(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態>
以下、本発明の一実施形態によるステルス性低下領域通知システムを
図1〜
図5を参照して説明する。
図1は、本発明のステルス性低下領域通知システムの一例を示すブロック図である。
ステルス性低下領域通知システム10は、ステルス性を要求される船、潜水艇、車両、航空機、各種飛翔体などの移動体が、探知能力を有する対象物に対して、その対象物が有する探知能力によって探知されることなくどこまで近づくことができるかを計算し、通知するシステムである。ステルス性低下領域通知システム10は、ステルス性を要求される船等の移動体に搭載されていてもよいし、船等に進行方向や進行距離の指示を行ったり、操縦を行ったりする他の場所(指令室など)に設置されていてもよい。また、対象物とは、例えば、自移動体(自船等)にとって脅威となる航空機、艦船、潜水艦、ミサイル、魚雷、機雷、陸上レーダ、水中ソナー等である。なお、ステルス性低下領域通知システム10は、例えば、1台のコンピュータ等によって構成される。
【0017】
図1に示すようにステルス性低下領域通知システム10は、自移動体ステルス特性設定部101と、自移動体位置設定部102と、他移動体ステルス特性設定部103と、他移動体位置設定部104と、対象物探知特性設定部105と、対象物位置設定部106と、欺瞞・通常設定部107と、探知範囲計算部108と、表示制御部109と、入出力部110と、通信部111と、記憶部112と、を備える。
【0018】
自移動体ステルス特性設定部101は、自移動体のステルス性に関する特性を示す情報を設定する。自移動体とは、ステルス性低下領域通知システム10が、対象物から探知されることなく近づくことができる距離を計算する対象となる移動体である。ステルス性に関する特性とは、自移動体から発せられる電磁波(可視光線、赤外線、電波等)や音波等、または、自移動体に衝突して反射した対象物が放射した電磁波や音波等が、対象物の探知システムによって探知されるときの、探知され易さ(あるいは探知されにくさ)を示す情報である。例えば、探知システムがレーダの場合、ステルス性に関する特性とは、レーダ反射断面積(RCS:Radar cross-section)である。自移動体ステルス特性設定部101は、例えば、自移動体のRCSを取得し、その値を自移動体のステルス性に関する特性として、記憶部112に記録する。
【0019】
自移動体位置設定部102は、自移動体の位置情報を設定する。例えば、自移動体が船の場合、自移動体位置設定部102は、自船が存在する位置の緯度や経度を取得し、自船の位置情報として記憶部112に記録する。
【0020】
他移動体ステルス特性設定部103は、他の移動体のステルス性に関する特性を示す情報を設定する。他の移動体とは、自移動体と共に行動する移動体である。例えば、船の場合、複数の船で編成された船隊の単位で行動することが多い。このような場合、他移動体ステルス特性設定部103は、船隊を構成する他の全ての船(他の移動体)のRCSを取得し、それぞれのRCSを各船の識別情報と対応付けて他の移動体のステルス性に関する特性として記憶部112に記録する。
【0021】
他移動体位置設定部104は、他の移動体の位置情報を設定する。例えば、他の移動体が船の場合、他移動体位置設定部104は、全ての他の船が存在する位置の緯度や経度を取得し、各船の識別情報と対応付けて他の移動体の位置情報として記憶部112に記録する。
【0022】
対象物探知特性設定部105は、対象物の有する探知システムの探知能力の特性を示す情報を設定する。探知システムとは、例えば、レーダ、ソナー等である。対象物は、自分の位置を測位したり周囲に存在する障害物等を検出したりするためにレーダ、ソナー等を備えている。この場合、探知能力の特性とは、探知システムであるレーダ、ソナー等の放射する電磁波や音波の周波数、出力等である。対象物探知特性設定部105は、例えば、レーダの周波数、出力等の情報を取得して、探知能力の特性として記憶部112に記録する。
【0023】
対象物位置設定部106は、対象物の位置情報を設定する。例えば、対象物が船の場合、対象物位置設定部106は、対象とする船が存在する位置の緯度や経度を取得し、対象物の位置情報として記憶部112に記録する。また、例えば、対象物が陸上のレーダ装置の場合、対象物位置設定部106は、レーダ装置が設置された位置の緯度、経度、高度を取得し、対象物の位置情報として記憶部112に記録する。
