(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記無機系脱水剤層が無水硫酸ナトリウムおよび無水硫酸マグネシウムのうちの少なくとも一つを含む層である、請求項1または2に記載のハロゲン化有機化合物の抽出方法。
前記有機溶媒が酢酸エチル、イソプロピルアルコール、エタノール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メタノール、メチルtert−ブチルエーテルおよびアセトンからなる群から選ばれた少なくとも一つである、請求項1から3のいずれかに記載のハロゲン化有機化合物の抽出方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、体液に含まれるハロゲン化有機化合物を簡単な操作により高効率で抽出できるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、体液に含まれるハロゲン化有機化合物を抽出するための方法に関するものである。この抽出方法は、アルカリ金属水酸化物およびアンモニアのうちの少なくとも一つを含む水溶液を体液に添加し、これを40〜90℃で加熱処理することで処理体液を調製する工程と、ケイ藻土層、無機系脱水剤層および硫酸シリカゲル層をこの順に含む処理層のケイ藻土層側の端部に処理体液と有機溶媒とを添加する工程と、処理体液と有機溶媒とを添加した処理層のケイ藻土層側の端部に脂肪族炭化水素溶媒を供給して処理層を通過させ、脂肪族炭化水素溶媒溶液を調製する工程とを含む。
【0008】
アルカリ水溶液を体液に添加し、これを上記温度範囲において加熱処理すると、体液中の脂肪球が分解され、脂肪球内に取り込まれていたハロゲン化有機化合物が解放される。このような前処理により調製された処理体液を有機溶媒とともに処理層のケイ藻土側の端部に添加し、当該端部に脂肪族炭化水素溶媒を供給すると、この脂肪族炭化水素溶媒は処理体液中のハロゲン化有機化合物を溶解しながら処理層を通過し、ハロゲン化有機化合物を含む脂肪族炭化水素溶媒溶液となる。この過程において、脂肪族炭化水素溶媒に混入した水分は、脂肪族炭化水素溶媒が無機系脱水剤層を通過するときに脂肪族炭化水素溶媒から分離される。また、ハロゲン化有機化合物とともに脂肪族炭化水素溶媒に溶解または混入した夾雑物は、脂肪族炭化水素溶媒がケイ藻土層および硫酸シリカゲル層を通過する際に脂肪族炭化水素溶媒から分離される。
【0009】
本発明に係る上述の抽出方法において用いられるアルカリ水溶液は、例えば、水酸化カリウム水溶液である。また、無機系脱水剤層は、例えば、無水硫酸ナトリウムおよび無水硫酸マグネシウムのうちの少なくとも一つを含む層である。さらに、処理体液とともに処理層のケイ藻土層側の端部に添加される有機溶媒は、例えば、酢酸エチル、イソプロピルアルコール、エタノール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メタノール、メチルtert−ブチルエーテルおよびアセトンからなる群から選ばれた少なくとも一つである。
【0010】
本発明に係る抽出方法において抽出可能なハロゲン化有機化合物は、ハロゲン化有機化合物全般であって特に制限されるものではなく、POPs条約において規定される残留性有機汚染物質の外、例えば、ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)、ポリ臭素化ビフェニル(PBB)ヘキサブロモシクロデカン(HBCD)、テトラブロモビスフェノールA(TBBPA)および2,4,6−トリブロモフェノール(TBP)などの臭素系難燃剤である。特に、本発明の抽出方法は、体液からダイオキシン類を抽出するのに適している。
【0011】
この出願において、「ダイオキシン類」は、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDDs)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)およびダイオキシン様ポリ塩化ビフェニル(DL−PCBs)を総称する用語として用いる。ここで、DL−PCBsは、209種類のポリ塩化ビフェニル類(PCBs)のうち、PCDDsおよびPCDFsと同様の毒性を示すPCBsを意味し、ノンオルソPCBsおよびモノオルソPCBsを含む。
【0012】
他の観点に係る本発明は、体液に含まれるハロゲン化有機化合物を抽出するための前処理方法に関するものである。この前処理方法は、アルカリ金属水酸化物およびアンモニアのうちの少なくとも一つを含むアルカリ水溶液を体液に添加し、これを40〜90℃で加熱処理する工程を含む。
【0013】
アルカリ水溶液を体液に添加し、これを上記温度範囲において加熱処理すると、体液中の脂肪球が分解され、脂肪球内に取り込まれていたハロゲン化有機化合物が解放される。このため、この前処理を施した体液は、ハロゲン化有機化合物の抽出効率が高まる。
【0014】
さらに他の観点に係る本発明は、体液に含まれるハロゲン化有機化合物の分析方法に関するものである。この分析方法は、本発明に係るハロゲン化有機化合物の抽出方法において調製した脂肪族炭化水素溶媒溶液に含まれるハロゲン化有機化合物を分析する。この分析方法によると、体液に含まれるハロゲン化有機化合物を纏めて分析することができる。
【0015】
さらに他の観点に係る本発明は、体液に含まれるダイオキシン類を分析するための試料の調製方法に関するものである。この調製方法は、本発明に係るハロゲン化有機化合物の抽出方法により調製された脂肪族炭化水素溶媒溶液を活性炭含有シリカゲル層とグラファイト含有シリカゲル層とにこの順に通過させる工程と、グラファイト含有シリカゲル層を通過した脂肪族炭化水素溶媒溶液をアルミナ層に通過させる工程と、脂肪族炭化水素溶媒溶液が通過したアルミナ層に対してダイオキシン類を溶解可能な抽出溶媒を供給し、アルミナ層を通過した抽出溶媒を第1の分析用試料として確保する工程と、脂肪族炭化水素溶媒溶液が通過した活性炭含有シリカゲル層およびグラファイト含有シリカゲル層に対してダイオキシン類を溶解可能な抽出溶媒を供給し、活性炭含有シリカゲル層およびグラファイト含有シリカゲル層を通過した抽出溶媒を第2の分析用試料として確保する工程とを含む。
【0016】
