特許第6864715号(P6864715)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6864715
(24)【登録日】2021年4月6日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】車両用ニーエアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/206 20110101AFI20210419BHJP
   B60R 21/233 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
   B60R21/206
   B60R21/233
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-117046(P2019-117046)
(22)【出願日】2019年6月25日
(65)【公開番号】特開2021-3908(P2021-3908A)
(43)【公開日】2021年1月14日
【審査請求日】2020年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100094042
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 知
(72)【発明者】
【氏名】有馬 哲寛
(72)【発明者】
【氏名】中島 豊
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭希
(72)【発明者】
【氏名】石垣 良太
【審査官】 飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−120576(JP,A)
【文献】 特開2017−144840(JP,A)
【文献】 特表2020−512952(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2018/0244234(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16−21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に設けられ、インフレータガスを噴出するインフレータと、
上記車体のダッシュボードと該ダッシュボードの車体後方に位置するシートクッションとの間で、インフレータガスによって下方から上方へ向けて該車体の上下方向に展開膨張され、第1パネルが該ダッシュボード側に面し、第2パネルが該シートクッション側に面するエアバッグと、
該エアバッグに、展開膨張する上下方向の下部に位置させて設けられ、上記インフレータが装着されるインフレータ装着部と、
上記エアバッグに、内部を仕切って、上記車体幅方向に一対並設された膝部チャンバと、
上記エアバッグの内部に、一対の上記膝部チャンバと上記インフレータ装着部との間に配置して設けられ、上記インフレータからのインフレータガスを一対の該膝部チャンバ側へ向けて流通させる第1通孔を有する第1バッフルと、
該第1バッフルと一対の上記膝部チャンバとの間に、一端部が該第1バッフル近傍で上記第1パネルに接合され、他端部が一対の該膝部チャンバ近傍で上記第2パネルに接合されて、上記エアバッグの内部を斜め向きに仕切って設けられ、上記第1通孔からのインフレータガスが流れる流域を、該第1パネル側よりも該第2パネル側で広くして当該第2パネルの展開動作を速める第2バッフルと、
該第2バッフルに設けられ、インフレータガスを一対の上記膝部チャンバへ向けて流通させる第2通孔とを備えたことを特徴とする車両用ニーエアバッグ装置。
【請求項2】
前記膝部チャンバはそれぞれ、前記エアバッグの内部が、車体幅方向に間隔を空けて、前記車体の上下方向に延設される一対の縦方向バッフルで仕切られて、設けられることを特徴とする請求項1に記載の車両用ニーエアバッグ装置。
【請求項3】
前記エアバッグには、前記膝部チャンバそれぞれの車体幅方向両側に、前記縦方向バッフルを介して、横方向サポートチャンバが設けられ、上記縦方向バッフルには、上記膝部チャンバから上記横方向サポートチャンバへインフレータガスを流通させる第3通孔が設けられることを特徴とする請求項2に記載の車両用ニーエアバッグ装置。
【請求項4】
