特許第6864539号(P6864539)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6864539コラーゲン、ゼラチンおよびコラーゲン加水分解物に含まれるGly−X−Y配列量の測定方法、およびX−Y配列量の測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6864539
(24)【登録日】2021年4月6日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】コラーゲン、ゼラチンおよびコラーゲン加水分解物に含まれるGly−X−Y配列量の測定方法、およびX−Y配列量の測定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/37 20060101AFI20210419BHJP
【FI】
   C12Q1/37
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-87932(P2017-87932)
(22)【出願日】2017年4月27日
(65)【公開番号】特開2018-183106(P2018-183106A)
(43)【公開日】2018年11月22日
【審査請求日】2020年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135151
【氏名又は名称】株式会社ニッピ
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100111464
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 悦子
(72)【発明者】
【氏名】楠畑 雅
(72)【発明者】
【氏名】寺村 直子
(72)【発明者】
【氏名】飯嶋 克昌
(72)【発明者】
【氏名】林田 治
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓友
(72)【発明者】
【氏名】多賀 祐喜
(72)【発明者】
【氏名】服部 俊治
【審査官】 西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−211655(JP,A)
【文献】 特開2012−135222(JP,A)
【文献】 特開2015−134753(JP,A)
【文献】 特開2016−169199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
C12N 9/00−9/99
C12P 1/00−41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラチン、またはコラーゲン加水分解物にM9Aタイプバクテリアコラゲナーゼを作用させてペプチド溶液を調製し、前記ペプチド溶液に含まれるGly−X−Y(式中、XおよびYは、同一でも異なってもよいアミノ酸残基を示す。)の含有量を測定する工程を含む、前記ゼラチンまたはコラーゲン加水分解物に含まれるGly−X−Y配列量の測定方法。
【請求項2】
ゼラチン、またはコラーゲン加水分解物にM9Aタイプバクテリアコラゲナーゼを作用させてペプチド溶液を調製し、前記ペプチド溶液に含まれるGly−X−Y(式中、XおよびYは、同一でも異なってもよいアミノ酸残基を示す。)の含有量(As)を測定する工程と、
前記ゼラチン、またはコラーゲン加水分解物に含まれる前記Gly−X−Yの含有量(Ab)を測定する工程と、
前記含有量(As)と前記含有量(Ab)との差を算出する工程とを含む、前記ゼラチンまたはコラーゲン加水分解物に含まれる潜在的Gly−X−Y配列量の測定方法。
【請求項3】
前記Gly−X−Yが、Gly−Pro−Hypである、請求項1または2に記載の測定方法。
【請求項4】
ラチン、またはコラーゲン加水分解物にM9Aタイプバクテリアコラゲナーゼを作用させてペプチド溶液を調製し、前記ペプチド溶液に含まれるGly−X−Y(式中、XおよびYは、同一でも異なってもよいアミノ酸残基を示す。)の含有量を測定し、得られた測定値に、(X−Yの分子量/Gly−X−Yの分子量)を乗じてX−Y配列量とする換算工程を含む、前記ゼラチンまたはコラーゲン加水分解物に含まれるX−Y配列量の測定方法。
【請求項5】
ゼラチン、またはコラーゲン加水分解物にM9Aタイプバクテリアコラゲナーゼを作用させてペプチド溶液を調製し、前記ペプチド溶液に含まれるGly−X−Y(式中、XおよびYは、同一でも異なってもよいアミノ酸残基を示す。)の含有量(As)およびX−Yの含有量(Bs)を測定する工程と、
前記含有量(As)に、(X−Yの分子量/Gly−X−Yの分子量)を乗じてX−Y配列量(Cs)とする換算工程と、
前記ゼラチン、またはコラーゲン加水分解物に含まれるX−Yの含有量(Bb)を測定する工程と、
含有量(Bs)+含有量(Cs)−含有量(Bb)を算出する工程とを含む、
前記ゼラチンまたはコラーゲン加水分解物に含まれる潜在的X−Y配列量の測定方法。
