(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6865105
(24)【登録日】2021年4月7日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】コーヒー豆の焙煎方法
(51)【国際特許分類】
A23F 5/04 20060101AFI20210419BHJP
【FI】
A23F5/04
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-105512(P2017-105512)
(22)【出願日】2017年5月29日
(65)【公開番号】特開2018-198575(P2018-198575A)
(43)【公開日】2018年12月20日
【審査請求日】2020年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000104489
【氏名又は名称】キーコーヒー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088720
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞一
(72)【発明者】
【氏名】豊泉 賢
(72)【発明者】
【氏名】中村 翔
(72)【発明者】
【氏名】大釜 清一
(72)【発明者】
【氏名】大森 茂樹
【審査官】
村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−006592(JP,A)
【文献】
特開2011−147401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー豆を焙煎する工程と、焙煎中のコーヒー豆に対して散水する工程と、を備え、
散水するタイミングは、焙煎中のコーヒー豆が1ハゼを生じた後であって2ハゼを生じる前のコーヒー豆のL値が20〜21のタイミングであることを特徴とするコーヒー豆の焙煎方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーヒー豆の焙煎方法に関し、特に、嫌味な苦味を抑制することができるコーヒー豆の焙煎方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー豆を焙煎していくと、「焦げ色」が生じ、この「焦げ色」の大部分はメラノイジンと呼ばれる高分子の混合物で、タンパク質と糖類との化学反応によって生成される。なお、糖類については、単独でも黒褐色の高分子であるカラメルが生成される。また、クロロゲン酸類と糖類との化学反応によって生成される褐色色素群も存在する。そして、これらのメラノイジン、カラメル、褐色色素群を含めたものが、コーヒーメラノイジンと総称されている。
【0003】
コーヒーメラノイジンのうち、クロロゲン酸と糖類とから生成される褐色色素群は、その色調と分子量の大きさとから、以下の三種類(褐色色素A、褐色色素B、褐色色素C)に分類される。
褐色色素A:黒褐色で平均分子量は大きい。焙煎過程では、褐色色素C、Bの後に生成される。
褐色色素B:赤褐色で平均分子量は褐色色素Aより小さい。焙煎過程では、褐色色素Cに遅れて生成され、褐色色素Aの生成に従って減少する。
褐色色素C:黄褐色で平均分子量は褐色色素Bより小さい。焙煎過程の初期から生成され、褐色色素B、Aの生成に従って減少する。
【0004】
これらの褐色色素A、B、Cは、苦味物質の役割を担っており、焙煎の進行に伴って褐色色素C→褐色色素B→褐色色素Aの順に変化していき、生成される順番が遅いものほど重厚な味わいになり、中でも褐色色素Aは嫌味な苦味を多く有すると言われている。
【0005】
ここで、従来から行われているコーヒー豆の焙煎方法としては、下記特許文献1に記載されている直火式や、下記特許文献2に記載されている熱風式が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−198418号公報
【特許文献2】特開2013−220073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載されている従来の焙煎方法によれば、褐色色素の生成、化学変化を制御することはできない。特に、嫌味な苦味を多く有する褐色成分Aの生成を抑制することはできない。
【0008】
本発明の目的は、嫌味な苦味を多く有する褐色成分Aの生成を抑制することができるコーヒー豆の焙煎方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るコーヒー豆の焙煎方法は、コーヒー豆を焙煎する工程と、焙煎中のコーヒー豆に対して散水する工程と、を備え、散水するタイミングは、焙煎中のコーヒー豆が1ハゼを生じた後であって2ハゼを生じる前である。
【0010】
また、前述のコーヒー豆の焙煎方法において、散水するタイミングは、焙煎中の前記コーヒー豆が2ハゼを生じる直前であることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
コーヒー豆の焙煎の進行に伴い褐色色素C、褐色色素B、褐色色素Aからなる褐色色素群が生成され、この褐色色素群は、褐色色素C、B、Aの順に生成され、生成される順番に応じて重厚な味わいになり、中でも褐色色素Aは嫌味な苦味を多く有すると言われている。また、焙煎により加熱されたコーヒー豆は1ハゼ(1回目のハゼ)が生じ、1ハゼが生じた後であって2ハゼ(2回目のハゼ)が生じる前のコーヒー豆に対して散水することにより、1ハゼが生じた後のコーヒー豆は散水された水を吸水し易くなっているために焙煎中のコーヒー豆は含水率が上昇するとともに温度が低下し、その水分の蒸発に熱エネルギーを消費しながら焙煎が進行することで、焙煎の進行をゆっくりとすることができるとともに焙煎終了温度を散水しない場合より低くすることができ、嫌味な苦味を多く有する褐色色素Aの生成を抑制することができる。
