特許第6864295号(P6864295)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6864295
(24)【登録日】2021年4月6日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】生体内NO産生装置
(51)【国際特許分類】
   A61H 7/00 20060101AFI20210419BHJP
【FI】
   A61H7/00 322B
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-210140(P2018-210140)
(22)【出願日】2018年11月8日
(65)【公開番号】特開2019-150553(P2019-150553A)
(43)【公開日】2019年9月12日
【審査請求日】2019年9月4日
(31)【優先権主張番号】特願2018-34042(P2018-34042)
(32)【優先日】2018年2月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500557048
【氏名又は名称】学校法人日本医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】518068811
【氏名又は名称】御津電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】特許業務法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 由彦
(72)【発明者】
【氏名】人見 雄一
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 正広
(72)【発明者】
【氏名】長尾 佳文
【審査官】 今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−028109(JP,A)
【文献】 特開2017−209453(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0159690(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 7/00
A61B 5/022
A61B 17/132
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
四肢のいずれかに装着されて血管を圧迫する圧迫手段と、
前記圧迫手段による圧迫を基準圧力に基づいて制御する制御手段とを備え、
前記基準圧力は収縮期血圧であり、
前記制御手段は、前記基準圧力の47〜70%に圧迫圧力を設定し、前記圧迫圧力で前記圧迫手段による所定時間の圧迫を行い、
前記制御手段は、前記圧迫手段による圧迫を、間隔をあけて繰り返し行い、前記圧迫手段による圧迫を繰り返す毎に、前記圧迫圧力を前記基準圧力の47〜70%の範囲で段階的に増加させる生体内NO産生装置。
【請求項2】
前記基準圧力を使用者の操作により入力可能な入力手段を更に備える請求項1に記載の生体内NO産生装置。
【請求項3】
前記圧迫手段による圧迫を3回繰り返して停止する請求項1に記載の生体内NO産生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内NO産生装置に関し、より詳しくは、血管等の生体内でNO(一酸化窒素)を産生するための生体内NO産生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内の血管内皮細胞で産生されるNOには血管拡張作用があり、動脈硬化の予防において重要な役割を担っていることが従来から知られている。NOの産生量を増やすためには、運動や入浴などにより血流を増加させることが有効とされているが、従来の方法で十分な量のNOを産生することは困難である。
【0003】
一方、生体の血流を外部から制御する装置として、例えば特許文献1に開示されているように、動脈の圧迫による阻血および圧迫解除による再灌流を繰り返す構成が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再公表特許第2014/21267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献1の装置は、動脈の圧迫を、血液の流れが遮断される阻血に至るように、使用者の最大血圧(収縮期血圧)よりも高い圧力で行うため、これを一定期間(例えば5分程度)継続すると、使用者の痛みや不快感が過大になり易いという問題があった。更に、上記特許文献1の装置は、生体内でのアセチルコリンの産生促進を目的とするものであり、NOを効率良く産生することについては、従来から十分検討されていないのが現状である。
【0006】