前記エアバッグには、展開膨張する上下方向の、一対の前記膝部チャンバ上側に、車体幅方向に沿う横方向バッフルで仕切って、上部サポートチャンバが設けられ、上記横方向バッフルには、上記膝部チャンバから上記上部サポートチャンバへインフレータガスを流通させる第4通孔が設けられることを特徴とする請求項1〜3いずれかの項に記載の車両用ニーエアバッグ装置。
【請求項5】
前記エアバッグの内部には、展開膨張する上下方向の、一対の前記膝部チャンバ下側を仕切って、車体幅方向に沿う第2横方向バッフルが設けられ、該第2横方向バッフルには、前記第2通孔からのインフレータガスを一対の上記膝部チャンバへ案内する案内通孔が設けられることを特徴とする請求項1〜4いずれかの項に記載の車両用ニーエアバッグ装置。
【請求項6】
一対の前記膝部チャンバは、展開膨張する上下方向の前記エアバッグの上部側で間隔が狭く、該エアバッグの下部側で間隔が広くなるように、前記車体の上下方向に沿って斜めに設けられることを特徴とする請求項1〜5いずれかの項に記載のニーエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員の膝部が位置するシートクッション側の展開動作を、他の部分よりも優先して、速めることが可能な構造のエアバッグを備え、優れた膝部の保護性能を発揮することが可能な車両用ニーエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ニーエアバッグ装置として、特許文献1〜4が知られている。特許文献1の「乗員脚部保護装置」は、乗員脚部保護装置を備えた自動車が正面衝突すると、ガス発生器が作動し、そのガス噴出口からガスが噴出し、エアバッグが膨張を開始する。ガス発生器からのガスは、まず第1の室に流入し、この第1の室が膨張を開始する。続いて、該第1の室内のガスが入口を通って第2の室を膨張させる。エアバッグの膨張開始に伴って、内装パネルがエアバッグに押圧され、テアラインが裂け、フラップが形成される。エアバッグが車両室内に広がり出し、内装パネルの前面に沿って展開するように構成されている。
【0003】
特許文献2の「ニーエアバッグ」は、特に自動車用の運転者ニーエアバッグであって、ガス発生器、複数の室及びキャッチストラップを備える。衝突の際、より良く展開し、乗員、特に運転手をより良く保護するように、エアバッグを実質的に水平に分割する第1キャッチストラップと、第1キャッチストラップから実質的に垂直方向に延びる2つのキャッチストラップとを備える。これにより、ステアリングコラムと運転者の膝との間で、衝突の際にエアバッグが迅速に展開膨張するように構成されている。
【0004】
特許文献3の「マルチチャンバ・ニーエアバッグ」では、車両用エアバッグモジュールは、ガスを発生するためのガス発生器と、ガスを受け取るためにガス発生器に動作可能に接続されたマルチチャンバエアバッグとを含む。エアバッグには、第1の膨張室、少なくとも1つの第2の膨張室、少なくとも1つの第3の膨張室及び第4の膨張室が設けられる。エアバッグは、第1室と少なくとも1つの第2室および少なくとも1つの第3室のそれぞれとの間の選択的連通、並びに少なくとも1つの第2室と第4室との間の選択的連通を可能にするように構成される内部通気口を含む。内部通気孔は、選択されたチャンバからのガスの流出を制限し、選択されたチャンバ内で、より高い圧力を維持するように構成される。それぞれの膨張室間の内部通気の順序は、マルチチャンバエアバッグの膨張圧力および膨張タイミングを制御するように構成されている。
【0005】
特許文献4の「車両用乗員保護装置」は、側面衝突時にフロントドア(車体側部)と外側膝部との間に展開し、衝突側の車両用シートに着座した乗員において車幅方向外側に位置する外側膝部への衝突エネルギーを吸収可能な第1エアバッグ袋体と、側面衝突時に外側膝部と内側膝部との間に展開し、外側膝部から、乗員において車幅方向内側に位置する内側膝部への衝突エネルギーを吸収可能な第2エアバッグ袋体と、側面衝突時に内側膝部とセンターコンソールとの間に展開し、車両用シートの側方に配設されたセンターコンソールからの反力による内側膝部への衝突エネルギーを吸収可能な第3エアバッグ袋体と、を有して構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−220920号公報
【特許文献2】米国特許公開公報明細書第2007/0200321号
