(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記シャフトが、内シャフトと外シャフトを有しており、該内シャフトによってガイドワイヤルーメンが形成されていると共に、該外シャフトによって前記給排用ルーメンが該内シャフトの外周側に形成されている請求項2に記載のバルーンカテーテル。
【背景技術】
【0002】
従来から、血管へ挿し入れられて使用される医療用具の一つとして、外部からの操作によって血管内で拡張変形および収縮変形させることができるバルーンが知られている。かかるバルーンは、特開2003−117002号公報(特許文献1)に示されているように、一般にシャフトの遠位側に装着されてバルーンカテーテルとして提供されており、シャフトの近位側を操作して血管内に送り込まれると共に、シャフト内に設けられた給排ルーメンを通じて流体をバルーン内へ給排することで拡張および収縮可能とされている。
【0003】
そして、このようなバルーンは、例えば、血管内でバルーンを膨らませて血管狭窄部位を押し広げる治療や、血管内でバルーンを膨らませてその表面に付着させた薬剤を血管の治療部位に塗布する治療に用いられる。また、ステント内でバルーンを膨らませてステントを押し広げることにより血管内へステントを留置する治療や、マイクロカテーテルやガイディングカテーテルを用いた治療に際してそれらカテーテルの遠位端でバルーンを膨らませて血管内面に押し付けることでカテーテルの遠位側開口を血管内で所定部位に位置決めする場合などにも用いられる。
【0004】
ところで、バルーンを血管内の目的とする部位へデリバリする際には、バルーンが折り畳みなどされた収縮状態とされる。ここにおいて、バルーンを目的とする部位へ容易にデリバリ可能とするには、バルーンをデリバリするためのガイディングカテーテルや血管の内面など、バルーンが当接しつつ移動する際の摩擦抵抗を軽減することが望ましい。
【0005】
一方、バルーンを血管内の目的とする部位で拡張させる際には、目的とする部位への治療効果などがより確実に発揮されるように、血管内におけるバルーンの移動を防止することが望ましい。
【0006】
しかしながら、前者のバルーンのデリバリに際しての操作性向上の目的でバルーンの摩擦抵抗を小さくすると、後者のバルーンの拡張の際に血管内で滑りやすくなって位置決めが難しくなる。そのために、両者の要求特性を高度に両立して実現することが困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、バルーンのデリバリに際しての操作性の向上とバルーンの拡張時の血管内での位置決め性の向上とが両立して実現可能とされる、新規な構造のバルーンおよびバルーンカテーテルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載され、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0010】
本発明の第1の態様は、血管へ挿入されて使用される、拡張および収縮が可能なバルーンであって、長さ方向の中央部分が基端側に向かって径寸法が次第に大きくなるテーパ形状とされていると共に、
拡張状態において長さ方向の先端部分と中央部分と基端部分とが前記バルーンの中心軸に対してそれぞれ略一定の傾斜角度をもって長さ方向に延びる部分を備えており、該基端部分が、該中央部分及び該先端部分よりも大きな傾斜角度の絶対値と該先端部分よりも大きな長さ寸法とをもって形成されている一方、前記バルーンの外表面には親水性を有する有機溶媒を用いたコーティング層が設けられており、該有機溶媒中の組成物の濃度を異ならせることで該バルーンの外表面の摩擦抵抗の大きさが長さ方向で異ならされており、
前記基端部分及び前記先端部分の外表面が
前記中央部分の外表面に比して摩擦抵抗が小さいバルーンを、特徴とする。
【0011】
本態様に従う構造とされたバルーンでは、長さ方向の各部分における作用などの相違に着目し、特に先端部分と中央部分とにおいて異なる特性を付与したものである。すなわち、バルーンが血管などの内部に挿し入れられて前進する際、特に挿入抵抗となる狭窄部分では、バルーンの先端部分で押し広げるようにして血管などの内部を移動することとなる。それ故、バルーンに作用する当接力や当接に伴う摩擦抵抗は、先端部分で大きくなりやすく、中央部分は、先端部分で押し広げられたところを通過することになるので、先端部分に比して当接力などが小さくなる傾向にある。
【0012】
一方、バルーンが血管などの内部で拡張される際には、先端部分に比して大径となる中央部分が血管などの内面に対して強く押し付けられることとなり、先端部分は、中央部分よりも外径が小さいので、中央部分に比して血管などの内面へ押し付けられ難い。
