(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ボルトで締結した上半部と下半部からなる車室と、複数の静翼列を含み前記車室に収容されて前記下半部に支持された上下二分割構造の静止体と、複数の動翼列を含み前記静止体の内側に位置するように複数の軸受で支持された回転体とを備えたタービンの組立作業を支援するタービン組立支援プログラムであって、
前記タービンの三次元形状の有限要素モデルを読み込む手順と、
開放状態の前記車室の上半部と下半部の三次元形状の実測情報を読み込む手順と、
前記車室の特定の一部である評価部位の実測情報を前記有限要素モデルに反映させ、前記有限要素モデルを補正した補正モデルを生成する手順と、
前記補正モデルを用いたシミュレーションにより、前記車室の上半部及び下半部を前記ボルトで締結した場合に生じる前記評価部位の移動量を推定する手順と、
前記移動量の推定値を出力装置に出力する手順をコンピュータに実行させるタービン組立支援プログラム。
実測した前記フランジ面と交わる前記メッシュのみの形状を前記フランジ面で切断された形状に変更することにより、前記補正モデルを作成する請求項3のタービン組立支援プログラム。
ボルトで締結した上半部と下半部からなる車室と、複数の静翼列を含み前記車室に収容されて前記下半部に支持された上下二分割構造の静止体と、複数の動翼列を含み前記静止体の内側に位置するように複数の軸受で支持された回転体とを備えたタービンの組立方法であって、
開放状態の前記車室の上半部と下半部の三次元形状を実測する手順と、
前記タービンの有限要素モデルに前記車室の特定の一部である評価部位の実測情報を反映させ、前記有限要素モデルを補正した補正モデルを生成する手順と、
前記補正モデルを用いたシミュレーションにより、実測した前記車室の上半部及び下半部を前記ボルトで締結した場合に生じる前記評価部位の移動量を推定する手順と、
前記車室の下半部に前記静止体の下半部を設置して前記移動量の推定値を基に前記静止体の下半部の位置を調整する手順と、
前記回転体、前記静止体の上半部、及び前記車室の上半部を順次組み付ける手順を有する組立方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
−タービン−
図1は本発明の適用対象の一例である蒸気タービンの下半側の構造を示す斜視図である。
図2は
図1に示した蒸気タービンの組立完成品の構成図であってタービン中心軸を含む鉛直面で切断した断面図、
図3は
図2に示した蒸気タービンの車室を抜き出して外観を模式的に表した側面図、
図4は
図3の矢印IV−IV線による矢視断面図である。なお、本実施形態では蒸気タービンを適用対象とした場合を例に挙げて説明するが、ガスタービン(一軸式、二軸式を含む)の組立作業にも本発明は適用可能である。図示した蒸気タービン1は、主な構成要素として、車室10、静止体20及び回転体30(
図2)を備えている。
【0012】
・車室
車室10は静止体20及び回転体30の外周を覆うケーシングであり、外車室11と内車室12の二重構造をしている。内車室12は静止体20及び回転体30の周囲を覆う内郭であり、外車室11は内車室12の周囲を覆う外郭である。外車室11及び内車室12は共に上下二分割構造である。以下、外車室11の下半部を下半外車室11a、外車室11の上半部を上半外車室11b、内車室12の下半部を下半内車室12a、内車室12の上半部を上半内車室12bと記載する。このように車室10は、下半外車室11a及び下半内車室12aからなる下半部と、上半外車室11b及び上半内車室12bからなる上半部で構成されている。
【0013】
下半外車室11aのタービン軸方向の両側は架台2に支持されている。下半外車室11aの支持構造部11aaと架台2との間にはシム等の位置調整部材(不図示)が介在している。位置調整部材により架台2に対する下半外車室11aの高さが調整できる。下半外車室11a及び上半外車室11bは互いの対向部に厚肉のフランジ13a,13bを有している。下半外車室11aと上半外車室11bは、互いのフランジ13a,13bを複数のボルト14及びナット15で強固に締結することで結合されている。フランジ13a,13bの互いに対向する接触面であるフランジ面16a,16bは水平方向に延びている。下半外車室11aの内壁面には、フランジ面16aに近い位置に複数の支持部17(
