特許第6864907号(P6864907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6864907
(24)【登録日】2021年4月7日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】粘性流体の亀裂内浸透方法
(51)【国際特許分類】
   B23P 6/04 20060101AFI20210419BHJP
   G01N 3/32 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
   B23P6/04
   G01N3/32 C
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-40961(P2017-40961)
(22)【出願日】2017年3月3日
(65)【公開番号】特開2018-144151(P2018-144151A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2020年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一比古
【審査官】 久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−038381(JP,A)
【文献】 特開2015−085509(JP,A)
【文献】 特開2004−263048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 6/04
G01N 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性流体の粘度特性から前記粘性流体が亀裂の内部に浸透するのに適する微小振動周波数と母材の公称応力レンジが10MPa以下となる微小振動荷重を選定する選定工程と、疲労亀裂の進展が認められた前記母材の表面の前記亀裂に対して前記粘性流体を塗布する塗布工程と、前記選定工程で選定した前記微小振動周波数の前記微小振動荷重を前記母材に載荷し前記粘性流体を前記亀裂の内部に浸透させる浸透工程とを備えることを特徴とする粘性流体の亀裂内浸透方法。
【請求項2】
前記選定工程と前記塗布工程との間に、前記亀裂の開口度を確認して前記母材に対する静的荷重の載荷を判断する開口度確認工程を備えたことを特徴とする請求項1に記載の粘性流体の亀裂内浸透方法。
【請求項3】
前記開口度確認工程で前記開口度が不足すると判断された場合に、前記母材に前記静的荷重を載荷し前記亀裂を開口させる開口工程を備えたことを特徴とする請求項2に記載の粘性流体の亀裂内浸透方法。
【請求項4】
前記微小振動荷重は、前記静的荷重の1/10以下の荷重であることを特徴とする請求項3に記載の粘性流体の亀裂内浸透方法。
【請求項5】
前記浸透工程における前記微小振動荷重の載荷と前記開口工程における前記静的荷重の載荷とを同一の載荷手段で行ったことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の粘性流体の亀裂内浸透方法。
【請求項6】
前記微小振動荷重は、前記亀裂の進展に影響しない範囲の振幅をもつことを特徴とする請求項1から請求項5のうちの1項に記載の粘性流体の亀裂内浸透方法。
【請求項7】
前記微小振動周波数の前記微小振動荷重を前記母材に載荷するに当り、前記母材を一部に有して構成される構造物の稼働振動を利用したことを特徴とする請求項1から請求項6のうちの1項に記載の粘性流体の亀裂内浸透方法。
【請求項8】
前記粘性流体は、前記母材の前記亀裂進展に対する目視検出効果及び/又は抑制効果を有する粘性流体であることを特徴する請求項1から請求項7のうちの1項に記載の粘性流体の亀裂内浸透方法。
【請求項9】
前記粘性流体はチクソトロピック特性を有した粘性流体であることを特徴とする請求項1から請求項8のうちの1項に記載の粘性流体の亀裂内浸透方法。
【請求項10】
前記粘性流体の前記チクソトロピック特性を表すチクソトロピー指数が、0.3〜1.7であることを特徴とする請求項9に記載の粘性流体の亀裂内浸透方法。
【請求項11】
前記微小振動周波数は、0.1Hz以上10Hz以下の範囲であることを特徴とする請求項10に記載の粘性流体の亀裂内浸透方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶、海洋構造物、橋梁、工作機械等、各種構造物に生じる疲労亀裂の検出及び/又は進展抑制に用いる粘性流体の亀裂内浸透方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶、海洋構造物、橋梁、又は工作機械等の各種金属製構造物の損傷に占める疲労損傷の割合は高く、維持管理における疲労損傷対策が必須となる。そして、構造物の老朽化や耐用年数の延長による損傷件数の増大に伴い、より効率的で省力化可能な補修方法や補修ツールが求められている。
