特許第6864488号(P6864488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6864488
(24)【登録日】2021年4月6日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】手押し式電動運搬車
(51)【国際特許分類】
   B62B 3/00 20060101AFI20210419BHJP
【FI】
   B62B3/00 G
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-15602(P2017-15602)
(22)【出願日】2017年1月31日
(65)【公開番号】特開2018-122690(P2018-122690A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】林 克名
(72)【発明者】
【氏名】竹田 幸市
【審査官】 結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−100076(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/137203(WO,A1)
【文献】 特開2015−223218(JP,A)
【文献】 特開昭61−46760(JP,A)
【文献】 特開2013−79077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62B 1/00−5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータにより回転駆動される駆動輪と、
前記駆動輪を回転可能に支持するよう構成され、後端部分に使用者が把持可能な左右のハンドル部を有する車体フレームと、
前記モータを駆動する制御部と、
を備えた手押し式電動運搬車であって、
前記制御部は、
前記モータを駆動しているときに、前記モータが過負荷状態になると、前記モータの停止条件が成立したと判定するモータ停止判定部と、
前記モータ停止判定部にて前記モータの停止条件が成立したと判定されると、警告を発し、所定期間経過後に前記モータの駆動を停止するモータ駆動停止部と、
前記モータ停止判定部にて前記モータの停止条件が成立したと判定されているとき、前記モータの回転速度が所定の設定速度以下であれば、前記モータの巻線を短絡させて前記モータに制動トルクを発生させる電気ブレーキ制御を実施するブレーキ制御部と、
を備え、前記ブレーキ制御部は、前記電気ブレーキ制御を開始すると、使用者のブレーキ操作に従い前記駆動輪を制動させる機械ブレーキが作動するまで、前記電気ブレーキ制御を継続するよう構成されている、手押し式電動運搬車。
【請求項2】
前記制御部において、前記モータ停止判定部は、前記モータへの通電状態、回転状態、及び、温度の少なくとも1つに基づき、前記モータが前記過負荷状態であるか否かを判定するよう構成されている、請求項1に記載の手押し式電動運搬車。
【請求項3】
前記制御部において、前記モータ停止判定部は、前記モータを駆動しているときに、前記モータの駆動系に異常が発生すると、緊急停止条件が成立したと判定するよう構成され、
前記モータ駆動停止部は、前記モータ停止判定部にて前記緊急停止条件が成立したと判定されると、即座に前記モータの駆動を停止するよう構成されている、請求項1又は請求項2に記載の手押し式電動運搬車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータにより駆動可能な車輪を備えた手押し式電動運搬車に関する。
【背景技術】
【0002】
手押し式の運搬車として、モータにより駆動可能な車輪(駆動輪)と、使用者により操作される操作部からの指令に従いモータを駆動して駆動輪を回転させる制御部と、を備えた電動運搬車が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−79510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の手押し式電動運搬車においては、モータへの通電により車輪を回転させることができるので、使用者は、ハンドル部を握って手押しすることで、運搬作業を楽に行うことができる。
【0005】
ところで、モータを動力源とする電動装置は、通常、モータが過負荷状態になると、モータを保護するために、モータの駆動を停止するようにされている。
このため、手押し式電動運搬車においても、モータが過負荷状態になると、制御部が、モータの停止条件が成立したと判断して、モータの駆動を停止するよう構成することが考えられる。
【0006】
しかしながら、手押し式電動運搬車においては、例えば、使用者が坂道で運搬作業をしているときに、こうした保護機能によってモータの駆動を即座に停止させると、使用者に対し急に運搬車の荷重が加わることになる。この場合、使用者は、運搬車を支えきれなくなって、運搬車を倒してしまうことが考えられる。
【0007】
本開示の一局面は、手押し式電動運搬車において、モータの負荷上昇に伴いモータの停止条件が成立した際、モータの駆動を停止する前に、使用者に通知できるようにすることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一局面の手押し式電動運搬車は、モータと、モータにより回転駆動される駆動輪と、駆動輪を回転可能に支持するよう構成され、後端部分に使用者が把持可能な左右のハンドル部を有する車体フレームと、モータを駆動する制御部とを備える。
【0009】