【請求項6】
前記X−Yが、Pro−Hypである、請求項4または5に記載の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲン、ゼラチンおよびコラーゲン加水分解物に含まれるGly−X−Y配列量の測定方法、およびX−Y配列量の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼラチンやコラーゲンペプチドを経口摂取した場合の血中有効成分や、経口摂取した場合の種々の効果が報告されている。たとえば、平均分子量5,000〜12,000の市販の豚皮由来ゼラチンやトリ由来ゼラチン等を経口摂取して血中ペプチド濃度を経時的に測定し、ゼラチン由来の血中主要ペプチドはPro−Hypである、とする報告がある(非特許文献1)。実験では、ブタ由来I型コラーゲンを原料としたゼラチンを経口摂取した場合、血中ジペプチドの95%がPro−Hypであり、トリ由来I型コラーゲンの場合は92%が、トリ由来II型コラーゲンの場合は70%超がPro−Hypであると記載する。また、非特許文献2では、ヒト血中のコラーゲン由来Pro−Hypが、マウス皮膚由来の線維芽細胞の成長を増殖させる事を報告している。
【0003】
さらに、特許文献1は、コラーゲンやゼラチンをコラゲナーゼで加水分解して得られる(Gly−X−Y)(式中、XおよびYは同一でも異なってもよいアミノ酸残基を示す。)で示されるトリペプチドが、コラーゲン産生促進作用、ヒアルロン酸産生促進作用、皮膚コラーゲン合成促進作用、骨折治癒促進作用、腱損傷治癒促進作用等の効果を有すると記載する。
【0004】
非特許文献1によれば、ゼラチンを経口摂取すればコラーゲン由来のジペプチドの効果を得ることができる。しかしながら、ゼラチンは、コラーゲン原料からコラーゲンを抽出し、酸処理、アルカリ処理、酵素処理などによって所定の平均分子量、粘度、ゼリー強度に調整して出荷されたものである。ゼラチンの平均分子量は一般に5,000〜20,000である。コラーゲンは、分子量100,000のポリペプチド鎖が3本螺旋状に結合した構造であるから、ゼラチンは、各ポリペプチドがそれぞれ5〜20に分解された組成物であり、トリペプチドやジペプチドは含まれておらず、含まれる場合もその含有量は微量に過ぎない。
【0005】
一方、コラーゲンおよびゼラチンは、コラゲナーゼなどで分解することができる。例えば、特許文献2の実施例では、高純度ゼラチン50gに100mgのコラゲナーゼを用いてコラーゲンペプチド粉末を得ている。しかしながらトリペプチド含量は30%である。また、特許文献3では、ゼラチンまたはコラーゲンをコラゲナーゼその他の酵素で消化して得た水溶液のトリペプチド含有量は2〜20%であると記載する。このように、従来のコラーゲンをクロストリジウム・ヒストリチカム由来のコラゲナーゼなどは、−(Gly−X−Y)n−で示されるコラーゲン様配列からGly−X−Yを切り出す分解率は低い。
【0006】
なお、非特許文献3では、Pro−Hyp(ジペプチド)を含有しないコラーゲンペプチドを経口摂取しても、消化・吸収により血中にPro−Hypが見出だされると報告する。経口摂取されたゼラチンは、消化酵素によってPro−Hypを生成し、腸管吸収され血中に移行することが示唆される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2012−501320号公報
【特許文献2】特開2002−255847号公報
【特許文献3】特許第4099541号公報
【特許文献4】特開2015−211655号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Koji Iwai, et al. "Identification of Food−Derived Collagen Peptides in Human Blood after Oral Ingestion of Gelatin Hydrolysates ", J. Agric. Food Chem., 2005, 53, 6531−6536.
【非特許文献2】Yasutaka Shigemura, et al., "Effect of Prolyl−hydroxyproline(Pro−Hyp), a Food−Derived Collagen Peptide in Human Blood, on Growth of Fibroblasts from Mouse Skin ", J. Agric. Food Chem., 2009, 57 (2), 444−449.
【非特許文献3】Yuki Taga, et al., "Highly Accurate Quantification of Hydroxyproline−Containing Peptides in Blood Using a Protease Digest of Stable Isotope−Labeled Collagen ", J. Agric. Food Chem. 2014, 62, 12096−12102.
