特許第6864912号(P6864912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6864912
(24)【登録日】2021年4月7日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】アレルゲン低減化剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20210419BHJP
   A61K 8/27 20060101ALI20210419BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20210419BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
   C09K3/00 S
   A61K8/27
   A61K8/44
   A61L9/01 B
   A61L9/01 K
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-123857(P2017-123857)
(22)【出願日】2017年6月26日
(65)【公開番号】特開2019-6898(P2019-6898A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2020年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】390015853
【氏名又は名称】理研香料ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】特許業務法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山形文昭
【審査官】 齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−081727(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/141712(WO,A1)
【文献】 特開2006−026156(JP,A)
【文献】 特開2007−197601(JP,A)
【文献】 特開2007−056394(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/014820(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103025843(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0122319(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/00
A61K8/00
A61L2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛並びにグリシン、アラニン、フェニルアラニン及びサルコシンからなる群より選ばれた1種以上のアミノ酸を含有し、該酸化亜鉛1質量部に対する該アミノ酸の含有量が3質量部以上20質量部以下であることを特徴とするアレルゲン低減化剤。
【請求項2】
更に、酸化亜鉛以外の亜鉛塩を含有する請求項1に記載のアレルゲン低減化剤。
【請求項3】
更に、リン酸塩を含有する請求項1又は請求項2に記載のアレルゲン低減化剤。
【請求項4】
更に、界面活性剤を含有する請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載のアレルゲン低減化剤。
【請求項5】
更に、尿素及びグアニジン並びにこれらの誘導体からなる群より選ばれた1種以上の化合物を含有する請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載のアレルゲン低減化剤。
【請求項6】
動物由来のアレルゲンを低減する請求項1ないし請求項5の何れかの請求項に記載のアレルゲン低減化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルゲン低減化剤に関し、更に詳しくは、抗菌性や消臭性を併せ持つアレルゲン低減化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
