【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、それらは本発明の範囲を限定したものではない。尚、実施例及び比較例中の性能測定結果は以下の方法で測定したものである。
【0043】
(1)人工皮革のポリウレタン樹脂の含有率
高分子弾性体含浸後の生地から経20cm、緯20cmの正方形サンプル(A)を切り取り、25℃の水に30分間浸漬して生地中の硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)を抽出し、脱水乾燥後の生地(B)の重量変化から、下記の式に従って高分子弾性体の含有率を求めた。
高分子弾性体の含有率(wt%)={[(A−B)/A]×100×3
(*)
(*)ポリウレタン水溶液中、ポリウレタン濃度9wt%に対して硫酸ナトリウム濃度が3wt%であることから、硫酸ナトリウム量の3倍としてポリウレタン樹脂量を算出。
【0044】
(2)耐摩耗性
染色後の人工皮革をJIS−L−1096(E法:マーチンデール法)家具用の押圧荷重(12kPa)に準じて測定される耐摩耗試験において、20000回摩耗後にスクリムが露出しない場合には合格(○若しくは◎)とし、測定結果としてスクリムが露出した摩耗回数に応じて下記を標記した。
×:10000回でスクリムが露出する
△:10000回ではスクリム露出しないが20000回でスクリムが露出する
○:20000回ではスクリム露出しないが30000回でスクリムが露出する
◎:30000回でスクリムが露出しない
【0045】
(3)耐光性
染色後の人工皮革をJIS D0205法WAL−1Hに準じて測定し、変退色の評価はJISL0804の変退色用グレースケールを用い、保存試料の色と試験後の試験品に現れた色との開きを、グレースケールの各色票間で示される色の開きとを比較して判定する。判定結果が4級以上の人工皮革を合格とする。
【0046】
(4)明度L*
ミノルタ株式会社製SPECTROPHOTOMETER:CM−3500dにて染色前の人工皮革生地の表面繊維層の表面を10ヶ所測定し、10ヶ所平均の明度L*をL*
1として測定した。同様に液流染色機にて130℃、30分間染色した染色後の人工皮革の表面繊維層の表面を10ヶ所測定し、10ヶ所平均の明度L*をL*
2として測定した。明度においてはL*
1が50.0以下である染色前の人工皮革生地を合格とする。
【0047】
(5)クロマネティクス指数差Δb*
轟産業社製Hi−Di染色試験器にて経15cm×緯30cmの人工皮革生地を5.0%owfのブルー分散染料(住友化学製:BlueFBL)で浴比が1:20となるよう調整し、130℃、30分間染色し、その後還元洗浄し人工皮革を得る。ミノルタ株式会社製SPECTROPHOTOMETER:CM−3500dにて染色前の人工皮革生地の表面繊維層の表面及び上記条件にて染色した人工皮革の表面繊維層の表面のクロマネティクス指数b*をそれぞれ10ヶ所測定し、染色前の人工皮革生地の10ヶ所平均クロマネティクス指数b*をb*
1、同様に染色後の人工皮革の10ヶ所平均クロマネティクス指数b*をb*
2とする。この時のb*
1とb*
2よりクロマネティクス指数差Δb*を求めた。Δb*=b*
2−b*
1
【0048】
(6)表面品位
染色後の人工皮革について、被験者10人で目視による外観判定を行った。表面平滑性と、人工皮革表面を撫でたときのライティング効果とを評価した。良好と判断したものを1点、不良と判断したものを0点とし、各人に評価してもらいその総点から下記の基準に従い、表面外観を判定した。判定結果が○及び◎の染色後の人工皮革を合格とする。
×:0〜3点
△:4〜6点
○:7〜8点
◎:9〜10点
【0049】
(7)総合評価
(2)〜(4)及び(6)の方法で測定及び判定した耐摩耗性、耐光性、明度L*
1、表面品位の全物性を満たすものを合格(○)とし、1つでも満たされないものを不合格(×)とした。
【0050】
[実施例1]
海成分として5−スルホイソフタル酸ナトリウムを9mol%共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、島成分としてカーボンブラックを3wt%含有させたポリエチレンテレフタレートを用い、海成分30wt%、島成分70wt%の複合比率にて島数24島/1フィラメント、単繊維繊度3.5dtexの海島型繊維を製造し、長さ5mmに切断した後、95℃に加熱した濃度10g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に30分間含浸処理し、海島型繊維の海成分を除去した単繊維繊度が0.17dtexであるカーボンブラック含有原着ポリエチレンテレフタレート繊維(以降、5mmに切断後、海成分を除去した単繊維繊度が0.17dtexであるカーボンブラック3wt%含有原着ポリエチレンテレフタレート繊維を「カーボンブラック含有原着ポリエチレンテレフタレート短繊維」と称す)を得た。また、直接紡糸繊維であり単繊維繊度0.17dtexのカーボンブラックを含有しない非原着ポリエチレンテレフタレート繊維を製造し、長さ5mmに切断した(以降、直接紡糸繊維であり長さ5mmに切断した単繊維繊度0.17dtexのカーボンブラックを含有しない非原着ポリエチレンテレフタレート繊維を「非原着ポリエチレンテレフタレート短繊維」と称す)。カーボンブラック含有原着ポリエチレンテレフタレート短繊維と非原着ポリエチレンテレフタレート短繊維の比率が質量比率で9:1となるように水中に分散させ抄造法により目付100g/m
