(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、実施形態に係る内視鏡対物光学系を図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
以下、第1実施形態に係る内視鏡対物光学系について、図面を用いて、このような構成をとった理由と作用を説明する。なお、以下の実施形態に係る内視鏡対物光学系によりこの発明が限定されるものではない。
【0022】
第1実施形態の内視鏡対物光学系の基本構成について説明する。基本構成の内視鏡対物光学系は、物体側から順に、負の屈折力を有する前群と、明るさ絞りと、正の屈折力を有する後群と、からなる。前群は、単レンズの負の単レンズを有する。後群は、物体側から、単レンズの正の単レンズと、1つ以上の接合レンズと、を有する。
【0023】
本実施形態の内視鏡対物光学系は、広い画角を得るため、及び組立工程で調整しやすくするため、バックフォーカスの長さが必要である。このため、所謂レトロフォーカス型の構成を基本構成に採用している。
【0024】
図1(a)は、本実施形態の内視鏡対物光学系の基本構成の一例を示すレンズ断面図である。基本構成では、光学系を、物体側から順に、負の屈折力を有する前群GFと、明るさ絞りSと、正の屈折力を有する後群GRと、で構成している。
【0025】
更に、基本構成では、後群GRは、正レンズL3と負レンズL4からなる接合レンズCL1を有している。これによって、色収差を補正している。
【0026】
更に、後群GRは、正の単レンズL2(第1の正の単レンズL2)を有している。広い画角を確保するため、前群GFに大きな負の屈折力をもたせる必要がある。光学系全系で正の屈折力にするためには、後群GRに大きな正の屈折力を配置する必要がある。これを後群GRの正の単レンズL2によって確保している。また、前述の正の単レンズL2を明るさ絞りSの直後ではなく、1枚以上のレンズを挟んで、後ろ側(像面側)に配置した場合、軸外光線の通る位置が光軸AXから離れる。このため、レンズの有効径が大きくなってしまい望ましくない。よって、本実施形態のように、明るさ絞りSから後の正の単レンズL2が、単レンズで正の屈折力を有する構成とした。
【0027】
このように、本実施形態の内視鏡対物光学系における基本構成は、細径化、つまりレンズ外径の小径化、光学系の全長の短縮化、色収差などの補正に好適な構成になっている。
【0028】
前群GFは、負の単レンズL1(第1の負の単レンズL1)と光学フィルタFで構成されている。また、後群GRは、正の単レンズL2と、接合レンズCL1とで構成されている。接合レンズCL1は、正レンズL3と負レンズL4とで構成されている。
【0029】
明るさ絞りSは、前群GFと後群GRとの間に配置されている。明るさ絞りSは、レンズ面に設けても良い。明るさ絞りSをレンズ面に設ける方法としては、例えば、レンズ面に金属遮光膜をコーティングしエッチングで開口を形成する方法や、レンズと枠の間に円環状の薄い金属板を挟み込む方法がある。
【0030】
図1(a)では、光学フィルタFは、負の単レンズL1と明るさ絞りSとの間に配置されている。
【0031】
光学フィルタFは、例えば、赤外線カットフィルタや、色温度変換フィルタである。これらの光学フィルタFは、CCDなどの撮像素子の感度補正に用いられる。
【0032】
また、レーザーカットフィルタや特殊機能フィルタを、光学系中に配置しても良い。レーザーカットフィルタは、例えば、YAGレーザや半導体レーザ等のレーザ光をカットするためのフィルタである。特殊機能フィルタは、例えば、特定波長域の光線をカットするノッチフィルタである。
【0033】
また、光学フィルタFには、吸収型のフィルタ、反射型のフィルタ、もしくはそれらを一緒にした複合型のフィルタを用いても良い。また、反射防止膜を施したフィルタを用いても良い。
【0034】
後群GRは、正の単レンズL2と、接合レンズCL1とで構成されている。接合レンズCL1は、正レンズL3と負レンズL4とで構成されている。
【0035】
後群GRの正の単レンズL2の物体側のレンズ面は凹形状である。正の単レンズL2の像側のレンズ面は凸形状である。このように、正の単レンズL2は、メニスカスレンズである。
【0036】
後群GRの像側には、ガラスブロックCGが配置されている。ガラスブロックCGは、固体撮像素子のカバーガラスを想定したものである。ガラスブロックCGの像側面には、像高がIHの物体の像が撮像面I上に形成されている。ガラスブロックCGの像側面は、撮像素子の撮像面Iと一致している。
