特許第6864530号(P6864530)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6864530
(24)【登録日】2021年4月6日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】洗浄剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C11D 17/08 20060101AFI20210419BHJP
   C11D 3/18 20060101ALI20210419BHJP
   C11D 3/20 20060101ALI20210419BHJP
   C11D 1/28 20060101ALI20210419BHJP
   C11D 1/68 20060101ALI20210419BHJP
   C23G 5/024 20060101ALI20210419BHJP
   B08B 3/08 20060101ALN20210419BHJP
【FI】
   C11D17/08
   C11D3/18
   C11D3/20
   C11D1/28
   C11D1/68
   C23G5/024
   !B08B3/08 Z
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-79906(P2017-79906)
(22)【出願日】2017年4月13日
(65)【公開番号】特開2018-177982(P2018-177982A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青柳 功
(72)【発明者】
【氏名】吉田 瑞穂
【審査官】 林 建二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−214228(JP,A)
【文献】 特開2013−117008(JP,A)
【文献】 特開平09−157698(JP,A)
【文献】 特開昭53−068626(JP,A)
【文献】 特開平11−131093(JP,A)
【文献】 特表2004−531637(JP,A)
【文献】 特開2017−075247(JP,A)
【文献】 特開2015−054933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00−19/00
C23G 1/00−5/06
B08B 3/00−3/14
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が9〜13のパラフィン系炭化水素またはオレフィン系炭化水素から選択される脂肪族炭化水素(A)と、
ジアルキルスルホコハク酸エステル塩であるアニオン性界面活性剤(B)と、
水(C)と、
シュウ酸、シュウ酸ジメチル、およびマロン酸から選択される少なくとも1種のpH調整剤(D)と、を含む洗浄剤組成物であって
前記洗浄剤組成物全量基準で、前記脂肪族炭化水素(A)を60.0〜85.0質量%、前記アニオン性界面活性剤(B)を10.0〜15.0質量%、前記水(C)を1.0〜15.0質量%の割合で含有し、
pHが1.5以上4.0未満であるとともに、W/Oマイクロエマルションまたは可溶化型W/Oエマルションをなすことを特徴とする洗浄剤組成物。
【請求項2】
炭素数が9〜13のパラフィン系炭化水素またはオレフィン系炭化水素から選択される脂肪族炭化水素(A)と、
ジアルキルスルホコハク酸エステル塩であるアニオン性界面活性剤(B)と、
水(C)と、
シュウ酸、シュウ酸ジメチル、およびマロン酸から選択される少なくとも1種のpH調整剤(D)と、
ソルビタン脂肪酸エステルである非イオン性界面活性剤(E)と、を含む洗浄剤組成物であって
前記洗浄剤組成物全量基準で、前記脂肪族炭化水素(A)を60.0〜85.0質量%、前記アニオン性界面活性剤(B)を8.0〜15.0質量%、前記水(C)を1.0〜20.0質量%、前記非イオン性界面活性剤(E)を2.0〜5.0質量%の割合で含有し、
pHが1.5以上4.0未満であるとともに、W/Oマイクロエマルションまたは可溶化型W/Oエマルションをなすことを特徴とする洗浄剤組成物。
【請求項3】
前記洗浄剤組成物全量基準で、前記アニオン性界面活性剤(B)と前記非イオン性界面活性剤(E)とを合計で10.0〜20.0質量%含むとともに、前記アニオン性界面活性剤(B)と前記非イオン性界面活性剤(E)とが、2.0〜5.0:1の割合(質量比)で配合されることを特徴とする請求項2に記載の洗浄剤組成物。
【請求項4】
濁度により測定した飽和水分量が10質量%以上であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一つに記載の洗浄剤組成物。
【請求項5】
極性溶剤を含まないことを特徴とする請求項1〜のいずれか一つに記載の洗浄剤組成物。
【請求項6】
研磨処理後の微粒子の洗浄に用いられることを特徴とする請求項1〜のいずれか一つに記載の洗浄剤組成物。
【請求項7】
プレス加工後の微粒子の洗浄に用いられることを特徴とする請求項1〜のいずれか一つに記載の洗浄剤組成物。
【請求項8】
