(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6864905
(24)【登録日】2021年4月7日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】ぜんまいばねの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 53/32 20060101AFI20210419BHJP
F16F 1/10 20060101ALI20210419BHJP
B29D 99/00 20100101ALI20210419BHJP
【FI】
B29C53/32
F16F1/10
B29D99/00
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-23401(P2017-23401)
(22)【出願日】2017年2月10日
(65)【公開番号】特開2018-126981(P2018-126981A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2020年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000156307
【氏名又は名称】株式会社TJMデザイン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 章夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 昭仁
【審査官】
山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−257069(JP,A)
【文献】
特開平09−078137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 53/00−53/84
F16F 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料からなる帯状部材を、一端が内側で他端が外側となるように密接した状態で巻き締める1回目の1次巻き工程と、
前記1回目の1次巻き工程で巻き締めた状態を維持しながら、前記帯状部材を加熱した後、冷却する第1加熱冷却工程と、
前記帯状部材を、前記一端が外側で前記他端が内側となるように、前記1回目の1次巻き工程と同方向に密接した状態で巻き締める2回目の1次巻き工程と、
前記2回目の1次巻き工程で巻き締めた状態を維持しながら、前記帯状部材を加熱した後、冷却する第2加熱冷却工程と、を含むことを特徴とする、ぜんまいばねの製造方法。
【請求項2】
前記第2加熱冷却工程の後で、
前記一端が内側で前記他端が外側となるように、前記1回目の1次巻き工程と逆方向に密接した状態で巻き締める2次巻き工程を含む、請求項1に記載のぜんまいばねの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ぜんまいばねの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、巻尺、シートベルトの巻き取り部、及び掃除機のコードリール等の内部において、線状または帯状の長尺部材を巻き取るためにぜんまいばねが用いられている。ぜんまいばねは、渦巻き状にくせ付けられており、当該渦巻き状に戻ろうとする際の巻き戻しトルクを利用して、長尺部材を巻き取ることができる。
【0003】
このようなぜんまいばねについて、例えば特許文献1には、炭素鋼で形成されたぜんまいばねが提案されている。このような金属製のぜんまいばねの製造方法としては、例えば、1次巻きとして渦巻き状に帯状の素材を巻き締めた状態で、加熱工程と冷却工程を行った後、さらに1次巻きとは逆方向に巻き締める2次巻きの工程を行うという方法がある。
【0004】
しかしながら、金属製のぜんまいばねには、比較的重量が重い、錆びが発生し易い、磁力の影響を受け易い、また、電気工事においては通電し易いといった問題がある。このような問題を解決するため、金属材料ではなく、合成樹脂等の樹脂材料で形成したぜんまいばねが求められている。
【0005】
しかしながら、金属製のぜんまいばねと同様の方法で、樹脂材料からなるぜんまいばねを製造しようとした場合、樹脂材料からなる帯状の部材を巻き締めた状態で外側から加熱しても、内側に熱が伝わり難く、くせ付けに時間が掛かり過ぎたり、均一にくせ付けされなかったりするという問題があった。
【0006】
そこで、特許文献2には、渦巻き状の溝が形成された型に、ばね材を設置してから加熱することで、型に伝わる熱を利用して全体をくせ付けする樹脂製ぜんまいばねの製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3863208号公報
