(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ガラス粒子の量が、該ガラス粒子と前記セラミックス母材粒子の合計質量に対して30質量%〜70質量%に相当する量である、請求項1に記載の積層造形焼成体製造方法。
前記セラミックス母材粒子は、Al、Zr,Ti、Zn、Ni、FeおよびSiからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物を主体として構成されている、請求項1または2に記載の積層造形焼成体製造方法。
前記水溶性接着粒子の含有量が、前記積層造形用粉体の全質量に対して1質量%〜20質量%に相当する量である、請求項1〜5の何れか一つに記載の積層造形焼成体製造方法。
前記水溶性接着粒子は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および多糖類からなる群から選択される少なくとも1種を主体として構成されている、請求項1〜6の何れか一つに記載の積層造形焼成体製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、セラミックス粉末とバインダとを含む積層造形用粉体を用いて積層造形硬化物を造形した後、該硬化物を焼結することが記載されている。同公報には、かかる構成によって、焼結後の成形体において不要な空隙等が生じることなく、美麗な外観の成形体が得られることが記載されている。しかし、特許文献1では、焼成後に得られた積層造形焼成体の機械的強度は考慮されておらず、積層造形焼成体の強度に関する近年の要求レベルを満足させるには不十分である。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、積層造形焼成体の機械的強度を向上させ得る積層造形焼成体の製造方法を提供することである。関連する他の目的は、そのような高強度化に寄与し得る積層造形焼成体の製造に用いられる積層造形焼成用粉体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を実現するべく、本発明により積層造形焼成体の製造に用いられる積層造形焼成用粉体が提供される。この積層造形用粉体は、セラミックス母材粒子と、ガラス粒子と、水溶性接着粒子と、を含む。そして、前記積層造形焼成用粉体に含まれる前記ガラス粒子の量が、該ガラス粒子と前記セラミックス母材粒子の合計質量に対して10質量%〜90質量%に相当する量である。なお、本明細書において「セラミックス」とは、結晶質の無機物をいう。また、「ガラス」とは、非晶質の無機物をいう。このようにセラミックス母材粒子とガラス粒子とを上記特定の質量比率となるように組み合わせて用いることにより、従来に比して機械的強度に優れた積層造形焼成体を製造することができる。
【0007】
ここで開示される積層造形焼成用粉体の好ましい一態様では、前記ガラス粒子の量が、該ガラス粒子と前記セラミックス母材粒子の合計質量に対して30質量%〜70質量%に相当する量である。このようなガラス粒子の量の範囲内であると、機械的強度の向上がより高いレベルで実現され得る。
【0008】
ここで開示される積層造形焼成用粉体の好ましい一態様では、前記セラミックス母材粒子は、Al、Zr,Ti、Zn、Ni、FeおよびSiからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物を主体として構成されている。これらの金属元素または半金属元素を含む酸化物は、機械的強度の向上に効果的に寄与し得る。
【0009】
ここで開示される積層造形焼成用粉体の好ましい一態様では、前記ガラス粒子の平均粒子径が1μm〜80μmである。このようなガラス粒子の平均粒子径の範囲内であると、機械的強度の向上がより高いレベルで実現され得る。
【0010】
ここで開示される積層造形焼成用粉体の好ましい一態様では、前記ガラス粒子のガラス軟化点が600℃以上1100℃以下である。このようなガラス軟化点を有するガラス粒子は、機械的強度の向上に効果的に寄与し得る。
【0011】
ここで開示される積層造形焼成用粉体の好ましい一態様では、前記水溶性接着粒子の含有量が、前記積層造形用粉体の全質量に対して1質量%〜20質量%に相当する量である。このような水溶性接着粒子の含有量の範囲内であると、焼成前の硬化物における機械的強度が向上し、焼成前における型崩れ等を抑制し得る。