ダイヤモンドライクカーボンのコーティング工程の前処理洗浄に用いられることを特徴とする請求項1〜のいずれか一つに記載の洗浄剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄剤組成物、特に、自動車、機械、精密機器、電気、電子、光学等の各種工業分野において扱われる部品、石油精製プラントや化学プラント等の各種工場の配管や装置、自動車や産業機械等を解体した部品、日常生活で使用される金属製品の洗浄に使用される洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、機械、精密機器、電気、電子、光学等の各種工業分野において扱われる部品(以下、「部品」という)は、その加工の際に、(i)鉱物油等を主体とする不水溶性加工油、(ii)鉱物油等に界面活性剤を加えて水に乳化させた水溶性加工油、(iii)研磨剤等の微粒子、などが使用される。特に、切削や研削加工などを中心に水溶性加工油が多く使用されており、複数の加工工程を経て製造される部品には、工程毎に使用される加工油も異なるため、極性の低いものから極性の高いものまで様々な汚れが複合して付着する場合が多い。
【0003】
このような極性の低いものから極性の高いものまで様々な汚れが複合して付着した部品を洗浄する用途に、水と溶剤と界面活性剤から成る洗浄剤が開発されている(例えば、特許文献1〜3参照)。特許文献1〜3に記載されるW/Oマイクロエマルション型洗浄剤は、極性の低い汚れや極性の高い汚れ等、広汎な汚れの洗浄を可能とする。
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3に記載されるW/Oマイクロエマルション型洗浄剤でも、成形加工後の部品のバリ取り、平滑仕上げ、R付け、艶出しを目的として行われる研磨剤を用いたバフ研磨やバレル研磨後に部品に付着する微粒子と有機物の複合体であるスマットの洗浄は十分に行うことができなかった。また、プレス加工後に部品に付着する添加剤の分解物や変性物、炭化物、摩耗金属粉などが複合したスマットの洗浄も十分に行うことができなかった。
【0005】
一方、研磨処理後の部品の洗浄等を目的として、マグネシウム合金部材の表面処理方法(例えば、特許文献4参照)や、金属表面処理剤(例えば、特許文献5参照)が提案されているが、これらの発明においても、他の工程で付着しうる加工油の洗浄性が不十分であったり、研磨工程で付着するスマットの除去性は十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−157698号公報
【特許文献2】特開2013−117008号公報
【特許文献3】特開2014−214228号公報
【特許文献4】特開2005−256064号公報
【特許文献5】特開平09−67600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、研磨剤を用いた研磨処理後の微粒子等を含むスマットの除去性に優れる洗浄剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の洗浄剤組成物は、脂肪族炭化水素(A)と、アニオン性界面活性剤(B)と、水(C)と、シュウ酸、シュウ酸ジメチル、およびマロン酸から選択される少なくとも1種のpH調整剤(D)と、を含み、前記脂肪族炭化水素(A)を60.0〜85.0質量%、前記アニオン性界面活性剤(B)を10.0〜15.0質量%、前記水(C)を1.0〜15.0質量%の割合で含有し、pHが1.5以上4.0未満であるとともに、W/Oマイクロエマルションまたは可溶化型W/Oエマルションをなすことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の洗浄剤組成物は、脂肪族炭化水素(A)と、アニオン性界面活性剤(B)と、水(C)と、シュウ酸、シュウ酸ジメチル、およびマロン酸から選択される少なくとも1種のpH調整剤(D)と、非イオン性界面活性剤(E)と、を含み、前記脂肪族炭化水素(A)を60.0〜85.0質量%、前記アニオン性界面活性剤(B)を8.0〜15.0質量%、前記水(C)を1.0〜20.0質量%、前記非イオン性界面活性剤(E)を2.0〜5.0質量%の割合で含有し、pHが1.5以上4.0未満であるとともに、W/Oマイクロエマルションまたは可溶化型W/Oエマルションをなすことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の洗浄剤組成物は、上記発明において、前記アニオン性界面活性剤(B)と前記非イオン性界面活性剤(E)とを合計で10.0〜20.0質量%含むとともに、前記アニオン性界面活性剤(B)と前記非イオン性界面活性剤(E)とが、2.0〜5.0:1の割合(質量比)で配合されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の洗浄剤組成物は、上記発明において、前記アニオン性界面活性剤(B)がジアルキルスルホコハク酸エステル塩であり、前記非イオン性界面活性剤(E)がソルビタン脂肪酸エステルであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の洗浄剤組成物は、上記発明において、前記脂肪族炭化水素(A)は、炭素数が9〜13のパラフィン系炭化水素またはオレフィン系炭化水素であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の洗浄剤組成物は、上記発明