【実施例】
【0070】
本発明の実施例を、下記に実施例として記載するが、これらに限定されるものではない。
試薬、細胞培養関連試薬、蛍光ニトロキシド化合物は、市販のものを入手するか、あるいは公知の方法に従って製造した。Core library化合物、Prestwick chemical library化合物はそれぞれ東京大学創薬機構、九州大学化合物ライブラリー創薬先端研究・教育基盤センターより供給されたものを使用した。また、各種測定機器は、通常使用される機器を用いて使用した。
【0071】
(参考例1)
NBD-TEMPO化合物の製造
2,2,6,6-テトラメチル-4-(4-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-7-イルアミノ)ピペリジン-1-オキシル(NBD-TEMPO)は、下記の手順に従って製造した。具体的には、4-フルオロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾオキサジアゾール366 mg(2.0 mmol)をAcOEt 10 mLに溶解し、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル342 mg (2.0 mmol)を加えた。室温で3時間攪拌後、飽和食塩水を加え、AcOEtで抽出し、有機層をNa
2SO
4で乾燥し、溶媒を完全に留去した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー (CHCl
3)で分離精製し、橙黄色結晶 574 mg (収率: 86%)を得た。HRMS (ESI
+) cald for C
15H
20N
5NaO
4 [M + Na]
+: 357.1413, found: 357.1415。
【0072】
(参考例2)
Dansyl-TEMPO化合物の製造
2,2,6,6-テトラメチル-4-(5-(ジメチルアミノ)ナフタレン-1-スルホニルアミノ)ピペリジン-1-オキシル(Dansyl-TEMPO)は、文献(例えば、LozinskyらによるLozinsky, E., et. al., J. Biolchem. Biophys., Methods, 1999, 38, 29-42)に記載の方法に従って製造した。具体的には、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル1.03 g (6.0 mmol)をacetone 5 mlに溶解し、氷浴中にて5-(ジメチルアミノ)ナフタレン-1-スルホニルクロリドクロリド1.35g (5.0 mmol)とピリジン0.483 mlを加えた。室温で一晩攪拌後、飽和食塩水を加え、ジエチルエーテルで抽出し、有機層をNa
2SO
4で乾燥し、溶媒を完全に留去した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl
3: MeOH = 99:1)で分離精製し、396 mg (収率: 20%)を得た。HRMS (ESI
+) cald for C
21H
30N
3NaO
3S [M + Na]
+: 427.1906, found: 427.1900。
【0073】
(参考例3)
NBD-TEEPO化合物の製造
2,2,6,6-テトラエチル-4-(4-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-7-イルアミノ)ピペリジン-1-オキシル(NBD-TEEPO)は、文献(例えば、BognarらによるBognar, B., et al., J. Heterocycl. Chem., 2006, 43, 81-86)に記載の方法に従って製造した。具体的には、4-クロロ-7-ニトロ-2,1,3-ベンゾオキサジアゾール87.6 mg (0.44 mmol)とEt
3N 61 μLをAcOEt 10 mLに溶解し、4-アミノ-2,2,6,6-テトラエチルピペリジン-1-オキシル100 mg (0.44 mmol)を加えた。室温で6時間攪拌後、飽和食塩水を加え、AcOEtで抽出し、有機層をNa
2SO
4で乾燥し、溶媒を完全に留去した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー (Hexane:AcOEt = 100:0~70:30)で分離精製し、橙黄色結晶 83 mg (収率: 6%)を得た。HRMS (ESI
+) cald for C
19H
28N
5NaO
4 [M + Na]
+: 413.2034, found: 413.2024
【0074】
(参考例4)
NBD-Pen化合物の製造
