(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6864293
(24)【登録日】2021年4月6日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】悪臭低減方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20210419BHJP
A61K 35/747 20150101ALI20210419BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20210419BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20210419BHJP
A61L 9/14 20060101ALI20210419BHJP
A23K 10/18 20160101ALI20210419BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N1/20 E
A61K35/747
A61P31/04 171
A61L9/01 P
A61L9/14
A23K10/18
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-537790(P2017-537790)
(86)(22)【出願日】2016年8月25日
(86)【国際出願番号】JP2016074748
(87)【国際公開番号】WO2017038602
(87)【国際公開日】20170309
【審査請求日】2019年8月14日
(31)【優先権主張番号】特願2015-170468(P2015-170468)
(32)【優先日】2015年8月31日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-02098
(73)【特許権者】
【識別番号】504085370
【氏名又は名称】株式会社バイオバランス
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100120293
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 智子
(72)【発明者】
【氏名】内藤 善夫
【審査官】
伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−057284(JP,A)
【文献】
特開2001−299230(JP,A)
【文献】
特開平08−298982(JP,A)
【文献】
特開2008−000118(JP,A)
【文献】
特開平09−252728(JP,A)
【文献】
渡辺 千春、外5名、,乳酸菌資材の飼料添加が鶏ふんの排泄量と臭気に及ぼす影響.,滋賀県畜産技術振興センター研究報告, 1999, Vol.6, pp.34-39
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Lactobacillus acidophilus BB−ACD株(NITE BP−02098)。
【請求項2】
請求項1に記載の乳酸菌からなる、大腸菌及び/又はプロテウス属菌増殖抑制剤。
【請求項3】
散布用製剤又は家畜給与用製剤である、請求項2に記載の大腸菌及び/又はプロテウス属菌増殖抑制剤。
【請求項4】
請求項1に記載の乳酸菌からなる、アンモニアによる悪臭の抑制剤。
【請求項5】
散布用製剤又は家畜給与用製剤である、請求項4に記載の抑制剤。
【請求項6】
単一の菌株を含有する、家畜用飼料であって、前記菌株は、請求項1に記載の乳酸菌からなる、家畜用飼料。
【請求項7】
請求項2に記載の大腸菌及び/又はプロテウス属菌増殖抑制剤を散布することにより、大腸菌及び/又はプロテウス属菌の増殖を抑制する方法。
