【0010】
本発明は、融点40〜50℃の固形状エステル油A(以下「(A)成分」)と、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)の含有量の5倍を超えない範囲で25℃でペースト状の油B(以下「(B)成分」)と25℃で液状の油C(以下「(C)成分」)の両成分を含有する水中油型乳化皮膚化粧料が、示差走査熱量計(DSC)を用いた測定において、吸熱ピークが20〜40℃にあり、皮膚に冷感を与えるというものである。
本発明の構成成分(配合成分)について説明する。
(A)成分:融点40〜50℃の固形状エステル油
本発明に用いる融点40〜50℃の固形状エステルは、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、パルミチン酸セチルを例示できる。本発明の組成物中には、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、パルミチン酸セチルのいずれか1種以上を配合する。
ミリスチン酸ミリスチルの融点は36〜46℃である。ミリスチン酸セチルの融点は45〜50℃である。パルミチン酸セチルの融点は45〜50℃である。
(A)成分である融点40〜50℃の固形状エステル油は、以下説明する25℃でペースト状の油((B)成分)及び25℃で液状の油((C)成分)と組み合わせて水中油型乳化皮膚化粧料とすることで、組成物の吸熱ピークが20〜40℃の範囲となる。この温度帯の組成物は皮膚温で溶けて皮膚熱を奪うので、本発明の化粧料を使用する人に「冷たい感覚」(冷感)を与える。
本発明に用いる融点40〜50℃の固形状エステル油は、水中油型乳化皮膚化粧料の油剤総量に対し15〜65質量%、より好ましくは18〜64質量%含有する。
本発明の水中油型乳化皮膚化粧料には、使用感を考慮すると融点40〜50℃の固形状エステル油(A)を水中油型乳化皮膚化粧料当たり2〜15質量%、より好ましくは2.5〜13質量%含有することが好ましい。2質量%よりも少ないと冷感を感じにくくなる恐れがある。15質量%を超えて配合すると組成物がボソボソした感じになり、なめらかな使用感が得られなくなる恐れがある。
【0011】
(B)成分:25℃でペースト状の油
本発明に用いる25℃でペースト状の油は、化粧料に配合可能なものであれば天然、合成を問わない。例えば、トリ(カプリル酸/カプリン酸/ミリスチン酸/ステアリン酸)グリセリル、水添パーム油、ステアリン酸水添ヒマシ油、コメヌカ油脂肪酸フィトステリル、テトラ(ヒドロキシステアリン酸/イソステアリン酸)ジペンタエリスリチル、ヘキサヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチル、ヒドロキシアルキル(C16−18)ヒドロキシダイマージリノレイルエーテル、ビスジグリセリルポリアシルアジペート−2、シア脂、テオブロマグランジフロルム種子脂 、ワセリン、ラノリン、部分水添された異性化ホホバ油、オレイン酸フィトステリル、マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリル、パーム油・パーム核油・ヤシ油・およびアブラナ種子油各々に水添して得た植物性トリグリセライドと有機脂肪酸の混合物、ジペンタエリスリトールと混合脂肪酸のエステル等が例示できる。
なかでも部分水添された異性化ホホバ油、オレイン酸フィトステリル、マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリル、パーム油・パーム核油・ヤシ油・およびアブラナ種子油各々に水添して得た植物性トリグリセライドと有機脂肪酸の混合物、ジペンタエリスリトールと混合脂肪酸のエステル、から選ばれる1種以上を含有させることが好ましく、市販品を使用してもよい。例えば、部分水添された異性化ホホバ油の市販品としてホホバ脂(Vantage社製ISO JOJOBA−35)、パーム油・パーム核油・ヤシ油・およびアブラナ種子油各々に水添して得た植物性トリグリセライドと有機脂肪酸の混合物の市販品として野菜油(IOI Oleo社製Softigen PURA)、オレイン酸フィトステリル(日清オイリオグループ社製サラコスPO)、マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリル(日本精化社製Plandool MAS)、ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチル(日清オイリオグループ社製コスモール168ARV)、ラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘニル)(味の素ヘルシーサプライ社製エルデュウPS306)を例示することができる。
(B)成分の油は、前記した(A)成分の融点40〜50℃の固形状エステル油を化粧料組成物中に均一に分散させ、使用感を改善する。すなわち(B)成分の25℃でペースト状の油を配合することで組成物全体の安定性を向上させ、皮膚に塗布したときになめらかな使用感となる。本発明に用いる25℃でペースト状の油は、水中油型乳化皮膚化粧料の油剤総量に対し4〜60質量%含有すると好ましい。
本発明の水中油型乳化皮膚化粧料には、(B)成分を水中油型乳化皮膚化粧料当たり0.5〜15質量%、より好ましくは1〜12質量%含有することが好ましい。
【実施例】
【0020】