2,2,6,6-テトラエチル-4-(4-ニトロベンゾ[1,2,5]オキサジアゾール-7-イルアミノ)ピペリジン-1-オキシル(NBD-TEEPO)の合成法と同様に、4-アミノ-2,2,6,6-テトラエチル ピペリジン-1-オキシル(4) 100 mg (0.44 mmol)を、4-アミノ-2,2,6-トリメチル-6-ペンチルピペリジン-1-オキシル(8) 100 mg (0.44 mmol)に代え、反応を行った。生成物は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー (Hexane:AcOEt = 100:0〜70:30)で分離精製し、橙黄色結晶 83 mg (収率: 48%)を得た。HRMS (ESI
+) cald for C
19H
28N
5NaO
4 [M + Na]
+: 413.2034, found: 413.2056
【0075】
(実施例1)
蛍光ニトロキシドプローブの脂質過酸化反応応答性評価
リン酸緩衝液中 (10 mM、pH 7.4、0.5% DMSO、0.5%アセトニトリル)、蛍光ニトロキシド(NBD-TEMPO化合物、またはDansyl-TEMPO化合物)(5.0 μM)とリポソーム (2.5 mg/mL Egg PC、0.1 mg/mL DCP)を37℃において混和させた。脂質過酸化反応はAAPH (20 mM)を混和させ開始させた。40分後、NBD-TEMPOでは励起波長: 470 nm蛍光波長: 530 nm、Dansyl-TEMPOでは励起波長: 300 nm、蛍光波長: 500 nmにおいて蛍光強度を測定した。
結果を
図2に示す。
調整したリポソームをAAPHで刺激すると、NBD-TEMPOでは蛍光強度がAAPH未添加時に比べ8.2倍上昇した。一方、Dansyl-TEMPOでは蛍光強度の上昇は1.4倍に留まった。そこで、蛍光団としてNBD基を用いることとした。
【0076】
(実施例2)
蛍光ニトロキシドプローブと種々の還元物質との反応性評価
蛍光ニトロキシド (5.0 μM)(NBD-TEMPO化合物、NBD-Pen化合物、またはNBD-TEEPO化合物)と種々の還元物質 (AsA、UA、TPL、Eda、Catechin、Trolox) 50 μMを、リポソーム (2.5 mg/mL Egg PC、0.1 mg/mL DCP)を含むリン酸緩衝液中 (10 mM、pH 7.4、0.5% DMSO、 0.5%アセトニトリル)、37℃において混和させた
。40分後、励起波長: 470 nm蛍光波長: 530 nmにおいて蛍光強度を測定した。ここで、AsAはアスコルビン酸を、UAは尿酸を、TPLは2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルを、Edaはエダラボンを、Catechinは (-)-エピカテキンを、Troloxは6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸を意味する。
【0077】
結果を
図3に示す。
モデル抗酸化物質として以下6種類を選択した(図(3a))。ヒト体内で水溶性抗酸化物質として働き、多くの食品等にも含まれるAsA、ヒト血中に最も多く含まれる抗酸化物質である尿酸、ニトロキシド化合物のうち、その毒性の低さから実験動物モデルを用いた研究にも汎用されている 4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピぺリジル-1-オキシル(Tempol)、フリーラジカル消去剤として承認されているエダラボン (Edaravone: Eda)、茶・ワインなどに含まれ一般的に摂取されているカテキン((-)-エピカテキン: Catechin)、VitEの類似化合物Troloxの6種類である。これら6種類の水−オクタノール分配係数 (LogPo/w)はAsA < UA < TPL < Eda < Catechin < Troloxの順で高くなることが知られる。
NBD-TEMPO化合物ではAsAとの反応により蛍光強度が約7.7倍に、NBD-Pen化合物ではEdaとの反応により蛍光強度が約2.9倍に上昇した。しかし、NBD-TEEPO化合物では蛍光強度はほとんど上昇しなかった(図(3b))。
【0078】
(実施例3)
蛍光ニトロキシドプローブと種々の酸化物質との反応性評価
蛍光ニトロキシド(NBD-TEMPO化合物、NBD-Pen化合物、またはNBD-TEEPO化合物) (5.0 μM)と種々の酸化物質を、リン酸緩衝液中 (10 mM、pH 7.4、0.5% DMSO、0.5%アセトニトリル)、37℃において混和させた。酸化物質として、過酸化水素、次亜塩素酸、酸化カリウム (各0.5 mM)を用いた。・OHは過酸化水素 (0.5 mM)とFeSO4 (5.0 μM)により発生させた。脂質ラジカルは、リポソーム (2.5 mg/mL Egg PC、0.1 mg/mL DCP)とAAPH (10 mM)により発生させた。30分後、励起波長: 470 nm蛍光波長: 530 nmにおいて蛍光強度を測定した。
【0079】
結果を
図4に示す。
いずれのプローブ分子においても、ROSとの反応ではほとんど蛍光強度は上昇しなかった。脂質過酸化反応に対しての応答性は、NBD-TEMPO化合物が最も低く、NBD-TEEPO化合物と NBD-Pen化合物が優れた脂質過酸化反応応答性を有することがわかった。
