特許第6865076号(P6865076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6865076-スチレン系共重合体およびその製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6865076
(24)【登録日】2021年4月7日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】スチレン系共重合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/04 20060101AFI20210419BHJP
   C08F 212/08 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
   C08F290/04
   C08F212/08
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-51631(P2017-51631)
(22)【出願日】2017年3月16日
(65)【公開番号】特開2017-218576(P2017-218576A)
(43)【公開日】2017年12月14日
【審査請求日】2019年11月26日
(31)【優先権主張番号】特願2016-63833(P2016-63833)
(32)【優先日】2016年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-111337(P2016-111337)
(32)【優先日】2016年6月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100191444
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 尚久
(72)【発明者】
【氏名】中川 優
(72)【発明者】
【氏名】金山 明弘
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−225866(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/069077(WO,A1)
【文献】 特開2013−100427(JP,A)
【文献】 特開2013−100430(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/132640(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F290/02、212/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量(Mn)が850〜100000であり、2つの共役ビニル基が末端にそれぞれ位置している、鎖状の共役ジビニル化合物と、少なくともスチレン系化合物を含む1種類以上のモノビニル化合物とのスチレン系共重合体であって、前記スチレン系化合物の含有量は前記モノビニル化合物の合計量を基準として70モル%以上であり、
前記スチレン系化合物は、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、クロロスチレン及びブロモスチレンからなる群から選択される1種以上であり、
前記共役ジビニル化合物の含有量が、前記モノビニル化合物1モル当たり2.0×10−6〜4.0×10−4モルであり、
前記スチレン系共重合体は、重量平均分子量(Mw)が20万〜50万であり、
分子量200万以上の割合が0.3%〜6.0%であり、
立上りはじめひずみが0.2〜1.3であり、最大立上り比が1.2〜5.0である、スチレン系共重合体。
【請求項2】
前記モノビニル化合物が、前記スチレン系化合物(モノマー)のみ、又は、前記スチレン系化合物と共に前記スチレン系化合物と共重合可能な他のモノビニル基を有する化合物からなり、前記他のモノビニル基を有する化合物は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレート、無水マレイン酸、マレイミド、及び核置換マレイミドからなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載のスチレン系共重合体。
【請求項3】
前記共役ジビニル化合物の数平均分子量(Mn)が1000〜30000である、請求項1又は2に記載のスチレン系共重合体。
【請求項4】
前記スチレン系共重合体のMwに対するZ平均分子量(Mz)の比が1.8〜5.0である、請求項1〜のいずれか一項に記載のスチレン系共重合体。
【請求項5】
前記スチレン系共重合体の分子量100万以上の割合が4.0%〜20.0%である、請求項1〜のいずれか一項に記載のスチレン系共重合体。
【請求項6】
前記共役ジビニル化合物が、(水添)ポリブタジエンジ(メタ)アクリレートである、請求項1〜のいずれか一項に記載のスチレン系共重合体。
【請求項7】
連続溶液重合又は連続塊状重合を用いて、請求項1〜のいずれか一項に記載のスチレン系共重合体を重合することを含む、スチレン系共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスチレン系共重合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は透明性、成形加工性等に優れるため、家電、事務機製品、雑貨、住宅設備等の成形材料や食品包装材料に多く利用されている。近年、製品の薄肉化、軽量化、形状の多様化が要求されており、良好な外観で、成形加工性などに優れるスチレン系樹脂が求められている。スチレン系樹脂の押出シートなどの成形加工性を向上させる方法として、スチレン系樹脂に超高分子量成分を含有させる方法が有効であることが知られている。
【0003】
このような方法としては、特許文献1は、スチレンを必須とするモノビニル化合物と、平均して1分子中にビニル基を2つ以上有し、分岐構造を有する溶剤可溶性多官能ビニル共重合体とを、重合することによって得られる高分岐型超高分子量共重合体を含有する高分岐型発泡用スチレン系共重合体を記載している。この高分岐型発泡用スチレン系樹脂組成物は、溶融張力と溶融延伸性とのバランスに優れ、重合装置の多孔ダイから押し出されるストランド中のゲル状物質を低減できることが開示されている。また、特許文献2では、ポリスチレン系共重合体の所定条件での一軸伸長粘度を測定した際に、時間−伸長粘度曲線の対数プロットにおける非線形領域の一次近似直線の傾きと上記曲線における線形領域の一次近似直線の傾きとの比に着目している。具体的には、この比を2.0〜6.0の範囲とすることで、容器の物性を低下させることなく軽量化を実現できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−100427号公報
