【実施例】
【0048】
次に、本発明を用いた亀裂内浸透試験について説明する。
本亀裂内浸透試験において、亀裂進展箇所に塗布する粘性流体5として、灰白色シリコーングリースと透明シリコーンオイルの混合物(以下、「粘性流体A」という)と、灰白色シリコーングリースとアルミナ粉の混合物(以下、「粘性流体B」という)を用いた。粘性流体A及び粘性流体Bの構成と機能を表1にまとめて示す。
【0049】
【表1】
【0050】
なお、粘性流体Aのように亀裂進展の目視検出効果を有する粘性流体5として、シリコーングリースを含むグリース全般、グリースとオイルの混合物全般、各種クリーム、又は各種ペーストを用いることができる。
また、粘性流体Bのように亀裂進展の目視検出効果及び亀裂進展の抑制効果を有する粘性流体5として、粘性流体Aのような亀裂進展の目視検出効果を有する粘性流体5と微細な粉末(アルミナ等のセラミックス粉、金属粉など)との混合物を用いることができる。なお、本実施例の粘性流体Bで用いたアルミナ粉は、粒度分布を大凡10〜20μmに整えたものである。
【0051】
図3は、粘性流体Aについて、常温における粘度η
GをB型回転式粘度計(Fungilab社製Viscolead one、R7スピンドル使用)により測定した結果を示したものである。
スピンドルの回転速度N
Rが順次上がりせん断速度が上昇するにつれて粘性流体Aのみかけ粘度η
Gは低下しており、両対数座標上で最小二乗法により直線回帰すると直線の傾きは−0.82となり、顕著なチクソトロピック特性(高チクソ性)を示している。
また
図4は、
図3の横軸のスピンドル回転速度N
R (rpm)をせん断速度D (1/s)に換算したものである。
【0052】
同様にして、粘性流体Bについて、常温における粘度η
PをB型回転式粘度計により測定した結果を
図5に示す。スピンドルの回転速度N
Rが順次上がりせん断速度が上昇するにつれて粘性流体Bのみかけ粘度は低下しており、両対数座標上で最小二乗法により直線回帰すると直線の傾きは−0.87となり、顕著なチクソトロピック特性(高チクソ性)を示している。
【0053】
更に粘性流体Bについて、レオメーター(Reologica Instruments社製VAR-50、C25−4°スピンドル使用)による粘度測定を行った結果を
図6に示す。測定は粘性流体Bを−40℃及び80℃で1ヶ月保存した後、常温に戻して実施したが、
図6に示す通り、保存温度の影響は殆ど認められなかった。一方、粘性流体Bのみかけ粘度η
Pはせん断速度Dに大きく依存しており、プロット点はすべて両対数座標上で右下がり(傾き約−0.8)の直線上にほぼ位置している。
【0054】
図7は、粘性流体の亀裂内浸透試験に用いた切欠き付き平板試験片を示す図である。
試験片10には、JIS SM490A鋼製の板厚5mmの平板試験片中央部に長さ10mm×幅0.3mmの切欠きを放電加工したものを用いた。
また、試験機には、電気−油圧サーボ式疲労試験機(島津製作所製、動的容量10tonf)を用いた。
【0055】
粘性流体5の亀裂内浸透試験に先立って、
図7に示す試験片10に定振幅繰り返し荷重を載荷し、切欠きの両端から予亀裂を導入した。試験条件は、公称応力レンジΔσ=104MPa、応力比R=0(完全片振り)、荷重周波数f=4.1Hzとした。
この試験条件下で繰り返し数N=552000回となった時点で試験を停止した。予亀裂の状況を
図8に示す。切欠き11の左側の亀裂長さa1=14.05mm、右側の亀裂長さa2=13.17mmであった。なお、ここでの亀裂長さは表面(
図8に見える面、以下同じ)における表面亀裂長さであり、全試験完了後に試験片10を破断させ、予め破面に形成しておいたビーチマークから読みとった。また、
図8において試験片10の上下に白く見えるのは、後で粘性流体5を塗布する際にアプリケ−タとして用いるための厚さ0.8mmのマグネットシート20である。
