特許第6864897号(P6864897)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6864897
(24)【登録日】2021年4月7日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】顔料粉体の表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C09C 3/12 20060101AFI20210419BHJP
   C09C 3/10 20060101ALI20210419BHJP
   C09C 1/00 20060101ALI20210419BHJP
   C07F 7/18 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
   C09C3/12
   C09C3/10
   C09C1/00
   C07F7/18 B
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-200887(P2016-200887)
(22)【出願日】2016年10月12日
(65)【公開番号】特開2018-62562(P2018-62562A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】391015373
【氏名又は名称】大東化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100097755
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】鳥山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】後藤 武弘
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−541486(JP,A)
【文献】 特開2011−105832(JP,A)
【文献】 特開平05−221640(JP,A)
【文献】 特開2010−138156(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/043453(WO,A1)
【文献】 特表2010−531907(JP,A)
【文献】 特開2010−083846(JP,A)
【文献】 特開2011−037812(JP,A)
【文献】 特開2011−111398(JP,A)
【文献】 特開2007−238690(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/010671(WO,A1)
【文献】 特開2007−254757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 3/12
C09C 3/10
C09C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化ナトリウムを炭素数1〜4のアルコールに溶解させたアルコール溶液に下記化学式(1)又は(2)に示されるシラン化合物を溶解させた溶解液を、攪拌している顔料粉体に滴下することにより、顔料粉体にシラン化合物を表面処理することを特徴とする顔料粉体の表面処理方法。
(R2nSi(OC2m+1 ・・・・(1)
(上記化学式(1)において、Rは炭素数3〜21の炭化水素、ポリエーテル基あるいはパーフルオロアルキル基を示し、それら鎖長中にアミノ基、水酸基等の官能基を有していても良く、その形態は直鎖状もしくは分岐状であり、単一鎖長あるいは複合鎖長であっても良い。nは1〜12、mは1〜3の整数である。a、bは1〜3の整数であり、a+b=4である。)
【化2】
(上記化学式(2)においてRはCHまたはCを示し、Rは炭素数1〜26の飽和もしくは不飽和の炭化水素を示し、それらは直鎖状あるいは分岐状であってもよい。また、pは3〜100の整数である。)
【請求項2】
前記水酸化ナトリウムの炭素数1〜4のアルコール溶液の顔料粉体に対する重量比が0.1〜0.6倍であることを特徴とする請求項1に記載の顔料粉体の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料粉体の表面にシラン化合物を表面処理する方法に関し、例えばファンデーション、アイシャドウ、ほほ紅等のメイクアップ化粧料、あるいはサンスクリーン化粧料に配合される顔料粉体の表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シラン化合物が表面処理された顔料粉体を得るための表面処理方法として、1)直接シラン化合物と顔料粉体とを混合する方法、あるいは、2)シラン化合物を溶剤に溶解または懸濁してそれらの溶液と顔料粉体とを混合したのち溶剤を除去し必要に応じて粉砕を行う方法が知られている(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−181136号公報
【特許文献2】特開2007−238690号公報
【0004】
しかしながら、上記従来の表面処理方法では、シラン化合物の顔料粉体への付着量は顔料粉体の表面積や反応基数によって異なるが、顔料粉体に対して一定の配合量以上増加させることができないという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述のような問題点に鑑みてなされたもので、従来方法に比べてより多くのシラン化合物を顔料粉体表面に付着させることのできる顔料粉体の表面処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、顔料粉体とシラン化合物とを、水酸化ナトリウムを炭素数1〜4のアルコールに溶解させた溶媒中で反応させ、反応終了後溶媒と顔料粉体とを分離し残存物を乾燥させることにより従来の方法よりも多くのシラン化合物を付着させることが可能となることを見出した。