一方、各種構造物の疲労亀裂の検査は、現状、その殆どが目視検査に依っている。しかし、実構造物における検査環境は想像以上に厳しく、スペースや時間が限られることはもとより、電源や照明設備を期待できない場合も多いため、溶接部等の複雑形状部分に生じた亀裂を現場で発見し、その寸法を把握する事は容易でない。
このような背景のもと、疲労亀裂の進展が認められた母材の表面に粘性流体を塗布することにより、それ以降の亀裂の進展を目視検出したり、亀裂の進展を抑制したりする方法がこれまでに提案されている(特許文献1〜3)。なお、ここでいう粘性流体には、粘性流体と微細な粉末の混合物も含まれる。これらの技術においてはいずれも、母材表面の亀裂開口部から十分な量の粘性流体が亀裂内に進入し、亀裂先端部近傍を含めた亀裂内のなるべく広い範囲に浸透することが、亀裂の検出や進展抑制といった効果を発現する上で重要な条件となる。
【0003】
また、特許文献2及び4には、亀裂の生じた母材表面に亀裂進展抑制効果をもつ粘性流体を塗布する際、粘性流体をより亀裂内に浸透させるための方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献5には、微細粒ペーストによる疲労亀裂進展抑制の効果を評価する方法が提示され、塗布した後のペーストを亀裂内に進入させるために所定の繰り返し荷重を負荷するステップが記載されている。
【0005】
また、非特許文献1においては、開口した亀裂の内部に樹脂を注入して硬化させ、亀裂の開閉口を妨げることによって進展を抑制する方法に関連して、液状の樹脂の注入時に亀裂からある程度離れた箇所の母材をエアーツールで打撃することにより亀裂部に振動を与えると、樹脂の亀裂内への浸透が促進されることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−28462号公報
【特許文献2】特開2015−85509号公報
【特許文献3】特開2016−38381号公報
【特許文献4】特開2011−93041号公報
【特許文献5】特開2015−31565号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】舘石和雄,外4名,“疲労き裂の補修技術に関する研究開発”,道路政策の質の向上に資する技術研究開発成果報告レポートNO.24-8,国土交通省 新道路技術会議,平成27年7月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2及び4に記載の発明は、いずれも何らかの静的な引張荷重または応力によって母材中の亀裂を強制的に開口させ、その状態のまま粘性流体を塗布するというものであり、亀裂開閉のポンプ効果は開閉1回分しか作用せず、特に粘性流体が高チクソトロピック性を有する場合には見かけ粘度を低下させるような繰り返しのせん断効果がなく、粘性流体の亀裂内への浸透方法としては不十分である。
【0009】
また、特許文献5記載の発明は、特許文献1及び2と同様に構造物において疲労亀裂の進展を促進する通常の実働繰り返し荷重(例えば橋梁上を通過する重量車両による変動荷重)を利用したものであり、ペーストを塗布してもペーストが亀裂内に十分浸透するまでの間は亀裂進展抑制効果が働かず、亀裂が実働繰り返し荷重により通常稼働時と同じ速度で進展してしまう。
【0010】
また、非特許文献1では、実験で用いた液状樹脂の動的な粘度特性(せん断速度と見かけ粘度の関係、チクソトロピック性の有無など)は不明であり、樹脂の浸透を促進させる上で好適な加振周波数の範囲が不明である。さらに、非特許文献1に記載の方法は液状の樹脂を亀裂内に浸透させた後に長時間養生して樹脂を硬化させることにより弾性くさびを形成して亀裂進展を抑制するというものであり、そもそも亀裂進展の目視検出効果及び/又は亀裂進展の抑制効果を有する粘性流体の亀裂内浸透に関するものではない。
【0011】
そこで本発明は、より安全かつ確実に亀裂先端部近傍を含む亀裂面内のより広範な領域にまで粘性流体を確実に浸透させる方法を提供することを目的とする。
また、粘性流体がチクソトロピック性を有する場合には、その見かけ粘度を適性な範囲で低下させて流動性を増大させ、亀裂面内のより広範な領域にまで粘性流体を確実に浸透させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載に対応した粘性流体の亀裂内浸透方法においては、粘性流体の粘度特性から粘性流体が亀裂の内部に浸透するのに適する微小振動周波数と母材の公称応力レンジが10MPa以下となる微小振動荷重を選定する選定工程と、疲労亀裂の進展が認められた母材の表面の亀裂に対して粘性流体を塗布する塗布工程と、選定工程で選定した微小振動周波数の微小振動荷重を母材に載荷し粘性流体を亀裂の内部に浸透させる浸透工程とを備えることを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、疲労亀裂の進展には影響しない程度の微小な振幅と、予め適切に選定された振動周波数を有する微小振動荷重を母材に加えて亀裂をわずかに開閉運動させることにより、母材表面の亀裂開口部から十分な量の粘性流体を亀裂内に進入させ、亀裂先端部近傍を含む亀裂内の広い範囲に確実に浸透させることができる。従って、疲労亀裂を通常稼働時の速度で進展させてしまうレベルの実働繰り返し荷重を利用することなく、より安全かつ確実な亀裂進展の目視検出効果や亀裂進展の抑制効果が得られる。なお、ここでいう粘性流体には、粘性流体と微細な粉末の混合物も含まれる。