【特許文献2】特開2014−189764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の高分岐型発泡用スチレン系共重合体では、ゲル状物質の低減については十分ではなく、更なる改良の余地があることが分かった。特許文献2では、ポリスチレン系共重合体の所定条件での一軸伸長粘度を測定した際に、時間−伸長粘度曲線の対数プロットにおける非線形領域の一次近似直線の傾きと上記曲線における線形領域の一次近似直線の傾きとの比を特定の範囲にすることが記載されているが、ゲル状物質の低減については十分ではなく、更なる改良の余地があることが分かった。
本発明は、このような従来の実情に鑑みて考案されたものであり、本発明の目的は、成形加工性に優れ、かつゲル状物質の少ないスチレン系共重合体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意研究を進めた結果、スチレン系共重合体を、所定の共役ジビニル化合物と所定のモノビニル化合物とで、適切な含有比で構成するとともに、スチレン系共重合体の分子量、及び分子量分布を適切な範囲に制御することにより、成形加工性に優れ、かつゲル状物質の少ないスチレン系共重合体を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記に示すとおりである。
〔1〕
数平均分子量(Mn)が850〜100000である共役ジビニル化合物と、少なくともスチレン系化合物を含む1種類以上のモノビニル化合物とのスチレン系共重合体であって、
上記共役ジビニル化合物の含有量が、上記モノビニル化合物1モル当たり2.0×10−6〜4.0×10−4モルであり、
上記スチレン系共重合体は、重量平均分子量(Mw)が20万〜50万であり、
分子量200万以上の割合が0.3%〜6.0%である、スチレン系共重合体。
〔2〕
上記共役ジビニル化合物の数平均分子量(Mn)が1000〜30000である、項目1に記載のスチレン系共重合体。
〔3〕
上記共役ジビニル化合物が鎖状である、項目1または項目2に記載のスチレン系共重合体。
〔4〕
上記共役ジビニル化合物の共役ビニル基が末端に位置する、項目1〜3のいずれか一項に記載のスチレン系共重合体。
〔5〕
上記スチレン系共重合体のMwに対するZ平均分子量(Mz)の比が1.8〜5.0である、項目1〜4のいずれか一項に記載のスチレン系共重合体。
〔6〕
上記スチレン系共重合体の分子量100万以上の割合が4.0%〜20.0%である、項目1〜5のいずれか一項に記載のスチレン系共重合体。
〔7〕
立上りはじめひずみが0.2〜1.3であり、最大立上り比が1.2〜4.0である、項目1〜6に記載のスチレン系共重合体。
〔8〕
上記共役ジビニル化合物が、(水添)ポリブタジエンジ(メタ)アクリレートである、項目1〜7のいずれか一項に記載のスチレン系共重合体。
〔9〕
連続溶液重合又は連続塊状重合を用いて、項目1〜8のいずれか一項に記載のスチレン系共重合体を重合することを含む、スチレン系共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、成形加工性に優れ、かつゲル状物質の少ないスチレン系共重合体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例及び比較例で得られたスチレン系共重合体について、横軸にヘンキーひずみを、縦軸に伸長粘度をプロットした両対数グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)について説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0010】
《スチレン系共重合体》
本実施形態のスチレン系共重合体は、数平均分子量(Mn)が850〜100000である共役ジビニル化合物と、少なくともスチレン系化合物を含む1種類以上のモノビニル化合物とのスチレン系共重合体であって、上記共役ジビニル化合物の含有量が、上記モノビニル化合物1モル当たり2.0×10−6〜4.0×10−4モルであり、上記スチレン系共重合体は、重量平均分子量(Mw)が20万〜50万であり、分子量200万以上の割合が0.3%〜6.0%である。
【0011】
本実施形態によれば、成形加工性に優れ、かつゲル状物質の少ないスチレン系共重合体を提供することができる。具体的には、理論に限定されないが、本実施形態では、得られるスチレン系共重合体の分子鎖を、モノビニル化合物で主に構成される複数の分子鎖部分と、それらの分子鎖部分間を相互に連結する共役ジビニル化合物由来の部分とで形成しやすくすることができるとともに、その際の分子鎖部分間の間隔を所定の距離にすることができる(スチレン系共重合体の分子鎖中に「H」字状となる分岐部分を有す形状にしやすいと推測)。そして、このようにスチレン系共重合体を形成することにより、スチレン系共重合体のそれぞれの分子鎖が相互に効果的に絡み合いしやすくすることができ(このような効果を「絡み合い効果」とも称す)、それゆえにスチレン系共重合体の成形加工性を向上させることができる。また、同時に、本実施形態では、共役ジビニル化合物の含有量、並びに、スチレン系共重合体の分子量及び分子量分布を所定の範囲としているので、スチレン系共重合体の成形加工性を効果的に向上させつつ、スチレン系共重合体がゲル状化することを効果的に防止することができる。したがって、本実施形態によれば、成形加工性に優れ、かつゲル状物質の少ないスチレン系共重合体を提供することができ、ゲル状物質が少ないことにより、例えばスチレン系共重合体より得られる成形の外観を良好にすることができる。
【0012】
〈モノビニル化合物〉
本実施形態のスチレン系共重合体は、少なくともスチレン系化合物を含む1種類以上のモノビニル化合物が(スチレン系共重合体を形成する単量体として)含まれており、モノビニル化合物は、スチレン系化合物(モノマー)のみからなっていても、スチレン系化合物とともにスチレン系化合物と共重合可能な他のモノビニル基を有する化合物からなっていてもよい。モノビニル化合物としては、スチレン系化合物の他、スチレン系化合物と共重合可能であれば特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリロニトリルなどのビニル系化合物、並びにジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレート、無水マレイン酸、マレイミド、及び核置換マレイミドなどが挙げられる。また、スチレン系化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられ、好ましくはスチレンである。また、スチレン系化合物の含有量としては、モノビニル化合物の含有量のうち50モル%以上が好ましく、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。