【0024】
欺瞞・通常設定部107は、自移動体や他移動体のステルス性に関する特性を、通常モードと欺瞞モードとで切り替えて設定する。通常モードとは、例えば自移動体等が対象物から放射されたレーダ等をそのまま反射する方式である。欺瞞モードとは、対象物から自移動体の正確な情報を認識されるのを防ぐ目的で、例えば、通常モードよりも高い送信電力で偽りの反射波を放射する方式である。欺瞞モードでは、通常よりも高い送信電力で放射された反射波により、対象物は、自移動体が実際よりも大きい移動体であると誤って認識する。艦船や戦闘機では、自移動体の実際の位置を欺瞞することを目的とする欺瞞装置を備えていることが多く、欺瞞・通常設定部107は、自移動体が欺瞞装置を作動させているときとそうでないときの両方の状態で、どの程度対象物に近づくことができるかを計算するために、通常モードと欺瞞モードとで切り替えて設定する。
【0025】
探知範囲計算部108は、自移動体のステルス性に関する特性と対象物の探知能力の特性とに基づいて、自移動体が対象物によって探知される領域を計算する。また、探知範囲計算部108は、他の移動体のステルス性に関する特性と対象物の探知能力の特性とに基づいて、他の移動体が対象物によって探知される領域を計算する。
【0026】
表示制御部109は、ステルス性低下領域通知システム10と接続されたディスプレイに表示させる内容を含む画像データを生成する。表示制御部109が生成する画像の例は、次に
図2を用いて説明する。
【0027】
入出力部110は、オペレータによるステルス性低下領域通知システム10への指示情報等の入力を受け付ける。また、入出力部110は、自移動体が対象物によって探知され得る領域(ステルス性低下領域)を示した画像データのディスプレイへの出力等を行う。
通信部111は、他装置との通信を行う。例えば、通信部111は、自移動体のステルス性に関する特性を示す情報等の各種設定情報を、ネットワークを介して外部の装置から受信することができる。あるいは、通信部111は、表示制御部109が生成した画像データを他の装置に送信することができる。
記憶部112は、ステルス性低下領域の計算に必要な種々の情報を記憶する。なお、記憶部112は、ステルス性低下領域通知システム10が内蔵する記憶装置でもよいし、外部(例えば、データセンタ等)の記憶装置であってもよい。
【0028】
図2は、本発明のステルス性低下領域通知システムの機能を説明する第1の図である。
図2に表示制御部109が生成した画像データである表示画面20の一例を示す。図示するように表示画面20は、対象物設定領域21と、ステルス性低下領域通知領域22とを含む。
対象物設定領域21には、複数の領域が設けられている。複数の領域は、タブ211〜214の選択によって切り替えられる。以下、タブ211を選択したときに表示される領域を領域211のように記載する。領域211〜214は、それぞれ、対象物の種類によって区分けされている。タブに「AIR」と表示された領域211は、対象物が航空機などの飛翔体である場合に選択される領域である。タブに「SURF」と表示された領域212は、対象物が艦船などの水上艇である場合に選択される領域である。タブに「SUB」と表示された領域213は、対象物が潜水艦などの潜水艇である場合に選択される領域である。タブに「LAND」と表示された領域214は、対象物が陸上レーダなどの陸上に設置された設備、陸上を移動する車両等である場合に選択される領域である。
【0029】
図2に領域211の例を示す。領域211には、飛翔体をさらに細かく分類して具体化した対象物の選択肢が表示されている。例えば、領域211には、AEW領域211a、Fighter領域211b、MSL領域211cが設けられている。また、例えば、AEW領域211aには、対象物が早期警戒機(AEW:Airborne Early Warning)である場合の具体的な機種名「A−7」、「A−31」等の選択肢が表示されている。同様にFighter領域211b、MSL領域211cには、戦闘機、ミサイルの具体的な機種名等が対象物の選択肢として表示されている。これらの選択肢は、対象物の種類ごとに分類されて予め記憶部112に記録されている。例えば、機種名「A−7」は、飛翔体の「AEW」に分類される対象物として記録されている。他の「SURF」、「SUB」、「LAND」に分類される対象物についても同様である。表示制御部109は、記憶部112に記録された各機種名を読み出して、領域211〜領域214の画像を生成する。
【0030】