【0013】
請求項2記載の本発明は、選定工程と塗布工程との間に、亀裂の開口度を確認して母材に対する静的荷重の載荷を判断する開口度確認工程を備えたことを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、不要な静的荷重の載荷を防止でき、作業効率が向上する。
【0014】
請求項3記載の本発明は、開口度確認工程で開口度が不足すると判断された場合に、母材に静的荷重を載荷し亀裂を開口させる開口工程を備えたことを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、強制的に亀裂を開口させることで亀裂開口部から流入する粘性流体の量を増し、粘性流体を亀裂の内部に一層浸透させることができる。
【0015】
請求項4記載の本発明は、微小振動荷重は、静的荷重の1/10以下の荷重であることを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、微小振動荷重の載荷が原因で亀裂が進展することをより確実に防止できる。
【0016】
請求項5記載の本発明は、浸透工程における微小振動荷重の載荷と開口工程における静的荷重の載荷とを同一の載荷手段で行ったことを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、浸透工程と開口工程に用いる載荷手段を共通化でき、作業効率が向上する。
【0017】
請求項6記載の本発明は、微小振動荷重は、亀裂の進展に影響しない範囲の振幅をもつことを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、亀裂を進展させる振幅をもつ振動荷重を用いることなく粘性流体を亀裂の内部に浸透させることができる。
【0018】
請求項7記載の本発明は、微小振動周波数の微小振動荷重を母材に載荷するに当り、母材を一部に有して構成される構造物の稼働振動を利用したことを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、微小振動荷重を載荷するための機材や手間を省略でき、作業効率が向上する。
【0019】
請求項8記載の本発明は、粘性流体は、母材の亀裂進展に対する目視検出効果及び/又は抑制効果を有する粘性流体であることを特徴する。
請求項8に記載の本発明によれば、粘性流体を塗布することにより、亀裂が進展している箇所を目視で検出でき、また、亀裂の進展を抑制することができる。
【0020】
請求項9記載の本発明は、粘性流体はチクソトロピック特性を有した粘性流体であることを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、その見かけ粘度を低下させて流動性を増大させ、亀裂面内のより広範な領域にまで粘性流体を浸透させることができる。
【0021】
請求項10記載の本発明は、粘性流体のチクソトロピック特性を表すチクソトロピー指数が、0.3〜1.7であることを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、亀裂面内のより広範な領域にまで粘性流体を確実に浸透させることができる。
【0022】
請求項11記載の本発明は、微小振動周波数は、0.1Hz以上10Hz以下の範囲であることを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、チクソトロピック特性を有する粘性流体の見かけ粘度を適正な範囲で低下させて流動性を増大させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の粘性流体の亀裂内浸透方法によれば、疲労亀裂の進展には影響しない程度の微小振動周波数の微小振動荷重を母材に加えて亀裂をわずかに開閉運動させることにより、母材表面の亀裂開口部から十分な量の粘性流体を亀裂内に進入させ、亀裂先端部近傍を含む亀裂内の広い範囲に確実に浸透させることができる。従って、疲労亀裂を通常稼働時の速度で進展させてしまうレベルの実働繰り返し荷重を利用することなく、より安全かつ確実な亀裂進展の目視検出効果や亀裂進展の抑制効果が得られる。
【0024】
また、選定工程と塗布工程との間に、亀裂の開口度を確認して母材に対する静的荷重の載荷を判断する開口度確認工程を備えた場合には、不要な静的荷重の載荷を防止でき、作業効率が向上する。
【0025】
また、開口度確認工程で開口度が不足すると判断された場合に、母材に静的荷重を載荷し亀裂を開口させる開口工程を備えた場合には、強制的に亀裂を開口させることで亀裂開口部から流入する粘性流体の量を増し、粘性流体を亀裂の内部に一層浸透させることができる。