以上の結果より、最も高い還元抵抗性を示し、脂質過酸化反応への高い応答性を示したNBD-TEEPO化合物を用いることとした。
【0080】
(実施例4)
人工脂質膜における反応開始剤濃度依存的な脂質過酸化反応評価 (NBD-TEEPOアッセイ)
プローブ(NBD-TEEPO化合物)(5.0 μM)とリポソーム (2.5 mg/mL Egg PC、0.1 mg/mL DCP)を、リン酸緩衝液中 (10 mM、pH 7.4、0.5% DMSO、0.5%アセトニトリル)、37℃において混和させた。脂質過酸化反応はAAPH (0-20 mM)あるいはFeSO
4 (0-2.0 mM)を混和させて開始させた。AAPH系では40分後、Fe
2+系では60分後、励起波長: 470 nm蛍光波長: 530 nmにおいて蛍光強度を測定した。
【0081】
結果を
図5(AAPH)および
図6(FeSO
4)に示す。
AAPH、Fe
2+いずれの系においても濃度依存的にプローブの蛍光強度が上昇した(図(5a)および(6a))。また、AAPH系では水溶性のAsA、Fe
2+系では脂溶性抗酸化物質Edaを添加すると、濃度依存的に蛍光上昇が抑制された(図(5b)および(6b))。そこで、代表的な抗酸化物質6種類の脂質過酸化抑制効果を測定した。実施例5に示す既存手法であるTBARS法の結果(図(5d)および(6d))と比較したところ、いずれも同様の傾向を示した(図(5c)および(6c))。
NBD-TEEPO化合物を用いるAAPHまたはFe
2+を用いる無細胞系のアッセイ系について、アッセイ系の質を表すS/B比、CV値、Z’-factorは調べた。結果を下記の表に示す。いずれの指標についても目標値を上回った(表1)。
【表1】
【0082】
(実施例5)
人工脂質膜における抗酸化物質による脂質過酸化抑制評価 (TBARSアッセイ)
種々の還元物質 (10 μM)、リポソーム (2.5 mg/mL Egg PC、0.1 mg/mL DCP)を、リン酸緩衝液中 (10 mM、pH 7.4、0.5% DMSO、0.5%アセトニトリル)、37℃において混和させた。脂質過酸化反応はAAPH (20 mM)あるいはFeSO
4 (1.0 mM)を混和させ開始させた。60分後、BHT (10 mM)により脂質過酸化反応を停止させた。酢酸 (5.7%)、TBA (0.56%)、SDS (1.07%)を加え、攪拌後60℃にて60分間反応させた。遠心分離(2000 rpm、4℃、15分間)を行い、励起波長: 512 nm、蛍光波長: 553 nmにおいて蛍光強度を測定した。
実施例4と同様に、代表的な抗酸化物質6種類の脂質過酸化抑制効果を測定した。
【0083】
結果を
図5(AAPH)および
図6(FeSO
4)に示す。実施例4の結果と同様な傾向の脂質過酸化抑制効果を示した。
【0084】
(実施例6)
細胞培養
ヒト肝癌細胞 (HepG2細胞)は、DMEM培地 (10% FBS、1% Penicillin-Streptomycinおよび1×MEM非必須アミノ酸を含む)を用いてCO
2インキュベータ内 (37℃、5%CO
2)で培養した。継代は60-70%サブコンフルエント状態になった際に行った。また、各種測定時にはDMEM培地 (フェノールレッド不含、1% Penicillin-Streptomycinを含む)を用いた。
【0085】
(実施例7)
反応開始剤濃度依存的な細胞内脂質過酸化反応評価 (NBD-TEEPOアッセイ)
HepG2細胞は96穴プレートに10000 cells/wellで播種した。24時間インキュベートし接着させた。DMEM培地中 (DMSO 0.5%、アセトニトリル 0.5%)、AA (0-200 μM)あるいはtBHP (0-300 μM)、およびプローブ (5.0 μM)を添加し、45分後、励起波長: 470 nm蛍光波長: 530 nmにおいて蛍光強度を測定した。
【0086】
(実施例8)
抗酸化物質による細胞内脂質過酸化抑制評価 (NBD-TEEPOアッセイ)
HepG2細胞は96穴プレートに10000 cells/wellで播種した。24時間インキュベートし接着させた。DMEM培地中 (DMSO 0.5%、アセトニトリル 0.5%)、AA (200 μM)あるいはtBHP (0-300 μM)、抗酸化物質 (50 μM)およびプローブ (5.0 μM)を添加し、45分後、励起波長: 470 nm蛍光波長: 530 nmにおいて蛍光強度を測定した。
【0087】
結果を
図7に示す。
AAおよびtBHP濃度依存的な蛍光上昇が観測された(図(7a)および(7c))。また抗酸化物質添加により、抑制された(図(7b)および(7d))。最も強い抑制効果を示したのはCatechinで、反応開始剤によらず同様の傾向が見られた。
【0088】
(実施例9)
反応開始剤濃度依存的な細胞生存率変化評価 (MTTアッセイ)