そして、制御部は、モータを駆動しているときに、モータの負荷上昇に伴いモータの停止条件が成立すると、警告を発し、所定期間経過後にモータの駆動を停止する。
このように、本開示の手押し式電動運搬車においては、モータの停止条件が成立した際、即座にモータの駆動を停止するのではなく、警告を発することで、使用者にモータの駆動を停止することを通知し、その後、モータの駆動を停止する。
【0010】
このため、使用者は、実際にモータの駆動が停止される前に、その旨を検知して、モータの駆動が停止されてもよいように、準備することができる。例えば、坂道での運搬作業中に、モータの停止条件が成立してモータの駆動が停止される場合、使用者は、自身に運搬車の荷重が加わることを予測して、身構えたり、機械ブレーキを操作したりすることができる。よって、本開示によれば、手押し式電動運搬車の使い勝手を向上できる。
【0011】
ここで、制御部は、モータへの通電状態、回転状態、及び、温度の少なくとも1つに基づき、モータの負荷状態を検出して、モータの停止条件が成立したか否かを判定するよう構成されていてもよい。
【0012】
また、制御部は、モータの停止条件が成立して、モータの駆動を停止する際、モータの回転状態に応じて、駆動輪に制動トルクを発生させるブレーキ制御を実施するか否かを切り替えるように構成されていてもよい。
【0013】
このようにすれば、坂道での運搬作業中にモータの駆動を停止した際、ブレーキ制御によって駆動輪に制動トルクを発生させて、使用者に加わる荷重を軽減できることになり、手押し式電動運搬車の使い勝手をより向上することができる。
【0014】
なお、制御部は、モータの停止条件が成立してモータの駆動を停止する際のブレーキ制御を、モータの回転速度が所定の閾値以下であるときに実施するように構成されていてもよい。
【0015】
また、制御部は、モータを駆動しているときにモータの緊急停止条件が成立すると、即座にモータの駆動を停止するよう構成されていてもよい。
このようにすれば、モータの緊急停止条件が成立したときには、モータの駆動を即座に停止して、安全性を高めることができる。なお、モータの緊急停止条件としては、例えば、モータの駆動に用いられるセンサや電源等、モータの駆動系に異常が生じたことが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態の手押し式電動運搬車の主要部の構成を表す斜視図である。
図2図1に示す手押し式電動運搬車に荷台を装着した状態を表す斜視図であり、図2Aは、パイプにて構成された荷台を装着した状態を表し、図2Bは、金属板をプレス成形することにより構成された荷台を装着した状態を表す。
図3】左右のハンドル部の間に配置されたバッテリボックスを手押し式電動運搬車の上方から見た状態を表す平面図である。
図4】右側のハンドル部に設けられた操作装置の外観を表す斜視図である。
図5図3に示すバッテリボックスの蓋を開けた状態を表す平面図である。
図6】実施形態の手押し式電動運搬車の電気系全体の構成を表すブロック図である。
図7図6に示す回路ブロックの詳細構成を表し、図7Aは操作装置の詳細を表すブロック図であり、図7Bは回生防止部を構成する逆流防止素子の詳細を表す回路図であり、図7Cはインバータ部を構成するスイッチング素子の詳細を表す回路図である。
図8】制御回路にて実行されるモータ制御処理を表すフローチャートである。
図9】制御回路にて実行される電気ブレーキ制御処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本開示の実施形態を図面と共に説明する。
図1に示すように、本実施形態の手押し式電動運搬車1は、駆動輪となる1つの前輪3と、従動輪となる左右の後輪5L,5Rを備える三輪車として構成されている。
【0018】
なお、車輪5に対する添え字Lは、手押し式電動運搬車1の前方に向かって左側に配置されていることを表し、添え字Rは、手押し式電動運搬車1の前方に向かって右側に配置されていることを表しており、以下の説明における添え字L,Rも同様である。また、本実施形態では、手押し式電動運搬車1を、単に運搬車ともいう。
【0019】
運搬車1は、これら各車輪3,5L,5Rを回転可能に支持する車体フレーム10と、荷物を載せる荷台を車体フレーム10の上に固定するための荷台フレーム20とを備える。
【0020】
荷台フレーム20は、図2Aに示すように複数のパイプを連結することで所謂パレットとして構成された荷台20Aや、図2Bに示すように鋼板をプレス成形することで所謂バケットとして構成された荷台20B等、各種荷台を固定できるように構成されている。このため、運搬作業を行う使用者は、作業内容に応じて、使用する荷台を選択できる。
【0021】
車体フレーム10及び荷台フレーム20は、金属製のパイプ材にて構成されており、前輪3を挟んでその回転面を中心に左右対称となるよう、棒状のパイプを屈曲させた形状になっている。
【0022】
すなわち、車体フレーム10は、運搬車1の前方先端部分で前輪3を囲むようにU字状に屈曲されている。そして、その屈曲部分の後方には、前輪3の回転中心部分を左右から挟み、前輪3の回転中心部分に組み付けられたモータ9を挟持する前輪支持部11L,11R(図1は左側の前輪支持部11Lを示す)が設けられている。このため、前輪3は、前輪支持部11L,11Rに回転可能に固定され、モータ9への通電により回転駆動されることになる。
【0023】
また、車体フレーム10において、前輪支持部11L,11Rから後方は、前輪3を中心として左右に広がり、且つ、斜め上方に立ち上がるように延びた傾斜部12L,12Rとなっている。
【0024】
そして、この傾斜部12L,12Rよりも更に後方は、略水平となって、荷台フレーム20を載置するための載置部13L,13Rとなっている。