【0013】
従って、本態様のバルーンでは、先端部分の摩擦抵抗が小さくされていることから、血管などの内部へ挿入する際の滑り性が向上されて、挿入操作が容易とされると共に、中央部分の摩擦抵抗が確保されていることから、拡張する際の血管などの内面への滑り性が有利に抑えられるなどして、優れた位置決め性が発揮されることとなる。
【0014】
また、本態様に従う構造とされたバルーンでは、中央部分がテーパ形状とされていることにより、例えば長さ方向で径寸法が異なる血管部位や、血栓によって血管の実質的な内径寸法が長さ方向で異ならされた血管部位などに対して、それら血管の内周面形状に適した外周面形状のバルーンを用いて処置することが可能になる。すなわち、従来から一般に用いられているように中央部分が略一定の径寸法で長さ方向に延びる俵形状のバルーンでは、上述のように内径寸法が長さ方向で異なる血管を処置しようとすると、内径寸法が小さい血管部位へのストレスが大きくなり過ぎたり、内径寸法が大きい血管部位へ有効なバルーンの拡張力が及ぼされなかったりする不具合があった。これに対して、本態様の中央部分がテーパ形状とされたテーパ形バルーンを採用することで、そのような不具合が解消されて、目的とする処置を有効に且つ効率的に行うことが可能になる。ところが、テーパ形バルーンでは、従来の俵形バルーンにない特別な問題があった。即ち、バルーンの拡径時に中央部分が傾斜していることから、血管などの内面への押し付け反力がバルーンの長さ方向に対して基端側へ向かって傾斜して及ぼされることとなる。その結果、バルーン自身の拡径力が、血管などの内面への当接反力として、バルーン自身を基端側に向けて移動させる力として作用することとなる。それ故、一般的な俵形バルーンでは、バルーンの拡径に伴って大きくなる血管などへの押し付け力が、そのままバルーンを血管内面に対して位置決めする摩擦抵抗力となり、バルーンの血管内での移動が阻止される。これに対して、本態様が対象とするテーパ形バルーンでは、バルーンの拡径により血管などへの押し付け力が増大するのに伴って、バルーンを基端側へ移動させる力が大きくなることで、バルーンが血管へ押し付けられることで増大する摩擦抵抗力による位置決め効果が発揮される以前に、バルーンが血管内を基端側へ滑るようにして移動してしまって目的とする治療部位へ位置決めされ難いという問題があった。なお、かかる問題に対処するために、バルーンの外周面において、血管などの内周面に対して係止や摩擦等の作用によって大きな移動抵抗力が発揮される構造を採用することも検討したが、十分な位置決め作用が発揮される程の移動抵抗力をバルーン外周面に付与すると、バルーンを血管などに挿し入れて目的部位までデリバリする際の抵抗力も大きくなってしまってバルーンの操作性が劣ってしまうという問題があった。ここにおいて、本態様のバルーンでは、挿入時の操作性に支配的となる先端部分の外周面の摩擦抵抗を小さくする一方、位置決め時の滑り性に大きな影響を及ぼす中央部分の外周面の摩擦抵抗を大きく設定することができる。その結果、バルーンの血管内への挿入操作性を良好に確保しつつ、バルーンの拡張時に中央部分が血管などの内面に押し付けられた際の移動抵抗力を、テーパ形の中央部分に対して傾斜した当接反力として及ぼされる基端側への移動力に対して十分に抵抗し得るように大きく確保して、バルーンを位置決めしつつ安定して拡張させることが可能となるのである。従って、本態様に従えば、中央部分の外周面がテーパ状に傾斜した特別な構造に起因して拡張時の位置決めが難しいというテーパ形バルーンに特有の課題に対して、バルーンの血管などへの挿入時の操作性の低下などの問題を伴うことなく有効な解決策を与えることができるという、特別な技術的効果が発揮されるのである。
【0015】
加えて、本態様に従う構造とされたバルーンでは、血管などの内部を基端側に向かって移動させる際に移動方向前方となるバルーンの基端部分の摩擦抵抗が小さくされている。それ故、例えばバルーンを拡張させて目的とする処置を施した後に、バルーンを収縮させて血管やガイディングカテーテルなどから抜き取る際にも、滑り性が増大されて操作性の向上が図られる。
【0028】
本発明の第
2の態様は、前記第
1の態様に係るバルーンに対して流体の供給と排出を行う給排用ルーメンが設けられたシャフトを備えているバルーンカテーテルを、特徴とする。
【0029】
本発明の第
3の態様は、前記第
2の態様に係るバルーンカテーテルにおいて、前記シャフトが、内シャフトと外シャフトを有しており、該内シャフトによってガイドワイヤルーメンが形成されていると共に、該外シャフトによって前記給排用ルーメンが該内シャフトの外周側に形成されているものである。
【0030】