図1)が設けられている。支持部位17は内車室12を支持する部位である。
【0014】
下半内車室12a及び上半内車室12bも互いの対向部に厚肉のフランジ(下半内車室12aのフランジ18aのみ
図1に図示)を有している。下半内車室12aと上半内車室12bは、互いのフランジを複数のボルト及びナット(不図示)で強固に締結することで結合されている。下半内車室12a及び上半内車室12bのフランジ面(接触面)は水平方向に延びる。下半内車室12aの外壁面には、フランジ18aのフランジ面に近い位置に複数の凸部19(
図1)が設けられている。支持部17で凸部19を受けることで内車室12が外車室11に支持される。支持部17と凸部19との間にはシム等の位置調整部材(不図示)が介在している。位置調整部材により支持部17に対する凸部19の高さを調整することで、外車室11の内部における内車室12の位置が高さ方向に調整できる構造である。
【0015】
・静止体
静止体20はタービン軸方向に間隔をもって配置された複数の静翼列21を含む環状(筒状)の部材であり、内車室12に収容されている。また静止体20は下半部20a及び上半部20bからなる上下二分割構造をしている。下半部20a及び上半部20bの接触面は水平方向に延びる。静止体20の下半部20aと上半部20bはボルト及びナット(不図示)で強固に締結されている。静止体20の支持構造は内車室12の支持構造と同様であり、詳しく図示していないが、下半部20aの外壁面に設けた複数の凸部を下半内車室12aの内周部に設けた支持部で受ける構造である。静止体20の下半部20aの凸部と下半内車室12aの支持部との間には介在するシム等の位置調整部材により、内車室12の内部における静止体20の位置が高さ方向に調整できる構造である。
【0016】
各静翼列21は、ダイヤフラム外輪22、複数の静翼23及びダイヤフラム内輪24を備えており、環状に配置した複数の静翼23の外周部をダイヤフラム外輪22で連結し、内周部をダイヤフラム内輪24で連結して構成されている。
【0017】
・回転体
回転体30(
図2)は静止体20の内側に位置するタービンロータである。回転体30は、シャフト31と複数の動翼列32を含んでいる。シャフト31の両側は車室10から突き出しており、それぞれ軸受33により架台2に対して支持されている。動翼列32はシャフト31の外周部に環状に配置した複数の動翼34で構成され、タービン軸方向に間隔をもって複数配置されている。動翼列32はタービン軸方向に静翼列21と交互に配置されている。回転体30と静止体20との間の隙間にはラビリンスシール等のシール(不図示)が設けられる。シールは回転体30、静止体20又は両方に設けられる。
【0018】
−タービン組立支援システム−
図5は本発明の一実施形態に係るタービン組立支援システムの模式図である。
図5に示したタービン組立支援システムはタービンの組立作業を支援するシステムであり、コンピュータ40が利用される。コンピュータ40は、CPU41、HDD42、RAM43、ROM(例えばEPROM)44、I/Oポート45を備えている。
【0019】
I/Oポート45には、入力装置46、記録媒体47、出力装置48、ネットワーク49等が適宜接続される。入力装置46には、代表的にはキーボードやマウス、タッチパネル等を用いることができる。出力装置48がタッチパネルである場合は出力装置48が入力装置46も兼ねる場合もある。記録媒体47としては、磁気テープ、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等の各種記録媒体が適用可能である。出力装置48はモニタ等の表示装置の他、プリンタも適用可能である。スピーカ等の音声出力をする装置も出力装置48として適用可能である。またコンピュータ40は、入力装置46や出力装置48と一体構成のものでも良く、デスクトップ型、ノート型、タブレット型等、コンピュータ40の形態は限定されない。ネットワーク49にはインターネットのみならずLAN等も含まれ、ネットワーク49を介してコンピュータ40は別の端末やデータベース、サーバ等に接続可能である。