【0056】
<粘性流体Aの亀裂内浸透試験>
次に、粘性流体Aの亀裂内浸透試験について説明する。
まず、予亀裂を導入した試験片10に対して
図8の上下方向に引張荷重P=P
maxを載荷し、亀裂が開口したままの状態で表面に粘性流体Aを塗布した。引張荷重の値はP
max=3.7tonfとし、対応する試験片10の切欠き11及び亀裂のない位置における公称応力はσ
max=104MPaである。
塗布に際しては、上述したように
図8に示す2枚のマグネットシート20とプラスチック板をアプリケ−タとして用い、塗布厚が約0.8mmとなるように平坦に塗布した。
そして、試験片10に微小振動周波数の振動荷重を加えない場合を比較例1とし、試験片10に微小振動周波数の振動荷重を加える場合を実施例1〜3とした。実施例1の加振周波数は0.1Hz、実施例2の加振周波数は1Hz、実施例3の加振周波数は10Hzである。
【0057】
比較例1及び実施例1〜3について、粘性流体Aを塗布した時の表面及び裏面の状態を
図9の上段に示す。なお、
図9では表面を「表」、裏面を「裏」と略している。
図9の上段から、比較例1及び実施例1〜3のいずれにおいても裏面の亀裂部に粘性流体Aは認められず、亀裂を開口させて塗布するだけでは粘性流体Aが十分に亀裂の奥まで浸透しないことがわかる。
【0058】
次に、P=P
maxの状態から実施例1〜3について荷重レンジΔP=110kgf(公称応力レンジΔσ=3.1MPaに相当)の微小な振動荷重(引張荷重P
maxの約3%に相当)を重畳させ、それぞれ3000回(サイクル)ずつ負荷した。なお、振動荷重の加振周波数は上記の通り、実施例1では0.1Hz、実施例2では1Hz、実施例3では10Hzとした。
比較例1及び実施例1〜3について、微小振動周波数の振動荷重による加振終了時における表面及び裏面の状態を
図9の中段に示す。なお比較例1は、微小振動周波数の振動荷重を加えていないので、上段と同じ状態のままである。
ここで、粘性流体Aの亀裂内浸透試験結果の判定方法として、試験片10裏側の状態に着目し、裏面における左右の予亀裂開口部から粘性流体Aが十分にしみ出ており、粘性流体Aが予亀裂先端部近傍にまで及んでいる場合を最良(○)、粘性流体Aがしみ出てはいるが場所によっては不十分な場合を良(△)、予亀裂開口部から粘性流体Aがあまりしみ出ていない状態を不良(×)として判定した。
【0059】
判定結果は、
図9の中段に示す通り、微小振動周波数の振動荷重による加振を加えていない比較例1では「×」、加振した実施例1(加振周波数0.1Hz)及び実施例2(加振周波数1Hz)では「○」、加振周波数10Hzで加振した実施例3では「△」となった。
実施例3において粘性流体Aのしみ出しが部分的に(特に予亀裂先端部近傍で)不十分となった原因としては、加振周波数が大きいために亀裂面近傍の粘性流体Aの見かけ粘度がその高チクソ性に従って大きく低下して流動的になり過ぎ、亀裂面の開閉に伴うポンプ効果が亀裂面近傍で空回りして亀裂内の粘性流体A全体にうまく伝わらなかったためであると考えられる。
【0060】
次に、比較例1及び実施例1〜3について、微小振動周波数の振動荷重による加振終了後(比較例1では微小振動周波数の振動荷重による加振無し)に引張荷重P
maxを除荷してゼロに戻した状態における表面及び裏面の状態を
図9の下段に示す。
この状態について上述した方法により粘性流体Aの亀裂内浸透試験結果を判定すると、微小振動周波数の振動荷重による加振を加えていない比較例1では「△」、加振を加えた実施例1〜3ではいずれも「○」となった。
引張荷重の除荷により、引張載荷時には開口した予亀裂内に入り込んでいた粘性流体Aが閉口する亀裂面に押されてより広い範囲に広がると同時に予亀裂開口部から外部に出てくるため、判定結果は加振終了時(P=P
max)よりも改善されているが、それでも加振を加えないで引張荷重の載荷・除荷を加えただけの比較例1では△にとどまっており、亀裂内への浸透は不十分であることがわかる。一方、加振終了時(P=P
