【実施例】
【0078】
実施例1〜3
以下の材料及び方法は、実施例1〜3において記載される実験において使用した。
【0079】
変異導入PCR
オーバーラップポリメラーゼ連鎖反応 (PCR)によって、NNSコドンを伴った変異を、追加的な固有の制限酵素サイトを有するPAのドメインIIをコードする合成DNA配列を含有する、プラスミドpYS52 (B.アンスラシス発現ベクターpYS5(Singhら、J. Biol. Chem., 264:19103-19107 (1989))の誘導体に導入した。PhusionHigh-Fidelity DNAポリメラーゼ (New England Biologicals, Ipswich, MA)を変異導入PCR反応に用いた。全ての反応に用いた隣接プライマーは、配列番号16 (PA-250)及び配列番号17 (Pa-SwaI-Rev)であった。特異的なプライマーは、配列番号18 (R178X mut)、配列番号19 (R178X rev)、配列番号20 (R200X mut)、配列番号21 (R200X rev)、配列番号22 (I207X mut)、配列番号23 (I207/210X rev)、配列番号24 (I210X mut)、配列番号25 (K214X mut)及び配列番号26 (K214X rev)であった。変異導入プライマーを、第一ラウンドのPCRについて、PA-SwaI-Rev及びPA-250を有するリバースプライマーと組合せた。産物をゲル精製し、相補的PCRフラグメントを、PA-250及びPA-SwaI-revの添加及び追加的な35サイクルの前に、10サイクルのPCRによって完全長にまで伸長させた。これらの変異導入インサートをゲル精製し、インサートを、pYS52と共にPstI及びHindIIIで消化した。該消化産物を、オーバーナイトでライゲーションし、化学的にコンピテントな大腸菌(E. coli)MC1061に形質転換し、100μg/mLアンピシリンを含有する溶原性ブロス(LB)寒天プレート上にプレーティングした。PA-250及びPA-SwaI-Revプライマーを用いたコロニーPCRを行い、陽性クローンを特定した。プライマーPA-250を用いて、プラスミドをシーケンシングし、全ての有力な候補となる置換を有するクローンを特定するために、コロニーをスクリーニングした。次いで、選択されたクローンを、100μg/mLアンピシリンを含有するLB中で、オーバーナイトで増殖させ、プラスミドを小規模調製によって抽出した。
【0080】
タンパク質ライブラリーの発現
大腸菌MC1061に由来する小規模調製プラスミドを、dam
-及びdcm
-である化学的にコンピテントな大腸菌SCS110に形質転換した。次いで、SCS110に由来する精製した非メチル化プラスミドを、エレクトロコンピテントなB.アンスラシスBH480株に形質転換し、20μg/mLカナマイシンを含有するLB寒天上にプレーティングした。BH480は、無毒な大きいプラスミドを除去した(-cured)、8つのプロテアーゼを欠失した、胞子形成欠損B.アンスラシス株であり、組換えタンパク質発現の効率的な宿主としての役割を果たす (Pomerantsevら、Protein Expr. Purif., 80:80-90 (2011))。単一コロニーを20μg/mLカナマイシンを含有する5 mL FA培地で、オーバーナイトで増殖させた (Pomerantsevら、上記)。変異体PAタンパク質を含有する上清を、遠心分離によって滅菌し、Amicon Ultra-4 (30K) Centrifugal Filter Devices (Millipore Corp., Billerica, MA)を用いて約10倍に濃縮した。上清を、ネイティブゲル電気泳動によって分析し、クーマシーブルー色素で染色し、タンパク質濃度をデンシトメトリーによって見積もり、上清のバンドを精製されたPA試料と比較した。これを各タンパク質において2回行った。
【0081】
PA変異体スクリーン
RAW264.7マクロファージ及びマウスメラノーマB16-BL6細胞を、10%のウシ胎仔血清 (Invitrogen)及び50μg/mLのゲンタマイシン (Invitrogen)となるよう補充した、ダルベッコ改変イーグル培地 (Life Technologie、Grand Island, NY)中で、37℃、5%CO
2の組織培養インキュベーター内で増殖させた。
【0082】
機能の喪失についてPA変異体をテストするために、RAW264.7マクロファージを、1ウェル当たり10
5細胞で、96ウェルプレートにプレーティングし、オーバーナイトで増殖させた。翌日、PA変異体を500 ng/mLの濃度で、LFを100 ng/mLの濃度で添加した。細胞を20時間 (h)インキュベーションし、最後の時間にMTT (3-(4,5-dimethyl-2-thiazolyl)-2,5-diphenyl-2H-tetrazolium bromide, Sigma, St. Louis, MO)を500μg/mLで添加した。培地を吸引し、酸化されたMTTを、0.5%SDS及び0.038M塩酸を含有する91%イソプロパノール中で溶解し、次いでSpectraMax 190プレートリーダー (Molecular Devices, Sunnyvale, CA)を用いて570 nmで読み取った。未処理対照と比べた生存%を決定するために、吸光度を用いた。オリジナルのコンストラクトPA-R200A及びPA-I210Aよりも低い毒性を示したPA変異体を、二剤機能獲得テスト(double-agent gain-of-function test)に供した。RAW264.7マクロファージを、上記のように播種し、PA-R200A又はPA-I210A (250 ng/mL)と組合せた各PA変異体 (250 ng/mL)及び100 ng/mLのLFを添加した。該細胞を6時間インキュベーションし、上記のように生存率を測定した。
【0083】
PA-L1-I207Rの創出及び細胞障害性
部位特異的変異導入を用いて、フリン切断配列RKKR (配列番号4) (残基164〜167)がMMP基質配列GPLGMLSQ (配列番号6)で置換されている、PA-L1を過剰発現するプラスミド、pYS5-L1ff (Liuら、Cancer Res., 60:6061-6067 (2000))に変異I207Rを導入した。使用したプライマーは、配列番号27 (I207Rセンス)、配列番号28 (I207Rアンチセンス)であった。センス及びアンチセンスプライマーを、製造業者の推奨に従ってQuikchange Lightning Kit (Agilent, Santa Clara, CA)と共に用い、化学的にコンピテントな大腸菌XL-10 Gold細胞に形質転換した。発現及び精製のためにBH480に形質転換する前に、プラスミドを小規模調製し、シーケンシングし、大腸菌SCS110に形質転換した。PA-L1-I207Rをコードする配列は、配列番号29のヌクレオチド配列であった。PA-L1-I207R及びPA-L1-I210Aの細胞障害性を、30 ng/mL FP59の存在下で、単独で、及びPA-U2-R200A (フリン切断配列がuPA基質配列PGSGRSA (配列番号9)で置換されている) (Liuら、J. Biol. Chem., 276, 17976-17984 (2001))との組合せでテストした。96ウェルプレート中で、B16-BL6細胞を、表示された毒素と共に48時間インキュベーションし、上記のように、細胞生存率をMTTアッセイによって決定した。
【0084】
タンパク質精製
PA-L1-I210A、PA-L1-I207R、PA-U2-R200A、LF及びFP59を、B.アンスラシスBH480株に由来するpYS5ベースの発現プラスミドを用いて発現させた。培養上清に分泌された組換えタンパク質を以前に記載されたように(Pomerantsevら、上記;Liuら、Cell. Microbiol., 9:977-987 (2007))精製した。簡易には、発現プラスミドで形質転換したBH480株を10μg/mlのカナマイシンを含むFA培地中で、37℃で12時間増殖させた。培養上清に分泌されたタンパク質を、回転するボトル中において、2M硫酸アンモニウムの存在下で、Phenyl-Sepharose 6 Fast Flowレジン(低置換、GE Healthcare Life Sciences, Pittsburg, PA) (上清1リットル当たり30 ml)に沈殿させた。レジンを多孔質のプラスチック漏斗で回収し、洗浄バッファー (1.5M硫酸アンモニウム、10 mM Tris-HCl (pH8.0)、1 mM EDTA)で洗浄し、タンパク質を溶出バッファー (0.3M硫酸アンモニウム、10 mM Tris-HCl (pH8.0)、1mM EDTA)を用いて溶出した。2M硫酸アンモニウムを添加することによって、溶出したタンパク質を沈殿させた。沈殿物を遠心分離によって回収し、再懸濁し、10 mM Tris-HCl (pH8.0)、1 mM EDTA中で透析した。毒素タンパク質は、Q-Sepharose Fast Flowカラム (GE Healthcare Life Sciences)のクロマトグラフィーによって更に精製し、20 mM Tris-HCl、0.5 mM EDTA (pH 8.0)中の0〜0.5M NaCl勾配で溶出した。毒素タンパク質は、10 mM Tris-HCl (pH8.0)、100 mM NaCl及び0.5mMエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)を用いたSephacryl S-200高分解能ゲル濾過(GE Healthcare Life Sciences)によって更に精製し、予想される分子量で1つの顕著なバンドになった。
【0085】
PA変異体のin vivo毒性
C57BL/6J雄及び雌マウス (10〜12週齢)の腹腔内に、0、24及び48時間で、10μgのFP59と共に、20μgのPA-L1-I207R又はPA-LI-I210Aを注射し、最初の注射後から2週間、倦怠感の徴候及び死亡について1日2回確認した。マウスは実験終了時に安楽死させた。全ての動物実験は、国立アレルギー感染症研究所の動物実験委員会によって承認されたプロトコールに従って行った。
【0086】
in vivo抗腫瘍研究
12週齢の雌C57BL/6Jマウス (Jackson Laboratory, Bar Harbor, Maine)の中肩甲骨皮下に、5×10
5のB16-BL6細胞を注射した。B16-BL6メラノーマ細胞は、低倍率と高倍率の両方での細胞形態の継続的評価によって確認した。注射後8日で、樹立した腫瘍をデジタルキャリパー (FV Fowler Company, Inc., Newton, MA)で測定した。腫瘍重量は、式中において最長及び最短の腫瘍寸法で見積もった:腫瘍重量 (mg)=(長さ(mm)×幅(mm
2)×0.5 (Geranら、Cancer Chemother. Rep., 3:1-103 (1972))。腫瘍を有するマウスを無作為で群に分け、試験0日目(腫瘍細胞注射後8日)、2、4及び9日目で
図5に示された用量で、PA変異体タンパク質及びLFを含有する200μLのPBSを、腹腔内に注射した。マウスを重量測定し、各注射前に腫瘍を測定した。PBS単独での対照群において、動物試験プロトコールに従って安楽死を必要とする状態である、腫瘍が体重の10%に到達した10日目に実験を終了した。
【0087】
統計分析
統計分析は、Excelソフトウェアを用いて、対応のないスチューデントのt-検定で行った。生存曲線は、GraphPad Prismソフトウェアを用いて、ログランク検定(Mantel-Cox)を用いて分析した。
【0088】
実施例1