【0013】
〈共役ジビニル化合物〉
本実施形態における共役ジビニル化合物は、数平均分子量(Mn)が850〜100000であり、分子内に共役ビニル基を2つ有する化合物である。また、本実施形態における共役ジビニル化合物は、網目状ではなく、鎖状であることが好ましく、主鎖には側鎖を有していても有しなくてもよい。鎖状であることにより、分子鎖をよりリニアな形状にすることができ、それにより、絡み合い効果を向上させやすい傾向があるためである。なお側鎖は、例えば炭素数6以下が好ましく、炭素数4以下がより好ましい。
さらに、共役ジビニル化合物中の共役ビニル基は、分子内の任意に位置させることができるが、2つの共役ビニル基は、分子中の異なる末端に位置していることが好ましい。また、共役ジビニル化合物が鎖状の場合には、当該2つの共役ビニル基は、主鎖の異なる末端に位置していることがより好ましい(すなわち、主鎖の両末端が共役ジビニル基になっていることがより好ましい)。共役ビニル基が末端に位置していることにより重合反応性を高めることができる。
ここで、「末端」とは、分子鎖の最も端となる位置とすることができるが、共役ビニル基は末端付近に存在すれば、モノビニル化合物と効果的な反応性を有しゲル化も抑制できるので、本実施形態において「末端」とは、分子鎖中で、分子鎖の最も端となる位置(原子)を含む、ある程度の範囲となる部分(端部分)とすることもできる(換言すれば、共役ビニル基を末端付近に位置させることができる)。当該ある程度の範囲となる部分とは、限定されるものではないが、共役ジビニル化合物の伸切り鎖長の20%以下であることが好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、5%以下がさらにより好ましい。
【0014】
本実施形態において共役ビニル基とは、モノビニル化合物と共重合可能なオレフィン性二重結合と、当該オレフィン性二重結合と共役系を形成する構造(限定されないが例えばカルボニル基、アリール基等)とを有する基である。共役ビニル基としては、特に限定されないが例えばアクリロイル基、ビニル基で置換されたアリール基が挙げられ、また、共役ジビニル化合物中の共役ビニル基を有する構造としては、特に限定されないが例えば、(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ビニル、マレイン酸、フマル酸等が付加した構造も挙げられる。なお、少なくとも2つの共役ビニル基は、相互に同じであっても異なっていてもよい。
【0015】
本実施形態の共役ジビニル化合物の数平均分子量(Mn)は、850〜100000、好ましくは1000〜100000、より好ましくは1000〜80000、さらに好ましくは1200〜80000、さらにより好ましくは1500〜60000、特に好ましくは1500〜30000である。数平均分子量(Mn)が850未満の場合は、共役ジビニル化合物の共役ビニル基間の距離が短いため、共役ジビニル化合物に結合したポリマー鎖間の距離が短くなり、十分な絡み合い効果が得られず、成形加工性に劣る。分子量が100000を超える場合は、共役ジビニル化合物の共役ビニル基間の距離が長くなり、末端にある共役ビニル基の反応性が低下し(共役ジビニル化合物の分子量が大きいので末端の共役ビニル基が反応しにくくなる)、高分子量成分の生成量が低下するため好ましくない。なお、共役ジビニル化合物の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)を意味する。
【0016】
本実施形態の共役ジビニル化合物の主鎖構造としては、特に限定されず、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプレンなどのポリオレフィンやポリスチレン、ポリブタジエン、水添ポリブタジエン、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィドなどが挙げられる。
【0017】
具体的な共役ジビニル化合物としては、(水添)ポリブタジエン末端(メタ)アクリレート(「(水添)」は、水素添加された又は水素添加されていない化合物を指す。以下同様である。)、ポリエチレングリコール末端(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール末端(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールA末端(メタ)アクリレート、及びエトキシ化ビスフェノールF末端(メタ)アクリレートなどの末端ジ(メタ)アクリレート化合物、並びに(水添)ポリブタジエン末端ウレタンアクリレート、ポリエチレングリコール末端ウレタンアクリレート、ポリプロピレングリコール末端ウレタンアクリレート、エトキシ化ビスフェノールA末端ウレタンアクリレート、及びエトキシ化ビスフェノールF末端ウレタンアクリレートなどの末端ウレタンアクリレート化合物などが挙げられる。例えば、ポリプロピレングリコール末端(メタ)アクリレートの場合は、数平均分子量(Mn)が850〜100000となるように繰返し単位のプロピレングリコールの結合数が決められる。共役ジビニル化合物は、スチレン系共重合体との相溶性の観点から、(水添)ポリブタジエン末端(メタ)アクリレート、ポリスチレン末端(メタ)アクリレート、ポリフェニレンエーテル末端ジビニルであることが好ましい。なお、化合物名中の「末端」や「両末端」は、最も端の両方に共役ビニル基が位置することを意味する。
【0018】
〈共役ジビニル化合物の含有量〉
本実施形態の共役ジビニル化合物の含有量は、モノビニル化合物1モル当たり2.0×10−6〜4.0×10−4モル、好ましくは5.0×10−6〜3.5×10−4モル、より好ましくは1.5×10−5〜3.0×10−4モル、さらにより好ましくは2.0×10−5〜2.5×10−4モルである。含有量が2.0×10−6モル未満の場合は、高分子同士の十分な絡み合いが生じにくく、ひずみ硬化が発現しない、あるいはひずみ硬化度合いが小さいために、成形品の肉厚が不均一であったり、成形時に成形品が破けることが有り、成形加工性が劣る。一方、含有量が4.0×10−4モルを超える場合は、ゲル状物質の発生が多く、成形品の外観などが不良となる。
【0019】
〈分子量〉
本実施形態のスチレン系共重合体の重量平均分子量(Mw)は20万〜50万であり、好ましくは22万〜48万、より好ましくは24万〜45万である。スチレン系共重合体のMwを20万〜50万にすることにより、スチレン系共重合体の強度を確保しつつ、ゲル状物質の発生を抑えてより成形加工性と流動性を向上させることができる。また、本実施形態のスチレン系共重合体の重量平均分子量(Mw)に対するZ平均分子量(Mz)の比は1.8〜5.0であることが好ましく、より好ましくは2.0〜4.8、さらに好ましくは2.1〜4.7である。スチレン系共重合体のMwに対するMzの比を1.8〜5.0の範囲にすることにより、スチレン系共重合体の強度を確保しつつ、ゲル状物質の発生を抑えてより成形加工性と流動性を向上させることができる。