人体において、免疫反応が特定の抗原に対して過剰に起こることをアレルギーといい、アレルギーを引き起こす原因となる抗原はアレルゲンと呼称される。
アレルゲンとなりうる物質の多くはタンパク質である。
【0003】
アレルゲンを含有し、アレルギーを引き起こしやすい物(以下、「アレルゲン含有物」という場合がある。)の具体例として、鶏卵、乳、小麦等の食物;ダニ;カビ;スギ、ヒノキ等の花粉;等が挙げられる。
【0004】
ダニは、環境性(吸入性)のアレルゲン含有物の代表例である。ダニは、室内の絨毯、寝具、布製ソファ、畳等に生息する。
アレルゲン含有物となりうるダニの種類としては、チリダニ、コナダニ、ツメダニ、イエダニ等が挙げられるが、特に、チリダニによりアレルギーが引き起こされやすい。
【0005】
アレルゲンは、皮膚炎、鼻炎等の様々な疾患を引き起こすため、アレルゲンが体内に侵入する前に、アレルゲンを除去(低減化)することが求められており、アレルゲンを低減化するための薬剤が種々開発されている。
【0006】
アレルゲンの多くは、水溶性のタンパク質から構成されており、疎水結合、水素結合、イオン結合等により高次の安定構造を有している。アレルゲン低減化作用を持つ薬剤は、アレルゲンとなるタンパク質におけるこれらの結合を破壊したり、側鎖の相互作用を変化させたりすることによって、タンパク質の立体構造を不可逆的に変化させ、変性を引き起こし、アレルゲン性を発現させないようにしているものと考えられる。
【0007】
また、台所、洗面所、トイレ等の水回りの生活空間においては、食物、毛髪付着物質等のアレルゲン原因物質及び水分等の存在により雑菌の繁殖が起こりやすく、そのため、不快な臭気を発生させる原因となっている。臭気の発生を抑制するためには、雑菌の繁殖を抑えることが必要である。雑菌の繁殖を抑制するためには抗菌剤の作用が必要である。
すなわち、アレルゲン低減化作用と同時に消臭作用や抗菌作用を有する薬剤が求められている。
【0008】
アレルゲン低減化作用、消臭作用又は抗菌作用を有する薬剤として、金属塩(特に亜鉛塩)が提案されている。
【0009】
特許文献1には、(a)水と共沸混合物を形成し水との共沸温度が100℃未満になる有機化合物、(b)水、(c)抗菌性化合物、(d)固体源物質を含有するアレルゲン除去剤が開示されており、(c)抗菌性化合物の例として、銀、銅、亜鉛(特に、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛)が提示されている。
【0010】
特許文献2には、ヒドロキシ酸亜鉛及びカチオン性抗菌剤を含有するアレルゲン低減化及び抗菌組成物が開示されている。
【0011】
特許文献3には、リン酸塩と、硫酸亜鉛及び/又は酢酸鉛を有効成分とするアレルゲン低減化剤が開示されているが、硫酸亜鉛や酢酸鉛は単独ではアレルゲン低減効果を発現しないことが示されている(特許文献3の比較例7〜8)。
【0012】
特許文献1〜3には、酸化亜鉛がアレルゲン低減化作用を有することは記載されていない。
【0013】
特許文献4には、(a)亜鉛、(b)イソチアゾリン類、ポリリジン類、ヒドロキシ安息香酸エステル類から選ばれる有機系抗菌剤、(c)有機ホスホン酸及びその塩、少なくとも1つのカルボキシ基を有する総炭素数2〜16の有機酸及びその塩から選ばれる酸類、(d)界面活性剤、(e)水を含有し、25℃でのpHが6〜8である液体消臭剤組成物が記載されており、(a)亜鉛の具体例として、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、グルコン酸亜鉛、酢酸亜鉛、パラフェノールスルホン酸亜鉛が記載されているが、特許文献4に記載の消臭剤がアレルゲン低減化剤としての作用を有することは示唆されていない。
【0014】
特許文献5には、酸化亜鉛と、グリシン、アラニン、フェニルアラニン及びサルコシンの群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸と、水性溶媒とから構成され、酸化亜鉛とアミノ酸とを、その併用割合が重量比で1:3〜1:50の範囲で反応させて生成したアミノ酸の亜鉛錯体を有する抗菌性消臭剤が開示されているが、特許文献5に記載の抗菌性消臭剤がアレルゲン低減化剤としての作用を有することは示唆されていない。
【0015】
