特許第6864534号(P6864534)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6864534-水中油型乳化皮膚化粧料 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6864534
(24)【登録日】2021年4月6日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】水中油型乳化皮膚化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/37 20060101AFI20210419BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20210419BHJP
   A61K 8/63 20060101ALI20210419BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20210419BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
   A61K8/37
   A61K8/06
   A61K8/63
   A61K8/92
   A61Q19/00
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-82307(P2017-82307)
(22)【出願日】2017年4月18日
(65)【公開番号】特開2018-177726(P2018-177726A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】井岡 達也
【審査官】 ▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−074779(JP,A)
【文献】 特開2006−022047(JP,A)
【文献】 特開2009−286757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点40〜50℃の固形状エステル油である、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、パルミチン酸セチルから選ばれる1種以上(A)を化粧料全量に対し2〜15質量%
25℃でペースト状の油(B)と
25℃で液状の油(C)を含有し、
(A+B)とCの含有質量比[(A+B):C]が19:1〜3:2であり、
(B)と(C)の合計量が(A)の含有量の5倍を超えない水中油型乳化皮膚化粧料。
【請求項2】
融点40〜50℃の固形状エステル油である、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、パルミチン酸セチルから選ばれる1種以上(A)と、25℃でペースト状の油(B)と25℃で液状の油(C)の合計量の配合質量比A:(B+C)が、2:1〜1:5である請求項1に記載の水中油型乳化皮膚化粧料。
【請求項3】
融点40〜50℃の固形状エステル油である、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、パルミチン酸セチルから選ばれる1種以上(A)と25℃でペースト状の油(B)の配合質量比(A):(B)が、15:1〜1:4である請求項1又は2に記載の水中油型乳化皮膚化粧料。
【請求項4】
融点40〜50℃の固形状エステル油である、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、パルミチン酸セチルから選ばれる1種以上(A)が、化粧料中の油剤総量に対して15〜65質量%である請求項1〜のいずれかに記載の水中油型乳化皮膚化粧料。
【請求項5】
融点40〜50℃の固形状エステル油である、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、パルミチン酸セチルから選ばれる1種以上(A)と25℃でペースト状の油(B)の合計量が、化粧料中の油剤総量に対して55〜95質量%である請求項1〜のいずれかに記載の水中油型乳化皮膚化粧料。
【請求項6】
25℃でペースト状の油(B)が、部分水添された異性化ホホバ油、オレイン酸フィトステリル、マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリル、パーム油・パーム核油・ヤシ油・およびアブラナ種子油各々に水添して得た植物性トリグリセライドと有機脂肪酸の混合物、ジペンタエリスリトールと混合脂肪酸のエステル、から選ばれる1種以上である請求項1〜のいずれかに記載の水中油型乳化皮膚化粧料。
【請求項7】