【特許文献2】特開2014−145472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の方法のように型を用いて製造する場合、径方向に隣接するばね材の間に一定の隙間(ピッチ)が形成されるため、周面同士が密接した状態で巻き締められた高密度のぜんまいばねを形成することができない。そのため、例えば、巻尺等に必要な大きさの巻き戻しトルクを持ったぜんまいばねを形成することが困難であった。
【0009】
それゆえ本発明は、樹脂材料からなり、密接した状態で巻き締められたぜんまいばねの形成が可能となる、ぜんまいばねの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明のぜんまいばねの製造方法は、樹脂材料からなる帯状部材を、一端が内側で他端が外側となるように密接した状態で巻き締める1回目の1次巻き工程と、
前記1回目の1次巻き工程で巻き締めた状態を維持しながら、前記帯状部材を加熱した後、冷却する第1加熱冷却工程と、
前記帯状部材を、前記一端が外側で前記他端が内側となるように、前記1回目の1次巻き工程と同方向に密接した状態で巻き締める2回目の1次巻き工程と、
前記2回目の1次巻き工程で巻き締めた状態を維持しながら、前記帯状部材を加熱した後、冷却する第2加熱冷却工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
なお、本発明のぜんまいばねの製造方法にあっては、前記第2加熱冷却工程の後で、
前記一端が内側で前記他端が外側となるように、前記1回目の1次巻き工程と逆方向に密接した状態で巻き締める2次巻き工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、樹脂材料からなり、密接した状態で巻き締められたぜんまいばねを形成することが可能なぜんまいばねの製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係るぜんまいばねの製造方法の工程を示す図である。
【
図2】(a)は、1回目の1次巻き工程で巻き締めた状態を示す図であり、(b)は、加熱冷却工程を示す図である。
【
図3】(a)は、2回目の1次巻き工程を示す図であり、(b)は、2次巻き工程を示す図である。
【
図4】帯状部材の巻付け方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について例示説明する。
【0015】
図1に示すように、本発明のぜんまいばねの製造方法は、1回目の1次巻き工程S1と、第1加熱冷却工程S2と、2回目の1次巻き工程S3と、第2加熱冷却工程S4とを含むものである。なお、必要に応じて2次巻き工程S5を行うことにより、より大きな巻き戻しトルクを得ることができ、例えば、巻尺、シートベルトの巻き取り部、掃除機のコードリール等に適したぜんまいばねを製造することができる。一方で、ミニカー等の玩具、または時計のてんぷ等、比較的小さな巻き戻しトルクが求められるぜんまいばねについては、2次巻き工程S5を行わなくともよい。
【0016】
図2(a)は、1回目の1次巻き工程S1において巻き締めた帯状部材1を示している。帯状部材1は、樹脂材料で形成され、長手方向に所定の長さを有するテープ状の部材であり、弾性変形可能となっている。樹脂材料としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)、LPC(液晶ポリマー)、PEN(ポリエチレンナフタレート)等とすることができるが、特に限定されず、種々の樹脂材料を採用することができる。
【0017】
1回目の1次巻き工程S1においては、
図2(a)に示すように、帯状部材1を、一端1aが内側で、他端1bが外側となるように周面同士が密接した状態で巻き締める。そして、
図2(b)に示すように、例えばC字状の枠部材2の内側に巻き締めた状態の帯状部材1を収納する。これにより、帯状部材1を、巻き締めた状態で維持することができる。なお、枠部材2は、帯状部材1を巻き締めた状態で維持可能なものであれば特に形状は限定されず、例えば円形など、他の種々の形状のものを採用することができる。
【0018】
次いで、例えば
図2(b)に示すように、内部の温度を自由に調整可能な加熱炉3を用いて、第1加熱冷却工程S2を行う。
図2(b)に示すように、帯状部材1を、枠部材2とともに加熱炉3の内部に配置した状態で、加熱炉3の内部の雰囲気温度を所定の温度に加熱し、その後、冷却して例えば25度等の常温に戻す。これにより、加熱炉3の内部に配置した帯状部材1を加熱、冷却することができる。なお、
図2(b)の矢印は、帯状部材1が外側から加熱される様子を示している。