この調製方法において、体液から抽出されたダイオキシン類を含む脂肪族炭化水素溶媒溶液は、活性炭含有シリカゲル層とグラファイト含有シリカゲル層とをこの順に通過するとき、ダイオキシン類のうちのノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群が活性炭含有シリカゲル層またはグラファイト含有シリカゲル層に吸着される。一方、ダイオキシン類のうちのモノオルソPCBsは、脂肪族炭化水素溶媒溶液中に残留し、活性炭含有シリカゲル層およびグラファイト含有シリカゲル層を通過する。活性炭含有シリカゲル層およびグラファイト含有シリカゲル層を通過した脂肪族炭化水素溶媒溶液は、アルミナ層を通過するとき、残留するモノオルソPCBsがアルミナ層に吸着される。
【0017】
以上の結果、脂肪族炭化水素溶媒溶液中のダイオキシン類は、活性炭含有シリカゲル層またはグラファイト含有シリカゲル層に吸着したノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群と、アルミナ層に吸着したモノオルソPCBsとに分画される。したがって、アルミナ層を通過した抽出溶媒を確保することで得られる第1の分析用試料は、モノオルソPCBsの分析用試料として利用することができ、また、活性炭含有シリカゲル層およびグラファイト含有シリカゲル層を通過した抽出溶媒を確保することで得られる第2の分析用試料は、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群用の分析用試料として利用することができる。
【0018】
ダイオキシン類は、モノオルソPCBsの分析結果がノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群の影響を受け、また、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsの分析結果がモノオルソPCBsの影響を受ける場合があるが、この調製方法では上述の二種類の分析用試料を調製することができることから、ダイオキシン類の個々の分析精度を高めることができる。
【0019】
さらに他の観点に係る本発明は、体液に含まれるダイオキシン類の分析方法に関するものである。この分析方法は、本発明に係るダイオキシン類の分析用試料の調製方法において確保した第1の分析用試料および第2の分析用試料のそれぞれに含まれるダイオキシン類を分析する。この分析方法によると、体液に含まれるダイオキシン類を第1の分析用試料に含まれるものと第2の分析用試料に含まれるものとに分けて分析することができる。
【0020】
さらに他の観点に係る本発明は、体液に含まれるハロゲン化有機化合物を脂肪族炭化水素溶媒を用いて抽出するための抽出器に関するものである。この抽出器は、両端が開放されかつ一端が体液の導入口に設定された管体と、管体内に充填された、ケイ藻土層、無機系脱水剤層および硫酸シリカゲル層を導入口側からこの順に含む処理層とを備えている。この発明において、「体液」の範疇は、所要の前処理を施したもの(例えば、本発明に係る前処理方法を適用することで調製した処理体液。)を含む。
【0021】
体液を処理層のケイ藻土側の端部に添加し、当該端部に脂肪族炭化水素溶媒を供給すると、この脂肪族炭化水素溶媒は体液中のハロゲン化有機化合物を溶解しながら処理層を通過し、ハロゲン化有機化合物を含む脂肪族炭化水素溶媒溶液となる。この過程において、脂肪族炭化水素溶媒に混入した水分は、脂肪族炭化水素溶媒が無機系脱水剤層を通過するときに脂肪族炭化水素溶媒から分離される。また、ハロゲン化有機化合物とともに脂肪族炭化水素溶媒に溶解または混入した夾雑物は、脂肪族炭化水素溶媒がケイ藻土層および硫酸シリカゲル層を通過する際に脂肪族炭化水素溶媒から分離される。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る抽出方法は、体液に含まれるハロゲン化有機化合物を簡単な操作により高効率で抽出することができる。
【0023】
本発明に係る前処理方法は、体液に含まれる脂肪球を分解し、脂肪球内に取り込まれていたハロゲン化有機化合物を解放することができるため、体液からのハロゲン化有機化合物の抽出効率を高めることができる。
【0024】
本発明に係るハロゲン化有機化合物の分析用試料の調製方法は、体液に含まれるハロゲン化有機化合物の分析に適した分析用試料を調製することができる。
【0025】
本発明に係るハロゲン化有機化合物の分析方法は、本発明に係る抽出方法により体液から抽出したハロゲン化有機化合物を分析するため、分析結果の信頼性を高めることができる。
【0026】
本発明に係るダイオキシン類の分析用試料の調製方法は、体液に含まれるダイオキシン類の分析に適した分析用試料を調製することができる。
【0027】
本発明に係るダイオキシン類の分析方法は、本発明に係るダイオキシン類の分析用試料の調製方法により調製した分析用試料を分析するため、分析結果の信頼性を高めることができる。
【0028】
本発明に係る抽出器は、体液に含まれるハロゲン化有機化合物を簡単に高効率で抽出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1を参照して、本発明に係るハロゲン化有機化合物の抽出器の一形態を採用した、本発明に係るダイオキシン類の分析用試料の調製方法を実施するための調製装置の一形態を説明する。この調製装置は、体液に含まれるダイオキシン類を分析するために体液からダイオキシン類の分析用試料を調製するためのものである。なお、
図1は、調製装置を概念的に示したものに過ぎず、各部の構造、形状および大きさ等は実装置のそれらを反映したものではない。
【0031】
図1において、調製装置100は、処理装置200、加熱装置300、溶媒供給装置400、溶媒給排経路500、第1抽出経路600および第2抽出経路700を主に備えている。
【0032】
処理装置200は、起立状態で設置された管体210を備えている。管体210は、少なくとも耐溶媒性、耐薬品性および耐熱性を有する材料、例えば、これらの特性を備えたガラス、樹脂または金属等からなり、上部側の抽出部213(本発明に係るハロゲン化有機化合物の抽出器の一形態。)と下部側の分画部214とに分割可能である。
【0033】
