(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ゴム成分が、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、カルボキシル変性ニトリルゴム及びカルボキシル変性水素化ニトリルゴムからなる群より選ばれる少なくともいずれか1つを含む、
請求項1又は2に記載のゴム補強用コード。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0014】
[ゴム補強用コード]
本実施形態のゴム補強用コードは、ゴム製品を補強するためのコードである。このゴム補強用コードは、少なくとも1つのストランドを備えている。このストランドは、少なくとも1つのフィラメント束と、フィラメント束の少なくとも表面の一部を覆うように設けられた第1の被膜と、を含んでいる。フィラメント束は、実質的にポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメントからなる。第1の被膜は、ゴム成分及び架橋剤を含む。本実施形態のゴム補強用コードは、液体成分をさらに含んでおり、ゴム補強用コードにおける液体成分の含有率は0.1〜2.0質量%の範囲内である。なお、ゴム補強用コードに含まれる液体成分は、例えば、第1の被膜を作製する際に用いられる水性処理剤(第1の被膜用水性処理剤)に含まれる溶媒や、フィラメント自体が持つ水分などの残存などによって構成される。
【0015】
以下、本実施形態の補強用コードの製造方法について、より詳しく説明する。
【0016】
本実施形態のゴム補強用コードにおいて、ストランドを構成するフィラメント束は、複数のフィラメントを含む。上記のとおり、フィラメント束は、実質的にポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメントからなる。ここで、「フィラメント束が実質的にポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメントからなる」とは、発明の効果に大きな影響を与えない程度に、フィラメント束が、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメント以外のフィラメントを含んでもよいことを意味する。例えば、フィラメント束は、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメント以外のフィラメントを、フィラメント束の断面積に占める割合が10%以下(例えば5%以下や1%以下)の割合で含んでもよい。ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維としては、例えば、帝人株式会社製「トワロン」及び東レ・デュポン株式会社製「ケブラー」が挙げられる。ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメント以外のフィラメントとしては、ゴム補強用コードの補強用の繊維として一般的に用いられている繊維のフィラメントを用いることができる。フィラメント束は、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維のみからなっていてもよい。
【0017】
フィラメント束に含まれるフィラメントの数は、特に制限はない。フィラメント束は、例えば200本〜2000本の範囲のフィラメントを含むことができる。
【0018】
フィラメント束に含まれるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメントの表面は、接着強度を高めるための前処理が行われていることが好ましい。前処理剤の好ましい一例は、エポキシ基及びアミノ基からなる群より選ばれる少なくともいずれか1つの官能基を含有する化合物である。前処理剤の例には、アミノシラン、エポキシシラン、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂などが含まれる。具体的な例としては、ナガセケムテックス社のデナコールシリーズ、DIC社のエピクロンシリーズ、三菱化学社のエピコートシリーズなどが挙げられる。