【非特許文献4】MEROPS、Family M9, Summary for family M9,[online]、[平成29年4月25日検索]、インターネット〈URL:http://merops.sanger.ac.uk/cgi−bin/famsum?family=m9〉
【非特許文献5】Naoko Teramura et.al, ”Cloning of a Novel Collagenase Gene from the Gram−Negative Bacterium Grimontia (Vibrio) hollisae 1706B and Its Efficient Expression in Brevibacillus choshinensis”, Journal of Bacteriology 2011,193, 12, p3049−3056
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献3に記載するように、コラーゲンペプチドにPro−Hypが含まれていない場合でも、経口摂取により血中にPro−Hypが見出だされる。いくつかのコラーゲンのアミノ酸配列は公知であり、その配列を参照してGly−X−Y配列量やX−Y配列量を算出することができる。
【0010】
しかしながら、例えば、工業生産されるゼラチン等は、その製造工程、具体的には、原料の処理方法や使用する分解酵素によって切断位置が異なり、また、工程中の熱履歴によって分子間や分子内結合の一部がランダムに切断される。使用する用途に応じて所定の画分を除去するなどの処理を行い、溶解性や粘度、ゼリー強度等が調整されることも一般的である。したがって、一概に「ゼラチン」と称する市販品であっても、コラーゲンを構成するポリペプチドの全配列を含むものではなく、かつ製品毎に組成も異なる。このため、コラーゲンを構成するアミノ酸配列が公知でもその配列に基づいて、ゼラチンに含まれるGly−X−Y配列量やX−Y配列量を算出することはできない。
【0011】
また、コラーゲンペプチド製造工程で特定のペプチドが減損する可能性や食品加工製造段階で変質する可能性、または人為的なミスによって期待されるGly−X−Y配列量やX−Y配列量が含まれない事もありうる。このような変質等はコラーゲンおよびゼラチンも同様である。
【0012】
更に、プロテインシークエンサーや質量分析器によってゼラチン等のアミノ酸配列を調べ、例えば、Pro−Hyp配列を含有するペプチドを同定し、定性分析することは可能である。しかしながら、操作が煩雑であり、大量に消費される経口摂取用ゼラチンのトリペプチド配列量やPro−Hyp配列量の定量には実用的でない。このようにコラーゲンのアミノ酸配列に基づく、Gly−X−Y配列量やX−Y配列量の測定は困難である。
【0013】
一方、ゼラチンを分解してトリペプチドやジペプチドを回収し、これらの含有量を測定すれば、ゼラチンから生成しうるトリペプチド量やジペプチド量に換算することができる。しかしながら、コラーゲン様配列から効率的にGly−X−YやX−Yを切り出すことができなければ、Gly−X−YやX−Yの含有量を正確に測定することはできない。特許文献2や特許文献3に記載のクロストリジウム・ヒストリチカム由来のコラゲナーゼでは分解率が十分でない。
【0014】
ゼラチンやコラーゲン加水分解物は、製品毎に組成が異なるため、簡便な測定方法の開発が望まれる。しかしながら、コラーゲン様配列から効率的にX−Yを切り出す酵素も知られていない。このような問題は、コラーゲンでも同様である。
【0015】
したがって、コラーゲン、ゼラチンおよびコラーゲン加水分解物に含まれる、Gly−X−Y配列量やX−Y配列量を簡便に測定する方法の開発が望まれる。
【0016】
上記現状に鑑み、本発明は、コラーゲン、ゼラチンおよびコラーゲン加水分解物に含まれるGly−X−Y配列量やX−Y配列量の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、コラーゲン、ゼラチンおよびコラーゲン加水分解物等に含まれるコラーゲン様配列から、Gly−X−Yを切り出してペプチド溶液を得て、このペプチド溶液に含まれるトリペプチドGly−X−Y量を測定すれば、ゼラチン等に含まれるGly−X−Y配列量を求められること、Gly−X−Y配列量に(X−Yの質量/Gly−X−Yの質量)を乗ずることで、酵素を使用しなくても全X−Y配列量を求められること、およびGly−X−Y酵素として、M9Aタイプバクテリアコラゲナーゼが好適であることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