本実施例はPA変異体の変異導入及び発現について実証する。
【0089】
LF結合のための分子間相補性に厳密に依存する活性を有するPA変異体を選択するために、反時計回り側の単量体のLF結合サブサイト残基R200で、及び時計回り側の単量体の残基R178、I207、I210及びK214で、NNS (N=任意のヌクレオチド、S=C又はG)コドンを有するPA変異体ライブラリーを構築した (
図1)。全ての有力な候補となるPA変異体についてのDNAコード配列が単離された一方で、対応する形質転換された無毒なB.アンスラシスBH480株に由来する幾つかのタンパク質が発現せず、又は極めて低いレベルでのみ発現した。95変異体の理論的ライブラリーのうち、79が成功裏に発現し、分泌されたPA変異体を含有する上清を最初のテストのために調製した。通常、PAタンパク質は対応する形質転換されたBH480株によって高いレベルで発現し、しばしば、培養上清中の総タンパク質の50%超のレベルに達する。発現しなかった16のタンパク質のうち、9つがK214 (C、D、E、F、G、P、S、W、Y)の変異体であり、4つがI207 (D、K、P、S)での変異体であり、2つがI210 (G、N)の変異体であり、1つがR178変異体 (P)であった。K214はα-ヘリックスの末端に位置し、該側鎖はPA上の他の任意の残基と近接な接触を形成しない。この部位でそれだけ多くの変異体が発現できなかった理由については明らかでない。
【0090】
実施例2
本実施例はPA-I207Rが改善された時計回り側の単量体変異体であることについて実証する。
【0091】
細胞障害性アッセイを用いて、PAタンパク質を含有する滅菌された上清を、PA-R200A又はPA-I210Aを好適なものとして、分子間相補性のオリジナルバージョンに対する相対的な活性についてスクリーンした。反時計回り側の単量体変異体のスクリーンにおいては、最初に10の変異体PA-R200Xタンパク質(C、D、E、G、I、M、P、S、V及びW)を、PA-R200Aより本質的に低い毒性であるものとして特定した。しかしながら、後の詳細な特徴付けによって、これらのPA変異体はまたPA-I210との減少した分子間相補性を示し、結果としてより低いLF誘導性細胞障害性を示すことを見出した。例として、PA-R200Cは僅かにPA-R200Aより低い毒性であったが、それはまた、PA-I210Aと相補して、RAW264.7細胞を殺すことを促進する効果は僅かに低かった。それゆえ、反時計回り側の単量体PA変異体のいずれも、オリジナルのPA-R200Aよりも有意に優れたものではないことを見出した。
【0092】
時計回り側の単量体変異体PA-R178X、PA-I207X、PA-I210X及びPA-K214Xのスクリーンにおいては、RAW264.7マクロファージに対する大幅に減少した固有の細胞障害性を有する8つのタンパク質:I207R、I207W、I210D、I210E、I210K、I210Q、I210R及びI210Sを特定した (
図2)。これらは、分子間相補性における能力について、R200A及びR200Cとの組合せでテストした (
図3B)。これらの時計回り側の変異体の全ては、PA-R200Aによって相補でき、PA-R200Cによってより少ない程度で相補できた。これらのPA変異体の間では、PA-I207Rが、PA-R200A及びPA-R200Cの両方との相補して、RAW264.7細胞を殺すことを達成することにおいて、ベストな挙動であった。それゆえ、PA-I207Rは、単独で使用した場合、極めて低い細胞障害性を示す、分子間相補性PAシステムについての改善された時計回り側の単量体変異体として特定された。
【0093】
PA-I207Rを更に特徴付けるために、MMP活性化変異体、即ちPA-L1-I207R (配列番号30)を生成し、該タンパク質を精製した。PA-L1-I207R及びPA-U2-R200Aの新しい組合せを、MMP及びuPAの両方を高いレベルで発現するマウスメラノーマB16-BL6細胞に対する細胞障害性について、オリジナルのPA-L1-I210A及びPA-U2-R200Aの組合せと比較した。PA-L1-I207Rは、PA依存様式で細胞を殺すLF融合エフェクタータンパク質であるFP59(Aroraら、Infect. Immun., 62:4955-4961 (1994))の存在下で、PA-U2-R200Aと相補してB16-BL6細胞を殺す、PA-L1-I207Aと類似する活性を示した (
図4A)。これらのアッセイにおいては、意外なことに、単一の構成要素PA-L1-I207Rが細胞障害性を示さなかった一方で、オリジナルのカウンターパート(counterpart)PA-L1-I210Aを単独で用いた場合にB16-BL6細胞に対する中程度の細胞障害性を示した (IC
50=200 ng/mL) (
図4A)。PA-U2-R200Aはまた、これらの設定においては、単独で用いた場合に細胞障害性を示さなかった (
図4A)。
【0094】
C57BL/6Jマウスに、FP59と共に投与した場合のPA-L1-I207R及びPA-L1-I210Aを毒性を更に比較した。20μgのPA-L1-I207R及び10μgのFP59の3用量を投与したマウスの全てが生存した一方で、20μgのPA-L1-I210A及び10μgのFP59の3用量を投与したマウスの全てが1週間以内に投与によって死亡したという点において、PA-L1-I207RはPA-L1-I210Aよりもかなり低い毒性であったことが判明した (P=0.0007、ログランク検定 (Mantel-Cox)) (
図4B)。
【0095】
実施例3
本実施例はPA-L1-I207R及びPA-U2-R200Aの組合せが抗腫瘍活性における高い効能を提供することについて実証する。
【0096】
新しいPA変異体の抗腫瘍活性を更に評価するために、C57BL/6Jマウス内のB16-BL6同系の腫瘍の治療において、新しい組合せ、即ちPA-L1-I207R (配列番号30)及びPA-U2-R200A (配列番号32)、並びにオリジナルのPA-L1-I210A及びPA-U2-R200Aの組合せの対照比較(side-by-side comparison)を行った。配列番号31のヌクレオチド配列が、PA-U2-R200Aをコードしていた。腫瘍を有するマウスをPBS、低用量のPA変異体の新しい組合せ若しくはオリジナルの組合せ及びLF (7.5μg/7.5μg/5μg)、又は高用量の各組合せ及びLF (22.5μg/22.5μg/15μg)のいずれかで処理した。毒素で処理した群の全ては、PBS対照群と比べて、有意な抗腫瘍活性を示した (
図5) (毒素で処理した群の全てについてP<0.0001、スチューデントのT検定)。PA-L1-I207R及びPA-U2-R200Aの新しい組合せは、PA-L1-I210A及びPA-U2-R200Aのオリジナルの組合せよりも有意に高い抗腫瘍活性を示した(
図5) (10日目で2つ高用量群についてP=0.0326、スチューデントのT検定)。10日目の実験の終わりの前に、PBS群において、20%の死亡率が観察され、死亡は明らかに高い腫瘍負荷に起因していた。低用量の両方の組合せを接種した群は10%の死亡率であった一方で、高用量群においては、新しい組合せは10%の死亡率で、オリジナルの組合せ群における30%の死亡率との比較において、明らかにより安全であった(この差異は統計的に有意ではなかったが)。
【0097】
実施例4〜10
以下の材料及び方法は、実施例4〜10において記載される実験において使用した。
【0098】
タンパク質及び試薬
組換えPA変異体及びLFタンパク質を、以前に記載されたように(Guptaら、PLoS ONE, 3:e3130 (2008);Pomerantsevら、上記)、無毒な、胞子形成欠損、プロテアーゼ欠失B.アンスラシス株BH480の上清から精製した。FP59は、LFアミノ酸1〜254、及びPAによって細胞質に送達後に真核伸長因子2のADPリボシル化によって細胞を殺すシュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)外毒素Aの触媒ドメインの融合タンパク質である。ここで用いたLF及びFP59は、ネイティブのアミノ末端配列AGGを含有する (Guptaら、上記)。MTT (3-[4,5-dimethylthiazol-2-yl]-2,5-diphenyltetrazolium bromide)及びペントスタチン (SML0508-25 mg)はSigma (Atlanta, GA)からのものであった。シクロホスファミド (NDC10019-957-01)はBaxter Healthcare (Deerfield, IL)からのものであった。
【0099】
細胞及び細胞障害性アッセイ
全ての培養細胞は37℃、5%CO
2雰囲気中で増殖させた。マウスB16-BL6メラノーマ細胞、LL3ルイス肺がん細胞、ヒト肺がんA549細胞及び結腸直腸がんColo205細胞を、10%ウシ胎仔血清を補充したDMEM (ダルベッコ改変イーグル培地)中で培養した。肺内皮細胞の単離のためのプロトコール(Reynoldsら、Methods Mol. Med., 120:503-509 (2006))に従って、B16-BL6メラノーマからマウス肺内皮細胞及び腫瘍内皮細胞を単離した。簡易には、マウス肺及びB16-BL6腫瘍をI型コラゲナーゼで消化し、ゼラチン及びコラーゲンでコートしたフラスコ上にプレーティングした。次いで、マクロファージを回収するために、細胞を、Fc Blocker (ラット抗マウスCD16/CD32、Cat. 553142, BD Pharmingen, San Diego, CA)を用いて、ヒツジ抗ラット抗体でコートした磁気ビーズによってネガティブ選別に、及び内皮細胞を単離するために、抗分子間接着分子2 (ICAM2又はCD102)抗体(Cat. 553326、ラット抗マウスCD102、BD Pharmingen)を用いて、磁気ビーズによってポジティブ選別に、連続的に供した。内皮細胞を、20%ウシ胎仔血清、内皮細胞増殖サプリメント (500 mLのDMEM中に30 mg) (E2759-15 mg, Sigma)、ヘパリン (500 mLのDMEM中に50 mg) (H3149-100 KU, Sigma)を補充したDMEM中で培養した。
【0100】
細胞障害性アッセイのために、96ウェルプレート中で増殖させた細胞 (50%コンフルエント)を、500 ng/mLのLFと組合せた様々な濃度のPA又はPA変異体タンパク質と共に、72時間インキュベーションした。幾つかの実験においては、細胞を、様々な濃度のペントスタチン若しくはシクロホスファミド又はそれらの組合せと共に、72時間インキュベーションした。次いで、以前に記載されたように (Liuら、J. Biol. Chem., 278:5227-5234 (2003))、MTTによって細胞生存率をアッセイし、未処理細胞のMTTシグナルの%として表した。
【0101】
MEK切断アッセイ
12ウェルプレート中で増殖させた腫瘍内皮細胞を、表示された濃度のPA-L1及びLFと共に、37℃で3時間インキュベーションし、次いで未結合の毒素を除去するためにHank’s Balanced Salt Solution (Biofluids, Rockville, MD)で3回洗浄した。次いで、細胞を、プロテアーゼ阻害剤を含有する改変ラジオイムノ沈殿アッセイ (RIPA)溶解バッファー(Liuら、J. Biol. Chem., 278:5227-5234 (2003))中で溶解し、溶解物をドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動 (SDS-PAGE)に供し、MEK2切断を検出するために、抗MEK2 (N末端)抗体(sc-524, Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)を用いてウェスタンブロッティングに供した。