【0012】
ここで開示される積層造形焼成用粉体の好ましい一態様では、前記水溶性接着粒子は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および多糖類からなる群から選択される少なくとも1種を主体として構成されている。熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および多糖類のうちのいずれかを用いることで、前述の性能向上効果(例えば機械的強度向上効果)が発揮されやすくなる。
【0013】
また、本発明によると、積層造形焼成体を製造する方法が提供される、この製造方法は、ここに開示されるいずれかの積層造形焼成用粉体を用いて硬化物を造形すること;および、前記積層造形硬化物を焼成することにより積層造形焼成体を得ること;を包含する。このようにして得られた積層造形焼成体は、硬化後の積層造形焼成用粉体を焼成して得られたもの(すなわち積層造形焼成用粉体の焼成体)であるため、機械的強度に優れたものであり得る。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0016】
<積層造形焼成用粉体>
ここに開示される技術の好ましい一態様に係る積層造形焼成用粉体は、積層造形焼成体を製造するために用いられる粉体である。この積層造形焼成用粉体は、セラミックス母材粒子と、ガラス粒子と、水溶性接着粒子とを含む。そして、積層造形焼成用粉体に含まれるガラス粒子の量が、該ガラス粒子と上記セラミックス母材粒子の合計質量に対して10質量%〜90質量%に相当する量である。このことによって、例えば、ガラス粒子を含まない(セラミックス母材粒子と水溶性接着粒子とを含む)積層造形焼成用粉体に比べて、より機械的強度が高い積層造形焼成体が実現され得る。このような効果が得られる理由としては、特に限定的に解釈されるものではないが、例えば以下のように考えられる。すなわち、ガラス粒子を含む積層造形焼成用粉体は、焼成時にガラス粒子が軟化(典型的には溶融)してセラミックス母材粒子の隙間に入り込み、母材粒子間を接合する接着剤として作用する。このことが機械的強度の向上に寄与するものと考えられる。
【0017】
<ガラス粒子>
上記ガラス粒子の量としては、該ガラス粒子とセラミックス母材粒子の合計質量に対して10質量%以上である。ガラス粒子の含有量の増大によって、より高い機械的強度が実現され得る。上記ガラス粒子の含有量は、機械的強度向上等の観点から、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である、上記ガラス粒子の含有量は、例えば40質量%以上であってもよく、典型的には50質量%以上であってもよい。また、上記ガラス粒子の含有量は、通常は90質量%以下にすることが適当である。ガラス粒子の含有量が多すぎると、ガラス自体の破損によって反って強度低下が生じる場合があり得る。この点からは、上記ガラス粒子の含有量は、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下(例えば55質量%以下)がさらに好ましい。例えば、上記ガラス粒子の含有量が10質量%よりも大きく90質量%未満(より好ましくは20質量%以上80質量%以下、さらに好ましくは30質量%以上70質量%以下)である積層造形焼成用粉体が好適である。
【0018】
上記積層造形焼成用粉体に含まれるガラス粒子は、非晶質の無機物を主成分とする各種のガラス粒子であり得る。ここで、ガラスを主成分とするガラス粒子とは、該粒子の90質量%以上(通常は95質量%以上、典型的には98質量%以上)がガラスである粒子をいう。例えば、Si、B、Al、Ba、Ca、Mg、Li、Na、K、Zn、Sr、Sn、Zr、Sb、Bi、Te、Pb、W、Ti、YおよびAgからなる群から選択される1種または2種以上を構成元素とする化合物(例えば酸化物)からなるガラス粒子であることが好ましい。ガラス粒子の好適例として、SiO
2、B
2O
3、Al
2O
3、BaO、CaO、MgO、ZnO、SrO、ZrO
2、Bi
2O
3、PbO、Y
2O
3、TeO
2、WO
3、TiO
2、R
2O(RはNa、K、Li等のアルカリ金属を表す。)、CaCo