【特許文献3】米国特許公開公報明細書第2011/0175334号
【特許文献4】特開2012−121572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
車両用ニーエアバッグ装置では、シートのシートクッションとシートクッションの車体前方に位置するダッシュボード(インストルメントパネル)との間に、ダッシュボード下部から上方に向けて車体の上下方向に展開膨張されるエアバッグによって、シートクッションに着席している乗員の膝部を保護する。
【0008】
背景技術では、いずれの特許文献であっても、エアバッグは、車体前後方向のダッシュボード側及びシートクッション側双方で、同じように均等なタイミングで展開膨張される。
【0009】
エアバッグは、迅速に膝部を拘束できるように、シートクッション側の展開動作を速めることが望ましい。
【0010】
しかしながら、いずれの特許文献も、エアバッグには、シートクッション側の展開動作を、他の部分よりも優先する構造が備えられてはおらず、膝部の保護性能をさらに改善する構造の案出が求められていた。
【0011】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、乗員の膝部が位置するシートクッション側の展開動作を、他の部分よりも優先して、速めることが可能な構造のエアバッグを備え、優れた膝部の保護性能を発揮することが可能な車両用ニーエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかる車両用ニーエアバッグ装置は、車体に設けられ、インフレータガスを噴出するインフレータと、上記車体のダッシュボードと該ダッシュボードの車体後方に位置するシートクッションとの間で、インフレータガスによって下方から上方へ向けて該車体の上下方向に展開膨張され、第1パネルが該ダッシュボード側に面し、第2パネルが該シートクッション側に面するエアバッグと、該エアバッグに、展開膨張する上下方向の下部に位置させて設けられ、上記インフレータが装着されるインフレータ装着部と、上記エアバッグに、内部を仕切って、上記車体幅方向に一対並設された膝部チャンバと、上記エアバッグの内部に、一対の上記膝部チャンバと上記インフレータ装着部との間に配置して設けられ、上記インフレータからのインフレータガスを一対の該膝部チャンバ側へ向けて流通させる第1通孔を有する第1バッフルと、該第1バッフルと一対の上記膝部チャンバとの間に、一端部が該第1バッフル近傍で上記第1パネルに接合され、他端部が一対の該膝部チャンバ近傍で上記第2パネルに接合されて、上記エアバッグの内部を斜め向きに仕切って設けられ、上記第1通孔からのインフレータガスが流れる流域を、該第1パネル側よりも該第2パネル側で広くして当該第2パネルの展開動作を速める第2バッフルと、該第2バッフルに設けられ、インフレータガスを一対の上記膝部チャンバへ向けて流通させる第2通孔とを備えたことを特徴とする。
【0013】
前記膝部チャンバはそれぞれ、前記エアバッグの内部が、車体幅方向に間隔を空けて、前記車体の上下方向に延設される一対の縦方向バッフルで仕切られて、設けられることが好ましい。
【0014】
前記エアバッグには、前記膝部チャンバそれぞれの車体幅方向両側に、前記縦方向バッフルを介して、横方向サポートチャンバが設けられ、上記縦方向バッフルには、上記膝部チャンバから上記横方向サポートチャンバへインフレータガスを流通させる第3通孔が設けられることが望ましい。
【0015】
前記エアバッグには、展開膨張する上下方向の、一対の前記膝部チャンバ上側に、車体幅方向に沿う横方向バッフルで仕切って、上部サポートチャンバが設けられ、上記横方向バッフルには、上記膝部チャンバから上記上部サポートチャンバへインフレータガスを流通させる第4通孔が設けられることが好ましい。
【0016】
前記エアバッグの内部には、展開膨張する上下方向の、一対の前記膝部チャンバ下側を仕切って、車体幅方向に沿う第2横方向バッフルが設けられ、該第2横方向バッフルには、前記第2通孔からのインフレータガスを一対の上記膝部チャンバへ案内する案内通孔が設けられることが望ましい。
【0017】