【0019】
ここで、第1加熱冷却工程S2においては、180℃〜220℃の温度で、30分〜90分間、加熱することが好ましい。これによれば、より効率的に帯状部材1を適切にくせ付けすることができる。
【0020】
ここで、1回目の1次巻き工程S1及び第1加熱冷却工程S2を終えた段階では、帯状部材1全体を十分にくせ付けすることは難しい。特に、径方向外側に位置する他端1b側に比べて、径方向内側に位置する一端1a側には熱が伝わり難いため、そのままの状態で全体を短時間で均一にくせ付けすることは困難である。また、径方向内側に位置する一端1a側まで十分に加熱するためには、過大な時間が必要となる。
【0021】
そこで、本発明では、
図3(a)に示すように、1回目の1次巻き工程S1と同方向に帯状部材1を巻き締める2回目の1次巻き工程S3を行う。2回目の1次巻き工程S3では、1回目の1次巻き工程S1の際には内側に位置していた一端1aが外側に位置し、他端1bが内側に位置するように密接した状態で巻き締める。
【0022】
そして、第1加熱冷却工程S2と同様に、枠部材2の内側に巻き締めた状態の帯状部材1を収納し、加熱炉3内で第2加熱冷却工程S4を行う。これにより、帯状部材1の一端1a側も他端1b側と同じように加熱されるため、帯状部材1の全体を均等に、また、周面同士が密接した状態でくせ付けることができる。
【0023】
ここで、第2加熱冷却工程S4においては、180℃〜220℃の温度で、30分〜90分間、加熱することが好ましい。これによれば、より効率的に帯状部材1を適切にくせ付けすることができる。
【0024】
以上説明したように、本実施形態の製造方法によれば、樹脂材料からなり、密接した状態で巻き締められたぜんまいばねを形成することが可能となる。そして、このように密接状態で巻き締められ、帯状部材1の全体がくせ付けられたぜんまいばねは、径方向に隙間を有する従来の樹脂製ぜんまいばねよりも、大きな巻き戻しトルクを発揮することができる。また、本発明の製造方法により形成されたぜんまいばねは樹脂製であるため、金属製のぜんまいばねに比べて重量が小さく、錆びが発生せず、磁力の影響を受け難く、また、感電の危険性も低減することができる。
【0025】
なお、例えば目盛テープが3mの巻尺に使用する場合、帯状部材1の寸法は、長さが約3100mm、幅が約25mm、厚さが約0.25mmであることが好ましい。これによれば、巻尺に適した巻き戻しトルクを有するぜんまいばねを形成することができ、また、より効率的に帯状部材1を適切にくせ付けすることができる。
【0026】
ここで、
図3(b)は、2次巻き工程S5を示している。2次巻き工程S5では、帯状部材1の一端1aが内側で、他端1bが外側となるように、密接した状態で巻き締める。2次巻き工程S5では、1回目の1次巻き工程S1及び2回目の1次巻き工程S3とは逆方向となるように帯状部材1を巻き付けている。このような2次巻き工程S5を行うことで、さらに大きな巻き戻しトルクを発揮する樹脂製のぜんまいばねを形成することができる。
【0027】
このようにして製造した樹脂製のぜんまいばねは、例えば巻尺の内部に組み付込むことができ、目盛テープを巻尺内部から引き出した際に、当該目盛テープを引き戻すために必要な巻き戻しトルクを付与することができる。
【0028】
他にも、シートベルトの巻き取り部に組み込むことも可能であり、引き出したシートベルトに巻き戻しトルクを付与することができる。さらに、掃除機のコードリールに組み込むことも可能であり、引き出した電源コードに対して巻き戻しトルクを付与することができる。他にも、帯状又は線状の種々の長尺部材を巻き戻す機構に組み込むことが可能である。
【0029】
なお、
図4に示すように、両側の端部(一端1a及び他端1b)がそれぞれ内側となるように、両側から同方向に巻き付けた状態で、加熱冷却工程を行うことも可能である。このような構成とすることで、それぞれの巻き数が少なくなるため、巻き締められた帯状部材1のそれぞれの厚みが薄くなる。このため、加熱炉3等からの熱が内側まで伝わり易くなり、加熱時間を短縮することが可能となる。
【0030】
以上、図示例に基づき説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更することができるものであり、例えば、第1加熱冷却工程S2における加熱方法は、加熱炉3を用いる方法に限られるものではなく、例えば、油浴等の種々の方法を採用することができる。油浴による場合、温度の調整が容易であり、また、帯状部材1の全体に熱が伝わり易いという利点がある。
【符号の説明】
【0031】
1 帯状部材
1a 一端
1b 他端
2 枠部材
3 加熱炉
S1 1回目の1次巻き工程
S2 第1加熱冷却工程
S3 2回目の1次巻き工程
S4 第2加熱冷却工程
S5 2次巻き工程