アレルゲン低減化剤は、ダニ等のアレルゲン含有物により汚染されやすい畳、絨毯、床、家具(ソファ)、寝具(ベッド、枕、シーツ)、車内用品、キッチン用品、壁紙、衣類等を対象として使用される。これらの対象物は、日常生活において人が触れるものであるので、これらの対象物に使用されるアレルゲン低減化剤としては、安全性が要求されるのは勿論、変色により美観を損ねたり、破損の原因となったりしないことが要求される。
【0016】
しかし、前記した従来技術では、アレルギー低減化作用が十分でなかったり、安全性が十分でなかったり、変色や破損という問題が生じたりする場合があり、かかる問題を解決することが可能な新規なアレルゲン低減化剤の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2004−189606号公報
【特許文献2】特開2017−057194号公報
【特許文献3】特許第4157692号公報
【特許文献4】特開2004−357746号公報
【特許文献5】特許第4637521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、アレルゲン除去作用が高く、また、アレルゲン含有物の発生しやすい場所で生じる悪臭を十分に消臭することができ、安全性が高く、変色や対象物の破損の問題が起きにくいアレルゲン低減化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、化粧品や医薬品等の原料として使用される安全性が高い成分である酸化亜鉛を、特定のアミノ酸と特定の比率で混合して使用すると、透明性の高い水溶液とすることができ、該水溶液は、アレルゲンの低減化作用が高く、変色や対象物の破損を引き起こしにくく、生活空間において使用するアレルゲン低減化剤として優れていることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明は、酸化亜鉛並びにグリシン、アラニン、フェニルアラニン及びサルコシンからなる群より選ばれた1種以上のアミノ酸を含有し、該酸化亜鉛1質量部に対する該アミノ酸の含有量が3質量部以上20質量部以下であることを特徴とするアレルゲン低減化剤を提供するものである。
【0021】
また、本発明は、上記アレルゲン低減化剤に、更に、酸化亜鉛以外の亜鉛塩;リン酸塩;界面活性剤;尿素及びグアニジン並びにこれらの誘導体;等を添加したアレルゲン低減化剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、アレルゲン除去作用が高く、また、消臭性や抗菌性を併せ持つアレルゲン低減化剤を提供することができる。アレルゲン含有物が発生しやすい場所は、雑菌の繁殖による悪臭が発生しやすい。本発明のアレルゲン低減化剤は、アレルゲンの低減化と同時に、様々なガス(アンモニア、トリメチルアミン、硫化水素等)の消臭もできる。また、本発明のアレルゲン低減化剤は、亜鉛による抗菌効果で、雑菌の繁殖自体を抑制することができる。
【0023】
本発明のアレルゲン低減化剤は、化粧品や医薬品等の原料として使用される酸化亜鉛や、アミノ酸を使用しているので、安全性が高い。また、本発明のアレルゲン低減化剤は、変色や汚染を引き起こしにくく、一般家庭等において使用することが可能である。
【0024】
本発明のアレルゲン低減化剤は、酸化亜鉛とアミノ酸に加えて、更に、酸化亜鉛以外の亜鉛塩;リン酸塩;界面活性剤;尿素及びグアニジン並びにこれらの誘導体;を使用することにより、アレルゲン低減化作用を増強することができる。
これらの成分も、安全性が高く、変色や汚染を引き起こしにくいものが多く、本発明のアレルゲン低減化剤は、一般家庭等において安心して使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
【0026】
本発明のアレルゲン低減化剤は、酸化亜鉛並びにグリシン、アラニン、フェニルアラニン及びサルコシンからなる群より選ばれた1種以上のアミノ酸(以下、「特定アミノ酸」という場合がある。)を含有する。
【0027】
<酸化亜鉛>
酸化亜鉛(ZnO)は、化粧品や医薬品等の原料として使用される人体に無害な物質であり、消臭作用の他に抗菌作用を有している。
酸化亜鉛は、非水溶性であるが、上記アミノ酸と特定比率で混合して反応させることにより、水溶性のアミノ酸亜鉛錯体を形成し、水等の水性溶媒に溶解するようになる。
【0028】
<特定アミノ酸>