さらに水溶性高分子としてカルボキシビニルポリマー及び/又はアルキル変性されたカルボキシビニルポリマーを含有する請求項1〜のいずれかに記載の水中油型乳化皮膚化粧料。
【請求項8】
高級アルコールを含有し、該高級アルコールの含有量が化粧料中の油剤総量に対して30質量%以下である請求項1〜のいずれかに記載の水中油型乳化皮膚化粧料。
【請求項9】
示差走査熱量計(DSC)を用いた測定において、吸熱ピークが20〜40℃にある請求項1〜のいずれかに記載の水中油型乳化皮膚化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚に塗布することによって肌温度を低下させ、清涼感(冷感)を与える水中油型乳化皮膚化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料には、種々の生理活性成分や油性成分など、多様な特性を有する多くの物質が配合される。皮膚や頭皮に清涼感を与える目的では、清涼化剤(又は冷感剤ともいう)と呼ばれる成分がしばしば配合される。清涼化剤には二つのタイプがあり,成分の気化熱を利用して皮膚温を低下させるタイプと,成分特有の皮膚刺激により感覚的に清涼感を付与するタイプがある。前者の例としては、エタノールなどの低級アルコールやエアゾールなどの噴射剤が挙げられ、その気化熱により皮膚に清涼感を与える。後者の例としては、メントール、薄荷油、ペパーミント油、カンファー、チモール、サリチル酸メチルなどが挙げられる。
一方、水に溶解するときに吸熱反応を起こす物質や、体温によって融解するときに熱を奪う物質がある。前者の例としてはリン酸水素二ナトリウム12水塩、リン酸ナトリウム12水塩、リン酸水素二ナトリウム等のリン酸塩、炭酸ナトリウム10水塩、炭酸水素ナトリウム、無水炭酸ナトリウム等の炭酸塩、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、クエン酸、グリコール酸、グルタミン酸、アスパラギン酸などの有機酸が挙げられる。後者の例としては、n−オクタデカンおよびn−ノナデカンなどのC18〜C19直鎖炭化水素やヘプタン酸ステアリル(stearyl heptanoate)などが挙げられる。これらの成分もまた、皮膚上の汗(水分)に溶解したり皮膚温で融解したりするときに皮膚温を低下させるので、清涼感(冷感)が求められる化粧料に好んで配合されている。
【0003】
これらの成分は、単独で化粧料に配合される場合もあるが、いくつかの成分を組み合わせたり、さらに冷感効果を持続するための成分も配合したりして、冷感のある化粧料(冷感化粧料)として調製される。
特許文献1には、冷却成分としてヘプタン酸ステアリルと、該ヘプタン酸ステアリルがその中で溶けないポリマー乳化剤と化粧料用担体を含む化粧料が記載されている。
特許文献2には、水に溶解するとき吸熱性を示すエリスリトールやフルクトースなどの多価アルコール類と冷感性を示すメントールを配合した口唇用冷感化粧料が記載されている。
特許文献3には(a)水溶性アルギン酸塩、(b)アルカリ土類金属塩、(c)水に溶解して吸熱反応を起こす冷却物質として炭酸塩及び/又は燐酸塩の少なくとも1種と、水溶性の有機酸の少なくとも1種とを含有する固体状冷感組成物が記載されている。この組成物は用事水と混合して、化粧料として塗布され、皮膚に冷感を与えることができる。
特許文献4には、(A)メントール誘導体を0.5〜5重量%、(B)メントール及び/又はカンファーを0.05〜1重量%、及び(C)低級アルコールを含有することを特徴とする冷感化粧料が記載されている。
特許文献5には、メントール100部に対して、イソプレゴールを1〜30部、カンファーを0.1〜10部、サリチル酸モノグリコールを1〜30部、皮膚浸透剤を10〜200部配合した冷感剤組成物、該冷感剤組成物を0.1〜50%配合した冷感化粧料が開示されている。
特許文献6には、メントール及び/又はメントール誘導体と、キシリトールと、特性の異なる2種以上の球状粉体とを含有する化粧料が開示されている。キシリトールと球状粉体はメントールの冷感を持続させる効果がある。
このように様々な冷感化粧料が提案されている。しかしながら、いずれも一長一短があり、冷感と化粧料としての使用感(肌への刺激性、なめらかさ)、保存安定性のすべてを満足させるものはなく、様々な試行錯誤がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−505110号公報
【特許文献2】特開平10−194926号公報
【特許文献3】特開2011−207788号公報
【特許文献4】特開2000−239142号公報
【特許文献5】特開2004−269368号公報