これら第
2,
3の何れかの態様に記載されたバルーンカテーテルによれば、前記第
1の態様に記載されたバルーンを備えたバルーンカテーテルが有利に製造されて、かかるバルーンカテーテルを血管内に挿入して狭窄部位を治療することにより、前記第
1の態様に記載のバルーンによる効果が安定して発揮され得る。
【発明の効果】
【0031】
本発明に従う構造とされたバルーンおよびバルーンカテーテルによれば、バルーンの先端部分が小さな摩擦抵抗を有することから、血管への挿入に際して良好な操作性が発揮されるとともに、バルーンの中央部分において血管への摩擦抵抗が確保されるなどして、バルーンの拡張後における血管内での良好な位置決め性能が発揮される。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0034】
先ず、
図1,2には、本発明の1実施形態として、本発明に係るバルーン10を備えるバルーンカテーテル12が示されている。このバルーンカテーテル12は、例えば人体の手首や大腿部などから血管に挿し入れて、バルーン10を血管の狭窄部位までデリバリして膨らませることにより、血管の狭窄部位を押し広げて正常な血流を回復する施術などに用いられるようになっている。なお、以下の説明において、先端側とは、バルーンカテーテル12の挿入方向である
図1中の左側を言う一方、基端側とは、使用者が操作する側である
図1中の右側を言う。
【0035】
より詳細には、バルーンカテーテル12は、カテーテル本体14の先端部分にバルーン10が設けられた構造とされている。また、カテーテル本体14は、シャフト16の先端に先端チップ18が固着されるとともに、基端にハブ20が取り付けられることによって構成されている。
【0036】
このシャフト16は、それぞれ管状とされた内シャフト22に外シャフト24が外挿された2重管構造とされている。なお、これら内シャフト22と外シャフト24は、何れも、血管に沿って湾曲可能な特性を有するものとして従来から公知の各種の材質で形成され得る。具体的には、例えばポリアミド、塩化ビニル、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエチレン、ポリエステルエラストマー、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルブロックアミド共重合体等の合成樹脂材料、ステンレス鋼、Ni−Ti合金等の金属材料およびこれらの組み合わせなどによって成形されたものが採用され得る。
【0037】
また、内シャフト22と外シャフト24の具体的構造は特に限定されるものでなく、例えば合成樹脂材などの単一層で形成されていてもよいし、筒状編組体が内部に埋設状態で固着された積層構造などであってもよい。この筒状編組体としては、ステンレス鋼やNi−Ti合金などの金属や合成樹脂からなる繊維や線などがメッシュ状に編み組まれたものなどが採用される。
【0038】
そして、内シャフト22の先端部分は、外シャフト24の先端部分から所定長さで突出しており、内シャフト22の先端に先端チップ18が取り付けられている。先端チップ18は、先端側に向かって次第に小径となるテーパ付きの外周面形状を有しており、その中心軸上には、内シャフト22の内孔に連通する中心孔が貫通形成されている。
【0039】
一方、外シャフト24は、それぞれ管状の、先端側に位置するディスタールシャフト26と基端側に位置するプロキシマルシャフト28とを軸方向に接続した構造とされている。このディスタールシャフト26におけるプロキシマルシャフト28との接続部位、またはその近傍には、外周面に開口する開口部30が設けられている。これにより、ディスタールシャフト26に内挿されている内シャフト22の内孔が、先端側は、先端チップ18の先端開口部を通じて外部に連通されている一方、基端側は、ディスタールシャフト26に設けられた開口部30を通じて外部に連通されている。この結果、先端チップ18の中心孔と内シャフト22の内孔により、後述するガイドワイヤ52が挿通されるガイドワイヤルーメン32が構成されており、当該ガイドワイヤルーメン32の長さ寸法がバルーンカテーテル12の長さ寸法より短くされていることから、本実施形態のバルーンカテーテル12は、ラピッドエクスチェンジ型とされている。
【0040】
また、内シャフト22とディスタールシャフト26との径方向間には隙間が形成されている。かかる隙間は、先端側では、バルーン10の内部に連通されている一方、基端側では、プロキシマルシャフト28の内孔に連通されて、プロキシマルシャフト28の基端に取り付けられたハブ20を通じて外部に連通されている。これにより、バルーン10の内部に連通して外シャフト24の長さ方向略全長に亘って延びるルーメンが形成されており、当該ルーメンを通じてバルーン10内部に流体が給排されるようになっている。そして、この外シャフト24(ディスタールシャフト26)と内シャフト22との間のルーメンにより、給排用ルーメン34が構成されている。