max)では△だった実施例3では、引張荷重の除荷に伴う亀裂面の閉口により、粘性流体Aが亀裂面に押されて予亀裂先端部近傍まで十分に行き渡っており、判定結果は〇となっている。
【0061】
以上の結果より、粘性流体Aを塗布した後に加える微小振動周波数の振動荷重の加振周波数としては、0.1Hz〜10Hzの範囲が適しており、より好ましくは0.1Hz〜1Hzの範囲が適しているということがわかる。また、微小振動荷重の荷重レンジとしては、亀裂を開口させるために必要な引張荷重Pの10分の1以下(本実施例では100分の3以下)でも十分であることがわかる。
従って、
図2の選定工程S1において、例えば塗布する粘性流体5が粘性流体Aと類似した粘度特性を有しているのであれば、上記知見に基づき、微小振動周波数としては0.1Hz〜10Hzの範囲が適しており、より好ましくは0.1Hz〜1Hzの範囲が適していると判断する。これにより、チクソトロピック特性を有する粘性流体Aと類似した粘度特性を有している粘性流体5の見かけ粘度を適正な範囲で低下させて流動性を増大させることができる。
また、
図2の浸透工程S5で作用させる振動荷重の適切な荷重レンジは、例えば、本亀裂内浸透試験のように、疲労亀裂3を開口及び進展させる代表的な繰り返し荷重レンジのレベルがP
maxであり、仮に亀裂進展速度と応力拡大係数範囲の関係を両対数座標上で示す亀裂進展曲線の(Paris則に従う)直線部における傾きがm=3であったとすると、浸透工程S5で作用させる振動荷重の荷重レンジをP
maxの10分の1以下に設定すれば、この振動荷重レンジに対応する亀裂進展速度はP
maxが同じサイクル数だけ繰り返し作用する場合の1000分の1以下となり、亀裂進展に影響しない程度の適切な荷重レンジであると判断される。
【0062】
<粘性流体Bの亀裂内浸透試験>
次に、粘性流体Bの亀裂内浸透試験について説明する。
粘性流体Aの場合と同様に、まず、
図8に示す予亀裂を導入した試験片10に対して同図上下方向に引張荷重P=P
maxを載荷し、疲労亀裂3が開口したままの状態で表面に粘性流体Bを塗布した。引張荷重の値はP
max=3.7tonfとし、対応する試験片の切欠き11及び亀裂のない位置における公称応力はσ
max=104MPaである。
塗布に際しては、粘性流体Aの場合と同様の方法により塗布厚が約0.8mmとなるように平坦に塗布した。
そして、試験片10に微小振動周波数の振動荷重を加えない場合を比較例2とし、試験片10に微小振動周波数の振動荷重を加える場合を実施例4〜7とした。実施例4の加振周波数は0.1Hz、実施例5の加振周波数は1Hz、実施例6の加振周波数は10Hz、実施例7の加振周波数は20Hzである。
【0063】
比較例2及び実施例4〜7について、粘性流体Bを塗布した時の表面及び裏面の状態を
図10の上段に示す。なお、
図10では表面を「表」、裏面を「裏」と略している。
図10の上段から、比較例2及び実施例4〜7のいずれにおいても裏面の亀裂部に粘性流体Bは認められず、亀裂を開口させて塗布するだけでは粘性流体Bが十分に亀裂の奥まで浸透しないことがわかる。
【0064】
次に、P=P
maxの状態から実施例4〜7について荷重レンジΔP=110kgf(公称応力レンジΔσ=3.1MPaに相当)の微小な振動荷重(引張荷重P
maxの約3%に相当)を重畳させ、それぞれ3000回(サイクル)ずつ負荷した。なお、振動荷重の加振周波数は上記の通り、実施例4では0.1Hz、実施例5では1Hz、実施例6では10Hz、実施例7では20Hzとした。
比較例2及び実施例4〜7について、微小振動周波数の振動荷重による加振終了時における表面及び裏面の状態を
図10の中段に示す。なお比較例2は、微小振動周波数の振動荷重を加えていないので、上段と同じ状態のままである。