【0037】
以下、さらに、第1実施形態に係る内視鏡対物光学系について説明する。
【0038】
第1実施形態に係る内視鏡対物光学系は、上記の基本構成を有すると共に、以下の条件式(1)、(2)、(3)を満足することを特徴とする。
1.95<ndCLn (1)
35<ΔνdCL (2)
1.1<fL2/ft<1.6 (3)
ここで、
ndCLnは、後群GRの接合レンズCL1のうちの、負レンズL4のd線(波長587.6nm)の屈折率、
ΔνdCLは、後群GRの接合レンズCL1のうちの、正レンズL3のアッベ数と負レンズL4のアッベ数の差、
ftは、内視鏡対物光学系全系の焦点距離
fL2は、後群GRのうちの正の単レンズL2の焦点距離、
である。
【0039】
条件式(1)は、像面湾曲を良好に補正する為の条件を規定している。接合レンズCL1の負レンズL4に高屈折率硝材を用いる。これによって、各レンズの屈折力を硝材の屈折率で割った値の合計値(ペッツバール和)の絶対値を小さくしている。
【0040】
条件式(1)の値が下限値を下回ると、ペッツバール和の絶対値が大きく、すなわち像面湾曲が大きくなり、視野全体で良好な観察像を得ることができない。
【0041】
広い画角を持つ内視鏡対物光学系において、ペッツバール和は負になることが多い。そのため、ペッツバール和を小さくするには、負レンズに高屈折率硝材を用いる、あるいは正レンズに低屈折率硝材を用いる必要がある。しかし、正レンズに低屈折率硝材を使うと、球面収差やコマ収差が生じ、画質が劣化してしまう。このため、負レンズに高屈折率硝材を用いる方が望ましい。
【0042】
本実施形態において、前群GFの負の単レンズL1に高屈折率硝材を用いることも考えられる。しかしながら、内視鏡先端部に露出する負の単レンズL1は生体適合性の観点から使用できる硝材の選択肢が限られる。そのため、高屈折率硝材は、後群GRの接合レンズCL1の負レンズL4に使用する。
【0043】
条件式(2)は、倍率色収差を良好に補正する為の条件式である。本実施形態は、後群GFの接合レンズCL1によって色収差を補正している。正レンズL3と負レンズL4のアッベ数の差が、条件式(2)の値が下限値を下回る場合、倍率色収差の補正が不十分で、視野周辺で画質が劣化する。
【0044】
条件式(3)は、内視鏡対物光学系のレンズ全長を短くするための、後群GRの正の単レンズL2に関する条件式である。値が、条件式(3)の上限値を上回ると、正の単レンズL2の屈折力が小さくなる。このため、レンズ全長が長くなり、レンズの小型化が困難になる。
【0045】
条件式(3)の値が下限値を下回ると、正の屈折力が大きくなり過ぎて、球面収差や軸外コマ収差が大きくなるため、好ましくない。
【0046】
また、第1実施形態の内視鏡対物光学系において、後群GRが有する正の単レンズL2は、以下の条件式(4)を満足することが好ましい。
1.75<ndL2 (4)
ここで、
ndL2は、後群GRの正の単レンズL2のd線の屈折率、
である。
【0047】
条件式(4)の値が下限値を下回ると、後群GRの正の単レンズL2の像側面の曲率半径が小さくなり過ぎて軸外の主光線が大きく曲げられるため、軸外のコマ収差が大きくなる。
【0048】
また、第1実施形態の内視鏡対物光学系において、後群GRのうちの正の単レンズL2は、以下の条件式(5)、(6)を満足することが好ましい。
−7<R1/ft<−3.6 (5)
0.8<|R2/Ls2|<1.2 (6)
ここで、
R1は、後群GRのうちの正の単レンズL2の物体側面の曲率半径、
ftは、内視鏡対物光学系全系の焦点距離、
R2は、後群GRのうちの正の単レンズL2の像側面の曲率半径、
Ls2は、明るさ絞りSから正の単レンズL2の像側面までの光軸AXに沿った距離、である。
【0049】
条件式(5)の値が上限値を上回ると、後群GRの正の単レンズL2の屈折力が小さくなる。接合レンズCL1の正の屈折力を大きくすることで、対物光学系全体の焦点距離、画角を同等にすることは可能であるが、その場合でもレンズ全長が長くなり、好ましくない。
【0050】
条件式(5)の下限値を下回ると、やはりレンズ全長が長くなる。後群GRの正の単レンズL2の主点の位置に対して、像側面と光軸の交点の位置(面頂)が像に近づき、次のレンズをより像側に配置する制約が生じるためである。
主点の位置を揃えたとき、両凸レンズに比べ、平凸レンズの方が、さらに物体側凹面のメニスカスレンズの方が、像側の面頂が物体側に寄ることが知られている。そのため、このような条件を満たすメニスカスレンズを用いて、これよりも像側のレンズ配置の自由度を増やすことができる。具体的に言えば、他の光学素子を、この正の単レンズL2に近づけて配置することができる。
