特許第6864842号(P6864842)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6864842
(24)【登録日】2021年4月7日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】スピーカ
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/30 20060101AFI20210419BHJP
【FI】
   H04R1/30 B
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-561660(P2019-561660)
(86)(22)【出願日】2018年12月21日
(86)【国際出願番号】JP2018047300
(87)【国際公開番号】WO2019131529
(87)【国際公開日】20190704
【審査請求日】2019年12月20日
(31)【優先権主張番号】特願2017-253091(P2017-253091)
(32)【優先日】2017年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(72)【発明者】
【氏名】冨田 雄助
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 和幸
【審査官】 渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭59−169183(JP,U)
【文献】 特開平03−071797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/22
H04R 1/28
H04R 1/30
H04R 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板と、
前記振動板の内周側に位置するセンターキャップと、
前記センターキャップの直径よりも大きい内径の中央孔を有し、前記センターキャップが前記中央孔に臨んだ状態で、前記振動板の内周側の領域を覆うように配置されたイコライザと、
を備え、
前記イコライザの内周端部は、前記センターキャップと前記振動板との近接部に近接し、
前記イコライザにおける前記振動板による放音方向側の第1の面は曲面で形成され、
前記イコライザにおける前記第1の面とは反対側の第2の面は、前記振動板の前記放音方向側の第3の面と対向し、
前記イコライザは、前記第3の面と直交する方向の前記第2の面と前記第3の面との距離が一定である定距離対向部と、外周端部の前記第2の面に設けられ、前記振動板に接近するよう突出した凸部とを有する
スピーカ。
【請求項2】
前記凸部は、前記外周端部の全周に設けられている請求項1に記載のスピーカ。
【請求項3】
前記凸部は、前記外周端部の周方向に部分的に設けられている請求項1に記載のスピーカ。
【請求項4】
前記イコライザは、前記中央孔内に、前記センターキャップの一部を覆うキャップ対向部をさらに有し、
前記キャップ対向部の外周端部と前記イコライザの内周端部との間に音の放出口を有する
請求項1〜3のいずれか1項に記載のスピーカ。
【請求項5】
前記イコライザは、前記振動板と対向する面に吸音構造を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載のスピーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、イコライザを備えるスピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
中央が前方に突出するセンターキャップが取り付けられたコーン型の振動板では、センターキャップの周縁部及びその近傍が環状に窪んだ凹部となっている。このようなスピーカを動作させると、凹部近くの前方空間において、センターキャップからの出力音と振動板からの出力音とが干渉して特定の周波数にピークまたはディップが発生し周波数特性が乱れる、いわゆる前室効果が生じることが知られている。前室効果はキャビティ効果とも称される。特許文献1には、前室効果を抑制する技術が記載されている。
【0003】
特許文献2にはセンターキャップが取り付けられた振動板を備えるスピーカにおいて、センターキャップの前方側に出力音の周波数特性などを調整するためのイコライザを配置することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−343804号公報
【特許文献2】特開平5−103388号公報
【発明の概要】
【0005】
