe系軟磁性合金のXRDパターンを
図5aおよび
図5bに示し、実施例5で熱処理されたFe系軟磁性合金のXRDパターンを
図6aおよび
図6bに示し、実施例38で熱処理されたFe系軟磁性合金のXRDパターンを
図7aおよび
図7bに示し、実施例42で熱処理されたFe系軟磁性合金のXRDパターンを
図8aおよび
図8bに示し、実施例51で熱処理されたFe系軟磁性合金のXRDパターンを
図9aおよび
図9bに示した。
【0106】
この際、結晶化した面積値は、下記の関係式1で計算した。
【0108】
また、平均粒径は、下記関係式2のようなシェラーの式(Scherrer formula)を通じて導き出した。
【0110】
ここで、Dは、結晶の平均粒径、βは、最大強さを有するピークの半値幅、θは、最大強さのピークを有する角度を意味する。
【0111】
図1〜
図3から分かるように、実施例1〜10は、非晶質の初期合金が具現されたことが確認することができるが、比較例1〜5は、結晶質の初期合金が生成されたことが確認することができる。
【0112】
また、熱処理された後、Fe系軟磁性合金のXRDパターンに対する
図4b〜
図9bから、前記関係式2で計算された、生成結晶の平均粒径が16.5nm〜19nmであることが確認することができ、前記関係式1で計算された結晶化した面積値が60.1〜86.3%であることが確認することができる。
【0113】
2.磁気的物性の評価
保磁力および飽和磁化値を算出するために、振動試料型磁力計(VSM)を用いて800kA/mで評価した。このうち、実施例1〜5の初期合金でVSMグラフをそれぞれ
図10a〜
図10eに示し、実施例1〜5の熱処理された後、Fe系軟磁性合金に対するVSMグラフをそれぞれ
図11a〜11eに示した。また、375℃の熱処理温度で熱処理時間を異にして製造された実施例35、実施例38および実施例41に対するVSMグラフを
図12に示した。しかも、熱処理温度を異にして製造された実施例38、実施例42および実施例43に対するVSMグラフを
図13a〜
図13bに示し、昇温速度を異にして製造された実施例49、実施例50および実施例51に対するVSMグラフを
図14a〜
図14bに示した。
【0114】
図10a〜
図10eの初期合金におけるVSM結果から、熱処理前の初期合金でも飽和磁束密度が1.6T(
図10a)〜1.65(
図10c〜
図10e)以上であり、保磁力が83.34A/m以下である優れた磁気的特性を発現する合金が具現されたことが確認することができる。
【0115】
また、
図11a〜
図11eの熱処理された合金におけるVSM結果から、熱処理を通じて飽和磁束密度が1.80T(
図11c)〜1.93T(
図11b)であり、保磁力が163.37A/m以下であって、初期合金より向上した磁気的特性を発現する合金が具現されたことが確認することができる。
【0116】
一方、
図12から分かるように、熱処理時間が短い実施例35(10秒)および過度に長い実施例41(180秒)に比べて60秒で熱処理された実施例38がさらに高い飽和磁束密度および/または低い保磁力を有することが確認することができる。
【0117】
また、
図13a〜
図13cから分かるように、高い温度で熱処理された場合、
図13cの実施例43の場合、保磁力が
図13bの実施例42に比べて増加したことが確認することができる。
【0118】
また、
図14a〜
図14cから分かるように、昇温速度がそれぞれ30℃/m、55℃/m、80℃/mで高い飽和磁束密度および低い保磁力を有するFe系軟磁性合金が製造されたことが確認することができる。
【0119】
3.結晶粒径の観察
実施例1で熱処理された合金に対してTEM写真を撮影して、
図15aおよび
図15bに示した。
【0120】
観察結果、ナノ結晶粒が生成され、結晶の粒径が均一であることが確認することができる。
【0127】
表1〜表5から、実施例によるFe系軟磁性合金が、比較例によるFe系軟磁性合金に比べて高い飽和磁束密度および/または低い保磁力を発現することに伴って、磁気的物性に優れていることが確認することができる。
【0128】
また、実験式でaが82〜86at%に属する実施例11〜実施例24を参照すると、実施例11および実施例12の場合、数式1の値が0.38未満であることに伴って、初期合金で結晶が生成され、そのため、数式1を満たす実施例13〜実施例20に比べて保磁力が高くなったことが確認することができ、特に熱処理後に保磁力が顕著に増加したことが分かる。しかも、生成された結晶の粒径も30nmを超過して粗大になったことが確認することができる。また、数式1の値が28.5を超過する実施例21の場合、初期合金には、非晶質の合金が具現されたが、熱処理後に保磁力が顕著に増加したことが確認することができる。これは、結晶相がナノ結晶粒であり、結晶の平均粒径が28.4nmであるが、粗大な粒径の結晶が含まれることに伴って、実施例20に比べて保磁力が約4倍増加したものと予想され、合金内Bの含量が過多であるとき、粒径の制御が容易でないことが分かる。
【0129】
また、数式2の値が2.92未満である実施例22の場合、実施例23に比べて保磁力が大きいため、磁気損失が増加することが予想することができる。
【0130】
また、実験式でaが78.5〜82.0at%未満に属する実施例25〜実施例34を参照すると、数式3の値が0.67未満である実施例25の場合、実施例26に比べて保磁力が大きいことが確認することができる。
【0131】
また、数式4の値が8.3未満である実施例31の場合、実施例32〜34に比べて初期合金で結晶が生成され、熱処理後に保磁力が顕著に大きいことが確認することができる。
【0132】
また、375℃の熱処理温度で熱処理時間を異にして製造された実施例35〜実施例41で熱処理時間を40秒未満で行った実施例35および実施例36の場合、実施例37に比べて熱処理後の合金の飽和磁束密度が低いことが確認することができ、100秒を超過して熱処理した実施例40および実施例41の場合、実施例39に比べて保磁力が増加したことが確認することができる。
【0133】
また、熱処理時熱処理温度を異にして製造された実施例38、実施例42〜実施例47で熱処理温度が200℃未満である実施例44は、実施例45に比べて飽和磁束密度が低いFe系軟磁性合金が具現されたことが確認することができる。また、熱処理温度が410℃を超過した実施例43の場合、実施例42に比べて保磁力が増加したことが確認することができる。
【0134】
また、熱処理時に昇温速度を異にして製造された実施例48〜実施例52で昇温速度が25℃/mである実施例48の場合、保磁力が実施例49に比べて高いことが確認することができる。また、スンオク速度が95℃/mである実施例52の場合、実施例51に比べて保磁力が増加し、これは、結晶平均粒径が17nmであって、実施例51と類似しているか、結晶の粒度分布差異が原因であると予想され、実施例51がさらに均一な結晶粒度分布を有するものと予想される。
【0135】
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明の思想は、本明細書に提示される実施例に制限されず、本発明の思想を理解する当業者は、同じ思想の範囲内で、構成要素の付加、変更、削除、追加などにより他の実施例を容易に提案することができるが、これもまた本発明の思想範囲内に属すると言える。