特許第6864467号(P6864467)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6864467
(24)【登録日】2021年4月6日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】単相インバータ
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/497 20070101AFI20210419BHJP
【FI】
   H02M7/497
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-246609(P2016-246609)
(22)【出願日】2016年12月20日
(65)【公開番号】特開2018-102051(P2018-102051A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2019年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩田 広
【審査官】 佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−124731(JP,A)
【文献】 特開2014−100026(JP,A)
【文献】 特開2001−161073(JP,A)
【文献】 特開平07−177662(JP,A)
【文献】 竹田正俊,電源高調波規制と対応技術,4.大容量機器における対応技術,電気学会論文誌D,1995年,115巻,第9号,pp.1095−1097
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48,7/497
H02J 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧源から供給される直流電圧が入力される単相フルブリッジ回路を複数備える単相インバータであって、
前記複数の単相フルブリッジ回路のうち少なくとも2つは、互いに供給される前記直流電圧の電圧値が異なり、
前記複数の単相フルブリッジ回路のうち少なくとも2つは、互いに点弧位相が異なり、
前記複数の単相フルブリッジ回路の各出力が多段で直列接続され、
前記直列接続された各出力の両端から交流電圧が出力され
前記複数の単相フルブリッジ回路は、第1フルブリッジ回路、第2フルブリッジ回路、第3フルブリッジ回路および第4フルブリッジ回路であり、
前記第1フルブリッジ回路および前記第2フルブリッジ回路に供給される前記直流電圧の電圧値は、第1電圧値Edc1であり、
前記第3フルブリッジ回路および前記第4フルブリッジ回路に供給される前記直流電圧の電圧値は、前記第1電圧値とは異なる第2電圧値Edc2であり、
前記第1フルブリッジ回路と前記第2フルブリッジ回路の前記点弧位相は互いに異なる点弧位相であり、
前記第3フルブリッジ回路および前記第4フルブリッジ回路の前記点弧位相は同一の点弧位相であり、
前記第1電圧値Edc1と前記第2電圧値Edc2との関係が、次式
Edc1:Edc2=1:31/2/2
を満たすように前記第1電圧値Edc1および前記第2電圧値Edc2が設定されており、
前記第1フルブリッジ回路の点弧位相を基準とすると、前記第2フルブリッジ回路の点弧位相を60°遅らせるとともに、前記第3フルブリッジ回路および前記第4フルブリッジ回路の点弧位相を30°遅らせるようになっている単相インバータ。
【請求項2】
高調波の次数をnとし、パルス数をpとし、正の整数をmとすると、
前記交流電圧に含まれる高調波の次数nが次式
n=p×m±1
を満たすように、且つ
基本波の大きさを1とすると、前記交流電圧に含まれる高調波の発生量Enが次式
En=1/n
を満たすように、前記直流電圧の電圧値および前記点弧位相が設定される請求項1に記載の単相インバータ。
【請求項3】
さらに、前記交流電圧に含まれる高調波の最低次数以上の成分を阻止するローパスフィルタを備える請求項1または2に記載の単相インバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、単相インバータに関する。
【背景技術】
【0002】