本発明は、ゼラチンまたはコラーゲン加水分解物にM9Aタイプバクテリアコラゲナーゼを作用させてペプチド溶液を調製し、
前記ペプチド溶液に含まれるGly−X−Y(式中、XおよびYは、同一でも異なってもよいアミノ酸残基を示す。)の含有量を測定する工程を含む、前記ゼラチンまたはコラーゲン加水分解物に含まれるGly−X−Y配列量の測定方法を提供するものである。
【0019】
また本発明は、前記Gly−X−Yが、Gly−Pro−Hypである、前記測定方法を提供するものである。
【0020】
また本発明は、ゼラチンまたはコラーゲン加水分解物にM9Aタイプバクテリアコラゲナーゼを作用させてペプチド溶液を調製し、前記ペプチド溶液に含まれるGly−X−Y(式中、XおよびYは、同一でも異なってもよいアミノ酸残基を示す。)の含有量を測定し、前記測定値に、(X−Yの分子量/Gly−X−Yの分子量)を乗じてX−Y配列量とする換算工程を含む、前記ゼラチンおよびコラーゲン加水分解物に含まれるX−Y配列量の測定方法を提供するものである。
【0021】
また本発明は、前記X−Yが、Pro−Hypである、前記測定方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、コラーゲン、ゼラチンおよびコラーゲン加水分解物から生成しうるGly−Pro−Hyp配列量やPro−Hyp配列量を測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
(1)コラーゲン、ゼラチンまたはコラーゲン加水分解物
本発明の測定対象は、コラーゲン、ゼラチンまたはコラーゲン加水分解物である。コラーゲンとしては、サカナ、ウシ、ブタ、ニワトリ、その他の動物のいずれに由来するコラーゲンであってもよい。また、コラーゲン型は現在I型からXXIX型までが知られているが、そのいずれであってもよく、将来発見されるコラーゲンであってもよい。コラーゲンは、分子量約100,000のポリペプチド3本が螺旋状に結合した構造であり、ゼラチンとは各ポリペプチドを複数に切断した組成物である。一般に、平均分子量3,000〜50,000、好ましくは5,000〜20,000のペプチドがゼラチンである。また、コラーゲン加水分解物とは、コラーゲンペプチドとも称され、ゼラチンより低分子量で、ゲル化能を有しないまでに分解されたペプチド組成物を意味する。なお、コラーゲン、ゼラチンまたはコラーゲン加水分解物の調製方法に限定はない。コラーゲン原料を酸やアルカリで処理してコラーゲンを抽出したもの、コラーゲンに各種コラゲナーゼを含むプロテアーゼなどの酵素を作用させ、および/または、酸、アルカリ、その他によってコラーゲンを構成するポリペプチド鎖を切断したものを広く含む。
【0025】
(2)M9Aタイプバクテリアコラゲナーゼ
本発明で使用するM9Aタイプバクテリアコラゲナーゼは、ペプチダーゼデータベースの一つであるMEROPSの分類によるM9Aに属するバクテリアコラゲナーゼである(非特許文献4参照)。M9はM9AとM9Bに大別され、M9Aには、ビブリオおよびビブリオ類縁属コラゲナーゼが含まれ、M9Bには、クロストリディウム属コラゲナーゼが含まれる。ビブリオ類縁属には、グリモンティア・ホリセーなどがある。本発明では、ビブリオやグリモンティア・ホリセーに由来するM9Aタイプバクテリアコラゲナーゼを使用する。本発明で使用するM9Aタイプバクテリアコラゲナーゼとして、グリモンティア・ホリセー由来コラゲナーゼがある(非特許文献5)。なお、グリモンティア・ホリセーは、例えばATCC No.33564やATCC No.33565として入手できる。本発明で使用するM9Aタイプバクテリアコラゲナーゼとしては、ビブリオやビブリオ類縁属が産生するコラゲナーゼの他、特許文献4記載の方法を参照し、当該コラゲナーゼ遺伝子で形質転換された組み換え体から得たコラゲナーゼであってもよい。さらに、市販品であってもよい。このような市販品として株式会社ニッピ製のブライターゼCがある。
【0026】