また、記憶部112には、各機種名と対応付けて対象物探知特性設定部105が設定した各機種が備える探知システムの探知能力の特性が記録されている。例えば、表示制御部109は、各機種(対象物)の探知能力の特性を示す情報を設定する入力画面の画像(図示せず)を生成し、ユーザ(例えば自移動体の操縦者)が、この入力画面を通じて各機種の特性情報(例えば、レーダの周波数、出力、走査範囲など)を入力する。すると入出力部110がその入力を受け付け、対象物探知特性設定部105が各機種名と入力された特性情報とを対応付けて記憶部112に記録する。
【0031】
また、表示制御部109は、領域211〜214にAPPLYボタン211d、FAKEボタン211eを表示する。ユーザが、APPLYボタン211dを押下すると、入出力部110がその押下操作を受け付け、欺瞞・通常設定部107にAPPLYボタン211dが押下されたことを通知する。欺瞞・通常設定部107は、自移動体に衝突して反射する電磁波等の反射態様を通常モードに設定する。また、探知範囲計算部108は、通常モードにおける自移動体が対象物によって探知されるときの両者間の最大距離を計算する。自移動体が対象物によって探知されるときの最大距離は、自移動体のステルス性に関する特性および対象物の探知能力に影響される。例えば、自移動体のRCSが大きければ対象物からも探知され易くなる。また、対象物の探知能力が高ければ、自移動体のRCSが小さくても探知され易くなる。最大距離の計算方法について一例を示す。以下に示す式(1)は、最大距離の計算に用いられるレーダ方程式である。
【0033】
ここで、Rmaxは、対象物からの(最大)探知距離である。対象物からRmax以内の距離に近づくと、自移動体は、対象物から探知されてしまう。Ptは、対象物が発するレーダの送信電力である。Gは、対象物が備えるレーダの受信アンテナの利得(ゲイン)である。λは、対象物が放射するレーダの波長である。σは、自移動体のレーダ反射断面積(RCS)である。Prは、対象物が受信できるレーダの最低受信電力である。ここで、Pt,G,λ,Prは、対象物探知特性設定部105が機種(対象物)ごとに記憶部112に記録した値である。また、σは、自移動体ステルス特性設定部101が記憶部112に記録したステルス性に関係する特性情報の一つである。
探知範囲計算部108は、例えば、式(1)によって対象物からの探知距離を計算する。
【0034】
表示制御部109は、探知範囲計算部108が計算した結果を示す画像を生成し、ステルス性低下領域通知領域22に表示する。
図2に例示するステルス性低下領域通知領域22の画像は、自移動体が船で対象物が航空機である場合のステルス性低下領域を示している。ステルス性低下領域通知領域22における点P1は、自移動体が存在する位置である。破線H1で示す範囲は、例えば対象物が「A−7」の場合のステルス性低下領域である。また、1点鎖線H2で示す範囲は、例えば対象物が「A−31」の場合のステルス性低下領域である。ユーザが、AEW領域211aで「A−7」を選択し、APPLYボタン211dを押下すると、探知範囲計算部108は、「A−7」と対応付けて記録された上記のPt,G,λ,Prの各値(探知能力の特性)を記憶部112から読み出す。また、探知範囲計算部108は、自移動体のステルス性に関係する特性σを記憶部112から読み出す。そして、探知範囲計算部108は、式(1)によって対象物からの探知距離Rmaxを計算する。計算した距離Rmaxが示す位置を自移動体の輪郭に沿って外側へ向けてプロットした点の集合が例えば破線H1で示す領域である。破線H1は、この領域の内側(点P1側)に対象物が存在すると、自移動体が探知される境界を示している。自移動体を操縦するユーザは、この表示を見て、対象物が破線H1の領域内に入る距離に近づかないように操縦する。
図2の例の場合、自移動体は、例えば紙面の上方向に船首を向けて存在する船である。
図2の例の場合、船首、船尾及び側面方向のRCSが大きい。その為、ステルス性低下領域は、これらの方向に大きく広がった形状をしている。
【0035】