【0026】
また、微小振動荷重が静的荷重の1/10以下の荷重である場合には、微小振動荷重の載荷が原因で亀裂が進展することをより確実に防止できる。
【0027】
また、浸透工程における微小振動荷重の載荷と開口工程における静的荷重の載荷とを同一の載荷手段で行った場合には、浸透工程と開口工程に用いる載荷手段を共通化でき、作業効率が向上する。
【0028】
また、微小振動荷重が亀裂の進展に影響しない範囲の振幅をもつ場合には、亀裂を進展させる振幅をもつ振動荷重を用いることなく粘性流体を亀裂の内部に浸透させることができる。
【0029】
また、微小振動周波数の微小振動荷重を母材に載荷するに当り、母材を一部に有して構成される構造物の稼働振動を利用した場合には、微小振動荷重を載荷するための機材や手間を省略でき、作業効率が向上する。
【0030】
また、粘性流体が母材の亀裂進展に対する目視検出効果及び/又は抑制効果を有する粘性流体である場合には、粘性流体を塗布することにより、亀裂が進展している箇所を目視で検出でき、また、亀裂の進展を抑制することができる。
【0031】
また、粘性流体がチクソトロピック特性を有した粘性流体である場合には、その見かけ粘度を低下させて流動性を増大させ、亀裂面内のより広範な領域にまで粘性流体を浸透させることができる。
【0032】
また、粘性流体のチクソトロピック特性を表すチクソトロピー指数が、0.3〜1.7である場合には、亀裂面内のより広範な領域にまで粘性流体を確実に浸透させることができる。
【0033】
また、微小振動周波数が0.1Hz以上10Hz以下の範囲である場合には、チクソトロピック特性を有する粘性流体の見かけ粘度を適正な範囲で低下させて流動性を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の実施形態による粘性流体の亀裂内浸透方法を示す模式図
図2】同フローチャート
図3】亀裂内浸透試験における粘性流体Aのみかけ粘度とスピンドル回転速度の関係を示す図
図4】同みかけ粘度とせん断速度の関係を示す図
図5】同粘性流体Bのみかけ粘度とスピンドル回転速度の関係を示す図
図6】同みかけ粘度とせん断速度の関係を示す図
図7】同亀裂内浸透試験に用いた切欠き付き平板試験片を示す図
図8】同切欠き付き平板試験片の切欠きの両端から進展させた予亀裂を示す図
図9】同粘性流体Aの亀裂内浸透試験結果を示す図
図10】同粘性流体Bの亀裂内浸透試験結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に、本発明の実施形態による粘性流体の亀裂内浸透方法について説明する。
【0036】
図1は、本発明の実施形態による粘性流体の亀裂内浸透方法を示す模式図である。両端が支承2に支持された母材(鋼構造物である橋梁)1の中間部には、疲労亀裂3が生じている(図1(a))。
図2は、疲労亀裂3に対して本発明を適用し、粘性流体5を亀裂内に浸透させるための手順を示したフローチャートである。粘性流体5は、亀裂進展の目視検出効果又は亀裂進展の抑制効果の少なくともどちらかの効果を有する。このような効果を有する粘性流体5を母材1に塗布することで、疲労亀裂3が進展している箇所を目視で検出でき、また、疲労亀裂3の進展を抑制することができる。
【0037】
本実施形態による粘性流体の亀裂内浸透方法は、粘性流体5を亀裂内に浸透させるために微小振動周波数の振動荷重(微小振動荷重)を母材1に載荷する。そこで、まずチクソトロピック特性を含め粘性流体5の粘度特性を把握し、過去の知見や予め実施した亀裂内浸透試験の結果等に基づいて、粘性流体5が疲労亀裂3の内部に浸透するのに適する微小振動周波数を選定する(選定工程S1)。
なお、亀裂内浸透試験の方法及び微小振動周波数の選定例については後述する。
【0038】
次に、疲労亀裂3の開口度を確認して、母材1に対する静的荷重の載荷を判断する(開口度確認工程S2)。ここでは、疲労亀裂3の開口度がゼロすなわち閉口しているか、又は開口していても粘性流体5を亀裂内に浸透させるには開口度が不十分であると判断した場合には母材1に静的荷重の載荷の必要があると判断する。
開口度確認工程S2を備えることにより、不要な静的荷重の載荷を防止でき、作業効率が向上する。
【0039】
開口度確認工程S2において開口度がゼロか不十分であると判断した場合は、母材1に静的荷重を載荷して疲労亀裂3を開口させて保持する(開口工程S3)。
例えば図1(b)に示すように、橋梁1の中央部上面に重量車両4を載置して静的な曲げ荷重により橋梁1を撓ませることにより疲労亀裂3を開口させる。強制的に疲労亀裂3を開口させることで亀裂開口部から流入する粘性流体5の量を増し、粘性流体5を疲労亀裂3の内部に一層浸透させることができる。
【0040】
次に、母材1に生じた疲労亀裂3の表面に粘性流体5を塗布する(塗布工程S4)。塗布工程S4を終えた段階では、粘性流体5は疲労亀裂3内に十分に浸透していない(図1(b))。