なお、本実施形態のスチレン系共重合体において、上記の重量平均分子量(Mw)、および重量平均分子量(Mw)に対するZ平均分子量(Mz)の比は、スチレン系単量体をラジカル重合する際に、共役ジビニル化合物の種類及び添加量、反応温度、滞留時間、重合開始剤の種類及び添加量、溶媒の種類及び量、連鎖移動剤の種類及び添加量等によって制御することができる。具体的には、上記の重量平均分子量(Mw)等の制御は、限定されるものではないが、例えば製造方法において、重合する際の重合開始剤の添加量を増加させ、重合の反応温度を低くすること、または、重合溶媒の使用量を少なくする、または、重合する際の滞留時間を長くする、等により制御することができ、このようにすることで、得られるスチレン系共重合体において、分子鎖を所望の形状とさせつつ、高分子量成分側も適切に増加させることができる。
なお、スチレン系共重合体の重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、後述の分子量100万以上の割合、200万以上の割合は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定される微分分子量分布の重量割合である。
【0020】
〈高分子量成分の割合〉
本実施形態のスチレン系共重合体の分子量200万以上の割合は0.3〜6.0%であり、0.8〜5.0%であることが好ましく、1.4〜4.8%であることがより好ましい。分子量200万以上の割合を0.3〜6.0%の範囲にすることにより、ゲル状物質の含有量を非常に少なくすることができる。また、分子量100万以上の割合は4.0〜20.0%であることが好ましく、5.0〜18.0%であることがより好ましく、5.0〜15.0%がさらに好ましい。分子量100万以上の割合を4.0〜20.0%の範囲にすることにより、成形加工性と流動性に優れたスチレン系共重合体を得ることができる。
なお、本実施形態のスチレン系共重合体の分子量の割合は、スチレン系単量体をラジカル重合する際に、共役ジビニル化合物の種類及び添加量、反応温度、滞留時間、重合開始剤の種類及び添加量、溶媒の種類及び量、連鎖移動剤の種類及び添加量等によって制御することができる。具体的には、上記の分子量200万以上、分子量100万以上の割合等の制御は、限定されるものではないが、例えば製造方法において、重合する際の重合開始剤の添加量を増加させ、重合の反応温度を低くすること、または、重合溶媒の使用量を少なくする、または、重合する際の滞留時間を長くする、等により制御することができ、このようにすることで、得られるスチレン系共重合体において、低分子量成分側を低減させて、分子量200万以上、分子量100万以上の割合を適切にしつつ高分子量成分側を増加させることができる。
【0021】
〈メルトマスフローレート(MFR)〉
本実施形態のスチレン系共重合体のメルトマスフローレート(MFR)は0.5〜5.0が好ましい。より好ましくは0.6〜4.0、さらにより好ましくは0.7〜3.5、とりわけ好ましくは0.8〜3.0である。メルトマスフローレートを0.5〜5.0の範囲にすることにより、より成形加工性と流動性のバランスに優れたスチレン系共重合体が得られる。
【0022】
〈立ち上がりはじめひずみ、最大立上りひずみ、及び最大立上り比〉
本実施形態のスチレン系共重合体の立上りはじめひずみは、好ましくは0.2〜1.3であり、より好ましくは0.3〜1.1、さらにより好ましくは0.4〜1.0である。本願明細書において「立上りはじめひずみ」とは、ひずみ硬化の発現するひずみであり、成形加工性の指標となる。立上りはじめひずみが小さいほど、言い換えれば立ち上がりが早いほど低延伸時からひずみ硬化がおこり、成形加工性に優れるため、成形品の肉厚がより均一になることがあり、また成形品を薄肉化できることがある。
【0023】
本実施形態のスチレン系共重合体の最大立上り比は、好ましくは1.2〜5.0、より好ましくは1.3〜4.8、さらにより好ましくは1.4〜4.6である。本願明細書において、「最大立上り比」とは、(最大立上りひずみの非線形領域の伸長粘度/最大立上りひずみの線形領域の伸長粘度)を意味し、「最大立上りひずみ」とは、伸長粘度が最大となる時のヘンキーひずみを意味する。最大立上り比は、最大立上りひずみにおけるひずみ硬化の度合いを表す指標となる。最大立上り比が大きいほど、ひずみ硬化度合いが大きく、成形加工性に優れる。最大立上り比が1.2以上であると、高ひずみ時、つまり樹脂が成形加工時に薄く伸ばされた際に伸長粘度が高くなるため、成形品の肉厚が均一になることや、成形時に破れにくくなる傾向がある。最大立上り比が5.0以下であると、成形時の伸長粘度が高くなり過ぎないため、生産性と成形性のバランスの観点から好ましい。
【0024】
〈添加剤等〉
本実施形態のスチレン系共重合体には、必要に応じてゴム質を含有する成分としてHI−PS樹脂、MBS樹脂等のゴム強化芳香族ビニル系樹脂やSBS等の芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーが1%〜50%程度含有されていてもよい。また、未反応モノマーの回収工程における高分子の熱分解を抑制するために、例えば2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−フェニルペンチル)エチル]−4,6−ジ−t−フェニルペンチルアクリレートのような加工安定剤が含まれていてもよい。また、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の高級脂肪酸及びその塩やエチレンビスステアリルアミド等の滑剤、流動パラフィン等の可塑剤、酸化防止剤が含まれていてもよい。その他、スチレン系樹脂の分野で慣用されている添加剤、例えば核剤、難燃剤、着色剤等と本実施形態の目的を損なわない範囲で組み合わせてスチレン系共重合体に添加してもよい。添加剤としては、特に限定されないが、例えば、タルク等の核剤、ヘキサブロモシクロドデカン等の難燃剤、酸化チタン、カーボンブラック等の着色剤等が挙げられる。またスチレン系樹脂をペレットとし、当該ペレットの外部潤滑剤として、エチレンビスステアリルアミド、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等をペレットにまぶして使用してもよい。
【0025】