3およびNa
2からなる群から選ばれた少なくとも2種の化合物(例えば酸化物)を含むガラス粒子が挙げられる。使用し得るガラス粒子の例としては、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、ソーダガラス、溶融石英ガラス、無アルカリガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウアルミノケイ酸ガラス、ケイ酸塩ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、リチウムアルミナケイ酸ガラス、アルカリバリウムガラス、鉛ガラス、ビスマス系ガラス等が挙げられる。なかでも、酸化ケイ素(SiO
2)を主成分とし、さらに酸化ホウ素(B
2O
3)などの成分を含むホウケイ酸ガラスが好ましい。ホウケイ酸ガラスの例には、例えば酸化物換算の質量比でSiO
2を20質量%〜90質量%(例えば30質量%〜85質量%)、B
2O
3を2質量%〜60質量%(例えば5質量%〜30質量%)含有するガラスが含まれ得る。ここに開示される技術における積層造形焼成用粉体は、このようなガラス粒子の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて含むものであり得る。
【0019】
上記ガラス粒子としては、ガラス軟化点が600℃以上1100℃以下のものを使用し得る。上記ガラス軟化点は、好ましくは650℃以上、より好ましくは700℃以上である。上記ガラス軟化点は、例えば800℃以上、典型的には900℃以上(例えば1000℃以上)であってもよい。また、上記ガラス軟化点は、例えば1050℃以下、典型的には1000℃以下(例えば800℃以下)であってもよい。ここに開示される技術は、例えば、上記ガラス粒子のガラス軟化点が650℃以上1100℃未満(より好ましくは680℃以上1050℃以下)である態様で好ましく実施され得る。このようなガラス軟化点を有するガラス粒子は、例えば造形物の好適な焼成温度である800℃〜1200℃の温度域においてガラス粒子が軟化してセラミックス母材粒子の隙間に入り込みやすい。そのため、焼成後に得られた積層造形焼成体の機械的強度の向上に効果的に寄与し得る。好ましい一態様では、上記ガラス粒子の軟化点は、上記焼成温度よりも50℃〜100℃低い温度であり得る。なお、本明細書において、ガラス軟化点は、一般的な示差膨張方式に基づく熱機械分析装置(TMA)による測定にて算出するものとする。
【0020】
上記ガラス粒子の平均粒子径は、典型的には10μm以上であることが好ましい。上記ガラス粒子の平均粒子径は、積層造形焼成用粉体の流動性、成形性等の観点から、好ましくは15μm以上、より好ましくは20μm以上、特に好ましくは25μm以上(例えば30μm以上)である。また、上記ガラス粒子の平均粒子径の上限値は特に制限されないが、例えば80μm以下であり得る。より焼結性のよい積層造形焼成用粉体を実現する等の観点から、上記ガラス粒子の平均粒子径は、好ましくは75μm以下、より好ましくは70μm以下、さらに好ましくは65μm以下、特に好ましくは60μm以下である。ここに開示される技術は、例えば、上記平均粒子径が10μm以上80μm未満(より好ましくは20μm以上70μm未満、例えば30μm以上60μm以下)のガラス粒子を用いる態様で好ましく実施され得る。
【0021】
なお、本明細書中において「平均粒子径」とは、特記しない限り、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置に基づいて測定した粒度分布における積算値50%での粒子径、すなわち50%体積平均粒子径(D50径)を意味するものとする。より具体的には、レーザ回析・散乱式粒度分布測定装置を用い、圧縮空気による粒子の分散は行わず、乾式測定した50%体積平均粒子径である。
【0022】
<セラミックス母材粒子>
ここに開示される積層造形焼成用粉体は、セラミックス母材粒子を含有する。セラミックス母材粒子は、結晶質の無機物を主成分とする各種のセラミックス母材粒子であり得る。ここで、結晶質の無機物を主成分とするセラミックス母材粒子とは、該粒子の50質量%以上(通常は80質量%以上、典型的には90質量%以上)が結晶質の無機物である粒子をいう。かかるセラミックス母材粒子は、造形対象である積層造形焼成体の母材を構成する成分である。