M9Aタイプバクテリアコラゲナーゼは、コラーゲン様配列を分解してGly−X−Y(式中、XおよびYは同一でも異なってもよいアミノ酸残基を示す。)で示されるトリペプチドを切り出すことができる酵素である。例えば、グリモンティア・ホリセー由来コラゲナーゼは、特許文献4に記載されるように、トリペプチド量を指標として分解率を評価すると、48時間の作用でウシ皮由来酸抽出I型コラーゲンを構成するトリペプチド配列の93%を切り出すことができる。
【0027】
(3)Gly−X−Y配列
本発明において、Gly−X−Y配列とは、XおよびYを同一でも異なってもよいアミノ酸残基とした場合に、N末端からGly、X、Yの順にアミド結合する配列であり、トリペプチドGly−X−Yの他、ポリペプチドに含まれる−(Gly−X−Y)−を含む。コラーゲン、ゼラチンおよびコラーゲン加水分解物に含まれるGly−X−Y配列量は、これらから生成しうる全Gly−X−Y量である。Gly−X−Y配列量がわかれば、これらを経口摂取した際のGly−X−Yなどの効果を予測することができる。
【0028】
Gly−X−Y配列としては、例えば、Gly−Pro−Hyp、Gly−Ala−Hyp、Gly−Leu−Hypなどがある。
【0029】
(4)Gly−X−Y配列量の測定方法
コラーゲン、ゼラチン、またはコラーゲン加水分解物を緩衝液などの溶液に溶解し、前記M9Aタイプバクテリアコラゲナーゼを作用させてペプチド溶液を調製する。前記コラーゲン、ゼラチン、またはコラーゲン加水分解物を溶解する緩衝液としては、例えばトリス緩衝液やGood緩衝液などがある。濃度は、0.1〜100mg/mlが好ましく、より好ましくは5〜40mg/mlである。得られた溶液に前記M9Aタイプバクテリアコラゲナーゼを0.001〜1mg/ml、より好ましくは0.005〜0.02mg/ml添加し、温度37℃で、12〜48時間、より好ましくは20〜24時間反応させる。これにより、前記コラーゲン、ゼラチンおよびコラーゲン加水分解物に含まれるコラーゲン様配列が分解されたペプチド溶液が得られる。塩酸でpHを下げ反応停止後、ペプチド溶液に含まれるGly−X−Yを定量する。Gly−X−Yの定量方法には特に限定はないが、例えば、LC−MSや、LC−MS−MSで測定することができる。質量分析の際に、Gly−X−Yの分子量を参照して目的の質量のGly−X−Y量を測定することができる。LC−MSやLC−MS−MSを適切に設定すれば、質量が同じGly−X−Yでもそれぞれ定量することができる。また、酵素分解を行わないコラーゲン、ゼラチンおよびコラーゲン加水分解物溶液をLC−MSやLC−MS−MS分析し、コラーゲン、ゼラチンおよびコラーゲン加水分解物に含まれるトリペプチドGly−X−Y量およびX−Y量を測定すれば、コラーゲン、ゼラチンおよびコラーゲン加水分解物に直接含まれるGly−X−Y量を測定することができる。
【0030】
(5)潜在的Gly−X−Y量
本発明によって測定したGly−X−Y配列量は、コラーゲン、ゼラチン、またはコラーゲン加水分解物に含まれていたトリペプチドGly−X−Yと、ポリペプチドを構成するGly−X−Y配列との合計量である。これをAsとすれば、Asは、コラーゲン、ゼラチンおよびコラーゲン加水分解物に含まれる全Gly−X−Y配列量である。一方、コラーゲン、ゼラチンおよびコラーゲン加水分解物溶液に含まれるトリペプチドGly−X−Y量をAbとすれば、As−Abは、コラーゲン、ゼラチンまたはコラーゲン加水分解物に含まれておらず、コラーゲン、ゼラチンおよびコラーゲン加水分解物が分解された後に生成できるGly−X−Y量を意味する。コラーゲン、ゼラチンおよびコラーゲン加水分解物が潜在的に含有するGly−X−Y量といえる。本発明では、これを潜在的Gly−X−Y量と称する。本発明によれば、As−Abを算出することで、コラーゲン、ゼラチンおよびコラーゲン加水分解物に含まれる潜在的Gly−X−Y量を求めることができる。
【0031】
(6)X−Y配列
本発明において、X−Y配列とは、XおよびYを同一でも異なってもよいアミノ酸残基とした場合に、N末端からX、Yの順にアミド結合する配列であり、ジペプチドX−Yの他、ポリペプチドに含まれる−X−Y−を含む。例えば、Pro−Hyp、Ala−Hyp、Lue−Hypなどがある。
【0032】
(7)X−Y配列量の測定方法