HepG2細胞は96穴プレートに10000 cells/wellで播種した。24時間インキュベートし接着させた。DMEM培地中 (DMSO 0.5%、アセトニトリル 0.5%)、AA (0-100 μM)あるいはtBHP (0-100 μM)を添加し、24時間後培地交換を行った。MTT溶液 (0.5 mg/mL、0.5% DMSO)を添加後4時間インキュベートし、溶液を除去した。DMSOを100 μL加え、630 nmの吸光度を測定した。細胞生存率はAAあるいはtBHP未添加を100%とし、算出した。
【0089】
(実施例10)
抗酸化物質による細胞生存率変化評価 (MTTアッセイ)
HepG2細胞は96穴プレートに10000 cells/wellで播種した。24時間インキュベートし接着させた。DMEM培地中 (DMSO 0.5%、アセトニトリル 0.5%)、AA (200 μM)あるいはtBHP (0-300 μM)、抗酸化物質 (50 μM)を添加し、24時間後培地交換を行った。MTT溶液 (0.5 mg/mL、0.5% DMSO)を添加後4時間インキュベートし、溶液を除去した。DMSOを100 μL加え、630 nmの吸光度を測定した。細胞生存率はAAあるいはtBHP未添加を100%とし算出した。
【0090】
結果を
図8に示す。
AAおよびtBHP添加により、濃度依存的に細胞生存率が低下した(図(8a)および(8c))。また抗酸化物質によりその効果は抑制された(図(8b)および(8d))。また、用いる反応開始剤によって、高い抑制効果を示す抗酸化物質が異なる傾向を示した。
NBD-TEEPO化合物またはMTTを用いる、AAまたはtBHPを用いる細胞系のアッセイ系について、アッセイ系の質を表すS/B比、CV値、Z’-factorは調べた。結果を下記の表2および表3に示す。いずれの指標についても目標値を上回った。
【表2】
【表3】
【0091】
(実施例11)
東京大学創薬機構1次スクリーニング (AAPH系)
化合物は2 mM 100%DMSO溶液 (0.125 μL/well分注)を東京大学創薬機構より頂戴した。リン酸緩衝液中 (10 mM、pH 7.4、1.0%アセトニトリル)中にリポソーム (5.0 mg/mL Egg PC、0.2 mg/mL DCP)およびプローブ (10 μM)を含む溶液A、リン酸緩衝液中 (10 mM、 pH 7.4) にAAPH (40 mM)を含む溶液Bを作製した。溶液A、Bをそれぞれ12.5 μLずつ Multidrop Combiにより分注した。終濃度は、リン酸緩衝液中 (10 mM、pH 7.4、0.5%アセトニトリル、0.5%DMSO)中にリポソーム (2.5 mg/mL Egg PC、0.1 mg/mL DCP)およびNBD-TEEPO化合物5.0 μM、被験化合物50 μM、AAPH20 mMとなった。反応混合物を、37℃において混和させ、40分後に励起波長: 470 nm蛍光波長: 530 nmにおける蛍光強度を測定した。また、明細書中に記載する式に従って、各被験化合物の活性値を求めた。
【0092】
結果を
図10に示す。
9600化合物のうち、1858個が活性値0を下回った、すなわち脂質過酸化反応を抑制しなかった。一方、7711個が脂質過酸化反応を抑制し、うち836個が既知化合物エダラボンよりも高い活性値を示した。この836個の化合物を一次スクリーニングにおけるヒット化合物(候補化合物)とし、Fe
2+系での評価へ進めることとした。
【0093】
(実施例12)
東京大学創薬機構1次スクリーニング (FeSO
4系)
続いて、AAPH系でエダラボンよりも高い脂質過酸化抑制効果を示した836化合物に対してFe
2+系で評価した。化合物は2 mM 100%DMSO溶液 (0.2 μL/well分注)を東京大学創薬機構より頂戴した。リン酸緩衝液中 (10 mM、pH 7.4、0.56%アセトニトリル)中にリポソーム (2.78 mg/mL Egg PC、0.11 mg/mL DCP)およびプローブ5.6 μMを含む溶液A、 蒸留水中にFeSO
4 10 mMを含む溶液Bを作製した。溶液Aを36 μL Multidrop Combiにより分注した。溶液Bを4 μL Biomek NXP により分注した。終濃度は、リン酸緩衝液中 (10 mM、pH 7.4、0.5%アセトニトリル、0.5%DMSO)中にリポソーム (2.5 mg/mL Egg PC、0.1 mg/mL DCP)およびプローブ5.0 μM、被験化合物50 μM、FeSO
4 1.0 mMとなった。反応混合物を、37℃において混和させ、励起波長: 470 nm蛍光波長: 530 nmにおける蛍光強度を3分おきに経時測定した。180分間の蛍光強度よりAUCを算出し、明細書中に記載する式に従って、各被験化合物の活性値を算出した(
図11)。
【0094】
結果を
図12に示す。
836化合物のうち、268個が活性値0を下回った、すなわち脂質過酸化反応を抑制しなかった。一方、568個が脂質過酸化反応を抑制した。このうち197個がエダラボンを上回る活性を示した。抑制効果の高かった上位80個をヒット化合物(候補化合物)とし、2次スクリーニングへと進めることとした。
【0095】
(実施例13)