【0041】
さらに、外シャフト24(ディスタールシャフト26)から突出した内シャフト22の先端部分、およびプロキシマルシャフト28の長さ方向中間部分には、それぞれ一対の造影マーカー36,36が取り付けられている。造影マーカー36,36は、それぞれ白金−イリジウム合金などのX線不透過性を有する金属材料で形成されており、環状またはC字形状の部材とされて、内シャフト22の外周面、およびプロキシマルシャフト28の外周面に固着されている。
【0042】
かかるカテーテル本体14の先端部分には、バルーン10が取り付けられている。このバルーン10は、全体として、変形可能な合成樹脂などの膜で形成された略筒状とされており、本実施形態では、カテーテル本体14に外挿されて長さ方向に延びて配されている。そして、バルーン10の先端側開口部が先端チップ18の基端部分に固着されている一方、基端側開口部が外シャフト24(ディスタールシャフト26)の先端部分に固着されている。また、給排用ルーメン34を通じて、例えばカテーテル本体14の外部からバルーン10の内部に流体を供給および排出することにより、バルーン10が拡張および収縮変形させられるようになっている。
【0043】
なお、バルーン10の材質としては、何等限定されるものではなく、従来公知のものが採用可能であるが、例えばポリアミド、ポリエチレン、ポリエチレンエラストマー、ポリウレタン、ポリエーテルブロックアミド共重合体などの可撓性を有する軟質の合成樹脂やゴム膜などが好適に採用され得る。また、セミコンプライアントバルーンやローコンプライアントバルーン、ノーコンプライアントバルーンなど、各種の変形特性を有するバルーンが何れも採用可能である。
【0044】
このバルーン10は、拡張状態において、先端側から基端側に向かって次第に径寸法が大きくなるテーパ形状とされている。すなわち、バルーン10の長さ方向中央部分38が、略一定の傾斜角度をもって先端側から基端側に向かって次第に径寸法が大きくされている。また、バルーン10の長さ方向先端部分40は、バルーン10の中央部分38における傾斜角度よりも大きな傾斜角度をもって先端側から基端側に向かって次第に径寸法が大きくなるテーパ形状とされている。一方、バルーン10の長さ方向基端部分42は、先端側から基端側に向かって次第に径寸法が小さくされており、先端部分40や中央部分38とは逆向きのテーパ形状とされている。
【0045】
本実施形態において、先端部分40と中央部分38と基端部分42は、カテーテル本体14およびバルーン10の中心軸Xに対してそれぞれ略一定の傾斜角度θa、θb、−θcをもって長さ方向に延びる部分を備えている。
【0046】
また、本実施形態では、基端部分42における傾斜角度θc(絶対値)が、中央部分38の傾斜角度θbよりも大きくされているとともに、先端部分40の傾斜角度θaよりも大きくされている。なお、中央部分38は、必ずしも全長に亘って一定の傾斜角度とされている必要はなく、例えば先端部分40や基端部分42よりも小さな曲率で多少の湾曲形状が付されていてもよい。
【0047】
さらに、本実施形態のバルーン10では、中央部分38と先端部分40、および中央部分38と基端部分42とがそれぞれ滑らかに接続されており、中央部分38と先端部分40、および中央部分38と基端部分42との各接続部分には、
図2に示す縦断面において長さ方向での角部(折れ点)が外周面に発生しないように傾斜角度が滑らかに変化するアール面形状の移行領域44が設けられている。なお、本実施形態では、先端部分40と基端部分42の各傾斜角度が軸方向で次第に変化していることにより、かかる移行領域44が、先端部分40と基端部分42における各中央部分38側の軸方向端部に設定されている。
【0048】
ここにおいて、バルーン10の外表面には、長さ方向の全長に亘って薄膜状のコーティング層46が設けられている。すなわち、このコーティング層46は、バルーン10の先端部分40の外表面を全面に亘ってコーティングする先端コーティング層46aと、中央部分38の外表面を全面に亘ってコーティングする中央コーティング層46bと、基端部分42の外表面を全面に亘ってコーティングする基端コーティング層46cとから構成されている。
【0049】
