(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
[0011]本議論は代表的な態様のみの説明であり、本発明のより広い形態を限定することは意図していないことが当業者に理解される。
【0011】
[0012]本発明は、概して、ポリアリーレンスルフィドを形成する方法、及びかかる方法の実施において用いることができるシステムに関する。より具体的には、ポリアリーレンスルフィドを形成するための多段階プロセス及びシステムを開示する。一般に、本方法にしたがって形成することができるポリアリーレンスルフィドは、式(I):
【0013】
(式中、Ar
1、Ar
2、Ar
3、及びAr
4は、同一か又は異なり、6〜18個の炭素原子のアリーレン単位であり;W、X、Y、及びZは、同一か又は異なり、−SO
2−、−S−、−SO−、−CO−、−O−、−COO−、又は1〜6個の炭素原子のアルキレン若しくはアルキリデン基から選択される二価の連結基であり、連結基の少なくとも1つは−S−であり;そして、n、m、i、j、k、l、o、及びpは、独立して、0、又は1、2、3、若しくは4であり、但しこれらの合計は2以上である)
の繰り返し単位を含むポリアリーレンチオエーテルであってよい。アリーレン単位のAr
1、Ar
2、Ar
3、及びAr
4は、選択的に置換又は非置換であってよい。有利なアリーレン系は、フェニレン、ビフェニレン、ナフチレン、アントラセン、及びフェナントレンである。ポリアリーレンスルフィドは、通常は約30モル%より多く、約50モル%より多く、又は約70モル%より多いアリーレンスルフィド(−AR−S−)単位を含んでいてよい。一態様においては、ポリアリーレンスルフィドは、少なくとも約85モル%の、2つの芳香環に直接結合しているスルフィド連結基を含む。一態様においては、本方法によって形成されるポリアリーレンスルフィドは、本発明においてその成分としてフェニ
レンスルフィド構造:−(C
6H
4−S)
n−(式中、nは1以上の整数である)を含むものとして定義されるポリフェニレンスルフィドであってよい。
【0014】
[0013]本多段階方法には、少なくとも2つの別々の形成段階を含ませることができる。形成プロセスの1つの段階には、有機アミド溶媒の加水分解生成物及び硫化水素アルカリ金属を含む複合体を、ジハロ芳香族モノマーと反応させてプレポリマーを形成することを含ませることができる。プロセスの他の段階には、プレポリマーを更に重合して最終生成物を形成することを含ませることができる。場合によっては、本方法には、有機アミド溶媒とアルカリ金属硫化物を反応させて複合体を形成する更に他の段階を含ませることができる。場合によっては、異なる段階は異なる反応器内で行うことができる。複数の段階のそれぞれに関して別々の反応器を用いることによって、全サイクル時間を、単一の反応器システムにおけるように全段階の合計ではなく、最も遅い段階のものに等しくすることができるので、サイクル時間を減少させることができる。更に、別々の反応器を用いることによって、単一の反応器システムにおいて同じ寸法のバッチに関して必要であろうものよりも小さい反応器を用いることができるので、資本コストを減少させることができる。更に、それぞれの反応器は、その反応器内で行われる段階の仕様を満足することしか必要ではないので、形成プロセスの全ての段階の中で最も厳しいパラメーターを満足する単一の大きな反応器はもはや必要ではなく、これにより資本コストを更に減少させることができる。
【0015】
[0014]形成プロセス中において、その間にポリマーの分子量を増加させるプロセスの最終段階は、ほぼ無水条件において行うことができる。最終段階中における高い圧力は主として重合中の水の気化に起因する可能性があるので、最終段階の反応のほぼ無水の条件によって、形成プロセスのこの段階を一定の比較的低い圧力で行うことが可能になる。この段階中のより低い圧力によって、反応器は従来公知のシステムに関して必要な高圧標準規格を満足する必要がないので、更にシステムの資本コストを減少させることができる。1つの段階中のより低い運転圧力により、より経済的な容器の圧力定格及びより安価な構成材料を可能にすることによって反応器コストを減少させることができる。形成プロセスの1以上の段階のより低い圧力によって、安全性リスクを減少させることもできる。
【0016】
[0015]
図1は、多段階形成プロセスの一態様を示す。第1の反応器100は、その間に有機アミド溶媒とアルカリ金属硫化物を反応させて、有機アミド溶媒の加水分解生成物(例えばアルカリ金属有機アミンカルボン酸塩)及び硫化水素アルカリ金属を含む複合体を形成することができるプロセスの第1段階のために用いることができる。
【0017】
[0016]ポリアリーレンスルフィドの形成において用いることができる代表的な有機アミド溶媒としては、限定なしに、N−メチル−2−ピロリドン;N−エチル−2−ピロリドン;N,N−ジメチルホルムアミド;N,N−ジメチルアセトアミド;N−メチルカプロラクタム;テトラメチル尿素;ジメチルイミダゾリジノン;ヘキサメチルリン酸トリアミド、及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0018】
[0017]アルカリ金属硫化物は、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム、又はこれらの混合物であってよい。アルカリ金属硫化物はまた、in situで生成させることもできる。例えば、硫化ナトリウム水和物は、第1
の反応器100内において、この反応器に供給することができる硫化水素ナトリウム及び水酸化ナトリウムから生成させることができる。硫化水素アルカリ金属とアルカリ金属水酸化物の組み合わせを反応器100に供給してアルカリ金属硫化物を形成する場合には、硫化水素アルカリ金属に対するアルカリ金属水酸化物のモル比は約1.00〜約1.03の間であってよい。更に、少量のアルカリ金属水酸化物を第1の反応器100中に含ませて、アルカリ金属硫化物と共に非常に少量で存在する可能性があるアルカリ金属ポリスル
フィド又はアルカリ金属チオスルフェートのような不純物を除去するか又は(例えばかかる不純物を無害の材料に変化させるために)反応させることができる。
【0019】
[0018]
図1に示す態様においては、第1の反応器100への供給流には、硫化ナトリウム(Na
2S)(水和形態であってよい)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、及び水を含ませることができる。水、硫化ナトリウム、及びNMPの間の反応によって、下記の反応スキームにしたがって、ナトリウムメチルアミノブチレート(SMAB:NMPの加水分解生成物)、及び硫化水素ナトリウム(NaSH)を含む複合体(SMAB−NaSH)を形成することができる。