本発明では、上記したGly−X−Y配列量の測定方法に準じて、X−Y配列量を測定することができる。上記と同様にしてペプチド溶液を調製し、ペプチド溶液に含まれるGly−X−Y配列量を測定し、これをAsとする。その後、AsにX−Y分子量/Gly−X−Y分子量を乗じると、Gly−X−Y配列由来のX−Y配列量を算出することができる。これをCsとする。本発明によれば、コラーゲン様配列からX−Yを切り出す酵素を使用することなく、これらに含まれるX−Y配列量を測定することができる。一方、前記ペプチド溶液には、M9Aタイプバクテリアコラゲナーゼの酵素反応で生じたジペプチドX−Yが含有する場合がある。そこで、ペプチド溶液に含まれるGly−X−Y量の測定に加えて、X−Y量も測定する。X−Y量をBsとする。Bsはペプチド溶液に含まれるX−Y量であり、Csは、ペプチド溶液に含まれるGly−X−Y配列量に由来するX−Y量であるから、ゼラチン、またはコラーゲン加水分解物に含まれる全X−Y配列量は、Bs+Csで算出される。なお、酵素分解を行わないコラーゲン、ゼラチンおよびコラーゲン加水分解物溶液をLC−MSやLC−MS−MS等で分析すれば、コラーゲン、ゼラチンおよびコラーゲン加水分解物に含まれるジペプチドX−Y量を測定することができる。
【0033】
(8)潜在的X−Y量
本発明によって測定したX−Y配列量(Bs+Cs)は、コラーゲン、ゼラチン、またはコラーゲン加水分解物に含まれる全X−Y配列量である。一方、コラーゲン、ゼラチン、またはコラーゲン加水分解物に含まれるジペプチドX−Y量をBbとすれば、(Bs+Cs)−Bbは、コラーゲン、ゼラチン、またはコラーゲン加水分解物に含まれておらず、コラーゲン、ゼラチン、またはコラーゲン加水分解物から生成可能なX−Y量であり、コラーゲン、ゼラチンおよびコラーゲン加水分解物が潜在的に含有するX−Y量といえる。本発明では、これを潜在的X−Y量と称する。本発明によれば、(Bs+Cs)−Bbを算出することで、コラーゲン、ゼラチンおよびコラーゲン加水分解物に含まれる潜在的X−Y量を求めることができる。
【実施例】
【0034】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
【0035】
(実施例1)
市販のブタ皮由来コラーゲンペプチド(株式会社ニッピ製、商品名「豚皮由来コラーゲンペプチドPS−1」)とテラピア鱗由来コラーゲンペプチド(株式会社ニッピ製、商品名「テラピア鱗由来コラーゲンペプチドFCP−A」)を、10mM HEPES、40mM NaCl、1mM CaClを含むpH7.5の反応溶媒に溶解して2%コラーゲンペプチド溶液を調製した。
【0036】
また、40mgのグリモンティア属由来コラゲナーゼ(株式会社ニッピ製、商品名「Brightase−C」)を2mlの20mM HEPES、30mM NaCl、2mM CaClを含む溶媒(pH7.5)に溶解してコラゲナーゼ溶液を調製した。
【0037】
0.25mlの前記2%コラーゲンペプチド溶液に、前記コラゲナーゼ溶液0.01ml、およびHEPES緩衝液0.24mlを添加し、温度37℃で24時間反応させた。24時間後に、0.04mlの0.1N HClを添加して反応を停止させた。
【0038】
また、各ペプチド溶液に対し、前記コラゲナーゼ溶液に代えて同量のHEPES緩衝液を添加した以外は、ペプチド溶液の調製と同様に操作して、対照溶液とした。
【0039】
各ペプチド溶液およびコラゲナーゼを添加しなかった対照溶液について、下記条件でLC−MS分析でGly−Pro−Hyp量およびPro−Hyp量を測定した。
装置:
液体クロマトグラフ:アジレントテクノロジー社製、「1200シリーズ」
カラム:Ascentis F5(スペルコ社製、φ4.6mm×250mm)
三重連四重極質量分析装置(Sciex社製、「3200QTRAP」)
条件:MRM(multiple reaction monitoring)、イオン化法:ESI、ポジティブ
Gly−Pro−Hypの検出条件;Q1=286、Q3=127
Pro−Hypの検出条件;Q1=229、Q3=70
イオンスプレー電圧:3.5kV
イオンソース温度:600℃
移動相:A液;0.1%ギ酸、B液;100%アセトニトリル
グラジエント条件:0−2分:A液98%、2−6分:A液98−40%、6.1−8分:A液40−10%、8.1−10分:A液98%
流速:600μl/min
カラム温度:40℃
注入量:10μl
【0040】