【0102】
遺伝子発現
12ウェルプレート中で培養した内皮細胞を、PA-L1/LFあり又はなしで、24時間処理し、次いで総RNAをTRIzol試薬 (Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて調製した。逆転写反応キット (Invitrogen)を用いて製造業者のマニュアルに従って一本鎖cDNAを合成した。グルコースの取り込み、解糖、トリカルボン酸サイクル、グルタミン分解及び脂質合成に関与する選択したキー遺伝子の発現変化を、SYBR Green PCR Mastermixキットを用いて、リアルタイム定量PCRによって分析した。
【0103】
酸素消費速度及び細胞外酸性化速度
腫瘍内皮細胞の代謝活性を、XF24細胞外Fluxアナライザー(Seahorse Bioscience, North Billerica, MA)中で評価した。24ウェルXF24組織培養プレート中で、コンフルエントまで増殖させた腫瘍細胞及び腫瘍内皮細胞を、PA-L1/LF (各1μg/mL)あり又はなしで、5回反復で24時間インキュベーションした。細胞を、200 mM GlutaMax-1培地、25 mM D-グルコースを補充した、新鮮な未緩衝血清フリーDMEM(pH7.4)に移し、該培地中で1時間平衡化した。次いで、リアルタイムでの細胞外酸性化速度 (ECAR)及び酸素消費速度 (OCR)を、基本条件下、及びオリゴマイシン (0.5μM)、FCCP (カルボニルシアニドp-トリフルオロメトキシフェニルヒドラゾン) (0.5μM)及びアンチマイシンA (1μM)の順次添加後の条件下において、37℃で測定した。ECAR及びOCRを、細胞溶解物中における50 mgの総タンパク質に対して標準化した。アデノシン三リン酸 (ATP)産生共役型(-coupled)OCRは、基礎OCR及びオリゴマイシン添加後のOCR間の差異として計算される。予備呼吸能(Spare respiratory capacity (SRC))は、FCCP添加後のOCR及び基本条件下のOCR間の差異として定義される。最大呼吸 (MR)は、FCCP添加後のOCR及びオリゴマイシン添加後のOCR間の差異として定義される。細胞内ATPレベルは、ATPLITE 1ステップキット (PerkinElmer, Boston, MA)を用いて測定した。
【0104】
マウス及び腫瘍実験
TEM8-及びCMG2ヌルマウスは以前に生成した (Liuら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106:12424-12429 (2009))。ヒト腫瘍異種移植片を成立させるために使用した無胸腺ヌードTEM8-及びCMG2ヌルマウスを生成するために、TEM8-及びCMG2ヌルマウスをまた無胸腺ヌード(Foxn1
nu/nu)マウス (Jackson Laboratory, Bar Harbor, Maine)と交配した。Cmg2(EC)
-/-、Cmg2(SM)
-/-、Cmg2(Mye)
-/-マウスを含む様々な組織特異的CMG2ヌルマウス、及びCmg2
EC及びCmg2
SMマウスを含む組織特異的CMG2発現マウスを、以前に記載されたように(Liuら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106:12424-12429 (2009);Liuら、Cell Host Microbe, 8:455-462 (2010);Liuら、Nature, 501:63-68 (2013))生成した。(遺伝子型の完全な記載は、
図8A〜8Eの凡例において提供される。腫瘍実験のために、10〜14週齢の雄及び雌マウスを用いた。同系の腫瘍を増殖させるために、5×10
5細胞、マウスのB16-BL6メラノーマ細胞又はLL3肺がん細胞を、表示された遺伝子型を有する予め剃毛したマウスの中肩甲骨皮下に注射した。ヒト腫瘍異種移植片のために、1×10
7細胞、マウスのColo205結腸直腸がん細胞又はA549肺がん細胞を、表示されたTEM8又はCMG2遺伝子型を有する無胸腺ヌードマウスの皮内に注射した。腫瘍は、デジタルキャリパー (FV Fowler Company, Inc., Newton, MA)を用いて測定し、腫瘍重量は式:腫瘍重量 (mg)=1/2(長さ(mm)×幅(mm
2))又は1/2 (長さ(mm)×幅(mm)×高さ(mm))を用いて、腫瘍寸法の長さ、幅及び高さで見積もった。腫瘍を有するマウスを無作為で群に分け、図内に表示されたスケジュールに従って、PBS、改変毒素、PC療法又は組合せ療法を腹腔内に注射した。マウスを秤量し、各注射前に腫瘍を測定した。全ての動物実験は、国立アレルギー感染症研究所の動物実験委員会によって承認されたプロトコールに従って行った。
【0105】
親油性カルボシアニン色素DiIを用いた血管の可視化
手順は以前に記載されたものであった (Liら、Nat. Protoc., 3:1703-1708 (2008))。簡易には、3用量の30μgのPA-L1及び15μgのLF又はPBSで処理したB16-BL6腫瘍を有するマウスを、CO
2吸入によって安楽死させた直後、続いてPBS、DiI色素 (Sigma)及び4%パラホルムアルデヒドを用いて連続心臓灌流を行った。次いで、凍結させた組織切片を蛍光顕微鏡用に調製し、腫瘍及び様々な健常な組織の血管系を可視化した。腫瘍血管の定量のために、各腫瘍試料に由来する5つのランダム視野 (1視野当たり11 mm
2)中の血管を計数した (各処理群についてn=3)。
【0106】
毒素中和抗体の測定
様々な処理群に由来するB16-BL6又はLL3腫瘍を有するマウスから、終末放血し、血清を調製した。血清中の毒素中和抗体を力価測定するために、96ウェルプレート中で増殖させたRAW264.7細胞を、様々な希釈の血清の存在下で、100 ng/mLのPA及び100 ng/mLのLF (細胞の95%超を殺す量)と共に、5時間インキュベーションし、続けて上記のように細胞生存率を決定するためにMTTアッセイを行った。
【0107】
フローサイトメトリー
PBS、PC療法、IC2-PA/LF又はPCと毒素の組合せで処理した群に由来する、ナイーブマウス及びB16-BL6メラノーマを有するマウス由来の脾臓を解剖し、
図15A〜15Dに示されるように、第二ラウンドの処置後、重量を測定した。脾細胞を単離し、計数し、蛍光色素結合mAbs抗CD45R APC-Cy7 (Cat. No. 552094, BD Pharmingen)、抗CD4 APC (Cat. 553051, BD Pharmingen)、抗CD8 PE (Cat. 553033, BD Pharmingen)、抗CD11b PerCP-Cy5 (Cat. 550993、BD Pharmingen)及び抗Gr-1 FITC (Cat. 553127, BD Pharmingen)、又は抗IgD FITC (Cat. 553439, BD Pharmingen)、抗IgM PE (Cat. 553409, BD Pharmingen)及び抗CD27 PerCP-Cy5 (Cat. 563603, BD Pharmingen)で染色した。BD FACSCanto Flow Cytometerを用いて細胞を分析し、表示された免疫細胞マーカーについて陽性である各細胞集団の%を得た。各免疫細胞マーカーについて陽性である細胞数を以下:総脾細胞×マーカー陽性細胞の%、によって得た。
【0108】
統計分析
統計分析は、Excelソフトウェアを用いて、対応のないスチューデントのT検定で行った。生存曲線は、GraphPad Prismソフトウェアを用いて、ログランク検定 (Mantel-Cox)を用いて分析した。
【0109】
実施例4
本実施例は、腫瘍間質部分におけるCMG2及びTEM8が腫瘍増殖のために重要でないことについて実証する。
【0110】
特定の理論又は機構に拘束されることはないが、血管新生過程が腫瘍増殖のために必要であると考えられる。腫瘍血管新生における炭疽毒素受容体CMG2及びTEM8の役割を直接的に評価するために、以前に記載されたEM8-及びCMG2ヌルマウス(Liuら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106:12424-12429 (2009))内の3つの異なる固形腫瘍の増殖速度を測定した。評価した腫瘍は、ヒト肺がんA549異種移植片及び同系のマウスLL3ルイス肺がん及びB16-BL6メラノーマであった (
図6A、6B、6C、6F、6G及び6H)。一貫して、3つの腫瘍全てが、同腹子対照マウス内と同じように、CMG2ヌルマウス内で急速に増殖した。このことは、腫瘍間質部分 (例、内皮細胞及び炎症細胞)におけるCMG2発現は、腫瘍増殖のために必要でないことを示している (
図6A、6B及び6C)。腫瘍を有する同腹子Cmg2
+/+、Cmg2
+/-及びCmg2
-/-マウス間で、体重における差異は観察されなかった (
図6F〜6H)。
【0111】
予備実験においては、腫瘍は、同腹子対照内よりもTEM8ヌルマウス内で、遅く増殖したことが観察された (
図12A、12B、12C及び12D)。しかしながら、Tem8
-/-マウスの殆んど全てが、離乳時(3週齢)に始まった、不揃いの過剰成長した切歯を徐々に発達させ(不正咬合)、そのことは、これらのマウスは日常的に与えられた硬い飼料を噛むときに困難を引き起こした(
図12D)。結果として、Tem8
-/-マウスは栄養失調となり、そのことは皮下脂肪沈着の欠如と関連したより低い体重に反映された (
図12E、12F、12G、12H及び12I)。栄養失調の表現型は、Tem8
-/-マウスが高齢化するにつれてより顕著になり、1歳齢で約50%が死亡した。Tem8
-/-マウスは、軟らかい飼料 (Nutra-Gel from Bio-Serv, Frenchtown, NJ)を与えた後に、栄養失調から完全に救われることが見出された (
図12E、12F、12G、12H及び12I)。それゆえ、Tem8
-/-マウスの栄養失調の表現型の原因は、十分な量の栄養を取得できなかったことであった。更には、Tem8
-/-マウスで見られる不正咬合の頻度は、軟らかい飼料を給餌することによって大幅に減少した (
図12E)。それゆえ、TEM8は、硬い飼料を齧ったり噛むために必要となる、マウスの歯の機能を維持することにおいて必須である。
【0112】
上記で観察されたTem8
-/-マウス内の腫瘍増殖における減少が、栄養失調の表現型に起因していたかどうかを調べるために、次いで、軟らかい飼料を給餌し、体重を調整したTem8
-/-マウス内で、同系のLL3肺がん及びB16-BL6メラノーマを増殖させた。特に、同腹子Tem8
-/-及びTem8
+/+マウス間で、腫瘍増殖における有意な差異は見られなかった (
図6D、6E、6I及び6J)。まとめると、上記結果は、間質部分におけるCMG2又はTEM8のいずれの発現も腫瘍増殖のため、黙示的に腫瘍血管新生のために重要でないことを実証する。
【0113】
実施例5
本実施例は、改変炭疽致死毒素が宿主CMG2によって腫瘍増殖を阻止することについて実証する。
【0114】
改変致死毒素の抗腫瘍機構を調べるために、LL3がんを有するマウス及びB16-BL6メラノーマを有するマウスを、PA-L1及びLF又はIC2-PA及びLFで、全身投与によって処理した。「IC2-PA」は、PA-L1-I207R及びPA-U2-R200Aの組合せを指す。これらの型の腫瘍は、in vivoでこれらの改変致死毒素に対して高度に且つ等しく感受性であった (