今後、例えば電気自動車への非接触給電などの高周波分野を中心として直流電圧源から交流電圧を出力する単相インバータの需要が拡大することが予想されている。このような用途に単相インバータが用いられる場合、出力される交流電圧に含まれる高調波による誘導障害、電波障害などが問題となることが考えられる。従来、このような高調波による問題への対策が種々考案されているが、それらの対策はいずれもフィルタの作用により高調波電圧を除去する、といったものが主流であった。フィルタを用いる対策では、装置の大型化やコストの増加を招く、などの問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−104295号公報
【特許文献2】特開2010−233364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、装置の大型化やコストの増加を抑制しつつ、高調波による問題の発生を抑制することができる単相インバータを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態の単相インバータは、直流電圧源から供給される直流電圧が入力される単相フルブリッジ回路を複数備えるものである。複数の単相フルブリッジ回路のうち少なくとも2つは、互いに供給される前記直流電圧の電圧値が異なっている。複数の単相フルブリッジ回路のうち少なくとも2つは、互いに点弧位相が異なっている。複数の単相フルブリッジ回路の各出力が多段で直列接続されている。直列接続された各出力の両端から交流電圧が出力される。前記複数の単相フルブリッジ回路は、第1フルブリッジ回路、第2フルブリッジ回路、第3フルブリッジ回路および第4フルブリッジ回路であり、前記第1フルブリッジ回路および前記第2フルブリッジ回路に供給される前記直流電圧の電圧値は、第1電圧値Edc1であり、前記第3フルブリッジ回路および前記第4フルブリッジ回路に供給される前記直流電圧の電圧値は、前記第1電圧値とは異なる第2電圧値Edc2であり、前記第1フルブリッジ回路と前記第2フルブリッジ回路の前記点弧位相は互いに異なる点弧位相であり、前記第3フルブリッジ回路および前記第4フルブリッジ回路の前記点弧位相は同一の点弧位相である。この場合、前記第1電圧値Edc1と前記第2電圧値Edc2との関係が、次式「Edc1:Edc2=1:31/2/2」を満たすように前記第1電圧値Edc1および前記第2電圧値Edc2が設定されている。また、この場合、前記第1フルブリッジ回路の点弧位相を基準とすると、前記第2フルブリッジ回路の点弧位相を60°遅らせるとともに、前記第3フルブリッジ回路および前記第4フルブリッジ回路の点弧位相を30°遅らせるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】一実施形態に係る単相インバータを含む非接触給電装置の構成を模式的に示す図
図2】各インバータ部から出力される電圧の波形を模式的に示す図
図3】単相インバータの各部の電圧波形と、トランスの二次側に現れる電圧および電流の波形とを模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、一実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示す単相インバータ1は、トランス2およびローパスフィルタ3(以下、LPF3と呼ぶ)とともに非接触給電装置4を構成している。非接触給電装置4は、例えば電気自動車への非接触給電を行う用途に用いられる。
【0008】
単相インバータ1から出力される交流電圧は、トランス2の一次側巻線2aに印加される。本実施形態では、トランス2の変圧比は、例えば「1:1」となっている。トランス2の二次側巻線2bから出力される交流電圧Ehfは、LPF3に入力されている。LPF3は、例えばインダクタおよびキャパシタからなるL型やπ型のLCフィルタとして構成されている。
【0009】
LPF3は、交流電圧Ehfに含まれる高調波の最低次数以上の成分を阻止するように設計されている。なお、この場合、詳細は後述するが、交流電圧Ehfに含まれる高調波の最低次数は「11」である。そのため、本実施形態では、LPF3は、交流電圧Ehfに含まれる11次以上の高調波成分を阻止するように設計されている。LPF3の出力電圧は、給電対象の負荷(図示略)に供給される。
【0010】
単相インバータ1は、複数のインバータ部INV1〜INV4を備えている。インバータ部INV1〜INV4は、いずれも単相フルブリッジ回路として構成されており、入力される直流電圧を交流電圧に変換して出力する。なお、本実施形態では、インバータ部INV1、INV2、INV3、INV4は、それぞれ第1フルブリッジ回路、第2フルブリッジ回路、第3フルブリッジ回路、第4フルブリッジ回路に相当する。