【0021】
[0019]一態様によれば、第1段階反応器内において化学量論的に過剰のアルカリ金属硫化物を用いることができるが、これは形成段階の必須要件ではない。例えば、供給流中におけるイオウに対する有機アミド溶媒のモル比は、約2〜約4、又は約2.5〜約3であってよい。供給流中におけるイオウに対する水のモル比は、約2〜約4、又は約2.5〜約3であってよい。
【0022】
[0020]複合体の形成中においては、第1の反応器100内の圧力は大気圧又はその付近に保持することができる。低圧反応条件を維持するために、反応器から蒸気を取り出すことができる。蒸気の主成分としては、水及び硫化水素副生成物を挙げることができる。
図1に示すように、蒸気の硫化水素は例えば凝縮器106において分離することができる。言及したように、一態様においては、反応器供給流に化学量論的に過剰のアルカリ金属硫化物を含ませることができる。この態様においては、SMAB−NaSH複合体を含む生成物溶液は高アルカリ性の溶液になる。高アルカリ性のSMAB−NaSH溶液は第1の反応器100内において硫化水素に対する吸収剤として作用させることができ、反応器100からの蒸気流中への硫化水素の損失を低下させることができるので、これは一態様においては有益である可能性がある。
【0023】
[0021]凝縮器106において分離される水の一部は、反応条件を維持するために反応器100に戻すことができる。水の他の部分は、プロセスから取り出して、第1段階において形成されるSMAB−NaSH溶液を脱水することができる。例えば、第1の反応器100の生成物溶液中のNaSHに対する水のモル比(又はイオウに対する酸素の比)は、約1.5未満にすることができ、或いは約0.1〜約1の間にすることができ、これにより第2段階反応器102に供給されるSMAB−NaSH複合体溶液がほぼ無水になるようにすることができる。
【0024】
[0022]第1段階において用いる反応器はステンレススチールであってよいが、ニッケルベースの合金又はチタンのような他の材料を用いることによって改良された耐腐食性を得ることができる。第1の反応器100における材料は、複合体形成反応中において、例えば約140℃〜約220℃、例えば約150℃〜約215℃、又は約165℃〜約210℃の間の温度に加熱される可能性がある。複合体形成反応は発熱反応であり、必要に応じ
て好適な温度制御メカニズムを用いて所望の反応条件を維持することができる。反応はバッチ式又は連続的に行うことができる。
【0025】
[0023]SMAB−NaSH複合体は、プロセスの第2段階においてポリアリーレンスルフィドプレポリマーが形成されるように、ジハロ芳香族モノマー及び好適な溶媒と共に第2の反応器102に供給することができる。ジハロ芳香族モノマーは、限定なしに、ジハロベンゼン、ジハロトルエン、ジハロナフタレン、メトキシ−ジハロベンゼン、ジハロビフェニル、ジハロ安息香酸、ジハロジフェニルエーテル、ジハロジフェニルスルホン、ジハロジフェニルスルホキシド、又はジハロジフェニルケトンであってよい。ジハロ芳香族モノマーは、単独か又はその任意の組合せのいずれかで用いることができる。具体的な代表的ジハロ芳香族モノマーとしては、限定なしに、p−ジクロロベンゼン;m−ジクロロベンゼン;o−ジクロロベンゼン;2,5−ジクロロトルエン;1,4−ジブロモベンゼン;1,4−ジクロロナフタレン;1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼン;4,4’−ジクロロビフェニル;3,5−ジクロロ安息香酸;4,4’−ジクロロジフェニルエーテル;4,4’−ジクロロジフェニルスルホン;4,4’−ジクロロジフェニルスルホキシド;及び4,4’−ジクロロジフェニルケトン;を挙げることができる。
【0026】
[0024]ジハロ芳香族モノマーのハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素であってよく、同じジハロ芳香族モノマー中の2つのハロゲン原子は、同一か又は互いと異なっていてよい。一態様においては、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、又はこれらの2以上のモノマーの混合物を、ジハロ芳香族モノマーとして用いる。
【0027】
[0025]ポリアリーレンスルフィドはホモポリマーであってよく、或いはコポリマーであってよい。複数のジハロ芳香族モノマーの好適な選択的組み合わせによって、2つ以上の異なる単位を含むポリアリーレンスルフィドコポリマーを形成することができる。例えば、p−ジクロロベンゼンをm−ジクロロベンゼン又は4,4’−ジクロロジフェニルスルホンと組み合わせて用いる場合には、式(II):
【0029】
の構造を有するセグメント、及び式(III):
【0031】
の構造を有するセグメント、又は式(IV):
【0033】
の構造を有するセグメントを含むポリアリーレンスルフィドコポリマーを形成することができる。
【0034】
[0026]他の態様においては、コポリマーを形成することができ、式(V):
【0036】
(式中、基R
1及びR
2は、互いに独立して、水素、フッ素、塩素、又は臭素原子、或いは1〜6個の炭素原子を有する分岐若しくは非分岐のアルキル又はアルコキシ基である)を有するモノマーをシステムに充填することができる。一態様においては、式(V)のモノマーはp−ヒドロキシ安息香酸又はその誘導体の1つであってよい。
【0037】
[0027]システムに充填することができる他のモノマーは、式(VI):
【0039】
の構造を有していてよい。式(VI)のモノマーの1つの例は、2−ヒドロキシナフタレン−6−カルボン酸である。式V及びVIのモノマーを両方ともシステムに充填して、ポリアリーレンスルフィドコポリマーを形成することができる。
【0040】
[0028]ポリアリーレンスルフィドコポリマーは、式(VII):
【0042】
(式中、Arは芳香族基、或いは1つより多い縮合芳香族基であり、qは2〜100、特に5〜20の数である)
のポリアリーレンスルフィド構造から誘導されるセグメントを含んでいてよい。式(VII)における基Arは、フェニレン又はナフチレン基であってよい。一態様においては、
第2のセグメントは、ポリ(m−チオフェニレン)、ポリ(o−チオフェニレン)、又はポリ(p−チオフェニレン)から誘導することができる。
【0043】
[0029]ポリアリーレンスルフィドは、線状、半線状、分岐、又は架橋型であってよい。線状ポリアリーレンスルフィドは、主構成単位として−(Ar−S)−の繰り返し単位を含む。一般に、線状ポリアリーレンスルフィドは、約80モル%以上のこの繰り返し単位を含んでいてよい。線状ポリアリーレンスルフィドは少量の分岐単位又は架橋単位を含んでいてよいが、分岐又は架橋単位の量は、ポリアリーレンスルフィドの全モノマー単位の約1モル%未満であってよい。線状ポリアリーレンスルフィドポリマーは、上述の繰り返し単位を含むランダムコポリマー又はブロックコポリマーであってよい。