また、前処理剤として、ポリウレタン樹脂及びイソシアネート化合物も同様に使用できる。例えば、前処理剤として、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂及びイソシアネート化合物からなる群より選択される少なくともいずれか1つを含む処理剤を用いてもよい。このような処理剤を用いて前処理することにより、フィラメント束と第1の被膜との間に、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂及びイソシアネート化合物からなる群より選択される少なくともいずれか1つを含む樹脂層がさらに設けられる。表面が前処理されたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメントを用いることによって、マトリックスゴムとゴム補強用コードとの接着性を高めることが可能である。
【0019】
ゴム補強用コードに含まれるフィラメント束の数に限定はなく、1本であってもよいし、複数本であってもよい。フィラメント束は、フィラメント束を複数本束ねたものであってもよい。この場合、複数本のフィラメント束のそれぞれは、撚られていてもよいし、撚られていなくてもよい。また、複数本のフィラメント束が合わせられた状態で撚られていてもよいし、撚られていなくてもよい。
【0020】
第1の被膜は、フィラメント束の少なくとも表面の一部を覆うように設けられている。なお、第1の被膜は、フィラメント束の表面上に直接設けられていてもよいし、他の層(例えば、上述のフィラメントの前処理によって形成された被膜(例えば、上記樹脂層))を介してフィラメント束の表面を覆っていてもよい。
【0021】
第1の被膜は、フィラメント束の表面の少なくとも一部に、後述の第1の被膜用水性処理剤を供給し、それを熱処理によって乾燥させることによって形成される。フィラメント束の表面への第1の水性処理剤の供給は、例えば、フィラメント束を第1の被膜用水性処理剤に含浸させる、又は、フィラメント束の表面の少なくとも一部に第1の被膜用水性処理剤を塗布することによって実施され得る。なお、この際の熱処理により、フィラメント自体が持つ水分及び水性処理剤の溶媒(例えば水)がほぼ除去される。
【0022】
第1の被膜は、ゴム成分を含む。ゴム成分は、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、カルボキシル変性ニトリルゴム及びカルボキシル変性水素化ニトリルゴムからなる群より選ばれる少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。第1の被膜は、ゴム成分として上記ゴムを1種類のみ含んでもよいし、複数種含んでもよい。これらのゴムは、油による膨潤が小さく耐油性に優れる点で好ましい。なお、本明細書において、「ニトリルゴム」という用語は、特に記載がない限り、水素化もカルボキシル変性もされていないニトリルゴム(アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム)を意味する。水素化ニトリルゴムのヨウ素価は、通常、120以下であり、たとえば、100以下であってもよい。一例の水素化ニトリルゴムのヨウ素価は、0〜50の範囲にある。
【0023】
第1の被膜は、上記ゴム以外に、他のゴムを含んでいてもよい。他のゴムとしては、ブタジエン・スチレン共重合体、ジカルボキシル化ブタジエン・スチレン共重合体、ビニルピリジン・ブタジエン・スチレン共重合体、クロロプレンゴム、ブタジエンゴム及びクロロスルホン化ポリエチレンなどが挙げられる。
【0024】
第1の被膜は、さらに架橋剤を含む。第1の被膜が架橋剤を含むことにより、本実施形態のゴム補強用コードは、マトリックスゴムとの接着性を向上できる。架橋剤の例には、P−キノンジオキシムなどのキノンジオキシム系架橋剤、ラウリルメタアクリレートやメチルメタアクリレートなどのメタアクリレート系架橋剤、DAF(ジアリルフマレート)、DAP(ジアリルフタレート)、TAC(トリアリルシアヌレート)及びTAIC(トリアリルイソシアヌレート)などのアリル系架橋剤、ビスマレイミド、フェニルマレイミド及びN,N’−m−フェニレンジマレイミドなどのマレイミド系架橋剤、芳香族又は脂肪族の有機ジイソシアネート、ポリイソシアネート、ブロックドイソシアネート、ブロックドポリイシシアネート、芳香族ニトロソ化合物、硫黄、及び過酸化物が含まれる。