次にユーザが、AEW領域211aで「A−31」を選択し、APPLYボタン211dを押下する。ここで、「A−31」の探知能力は、「A−7」の探知能力よりも高いとする。つまり、式(1)によるRmaxの値は、「A−31」の方が「A−7」よりも大きい値であるとする。すると、探知範囲計算部108は、「A−31」に対応付けて記録された探知能力の特性を示す情報(Pt等)と自移動体のステルス性に関係する特性σを記憶部112から読み出してRmaxを計算する。その結果、例えば、1点鎖線H2が示すステルス性低下領域が探知範囲計算部108によって計算される。自移動体を操縦するユーザは、この表示を見て、自移動体が対象物「A−31」に対して近づいてはいけない距離を把握することができる。このように本実施形態のステルス性低下領域通知システム10によれば、対象物の選択肢の中から、対象物の候補となる機種を選択すると、対象物が選択された機種であると仮定した場合のステルス性低下領域を直ちに把握することができる。これにより、例えば、対象物の機種が明確に把握できない場合や、複数の機種が周囲に存在することが想定できる場合などでもユーザは、対象物との距離を、どの程度縮めることができるかを容易に把握することができる。
【0036】
次にユーザが、AEW領域211aで「A−31」を選択し、FAKEボタン211eを押下する。すると、入出力部110がその押下操作を受け付け、欺瞞・通常設定部107は、自移動体に衝突して反射する電磁波等の反射態様を欺瞞モードに設定する。そして、探知範囲計算部108は、「A−31」の探知能力の特性を示す情報(Pt等)を記憶部112から読み出す。また、探知範囲計算部108は、自移動体の欺瞞モードでのステルス性に関係する特性σ´を記憶部112から読み出す。例えば、欺瞞モードのRCSであるσ´は、通常モードのRCSであるσよりも大きい値である。探知範囲計算部108は、これらの値を用いて式(1)により、実線H3が示す欺瞞モードでのステルス性低下領域を計算する。実線H3が示すステルス性低下領域は、例示した他の2つのステルス性低下領域よりも大きく、それだけ探知され易くなることを示している。このように船等では、欺瞞モードで電磁波等を放射し、対象物に探知され易くすることで、わざと脅威対象に自船の誤った情報(例えば、実際よりも大きな船であるとの情報)を認識させるようにすることがある。本実施形態によれば、FAKEボタン211eを押下するだけで、どの範囲に存在する対象物に誤った自移動体の情報を認識させることができるかを把握することができる。また、欺瞞モードでの誤った情報すら認識されないようにするためには、自移動体は、対象物「A−31」に対してどこまで近づくことができるかを把握することができる。
【0037】
また、点P2、点P3は、自移動体と編隊を形成する味方側の他の移動体の位置を示す。探知範囲計算部108は、他の移動体についてもステルス性低下領域を計算し、表示制御部109は、点P1の場合と同様にステルス性低下領域を表示することができる(図示せず)。例えば、自移動体の操縦者が、他の移動体の操縦者に指示を出して編隊の移動を統率するような場合、ステルス性低下領域通知領域22に表示される他の移動体のステルス性低下領域を把握しながら、他の移動体の操縦者に、進入してはならない領域を知らせることができる。
【0038】
なお、記憶部112には、自移動体および他の移動体と対応付けて各々のステルス性に関する特性を示す情報が記録されている。例えば、表示制御部109は、図示しない自移動体および他の移動体のステルス性に関する特性を示す情報を設定する入力画面の画像を生成し、ユーザがこの入力画面を通じて、それぞれの特性情報(例えば、レーダ断面積)を入力する。すると、入出力部110が入力された情報を受け付け、自移動体ステルス特性設定部101や他移動体ステルス特性設定部103が、各特性情報を記憶部112に記録する。
【0039】
また、ユーザは、自移動体および他の移動体の位置を設定することができる。例えば、ユーザが、ステルス性低下領域通知領域22で自移動体の位置(点P1の位置)を指定する。すると、入出力部110を介して、自移動体位置設定部102が指定された位置に対応する位置情報(例えば、ユーザが指定した位置の座標情報に対応する実際の緯度、経度)を、自移動体の位置として記憶部112に記録する。他の移動体の位置(点P2、P3等の位置)についても同様である。他移動体位置設定部104は、ユーザが指定した位置に対応する位置情報を、他の移動体の位置として記憶部112に記録する。
【0040】
図2では、対象物の位置を特に特定せず、自移動体の周囲のステルス性低下領域を計算し、表示する例を挙げた。次に
図3を用いて、対象物が存在する位置を設定して、その位置と対象物の探知能力の特性とに応じてステルス性低下領域を表示する例を説明する。
図3は、本発明のステルス性低下領域通知システムの機能を説明する第2の図である。
図3に対象物を複数設定した場合の表示画面20の一例を示す。