東京大学創薬機構2次スクリーニング (NBD-TEEPOアッセイ)
1次スクリーニングで選別した80個の化合物について、2次スクリーニングを行った。
化合物は10 mM 100%DMSO溶液 (5.0 μL/well分注)を東京大学創薬機構より頂戴した。ここに測定用DMEM培地495 μLを添加し、化合物100 μM 1.0%DMSO溶液を調整した。これをあらかじめ細胞を播種した測定用プレートに80 μLずつBiomek NXPにより分注した。被験化合物 (100 μM 1.0%DMSO)に、12.5 μM NBD-TEEPO化合物を含むDMEM培地 (1.25%アセトニトリル) 64 μL、PBS中に溶解したAA (2000 μM、5.0%エタノール)あるいはtBHP (3000 μM)を16 μL手動分注した。終濃度は、DMEM培地中 (0.5% DMSO、0.5%アセトニトリル)、被験化合物50 μM、AA 200 μMあるいはtBHP 300 μMとなった。
反応混合物を、37℃において混和させ、励起波長: 470 nm蛍光波長: 530 nmにおける蛍光強度を3分おきに経時測定した。AA添加系では45分間、tBHP添加系では60分間の蛍光強度よりAUCを算出し、明細書中に記載する式に従って、各被験化合物の活性値を算出した。
【0096】
結果を
図13に示す。
AA添加系では、80化合物のうち40個が活性値0%を下回った、すなわち培養細胞系では脂質過酸化反応を抑制しなかった。一方、40個が脂質過酸化反応を抑制した。このうち32個がエダラボンを上回る活性を示した(図(13a))。またtBHP添加系では、80化合物のうち17個が活性値0%を下回り、一方、63個が脂質過酸化反応を抑制した。このうち31個がエダラボンを上回る活性を示した(図(13b))。2つの系における活性値をプロットし(図(13c))、どちらの系においても高い活性値を示した4つの化合物:化合物No. 7、48、64、80をヒット化合物とし(図(13d))、3次スクリーニングへ進めることとした。
化合物7:
2-((4-(フェニルアミノ)フェニル)アミノ)-N-(4-スルファモイルフェニル)プロパンアミド
化合物48:
2,6-ジメトキシ-4-(2-(8-ニトロキノリン-2-イル)ビニル)フェノール
化合物64:
N
2,N
2-ジメチル-9H-フルオレン-2,3-ジアミン
化合物80:
N-(3-メトキシ-4-((3-メチル-1-10H-インドロ[3,2-b]キノリン-11-イル)アミノ)フェニル)メタンスルホンアミド
【化4】
【0097】
(実施例14)
東京大学創薬機構2次スクリーニング (MTTアッセイ)
1次スクリーニングで選別した80個の化合物について、2次スクリーニングを行った。
化合物は10 mM 100%DMSO溶液 (5.0 μL/well分注)を東京大学創薬機構より頂戴した。ここに測定用DMEM培地495 μLを添加し、化合物100 μM 1.0%DMSO溶液を調整した。これをあらかじめ細胞を播種した測定用プレートに80 μLずつBiomek NXPにより分注した。被験化合物 (100 μM 1.0%DMSO)に、DMEM培地64μL、PBS中に溶解したAA (1000 μM、5.0%エタノール)あるいはtBHP (1000 μM)を16 μL手動分注した。終濃度は、DMEM培地中 (0.5% DMSO、0.5%アセトニトリル)、NBD-TEEPO化合物5.0 μM、被験化合物50 μM、AAあるいはtBHP 100 μMとなった。24時間後培地交換を行い、MTT溶液 (0.5 mg/mL、0.5% DMSO)を添加後24時間インキュベートし、溶液を除去した。DMSOを100 μL加え、630 nmの吸光度を測定した。細胞生存率はAAあるいはtBHP未添加を100%とし、明細書中に記載する式に従って算出した。
【0098】
結果を
図14に示す。
AA添加系では、80化合物のうち6個が活性値0%を下回った、すなわちAA刺激による細胞死を抑制しなかった。一方、74個がAA刺激時による細胞死を抑制した。このうち64個がエダラボンを上回る活性を示した(図(14a))。また、tBHP添加系では、80化合物のうち8個が活性値0%を下回り、一方、73個がtBHP刺激による細胞死を抑制した。このうち14個がエダラボンを上回る活性を示した(図(14b))。2つの系における阻害率をプロットし(図(14c))、どちらの系においても高い阻害率を示した5つの化合物:化合物No. 19、39、52、73、78をヒット化合物とし(図(14d))、3次スクリーニングへ進めることとした。
化合物19:
N-(2-クロロフェニル)-5-(2-(1-ピリジン-2-イル)エチリデン)ヒドラジンイル)-1,3,4-チアジアゾール-2-アミン
化合物39:
1-(7,7-ジメチル-2-オキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-イル)-N-(1-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)-N-メチルメタンスルホンアミド