【特許文献6】特開2016−153375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、冷感を有する水中油型乳化皮膚化粧料であって、冷感剤に由来する皮膚刺激や不快な臭いがなく、使用感に優れ、保存安定性に優れた皮膚化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、融点40〜50℃の固形状エステル油と、25℃でペースト状の油と、25℃で液状の油を一定の割合で配合した水中油型乳化皮膚化粧料の吸熱ピークが体温付近に調整できることを発見した。
すなわち本発明は、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)と、その合計量が(A)の5倍量を超えない範囲で25℃でペースト状の油(B)と、25℃で液状の油(C)を組み合わせて配合すると、吸熱ピークが体温付近に調整された水中油型乳化皮膚化粧料が得られ、これを皮膚に塗布すると、肌の上で瞬時に融解して、この融解熱により皮膚の温度を下げて冷感を付与することができる。
【0007】
本発明の主な構成は、次のとおりである。
(1)融点40〜50℃の固形状エステル油(A)と25℃でペースト状の油(B)と25℃で液状の油(C)を含有し、25℃でペースト状の油(B)と25℃で液状の油(C)の合計量が融点40〜50℃の固形状エステル油(A)の含有量の5倍を超えない水中油型乳化皮膚化粧料。
(2)融点40〜50℃の固形状エステル油(A)と、25℃でペースト状の油(B)と25℃で液状の油(C)の合計量の配合質量比A:(B+C)が、2:1〜1:5である(1)に記載の水中油型乳化皮膚化粧料。
(3)融点40〜50℃の固形状エステル油(A)と25℃でペースト状の油(B)の合計量と、25℃で液状の油(C)の配合質量比(A+B):Cが、19:1〜3:2である(1)又は(2)に記載の水中油型乳化皮膚化粧料。
(4)融点40〜50℃の固形状エステル油(A)と25℃でペースト状の油(B)の配合質量比(A):(B)が、15:1〜1:4である(1)〜(3)のいずれかに記載の水中油型乳化皮膚化粧料。
(5)融点40〜50℃の固形状エステル油(A)が、化粧料中の油剤総量に対して15〜65質量%である(1)〜(4)のいずれかに記載の水中油型乳化皮膚化粧料。
(6)融点40〜50℃の固形状エステル油(A)と25℃でペースト状の油(B)の合計量が、化粧料中の油剤総量に対して55〜95質量%である(1)〜(5)のいずれかに記載の水中油型乳化皮膚化粧料。
(7)融点40〜50℃の固形状エステル油(A)がミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、パルミチン酸セチルから選ばれる1種以上である(1)〜(6)のいずれかに記載の水中油型乳化皮膚化粧料。
(8)25℃でペースト状の油(B)が、部分水添された異性化ホホバ油、オレイン酸フィトステリル、マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリル、パーム油・パーム核油・ヤシ油・およびアブラナ種子油各々に水添して得た植物性トリグリセライドと有機脂肪酸の混合物、ジペンタエリスリトールと混合脂肪酸のエステル、から選ばれる1種以上である(1)〜(7)のいずれかに記載の水中油型乳化皮膚化粧料。
(9)さらに水溶性高分子としてカルボキシビニルポリマー及び/又はアルキル変性されたカルボキシビニルポリマーを含有する(1)〜(8)のいずれかに記載の水中油型乳化皮膚化粧料。
(10)高級アルコールを含有し、該高級アルコールの含有量が化粧料中の油剤総量に対して30質量%以下である(1)〜(9)のいずれかに記載の水中油型乳化皮膚化粧料。
(11)示差走査熱量計(DSC)を用いた測定において、吸熱ピークが20〜40℃にある(1)〜(10)のいずれかに記載の水中油型乳化皮膚化粧料。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水中油型乳化皮膚化粧料は、エタノールやメントールといった冷感成分を配合しなくても、皮膚に塗布したときに好ましい冷感を与え、皮膚温度を低下させる作用を有する。刺激性のあるエタノールやメントールなどの冷感剤を含有しないため、敏感肌用化粧料、口唇用化粧料、目の周囲用化粧料といった低刺激性であることに配慮が必要な化粧料として特に有用である。また従来、融解熱を利用した冷感成分として第一に選択されるヘプタン酸ステアリルには、変臭や皮膚刺激、組成物中での固化や結晶析出、それによる不快な使用感が生じる問題があったが、本発明の構成をとることでヘプタン酸ステアリルを配合しなくても冷感を得ることができ、なめらかな使用感と優れた保存安定性も兼ね備えた皮膚化粧料が実現可能となった。