特許文献1に記載されたスピーカは、振動板を薄く(高さを低く)することで前室効果を抑制するものであり、放出された音の干渉を抑制するものではない。
【0006】
特許文献2に記載されたスピーカにおいて、イコライザは、出力音の周波数特性などを調整して音質を改善するために、センターキャップを覆うようにその前方に近接して配置されている。しかしながら、特許文献2に記載のイコライザは前室効果を抑制するものではなく、前室効果によって再生周波数特性にピークまたはディップによる乱れが生じている状態では、イコライザによる音質改善には限界がある。
【0007】
実施形態は、前室効果を抑制して高音質が得られるスピーカを提供することを目的とする。
【0008】
実施形態の一態様によれば、振動板と、前記振動板の内周側に位置するセンターキャップと、前記センターキャップの直径よりも大きい内径の中央孔を有し、前記センターキャップが前記中央孔に臨んだ状態で、前記振動板の内周側の領域を覆うように配置されたイコライザとを備え、前記イコライザの内周端部は、前記センターキャップと前記振動板との近接部に近接し、前記イコライザにおける前記振動板による放音方向側の第1の面は曲面で形成され、前記イコライザにおける前記第1の面とは反対側の第2の面は、前記振動板の前記放音方向側の第3の面と対向し、前記イコライザは、前記第3の面と直交する方向の前記第2の面と前記第3の面との距離が一定である定距離対向部と、外周端部の前記第2の面に設けられ、前記振動板に接近するよう突出した凸部とを有するスピーカが提供される。
【0009】
実施形態のスピーカによれば、前室効果を抑制して高音質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1実施形態のスピーカを示す斜視図である。
図2図2は、図1のS2−S2位置での断面図である。
図3図3は、第1実施形態のスピーカを前方から見た模式的な平面図である。
図4図4は、第1実施形態のスピーカが備える振動板5及びイコライザ91の構成を説明するための模式的な断面図である。
図5図5は、第1実施形態のスピーカ及び従来のスピーカの再生周波数特性を示すグラフである。
図6図6は、第2実施形態のスピーカを示す模式的な断面図である。
図7図7は、第3実施形態のスピーカを示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1実施形態>
図1は、2ウエイのコアキシャルスピーカ53を示す。第1実施形態のスピーカは、2ウエイのコアキシャルスピーカ53におけるツイータ51である。コアキシャルスピーカ53は、高音域を再生するツイータ51と低音域を再生するウーハ52とを有する。
【0012】
ツイータ51及びウーハ52は、それぞれの軸線CL51,CL52が同軸の軸線CL53上に位置し、前方側に放音するよう構成されている。ここで、軸線CL51及び軸線CL52は、ツイータ51及びウーハ52のそれぞれの振動板の放音軸であり、軸線CL53は、コアキシャルスピーカ53の放音軸である。ウーハ52は振動板30を有し、振動板30の外周端部がエッジ20を介してフレーム10に取り付けられている。
【0013】
図2は、図1におけるS2−S2位置での断面図であり、ツイータ51の縦断面図である。図1及び図2において、コアキシャルスピーカ53またはツイータ51の前後方向が矢印で規定されている。前方は、軸線CL53に沿い、ツイータ51の振動板5に対し磁気回路Mとは反対側である。前方はコアキシャルスピーカ53の放音方向である。
【0014】
ツイータ51は、ウーハ52のヨークの中心部位に連結された軸線CL53上に延びるツイータブラケット52aの先端にねじなどによって固定されて、ウーハ52と一体化されている。ツイータ51は、例えば前方に向かって径が拡大するコーン状の振動板5を有するダイナミック型のスピーカである。振動板5の形状は、軸線を含む断面が直線状になるコーン状に限らず、曲線状になる朝顔の花弁状などであってもよい。以下、振動板の形状をコーン状として説明する。
【0015】
図1及び図2に示すように、ツイータ51は、ヨーク1、ヨーク1に固定された環状のマグネット2、及びマグネット2に固定されたプレート3からなる磁気回路Mを有する。プレート3の前面には、ツイータ51のフレーム4が固定されている。フレーム4は前方側に向け径が拡大する形状を有し、最前部には環状の枠部4aを有する。枠部4aには、コーン状(または朝顔の花弁状)の振動板5の外周端部が、エッジ6を介して取り付けられている。
【0016】
振動板5の中央部には円孔である中央孔5cが形成されている。中央孔5cには、円筒状のボイスコイルボビン7が、その軸線CL7を軸線CL53と同軸として後方側に延びるよう接着されている。
【0017】