本実施形態では、このコーティング層46は親水性を有する粘度の高い有機溶媒とされており、先端コーティング層46aを構成する材料の濃度と中央コーティング層46bを構成する材料の濃度とを相互に異ならせることにより、中央コーティング層46bに比べて先端コーティング層46aの方が親水性が大きくされている。このように、コーティング層46の長さ方向で親水性の度合いを異ならせることにより、バルーン10の外表面の長さ方向で摩擦抵抗の大きさ(滑り性)が異ならされており、バルーン10の先端部分40における外表面(先端コーティング層46a)が中央部分38における外表面(中央コーティング層46b)に比べて小さな摩擦抵抗(優れた滑り性)を有している。
【0050】
なお、基端コーティング層46cの親水性の度合い、すなわちバルーン10の基端部分42における外表面の摩擦抵抗の大きさは特に限定されるものではないが、中央部分38における外表面よりも小さな摩擦抵抗を有することが好適である。本実施形態では、基端コーティング層46cが先端コーティング層46aと略同程度の親水性の度合いとされており、バルーン10の基端部分42の摩擦抵抗の大きさ(滑り性)が、中央部分38よりも小さく(滑り性が大きく)、先端部分40と略同程度とされている。
【0051】
なお、粘度の高い有機溶媒であるコーティング層46の材料は特に限定されるものではないが、例えばコーティング層46a,46b,46cとして同じ組成の親水性コーティング層を採用しつつ、特定の組成物の濃度を異ならせることによって、各コーティング層46a,46b,46cの摩擦抵抗を互いに異なる大きさに設定することが可能である。
【0052】
具体的には、例えば各コーティング層46a,46b,46cの材料として、THF(テトラヒドロフラン)中にMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)とMVE(メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体のハーフエチルエステル)を配合した組成物からなる共通のコーティング材料を採用することができる。そして、中央コーティング層46bの材料として、THF中にMDIを0.13重量%、且つMVEを0.75重量%加えた配合割合の組成物を採用した場合には、先端コーティング層46aおよび基端コーティング層46cの材料として、例えばTHF中にMDIを0.63重量%、且つMVEを1.25重量%加えた配合割合の組成物や、THF中にMDIを1.00重量%、且つMVEを1.00重量%加えた配合割合の組成物、またはTHF中にMDIを0.50重量%、且つMVEを1.50重量%加えた配合割合の組成物などが採用可能である。このような配合割合の組成物からなる材料でコーティング層46a,46b,46cを形成することにより、各コーティング層46a,46b,46cにおいてそれぞれ目的とする大きさの摩擦抵抗を実現可能であることが、本発明者の実験によって確認されている。
【0053】
なお、上記具体例では、各コーティング層46a,46b,46cの材料の濃度を変えることにより各コーティング層46a,46b,46cの摩擦抵抗の大きさを異ならせているが、例えば各コーティング層で材料自体を異ならせることにより摩擦抵抗の大きさを異ならせてもよい。
【0054】
かかる粘度の高い有機溶媒の材料は、例えば反応性官能基を有するポリマーと親水性ポリマーとの共重合体とされる。この反応性官能基としては、例えばエポキシ基、酸クロリド基、アルデヒド基、イソシアネート基などが挙げられる。具体的には、反応性官能基を有するポリマーを構成するモノマーとしては、例えばグリシジルアクリレートやグリシジルメタクリレートなどの反応性複素環を分子内に有するもの、アクリル酸クロリドやメタクリル酸クロリドなどの酸クロリドを分子内に有するもの、アクリロイルオキシエチルイソシアネートなどのイソシアネート基を分子内に有するものなどが挙げられる。
【0055】
また、親水性ポリマーを構成するモノマーとしては、例えばアクリルアミドやその誘導体、ビニルピロリドン、アクリル酸やメタクリル酸およびそれらの誘導体などが挙げられる。具体的には、例えばN−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、ビニルピロリドン、2−メタクロイルオキシエチルフォスフォリルコリン、2−メタクリロイルオキシエチル−D−グリコシド、2−メタクリロイルオキシエチル−D−マンノシド、ビニルメチルエーテルなどが挙げられる。
【0056】