グリシン、アラニン、フェニルアラニン及びサルコシン(特定アミノ酸)は、分子内にアミノ基(−NH)とカルボキシル基(−COOH)の両方を有し、これらの官能基の存在により、アンモニア、酢酸、ホルムアルデヒド等に対して、消臭効果を発揮する。
アラニンやフェニルアラニンは、D体、L体、ラセミ体の何れも使用可能である。
本発明では、特定アミノ酸は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
酸化亜鉛1質量部に対する特定アミノ酸の含有量は、3質量部以上20質量部以下であり、3.5質量部以上15質量部以下が好ましく、4質量部以上10質量部以下が特に好ましい。
【0030】
酸化亜鉛は、通常、難水溶性であるが、アミノ酸がある程度の量共存する場合、亜鉛にアミノ酸が配位したアミノ酸亜鉛錯体を形成し、水等の水性溶媒に溶解するようになる。
特定アミノ酸の含有量が上記下限以上であると、十分な水溶性が確保できる。
【0031】
一方、特定アミノ酸の含有量が上記上限以下であると、アレルゲン低減化作用が十分に発揮されやすい。また、抗菌性も発揮されやすい。
酸化亜鉛と特定アミノ酸からなるアミノ酸亜鉛錯体の消臭性能は、特定アミノ酸の含有量が上記上限を超えていても発揮される(特許文献5参照)が、アレルゲン低減化作用は、上記上限を超えると低下する。
本発明のアレルゲン低減化剤においては、亜鉛が、アレルゲンとなるタンパク質のペプチド結合等へのキレート剤として作用することによって変性を引き起こしているものと考えられる。特定アミノ酸の含有量が多すぎると、亜鉛の周囲に存在する余剰のアミノ酸との結合が優位となり、亜鉛がアレルゲンとなるタンパク質の結合間に割り込みにくくなるため、十分なアレルゲン低減化作用を発揮しにくくなるものと推察される。
【0032】
また、本発明のアレルゲン低減化剤は、細菌に対する抗菌作用も発揮することができる。本発明のアレルゲン低減化剤は、亜鉛により抗菌作用を発揮する。
細菌の具体例としては黄色ブドウ状球菌、大腸菌等が挙げられる。
【0033】
<水性媒体>
本発明のアレルゲン低減化剤は、溶液に溶解させてアレルゲン低減化用溶液として使用するのが好ましい。
溶液とすることにより、一般家庭において取り扱いしやすいスプレー剤等にして噴射して使用することができる。
【0034】
アレルゲン低減化用溶液の溶媒としては、イオン交換水、水道水等の水;水と水溶性有機溶媒との混合溶媒;等が例示でき、取り扱いのしやすさ、アレルゲン低減化性能、消臭性能等の観点から、水が好ましい。
【0035】
また、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒を使用する場合、水溶性有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール等のグリコール類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類;等が挙げられる。
これらの混合溶媒は、添加剤(例えば香料等)の溶解性に優れる場合がある。
【0036】
水と水溶性有機溶媒との混合溶媒を使用する場合、水溶性有機溶媒の比率の下限は、3質量%以上が好ましく、5質量%以上が特に好ましい。上限は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下が特に好ましい。
【0037】
溶液中における主成分の比率(酸化亜鉛と特定アミノ酸の合計比率)は、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。
上記範囲内であると、コスト的に有利であり、また、アレルゲン低減化性能や消臭性能が十分となりやすい。
【0038】
<酸化亜鉛以外の亜鉛塩>
本発明のアレルゲン低減化剤は、更に、酸化亜鉛以外の亜鉛塩を含有していてもよい。
酸化亜鉛以外の亜鉛塩としては、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛等が例示でき、これらは、無水物であってもよいし、水和物であってもよい。
酸化亜鉛以外の亜鉛塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
酸化亜鉛以外の亜鉛塩を含有させることにより、アレルゲン低減化作用が増強する。後述の実施例から明らかなように、酸化亜鉛以外の亜鉛塩は、単独で使用してもアレルゲン低減化作用をほとんど示さず、特定アミノ酸であるグリシンと併用しても、酸化亜鉛の存在下でなければ、アレルゲン低減化作用をほとんど示さない。