【請求項8】
請求項2に記載の大腸菌及び/又はプロテウス属菌増殖抑制剤を畜舎内の床に散布することにより、畜舎内の床における大腸菌及び/又はプロテウス属菌の増殖を抑制する方法。
【請求項9】
請求項6に記載の家畜用飼料を家畜動物に給与することにより、畜舎内における大腸菌及び/又はプロテウス属菌の増殖を抑制する方法。
【請求項10】
家畜動物が牛である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項4に記載の抑制剤を散布することにより、アンモニアによる悪臭を低減させる方法。
【請求項12】
請求項4に記載の抑制剤を畜舎内の床に散布することにより、畜舎内のアンモニアによる悪臭を低減させる方法。
【請求項13】
請求項6に記載の家畜用飼料を家畜動物に給与することにより、畜舎内におけるアンモニアによる悪臭を低減させる方法。
【請求項14】
家畜動物が牛である、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は、2015年8月31日に日本国において出願された特願2015−170468号に基づき優先権を主張するものであり、当該出願に記載された内容の全体は、本明細書にそのまま援用される。また、本願において引用した特許、特許出願及び文献に記載された内容の全体は、本明細書にそのまま援用される。
【技術分野】
【0002】
本発明は、動物(特に家畜動物)の糞尿から発生するアンモニアによる悪臭を低減させる分野に関する。特に本発明は、動物の糞尿からアンモニアを生成させる微生物(特には、Proteus属の微生物)の生育を抑制することにより、悪臭を低減させる分野に関する。
【背景技術】
【0003】
Proteus属は、ウレアーゼを有する糞便中に常在する腸内細菌科として知られている。畜舎の悪臭成分であるアンモニアは、糞尿中の尿素とウレアーゼが反応して発生することが知られており、畜舎の悪臭を防止するためには速やかに畜舎清掃をすることによってアンモニアの揮散を防ぐ必要がある。しかしながら、多頭管理をする畜産農家が頻繁に畜舎清掃をすることは負担が大きく、また、清掃毎に敷材を交換することから、交換敷材を多量に確保する必要があり、高額な費用がかかることが問題となっていた。
【0004】
これまでも消臭を目的とした乳酸菌(特許文献1)や、乳酸菌配合剤(特許文献2及び3)が報告されているが、特に畜舎内の悪臭を抑制可能な優れた乳酸菌はこれまで報告されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−512591
【特許文献2】特開平09−248154
【特許文献3】特開平11−180890
【発明の概要】
【0006】
本発明者は畜舎清掃を行うことなくウレアーゼによるアンモニア発生を低減させるために、プロテウス属の生育抑制作用がある乳酸菌について検討を行った結果、乳酸菌BB−ACD株(Lactobacillus acidophilus BB−ACD株)(NITE BP−02098)が効果的にProteus属の増殖を抑制することを見出した。また、本発明者は、実際に乳酸菌BB−ACD株を畜舎環境中で悪臭を抑制できる否かを調べるため、乳酸菌BB−ACD株を敷材に散布したところ、畜舎内のアンモニア濃度が低下することを見出した。更に、本発明者は、乳酸菌BB−ACD株を畜舎環境中に直接散布するのではなく、飼料として畜産動物に摂取させることにより、糞尿中に乳酸菌BB−ACD株を含有せしめ、糞尿中にて直接プロテウス属の生育を抑制可能であるか否かを確認したところ、飼料として畜産動物に摂取させた場合にも、畜舎内のアンモニア濃度が低下することを見出した。これらの研究により、本発明者は乳酸菌BB−ACD株を用いた悪臭の低減方法を確立した。
【0007】