酸化防止剤は、一般的に、熱成形時または光暴露により生成したハイドロパーオキシラジカル等の過酸化物ラジカルを安定化するか、又は生成したハイドロパーオキサイド等の過酸化物を分解することができる成分である。酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、過酸化物分解剤が挙げられる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、ラジカル連鎖禁止剤として、過酸化物分解剤は、系中に生成した過酸化物をさらに安定なアルコール類に分解して自動酸化を防止することができる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、以下に限定されないが、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スタイレネイテドフェノール、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、アルキレイテッドビスフェノール、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、及び3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニロキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキシスピロ〔5・5〕ウンデカン等が挙げられる。過酸化物分解剤としては、以下に限定されないが、トリスノニルフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、及びトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等の有機リン系過酸化物分解剤、並びにジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオネート、及び2−メルカプトベンズイミダゾール等の有機イオウ系過酸化物分解剤が挙げられる。酸化防止剤の添加量は、押出発泡シート中のスチレン系共重合体100質量部に対して、0.01質量部以上1質量部以下が好ましく、より好ましくは0.1質量部以上0.5質量部以下である。
【0026】
難燃剤としては、以下に限定されないが、難燃性やスチレン系樹脂との相溶性等の観点から、例えば、ヘキサブロモシクロドデカン、臭素化SBSブロックポリマー、及び2,2−ビス(4’(2”,3”−ジブロモアルコキシ)−3’,5’−ジブロモフェニル)−プロパン等の臭素系難燃剤、並びに臭素化ビスフェノール系難燃剤が挙げられる。
【0027】
臭素化ビスフェノール系難燃剤としては、以下に限定されないが、例えば、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールS−ビス(2,3−ジブロモプロルエーテル)、テトラブロモビスフェノールS−ビス(2,3−ジブロモ−2メチルプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールF、テトラブロモビスフェノールF−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールF−ビス(2,3−ジブロモ−2メチルプロピルエーテル)テトラブロモビスフェノールA−ビス(アリルエーテル)、テトラブロモビスフェノールAポリカーボネートオリゴマー、及びテトラブロモビスフェノールAオリゴマーのエポキシ基付加物等が挙げられる。臭素化ビスフェノ−ル系難燃剤の中でも、特に、テトラブロモビスフェノ−ルAビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、及びテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)は、スチレン系共重合体との混練時において分解しにくく、難燃効果も高く発現し易い傾向にあるため好ましい。テトラブロモビスフェノ−ルA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)とテトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2メチルプロピルエーテル)とを併用すると、難燃性と熱安定性に優れる傾向にあるためより好ましい。
【0028】
臭素系難燃剤は、臭素化イソシアヌレート系難燃剤を難燃助剤として併用することが好ましい。臭素化イソシアヌレート系難燃剤としては、以下に限定されないが、例えば、モノ(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、ジ(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、及びトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、モノ(2,3,4−トリブロモブチル)イソシアヌレート、ジ(2,3,4−トリブロモブチル)イソシアヌレート、トリス(2,3,4−トリブロモブチル)イソシアヌレート等が挙げられる。臭素化イソシアヌレートの中でも、特に、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートは極めて高い難燃効果が発現するため好ましい。
【0029】
《スチレン系共重合体の製造方法》
〈重合工程〉
本実施形態のスチレン系共重合体の重合方法としては、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法等、公知のスチレン重合方法が挙げられる。これらの重合法は、バッチ重合法であっても連続重合法であってもよく、生産性の点から連続重合法であることが好ましい。連続塊状重合法としては、例えば、モノビニル化合物、共役ジビニル化合物、必要に応じて溶剤、重合触媒、及び連鎖移動剤等を添加及び混合して、単量体類を含む原料溶液を調製する。直列及び/又は並列に配列された1個以上の反応器と、未反応単量体等の揮発性成分を除去する脱揮工程のための脱揮装置とを備えた設備に、上記原料溶液を連続的に送入し、段階的に重合を進行させる方法が挙げられる。
【0030】
反応器としては、例えば、完全混合型反応器、層流型反応器、重合を進行させながら一部の重合液を抜き出すループ型反応器等が挙げられる。これら反応器の配列の順序に特に制限は無い。
【0031】
本実施形態のスチレン系共重合体を重合する際には、重合反応の制御の観点から、必要に応じて重合溶媒、有機過酸化物等の重合開始剤及び連鎖移動剤を使用することができる。重合溶媒は、一般的に連続塊状重合や連続溶液重合において重合速度や分子量などを調整するために用いられる。重合溶媒としては、特に制限はないが、例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、及びキシレン等のアルキルベンゼン類、アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン類、並びにヘキサン及びシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素等が挙げられる。重合溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、ゲル化の制御、生産性の向上、分子量の増大等の観点から、通常、重合反応器内の全てのモノマー、ポリマー、溶媒等の混合溶液組成に対して1〜50質量%であることが好ましく、3〜20質量%であることがより好ましい。