において、濁度により測定した飽和水分量が10質量%以上であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の洗浄剤組成物は、上記発明において、極性溶剤を含まないことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の洗浄剤組成物は、上記発明において、研磨処理後の微粒子の洗浄に用いられることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の洗浄剤組成物は、上記発明において、プレス加工後の微粒子の洗浄に用いられることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の洗浄剤組成物は、上記発明において、ダイヤモンドライクカーボンのコーティング工程の前処理洗浄に用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる洗浄剤組成物は、脂肪族炭化水素(A)と、アニオン性界面活性剤(B)と、水(C)とを所定の割合で含み、研磨剤由来の無機酸化物微粒子が安定的に分散するようにpH調整剤(D)によりpHが調整されるとともに、有機物を速やかに溶解するW/Oマイクロエマルションまたは可溶化型W/Oエマルションをなし、かつ、pH調整剤(D)がキレート剤としても機能し、研磨剤由来の無機酸化物微粒子の部品からの剥離を促進するため、洗浄しにくい研磨処理後のスマット等の洗浄が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
自動車、機械、精密機械、電気、電子、光学等の各種工業分野において扱われる部品の加工の際、鉱物油等を主体とする不水溶性加工油、鉱物油等に界面活性剤を配合した水溶性加工油、研磨剤等の微粒子が使用され、被洗浄物には様々な汚れが付着する。
【0020】
近年、自動車部品や工具などの物品の耐久性を向上するために、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングをはじめとするPVD(Physical Vapor Deposition)コーティング加工が施されているが、PVDコーティング加工前に、研削、鍛造、放電、研磨、防錆などの工程があり、これらの工程で種々の汚れが物品に付着する。溶剤に水と界面活性剤とを配合したW/Oマイクロエマルションまたは可溶化型W/Oエマルションをなす洗浄剤組成物(以下、「W/Oマイクロエマルション型洗浄剤」ともいう)は、極性の高い汚れから低い汚れまで種々の汚れが洗浄可能であるが、バフ研磨やバレル研磨後に部品に付着する汚れや、不水溶性加工油を使用したプレス加工により付着した汚れの洗浄性能は十分とはいえなかった。
【0021】
バフ研磨等の研磨工程に使用される研磨剤は、シリカ、アルミナ、酸化セリウムなどの無機酸化物やダイヤモンドなどの研磨用微粉、助剤および潤滑油成分を、ワックスで固めたものである。研磨剤は、研磨工程で発生する熱により各成分が酸化や炭化されて乾固した状態で部品に付着するため、洗浄が難しく、時間の経過とともに洗浄はさらに困難となる。
【0022】
一方、プレス加工に用いられる不水溶性加工油は、鉱物油に油性剤や極圧剤等の添加剤を溶解させたものであり、プレス加工工程での発熱や圧力などにより添加剤の分解物や変性物、炭化物、摩耗金属粉などが複合した汚れとなり、これが部品に付着すると、洗浄を十分に行うことができなかった。
【0023】
研磨工程やプレス加工工程で部品に付着する汚れ(以下、「スマット」という)は、無機酸化物粒子と有機物が複合したものであり、これを除去するためには、洗浄剤には、有機物を溶解し、無機酸化物粒子を分散させる機能が要求される。
【0024】
従来のW/Oマイクロエマルション型洗浄剤は、研磨剤由来の有機物を油層中に溶解可能であるものの、無機酸化物粒子の分散性が十分ではないためか、研磨処理後のスマットの洗浄性が低かった。また、従来のW/Oマイクロエマルション型洗浄剤は、不水溶性プレス油由来の有機物を油層中に溶解可能であるものの、炭化物や摩耗金属粉の分散性が十分ではないためか、プレス加工後のスマットの洗浄性が低い場合があった。
【0025】
本発明者らは、スマットの洗浄力を向上するために、無機酸化物粒子の界面動電電位(以下、ゼータ電位という)に注目した。一般に、無機酸化物粒子のゼータ電位はpHによって大きく変化することが知られており、例えば、アルミナゾルでは低いpHでは正に荷電し、高いpHでは負に荷電する。したがって、洗浄剤組成物のpHを調整することによって、スマットに含まれる無機酸化物粒子のゼータ電位を正、または負に荷電させて、無機酸化物粒子の凝集を抑制し、洗浄剤中に安定的に分散できるのではないかとの推測に基づき鋭意検討を行い、本発明を完成するに至った。
【0026】
本発明の第1の実施の形態に係る洗浄剤組成物は、脂肪族炭化水素(A)と、アニオン性界面活性剤(B)と、水(C)と、シュウ酸、シュウ酸ジメチル、およびマロン酸から選択される少なくとも1種のpH調整剤(D)と、を含み、前記脂肪族炭化水素(A)を60.0〜85.0質量%、前記アニオン性界面活性剤(B)を10.0〜15.0質量%、前記水(C)を1.0〜15.0質量%の割合で含有し、pHが1.5以上4.0未満であるとともに、W/Oマイクロエマルションまたは可溶化型W/Oエマルションをなすことを特徴とする。