【0011】
インバータ部INV1には、直流電圧源5から電源線6、7を介して供給される第1電圧値Edc1の直流電圧が入力されている。直流電圧源5は、例えばバッテリなどの電圧源や予め充電されたコンデンサなどから構成される。インバータ部INV1は、4つのスイッチS11〜S14を備えている。スイッチS11〜S14としては、例えばパワーMOSFETやIGBTなどの半導体スイッチング素子を用いることができる。
【0012】
電源線6、7間には、スイッチS11、S12の直列回路およびスイッチS13、S14の直列回路が接続されている。スイッチS11、S12の相互接続ノードN1はインバータ部INV1の高電位側の出力ノードとなり、スイッチS13、S14の相互接続ノードN2はインバータ部INV1の低電位側の出力ノードとなる。
【0013】
インバータ部INV2には、直流電圧源8から電源線9、10を介して供給される第1電圧値Edc1の直流電圧が入力されている。直流電圧源8としては、直流電圧源5と同様の構成を採用することができる。インバータ部INV2は、4つのスイッチS21〜S24を備えている。スイッチS21〜S24としては、スイッチS11〜S14と同様の構成を採用することができる。
【0014】
電源線9、10間には、スイッチS21、S22の直列回路およびスイッチS23、S24の直列回路が接続されている。スイッチS21、S22の相互接続ノードN3はインバータ部INV2の高電位側の出力ノードとなり、スイッチS23、S24の相互接続ノードN4はインバータ部INV2の低電位側の出力ノードとなる。
【0015】
インバータ部INV3には、直流電圧源11から電源線12、13を介して供給される第2電圧値Edc2の直流電圧が入力されている。直流電圧源11としては、直流電圧源5などと同様の構成を採用することができる。インバータ部INV3は、4つのスイッチS31〜S34を備えている。スイッチS31〜S34としては、スイッチS11〜S14などと同様の構成を採用することができる。
【0016】
電源線12、13間には、スイッチS31、S32の直列回路およびスイッチS33、S34の直列回路が接続されている。スイッチS31、S32の相互接続ノードN5はインバータ部INV3の高電位側の出力ノードとなり、スイッチS33、S34の相互接続ノードN6はインバータ部INV3の低電位側の出力ノードとなる。
【0017】
インバータ部INV4には、直流電圧源14から電源線15、16を介して供給される第2電圧値Edc2の直流電圧が入力されている。直流電圧源14としては、直流電圧源5などと同様の構成を採用することができる。インバータ部INV4は、4つのスイッチS41〜S44を備えている。スイッチS41〜S44としては、スイッチS11〜S14などと同様の構成を採用することができる。
【0018】
電源線15、16間には、スイッチS41、S42の直列回路およびスイッチS43、S44の直列回路が接続されている。スイッチS41、S42の相互接続ノードN7はインバータ部INV4の高電位側の出力ノードとなり、スイッチS43、S44の相互接続ノードN8はインバータ部INV4の低電位側の出力ノードとなる。
【0019】
このように、インバータ部INV1およびINV2と、インバータ部INV3およびINV4とは、互いに供給される直流電圧の電圧値が異なっている。そして、インバータ部INV1およびINV2に供給される直流電圧の電圧値である第1電圧値Edc1と、インバータ部INV3およびINV4に供給される直流電圧の電圧値である第2電圧値Edc2とは、下記(1)式の関係となっている。
Edc1:Edc2=1:31/2/2 …(1)
【0020】
スイッチ制御部17は、インバータ部INV1〜INV4の各スイッチのオンオフを制御する。各スイッチのオンオフの詳細なタイミングは後述するが、インバータ部INV1とインバータ部INV2の点弧位相は、互いに異なる点弧位相となる。また、インバータ部INV3とインバータ部INV4の点弧位相は、同一の点弧位相となる。また、インバータ部INV1とインバータ部INV3、INV4の点弧位相は、互いに異なる点弧位相となる。また、インバータ部INV2とインバータ部INV3、INV4の点弧位相は、互いに異なる点弧位相となる。
【0021】