一対の前記膝部チャンバは、展開膨張する上下方向の前記エアバッグの上部側で間隔が狭く、該エアバッグの下部側で間隔が広くなるように、前記車体の上下方向に沿って斜めに設けられることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる車両用ニーエアバッグ装置にあっては、乗員の膝部が位置するシートクッション側の展開動作を、他の部分よりも優先して、速めることができ、優れた膝部の保護性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る車両用ニーエアバッグ装置の好適な一実施形態に用いられるエアバッグが作り上げられる前の布材を平らに広げた様子を示す平面図である。
図2図1に示したエアバッグの内部に設けられる各種バッフルを並べて示した部品図である。
図3図1に示したエアバッグの展開膨張状態を示す、図5中の目線で見上げた斜視図である。
図4図1に示したエアバッグの断面を説明するための説明図である。
図5図3中、D―D線矢視に対応する、展開膨張した図1のエアバッグを車体幅方向から見た断面図である。
図6】展開膨張した図1のエアバッグを、車体の上下方向上方から見下ろした断面図である。
図7】展開膨張した図1のエアバッグを、ダッシュボード側から車体後方に向かって見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係る車両用ニーエアバッグ装置の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。車体の車室内部には、車体の前後方向において、ダッシュボード(インストルメントパネルとも言う)の車体後方に、当該ダッシュボードから間隔を空けて、乗員が着席するシートのシートクッションが配置されている。シートクッションに着席した乗員の膝部や膝部下方の脛部は、ダッシュボード側に面する。
【0021】
車体衝突時に、膝部等がダッシュボードやその周辺にぶつかって損傷を受けることを防ぐために、車体には、車両用ニーエアバッグ装置が備えられている。
【0022】
車両用ニーエアバッグ装置では従来周知のように、車体1に設けられたインフレータ2から噴出されるインフレータガスが内部に導入され充満されるエアバッグ3が、ダッシュボード4とダッシュボード4の車体後方に位置するシートクッション5との間で、ダッシュボード4下部から上方へ向けて車体1の上下方向に展開膨張される。エアバッグ3が展開膨張されることにより、シートクッション5に着席している乗員の膝部K等が保護される(図5等参照)。
【0023】
以下の説明では、車体1に設置され、インフレータガスで展開膨張された状態のエアバッグ3における車体の上下方向、車体の幅方向、車体の前後方向はそれぞれ、車体1に取り付ける前であって、平らに広げた状態のエアバッグ3の前後長さ方向、左右幅方向、厚さ方向にそれぞれ対応する。
【0024】
図1は、エアバッグ3に作り上げられる前の布材を平らに広げた様子を示す平面図である。図1では、後述する布材の折り返し箇所X、エアバッグ3を形成するための布材の接合ラインS1、各種バッフル6〜11の接合ラインS2〜S8に加え、バッフル6〜11によって規定されるエアバッグ3内部でのインフレータガスの流れgが示されている。
【0025】
図2は、エアバッグ3内部に設けられる各種バッフル6〜11を並べて示した部品図である。図3は、本実施形態のエアバッグ3の展開膨張状態を示す、図5中の目線Eで見上げた斜視図である。
【0026】
図4は、エアバッグ3の断面を説明するための図であって、図4(A)は、図3中、A−A線矢視断面図、図4(B)は、図3中、B−B線矢視断面図、図4(C)は、図3中、C−C線矢視断面図である。
【0027】
図5は、図3中、D―D線矢視に対応する、展開膨張したエアバッグ3を車体幅方向から見た断面図である。図6は、展開膨張したエアバッグ3を、車体の上下方向上方から見下ろした断面図である。図7は、展開膨張したエアバッグ3を、ダッシュボード4側から車体後方に向かって見た図(図5中、F−F矢視参照)である。
【0028】
図1図4に示すように、本実施形態に係る車両用ニーエアバッグ装置は主に、エアバッグ3と、エアバッグ3内部に配設される第1バッフル10、第2バッフル11、縦方向バッフル8,9、横方向バッフル6、並びに第2横方向バッフル7と、エアバッグ3を展開膨張するインフレータガスgを噴出するインフレータ2(図3参照)とを構成部品として構成される。エアバッグ3及び各種バッフル6〜11は、伸縮性に乏しい布材などによって形成される。
【0029】