【0027】
本発明の第1の実施の形態に係る洗浄剤組成物は、脂肪族炭化水素(A)と、アニオン性界面活性剤(B)と、水(C)とを所定割合で配合することにより、スマット中の有機物を速やかに溶解する。また、シュウ酸、シュウ酸ジメチル、およびマロン酸から選択される少なくとも1種のpH調整剤(D)により、pHを1.5以上4.0未満とすることにより、スマットの洗浄能力が向上する。これは、洗浄剤組成物との接触により、スマット中の無機酸化物粒子のゼータ電位が正に荷電し、無機酸化物粒子の凝集が抑制、すなわち、無機酸化物粒子の分散性が向上するとともに、pH調整剤(D)がキレート剤としても機能して、無機酸化物微粒子の部品からの剥離を促進するためと考えられる。W/Oマイクロエマルションまたは可溶化型W/Oエマルションの安定性はpHにより変動するが、本発明の洗浄剤組成物は、pHが1.5以上4.0未満でも安定したW/Oマイクロエマルションまたは可溶化型W/Oエマルションをなし、かつ、有機物と無機酸化物粒子が複合した洗浄が困難なスマットを洗浄可能とするものである。
【0028】
以下、本発明の第1の実施の形態に係る洗浄剤組成物の構成成分について説明する。
本発明の第1の実施の形態に係る洗浄剤組成物で使用する脂肪族炭化水素(A)は、炭素数が9〜13のものが好ましい。脂肪族炭化水素(A)の炭素数が9未満であると、洗浄剤組成物の引火点が低くなるため発火のおそれが高くなる。また、炭素数が14より大きくなると、洗浄剤組成物の粘度が高くなり、洗浄効率が低下するおそれがある。脂肪族炭化水素(A)は、炭素数が10〜13のものがより好ましく、10〜12のものが特に好ましい。
【0029】
また、脂肪族炭化水素(A)は、パラフィン系炭化水素またはオレフィン系炭化水素であることが好ましい。脂肪族炭化水素(A)がパラフィン系炭化水素またはオレフィン系炭化水素である場合、安定なW/Oマイクロエマルション、または可溶化型W/Oエマルションを形成することができるため好ましい。
【0030】
本発明の第1の実施の形態に係る脂肪族炭化水素(A)としては、たとえば、ノルマルヘプタン、ノルマルオクタン、ノルマルノナン、ノルマルデカン、ノルマルウンデカン、ノルマルドデカン、ノルマルトリデカン、ノルマルテトラデカン、ノルマルペンタデカン等のノルマルパラフィン系炭化水素、イソヘプタン、イソオクタン、イソノナン、イソデカン、イソウンデカン、イソドデカン、イソトリデカン、イソテトラデカン、イソペンタデカン等のイソパラフィン系炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、テトラメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン、ブチルシクロヘキサン、ペンチルシクロヘキサン、ビシクロヘキシル、デカリン、メチルデカリン、ジメチルデカリン、エチルデカリン等のシクロパラフィン系炭化水素、ノルマルヘプテン、ノルマルオクテン、ノルマルノネン、ノルマルデセン、ノルマルウンデセン、ノルマルドデセン、ノルマルトリデセン、ノルマルテトラデセン、ノルマルペンタデセン、イソヘプテン、イソオクテン、イソノネン、イソデセン、イソウンデセン、イソドデセン、イソトリデセン、イソテトラデセン、イソペンタデセン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキセン、ジメチルシクロヘキセン、トリメチルシクロヘキセン、テトラメチルシクロヘキセン、エチルシクロヘキセン、プロピルシクロヘキセン、ブチルシクロヘキセン、ペンチルシクロヘキセン等のオレフィン系炭化水素を使用することができる。これらは、1種で使用してもよく、あるいは2種以上使用してもよい。これらの中でも、ノルマルデカン、ノルマルウンデカン、ノルマルドデカン、イソデカン、イソウンデカン、イソドデカンが、安全性と洗浄効率を両立しうる点で好ましい。
【0031】
本発明の第1の実施の形態に係る洗浄剤組成物において、脂肪族炭化水素(A)の配合量は、60.0〜85.0質量%である。脂肪族炭化水素(A)の配合量が、60.0質量%未満であると、極性の低い汚れに対する洗浄性が低下する場合があり、85.0質量%より多い場合、極性の高い汚れに対する洗浄性が低下するおそれがある。脂肪族炭化水素(A)の配合量は、75.0〜80.0質量%であることが好ましい。
【0032】
本発明の第1の実施の形態に係る洗浄剤組成物で使用するアニオン性界面活性剤(B)は、目的に応じて適宜選択することが可能であるが、例えば、石油スルホネート、ロート油等のスルホン酸塩、硫酸エステル塩、カルボン酸塩などを例示することができる。
【0033】
なかでも、スルホン酸塩としては、炭素数が8〜22である炭化水素のスルホン酸塩が好ましい。硫酸エステル塩としては、炭素数が8〜18の硫酸化油、炭素数が8〜18のアルキル硫酸エステル塩が好ましい。カルボン酸塩としては、アルキル基の炭素数が6〜13のジアルキルスルホコハク酸エステル塩、炭素数が6〜13のスルホコハク酸アルキル二塩、アルキル基の炭素数が6〜13のポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二塩が好ましい。上記のアニオン性界面活性剤(B)は、安定なW/Oマイクロエマルション、または可溶化型W/Oエマルションを形成しうるため好ましい。特に、ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム等のアルキル基の炭素数が6〜13のジアルキルスルホコハク酸エステル塩が、より安定なW/Oマイクロエマルション、または可溶化型W/Oエマルションを形成しうるため好適に使用される。