【0020】
ROM44には、タービン組立支援プログラムを含む各種プログラム等が格納されており、これらプログラムがCPU41によりROM44から読み出され、例えばRAM43にロードされて実行される。タービン組立支援プログラムは記録媒体47又はネットワーク49からI/Oポート45を介して入力され、ROM44に格納することもできる。タービン組立支援プログラムをCPU41により記録媒体47又はネットワーク49からI/Oポート45を介して読み出し、ROM44に格納することなくRAM43に直接ロードして実行するようにすることもできる。プログラムの実行により得られたデータ等は、HDD42、ROM44、RAM43、記録媒体47の1つ以上のメモリに記憶され、入力装置46の操作により出力装置48に出力される。以下、単に「メモリ」と記載した場合には、本願明細書では、RAM43、ROM44、HDD42、記録媒体47及びネットワーク49を介して接続された記憶装置等の少なくとも1つを指すこととする。
【0021】
−タービン組立支援プログラム−
図6は本発明の一実施形態に係るタービン組立支援プログラムの概念図である。タービン組立支援プログラムはタービンの組立作業を支援するプログラムであり、コンピュータ(例えばコンピュータ50)に実行させる手順として、大きくは解析条件設定手順50aと解析実行手順50bを含んでいる。解析条件設定手順50aは、タービンの現地組立に先行して予め解析条件を設定しておく手順である。解析実行手順50bは、組立に伴うタービン部品の変形を解析する手順であり、例えばタービン組立現場で、タービン組立作業と並行して実行することが想定される手順である。解析条件設定手順50aと解析実行手順50bは異なる端末で実行されても良い。解析条件設定手順50aには、評価部位抽出手順51、有限要素モデル作成手順52及び出力手順53が含まれる。評価部位抽出手順51と有限要素モデル作成手順52は異なる端末で実行されても良い。解析実行手順50bには、実測情報読込手順54、有限要素モデル読込手順55、モデル補正手順56、変形量推定手順57及び出力手順58が含まれる。モデル補正手順56と変形量推定手順57は異なる端末で実行されても良い。以下、上記の蒸気タービン1を適用対象とした場合を例に挙げて、各手順について説明する。
【0022】
・評価部位抽出手順
評価部位抽出手順51は、変形に対して感受性が高い車室10の特定の一部を評価部位として予め抽出しておく手順である。車室10は運用に伴って高温の作動流体に晒されることにより
図7及び
図8に示したようにフランジが波打つような非弾性変形(主にクリープ変形)を受ける。
図7及び
図8では変形を誇張して表示してある。評価部位は、例えば下半内車室12aに対する静止体20の位置を調整する上記の位置調整部材の位置の変形に対して影響の大きい部位である。評価部位の抽出は、例えばFE解析(有限要素解析)、実績データの解析、又はこれらの組み合わせにより行われる。FE解析は、例えば蒸気タービン1の設計情報(三次元CADデータ、材質、運転条件)や運転期間等を基礎情報として実行される。蒸気タービン1の三次元CADデータの代わりに製造時に三次元計測器等で実測した蒸気タービン1の三次元形状の実測情報を用いることもできる。実績データの解析は、例えば同型又は形状の近い機種の分解組立時に車室の形状を測定して得られた実績データのデータベースを基礎情報として実行される。基礎情報は、タービン組立支援プログラムを実行するコンピュータに内蔵又は接続されたメモリや入力装置46から入力される。実績データの解析とFE解析を併用して解析する場合、種々の形状をパラメータとしてパラメトリックに感受性を分析するロバスト設計等の設計計画法を用いることが推奨される。本実施形態では、外車室11のフランジ面16a,16bが評価部位として抽出された場合を例に挙げて説明する。評価部位の代表例としては、外車室11のフランジ面16a,16bの他、内車室12のフランジ面、外車室11又は内車室12の外周壁の厚肉部等が挙げられる。評価部位が実績その他から特定の部位に限定される場合は、評価部位抽出手順51は必ずしも実行する必要はなく、特定の部位を評価部位として設定しても良い。