抽出部213は、上端に体液の導入口211aを有し、下端に抽出液を排出するための排出口211bを有する、両端が開放した円筒状に形成されている。分画部214は、上端に開口212aを有し、下端にも開口212bを有する、両端が開放した円筒状に形成されている。抽出部213は、排出口211b付近を除いて分画部214よりも径が大きく設定されており、排出口211b付近の内外径は分画部214の内外径と一致するよう縮小されている。抽出部213と分画部214とは、それぞれの排出口211bと開口212aとが当接し、耐溶媒性および耐薬品性を有する筒状の連結具201により分離可能なように液密に結合している。
【0034】
分画部214は、2本の分岐路、すなわち、間隔をおいて設けられた第1分岐路215と第2分岐路216とを有しており、これらの分岐路215、216は先端が開口している。
【0035】
抽出部213は、内部に処理層220が充填されている。処理層220は、導入口211a側から順にケイ藻土層221、脱水剤層222、硫酸シリカゲル層223およびシリカゲル層224を配置した積層体である。
【0036】
ケイ藻土層221は、ケイ藻土からなるものであり、体液に混入しているハロゲン化有機化合物以外の夾雑成分の一部を吸着するためのものである。ここで用いられるケイ藻土は、通常、含有している有機物を加熱処理することで除去したもの、好ましくは、650℃程度の雰囲気下で2時間程度加熱処理したものであり、ケイ藻土層221において通液性を高める観点から粉末状のものよりも顆粒状のものが好ましく、特に、平均粒径が少なくとも100μm、好ましくは100〜800μmの粒状のものである。
【0037】
ケイ藻土層221におけるケイ藻土の充填密度は、特に限定されるものではないが、0.3〜0.5g/cm
3に設定するのが好ましく、0.35〜0.45g/cm
3に設定するのがより好ましい。
【0038】
脱水剤層222は、無機系の脱水剤からなるものであり、体液の水分を吸収するためのものである。ここで用いられる無機系の脱水剤は、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウムまたは無水炭酸カルシウムなどの公知のものであって特に限定されるものではないが、通常は無水硫酸ナトリウム若しくは無水硫酸マグネシウムまたはこれらの混合物を用いるのが好ましい。脱水剤は、平均粒径が50〜200μm程度の粒状のものが好ましい。
【0039】
脱水剤層222における脱水剤の充填密度は、特に限定されるものではないが、0.5〜2.0g/cm
3に設定するのが好ましく、1.0〜1.5g/cm
3に設定するのがより好ましい。
【0040】
硫酸シリカゲル層223は、硫酸シリカゲルからなり、脱水剤層222を通過した夾雑成分の少なくとも一部を分解または吸着するためのものである。ここで用いられる硫酸シリカゲルは、平均粒径が40〜210μm程度の粒状のシリカゲル(通常は加熱により活性度を高めた活性シリカゲル)の表面に濃硫酸を均一に添加することで調製されたものである。シリカゲルに対する濃硫酸の添加量は、通常、シリカゲルの重量の10〜130%に設定するのが好ましい。
【0041】
硫酸シリカゲル層223における硫酸シリカゲルの充填密度は、特に限定されるものではないが、0.3〜1.1g/cm
3に設定するのが好ましく、0.5〜1.0g/cm
3に設定するのがより好ましい。
【0042】
シリカゲル層224は、硫酸シリカゲル層223を通過した夾雑成分、硫酸シリカゲル層223と夾雑成分とが反応することで生成した分解生成物および硫酸シリカゲル層223から溶出する硫酸を吸着し、これらが分画部214へ移動するのを防止するためのものであり、平均粒径が40〜210μm程度の粒状のシリカゲルからなるものである。ここで用いられるシリカゲルは、加熱することで活性度を適宜に高めたものであってもよい。
【0043】
処理層220において、ケイ藻土層221(A)、脱水剤層222(B)、硫酸シリカゲル層223(C)およびシリカゲル層224(D)の体積比率は、特に限定されるものではない。但し、ケイ藻土層221の体積比率が小さいほど、それに応じて調製装置100に対して適用可能な体液量が少なくなることから、調製される分析用試料がダイオキシン類の検出下限値に満たない可能性がある。加えて、処理層220に対して添加した体液中の水分の一部がケイ藻土層221および脱水層222を通過して硫酸シリカゲル層223に作用し、処理層220において後記する脂肪族炭化水素溶媒の流通を阻害する可能性もある。このような観点から、各層の体積比率は、例えば、A:B:C:Dが20:2:18:1になるよう設定する。
【0044】
分画部214は、内部に吸着層230が充填されている。吸着層230は、抽出部213において体液から抽出されたダイオキシン類を分画するためのものであり、活性炭含有シリカゲル層241およびグラファイト含有シリカゲル層242を含む第1吸着層240と、アルミナ層251を含む第2吸着層250とを備えている。第1吸着層240と第2吸着層250とは、間隔を設けて分画部214内に充填されている。具体的には、第1吸着層240は、第1分岐路215と第2分岐路216との間において分画部214内に充填されており、第2吸着層250は、第2分岐路216と開口212bとの間において小径部214内に充填されている。
【0045】
第1吸着層240の活性炭含有シリカゲル層241は、第1吸着層240において開口212a側に配置されており、活性炭と粒状のシリカゲルとの混合物からなるものである。このような混合物は、活性炭とシリカゲルとを単純に混合することで得られる活性炭分散シリカゲルであってもよいし、珪酸ナトリウム(水ガラス)と活性炭との混合物を鉱酸と反応させることで得られる活性炭埋蔵シリカゲルであってもよい。活性炭は、市販の各種のものを用いることができるが、平均粒径が40〜100μm程度の粒状または粉末状であって、BET法により測定した比表面積が100〜1,200m
2/g、特に500〜1,000m
2/gのものが好ましい。活性炭分散シリカゲルにおけるシリカゲルは、シリカゲル層224と同様のものが用いられる。
【0046】
活性炭とシリカゲルとの混合物における活性炭の割合は、0.013〜5.0重量%が好ましく、0.1〜3.0重量%がより好ましい。活性炭が0.013重量%未満の場合または5.0重量%を超える場合は、第1吸着層240において、塩素数の多いPCDDsまたは塩素数の多いPCDFsの吸着能が低下する可能性がある。
【0047】
活性炭含有シリカゲル層241の充填密度は、特に限定されるものではないが、0.3〜0.8g/cm
3に設定するのが好ましく、0.45〜0.6g/cm