これらの架橋剤は、単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらの架橋剤は、第1の被膜に含まれるゴムの種類、及びゴム補強用コードが埋め込まれるマトリックスゴムの種類などを考慮して選択される。なお、これら架橋剤は、水分散体の形態で用いられることが、第1の被膜を作製するための水性処理剤中に架橋剤を均質に存在させるためには好ましい。架橋剤は、マレイミド系架橋剤、有機ジイソシアネート、及び芳香族ニトロソ化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つであってもよい。
【0025】
上記の架橋剤の中でも、マレイミド系架橋剤及びポリイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1つを用いることが好ましい。マレイミド系架橋剤の中でも、4,4’−ビスマレイミドジフェニルメタンは、水に分散したときの安定性がよく、架橋効果が高く、架橋後の耐熱性も高いので、好適に用いられる。マレイミド系架橋剤及びポリイソシアネートは、それぞれ、ゴムラテックスと組み合わせることによって、補強用コードとマトリックスゴムとの接着性を特異的に高めることができる。特に、カルボキシル変性された水素化ニトリルゴムのラテックスとマレイミド系架橋剤との組み合わせは、接着性をより高めることができるため好ましい。
【0026】
第1の被膜は、さらに充填材を含んでいてもよい。充填材の例には、カーボンブラックやシリカなどの共有結合系化合物の微粒子、難溶性塩の微粒子、金属酸化物の微粒子、金属水酸化物の微粒子、タルクなどの複合金属酸化物塩の微粒子が含まれる。これらの中でも、カーボンブラック及びシリカからなる群より選ばれる少なくとも1つが好ましい。
【0027】
カーボンブラックの平均粒径は、5〜300nmの範囲にあることが好ましく、例えば100〜200nmの範囲あり、より好ましくは130〜170nmの範囲にある。シリカの平均粒径は、5〜200nmの範囲にあることが好ましく、例えば7〜100nmの範囲にあり、より好ましくは7〜30nmの範囲にある。ここで平均粒径とは、50個以上の粒子について透過型電子顕微鏡を用いて粒径を測定し、その粒径の合計を測定粒子数で割った値のことである。なお粒子が球形ではない場合には、各粒子の最も長い径と最も短い径の平均を粒径とした。
【0028】
充填材は、ゴム中に分散して存在することで、被膜の引張強度や引裂き強度などの特性を向上させる効果を有する。これらの効果に加え、充填材は、繊維と被膜との間、及び、被膜とマトリックスゴムとの間において、接着成分の凝集力を高めることによって接着強度を向上させる効果もある。なお、これらの効果には、充填材の粒径と配合量とが大きく影響する。
【0029】
第1の被膜は、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物を含まないことが好ましい。その場合、第1の被膜を作製する際に、ホルムアルデヒド及びアンモニアなどの環境負荷の大きい物質を使用しなくてもよくなるため、作業者のための環境対策が不要になる。ただし、第1の被膜は、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物を含んでいてもよい。
【0030】
第1の被膜は、ゴム成分及び架橋剤に加えて、充填材や、さらに他の成分(例えば、上記充填材として添加される金属酸化物以外の金属酸化物や、樹脂など)をさらに含んでいてもよい。
【0031】
第1の被膜におけるゴム成分及び架橋剤の含有率は、特には限定されない。第1の被膜におけるゴム成分の含有率は、例えば50〜90質量%とできる。また、第1の被膜における架橋剤の含有率は、例えば10〜50質量%の範囲内とできる。
【0032】