エアバッグ3は、図1及び図3に示すように、一枚の布材を、その前後長さ方向中央で折り返して重ね合わせ、折り返し箇所Xを除く外周縁を、縫製などの接合ラインS1で接合することにより、袋状に形成される。
【0030】
エアバッグ3には、折り返して重ね合わせたときに、厚さ方向で表裏となる2つの面が形成され、一方の面が第1パネル3aを構成し、他方の面が第2パネル3bを構成する。エアバッグ3は、2つのパネルを個々に構成する2枚の布材を重ね合わせ、接合することによって形成してもよい。
【0031】
図示したエアバッグ3では、折り返し箇所Xが、車体の上下方向下部(エアバッグの前後長さ方向の前部)とされ、折り返し箇所Xとは反対側が、車体の上下方向上部(エアバッグの前後長さ方向の後部)とされる。
【0032】
エアバッグ3の折り返し箇所X及びその周辺は、車体幅方向寸法(エアバッグの左右幅方向寸法)が短い幅狭部3cとして形成される。エアバッグ3の残りの他の部分は、車体幅方向寸法が長い幅広部3dとして形成される。
【0033】
エアバッグ3には、展開膨張する車体の上下方向の下部となる幅狭部3cに位置させて、インフレータ2を装着するインフレータ装着部が設けられる。インフレータ装着部となる幅狭部3cには、インフレータ2をエアバッグ3内部に挿入するために、図示しない穴部が形成される。
【0034】
幅狭部3cであるインフレータ装着部は、エアバッグ3全体に対し、容量が小さい。このため、インフレータ2から噴出されるインフレータガスgを、エアバッグ3のほぼ全体を占める幅広部3dに、迅速に無駄なく導入することができる。
【0035】
図示例では、インフレータ2は、ガス噴出部を有する挿入側先端部分2aがエアバッグ3内部に収納され、車体1のダッシュボード4下などに取付固定される取付部2bは、エアバッグ3外方に露出される。
【0036】
インフレータ2が、取付部2bを介して、車体1に取付固定されることにより、エアバッグ3がダッシュボード4下に設置される。
【0037】
ダッシュボード4にインフレータ2を介して取付固定されたエアバッグ3がインフレータガスgによって展開膨張したとき、ダッシュボード4側に面するパネルが、エアバッグ3の第1パネル3aとなり、シートクッション5側に面するパネルが、エアバッグ3の第2パネル3bとなる。
【0038】
エアバッグ3内部には、幅広部3dに、インフレータ装着部(幅狭部3c)側に寄せて、車体幅方向に沿って第2横方向バッフル7が設けられる。
【0039】
また、エアバッグ3内部には、幅広部3dに、展開膨張する上下方向で、エアバッグ3の上側外周縁(エアバッグの前後長さ方向後方の外周縁)側に寄せて、車体幅方向に沿って横方向バッフル6が設けられる。
【0040】
これら横方向バッフル6及び第2横方向バッフル7は、展開膨張する上下方向(エアバッグの前後長さ方向)に間隔を隔てて、ほぼ平行に配設される。
【0041】
エアバッグ3には、横方向バッフル6により、展開膨張する上下方向の上部(エアバッグの前後長さ方向の後部)に位置させて、上部サポートチャンバ12が設けられる。
【0042】
第2横方向バッフル7は、インフレータ装着部(幅狭部3c)側に対し、後述する一対の膝部チャンバ13側を区分けする。
【0043】
横方向バッフル6は、図2に示すように、エアバッグ3の厚さ方向で、上・下縁6aが長い長方形の帯状に形成され、これら縁6aがそれぞれ、第1パネル3a及び第2パネル3bに縫製等の接合ラインS2で接合される。
【0044】
また、横方向バッフル6は、エアバッグ3の左右幅方向の両端6bがそれぞれ、エアバッグ3の左側及び右側外周縁に縫製等の接合ラインS1で接合される。
【0045】
横方向バッフル6は、エアバッグ3の上部位置でエアバッグ3内部を仕切り、これにより上部サポートチャンバ12を形成する。
【0046】
横方向バッフル6には、一対の膝部チャンバ13それぞれから上部サポートチャンバ12へ向けてインフレータガスgを流通させる2つの第4通孔6cが形成される。
【0047】
第2横方向バッフル7は、図2に示すように、横方向バッフル6と同様に、エアバッグ3の厚さ方向で、上・下縁7aが長い長方形の帯状に形成され、これら縁7aがそれぞれ、第1及び第2パネル3a,3bに縫製等の接合ラインS3で接合される。
【0048】
また、第2横方向バッフル7は、エアバッグ3の左右幅方向の両端7bがそれぞれ、エアバッグ3の左側及び右側外周縁に縫製等の接合ラインS1で接合される。
【0049】