【0044】
[0030]半線状ポリアリーレンスルフィドを形成することができ、これは、3つ以上の反応性官能基を有する少量の1種類以上のモノマーをポリマー中に導入することによって与えられる架橋構造又は分岐構造を有していてよい。例えば、ポリマーの約1モル%〜約10モル%の間を、3つ以上の反応性官能基を有するモノマーから形成することができる。
【0045】
[0031]例として、半線状ポリアリーレンスルフィドの形成において用いるモノマー成分に、分岐ポリマーの製造において用いることができる分子あたり2以上のハロゲン置換基を有する所定量のポリハロ芳香族モノマーを含ませることができる。かかるモノマーは、式:R’X
n(式中、それぞれのXは、塩素、臭素、及びヨウ素から選択され、nは3〜6の整数であり、R’は、約4個以下のメチル置換基を有していてよい価数nの多価芳香族基であり、R’中の炭素原子の総数は6〜約16の範囲内である)によって表すことができる。半線状出発ポリアリーレンスルフィドの形成において用いることができる分子あたり2個より多いハロゲンで置換されている幾つかのポリハロ芳香族モノマーの例としては、1,2,3−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,3−ジクロロ−5−ブロモベンゼン、1,2,4−トリヨードベンゼン、1,2,3,5−テトラブロモベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロ−2,4,6−トリメチルベンゼン、2,2’,4,4’−テトラクロロビフェニル、2,2’,5,5’−テトラヨードビフェニル、2,2’,6,6’−テトラブロモ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル、1,2,3,4−テトラクロロナフタレン、1,2,4−トリブロモ−6−メチルナフタレン等、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0046】
[0032]示されている態様においては、ジハロ芳香族モノマーとして、示されているようにp−ジクロロベンゼン(pDCB)を挙げることができる。一般に、充填するアルカリ金属硫化物の有効量1モルあたりの1種類又は複数のジハロ芳香族モノマーの量は、概して1.0〜2.0モル、1.05〜2.0モル、又は1.1〜1.7モルであってよい。而して、ポリアリーレンスルフィドはアルキルハロゲン化物(一般にアルキル塩化物)末端基を含んでいてよい。
【0047】
[0033]ジハロ芳香族モノマーは、複合体の硫化水素アルカリ金属に対するジハロ芳香族モノマーの比較的低いモル比で第2の反応器中に充填することができる。例えば、第2の反応器に充填するイオウに対するジハロ芳香族モノマーの比は、約0.8〜約1.5、又は約1.0〜約1.2であってよい。複合体の硫化水素アルカリ金属に対するジハロ芳香族モノマーの比較的低い比は、縮合重合反応によって最終的な高分子量のポリマーを形成するために好都合である可能性がある。
【0048】
[0034]第2段階におけるイオウに対する溶媒の比も、比較的低くてよい。例えば、第2段階における有機アミド溶媒(第2の反応器に加えられる溶媒、及び第1の反応器からの
複合体溶液中に残存している溶媒を含む)に対する複合体の硫化水素アルカリ金属の比は、約2〜約2.5であってよい。この比較的低い比によって第2の反応器内の反応物質の
濃度を増加させることができ、これによって相対重合速度及び体積あたりのポリマー生産速度を増加させることができる。
【0049】
[0035]第2段階の反応は、窒素のような不活性雰囲気下、及び上昇した圧力において行うことができる。例えば、第2段階中の第2の反応器102内の圧力は、約500kPa〜約1600kPa、約600kPa〜約1500kPa、又は約700kPa〜約1400kPaであってよい。
【0050】
[0036]第2の反応器102には、所望の圧力レベルを維持するために第2段階中において蒸気を取り出すための蒸気出口を含ませることができる。例えば、第2の反応器には当該技術において公知の圧力逃しバルブを含ませることができる。第2段階から取り出される蒸気は分離器108において凝縮および分離して、例えば反応器102に戻すために未反応のモノマーを回収することができる。蒸気の水の一部を取り出して第2段階のほぼ無水の条件を維持することができ、水の一部は第2の反応器に戻すことができる。第2の反応器内の少量の水によって反応器102の頂部において還流を形成することができ、これによって反応器内の水相と有機溶媒相との間の分離を向上させることができる。これによって、反応器102から取り出される蒸気相中への有機溶媒の損失を最小にし、並びに上記で議論したように高アルカリ性の有機溶媒によって硫化水素を吸収することにより、蒸気流中への硫化水素の損失を最小にすることができる。
【0051】
[0037]第2段階重合反応は、一般に約200℃〜約280℃、又は約235℃〜約260℃の温度で行うことができる。第2段階の継続時間は、例えば約0.5〜約15時間、又は約1〜約5時間であってよい。
【0052】
[0038]第2段階重合反応の終了は、一般に、第2の反応器102内におけるジハロ芳香族モノマーの転化率が、理論的転化率の約50モル%以上、約70モル%以上、又は約90モル%以上に達する時点である。ジハロ芳香族モノマーの理論的転化率は、次の式の1つから計算することができる。
【0053】
(a)ジハロ芳香族モノマーをアルカリ金属硫化物より過剰(モル比による)で加えた場合においては、
【0057】
ここで、Xは充填したジハロ芳香族モノマーの量であり;Yはジハロ芳香族モノマーの残存量であり;Zはジハロ芳香族モノマーの過剰量(モル)である。
【0058】
(c)(a)又は(b)以外の場合においては、
転化率=A/B×100
ここで、Aは、残留ポリマー及び塩副生成物以外の他の種を除去した後に回収される塩
の合計重量であり;Bは塩の理論重量(重合中に存在する有効硫化物のモル量の2倍)である。
【0059】
[0039]第2段階重合反応の後は、重量平均分子量:M
wによって表されるプレポリマーの平均モル質量は、約500g/モル〜約30,000g/モル、約1000g/モル〜約20,000g/モル、又は約2000g/モル〜約15,000g/モルであってよい。
【0060】