【0051】
条件式(6)は、後群GRの正の単レンズL2の物体側面において、軸外コマ収差の発生を抑えるための条件式である。条件式(6)の値が上限値を上回ると、コマ収差が大きく発生し、視野周辺の画質が劣化する。一方、条件式(6)の値が下限値を下回った場合も、逆符号のコマ収差が発生するため、好ましくない。
【0052】
また、第1実施形態の内視鏡対物光学系は、前群GFは、平行平板Fを有し、以下の条件式(7)を満足することが好ましい。
1.4<Lgr/Lgf<2 (7)
ここで、
Lgfは、前群GFの負の単レンズL1の物体側面から明るさ絞りSまでの光軸AXに沿った距離、
Lgrは、明るさ絞りSから後群GRのレンズのうち最も像側の面までの光軸AXに沿った距離、
である。
【0053】
条件式(7)の値が上限値を上回ると、後群GRの接合レンズCL1で光線高が高くなるため、レンズ径が大きくなり、対物光学系の小型化が困難になる。
【0054】
条件式(7)の下限値を下回ると、逆に前群GFの負の単レンズL1の物体側面で光線高が高くなる。負の単レンズL1のレンズ径が大きくなり、内視鏡対物光学系の小型化が困難になるため、好ましくない。
【0055】
また、本実施形態の内視鏡対物光学系では、前群GFの負の単レンズL1は、平凹レンズであって、物体側面が平面で、像側に凹面を向けていることが好ましい。
【0056】
本実施形態の内視鏡対物光学系では、前群GFの負の単レンズL1は、物体側面に平面を向けた平凹レンズであり、以下の条件式(9)を満足することが好ましい。
0.5<D1/R1L1<0.9 (9)
ここで、
R1L1は、前群GFの負の単レンズL1の像側面の曲率半径、
D1は、前群GFの負の単レンズL1の像側面の球欠(凹)部の光軸AXに垂直方向の半径、
である。
【0057】
条件式(9)の値が上限値を上回ると、内視鏡対物光学系を小型化することが難しくなる。D1の値が大きい場合は、負の単レンズL1のレンズ径が大きくなる。一方、R1L1の値が小さくなると、光線が通過する有効径を確保した場合、球欠部分が深くなる。これにより、負の単レンズL1の物体側面から像側面までの総厚が厚くなり、レンズ全長の短縮が困難になる。
【0058】
条件式(9)の値が下限値を下回ると、やはりレンズ径が大きくなる。これはR1L1の値の増大によって負の屈折力が小さくなることで、物体側面か像側面のどちらかを通過する周辺の光線高が増加し、レンズ径が大きくなるためである。内視鏡対物光学系に求められる良好な画質を達成しようとすると、回折ボケを避ける必要がある。このためには、像側面を通過する光束径(これがD1を決定する)を大幅に小さくすることはできない。
【0059】
本実施形態の内視鏡対物光学系では、接合レンズCL1は、物体側から順に、正レンズL3、負レンズL4で構成され、以下の条件式(10)を満足することが好ましい。
−2<R1CL/ft<−1.1 (10)
ここで、
R1CLは、後群GRの接合レンズCL1の接合面の曲率半径、
ftは、内視鏡対物光学系全系の焦点距離、
である。
【0060】
条件式(10)の値が上限値を上回ると、接合面で作用する屈折力が強くなり過ぎるため、軸外コマ収差が増大し、好ましくない。また、正レンズL3、負レンズL4ともに加工が困難となり、コストが増加するため好ましくない。
【0061】
条件式(10)の値が下限値を下回ると、接合面で軸外の光線に作用する屈折力が不足し、倍率色収差を十分に補正することができないため、好ましくない。
【0062】
次に、第2実施形態に係る内視鏡対物光学系について、図面を用いて、このような構成をとった理由と作用を説明する。
【0063】
図1(b)は、本実施形態の内視鏡対物光学系の基本構成の一例を示すレンズ断面図である。
【0064】
第2実施形態の内視鏡対物光学系は、物体側から順に、負の屈折力を有する前群GFと、明るさ絞りSと、正の屈折力を有する後群GRと、からなり、後群GRに正レンズL3と負レンズL4からなる、接合レンズCL1を有している。
【0065】
第2実施形態の内視鏡対物光学系は、前群GFが負の単レンズL1のみからなり、以下の条件式(8)を満足することが好ましい。
1.9<Lgr/ft<2.6 (8)
ここで、
Lgrは、明るさ絞りSから後群GRのレンズのうち最も像側の面までの光軸AXに沿った距離、
ftは、内視鏡対物光学系全系の焦点距離、
である。
【0066】
条件式(8)の値が上限値を上回ると、後群GRの接合レンズCL1で光線高が高くなるため、レンズ径が大きくなり、対物光学系の小型化が困難になる。