ペプチド溶液に含まれるGly−Pro−Hyp量をAs、Pro−Hyp量をBs、対照溶液に含まれるGly−Pro−Hyp量をAb、Pro−Hyp量をBbとし、測定結果と対応する記号を表1に示す。また、Asに(Pro−Hypの分子量/Gly−Pro−Hypの分子量)を乗じた算出値をCsとする。すなわちCs=As×(Pro−Hypの分子量/Gly−Pro−Hypの分子量)=As×228/285=As×0.8である。Csの結果も併せて表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
コラーゲンペプチドに含まれるトリペプチドGly−Pro−HypをAbとし、コラーゲンペプチドに含まれるGly−Pro−Hyp配列量をAsとすれば、AsとAbとの差は、コラーゲンペプチドからから生成可能な潜在的Gly−Pro−Hyp量となる。表2に、PS−1およびFCP−Aに含まれるトリペプチドGly−Pro−Hyp量(Ab)、全Gly−Pro−Hyp配列量(As)、および潜在的Gly−Pro−Hyp量(As−Ab)を示す。
【0043】
【表2】
【0044】
本発明の測定方法によれば、コラーゲンペプチドに含まれる全Gly−X−Y配列量と、コラーゲンペプチドが潜在的に含有する潜在的Gly−X−Y量を算出することができる。表2に示すように、コラーゲンペプチドの種類によって、全Gly−Pro−Hyp配列量は異なり、ブタ由来コラーゲンペプチド>テラピア鱗由来コラーゲンペプチドであった。コラーゲンペプチド自体に含まれるトリペプチドGly−Pro−Hyp量は0.012、0.001g/kgとごく微量であるが、潜在的Gly−Pro−Hyp量は、99.887,76.872g/kgであった。本発明によれば、コラーゲンペプチド自体を試料としても測定できない全Gly−Pro−Hyp配列量およびコラーゲンペプチドの潜在的Gly−X−Y量を測定することができる。
【0045】
一方、ペプチド溶液に含まれるジペプチドPro−Hyp量をBsとし、ペプチド溶液のGly−Pro−Hyp配列由来のPro−Hyp配列量をCsとすれば、コラーゲンペプチドから生成可能な全Pro−Hyp配列量はBs+Csとなる。コラーゲンペプチドに含まれるジペプチドPro−Hyp量をBbとすれば、(Bs+Cs)とBbとの差は、コラーゲンペプチドからから生成可能な潜在的Pro−Hyp量となる。PS−1およびFCP−Aに含まれるジペプチドPro−Hyp量(Bb)、全Pro−Hyp配列量(Bs+Cs)、および潜在的Pro−Hyp量を表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
表3に示すように、コラーゲンペプチド自体に含まれるジペプチドPro−Hyp量はブタ由来コラーゲンペプチド、テラピア鱗由来コラーゲンペプチドのいずれも0.002g/kgとごく微量であるが、潜在的Pro−Hyp量は、80.030、61.638g/kgであった。本発明によれば、ペプチド溶液のGly−X−Y量と共にX−Y量を測定することで、コラーゲンペプチドに含まれる全Pro−Hyp配列量およびコラーゲンペプチドの潜在的X−Y量を求めることができる。
【0048】
なお、ブタ皮由来I型コラーゲンの配列から予想されるPro−Hyp量は、85.84(g/kg;水分5〜10%、灰分1%未満)であるから、上記表3のPS−1の全Pro−Hyp配列量は、コラーゲンペプチドに含まれるPro−Hyp配列量を反映する結果となった。また、テラピア鱗由来コラーゲンはブタ由来コラーゲンと比較して0.5〜2モル%Hyp量が少ないことは公知である。本願発明の測定方法によれば、グリモンティア属由来コラゲナーゼを使用することで、コラーゲンペプチドに含まれるPro−Hyp配列量を簡便に定量することができる。
【0049】
(比較例1)
グリモンティア属由来コラゲナーゼに代えて、M9Bに分類されるバクテリアコラゲナーゼであるクロストリジウム属由来コラゲナーゼ(株式会社ロッシュ製、Liberase−C)を使用して、実施例1と同様に操作した。結果を表4、表5およ表6に示す。
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
実施例1の結果を示す表1と、比較例1の結果を示す表4とから、クロストリジウム属由来コラゲナーゼによって生成するGly−Pro−HypおよびPro−Hypは、M9A由来バクテリアコラゲナーゼによる場合の80〜86%となる。このため、表5、表6に示すように、全Gly−Pro−Hyp配列量、潜在的Gly−Pro−Hyp量、全Pro−Hyp配列量、潜在的Pro−Hyp量がいずれもグリモンティア属由来コラゲナーゼを使用した場合と比較して低値となった。