[0040]第2段階において用いるための重合反応装置は特に限定されないが、通常は、上昇した圧力において高粘度流体を形成する際に通常的に用いられる装置を用いることが望ましい。かかる反応装置の例としては、アンカータイプ、多段式タイプ、螺旋リボンタイプ、スクリューシャフトタイプ等、或いはこれらの変形形状のような種々の形状の撹拌ブレードを有する撹拌装置を有する撹拌タンクタイプの重合反応装置を挙げることができる。第2の反応器102はステンレススチールであってよいが、ニッケルベースの合金又はチタンのような他の材料を用いることによって改良された耐腐食性を得ることができる。
【0061】
[0041]第2段階重合反応の後は、第2段階反応器102から排出される生成物溶液には、プレポリマー、溶媒、及び重合反応の副生成物として形成される1種類以上の塩が含まれる可能性がある。例えば、反応に対する、第2段階反応器102から排出されるプレポリマー溶液の、副生成物として形成される塩の割合(体積基準)は、約0.05〜約0.25、又は約0.1〜約0.2であってよい。
【0062】
[0042]反応混合物中に含まれる塩には、反応中に副生成物として形成されるもの、及び反応混合物に例えば反応促進剤として加えられる他の塩が含まれる可能性がある。塩は有機又は無機であってよく、即ち有機又は無機カチオンと有機又は無機アニオンの任意の組み合わせから構成されていてよい。これらは、反応媒体中において少なくとも部分的に不溶であってよく、液体反応混合物のものと異なる密度を有していてよい。
【0063】
[0043]一態様によれば、第3段階反応器104における第3段階重合の前に、第2段階反応器102から排出されるプレポリマー混合物中の塩の少なくとも一部を、分離ユニット105において混合物から除去することができる。最終重合の前に塩を除去することにより、最終ポリマー分離プロセスを単純にし、且つより低いイオウ/溶媒比を第3段階において用いることができるので、第3段階重合の反応速度を増加させて、ポリマー濃度及び形成速度を有効に増加させることができる。更に、第3段階重合反応の前に塩分離プロセスを行うことによって、反応物質に関する第3の反応器の容量を増加させることができる。
【0064】
[0044]プレポリマー溶液から塩を除去するために分離ユニット105において用いる分離方法は、特に限定されない。例えば、塩は、伝統的な分離プロセスにおいて用いられているスクリーン又は篩を用いることによって除去することができる。或いは又は更には、プレポリマー溶液からの塩の分離において、塩/液体抽出プロセスを用いることができる。一態様においては熱濾過プロセスを用いることができ、これにおいては、プレポリマーが溶液中であり、塩が固相中である温度において溶液を濾過することができる。
【0065】
[0045]一態様によれば、塩分離プロセスによって、第2の反応器102から排出されるプレポリマー溶液中に含まれる塩の約95%以上を除去することができる。例えば、塩の約99%より多くをプレポリマー溶液から除去することができる。
【0066】
[0046]本プロセスの第2段階におけるプレポリマー重合反応及び濾過プロセスに続いて形成の第3段階を行うことができ、この間に第3の反応器104内でプレポリマーの分子
量を増加させる。第3の反応器104への投入物には、溶媒、1種類以上のジハロ芳香族モノマー、及びイオウ含有モノマーに加えて、第2の反応器102からのプレポリマー溶液を含めることができる。例えば、第3段階において加えるイオウ含有モノマーの量は、生成物ポリアリーレンスルフィドを形成するのに必要な全量の約10%以下であってよい。示されている態様においては、イオウ含有モノマーは硫化ナトリウムであるが、これは第3段階の必須要件ではなく、硫化水素アルカリ金属モノマーのような他のイオウ含有モノマーを代わりに用いることができる。
【0067】
[0047]第3段階に加えるジハロ芳香族モノマーは、第2段階において加えるジハロ芳香族モノマーと同一又は異なっていてよい。例えば、ポリアリーレンスルフィドの末端基を形成するため、或いは重合反応及び/又はポリアリーレンスルフィドの分子量を調節するために、第2又は第3段階の一方又は両方においてモノハロモノマー(必ずしも芳香族化合物ではない)を含ませることができる。
【0068】
[0048]一態様においては、ポリマーの分子量を増加させる第3段階にジハロ芳香族モノマー(例えばpDCB)を加えることによって、生成物ポリアリーレンスルフィドがより低い黄変指数を有するようにすることができることが見出された。例えば、ジハロ芳香族モノマーは、プロセスにおいて形成されるポリアリーレンスルフィドの量に対して約2重量%以下、又は一態様においては約1.5%以下の量で加えることができる。第3段階中にジハロ芳香族モノマーを加えることによって、黄変指数を、約15以下、約12以下、又は幾つかの態様においては約10以下にすることができる。黄変指数は、ASTM−E313(光源D65;観察角度10°)の手順にしたがって、分光光度計を用いて求めることができる。
【0069】
[0049]第3の反応の条件はほぼ無水であってよく、イオウ含有モノマーに対する水の比は、約0.2未満、例えば0〜約0.2の間である。本プロセスの第3段階中における低い含水量によって、重合速度及びポリマー収量を増加させ、並びに、これらの条件は上記で議論したように求核芳香族置換に好都合であるので、望ましくない副反応の副生成物の形成を減少させることができる。更に、第3段階における圧力の増加は一般に水の揮発によるものであるので、この段階中における低い含水量によって、第3の反応を一定の比較的低い圧力、例えば約1500kPa未満で行うことを可能にすることができる。したがって、第3の反応器104は高圧反応器である必要はなく、これによって形成プロセスに対して実質的なコスト節約を与え、且つ高圧反応器に固有の安全性リスクを減少させることができる。
【0070】
[0050]第3の反応器104内における反応条件にはまた、イオウ含有モノマーに対する溶媒に関する比較的低いモル比を含ませることができる。例えば、イオウ含有モノマーに対する溶媒の比は、約2〜約4、又は約2.5〜約3であってよい。
【0071】
[0051]第3の反応器104には、反応器内における低い圧力を維持するために、第3段階中に蒸気を取り出すための蒸気出口を含ませることができる。例えば、第3の反応器に、当該技術において公知の圧力逃しバルブを含ませることができる。第3段階から取り出される蒸気は、例えば蒸気の水から硫化水素を分離することができる分離器110において凝縮及び分離することができる。水を取り出すことによって、第3の反応器104内において所望のほぼ無水の条件を維持することを助けることもできる。
【0072】
[0052]第3段階の反応混合物は、約120℃〜約280℃、又は約200℃〜約260℃の温度に加熱することができ、かくして形成されるポリマーの溶融粘度が所望の最終レベルに上昇するまで重合を継続することができる。第2の重合の工程の経過時間は、例えば約0.5〜約20時間、又は約1〜約10時間であってよい。形成されるポリアリーレ