フィラメント束の少なくとも表面に設けられる第1の被膜の質量は、特には限定されず適宜調整すればよいが、フィラメント束の質量の5〜35%の範囲内となるように設けられることが好ましい。第1の被膜の質量は、フィラメント束の質量の10〜25%の範囲であってもよいし、12〜20質量%の範囲内であってもよい。第1の被膜の質量が多すぎる場合、ゴム製品内におけるゴム補強用コードの寸法安定性の低下や、ゴム補強用コードの弾性率の低下などの不具合が発生することがある。一方、第1の被膜の質量が少なすぎる場合、ストランドがほつれやすくなったり、第1の被膜により繊維を保護する機能が低下したりして、その結果、ゴム製品の寿命が低下する場合がある。
【0033】
マトリックスゴムとの接着性を向上させるために、本実施形態のゴム補強用コードは、第1の被膜上に形成された第2の被膜をさらに備えてもよい。第2の被膜を形成する処理剤は、第1の被膜用水性処理剤と同じでもよいし、異なってもよい。たとえば、成分や溶媒が第1の被膜用水性処理剤とは異なる処理剤で第2の被膜を形成してもよい。マトリックスゴムとの接着性をさらに向上させるために、第2の被膜上にさらなる被膜を設けることも可能である。
【0034】
本実施形態のゴム補強用コードの撚り数は、特には限定されない。1本のストランドに加えられる撚り(以下、下撚りということもある)の数は、例えば20〜160回/mの範囲、30〜120回/mの範囲、又は、40〜100回/mの範囲であってよい。さらに、複数のストランドに加えられた撚り(以下、上撚りということもある)の数も同様に、例えば20〜160回/mの範囲、30〜120回/mの範囲、又は、40〜100回/mの範囲であってよい。下撚り方向と上撚り方向が同じラング撚りであってもよく、下撚り方向と上撚り方向が逆方向のモロ撚りでもよい。撚りの方向に限定はなく、S方向であってもよいし、Z方向であってもよい。
【0035】
本実施形態のゴム補強用コードにおける液体成分の含有率は、0.1〜2.0質量%の範囲内である。なお、上述したように、この液体成分とは、被膜を作製する際に用いられる水性処理剤に含まれる溶媒(例えば水)や、フィラメント自体が持つ水分などの残存である。本実施形態のゴム補強用コードでは、第1の被膜を作製する際の熱処理において、さらには、本実施形態のゴム補強用コードが第2の被膜をさらに含む場合は第2の被膜を作製する際の熱処理において、0.1〜2.0質量%の範囲内でゴム補強用コード中に液体成分が残存するように熱量を調整して熱処理を行うことにより、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の引張強度の低下を抑制又は低下の度合を小さく抑えつつ、ゴムマトリックスとの十分な接着強度が実現できる。液体成分の含有率が0.1質量%未満、すなわち第1の被膜作製時の熱処理、さらには第2の被膜作製時の熱処理が、被膜作製のための処理剤の溶媒、及び、繊維に含まれる水分がほぼ全てなくなるように実施された場合は、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の引張強度が低下してしまい、その結果ゴム補強用コードの引張強度が低下する。一方、液体成分の含有率が2.0質量%を超える場合は、マトリックスゴムとの十分な接着強度を実現できる程度に十分な熱量が被膜に加えられなかったことになるので、マトリックスゴムとの十分な接着強度を実現できるゴム補強用コードを得ることができない。
【0036】
より高い引張強度と、より高い接着強度とを有するゴム補強用コードを得るために、ゴム補強用コードにおける液体成分の含有率は、0.2〜1.5質量%であることが好ましく、0.3〜1.3質量%であることがより好ましい。
【0037】
ここで、本発明において特定される「ゴム補強用コードにおける液体成分の含有率」とは、次のように求められる値のことである。ゴム補強用コードから長さ5mのコードを試料として採取し、その試料を電子天秤で計測し、この値をコードの質量Aとする。その試料を150℃に加温した乾燥機に30分間入れて試料中の溶媒を除去し、デシケーターに30分入れた後に電子天秤で計測した値を質量Bとし、質量Aと質量Bとの差をコードに含まれる液体成分の質量(A−B)とした。コードの質量Aに対する、コードに含まれる液体成分の質量(A−B)の百分率({(A−B)/A}×100)を液体成分の含有率(%)とする。なお、ここでは、処理剤の溶媒が水であることを想定して、試料から水を完全に除去するために150℃、30分間の熱処理を実施しているが、水以外の溶媒を用いている場合は、その溶媒を完全に除去できるように適切な加熱温度及び加熱時間を設定すればよい。