【0040】
本発明において、酸化亜鉛以外の亜鉛塩を使用する場合、酸化亜鉛1質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下含有させるのが好ましく、1質量部以上8質量部以下含有させるのがより好ましく、3質量部以上6質量部以下含有させるのが特に好ましい。
【0041】
また、溶液中における酸化亜鉛以外の亜鉛塩の比率(無水物に換算した比率)は、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上4質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上3質量%以下であることが特に好ましい。
【0042】
<リン酸塩>
本発明のアレルゲン低減化剤は、更に、リン酸塩を含有していてもよい。リン酸塩は、1個のリンと4個の酸素から構成される多原子イオン又は基から形成される物質である。
リン酸塩としては、無機リン酸塩と有機リン酸塩があるが、無機リン酸塩が好ましい。
具体的には、リン酸ナトリウム、リン酸一ナトリウム(リン酸二水素ナトリウム)、リン酸二ナトリウム(リン酸一水素ナトリウム)、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム等が例示できる。
リン酸塩は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
リン酸塩は、単独ではアレルゲン低減化作用をほとんど示さないが、本発明のアレルゲン低減化剤に、リン酸塩を更に添加することにより、アレルゲン低減化作用が増強する。
【0044】
本発明において、リン酸塩を使用する場合、酸化亜鉛1質量部に対して、0.01質量部以上2質量部以下含有させるのが好ましく、0.05質量部以上1質量部以下含有させるのがより好ましく、0.2質量部以上0.8質量部以下含有させるのが特に好ましい。
【0045】
また、溶液中におけるリン酸塩の比率は、0.005質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.02質量%以上0.7質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以上0.5質量%以下であることが特に好ましい。
【0046】
<界面活性剤>
本発明のアレルゲン低減化剤は、更に、界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン系界面活性剤の何れも使用可能である。
【0047】
ノニオン系界面活性剤としては、ノニフェノールポリアルコキシレート、α−ナフトールポリアルコキシレート、ジブチル−β−ナフトールポリアルコキシレート、スチレン化フェノールポリアルコキシレート等のエーテル型ノニオン系界面活性剤;オクチルアミンポリアルコキシレート、ヘキシニルアミンポリアルコキシレート、リノレイルアミンポリアルコキシレート等のアミン型ノニオン系界面活性剤;等が例示できる。
アニオン系界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンノニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩;アルキルベンゼンスルホン酸塩;等が例示できる。
両性界面活性剤としては、2−ウンデシル−1−カルボキシメチル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリウム、N−ステアリル−N,N−カルボキシメチルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキシド等が例示できる。
カチオン系界面活性剤としては、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ラウリルジメチルアンモニウムベタイン、ラウリルピリジニウム塩、オレイルイミダゾリウム塩又はステアリルアミンアセテート等が例示できる。
【0048】
界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
界面活性剤は、タンパク質の変性剤として知られているが、後述の実施例に示すように、単独では十分なアレルギー低減化作用を示さない。しかし、アミノ酸亜鉛錯体を含有する本発明のアレルゲン低減化剤と界面活性剤を併用することにより、アレルギー低減化作用が増強する。