要するに、本発明による顔料粉体の表面処理方法は、
水酸化ナトリウムを炭素数1〜4のアルコールに溶解させた溶媒中で下記化学式(1)又は(2)に示されるシラン化合物と顔料粉体とを混合分散させることにより、顔料粉体にシラン化合物を表面処理することを特徴とするものである(第1発明)。
(R2nSi(OC2m+1 ・・・・(1)
(上記化学式(1)において、Rは炭素数3〜21の炭化水素、ポリエーテル基あるいはパーフルオロアルキル基を示し、それら鎖長中にアミノ基、水酸基等の官能基を有していても良く、その形態は直鎖状もしくは分岐状であり、単一鎖長あるいは複合鎖長であっても良い。nは1〜12、mは1〜3の整数である。a、bは1〜3の整数であり、a+b=4である。)
【化1】

(上記化学式(2)においてRはCHまたはCを示し、Rは炭素数1〜26の飽和もしくは不飽和の炭化水素を示し、それらは直鎖状あるいは分岐状であってもよい。また、pは1〜100の整数である。)
【0007】
本発明において、前記水酸化ナトリウムのアルコール溶液の顔料粉体に対する重量比が0.1〜0.6倍であるのが好ましい(第2発明)。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来方法に比べてより多くのシラン化合物を顔料粉体表面に付着させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明による顔料粉体の表面処理方法の具体的な実施の形態について説明する。
【0010】
本発明で用いられるアルコールは水酸化ナトリウムの相溶性から炭素数1〜4のものを用いるのが好適である。炭素数が5以上であると、水酸化ナトリウムの相溶性が低くなり好ましくない。ここで、水酸化ナトリウムの炭素数1〜4のアルコール溶液における水酸化ナトリウムの濃度は、0.25〜1%が好ましい。
【0011】
本発明において、水酸化ナトリウムの炭素数1〜4のアルコール溶液(第1発明の「溶媒」に相当する。)の顔料粉体に対する重量比が0.1〜0.6倍であるのが好ましい。顔料粉体に対して水酸化ナトリウムのアルコール溶液の使用量の重量比が0.1倍未満であると撹拌可能なスラリーを得ることができず、また0.6倍を超えると廃液処理量が多くなりコストがかかるため不適である。
【0012】
本発明で用いられる炭素数1〜4のアルコールとしては、直鎖状であっても分岐状であっても良く、具体的にはメタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、2-ブタノール等のアルコールが挙げられる。
【0013】
本発明に用いられる上記化学式(1)及び(2)に示されるシラン化合物の使用量は、顔料粉体の粒子径や表面積によって異なるが、顔料粉体に対して0.01〜40質量%の範囲が適当である。シラン化合物の使用量が0.01質量%未満であると、顔料粉体表面の改質効果が得られず、また、40質量%を超えると、きしみ感やベタツキなどにより顔料粉体の感触を損なう恐れが生じる。なお、この使用量は好ましくは0.05〜30質量%の範囲である。
【0014】
本発明で用いられる化学式(1)で示されるシラン化合物の例を示せば、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン、ヘプタデカデシルトリエトキシシラン等のパーフルオロアルキルアルコキシシランやテトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン等のアルキルアルコキシシランや、エボニックデグサ(株)からDYNASILAN 4140の名称で市販されているポリエーテルシラン、信越化学工業(株)からKBM―641、KBM―713の名称で市販されているポリエーテルシラン化合物等や3−アミノプロピルトリメチルシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0015】
本発明で用いられる化学式(2)で示されるシラン化合物は、R基:CおよびR基:Cを有し、エボニック社から商品名DYNASYLAN SIVO 708として市販されている。
【0016】
本発明に用いられる化粧料用顔料としては、例えば、無機顔料、有機顔料および樹脂粉体顔料等がある。
【0017】
無機粉体としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、マイカ、カオリン、セリサイト、白雲母、合成雲母、金雲母、紅雲母、黒雲母、リチア雲母、ケイ酸、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸ストロンチウム、タングステン酸金属塩、ヒドロキシアパタイト、バーミキュライト、ハイジライト、ベントナイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、ゼオライト、セラミックスパウダー、第二リン酸カルシウム、アルミナ、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ボロン、シリカ等が挙げられる。
【0018】