【0034】
なお、アニオン性界面活性剤(B)として使用するスルホン酸塩としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩以外の物質を用いることが、環境への影響を低減するとともに、管理が容易となるため好ましい。
【0035】
アニオン性界面活性剤(B)として使用する界面活性剤の塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、炭素数が1〜5のアルカノールアミン塩が例示されるが、スルホン酸、硫酸エステル、カルボン酸等の酸の形態のものも使用可能である。上記に例示した界面活性剤は、1種で使用してもよく、あるいは2種以上を使用してもよい。
【0036】
本発明の第1の実施の形態に係る洗浄剤組成物において、アニオン性界面活性剤(B)の配合量は、10.0〜15.0質量%である。アニオン性界面活性剤(B)の配合量が、10.0質量%未満であると、極性の高い汚れに対する洗浄性が低下する場合があり、15.0質量%より多い場合、極性の低い汚れに対する洗浄性が低下するおそれがある。アニオン性界面活性剤(B)の配合量は、11.0〜15.0質量%であることが好ましい。
【0037】
本発明の第1の実施の形態に係る洗浄剤組成物で使用する水(C)は、蒸留水、イオン交換水等を使用することができる。水(C)の配合量は、1.0〜15.0質量%である。水(C)の配合量が、1.0質量%未満であると、極性の高い汚れに対する洗浄性が低下する場合があり、15.0質量%より多い場合、極性の低い汚れに対する洗浄性が低下するおそれがある。水(C)の配合量は、3.0〜15.0質量%であることが好ましく、3.0〜10.0質量%であることが特に好ましい。
【0038】
本発明の第1の実施の形態に係る洗浄剤組成物は、シュウ酸、シュウ酸ジメチル、およびマロン酸から選択される少なくとも1種のpH調整剤(D)を含む。pH調整剤(D)は、シュウ酸、シュウ酸ジメチル、およびマロン酸の内の1種、または複数種を混合して使用してもよい。
【0039】
pH調整剤(D)の配合量は、洗浄剤組成物のpHが1.5以上4.0未満となる量である。pH調整剤(D)により洗浄剤組成物のpHを1.5以上4.0未満とすることにより、スマット中の無機酸化物粒子のゼータ電位が正に荷電し、無機酸化物粒子の分散性が向上することによりスマットの洗浄性が向上する。また、本発明で使用するpH調整剤(D)は、キレート剤としても機能するため、無機酸化物微粒子の部品からの剥離を促進し得る。さらに、pHが1.5以上4.0未満とすることにより、金属製部品に対する腐食性を軽減することもできる。
【0040】
また、本発明の洗浄剤組成物は、主成分が脂肪族炭化水素(A)であるため、一般的なpH計でのpHの測定はできないが、pH試験紙によりpHを測定することができる。例えば、ストライプpH試験紙(PEHANON)のpH測定領域0.0〜1.8、1.8〜3.8、および3.8〜5.5を使用してpHが1.5以上4.0未満であるか測定することができる。
【0041】
また、本発明の第2の実施の形態に係る洗浄剤組成物は、脂肪族炭化水素(A)と、アニオン性界面活性剤(B)と、水(C)と、シュウ酸、シュウ酸ジメチル、およびマロン酸から選択される少なくとも1種のpH調整剤(D)と、非イオン性界面活性剤(E)と、を含み、前記脂肪族炭化水素(A)を60.0〜85.0質量%、前記アニオン性界面活性剤(B)を8.0〜15.0質量%、前記水(C)を1.0〜20.0質量%、前記非イオン性界面活性剤(E)を2.0〜5.0質量%の割合で含有し、pHが1.5以上4.0未満であるとともに、W/Oマイクロエマルションまたは可溶化型W/Oエマルションをなすものであることを特徴とする。
【0042】
本発明の第2の実施の形態に係る洗浄剤組成物で使用する脂肪族炭化水素(A)、アニオン性界面活性剤(B)、水(C)およびpH調整剤(D)は、第1の実施の形態で使用するものと同様のものを使用することができる。
【0043】
本発明の第2の実施の形態に係る洗浄剤組成物は、非イオン性界面活性剤(E)を含む。非イオン性界面活性剤(E)を配合することにより、加工油やワックス等の汚れに対する洗浄力を向上することができる。また、アニオン性界面活性剤(B)と非イオン性界面活性剤(E)とを併用することにより、洗浄剤組成物中への水の配合量を増やすことが可能となり、極性の高い汚れの洗浄性を向上できる。
【0044】
本発明の第2の実施の形態で使用する非イオン性界面活性剤(E)は、目的に応じて適宜選択することが可能であるが、例えば、ポリアルキレングリコール類、脂肪酸エステル類を例示することができる。特に、脂肪酸エステル類は、安定なW/Oマイクロエマルション、または可溶化型W/Oエマルションを形成することができるので好ましい。
【0045】
非イオン性界面活性剤(E)として使用するポリアルキレングリコール類としては、例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルなどが例示される。非イオン性界面活性剤(D)としてポリアルキレングリコール類を使用する場合、熱安定性を向上することができる。