3に設定するのがより好ましい。
【0048】
第1吸着層240のグラファイト含有シリカゲル層242は、第1吸着層240において、活性炭含有シリカゲル層241に隣接して配置されており、グラファイトと粒状のシリカゲルとを単純に混合することで得られる混合物からなるものである。グラファイトは、市販の各種のものを用いることができるが、平均粒径が40〜200μm程度の粒状または粉末状であって、BET法により測定した比表面積が10〜500m
2/g、特に50〜200m
2/gのものが好ましい。また、シリカゲルは、シリカゲル層224と同様のものが用いられる。
【0049】
グラファイトとシリカゲルとの混合物におけるグラファイトの割合は、2.5〜50重量%が好ましく、5〜25重量%がより好ましい。グラファイトが2.5重量%未満の場合は、第1吸着層240において、ノンオルソPCBsの吸着能が低下する可能性がある。逆に、グラファイトが50重量%を超える場合は、第1吸着層240において、非DL−PCBs、特に、塩素数が1〜2の非DL−PCBsが吸着されやすくなる可能性がある。
【0050】
グラファイト含有シリカゲル層242の充填密度は、特に限定されるものではないが、0.2〜0.6g/cm
3に設定するのが好ましく、0.3〜0.5g/cm
3に設定するのがより好ましい。
【0051】
第1吸着層240において、活性炭含有シリカゲル層241とグラファイト含有シリカゲル層242との割合は、前者(A)に対する後者(B)の体積比(A:B)が1:1〜1:12になるよう設定するのが好ましく、1:1〜1:9になるよう設定するのがより好ましい。この体積比よりも活性炭含有シリカゲル層241の割合が少ない場合、第1吸着層240においてPCDDsおよびPCDFsの一部、特に、塩素数が8のPCDDsおよびPCDFsの吸着能が低下する可能性がある。逆に、活性炭含有シリカゲル層241の割合が多い場合は、第1吸着層240において、モノオルソPCBsが吸着されやすくなる可能性がある。
【0052】
第2吸着層250のアルミナ層251は、粒状のアルミナからなるものである。ここで用いられるアルミナは、塩基性アルミナ、中性アルミナおよび酸性アルミナのいずれのものであってもよい。また、アルミナの活性度は、特に限定されるものではない。アルミナは、平均粒径が40〜300μmのものが好ましい。
【0053】
アルミナ層251におけるアルミナの充填密度は、特に限定されるものではないが、0.5〜1.2g/cm
3に設定するのが好ましく、0.8〜1.1g/cm
3に設定するのがより好ましい。
【0054】
処理装置200の大きさは、調製装置100により処理する体液の量に応じて適宜設定することができるものであり、特に限定されるものではないが、例えば、体液量が1〜20mL程度の場合、抽出部213は、処理層220を充填可能な部分の大きさが内径10〜20mmで長さが100〜300mm程度に設定されているのが好ましく、また、分画部214は、内径3〜10mmで、第1吸着層240を充填可能な部分の長さが20〜80mm程度に、また、第2吸着層250を充填可能な部分の長さが20〜80mm程度に設定されているのが好ましい。
【0055】
加熱装置300は、抽出部213の外周を囲むように配置されており、処理層220のケイ藻土層221、脱水剤層222および硫酸シリカゲル層223の一部、すなわち、脱水剤層222近傍部分を加熱するためのものである。
【0056】
溶媒供給装置400は、第1溶媒容器410から管体210へ延びる第1溶媒供給路420を有している。第1溶媒供給路420は、抽出部213の導入口211aに対して着脱可能であり、導入口211aへ装着されたときに導入口211aを気密に閉鎖可能である。また、第1溶媒供給路420は、第1溶媒容器410側から順に、空気導入弁423、第1溶媒容器410に貯留された溶媒を管体210へ供給するための第1ポンプ421および第1弁422を有している。空気導入弁423は、一端が開放した空気導入路424を有する三方弁であり、流路を空気導入路424側または第1溶媒容器410側のいずれかに切換えるためのものである。第1弁422は、二方弁であり、第1溶媒供給路420の解放と閉鎖とを切換えるためのものである。
【0057】
第1溶媒容器410に貯留される溶媒は、ダイオキシン類を溶解可能なものであり、通常、脂肪族炭化水素溶媒、好ましくは炭素数が5〜8個の脂肪族飽和炭化水素溶媒である。例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタンまたはシクロヘキサンなどである。これらの溶媒は、適宜混合して用いられてもよい。
【0058】
溶媒給排経路500は、分画部214の下端側の開口212bに対して気密に接続された流路510を有している。流路510は、第2弁520を有している。第2弁520は三方弁であり、管体210からの溶媒を廃棄するための廃棄経路531と、管体210に対して溶媒を供給するための第2溶媒供給路541とが連絡しており、流路510が廃棄経路531または第2溶媒供給路541のいずれか一方に連絡するよう切換えるためのものである。
【0059】
第2溶媒供給路541は、第2ポンプ542を有しており、分画部214に捕捉されたダイオキシン類を抽出するための溶媒を貯留する第2溶媒容器543に連絡している。第2溶媒容器543に貯留する抽出溶媒は、後述するダイオキシン類の分析方法に応じて選択することができる。分析方法としてガスクロマトグラフィー法を採用する場合は、それに適した溶媒、例えば、トルエンまたはベンゼンを用いることができる。また、トルエンまたはベンゼンに対して脂肪族炭化水素溶媒または有機塩素系溶媒を添加した混合溶媒を用いることもできる。混合溶媒を用いる場合、トルエンまたはベンゼンの割合は50重量%以上に設定する。混合溶媒において用いられる脂肪族炭化水素溶媒としては、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタンまたはシクロヘキサンなどが挙げられる。また、有機塩素系溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、トリクロロメタンまたはテトラクロロメタンなどが挙げられる。これらの抽出溶媒のうち、少量の使用で処理装置200からダイオキシン類を抽出できることから、トルエンが特に好ましい。
【0060】