2の抄造シートを製造し表面繊維層として用いた。同様の方法にて非原着ポリエチレンテレフタレート短繊維を水中に分散させ抄造法により目付50g/m
2の抄造シートを製造し裏面繊維層として用いた。表面繊維層と裏面繊維層の中間に82dtex/36fのポリエチレンテレフタレート繊維からなるガーゼ状の織物をスクリムとして挿入し、3層積層構造の不織布シートとした。次いで、高速水流の噴射により三次元交絡体を得た。高速水流は孔径0.15mmの直進流噴射ノズルを用いて表面繊維層側から4.0MPa、裏面繊維層側から3.0MPaの圧力で噴射して表面繊維層/スクリム/裏面繊維層の三次元交絡体とし、ピンテンターで乾燥し、目付200g/m
2のシート状物を製造した。このシート状物の表層を#400のサンドペーパーでバフィングし起毛したシート状物を得た。次いで、9wt%のポリエーテル系の水分散型ウレタン(日華化学社製:エバファノールAP‐12)に3wt%の硫酸ナトリウムを添加した液を起毛したシート状物に対してピックアップ率120wt%となるように含浸し、ピンテンター乾燥機で3分間加熱乾燥し、明度L*
1が21.1の人工皮革生地を製造した。この時の人工皮革生地に対するエバファノールAP−12の付着率は10wt%であった。この人工皮革生地を130℃、30分間、液流染色機で1.0%owfのブラック分散染料(オー・ジー長瀬カラーケミカル株式会社製:Disperse Black EC)(以降、オー・ジー長瀬カラーケミカル株式会社製:Disperse Black ECを「ブラック分散染料」と称す。)で染色し、その後還元洗浄し、明度L*
2が20.5のスエード調人工皮革製品を得た。染色後のスエード調人工皮革について耐摩耗性、耐光性、表面品位を評価した。尚、色相コントロール性を示すΔb*は4.7であった。各測定値及び総合評価結果を表1に示した。
【0051】
[実施例2]
実施例1において、表面繊維層のカーボンブラック含有原着ポリエチレンテレフタレート短繊維と非原着ポリエチレンテレフタレート短繊維の比率を質量比率が7:3であることと、3.0%owfのブラック分散染料で染色したことを除き、実施例1と同様にしてスエード調人工皮革製品を得た。この時、染色前の明度L*
1が25.8、染色後の明度L*
2が20.0、クロマネティクス指数差Δb*は9.8であった。染色後のスエード調人工皮革について耐摩耗性、耐光性、表面品位を評価した。各測定値及び総合評価結果を表1に示した。
【0052】
[実施例3]
実施例1において、表面繊維層のカーボンブラック含有原着ポリエチレンテレフタレート短繊維と非原着ポリエチレンテレフタレート短繊維の比率を質量比率が5:5であることと、5.0%owfのブラック分散染料で染色したことを除き、実施例1と同様にしてスエード調人工皮革製品を得た。この時、染色前の明度L*
1が34.8、染色後の明度L*
2が21.3、クロマネティクス指数差Δb*は16.1であった。染色後のスエード調人工皮革について耐摩耗性、耐光性、表面品位を評価した。各測定値及び総合評価結果を表1に示した。
【0053】
[実施例4]
実施例1において、表面繊維層のカーボンブラック含有原着ポリエチレンテレフタレート短繊維と非原着ポリエチレンテレフタレート短繊維の比率を質量比率が3:7であることと、7.5%owfのブラック分散染料で染色したことを除き、実施例1と同様にしてスエード調人工皮革製品を得た。この時、染色前の明度L*
1が44.9、染色後の明度L*
2が20.5、クロマネティクス指数差Δb*は24.1であった。染色後のスエード調人工皮革について耐摩耗性、耐光性、表面品位を評価した。各測定値及び総合評価結果を表1に示した。
【0054】
[実施例5]
実施例1において、表面繊維層にカーボンブラック含有原着ポリエチレンテレフタレート短繊維が100%であることと、染料を用いずに染色処理を行ったことを除き、実施例1と同様にしてスエード調人工皮革製品を得た。この時、染色前の明度L*
1が17.5、染色後の明度L*
2が17.2、クロマネティクス指数差Δb*は2.3であった。染色後のスエード調人工皮革について耐摩耗性、耐光性、表面品位を評価した。各測定値及び総合評価結果を表1に示した。
【0055】