また、バルーン10の外表面に対してコーティング層46を設ける方法は何等限定されるものではないが、例えばコーティング層46の材料と重合開始剤などの混合物をバルーン10の外表面に、ディッピングや刷毛塗り、スプレーまたはこれらの組み合わせにより塗布し、光、熱、電子線、放射線などを与えることにより重合反応を開始させて、架橋構造を有するコーティング層をバルーン14の外表面に直接形成するなど、従来公知のコーティング層形成法が採用され得る。さらに、コーティング層の形成後は、表面を乾燥させることでコーティング層46を保護するとともに、バルーン10(コーティング層46)を血管内に挿入することで血液などにより湿潤性(滑り性)が回復するようにされることが望ましい。また、別途形成した略筒状のコーティング層をバルーンに外挿して、接着や溶着などにより後固着することで、バルーン10の外表面に対してコーティング層46を設けるようにしてもよい。
【0057】
なお、かかるバルーン10に設けられるコーティング層46は、バルーン10の拡張状態における外表面に設けられてもよいし、バルーン10の収縮状態(後述する
図3参照)における外表面に設けられてもよい。コーティング層46がバルーン10の拡張状態における外表面に設けられる場合には、バルーン10の中央部分38におけるコーティング層46bが、後述する血管48内の位置決め効果を安定して発揮することができる。一方、コーティング層46がバルーン10の収縮状態における外表面に設けられる場合には、コーティング層46がバルーン10のラッピングに影響を与えるおそれが回避され得る。
【0058】
以下、上記の如き構造とされたバルーンカテーテル12の使用方法を、
図3を参照しつつ説明する。
【0059】
先ず、上記の如き構造とされたバルーンカテーテル12を準備する。なお、初期状態では、バルーン10は、軸方向に延びる山折線や谷折線に沿って折り畳まれてカテーテル本体14に周方向で巻き重ねられている。かかるバルーン10のラッピング形状は何等限定されるものではなく、従来公知のラッピング形状が採用され得る。なお、例えば、バルーン10は、
図1,2に示される拡張状態だけでなく、
図3に示される収縮状態でも、中央部分38の基端(基端部分42の先端)において外径寸法が最大とされているとともに、長さ方向両端に向かって外径寸法が次第に小さくなる形状とされることも可能である。蓋し、バルーン10が内シャフト22の回りに巻き取られるようにされた収縮状態でも、例えば、バルーン10の外径寸法に応じて周長が異なり、重なり合ったバルーン周壁の厚さが異なること等を利用できるからである。
【0060】
そして、バルーンカテーテル12の血管48への挿入に先立って、血管48の狭窄部位50に対して予めガイドワイヤ52を挿通する。次に、当該ガイドワイヤ52に沿って、ガイディングカテーテル54を血管48の狭窄部位50の手前まで導入する。さらに、バルーンカテーテル12のガイドワイヤルーメン32にガイドワイヤ52を挿通して、ガイディングカテーテル54の内部を通じて、バルーンカテーテル12を血管内に挿入する。さらに、バルーンカテーテル12の先端をガイディングカテーテル54の先端開口部から突出させて、バルーンカテーテル12に設けられたバルーン10をガイディングカテーテル54から露出させるとともに、血管48の狭窄部位50の内部にデリバリして位置させる。
【0061】
続いて、カテーテル本体14に設けられた給排用ルーメン34を通じて流体をバルーン10内部に供給してバルーン10を拡張することにより、血管48の狭窄部位50を押し広げて、狭窄部位50における拡張処置を行う(
図2の仮想線(二点鎖線)で示された血管狭窄部位の拡張状態を参照)。なお、バルーンカテーテル12が挿入される血管48の具体的な位置や構造、形状などは限定されるものではないが、例えばかかる血管48がテーパ形状(カテーテルの挿入方向前方が次第に狭幅となるテーパ形状)であっても、本実施形態の如きテーパ形状のバルーン10が採用されることにより、血管48へのバルーンカテーテル12の挿入操作が容易とされるとともに、バルーン10の拡張による血管48に対する拡張処置を、狭窄部位50の全長に亘って効果的に施すことも可能となる。
【0062】
処置後は、給排用ルーメン34を通じてバルーン10内部から流体を排出してバルーン10を収縮させた後、ガイディングカテーテル54を通じてバルーンカテーテル12を基端側に引き抜く。
【0063】
ここにおいて、バルーンカテーテル12に設けられたバルーン10には、長さ方向の略全長に亘ってコーティング層46が設けられており、特に、バルーン10の先端部分40において、中央コーティング層46bよりも摩擦抵抗が小さくされた先端コーティング層46aが設けられていることから、バルーンカテーテル12をガイディングカテーテル54内に挿し入れたり、血管48の狭窄部位50に挿通するときなど先端側へ向けて挿入する際の挿入抵抗が低減されて挿入作業性の向上が図られ得る。
【0064】