分析方法としてバイオアッセイ法を採用する場合は、それに適した溶媒、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)やメタノール等の親水性溶媒が用いられる。
【0061】
第1抽出経路600は、第1分岐路215から延びる第1回収経路610を有している。第1回収経路610は、一端が第1分岐路215に気密に連絡しており、他端が溶媒を回収するための第1回収容器620内に気密に挿入されている。第1回収容器620には、第1回収経路610とは別に第1通気経路630の一端が気密に挿入されている。第1通気経路630は、他端に第3弁631を備えている。第3弁631は三方弁であり、一端が開放した開放路632と、第1通気経路630へ圧縮空気を送るためのコンプレッサー633を備えた空気供給経路634とが連絡しており、第1通気経路630が開放路632または空気供給経路634のいずれか一方に連絡するよう切換えるためのものである。
【0062】
第2抽出経路700は、第2分岐路216から延びる第2回収経路710を有している。第2回収経路710は、一端が第2分岐路216に気密に連絡しており、他端が溶媒を回収するための第2回収容器720内に気密に挿入されている。第2回収容器720には、第2回収経路710とは別に第2通気経路730の一端が気密に挿入されている。第2通気経路730は、第4弁731を備えている。第4弁731は二方弁であり、第2通気経路730の開放と閉鎖とを切換えるためのものである。
【0063】
次に、上述の調製装置100を用いた、体液に含まれるダイオキシン類を分析するための分析用試料を調製するための方法を説明する。この調製方法により分析用試料を調製可能な体液は、ヒトを含む動物の体液全般を意味し、通常、血液、リンパ液および組織液などの細胞外液であるが、その他の液体、例えば、唾液のように身体の内部で分泌する液体や母乳、汗、尿および精液などの身体の外部に放出される液体も含む。また、植物の茎、葉または果実の搾汁も体液の範囲に含まれる。
【0064】
分析用試料の調製に当り、体液をそのままで、または、適宜希釈して調製装置100に適用することもできるが、通常は体液を前処理することで処理体液を調製する。この前処理では、体液にアルカリ金属水酸化物およびアンモニアのうちの少なくとも一つを含むアルカリ水溶液を添加し、これを加熱処理する。この前処理により、体液中に含まれる脂肪球が分解され、脂肪球中に取り込まれていたダイオキシン類およびその他のハロゲン化有機化合物が解放される。
【0065】
アルカリ水溶液において用いられるアルカリ金属水酸化物は、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムが好ましく、水酸化カリウムが特に好ましい。また、アルカリ水溶液の濃度は、通常、2〜18mol/Lが好ましく、5〜10mol/Lがより好ましい。体液へのアルカリ水溶液の添加量は、通常、体液5mL当り0.5〜1mLに設定するのが好ましい。
【0066】
アルカリ水溶液を添加した体液は、40〜90℃、好ましくは60〜80℃で加熱処理する。加熱処理方法は、特に限定されるものではないが、湯浴によるのが好ましい。また、加熱処理時間は、通常、5〜20分に設定するのが好ましい。
【0067】
体液が血液の場合、前処理の対象となる体液は血清であってもよい。
【0068】
調製装置100を用いて体液または処理体液から分析用試料を調製する際は、先ず、調製装置100において、第1弁422、空気導入弁423、第2弁520、第3弁631および第4弁731を所定の初期状態に設定する。すなわち、第1弁422は開放状態に設定し、空気導入弁423は第1溶媒容器410側に連絡するよう設定する。また、第2弁520は流路510が廃棄経路531と連絡するよう設定する。さらに、第3弁631は第1通気経路630と空気供給経路634とが連絡するよう設定し、第4弁731は閉鎖状態に設定する。
【0069】
調製装置100によるダイオキシン類の分析用試料の調製工程は、主に、次のような抽出・分画工程と溶出工程とを含む。以下、処理体液から分析用試料を調製する場合について説明する。
【0070】
<ダイオキシン類の抽出・分画工程>
初期状態への設定後、処理装置200に処理体液を導入する。ここでは、管体210から第1溶媒供給路420を取り外し、導入口211aから処理層220の上端(すなわち、処理層220のケイ藻土層221側の端部。)に対して処理体液の全量と有機溶媒とを添加する。
【0071】
ここで添加する有機溶媒は、処理層220に添加した親水性の処理体液が溶媒供給装置400から処理装置200へ供給される疎水性の脂肪族炭化水素溶媒と馴染みやすくするためのものであり、極性が比較的高いもの、特に、極性の指標となる誘電率を基準とした場合、誘電率が1.8以上のものが好ましく、4.0以上のものがより好ましい。このような有機溶媒の例としては、酢酸エチル、イソプロピルアルコール、エタノール、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メタノール、メチルtert−ブチルエーテルおよびアセトンを挙げることができる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよいし、二種以上のものの混合物を用いてもよい。
【0072】
処理層220に対する有機溶媒の添加量は、通常、処理体液5mL当り0.5〜1mLに設定するのが好ましい。有機溶媒の添加量をこの範囲より多くすることも可能であるが、当該添加量が多くなるに従って、後記する脂肪族炭化水素溶媒溶液が吸着層230を通過するときに一部のダイオキシン類が吸着されずに吸着層230を通過してしまう可能性が高まる。典型的には、脂肪族炭化水素溶媒溶液中のモノオルソPCBsおよび非DL−PCBsの一部が第2吸着層250に吸着されずに通過しやすくなる。
【0073】
処理体液と有機溶媒とは、別々に添加してもよいし、予め混合した状態で添加してもよい。
【0074】
処理層220の上端に処理体液および有機溶媒を添加した後、導入口211aに第1溶媒供給路420を装着する。そして、加熱装置300を作動し、処理層220の一部、すなわち、ケイ藻土層221および脱水剤層222の全体並びに硫酸シリカゲル層223の一部を加熱する。
【0075】