この左右の載置部13L,13Rの間には、荷台フレーム20を載置すると共に、左右の後輪5L,5Rを支持するための後輪フレーム30が設けられている。
【0025】
後輪フレーム30は、左右の後輪5L,5Rが回転自在に固定される後輪支持部7L,7Rを、それぞれ、左右方向に摺動可能に固定するためのフレーム本体32と、フレーム本体32に対し後輪支持部7L,7Rを位置決め固定するための固定部材34L,34Rを備える。このため、使用者は、後輪5L,5Rの間隔を任意に設定することができる。
【0026】
また、車体フレーム10において、後輪フレーム30が取り付けられる載置部13L,13Rよりも更に後方は、使用者が手押し操作可能な高さ位置まで斜め上方に立ち上がった傾斜部14L,14Rとなっている。
【0027】
そして、その傾斜部14L,14Rよりも更に後方は、略水平となって、後端側に使用者が把持するためのグリップ15L,15Rが装着されるハンドル部16L,16Rとなっている。
【0028】
車体フレーム10において、左側の前輪支持部11Lには、前輪3に制動力を与えるブレーキ装置17が設けられている。そして、左側のハンドル部16Lには、ブレーキ装置17を手動で動作させるためのブレーキレバー18が設けられている。
【0029】
また、車体フレーム10の右側のハンドル部16Rには、モータ9の駆動条件を設定したり、モータ9の駆動指令を入力したりするための操作装置90が設けられている。
また、車体フレーム10において、荷台フレーム20を載置するための左右の載置部13L,13Rには、それぞれ、運搬車1の左右両側から前方を照射するための照明装置40L,40Rが設けられている。なお、照明装置40L,40Rは、光源としてLEDを備えた所謂LEDライトである。
【0030】
また、車体フレーム10の傾斜部14L,14Rの間には、バッテリボックス60を固定するための固定フレーム19が設けられている。バッテリボックス60は、運搬車1の電源となる2つのバッテリパックを収納するためのものであり、固定フレーム19に固定されることで、左右のハンドル部16L,16Rの間に配置される。
【0031】
次に、荷台フレーム20は、運搬車1の前方側端部が、車体フレーム10の前輪支持部11L,11Rに固定された固定部材21L,21R(図1には左側の固定部材21Lを示す)を介して、前輪3の回転中心よりも下方の位置で、前輪3周りに回動可能に固定されている。
【0032】
また、荷台フレーム20は、車体フレーム10に載置された状態で、固定部材21L,21Rへ固定される先端部分から、前輪3よりも高く、車体フレーム10の載置部13L,13Rに載置可能な高さ位置まで略鉛直方向に立ち上がる連結部22L,22Rを備える。
【0033】
そして、この連結部22L,22Rの上端は、車体フレーム10の載置部13L,13Rに向けて略直角に屈曲されて、車体フレーム10の載置部13L,13Rに載置可能な荷台固定部23L,23Rとなっている。
【0034】
また、この荷台固定部23L,23Rは、車体フレーム10の傾斜部14L,14Rの手前で上方に真っ直ぐ立ち上げられており、その立上がり部24L,24Rの上端は、バッテリボックス60と略同じ高さ位置で連結部25にて連結されている。
【0035】
また、立上がり部24L,24Rの間には、上端の連結部25よりも下方の位置で、荷台20A,20Bに載せられた荷物がバッテリボックス60に当たるのを防止するための保護カバー26が設けられている。
【0036】
荷台フレーム20は、固定部材21L,21Rを介して、前輪3周りに回動可能に固定されることから、使用者は、上端の連結部25を上方に持ち上げ、荷台固定部23L,23Rに固定された荷台を前方に傾斜させることができる。
【0037】
このため、使用者は、必要に応じて、搬送対象物を運搬車1の前方に落とすことができることになるが、車体フレーム10に対し荷台フレーム20が固定されていないと、運搬車1の移動時に荷台フレーム20が上下に変位することがある。
【0038】
そこで、車体フレーム10においてバッテリボックス60が固定される固定フレーム19には、荷台フレーム20の左側の立上がり部24Lに設けられたフック27に係合して、荷台フレーム20を固定するための係合部材28が設けられている。なお、この係合部材28には、使用者が手動で係合・解除するための操作レバーが設けられている。
【0039】
次に、車体フレーム10の右側のハンドル部16Rに設けられたモータ駆動用の操作装置90、及び、左右のハンドル部16L,16Rの間に配置されるバッテリボックス60について説明する。
【0040】
図3図4に示すように、操作装置90は、ハンドル部16Rに装着可能なケースに駆動レバー91や主電源スイッチ92を組み付けることにより構成されている。
そして、主電源スイッチ92は、使用者がハンドル部16Rの上方から操作(押下)できるようにケースの上面に配置されている。
【0041】
また、駆動レバー91は、使用者がグリップ15Rを把持した状態で指で操作し、その操作量によりモータ9の回転速度(換言すれば運搬車1の走行速度)を指令するための所謂トリガであり、ケースの下方から後方に向けて突出されている。
【0042】
また、主電源スイッチ92が配置されるケースの上面には、前進後退切替スイッチ94、前進後退表示部95、高速低速切替スイッチ96、及び、高速低速表示部97も設けられている。
【0043】
前進後退切替スイッチ94は、運搬車1の進行方向を前進・後退の何れかに設定するためのものであり、前進後退切替スイッチ94が操作(押下)される度に、運搬車1の進行方向(詳しくはモータ9の回転方向)が切り替えられる。