また、上述した粘性流体Aの場合と同様の方法により粘性流体Bの亀裂内浸透試験結果を判定した。
【0065】
判定結果は、
図10の中段に示す通り、微小振動周波数の振動荷重による加振を加えていない比較例2では「×」、加振した実施例4(加振周波数0.1Hz)及び実施例5(加振周波数1Hz)ででは「○」、加振した実施例6(加振周波数10Hz)及び実施例7(加振周波数20Hz)では「△」となった。
実施例6及び7においては一応亀裂先端部近傍において粘性流体Bのしみ出しが見られたが、その他の部分のしみ出しが不十分であったため判定は△とした。この原因としては、粘性流体Aの実施例3と同様に、加振周波数が大きいために亀裂面近傍の粘性流体Bの見かけ粘度がその高チクソ性に従って大きく低下して流動的になり過ぎ、亀裂面の開閉に伴うポンプ効果が亀裂面近傍で空回りして亀裂内の粘性流体B全体にうまく伝わらなかったためであると考えられる。
【0066】
次に、比較例2及び実施例4〜7について、微小振動周波数の振動荷重による加振終了後(比較例2では微小振動周波数の振動荷重による加振無し)に引張荷重P
maxを除荷してゼロに戻した状態における表面及び裏面の状態を
図10の下段に示す。
この状態について上述した方法により粘性流体Bの亀裂内浸透試験結果を判定すると、微小振動周波数の振動荷重による加振を加えていない比較例2では「△」、加振を加えた実施例4〜6ではいずれも「○」となった。
引張荷重の除荷により、引張載荷時には開口した予亀裂内に入り込んでいた粘性流体Bが閉口する亀裂面に押されてより広い範囲に広がると同時に予亀裂開口部から外部に出てくるため、判定結果は加振終了時(P=P
max)よりも改善されているが、それでも加振を加えないで引張荷重の載荷・除荷を加えただけの比較例2では△にとどまっており、亀裂内への浸透は不十分であることがわかる。一方、実施例6は加振終了時(P=P
max)では△だったが、引張荷重の除荷に伴う亀裂面の閉口により、粘性流体Bが亀裂面に押されて予亀裂先端部近傍以外の箇所でも十分に行き渡っており、判定結果は○となった。他方、実施例7は加振終了時(P=P
max)と同様に予亀裂先端部近傍以外の箇所における粘性流体Bのしみ出しが不十分で判定結果は△のままであり、加振周波数20Hzは粘性流体Bに適用するには高すぎることがわかる。
【0067】
以上の結果より、粘性流体Bを塗布した後に加える微小振動周波数の振動荷重の加振周波数としては、粘性流体Aの場合と同じく0.1Hz〜10Hzの範囲が適しており、より好ましくは0.1Hz〜1Hzの範囲が適しているということがわかる。また、微小振動荷重の荷重レンジとしては、亀裂を開口させるために必要な引張荷重Pの10分の1以下(本実施例では100分の3以下)でも十分であることがわかる。
従って、
図2の選定工程S1において、例えば塗布する粘性流体5が粘性流体Bと類似した粘度特性を有しているのであれば、上記知見に基づき、微小振動周波数としては0.1Hz〜10Hzの範囲が適しており、より好ましくは0.1Hz〜1Hzの範囲が適していると判断する。これにより、チクソトロピック特性を有する粘性流体Bと類似した粘度特性を有している粘性流体5の見かけ粘度を適正な範囲で低下させて流動性を増大させることができる。
また、
図2の浸透工程S5で作用させる振動荷重の適切な荷重レンジは、例えば、本亀裂内浸透試験のように、疲労亀裂3を開口及び進展させる代表的な繰り返し荷重レンジのレベルがP
maxであり、仮に亀裂進展速度と応力拡大係数範囲の関係を両対数座標上で示す亀裂進展曲線の(Paris則に従う)直線部における傾きがm=3であったとすると、浸透工程S5で作用させる振動荷重の荷重レンジをP
maxの10分の1以下に設定すれば、この振動荷重レンジに対応する亀裂進展速度はP
maxが同じサイクル数だけ繰り返し作用する場合の1000分の1以下となり、亀裂進展に影響しない程度の適切な荷重レンジであると判断される。