【0038】
ゴム補強用コードが、第1の被膜上に設けられた第2の被膜をさらに含んでいる場合は、第2の被膜を作製する際にも熱処理が行われることになる。したがって、第2の被膜を作製する際の熱処理も、引張強度及び接着強度の低下を防ぐような範囲内で実施されることが好ましく、その場合、ゴム補強用コードにおける液体成分に第2の被膜に残存する溶媒などの液体が含まれる場合もある。したがって、第2の被膜を含むゴム補強用コードの場合は、ゴム補強用コードにおける液体成分の含有率が、0.5〜2.0質量%の範囲内であることが好ましい。
【0039】
[ゴム補強用コードの製造方法]
本実施形態のゴム補強用コードの製造方法の一例を以下に説明する。なお、本実施形態のゴム補強用コードについて説明した事項は以下の製造方法に適用できるため、重複する説明を省略する場合がある。また、以下の製造方法で説明した事項は、本実施形態のゴム補強用コードに適用できる。この製造方法の一例は、以下の工程を含む。
【0040】
まず、複数のフィラメントを束ねてフィラメント束を作製し、さらに第1の被膜の作製に用いられる水性処理剤(第1の被膜用水性処理剤)を準備する。次に、フィラメント束の表面の少なくとも一部に第1の被膜用水性処理剤を供給する。その後、第1の被膜用水性処理剤中の溶媒を除去するための熱処理を行う。具体例として、まず1000本のフィラメントを引き揃えて1つの束とし、その束の表面に第1の被膜用水性処理剤を塗布又は含浸させる。その後、第1の被膜用水性処理剤中の溶媒を熱処理によって除去する。フィラメント束は、実質的にポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメントからなる。
【0041】
上記工程によって、フィラメント束の表面の少なくとも一部に第1の被膜が形成される。第1の被膜用水性処理剤をフィラメント束の表面の少なくとも一部に供給する方法に限定はなく、たとえば、フィラメント束の表面に第1の被膜用水性処理剤を塗布してもよいし、フィラメント束を第1の被膜用水性処理剤中に浸漬してもよい。
【0042】
第1の被膜用水性処理剤の溶媒を除去するための熱処理の条件は、特に限定されないが、熱処理後に得られるコードの液体成分の含有率が0.1〜2.0質量%となるように、処理温度及び処理時間を適宜調整する。好ましくは、熱処理後に得られるコードの液体成分の含有率が0.2〜1.5質量%、より好ましくは0.3〜1.3質量%となるように、処理温度及び処理時間を適宜調整することである。処理温度は、例えば220℃以下が望ましい。処理時間は特に限定されず、熱処理の温度を考慮し、付与される熱量が完成したゴム補強用コードにおける液体成分の含有率が本実施形態で特定する範囲内(0.1〜2.0質量%)を実現できるような熱量となるように、適宜調整するとよい。
【0043】
第1の被膜が形成されたフィラメント束は、通常、一方向に撚られる。撚る方向は、S方向であってもよいし、Z方向であってもよい。フィラメント束に含まれるフィラメントの数及びフィラメント束の撚り数は、上述したため、説明を省略する。このようにして、本実施形態のゴム補強用コードを製造できる。なお、第1の被膜が形成されたフィラメントの束を複数形成し、それら複数のフィラメント束を束ねて上撚りを加えてもよい。上撚りの方向は、フィラメント束の撚りの方向(下撚りの方向)と同じであってもよいし、異なってもよい。また、第1の被膜が形成されたフィラメント束を複数形成し、フィラメント束それぞれには撚りを与えず、複数のフィラメント束を束ねたものに撚りを加えてもよい。
【0044】
なお、フィラメント束に撚りを加えてから第1の被膜を形成してもよい。フィラメントの種類、数、及び撚り数は、上述した通りである。
【0045】
本実施形態の製造方法の好ましい一例では、フィラメント束に第1の被膜用水性処理剤を塗布又は含浸した後、その束ねたものを一方向に撚ることによって、ゴム補強用コードを形成する。
【0046】
第1の被膜の上に第2の被膜を形成する場合には、第1の被膜の上に第2の被膜を形成するための処理剤を塗布し、その処理剤中の溶媒を除去することによって第2の被膜を形成すればよい。この第2の被膜の種類は、ゴム補強用コードが適用されるゴム製品のマトリックスゴムに合わせて適宜選択することができ、特に接着性向上の観点から選択されることが望ましい。