以下に本発明の化粧料について実施例、比較例を示しさらに本発明の作用効果を説明する。
尚、実施例、比較例の化粧料は、室温(25±2℃)の条件で実際に所定の量を肌に塗布して官能評価を行った。また、示差走査熱量計(DSC)による測定及び化粧料としての保存安定性を評価した。評価基準は次のとおりである。
(1)官能評価試験
手の甲に試料を0.3g塗布し、塗布時の感触を評価した。
・冷感
(評価基準)
○:冷感を感じる
△:やや冷感を感じる
×:冷感を感じない
・なめらかな塗布感
(評価基準)
○:なめらかである
△:ややなめらかである
×:なめらかでない
なめらかな状態とは塗布時に伸びがよく塗布後のきしみがないことをいう。
【0021】
(2)機器評価(吸熱ピーク、融解熱)試験
示差走査熱量計(DSC)を用いて試料の吸熱ピーク温度(℃)とピーク面積から算出される融解熱(J/g)を求めた。示差走査熱量計は日立ハイテクサイエンス社製熱分析システムDSC7000Xを用い、測定は昇温速度5℃/minの条件で行い、各試料を3.0〜5.0mgの範囲で秤量して測定に供した。
尚、吸熱ピークが2つあらわれた実施例8、実施例21、比較例15の化粧料に関しては、「/」で区切り両方の値を記載した。
【0022】
(3)安定性試験
試料を直径約4cmのガラス容器(6K瓶)に充填し、5℃、室温、50℃でそれぞれ1ヶ月間保管した後の外観と臭気の変化を目視と官能により評価した。評価項目と評価基準は次のとおりである。
(評価基準)
○:外観に分離・固化や結晶の析出等の変化がなく、臭気にも変化がない
△:外観に固化や結晶の析出等の変化がなく臭気にも変化がなかったが、わずかに離液を 生じる(製品化には問題とならないレベル)
×:外観に分離・固化や結晶の析出等の変化を生じるか、または変質による異臭を生じる
尚、ガラス容器での観察において、実施例2は5℃保管品でやや硬く、実施例24は50℃保管品でやや流れる感じがしたので表中に併せて記載した。実施例2と24は製品化に問題とならないレベルである。しかしながらチューブ容器を使用した製品とする時にはその口径等を最適なものにする必要がある。
【0023】
<実施例品の組成と評価>
表1、表2に示す実施例1〜24の組成の水中油型乳化皮膚化粧料を常法により調製した。各表では本発明の一例として各組成の油剤総量が20.5質量%となるものを記載したが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、実施例10は油剤総量が13.5質量%、実施例24は油剤総量が20.0質量%の例である。実施例1〜24の組成は、いずれも25℃でペースト状の油(B)と25℃で液状の油(C)の両成分の合計量が、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)の5倍量を超えない量で配合されている。
実施例1〜10は選択した成分がほぼ等しく、その配合量を変えたものである。実施例11〜24は、処方のバリエーション例である。具体的には、実施例11〜13では任意成分である乳化剤の選択、実施例14〜19では(B)成分の選択、実施例20〜22では(A)成分の選択、実施例23では任意成分である水溶性高分子の選択を変えてある。 また、実施例24は任意成分である高級アルコールを含まない例である。
表中の各成分は、下記市販品を用いた。
(A)成分としてミリスチン酸ミリスチル(クローダジャパン社製SR CRODAMOL MM)、ミリスチン酸セチル(ナショナル美松社製エステロールM−C)、パルミチン酸セチル(BASFジャパン社製Cutina CP)を用いた。
(B)成分としてホホバ脂(Vantage社製ISO JOJOBA−35)(部分水添された異性化ホホバ油)、野菜油(IOI Oleo社製Softigen PURA、パーム油・パーム核油・ヤシ油・およびアブラナ種子油各々に水添して得た植物性トリグリセライドと有機脂肪酸の混合物)、オレイン酸フィトステリル(日清オイリオグループ社製サラコスPO)、マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリル(日本精化社製Plandool MAS)、ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチル(日清オイリオグループ社製コスモール168ARV)を用いた。
(C)成分としてトリエチルヘキサノイン(日清オイリオグループ社製T.I.O)を使用した。
さらに高級アルコールとしてベヘニルアルコール(高級アルコール工業社製ベヘニルアルコール)、乳化剤としてステアリン酸ソルビタン(クローダジャパン社製ARLACEL 2121に含まれる)、ヤシ脂肪酸スクロース(クローダジャパン社製ARLACEL 2121に含まれる)、ポリソルベート60(日本サーファクタント工業社製NIKKOL TS−10V)、ステアリン酸ポリグリセリル−10(日本サーファクタント工業社製NIKKOL Decaglyn 1−SV)を用いた。また、水溶性高分子としてカルボキシビニルポリマー(和光純薬工業社製ハイビスワコー103)、アルキル変性カルボキシビニルポリマー(ルーブリゾール社製カーボポールUltrez20)を用いた。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