【0044】
また、前進後退表示部95は、前進後退切替スイッチ94を介して設定された運搬車1の進行方向を表示するためのものであり、LED等を用いて前進・後退を示す矢印の何れかを点灯することで進行方向を表示するように構成されている。
【0045】
また、高速低速切替スイッチ96は、モータ9(換言すれば運搬車1)の速度モードを高速又は低速に設定するためのものであり、高速低速切替スイッチ96が操作(押下)される度に速度モードが切り替えられる。
【0046】
なお、この速度モードは、駆動レバー91の操作量に応じてモータ9の回転速度を設定する際の上限速度を、予め設定された高速又は低速に設定するためのものである。そして、モータ9の回転速度は、速度モードに応じた上限速度に駆動レバー91の操作量に応じた比率を乗じることで設定される。
【0047】
また、高速低速表示部97は、高速低速切替スイッチ96を介して設定された速度モード(高速又は低速)を表示するためのものであり、LED等を用いて速度モードを二段階に表示するように構成されている。
【0048】
そして、本実施形態では、操作装置90の製造を容易にするため、主電源スイッチ92、前進後退切替スイッチ94、前進後退表示部95、高速低速切替スイッチ96、及び、高速低速表示部97は、1枚の基板に組み付けられている。
【0049】
図3図5に示すように、バッテリボックス60は、2つのバッテリパック70A,70B(図5参照)を収納できるように、上面が開口したボックス本体61と、ボックス本体61の上面を開閉するための蓋体62とを備える。
【0050】
蓋体62は、ボックス本体61に対しヒンジを介して開閉可能に取り付けられており、ヒンジとは反対側の開放端部には、蓋体62を閉じた状態でボックス本体61に固定するためのロック機構63が設けられている。
【0051】
なお、ロック機構63は、ロック位置或いはアンロック位置に回動させることで、ロック・アンロックを切り替えることができるようになっている。
また、ボックス本体61の上面の一部は、蓋体62の開閉の邪魔にならないように閉塞されており、その閉塞部分には、バッテリ切替スイッチ71及び残容量表示部72A,72Bが設けられている。
【0052】
バッテリ切替スイッチ71は、使用者により操作位置が切り替えられることにより、電源として使用するバッテリパックをバッテリパック70A,70Bの何れかに切り替えるためのものであり、バッテリパック70A,70Bの収納位置の間に配置されている。このため、使用者は、バッテリ切替スイッチ71の操作位置により、電源として使用されるバッテリパックを確認できる。
【0053】
残容量表示部72A,72Bは、バッテリパック70A、70Bに蓄積されている電力量(以下、残容量という)をそれぞれ表示するためのものであり、本実施形態では3つのLEDを一列に配置し、点灯するLEDの個数によって残容量を表示するように構成されている。
【0054】
この2つの各残容量表示部72A,72Bは、それぞれ、異なる基板に組み付けられ、バッテリ切替スイッチ71を挟んで、対応するバッテリパック70A,70Bの収納位置近傍に配置されている。
【0055】
また、一方の残容量表示部72Bが組み付けられた基板には、残容量の表示を指令するための残容量表示スイッチ73、及び、照明装置40L,40Rの点灯・消灯を指令するための照明用スイッチ74も設けられている。
【0056】
そして、残容量表示スイッチ73を介して残容量の表示指令が入力されると、後述の制御回路81によって、バッテリ切替スイッチ71の切替状態にかかわらず、バッテリパック70A、70Bの残容量が、残容量表示部72A,72Bに一定時間表示される。
【0057】
なお、バッテリボックス60の2つのバッテリパック70A,70Bの収納位置のうち、一方にだけバッテリパックが収納されている場合には、実際に収納されているバッテリパックの残容量が、その収納位置に対応した残容量表示部72A又は72Bに表示される。
【0058】
また、本実施形態では、バッテリボックス60内にバッテリパックが一つ収納されている場合には、実際にバッテリパックが収納されている側にバッテリ切替スイッチ71を切り替えることで、収納されたバッテリパックをモータ9の駆動に利用できる。
【0059】
バッテリボックス60において、バッテリ切替スイッチ71や残容量表示部72A,72Bが設けられた閉塞部分の内側には、モータ9や照明装置40L,40Rを駆動するための制御回路81が組み込まれた回路基板80が収納されている。
【0060】
図6に示すように、この回路基板80には、制御回路81に加えて、インバータ部82、ゲート回路83、回生防止部84、駆動回路85、電流検出部86、素子温度検出部87、電源制御部88、及び、レギュレータ89が設けられている。
【0061】
ここで、インバータ部82は、バッテリボックス60に収納されたバッテリパック70A又は70Bから電力供給を受けて、モータ9に駆動電流を流すためのものである。本実施形態では、モータ9が3相ブラシレスモータにて構成されているため、インバータ部82は、6つのスイッチング素子Q1〜Q6からなる3相フルブリッジ回路にて構成されている。
【0062】
インバータ部82において、3つのスイッチング素子Q1〜Q3は、モータ9の3つの端子と、バッテリパック70A又は70Bの正極側に接続される正極側通電経路との間に、所謂ハイサイドスイッチとして設けられている。
【0063】
また、他の3つのスイッチング素子Q4〜Q6は、モータ9の3つの端子と、バッテリパック70A又は70Bの負極側に接続される負極側通電経路との間に、所謂ローサイドスイッチとして設けられている。
【0064】