【0047】
第2の被膜用処理剤の溶媒を除去するための熱処理の条件は、特に限定されないが、熱処理後に得られるコードの液体成分の含有率が0.5〜2.0質量%となるように、処理温度及び処理時間を適宜調整することが好ましい。
【0048】
次に、第1の被膜用水性処理剤について説明する。
【0049】
第1の被膜用水性処理剤は、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、カルボキシル変性されたニトリルゴム、及びカルボキシル変性された水素化ニトリルゴムからなる群より選ばれる少なくとも1つのゴムのラテックスを含むことが好ましい。水性処理剤は、これらのゴムラテックスの1種類のみを含んでもよいし、これらのゴムラテックスの複数種を含んでもよい。
【0050】
第1の被膜用水性処理剤は、上記のゴムラテックス以外に、他のゴムラテックスを含んでもよい。他のゴムラテックスの例には、ブタジエン・スチレン共重合体ラテックス、ジカルボキシル化ブタジエン・スチレン共重合体ラテックス、ビニルピリジン・ブタジエン・スチレンターポリマーラテックス、クロロプレンラテックス、ブタジエンラテックス、クロロスルホン化ポリエチレンラテックスが含まれる。水性処理剤は、これらのゴムラテックスを複数種含んでもよい。
【0051】
第1の被膜用水性処理剤は、さらに架橋剤を含む。第1の被膜用水性処理剤に含まれる架橋剤は、第1の被膜に含まれる架橋剤として上記に説明したものと同じであるため、ここでは説明を省略する。なお、架橋剤は、水分散体の形態で用いることが、水性処理剤中に均質に存在させるためには好ましい。
【0052】
第1の被膜用水性処理剤は、さらに充填材を含んでいてもよい。第1の被膜用水性処理剤に含まれる充填材は、第1の被膜に含まれる充填材として上記に説明したものと同じであるため、ここでは説明を省略する。
【0053】
第1の被膜用水性処理剤は、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物を含まないことが好ましい。ただし、第1の被膜用水性処理剤は、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物を含んでもよい。
【0054】
第1の被膜用水性処理剤は、ゴムラテックス及び架橋剤に加えて、充填材や、さらに他の成分を含んでもよい。たとえば、第1の被膜用水性処理剤は、樹脂、可塑剤、老化防止剤、安定剤、上記充填材として添加される金属酸化物以外の金属酸化物などを含んでいてもよい。ただし、水性処理剤は、樹脂を含まないものであってもよい。
【0055】
[ゴム製品]
本実施形態のゴム製品は、本実施形態のゴム補強用コードで補強されたゴム製品である。ゴム製品に特に限定はない。本実施形態のゴム製品の例には、自動車や自転車のタイヤ、及び、伝動ベルトなどが含まれる。伝動ベルトの例には、噛み合い伝動ベルトや摩擦伝動ベルトなどが含まれる。噛み合い伝動ベルトの例には、自動車用タイミングベルトなどに代表される歯付きベルトが含まれる。摩擦伝動ベルトの例には、平ベルト、丸ベルト、Vベルト、Vリブドベルトなどが含まれる。すなわち、本実施形態のゴム製品は、歯付ベルト、平ベルト、丸ベルト、Vベルト、又はVリブドベルトであってもよい。
【0056】
本実施形態のゴム製品は、本実施形態のゴム補強用コードをゴム組成物(マトリックスゴム)に埋め込むことによって形成されている。ゴム補強用コードをマトリックスゴム内に埋め込む方法は特に限定されず、公知の方法を適用してもよい。本実施形態のゴム製品(たとえばゴムベルト)には、本実施形態のゴム補強用コードが埋め込まれている。そのため、本実施形態のゴム製品は、高い耐屈曲疲労性を備えている。したがって、本実施形態のゴム製品は、車輌用エンジンのタイミングベルトや、車輌用の補機駆動用ベルトなどの用途に特に適している。
【0057】