表1、表2には組成と評価の他に、各化粧料に配合した油剤総量、油剤総量に占める(A)成分の割合(%、小数点以下四捨五入)、油剤総量に占める(B)成分の割合(%)、油剤総量に占める(C)成分の割合(%)、油剤総量に占める(A)成分と(B)成分の合計量(A+B)の割合(%)、Aと(B+C)の配合質量比[A:(B+C)]、(A+B)とCの配合質量比[(A+B):C]、(A)と(B)の配合質量比[A:B]も合わせて記載した。
表1、表2に示す実施例1〜24の水中油型乳化皮膚化粧料は、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)と、その合計量が(A)の5倍量を超えない範囲で25℃でペースト状の油(B)と25℃で液状の油(C)の両成分が配合されるが、いずれも皮膚に塗布したとき皮膚に冷感を与えると共に、好ましいなめらかな塗布感と安定性を示した。
この実施例1〜24の化粧料にあっては、Aと(B+C)の配合質量比[(A):(B+C)]は13:7〜5:21であった。また、(A+B)とCの配合質量比[(A+B):C]は19:1〜3:2であった。(A)と(B)の配合質量比[A:B]は13:1〜1:3.2であった。そして、(A)成分が油剤総量の19〜63質量%を占めており、(A)成分と(B)成分の合計量が油剤総量の59〜93質量%であった。
また示差走査熱量計(DSC)を用いた試料(化粧料)の吸熱ピーク温度(℃)は、20〜40℃であった。すなわち、実施例1〜24の皮膚化粧料は、皮膚の温度で吸熱反応を示し、冷感を与えることが確認できた。
【0027】
<比較例品の組成と評価>
表3に示す比較例1〜15の水中油型乳化皮膚化粧料を常法により調製した。比較例1〜13の油剤総量は20.5質量%であり、比較例14、15は21.5質量%である。
比較例1〜7は(A)成分を含まない組成、比較例8〜11は(B)成分を含まない組成である。比較例12〜15の組成は(A)成分、(B)成分、(C)成分を含有するが、いずれも25℃でペースト状の油(B)と25℃で液状の油(C)の両成分の合計量が、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)の5倍量を超えている。
【0028】
【表3】
【0029】
比較例の化粧料はいずれも好ましい冷感を与えないか、冷感を与えたとしても塗布感や安定性の評価において評価が低くなることが確認された。
比較例1〜7は(A)成分を含まない組成であり、比較例1〜6にはその他の固体油が配合されている。比較例1(固体油としてヘプタン酸ステアリルとカプリル酸ステアリルの混合物)と比較例2(固体油として乳酸ミリスチル)は、「冷感」、なめらかな塗布感は得られたが、経時的(25℃、50℃で1ヶ月保管品)に変臭が発生し(比較例1)、分離或いは固化して(比較例2)、製品とするには不良であった。比較例3〜6(固体油としてステアリン酸ステアリル)は、「冷感」が得られず、比較例7(固体油を含まない)も「冷感」が得られなかった。
比較例8〜11は(A)成分を含み(B)成分を含まず(C)成分を含む組成である。比較例9〜11は「冷感」が得られたものもあるが(B)成分を含まないため塗布感が悪く、(C)成分を増やして塗布感を改善しようとした比較例8は、「冷感」が得られなかった。
比較例12〜15の組成は(A)成分、(B)成分、(C)成分を含有するが、いずれも25℃でペースト状の油(B)と25℃で液状の油(C)の両成分の合計量が、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)の5倍量を超えた組成である。比較例12〜15はいずれも「冷感」が得られなかった。
以上、実施例、比較例の結果から、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)と、その合計量が(A)の5倍量を超えない範囲で25℃でペースト状の油(B)と25℃で液状の油(C)を組み合わせて配合することが重要であり、そうすることで吸熱ピークが体温付近に調整された水中油型乳化皮膚化粧料が得られ、これを皮膚に塗布すると、肌の上で瞬時に融解して、この融解熱により皮膚の温度を下げて冷感を付与できることがわかった。さらに、使用感等を考慮すると、各成分を以下に示す比率で配合することが好ましいことがわかった。すなわち、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)と、25℃でペースト状の油(B)と25℃で液状の油(C)の合計量の配合質量比であるA:(B+C)を、2:1〜1:5とすること、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)と25℃でペースト状の油(B)の合計量と、25℃で液状の油(C)の配合質量比である(A+B):Cを、19:1〜3:2とすること、さらにまた、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)と25℃でペースト状の油(B)の配合質量比である(A):(B)を、15:1〜1:4とすることである。
【0030】
<洗顔後のヒト顔面の冷却効果試験>
実施例10の水中油型乳化皮膚化粧料の、ヒトに対する皮膚温度の低下効果を確認した。
洗顔後、サーモグラフィーによる肌温度を測定した。次いで実施例10の水中油型乳化皮膚化粧料を適当量手にとって顔面全体に塗布し、再度サーモグラフィーによる肌温度の測定を行った。塗布前と塗布後のサーモグラフィー画像を
図1に示した。顔面全体の温度が約5℃低下しており、化粧料の塗布による清涼化効果(冷感)が確認された。