【0032】
本実施形態のスチレン系共重合体を得るために重合原料を重合させる際には、重合原料組成物中に、重合開始剤及び連鎖移動剤を含有させることができる。重合開始剤としては、特に制限はないが、有機過酸化物、例えば、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、及びn−ブチル−4,4ービス(t−ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ−t−ブチルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、及びジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、及びイソブチリルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t−ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、並びにt−ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等を挙げることができる。重合開始剤は、モノビニル化合物に対して0.005〜0.08質量%使用することが好ましい。連鎖移動剤としては、特に制限はないが、例えば、α−メチルスチレンダイマー、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、及びn−オクチルメルカプタン等を挙げることができる。連鎖移動剤は、モノビニル化合物に対して0.01〜0.50質量%使用することが好ましい。
【0033】
本実施形態においては、フェノール系熱劣化防止剤を、重合工程あるいは脱揮工程において、また重合工程後、脱揮工程前において添加することが好ましい。重合工程の終了後(好ましくは直後)であって脱揮工程の前にフェノール系熱劣化防止剤を添加することがより好ましい。
【0034】
フェノール系熱劣化防止剤としては、例えば、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート(商品名:スミライザーGM、住友化学社製)、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−フェニルペンチル)エチル]−4,6−ジ−t−フェニルペンチルアクリレート(商品名:スミライザーGS、住友化学社製)を挙げることができる。添加量は、最終反応器出口のスチレン系共重合体に対して0.01〜0.5質量%、好ましくは0.02〜0.3質量%、より好ましくは0.03〜0.2質量%である。
【0035】
フェノール系熱劣化防止剤の添加量が0.01質量%以上であると、脱揮工程でのモノビニル化合物、及びその二量体や三量体の生成をより効果的に抑制することができる。一方、フェノール系熱劣化防止剤の添加量を0.5質量%より多く添加しても、十分なモノビニル化合物、及びその二量体や三量体の生成を抑制する効果が得られないことがある。
【0036】
〈脱揮工程〉
脱揮装置としては、例えば、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機などの通常の脱揮装置を用いることができ、一般的には加熱器付きの真空脱揮槽や脱揮押出機などが用いられる。脱揮装置の配列としては、例えば、加熱器付きの真空脱揮槽を1段のみ使用したもの、加熱器付きの真空脱揮槽を直列に2段接続したもの、及び加熱器付きの真空脱揮槽と脱揮押出機とを直列に接続したもの等が挙げられる。揮発成分を極力低減するためには、加熱器付きの真空脱揮槽を直列に2段接続したもの、又は加熱器付きの真空脱揮槽と脱揮押出機とを直列に接続したものが好ましい。
【0037】
脱揮工程の条件は特に制限されず、例えば、スチレン系共重合体の重合を塊状重合で行なう場合は、最終的に未反応のモノビニル化合物が、スチレン系共重合体中に好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下になるまで重合を進めることができる。脱揮処理により、未反応物(モノビニル化合物)及び/又は溶剤等の揮発分を除去することができる。
【0038】
脱揮処理の温度は、通常、190〜280℃程度である。脱揮処理の圧力は、好ましくは0.1〜50kPa、より好ましくは0.13〜13kPa、更に好ましくは0.13〜7kPa、特に好ましくは0.13〜1.3kPaである。脱揮方法としては、例えば加熱下で減圧して脱揮する方法や、揮発成分を除去するよう設計された押出機等を通して脱揮することが望ましい。
【0039】
本実施形態のスチレン系共重合体は、成形加工性に優れ、かつゲル状物質が少なく、それゆえに、例えば外観に優れる製品が得られる。成形方法としては、射出成形、押出成形、真空成形、圧空成形、押出発泡成形、カレンダー成形、ブロー成形などに好適に使用でき、各種成形品を従来よりも広い用途で得ることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例により本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
《測定及び評価方法》
測定及び評価方法は以下のとおりである。
【0042】
(1)分子量の測定
共役ジビニル化合物の数平均分子量(Mn)、スチレン系共重合体の重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、分子量100万以上の割合、分子量200万以上の割合は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。以下の条件で測定した。
装置:東ソー製HLC―8220
分別カラム:東ソー製TSK gel Super HZM−H(内径4.6mm)を2本直列に接続
ガードカラム:東ソー製TSK guard column Super HZ−H
測定溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
試料溶解:測定試料5mgを10mLの溶媒に溶解し、0.45μmのフィルターでろ過をおこなった。
注入量:10μl
測定温度:40℃
流速:0.35mL/分
検出器:紫外吸光検出器(UV−8020、波長254nm)
検量線の作成には東ソー製のTSK標準ポリスチレン11種類(F−850、F−450、F−128、F−80、F−40、F−20、F−10、F−4、F−2、F−1、A−5000)を用いた。1次直線の近似式を用いて検量線を作成した。