図7A、7B及び7C)。LL3細胞は、in vitro細胞障害性アッセイにおいて、致死毒素に対して感受性であった一方で、B16-BL6細胞は高度に耐性であった (
図7D)。これらの結果は、腫瘍間質部分において、ある細胞の型を標的化することが、毒素に対する腫瘍応答における役割を果たし得ることを示唆した。
【0115】
CMG2ヌル及びTEM8ヌルの両方のマウスは、通常の腫瘍増殖を支持することができるので、これらのマウスは改変炭疽毒素が腫瘍増殖を制御する機構を詳細に分析するための強力な遺伝的ツールを提供する。改変炭疽致死毒素の強力な抗腫瘍活性における間質部分の役割を決定するために、A549腫瘍を有するCMG2
-/-及びTEM8
-/-マウス並びにそれらの同腹子対照マウスを、腫瘍が約1gに増殖した後に、PA-L1/LFで処理した。A549細胞は野生型BRAFを含有し、in vitro細胞障害性アッセイにおいてPA-L1/LFに対して耐性である (
図13A及び13B)。Cmg2
+/+及びCmg2
+/-マウス内のA549腫瘍が毒素に対して非常に感受性であった一方で、Cmg2
-/-マウス内で増殖している腫瘍は、かなり低い感受性であった (
図7E及び7F)。それに対して、Tem8
-/-マウス内で増殖しているA549腫瘍、並びにそれらの同腹子対照マウスは全て、毒素処理に対して感受性であった (
図7G及び7H)。これらの結果は、改変毒素の抗腫瘍活性が、ある腫瘍間質部分を標的化することを含むことを明瞭に実証する。結果はまた、TEM8よりむしろCMG2が、毒素の抗腫瘍活性を媒介する主要な毒素受容体であることを明らかにする。間質CMG2発現があるときは、改変毒素は非常に強力であり、サイズにおいて非常に大きい腫瘍(総体重の約5%)に対してさえ効能を示した (
図7E、7F、7G及び7H)。
【0116】
実施例6A
本実施例は、腫瘍内皮細胞を標的化することが、改変炭疽致死毒素の抗腫瘍活性の原因となることについて実証する。
【0117】
腫瘍間質部分内のどの細胞型が、PA-L1/LFの抗腫瘍作用の原因となるかを決定するために、B16-BL6腫瘍を、3つの型のマウス:Cmg2
-/-マウス、内皮細胞においてのみCMG2-導入遺伝子が発現するCmg2
-/-マウス(以降、Cmg2
ECと命名する。詳細な説明は、Liuら、Nature, 501:63-68 (2013)を参照)、及び血管平滑筋細胞においてのみCMG2-導入遺伝子が発現するCmg2
-/-マウス (Cmg2
SM) (詳細な説明はLiuら、Nature, 501:63-68 (2013)を参照)に接種した。B16-BL6細胞は、in vitro細胞障害性アッセイにおいて、PA-L1/LFに対して感受性である (
図7D)。上記でA549腫瘍について見られたように (
図7E)、Cmg2
-/-マウス内のB16-BL6メラノーマは、PA-L1/LFに対して非感受性であった一方で、Cmg2
+/+マウス内の同じ腫瘍は非常に感受性であった (
図8A及び8B)。Cmg2
SMマウス内のB16-BL6腫瘍は、Cmg2
-/-マウス内と同じように、毒素に対して非感受性であった一方、Cmg2
ECマウス内の腫瘍は完全に感受性であった (
図8A及び8B)。それゆえ、CMG2内皮発現は、毒素の抗腫瘍活性を媒介するために十分である。がん標的化治療において腫瘍内皮細胞を標的化することの役割を更に評価するために、B16-BL6腫瘍を内皮細胞特異的CMG2ヌル (以後、Cmg2(EC)
-/-と呼ぶ。詳細な説明は、Liuら、Nature, 501:63-68 (2013)を参照)マウス内で増殖させた。Cmg2(EC)
-/-マウス内の腫瘍は、PA-L1/LFに対して、並びにPA-IC2/LFに対して、完全に感受性を失った (
図8C及び8D)一方で、骨髄CMG2特異的CMG2ヌル (Cmg2(Mye)
-/-、詳細な説明は参考文献、Liuら、Cell Host Microbe, 8:455-462 (2010)を参照)マウス内の腫瘍は、PA-IC2/LFに対する感受性を維持していた (
図8D)。PA-L1を単独で用いた場合、抗腫瘍活性は観察されなかった。このことは、これらの毒素の抗腫瘍活性は、毒素の酵素部分である、LFの作用を要求することを確認する。
【0118】
まとめると、上記結果は、改変炭疽毒素の強力な抗腫瘍活性は、腫瘍間質部分、例、血管平滑筋細胞及び骨髄系統細胞における他の細胞型よりもむしろ、宿主由来の腫瘍内皮細胞に対する毒素の特有の毒性に起因することを明瞭に実証する。腫瘍試験において用いられたCmg2
ECマウスそのものが(腫瘍フリーである場合)、100%のCmg2
ECマウスが、野生型マウス50%を殺した治療法、5用量の50μg PA-L1及び50μg LFを生き抜いたという点において、PA-L1/LFでの投与に対して高度に耐性であったことを追加的に観察した (
図8E)。これらの結果は、改変毒素は、MMP又はuPAを発現しない、主として静止している健常な内皮細胞に対してよりもむしろ、増殖している腫瘍内皮細胞に対して選択的に毒性であることを示す。この仮説をテストするために、PBS又はPA-L1/LFで処理したB16-BL6腫瘍を有するマウスの血管を、心臓灌流によって親油性カルボシアニン蛍光色素DiIで標識した (Liら、Nat. Protoc., 3:1703-1708 (2008))。灌流の間、DiIは接触した内皮細胞膜に直接取り込まれ、腫瘍及び健常な組織内の血管系構造の蛍光顕微鏡観察によって可視化することが可能となる。特に、PBS及び毒素で処理したB16-BL6腫瘍を有するマウスの脾臓、腎臓、肝臓及び心臓を含む様々な健常な組織の血管系構造において、差異は検出されなかった。意外なことに、PBSで処理した腫瘍において血管が豊富であった一方、PA-L1/LFで処理した腫瘍における血管は滅多に検出されなかった (
図8F)。腫瘍を有するマウスをPA-L1/LF又はPBSで処理した後、B16-BL6メラノーマ及びLLCがんをまた切片化し、組織学的に分析した。腫瘍の血管構造の喪失に伴って、広範な腫瘍壊死(H&E染色)及び細胞増殖における減少(Ki67染色)が、毒素で処理したB16-BL6及びLLC腫瘍においては容易に観察された。これらの結果は、改変致死毒素は健常な内皮細胞に危害を加えずに、腫瘍内皮細胞を選択的に損傷するという見解を支持する。CD31及びTUNEL共染色をまた、B16-BL6腫瘍において行った。広範なアポトーシス腫瘍細胞死が、PA-L1/LFで処理した腫瘍において検出されたが、毒素で処理した腫瘍においては、滅多に検出されなかった腫瘍内皮細胞のうち、アポトーシス細胞死は確認されなかった。このことは、該毒素が、アポトーシスを誘導することによってよりもむしろ、内皮細胞の増殖に影響することによって、抗腫瘍効果を発揮し得ることを示唆している。
【0119】
実施例6B
本実施例は、改変炭疽致死毒素が腫瘍内皮細胞の増殖を阻害することについて実証する。
【0120】
腫瘍内皮細胞における改変毒素の毒性作用を調べるために、分子間接着分子2 (ICAM2)選別によって、B16-BL6腫瘍から腫瘍内皮細胞を単離した。単離された内皮細胞の純度は、別の内皮マーカーCD31によって確認した。PAL1による、内皮細胞の細胞質基質へのLFの送達は、MEK1、MEK2、ERK及びPhospho-ERK抗体を用いたウェスタンブロッティングによって測定したような、ERK1/2のリン酸化における劇的な減少を伴った、MEK1及びMEK2の切断によって証明された。内皮細胞による、毒素活性化プロテアーゼの発現はまた、FP59の存在下で、プロテアーゼ活性化PA変異体(PA、PA-L1 (MMP活性化PA変異体)及びPA-U2 (ウロキナーゼ活性化PA変異体))に対する細胞の感受性によって確認した。FP59は、LFアミノ酸1〜254、PAによる細胞質基質への送達後に、eEF2のADPリボシル化によって全ての細胞を殺すシュードモナス・アエルギノーサ外毒素Aの触媒ドメインの融合タンパク質である。腫瘍内皮細胞における毒素の細胞障害性作用を試験するために、細胞をPA-L1/LFで、それぞれ48時間及び72時間処理し、アネキシンV及びプロピジウム・ヨーダイド(PI)染色し、フローサイトメトリーによって、アポトーシス細胞を特定した。PA-L1及びFP59は、インキュベーション後24時間に、アポトーシス細胞死を劇的に誘導できたが、PA-L1及びLFは、インキュベーション後72時間においてさえ誘導できなかった。改変致死毒素は、直接、内皮細胞を殺さなかったが、毒素は内皮細胞増殖に強力な阻害効果を示した。それゆえ、Ki67染色は、毒素と共に72時間インキュベーション後に、腫瘍内皮細胞の増殖がほぼ完全に止まったことを明らかにした。内皮細胞における毒素の効果は、BRAF
V600E変異を有する転移性のメラノーマを有する患者を治療するために、食品医薬品局によって承認されたMEK1/2の小分子阻害剤トラメチニブによって(遥かに高いモル濃度が必要であったが)完全に再現できた。これらのデータは、改変毒素の阻害効果は、MEK-ERK経路の破壊によったことを示唆する。
【0121】
実施例7
本実施例は、BRAF変異を有する腫瘍を標的化することにおける、改変毒素の追加的な利点について実証する。
【0122】
腫瘍内皮細胞へのユニークな作用に起因して、腫瘍関連プロテアーゼ活性化炭疽致死毒素は、毒素に対して非感受性であるがん細胞からなる腫瘍に対してさえ、強力な抗腫瘍活性を示す。しかしながら、ヒトがん細胞のサブセットは、発がん性BRAF変異、例えば腫瘍細胞を生存のためにRAF-MEK-ERK経路依存性にする一方で、炭疽致死毒素に対して非常に感受的にもするBRAF
V600E等を有する (Abi-Habibら、Mol. Cancer Ther., 4:1303-1310 (2005))。BRAF
V600E変異を有する固形腫瘍の治療においては、改変炭疽致死毒素が追加的な利点を有するであろうとの仮説が立てられた。このことをテストするために、発がん性BRAF
V600E変異を含有し、in vitroにおいてPA-L1/LFに対して感受性である、ヒト結腸直腸がんColo205細胞(
図13A及び13B)を、同腹子Cmg2
-/-及びCmg2
+/+マウスに接種し、PA-L1/LFで処理した。有意に、Cmg2
-/-マウス内のColo205腫瘍は毒素処理に対して感受性であったが、毒素処理に対する応答は、Cmg2
+/+マウス内で増殖している腫瘍の強い応答よりも低かった (
図14)。これらの結果は、「毒素感受性」腫瘍においては、毒素の抗腫瘍活性は、腫瘍内皮細胞及びがん細胞の両方を標的化することに依存することを示唆する。
【0123】
実施例8
本実施例は、腫瘍内皮細胞の代謝における炭疽致死毒素の影響について実証する。
【0124】
腫瘍内皮細胞における改変毒素の毒性作用の根底にある機構を調べるために、B16-BL6腫瘍から腫瘍内皮細胞を単離した。特に、内皮細胞増殖培地中で培養された内皮細胞の増殖は、該細胞をPA-L1/LFと共に72時間インキュベーション後、有意に減少した (
図9A)。PA-L1による内皮細胞の細胞質基質へのLFの送達は、毒素と共に3時間インキュベーションした後のMEK2の切断によって証明される。5μg/mLのPA-L1及び0.5μg/mLのLFあり又はなしでの、72時間のインキュベーション後、生きているMTT染色された内皮細胞の画像を撮影した。毒素で処理した細胞の比較的より低い密度に着目した。細胞代謝は全ての細胞プロセスに重要であるので、致死毒素が腫瘍内皮細胞の生体エネルギーに影響するかを試験した。PA-L1/LFで、24時間のインキュベーション後、腫瘍内皮細胞の細胞外酸性化速度 (ECAR)及び酸素消費速度 (OCR)を、基本条件下、且つミトコンドリア阻害剤オリゴマイシン (ATPシンターゼ阻害剤)、FCCP (ミトコンドリア酸化的リン酸化脱共役剤)及びアンチマイシンA (複合体III阻害剤)添加後の条件下で測定した。ECARは、細胞質での解糖活性を反映する一方で、OCRはミトコンドリアの酸化的リン酸化を反映する。改変毒素は、基本条件下及びミトコンドリア阻害時に、内皮細胞の解糖活性を有意に阻害した (