エアバッグ3内部は、幅狭部3cよりも上の位置(エアバッグの前後長さ方向で、幅狭部3cよりも後ろの位置)が第2横方向バッフル7によって仕切られる。
【0050】
第2横方向バッフル7には、一対の膝部チャンバ13へ向けてインフレータガスgを案内する2つの案内通孔7cが形成される。
【0051】
エアバッグ3の幅広部3dには、横方向バッフル6と第2横方向バッフル7との間に、エアバッグ3の内部を仕切って、膝部チャンバ13が設けられる。膝部チャンバ13は、車体幅方向(エアバッグの左右幅方向)に一対並設される。一対の膝部チャンバ13は、シートクッション5に着席する乗員の膝部Kの間隔に相応するように車体幅方向に間隔を空けて、膝部Kに面するように設けられる。
【0052】
各膝部チャンバ13はそれぞれ、車体幅方向(エアバッグの左右幅方向)に間隔を空けて、展開膨張する上下方向(エアバッグの前後長さ方向)に延設される一対の縦方向バッフル8,9によってエアバッグ3内部が仕切られることにより、設けられる。
【0053】
縦方向バッフル8,9は、図2に示すように、エアバッグ3の厚さ方向の上・下縁8a,9aが長い長方形状に形成され、これら縁8a,9aがそれぞれ、第1及び第2パネル3a,3bに縫製等の接合ラインS4、S5で接合される。
【0054】
また、縦方向バッフル8,9は、エアバッグの前後長さ方向の両端8b,9bがそれぞれ、横方向バッフル6及び第2横方向バッフル7に縫製等で接合される。
【0055】
一対の膝部チャンバ13をそれぞれ形成するために、縦方向バッフル8,9は、一対一組で備えられる。一方の第1縦方向バッフル9は、車体幅方向で互いに向かい合うように設けられる。他方の第2縦方向バッフル8は、車体幅方向で、エアバッグ3の左側及び右側それぞれの外周縁と向かい合うように設けられる。
【0056】
エアバッグ3内部には、これら縦方向バッフル8,9により、横方向バッフル6及び第2横方向バッフル7の間が仕切られて、車体幅方向に一対の膝部チャンバ13が設けられる。
【0057】
また、エアバッグ3には、これら縦方向バッフル8,9により、一対の膝部チャンバ13間、並びに各膝部チャンバ13とエアバッグ3の左側及び右側の外周縁それぞれの間に、車体幅方向に、中央の横方向サポートチャンバ14aと左方及び右方の横方向サポートチャンバ14bとが3つ設けられる。
【0058】
すなわち、エアバッグ3には、膝部チャンバ13それぞれの車体幅方向両側に、横方向サポートチャンバ14a,14bが設けられる。
【0059】
縦方向バッフル8,9には、一対の膝部チャンバ13それぞれから横方向サポートチャンバ14a,14bへ向けてインフレータガスgを流通させる第3通孔8c,9cが設けられる。
【0060】
左方及び右方の横方向サポートチャンバ14bを形成する第2縦方向バッフル8の第3通孔8cは、2つの膝部チャンバ13が両側に位置する中央の横方向サポートチャンバ14aを形成する第1縦方向バッフル9の第3通孔9cよりも大きな孔径で形成される。
【0061】
これにより、2つの膝部チャンバ13双方からインフレータガスgが流入する中央の横方向サポートチャンバ14aへのインフレータガスgの流通が制限され、3つの横方向サポートチャンバ14a,14bそれぞれへのインフレータガスgの流通をほぼ同流量となるようにすることができる。
【0062】
縦方向バッフル8,9で設けられた一対の膝部チャンバ13は、本実施形態では、膨張する上下方向のエアバッグ3の上部(エアバッグの前後長さ方向後方)側で間隔が狭く、エアバッグ3の下部(前方)側で間隔が広くなるように、車体の上下方向に沿って斜め向きに設けられる。
【0063】
これにより、シートクッション5に着席する乗員の脛部から足首回りに亘る間を乗員の外側から包み込むようにホールドすることが可能で、足の捻転を防止することができる。
【0064】
しかしながら、必要に応じて、これら一対の膝部チャンバ13は、展開する上下方向に沿って平行であっても、あるいは、エアバッグ3の上部側で間隔が広く、エアバッグ3の下部側で間隔が狭くなるように、車体の上下方向に沿って斜め向きに設けるようにしてもよい。
【0065】
以上のようにしてエアバッグ3に設けられる一対の膝部チャンバ13との関係で、上記横方向バッフル6は、膨張する上下方向で一対の膝部チャンバ13上に位置させて設けられ、上部サポートチャンバ12は、一対の膝部チャンバ13の上側に設けられる。また、上記第2横方向バッフル7は、膨張する上下方向で一対の膝部チャンバ13下に位置させて設けられる。