そこで、本発明は、使用者の痛みや不快感を抑制しつつ、生体内でNOを効率良く産生することができる生体内NO産生装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の前記目的は、四肢のいずれかに装着されて血管を圧迫する圧迫手段と、前記圧迫手段による圧迫を基準圧力に基づいて制御する制御手段とを備え、前記基準圧力は収縮期血圧であり、前記制御手段は、前記基準圧力の47〜70%に圧迫圧力を設定し、前記圧迫圧力で前記圧迫手段による所定時間の圧迫を行い、前記制御手段は、前記圧迫手段による圧迫を、間隔をあけて繰り返し行い、前記圧迫手段による圧迫を繰り返す毎に、前記圧迫圧力を前記基準圧力の47〜70%の範囲で段階的に増加させる生体内NO産生装置により達成される。
【0008】
この生体内NO産生装置は、前記基準圧力を使用者の操作により入力可能な入力手段を更に備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、使用者の痛みや不快感を抑制しつつ、生体内でNOを効率良く産生することができる生体内NO産生装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る生体内NO産生装置の概略構成図である。
図2図1に示す生体内NO産生装置のブロック図である。
図3】本発明の一実施例の測定結果を示す図である。
図4】本発明の他の実施例の測定結果を示す図である。
図5】本発明の比較対象の測定結果を示す図である。
図6】本発明について更に他の測定結果を示す図である。
図7】本発明について更に他の測定結果を示す図である。
図8】本発明について更に他の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る生体内NO産生装置の概略構成図であり、図2は、 図1に示す生体内NO産生装置のブロック図である。図1および図2に示すように、生体内NO産生装置1は、腕や脚などの四肢のいずれかに装着される圧迫装置10と、圧迫装置10に接続される装置本体20とを備えている。圧迫装置10は、本実施形態では1つとしているが、複数設けて、それぞれを四肢の異なる部位に装着可能に構成してもよい。
【0013】
圧迫装置10は、帯状のベルト11と、ベルト11の内面に取り付けられた流体袋12とを備えており、動脈の血流を抑制しようとする生体部位に流体袋12を当接させて、ベルト11を巻き付けた後、面ファスナー等からなる固着部13をベルト11の外面に押し付けることにより、圧迫装置10を生体部位に固定することができる。圧迫装置10としては、例えば、市販されている血圧測定用のカフを使用することができる。
【0014】
装置本体20は、プッシュボタンやダイヤル等からなる入力部21、基準圧力等の各種情報を記憶する半導体メモリ等からなる記憶部22、CPU等からなる制御部23、圧迫装置10を駆動する駆動部24、および液晶パネル等からなる表示部25を備えている。入力部21および表示部25は、装置本体20の外面に設けられており、記憶部22、制御部23および駆動部24は装置本体20に内蔵されている。
【0015】
駆動部24は、ポンプ、弁、圧力センサ等を備えており、圧迫装置10の流体袋12に接続管14を介して接続されて、流体袋12に対するガス等の流体の供給または排出を行う。制御部23は、記憶部22に記憶された基準圧力に基づいて、駆動部24の駆動を制御する。
【0016】
次に、上記の構成を備える生体内NO産生装置1の作動を説明する。本実施形態の生体内NO産生装置1は、使用者が血圧計により予め測定する等して把握する自身の収縮期血圧(最大血圧)を、入力部21の操作により基準圧力として入力することができる。入力された基準圧力は、記憶部22に格納される。記憶部22に格納される基準圧力は、必ずしも入力部21から入力された情報に限定されるものではなく、例えば、生体内NO産生装置1を他の血圧計等の機器に接続したり、生体内NO産生装置1に血圧計の機能を付加する等して、収縮期血圧が記憶部22に自動的に格納されるように構成してもよい。あるいは、記憶部22に過去に格納された基準圧力を、使用者の識別IDの入力等により取り出して使用することもできる。
【0017】
ついで、使用者が四肢のいずれかの部位に圧迫装置10を巻き付けて固定した後、入力部21の開始ボタンを押圧すると、制御部23は、使用者の基準圧力から流体袋12の圧迫圧力を設定し、この圧迫圧力で圧迫装置10による所定時間の圧迫を行う。この後、制御部23が圧迫装置10による圧迫を解除すると、抑制された血流の急激な変動によって血管内皮細胞にずり応力が作用し、血管内皮細胞からNOが放出される。生体部位を圧迫する所定時間は、その後の圧迫解除により血管拡張反応が生じる時間であれば特に限定されないが、例えば1〜10分間であり、入力部21の操作により連続的あるいは段階的(例えば10秒毎)に変更可能にしてもよい。圧迫圧力は、後述するように基準圧力の47〜93%の範囲に設定されることが好ましく、動脈が阻血に至らない収縮期血圧よりも、更に低い圧力に設定される。このような設定圧力では、静脈系が主に圧迫される。圧迫圧力の基準圧力に対する割合は、上記の数値範囲内で予め記憶部22に記憶された値を使用してもよく、あるいは、入力部21の操作によって上記の数値範囲内で連続的あるいは段階的(例えば5刻み)に変更可能に構成することで、使用者が適宜選択した値を使用してもよい。
【0018】