図9B)。(オリゴマイシン及びFCCPによる)ミトコンドリア阻害の間、減少したエネルギー生産を補填するために試みる、解糖活性の上方制御がまた毒素によって損なわれた (
図9B)。更には、内皮細胞の基礎OCR、ATP産生と共役した(-coupled)OCR (OCR
ATP)、最大呼吸 (MR)、予備呼吸能 (SRC)及び細胞内ATPレベルがまた、毒素によって顕著に減少した (
図9C、9D及び9E)。これらの結果は、該毒素は、解糖及びミトコンドリアの酸化的リン酸化に影響することによって、腫瘍内皮細胞の代謝に深く影響することについて実証する。
【0125】
内皮細胞の代謝への、毒素の影響の根底にある機構を調べるために、中心的な代謝におけるキー遺伝子の発現レベルをリアルタイムPCR分析によって調べた。驚くべきことに、PA-L1/LFは、グルコースの取り込み、解糖、トリカルボン酸サイクル、グルタミン消費、並びに脂質合成についてキーとなる多くの遺伝子を有意に下方制御した (
図9F)。グルコース及びグルタミンは、エネルギー代謝及び高分子合成のための2大炭素源であり、脂質合成は細胞増殖のために必須となる細胞膜の構成要素を提供するので、毒素が腫瘍増殖に与える絶大な影響は、少なくとも部分的には、ここで実証されたキーとなる代謝遺伝子の転写抑制に起因し得る。
【0126】
実施例9
本実施例は、改変毒素に対する抗体の応答を抑制することによって、治療過程の反復が可能となることについて実証する。
【0127】
腫瘍関連プロテアーゼ活性化炭疽毒素は、高い腫瘍特異性及び高い抗腫瘍効能を提供する。しかしながら、これらの細菌性タンパク質は、哺乳動物宿主にとっては外来抗原であり、長期の使用を妨げる中和抗体を誘導し得る。それゆえ、免疫応答を抑制するための戦略が有用であり得る。
【0128】
ペントスタチン及びシクロホスファミドの組合せ (PC)が、改変炭疽毒素を中和する抗体の産生をブロックするかを試験するために、同系の、免疫が保たれたC57BL/6マウス内で樹立した高度転移性のLL3(マウス)がんを用いて試験を行った。腫瘍を有するマウスを、
図10A及び10Bに示されるスケジュールに従って、PBS、PC療法、IC2-PA/LF又はPC療法及びIC2-PA/LFの組合せ療法で処理した。組合せ治療群として、腫瘍を有するマウスを、最初の毒素処理に3及び4日先立って、PCを投与して用意した。組合せ治療群は、サイクルの間は5〜7日間隔で、合計4サイクルの毒素及びPCで処理した。IC2-PA/LF単独では、強い抗腫瘍効果を示した (
図10A及び10B)。驚くべきことに、組合せ治療の全てで、第4サイクルの治療後でさえ腫瘍は治療に対する応答性を維持し、早期及び後期の両方で遥かに高い抗腫瘍効能を示した (
図10A〜10B)。重要なことに、低用量(15μg IC2-PA+5μg LF)群及び中用量(20μg IC2-PA+6.7μg LF)群において、死亡率は観察されなかった。実際には、組合せ治療を受けたマウスは、他の群におけるマウスが高い腫瘍負荷に起因して安楽死させなければならなかったかなり後である、42日後生存していた (
図10A〜10B)。PC療法単独では、強力な抗腫瘍活性を示した (
図10A〜10B)。予想通りに、中和抗体は、毒素単独で処理したマウスの全てにおいて検出された。抗体は、腫瘍が毒素 (単独)処理に対する応答において減少を示し始めた時期である、最初の処理後早くも10日で検出された。際立って、第4ラウンドの治療後でさえ、中和抗体は組合せ治療群の腫瘍を有するマウスにおいて検出されなかった (
図10C、10D及び10E)。
【0129】
次に、免疫が保たれたC57BL/6マウスに移植された、別の高悪性度の同系の腫瘍B16-BL6メラノーマの治療を含むように、本研究を拡張した。本実験は
図15A〜15Bに示されるように、改変毒素及びPC療法を用いた。B16-BL6メラノーマを有するマウスは、第一週に2回、及び以降の週に毎週、PBS、IC2-PA/LF (30μg/10μg)、PC療法、又はPC療法及びIC2-PA/LFの組合せ療法で処理した (
図15A〜15B)。再度、PC単独の治療法は顕著な抗腫瘍効果を有し (
図15A〜15B)、組合せ治療は、第5サイクルの治療後でさえ腫瘍は治療に対する応答性を維持している、優れた効能を示した (
図15A〜15B)。一貫して、改変毒素に対する中和抗体は、5サイクルの治療後でさえ、PCと毒素の組合せで処理したマウスにおいて検出されなかった (
図15C〜15D)。
【0130】
まとめると、上記結果は、毒素及びPCを組合せた治療は、優れた長期的な抗腫瘍効果を有していることを明らかにした。PC療法は、中和抗体の誘導を防ぎ、それにより複数サイクルの治療を可能にすることによってだけでなく、以前に認識されていなかった抗固形腫瘍活性を介して、組合せ療法の抗腫瘍効能に貢献することが実証された。in vitroでの細胞障害性アッセイは、ペントスタチン及びシクロホスファミドは、単独又は組合せのいずれかで使用した場合、B16-BL6、LL3及び内皮細胞に対して毒性でなかったことを示した (
図16A、16B、16C及び16D)。このことは、本研究において発見されたPCの抗固形腫瘍効果は、腫瘍細胞の増殖及び生存を支持する、免疫細胞の一部への作用によって起こる可能性があることを示唆している。
【0131】
実施例10
本実施例は、免疫細胞に対するペントスタチン及びシクロホスファミドの影響について実証する。
【0132】
免疫細胞に対するPC療法の影響を調べるために、
図15A〜15Bに示されるように、第2ラウンドの処置後に、様々な処理群に由来する、ナイーブマウス及びB16-BL6メラノーマを有するマウスから、脾細胞を単離した。フローサイトメトリー分析によって、B細胞集団 (CD45R
+、IgM
+、IgD
+細胞)は、組合せ療法群と同様、PCにおいて、ほぼ完全に枯渇していたことが明らかになった (
図11A)。より軽い程度で、T細胞集団 (CD4
+、CD8
+及びCD27
+細胞)がまた、これらの処理群において減少した (
図11B及び11C)。PC療法、並びにPC及び毒素の組合せ処理は、顆粒球集団 (CD11b
+及びGr-1
+細胞)に影響しなかった。治療の型に関わらず、ナイーブマウス内の数と比べた場合に、腫瘍を有するマウス内のCD11b
+及びGr-1
+顆粒球数は有意に増加したことを見出した。このことは、腫瘍に対する自然免疫応答の存在を示唆している (
図11E)。IC2-PA/LF単独では、これらの細胞集団に有意な影響を与えなかった(
図11A、11B、11C、11D及び11E)。それゆえ、上記結果は、PC療法は、リンパ球、特にB細胞を効率的に枯渇させる一方で、自然免疫に危害を加えないことを明瞭に実証する。リンパ球に対するPCの影響と一致して、PC療法単独又は毒素との組合せで処理したマウスの総脾細胞がまた有意に減少した (
図11E)。特定の理論又は機構に拘束されることはないが、改変毒素に対する液性免疫応答の欠如は、PC療法によって引き起こされるB細胞枯渇に起因していたと考えられる。
【0133】
実施例11〜18
以下の材料及び方法は実施例11〜18の実験において使用した。
【0134】
試薬
DNAの操作及び改変のための酵素は、New England Biolabs (Beverly, MA)から購入した。ダイナビーズTALONはInvitrogen (Carlsbad, CA)から入手した。PA及びFP59は、Pomerantsevら、Protein Expr. Purif., 80:80-90 (2011);Liuら、Cell. Microbiol., 9:977-987 (2007);及びGuptaら、PLoS One, 3:e3130 (2008)に記載されるように調製した。CMG2の細胞外ドメイン (ECD) (アミノ酸40〜218)は、N末端のHis6タグと共に大腸菌内で産生した (Santelliら、Nature, 430:905-908 (2004);Chenら、J. Biol. Chem., 282:9834-9846 (2007))。C末端のHis6配列と共に、TEM8のECD (アミノ酸35〜227)をCHO細胞内で発現させた。ニッケル・ニトリロ三酢酸カラム (Qiagen, Valencia, CA)を用いて、培養培地から後者のタンパク質を濃縮及び精製し、MonoQカラムクロマトグラフィー(GE Healthcare, Pittsburgh, PA)によって更に精製した。最小必須培地α、HEPESバッファー、ハイグロマイシンB、ハンクス平衡塩溶液 (HBSS)及びウシ胎仔血清 (FBS)をInvitrogenから入手した。変異原性ヌクレオシド三リン酸、8-オキソ-2'-デオキシグアノシン三リン酸 (8-Oxo-dGTP)及び6-(2-デオキシ-β-D-リボフラノシル)-3,4-ジヒドロ-8H-ピリミド-[4,5-c][1,2]オキサジン-7-オン三リン酸 (dPTP)は、Trilink Biotechnologies (San Diego, CA)から購入した。他の化学試薬は、Sigma (St. Loui、MO)から入手した。
【0135】
ランダム変異PAD4ファージディスプレー・ライブラリーの構築
PAD4のランダム変異導入を、10 ngのpYS5テンプレートDNA並びにヌクレオチド類似体8-oxo-dGTP及びdPTPを用いたPCR増幅(Chenら、J. Biol. Chem., 282:9834-9846 (2007);Zaccoloら、J. Mol. Biol., 255:589-603 (1996))によって達成した。PCR反応 (25μlの総容量)は、2.5ユニットのTakara Ex TaqDNAポリメラーゼ (Clontech, Mountain View, CA)、各1μMのフォワードプライマー5'GCTT
GAATTCATTTCATTATGATAGAAATAAC3' (配列番号34)及びリバースプライマー
【0136】
【化1】
【0137】
(それぞれ下線及び太字のEcoRI及びHindIII部位を伴う)、2 mM MgCl
2、10 mM Tris-HCl(pH8.3)、50 mM KCl、各400μMのdATP、dCTP、dGTP、dTTP、50μMの8-oxo-dGTP及び10μMのdPTPを含有していた。42サイクル(94℃で1分、60℃で1.5分及び72℃で5分)後、1μlの増幅されたDNAを、8-oxo-dGTP及びdPTPを除いた以外、上記の条件を用いた二次PCRに使用した。二次PCR産物を、EcoRI及びHindIIIで消化し、T7Select10-3ファージディスプレーシステムにクローニングし、製造業者の指示に従ってバクテリオファージにパッケージングした (Novagen, Madison, WI)。
【0138】
磁気ビーズを用いたCMG2及びTEM8特異的PAD4変異体の選択
バクテリオファージライブラリーを、ダイナビーズTALONを用いた4ラウンドのパンニングによって、CMG2特異的クローンについて選択した。パンニングの各ラウンドは、TALON結合及び洗浄バッファー (50 mMリン酸ナトリウム(pH8.0)、300 mM NaCl、5 mM MgCl
2、0.01%Tween-20及び100μg/mlのウシ血清アルブミン)を用いて、1 mgのダイナビーズTALONを洗浄することによって開始し、次いで、10μgのCMG2の細胞外ドメインを添加した。ローラー上で、4℃で30分間のインキュベーション後、ビーズを同じバッファーを用いて4回洗浄した。次いで、バクテリオファージ (1×10