本実施形態のゴム補強用コードが埋め込まれるゴム組成物に含まれるゴムは、特に限定されず、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、水素化ニトリルゴムなどであってもよい。水素化ニトリルゴムは、アクリル酸亜鉛誘導体(たとえばメタクリル酸亜鉛)を分散させた水素化ニトリルゴムであってもよい。水素化ニトリルゴム及びアクリル酸亜鉛誘導体を分散させた水素化ニトリルゴムから選ばれる少なくとも1つのゴムは、耐水性及び耐油性の観点から、好ましい。マトリックスゴムは、さらに、カルボキシル変性された水素化ニトリルゴムを含んでもよい。なお、ゴム補強用コードの被膜とゴム製品のゴム組成物とが同じ種類のゴムを含むか、又は、同じ種類のゴムからなることが、接着性の点で好ましい。
【0058】
ゴム製品の一例として、歯付きベルトを
図1に示す。
図1に示す歯付ベルト1は、ベルト本体11と、複数のゴム補強用コード12とを含む。ベルト本体11は、ベルト部13と、一定間隔でベルト部13から突き出した複数の歯部14とを含む。ゴム補強用コード12は、ベルト部13の内部に、ベルト部13の長手方向と平行となるように埋め込まれている。ゴム補強用コード12は、本実施形態のゴム補強用コードである。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の実施形態をさらに具体的に説明する。
【0060】
[実施例1〜10及び比較例1〜6]
<ゴム補強用コードの製造>
まず、エポキシ樹脂を含む前処理剤によって前処理が施された東レ・デュポン社製の「ケブラー29」(1670dtex)を準備した。この「ケブラー29」を1000本集束し、これをフィラメント束として用いた。このフィラメント束を以下の表1に示す組成の第1の被膜用水性処理剤に浸漬した後、200℃の熱処理により溶媒を蒸発させて、表3及び4に示す「液体成分の含有率」となるように第1の被膜を形成した。なお、第1の被膜用水性処理剤の固形分は20質量%であり、第1の被膜の質量はフィラメント束の質量の20%であった。なお、「液体成分の含有率」は、熱処理の時間を変えることによって調整した。このように作製された、第1の被膜付きのフィラメント束を40回/mの割合でZ撚りに下撚りし、それを2本束ねて100回/mの割合でZ撚りに上撚りして、ゴム補強用コードを得た。得られたゴム補強用コードについて、液体成分の含有率、引張強度及び接着強度を測定した。液体成分の含有率、引張強度及び接着強度の測定方法は、以下のとおりである。
【0061】
<液体成分の含有率>
フィラメント束を第1の被膜用水性処理剤に浸漬した後に実施された熱処理後30分以内に、得られたゴム補強用コードから長さ5mのコードを試料として採取した。その試料を電子天秤で計測し、この値をコードの質量Aとした。次にその試料を150℃に加温した乾燥機に30分間入れて試料中の溶媒を除去し、デシケーターに30分入れた後に電子天秤で計測した値を質量Bとした。質量Aと質量Bとの差をコードに含まれる液体成分の質量(A−B)とした。コードの質量Aに対する、コードに含まれる液体成分の質量(A−B)の百分率({(A−B)/A}×100)を求めて、液体成分の含有率(%)とした。表3及び4に、実施例1〜10及び比較例1〜6のゴム補強用コードの液体成分の含有率を示す。
【0062】
<引張強度>
各実施例及び比較例のゴム補強用コードについて、一般的に用いられる引張試験機と一般的に用いられるコードグリップとを用いて引張試験を実施し、その際に得られた破断強度を引張強度とした。なお、破断強度は、ASTM7269に準拠して測定した。単位はN/コードである。表3及び4に、実施例1〜10及び比較例1〜6のゴム補強用コードの引張強度を示す。
【0063】
<接着強度>
帆布と、ゴム補強用コードと、マトリックスゴムのシートとをこの順に重ね、160℃、30分の条件でプレスをすることによって、接着強度試験用の試験片を作製した。試験片の寸法は、幅25mm、長さ150mm、厚さ3mmとした。なお、試験片において、ゴム補強用コードの長さ方向は試験片の長さ方向とほぼ平行であった。マトリックスゴムには、表2に示す組成を有する、水素化ニトリルゴムを主成分とするものを用いた。次に、コードとマトリックスゴムとをそれぞれ掴み、一方を固定し、もう一方をゴム補強用コードの長さ方向に引き剥がし、幅25mm当たりの強度を測定した。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