添加した処理体液および有機溶媒は、ケイ藻土層221の上部に浸透し、加熱装置300により処理層220の一部とともに加熱される。加熱装置300による加熱温度は、40℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上に設定する。この加熱により、処理体液に含まれるダイオキシン類およびその他のハロゲン化有機化合物以外の夾雑成分の一部が処理層220と反応し、分解される。加熱温度が40℃未満の場合は、夾雑成分と処理層220との反応が進行しにくくなり、分析用試料に夾雑成分の一部が残留しやすくなる可能性がある。加熱温度の上限は、特に限定されるものではないが、通常は安全性の観点から添加した有機溶媒の沸騰温度以下が好ましい。
【0076】
次に、加熱開始から5〜15分経過後に溶媒供給装置400から処理装置200に溶媒を供給する。この際、加熱装置300は、作動させたままでもよいし、停止してもよい。この工程では、第1弁422を開放状態に設定して第1ポンプ421を作動させ、第1溶媒容器410に貯留した適量の脂肪族炭化水素溶媒を第1溶媒供給路420を通じて導入口211aから管体210内へ供給する。供給された脂肪族炭化水素溶媒は、処理体液に含まれるダイオキシン類およびその他のハロゲン化有機化合物、夾雑成分の分解生成物並びに分解されずに残留している夾雑成分を溶解し、処理体液からダイオキシン類およびその他のハロゲン化有機化合物を抽出した脂肪族炭化水素溶媒溶液として処理層220を通過する。この際、脂肪族炭化水素溶媒溶液に含まれる水分は、脱水剤層222により吸収され、除去される。また、脂肪族炭化水素溶媒溶液に含まれる分解生成物および夾雑成分の一部は、ケイ藻土層221、硫酸シリカゲル層223およびシリカゲル層224に吸着し、除去される。処理層220を通過する脂肪族炭化水素溶媒溶液は、加熱装置300での非加熱部分、すなわち、硫酸シリカゲル層223の下部およびシリカゲル層224を通過するときに自然に冷却される。
【0077】
処理層220を通過した脂肪族炭化水素溶媒溶液は、抽出部213から分画部214へ流れて吸着層230の第1吸着層240と第2吸着層250とを通過し、開口212bから流路510および廃棄経路531を通じて廃棄される。この際、処理層220からの脂肪族炭化水素溶媒溶液に含まれるダイオキシン類は、吸着層230に吸着される。ここで、ダイオキシン類のうちのノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsは第1吸着層240に吸着され、また、モノオルソPCBsは非DL−PCBsとともに第2吸着層250に吸着される。したがって、脂肪族炭化水素溶媒溶液に含まれるダイオキシン類は、吸着層230において、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群と、モノオルソPCBsとに分画される。
【0078】
抽出部213からの脂肪族炭化水素溶媒溶液に残留する夾雑成分は、一部が脂肪族炭化水素溶媒とともに吸着層230を通過して廃棄され、また、一部が吸着層230に吸着される。例えば、非DL−PCBsおよびPCDEは、モノオルソPCBsとともに第2吸着層250に吸着される。
【0079】
<ダイオキシン類の溶出工程>
次に、吸着層230に吸着されたダイオキシン類を溶媒で溶出し、ダイオキシン類の分析用試料を調製する。この調製の前に、調製装置100では、処理層220および吸着層230を乾燥処理する。ここでは、先ず、溶媒供給装置400の空気導入弁423を空気導入路424側に切換える。そして、第1ポンプ421を作動させ、空気導入路424から空気を吸引する。
【0080】
空気導入路424から吸引された空気は、第1溶媒供給路420を通じて導入口211aから管体210内へ供給され、処理層220および吸着層230を通過して開口212bから流路510へ流れ、廃棄経路531を通じて排出される。この際、処理層220に残留する脂肪族炭化水素溶媒は、通過する空気により圧し出され、吸着層230を通過して空気とともに廃棄経路531から排出される。この結果、処理層220は乾燥処理される。
【0081】
次に、第1ポンプ421を停止するとともに第1弁422を閉鎖状態に切換え、第1抽出経路600においてコンプレッサー633を作動させる。
【0082】
コンプレッサー633の作動により、第1通気経路630、第1回収容器620および第1回収経路610を通じて空気供給経路634から第1分岐路215に圧縮空気が供給される。この圧縮空気は、吸着層230を通過して開口212bから流路510へ流れ、廃棄経路531を通じて排出される。この際、吸着層230の各層に残留する脂肪族炭化水素溶媒は圧縮空気により圧し出され、圧縮空気とともに廃棄経路531から排出される。この結果、吸着層230の各層は乾燥処理される。
【0083】
ダイオキシン類の分析用試料を調製するための最初の工程では、コンプレッサー633を停止するとともに、第2抽出経路700の第4弁731を開放状態に切換える。また、溶媒給排経路500において、流路510が第2溶媒供給路541と連絡するよう第2弁520を切換え、第2ポンプ542を作動する。これにより、第2溶媒供給路541および流路510を通じ、第2溶媒容器543に貯留された溶媒の適量を開口212bから管体210内に供給する。
【0084】
管体210内に供給された溶媒は、第2吸着層250を通過して第2分岐路216へ流れ、第2回収経路710を通じて第2回収容器720に回収される。この際、溶媒は、第2吸着層250に吸着したモノオルソPCBsおよび非DL−PCBsを溶出し、これらのPCBsを抽出した溶液、すなわち、第1の分析用試料として第2回収容器720に回収される。
【0085】
この工程では、第2吸着層250を加熱することができる。第2吸着層250を加熱した場合、より少量の溶媒でモノオルソPCBsおよび非DL−PCBsを第2吸着層250から溶出することができる。第2吸着層250の加熱温度は、通常、95℃以下に制御するのが好ましい。
【0086】
分析用試料を調製するための次の工程では、第2ポンプ542を停止した後、第1抽出経路600において、第1通気経路630と開放路632とが連絡するよう第3弁631を切換え、第2抽出経路700の第4弁731を閉鎖状態に切換える。そして、溶媒給排経路500において、流路510が第2溶媒供給路541と連絡するよう第2弁520を維持した状態で第2ポンプ542を作動する。これにより、第2溶媒供給路541および流路510を通じ、第2溶媒容器543に貯留された溶媒の適量を開口212bから管体210内に供給する。