また、25℃でペースト状の油(B)と25℃で液状の油(C)の合計量が、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)の含有量の5倍を超えない本発明の構成をとることで、容易に冷感化粧料が得られるので、過度な試作が不要となり処方設計の効率化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の化粧料の塗布前後の顔面の温度を測定したサーモグラフィーの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、融点40〜50℃の固形状エステル油A(以下「(A)成分」)と、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)の含有量の5倍を超えない範囲で25℃でペースト状の油B(以下「(B)成分」)と25℃で液状の油C(以下「(C)成分」)の両成分を含有する水中油型乳化皮膚化粧料が、示差走査熱量計(DSC)を用いた測定において、吸熱ピークが20〜40℃にあり、皮膚に冷感を与えるというものである。
本発明の構成成分(配合成分)について説明する。
(A)成分:融点40〜50℃の固形状エステル油
本発明に用いる融点40〜50℃の固形状エステルは、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、パルミチン酸セチルを例示できる。本発明の組成物中には、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、パルミチン酸セチルのいずれか1種以上を配合する。
ミリスチン酸ミリスチルの融点は36〜46℃である。ミリスチン酸セチルの融点は45〜50℃である。パルミチン酸セチルの融点は45〜50℃である。
(A)成分である融点40〜50℃の固形状エステル油は、以下説明する25℃でペースト状の油((B)成分)及び25℃で液状の油((C)成分)と組み合わせて水中油型乳化皮膚化粧料とすることで、組成物の吸熱ピークが20〜40℃の範囲となる。この温度帯の組成物は皮膚温で溶けて皮膚熱を奪うので、本発明の化粧料を使用する人に「冷たい感覚」(冷感)を与える。
本発明に用いる融点40〜50℃の固形状エステル油は、水中油型乳化皮膚化粧料の油剤総量に対し15〜65質量%、より好ましくは18〜64質量%含有する。
本発明の水中油型乳化皮膚化粧料には、使用感を考慮すると融点40〜50℃の固形状エステル油(A)を水中油型乳化皮膚化粧料当たり2〜15質量%、より好ましくは2.5〜13質量%含有することが好ましい。2質量%よりも少ないと冷感を感じにくくなる恐れがある。15質量%を超えて配合すると組成物がボソボソした感じになり、なめらかな使用感が得られなくなる恐れがある。
【0011】
(B)成分:25℃でペースト状の油
本発明に用いる25℃でペースト状の油は、化粧料に配合可能なものであれば天然、合成を問わない。例えば、トリ(カプリル酸/カプリン酸/ミリスチン酸/ステアリン酸)グリセリル、水添パーム油、ステアリン酸水添ヒマシ油、コメヌカ油脂肪酸フィトステリル、テトラ(ヒドロキシステアリン酸/イソステアリン酸)ジペンタエリスリチル、ヘキサヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチル、ヒドロキシアルキル(C16−18)ヒドロキシダイマージリノレイルエーテル、ビスジグリセリルポリアシルアジペート−2、シア脂、テオブロマグランジフロルム種子脂 、ワセリン、ラノリン、部分水添された異性化ホホバ油、オレイン酸フィトステリル、マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリル、パーム油・パーム核油・ヤシ油・およびアブラナ種子油各々に水添して得た植物性トリグリセライドと有機脂肪酸の混合物、ジペンタエリスリトールと混合脂肪酸のエステル等が例示できる。
なかでも部分水添された異性化ホホバ油、オレイン酸フィトステリル、マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリル、パーム油・パーム核油・ヤシ油・およびアブラナ種子油各々に水添して得た植物性トリグリセライドと有機脂肪酸の混合物、ジペンタエリスリトールと混合脂肪酸のエステル、から選ばれる1種以上を含有させることが好ましく、市販品を使用してもよい。例えば、部分水添された異性化ホホバ油の市販品としてホホバ脂(Vantage社製ISO JOJOBA−35)、パーム油・パーム核油・ヤシ油・およびアブラナ種子油各々に水添して得た植物性トリグリセライドと有機脂肪酸の混合物の市販品として野菜油(IOI Oleo社製Softigen PURA)、オレイン酸フィトステリル(日清オイリオグループ社製サラコスPO)、マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリル(日本精化社製Plandool MAS)、ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチル(日清オイリオグループ社製コスモール168ARV)、ラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘニル)(味の素ヘルシーサプライ社製エルデュウPS306)を例示することができる。