ユーザは、AEW領域211aで「A−7」を選択し、対象物「A−7」が存在する位置を示す点Q1(自移動体に対して紙面向かって左側のやや下側)を指定する。すると、他移動体位置設定部104は、点Q1に対応する位置情報と対象物が「A−7」であることとを対応付けて記憶部112に記録する。
また、ユーザが、Fighter領域211bで「B−7」を選択し、対象物「B−7」が存在する位置を示す点Q2(自移動体に対して紙面向かって右側のやや上側)を指定する。すると、他移動体位置設定部104は、点Q2に対応する位置情報と対象物が「B−7」であることとを対応付けて記憶部112に記録する。次にユーザがAPPLYボタン211dを押下する。
【0041】
すると、探知範囲計算部108は、「A−7」および「B−7」の探知能力の特性を示す情報(Pt等)、と自移動体のステルス性に関係する特性σと、点P1、点Q1、点Q2の位置情報を記憶部112から読み出して、例えば、破線H4が示すステルス性低下領域を計算する。より具体的には、例えば、探知範囲計算部108は、点P1、点Q1、点Q2の位置関係に応じて、点P1から見て点Q1側(紙面の左側やや下側)については、「A−7」の探知能力の特性を示す情報と自移動体のステルス性に関係する情報に基づいてステルス性低下領域を計算する。また、探知範囲計算部108は、点P1から見て点Q2側(紙面の右側のやや上側)については、「B−7」の探知能力の特性を示す情報と自移動体のステルス性に関係する情報に基づいてステルス性低下領域を計算する。破線H4が示す領域は、このようにして計算されたステルス性低下領域の例である。
【0042】
このように複数種類の対象物が存在する場合、
図3で説明したように各対象物の位置や探知能力の特性に応じたステルス性低下領域の形状を把握することができる。また、各対象物の位置が分からない場合でも、対象物が存在する位置を様々に変化させることで、容易に対象物の位置と探知能力の特性とに応じたステルス性低下領域を把握することができる。なお、
図2、
図3では、ステルス性低下領域を2次元で表示する場合を例示したが、ステルス性低下領域を3次元で表示してもよい。
【0043】
図4は、本発明のステルス性低下領域通知システムの処理の一例を示すフローチャートである。
図4を用いて、ステルス性低下領域の表示処理の流れの一例について、自移動体が船の場合を例に説明を行う。
なお、以下のステップS11〜ステップS13の処理において、表示制御部109は、適宜、各ステップの処理に応じた入力画面等の画像を生成し、入出力部110がその画像をディスプレイ等に表示する。
まず、自移動体ステルス特性設定部101が、自船のステルス性に関する特性を設定する(ステップS11)。例えば、ユーザが、ステルス性低下領域通知システム10に自船の全方位に対するRCSを入力する。このときユーザは、通常モードおよび欺瞞モードでのRCSを入力する。自移動体ステルス特性設定部101は、入出力部110を介してその全方位に対するRCSの情報を取得し、取得した情報を記憶部112に自船のステルス性に関する特性を示す情報としてモード別(通常モード、欺瞞モード)に記録する。
【0044】
次に他移動体ステルス特性設定部103が、自船と共に行動する他の船のステルス性に関する特性を設定する(ステップS12)。例えば、ユーザが、ステルス性低下領域通知システム10に1つまたは複数の他の船の全方位に対するRCSを入力する。このときユーザは、通常モードおよび欺瞞モードでのRCSを入力する。他移動体ステルス特性設定部103は、入出力部110を介してその全方位に対するRCSの情報を取得し、取得した情報を記憶部112にそれぞれの船と対応付けて他の船のステルス性に関する特性を示す情報としてモード別(通常モード、欺瞞モード)に記録する。
【0045】
次に対象物探知特性設定部105が、対象物の探知能力の特性を設定する(ステップS13)。例えば、ユーザが、ステルス性低下領域通知システム10に予め定められた複数の対象物についてのPt(レーダの送信電力),G(受信アンテナのゲイン),λ(波長),Pr(最低受信電力)等を入力する。他移動体ステルス特性設定部103は、入出力部110を介してこれらの値を取得し、取得した値を記憶部112にそれぞれの対象物と対応付けて、対象物の探知能力の特性を示す情報として記録する。
【0046】
ステップS11〜ステップS13の設定処理が完了すると、表示制御部109は、
図2等で例示した表示画面の画像を生成し、入出力部110がその画面をディスプレイに表示する。