圧迫装置10による生体部位の圧迫は、1回のみであってもよいが、間隔をあけて繰り返し行うことが好ましい。圧迫を繰り返す場合の間隔(圧迫が解除される時間)は、特に限定されないが、血流増加により血管径が最大拡張に至ることが可能な時間であることが好ましく、例えば1〜10分間であり、入力部21の操作により連続的あるいは段階的(例えば10秒毎)に変更可能にしてもよい。圧迫の繰り返し回数も特に制限はないが、繰り返し回数が多すぎるとNO産生の効果が生じ難くなることから、2〜5回であることが好ましく、後述するように3回が最も好ましい。圧迫回数についても、入力部21の操作により変更可能に構成することができる。圧迫を繰り返す場合の圧迫時間および圧迫解除時間は、圧迫の繰り返し毎に同じであってもよく、あるいは、圧迫の繰り返し毎に変化させてもよい。
【0019】
図3は、大腿部の圧迫によるNO代謝産物の測定結果を示している。被験者の収縮期血圧である128mmHgを基準圧力とし、圧迫圧力をパラメータとして、5分間の圧迫および3分間の圧迫解除を3回繰り返した後の静脈でのNO血中濃度をGriess法により測定することで、NOの産生量を推量した。圧迫圧力は、60mmHg、90mmHg、120mmHgとしており、これらは基準圧力に対してそれぞれ約47%、約70%、約93%である。
【0020】
図3に示すように、圧迫圧力を基準圧力の47〜93%にしたときに、NOが良好に産生されていることを確認した。圧迫圧力を基準圧力の93%よりも高くして基準圧力に近づけると、圧迫時間の間に生じる痛みや不快感が過大になる一方、NOの産生量は基準圧力の70%のときをピークに減少傾向にあることから、圧迫圧力を基準圧力の47〜93%に設定することが好ましい。特に、圧迫圧力を基準圧力の47〜70%に設定すると、痛みや不快感を十分抑制しつつNO産生を促すことができるため、より好ましい。圧迫を繰り返し行う場合、圧迫の繰り返しによって痛みや不快感を徐々に感じ難くなるため、繰り返し毎の圧迫圧力を、基準圧力の47〜70%の範囲で段階的に増加させることが好ましい。例えば、この割合に関する入力部21からの入力値をAとすると、入力部21から入力等された基準圧力に対して、1回目の圧迫圧力は基準圧力の(A−20)%に、2回目の圧迫圧力は基準圧力の(A−10)%に、3回目の圧迫圧力は基準圧力のA%に、それぞれ設定することができる。上記の各割合は固定された値でもよく、例えば、1回目の圧迫圧力は基準圧力の50%に、2回目の圧迫圧力は基準圧力の60%に、3回目の圧迫圧力は基準圧力の70%に、それぞれ設定することもできる。
【0021】
図4は、大腿部の圧迫の繰り返し回数をパラメータとしたときのNO代謝産物の測定結果を示している。圧迫圧力は90mmHgとして、5分間の圧迫および3分間の圧迫解除を繰り返したときのNOの産生量を、図3に示す測定結果の場合と同様の測定方法で求めたところ、3回目までは圧迫を行う毎にNO産生量は増加したが、4回目および5回目においては、NO産生量が圧迫前の値と同等であった。すなわち、圧迫を3回繰り返した後に停止することで、NOを効率良く産生できることを確認した。
【0022】
本発明の効果を確認するため、歩行運動の前後におけるNO産生量の変化を図5に示す。図5は、被験者の歩行前のNO代謝産物と、30分早足歩き後のNO代謝産物とを、図3に示す測定結果の場合と同様の測定方法で求めた結果を示している。図5に示すように、歩行運動後のNO産生量は、歩行運動前のNO産生量に対して約1.5倍に増加している。この測定結果を、図3に示す測定結果と対比させると、図3に示す圧迫圧力が基準圧力の47〜93%である場合のNO産生量は、いずれも図5に示す歩行運動後のNO産生量の平均値を上回っており、本実施形態の生体内NO産生装置1を、図3の場合の圧迫条件下で使用することで、早足歩きを30分した場合よりも多量のNOが産生することが明らかになった。
【0023】
図6は、本実施形態の生体内NO産生装置を被験者が継続的に使用した場合の脈拍数および血圧の変化を示している。90mmHgの圧迫圧力による5分間の圧迫および3分間の圧迫解除の3回の繰り返しを1セットとして、5月前半から毎日1セットを行い、半月毎に脈拍数、最低血圧および最高血圧を測定した。図6に示すように、脈拍数および血圧は、いずれも使用開始から1か月程度を経過すると低下傾向を示しており、NOによる自立神経系への介入効果が示唆された。
【0024】
図7は、本実施形態の生体内NO産生装置を被験者が継続的に使用した場合の血糖値(HbA1c値)の変化を示している。図6の測定と同様の圧迫条件で4月前半から5月末まで毎日1セットを行い、6月からは1日2セットに増やして体重およびHbA1c値を毎月測定したところ、7月前半の時点では、体重は6月から増加して開始時とほとんど同じである一方、HbA1c値は低下傾向を示しており、NOによる自立神経系への介入効果が示唆された。
【0025】
図8は、本実施形態の生体内NO産生装置の使用による血管年齢(baPWV値)の変化を示している。被験者が年1回の定期健康診断で測定したbaPWV値は、生体内NO産生装置の使用開始により大幅に低下しており、血管年齢の改善が示唆された。
【符号の説明】
【0026】
1 生体内NO産生装置
10 圧迫装置
20 装置本体
21 入力部
23 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8