(B)成分の油は、前記した(A)成分の融点40〜50℃の固形状エステル油を化粧料組成物中に均一に分散させ、使用感を改善する。すなわち(B)成分の25℃でペースト状の油を配合することで組成物全体の安定性を向上させ、皮膚に塗布したときになめらかな使用感となる。本発明に用いる25℃でペースト状の油は、水中油型乳化皮膚化粧料の油剤総量に対し4〜60質量%含有すると好ましい。
本発明の水中油型乳化皮膚化粧料には、(B)成分を水中油型乳化皮膚化粧料当たり0.5〜15質量%、より好ましくは1〜12質量%含有することが好ましい。
【0012】
(C)成分:25℃で液状の油
本発明の水中油型乳化皮膚化粧料には、25℃で液状の油を配合する。液状の油を配合することで(A)成分:融点40〜50℃の固形状エステル油が低温で固くなり化粧料の使用感が悪くなる(なめらかでなくなる)ことを防ぎ、乳化安定性を高める。
このような液状の油としては、化粧料に通常使用されるものであればどのようなものでもよい。例えば、トリエチルヘキサノイン、スクワラン、流動パラフィン、水添ポリデセン、水添ポリイソブテン、オリーブ油、ホホバ種子油、マカデミア種子油、メドウフォーム油、ヒマシ油、コーン油、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、エチルヘキサン酸セチル、イソノナン酸イソトリデシル、テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチル、ネオペンタン酸イソステアリル、イソステアリン酸イソステアリル、イソステアリン酸イソブチル、オレイン酸オレイル、ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)等を例示できる。
本発明の水中油型乳化皮膚化粧料には、(C)成分である25℃で液状の油を水中油型乳化皮膚化粧料当たり0.5〜10質量%、より好ましくは1〜8質量%含有することが好ましい。
【0013】
本発明において油剤とは、(A)成分:固形状エステル油、(B)成分:ペースト状油、(C)成分:液状油の他に、任意成分である高級アルコールや高級脂肪酸やその他の固体油も油剤と呼ぶ。以下、油剤総量とした場合はこれら成分の合計量である。油剤総量は水中油型乳化化粧料が得られる量であれば特に限定されないが、使用感を考慮すると10〜40質量%、より好ましくは13〜30質量%である。
本発明に用いる(A)成分:融点40〜50℃の固形状エステル油は、水中油型乳化皮膚化粧料の油剤総量に対し15〜65質量%、より好ましくは18〜64質量%含有すると好ましい。また、(A)成分:融点40〜50℃の固形状エステル油と(B)成分:25℃でペースト状の油の合計量は、水油型乳化皮膚化粧料の油剤総量に対して55〜95質量%とすることが好ましい。
【0014】
本発明は、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)と、その合計量が(A)の5倍量を超えない範囲で25℃でペースト状の油(B)と25℃で液状の油(C)を組み合わせて配合すると、吸熱ピークが体温付近に調整された水中油型乳化皮膚化粧料が得られる。また、これを皮膚に塗布すると肌の上で融解し、この融解熱により皮膚の温度を下げて冷感を付与することができるものである。
使用感などを考慮すると、各成分を以下に示す比率で配合することが好ましい。すなわち、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)と、25℃でペースト状の油(B)と25℃で液状の油(C)の合計量の配合質量比であるA:(B+C)を、2:1〜1:5とすることが好ましい。また、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)と25℃でペースト状の油(B)の合計量と、25℃で液状の油(C)の配合質量比である(A+B):Cを、19:1〜3:2とすることが好ましい。さらにまた、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)と25℃でペースト状の油(B)の配合質量比である(A):(B)を、15:1〜1:4とすることが好ましい。
【0015】