ンスルフィドの重量平均分子量は公知なように変動する可能性があるが、一態様においては約1000g/モル〜約500,000g/モル、約2,000g/モル〜約300,000g/モル、又は約3,000g/モル〜約100,000g/モルにすることができる。
【0073】
[0053]第3段階において用いるための重合反応装置は特に限定されず、第2段階において用いる反応装置と同じか又は異なっていてよく、例えば上昇した圧力における高粘度流体の形成において通常的に用いられる反応装置であってよい。かかる反応装置の例としては、アンカータイプ、多段式タイプ、螺旋リボンタイプ、スクリューシャフトタイプ等、或いはこれらの変形形状のような種々の形状の撹拌ブレードを有する撹拌装置を有する撹拌タンクタイプの重合反応装置を挙げることができる。第3の反応器104はステンレススチールであってよいが、ニッケルベースの合金又はチタンのような他の材料を用いることによって改良された耐腐食性を得ることができる。
【0074】
[0054]第3段階及び任意の所望の形成後処理の後に、ポリアリーレンスルフィドを、通常は所望の構造のダイを装備した押出オリフィスを通して第3の反応器104から排出し、冷却し、回収することができる。通常は、ポリアリーレンスルフィドは、有孔ダイを通して排出してストランドを形成することができ、これを水浴内で巻き取り、ペレット化し、乾燥する。ポリアリーレンスルフィドはまた、ストランド、顆粒、又は粉末の形態であってもよい。
【0075】
[0055]
図2は、多段階ポリアリーレンスルフィド形成プロセスの他の態様を示す。示されるように、このプロセスは
図1の多段階プロセスと類似しており、第1の反応器200、第2の反応器202、及び第3の反応器204を含む。第1の反応器への供給流には、アルカリ金属硫化物(例えばNa
2S)のようなイオウ含有モノマー、有機アミド溶媒(例えばNMP)、及び水を含ませることができる。反応器200には、
図1のものと同様の凝縮器206を含む蒸気処理流を含ませることができる。第1の反応器200内で形成されるモノマー複合体は、ジハロ芳香族モノマー(pDCB)及び溶媒(NMP)と共に第2の反応器に供給してプレポリマーを形成することができる。示されているように、第2の反応器には、
図1のものと同様の凝縮器208を含む蒸気処理流を含ませることができる。第2の反応器202から排出されるプレポリマー溶液は、上記で議論したように、第3の反応器204に導入する前に分離ユニット205において塩分離にかけることができる。
【0076】
[0056]
図2に示すように、この態様によれば、第3の反応器204に供給するイオウ含有モノマーには、第1の反応器200におけるプロセスの第1段階において形成された溶媒の加水分解生成物及び硫化水素アルカリ金属を含む複合体を含めることができる。プロセスの第1段階において形成される複合体をプロセスの第2及び第3重合段階の両方において用いることによって、プロセスの全体的な効率を向上させ、プロセスのコストを減少させることができる。第1段階において形成される複合体は、ジハロ芳香族モノマー及び更なる溶媒と共に第3の反応器204に供給することができ、第2段階において形成されるプレポリマーの分子量を所望のように増加させることができる。示されるように、第3の反応器204には凝縮器210を含む蒸気処理流を含ませることができ、第3段階中において所望のほぼ無水の条件及び低い圧力を維持するために、第3の反応器から水を取り出すことができる。
【0077】
[0057]第3段階重合反応の後、当該技術において一般的に知られている後処理を行って、プロセスによって形成されるポリアリーレンスルフィドを精製するか、又はさもなければその特性を向上させることができる。例えば、第2の濾過プロセスを行うことができ、これにより生成物混合物から任意の更なる塩、例えば第3段階重合中にプレポリマーの分
子量が増加するにつれて形成される任意の塩を除去することができる。一態様においては、ポリアリーレンスルフィドは結晶化プロセスにかけることができる。
【0078】
[0058]形成の後、ポリアリーレンスルフィドは液体媒体で洗浄することができる。例えば、ポリアリーレンスルフィドを、水、アセトン、N−メチル−2−ピロリドン、塩溶液、及び/又は酢酸若しくは塩酸のような酸性媒体で洗浄することができる。ポリアリーレンスルフィドは、当業者に一般に知られている逐次的方法で洗浄することができる。ポリアリーレンスルフィドは熱水洗浄プロセスにかけることができる。熱水洗浄の温度は、約100℃以上、例えば約120℃より高く、約150℃より高く、又は約170℃より高くてよい。一般に、蒸留水又は脱イオン水を熱水洗浄のために用いることができる。一態様においては、熱水洗浄は、所定量のポリアリーレンスルフィドを所定量の水に加え、圧力容器内において撹拌下で混合物を加熱することによって行うことができる。例として、水1リットルあたり約200g以下のポリアリーレンスルフィドの浴比を用いることができる。熱水洗浄の後、ポリアリーレンスルフィドを、約10℃〜約100℃の温度に維持した温水で数回洗浄することができる。洗浄は、ポリマーの劣化を回避するために不活性雰囲気中で行うことができる。
【0079】
[0059]一態様においては、有機溶媒洗浄を熱水洗浄及び/又は温水洗浄と組み合わせることができる。N−メチルピロリドンのような高沸点有機溶媒を用いる場合には、有機溶媒洗浄の後に水又は温水で洗浄することによって残留有機溶媒を除去することができ、蒸留水又は脱イオン水をこの洗浄のために用いることができる。
【0080】
[0060]本多段階プロセスにしたがって形成されるポリアリーレンスルフィドは、有益な特性を示すことができる。例えば、ISO試験11443にしたがって310℃及び1,200/秒において求められるニートのポリマー(即ち添加剤なし)の溶融粘度は、約200ポイズ〜約700ポイズ、又は一態様においては約220ポイズ〜約650ポイズにすることができる。ポリマーの嵩密度は、一般に、ISO試験1183(ASTM−D792と技術的に同等)にしたがって求めて約0.2g/cm
3〜約1.5g/cm
3の間、例えば約0.3g/cm
3〜約1g/cm
3の間にすることができる。ポリマーの揮発分含量は、真空乾燥後の重量損失に基づいて約0.5重量%以下、例えば約0.2重量%以下にすることができる。
【0081】
[0061]結晶化温度:T
c2は、例えばISO標準規格10350に記載されているようにして示差走査熱量測定によって求めて、約190℃〜約300℃の間、例えば約200℃〜約265℃の間にすることができる。形成されるポリマーのpHは、一般に約3〜約12の間であってよい。ポリアリーレンスルフィドはまた、良好な外観を有することができる。例えば、ポリアリーレンスルフィドは、ASTM−e313にしたがって求めて約18.5未満の黄変指数を有することができる。