【0043】
(2)メルトマスフローレート(MFR)測定
スチレン系共重合体のメルトマスフローレートは、ISO1133に準拠し、200℃、49Nの荷重条件にて測定した。
【0044】
(3)シートのゲル状物質評価
30mmφシート押出機(創研株式会社製)を用いてスチレン系共重合体を押し出し、厚さ0.5mmのシートを作製した。得られたシートから縦100mm×横100mmの大きさに試験片を20枚切出し、短径と長径の平均が2mm以上のゲル状物質を目視で測定した。判定はゲル状物質が含まれていた試験片の数が0〜2個を「◎」、3〜10個を「○」、11個以上の場合を「×」とした。
【0045】
(4)立上りはじめひずみ、最大立上りひずみ、及び最大立上り比の測定
スチレン系共重合体の立上りはじめひずみ、最大立上りひずみ、及び最大立上り比の測定は、以下の粘弾性測定に基づいて行った。
装置名:粘弾性測定装置 ARES−G2(TA Instruments社製)
測定システム:ARES−EVFオプション
試験片寸法:長さ20mm、厚さ0.7mm、幅10mm
伸長ひずみ速度:0.01/秒
温度:150℃
測定雰囲気:窒素気流中
予熱時間:2分
予備伸長ひずみ速度:0.03/秒、
予備伸長長さ:0.295mm
予備伸長後緩和時間:2分
粘弾性測定は、試験片をローラーに取り付け、温度が測定温度で安定した後、上記の予熱時間、静置し、予熱をおこなった。予熱終了後、上記の条件で予備伸長をおこなった。予備伸長後、2分間静置し、予備伸長で生じた応力を緩和させ、測定した。
【0046】
最大立上りひずみは、上記の粘弾性測定において伸長粘度が最大となる時のヘンキーひずみを差す。
また、立上りはじめひずみを以下の方法で算出した。上記の粘弾性測定で得られた結果に基づき、横軸にヘンキーひずみを、縦軸に伸長粘度をプロットした両対数グラフを作成し、ヘンキーひずみが0.2〜0.5の範囲を線形領域として累乗近似の線形領域直線を作成した(例えば、図1の破線)。ひずみ硬化が起こると、この線形領域を外挿した近似直線の伸長粘度よりも、実際の伸長粘度が高くなる。同じヘンキーひずみにおける、非線形領域の伸長粘度と線形領域を外挿した近似直線の伸長粘度の差が非線形領域の伸長粘度の3%となる時のヘンキーひずみを立上りはじめひずみとした。最大立上り比は、(最大立上りひずみにおける非線形領域の伸長粘度/最大立上りひずみにおける線形領域を外挿した近似直線の伸長粘度)で算出した。
【0047】
(5)深絞り成形性の評価方法
30mmφシート押出機(創研株式会社製)を用いてスチレン系共重合体を押し出し、厚さ0.5mmのシートを作成した。得られたシートから縦250mm×横250のmmの大きさに切出し、創研製のシート容器成型機を用いて、このシート成型機の固定枠でシートを挟み、ヒータの平均温度を220℃、雰囲気温度を110℃に設定し、20秒間加熱した。次いで、径10cm深さ10cmの丼容器の金型(温度40℃)に固定枠ごとスライドさせて真空成形を行い、成形体を20個ずつ成形した。この成形体の側面に引裂きが生じていないかを目視で確認し、引裂きが起こらず成形可能であった成形体の数を深絞り成形性の指標とした。
【0048】
《共役ジビニル化合物の製造例》
共役ジビニル化合物1、5及び6は、下記の方法に基づいて製造した。
【0049】
〈共役ジビニル化合物1〉
撹拌機、温度計および還流冷却管を取り付けた容量5Lの反応容器内に、ポリブタジエン両末端アルコール(Mn:1900)2742g、アクリル酸メチル379g、n−ヘキサン380g、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.8194g、及び4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル0.5533gを仕込んだ。得られた混合物を塩化カルシウム管内に通しながら、その混合物に空気を吹き込み、80〜85℃で還流脱水を行った。この混合物に含まれている水分をカールフィッシャー法により測定し、その含水量が200ppm以下であることを確認した。その後、エステル交換触媒として、テトラn−ブチルチタネート1.3685gを上記混合物に添加し、生成したメタノールをその共沸溶媒であるn−ヘキサンの還流下で反応系外に留去しながら、攪拌下で80〜85℃の反応温度で10時間反応させた。
【0050】
次に、反応容器内の温度を75〜80℃に調整し、使用したアクリル酸メチルおよびn−ヘキサンの95%以上が留出するまで減圧度70〜2kPaで濃縮し、過剰のアクリル酸メチルとn−ヘキサンを回収した。得られたポリブタジエン両末端ジアクリレート2070gに、トルエン2000g、アセトン200g、イオン交換水20g、及びエステル交換触媒としてハイドロタルサイト(組成式MgAl(OH)16CO・4HO)〔協和化学工業(株)製、商品名:キョーワード500PL〕20gを添加し、75〜80℃で2時間処理した。次に、反応容器内の温度を75〜80℃に調整し、減圧度90〜35kPaで濃縮することにより、トルエンとアセトンと水の混合留出液400gを回収し、得られた濃縮液を空気加圧下で濾過して触媒および吸着剤を分離し、さらに温度60〜80℃及び減圧度30〜0.8kPaで溶媒を脱気し、共役ジビニル化合物1を得た。
【0051】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で、共役ジビニル化合物1のポリブタジエン両末端ジアクリレートの転化率を測定したところ99.3%であった。またGPCで測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は1900であった。
【0052】
〈共役ジビニル化合物5〉
ポリブタジエン両末端アルコールの分子量をMn:25000に変更した以外は同様の条件にて製造した共役ジビニル化合物5は、ポリブタジエン両末端ジアクリレートの転化率が99.5%であった。また、GPCで測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は26000であった。
【0053】
〈共役ジビニル化合物6〉
ポリブタジエン両末端アルコールの分子量をMn:57000に変更した以外は同様の条件にて製造した共役ジビニル化合物6は、ポリブタジエン両末端ジアクリレートの転化率が99.2%であった。また、GPCで測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は58000であった。
【0054】
<実施例1>