化合物52:
3-アミノ-4-(フェニルアミノ)安息香酸メチル
化合物73:
3-(2-(3-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-3-((2-モルホリノエチル)アミノ)イミダゾ[1,2-a]ピリジン-6-イル)ベンズアミド
化合物78:
1-(4-(トリフルオロメトキシ)フェニル)インドリン-5-アミン
【化5】
【0099】
(実施例15)
東京大学創薬機構3次スクリーニング (NBD-TEEPOアッセイ)
東京大学創薬機構Core Libraryには、各化合物に対して構造類似体を含む。したがって、前記候補化合物のそれぞれの構造類似化合物についても、実施例13と同様に2次スクリーニングを行い、活性値を評価した。
具体的には、前記2次スクリーニングにおける9つのヒット化合物No. 7、19、39、48、52、64、73、78、80のそれぞれについて、5、2、4、6、6、5、5、10、2個の計45個の構造類似体を入手した。そして、元の9個の化合物を合わせた計54個の化合物について、3次スクリーニングを行い、同様に活性値を算出した。
【0100】
結果を
図15、
図16および
図17に示す。
1)まず、NBD-TEEPOを用いたアッセイにおいて、AA添加系では、54化合物のうち15個が活性値0%を下回った、すなわち脂質過酸化反応を抑制しなかった。一方、39個が脂質過酸化反応を抑制した。このうち33個がエダラボンを上回る活性を示した(図(15a))。tBHP添加系では、54化合物のうち9個が活性値0%を下回り、一方、45個が脂質過酸化反応を抑制した。このうち41個がエダラボンを上回る活性を示した(図(15b))。
2)次に、MTTアッセイにおいて、AA添加系では、54化合物のうち7個が活性値0%を下回った、すなわちAA刺激による細胞死を抑制しなかった。一方、47個がAA刺激時による細胞死を抑制した。このうち31個がエダラボンを上回る活性を示した(図(16a))。tBHP添加系では、54化合物のうち17個が活性値0%を下回り、一方、37個がtBHP刺激による細胞死を抑制した。このうち37個がエダラボンを上回る活性を示した(図(16b))。
3)更に、被験化合物のみを72時間インキュベートし、細胞毒性評価を行った。細胞毒性は、DMEM培地中 (DMSO 0.5%)、HepG2細胞に抗酸化物質 50 μMを添加し、37℃、72時間インキュベート後の細胞生存率を測定した。
4)前記NBD-TEEPOを用いたアッセイ、およびMTTアッセイ、それぞれにおいて2つの添加系における活性値をプロットすると(図(15c)および(16c))、化合物No. 52の類縁体(化合物No. 52、52-1、52-3、52-4、52-5)、および化合物No. 78の類縁体(化合物No. 78、78-3、78-4、78-5、78-6、78-8)が高い脂質過酸化抑制効果ならびに細胞死抑制効果を示した(図(15d)および(16d))。
また、化合物No. 80類縁体(化合物No. 80、80-2)は最も高い脂質過酸化抑制効果を示したが、細胞毒性が極めて高かった(図(17))。
ここで、これら化合物No. 52とその類縁体(化合物No. 52-1〜52-6)のうち、脂質過酸化抑制効果を発揮したものは、共通構造として下記構造で示される骨格Aを持つ。骨格Aは抗酸化力を有することが報告されている(Hu ML., et al., Nutr. Biochem., 1995, 6, 504-508)。
また、化合物No. 78とその類縁体(化合物No. 78-1〜78-10)のうち、脂質過酸化抑制効果を発揮したものは、共通構造として下記構造で示される骨格Bを持つ。
【化6】
【0101】
以上の結果より、本発明のスクリーニングにより候補化合物として見出された化合物が共通構造として有する骨格A、Bをもつ化合物は、脂質過酸化抑制剤として極めて有用である可能性が高いことが示唆される。
化合物52-1:
3-アミノ-4-((4-メトキシフェニル)アミノ)安息香酸メチル
化合物52-2:
3-アミノ-4-((2-メトキシフェニル)アミノ)安息香酸メチル
化合物52-3:
3-アミノ-4-((3-メトキシフェニル)アミノ)安息香酸メチル
化合物52-4:
3-アミノ-4-(ベンジルアミノ)安息香酸メチル
化合物52-5:
3-アミノ-4-((1-フェニルエチル)アミノ)安息香酸メチル
化合物52-6:
N-(2-(フェニルアミノ)フェニル)アセトアミド
【化7】
化合物78-1:
1-(3,5-ジメチルフェニル)インドリン-2,3-ジオン
化合物78-2:
1-(3,5-ジメチルフェニル)-3,3-ジフルオロインドリン-2-オン
化合物78-3:
1-(3,5-ジメチルフェニル)-1H-インドール-6-アミン
化合物78-4:
1-(3,5-ジメチルフェニル)インドリン-6-アミン
化合物78-5:
1-(4-メトキシフェニル)-1H-インドール-5-アミン
化合物78-6:
1-(4-(メチルチオ)フェニル)-1H-インドール-5-アミン