【0023】
セラミックス母材粒子の材質や性状は、特に制限はない。例えば、セラミックス母材粒子は無機粒子および有機無機複合粒子のいずれかであり得る。セラミックス母材粒子としては、無機粒子が好ましく、なかでも金属または半金属の化合物からなる粒子が好ましい。例えば、周期表の第4族〜第14族に属するいずれかの元素を含む酸化物、窒化物、炭化物;等を主体として構成されるセラミックス母材粒子を好適に用いることができる。なかでもAl、Zr,Ti、Zn、Ni、FeおよびSiのうちのいずれかの金属元素または半金属元素を含む酸化物、窒化物、炭化物;等を主体として構成されるセラミックス母材粒子が好ましい。あるいは、周期表の第4族〜第13族に属するいずれかの元素を含む金属またはそれらの合金を主体として構成されたセラミックス母材粒子を採用してもよい。なかでもAl、Zr,Ti、Zn、NiおよびFeのうちのいずれかの金属元素を含む金属またはそれらの合金を主体として構成されたセラミックス母材粒子が好ましい。
【0024】
具体的には、酸化アルミニウム(例えばアルミナ)粒子、酸化ジルコニウム(例えばジルコニア)粒子、酸化チタン(例えばチタニア)粒子、酸化ケイ素(例えばシリカ)粒子、酸化亜鉛粒子、酸化鉄粒子、酸化ニッケル粒子、酸化セリウム(例えばセリア)粒子、酸化マグネシウム(例えばマグネシア)粒子、酸化クロム粒子、二酸化マンガン粒子、チタン酸バリウム粒子、炭酸カルシウム粒子、炭酸バリウム粒子等の酸化物粒子;アルミニウム粒子、ニッケル粒子、鉄粒子等の金属粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;等のいずれかを主体として構成されるセラミックス母材粒子が挙げられる。セラミックス母材粒子は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、チタニア粒子、シリカ粒子、酸化亜鉛粒子、チタン酸バリウム粒子、アルミニウム粒子、ニッケル粒子、鉄粒子は、高強度の積層造形焼成体を形成し得る点で好ましい。そのなかでも、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、チタニア粒子、シリカ粒子がさらに好ましく、ジルコニア粒子が特に好ましい。
【0025】
セラミックス母材粒子の形状(外形)は、特に制限はない。球形であってもよく、非球形であってもよい。機械的強度、製造容易性等の観点から、略球形のセラミックス母材粒子を好ましく使用し得る。
【0026】
セラミックス母材粒子の平均粒子径Xは、5μm≦X≦80μmであり得る。セラミックス母材粒子の平均粒子径Xが小さすぎると、積層造形焼成用粉体が流動しにくくなるため、造形時に該粉体を薄層状に充填する際の成形性が低下する場合があり得る。上記セラミックス母材粒子の平均粒子径Xは、成形性等の観点からは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、特に好ましくは20μm以上(例えば30μm以上)である。また、セラミックス母材粒子の平均粒子径Xは、概ね80μm以下である。セラミックス母材粒子の平均粒子径Xが大きすぎると、造形時に該粉体を薄層状に充填した後、該粉体が流動しやすくなるため、積層造形焼成体の各層が積層ずれを起こす場合があり得る。上記セラミックス母材粒子の平均粒子径Xは、積層ずれを抑制する等の観点からは、好ましくは75μm以下、より好ましくは70μm以下、特に好ましくは65μm以下である。例えば平均粒子径Xが10μm≦X≦70μm(典型的には20μm≦X≦60μm)であるセラミックス母材粒子が、成形性と積層ずれ抑制とを両立させる観点から好適である。
【0027】
積層造形焼成用粉体におけるセラミックス母材粒子の含有量は、特に制限はない。セラミックス母材粒子の含有量は、積層造形焼成用粉体の全質量に対して、通常は10質量%以上であり、機械的強度向上等の観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、例えば40質量%以上、典型的には50質量%以上であってもよい。セラミックス母材粒子の含有量の上限は、特に限定されないが、好ましくは90質量%未満であり、より好ましくは80質量%以下であり、例えば70質量%以下であってもよい。このようなセラミックス母材粒子の含有量の範囲内であると、本構成の効果を一層高いレベルで発揮することができる。