9粒子)を該混合物に添加し、4℃で90分間インキュベーションした。ビーズは、4サイクルの連続したパンニングにおいて、10分、2時間、5時間及び20時間の総時間で、同じバッファーを用いて5回洗浄した。各サイクルの最後の洗浄後、100μlのTALON溶出バッファー (150 mMイミダゾール、50 mMリン酸ナトリウム(pH8.0)、300 mM NaCl、5 mM MgCl
2、0.01%Tween-20及び100μg/mlのウシ血清アルブミン)を用いて、該混合物をローラー上で、4℃で10分間インキュベーションすることによって、バクテリオファージをビーズから溶出した。ファージは、大腸菌 BLT5403内で増殖させることによって増幅し、パンニングの次のサイクルに用いた。TEM8特異的PAD4変異体を選択するために、ダイナビーズへの結合のために10μgのTEM8の細胞外ドメインを用いたことを除き、上記の実験手順を実施した。
【0139】
T7バクテリオファージにおけるDNAインサートのシーケンシング
パンニングの第4ラウンド由来のバクテリオファージを、個別のバクテリオファージプラークから採取し、バクテリオファージ粒子が寒天から拡散できるように、M9LBブロス (Novagen, Madison, WI)中に懸濁し、室温で2時間置いた。次いで、EDTAを終濃度10 mMとなるように、バクテリオファージ懸濁液に添加し、該懸濁液を65℃で10分間加熱した。試料の1mLを、2.5ユニットのTakara Ex TaqDNAポリメラーゼ、フォワードプライマー5'TAAGTACGCAATGGGCCACG3' (配列番号36)及びリバースプライマー 5'AACTCAGCGGCAGTCTCAAC3' (配列番号37)を含有する反応中におけるPCR増幅のために使用し、アニーリング温度が50℃であったという点以外は、上記のPCR条件を用いた。ジデオキシ媒介シーケンシング反応によって、PCR産物をシーケンシングした。
【0140】
PA I656及びPA E654変異体の構築
変異したPAドメイン4配列のクローニングを、アミノ酸650〜652及び665〜667にそれぞれ対応する部位である、サイレントな制限酵素部位StuI及びXhoIを有する発現ベクター、プラスミドpYS54 (Chenら、J. Biol. Chem., 282:9834-9846 (2007))を用いて行った。I656又はE654のいずれかの全19アミノ酸置換体を取得するために、センス鎖中のE654コドン(gaa)又はI656コドン(ata)のいずれか(しかし両方でない)及びアンチセンス鎖中のそれに対応するコドンが完全に無作為化された、配列番号38のセンス鎖配列及び配列番号39のアンチセンス鎖配列を有するオリゴヌクレオチドを合成した。追加的に、R659S/M662R置換及びE654の全19アミノ酸置換を有する変異体を、上記のオリゴヌクレオチド中の659S及び662Rコドンを含ませることによって、類似の方法で作製した。各ケースにおいては、センス及びアンチセンス鎖の混合物を100℃で10分間加熱し、該混合物を室温まで緩やかに冷却させることによって、二重鎖カセットを取得した。結果として得られた産物は、StuI及びXhoIで消化し、同じ制限エンドヌクレーゼで消化したpYS54にライゲーションし、該ラーゲション混合物で、大腸菌XL-1 Blueを形質転換した。全20アミノ酸置換体を選択するために、個々のクローンから単離したプラスミドDNAをシーケンシングした。
【0141】
PAD4置換及び改変フリン部位を有するPAタンパク質の構築
CMG2及びTEM8 (I656等)に対する結合に関与するものとして特定された残基における置換、並びに切断できないフリン部位もまた有するPAタンパク質を調製するために、上記のpYS54コンストラクトをPstI及びHindIIIで消化し、介在領域を、
164RKKR
167配列がPGGによって置き換えられているPA-U7をコードするプラスミド(Liuら、J. Biol. Chem., 276:17976-17984 (2001))から単離された対応するPstIからHindIIIまでのフラグメントで置き換えた。PA I656V及びPA I656Qに由来する二重に置換されたPAタンパク質を、従ってそれぞれPA-U7 I656V及びPA-U7 I656Qと名付けた。類似する方法において、改変されたフリン部位配列を、PA E654T/R659S/M662Rタンパク質を含む多重置換を有するコンストラクトに挿入した(PA TSRと省略される)。このケースにおいて、使用した代替のフリン部位配列は、PA-U7 (上記)及びPA-L1(後者はマトリクスメタロプロテイナーゼによって切断されたものである)(Liuら、Cancer Res., 60:6061-6067 (2000))に由来するものを含んでいた。PA TSRに由来する二重に変異したPAタンパク質を、従って、PA-U7 TSR及びPA-L1 TSRと名付けた。
【0142】
PAタンパク質の発現及び精製
上記の個々のコンストラクトをコードするプラスミドを、毒性のないB.アンスラシス株BH450又はBH460に形質転換し、形質転換体を10μg/mlのカナマイシンを含むFA培地中において、37℃で15時間 (Pomerantsevら、Protein Expr. Purif., 80:80-90 (2011))増殖させた。以前に記載された方法(Pomerantsevら、Protein Expr. Purif., 80:80-90 (2011);Parkら、Protein Expr. Purif. 18, 293-302 (2000))によって、培養上清からPAタンパク質を濃縮し、MonoQカラム(GE Healthcare)によるクロマトグラフィーによって精製した。
【0143】
受容体に対するPAアフィニティーの測定
以前に記載されたように(Liuら、Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 106: 12424-12429 (2009);Ittelsonら、Nature, 242: 330-332 (1973))、細胞の受容体に対するPA変異体タンパク質のアフィニティー (見かけのK
d)を決定するために、シルドプロット分析を用いた。簡易には、CHO細胞に対する野生型PAの毒性をブロックするためのコンペティター(competitors)として、毒性のないPA-U7、PA-U7 I656Q、PA-U7 I656V及びPA-U7 TSRタンパク質を用いた。様々な濃度で固定したコンペティターが各々存在する中で、複数のPA用量応答細胞障害性アッセイを行った。用量応答曲線における中点(Ti)を、コンペティターの濃度に対してプロットした。Tiは、コンペティターの固定した特定の濃度で得られた用量応答曲線の中点である。Toは、コンペティターを添加していない場合のTiの値である。log((Ti/To)−1)=0となる点で得られた、線の切片は、毒素によって毒性を生じる、用いられた受容体に対するコンペティターのアフィニティーの基準である、見かけのK
d値に等しいコンペティターの濃度を特定する。
【0144】
細胞及び培養培地
親の野生型チャイニーズハムスター卵巣 (CHO)細胞 (CHO WTP4)、並びにCMG2及びTEM8をそれぞれ過剰発現する、PA受容体を発現するCHO CMG2-C4及びCHO TEM8-T4細胞は以前に記載されたもの(Liuら、Cell.Microbiol. 9: 977-987 (2007);Liuら、J. Biol. Chem. 278: 5227-5234 (2003))と同じである。CHO細胞を、300μg/mlのハイグロマイシンBあり又はなしで、5%FBS、2 mMグルタミン、5 mM HEPES(pH7.4)及び50μg/mlのゲンタマイシンを含む、最小必須培地αで増殖させた。HeLa及びSN12C細胞は、10%FBS、2 mMグルタミン及び50μg/mlのゲンタマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地中で培養した。以前に記載されたように(Liuら、Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 106: 12424-12429 (2009))、マウス胚性線維芽 (MEF)細胞を、野生型、CMG2
-/-、TEM8-及びCMG2
-/-/TEM8
-/-マウスのE13.5胚 (以下で記載される)から単離し、10%FBS、2 mMグルタミン及び50μg/mlのゲンタマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地中で培養した。MEF細胞を1:4に分割することによって85〜90%のコンフルエントで継代し、最初の6回の継代の間に使用した。
【0145】
培養細胞の細胞障害性アッセイ
細胞を、96ウェルプレート中で1ウェル当たり10,000細胞でプレーティングし、処理前に24時間培養した。CHO細胞に対しては100 ng/mlのFP59、及びMEF細胞に対しては400 ng/mlのFP59と組合せた、PAタンパク質を1ウェル当たり200μlの最終体積となるように細胞に添加した。細胞生存率は、処理後48時間で、培地を2.5 mg/ml MTT (3-[4,5-dimethylthiazol-2-yl]-2,5-diphenyltetrazolium bromide)を含有する50μlの培地で置き換えることによってアッセイした。37℃で1時間のインキュベーション後、培地を除去し、生存細胞によって産生される青色色素を、1ウェル当たり50μlの90%(v/v)イソプロピルアルコール中の0.5%(w/v)SDS、25 mM HClに溶解した。プレートをボルテックスし、酸化されたMTTをマイクロプレートリーダー (Spectra Max 190, Molecular Devices, Sunnyvale, CA)を用いてA
570として測定した。結果は、Prismソフトウェア(GraphPad Software Inc., San Diego, CA)を用いて、PAを含まないFP59を含有する対照ウェルの%生存率として分析した。EC
50値は、可変の傾きを有する非線形回帰シグモイド用量応答分析によって決定した。各アッセイを3回行い、代表的なアッセイに由来するデータを示す。
【0146】
受容体欠損マウスに対するPA変異体の致死性
ここで用いられたCMG2
-/-、TEM8-及びCMG2
-/-/TEM8
-/- (二重ヌル)C57BL/6マウスは、以前に記載されたものであった (Liuら、Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 106:12424-12429 (2009);Liuら、Nature, 501:63-68 (2013))。これらのマウス及び同腹子対照マウス (全て8〜10週齢)に、2日間隔で、FP59 (0.5 ml PBS中、表及び図に表示された用量)と共に、2用量のPA又はPA変異体を腹腔内に投与した。注射後の1週間、1日に2回、マウスの倦怠感の兆候について観察した。全てのマウス実験及び全ての動物実験は、国立アレルギー感染症研究所の動物実験委員会によって承認されたプロトコールに従って行った。
【0147】
PA変異体の殺腫瘍活性
無胸腺ヌードマウスは、マウス1尾当たり1×10