有機粉体としては、例えば、ポリアミドパウダー、ポリエステルパウダー、ポリエチレンパウダー、ポリプロピレンパウダー、ポリスチレンパウダー、ポリウレタンパウダー、ベンゾグアナミンパウダー、ポリメチルベンゾグアナミンパウダー、ポリテトラフルオロエチレンパウダー、ポリメチルメタクリレートパウダー、セルロース、シルクパウダー、ナイロンパウダー、12ナイロン、6ナイロン、アクリルパウダー、アクリルエラストマー、スチレン・アクリル酸共重合体、ジビニルベンゼン・スチレン共重合体、ビニル樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、ケイ素樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネイト樹脂、微結晶繊維粉体、デンプン末、ラウロイルリジン等が挙げられる。
【0019】
界面活性剤金属塩粉体(金属石鹸)としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ミリスチン酸亜鉛、ミリスチン酸マグネシウム、セチルリン酸亜鉛、セチルリン酸カルシウム、セチルリン酸亜鉛ナトリウム等が挙げられる。
【0020】
有色顔料としては、例えば、酸化鉄、水酸化鉄、チタン酸鉄の無機赤色顔料、γ−酸化鉄等の無機褐色系顔料、黄酸化鉄、黄土等の無機黄色系顔料、黒酸化鉄、カーボンブラック等の無機黒色顔料、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット等の無機紫色顔料、水酸化クロム、酸化クロム、酸化コバルト、チタン酸コバルト等の無機緑色顔料、紺青、群青等の無機青色系顔料、微粒子酸化チタン、微粒子酸化セリウム、微粒子酸化亜鉛等の微粒子粉体、タール系色素をレーキ化したもの、天然色素をレーキ化したもの、及びこれらの粉体を複合化した合成樹脂粉体等が挙げられる。
【0021】
パール顔料としては、例えば、酸化チタン被覆雲母、酸化チタン被覆マイカ、オキシ塩化ビスマス、酸化チタン被覆オキシ塩化ビスマス、酸化チタン被覆タルク、魚鱗箔、酸化チタン被覆着色雲母等;金属粉末顔料としては、アルミニウムパウダー、カッパーパウダー、ステンレスパウダー等から選ばれる粉体が挙げられる。
【実施例】
【0022】
次に、本発明の代表的な実施例について説明する。なお、これらの実施例は本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0023】
(実施例1)
イソプロピルアルコール100gと水酸化ナトリウム0.5gを35℃以下になるように冷却しながら4時間攪拌して水酸化ナトリウムが溶解していることを確認し、水酸化ナトリウムのイソプロピルアルコール溶解液を得た。
赤酸化鉄1000gをヘンシェルミキサーに入れる。次にオクチルトリエトキシシラン20.4gを前記水酸化ナトリウムのイソプロピルアルコール溶解液250gに溶解させ、ヘンシェルミキサー中の赤酸化鉄に攪拌しながら滴下した。十分に攪拌した後、粉砕、乾燥してオクチルトリエトキシシラン処理された赤酸化鉄を得た。
【0024】
(実施例2)
実施例1において赤酸化鉄を酸化チタンに変更した以外は同様にしてオクチルトリエトキシシラン処理された酸化チタンを得た。
【0025】
(実施例3)
実施例1において表面処理剤であるオクチルトリエトキシシランをトリデカフルオロオクチルトリエトキシシランに変更した以外は同様にしてトリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン処理された赤酸化鉄を得た。
【0026】
(実施例4)
実施例1において表面処理剤であるオクチルトリエトキシシランを化学式(2)で示されるシラン化合物で、R基:CおよびR基:Cを有するDYNASYLAN SIVO 708(エボニック社製)に変更した以外は同様にして化学式(2)で示されるシラン化合物で処理された赤酸化鉄を得た。
【0027】
(比較例1)
実施例1において水酸化ナトリウムのイソプロピルアルコール溶解液をイソプロピルアルコールに変更した以外は実施例1と同様にしてオクチルトリエトキシシラン処理された赤酸化鉄を得た。
【0028】
(比較例2)
実施例2において水酸化ナトリウムのイソプロピルアルコール溶解液をイソプロピルアルコールに変更した以外は実施例2と同様にしてオクチルトリエトキシシラン処理された酸化チタンを得た。
【0029】
(比較例3)
実施例3において水酸化ナトリウムのイソプロピルアルコール溶解液をイソプロピルアルコールに変更した以外は実施例3と同様にしてトリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン処理された赤酸化鉄を得た。
【0030】
(比較例4)
実施例4において水酸化ナトリウムのイソプロピルアルコール溶解液をイソプロピルアルコールに変更した以外は実施例4と同様にして化学式(2)で示されるシラン化合物で処理された赤酸化鉄を得た。
【0031】
上記各実施例および各比較例で得られた顔料粉体においてシラン化合物の付着評価を以下の方法で行った。また、その評価結果が表1にまとめて示されている。
<評価方法>
実施例および比較例で得られた顔料粉体を10倍量のイソプロピルアルコールに30分間撹拌混合し、その後遠心分離を行い100℃で乾燥した。それら乾燥した粉体の炭素含量(%)を比較することによりシラン化合物の付着評価を行う。
【0032】
【表1】
【0033】
表に示される実施例1〜4および比較例1〜4の比較から、本発明による水酸化ナトリウムの炭素数1〜4のアルコール溶液を用いた表面処理方法が、従来の溶媒中において水酸化ナトリムを用いない方法に比べ、粉体の炭素含量(%)からシラン化合物の付着量が大きく増大していることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の顔料粉体の表面処理方法にてシラン化合物にて表面処理された顔料粉体は、ファンデーション、アイシャドウ、ほほ紅等のメイクアップ化粧料、あるいはサンスクリーン化粧料に配合して好適であり、産業上の利用可能性が大である。