【0023】
・有限要素モデル作成手順
有限要素モデル作成手順52は、解析実行手順50bで車室の変形のFE解析に用いる蒸気タービン1の三次元有限要素モデル(FEモデル)を作成する手順である。但し、同型で別個体のタービンのFEモデルが過去に作成されている場合等、改めて作成する必要がないとき、有限要素モデル作成手順52は必ずしも実行する必要はなく、過去に作成したFEモデルを用いても良い。FEモデルは、例えばボルト締結時(
図13の最終組立工程S22)における評価部位の移動量の最大想定値(設定値)よりも一辺(頂点間距離)の長さを大きく設定した複数のメッシュ(ソリッド)からなる蒸気タービン1のモデルである。例えば対象となる蒸気タービン1の設計データ(三次元CADデータ)又は三次元スキャン等による実物の三次元形状の実測情報を複数のメッシュに要素分割することで得られる。評価部位の移動量の最大想定値が例えば数mm程度であるとすると、メッシュの一片の長さは例えば30mm程度に設定することができる。車室10は径方向の寸法が数百mm、軸方向の寸法が3000mm以上あるため、この程度の要素分割数でも十分な精度が得られる。
【0024】
本実施形態においては、
図9に示したようにメッシュ59の形状を上下が水平な立方体(又は三角柱形状)とした場合を例示する。同図では下半外車室11aと上半外車室11bのフランジ面16a,16b付近のみのメッシュ59を表示している。メッシュ59は頂点のみを節点とするものに限らず、頂点及び頂点間に接点を有するものでも良い。設計ではフランジ面16a,16bは水平面であるため、この付近(フランジ13a,13b)ではメッシュ59を水平方向に並べた層が上下に積み重なった要素分割構造となっている。FEモデルは、例えば各メッシュの節点の三次元座標データや材質等を含む情報として作成される。なお、内車室12のフランジ面、外車室11又は内車室12の外周壁の厚肉部等にも同様の手法が適用できる。
【0025】
・出力手順
出力手順53は、評価部位抽出手順51で抽出された評価部位の情報や有限要素モデル作成手順52で作成されたFEモデルをそれぞれメモリに出力(記録)したり出力装置48に出力したりする手順である。オペレータは、FEモデルや評価部位の情報を例えばモニタで確認することができる。
【0026】
・実測情報読込手順
実測情報読込手順54は、開放状態の車室10の三次元形状の実測情報をメモリから読み込む手順である。車室10の三次元形状の実測情報は、例えば外車室11を開放した際に下半部と上半部をそれぞれ例えば三次元スキャンにより読み取ったデータである。下半部(下半外車室11a及び下半内車室12a)の実測情報を読み込む手順が実測情報読込手順54aである。上半部(上半外車室11b及び上半内車室12b)の実測情報を読み込む手順が実測情報読込手順54bである。
【0027】
・有限要素モデル読込手順
有限要素モデル読込手順55は、車室10の上半部と下半部の三次元形状のFEモデルをメモリから読み込み、例えばRAM43にロードする手順である。FEモデルは有限要素モデル作成手順52で作成されたものである。読み込むのは蒸気タービン1の全体のFEモデルでも良いし評価部位のみのFEモデルでも良い。
【0028】
・モデル補正手順
モデル補正手順56は、評価部位の実測情報をFEモデルに反映させ、FEモデルを補正した補正モデルを生成する手順である。補正モデルは実測したタービン(実物)を模擬したモデルに相当する。前述した通りFEモデルのメッシュ59は評価部位の移動量の最大想定値よりも頂点間距離が大きく設定してある。本実施形態では評価部位がフランジ面16a,16bであるため、車室10の変形によるフランジ面16a,16bの移動量は
図10に示したようにメッシュ59の1つの層の厚みの範囲に収まる。これを踏まえ、FEモデルの評価部位のメッシュ59のフランジ面16a,16b上の節点のみのデータを実測情報に合わせる修正をする。例えば下半外車室11aのフランジ13aのFEモデルにおいては、最上段のメッシュ59の上面がフランジ面16aを構成している。このうちの1つのメッシュ59に着目すると、補正モデルのメッシュ59’は