【0028】
<水溶性接着粒子>
ここに開示される積層造形焼成用粉体は水溶性接着粒子を含有する。ここで「水溶性接着粒子」とは、液温90℃の水100質量部に接着粒子2質量部を添加し4時間攪拌したときに、該接着粒子の全部もしくは一部が溶解することで、該接着粒子を溶解した水溶液が水よりも高い粘性を発現する樹脂粒子をいう。好ましい一態様では、上記水の粘度をA(mPa・s)とした場合に、上記接着粒子が溶解した水溶液の粘度が1.2×A(好ましくは1.5×A、より好ましくは2.0×A)を上回る程度に粘性が発現する。水溶性接着粒子は、水を含む造形液と混合した際、水に溶解してセラミックス母材粒子およびガラス粒子同士を接着する成分である。これにより、硬化物が造形され得る。
【0029】
水溶性接着粒子の材質や性状は特に制限はない。例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂および多糖類のいずれかを主体として構成された水溶性接着粒子が好ましく用いられる。
【0030】
熱可塑性樹脂の好適例として、例えばビニルアルコール系樹脂、イソブチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等が例示される。ビニルアルコール系樹脂は、典型的には、主たる繰返し単位としてビニルアルコール単位を含む樹脂(PVA)である。当該樹脂において、全繰返し単位のモル数に占めるビニルアルコール単位のモル数の割合は、通常は50%以上(例えば50%〜90%)であり、好ましくは65%以上、より好ましくは75%以上、例えば85%以上である。全繰返し単位が実質的にビニルアルコール単位から構成されていてもよい。PVAにおいて、ビニルアルコール単位以外の繰返し単位の種類は特に限定されず、例えば酢酸ビニル単位等であり得る。カルボキシル基変性PVA、スルホン酸基変性PVA、リン酸基変性PVAなどのアニオン変性PVA、カチオン変性PVA、あるいはエチレン、長鎖アルキル基を有するビニルエーテル、ビニルエステル、(メタ)アクリルアミド、アルファオレフィンなどを共重合した変性PVA;等を使用してもよい。PVAの重合度については特に制限されないが、例えば100〜5000(好ましくは500〜3000)であり得る。イソブチレン系樹脂は、イソブチレンの単独重合体であってもよいし、イソブチレンと他の単量体との共重合体(イソブチレン共重合体)であってもよい。イソブチレン共重合体において、イソブチレンと共重合する他の単量体としては特に限定されない。例えば、エチレン性二重結合を有するモノマーが挙げられる。エチレン性二重結合を有するモノマーとしては、例えば、(無水)マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)フタル酸、(無水)イタコン酸などのエチレン性不飽和カルボン等が挙げられる。化学変性したイソブチレン共重合体を用いてもよい。イソブチレン共重合体の分子量については特に制限されないが、例えば3×10
3〜2×10
5(好ましくは5×10
3〜1.7×10
5)であり得る。ポリアミド系樹脂としては、例えばポリカプロアミド(ナイロン−6)などのナイロンを化学変性した水溶性ナイロンが挙げられる。ポリエステル系樹脂としては、例えば親水性基を有する成分がポリエステル中に共重合成分として導入された水溶性ポリエステルが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂の中でも、ビニルアルコール系樹脂およびイソブチレン系樹脂は強接着力を有する点で好ましく用いることができる。
【0031】
熱硬化性樹脂の好適例としては、例えばメラミン系樹脂が例示される。メラミン系樹脂は、メラミンとアルデヒドとの重合反応によって得られるメラミン樹脂であってもよいし、メラミン樹脂の形成に用いられる単量体(またはその初期重合体)と他の単量体(またはその初期重合体)との共重合体樹脂であってもよい。メラミン樹脂において、メラミンと重合するアルデヒドとしては特に限定されない。例えばメラミンとホルムアルデヒドとの重合反応によって得られるメラミン樹脂を好ましく用いることができる。
【0032】