化合物78-7:
1-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-インドール-5-アミン
化合物78-8:
1-(4-(トリフルオロメトキシ)フェニル)-1H-インドール-5-アミン
化合物78-9:
1-(4-(メチルチオ)フェニル)インドリン-5-アミン
化合物78-10:
1-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)インドリン-5-アミン
【化8】
【0102】
(実施例16)
Prestwick chemical library 1次スクリーニング (AAPH系)
本1次スクリーニングでは、AAPH系およびFe
2+系において、被験化合物としてそれぞれ1280個の化合物を測定した。実験方法、および活性値の計算方法は、前記と同様に、化合物ライブラリとして東大創薬機構Core libraryの場合と同様にして行った。被験化合物は、リン酸緩衝液中 (10 mM、pH 7.4、2%DMSO)、20 μM希釈液 (20 μL/well分注)を九州大学化合物ライブラリー創薬先端研究・教育基盤センターより供給された。
まず、AAPH系アッセイを用いる場合は、リン酸緩衝液中 (10 mM、pH 7.4、2.0%アセトニトリル)中にリポソーム (10 mg/mL Egg PC、0.4 mg/mL DCP)およびNBD-TEEPO化合物を(20 μM)を含む溶液A、リン酸緩衝液中 (10 mM、pH 7.4) にAAPH 80 mMを含む溶液Bを作製した。溶液A、Bをそれぞれ10 μLずつ Multidrop Combiにより分注した。終濃度は、リン酸緩衝液中 (10 mM、pH 7.4、0.5%アセトニトリル、1%DMSO)中にリポソーム (2.5 mg/mL Egg PC、0.1 mg/mL DCP)およびNBD-TEEPO化合物5.0 μM、被験化合物10 μM、AAPH 20 mMとなった。37℃において、40分後の励起波長: 470 nm蛍光波長: 530 nmにおける蛍光強度を測定した。
【0103】
(実施例17)
Prestwick chemical library 1次スクリーニング (FeSO
4系)
次に、Fe
2+系アッセイを用いる場合には、リン酸緩衝液中 (10 mM、pH 7.4、2.0%アセトニトリル)中にリポソーム (10 mg/mL Egg PC、0.4 mg/mL DCP)およびNBD-TEEPO化合物20 μMを含む溶液A、 蒸留水中にFeSO
4 4.0 mMを含む溶液Bを作製した。溶液A、Bをそれぞれ10 μLずつ Multidrop Combiにより分注した。終濃度は、リン酸緩衝液中 (10 mM、pH 7.4、0.5%アセトニトリル、1%DMSO)中にリポソーム (2.5 mg/mL Egg PC、0.1 mg/mL DCP)およびNBD-TEEPO化合物5.0 μM、被験化合物10 μM、FeSO4 1.0 mMとなった。37℃において、180分後の励起波長: 470 nm蛍光波長: 530 nmにおける蛍光強度を測定した。
【0104】
結果を
図18および
図19に示す。
1)その結果、AAPH系では1280個の化合物のうち、330個が活性値0を下回った、すなわち脂質過酸化反応を抑制しなかった。一方、950個が脂質過酸化反応を抑制し、うち190個が既知化合物エダラボンよりも高い活性値を示した(図(18a))。Fe
2+系では1280個の化合物のうち、434個が活性値0を下回り、一方、846個が脂質過酸化反応を抑制した。うち19個が既知化合物エダラボンよりも高い活性値を示した(図(18b))。
AAPH系とFe
2+系との結果を合わせて、16個のヒット化合物を得た(図(19a)および(図(19c)))。
2)Prestwick chemical libraryは、薬理活性が既知である化合物を集めた化合物ライブラリーであることから、本ライブラリーが提供しているデータベースや文献情報により、作用点、体内動態、安全性などに関する情報を入手することができる。したがって、当該16個のヒット化合物について、これらの情報をベースとして絞り込みを行った。これらヒット化合物には、心血管系、中枢系、呼吸器系、抗菌薬など幅広い疾患領域の治療薬が含まれていた(図(19b))。
【0105】
(薬理試験)
加齢黄斑変性症(AMD)に対する薬理活性を調べた。
試験モデルとしては、萎縮型AMDモデルマウスとして広く汎用される光照射モデルを用いて、試験を行った。被験化合物は、前記のPrestwick chemical libraryに関するスクリーニングによって選別した16個の候補化合物について、更に血液網膜関門(BRB)の透過性が高いことが報告されている下記5つの化合物(化合物V、化合物W、化合物X、化合物Y、化合物Z)に絞り込んで、薬理活性を調べた。
化合物V:
アポモルヒネ ((R)-(-)-アポモルヒネ 塩酸)
ドパミンD
1D
2受容体に作用する抗パーキンソン病薬として知られる。