すなわち、本発明は、Lactobacillus acidophilus BB−ACD株(NITE BP−02098)を見出したことに基づくものであり、具体的には以下の発明に関する。
(1) Lactobacillus acidophilus BB−ACD株(NITE BP−02098)。
(2) (1)に記載の乳酸菌を含有する、有害菌増殖抑制剤又は悪臭抑制剤。
(3) 前記有害菌が、大腸菌及び/又はプロテウス属である、(2)に記載の有害菌増殖抑制剤又は悪臭抑制剤。
(4) 散布用製剤である、(2)又は(3)に記載の有害菌増殖抑制剤又は悪臭抑制剤。
(5) (1)に記載の乳酸菌を含有する、家畜用飼料。
(6) (1)に記載の乳酸菌を散布することを備える、有害菌増殖抑制方法。
(7) (1)に記載の乳酸菌を畜舎内の床に散布することを備える、畜舎内の床における有害菌増殖抑制方法。
(8) (1)に記載の乳酸菌を家畜動物に給与することを備える、畜舎内における有害菌増殖を抑制する方法。
(9) 家畜動物が牛である、(8)に記載の方法。
(10) 前記有害菌が、大腸菌及び/又はプロテウス属である、(6)〜(9)のいずれか1項に記載の方法。
(11) (1)に記載の乳酸菌を散布することを備える、悪臭低減方法。
(12) (1)に記載の乳酸菌を畜舎内の床に散布することを備える、畜舎内の悪臭低減方法。
(13) (1)に記載の乳酸菌を家畜動物に給与することを備える、畜舎内における悪臭低減方法。
(14) 家畜動物が牛である、(13)に記載の方法。
(15) 悪臭が、アンモニアによる悪臭である、(11)〜(14)のいずれか1項に記載の方法。
【0008】
よって、一態様において、本発明は、Lactobacillus acidophilus BB−ACD株(NITE BP−02098)及びそれを含有する有害菌増殖抑制剤、散布用製剤又は家畜用飼料に関する。Lactobacillus acidophilus BB−ACD株(NITE BP−02098)は、日本国岐阜県高山市の牛の小腸から分離培養することにより取得した乳酸菌であり、2015年8月10日付にて、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に受託番号NITE BP−02098として寄託されている。
【0009】
本明細書において、家畜又は家畜動物とは、主にその生産物(乳、肉、卵、毛、皮、毛皮、労働力など)の利用を目的として飼育される動物を意味し、例えば、牛、馬、水牛、鹿、羊、山羊、アルパカ、豚、猪、ウサギ、鶏、鶉、ダチョウ、七面鳥、ガチョウ、アヒル、キジ、ホロホロ鳥を含む。
【0010】
本明細書において、「有害菌」とは、家畜動物の糞尿中に存在し、家畜の生育に悪影響を与える菌であれば特に制限されるものではない。有害菌は悪臭の原因菌を含む。有害菌としては、例えば、ウレアーゼを産生する菌を挙げることができ、好ましくは、大腸菌及び/又はProteus属の菌である。
【0011】
本明細書において、「有害菌増殖抑制剤」とは、前記有害菌の増殖を抑制する目的で使用される薬剤を意味する。有害菌の増殖抑制は、100%抑制されることを意味するものではなく、当該薬剤非散布群(又は非供与群)と比較して、抑制されていればよく、例えば、90%、80%、70%抑制することを意味していてもよい。有害菌増殖抑制剤であるか否かは、例えば、被験製剤を1週間に1回、100g/m
2で牛床に散布し、試験開始30日後に牛床の有害菌(例えば、大腸菌群、プロテウス属)の数を測定し、コントロールとして、乳酸菌生菌剤を散布していない肥育牛床の有害菌(例えば、大腸菌群、プロテウス属、乳酸菌)の数を測定し、それぞれの有害菌の数を比較して、被験製剤を散布した牛床の有害菌が少ない場合に有害菌増殖抑制作用があると決定することができる。
【0012】