なお、疲労亀裂3の発生箇所が溶接部又はその近傍であり、予め当該箇所に生じていた引張溶接残留応力等、何らかの引張応力によって疲労亀裂3が十分に開口している場合など、開口度確認工程S2において開口度が十分と判断した場合は、開口工程S3を省略して塗布工程S4に移行する。
【0041】
塗布工程S4の後、疲労亀裂3の近傍等、適当な箇所に起振機6を設置し、適切な荷重レンジ及び選定工程S1で選定した微小振動周波数の振動荷重を発生させ、母材1に載荷する(浸透工程S5)。本工程では、疲労亀裂3の亀裂面を亀裂進展に影響しない程度の適切な振幅及び粘性流体5の亀裂内浸透に適した周波数で微小振動させる。
これにより疲労亀裂3に悪影響を及ぼすことなく、粘性流体5が、疲労亀裂3の先端部近傍を含め亀裂内に十分浸透し、隅々にまで行き渡る(図1(c))。
【0042】
このように本実施形態によれば、静的な引張荷重又は引張応力によって母材1中の疲労亀裂3が開口した状態で亀裂進展の目視検出効果又は亀裂進展抑制効果の少なくともいずれかを有する粘性流体5を塗布した後、疲労亀裂3の進展には影響しない程度の振幅と粘性流体5の亀裂内浸透に適した周波数をもつ振動荷重または振動応力を母材1に加えて亀裂をわずかに開閉運動させることにより、粘性流体5が高チクソトロピック性を有する場合にはその見かけ粘度を適正な範囲で低下させて流動性を増大させるとともに、開閉運動する亀裂面の繰り返しポンプ作用により亀裂先端部近傍を含む亀裂面内のより広範な領域にまで粘性流体5を確実に浸透させることができる。
従って、疲労亀裂3を通常稼働時の速度で進展させてしまうレベルの実働繰り返し荷重を利用することなく、より安全かつ確実に亀裂進展の目視検出効果及び亀裂進展の抑制効果を得ることができる。
【0043】
浸透工程S5で作用させる振動荷重の適切な荷重レンジは、疲労亀裂3の亀裂面を亀裂進展に影響しない程度の適切な振幅で微小振動させ、粘性流体5を十分亀裂内に浸透させることが可能な荷重レンジとする。この荷重レンジは、粘性流体5を塗布する対象となる構造物の様式、疲労亀裂3の長さ、亀裂進展特性、構造物に作用する代表的な繰り返し荷重のレベル等を勘案して決定することが好ましい。
また、浸透工程S5で母材1に作用させる振動荷重の発生源となる起振機6としては、偏心マスの回転を利用したものが最も一般的で簡便だが、油圧式や電動式のアクチュエータを用いる等、起振方法は任意である。また、粘性流体5を塗布する対象となる構造物が工作機械等の場合には、構造物自体が稼働時に発生する微小振動周波数の振動荷重を利用してもよい。この場合、振動荷重を載荷するための機材や手間を省略でき、作業効率が向上する。
また、開口工程S3における静的荷重の載荷と、浸透工程S5における振動荷重の載荷とを、同一の載荷手段(重量車両4)によって行ってもよい。この場合は開口工程S3と浸透工程S5に用いる載荷手段を共通化でき、作業効率が向上する。
【0044】
なお、本実施形態においては、開口工程S3における静的荷重の載荷方法として重量車両4の載置を用いたが、この他、ワイヤーによる牽引、油圧式アクチュエータによる載荷を用いてもよい。また、母材1(構造物)が圧力容器の場合における圧力の負荷、母材1が船舶の場合における積荷やバラスト水の積載、母材1が航空機の場合における与圧の負荷、母材1がクレーンの場合における重量物の牽引等、母材1に静的荷重を載荷する方法は任意である。
【0045】
また、本実施形態においては、疲労亀裂3を開口させる開口工程S3の後に塗布工程S4を実施したが、場合によっては開口工程S3と塗布工程S4の順序を入れ替えて、疲労亀裂3が閉口した状態で粘性流体5を塗布し、その後に疲労亀裂3を開口させてもよい。
【0046】
また、本実施形態においては、母材1を鋼構造物である橋梁として説明したが、本発明は、母材1が金属、プラスチック又は複合材料などである場合に、繰り返し荷重により開閉し進展する疲労亀裂に適用できる。また、母材1が金属、プラスチック又は複合材料などである場合に、繰り返し荷重により開閉する亀裂に適用できる。
【0047】
また、粘性流体5がチクソトロピック性を有した粘性流体である場合には、チクソトロピック特性を表すチクソトロピー指数が0.3〜1.7であることが好ましい。この場合、亀裂面内のより広範な領域にまで粘性流体5を確実に浸透させることができる。
【実施例】
【0048】
次に、本発明を用いた亀裂内浸透試験について説明する。
本亀裂内浸透試験において、亀裂進展箇所に塗布する粘性流体5として、灰白色シリコーングリースと透明シリコーンオイルの混合物(以下、「粘性流体A」という)と、灰白色シリコーングリースとアルミナ粉の混合物(以下、「粘性流体B」という)を用いた。粘性流体A及び粘性流体Bの構成と機能を表1にまとめて示す。
【0049】
【表1】
【0050】
なお、粘性流体Aのように亀裂進展の目視検出効果を有する粘性流体5として、シリコーングリースを含むグリース全般、グリースとオイルの混合物全般、各種クリーム、又は各種ペーストを用いることができる。