振動板5の中央部には、前方に凸で球面形状に形成されたセンターキャップ8が、ボイスコイルボビン7の前端部を覆うように接着されている。このとき、センターキャップ8と振動板5とは谷部85を形成し、谷部85においてセンターキャップ8と振動板5とが近接する。このときの谷部85を近接部とする。センターキャップ8と振動板5の構成は限定されない。
【0018】
センターキャップ8がボイスコイルボビン7と接着され、振動板5との間に距離を有している場合、センターキャップ8と振動板5の最接近部を近接部とする。センターキャップ8が振動板5と接着されている場合は、接着部が近接部となる。
【0019】
センターキャップ8と振動板5とが別部品である場合、センターキャップ8と振動板5とを接続する接続箇所は、センターキャップ8と振動板5との高周波数領域における振動態様が変化する境界となる。この接続箇所が近接部である。センターキャップ8と振動板5とが一体物である場合、センターキャップ8とボイスコイルボビン7との接合部が高周波数領域における振動態様が変化する境界である。この接合部が近接部となる。
【0020】
センターキャップ8の形状は、前方に凸の形状に限定されず、後方に凸の形状であってもよい。図2に示すように、センターキャップ8の曲率中心C8は、軸線CL53上に位置している。
【0021】
フレーム4の枠部4aの前面には、イコライザ91を有するイコライザパネル9が取り付けられている。イコライザパネル9は例えば樹脂製であり、軸線CL53を中心とする環状のフレーム9aを有する。イコライザ91は、概略、朝顔の花弁の一部に類似する形状に形成されている。イコライザ91は、イコライザパネル9に対し、直径方向に延びる2つの支持腕9b,9bにより連結するように支持されている。
【0022】
イコライザ91は、軸線CL53を中心軸とする中央孔91aを有する環状部材である。イコライザ91は、スリットなどを有して周方向に完全に連結していなくてもよいが、ここでは完全に連結した環状部材であるとする。
【0023】
次に、図3及び図4を参照して、イコライザ91と、センターキャップ8を含む振動板5との詳細な構成をも説明する。図3は、センターキャップ8、振動板5、及びイコライザ91を模式的に示す平面図である。図3に示すように、イコライザ91の内径D91a及び外径D91bはセンターキャップの外径D8bより大きい。
【0024】
図4は、ツイータ51のセンターキャップ8、振動板5、及びイコライザ91のみを抽出して図示した模式的な断面図である。
【0025】
図4において、中央孔91aの中心軸は軸線CL53と一致し、中央孔91aは、センターキャップ8の直径(外径D8b)よりも大きい開口として形成されている。詳しくは、イコライザ91の内径D91aは、谷部85の直径でもあるセンターキャップ8の外径D8bに対しわずかに大きく設定されている。イコライザ91の内径D91aがセンターキャップ8の外径D8bよりもわずかに大きいため、ツイータ51を軸線CL53に沿って前方側から見ると、センターキャップ8は隠れることなく、センターキャップ8の全体が中央孔91aに臨んでいる。イコライザ91は、振動板5の内周側の領域を覆うように配置されている。
【0026】
イコライザ91の中央孔91a側の端部である内周端部が谷部85の直上に位置すると、センターキャップ8から放出される音のうち、センターキャップ8の根元部からの出力音が、イコライザ91の第1の面である前面91bにて形成されるホーンに導かれない。このため、内径D91aを外径D8bよりわずかに大きくすることで、センターキャップ8から発せられる音響エネルギを効率よく利用できる。イコライザ91の内周端部が、上記の近接部に近接していれば、センターキャップ8から発せられる音響エネルギを効率よく利用できるという効果が得られる。
【0027】
イコライザ91の外径D91bは、振動板5の外径D5bよりも小さく設定されている。外径D91bは、外径D5bの概ね1/2以下であることが望ましい。外径D91bは、内径D91aの2倍以下であることが望ましい。内径D91aと外径D8bとの最大径差は、例えば直径で外径D8bの概ね1/10であることが望ましい。
【0028】
イコライザ91の前面91bと前面91bとは反対側の第2の面である後面91cとは、異なる形状の曲面である。具体的には、前面91bは曲面で形成され、センターキャップ8から放音された音に対してホーンの役割を果たす。後面91cは、対向する振動板5の前面5a(第3の面)に沿った面であって、振動板5の前面5aと直交する方向の距離Laを有するように形成されている。後面91cの全体が、振動板5の前面5aとの距離Laが一定である定距離対向部Taを形成することが好ましい。距離Laは、ツイータ51に許容される最大振幅の音声信号が入力した際の振動板5の振動に干渉しない範囲で、できるだけ小さい値に設定される。