多糖類の好適例としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体;デキストリン、アラビアゴム、キサンタンゴム、カードラン、澱粉、グルコマンナン、アガロース、カラギナン、グアーガム、ローカストビーンガム、トラガントガム、クインシードガム、プルラン、寒天、コンニャクマンナンなどの天然高分子化合物;が例示される。なかでも、接着性等の観点から、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、メチルセルロース、アラビアゴム、キサンタンゴムを好ましく用いることができる。
【0033】
ここに開示される積層造形焼成用粉体に含有させ得る水溶性接着粒子の他の例として、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸ナトリウム部分中和物、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドンの共重合体、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウムの共重合体、アルギン酸ナトリウム、スクロース、デキストロース、フルクトース、ラクトース、ゼラチン;等を主体として構成された水溶性接着粒子が挙げられる。上述した水溶性接着粒子は、1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
なお、本明細書において、水溶性接着粒子の組成について「Aを主体として構成される」とは、当該水溶性接着粒子に占めるAの割合(Aの純度)が、質量基準で90%以上(好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、例えば99%以上)であることをいう。
【0035】
特に制限されるものではないが、水溶性接着粒子の平均粒子径は、通常は0.1μm以上であり、好ましくは1μm以上である。水溶性接着粒子の平均粒子径の上限は、凡そ250μm以下とすることが適当であり、好ましくは200μm以下である。
【0036】
積層造形焼成用粉体における水溶性接着粒子の含有量は、特に制限はない。水溶性接着粒子の含有量は、積層造形焼成用粉体の全質量に対して、通常は1質量%以上であり、硬化物の機械的強度向上等の観点から、好ましくは2質量%以上、例えば4質量%以上、典型的には8質量%以上であってもよい。水溶性接着粒子の含有量の上限は、特に限定されないが、例えば40質量%以下であり、硬化物の機械的強度向上等の観点から、好ましくは35質量%以下、例えば30質量%以下、例えば20質量%以下、典型的には15質量%以下、例えば10質量%以下であってもよい。
【0037】
ここに開示される技術において、水溶性接着粒子とセラミックス母材粒子とは、相互に接着しておらず、それぞれ独立した粒子として存在していてもよい。このように水溶性接着粒子とセラミックス母材粒子とがそれぞれ独立した粒子として存在することで、所望の積層造形焼成用粉体を簡易に実現できる。あるいは、セラミックス母材粒子の表面に水溶性接着粒子を付着させてもよい。すなわち、セラミックス母材粒子の一部または全部を水溶性接着粒子で被覆(コーティング)してもよい。このことによって、セラミックス母材粒子間に所要量の水溶性接着粒子が確実に存在するため、水溶性接着粒子を溶解した水がセラミックス母材粒子間に効率よく行き渡る。そのため、前述した硬化物強度向上効果をより効果的に発揮させることができる。
【0038】
ここに開示される積層造形焼成用粉体は、本構成の効果を損なわない範囲で、分散剤、増粘剤、印刷助剤等の、積層造形焼成用粉体に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。上記添加剤の含有量は、その添加目的に応じて適宜設定すればよく、本発明を特徴づけるものではないため、詳しい説明は省略する。
【0039】
ここに開示される積層造形焼成用粉体の調製方法は特に限定されない。例えば、ポリミックス等の周知の混合方法を用いて、積層造形焼成用粉体に含まれる各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。
【0040】