化合物W:
エセロリン ((-)-エセロリンフマル酸塩)
オピオイド受容体に作用する鎮痛作用を有することが知られる。
化合物X:
エトキシキン (6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン)
抗酸化作用を有することが知られる。
化合物Y:
メチルドパ (メチルドーパ セスキ水和物)
アドレナリンα
2受容体に作用する血圧降下薬として知られる。
化合物Z:
オランザピン
(2-メチル-4-(4-メチル-1-ピぺラジニル)-10H-チエノ[2,3-b][1,5]ベンゾジアゼピン
【0106】
多数の受容体に作用する抗精神病薬として知られる。
【化9】
【0107】
(操作)
まず、AMDモデルマウスを下記のスケジュールに従って作製した。
実験動物
雄性BALB/cマウス (4週齢)は日本エスエルシー(株)より購入し、一週間馴化させた後、実験に用いた。餌として実験動物固形飼料 (CLEA Rodent Diet CE-2、CREA JAPAN, INC.)を、飲料水として水道水を自由摂取させ、12時間ごとの明暗サイクルの下で飼育した。また、全ての動物実験は、九州大学動物実験委員会の承認のもとで遂行した。
【0108】
光誘発性AMDモデルマウス作製
BALB/cマウスに、ポリエチレングリコール (polyethylene glycol: PEG) 300 10%を含むPBSに溶解させた10 mMの化合物を5 mL/kg腹腔投与した。30分後、散瞳剤としてミドリンP (トロピカミド 5 mg/mL、フェニレフリン塩酸塩 5 mg/mL、参天製薬(株))を両眼に一滴ずつ点眼した。8000luxの白色光を10時間照射し、通常の明暗サイクルに戻して6日間飼育した。7日目に頚椎脱臼により安楽死させ、眼球を摘出した(図(20a))。
【0109】
眼球凍結切片の作製
被験化合物10 mMを、PEG 300 10%を含有するPBSに溶解させ、 雄性BALB/cマウスに5 mL/kg 腹腔内投与を1回行った。投与30分後から、8000 luxの白色光を10時間照射した。その後6日間通常の明暗サイクル下で飼育し、7日目に安楽死後、眼球を摘出した。厚さ8 μmの凍結切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン (hematoxylin eosin: HE)染色を行い、外顆粒層(Outer nuclear layerONL)の厚みを180 μmおきに27点にわたり測定した(図(20b))。
【0110】
HE染色
プレパラートを1時間風乾し、室温中アセトンで15分間固定した後、99.5% EtOH、 80% EtOH、70% EtOH、精製水の順で3分間ずつ浸漬し、ヘマトキシリンで10分間染色した。その後、10分間流水洗浄を行い、1分間ぬるま湯に漬け、エオジンで1.5分間染色した。精製水で洗い、70% EtOH、80% EtOH、99.5% EtOHの順で3分間ずつ浸漬した後、キシレンで3回洗浄し、乾かした後、VectaMount(商標)Mounting Mediumにて封入した。キーエンス蛍光顕微鏡 (BZ-9000)にて観察・撮像を行った。
【0111】
統計解析
結果は平均+標準偏差で表した。多群間検定法としてDunnett’s Testを用いた。
【0112】
(結果)
撮像の結果を
図21に示す。図中、上方から内顆粒層(INL)、中間に外顆粒層(ONL)、下方に網膜色素上皮(RPE)が存在する。脂質過酸化により細胞死が起こると、中間の外顆粒層の厚さがうすくなる。
まず、光照射により、ONLの厚みは有意に減少した(
図21(a) 負コントロール)を参照。ONLの障害の程度は眼球の上半分(superior)側で特に重度であり(
図21(b))、これらの結果は文献(例えば、Tanito M., et al., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 2007, 48(4), 1900-5.)にて知られる結果と一致した。
一方で、本試験に用いた5つの被験化合物の場合には、いずれの場合もONLの厚さは、正コントロールの場合と比較してほとんど差異はなく、50 μmol/kgの同じ用量の場合でも、対照化合物としてのエダラボンやOT-551の場合と比較して、有意な厚さが観察された(
図21(c))。
【0113】
ここで、高い網膜保護効果を有することが知られるOT−551は、光照射モデルマウスにおいて、およそ100mg / kg (360 μmol / kg)程度必要であることが報告されている。よって、本試験における50 μmol/kgは約7分の1の量であり、かなり低用量である。
また、50 μmol/kgは、それぞれ5個の被験化合物の半数致死量(median lethal dose: LD50)の10分の1以下であり、安全であることが確認されている(
図22を参照)。
以上の結果より、本発明のスクリーニングによって選別した化合物が、加齢黄斑変性症に対して有用な化合物であることが示唆された。