図7Cに示すように、スイッチング素子Q1〜Q6は、nチャネルのMOSFETを2つ並列接続することにより構成されている。このため、各スイッチング素子Q1〜Q6は、モータ9に流れる駆動電流を2つのFETに分散して流すことで、駆動電流が流れることによって発生する熱を抑えることができる。
【0065】
なお、正極側通電経路は、バッテリ切替スイッチ71を介して、バッテリパック70A又は70Bの正極側に接続される。そして、バッテリ切替スイッチ71からインバータ部82に至る正極側通電経路には、キー挿入部64及びトリガスイッチ98が設けられている。
【0066】
図5に示すように、キー挿入部64は、バッテリボックス60のボックス本体61内に設けられており、キー65が差し込まれることにより、キー65の導電部分にて導通状態となって、正極側通電経路を導通させる。また、トリガスイッチ98は、操作装置90に設けられた駆動レバー91(所謂トリガ)が使用者により操作されたときにオン状態となるスイッチである。
【0067】
このため、キー挿入部64にキー65が差し込まれていて、駆動レバー91が操作されているときに、バッテリパック70A又は70Bからインバータ部82(延いてはモータ9)に至る正極側通電経路が形成され、モータ9を駆動できるようになる。
【0068】
次に、ゲート回路83は、制御回路81から出力された制御信号に従い、インバータ部82内のスイッチング素子Q1〜Q6をオン/オフさせることで、モータ9の各相巻線に電流を流し、モータ9を回転させるものである。
【0069】
また、回生防止部84は、トリガスイッチ98からインバータ部82に至る正極側通電経路に設けられて、インバータ部82からバッテリパック70A又は70Bの正極側へ回生電流が流れるのを防止するためのものである。
【0070】
回生防止部84は、電流の逆流を防止するためのものであることから、通常、逆流防止用のダイオードが用いられるが、本実施形態では、逆流防止素子として、インバータ部82のスイッチング素子Q1〜Q6と同じスイッチング素子Q8,Q9が用いられている。
【0071】
つまり、スイッチング素子Q8,Q9は、それぞれ、図7Bに示すようにnチャネルのMOSFETを2つ並列接続することにより構成されており、このFETに設けられた寄生ダイオードを利用して、回生電流が流れるのを阻止するように設けられている。
【0072】
このため、スイッチング素子Q8,Q9は、正極側通電経路に対し、寄生ダイオードのアノードが正極側、カソードが負極側となって、モータ9の駆動電流が順方向に流れるように、インバータ部82のスイッチング素子Q1〜Q6とは逆方向に接続されている。
【0073】
なお、回生防止部84において、スイッチング素子Q8,Q9を、それぞれ、互いに並列接続された2つのFETにて構成しているのは、モータ9の駆動電流を2つのFETに分散して流し、各スイッチング素子Q8,Q9の発熱を抑制するためである。
【0074】
また、回生防止部84において、スイッチング素子Q8,Q9は正極側通電経路に対し直列に設けられるが、これは、一方のスイッチング素子が短絡故障しても、他方のスイッチング素子にて回生電流が流れるのを阻止できるようにするためである。
【0075】
次に、駆動回路85は、トリガスイッチ98がオン状態であるときに、回生防止部84とインバータ部82との間の正極側通電経路に設けられたスイッチング素子Q7をオン状態にするためのものである。
【0076】
つまり、トリガスイッチ98がオフ状態であるときには、スイッチング素子Q7もオフ状態にすることで、正極側通電経路をより確実に遮断できるようにするのである。なお、スイッチング素子Q7は、インバータ部82のスイッチング素子Q1〜Q6と同様、発熱を抑えるために2つのMOSFETにて構成されている。
【0077】
また、電流検出部86は、インバータ部82からバッテリパック70A,70Bの負極側に至る負極側通電経路に設けられて、モータ9に流れた駆動電流を検出するためのものであり、電流検出素子としてシャント抵抗を備えている。
【0078】
また、素子温度検出部87は、インバータ部82の温度(詳しくはインバータ部82を構成するスイッチング素子Q1〜Q6の温度)を検出するためのものであり、サーミスタ等の温度検出素子にて構成されている。
【0079】
そして、電流検出部86及び素子温度検出部87からの検出信号は、制御回路81に入力される。
なお、モータ9には、モータ9の回転位置(角度)を検出するための回転位置検出部78や、モータ9の温度を検出するためのモータ温度検出部79が設けられており、これら各検出部78,79からの検出信号も、制御回路81に入力される。
【0080】
次に、電源制御部88は、ダイオードDA,DBを介して、バッテリパック70A,70Bの正極側から直接バッテリ電力を取り込み、レギュレータ89に供給するためのものである。
【0081】
なお、電源制御部88にダイオードDA,DBを介して直接バッテリパック70A,70Bを接続するのは、キー挿入部64からキー65が抜かれることによりモータ9への通電経路が遮断されていても、レギュレータ89に電力供給できるようにするためである。
【0082】
また、ダイオードDA,DBは、それぞれ、逆流防止用のダイオードである2つの半導体素子を、バッテリ70A,70Bの正極側をアノード、電源制御部88側をカソードとして、直列接続することにより構成されている。
【0083】
これは、ダイオードDA(又はDB)を構成する2つの半導体素子の内、一方の半導体素子が短絡故障しても、その短絡故障した半導体素子を介して、バッテリパック70B(又は70A)からバッテリパック70A(又は70B)へと充電電流が流れるのを防止するためである。
【0084】