【0046】
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーは、下記式(1)または式(2)で表される化合物である。
HO−(CO)−(CO)−(CO)−H (1)
HO−(CO)−(CO)−(CO)−H (2)
上記式(1)および式(2)において、aは2〜160、bは10〜60、cは2〜160が好ましい。
【0047】
非イオン性界面活性剤(E)として使用するポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーは、ポリオキシプロピレン部分の分子量が3500以下であるとともに、ポリエチレンオキサイド部分が50質量%以下であることが好ましい。
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルは、下記式(3)で表される化合物である。
−O−(CO)−(CO)−H (3)
上記式(3)において、Rは炭素数6〜16のアルキル基であり、nおよびmは2〜16が好ましい。
【0048】
なお、非イオン性界面活性剤(E)として使用するポリアルキレングリコール類としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル以外の物質を用いることが、環境への影響を低減するとともに、管理が容易となるため好ましい。
【0049】
非イオン性界面活性剤(E)として使用する脂肪酸エステル類は、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシ脂肪酸エステル類等が例示される。脂肪酸エステル類は、洗浄力を向上することができるので好ましい。中でも、ソルビタン脂肪酸エステルは、より安定なW/Oマイクロエマルション、または可溶化型W/Oエマルションを形成できるので好ましい。
【0050】
本発明の第2の実施の形態に係る洗浄剤組成物中の各成分の配合割合は、脂肪族炭化水素(A)を60.0〜85.0質量%、アニオン性界面活性剤(B)を8.0〜15.0質量%、水(C)を1.0〜20.0質量%、非イオン性界面活性剤(E)を2.0〜5.0質量%とすることが好ましい。
【0051】
本発明の第2の実施の形態に係る洗浄剤組成物において、アニオン性界面活性剤(B)の配合量が、8.0質量%未満であると、極性の高い汚れに対する洗浄性が低下する場合があり、15.0質量%より多い場合、極性の低い汚れに対する洗浄性が低下するおそれがある。アニオン性界面活性剤(B)の配合量は、10.0〜15.0質量%であることが好ましい。
【0052】
本発明の第2の実施の形態に係る洗浄剤組成物において、水(C)の配合量が、1.0質量%未満であると、極性の高い汚れに対する洗浄性が低下する場合があり、20.0質量%より多い場合、極性の低い汚れに対する洗浄性が低下するおそれがある。水(C)の配合量は、3.0〜15.0質量%であることが好ましく、3.0〜10.0質量%であることが特に好ましい。
【0053】
本発明の第2の実施の形態に係る洗浄剤組成物において、非イオン性界面活性剤(E)の配合量が、2.0質量%未満であると、極性の高い汚れに対する洗浄性が低下する場合があり、5.0質量%より多い場合、極性の低い汚れに対する洗浄性が低下するおそれがある。非イオン性界面活性剤(E)の配合量は、3.0〜5.0質量%であることが好ましい。
【0054】
また、本発明の第2の実施の形態に係る洗浄剤組成物において、アニオン性界面活性剤(B)と非イオン性界面活性剤(E)とを合計で10.0〜20.0質量%含むとともに、アニオン性界面活性剤(B)と非イオン性界面活性剤(E)とが、2.0〜5.0:1の割合(質量比)で配合されることが好ましい。
【0055】
本発明の第2の実施の形態に係る洗浄剤組成物において、アニオン性界面活性剤(B)と非イオン性界面活性剤(E)との合計の配合量が、10.0質量%未満の場合、極性の高い汚れに対する洗浄効率が低くなるおそれがある。また、合計配合量が、20.0質量%より大きい場合、極性の低い汚れに対する洗浄効率が低くなるおそれがある。アニオン性界面活性剤(B)と非イオン性界面活性剤(E)との合計の配合量は、12.0〜20.0質量%であることが好適である。
【0056】
本発明の第2の実施の形態に係る洗浄剤組成物において、アニオン性界面活性剤(B)と非イオン性界面活性剤(E)との配合割合(質量比)は、非イオン性界面活性剤(E)を1とした場合、アニオン性界面活性剤(B)は2.0〜5.0倍であることが好ましい。アニオン性界面活性剤(B)の配合割合が非イオン性界面活性剤(E)の2.0倍より小さいか、または5.0倍より大きい場合、極性の高い汚れに対する洗浄効率が低くなるおそれがある。
【0057】
本発明の第1および第2の実施の形態に係る洗浄剤組成物は、W/Oマイクロエマルション、または可溶化型W/Oエマルションをなす。W/Oマイクロエマルション、または可溶化型W/Oエマルションを形成することにより、有機物を溶解するとともに、洗浄ムラを防止することができる。また、本発明の洗浄剤組成物は、低温でも安定したW/Oマイクロエマルション、または可溶化型W/Oエマルションを形成するため、加温することなく高い洗浄性を発揮しうるとともに、熱に弱い材料の洗浄を行なうことができる。