実施例1〜10のゴム補強用コードの液体成分の含有率は、0.1〜2.0質量%の範囲内であった。一方、比較例1のゴム補強用コードは、熱処理によって第1の被膜中の溶媒及びフィラメント中の水分が完全に除去されていたので、液体成分の含有率は0.1質量%未満であった。比較例2〜6のゴム補強用コードでは、液体成分の含有率は2.0質量%を超えていた。換言すると、比較例1のゴム補強用コードは、本発明のゴム補強用コードを得るために想定される熱処理の範囲を超えた過剰な熱処理が施されたものであり、比較例2〜6のゴム補強用コードは、本発明のゴム補強用コードを得るために想定される熱処理の範囲に満たない不十分な熱処理が施されたものであった。
【0069】
表3に示すように、実施例1〜10のゴム補強用コードでは、引張強度と接着強度とが共に高く、引張強度は500N/コード以上、接着強度は150N/25mm以上を満たしていた。一方、表4に示すように、比較例1〜6のゴム補強用コードでは、引張強度又は接着強度のいずれか一方が低い結果となった。比較例1では引張強度は500N/コード未満であり、比較例2〜6では接着強度が150N/25mm未満であった。接着強度150N/25mm以上では、剥離界面には部分的にゴム破壊があり、150N/25mm未満では、第1の被膜付近における界面剥離の状態であった。この結果から、第1の被膜の形成後にコード中に残存する液体成分(主に、第1の被膜用水性処理剤の溶媒)の割合は、引張強度や接着強度と相関があることが確認された。
【0070】
[実施例11〜20及び比較例7〜11]
<ゴム補強用コードの製造>
まず、実施例1〜10及び比較例2〜6と同じ方法で、フィラメント束の表面に第1の被膜を形成し、第1の被膜付きのフィラメント束を40回/mの割合でZ撚りに下撚りし、それを2本束ねて100回/mの割合でZ撚りに上撚りしたコードを得た。次に、上撚り後のコード上に、以下の表5に示す組成を有する第2の被膜用処理剤を塗布して乾燥させて、第2の被膜を形成した。実施例1〜10及び比較例2〜6と同じ方法で作製された上撚り後のコードに第2の被膜を形成して得られたゴム補強用コードを、それぞれ、実施例11〜20及び比較例7〜11のゴム補強用コードとした。なお、実施例11〜20及び比較例7〜11において、第2の被膜は、上撚り後のコードに対し10質量%であった。なお、第2の被膜用処理剤の乾燥は、処理温度100℃、処理時間2分で実施した。第2の被膜を形成した後の液体成分の含有率は、表6に示すとおり0.5〜1.9質量%の範囲内であり、ゴム補強用コードの液体成分に第2の被膜用処理剤の溶媒も含まれていると考えられる。得られたゴム補強用コードについて、液体成分の含有率、引張強度及び接着強度を測定した。液体成分の含有率、引張強度及び接着強度の測定方法は、実施例1〜20及び比較例1〜6と同じである。ただし、液体成分の含有率は、第2の被膜用処理剤を塗布した後の熱処理後30分以内に測定した。これらの結果を、表6及び7に示す。また、表6及び7には、第1の被膜を形成した際の熱処理後30分以内であって、第2の被膜を形成する前に測定した液体成分の含有率も併せて示す。
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
【表7】
【0074】
実施例11〜20のゴム補強用コードでは、第2の被膜の形成後の液体成分の含有率は、0.5〜2.0質量%の範囲内を満たしていた。比較例7〜11のゴム補強用コードは、液体成分の含有率が2質量%を超えていた。換言すると、比較例7〜11のゴム補強用コードは、本発明のゴム補強用コードを得るために想定される熱処理の範囲に満たない不十分な熱処理が施されたものであった。
【0075】
表6に示すように、実施例11〜20のゴム補強用コードでは、引張強度と接着強度とが共に高く、引張強度は500N/コード以上、接着強度は200N/25mm以上を満たしていた。比較例7〜11では、マトリックスゴムとの接着性向上のための第2の被膜が設けられているにも関わらず、接着強度が200N/25mm未満であった。接着強度200N/25mm以上では剥離界面がゴム破壊であり、接着強度200N/25mm未満では、第1の被膜付近における界面剥離の状態であった。すなわち、複数層の被膜が設けられているゴム補強用コードにおいても、ゴム補強用コードに含まれる液体成分の割合は、引張強度や接着強度と相関があることが確認された。