また、バルーン10の基端部分42においても、中央コーティング層46bよりも摩擦抵抗が小さくされた基端コーティング層46cが設けられていることから、バルーン10の収縮状態でバルーンカテーテル12を基端側へ引抜移動させる際などの挿入抵抗が低減されて、基端側への引抜移動効率の向上が図られ得る。特に、本実施形態のように、バルーンカテーテル12とガイディングカテーテル54が組み合わされて使用されることにより、バルーン10(バルーンカテーテル12)が血管48の狭窄部位50に安定してガイドされるだけでなく、バルーンカテーテル12の引抜時におけるバルーン10とガイディングカテーテル54との摩擦抵抗が低減されて、バルーンカテーテル12がガイディングカテーテル54に引っ掛かったりすることなく効率よくガイディングカテーテル54内に収容されて引き抜かれ得る。
【0065】
それに加えて、バルーン10の中央コーティング層46bは、先端コーティング層46aや基端コーティング層46cよりも摩擦抵抗が大きくされていることから、バルーン10が拡張されて血管48内面に当接する際には、かかる中央コーティング層46bによってバルーン10(バルーンカテーテル12)の血管48への摩擦抵抗が確保されて血管48内での長さ方向の位置ずれが効果的に防止され得る。これにより、バルーン10による狭窄部位50の拡張処置を安定して且つ容易に行うことが可能となる。
【0066】
特に、バルーン10において、長さ方向における親水性(摩擦抵抗)の違いが、親水性(摩擦抵抗)が異なる先端コーティング層46a、中央コーティング層46b、基端コーティング層46cが設けられることにより付与されることから、これら各コーティング層46a,46b,46cの材料や濃度を調節することにより、バルーン10の長さ方向における親水性(摩擦抵抗)の違いが容易に設定、変更され得る。
【0067】
また、バルーン10において拡張時に血管48へ拡張力を及ぼす中央部分38が、全体として先端側から基端側に向かって次第に外径寸法の大きくなるテーパ形状とされていることから、テーパ形状とされた血管48に対して特に有効な効果が発揮され得る。すなわち、テーパ形状とされた血管48の小径とされた部分の内面に対して強くストレスを与えることなく、あるいはバルーン10と血管48の大径とされた部分との間に隙間を作ることなく、長さ方向に延びる血管48の治療部位の全体に亘って目的とする処置を効果的に施すことが可能となる。
【0068】
以上、本発明の実施形態および実施例について説明してきたが、本発明はかかる実施形態における具体的な記載によって限定的に解釈されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良などを加えた態様で実施可能である。
【0069】
例えば、前記実施形態では、コーティング層46がバルーン10の長さ方向略全長に亘る領域に形成されていたが、かかる態様に限定されない。すなわち、前記実施形態では、先端コーティング層46a、中央コーティング層46b、基端コーティング層46cが設けられていたが、例えばこれらのコーティング層のうち、何れか1つまたは2つが設けられる態様が採用されてもよい。尤も、コーティング層を設ける代わりに、例えばバルーンを構成する材質が先端部分と中央部分で異ならされることで、中央部分に比べて先端部分の摩擦抵抗を低減させるようにしてもよい。また、先端コーティング層、中央コーティング層、基端コーティング層の何れが設けられる場合であっても、それぞれバルーンの先端部分、中央部分、基端部分を全面に亘ってコーティングする必要はなく、周方向や軸方向で部分的にコーティングされていてもよい。
【0070】
さらに、前記実施形態では、親水性を有するコーティング層46を設けることにより、バルーン10の摩擦抵抗が低減されていたが、例えば摩擦抵抗を増大させるコーティング層が設けられてもよい。すなわち、バルーンの中央部分に対して摩擦抵抗を増大させるコーティング層などを設けることなどにより、先端部分に比べて中央部分の摩擦抵抗を増大させてもよい。また、バルーンの中央部分に凹凸を設けたり、粘性の大きいコーティング層を設けるなどして摩擦抵抗を増大させてもよい。
【0071】
なお、前記実施形態では、コーティング層46が親水性重合体(粘度の高い有機溶媒)により構成されていたが、コーティング層が潤滑剤や低摩擦性樹脂により構成されていてもよい。この潤滑剤としては、例えばシリコンオイルやオリーブオイル、グリセリンなどが採用される一方、低摩擦性樹脂としては、例えばフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))やシリコン樹脂などが採用される。すなわち、コーティング層は親水性を示す必要はなく、親水性を示さない小さな摩擦抵抗の材料も採用され得る。
【0072】