また、粘性流体Bのように亀裂進展の目視検出効果及び亀裂進展の抑制効果を有する粘性流体5として、粘性流体Aのような亀裂進展の目視検出効果を有する粘性流体5と微細な粉末(アルミナ等のセラミックス粉、金属粉など)との混合物を用いることができる。なお、本実施例の粘性流体Bで用いたアルミナ粉は、粒度分布を大凡10〜20μmに整えたものである。
【0051】
図3は、粘性流体Aについて、常温における粘度ηGをB型回転式粘度計(Fungilab社製Viscolead one、R7スピンドル使用)により測定した結果を示したものである。
スピンドルの回転速度NRが順次上がりせん断速度が上昇するにつれて粘性流体Aのみかけ粘度ηGは低下しており、両対数座標上で最小二乗法により直線回帰すると直線の傾きは−0.82となり、顕著なチクソトロピック特性(高チクソ性)を示している。
また図4は、図3の横軸のスピンドル回転速度NR (rpm)をせん断速度D (1/s)に換算したものである。
【0052】
同様にして、粘性流体Bについて、常温における粘度ηPをB型回転式粘度計により測定した結果を図5に示す。スピンドルの回転速度NRが順次上がりせん断速度が上昇するにつれて粘性流体Bのみかけ粘度は低下しており、両対数座標上で最小二乗法により直線回帰すると直線の傾きは−0.87となり、顕著なチクソトロピック特性(高チクソ性)を示している。
【0053】
更に粘性流体Bについて、レオメーター(Reologica Instruments社製VAR-50、C25−4°スピンドル使用)による粘度測定を行った結果を図6に示す。測定は粘性流体Bを−40℃及び80℃で1ヶ月保存した後、常温に戻して実施したが、図6に示す通り、保存温度の影響は殆ど認められなかった。一方、粘性流体Bのみかけ粘度ηPはせん断速度Dに大きく依存しており、プロット点はすべて両対数座標上で右下がり(傾き約−0.8)の直線上にほぼ位置している。
【0054】
図7は、粘性流体の亀裂内浸透試験に用いた切欠き付き平板試験片を示す図である。
試験片10には、JIS SM490A鋼製の板厚5mmの平板試験片中央部に長さ10mm×幅0.3mmの切欠きを放電加工したものを用いた。
また、試験機には、電気−油圧サーボ式疲労試験機(島津製作所製、動的容量10tonf)を用いた。
【0055】
粘性流体5の亀裂内浸透試験に先立って、図7に示す試験片10に定振幅繰り返し荷重を載荷し、切欠きの両端から予亀裂を導入した。試験条件は、公称応力レンジΔσ=104MPa、応力比R=0(完全片振り)、荷重周波数f=4.1Hzとした。
この試験条件下で繰り返し数N=552000回となった時点で試験を停止した。予亀裂の状況を図8に示す。切欠き11の左側の亀裂長さa1=14.05mm、右側の亀裂長さa2=13.17mmであった。なお、ここでの亀裂長さは表面(図8に見える面、以下同じ)における表面亀裂長さであり、全試験完了後に試験片10を破断させ、予め破面に形成しておいたビーチマークから読みとった。また、図8において試験片10の上下に白く見えるのは、後で粘性流体5を塗布する際にアプリケ−タとして用いるための厚さ0.8mmのマグネットシート20である。
【0056】
<粘性流体Aの亀裂内浸透試験>
次に、粘性流体Aの亀裂内浸透試験について説明する。
まず、予亀裂を導入した試験片10に対して図8の上下方向に引張荷重P=Pmaxを載荷し、亀裂が開口したままの状態で表面に粘性流体Aを塗布した。引張荷重の値はPmax=3.7tonfとし、対応する試験片10の切欠き11及び亀裂のない位置における公称応力はσmax=104MPaである。
塗布に際しては、上述したように図8に示す2枚のマグネットシート20とプラスチック板をアプリケ−タとして用い、塗布厚が約0.8mmとなるように平坦に塗布した。
そして、試験片10に微小振動周波数の振動荷重を加えない場合を比較例1とし、試験片10に微小振動周波数の振動荷重を加える場合を実施例1〜3とした。実施例1の加振周波数は0.1Hz、実施例2の加振周波数は1Hz、実施例3の加振周波数は10Hzである。
【0057】
比較例1及び実施例1〜3について、粘性流体Aを塗布した時の表面及び裏面の状態を図9の上段に示す。なお、図9では表面を「表」、裏面を「裏」と略している。
図9の上段から、比較例1及び実施例1〜3のいずれにおいても裏面の亀裂部に粘性流体Aは認められず、亀裂を開口させて塗布するだけでは粘性流体Aが十分に亀裂の奥まで浸透しないことがわかる。
【0058】
次に、P=Pmaxの状態から実施例1〜3について荷重レンジΔP=110kgf(公称応力レンジΔσ=3.1MPaに相当)の微小な振動荷重(引張荷重Pmaxの約3%に相当)を重畳させ、それぞれ3000回(サイクル)ずつ負荷した。なお、振動荷重の加振周波数は上記の通り、実施例1では0.1Hz、実施例2では1Hz、実施例3では10Hzとした。
比較例1及び実施例1〜3について、微小振動周波数の振動荷重による加振終了時における表面及び裏面の状態を図9の中段に示す。なお比較例1は、微小振動周波数の振動荷重を加えていないので、上段と同じ状態のままである。