本発明の有害菌増殖抑制剤は、畜舎等に直接散布して用いる形態(散布用製剤)であってもよいし、家畜用の餌に混ぜた形態(家畜用飼料)であってもよい。散布用製剤は、液体状やスプレー用とすることができ、家畜用飼料は、給餌方法に合わせて、タブレット、顆粒状、カプセル状などの固形状、ゲル状、液体状などとすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は乳酸菌BB−ACD株を用いることにより、畜舎清掃を行うことなくウレアーゼによるアンモニア発生を低減させることができる。具体的には、乳酸菌BB−ACD株は、効果的にProteus属及び大腸菌の増殖を抑制し、畜舎内のアンモニア発生を低下させることから、多頭管理をする畜産農家であっても頻繁に畜舎清掃を行うことなく、安価に畜舎内の悪臭を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】初期敷材として麦稈を使用した肥育牛舎に、実施例2で調製した乳酸菌生菌剤を1週間に1回、100g/m
2で散布し、試験開始30日後に牛床の細菌(大腸菌群、プロテウス属、乳酸菌)の数を測定した結果を表すグラフである。コントロールとして、乳酸菌生菌剤を散布していない肥育牛床の細菌(大腸菌群、プロテウス属、乳酸菌)の数を測定した。縦軸は細菌数(logCFU/g)を表し、横軸は細菌を表す。各細菌群において、グラフは左がコントロール、右が散布区を表す。
【
図2】
図1と同じ実験において、乳酸菌生菌剤を散布した牛舎内のアンモニア濃度を、乳酸菌生菌剤散布前と散布30日目の2回検知管を用いて測定した結果を表すグラフである。縦軸はアンモニア濃度(ppm)を表し、横軸は散布からの経過日数(散布前、散布30日目)を表す。
【
図3】初期敷材としてオガ粉を使用した肥育豚舎に、実施例2で調製した乳酸菌生菌剤を1週間に1回、100g/m
2で散布し、試験開始7日後に豚床の細菌(大腸菌群、プロテウス属、乳酸菌)の数を測定した結果を表すグラフである。コントロールとして、乳酸菌生菌剤を散布していない肥育豚床の細菌(大腸菌群、プロテウス属、乳酸菌)の数を測定した。縦軸は細菌数(logCFU/g)を表し、横軸は細菌を表す。各細菌群において、グラフは左がコントロール、右が散布区を表す。
【
図4】
図3と同じ実験において、乳酸菌生菌剤を散布した豚舎内のアンモニア濃度を、乳酸菌生菌剤散布前と散布7日目の2回検知管を用いて測定した結果を表すグラフである。縦軸はアンモニア濃度(ppm)を表し、横軸は散布からの経過日数(散布前、散布7日目)を表す。
【
図5】産卵鶏の平飼鶏舎に、実施例2で調製した乳酸菌生菌剤を100g/m
2で1回散布し、散布から3日後に、鶏舎の床の細菌(大腸菌群、プロテウス属、乳酸菌)の数を測定した結果を表すグラフである。コントロールとして、乳酸菌生菌剤を散布していない鶏舎の床の細菌(大腸菌群、プロテウス属、乳酸菌)の数を測定した。縦軸は細菌数(logCFU/g)を表し、横軸は細菌を表す。各細菌群において、グラフは左がコントロール、右が散布区を表す。
【
図6】
図5と同じ実験において、乳酸菌生菌剤を散布した鶏舎内のアンモニア濃度を、乳酸菌生菌剤散布前と散布3日目の2回検知管を用いて測定した結果を表すグラフである。縦軸はアンモニア濃度(ppm)を表し、横軸は散布からの経過日数(散布前、散布3日目)を表す。
【
図7】交雑種肥育牛に、1頭あたり1日40gの乳酸菌製剤を通常飼料に混合して14日間給与し、給与前後における牛床の細菌(大腸菌群、プロテウス属、乳酸菌)の数を測定した結果を表すグラフである。コントロールとして、乳酸菌生菌剤を給与していない肥育牛を飼育している床の細菌(大腸菌群、プロテウス属、乳酸菌)の数を測定した。縦軸は細菌数(logCFU/g)を表し、横軸は細菌を表す。各細菌群において、グラフは左がコントロール、右が散布区を表す。
【
図8】