【0058】
従来、安定したW/Oマイクロエマルション、または可溶化型W/Oエマルションを形成するためには、水と、油層となる非水系の洗浄剤と、界面活性剤に加え、グリコールエーテル類、アルコール類、グリコール類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類等の極性溶剤が使用されていた。本発明の洗浄剤は、極性溶剤を含まないため、極性溶剤により浸食されるおそれのある特定の樹脂やゴム材料、例えば、ABS樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル、ニトリルゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム等の材料を使用する被洗浄物の洗浄に使用することができる。また、樹脂製の洗浄治具の使用も可能となる。
【0059】
なお、本明細書において、W/Oマイクロエマルションとは、水(C)およびアニオン性界面活性剤(B)、または水(C)、アニオン性界面活性剤(B)および非イオン性界面活性剤(E)が10〜100nm程度の平均粒径のミセルを形成し、油層、本発明では脂肪族炭化水素(A)に分散している状態をいい、半透明または透明な液体状をなしている。また、可溶化型W/Oエマルションとは、水(C)およびアニオン性界面活性剤(B)、または水(C)、アニオン性界面活性剤(B)および非イオン性界面活性剤(E)が1〜10nm程度の平均粒径のミセルを形成し、油層、本発明では脂肪族炭化水素(A)に分散している状態をいい、透明な液体状をなしている。W/Oマイクロエマルション、または可溶化型W/Oエマルションは、分散している水(C)の粒子径が小さいため、長期間放置しても層分離することがない。ミセルの平均粒径は、ゼータ電位・粒子径・分子量測定装置により測定することができる。
【0060】
本発明の第1および第2の実施の形態の洗浄剤組成物の飽和水分量は、10.0質量%以上であることが好ましい。飽和水分量が10.0質量%以上である場合、脂肪族炭化水素(A)中に水(C)が高い割合で分散しているため、極性の低い汚れの洗浄性を維持しながら、極性の高い汚れの洗浄性を向上することが可能となる。本発明の洗浄剤組成物の飽和水分量は、10.0質量%以上であれば好ましいが、10.0〜35.0質量%であることがより好ましい。
【0061】
洗浄剤組成物の飽和水分量は、脂肪族炭化水素(A)およびアニオン性界面活性剤(B)からなる組成物中、または脂肪族炭化水素(A)、アニオン性界面活性剤(B)および非イオン性界面活性剤(E)からなる組成物中に、水(C)を配合し、水(C)添加後の洗浄剤組成物の濁度(JIS K0101)が100NTUとなったときの水(C)の洗浄剤組成物中の割合(質量%)をいう。洗浄剤組成物の濁度は、携帯用濁度計2100P型(セントラル科学(株)製)を使用したが、これに限定されるものではない。
【0062】
また、本発明の第1および第2の実施の形態の洗浄剤組成物には、脂肪族炭化水素(A)、アニオン性界面活性剤(B)、水(C)、pH調整剤(D)、非イオン性界面活性剤(E)のほか、本発明の効果を損なわない範囲で、他の洗浄剤成分や、各種の添加剤などを添加しても良い。
【0063】
ここで、他の洗浄剤成分としては、脂肪族炭化水素(A)以外の炭化水素、例えば、トリメチルベンゼン、エチルトルエン、テトラメチルベンゼン等のアルキルベンゼン、メチルナフタレン、エチルナフタレン、ジメチルナフタレン等のアルキルナフタレンが例示される。
【0064】
添加剤としては、防錆剤、酸化防止剤、防腐剤、キレート剤、アルカリ剤、漂白剤、着臭剤等が挙げられる。防錆剤は、例えば、ペンタエリスリトールモノエステル、ソルビタンモノオレート等の脂肪酸エステル系防錆剤、アミン、アミン塩等のアミン系防錆剤、芳香族カルボン酸、アルケニルコハク酸、ナフテン酸塩等のカルボン酸系防錆剤、石油スルホネート等の有機スルホン酸系防錆剤、有機リン酸エステル系防錆剤、酸化パラフィン系防錆剤等が例示される。
【0065】
上記のその他の成分の洗浄剤組成物への配合量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば制限はないが、洗浄剤組成物中、10.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることがさらに好ましい。その他の成分の配合量が10.0質量%を超えた場合、極性の高い汚れに対する洗浄効果が低下する場合があり、また、安定したW/Oマイクロエマルション、または可溶化型W/Oエマルションの形成を阻害するおそれがある。
【0066】
本発明の第1および第2の実施の形態の洗浄剤組成物は、上記した各成分を所定量計量し、混合、撹拌して製造することができる。配合の順番、撹拌方法には何ら制限がなく、所定の割合の各成分を混合、撹拌することで、安定なW/Oマイクロエマルション、または可溶化型W/Oエマルションを形成する洗浄剤組成物を製造することができる。
【0067】