【0082】
[0062]本方法によって良好な粒径分布を有するポリアリーレンスルフィドを形成することができる。例えば、d
10値は約15マイクロメートル〜約30マイクロメートルにすることができ、d
50値は約70マイクロメートル〜約100マイクロメートルにすることができ、d
90値は約100マイクロメートル〜約150マイクロメートルにすることができる。粒子の中位径は約100マイクロメートル〜約1000マイクロメートルにすることができる。一態様においては、粒子の約95%以上を約50マイクロメートル〜約150マイクロメートルの間の粒径にすることができる。例えば、粒子の約0.5重量%以下が約2800マイクロメートルより大きい直径を有するようにすることができ、ポリマーの約10重量%以下が約110マイクロメートル未満の直径を有するようにすることができる。
【0083】
[0063]ポリアリーレンスルフィドは、当該技術において一般的に知られているような製品を形成するのに用いることができる。例えば、ポリアリーレンスルフィドを、充填材(例えば繊維状及び/又は粒子状充填材)、カップリング剤、耐衝撃性改良剤、抗菌剤、顔料、潤滑剤、酸化防止剤、安定剤、界面活性剤、ワックス、流動促進剤、固体溶媒、並びに特性及び加工性を向上させるために加える他の材料の1以上のような添加剤と混合することができる。かかる随意的な材料は、混合物中において通常の量で用いることができる。
【0084】
[0064]溶融加工ポリアリーレンスルフィド組成物を形成するために溶融加工する混合物には、混合物の重量基準で約40重量%〜約90重量%、例えば混合物の重量基準で約45重量%〜約80重量%の量のポリアリーレンスルフィド(又は複数のポリアリーレンスルフィドのブレンド)を含ませることができる。
【0085】
[0065]ポリアリーレンスルフィドは、当該技術において公知の技術にしたがって溶融加工することができる。例えば、ポリアリーレンスルフィドを、単軸又は多軸押出機内において、約250℃〜約320℃の温度で1種類以上の添加剤と共に溶融混練することができる。一態様においては、ポリアリーレンスルフィドは、複数の温度区域を含む押出機内で溶融加工することができる。例えば、ポリアリーレンスルフィドは、約250℃〜約320℃の間の温度に維持されている温度区域を含む押出機内で溶融加工することができる。
【0086】
[0066]ポリアリーレンスルフィドを含む物品を形成するための通常の成形プロセスを用いることができる。例えば、押出、射出成形、ブロー成形、熱成形、発泡、圧縮成形、熱間鍛造、繊維紡糸などを用いることができる。
【0087】
[0067]形成することができるポリアリーレンスルフィドを含む成形物品としては、例えば電気器具、電気材料、電子製品、繊維ウエブ、及び自動車工学熱可塑性材料アセンブリのための構造及び非構造成形部品を挙げることができる。代表的な自動車成形プラスチック部品は、ボンネット内部用途、例えば幾つか例を挙げると、ファンカバー、支持部材、配線及びケーブル外被材、カバー、ハウジング、バッテリー皿、バッテリーケース、ダクト、電気ハウジング、ヒューズバスハウジング、ブロー成形容器、不織又は織成ジオテキスタイル、バグハウスフィルター、膜、及びポンドライナーのために好適である。成形品、押出品、及び繊維に加えて、他の有用な物品としては、壁パネル、頭上収納ロッカー、配膳用トレイ、シートバック、客室パーティション、窓カバー、及び集積回路トレイのような電子実装ハンドリングシステムが挙げられる。
【0088】
[0068]ポリアリーレンスルフィドを含む組成物は種々の電気及び電子用途において用いることができ、例えばコネクター及びオーバーモールド(インサートモールド)部品などが包含される。
【0089】
[0069]単に幾つかの態様を示す目的のためであり、本発明又はそれを実施することができる方法の範囲を限定するようにはみなされない下記の実施例によって、本発明の幾つかの態様を示す。他に具体的に示していない限りにおいては、部及びパーセントは重量基準で与える。
【0090】
試験方法:
[0070]溶融粘度:溶融粘度(Pa・秒)は、ISO試験No.11443にしたがって、350℃及び1000秒
−1の剪断速度において、Dynisco 7001毛細管流量計を用いて求めた。流量計オリフィス(ダイ)は、1mmの直径、20mmの長さ、20.1のL/D比、及び180°の入口角を有していた。バレルの直径は9.55mm±0.005m
mであり、ロッドの長さは233.4mmであった。
【0091】
[0071]結晶化温度:結晶化温度(T
c2)は、当該技術において公知の示差走査熱量測定(DSC)によって求めた。再結晶化温度は、冷却サイクル中における冷却発熱から求めた。DSC手順下においては、TA Q2000装置上で行うDSC測定を用いて、ISO標準規格10350において示されているように試料を20℃/分で加熱及び冷却した。
【0092】
[0072]塩素含量:塩素含量は、Parr Bomb燃焼を用いる元素分析、次にイオンクロマト
グラフィーにしたがって求めた。
【0093】
[0073]黄変指数:黄変指数は、ASTM−E313(光源D65;観察角度10°)にしたがって求めた。
【0094】
実施例1:
[0074]第1の反応器に、40.3kgの61%硫化ナトリウム(約2.78水和物)(315モルの硫化物に相当する);及び25kgのNMP(252モルのNMPに相当する)を充填した。次に、第1の反応器を170℃に加熱し、明確な観察できる発熱によって、硫化ナトリウムとNMPの間の反応が起こって、ナトリウムメチルアミノブチレート(SMAB:NMPの加水分解生成物)とナトリウム硫化水素(NaSH)の複合体が形成されたことが示された。
【0095】
[0075]第2の反応器に32kgのNMPを充填し、180℃に加熱した。この時点において、DCBの添加を30kg/時の速度で開始し、反応器を更に加熱した。200℃において、SMAB−NaSH複合体の添加を同じ速度で開始した。反応器頂部に直接フランジで取り付けた洗浄蒸留カラムの中央部分に複合体を加えた。約15〜20%のモノマーが加えられ、反応器が230℃に達した後、モノマーの添加を約20分間減速した。この時間は、その明らかな自触媒挙動の直接的な結果であるPPS重合反応の誘導時間を構成するためのものであった。誘導時間の後、モノマー添加速度を再び30kg/時に上昇させ、反応温度を234℃に制御した。
【0096】
[0076]第2の反応器の内部の圧力は、カラム頂部の圧力逃がしバルブによって約350kPaの大気圧以上の圧力に一定に維持した。バルブを通過する蒸気を凝縮し、より重質のDCB相及びより軽質の水相に相分離した。化学量論に対する適切な制御を維持するために、DCB相はカラム頂部上に完全にポンプで戻した。水相の一部も排出して、DCBと一緒にポンプでカラムに戻した。通常は、還流ポンプ移送速度は20kg/時に近接させた。これは、所定の反応圧力における水の沸点がカラム頂部の近辺で観察されるように制御した。