そして、電源制御部88は、制御回路81からの指令に従い、レギュレータ89へのバッテリ電力の供給を遮断する。また、電源制御部88は、バッテリボックス60に設けられた残容量表示スイッチ73、照明用スイッチ74、及び、操作装置90に設けられた主電源スイッチ92の何れかが操作されて、これら各スイッチから信号が入力されると、レギュレータ89へのバッテリ電力の供給を開始する。
【0085】
レギュレータ89は、電源制御部88から供給されるバッテリ電力にて、制御回路81やその周辺回路を動作させるための電源電圧(直流定電圧)Vccを生成し、これら各回路に供給するためのものである。
【0086】
このため、制御回路81は、動作時に、電源制御部88に指令を出力することで、レギュレータ89からの電源供給を停止させて、自身の動作を停止することができる。また、使用者は、制御回路81が動作を停止しているときに、主電源スイッチ92、残容量表示スイッチ73、照明用スイッチ74等を操作することで、制御回路81を起動し、各種制御を実施させることができる。
【0087】
制御回路81は、CPU、ROM、RAM等を中心とするMCU(Micro Control Unit)にて構成されており、ゲート回路83を介してモータ9に流れる駆動電流を制御し、モータ9の回転速度や回転方向を制御する。
【0088】
また、制御回路81は、照明装置40L,40Rの点灯・消灯、残容量表示部72A,72Bへの残容量表示、操作装置90に設けられた前進後退表示部95及び高速低速表示部97への進行方向及び設定速度の表示、等も行う。
【0089】
このため制御回路81には、回転位置検出部78、モータ温度検出部79、ゲート回路83、電流検出部86、素子温度検出部87、及び、電源制御部88に加えて、照明装置40L,40Rや、バッテリボックス60及び操作装置90に設けられた表示部やスイッチ類も接続される。
【0090】
具体的には、制御回路81には、バッテリボックス60に設けられた残容量表示部72A、72B、残容量表示スイッチ73、及び、照明用スイッチ74が接続されており、バッテリ切替スイッチ71から、選択したバッテリパックを表す信号も入力される。
【0091】
また、制御回路81には、図7Aに示すように、操作装置90に設けられた主電源スイッチ92、前進後退切替スイッチ94、前進後退表示部95、高速低速切替スイッチ96、高速低速表示部97、及び、トリガスイッチ98も接続される。
【0092】
また、図6に示すように、バッテリボックス60には、バッテリパック70A、70Bからの出力電圧(つまりバッテリ電圧)をそれぞれ検出するための電圧検出部66A,66Bや、異常時等に報知音を発生するためのブザー68が設けられている。また、バッテリパック70A,70Bには、バッテリに加えて、バッテリ状態を通知するためのバッテリ通信部69A、69Bが内蔵されている。
【0093】
また、ブレーキレバー18には、ブレーキレバー18が操作されているとき(換言すればブレーキ装置17が作動しているとき)にオン状態となるブレーキスイッチ76が設けられている。また、図7Aに示すように、操作装置90には、駆動レバー91の操作量(トリガ引き量)を検出するトリガ引き量検出部99も設けられている。
【0094】
そして、制御回路81には、これら各部、つまり、電圧検出部66A,66B、ブザー68、バッテリ通信部69A、69B、ブレーキスイッチ76、トリガ引き量検出部99、も接続される。
【0095】
次に、制御回路81は、レギュレータ89から電源供給を受けて起動すると、図8に示すモータ制御処理や、図9に示す電気ブレーキ制御処理を、メインルーチンの一つとして所定時間間隔で繰り返し実行する。
【0096】
モータ制御処理は、上述した各種スイッチからの入力信号、或いは、各種検出部からの検出信号に基づき、モータ9を駆動制御するための処理である。また、電気ブレーキ制御処理は、モータ制御処理にてモータ9の駆動を停止する際、所謂短絡ブレーキによりモータ9に制動トルクを発生させるか、モータ9をフリーラン状態にするかを切り換えるための処理である。
【0097】
以下、このモータ制御処理及び電気ブレーキ制御処理について説明する。
図8に示すように、モータ制御処理においては、まずS110にて、駆動レバー91が操作されてトリガスイッチ98がオン状態になっているか否かを判断する。そして、トリガスイッチ98がオン状態であれば、S120に移行し、トリガスイッチ98がオフ状態であれば、S230に移行する。
【0098】
S120では、ブレーキスイッチ76がOFF状態である、といったモータ9の駆動条件が成立しているか否かを確認する。
そして、続くS130では、バッテリ通信部69A,69B、電圧検出部66A,66B、バッテリ切替スイッチ71、電流検出部86、素子温度検出部87、回転位置検出部78、モータ温度検出部79等からの入力信号に基づき、モータの停止条件が成立しているか否かを判断する。
【0099】
具体的には、これら各種入力信号に基づき、モータ9やインバータ部82の温度、モータ9に流れる電流や電圧(通電状態)、モータ9の回転速度等に基づき、モータ9の負荷状態を検出して、モータ9が過負荷状態であれば、モータ9を保護するための停止条件が成立したことを判定する。
【0100】
また、S130では、各種入力信号に基づき、バッテリ切替スイッチ71を介して選択されているバッテリパック70A、70Bの異常判定、回転位置検出部78等のセンサ異常判定等を行い、これらの異常時にモータ9を即座に停止させる緊急停止条件が成立したか否かを判定する。
【0101】