【0050】
本発明において、界面活性剤を使用する場合、酸化亜鉛1質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下含有させるのが好ましく、0.5質量部以上15質量部以下含有させるのがより好ましく、2質量部以上10質量部以下含有させるのが特に好ましい。
【0051】
また、溶液中における界面活性剤の比率は、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上5質量%以下であることが特に好ましい。
【0052】
<尿素等>
本発明のアレルゲン低減化剤は、更に、尿素及びグアニジン並びにこれらの誘導体(以下、これらを総称して「尿素等」という場合がある。)を含有していてもよい。
【0053】
「尿素の誘導体」とは、尿素(CO(NH)の水素原子が置換された化合物をいい、メチル尿素、エチル尿素等の水素原子がアルキル基で置換された化合物等が例示できる。
【0054】
「グアニジンの誘導体」とは、グアニジン(HN=C(NH)の塩、グアニジンの水素原子が置換された化合物やその塩をいい、グアニジン塩酸塩、グアニジン硫酸塩、グアニジン硝酸塩、グアニジン炭酸塩、グアニジンリン酸塩等が例示できる。
【0055】
尿素等は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
尿素等は、タンパク質の変性剤として知られているが、後述の実施例に示すように、単独では十分なアレルギー低減化作用を示さない。しかし、アミノ酸亜鉛錯体を含有する本発明のアレルゲン低減化剤と尿素等を併用することにより、アレルギー低減化作用が増強する。
【0057】
本発明において、尿素等を使用する場合、酸化亜鉛1質量部に対して、0.2質量部以上5質量部以下含有させるのが好ましく、0.5質量部以上3質量部以下含有させるのがより好ましく、0.7質量部以上2質量部以下含有させるのが特に好ましい。
【0058】
また、溶液中における尿素等の比率は、0.02質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上3質量%以下であることが特に好ましい。
【0059】
<他の成分>
本発明のアレルゲン低減化剤には、アレルゲン低減効果を阻害しない範囲で、他の成分として、分散剤、保湿剤、消泡剤、増粘剤、酸化防止剤、防カビ剤、紫外線吸収剤、香料等を添加剤として含有させることができる。
これらの成分は、酸化亜鉛とアミノ酸が、均一に溶解した後で溶液に添加してもよいし、酸化亜鉛とアミノ酸が錯体形成する前に、酸化亜鉛の懸濁液や、アミノ酸の水性溶液に予め添加しておいてもよい。
【0060】
<アレルゲン低減化剤の形態>
本発明のアレルゲン低減化剤は、噴霧剤、エアゾール剤、塗布剤、粉剤、粒剤、洗浄剤等の形態で使用することができる。
噴霧剤として使用する場合は、畳、絨毯、床、家具、寝具、車内用品、キッチン用品、カーテン、壁紙、タオル、衣類、繊維製品、空気清浄機等に直接噴霧して使用することができる。また、マスク用噴霧剤として、通気性を有するシート又はガーゼに噴霧すれば、使用者がアレルゲン原因物質を吸い込むのを防止することができる。
塗布剤の場合、鼻腔周囲用、口腔周囲用、リップクリーム用、化粧料用等として使用することができる。
洗浄剤の場合、衣料用洗浄剤、ヘアケア用洗浄剤、ボディ用洗浄剤等として使用することができる。
噴霧剤・粉剤・粒剤としては、防虫剤、殺虫剤等として使用することができる。
【0061】
本発明のアレルゲン低減化剤による低減化の対象となるアレルゲンは、動物由来のアレルゲン、植物その他の物由来のアレルゲンが例示できる。
動物由来のアレルゲンとしては、ヒョウヒダニ類、コナダニ類、ホコリダニ類、ツメダニ類等のダニ類の死骸や糞;イヌ、ネコ等の表皮(フケ)や毛;等が挙げられる。
植物その他の物由来のアレルゲンとしては、花粉、真菌類、細菌類、砂塵、繊維状物質、浮遊粒子状物質、アスベスト等が挙げられる。
ダニ類は、室内には必ず生息しており、ダニ類由来のアレルゲンは、誰でも日常生活の中で接するものであるため、本発明のアレルゲン低減化剤の使用が効果的である。
【0062】
<作用・原理>
本発明のアレルゲン低減化剤がアレルゲンを大幅に除去することができる作用・原理は明らかではないが、以下のことが考えられる。ただし、本発明は以下の作用・原理の範囲に限定されるわけではない。