【0066】
エアバッグ3内部には、展開膨張する上下方向で、一対の膝部チャンバ13の下に位置する第2横方向バッフル7と、幅狭部3cのインフレータ装着部との間に位置させて、第1バッフル10が設けられる。
【0067】
第1バッフル10は、図2に示すように、エアバッグ3の厚さ方向の上・下縁10aが長い長方形状に形成され、これら縁10aがそれぞれ、幅狭部3cのインフレータ装着部を仕切るようにして、第1及び第2パネル3a,3bに縫製等の接合ラインS6で接合される。
【0068】
第1バッフル10は、エアバッグ3の左右幅方向の長さ寸法が幅狭部3cの左右幅方向寸法よりも短く、第1バッフル10の長さ方向両端10bと、幅狭部3cの左側及び右側の外周縁との間には、インフレータ装着部から展開膨張する上下方向の上方へ向けてインフレータ2からのインフレータガスgが流通する間隙Pが形成される。
【0069】
また、第1バッフル10には、インフレータ2からのインフレータガスgを一対の膝部チャンバ13側へ流通させる3つの第1通孔10cが形成される。
【0070】
従って、インフレータ装着部(幅狭部3c)からのインフレータガスgは、第1通孔10cと左右の間隙Pから幅広部3dへ向かって流通する。
【0071】
第1バッフル10と一対の膝部チャンバ13側の第2横方向バッフル7との間には、第2バッフル11が設けられる。
【0072】
第2バッフル11は、図2に示すように、エアバッグ3の厚さ方向の上縁部11aの長さが、幅狭部3cの左右幅方向長さに対応させて短く、下縁部11bの長さが、幅広部3dの左右幅方向長さに対応させて長い、台形状に形成される。第2バッフル11の上縁部11aは、第1バッフル10の上縁10aの長さよりも長く形成される。
【0073】
第2バッフル11の上縁部11aは、幅狭部3c側の第1バッフル10近傍(インフレータガス装着部の反対側位置)で第1パネル3aに接合される。
【0074】
第2バッフル11の下縁部11bは、幅広部3d側の一対の膝部チャンバ13近傍(第2横方向バッフル7よりも第1バッフル10側であって、第2横方向バッフル7に近接した位置)で第2パネル3bと接合される。
【0075】
従って、第2バッフル11は、エアバッグ3内部を、展開膨張する上下方向に沿って、斜め向きに仕切って設けられる。
【0076】
すなわち、エアバッグ3の前後長さ方向で、第1パネル3aでは、ほぼ幅狭部3c周辺で、第1バッフル10と第2バッフル11との距離を短くし、第2パネル3bでは、ほぼ幅広部3dにおいて、第1バッフル10と第2バッフル11との距離を長くしている。
【0077】
これにより、第1バッフル10の第1通孔10cから流出して第1バッフル10と第2バッフル11の間に流れるインフレータガスgの流域は、幅狭で距離が短い第1パネル3a側よりも、幅広で距離が長い第2パネル3b側で広げられる。
【0078】
インフレータガスgの圧力は、第1バッフル3aと第2バッフル3bとの間で、第1パネル3aに比し、流域の広い第2パネル3bに対して優先的に作用し、第2パネル3bを効率よく押し広げて、展開動作を速めることができる。
【0079】
第2バッフル11の長さ方向両端11cと、エアバッグ3の外周縁との間には、第2横方向バッフル7へ向かうインフレータガスgの流れが得られるように、隙間Qが形成される。
【0080】
第2バッフル11には、近接する第2横方向バッフル7の2つの案内通孔7cそれぞれと向かい合う配置で、インフレータガスgを一対の膝部チャンバ13それぞれへ向けて流通させる2つの第2通孔11dが設けられる。
【0081】
すなわち、第2通孔11dからのインフレータガスgは、第2横方向バッフル7の案内通孔7cで案内されて、一対の膝部チャンバ13それぞれへ流通される。
【0082】
斜め向きに設けられる第2バッフル11から案内通孔7cにインフレータガスgが円滑に流れるように、第2通孔11dは、上縁部11aと下縁部11bとの間で、楕円形状ないしオーバル状に形成される。
【0083】
次に、本実施形態に係る車両用ニーエアバッグ装置の作用について説明する。図3図7に示すように、インフレータ2が作動することで噴出されるインフレータガスgは、第1バッフル10で仕切られた幅狭部3cのインフレータ装着部から、第1バッフル10の第1通孔10c及び左右の間隙Pを介して、第1バッフル10と第2バッフル11の間へ流入する。