7 HeLa細胞を皮内注射し、腫瘍異種移植片は、体重の0.05%にまで増殖することを可能にした。腫瘍を有するマウスを無作為で群に分け、図に表示されるように、2又は3日の間隔で、6用量のPBS又は改変毒素を腹腔内に注射した。体重及び腫瘍重量は2又は3日の間隔で測定した。腫瘍はデジタルキャリパー (FV Fowler Company, Inc., Newton, MA)を用いて測定し、腫瘍重量は式:腫瘍重量 (mg)=1/2(長さ(mm)×幅(mm
2))又は1/2(長さ(mm)×幅(mm)×高さ(mm))を用いて、腫瘍の長さ、幅及び高さの寸法で見積もった。
【0148】
実施例11
本実施例は、CMG2に結合するPAD4変異体の選択について実証する。
【0149】
磁気ビーズ (ダイナビーズTALON)に結合したCMG2及びTEM8の細胞外ドメインの可溶性形態を用いて、改善されたパンニング手順を開発した。ファージディスプレーで示されたPAD4の各型のビーズに対する特異的結合は、100 ng PAを有するビーズのプレインキュベーションが、ファージ結合を90%減少させたことを示すことによって確認した (表1)。
【0150】
【表1】
【0151】
表1:バクテリオファージの結合後、混合物を、結合及び洗浄バッファーで、5回、合計10分間洗浄し、バクテリオファージを溶出バッファーで溶出し、力価を調べた(titered)。
【0152】
高いアフィニティーを有するPAD4変異体について濃縮するために、10分、2時間、5時間及び20時間の洗浄時間を用いて、連続した増幅ラウンドの各々における洗浄のストリンジェンシーを増強した。ファージ数はパンニングの第3ラウンドによって600倍に増加した。おそらく、第3ラウンドによって可能である最高のアフィニティーに既に到達しており、長時間に亘る20時間の洗浄がこれらの強固に結合したファージの幾らかを除去したために、CMG2におけるパンニングの第4ラウンドによってファージ数が65%減少した(表2)。TEM8ビーズにおけるパンニングの時は、類似の影響は見られなかった。パンニングの第4ラウンド後、個々のバクテリオファージプラークを選択し、シーケンシングした。
【0153】
【表2】
【0154】
表2:実験手順は、パンニングの第1、第2、第3及び第4ラウンドにおいて、それぞれ10分、2時間、5時間及び20時間、気ビーズを洗浄したことを除いて、表1に記載されるのと同じであった。
【0155】
合計104ファージクローンを、PAアミノ酸596-735に対応する420塩基対(bp)の領域にわたってシーケンシングした。これらのDNA配列を整列させた。結果として得られたクローンのアミノ酸配列を決定した。調べられた結果として得られた合計43,680 bpの中では、合計616の変化、変異率では1.4%を見出した。しかしながら、この値及びそれに続く分析は、CMG2に対する結合について選択した後のファージライブラリーについてであった。この選択によって、ミスフォールドした又は不安定なタンパク質をコードする配列の大部分のフラクション及び受容体認識を低下させる特異的な表面残基の変化を伴うそれが、両方とも削除される。該選択はまた、サイレント変異について濃縮することが予想される。コドン位置1〜3における置換数は、それぞれ207、165及び244であったことを見出した。それゆえ、最も一般的な変異導入イベント(構造及び/又は機能を低下させるアミノ酸変化)を有するクローンの予想された削除と一致して、アミノ酸を変化させる可能性がより低い3番目の位置における置換が濃縮された。
【0156】
変異頻度及び他の数値が計算されたが、これらは推定されたものとして評価され得るに過ぎない。DNA及びアミノ酸配列の比較は、多くのクローンが類縁であったことを示す。複数のクローンにおいて見られた塩基対の変化は、PCRサイクルの早期に起こり、次いで、多くの子孫配列に増幅されたはずである。正確な統計分析を達成することが必要であるが、このことは、クローンが独立したものでないことを説明する。
【0157】
8-オキソ-GTPは、AからC及びTからGへの変換を引き起こし、dPTPは、AからG及びTからCへの移行を引き起こすために (Zaccoloら、J.Mol.Biol., 255:589-603 (1996))、G及びCを含有するコドンはより影響を受けないが、広いスペクトルのアミノ酸置換が生成されるはずである。CMG2選択ライブラリーに由来する、殆んど全てのクローンにおいて複数の変異があったが、際立ったことに、4β6及び4β7 (アミノ酸656〜665)の間の領域におけるIle656からValへの変異が、シーケンシングした86クローンのうち85クローンにおいて起こっていることを見出した。このことは、残基Ile656がCMG2受容体に対するPAの結合において役割を果たすことを示している。対照的に、TEM8選択ライブラリーは、より大きな置換の多様性を示した。しかしながら、Ile656と同じ領域の残基Glu654は極めて頻繁に変異していた。それゆえ、シーケンシングした95のランダムクローンのうち、27はGly又はAlaのいずれかによって置換されたGlu654を有し、このことは該残基がTEM8に対するPAの結合において役割を有し得ることを示している。
【0158】
実施例12
本実施例は、Ile656で置換を有するPAD4変異体について実証する。
【0159】
TEM8に対するPAの結合におけるIle656の役割を更に特徴づけるため、Ile656を他の全19アミノ酸に変異させた。これらのタンパク質が野生型CHO WTP4細胞に対する細胞障害性を保持していたので (表3)、Ile656のLeu、Met、Gln、Ser、Thr、Val及びTyrとの置換は十分に許容された。これらのIle656変異体はまた、CMG2のみを過剰発現するCHO細胞株である、CHO CMG2-C4細胞に対する活性を保持していた一方、これらのPA変異体の全ては、TEM8のみを過剰発現するCHO TEM8-T4細胞に対して大幅に減少した細胞障害性を示した。特に、PA I656Q及びI656Sは、試験した最高の濃度80 ng/mlで、CHO TEM8-T4細胞に対する細胞障害性を示さなかった。それゆえ、PA I656Q及びI656SはCMG2について高度に選択的である。他の変異体の全ては、CHO細胞の3つの型の全てに対して減少した細胞障害性を示した。PA I656Wは、試験した最高の濃度(80 ng/ml)でさえ、細胞株に対する細胞障害性を示さなかった(表3)。I656置換変異体の殆んど全てが、CHO CMG2-C4及びCHO WTP4細胞に対するものよりも、CHO TEM8-T4細胞に対して遥かに失われた細胞障害性を示した。
【0160】
【表3】
【0161】
表3:656位で全20アミノ酸を含有するPA I656変異体群を、CHO細胞に対する毒性についてテストした。表中の数値は、100 ng/mlのFP59と組合せた場合に50%の細胞を殺したPAタンパク質の濃度、EC
50である。該分析を3回行った。その平均値を列記する。
【0162】
実施例13
本実施例は、Glu654で置換を有するPAD4変異体について実証する。
【0163】
CMG2に対する結合において、654位の役割を更に特徴づけるため、E654を他の全19アミノ酸に変異させた。多くのケースにおいて、置換によって、CHO-TEM8-T4細胞に対するものよりも、CHO-CMG2-C4に対する効力が大きく減少したが(表4)、その効力の喪失は、I656での置換によって起こった効力の喪失より小さかった(表3)。Valの置換のみが、両方の型の細胞に対する毒性の保持によって示されるように、完全に許容された。対照的に、Ala、Cys、Gly、His、Asn、Gln、Ser、Thr、Trp及びTyrの置換によって、CHO TEM8-T4に対する効力における減少とは、同じでない程度で、CHO CMG2-C4細胞に対する効力が減少した。実際には、これらの置換の多くは、特にE654Q、E654V及びE654W変異体で見られたように、CHO-TEM8-T4細胞に対する効力の僅かな減少を引き起こしたようであった。これらの変異体はネイティブPAよりも、CHO-TEM8-T4に対する2〜3倍高い毒性を有し、このことはE654残基が、2つの受容体に対する相対的なアフィニティーの決定における役割を果たすことを示している。
【0164】
【表4】
【0165】
表4:654位で全20アミノ酸を含有するPA E654変異体群を、CHO細胞に対する毒性についてテストした。表中の数値は、100 ng/mlのFP59と組合せた場合に50%の細胞を殺したPAタンパク質の濃度、EC
50である。該分析を3回行った。その平均値を列記する。
【0166】
実施例14
本実施例は、複数の残基における置換を有するPAD4変異体について実証する。
【0167】
置換を組合せることの影響を調べるために、E654を置き換える全19アミノ酸とR659S/M662R置換とを組み合わせてPA変異体を選択した。全19置換変異体は、CHO-CMG2-C4細胞に対して減少した毒性を示した (表5)。特に、PA変異体KSR、PSR及びRSRは、試験した最高の濃度である80 ng/mlで添加した場合に、CHO-CMG2-C4細胞に対して毒性がなかった。対照的に、変異体PA ASR、GSR、HSR、MSR、NSR、QSR、SSR、TSR及びWSRは、CHO-TEM8-T4細胞に対して、ネイティブPAの効力と同等又はそれより僅かに高い効力を有していた (表5)。例えば、PA TSRは、ネイティブPAよりもCHO-TEM8-T4細胞に対しての毒性は2倍高かったが、CHO- CMG2-C4細胞に対しての毒性は23倍低かった。PA QSR、MSR及びGSR変異体は、PA TSRに類似して、ごく僅かに選択性が低かった。これらのデータに基づいて、PA MSR、QSR及びTSRを更なる研究のために選択した。
【0168】
【表5】
【0169】
表5:654位での他の19アミノ酸のそれぞれでの置換と共にR659S及びM662R置換を有するPA変異体の、CHO細胞に対する毒性についてテストした。3文字命名は、654位、659位及び662位での非ネイティブ置換を特定する。表中の数値は、100 ng/mlのFP59と組合せた場合に50%のキリング(killing)をもたらすPAタンパク質の濃度、EC
50である。該分析を3回行った。その平均値を列記する。
【0170】
実施例15
本実施例は、受容体欠損マウス胚性線維芽細胞 (MEF)に対するPA変異体の細胞障害性について実証する。
【0171】
単一の受容体を発現するCHO細胞株が、CMG2及びTEM8について好ましいPA変異体を決定することにおいて重要であった一方で、他の型の細胞におけるPAタンパク質の挙動を確認することが求められた。各受容体を欠失したマウス、及びそれらから単離された細胞は、PA変異体の受容体特異性を試験するための明確な定義された遺伝学的システムを提供する(Liuら、Cell Host Microbe, 8:455-462 (2010);Liuら、Nature, 501:63-68 (2013);Liuら、Toxins (Basel), 5:1-8 (2012))。これらのマウスから単離されたMEFにおいて、I656で置換を有するPA変異体の細胞障害性テスト(表3から)は、CMG2に対するPA I656変異体の高い特異性を明瞭に実証した (実験1、表6)。野生型 (WT)MEF細胞は両方の受容体を発現するようであるが、CMG2-/-MEFはPA I656Qに対して高度に耐性である一方で、残りのTEM8受容体を使用し得るネイティブPA及び他の変異体に対して感受性のままである。両方の受容体を欠失したマウス由来のMEF細胞は、CMG2及びTEM8以外の生理学的に重要な受容体がないという事前の証拠 (Liuら、Nature, 501:63-68 (2013);Liuら、Toxins (Basel), 5:1-8 (2012))に一致して、PA変異体の全てに対して高度に耐性であった。
【0172】