次に、S140では、S120及びS130の判定結果に基づき、現在、モータ9を駆動可能か否かを判断する。つまり、S140では、S120にてモータ9の駆動条件が成立していると判断され、S130にてモータ9の緊急停止条件や停止条件が成立したと判断されていないときに、モータ9を駆動可能であると判断する。
【0102】
そして、S140にて、モータ9を駆動可能であると判断されると、S150に移行して、モータ9を駆動する駆動制御を実行し、当該モータ制御処理を終了する。なお、この駆動制御では、高速低速切替スイッチ96を介して設定された速度モード、前進後退切替スイッチ94を介して設定された進行方向、及び、トリガ引き量検出部99にて検出された駆動レバー91の操作量に基づき、モータ9の回転方向及び回転速度を設定する。そして、その設定した回転方向、回転速度となるように、ゲート回路83及びインバータ部82を介して、モータ9への通電電流を制御する。
【0103】
次に、S140にて、モータ9を駆動できないと判断されると、S160にて停止判定フラグをセットし、続くS170にて、モータ9を即座に停止させる必要があるか否かを判断する。なお、S170では、S130での判定結果に基づき、モータ9の緊急停止条件が成立しているか否かを判断する。
【0104】
そして、緊急停止条件が成立していて、モータ9を即座に停止させる必要があるときには、S210に移行して、モータ9への通電を遮断してモータ9の駆動を停止する停止処理を実行する。
【0105】
また続くS220では、使用者に対しモータ9の駆動を停止することを通知する警告処理を実行し、当該モータ制御処理を終了する。なお、この警告処理は、例えば、ブザー68を所定の警告パターンで鳴動させ、残容量表示部72A,72Bを所定の警告パターンで点灯又は点滅させることにより行われる。
【0106】
一方、S170にて、モータ9の緊急停止条件は成立しておらず、モータ9を即座に停止させる必要はないと判断されると、S180にて、S130にてモータ9の停止条件が成立したと判定されてから、予め設定された設定時間が経過したか否かを判断する。
【0107】
そして、設定時間が経過していれば、S210に移行し、設定時間が経過していなければ、S190に移行して、S150と同様のモータ9の駆動処理を行うことで、モータ9の駆動を継続する。
【0108】
そして、続くS200では、使用者に対しモータ9の駆動を停止させることを通知する警告処理を実行し、当該モータ制御処理を終了する。なお、S200での警告処理は、使用者に対しモータ9の駆動を停止させることを予告するための処理である。このため、S180の判定処理で用いる設定時間は、警告を発することで、使用者にモータ9の駆動が停止されることを通知できる時間であればよく、数秒(例えば3秒程度)にすればよい。
【0109】
また、S200の警告処理は、S220と同様に実施するようにしてもよく、S220とは異なる警告パターンで、ブザー68を鳴動させたり、残容量表示部72A,72Bを点灯又は点滅させたりするようにしてもよい。また、S200、S220の警告処理では、照明装置40L,40Rを点滅させるようにしてもよい。
【0110】
次に、S110にてトリガスイッチ98がオフ状態であると判断された場合には、S230に移行し、現在、S200又はS220での警告処理により使用者に対しモータ9の駆動を停止することを通知しているか否か、つまり、警告中であるか否か、を判断する。そして、警告中であれば、S240に移行して、S200、S220と同様の警告処理を実施することで、使用者に対する警告を継続し、S250に移行する。
【0111】
S250では、使用者に対する警告を解除してもよいか否かを判断する。この判断には、例えば、ブレーキスイッチ76からの入力信号が利用され、ブレーキレバー18が操作されてブレーキスイッチ76がオン状態になると、警告を解除してもよいと判断する。
【0112】
そして、S250にて、警告を解除してもよいと判断されると、S260に移行して、S200又はS220にて開始した警告処理を終了することで、使用者に対する警告を解除し、S270にて、停止判定フラグをクリアする。なお、停止判定フラグは、後述の電気ブレーキ制御処理にて電気ブレーキをかけるか否かを判断するのに用いられる。
【0113】
S270にて、停止判定フラグをクリアすると、S280に移行し、S210と同様のモータ9の停止処理を実行し、当該モータ制御処理を終了する。なお、S280のモータ9の停止処理は、S230にて、現在、警告中ではないと判断された場合、及び、S250にて、警告を解除できないと判断された場合にも実行される。
【0114】
次に、図9の電気ブレーキ制御処理においては、まずS310にて、モータ制御処理にてセット・クリアされる停止判定フラグが、セットされているか否かを判断する。そして、停止判定フラグがセットされていれば、S320に移行して、現在、モータ9の駆動中であるか否かを判断し、モータ9の駆動中でなければ、S330に移行する。
【0115】
S330では、モータ9の回転速度は、予め設定された電気ブレーキ作動判定用の設定速度以下であるか否かを判断し、モータ9の回転速度が設定速度以下であれば、S340に移行する。
【0116】
S340では、例えば、インバータ部82のハイサイドスイッチQ1〜Q3をオフ状態、ローサイドスイッチQ4〜Q6をオン状態として、モータ9の各巻線を短絡することで、モータ9に制動トルクを発生させる、電気ブレーキ(所謂短絡ブレーキ)を作動させる。
【0117】
そして、S340にて、電気ブレーキを作動させると、S350に移行する。また、S310にて、停止判定フラグはクリアされていると判断されるか、S320にて、現在モータ9の駆動中であると判断されるか、或いは、S330にてモータ9の回転速度は設定速度を超えていると判断された場合にも、S350に移行する。