【0029】
一般的に、高音域において、センターキャップ8からは振動板5のコーン状の部分よりも大きな音圧が得られる。上記のようにセンターキャップ8の全体が中央孔91aに臨んでいるので、センターキャップ8からの高音域の出力音は妨げられることなく外部に放出することができ、高音域の出力音圧の低下が防止される。さらに、イコライザ91の前面91bが曲面となっているので、ホーン効果によって、センターキャップ8からの音が前方に放出される。
【0030】
前面91bの曲面形状は、例えば、指数関数ホーン、双曲線ホーン、直円錐状ホーンなどのいずれの形状であってもよい。また、イコライザ91の外径D91bと、イコライザ91の前端91eの径とは、一致していてもよいし、一致していなくてもよい。第1実施形態において、前端91eの径は外径D91bより小さいが、外径D91bより大きくてもよい。
【0031】
イコライザ91の後面91cは、振動板5の前面5aに近接している。後面91cの内周端部は谷部85に近接している。上記のように、後面91cは、振動板5の前面5aに対して直交する方向に一定の距離La(例えば1mm以下)で僅かに離隔している。イコライザ91の軸線CL53に平行な方向の厚さを厚さtとすると、イコライザ91は、厚さtが中央孔91aの縁部から径方向外側に向かうに従って連続的に増加する形状に形成されている。
【0032】
図4において、前室効果に特に影響する谷部85の前方空間Vaは、センターキャップ8の頂点8aを通り軸線CL53に直交する面の位置を示す直線LNaと、振動板5及びセンターキャップ8とに挟まれた環状の空間であるとする。前方空間Vaはツイータ51の前室である。図4において、前方空間Vaには網点が付されている。なお、センターキャップ8が後方に凸状(前方から見て凹状)である場合には、振動板5の外径D5bに対して1/2〜2/3程度の径の範囲において、後方側の振動板5とセンターキャップ8との間の空間を前室とする。
【0033】
前室において、センターキャップ8からの出力音と振動板5からの出力音が干渉して特定の周波数にピークまたはディップが発生して周波数特性が乱れる現象を前室効果と呼ぶ。センターキャップ8の凹凸形状または曲面形状に関わらず、センターキャップ8からの音の出力方向は全方位に渡っており、振動板5からの出力音との干渉が発生する。
【0034】
イコライザ91は、内周端部91dが前方空間Vaに進入し、谷部85に接近した位置にある。これにより、コーン状の振動板5からの出力音とセンターキャップ8からの出力音との干渉が、内周端部91dが遮蔽壁として機能することによって防止され、ツイータ51の出力音の周波数特性の乱れが生じにくくなっている。
【0035】
また、イコライザ91は、振動板5の外周側の領域は開放し、内周側の領域を環状に覆うように設けられている。詳しくは、イコライザ91は、振動板5のエッジ6側の領域である外周縁側の領域を覆わず、前方空間Vaに対応する、振動板5の谷部85側の領域である内周縁側の領域を覆うように設けられている。これにより、振動板5におけるセンターキャップ8に近い内周側から前方に放出される音が、イコライザ91によって妨げられる。イコライザ91がない場合における振動板5から放出された音が進むべき方向の音が、イコライザ91により妨げられて放出方向が変化し、音はイコライザ91に覆われた領域の端から放出される。
【0036】
このように音の放出位置及び方向がずれ、ホーン外周からの距離がある位置で放音されるため、前方空間Vaの外側でセンターキャップ8からの出力音との干渉が仮に起きたとしても、その程度は無視できる程度となる。よって、ツイータ51の出力音の周波数特性の乱れは生じにくい。
【0037】
また、イコライザ91は、振動板5の径方向の一部の範囲を、近接した位置で環状に覆う。振動板5が振動すると、イコライザ91と振動板5との間の空間の空気が膨張または圧縮される。空気の膨張または圧縮による抵抗によって、イコライザ91によって覆われている部分の振動板5の振動が抑制され、平滑化される。よって、振動板5の振動とボイスコイルボビン7の振動との位相が揃うため、振動板5からの放出音のひずみ成分が減少する。
【0038】
一方で、振動板5の径方向外側の部分は、イコライザ91には覆われず開放されている。この開放された部分からの出力音圧は十分確保されるため、振動板5全体として出力音の音圧が過度に低下することはない。すなわち、ツイータ51はイコライザ91を備えることにより、振動板5からの出力音の音圧を確保しつつ、センターキャップ8からの出力音と干渉する振動板5の内周側からの出力音を抑制する。よって、イコライザ91を備えるツイータ51は、ひずみ成分を減少させて、高音質を得ることができる。