本発明の水中油型乳化皮膚化粧料には、水を30〜85質量%、より好ましくは60〜80質量%配合する。
さらに水に溶解性を有する成分が任意で配合可能である。例えば、1,3ブチレングリコールやグリセリンなどの多価アルコール、カルボキシビニルポリマーやアルキル変性カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム等の水溶性高分子、ヒアルロン酸や植物抽出液等の美容成分、フェノキシエタノール等の防腐成分が配合可能である。
本発明の水中油型乳化皮膚化粧料には安定性を高めるために、カルボキシビニルポリマー、アルキル変性カルボキシビニルポリマーを配合することが好ましい。特に好ましいのはアルキル変性カルボキシビニルポリマーである。市販品としては、カルボキシビニルポリマー(和光純薬工業社製ハイビスワコー103)、アルキル変性カルボキシビニルポリマー(ルーブリゾール社製カーボポールUltrez20)を例示できる。これらの成分は、水相として調製し、前記の油剤を含む油相とともに乳化させる。
【0016】
本発明では、水中油型乳化皮膚化粧料とするために、乳化剤を配合する。乳化剤としては、水中油型乳化皮膚化粧料に通常使用されるものであればいずれも使用可能である。例えば、ステアリン酸ソルビタン、ヤシ油脂肪酸スクロース、ステアリン酸ソルビタンとヤシ油脂肪酸スクロースの混合物(クローダジャパン社製ARLACEL 2121)、ポリソルベート60(日本サーファクタント工業社製NIKKOL TS−10V)、ステアリン酸ポリグリセリル−10(日本サーファクタント工業社製NIKKOL Decaglyn 1−SV)などが例示できる。
【0017】
一般的に、水中油型乳化皮膚化粧料は、高級アルコールを配合することで安定性が良好となる。 本発明においても、必須成分ではないが、すべての温度帯でより安定な組成物とするために化粧料全量に対し高級アルコールを0.2〜5質量%配合することが好ましい。尚、高級アルコールは、油剤総量に対して30質量%以下とすることが好ましい。油剤総量に対して30質量%を超えて配合すると、化粧料の吸熱ピークが高温側にシフトし、冷感が感じられにくくなる恐れがある。高級アルコールを配合する場合は、ベヘニルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、アラキルアルコールが好ましく例示できる。
【0018】
本発明の水中油型乳化皮膚化粧料の調製は、水相及び油相成分をそれぞれ加温しながら溶解し、70〜85℃で水相と油相を混合して乳化し、室温まで撹拌しながら冷却する。ホモミキサー等の装置を用いて乳化してもよい。
【0019】
本発明の水中油型乳化皮膚化粧料は、示差走査熱量計(DSC)を用いた測定において、吸熱ピークが20〜40℃に出現する。これは(A)成分を含む油相成分の相転移(固形から液状化)による吸熱反応を示している。吸熱ピークが20〜40℃に出現することにより本発明の水中油型乳化皮膚化粧料が、吸熱により皮膚温度上昇部位から熱を奪い皮膚を冷却する効果を有することを確認できる。
また本発明の化粧料を塗布した前後の皮膚温度をサーモグラフィー法で測定すると塗布部分の肌温度が低下することを視覚的に確認することができる。
本発明の化粧料は、使用性や使用感を考慮して様々な剤型に設計される。具体的には液状、クリーム状又はジェル状である。本発明の特性を十分に発揮させるにはクリーム状が好ましい。
【実施例】
【0020】
以下に本発明の化粧料について実施例、比較例を示しさらに本発明の作用効果を説明する。
尚、実施例、比較例の化粧料は、室温(25±2℃)の条件で実際に所定の量を肌に塗布して官能評価を行った。また、示差走査熱量計(DSC)による測定及び化粧料としての保存安定性を評価した。評価基準は次のとおりである。
(1)官能評価試験
手の甲に試料を0.3g塗布し、塗布時の感触を評価した。

・冷感
(評価基準)
○:冷感を感じる
△:やや冷感を感じる
×:冷感を感じない

・なめらかな塗布感
(評価基準)
○:なめらかである
△:ややなめらかである
×:なめらかでない
なめらかな状態とは塗布時に伸びがよく塗布後のきしみがないことをいう。
【0021】
(2)機器評価(吸熱ピーク、融解熱)試験
示差走査熱量計(DSC)を用いて試料の吸熱ピーク温度(℃)とピーク面積から算出される融解熱(J/g)を求めた。示差走査熱量計は日立ハイテクサイエンス社製熱分析システムDSC7000Xを用い、測定は昇温速度5℃/minの条件で行い、各試料を3.0〜5.0mgの範囲で秤量して測定に供した。
尚、吸熱ピークが2つあらわれた実施例8、実施例21、比較例15の化粧料に関しては、「/」で区切り両方の値を記載した。
【0022】
(3)安定性試験