スチレン80質量部、エチルベンゼン20質量部、共役ジビニル化合物1(ポリブタジエン末端アクリレート Mn:1900)を0.035質量部(スチレン1モルに対して2.4×10−5モル)、重合開始剤1として2,2−ビス(4,4‐ジ‐ターシャリー‐ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン[日油株式会社製:パーテトラA]を0.030質量部添加して原料溶液を調整した。調製した原料溶液を、105℃の温度に保持した内容積5.4Lの完全混合型第1反応器に、1.00L/hrで連続的に供給した。ついで、第1反応器からの重合溶液を、内容積3Lのプラグフロー型第2反応器に供給した。第2反応器では、原料溶液が通過する順番に、3ゾーンの温度を119、133、143℃の温度に保持した。第2ゾーンにおいて、重合開始剤2として1,1−ジ−(ターシャリー−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン[日油株式会社製:パーヘキサC]を0.03質量部添加した。ついで、第2反応器からの重合溶液を240℃の温度に加熱された真空脱気槽に供給し、未反応モノマーや溶媒などの揮発性成分を取り除き、72時間の連続運転後に、評価用のスチレン系共重合体を得た。
スチレン系共重合体の製造条件と分析結果を表1に示す。また共役ジビニル化合物1は製造例に記載した方法にて合成した。数平均分子量(Mn)は、GPCにて測定したポリスチレン換算値である。スチレン(モノビニル化合物)1モルに対する共役ジビニル化合物の含有モル数は、H−NMR及び13C−NMRを使用して測定した値である。なお、測定装置としては日本電子(株)社製のJEOL−ECA500を使用した。溶媒としてクロロホルム−d1を使用し、テトラメチルシランの共鳴線を内部標準として使用した。
【0055】

実施例2〜12、14及び比較例1〜6、13は、表1及び2に示すように条件を変更したこと以外は実施例1と同様にして行い、スチレン共重合体のMw、Mz/Mw、分子量100万以上の割合、分子量200万以上の割合、立上りはじめひずみ、及び最大立上がり比を表1及び2に示すように制御した。
【0056】
なお、表に掲げる各共役ジビニル化合物、重合開始剤、及び熱劣化防止剤は、以下のものを用いた。なお、共役ジビニル化合物2〜9、11、12は、分子中の最も端の両方に共役ビニル基を有している。
共役ジビニル化合物2:ポリブタジエンジアクリレート [巴工業社製:CN307] Mn:3800
共役ジビニル化合物3:ポリブタジエン末端アクリレート [大阪有機化学工業社製:BAC‐45] Mn:4800
共役ジビニル化合物4:ウレタンアクリレートオリゴマー [巴工業社製:CN9014NS] Mn:8000
共役ジビニル化合物7:芳香族ウレタンアクリレート [巴工業社製:CN9782] Mn:5200
共役ジビニル化合物8:(2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサメチルビフェニル−4,4’−ジオール・2,6−ジメチルフェノール重縮合物)とクロロメチルスチレンとの反応生成物[三菱ガス化学株式会社製:OPE−2ST]Mn:1200
共役ジビニル化合物9:1,3−ブチレンジオールジメタクリレート [和光純薬工業株式会社製] 分子量:226
共役ジビニル化合物10:NKエステル A−GLY−20E [新中村化学工業株式会社製] 分子量:1295、共役ジビニル化合物10の1分子中の平均の共役ビニルの数は3である。
共役ジビニル化合物11:ジビニルベンゼン [和光純薬工業社製] 分子量:130
共役ジビニル化合物12:ポリエチレングリコールジメタクリレート [シグマアルドリッチ社製] 分子量:750
重合開始剤2:1,1−ジ−(ターシャリー−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン [日油株式会社製:パーヘキサC]
熱劣化防止剤1:2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−フェニルペンチル)エチル]−4,6−ジ−t−フェニルペンチルアクリレート[住友化学株式会社製:スミライザーGS]
熱劣化防止剤2:オクタデシルー3−(3,5−ジーターシャリーブチルー4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート[チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製:IRGANOX1076]
【0057】
実施例2〜12、14及び比較例1〜6、13の測定及び評価結果を表1及び2にまとめる。なお、実施例4のスチレン系共重合体は、図1に示すように、ARES−EVFの測定においてひずみ硬化が発現したことがわかる。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
表1及び2から明らかなように、モノビニル化合物1モルに対する共役ジビニル化合物の含有モル数が1.7×10−6モルと少ない比較例1では、ARES−EVFの測定においてひずみ硬化が発現しなかった。モノビニル化合物1モルに対する共役ジビニル化合物の含有モル数が4.1×10−4モルと多い比較例2ではARES−EVFの測定において安定したデータを得ることができなかった。またGPCの測定の際にTHF不溶分が多く測定することができなかった。さらにメルトマスフローレート(MFR)が小さく、シートのゲル状物質が多かった。共役ジビニル化合物の数平均分子量Mnが226、750と小さい比較例3、6では、立ち上がりはじめひずみが大きく、また最大立ち上がり比が小さかった。分子量200万以上の割合が6.39%と多かった比較例4では、立ち上がりはじめひずみが大きく、ゲル状物質も多かった。共役ジビニル化合物の数平均分子量Mnが130と小さい比較例5では、MFRが小さく、またシートのゲル状物質が多かった。
【0061】
これに対し、数平均分子量(Mn)が850〜100000である共役ジビニル化合物と、少なくともスチレン系化合物を含む1種類以上のモノビニル化合物とのスチレン系共重合体であって、上記共役ジビニル化合物の含有量が、上記モノビニル化合物1モル当たり2.0×10−6〜4.0×10−4モルであり、上記スチレン系共重合体は、重量平均分子量(Mw)が20万〜50万であり、Mwに対するZ平均分子量(Mz)の比が1.8〜5.0であり、分子量100万以上の割合が4.0%〜20.0%、であり、分子量200万以上の割合が0.3%〜6.0%である、実施例1〜12、14のスチレン系共重合体は、シート状のゲル状物質も少なく、適切な特性を有し成形加工性に優れたものであることがわかる。比較例13は、シート状のゲル状物質が少ないものの、深絞り成形性が実施例1〜12、14に比べて劣った。
【0062】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によるスチレン系共重合体は成形加工性に優れ、かつゲル状物質が少ないため、例えば家電、事務機製品、雑貨、住宅設備等の成形材料や食品包装材料等として広く利用することができる。
図1