【0118】
S350では、現在、S340の処理により電気ブレーキを作動させているか否かを判断する。そして、現在、電気ブレーキを作動させていれば、S360に移行し、電気ブレーキを作動させていなければ、当該電気ブレーキ制御処理を終了する。
【0119】
S360では、停止判定フラグが、セットされているか否かを判断し、停止フラグがセットされていれば、当該電気ブレーキ処理を終了し、停止判定フラグがセットされていなければ、S370に移行する。
【0120】
そして、S370では、インバータ部82のハイサイドスイッチQ1〜Q3及びローサイドスイッチQ4〜Q6をオフ状態として、モータ9をフリーラン状態にすることで、電気ブレーキを解除し、当該電気ブレーキ処理を終了する。
【0121】
以上説明したように、本実施形態では、モータ9の駆動中に停止条件が成立して、モータ9の駆動を停止する際、モータ9の駆動を継続できない緊急停止条件が成立していなければ、所定の設定時間だけ、モータ9の駆動を継続する。そして、その継続期間は、モータ9の駆動を停止したときと同様に、警告処理を実施することで、モータ9の駆動を停止することを、使用者に通知する。
【0122】
このため、使用者は、モータ9の停止条件が成立して、実際にモータ9の駆動が停止される前に、その旨を検知して、モータ9の駆動が停止されてもよいように、準備することができる。
【0123】
従って、例えば、坂道での運搬作業中に、モータ9に加わる負荷が大きくなって、停止条件が成立した際、使用者は、その後モータ9の駆動が停止されて自身に運搬車1の荷重が加わることを検知して、身構えたり、ブレーキ装置17を作動させたりすることができる。よって、本実施形態によれば、運搬車1の使い勝手を向上できる。
【0124】
また、モータ9の駆動を継続できない異常が発生した場合には、モータ9の緊急停止条件が成立したと判断して、モータ9の駆動を即座に停止するようにされているので、安全性を確保できる。
【0125】
また、モータ9の駆動を停止する際、モータ9の回転速度が設定速度以下である場合に、電気ブレーキを作動させることから、モータ9の駆動停止時にモータ9の回転低下に伴い使用者に加わる荷重が大きくなるのを抑制できる。
【0126】
また、電気ブレーキは、使用者がブレーキレバー18を操作して、停止判定フラグがクリアされたときに解除されることから、電気ブレーキは、モータ9の駆動が停止されても、機械ブレーキが作動するまで、作動しつつけることになる。
【0127】
このため、坂道で電気ブレーキを解除したときに、運搬車1が自重で動き出すのを抑制することができ、これによっても、運搬車1の使い勝手を向上できる。
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示の手押し式電動運搬車は、上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0128】
例えば、上記実施形態では、モータ制御処理にてモータ9の駆動を停止する際、モータ9の回転速度が設定速度以下である場合に、電気ブレーキを作動させることで、モータ9に制動トルクを発生させて、駆動輪である前輪3の回転を停止させるものとして説明した。
【0129】
しかし、こうしたブレーキ制御は、モータ9の駆動停止に伴いモータ9の回転速度が低下して、使用者に加わる荷重が大きくなるのを抑制できればよいため、必ずしもモータ9に制動力を発生させる必要はなく、駆動輪である前輪3に直接制動トルクを発生させるようにしてもよい。
【0130】
具体的には、例えば、ブレーキレバー18が操作されていなくても油圧等を利用してブレーキ装置17を動作させることのできるブレーキ機構を設け、モータ制御処理にてモータ9の駆動を停止する際、モータ9の回転速度が設定速度以下である場合には、ブレーキ機構を介して、前輪3に直接制動トルクを発生させるようにしてもよい。
【0131】
また上記実施形態では、運搬車1は、従動輪として左右の後輪5L,5Rを備えた三輪車であるものとして説明したが、本開示の手押し式電動運搬車は、モータにより回転駆動される駆動輪だけを備えた一輪車であってもよい。なお、運搬車1を一輪車とする場合、左右の後輪5L,5Rに代えて、後輪支持部7L,7Rに接地用の足部を設けるようにすればよい。
【0132】
また上記実施形態の手押し式電動運搬車の構成及び動作は一例であり、本開示は、モータにより駆動される車輪を備えた手押し式電動運搬車であれば、上記実施形態と同様に適用することができる。
【0133】
また、上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本発明の実施形態である。
【符号の説明】
【0134】
1…手押し式電動運搬車、3…前輪(駆動輪)、5L,5R…後輪、9…モータ、10…車体フレーム、15L,15R…グリップ、16L,16R…ハンドル部、17…ブレーキ装置、18…ブレーキレバー、19…固定フレーム、20…荷台フレーム、20A,20B…荷台、30…後輪フレーム、60…バッテリボックス、66A,66B…電圧検出部、68…ブザー、69A,69B…バッテリ通信部、70A,70B…バッテリパック、72A,72B…残容量表示部、78…回転位置検出部、79…モータ温度検出部、80…回路基板、81…制御回路、82…インバータ部、83…ゲート回路、84…回生防止部、86…電流検出部、87…素子温度検出部、88…電源制御部、89…レギュレータ、90…操作装置、91…駆動レバー、98…トリガスイッチ、99…トリガ引き量検出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9