試料を直径約4cmのガラス容器(6K瓶)に充填し、5℃、室温、50℃でそれぞれ1ヶ月間保管した後の外観と臭気の変化を目視と官能により評価した。評価項目と評価基準は次のとおりである。

(評価基準)
○:外観に分離・固化や結晶の析出等の変化がなく、臭気にも変化がない
△:外観に固化や結晶の析出等の変化がなく臭気にも変化がなかったが、わずかに離液を 生じる(製品化には問題とならないレベル)
×:外観に分離・固化や結晶の析出等の変化を生じるか、または変質による異臭を生じる

尚、ガラス容器での観察において、実施例2は5℃保管品でやや硬く、実施例24は50℃保管品でやや流れる感じがしたので表中に併せて記載した。実施例2と24は製品化に問題とならないレベルである。しかしながらチューブ容器を使用した製品とする時にはその口径等を最適なものにする必要がある。
【0023】
<実施例品の組成と評価>
表1、表2に示す実施例1〜24の組成の水中油型乳化皮膚化粧料を常法により調製した。各表では本発明の一例として各組成の油剤総量が20.5質量%となるものを記載したが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、実施例10は油剤総量が13.5質量%、実施例24は油剤総量が20.0質量%の例である。実施例1〜24の組成は、いずれも25℃でペースト状の油(B)と25℃で液状の油(C)の両成分の合計量が、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)の5倍量を超えない量で配合されている。
実施例1〜10は選択した成分がほぼ等しく、その配合量を変えたものである。実施例11〜24は、処方のバリエーション例である。具体的には、実施例11〜13では任意成分である乳化剤の選択、実施例14〜19では(B)成分の選択、実施例20〜22では(A)成分の選択、実施例23では任意成分である水溶性高分子の選択を変えてある。 また、実施例24は任意成分である高級アルコールを含まない例である。
表中の各成分は、下記市販品を用いた。
(A)成分としてミリスチン酸ミリスチル(クローダジャパン社製SR CRODAMOL MM)、ミリスチン酸セチル(ナショナル美松社製エステロールM−C)、パルミチン酸セチル(BASFジャパン社製Cutina CP)を用いた。
(B)成分としてホホバ脂(Vantage社製ISO JOJOBA−35)(部分水添された異性化ホホバ油)、野菜油(IOI Oleo社製Softigen PURA、パーム油・パーム核油・ヤシ油・およびアブラナ種子油各々に水添して得た植物性トリグリセライドと有機脂肪酸の混合物)、オレイン酸フィトステリル(日清オイリオグループ社製サラコスPO)、マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリル(日本精化社製Plandool MAS)、ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチル(日清オイリオグループ社製コスモール168ARV)を用いた。
(C)成分としてトリエチルヘキサノイン(日清オイリオグループ社製T.I.O)を使用した。
さらに高級アルコールとしてベヘニルアルコール(高級アルコール工業社製ベヘニルアルコール)、乳化剤としてステアリン酸ソルビタン(クローダジャパン社製ARLACEL 2121に含まれる)、ヤシ脂肪酸スクロース(クローダジャパン社製ARLACEL 2121に含まれる)、ポリソルベート60(日本サーファクタント工業社製NIKKOL TS−10V)、ステアリン酸ポリグリセリル−10(日本サーファクタント工業社製NIKKOL Decaglyn 1−SV)を用いた。また、水溶性高分子としてカルボキシビニルポリマー(和光純薬工業社製ハイビスワコー103)、アルキル変性カルボキシビニルポリマー(ルーブリゾール社製カーボポールUltrez20)を用いた。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
表1、表2には組成と評価の他に、各化粧料に配合した油剤総量、油剤総量に占める(A)成分の割合(%、小数点以下四捨五入)、油剤総量に占める(B)成分の割合(%)、油剤総量に占める(C)成分の割合(%)、油剤総量に占める(A)成分と(B)成分の合計量(A+B)の割合(%)、Aと(B+C)の配合質量比[A:(B+C)]、(A+B)とCの配合質量比[(A+B):C]、(A)と(B)の配合質量比[A:B]も合わせて記載した。
表1、表2に示す実施例1〜24の水中油型乳化皮膚化粧料は、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)と、その合計量が(A)の5倍量を超えない範囲で25℃でペースト状の油(B)と25℃で液状の油(C)の両成分が配合されるが、いずれも皮膚に塗布したとき皮膚に冷感を与えると共に、好ましいなめらかな塗布感と安定性を示した。