図11に示したようにFEモデルのメッシュ59の上部を実測情報のフランジ面16a(二点鎖線)で切断したような形状となる。実測情報のフランジ面は、下半外車室11aのフランジ面16aの三次元スキャン情報を面データ化したものである。従って、FEモデルの情報のうち評価面の各メッシュ59の8つの節点(頂点)a−hのうち上段の節点a−dの座標(例えばz座標)の情報のみを変更することで、
図12に示したような補正モデルを作成することができる。
図11では節点a(x1,y1,z1)を節点a’(x1,y1,z1’)に修正した例を表している。座標は図示していないが、補正モデルの作成に当たって節点b−dについても同様の修正が実行される。
【0029】
・変形量推定手順
変形量推定手順57は、補正モデルを用いたシミュレーション(ボルト締結解析)により、実測した車室10の上半部及び下半部をボルト14で締結した場合に生じる評価部位(本例ではフランジ面16a,16b)の移動量を推定する手順である。ここで実行するシミュレーションは、モデル補正手順56で作成された補正モデルを用いて車室開放とボルト締結との間の工程を再現してフランジ面16a,16bの移動量が算出される。またこの移動量を基に下半内車室12aに対する静止体20の位置調整量も算出できる。
【0030】
・出力手順
出力手順58は、モデル補正手順56で作成された補正モデルの情報、変形量推定手順57で算出した評価部位の移動量の推定値や静止体20の位置調整量をそれぞれメモリに出力(記録)したり出力装置48に出力したりする手順である。オペレータは、補正モデルや評価部位の移動量や静止体20の位置調整量を例えばモニタで確認することができる。
【0031】
−タービンの組立方法−
図13は本実施形態に係る組立方法の手順を表すフローチャートである。本実施形態では、タービンの定期検査のように一定期間実働したタービンを作業者が分解して再度組み立てる場合を例に挙げて説明する。但し、後述するステップS11を省略し、ステップS12,S23で製造時の車室10の三次元形状を実測すれば、蒸気タービン1の新規製造段階の組立作業にも以下の工程は適用可能である。本実施形態に係るタービンの組立方法には、蒸気タービン1の据え付け位置で行われる本流工程、及び本流工程とは別の場所で行われる支流工程を含む。本流工程はステップS11−S22からなる。支流工程はステップS23,S24からなり、本流工程と並行して実施可能である。以下、各工程について説明する。
【0032】
(本流工程)
・ステップS11
始めに蒸気タービン1の稼働現場で車室10の下半部から上半部を取り外し、外車室11と内車室12を開放する。具体的には、まずボルト14及びナット15を外し、下半外車室11aから上半外車室11bを取り外す。次に図示しないボルト及びナットを取り外し、下半内車室12aから上半内車室12bを取り外す。その後、静止体20の上半部20b、回転体30、静止体20の下半部20aを車室10の下半部から順次取り外す。車室10の下半部は架台2で支持された状態のままとし、取り外した各パーツは別の場所にそれぞれ仮置きする。
【0033】
・ステップS12
続くステップS12では、上半部が取り外された下半外車室11a及び下半内車室12aの三次元形状の実測情報を取得する。三次元形状の実測には、例えば三次元レーザ計測器を用いることができる。この場合、まず下半外車室11a及び下半内車室12aの表面形状を三次元レーザ計測器で計測し、表面形状の点群データを取得する。点群データは多数点の空間座標(X,Y,Z)の集まりである。そしてノイズを除去した上で点群データを面データ(STL)化し、これを下半外車室11a及び下半内車室12aの三次元形状の実測情報として得る。三次元レーザ計測器を用いることで、例えば水平器を用いて作業者が手作業で実測する場合に比べて短時間で正確な計測結果が得られる。
【0034】
