(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
工場や倉庫、体育館等の大型の建物の屋根材として、波形のスレート板が広く用いられるようになって久しく、老朽化したスレート板を取り外すことなく屋根全体を補修する技術も種々実用化されている。
例えば、下記特許文献1においては、スレート屋根の表面上に突出したフックボルトの座金とスレート板との間にクランプ金具を打ち込み装着した上で、スレート屋根上に複数枚の金属板屋根材を被せ、これらをクランプ金具にネジ止めする屋根補修工法が開示されている。
【0003】
この屋根補修工法の場合、スレート屋根全体を新たな金属板屋根材で覆うことが基本となるため、建物の使用を中断させる必要が無く、また金属板屋根材は屋根の表面に突出した既設のフックボルトにクランプ金具を介して係合されるため、スレート屋根に穴開け等の加工を施す必要がないという利点を備えている。
【0004】
ところで、スレート屋根自体は老朽化していないため上記のような全面的な補修をする必要はないが、その一部分に金属板屋根材を敷設することにより、作業スペースを形成したいという要望が存在している。
例えば、建物の屋根に設置されたエアコンの室外機等を点検するため、波形スレート屋根の軒先部分に金属板屋根材を設置し、歩廊として利用するような用途である。
【0005】
このようにすれば、脆弱な波形スレート屋根の上や、滑りやすい雨樋の上に作業員が立って点検をしている現状に比べて、高い安全性が確保されることは間違いない。
ただし、既設のスレート屋根の一部分に金属板屋根材を敷設するとなると、雨水が金属板屋根材とスレート板との間から侵入し、クランプ金具を錆び付かせたり、クランプ金具の打ち込みによって生じたフックボルトとスレート板との隙間から屋内に漏水することが懸念される。
【0006】
このため、下記特許文献2においては、
図12に示すように、クランプ金具38をスレート板34の波の列と平行する方向に配置された複数本の縦下地材14で覆うと共に、その後端にプレス加工を施すことによって形成された湾曲部32を(
図13参照)、軒先側のスレート板34aと、これより上段に配置された他のスレート板34bとの重複部分の隙間51に挿入した上で(
図14参照)、各縦下地材14上に歩廊材16を固定する技術が開示されている。
【0007】
この従来技術の場合、フックボルト36に係合されるクランプ金具38が縦下地材14によって覆われており、この縦下地材14の湾曲部32がスレート板34a及び34bの隙間51に挿入されているため、雨が降っても縦下地材14によって遮られ、クランプ金具38が直接雨水に曝されることがない。このため、クランプ金具38が錆び付いたり、フックボルト36を伝って屋内に漏水したりすることを有効に回避することができる。
【0008】
【特許文献1】特開平10−219936号
【特許文献2】特開2016−125206号
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、この発明に係る第1の軒先点検用歩廊10の全体構成を示す斜視図であり、スレート屋根12の軒先部分に設置された複数の縦下地材15と、各縦下地材15の後端側に連結された複数の挿入部材60と、各縦下地材15の上に取り付けられた複数枚の歩廊材16を有している。
この歩廊材16は、波形鋼板よりなる。
【0020】
スレート屋根12は、複数のスレート板を屋根の母屋上に配置し、フックボルト36を介して固定することによって形成されており、屋根の軒先側に配置されたスレート板34aの上端辺に、これよりも上段に配置されたスレート板34bの下端辺が一定の幅で重複するように、各スレート板は位置決めされている。
【0021】
上記縦下地材15は、ステンレス等の錆びにくい金属材よりなり、
図2に示すように、上板20と、第1の側板22と、第2の側板24とを備えた比較的長尺の棒状部材よりなる。
【0022】
第1の側板22の端辺には、上方に向けて折り返した第1の樋部26が形成されている。また、第2の側板24の端辺にも、上方に向けて折り返した第2の樋部28が形成されている。
【0023】
縦下地材15の内側には、上板20と第1の側板22及び第2の側板24によって囲繞された収納スペース30が形成されている。
また、第1の側板22と第2の側板24との間には、下面開口部31が形成されている。
【0024】
上記挿入部材60は、ステンレス等の錆びにくい金属材よりなり、
図3(a)に示すように、上記縦下地材15と類似の形状を備えた連結部61と、断面波形状の湾曲部62を備えている。
【0025】
図3(b)は、挿入部材60を形成するための素材63を示している。
この素材63は、長さ寸法が比較的短いことを除き、上記の縦下地材15と類似の形状・寸法を備えている。
【0026】
まず、この素材63は、上板64と、第1の側板65と、第2の側板66とを備えている。