【0084】
第1通孔10c及び間隙Pからのインフレータガスgは、図5から理解されるように、第2バッフル11の第2通孔11dによる絞り作用も相俟って、第1バッフル10と第2バッフル11の間に充満しつつ、第1パネル3a側よりも流域が広い第2パネル3b側に沿って流れる。
【0085】
インフレータガスgが、流域の広い第2パネル3b側に偏重して流れることにより、インフレータガスgの圧力が、第1パネル3aよりも第2パネル3bに優先的に作用する。
【0086】
優先的にインフレータガスgの圧力が作用する第2パネル3bは、膨張よりも展開力が高められ、第1パネル3aよりも迅速に押し広げられ、そしてまた、ダッシュパネル4の車体後方に位置するシートクッション5側へ近づくように、すなわち、この段階で、シートクッション5に着席している乗員の膝部K周辺や脛部に接近するように、押し出される。
【0087】
第2バッフル11の第2通孔11dから流出するインフレータガスgは直ちに、向かい合って位置する第2横方向バッフル7の案内通孔7cへ流入する。
【0088】
この際、第2通孔11d及び隙間Qから流出して第2横方向バッフル7に遮られたインフレータガスgは、第2バッフル11と第2横方向バッフル7の間へ流入し、第1パネル3aのダッシュボード4に沿う展開を継続する。
【0089】
案内通孔7cに流入したインフレータガスgは、縦方向バッフル8,9の第3通孔8c,9c及び横方向バッフル6の第4通孔6cによる絞り作用も相俟って、迅速に一対の膝部チャンバ13を膨張させる。
【0090】
迅速な第2パネル3bの展開動作及び膝部チャンバ13の膨張動作が優先されることにより、この段階で、シートクッション5側に面する第2パネル3bでは、シートクッション5に着席している乗員の膝部K周辺や脛部に面し、エアバッグ3における一対の膝部チャンバ13による乗員膝部Kの拘束が確立される。これにより、膝部K及び脛部の周辺の斜めの動きを拘束することができる。
【0091】
引き続き、第2バッフル11と第2横方向バッフル7の間での第1パネル3aの展開膨張が完了し、併せて、一対の膝部チャンバ13からのインフレータガスgが、横方向バッフル6の第4通孔6cを介して、上部サポートチャンバ12に流入し、当該上部サポートチャンバ12が展開膨張すると共に、縦方向バッフル8,9の第3通孔8c,9cを介して、中央、左方、右方の3つの横方向サポートチャンバ14a,14bに流入し、これら横方向サポートチャンバ14a,14bが展開膨張して、エアバッグ3全体の展開膨張が完了する。
【0092】
これらサポートチャンバ12,14a,14bが展開膨張することで、一対の膝部チャンバ13を取り囲むようにして支持することができ、膝部チャンバ13による膝部K等の保護作用を向上することができると同時に、これらサポートチャンバ12,14a,14bによって、乗員の傾いた膝部K及び足首の周辺を取り囲むことができて、足首回りに回転モーメントが作用しても、それを軽減することができる。
【0093】
以上説明したように、本実施形態では、乗員の膝部Kが位置するシートクッション5側の展開動作を、他の部分よりも優先して、速めることができ、優れた膝部Kの保護性能を発揮することができる。
【0094】
以上に述べた車両用ニーエアバッグ装置は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施形態例も、各種の方法で実施または遂行できる。特に、本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさおよび構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0095】
1 車体
2 インフレータ
3 エアバッグ
3a 第1パネル
3b 第2パネル
3c 幅狭部(インフレータ装着部)
4 ダッシュボード
5 シートクッション
6 横方向バッフル
6c 第4通孔
7 第2横方向バッフル
7c 案内通孔
8,9 縦方向バッフル
8c,9c 第3通孔
10 第1バッフル
10c 第1通孔
11 第2バッフル
11d 第2通孔
12 上部サポートチャンバ
13 膝部チャンバ
14a,14b 横方向サポートチャンバ
g インフレータガス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7