なお、諸事情で下半外車室11aの外周面の保温材や下半内車室12aの取り外しが困難で、下半外車室11a及び下半内車室12aの全体の形状の計測が難しい場合がある。この場合には少なくとも評価部位を含め可能な範囲で下半外車室11a及び下半内車室12aの形状を計測する。また、一台の三次元レーザ計測器で一度スキャンするだけでは車室10の全体形状を正確に計測することは難しい。従って、計測対象に対する三次元レーザ計測器の設置位置を変えて複数回スキャンした方が全体形状を計測する上では有利である。ただ、各位置で取得したスキャンデータの合成が首尾よく進まない場合もある。そのため、複数の三次元レーザ計測器を複数台設置してスキャン動作を連動させる計測方法や、ポータブルな三次元計測器を用いたフレキシブルな計測方法が実用的である。計測のために下半内車室12aを取り外した場合、下半外車室11aに組み付けておく。
【0035】
・ステップS13−S17
その後、回転体30の軸芯の計測(ステップS13)、架台2に対する軸受33及び回転体30の仮組(ステップS14)、回転体30のセンタリング(ステップS15)を順次実施する。回転体30を軸受33から取り出して静止体20の下半部20aを下半内車室12aに組み付け(ステップS16)、静止体20の下半部20aのアライメント調整を実施する(ステップS17)。ステップS17では、支流工程で得られた位置調整量に基づき、位置調整部材により下半内車室12aに対する静止体20の設置位置を調整する。具体的には、後の最終組立(ステップS22)で車室10をボルト締結した際に車室10が移動する向き(通常は上向き)とは逆向きに下半内車室12aに対する静止体20の下半部20aの設置位置を調整する。つまりボルト締結により回転体30に対して静止体20が上昇する場合、その上昇量を加味して予め静止体20の位置を下げておくことで、最終組立後の静止体20と回転体30の中心が合うようにする。
【0036】
・ステップS18,S19
その後、軸受33に対する回転体30の設置と静止体20の下半部20aに対する上半部20bの設置を順次実施し(ステップS18)、静止体20と回転体30の間の隙間の寸法を計測する(ステップS19)。静止体20と回転体30の隙間寸法は、例えば予め静止体20の内周部に鉛線を這わせた状態で回転体30を組み付け、静止体20と回転体30に挟まれて潰れた鉛線の厚みを計測することで確認できる。なお、隙間測定に際して静止体20の上半部20bを下半部20aに取り付けた場合を例に挙げたが、この工程における静止体20の上半部20bの組み付けが不要であれば省略して良い。
【0037】
・ステップS20−S22
その後、静止体20の上半部20b、回転体30、静止体20の下半部20aを順次取り(ステップS20)、ステップS19の測定結果に基づいて静止体20と回転体30の隙間寸法を微調整する(ステップS21)。静止体20と回転体30の隙間寸法の微調整は、例えば静止体20と回転体30の間のシール(例えばシールフィン)の高さ調整により行われる。最後に、ステップS22で蒸気タービン1の最終組立を実施する。つまり、静止体20の下半部20a、回転体30、静止体20の上半部20b、上半内車室12b、上半外車室11bを順次設置しつつボルト締結していく。
【0038】
(支流工程)
まずステップS23で、下半部から取り外された上半外車室11b及び上半内車室12bの三次元形状の実測情報を取得する。三次元形状の実測方法は、ステップS12で説明した方法と同様である。続くステップS24では、先に説明したタービン組立支援システムを用いて解析を実行し、三次元計測で実測した車室10の上半部及び下半部(つまり実物)をボルト締結した場合に生じる評価部位の移動量の推定値を導き出す。この手順で実行される処理は、先にしたタービン組立支援プログラムの説明の通りである。つまりステップS12,S23で得られた車室10の実測情報で予め用意されたFEモデルを補正し、補正モデルを用いてボルト締結シミュレーションを実行する。これにより最終組立の工程(ステップS22)における評価部位の移動量が推定され、静止体20の設置位置の調整量が導き出せる。上記の通り、ここで求められた静止体20の設置位置の調整量は、ステップS16の工程で活用される。
【0039】
−従来のタービン組立方法−
図14は従来の組立方法の手順を示すフローチャートである。従来の組立手順は、ステップS11,S13,P11−P14,S14−S22からなる。これら全ての工程は、タービンの据え付け位置で行われる。ステップS11,S13−S22は