ここに開示される積層造形焼成用粉体は、典型的には水を含む造形液と混合される態様で、積層造形焼成体の製造に用いられる。製造される積層造形焼成体の形状はとくに制限されない。ここに開示される積層造形焼成用粉体は、種々の三次元立体形状の積層造形焼成体の製造に好ましく適用され得る。
【0041】
上記造形液に用いられる溶媒は、水を含むものであればよい。溶媒としては、純水、超純水、イオン交換水(脱イオン水)、蒸留水等を好ましく用いることができる。ここに開示される造形液は、必要に応じて、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)をさらに含有してもよい。通常は、造形液に含まれる溶媒の40体積%以上が水であることが好ましく、50体積%以上(典型的には50〜100体積%)が水であることがより好ましい。かかる造形液は、造形時に三次元立体造形用粉体100質量部に対して例えば20質量部〜80質量部(典型的には40質量部〜60質量部)の比率で混合され得る。
【0042】
ここに開示される造形液は、本構成の効果を損なわない範囲で、染料、有機顔料、無機顔料、湿潤剤、流量増加剤等の、造形液に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。上記添加剤の含有量は、その添加目的に応じて適宜設定すればよく、本発明を特徴づけるものではないため、詳しい説明は省略する。
【0043】
<積層造形焼成体の製造方法>
積層造形焼成用粉体を用いて積層造形焼成体を製造する方法としては、特に限定されない。例えば、積層造形焼成用粉体を用いて該粉体の層を形成した後、該層における所定領域に水を含む造形液を供給することにより、硬化物を造形する(造形工程)。そして、該硬化物を焼成することにより積層造形焼成体が製造され得る(焼成工程)。
【0044】
<造形工程>
上記硬化物の造形は、例えば、造形対象となる硬化物に対応する三次元データ等に基づいて立体を造形する3Dプリンタを用いて行われ得る。かかる3Dプリンタは、水を含む造形液を滴下するインクジェットと、積層造形焼成用粉体が配置される
載置台とを有し得る。そして、下記の操作1〜3を繰り返すことで、層状固形物を順次積層して硬化物を造形する。
操作1:上記積層造形焼成用粉体を、造形対象となる硬化物の各層に対応する厚さ(例えば0.01mm〜0.3mm)となるように、
載置台上に層状に充填(堆積)する。
操作2:層状に充填された積層造形焼成用粉体(堆積物)のうち硬化すべき部分(すなわち造形対象となる積層造形物の一部に相当する部分)に対してインクジェットヘッドから水を含む造形液を滴下する。そして当該滴下部分に含まれる水溶性接着粒子を溶解して非セラミックス粒子やガラス粒子間を接着することで、硬化層(層状固形物)を形成する。操作3:
載置台を鉛直下方に上記硬化物の各層に対応する厚さの分だけ下降させる。
【0045】
その後、硬化されなかった積層造形焼成用粉体を最終的に取り除くことで、硬化物の造形が完了する。造形後、得られた硬化物を自然乾燥してもよい。乾燥時間としては特に限定されないが、概ね1.5時間〜24時間程度、好ましくは15時間〜20時間である。
【0046】
<焼成工程>
次いで、上記造形された硬化物を焼成することにより積層造形焼成体を得る。好ましくは、酸素雰囲気中において600℃以上1650℃以下の範囲内に最高焼成温度を決定する。これにより、硬化物中のガラス粒子が軟化(典型的には溶融)してセラミックス母材粒子の隙間に入り込み、母材粒子間を強固に接合する。これにより高強度の積層造形焼成体を製造することができる。最高焼成温度が800℃以上1200℃以下となるように行われることが好ましい。このような比較的低温の焼成条件であっても、本態様によればセラミックス粒子とガラス粒子とを組み合わせて用いることで、従来に比して、より高強度の積層造形焼成体を得ることができる。また、焼成時間(最高焼成温度での焼成時間)は、概ね1時間〜10時間(好ましくは1.5時間〜5時間、特に好ましくは2時間〜3時間)とするとよい。焼成時間が短すぎると、焼結が不十分となるため、積層造形焼成体の機械的強度が低下する場合があり、一方、焼成時間が長すぎると、機械的強度向上効果が鈍化傾向になることに加えて、製造時間も長大化するためメリットがあまりない。
【0047】