図7と同じ実験において、乳酸菌生菌剤を給与した牛舎内のアンモニア濃度を、乳酸菌生菌剤給与前と散布14日目の2回検知管を用いて測定した結果を表すグラフである。縦軸はアンモニア濃度(ppm)を表し、横軸は散布からの経過日数(散布前、散布3日目)を表す。
【
図9】乳酸菌BB−ACD株によるProteus属に対する抗菌活性による阻止円の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.乳酸菌BB−ACD株の培養
本菌は、乳酸菌に適した培地を用い、培養温度は、20〜45℃(好ましく25〜40℃)、培養pHはpH3.5〜9.0(好ましくは4.5〜7.0)、培養時間は6〜30時間とすることで培養することができる。具体例としては、MRS液体培地に本菌を接種し、30〜40℃で24時間培養することができる。更に、2次培養する場合には、培養液を滅菌されたふすまに噴霧し、30〜40℃で3日間培養することができる。
【0016】
2.有害菌増殖抑制剤等
本発明の有害菌増殖抑制剤又は悪臭抑制剤は、散布用製剤又は家畜用飼料のいずれの場合にも、前記方法で培養された乳酸菌製剤をそのまま使用することもできるし、必要に応じて、賦形剤を添加したり、水などの液体に分散させて調製してもよい。一態様において、本発明は、食用家畜又は畜舎で用いられる有害菌増殖抑制剤又は悪臭抑制剤を製造するための、乳酸菌BB−ACD株の使用に関する。また、本発明は、食用家畜又は畜舎における有害菌増殖を抑制し又は悪臭を低減させることに使用するための乳酸菌BB−ACD株に関する。
【0017】
3.乳酸菌BB−ACD株を散布することを備える、有害菌増殖抑制方法及び悪臭低減方法
一態様において、本発明は、乳酸菌BB−ACD株(有害菌増殖抑制剤、又は悪臭抑制剤、散布用製剤)を散布することを備える、有害菌増殖抑制方法、又は悪臭低減方法に関する。本方法において、乳酸菌BB−ACD株は対象となる有害菌又は悪臭の原因菌が発生する場所に直接散布することが望ましい。散布は、乳酸菌が十分有害菌又は悪臭の原因菌の増殖を抑制可能となる細胞濃度及び頻度であれば特に制限されるものではないが、例えば、2週間に1回又は1週間に1〜2回(好ましくは、1週間に1回)、1.0×10
10〜1.0×10
12CFU/m
2(好ましくは、3.0×10
11CFU/m
2)で散布することができる。
【0018】
4.乳酸菌BB−ACD株を家畜動物に給与することを備える、畜舎内における有害菌増殖を抑制する方法、及び悪臭低減方法
一態様において、本発明は、乳酸菌BB−ACD株(有害菌増殖抑制剤、家畜用飼料)を家畜動物に給与することを備える、有害菌増殖抑制方法、又は悪臭低減方法に関する。本方法において、乳酸菌BB−ACD株は飼料と共に家畜動物に供与される。乳酸菌BB−ACD株は、適宜給餌方法に合わせて、タブレット、顆粒状、カプセル状などの固形状、ゲル状、液体状などで与えることができる。好ましくは、乳酸菌BB−ACD株は、生菌のまま供与される。供与は、家畜動物の体重によって決定することができ、乳酸菌が十分有害菌又は悪臭の原因菌の増殖を抑制可能となる細胞濃度及び頻度であれば特に制限されるものではないが、例えば、牛の場合、1日10〜100g(好ましくは、40g)とすることができる。本発明の飼料の家畜動物への給与の期間は特に限定されるものではなく、家畜動物の種類に応じて変更することができるが、好ましくは飼育の全期間給与することができる。ただし、飼育期間の一部(1年間、半年間、3ヶ月間、1月間など)のみ給与してもよい。本発明の飼料を給与すること以外は、家畜動物は通常用いられる飼育方法により飼育することができる。
【0019】
以下、本発明をより詳細に説明するため実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。
【0020】
(実施例1)乳酸菌BB−ACD株