この実施例1〜24の化粧料にあっては、Aと(B+C)の配合質量比[(A):(B+C)]は13:7〜5:21であった。また、(A+B)とCの配合質量比[(A+B):C]は19:1〜3:2であった。(A)と(B)の配合質量比[A:B]は13:1〜1:3.2であった。そして、(A)成分が油剤総量の19〜63質量%を占めており、(A)成分と(B)成分の合計量が油剤総量の59〜93質量%であった。
また示差走査熱量計(DSC)を用いた試料(化粧料)の吸熱ピーク温度(℃)は、20〜40℃であった。すなわち、実施例1〜24の皮膚化粧料は、皮膚の温度で吸熱反応を示し、冷感を与えることが確認できた。
【0027】
<比較例品の組成と評価>
表3に示す比較例1〜15の水中油型乳化皮膚化粧料を常法により調製した。比較例1〜13の油剤総量は20.5質量%であり、比較例14、15は21.5質量%である。
比較例1〜7は(A)成分を含まない組成、比較例8〜11は(B)成分を含まない組成である。比較例12〜15の組成は(A)成分、(B)成分、(C)成分を含有するが、いずれも25℃でペースト状の油(B)と25℃で液状の油(C)の両成分の合計量が、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)の5倍量を超えている。
【0028】
【表3】
【0029】
比較例の化粧料はいずれも好ましい冷感を与えないか、冷感を与えたとしても塗布感や安定性の評価において評価が低くなることが確認された。
比較例1〜7は(A)成分を含まない組成であり、比較例1〜6にはその他の固体油が配合されている。比較例1(固体油としてヘプタン酸ステアリルとカプリル酸ステアリルの混合物)と比較例2(固体油として乳酸ミリスチル)は、「冷感」、なめらかな塗布感は得られたが、経時的(25℃、50℃で1ヶ月保管品)に変臭が発生し(比較例1)、分離或いは固化して(比較例2)、製品とするには不良であった。比較例3〜6(固体油としてステアリン酸ステアリル)は、「冷感」が得られず、比較例7(固体油を含まない)も「冷感」が得られなかった。
比較例8〜11は(A)成分を含み(B)成分を含まず(C)成分を含む組成である。比較例9〜11は「冷感」が得られたものもあるが(B)成分を含まないため塗布感が悪く、(C)成分を増やして塗布感を改善しようとした比較例8は、「冷感」が得られなかった。
比較例12〜15の組成は(A)成分、(B)成分、(C)成分を含有するが、いずれも25℃でペースト状の油(B)と25℃で液状の油(C)の両成分の合計量が、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)の5倍量を超えた組成である。比較例12〜15はいずれも「冷感」が得られなかった。
以上、実施例、比較例の結果から、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)と、その合計量が(A)の5倍量を超えない範囲で25℃でペースト状の油(B)と25℃で液状の油(C)を組み合わせて配合することが重要であり、そうすることで吸熱ピークが体温付近に調整された水中油型乳化皮膚化粧料が得られ、これを皮膚に塗布すると、肌の上で瞬時に融解して、この融解熱により皮膚の温度を下げて冷感を付与できることがわかった。さらに、使用感等を考慮すると、各成分を以下に示す比率で配合することが好ましいことがわかった。すなわち、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)と、25℃でペースト状の油(B)と25℃で液状の油(C)の合計量の配合質量比であるA:(B+C)を、2:1〜1:5とすること、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)と25℃でペースト状の油(B)の合計量と、25℃で液状の油(C)の配合質量比である(A+B):Cを、19:1〜3:2とすること、さらにまた、融点40〜50℃の固形状エステル油(A)と25℃でペースト状の油(B)の配合質量比である(A):(B)を、15:1〜1:4とすることである。
【0030】
<洗顔後のヒト顔面の冷却効果試験>
実施例10の水中油型乳化皮膚化粧料の、ヒトに対する皮膚温度の低下効果を確認した。
洗顔後、サーモグラフィーによる肌温度を測定した。次いで実施例10の水中油型乳化皮膚化粧料を適当量手にとって顔面全体に塗布し、再度サーモグラフィーによる肌温度の測定を行った。塗布前と塗布後のサーモグラフィー画像を図1に示した。顔面全体の温度が約5℃低下しており、化粧料の塗布による清涼化効果(冷感)が確認された。
図1