本発明の第1および第2の実施の形態の洗浄剤組成物を使用する洗浄方法は、本発明の洗浄剤組成物への被洗浄物の浸漬や、被洗浄物への洗浄剤組成物のスプレー噴射、洗浄剤組成物を含浸させたスポンジ等による被洗浄物表面のふき取り等により行なうことができる。洗浄物組成物中への浸漬により洗浄する場合は、超音波、撹拌、エアバブリング、被洗浄物の揺動等を行なうことにより洗浄効果を向上することができる。とくに研磨剤由来の無機酸化物粒子の除去性向上のためには、超音波を使用することが好ましい。また、洗浄剤組成物を加温して洗浄することにより、洗浄効果を向上することができる。
【0068】
本発明の第1および第2の実施の形態の洗浄剤組成物による被洗浄物の洗浄後、被洗浄物表面に残存する洗浄剤組成物や洗浄剤組成物に配合される界面活性剤の除去を目的として、本発明の洗浄剤組成物として使用する脂肪族炭化水素(A)、または脂肪族炭化水素(A)より低沸点の炭化水素、例えば、ノルマルデカンによりリンスを行なうことが好ましい。リンスは、1回でもよく、または2回以上行なってもよい。
【0069】
上述したように、本発明の第1および第2の実施の形態の洗浄剤組成物は、研磨工程やプレス工程後に部品に付着する無機酸化物粒子と有機物が複合したスマットの除去性に優れる。また、本発明の第1および第2の実施の形態の洗浄剤組成物は、安定なW/Oマイクロエマルション、または可溶化型W/Oエマルションをなすため、その他の汚れ、例えば、不水溶性加工油や水溶性加工油の洗浄性にも優れる。なかでも、不水溶性プレス油を用いたプレス加工工程で部品に付着するスマットは、本発明の洗浄剤組成物で洗浄可能となり、洗浄後のDLCコーティング等のPVDコーティング工程において、密着性に優れ、ピンホール等のないコーティングを得ることができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例、参考例および比較例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0071】
(W/Oマイクロエマルションまたは可溶化型W/Oエマルションの安定性)
表1〜表5に示す実施例、参考例および比較例に示す成分および割合で洗浄剤組成物を調製し、調製した洗浄剤組成物がW/Oマイクロエマルションまたは可溶化型W/Oエマルションを形成するか否かについて、洗浄剤組成物の濁度を測定することにより判定した。洗浄剤組成物の濁度は、携帯用濁度計2100P(セントラル科学(株)製)を用いて測定した。濁度が100NTU以下の洗浄剤組成物が、W/Oマイクロエマルションまたは可溶化型W/Oエマルションを安定に形成したと認定した。濁度が100NTU以下を○、濁度が100NTUより大きい場合を×とした。表1〜表5中の界面活性剤(B)は、ジ(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、界面活性剤(E)はソルビタントリオレートである。
【0072】
(pH)
表1〜表5に示す実施例、参考例および比較例に示す成分および割合で洗浄剤組成物を調製し、調製した洗浄剤組成物のpHを、ストライプpH試験紙(PEHANON)のpH測定領域0.0〜1.8、1.8〜3.8、および3.8〜5.5を使用して測定した。調製した洗浄剤組成物をpH試験紙に滴下して、測定目盛が付いていない中央部分の色相を、その上下にある測定目盛付きの色相見本と比較し、最も似通っている色相のpHを求めた。上記のpH試験紙で測定できないものは、他のpH測定領域(5.2〜6.8等)のストライプpH試験紙で測定した。
(銅板腐食)
表1〜表5に示す実施例、参考例および比較例に示す成分および割合で調製し、調製した洗浄剤組成物30gを50mLサンプル瓶に採取し、P400番バフによって研磨仕上げした銅板(2.0×12.5×75mm)を浸漬し、24時間後に銅板を取り出した。腐食性の評価は、銅板の表面に変色なし(○)、銅板の表面に変色あり(×)を目視で判断した。
【0073】
(研磨剤洗浄試験)
表1〜表5に示す実施例、参考例および比較例に示す成分および割合で洗浄剤組成物を調製し、調製した洗浄剤組成物を使用してスマットの洗浄試験を行った。被洗浄物は、SUS430系のワークを、バレル研磨したものであり、表面に黒いスマットが付着している。洗浄は、表1〜表5に示す実施例および比較例の洗浄剤組成物に被洗浄物を浸漬し、3分間超音波洗浄(28khz、25℃)後、ノルマルデカンでの3分間超音波洗浄(28khz、25℃)を2回行い、30分間温風乾燥(80℃)した。洗浄性の評価は、ワーク上に残留物なし(○)、残留物あり(×)を目視で判断した。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
【表4】
【0078】
【表5】
【0079】
表1〜表5に示すように、所定のpH調整剤(D)によりpHが1.5以上4.0未満に調整され、W/Oマイクロエマルションまたは可溶化型W/Oエマルションを安定的に形成する実施例の洗浄剤組成物では、洗浄により研磨工程により付着するスマットが除去できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の洗浄剤組成物は、自動車、機械、精密機器、電気、電子、光学等の各種工業分野において扱われる部品、石油精製プラントや化学プラント等の各種工場の配管や装置、自動車や産業機械等を解体した部品、日常生活で使用される金属製品や樹脂製品等の種々の物品の洗浄に有用であり、研磨工程後やプレス工程後のスマット洗浄に好適に使用され、PVDコーティング加工、特に表面の清浄性が要求されるDLCコーティングの前処理用の洗浄剤として好適である。