上記構成において、インバータ部INV1の低電位側の出力ノードN2は、インバータ部INV2の高電位側の出力ノードN3に接続されている。また、インバータ部INV2の低電位側の出力ノードN4は、インバータ部INV3の高電位側の出力ノードN5に接続されている。また、インバータ部INV3の低電位側の出力ノードN6は、インバータ部INV4の高電位側の出力ノードN7に接続されている。
【0022】
そして、インバータ部INV1の高電位側の出力ノードN1と、インバータ部INV4の低電位側の出力ノードN8との間から出力される交流電圧が、トランス2の一次側巻線2aに印加される。つまり、上記構成の単相インバータ1では、インバータ部INV1〜INV4の各出力が多段で直列接続され、その直列接続された各出力の両端から交流電圧が出力されるようになっている。
【0023】
次に、上記構成の作用について図2および図3も参照して説明する。なお、図2および図3では、単相インバータ1から出力される交流電圧の1周期の開始時点を0°とし、その終了時点を360°として示している。また、図3における縦軸は、各電圧を電圧Edc1で除算したもの、つまり電圧Edc1で正規化した各電圧を示している。
【0024】
[1]インバータ部INV1の動作
交流電圧の1周期において、インバータ部INV1のスイッチS11〜S14のオンオフは、次のように制御される。すなわち、0°〜120°では、スイッチS11、S14がオンされるとともにスイッチS12、S13がオフされる。また、120°〜180°および300°〜360°では全てのスイッチS11〜S14がオフされる。また、180°〜300°では、スイッチS11、S14がオフされるとともにスイッチS12、S13がオンされる。
【0025】
スイッチS11〜S14が上述したように制御されることにより、インバータ部INV1の出力ノードN1、N2間には、図2(a)に示すような交流電圧が現れる。すなわち、インバータ部INV1から出力される交流電圧は、0°〜120°では+Edc1となり、120°〜180°では0となり、180°〜300°では−Edc1となり、300°〜360°では0となる。
【0026】
[2]インバータ部INV2の動作
交流電圧の1周期において、インバータ部INV2のスイッチS21〜S24のオンオフは、次のように制御される。すなわち、0°〜60°および180°〜240°では全てのスイッチS21〜S24がオフされる。また、60°〜180°では、スイッチS21、S24がオンされるとともにスイッチS22、S23がオフされる。また、240°〜360°では、スイッチS21、S24がオフされるとともにスイッチS22、S23がオンされる。
【0027】
スイッチS21〜S24が上述したように制御されることにより、インバータ部INV2の出力ノードN3、N4間には、図2(b)に示すような交流電圧が現れる。すなわち、インバータ部INV2から出力される交流電圧は、0°〜60°では0となり、60°〜180°では+Edc1となり、180°〜240°では0となり、240°〜360°では−Edc1となる。
【0028】
[3]インバータ部INV3の動作
交流電圧の1周期において、インバータ部INV3のスイッチS31〜S34のオンオフは、次のように制御される。すなわち、0°〜30°および150°〜210°では全てのスイッチS31〜S34がオフされる。また、30°〜150°では、スイッチS31、S34がオンされるとともにスイッチS32、S33がオフされる。また、210°〜330°では、スイッチS31、S34がオフされるとともにスイッチS32、S33がオンされる。
【0029】
スイッチS31〜S34が上述したように制御されることにより、インバータ部INV3の出力ノードN5、N6間には、図2(c)に示すような交流電圧が現れる。すなわち、インバータ部INV3から出力される交流電圧は、0°〜30°では0となり、30°〜150°では+Edc2となり、150°〜210°では0となり、210°〜330°では−Edc2となり、330°〜360°では0となる。
【0030】
[4]インバータ部INV4の動作
交流電圧の1周期において、インバータ部INV4のスイッチS41〜S44のオンオフは、次のように制御される。すなわち、0°〜30°および150°〜210°では全てのスイッチS41〜S44がオフされる。また、30°〜150°では、スイッチS41、S44がオンされるとともにスイッチS42、S43がオフされる。また、210°〜330°では、スイッチS41、S44がオフされるとともにスイッチS42、S43がオンされる。
【0031】