好ましい一態様では、焼成工程は、室温から最高焼成温度まで一定の昇温速度で昇温し、最高焼成温度で所定時間保持した後、室温まで一定の降温速度で降温する態様で行われる。昇温速度としては特に限定されないが、通常は0.1〜10℃/分、好ましくは1〜10℃/分である。また、降温速度としては特に限定されないが、通常は0.1〜50℃/分、好ましくは1〜10℃/分である。このような焼成スケジュールによって積層造形物を焼成することにより、高強度の積層造形焼成体を安定して得ることができる。このようにして本実施形態に係る積層造形焼成体の製造が完了する。
【0048】
<積層造形焼成体>
ここに開示される積層造形焼成体は、セラミックス母材粒子とガラス粒子と水溶性接着粒子とを含み、ガラス粒子の含有量が積層造形用粉体の全質量に対して10質量%〜90質量%に相当する量である積層造形焼成用粉体を造形後に焼成して得られたもの(すなわち積層造形焼成用粉体の焼成体)である。そのため、得られた積層造形焼成体は、従来に比して機械的強度に優れたものとなり得る。典型的には、JIS R 1601に準拠して測定される積層造形焼成体の3点曲げ強度が1.5MPa以上(例えば1.5MPa〜20MPa)であり、好ましくは2MPa以上、より好ましくは3MPa以上、さらに好ましくは5MPa以上、特に好ましくは8MPa以上(例えば10MPa以上、典型的には11MPa以上)であり得る。
【0049】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明を実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において、「%」は特に断りがない限り質量基準(質量%)である。
【0050】
<積層造形焼成用粉体>
セラミックス母材粒子とガラス粒子と水溶性接着粒子とを所定の質量比で秤量し、ポリミックスで30秒間混合して積層造形焼成用粉体を調製した。この積層造形焼成用粉体を3D Systems社製ProJet460Plusに投入し、縦4mm×横40mm×厚さ3mmの硬化物(試験片)を造形した。その後、硬化物を大気雰囲気中で所定の焼成温度で2時間、焼成を行うことにより、積層造形焼成体を得た。各例に係る積層造形焼成体について、使用したセラミックス母材粒子の種類および含有量、ガラス粒子の種類および含有量、水溶性接着粒子の種類および含有量、焼成温度を表1に纏めて示す。ここではアルミナ粉の平均粒子径は30μm、ジルコニア粉の平均粒子径は20μm、ホウケイ酸ガラスAおよびホウケイ酸ガラスBの平均粒子径は30μm〜40μmとした。
【0052】
<曲げ強度測定>
各例の試験片の3点曲げ強度をJIS R 1601に準拠する方法で測定した。結果を表1の「強度」欄および
図1、2に示す。
図1は、ホウケイ酸ガラスAについて、ガラス成分の含有量と焼成体強度との関係を示すグラフであり、
図2は、ホウケイ酸ガラスBについて、ガラス成分の含有量と焼成体強度との関係を示すグラフである。
【0053】
表1に示されるように、セラミックス母材粒子とガラス粒子とを組み合わせて用いた例1〜16のサンプルは、セラミックス母材粒子およびガラス粒子の何れか一方のみを用いた例17〜19に比べて、3点曲げ強度で良好な結果が得られた。この結果から、セラミックス母材粒子とガラス粒子とを組み合わせて用いることにより、機械的強度が高い積層造形焼成体を実現し得ることが確認された。また、
図1および
図2に示されるように、ガラス粒子の種類にかかわらず、ガラス成分の含有量を増加させると、曲げ強度はいったん増大傾向を示し、そして中間で極大値をとった後、再び減少傾向に転じた。すなわち、ガラス粒子の含有量が多すぎても少なすぎても、曲げ強度は低下傾向を示すことが確認された。ここで供試した積層造形焼成用粉体の場合、ガラス粒子の含有量を10質量%〜80質量%(すなわちガラス粒子とセラミックス母材粒子の合計質量に対して10質量%〜90質量%)にすることによって、1.5MPa以上という高い曲げ強度を達成できた。特にガラス粒子の含有量を30質量%〜60質量%にすることによって、5MPa以上という極めて高い曲げ強度を達成できた。ジルコニアのような焼結しにくいセラミックス母材粒子を用いた場合でも極めて高強度の積層造形焼成体が実現され得る点において本発明の技術的価値は高い。
【0054】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。