【0039】
振動板の放音方向のごく近傍に振動板の形状に沿うような形状の遮蔽物があると、振動板と遮蔽物の間の空気が少なくなる。振動板が放音方向に移動した際には、遮蔽物がない場合と比べて振動板の放音方向側の空気の圧力が高くなって空気が圧縮される。一方、振動板が放音方向と反対に移動した際には、振動板の放音方向側の空気の圧力が低くなって、周囲からの空気の圧力が高くなる。
【0040】
その結果、遮蔽物の存在は振動板の振動にとって抵抗となり、振幅が制限される。また、振動板と遮蔽物との間隙が小さいためパスカルの原理を近似的に適用できるので、振動板の遮蔽領域にかかる圧力が均一となる。その結果、遮蔽領域全体で振動の位相が揃うようになり、かつ、振幅が平滑化される。
【0041】
以上の原理によって、振動板5の振幅または振動の位相の平滑化によって、振動板5の振動は一般にピストン振動と呼ばれる振動に近くなるため、ボイスコイルボビン7の振動との位相が揃うようになる。
【0042】
このように、イコライザ91は、振動板5のコーン状の部分による出力音の音質向上及び音圧維持を図り、かつセンターキャップ8からの出力音を、ホーンとして高効率に放出する。さらに、イコライザ91は、振動板5のコーン状の部分からの出力音とセンターキャップ8からの出力音との干渉を効果的に防止するので、ツイータ51の周波数特性においてピークまたはディップが生じにくく、出力音の周波数の乱れを抑制して高音質が得られる。
【0043】
イコライザ91の外径D91bと、振動板5の外径D5bまたは中央孔91aの内径D91aとの各比率、並びに、イコライザ91の内径D91aとセンターキャップ8の外径D8bとの径差は、用いる磁気回路Mまたは振動板5の形状及び特性などに応じて自由に設定することができる。
【0044】
上記のように、出力音の音圧維持の観点で好適なのは、
外径D91b≦0.5×外径D5b
外径D91b≦2×内径D91a
内径D91aと外径D8bとの最大径差≒0.1×外径D8b
である。
【0045】
図5は、イコライザ91を備えるツイータ51と、比較のためツイータ51からイコライザ91を外したものに相当する従来のツイータとを、同じ入力信号で駆動させたときの、周波数−音圧特性を示すグラフである。測定方向は軸線CL51上である。図5において、実線がツイータ51の特性であり、破線が従来のツイータの特性である。
【0046】
図5に示すように、ツイータ51の特性は、従来のツイータの特性と比べて、概ね9kHz〜17kHzの範囲で高い音圧が得られていることがわかる。これは、イコライザ91の内周端部91dによる振動板5からの出力音とセンターキャップ8からの出力音との干渉防止、及び、イコライザ91とそれが覆う部分の振動板5との近接空間の振動時の空気の膨張または圧縮による不要な共振の抑制の結果であると推察される。このように、ツイータ51は、前室効果を抑制して高音質が得られる。
【0047】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態のスピーカであるツイータ51Aを示す。ツイータ51Aは、イコライザ92及び振動板5Aを備える。図6は、振動板5Aと、それに対応して設けられたイコライザ92とを示す模式的に示している。図6は、図4に対応する。
【0048】
イコライザ92は、コーン状の振動板5Aの内周側の領域を覆う部分である環状部93と、センターキャップ8Aの一部を覆うキャップ対向部94とを有する。環状部93はイコライザ91に相当する。すなわち、環状部93は中央孔93aを有し、前面93bが曲面とされ、後面93cが振動板5Aの前面5Aaに対して直交する方向の距離LAaが一定の面とされている。
【0049】
キャップ対向部94は、中央孔94aを有し、後面94cがセンターキャップ8Aの前面8Aaに対して直交する方向の距離LAbが一定の面とされている。キャップ対向部94の前面94bは、軸線CL51Aに平行な方向での厚さtがほぼ一定になるように形成されている。
【0050】
このように、イコライザ92は、センターキャップ8Aに近接して配置され、その一部を覆うキャップ対向部94を有している。この構造は、振動板5Aの表面積に対しセンターキャップ8Aが大型でその表面積が比較的大きい場合に有効である。センターキャップ8Aが大型であると、センターキャップ8Aからの出力音は十分に大きい。キャップ対向部94がセンターキャップ8Aの一部を覆ってセンターキャップ8Aからの出力音圧を抑制すると、センターキャップ8Aの過剰な振動に伴い生じる不要な共振を低減することができる。よって、振動板5Aからの出力音圧とセンターキャップ8Aからの出力音圧とのバランスを取ることができる。