スイッチS41〜S44が上述したように制御されることにより、インバータ部INV4の出力ノードN7、N8間には、図2(d)に示すような交流電圧が現れる。すなわち、インバータ部INV4から出力される交流電圧は、0°〜30°では0となり、30°〜150°では+Edc2となり、150°〜210°では0となり、210°〜330°では−Edc2となり、330°〜360°では0となる。
【0032】
[5]全体の動作
インバータ部INV1、INV2が上述したような動作を行うことにより、ノードN1、N4間に図3(a)に示すような電圧が現れる。すなわち、ノードN1、N4間の電圧Ehf1は、0°〜60°では1となり、60°〜120°では2となり、120°〜180°では1となり、180°〜240°では−1となり、240°〜300°では−2となり、300°〜360°では−1となる。
【0033】
また、インバータ部INV3、INV4が上述したような動作を行うことにより、ノードN5、N8間に図3(b)に示すような電圧が現れる。すなわち、ノードN5、N8間の電圧Ehf2は、0°〜30°では0となり、30°〜150°では31/2(以下、√3と表す)となり、150°〜210°では0となり、210°〜330°では−√3となり、330°〜360°では0となる。
【0034】
単相インバータ1から出力される交流電圧、ひいてはトランス2の二次側巻線2bから出力される交流電圧Ehfは、図3(c)に示すように、電圧Ehf1と電圧Ehf2が合成された階段状の波形となる。すなわち、交流電圧Ehfは、0°〜30°では1となり、30°〜60°では1+√3となり、60°〜120°では2+√3となり、120°〜150°では1+√3となり、150°〜180°では1となる。また、交流電圧Ehfは、180°〜210°では−1となり、210°〜240°では−1+√3となり、240°〜300°では−2+√3となり、300°〜330°では−1+√3となり、330°〜360°では1となる。
【0035】
また、トランス2の二次側巻線2bに流れる電流Ihfは、LPF3の作用により、交流電圧Ehfの波形を鈍らせた波形となる。すなわち、電流Ihfは、図3(c)に示すような正弦波状の波形となる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態によれば次のような効果が得られる。
一般的な単相インバータから出力される電圧は、矩形波状の波形となる。このような矩形波状の出力電圧には、非常に多くの高調波成分が含まれている。そのような高調波電圧を除去するためには、低次数の高調波をも除去する仕様のフィルタが必要であり、装置の大型化やコストの増加などの問題が発生する。
【0037】
そこで、本実施形態の単相インバータ1は、一般的な単相インバータと同様の構成の4つのインバータ部INV1〜INV4を備え、インバータ部INV1〜INV4のうち少なくとも2つについて互いに供給される直流電圧の電圧値を異ならせるとともに、インバータ部INV1〜INV4のうち少なくとも2つについて互いに点弧位相を異ならせている。そして、4つのインバータ部INV1〜INV4の各出力が多段で直列接続されており、その直列接続された各出力の両端から交流電圧が出力される。
【0038】
このような構成の単相インバータ1から出力される交流電圧は、図2(a)〜(d)に示したインバータ部INV1〜INV4の各出力電圧を組み合わせて得られる波形であり、図3(c)に示したような階段状の波形となる。このような階段状の電圧波形は、矩形波状の電圧波形に比べ、正弦波に近い波形となっているため、これに含まれる高調波成分が少なくなる。したがって、LPF3としては、矩形波状の電圧に含まれる高調波成分を除去するためのフィルタに比べ、小型且つ安価なものを用いることができる。したがって、本実施形態によれば、装置の大型化やコストの増加を抑制しつつ、高調波による問題の発生を抑制することができるという効果が得られる。
【0039】
単相インバータ1から出力される交流電圧の高調波成分を低減する効果は、その電圧波形のパルス数pを増加するほど顕著に得られる。なお、パルス数pは、交流電圧の1周期中に同時に生じることのない転流の数に相当する。交流電圧に含まれる高調波の次数nは、下記(2)式により表される。ただし、mは正の整数である。
n=p×m±1 …(2)
【0040】
また、交流電圧に含まれる高調波の発生量Enは、基本波の大きさを1とすると、下記(3)式により表される。
En=1/n …(3)
【0041】