図13の同符号のステップと対応する工程である。
図13の手順との相違点は、ステップS12,S23,S24の手順がない代わりに、ステップP11−P14の手順がステップS13,S14の手順の間に介在している点である。以下、ステップP11−P14について簡単に説明する。
【0040】
従来は、取り外した回転体の軸心を計測した後、回転体を組み付ける前に、回転体のない状態で静止体、内車室及び外車室を仮組し、タービンの組立状態を模擬する(ステップP11)。その際、静止体、内車室及び外車室のそれぞれについて下半部及び上半部を最終組立と同様にボルト締結する。その後、静止体のアライメント調整用の計測を実施する(ステップP12)。例えば、軸受間に回転体の軸心に一致するようにピアノ線又はレーザで仮想軸心を形成し、仮想軸心と静止体の評価点との距離をマイクロメータやレーザ計測器等で計測する。静止体の評価点は、代表的には静止体の内周面の左右両側部分や下側部分である。この工程の計測により、現状のまま最終組立をした後の静止体の位置が推定される。
【0041】
次いで内車室及び外車室を開放し(ステップP13)、下半内車室に静止体を組み付けた状態で静止体のアラインメント調整用の計測を実施した上、静止体を取り外す(ステップP14)。計測方法はステップP12と同様である。この計測により車室の上半部を取り外した状態の静止体の位置を知ることができる。ステップP12,P14で得られた静止体の位置の差分が、車室のボルト締結前後の静止体の変位量と推定される。
【0042】
−効果−
(1)上記の通り、従来のタービンの組立手順は、ボルト締結による静止体の変位量を知るために、車室の仮組工程を含んでいた。車室の仮組工程には最終組立工程と同様のボルト締結、つまりボルトの加熱冷却に時間を要する焼き締めを伴い、ボルトの本数の多さと相俟って長時間を要していた。それに対し、本実施形態によれば、実機の実測情報を反映した補正モデルを用いた解析により静止体の変位に影響の大きな評価部位の変形量を精度良く推定できるので、車室の仮組に伴う工程(
図14のステップP11−P14)が省略できる。従来にないステップS12,S23,S24の工程が加わるが、ステップS12の工程の所要時間は従来のステップP11−P14の工程の所要時間に比べて極めて短く、またステップS23,S24の工程は本流工程と並行して実施できる。従って、ステップP11−P14の工程の所要時間とステップS12の工程の所要時間の差分だけタービンの組立工期を短縮することができる。また、シミュレーションにより精度良く静止体の変位量が推定できるので、高精度にタービンを組み立てることができる。
【0043】
(2)前述した通り、本実施形態においては予め用意されたタービンのFEモデルにおける評価部位のメッシュ59のみのデータを実測情報に応じて修正することにより、実測したタービンを模擬した補正モデルを作成する。これにより補正モデルの作成に要する演算量が抑えられる。個々のメッシュ59も想定される評価部位の変形量の最大値よりも一辺が大きなソリッドであることも演算量の抑制に寄与する。従って、
図6のモデル補正手順56や変形量推定手順57に要する時間を抑えることができ、短時間で解析実行工程(ステップS24)が実施できる。支流工程に過度に時間を要するようでは本流工程の工期の短縮の効果の恩恵が十分に得られなくなる可能性があるが、本実施形態では支流工程の工期が本流工程の進捗に与える影響をなくす、又は抑えることができる。
【0044】
但し、本流工程との関係ではモデル補正手順56の所要時間が多少延びても、基本的効果(1)を得る上で大きな影響はない。従って、モデル補正手順56には
図9−
図11で説明した方法に代え、他の方法を適用することもできる。例えば実測情報に基づいてモーフィングツールでFEモデルのメッシュを変形させて補正モデルを作成することもできる。この場合でも補正を評価部位のみに限定することで、演算量が抑えられ、所要時間も抑えられる。また、評価部位の実測情報をデータ化したもの、又は実測情報をタービンの設計データ(三次元CADデータ)に反映させたものを要素分割して補正モデルを作成することも考えられる。