ここで、粘性流体Aの亀裂内浸透試験結果の判定方法として、試験片10裏側の状態に着目し、裏面における左右の予亀裂開口部から粘性流体Aが十分にしみ出ており、粘性流体Aが予亀裂先端部近傍にまで及んでいる場合を最良(○)、粘性流体Aがしみ出てはいるが場所によっては不十分な場合を良(△)、予亀裂開口部から粘性流体Aがあまりしみ出ていない状態を不良(×)として判定した。
【0059】
判定結果は、図9の中段に示す通り、微小振動周波数の振動荷重による加振を加えていない比較例1では「×」、加振した実施例1(加振周波数0.1Hz)及び実施例2(加振周波数1Hz)では「○」、加振周波数10Hzで加振した実施例3では「△」となった。
実施例3において粘性流体Aのしみ出しが部分的に(特に予亀裂先端部近傍で)不十分となった原因としては、加振周波数が大きいために亀裂面近傍の粘性流体Aの見かけ粘度がその高チクソ性に従って大きく低下して流動的になり過ぎ、亀裂面の開閉に伴うポンプ効果が亀裂面近傍で空回りして亀裂内の粘性流体A全体にうまく伝わらなかったためであると考えられる。
【0060】
次に、比較例1及び実施例1〜3について、微小振動周波数の振動荷重による加振終了後(比較例1では微小振動周波数の振動荷重による加振無し)に引張荷重Pmaxを除荷してゼロに戻した状態における表面及び裏面の状態を図9の下段に示す。
この状態について上述した方法により粘性流体Aの亀裂内浸透試験結果を判定すると、微小振動周波数の振動荷重による加振を加えていない比較例1では「△」、加振を加えた実施例1〜3ではいずれも「○」となった。
引張荷重の除荷により、引張載荷時には開口した予亀裂内に入り込んでいた粘性流体Aが閉口する亀裂面に押されてより広い範囲に広がると同時に予亀裂開口部から外部に出てくるため、判定結果は加振終了時(P=Pmax)よりも改善されているが、それでも加振を加えないで引張荷重の載荷・除荷を加えただけの比較例1では△にとどまっており、亀裂内への浸透は不十分であることがわかる。一方、加振終了時(P=Pmax)では△だった実施例3では、引張荷重の除荷に伴う亀裂面の閉口により、粘性流体Aが亀裂面に押されて予亀裂先端部近傍まで十分に行き渡っており、判定結果は〇となっている。
【0061】
以上の結果より、粘性流体Aを塗布した後に加える微小振動周波数の振動荷重の加振周波数としては、0.1Hz〜10Hzの範囲が適しており、より好ましくは0.1Hz〜1Hzの範囲が適しているということがわかる。また、微小振動荷重の荷重レンジとしては、亀裂を開口させるために必要な引張荷重Pの10分の1以下(本実施例では100分の3以下)でも十分であることがわかる。
従って、図2の選定工程S1において、例えば塗布する粘性流体5が粘性流体Aと類似した粘度特性を有しているのであれば、上記知見に基づき、微小振動周波数としては0.1Hz〜10Hzの範囲が適しており、より好ましくは0.1Hz〜1Hzの範囲が適していると判断する。これにより、チクソトロピック特性を有する粘性流体Aと類似した粘度特性を有している粘性流体5の見かけ粘度を適正な範囲で低下させて流動性を増大させることができる。
また、図2の浸透工程S5で作用させる振動荷重の適切な荷重レンジは、例えば、本亀裂内浸透試験のように、疲労亀裂3を開口及び進展させる代表的な繰り返し荷重レンジのレベルがPmaxであり、仮に亀裂進展速度と応力拡大係数範囲の関係を両対数座標上で示す亀裂進展曲線の(Paris則に従う)直線部における傾きがm=3であったとすると、浸透工程S5で作用させる振動荷重の荷重レンジをPmaxの10分の1以下に設定すれば、この振動荷重レンジに対応する亀裂進展速度はPmaxが同じサイクル数だけ繰り返し作用する場合の1000分の1以下となり、亀裂進展に影響しない程度の適切な荷重レンジであると判断される。
【0062】
<粘性流体Bの亀裂内浸透試験>
次に、粘性流体Bの亀裂内浸透試験について説明する。
粘性流体Aの場合と同様に、まず、図8に示す予亀裂を導入した試験片10に対して同図上下方向に引張荷重P=Pmaxを載荷し、疲労亀裂3が開口したままの状態で表面に粘性流体Bを塗布した。引張荷重の値はPmax=3.7tonfとし、対応する試験片の切欠き11及び亀裂のない位置における公称応力はσmax=104MPaである。
塗布に際しては、粘性流体Aの場合と同様の方法により塗布厚が約0.8mmとなるように平坦に塗布した。
そして、試験片10に微小振動周波数の振動荷重を加えない場合を比較例2とし、試験片10に微小振動周波数の振動荷重を加える場合を実施例4〜7とした。実施例4の加振周波数は0.1Hz、実施例5の加振周波数は1Hz、実施例6の加振周波数は10Hz、実施例7の加振周波数は20Hzである。
【0063】
比較例2及び実施例4〜7について、粘性流体Bを塗布した時の表面及び裏面の状態を図10の上段に示す。なお、図10では表面を「表」、裏面を「裏」と略している。
図10の上段から、比較例2及び実施例4〜7のいずれにおいても裏面の亀裂部に粘性流体Bは認められず、亀裂を開口させて塗布するだけでは粘性流体Bが十分に亀裂の奥まで浸透しないことがわかる。
【0064】