【0097】
[0077]モノマーの添加が完了した後、圧力逃がしバルブを閉止し、プレポリマーへの転化を最大にするために第2段階混合物を約90分間反応させた。第2の反応器を350kPaに排気し、塩の熱濾過を235℃において開始した。濾過速度は、フィルターケーキが約300mmの高さまで蓄積した後に3000〜5000L/m
2・時であった。溶液中にプレポリマーを保持するために、240℃に加熱した撹拌圧力容器内に濾液を回収した。塩フィルターケーキを、重合反応器内で少なくとも230℃に予め加熱した20LのNMPで2回洗浄した。PPSに富むこれらの洗浄濾液を第1の濾液に加えた。次に、30LのNMPによる第3の洗浄を行った。この希釈洗浄濾液は、別に回収して再使用しなかった。
【0098】
[0078]プレポリマーを含む濾液を重合反応器中に移送して戻し、これを第3の反応器として機能させた。温度を220℃に低下させた。第3の反応段階において、15モルのS
MAB−NaSH複合体を加え、温度を245℃に上昇させ、この温度に90分間の反応時間の間維持した。
【0099】
[0079]次に、30LのNMPを加えて約4モル/モノマー単位のNMP/PPSの比を得て、冷却結晶化において信頼性のある結果を得た。約15モルの酢酸を加えた。
【0100】
[0080]反応混合物を225℃に速やかに冷却し、次に反応器温度が190℃より低くなるまで注意深く温度を制御しながら(オイルジャケットとスラリー温度の間で約20℃の差)結晶化させた。約80℃への更なる冷却を再び迅速に行った。この温度において、スラリーをヌッチェタイプのフィルター中に移し、母液を濾去した。生成物を30LのNMPで1回洗浄した。次に、洗浄濾液の導電度が1mS/cmより低くなるまで、これを水で洗浄した。最後に、ポリマーを真空下90℃において乾燥した。
【0101】
[0081]8つの試料を実験し、下表に示す種々の特性に関して試験した。
【0103】
[0082]結晶化温度T
c2は、冷却結晶化の前に酢酸を反応混合物に加えた場合には上昇した。試料8は、ほぼ同等の溶融粘度を有する試料2及び試料4と比べて明らかにより高いT
c2を有する。中性又は弱酸性のpHの媒体中での結晶化は、ポリマーにとって有利であった。
【0104】
[0083]ポリマー中の有機結合塩素の量は、硫化物との更なる反応(第3段階)、及びしたがって分子量の増加のために利用できる連鎖末端基を表す。塩素の値は、MV<20Pa・秒を有するほぼ全てのポリマーに関して約0.4重量%であることに注目されたい。通常の塩素プレポリマーは約1.0〜1.2重量%の有機結合塩素を有しているので、反応性塩素末端基の約50%しか、第3段階において硫化物によって消費されなかった。これは、第3段階においてより多くの硫化ナトリウムを加えることによって分子量が更に増加する可能性があることを示している。試料6はより高い溶融粘度、及びしたがってより低い塩素値を有する。
【0105】
[0084]第2段階(プレポリマー形成段階)における圧力は、非常に興味深いことが分かった。試料5及び試料2は第2段階において400kPaに維持し、一方、全ての他のバッチはより低い圧力において実施した。より高い圧力は、反応混合物のより高い含水量をもたらした。これによって、より多くの塩素末端基が副反応において消費される。その結果、低い塩素含量を有する低分子量のポリマーが形成された。他方では、400kPaに
おいては、第2段階においてより低い圧力を維持したバッチと比べてより少ないNa
2Sが沈殿しているNaCl中に含まれ、より少ないH
2Sが塔頂から失われた。
【0106】
[0085]通常のバッチにおいては、ユニット運転のために次のサイクル時間を用いた。
【0108】
実施例2:
[0086]2Lの圧力反応器に、443.7gのNMP、20.3gのH
2O、及び84.9gのNaOH(96.4%)を充填した。反応器を密閉し、100℃に加熱した。この混合物に、155.86gのNaSH(71.4%のNaSH及び0.7%のNa
2Sを含む)を加えた。反応器を205℃に加熱してSMAB−NaSH混合物を形成し、水及びNMPを含む75mLの留出物を回収した。
【0109】
[0087]このSMAB−NaSH混合物に、NMP中のパラジクロロベンゼン(p−DCB)の予め加熱した混合物(74重量%溶液)を加えた。反応器を密閉し、温度を235℃に上昇させて1時間保持した。次に、プレポリマーを形成するために、温度を245℃に上昇させて更に3時間保持した。
【0110】
[0088]プレポリマーが形成された後、反応器を350kPaに維持し、塩の熱濾過を235℃において開始した。濾過速度は、フィルターケーキが約300mmの高さまで蓄積した後に3000〜5000L/m
2・時であった。プレポリマーを溶液中に維持するために、濾液を240℃に加熱した撹拌圧力容器中に回収した。塩フィルターケーキを、重合反応器内で少なくとも230℃に予め加熱した300gのNMPで3回洗浄した。PPSに富むこれらの洗浄濾液を第1の濾液に加えた。
【0111】
[0089]プレポリマーを含む濾液を、更に重合するために重合反応器中に移送して戻した。温度を220℃に低下させた。235℃におけるフラッシュ蒸留を用いて濾液を固形分20%に濃縮して、全ての未反応のpDCB、H
2O副生成物、過剰のNMP、及び他の揮発分を除去した。
【0112】
[0090]更なるSMAB−NaSH複合体を加えた。更なるNMPを加えて約4モル/モノマー単位のNMP/PPSの比を得て、約15モルの酢酸を加えた。
【0113】
[0091]2つの実験においては、この第3段階に更なるジハロ芳香族モノマーを加えなかった。2つの他の実験においては、プロセス中において形成されるポリフェニレンスルフィドの重量に対して1.25重量%の量のPDCBを加えた。
【0114】
[0092]反応器を245℃に加熱し、この温度を1時間保持し、次に温度を260℃に上昇させ、それを3時間保持することによって最終重合を行った。保持時間の後、ポンプを通して90gの水を加え、反応器の圧力を100psiから270psiまで上昇させた。添加の後、温度を冷却して顆粒状のPPSポリマーを得た。PPSを単離するために、スラリーを濾過し、1LのNMPで1回、次に60℃において1Lの水中3%酢酸、次に80℃の水で3回洗浄した。洗浄したポリマーを104℃の真空オーブンで乾燥した。
【0115】
[0093]4つの試料を黄変指数に関して検査した。第3段階に更なるジハロ芳香族モノマーを加えなかった試料は、それぞれ15.29及び17.93の黄変指数を有することが分かった。第3段階にPDCBを加えた試料は、それぞれ9.4及び7.8の黄変指数を有することが分かった。
【0116】