【0087】
管体210内に供給された溶媒は、第2吸着層250および第1吸着層240をこの順に通過して第1分岐路215へ流れ、第1回収経路610を通じて第1回収容器620に回収される。この際、溶媒は、第1吸着層240に吸着したノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群を溶解し、これらのダイオキシン群を溶出した溶液、すなわち、第2の分析用試料として第1回収容器620に回収される。
【0088】
この工程では、第1吸着層240を加熱することができる。第1吸着層240を加熱した場合、より少量の溶媒でノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群を第1吸着層240から溶出することができる。第1吸着層240の加熱温度は、通常、80℃以上95℃以下に設定するのが好ましい。
【0089】
以上の抽出工程により、モノオルソPCBsの分析用試料と、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsの分析用試料とが分別して得られる。
【0090】
このようにして調製された2種類の分析用試料は、それぞれ別々にダイオキシン類の分析に適用される。分析方法としては、吸着層230からダイオキシン類を抽出するために用いた溶媒の種類に応じ、通常、GC−HRMS、GC−MSMS、GC−QMS若しくはイオントラップGC/MS等のGC/MS法またはGC/ECD法等のガスクロマトグラフィー法またはバイオアッセイ法を採用することができる。
【0091】
モノオルソPCBsを含む第1の分析用試料の分析では、この分析用試料がノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含むダイオキシン群を実質的に含まないことから、これらのダイオキシン群による影響を受けずにモノオルソPCBsを高精度に定量することができる。また、この分析用試料は、モノオルソPCBsとともに非DL−PCBsを含むため、処理体液に含まれていた非DL−PCBsを併せて高精度に定量することができる。
【0092】
一方、ノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを含む第2の分析用試料の分析では、この分析用試料がモノオルソPCBsおよび非DL−PCBsを実質的に含まないことから、これらのPCBsによる影響を受けずにノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsを高精度に定量することができる。
【0093】
上述の実施の形態に係る分析用試料の調製方法は、加熱装置300により処理層220を加熱しているが、処理層220を加熱しない場合であっても所要の分析用試料を調製することができる。
【0094】
また、調製装置100は、第1吸着層240と第2吸着層250とを備えた分画部214の構成並びに当該分画部214の第1吸着層240および第2吸着層250にそれぞれ吸着されたダイオキシン類を溶出して分析用試料を調製するための方法は、公知の構成や方法(例えば、国際公開2014/192056に記載された構成や方法。)に照らして変更可能である。
【0095】
さらに、上述の実施の形態では、処理層220からの脂肪族炭化水素溶媒溶液に含まれるダイオキシン類を分画部214において分画し、二種類の分析用試料を調製しているが、処理層220からの脂肪族炭化水素溶媒溶液はそのままダイオキシン類やその他のハロゲン化有機化合物の分析用試料として用いることもできる。この分析用試料をダイオキシン類以外のハロゲン化有機化合物の分析用試料として用いる場合、その分析においては既述の各種のガスクロマトグラフィー法を採用することができる。一方、この分析用試料をダイオキシン類の分析用試料または体液に含まれるハロゲン化有機化合物全体の分析用試料として用いる場合、当該試料はノンオルソPCBs、PCDDsおよびPCDFsに加え、モノオルソPCBsおよび非DL−PCBsを同時に含むものであることから、その分析においてGC−TOFMSを用いるのが好ましい。
【実施例】
【0096】
以下に実施例等を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これら実施例等によって限定されるものではない。
【0097】
[体液試料]
以下の各実施例および各比較例において用いた体液試料は、いずれも、日本工業規格JIS K 0311(2005)に記載の方法により実質的にダイオキシン類を含むことが確認されたヒトの血清8mLに対し、8mLの高純度水と内標準物質(ダイオキシン類標準物質およびPCBs標準物質)を添加して混合したものである。ここで用いたダイオキシン類標準物質は、WELLINGTON LABORATORIES社の商品名「DF-LCS-A」であり、
13C
12によりラベルされたPCDDsおよびPCDFsを含む。また、PCBs標準物質は、WELLINGTON LABORATORIES社の商品名「PCB-LCS-H」であり、
13C
12によりラベルされたDL−PCBsおよび非DL−PCBsを含む。
【0098】
[調製装置]
実施例1〜3および比較例2において使用した調製装置
以下の実施例1〜3および比較例2では、
図1を参照して説明した調製装置100を用い、体液試料から分析用試料を調製した。調製装置100で用いた抽出部213および分画部214の仕様並びに抽出部213および分画部214内の各層の形成用材料は次の通りである。
【0099】
<抽出部213>
外径20mm、内径18.5mm、長さ200mmに設定された、抽出部213内において、
図1に示すように、下から順にシリカゲル2g(充填高さ6.5mm)、硫酸シリカゲル13g(充填高さ80mm)、脱水剤2.5g(充填高さ10mm)およびケイ藻土7.5g(充填高さ90mm)を積層することで処理層220を形成したもの。
【0100】
<処理層220の形成用材料>
ケイ藻土層221:
平均粒径が150〜850μmの粒子状のケイ藻土(バイオタージ社の商品名「ISOLUTE HM−N」)を650℃で2時間加熱処理したもの。
脱水剤層222:
平均粒径200μmの無水硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社の「硫酸ナトリウム(残留農薬・PCB試験用)」)。