また、第1の側板65の端辺には、上方に向けて折り返した第1の樋部67が形成されている。
第2の側板66の端辺にも、上方に向けて折り返した第2の樋部68が形成されている。
【0027】
素材63の内側には、上板64と第1の側板65及び第2の側板66によって囲繞された収納スペース69が形成されている。
また、第1の側板65と第2の側板66との間には、下面開口部70が形成されている。
【0028】
そして、この素材63の後端部分に対してプレス加工(絞り加工)を施すことにより、差し込み用の湾曲部62が形成され、挿入部材60が完成する。
この湾曲部62は、スレート板34の一つの波に対応した形状を備えている。
また、素材63の中、湾曲部62以外の部分が連結部61となる。
【0029】
図4は、縦下地材15の設置方法を示すものであり、まずは、スレート屋根12の軒先側に配置された波形のスレート板34aの頂部から表面に突出しているフックボルト36に対して、クランプ金具38を係合させる(
図4(a))。
【0030】
クランプ金具38は、先端側及び後端側が開口した断面台形状の箱体よりなり、
図5に示すように、底面40には先端開口部42から後端開口部44に連なるガイド用の切欠46が形成されている。
この切欠46は、先端開口部42側の逆三角形部46aと、真ん中の円形部46bと、後端開口部44側の長方形部46cを備えている。
【0031】
このクランプ金具38の切欠46の逆三角形部46aを、フックボルト36の先端に螺合されているナット48及び座金50の裏側に差し入れ、ハンマーで横方向から打ち込むことにより、クランプ金具38はフックボルト36に係合される。
この際、フックボルト36は、切欠46の円形部46bに収納される。
【0032】
つぎに、縦下地材15の下面開口部31をクランプ金具38の上に被せて、これを収納スペース30内に導入する(
図4(b))。
そして、テクスビス52によって、縦下地材15の上板20とクランプ金具38の上面54間が固定される。
図6に示すように、フックボルト36の先端に螺合されたナット48とスレート板34の頂部との間に座金50が配置されており、この座金50の裏面に固着されたパッキン56とスレート板34の頂部とによって、クランプ金具38の底面40が挟持されている。
【0033】
図1においては、1本の縦下地材15が、2個のクランプ金具38を用いることにより、2箇所でスレート板34aに固定される例が示されている。
ただし、縦下地材15とスレート板34aとの間の固定箇所数については、特に限定はない。
【0034】
つぎに、
図7に示すように、挿入部材60の湾曲部62を、軒先側のスレート板34aと、これより上段に配置された他のスレート板34bとの重複部分の隙間51に差し入れた後、連結部61を縦下地材15上に載置し、両者の重複部分を複数のテクスビス52を介して固定する。
【0035】
つぎに、複数本の縦下地材15の上板20上に、複数枚の歩廊材16が載置される。
この際、各歩廊材16に形成された波の列が、スレート板34に形成された波の列と直交する方向(横方向)に配置される。
【0036】
そして、
図6に示したように、歩廊材16の頂部に配置された波用座金58のネジ穴にテクスビス52が挿通され、縦下地材15の上板20にネジ止めされる。
この結果、歩廊材16が縦下地材15に強固に固定される。
【0037】
この第1の軒先点検用歩廊10の場合、フックボルト36に係合されるクランプ金具38が縦下地材15によって覆われており、この縦下地材15の後端に連結された挿入部材60の湾曲部62が、軒先側のスレート板34aと、これよりも一段上に位置するスレート板34bとの隙間51に圧入されているため、雨が降っても縦下地材15及び挿入部材60によって雨水が遮られ、クランプ金具38が直接雨水に曝されることがない。
【0038】
このため、雨水によってクランプ金具38が錆び付いたり、フックボルト36を伝って屋内に漏水することを有効に抑制することができる。
縦下地材15及び挿入部材60に降りかかった雨水は、縦下地材15の第1の樋部26及び第2の樋部28を伝ってスレート屋根12の下方に運ばれ、雨樋62に集められる。
【0039】
この第1の軒先点検用歩廊10の場合、歩廊材16の波の列が横方向に並んでおり、これらが足場として作用するため、作業者が登坂しやすくなる利点も生じる。
【0040】
図12及び
図13に示したように、従来技術では縦下地材14の後端側自体を波形形状に加工し、この湾曲部32を隙間51に挿入していたため、梃子の原理で大きな反発力がスレート板34bに加えられる。
これに対し、第1の軒先点検用歩廊10では、歩廊材16を支持する比較的長尺な縦下地材15と、隙間51に差し込まれる比較的短尺な挿入部材60とに分割されているため、その分、スレート板34bに加えられる湾曲部62の反発力も分散・低減される。
このため、スレート板34bに亀裂や破損が生じることを抑制することができる。
【0041】