乳酸菌BB−ACD株(Lactobacillus acidophilus BB−ACD)は、日本国岐阜県高山市の牛の小腸から分離培養することにより取得した。乳酸菌BB−ACD株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)受託番号NITE BP−02098(受託日2015年8月10日)として寄託されている。
【0021】
MRSブロス(OXOID社製)を用いて培養した乳酸菌(Lactobacillus acidophilus BB−ACD)の菌学的性質は以下の通りである。なお、糖資化性については、糖類発酵性試験用基礎培地(トリプトン10.0g、酵母エキス5.0g、ブロムクレゾールパープル0.06gに蒸留水を加えて全量1000mlとし、pH6.8に調整後、121℃、15分間高圧滅菌)を用いて培養した。
細胞の形態:桿菌
胞子形成:無
運動性:無
グラム染色:+
酸素に対する感受性:通性嫌気性
15℃での生育:−
45℃での生育:+
乳酸発酵: ホモ型
グルコースからのガスの生成:−
アルギニンからのアンモニアの生成:−
馬尿酸ナトリウムの加水分解性:−
4%塩化ナトリウム耐性:−
糖資化性:アラビノース(−)、キシロース(−)、ラムノース(−)、リボース(−)、グルコース(+)、マンノース(+)、フルクトース(+)、ガラクトース(+)、スクロース(+)、マルトース(+)、セロビオース(+)、ラクトース(+)、トレハロース(+)、メリビオース(−)、ラフィノース(−)、メレチトース(−)、マンニトール(−)、ソルビトール(−)、エスクリン(+)、サリシン(+)、アミグダリン(−)、グルコン酸ナトリウム(−)
生成乳酸:DL乳酸
【0022】
(実施例2)乳酸菌BB−ACD株生菌剤の調製
MRS液体培地に本菌を接種し、30〜40℃で24時間1次培養した。培養液を滅菌されたふすまに噴霧し、30〜40℃で3日間2次培養してえられたものを乳酸菌生菌剤とした。得られた乳酸菌生菌剤に含まれる乳酸菌BB−ACD株(Lactobacillus acidophilus BB−ACD)の菌数は3.0×10
9CFU/gであった。以下の実験において、乳酸菌として本実施例にて調製した乳酸菌BB−ACD株を用いた。
【0023】
(実施例3)肥育牛舎における、乳酸菌生菌剤散布によるプロテウス属の増殖及びアンモニア濃度への作用の検討
初期敷材として麦稈を使用した肥育牛舎に、実施例2で調製した乳酸菌生菌剤を1週間に1回、100g/m
2で散布し、試験開始30日後に牛床の細菌(大腸菌群、プロテウス属、乳酸菌)の数を測定した。コントロールとして、乳酸菌生菌剤を散布していない肥育牛床の細菌(大腸菌群、プロテウス属、乳酸菌)の数を測定した。また、乳酸菌生菌剤を散布した牛舎内のアンモニア濃度を、乳酸菌生菌剤散布前と散布30日目の2回検知管を用いて測定した。
【0024】
結果を
図1及び
図2に示す。乳酸菌散布牛床では、乳酸菌非散布牛床と比較して、乳酸菌数が多く、大腸菌群とプロテウス属の数が少なかった。よって、乳酸菌散布により、牛床における大腸菌群とプロテウス属の増殖が抑制されていることが明らかとなった。また、乳酸菌散布後の牛舎では、乳酸菌散布前の牛舎と比較して牛舎内のアンモニア濃度が低く、乳酸菌散布により、アンモニアの生成が抑制されて悪臭が低減されることが明らかとなった。
【0025】
(実施例4)肥育豚舎における、乳酸菌生菌剤散布によるプロテウス属の増殖及びアンモニア濃度への作用の検討
初期敷材としてオガ粉を使用した肥育豚舎に、実施例2で調製した乳酸菌生菌剤を1週間に1回、100g/m
2で散布し、試験開始7日後に豚床の細菌(大腸菌群、プロテウス属、乳酸菌)の数を測定した。コントロールとして、乳酸菌生菌剤を散布していない肥育豚床の細菌(大腸菌群、プロテウス属、乳酸菌)の数を測定した。また、乳酸菌生菌剤を散布した豚舎内のアンモニア濃度を、乳酸菌生菌剤散布前と散布7日目の2回検知管を用いて測定した。
【0026】
結果を
図3及び