【0012】
2ハゼが生じる直前は焙煎されたコーヒー豆の焙煎の深さを表わすL値が20〜21であり、この段階において褐色色素Aの構成比率の増加率が最も高くなる。そこで、この2ハゼが生じる直前に散水することにより、褐色色素Aの生成を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】コーヒー豆の焙煎工程を示すフローチャートである。
【
図2】焙煎中のコーヒー豆に散水する様子を示す概略図である。
【
図3】焙煎されたコーヒー豆のL値に応じた褐色色素A、B、Cの構成比率を示すグラフである。
【
図4】焙煎中のコーヒー豆に散水した場合と散水しない場合とにおける褐色色素A、B、Cの生成状態を示すグラフである。
【
図5】散水した状況下で生成された褐色色素Aと、散水しない状況下で生成された褐色色素Aとの香気の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、コーヒー豆の焙煎工程を示すフローチャートであり、焙煎用釜1(
図2参照)内にコーヒー豆2(
図2参照)を入れ、焙煎用釜1を加熱しながら矢印A方向に回転させることにより焙煎をスタートさせる。焙煎をスタートさせた後、コーヒー豆2が1ハゼを生じたか否かを判定する(ステップS1)。1ハゼとは、焙煎により加熱されたコーヒー豆2の温度がある温度に上昇した時、コーヒー豆2内部に逃げ場をなくして溜まった水蒸気、ガスにより内圧が上がり、コーヒー豆2が破裂する現象である。この1ハゼが生じたことの判定は焙煎用釜1内の温度がある温度に上昇したことを温度センサにより検出することにより行うことができ、又は、1ハゼが生じた場合に発生する破裂音を聞くことにより行うことができる。
【0015】
1ハゼが生じた後、2ハゼが生じる前であって一定時間が経過した後に焙煎中のコーヒー豆2に対して散水を行う(ステップS2)。
図2は、焙煎用釜1内に入れて焙煎されているコーヒー豆2に散水を行う様子を示している。焙煎用釜1内には散水用ホース3が配管され、この散水用ホース3からコーヒー豆2に対して散水が行われる。散水が行われることにより、コーヒー豆2の温度は一旦低下し、その後上昇する。
【0016】
1ハゼが生じた後に散水を行うまでの一定時間とは、焙煎用釜1のサイズや焙煎の火力等に応じて予め設定されている時間であり、コーヒー豆2が2ハゼを生じる直前であることが望ましい。なお、2ハゼとは、加熱によりコーヒー豆2の内部の隙間に閉じ込められて逃げ場を失ったガスが膨張することによりコーヒー豆2の内圧が上昇し、破裂する現象である。2ハゼが生じたことの判定は、2ハゼが生じた場合に発生する破裂音を聞くことにより、又は、コーヒー豆2の色調を見ることにより行うことができる。そして、本実施形態では、2ハゼが生じた後に焙煎工程が終了する。なお、焙煎工程は、散水を行った後、2ハゼが生じる前に終了させてもよい。
【0017】
このような構成において、コーヒー豆2を焙煎すると、焙煎の進行に伴い、褐色色素C、褐色色素B、褐色色素Aからなる褐色色素群が生成される。これらの褐色色素群は、褐色色素C、褐色色素B、褐色色素Aの順に生成され、褐色色素Aは嫌味な苦味を多く有すると言われている。
【0018】
ここで、1ハゼが生じた後であって2ハゼが生じる前の焙煎中のコーヒー豆2に散水することにより、1ハゼが生じたことにより水分を吸水し易くなっているコーヒー豆2は散水された水を速やかに吸水し、含水率が上昇するとともに温度が低下し、その吸水した水分の蒸発に熱エネルギーを消費しながら焙煎が進行する。これにより、焙煎の進行がゆっくりとなるとともに、焙煎終了温度を低くすることができ、褐色色素Aを生成する化学反応を抑制することができる。このため、焙煎されたコーヒー豆2に含まれる褐色色素Aが少なくなり、嫌味な苦味を抑制したコーヒー豆2を得ることができる。
【0019】
一方、散水のタイミングが2ハゼが生じた後になると、2ハゼが生じた時点で褐色色素Aの生成がある程度進行しているので、褐色色素Aを少なくするという効果が低くなる。このため、散水のタイミングは1ハゼが生じた後であって2ハゼが生じる前であることが望ましい。
【0020】
さらに、散水のタイミングは、2ハゼが生じる直前であることが最も望ましい。
図3のグラフに示すように、2ハゼが生じる直前は焙煎されたコーヒー豆2の焙煎の深さを表わすL値が20〜21であり、この段階において褐色色素Aの構成比率の増加率が最も高くなる。そこで、この2ハゼが生じる直前に散水することにより、褐色色素Aの生成を効果的に抑制することができる。
【0021】
図4は、焙煎中のコーヒー豆2に対して散水した場合と散水しない場合とにおける褐色色素A、B、Cの生成状態を示すグラフである。なお、散水のタイミングは2ハゼが生じる直前とした。散水した場合と散水しない場合とを比較すると、褐色色素A、B、Cの全体量は略同じであるが、散水した場合には散水しない場合に比べて褐色色素Aが少なくなり、焙煎したコーヒー豆2の嫌味な苦味を抑制できることが判明した。
【0022】
図5は、焙煎中のコーヒー豆2に対して散水した状況下で生成された褐色色素Aと、散水しない状況下で生成され褐色色素Aとの香気の測定結果を示している。散水した状況下で生成された褐色色素Aは、散水しない状況下で生成された褐色色素Aに比べて、焦げ臭成分であるグアイアコール、フェノール、4-ビニルグアイアコールが少なくなっている。そして、これらのグアイアコール、フェノール、4-ビニルグアイアコールが少なくなることにより、焙煎したコーヒー豆2の嫌味な苦味を抑制できることが判明した。
【0023】
散水量は少なすぎても効果は低く、多すぎても焙煎用釜1の大幅な温度低下などの不具合が生じる。そのため散水量はコーヒー豆2の焙煎重量の1〜10%が好ましく、目的とするコーヒー豆2の色調(焙煎の度合い)に合わせて散水量を変えることが望ましい。
【符号の説明】
【0024】
1 焙煎用釜
2 コーヒー豆
3 散水ホース