次に、P=Pmaxの状態から実施例4〜7について荷重レンジΔP=110kgf(公称応力レンジΔσ=3.1MPaに相当)の微小な振動荷重(引張荷重Pmaxの約3%に相当)を重畳させ、それぞれ3000回(サイクル)ずつ負荷した。なお、振動荷重の加振周波数は上記の通り、実施例4では0.1Hz、実施例5では1Hz、実施例6では10Hz、実施例7では20Hzとした。
比較例2及び実施例4〜7について、微小振動周波数の振動荷重による加振終了時における表面及び裏面の状態を図10の中段に示す。なお比較例2は、微小振動周波数の振動荷重を加えていないので、上段と同じ状態のままである。
また、上述した粘性流体Aの場合と同様の方法により粘性流体Bの亀裂内浸透試験結果を判定した。
【0065】
判定結果は、図10の中段に示す通り、微小振動周波数の振動荷重による加振を加えていない比較例2では「×」、加振した実施例4(加振周波数0.1Hz)及び実施例5(加振周波数1Hz)ででは「○」、加振した実施例6(加振周波数10Hz)及び実施例7(加振周波数20Hz)では「△」となった。
実施例6及び7においては一応亀裂先端部近傍において粘性流体Bのしみ出しが見られたが、その他の部分のしみ出しが不十分であったため判定は△とした。この原因としては、粘性流体Aの実施例3と同様に、加振周波数が大きいために亀裂面近傍の粘性流体Bの見かけ粘度がその高チクソ性に従って大きく低下して流動的になり過ぎ、亀裂面の開閉に伴うポンプ効果が亀裂面近傍で空回りして亀裂内の粘性流体B全体にうまく伝わらなかったためであると考えられる。
【0066】
次に、比較例2及び実施例4〜7について、微小振動周波数の振動荷重による加振終了後(比較例2では微小振動周波数の振動荷重による加振無し)に引張荷重Pmaxを除荷してゼロに戻した状態における表面及び裏面の状態を図10の下段に示す。
この状態について上述した方法により粘性流体Bの亀裂内浸透試験結果を判定すると、微小振動周波数の振動荷重による加振を加えていない比較例2では「△」、加振を加えた実施例4〜6ではいずれも「○」となった。
引張荷重の除荷により、引張載荷時には開口した予亀裂内に入り込んでいた粘性流体Bが閉口する亀裂面に押されてより広い範囲に広がると同時に予亀裂開口部から外部に出てくるため、判定結果は加振終了時(P=Pmax)よりも改善されているが、それでも加振を加えないで引張荷重の載荷・除荷を加えただけの比較例2では△にとどまっており、亀裂内への浸透は不十分であることがわかる。一方、実施例6は加振終了時(P=Pmax)では△だったが、引張荷重の除荷に伴う亀裂面の閉口により、粘性流体Bが亀裂面に押されて予亀裂先端部近傍以外の箇所でも十分に行き渡っており、判定結果は○となった。他方、実施例7は加振終了時(P=Pmax)と同様に予亀裂先端部近傍以外の箇所における粘性流体Bのしみ出しが不十分で判定結果は△のままであり、加振周波数20Hzは粘性流体Bに適用するには高すぎることがわかる。
【0067】
以上の結果より、粘性流体Bを塗布した後に加える微小振動周波数の振動荷重の加振周波数としては、粘性流体Aの場合と同じく0.1Hz〜10Hzの範囲が適しており、より好ましくは0.1Hz〜1Hzの範囲が適しているということがわかる。また、微小振動荷重の荷重レンジとしては、亀裂を開口させるために必要な引張荷重Pの10分の1以下(本実施例では100分の3以下)でも十分であることがわかる。
従って、図2の選定工程S1において、例えば塗布する粘性流体5が粘性流体Bと類似した粘度特性を有しているのであれば、上記知見に基づき、微小振動周波数としては0.1Hz〜10Hzの範囲が適しており、より好ましくは0.1Hz〜1Hzの範囲が適していると判断する。これにより、チクソトロピック特性を有する粘性流体Bと類似した粘度特性を有している粘性流体5の見かけ粘度を適正な範囲で低下させて流動性を増大させることができる。
また、図2の浸透工程S5で作用させる振動荷重の適切な荷重レンジは、例えば、本亀裂内浸透試験のように、疲労亀裂3を開口及び進展させる代表的な繰り返し荷重レンジのレベルがPmaxであり、仮に亀裂進展速度と応力拡大係数範囲の関係を両対数座標上で示す亀裂進展曲線の(Paris則に従う)直線部における傾きがm=3であったとすると、浸透工程S5で作用させる振動荷重の荷重レンジをPmaxの10分の1以下に設定すれば、この振動荷重レンジに対応する亀裂進展速度はPmaxが同じサイクル数だけ繰り返し作用する場合の1000分の1以下となり、亀裂進展に影響しない程度の適切な荷重レンジであると判断される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、船舶、海洋構造物、橋梁、工作機械等の各種構造物に生じる疲労亀裂の検出や進展抑制に利用することができ、構造物の安全性及び信頼性の向上に寄与することが可能となる。
【符号の説明】
【0069】
1 母材(橋梁)
3 疲労亀裂
5 粘性流体
S1 選定工程
S2 開口度確認工程
S3 開口工程
S4 塗布工程
S5 浸透工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10