【0063】
本発明のアレルゲン低減化剤は、アミノ酸亜鉛錯体及び該錯体の周囲に存在する過剰のアミノ酸から構成されると推定され、アレルゲン低減化剤はアレルゲンを構成するタンパク質と馴染みが良い。タンパク質は金属表面に吸着しやすく、不可逆的な吸着のため変性ないし不活性化されると推定される。タンパク質の金属表面への不可逆的な吸着にはタンパク質のアミノ酸残基のカルボキシル基と金属表面の間の静電的相互作用が大きく寄与していると思われる。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
[アレルゲン低減化試験]
実施例1
酸化亜鉛1gとグリシン4gを200mL三角フラスコに入れ、次いで精製水95gを加えて、50℃に加温した状態で30分間撹拌し、透明水溶液(酸化亜鉛:グリシン=1:4)であるアレルゲン低減化剤を得た。該透明水溶液を、トリガータイプのスプレー容器に充填した。
【0066】
家庭内のカーペット、畳、布団等から採取した塵ゴミについて、以下の方法でアレルゲン低減化の評価を実施した。
【0067】
「ダニ検査用マイティチェッカー」(屋内塵性ダニ簡易検査キット、住化エンバイロメンタルサイエンス(株)製)のゴミ取り袋を家庭用掃除機にセットし、約1m(畳半帖程度に相当)を1分間吸引し、塵ゴミ(各種のダニを含む)を採取した。
塵ゴミ採取後、ゴミ取り袋の表及び裏に、該透明水溶液を、それぞれ2回ずつ噴射した(1回分の噴射量は約0.3mL)。2時間放置後、ゴミ取り袋を1時間30分放置乾燥させた。
【0068】
乾燥後のゴミ取り袋について、「ダニ検査用マイティチェッカー」のキット手順に従って、アレルゲン成分を抽出し、アレルゲン量を測定した。
【0069】
実施例2
実施例1において、酸化亜鉛を0.5g、グリシンを4g、精製水を95.5gに変更した以外は、実施例1と同様にして、アレルゲン量を測定した。
【0070】
実施例3
実施例2において、酸化亜鉛、グリシンの他に、硫酸亜鉛七水和物3gを加え、精製水の量を92.5gとした以外は、実施例2と同様にして、アレルゲン量を測定した。
【0071】
実施例4
実施例2において、酸化亜鉛、グリシンの他に、リン酸ナトリウム(太平化学産業(株)製)0.14gを加え、精製水の量を95.4gとした以外は、実施例2と同様にして、アレルゲン量を測定した。
【0072】
実施例5
実施例2において、酸化亜鉛、グリシンの他に、尿素0.6gを加え、精製水の量を94.9gとした以外は、実施例2と同様にして、アレルゲン量を測定した。
【0073】
実施例6
実施例2において、酸化亜鉛、グリシンの他に、ドデシル硫酸ナトリウム2.9gを加え、精製水の量を92.6gとした以外は、実施例2と同様にして、アレルゲン量を測定した。
【0074】
実施例7
実施例2において、酸化亜鉛、グリシンの他に、乳酸亜鉛三水和物3.0gを加え、精製水の量を92.5gとした以外は、実施例2と同様にして、アレルゲン量を測定した。
【0075】
比較例1
実施例3において、酸化亜鉛、グリシンを使用せず、精製水の量を97gとした以外は、実施例3と同様にして、アレルゲン量を測定した。
【0076】
比較例2
実施例4において、酸化亜鉛、グリシンを使用せず、精製水の量を98gとした以外は、実施例4と同様にして、アレルゲン量を測定した。
【0077】
比較例3
実施例5において、酸化亜鉛、グリシンを使用せず、精製水の量を99.4gとした以外は、実施例5と同様にして、アレルゲン量を測定した。
【0078】
比較例4
実施例6において、酸化亜鉛、グリシンを使用せず、精製水の量を97.1gとした以外は、実施例6と同様にして、アレルゲン量を測定した。
【0079】
比較例5
実施例7において、酸化亜鉛、グリシンを使用せず、乳酸亜鉛三水和物の量を1.0g、精製水の量を99gとした以外は、実施例7と同様にして、アレルゲン量を測定した。
【0080】
比較例6
実施例3において、酸化亜鉛を使用せず、精製水の量を93gとした以外は、実施例3と同様にして、アレルゲン量を測定した。
【0081】
比較例7
実施例4において、酸化亜鉛を使用せず、精製水の量を95.9gとした以外は、実施例4と同様にして、アレルゲン量を測定した。
【0082】
<評価>
各実施例・比較例のアレルゲン量を以下の基準で判断した。結果を表1に示す。
◎・・・ダニアレルゲンレベル <1μg/m