[0094]本発明を示す目的のために幾つかの代表的な態様及び詳細を示したが、本発明の
範囲から逸脱することなく種々の変更及び修正を行うことができることは当業者に明らか
であろう。
以下に、出願時の特許請求の範囲の記載を示す。
[請求項1]
ポリアリーレンスルフィドを形成するための多段階方法であって、
アルカリ金属有機アミンカルボン酸塩及び硫化水素アルカリ金属を含む複合体を、第1
のジハロ芳香族モノマーと反応させてポリアリーレンスルフィドプレポリマーを形成し;
その後、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを有機アミド溶媒中で反応させてポリ
アリーレンスルフィドを形成する第2の重合反応を行う;
ことを含み;
第2の重合反応中に存在する水の、第2の重合反応のイオウ含有モノマーに対するモル
比は約0.2未満である、前記方法。
[請求項2]
請求項1に記載の方法であって、当該プレポリマーを形成する反応を第1の反応器内で
行い、ポリアリーレンスルフィドを形成する第2の重合反応を第2の反応器内で行い、当
該方法が、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーの形成中に第1の反応器から蒸気を取
り出すことを含んでもよい、前記方法。
[請求項3]
第2の有機アミド溶媒、例えば硫化ナトリウムのようなアルカリ金属硫化物、及び水を
反応させて、アルカリ金属有機アミンカルボン酸塩及び硫化水素アルカリ金属を含む当該
複合体を形成することを更に含み、例えば当該プレポリマーを形成する反応を第1の反応
器内で行い、ポリアリーレンスルフィドを形成する第2の重合反応を第2の反応器内で行
い、当該複合体の形成を第3の反応器内で行う、請求項1に記載の方法。
[請求項4]
硫化水素アルカリ金属とアルカリ金属水酸化物の反応によってアルカリ金属硫化物を生
成させ、及び/又は化学量論的に過剰のアルカリ金属硫化物を反応に供給して当該複合体
を形成する、請求項3に記載の方法。
[請求項5]
有機アミド溶媒及び第2の有機アミド溶媒が同一である、請求項3に記載の方法。
[請求項6]
請求項3に記載の方法であって、複合体形成反応によって水が副生成物として形成され
、当該方法が当該複合体から水を分離することを含む、前記方法。
[請求項7]
有機アミド溶媒がN−メチル−2−ピロリドンであり、及び/又はイオウ含有モノマー
が硫化ナトリウム又は硫化水素ナトリウムであり、及び/又は第1のジハロ芳香族モノマ
ーがジクロロベンゼン、及び場合によっては異なる複数のジハロ芳香族モノマーの混合物
を含む、請求項1に記載の方法。
[請求項8]
当該複合体がSMAB−NaSHである、請求項1に記載の方法。
[請求項9]
3つ以上の反応性官能基を有するモノマーを、第1のジハロ芳香族モノマー及び当該複
合体と反応させてポリアリーレンスルフィドプレポリマーを形成することを更に含む、請
求項1に記載の方法。
[請求項10]
第1のジハロ芳香族モノマーの、当該複合体の硫化水素アルカリ金属に対する比が約1
〜約1.035であり、及び/又は当該複合体の硫化水素アルカリ金属の、第2の重合反
応における有機アミド溶媒に対するモル比が約2〜約2.5である、請求項1に記載の方
法。
[請求項11]
当該プレポリマーが約500g/モル〜約30,000g/モルの重量平均分子量を有
する、請求項1に記載の方法。
[請求項12]
請求項1に記載の方法であって、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを形成する反
応によって塩も形成され、当該方法は当該プレポリマーから当該塩を分離することを更に
含む、前記方法。
[請求項13]
第2の重合の前に、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーを、(第1のジハロ芳香族
モノマーと同一であるか又は異なる)第2のジハロ芳香族モノマー及びイオウ含有モノマ
ーと混合し、例えば、ポリアリーレンスルフィドプレポリマーと混合するイオウ含有モノ
マーの量は、所定量のポリアリーレンスルフィドを形成するのに必要な全量の約10%以
下であり、及び/又はポリアリーレンスルフィドプレポリマーと混合する第2のジハロ芳
香族モノマーの量は、ポリアリーレンスルフィドの重量に対して約2%以下である、請求
項1に記載の方法。
[請求項14]
第1の量の当該複合体を第1のジハロ芳香族モノマーと反応させ、第2の量の複合体を
当該プレポリマー及び第2のジハロ芳香族モノマーと反応させ、イオウ含有モノマーは第
2の量の当該複合体を含む、請求項13に記載の方法。
[請求項15]
有機アミド溶媒の、イオウ含有モノマーに対する比が、約1〜約5である、請求項13
に記載の方法。
[請求項16]
ポリアリーレンスルフィドを精製し、及び/又はポリアリーレンスルフィドを1種類以
上の添加剤と混合することを更に含む、請求項1に記載の方法。
[請求項17]
請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド、例えばポリアリーレンスルフィドが約1
5以下の黄変指数を有する生成物を含む成形物。
[請求項18]
ポリアリーレンスルフィドを形成するためのシステムであって、
アルカリ金属有機アミンカルボン酸塩及び硫化水素アルカリ金属を含む複合体を形成す
るための第1の反応器であって、第1の反応器から蒸気を取り出すための第1の出口、及
び第1の反応器から当該複合体を取り出すための第2の出口を含む、反応器;
当該複合体とジハロ芳香族モノマーとの間の反応によってポリアリーレンスルフィドプ
レポリマーを形成するための第2の反応器であって、第1の反応器から当該複合体を受容
するための第1の入口、及びジハロ芳香族モノマーを受容するための第2の入口を含み、
第2の反応器からポリアリーレンスルフィドプレポリマーを取り出すための第1の出口、
及び第2の反応器から蒸気を取り出すための第2の出口を含む、反応器;並びに
ポリアリーレンスルフィドプレポリマー、第2のジハロ芳香族モノマー、及びイオウ含
有モノマーの間の反応によってポリアリーレンスルフィドを形成するための第3の反応器
であって、第2の反応器から当該プレポリマーを受容するための第1の入口、第2のジハ
ロ芳香族モノマーを受容するための第2の入口、及びイオウ含有モノマーを受容するため
の第3の入口を含み、第3の反応器からポリアリーレンスルフィドを取り出すための第1
の出口、及び第3の反応器から蒸気を取り出すための第2の出口を含む、反応器;
を含む、前記システム。
[請求項19]
当該複合体を第1の反応器から第3の反応器へ移送するためのラインを更に含み、及び
/又は場合によっては当該プレポリマーから塩を除去するための第2の反応器と第3の反
応器との間の分離ユニットを更に含む、請求項18に記載のシステム。