また、このように挿入部材60と縦下地材15を別部材としたことにより、挿入部材60をより薄い材料によって構成することも可能となる。
例えば、縦下地材15の厚さとして、歩廊材16を支持するのに十分な1.2mm確保する一方、厚さ0.5mmの素材63によって挿入部材60を形成することが該当する。
この結果、狭い隙間51に湾曲部62を差し込み易くなる利点が生じる。
【0042】
図8は、この発明に係る第2の軒先点検用歩廊71の全体構成を示す斜視図であり、スレート屋根12の軒先部分に設置された複数の縦下地材15と、各縦下地材15の後端側に連結された複数の挿入部材60と、各縦下地材15の上に取り付けられた複数本の横下地材72と、各横下地材72の上に固定された複数枚の歩廊材16を有している。
【0043】
この歩廊材16は、上記と同様の波形鋼板よりなるが、各歩廊材16に形成された波の列は、スレート板34に形成された波の列と平行する方向(縦方向)に配置される。
また、第1の軒先点検用歩廊10の場合には、歩廊材16が縦下地材15の上板20に直接固定されるのに対し、この第2の軒先点検用歩廊71の場合には、縦下地材15上に固定された横下地材72上に各歩廊材16が固定される点に特徴がある。
【0044】
なお、縦下地材15及び挿入部材60の構成や設置方法は第1の軒先点検用歩廊10の場合と共通するため、以下においては第2の軒先点検用歩廊71に特徴的な部分を中心に説明する。
【0045】
まず、横下地材72はステンレス等の錆びにくい金属材よりなり、
図9に示すように、上板74と、第1の側板76と、第2の側板78とを備えた比較的長尺の棒状部材よりなる。
第1の側板76の端辺には、外側に水平方向に折り曲げた第1の縁部80が形成されている。また、第2の側板78の端辺にも、外側に水平方向に折り曲げた第2の縁部82が形成されている。
【0046】
図9に示すように、この横下地材72を、縦下地材15の上板20に、これと直交する方向で載置し、テクスビス52を介して第1の縁部80及び第2の縁部82を縦下地材15の上板20にネジ止めする。
【0047】
つぎに、
図8に示したように、一対の横下地材72の上に複数の歩廊材16が載置される。
この際、各歩廊材16の波の列が、横下地材72の長手方向と直交する向きに配置される。
【0048】
つぎに、
図10に示すように、この歩廊材16の頂部に配置された波用座金58のネジ穴にテクスビス52が挿通され、横下地材72の上板74にネジ止めされる。
この結果、歩廊材16が横下地材72に強固に固定される。
【0049】
図8においては、一定の間隔をおいて平行に配置された2本の横下地材72によって各歩廊材16が支持される例が示されているが、3本以上の横下地材72を設置し、その上に各歩廊材16を固定するように構成してもよい。
【0050】
この第2の軒先点検用歩廊71の場合も、フックボルト36に係合されるクランプ金具38が縦下地材15によって覆われており、この縦下地材15の後端に連結された挿入部材60の湾曲部62が、軒先側のスレート板34aと、これよりも一段上に位置するスレート板34bとの隙間51に圧入されているため、雨が降っても縦下地材15及び挿入部材60によって遮られ、クランプ金具38が直接雨水に曝されることがない。
このため、雨水によってクランプ金具38が錆び付いたり、フックボルト36を伝って屋内に漏水することを有効に回避することができる。
【0051】
また、従来の縦下地材14の機能が、歩廊材16及び横下地材72を支持する縦下地材15と、隙間51に差し込まれる挿入部材60とに分割されているため、スレート板34bに加えられる湾曲部62の反発力も分散・低減される。この結果、スレート板34bに亀裂や破損が生じることを抑制することができる。
このように、挿入部材60と縦下地材15を別部材としたことにより、挿入部材60をより薄い材料によって構成することも可能となる。
【0052】
また、第2の軒先点検用歩廊71の場合、将来的にスレート屋根12全体を波形鋼板で覆う補修の必要性が生じた場合に、そのまま新規屋根の一部として流用できる利点を有している。
【0053】
さらに、歩廊材16の裏面に横下地材72が配置されており、この横下地材72に歩廊材16がネジ止めされる構造を備えているため、歩廊材16を任意のピッチで固定することが可能となる。
すなわち、仮に横下地材72を設けることなく、歩廊材16を縦下地材15に直接固定するとなると、固定箇所が縦下地材15の存在する位置に限定されることとなる。
【0054】
上記においては、歩廊材16として波形鋼板を用いた例を示したが、平板状の金属板を歩廊材16として用いることも可能である。
また、上記においては縦下地材15の上板20を平板状に形成した例を示したが、
図11に示すように、複数本の凹溝86を備えた波形の上板20を備えた縦下地材15を用いることもできる。この場合、図示を省略したが、挿入部材60としても、その上板64に複数本の凹溝を形成したものを採用することが望ましい。