【0051】
このように、ツイータ51Aは、イコライザ92が環状部93を備えることで、ツイータ51と同様の効果が得られ、さらにキャップ対向部94を備えることで、センターキャップ8Aの出力音質の改善を図ることができる。
【0052】
キャップ対向部94は、キャップ対向部94の外周端部と環状部93の内周端部との間に音の放出口となる狭い空間、いわゆるホーンのスロートを形成する。通常、センターキャップの中央から放出された音は、ホーン効果が得られにくい。そこでキャップ対向部94を設けてセンターキャップ8Aの中央から放出される音の音圧を高めることにより、中央から放出された音をスロートに導きやすくすることができる。この構造によって、センターキャップ8Aからの出力音を曲面である環状部93の前面93bにより多く導き、高いホーン効果を得ることができる。
【0053】
図6に示すように、イコライザ92は、環状部93の後面93cに窪み93c1を有していてもよい。窪み93c1は、振動板5Aの前面5Aaと環状部93の後面93cとの間で往復反射して定在する音のエネルギを吸収して減衰させ、振動板5Aからの出力音を抑制する吸音構造となる。振動板5Aからの出力音を抑制することで、センターキャップ8Aからの出力音との干渉による前室効果をさらに抑制し、高音質を得ることができる。
【0054】
吸音構造は、エネルギを吸収して減衰させることができればよい。例えば、吸音構造は、イコライザ92の前面方向に向かい孔径が小さくなる、くさび形状であってもよく、周状の溝であってもよい。吸音構造は、ディンプルが多数配置された形状であってもよく、不規則な形状の孔であってもよい。イコライザ92に、エネルギを吸収して減衰させることができるグラスウールなどの多孔質材料による吸音材を振動板5Aに接触しないように貼付してもよい。
【0055】
なお、第1実施形態のツイータ51におけるイコライザ91の後面91cに窪み93c1などの吸音構造を設けてもよい。
【0056】
<第3実施形態>
図7は、第3実施形態のスピーカであるツイータ51Bを示す。ツイータ51Bは、イコライザ91の代わりにイコライザ91’を備える。図7に示すように、イコライザ91’の後面91cの外周端部に、振動板5の前面5aに接近するよう突出した凸部91fが設けられている。凸部91fは、外周端部の全周に設けてもよいし、周方向に部分的に円弧状に設けてもよい。
【0057】
凸部91fにより、イコライザ91’の後面91cと振動板5の前面5aとの間の空気が、ツイータ51Bの動作時に外周側から外部に逃げにくくなる。そのため、振動板5の振動に伴う空気の膨張または圧縮によってより大きな抵抗が生じ、振動板5の振動がより抑制される。これにより、振動板5からの出力音圧も抑制されるが、振動板5に生じる不要な共振もさらに抑制され、ツイータ51Bの出力音の音質が向上する。
【0058】
第3実施形態において、後面91cにおける凸部91f以外の部分が、振動板5の前面5aとの直交する方向の距離Laが一定の定距離対向部Taとなる。外周端部に凸部91fを設けることにより、凸部91f側からの音の出力が制限され、ホーン内側からの出力を増強させる。また、ホーン内側からの出力の増強により、凸部91fがない状態と比べ、前面91bによって形成されたホーンロードを通過する出力が増え、より高いホーン効果を得ることができる。なお、凸部91fに相当する凸部を、第2実施形態のイコライザ92の環状部93に設けてもよい。
【0059】
第1〜第3実施形態のスピーカとして、イコライザ91、92、または91’を備えるツイータ51、51A、または51Bを説明したが、スピーカはツイータに限定されず、スコーカ、ウーハ、またはフルレンジのスピーカであってもよい。
【0060】
上述のように、センターキャップ8は、前方に凸状のものに限定されず、後方に向かって凸状の形状(前方から見て凹状)を有し、振動板5との間に谷部85を形成しない形状であってもよい。この場合においてもセンターキャップ8と振動板5の出力音の干渉は発生するため、イコライザ91、92、または91’によってセンターキャップ8からの出力音にホーン効果を持たせ、振動板5の内周部からの出力音を圧縮することで、干渉を防止し、高音質を得ることができる。
【0061】
本発明は以上説明した第1〜第3実施形態のスピーカに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【0062】
本願の開示は、2017年12月28日に出願された特願2017−253091号に記載の主題と関連しており、それらの全ての開示内容は引用によりここに援用される。
図1
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図5
図6
図7