更にまた、前記実施形態では、先端コーティング層46a、中央コーティング層46b、基端コーティング層46cのそれぞれが単一の材料による単層構造とされていたが、例えば複数のコーティング層による積層構造とされてもよい。すなわち、例えばバルーンの長さ方向略全長に亘って摩擦抵抗の小さいコーティング層が設けられるとともに、その外側において、バルーンの中央部分にのみ摩擦抵抗の大きい中央コーティング層が重ねられて設けられるなどしてもよい。
【0073】
また、バルーンの形状は何等限定されるものではない。バルーンの長さ方向先端部分、中央部分、基端部分のそれぞれの傾斜角度は限定されるものではないし、中央部分の傾斜角度θbが略0とされて、すなわち中央部分の径寸法が長さ方向で略一定とされて、いわゆる俵型のバルーンとされてもよい。
【0074】
さらに、前記実施形態では、バルーンカテーテル12がラピッドエクスチェンジ型のカテーテルとされていたが、例えば内シャフトがカテーテル本体の基端まで延びるオーバーザワイヤ型のカテーテルとされてもよい。更にまた、前記実施形態では、シャフト16が、内シャフト22と外シャフト24との2重管構造とされて、内シャフト22の内孔がガイドワイヤルーメン32とされる一方、内シャフト22と外シャフト24との隙間が給排用ルーメン34とされていたが、例えば特許公報第5629852号公報の
図9,10に示されているように、シャフトが単管構造とされて、当該シャフトの内部にガイドワイヤルーメンと給排用ルーメンを設けるようにしてもよい。
【0075】
なお、前記実施形態では、本発明に係るバルーン10を備えるカテーテルとして、血管48の狭窄部位50を押し広げるバルーンカテーテル12が示されていたが、これに限定されるものではなく、本発明に係るバルーンは、例えばガイディングカテーテルやマイクロカテーテルに採用されてもよい。これらのカテーテルの先端部分に本発明に係るバルーンが設けられることにより、カテーテルの挿入性と位置決め性が共に向上され得る。さらに、バルーンの外表面に薬剤を塗布して、DEB(薬剤溶出性バルーン)とすることも可能であるし、ステントをデリバリおよび拡径するためのステントデリバリカテーテルとして採用することも可能である。これにより、特にテーパ形状とされた血管に対して効果的に薬剤を溶出させることができるとともに、ステントの留置も安定して実現され得る。なお、ステントデリバリカテーテルとして採用される場合には、バルーンの形状とステントの形状を対応させることが好ましく、例えばバルーンがテーパ形状とされる際には、ステントもテーパ形状とされることが好ましい。
なお、本発明の出願時の第3の態様は、本発明の出願時の第1又は第2の態様に係るバルーンにおいて、長さ方向の前記先端部分の外表面にはコーティング層が設けられているものである。本態様に従う構造とされたバルーンでは、コーティング層を構成する材質を選択することで、先端部分に付与する摩擦抵抗について大きな設定自由度が確保され得る。すなわち、バルーンの表面における摩擦抵抗の設定や調節は、例えばバルーンを構成する基材そのものを先端部分と中央部分とで異ならせることによって実現したり、疎水性高分子材料からなるバルーン表面に対して光や放射線、プラズマなどの照射によるグラフト処理を施して親水性を付与することによって実現することなども可能である。しかし、異なる複数種類の材質で単一のバルーンを形成したり放射線などの照射処理をすることは、製造が難しく設備も大掛かりとなると共に、選択可能な材質や特性も制限される。それに比してバルーンの表面を部分的にコーティングして摩擦抵抗の大きさなどを異ならせることで、製造も容易であると共に、材質の選択自由度ひいては滑り性などの特性の設定自由度も大きくなる。なお、コーティング層は、例えば親水性重合体をディッピングや塗布、スプレーなどで付着させるだけでも良いが、バルーンの基材表面に対してコーティング層を共有結合させたり反応させたりして永続性を向上させても良い。また、本発明の出願時の第4の態様は、本発明の出願時の第1〜3の何れかの態様に係るバルーンにおいて、外表面の長さ方向の全長に亘ってコーティング層が設けられていると共に、長さ方向の先端部分の該コーティング層が中央部分の該コーティング層と異ならされることで摩擦抵抗の大きさが異ならされているものである。本態様に従う構造とされたバルーンでは、先端部分だけでなく中央部分にもコーティング層を設け、それら先端部分と中央部分とに異なるコーティング層を採用することにより、先端部分と中央部分とにそれぞれ要求される滑り性などの特性(摩擦抵抗の大きさ)をより大きな自由度で良好に設定することが可能となる。なお、本態様において、異なるコーティング層は、コーティング材として異なる組成のものを採用するほか、例えば配合される特定の組成物の濃度を異ならせることなどでも実現され得る。