硫酸シリカゲル層223:
平均粒径が40〜50μmの活性シリカゲル(関東化学株式会社製)100gに対して濃硫酸(和光純薬工業株式会社製)78.7gを均一に添加した後に乾燥することで調製したもの。
シリカゲル層224:
平均粒径が40〜50μmの活性シリカゲル(関東化学株式会社製)。
【0101】
<分画部214>
外径8mm、内径6mm、長さ30mmに設定された、分画部214内において、
図1に示すように、グラファイト含有シリカゲル0.25g(充填高さ25mm)および活性炭含有シリカゲル0.065g(充填高さ5mm)を充填することで第1吸着層240を形成し、また、アルミナ0.77g(充填高さ30mm)を充填することで第2吸着層250を形成したもの。
【0102】
<第1吸着層240および第2吸着層250の形成用材料>
活性炭含有シリカゲル層241:
平均粒径が40〜100μmの活性シリカゲル(関東化学株式会社製)99.97gに対して活性炭(クラレケミカル株式会社の商品名「クラレコールPK-DN」)0.13gを添加して均一に混合することで得られたもの。
グラファイト含有シリカゲル層242:
平均粒径が40〜100μmの活性シリカゲル(関東化学株式会社製)87.5gに対してグラファイト(シグマアルドリッチ社の商品名「ENVI-Carb」)12.5gを添加して均一に混合することで得られたもの。
アルミナ層251:
Merck社製の商品名「Aluminium Oxide 90 active basic - (activity stage I) for column chromatography」(平均粒径0.063〜0.200mm)。
【0103】
比較例1において使用した調製装置
実施例1〜3および比較例2で使用した調製装置100において、抽出部213内の処理層220を除去したもの(すなわち、抽出部213内が空洞のもの。)。
【0104】
[比較例1]
遠心分離管に体液試料の全量を入れ、そこに8mLの蟻酸を加えて混合した後、15分間放置した。次に、放置後の遠心分離管にジクロロメタン濃度が50容量%のヘキサン溶媒を10mL加えて10分間混合した後、遠心分離機により1,000rpmの条件で遠心分離し、上澄みの有機溶媒層を採取した。有機溶媒層を採取後の遠心分離管にヘキサン10mLを加えて10分間混合した後、1,000rpmの条件で遠心分離し、上澄みの有機溶媒層を採取する操作を2回繰り返した。
【0105】
以上の操作により採取した有機溶媒層の全てを合わせ、それに無水硫酸ナトリウムを添加することで脱水処理した。そして、脱水処理した有機溶媒層をろ過した後に濃縮し、8mLの濃縮液を得た。
【0106】
分析用試料の調製操作では、調製装置100において、導入口211aから空洞の抽出部213を通じて分画部214の第1吸着層240上に濃縮液の全量を添加した。そして、抽出部213を通じ、分画部214に対してn−ヘキサン90mLを徐々に供給し、このn−ヘキサンを吸着層230に通過させた。n−ヘキサンが吸着層230を通過した後、圧縮空気を通過させることで吸着層230を乾燥処理した。そして、第2吸着層250側から吸着層230にトルエン2.5mLを供給し、第2吸着層250を通過したトルエンを第2分岐路216を通じて回収することで第1の分析用試料を得た。次に、第2吸着層250側から吸着層230へトルエン2.5mLを供給し、第2吸着層250および第1吸着層240をこの順に通過したトルエンを第1分岐路215を通じて回収することで第2の分析用試料を得た。濃縮液の添加から第2の分析用試料が得られるまでに要した時間は約1.5時間であった。
【0107】
[実施例1]
試験管に体液試料の全量を入れて8.9mol/Lの水酸化カリウム水溶液1mLを添加し、これを湯浴により80℃で15分間加熱することで体液試料を前処理した。
【0108】
分析用試料の調製操作では、処理層220のケイ藻土層221へ前処理した体液試料の5mLと酢酸エチル1mLとをこの順に添加し、処理層220を60℃に加熱した。そして、処理層220に対してn−ヘキサン90mLを徐々に供給し、このn−ヘキサンを処理層220と吸着層230とに通過させた。n−ヘキサンが吸着層230を通過した後、処理層220および吸着層230に対して通気することでこれらを乾燥処理した。その後、第2吸着層250側から吸着層230へトルエン2.5mLを供給し、第2吸着層250を通過したトルエンを第2分岐路216を通じて回収することで第1の分析用試料を得た。次に、第2吸着層250側から吸着層230にトルエン2.5mLを供給し、第2吸着層250および第1吸着層240をこの順に通過したトルエンを第1分岐路215を通じて回収することで第2の分析用試料を得た。前処理した体液試料の添加から第2の分析用試料が得られるまでに要した時間は約1.5時間であった。これは、以下の実施例2、3においても同様であった。
【0109】
[実施例2]
体液試料の前処理時において、湯浴による加熱時間を60分に変更した点を除いて実施例1と同様に操作し、第1の分析用試料および第2の分析用試料を得た。
【0110】
[実施例3]
体液試料の前処理時に使用した水酸化カリウム水溶液の濃度を12.0mol/Lに変更した点を除いて実施例1と同様に操作し、第1の分析用試料および第2の分析用試料を得た。
【0111】
[比較例2]
体液試料の前処理時において、湯浴による加熱温度を室温(25℃)に変更した点を除いて実施例1と同様に操作し、第1の分析用試料および第2の分析用試料を得た。
【0112】
[評価]
各実施例および各比較例において得られた第1の分析用試料および第2の分析用試料をHRGC/HRMS法により個別に定量分析し、ダイオキシン類および非DL−PCBsの回収量を求めた。結果を表1に示す。実施例1の結果は、3回実施した結果の平均値である。また、実施例2、3の結果は、いずれも2回実施した結果の平均値である。さらに、比較例1の結果は、6回実施した結果の平均値である。
【0113】
表1においてPCBに付された番号は、IUPAC番号である。「ND」は、シグナルとして検出されなかったものを意味する。各実施例の結果において示した「偏差」は、比較例1の結果との差を意味する。偏差が20%以内であれば、前処理した体液試料からn−ヘキサンにより高効率でダイオキシン類を抽出できていることになり、比較例1と同程度の信頼性を有する分析用試料を調製できたものと判断可能である。
【0114】
【表1】