図4に示す。牛床と同様に、乳酸菌散布豚床では、乳酸菌非散布豚床と比較して、乳酸菌数が多く、大腸菌群とプロテウス属の数が少なかった。よって、乳酸菌散布により、豚床における大腸菌群とプロテウス属の増殖が抑制されていることが明らかとなった。また、乳酸菌散布後の豚舎では、乳酸菌散布前の豚舎と比較して豚舎内のアンモニア濃度が低く、乳酸菌散布により、アンモニアの生成が抑制されて悪臭が低減されることが明らかとなった。
【0027】
(実施例5)産卵鶏舎における、乳酸菌生菌剤散布によるプロテウス属の増殖及びアンモニア濃度への作用の検討
産卵鶏の平飼鶏舎に、実施例2で調製した乳酸菌生菌剤を100g/m
2で1回散布した。散布から3日後に、鶏舎の床の細菌(大腸菌群、プロテウス属、乳酸菌)の数を測定した。コントロールとして、乳酸菌生菌剤を散布していない鶏舎の床の細菌(大腸菌群、プロテウス属、乳酸菌)の数を測定した。また、乳酸菌生菌剤を散布した鶏舎内のアンモニア濃度を、乳酸菌生菌剤散布前と散布3日目の2回検知管を用いて測定した。
【0028】
結果を
図5及び
図6に示す。牛床や豚床と同様に、乳酸菌散布鶏舎の床では、乳酸菌非散布鶏舎の床と比較して、乳酸菌数が多く、大腸菌群とプロテウス属の数が少なかった。よって、乳酸菌散布により、鶏舎の床における大腸菌群とプロテウス属の増殖が抑制されていることが明らかとなった。また、乳酸菌散布後の鶏舎では、乳酸菌散布前の鶏舎と比較して鶏舎内のアンモニア濃度が低く、乳酸菌散布により、アンモニアの生成が抑制されて悪臭が低減されることが明らかとなった。
【0029】
以上より、家畜の種類を問わず、乳酸菌BB−ACD株生菌剤を散布することにより畜舎の床における大腸菌群、及びプロテウス属の増殖が抑制されると共に、畜舎内でのアンモニアの生成が抑制されて悪臭が低減することが示された。
【0030】
(実施例6)肥育牛に乳酸菌生菌剤を摂取させることによるプロテウス属の増殖及びアンモニア濃度への作用の検討
交雑種肥育牛に、1頭あたり1日40gの乳酸菌製剤を通常飼料に混合して14日間給与し、給与前後における牛床の細菌(大腸菌群、プロテウス属、乳酸菌)の数を測定した。コントロールとして、乳酸菌生菌剤を給与していない肥育牛を飼育している床の細菌(大腸菌群、プロテウス属、乳酸菌)の数を測定した。また、乳酸菌生菌剤を給与した牛舎内のアンモニア濃度を、乳酸菌生菌剤給与前と散布14日目の2回検知管を用いて測定した。
【0031】
結果を
図7及び
図8に示す。散布と同様に、乳酸菌給与牛舎の床では、乳酸菌非給与牛舎の床と比較して、乳酸菌数が多く、大腸菌群とプロテウス属の数が少なかった。よって、乳酸菌BB−ACD株を給与させることにより、牛舎の床における大腸菌群とプロテウス属の増殖が抑制されていることが明らかとなった。また、乳酸菌給与後の牛舎では、乳酸菌給与前の牛舎と比較して牛舎内のアンモニア濃度が低く、乳酸菌給与により、アンモニアの生成が抑制されて悪臭が低減されることが明らかとなった。
【0032】
よって、乳酸菌BB−ACD株は散布のみならず、給与することによっても、畜舎の床における大腸菌群、及びプロテウス属の増殖が抑制すると共に、畜舎内でのアンモニアの生成を抑制して悪臭が低減することが示された。
【0033】
(実施例7)Proteus属に対する抗菌活性
酵母エキス含有脱脂粉乳溶液(脱脂粉乳10.0gと酵母エキス0.5gを蒸留水100mlに溶解し、110℃、20分間高圧滅菌)に、MRSブロスを用いて培養した本菌を1ml接種し、30〜40℃で3〜5日間培養した。抗菌活性の測定には、14,500g、10分間の遠心分離処理をして得られた上清を、孔径0.2μmのフィルターでろ過した除菌清澄液を用いたアガーウェル法で検討した。なお、被検菌は、Proteus mirabilis NBRC105697を用いた。
【0034】
結果を
図9に示す。その結果、阻止円の形成が認められた。