○・・・ダニアレルゲンレベル 5μg/m
△・・・ダニアレルゲンレベル 10μg/m
×・・・ダニアレルゲンレベル >35μg/m
【0083】
なお、「ダニ検査用マイティチェッカー」は、メジャーアレルゲンの一つであるDer2(Derf2とDerp2両方)と特異的に反応するモノクローナル抗体を用いた水平展開クロマト方式により、抽出液中に含まれるダニアレルゲンを発色の程度によって検出するキットである。
【0084】
【表1】
【0085】
上記表1の結果から明らかなように、酸化亜鉛とグリシンを含有する本発明のアレルゲン低減化剤は、十分にダニ類由来のアレルゲンを除去できていた。また、実施例3〜7に示すように、酸化亜鉛とグリシンの他に、硫酸亜鉛七水和物、リン酸ナトリウム、尿素、ドデシル硫酸ナトリウム、乳酸亜鉛三水和物を、更に添加することにより、アレルゲンの低減化性能がより増強された。
【0086】
[消臭試験]
3Lセパラブルフラスコを使用して、その中に対象となる悪臭ガス(アンモニア、トリメチルアミン又は硫化水素)を充填し、ガステック社の検知管を使用して悪臭ガスの初期濃度(1〜100ppm濃度)を測定した。次に、消臭試験に供する各試験液を3Lセパラブルフラスコに3mL添加し、消臭試験をスタートした。
30分後、60分後、120分後に検知管中のガス濃度の測定を行い、各時間経過後の濃度変化から下記式(1)により、消臭率を算出した。
なお、この方法は芳香消臭脱臭協議会資料9・部屋用液体消臭剤(化学的消臭)効力試験法を応用している。
【0087】
【数1】
【0088】
実施例8
実施例1で得られた透明水溶液を精製水で100倍に希釈した液を消臭試験用の試験液として使用し、アンモニア、トリメチルアミン及び硫化水素の消臭率を算出した。
【0089】
実施例9
実施例2で得られた透明水溶液を精製水で100倍に希釈した液を消臭試験用の試験液として使用し、アンモニア、トリメチルアミン及び硫化水素の消臭率を算出した。
【0090】
実施例10
実施例3で得られた透明水溶液を精製水で100倍に希釈した液を消臭試験用の試験液として使用し、アンモニア、トリメチルアミン及び硫化水素の消臭率を算出した。
【0091】
実施例11
実施例4で得られた透明水溶液を精製水で100倍に希釈した液を消臭試験用の試験液として使用し、アンモニア、トリメチルアミン及び硫化水素の消臭率を算出した。
【0092】
実施例12
実施例5で得られた透明水溶液を精製水で100倍に希釈した液を消臭試験用の試験液として使用し、アンモニア、トリメチルアミン及び硫化水素の消臭率を算出した。
【0093】
実施例13
実施例6で得られた透明水溶液を精製水で100倍に希釈した液を消臭試験用の試験液として使用し、アンモニア、トリメチルアミン及び硫化水素の消臭率を算出した。
【0094】
実施例14
実施例7で得られた透明水溶液を精製水で100倍に希釈した液を消臭試験用の試験液として使用し、アンモニア、トリメチルアミン及び硫化水素の消臭率を算出した。
【0095】
実施例8〜14の結果を表2に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
実施例8は、酸化亜鉛:グリシン=1:4(質量比)の試験液であり、一般家庭において生じることの多い悪臭ガス(アンモニア、トリメチルアミン、硫化水素)を効率よく消臭できた。
実施例9は、酸化亜鉛:グリシン=1:8(質量比)の試験液であり、実施例8の試験液と比較すると、消臭効果は全体的にやや減少した。
実施例10〜14は、酸化亜鉛:グリシン=1:8(質量比)の試験液であり、実施例3〜7で得られた透明水溶液を希釈したものである。アンモニア、トリメチルアミンは消臭試験開始後、60分経過時点で消臭率90%以上であり、非常に高い消臭効果が確認できた。硫化水素に関しては、実施例10(硫酸亜鉛七水和物を含有)、実施例14(乳酸亜鉛三水和物を含有)は、試験液添加後、60分経過時点で70%以上と高い消臭率を示した。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のアレルゲン低減化剤は、アレルゲン低減化性能が高く、安全性の高い成分を使用しており、また、変色や汚染を引き起こしにくいため、屋内・屋外にて使用するスプレー剤として使用したり、シートやガーゼに噴霧ないし含浸させたマスクとして使用したり、化粧品や医薬品等に含有させて使用したりと、幅広く利用されるものである。