並列の実験 (表6、実験番号2)においてはMEFを再度使用した。TEM8受容体がないことによって効率が>100倍減少する一方で、CMG2受容体がないことによっては効率において殆ど影響がないので、例えばPA TSR等のPAの三重置換変異体は、TEM8受容体によって毒性を発揮することが認められた。まとめると、MEF細胞を用いたこれらのデータは、表3及び5において見られたPA変異体の選択性について確認する。
【0173】
【表6】
【0174】
表6:PA変異体の表示されたMEF細胞に対する細胞障害性についてテストした。表中の数値は、400 ng/mlのFP59と組合せた場合に50%の細胞を殺すPAタンパク質の濃度、EC
50である。該分析は更に2回行い、結果は提示したものと同様であった。
【0175】
実施例16
本実施例は、シルドプロット分析によって決定された、受容体に対するPA変異体のアフィニティーについて実証する。
【0176】
上記のように、PA変異体の毒性における差異は、主に受容体-結合アフィニティーにおける差異に起因することが予想された。この仮説を調べるために、見かけのアフィニティーを、競合的なシルドプロット分析によって測定した。これらの分析は、タンパク質リガンドが、目的のタンパク質の毒性がない変異体であることを要求する。毒性がない変異体であるPA I656Q、PA I656V及びPA TSRタンパク質は、フリン切断部位
164RKKR
167(配列番号4)を、以前に特徴付けられたPA-U7タンパク質の切断できない配列PGG (Liuら、J. Biol. Chem., 276:17976-17984 (2001))で置き換えることによって構築した。結果として生じたPA-U7 I656Q、PA-U7 I656V及びPA-U7 TSRを、毒性がない受容体結合コンペティターとして用いた。様々な量のコンペティター中で実施された用量応答曲線の中点の逆数プロットは、PA受容体に対するコンペティターの見かけのアフィニティーについて、見かけの解離定数 (K
d)をもたらした。これらの分析によって、PA I656QはCMG2受容体に対するアフィニティーを保持していたが、TEM8受容体に対するアフィニティーを大幅に喪失したことが示された(表7、実験番号1)。PA I656VはCMG2に対するアフィニティーを保持していたが、TEM8に対するアフィニティーは中程度に減少していた。それとは逆に、PA-U7 TSRは、TEM8に対する嗜好性と一致して、CMG2に対するアフィニティーにおいて減少を示した (表7、実験番号2)。
【0177】
【表7】
【0178】
表7:分析は、方法のセクションに記載されるように行った。列記した2つの細胞株を用いた細胞障害性アッセイにおいて、PAに対するコンペティターとして、PA-U7、PA-U7 I656V及びPA-U7 I656Q、並びにPA-U7 TSRを用いた。シルドプロット分析によって、2つの細胞株における受容体に対するコンペティターの見かけのアフィニティーを決定した。
【0179】
実施例17
本実施例は、CMG2及びTEM8ノックアウトマウスに対するPA変異体の毒性について実証する。
【0180】
上記のPA変異体の異なっている受容体特異性がin vivoで適用されるかを調べるために、CMG2
-/-及び/又はTEM8
-/-マウス並びにそれらの同腹子対照マウスに、20μg PA変異体及び20μg FP59を用いて投与した (
図17A〜17D)。CMG2が、マウスの致死性を媒介する主な毒素受容体であることと一致して、全てのWT及びTEM8
-/-マウスは、24時間以内にネイティブPA+FP59によって死亡した(
図17A)。一方で、殆んどのCMG2
-/-マウスは48時間まで生存したが、48時間に投与した2回目の用量で、それ以降の24時間以内に死亡した。全てのCMG2
-/-マウスは、CMG2選択的なPA I656Q+FP59の2用量を生き抜いた(
図17B)。一方、全てのそれらの同腹子対照マウス及びTEM8
-/-マウスは毒素投与後、殆ど24時間以内に死亡した。このことは、CMG2に対するPA I656Qの高い特異性が、マウスが無傷であったケースに拡張することを実証している。CMG2
-/-マウスの50%が、PA I656V+FP59の2用量を接種後、75時間まで生存したため (
図17C)、CMG2に対するPA I656Vの特異性における中程度の増加がまた確認された一方、CMG2
-/-マウスはネイティブPA+FP59を投与後、この時間までに死亡していた (
図17A及び17C、比較)。
【0181】
野生型及びCMG2ヌルマウスに対する、TEM8特異的と推定されたPA TSR変異体の効力の比較によって、
図17Dに示される結果がもたらされた。CMG2受容体が毒素感受性の主な決定因子であることと一致して、PA TSR変異体は、ネイティブPAよりも野生型マウスに対して遥かに毒性が低かった。しかしながら、PA TSRは、野生型マウスに対してよりも、CMG2ヌルマウスに対して強力であった。CMG2ヌルマウスにおいては、死亡は、ある(特定されていない)組織において、TEM8受容体を標的化することに由来するはずであり、PA TSRはネイティブPAよりも効率的にこれを行うようである。
【0182】
実施例18
本実施例は、マウス内のヒトHeLa異種移植片に対するPA変異体の殺腫瘍活性について実証する。
【0183】
腫瘍標的化活性における、PAの受容体特異性を改変することの影響を調べるために、以前に記載されたPA-L1変異体と比較して、マウス内のHeLa細胞異種移植片に対して、PA変異体のうちの2つをテストした。ここで用いたPA変異体は、腫瘍特異性を獲得するように、フリン部位でMMP特異的L1配列を含有し、エフェクターは、FP59よりむしろLFを用いた。総体重の約0.05%を構成する固形皮内腫瘍結節を有するマウスに、2又は3日間隔で、6用量の毒素を腹腔内注射によって投与した。用いられた用量では、マウス体重は群間で違いがなかった (
図18A)。加えて、マウスは病気の外見上の兆候又は全体的な異常を示さなかった。しかしながら、腫瘍サイズに対するPA変異体の影響においては、大きな差異がみられた。PA-L1及びPA-L1 I656Qの両方は、強く同様の抗腫瘍活性を有しており、PBSで処理した腫瘍と比べて、腫瘍サイズを>80%低下させた (
図18B)。対照的に、腫瘍はPA-L1 TSRでの処理に対して、50%の腫瘍サイズ低下しか起きず、より弱い応答を示した (
図18B)。これらのデータは、PAがTEM8よりもむしろCMG2を介して作用する場合に、腫瘍の標的化が最も効果的であるという他の証拠と一致する。
【0184】
実施例19
本実施例は、IC2-PA及びLFを投与することによって、ネコにおける口腔メラノーマを治療する方法について実証する。
【0185】
予備的な安全性及び効能データを確立することを目標とする第0相試験において、5匹のネコを登録し、1週間に3回、腫瘍内注射によって、マイクロ用量(15μg PA-U2-R200A+15μg PA-L1-I207R+10μg LF、マウスにおいて観察された安全な用量の100分の1未満として定義される)で処理した。全てのネコは、有意な副作用を示さず、処理を十分に許容した。2匹のネコでは、グルーミング行動及び摂食能力における増加が見られた。1匹のネコでは、IC2-PA+LFの3回注射後、コンピューター・トモグラフィー(CT)スキャンによって測定されたように、腫瘍体積が31%減少した。4匹のネコは、安定した疾患を有していた。組織学分析によって、3匹のネコにおける腫瘍細胞のアポトーシスの割合の有意な増加が示された。
【0186】
第0相試験の結果によって推奨された、複合I/II相用量の用量認定試験及び効能試験が開始した。この試験の第一及び第二のコホートに、第0相試験よりもそれぞれ5倍又は25倍多い用量の注射6回を受容させた。5匹のネコのうち3匹において、副作用がなく、腫瘍体積における減少が観察された。該試験は現在進行中である。
【0187】
実施例20
本実施例は、IC2-PA及びLFを投与することによって、イヌにおける口腔メラノーマを治療する方法について実証する。
【0188】
この進行中のI相試験においては、口腔メラノーマを有する2匹のイヌを登録し、2週間の間、1週間に3回、腫瘍内注射によって、375μg PA-U2-R200A+375μg PA-L1-I207R+250μg LFで処理し、その後腫瘍を外科的に除去した。2匹のイヌは、有意な副作用を示さず、処理を十分に許容した。該研究を通して、イヌの体重及び腫瘍サイズを測定した。結果を
図19A〜19Dに示す。1匹のイヌは、腫瘍体積が50%減少し (
図19A)、もう一方の減少は控えめであった (
図19C)。該試験は現在進行中である。
【0189】
本明細書において引用した刊行物、特許出願及び特許を含む全ての参考文献は、各参考文献が個別に、具体的に、参照によって取り込まれることが示されているのと同程度に、かつ全体が本明細書に記載されているのと同程度まで、参照することにより本明細書に取り込まれる。
【0190】
本発明を記載する文脈(特に、以下の特許請求の範囲の文脈)における用語「a」及び「an」及び「the」及び「少なくとも1つ」並びに同様の指示対象の使用は、本明細書中で別段の指示がない限り、又は文脈によって明確に矛盾しない限り、単数及び複数形の両方を含むものとして解釈されるべきである。1以上の項目の列記が続く、用語「少なくとも1つ」の使用(例えば、「A及びBの少なくとも1つ」)は、本明細書に別段の記載がない限り、又は文脈によって明確に矛盾しない限り、列記された項目(A又はB)から選択された1つの項目、又は列記された項目(A及びB)の2以上の任意の組合せを意味するものとして解釈されるべきである。「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」及び「含有する(containing)」という用語は、別段の記載がない限り、制限のない用語(open-ended terms)(即ち、「含むが、これに限定されない(including, but not limited to)」を意味する)として解釈されるべきである。本明細書中の値の範囲の列挙は、本明細書中に別段の指示がない限り、単に範囲内の各別個の値を個別に指す簡略方法として役立つことを意図しており、本明細書において個々の値はそれぞれ個別に列挙されているかのように、個々の値は明細書に取り込まれる。本明細書中に記載された全ての方法は、本明細書中で別段の指示がない限り、又は特に文脈によって明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施し得る。本明細書で提供される任意の及び全ての例、又は例示的な言語(例えば「等(such as)」)の使用は、単に本発明をよりよく説明することを意図しており、特段特許請求されない限り、本発明の範囲に限定を課すものではない。本明細書中のいかなる言葉も、本発明の実施に不可欠であるとして、特許請求されていない任意の要素を示すものと解釈されるべきではない。
【0191】
本発明を実施するための発明者が知るベストモードを含む、本発明の好ましい実施形態は、本明細書に記載される。これらの好ましい実施形態の変形は、前述の記載を読むことで当業者に明らかになり得る。本発明者らは、当業者がこのような変形を適宜使用することを予測し、本発明者らは本発明が本明細書に具体的に記載されたものとは別の方法で実施されることを意図する。従って、本発明は適用法によって許容されるように、本明細書に添付した特許請求の範囲に記載された主題の全ての改変及び均等物を含む。更に、本明細書中で別段の指示がない限り、又は特に文脈によって明らかに矛盾しない限り、それらの全ての可能な変形における上記要素の任意の組合せが本発明に包含される。