次に自移動体位置設定部102が、自船(自移動体)の位置を設定する(ステップS14)。例えば、ユーザが、ステルス性低下領域通知領域22の地図画像の位置を指定する(マウス等の入力装置でクリックする、ディスプレイがタッチパネルの場合は指で触れるなど)、あるいは、緯度経度情報を入力する等によって、ステルス性低下領域通知システム10に自船の位置を入力する。自移動体位置設定部102が、入出力部110を介してその位置情報を取得し、記憶部112に自船の位置情報として記録する。
【0047】
次に他移動体位置設定部104が、自船と共に行動する他の船の位置を設定する(ステップS15)。例えば、ユーザが、ステップS14と同様の方法で、ステルス性低下領域通知システム10に1つまたは複数の他の船の位置を入力する。他移動体位置設定部104が、入出力部110を介して1つまたは複数の位置情報を取得し、記憶部112にそれぞれの船と対応付けて他の船の位置情報として記録する。
【0048】
次に対象物位置設定部106が、対象物の位置(機種)を設定する(ステップS16)。例えば、ユーザが、ステップS14と同様の方法で、ステルス性低下領域通知システム10に1つまたは複数の対象物の位置を入力する。対象物位置設定部106は、入出力部110を介して1つまたは複数の位置情報を取得し、記憶部112にそれぞれの対象物と対応付けて対象物の位置情報として記録する。なお、対象物の位置の指定処理は省略してもよい。
【0049】
次にユーザが領域211等から任意の対象物を選択する(ステップS17)。入出力部110は、選択された対象物の情報を探知範囲計算部108へ出力する。次に入出力部110は、ステルス性低下領域表示の指示があったかどうかを判定する(ステップS18)。具体的には、
図2、
図3で例示した「APPLYボタン211d」、「FAKEボタン211e」が押下されたかどうかを判定する。何れかのボタンが押下された場合、入出力部110は、ステルス性低下領域表示の指示があると判定し、何れのボタンも押下されていない場合、入出力部110は、ステルス性低下領域表示の指示が無いと判定する。ステルス性低下領域表示の指示が無い場合(ステップS18;No)、ステップS14からの位置情報の再設定や対象物の再選択の入力を受け付けつつ、待機する。ステルス性低下領域表示の指示がある場合(ステップS18;Yes)、入出力部110は、何れかのボタンが押下されたことを欺瞞・通常設定部107に通知する。次に欺瞞・通常設定部107は、選択されたのが通常モードかどうかを判定する(ステップS19)。具体的には、APPLYボタン211dを押下された場合、欺瞞・通常設定部107は、選択されたのが通常モードであると判定し、FAKEボタン211eを押下された場合、選択されたのは欺瞞モードであると判定する。通常モードの場合(ステップS19;Yes)、探知範囲計算部108は、通常モードでのステルス低下領域の計算を行う(ステップS20)。具体的には、欺瞞・通常設定部107は、通常モードでの計算を探知範囲計算部108に指示する。探知範囲計算部108は、通常モードにおけるRCSの値σを記憶部112から読み出し、例えば、式(1)によって自船の全方位について、最大探知距離Rmaxを計算し、
図2の破線H2で囲まれたステルス性低下領域を計算する。探知範囲計算部108は、1つまたは複数の他の船についてもステルス性低下領域を計算する。なお、
図2、
図3で示したのは、2次元平面でのステルス性低下領域の例であるが、自船等の上下方向のRCSを登録しておき、3次元のステルス性低下領域を計算してもよい。また、探知システムはレーダ等の電磁波に限らず、例えば潜水艇を対象とする水中ソナーであってもよく、その場合、探知範囲計算部108は、例えば、公知のソナー方程式によって音波が探知できる距離を計算してもよい。探知範囲計算部108は、計算結果を表示制御部109へ出力する。
【0050】
欺瞞モードの場合(ステップS19;No)、探知範囲計算部108は、欺瞞モードでのステルス低下領域の計算を行う(ステップS21)。具体的には、欺瞞・通常設定部107は、欺瞞モードでの計算を探知範囲計算部108に指示する。探知範囲計算部108は、例えば、欺瞞モード時の自船のRCSの値σ´等と式(1)を用いて、
図2の破線H3で囲まれたステルス性低下領域を計算する。探知範囲計算部108は、1つまたは複数の他の船についても欺瞞モードでのステルス性低下領域を計算する。探知範囲計算部108は、計算結果を表示制御部109へ出力する。
【0051】
次に、表示制御部109がステルス性低下領域を表示した画像(例えば、