上記(2)式から明らかなように、パルス数pが12の場合、交流電圧に含まれる高調波の次数nは、「11、13、23、25、…」となり、5次および7次の高調波は含まれない。また、上記(3)式から明らかなように、5次、7次の高調波の発生量Enは、それより高次の高調波の発生量Enに比べると大きい。
【0042】
そこで、本実施形態では、パルス数pが12となるように、インバータ部INV1〜INV4に供給される直流電圧の電圧値およびインバータ部INV1〜INV4の点弧位相が設定されている。具体的には、本実施形態では、インバータ部INV1、INV2に供給される直流電圧の電圧値Edc1とインバータ部INV3、INV4に供給される直流電圧の電圧値Edc2を、上記(1)式を満たすように設定している。
【0043】
また、本実施形態では、インバータ部INV1の点弧位相を基準とすると、インバータ部INV2の点弧位相を60°遅らせるとともに、インバータ部INV3、INV4の点弧位相を30°遅らせるようにしている。これにより、単相インバータ1から出力される交流電圧のパルス数pが12となり、その交流電圧には5次および7次の高調波が含まれない。そのため、単相インバータ1から出力される交流電圧に含まれる高調波の最低次数は11次となり、LPF3としては、11次の高調波成分を阻止することができるものであればよく、5次、7次の高調波成分を阻止できるフィルタに比べ、小型且つ安価なものを用いることができる。
【0044】
単相インバータ1は、一般的な単相インバータと同様の構成をなす4つのインバータ部INV1〜INV4を備えているが、それらを直列多段に接続することで所望する出力を得る構成となっているため、各インバータ部INV1〜INV4の容量は、単相インバータ1と同程度の出力を得ることができる一般的な単相インバータの容量の1/4程度でよい。したがって、本実施形態によれば、従来の一般的な単相インバータに対し、装置の大型化やコストの大幅な増加を招くことなく、上述した高調波を低減する効果が得られる。
【0045】
高調波の低減効果を期待して、単相インバータ1の各スイッチS11〜S44の駆動制御として、PWM制御を採用することも考えられる。しかし、PWM制御を用いた場合、スイッチングロスが増大するおそれがある。本実施形態の単相インバータ1は、PWM制御を用いていないため、スイッチングロスの増大を招くことなく、上述した高調波の低減効果を得ることができる。
【0046】
(その他の実施形態)
単相インバータ1は、上記実施形態で例示した電気自動車への非接触給電を行う用途に限らず、例えば誘導加熱など様々な用途に用いることができる。つまり、本発明は、直流電圧を交流電圧に変換して出力する単相インバータ全般に適用することができる。したがって、トランス2、LPF3などは、必要に応じて設ければよい。
【0047】
インバータ部INV1〜INV4に供給される直流電圧の電圧値およびインバータ部INV1〜INV4の点弧位相は、上記実施形態で示したものに限らずともよく、単相インバータ1から出力される交流電圧が所望する階段状の波形、ひいては交流電圧のパルス数が所望する数となるように適宜設定すればよい。すなわち、インバータ部INV1〜INV4のうち少なくとも2つに供給される直流電圧の電圧値が異なるように設定するとともに、インバータ部INV1〜INV4のうち少なくとも2つの点弧位相が異なるように設定すればよい。
【0048】
インバータ部INV3、INV4は、1つのインバータ部に置き換えることが可能である。ただし、置き換えられるインバータ部としては、インバータ部INV3、INV4の容量に比べて2倍の容量が必要となる。また、上記インバータ部に供給される直流電圧の電圧値としては、インバータ部INV3、INV4に供給される直流電圧の電圧値Edc2の2倍の電圧値(=31/2)が必要となる。
【0049】
単相インバータ1は、4つの単相フルブリッジ回路(インバータ部INV1〜INV4)を備え、その各出力が多段で直列接続された構成となっていたが、単相フルブリッジ回路の数は、2つ、3つまたは5つ以上でもよい。
【0050】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
図面中、1は単相インバータ、3はローパスフィルタ、5、8、11、14は直流電圧源、INV1はインバータ部(単相フルブリッジ回路、第1フルブリッジ回路)、INV2はインバータ部(単相フルブリッジ回路、第2フルブリッジ回路)、INV3はインバータ部(単相フルブリッジ回路、第3フルブリッジ回路)、INV4はインバータ部(単相フルブリッジ回路、第4フルブリッジ回路)を示す。
図1
図2
図3