[比較例1]
実施例1において、表面繊維層に非原着ポリエチレンテレフタレート短繊維が100%であることと、10.0%owfのブラック分散染料で染色したことを除き、実施例1と同様にしてスエード調人工皮革製品を得た。この時、染色前の明度L*
1が97.3、染色後の明度L*
2が19.5、クロマネティクス指数差Δb*は39.8であった。染色後のスエード調人工皮革について耐摩耗性、耐光性、表面品位を評価した。各測定値及び総合評価結果を表1に示した。
【0056】
[比較例2]
実施例1において、表面繊維層のカーボンブラック含有原着ポリエチレンテレフタレート短繊維と非原着ポリエチレンテレフタレート短繊維の比率を質量比率が1:9であることと、10.0%owfのブラック分散染料で染色したことを除き、実施例1と同様にしてスエード調人工皮革製品を得た。この時、染色前の明度L*
1が58.6、染色後の明度L*
2が21.9、クロマネティクス指数差Δb*は33.4であった。染色後のスエード調人工皮革について耐摩耗性、耐光性、表面品位を評価した。各測定値及び総合評価結果を表1に示した。
【0057】
[比較例3]
実施例1において、表面繊維層のカーボンブラック含有原着ポリエチレンテレフタレート短繊維と非原着ポリエチレンテレフタレート短繊維の比率を質量比率が3:7であることと、15.0%owfのブラック分散染料で染色したことを除き、実施例1と同様にしてスエード調人工皮革製品を得た。この時、染色前の明度L*
1が48.0、染色後の明度L*
2が17.0、クロマネティクス指数差Δb*は24.1であった。染色後のスエード調人工皮革について耐摩耗性、耐光性、表面品位を評価した。各測定値及び総合評価結果を表1に示した。
【0058】
[比較例4]
実施例1に記載の単繊維繊度3.5dtexの海島型繊維を長さ5mmに切断した後、海成分を除去せずにカーボンブラック含有原着ポリエチレンテレフタレート短繊維の代わりに用い、長さ5mmの該海島型繊維と非原着ポリエチレンテレフタレート短繊維の比率が質量比率で6:4となるように水中に分散させ抄造法により目付122g/m
2の抄造シートを製造し表面繊維層として用いた。同様の方法にて非原着ポリエチレンテレフタレート短繊維を水中に分散させ抄造法により目付61g/m
2の抄造シートを製造し裏面繊維層として用いた。表面繊維層と裏面繊維層の中間に82dtex/36fのポリエチレンテレフタレート繊維からなるガーゼ状の織物をスクリムとして挿入し、3層積層構造の不織布シートとした。次いで、高速水流の噴射により三次元交絡体を得た。高速水流は孔径0.15mmの直進流噴射ノズルを用いて表面繊維層側から4.0MPa、裏面繊維層側から3.0MPaの圧力で噴射して表面繊維層/スクリム/裏面繊維層の三次元交絡体とし、ピンテンターで乾燥し、目付233g/m
2のシート状物を製造した。このシート状物の表面繊維層側の表層を#400のサンドペーパーでバフィングし起毛したシート状物を得た。次いで95℃に加熱した濃度10g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に30分間含浸処理し、表面繊維層に含む3.5dtexの海島型繊維の海成分を除去し単繊維繊度0.17dtexのカーボンブラック含有原着ポリエチレンテレフタレート繊維とした。海成分除去後の表面繊維層におけるカーボンブラック含有原着ポリエチレンテレフタレート繊維と非原着ポリエチレンテレフタレート短繊維の比率は50:50となった。次いで、9wt%のポリエーテル系の水分散型ウレタン(日華化学社製:エバファノールAP−12)に3wt%の硫酸ナトリウムを添加した液を海成分抽出後の起毛したシート状物に対して付着率120wt%となるように含浸し、ピンテンター乾燥機で3分間加熱乾燥し明度L*
1が36.0の人工皮革生地を製造した。この人工皮革生地を130℃、30分間、液流染色機で5.0%owfのブラック分散染料で染色し、その後還元洗浄し、明度L*
2が20.9のスエード調人工皮革製品を得た。染色後のスエード調人工皮革について耐摩耗性、耐光性、表面品位を評価した。各測定値及び総合評価結果を表1に示した。
【0059】
尚、電子顕微鏡観察すると、表面繊維層のカーボンブラック含有原着ポリエチレンテレフタレート繊維は24本が束状になった極細繊維束として観察された。比較例4においては、海島型繊維の細繊化処理を三次元交絡体形成後としたため白黒のメランジ調外観となり、本発明が目的とする単色で均一な色相の外観は得られなかった。
【0060】
[比較例5]
実施例1において、表面繊維層と裏面繊維層の中間にスクリムを挿入しないことを除き、実施例1と同様にしてスエード調人工皮革製品を得ようとしたが、染色時に人工皮革生地が破損しスエード調人工皮革が得られなかった。この時、染色前の明度L*
1が27.8であった。各測定値及び総合評価結果を表1に示した。
【0061】
【表1】