図2、
図3のステルス性低下領域通知領域22)を生成し、入出力部110がその画像をディスプレイに表示する(ステップS22)。なお、表示制御部109は、自移動体のステルス性低下領域と他移動体のステルス性低下領域とを同時に表示した画像を生成してもよいし、どちらか一方だけを表示された画像を生成し、自移動体のステルス性低下領域だけを表示する画像と、他移動体のステルス性低下領域だけを表示する画像を、ユーザの操作により切り替えて生成してもよい。また、例えば、他の移動体が複数存在する場合、ユーザの操作に基づいて選択された1つまたは複数の他の移動体のステルス性低下領域を表示する画像を生成してもよい。
次にユーザがステルス性低下領域の計算・表示処理を終了させる指示をステルス性低下領域通知システム10に入力するまで(ステップS23;No)、ステップS14からの処理を繰り返す。また、ユーザが処理の停止命令を、入出力部110を介してステルス性低下領域通知システム10へ入力した場合(ステップS23;Yes)、ステルス性低下領域通知システム10は、ステルス性低下領域の計算・表示処理を停止する。
【0052】
本実施形態によれば、船等の操縦者は、自船に脅威を与える可能性がある対象物に対して、どの程度近付くことができるか。どの領域であれば進入・通過することができるかを容易に把握することができる。これにより、相手に探知されることなく、自船を操縦することができる。また、自船と共に行動する他の船についても、進入・通過することができる領域を把握し、船隊全体のステルス性を確保しつつ移動することができる。
【0053】
図5は、本発明のステルス性低下領域通知システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。
上述のステルス性低下領域通知システム10は、コンピュータ900に実装される。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記の各機能部(自移動体ステルス特性設定部101、自移動体位置設定部102、他移動体ステルス特性設定部103、他移動体位置設定部104、対象物探知特性設定部105、対象物位置設定部106、欺瞞・通常設定部107、探知範囲計算部108、表示制御部109、入出力部110)による処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶部112に対応する記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0054】
なお、コンピュータ900は、通信インタフェース905(通信部111)を介して、PCやサーバ端末装置などのコンピュータ910と接続されていてもよい。例えば、コンピュータ900が陸上のデータセンサ等で稼働し、通信インタフェース905およびネットワークを介して、処理結果の入力画面などの画像データを船(自移動体)に設置されたコンピュータ910へ送信し、船の操縦者がコンピュータ910を通じて、コンピュータ900に実装されたステルス性低下領域通知システム10を操作してもよい。
【0055】
なお、少なくとも1つの実施形態において、補助記憶装置903は、一時的でない有形の媒体の一例である。一時的でない有形の媒体の他の例としては、入出力インタフェース904を介して接続される磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等が挙げられる。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、当該プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、当該プログラムは、前述した機能を補助記憶装置903に既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせで実現するもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【0056】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。また、この発明の技術範囲は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、入出力部110は、音声によってステルス性低下領域が示す範囲を通知してもよい。入出力部110は通知部の一例である。入出力部110は選択受付部の一例である。