【0067】
条件式(8)の値が下限値を下回ると、後群GRで、コマ収差、色収差などの諸収差が十分補正できず画質が劣化するため、好ましくない。
【0068】
第2実施形態の内視鏡対物光学系における、前群GFの負の単レンズL1および後群GRの構成や条件式は、第1実施形態の内視鏡対物光学系における構成、条件式の意義と同じである。このため、重複する説明は省略する。
【0069】
また、第1実施形態の内視鏡対物光学系や第2実施形態の内視鏡対物光学系では、前群GFの負の単レンズL1は物体側面が平面の平凹レンズであることが好ましい。
【0070】
物体側面を平面とすることで、レンズ面の破損を低減することができる。また、レンズ面の周辺部に水滴が溜まりにくくなるので、水切れが良くなり、観察可能な範囲が狭まらない。
【0071】
また、第1実施形態及び第2実施形態の内視鏡対物光学系では、接合レンズCL1の正レンズL3のndは1.65以下であることが好ましい。
【0072】
また、第1実施形態及び第2実施形態の内視鏡対物光学系では、接合レンズCL1の負レンズL4のアッベ数は20以下であることが好ましい。
【0073】
なお、上述の内視鏡対物光学系は、複数の構成を同時に満足しても良い。このようにすることが、良好な内視鏡対物光学系を得る上で好ましい。また、好ましい構成の組み合わせは任意である。また、各条件式について、より限定した条件式の数値範囲の上限値あるいは下限値のみを限定しても構わない。
【0074】
以下、実施例について説明する。各実施例におけるレンズ断面図には、物体側から入射し、明るさ絞りSの中心、および明るさ絞りS内側断面の両端を通る光線が表示されている。また、各収差図において、横軸は収差量を表している。球面収差と非点収差については、収差量の単位はmmである。また、歪曲収差については、収差量の単位は%である。また、IHは最大像高で単位はmm、FNOはFナンバーである。また、収差曲線の波長の単位はnmである。
【0075】
(実施例1)
実施例1に係る内視鏡対物光学系について説明する。
図2(a)は、実施例1に係る内視鏡対物光学系のレンズ断面図である。
図2(b)は球面収差(SA)、
図2(c)は非点収差(AS)、
図2(d)は歪曲収差(DT)、
図2(e)は倍率色収差(CC)を示している。
【0076】
実施例1の内視鏡対物光学系は、
図2(a)に示すように、物体側から順に、負屈折力の前群GFと、明るさ絞りSと、正屈折力の後群GRと、からなる。
【0077】
前群GFは、物体側が平面である平凹の負の第1レンズL1と、光学フィルタFと、からなる。
【0078】
後群GRは、物体側が凹面である正の第2メニスカスレンズL2と、両凸の正の第3レンズL3と、像側に凸面を向けた負の第4メニスカスレンズL4と、からなる。ここで、両凸の正の第3レンズL3と負の第4メニスカスレンズL4とで、正屈折力の接合レンズCL1を形成している。
【0079】
明るさ絞りSは、光学フィルタFの像側面に設けられている。前群GFには、光学フィルタFが配置されている。光学フィルタFは、平凹の負の第1レンズL1と明るさ絞りSとの間に配置されている。後群GRの像側には、固体撮像素子のカバーガラスが配置されることを想定して、ガラスブロックCGが配置されている。
【0080】
接合レンズCL1とガラスブロックCGとの間をピント調整間隔とし、調整幅を十分確保できるよう光学設計している。
【0081】
次に、負の第1レンズL1の特徴を述べる。負の第1レンズL1では、物体側面を平面としている。この構造は内視鏡先端構造として一般的である。内視鏡では物体側面を凸面とした場合に照明光が直接入射してしまうため、内視鏡先端部にて遮光構造を工夫する必要がある。そのため、実施例1では、図示しない照明系からの直接光入射フレアに対して、負の第1レンズL1や枠構造での遮光の工夫を必要としないという利点を有する。
【0082】
また、負の第1レンズL1の物体側は平面であるために、出っ張り(凸形状)が無い。このため、物体側から物がレンズ面に衝突することがあっても、負の第1レンズL1が傷付く確率が、凸面の場合よりも低くなる。
【0083】
負の第1レンズL1の硝材は、機械的耐久性に優れるサファイアとすることが好ましい。サファイアを用いることで、画像への傷の映り込みや、傷によるフレア発生が起こりにくくなる。しかし、負の第1レンズL1の硝材をサファイアに限定するものではない。
【0084】
光学フィルタFは、例えば、色補正フィルタである。色補正フィルタは、可視域の長波長側から近赤外波長域までを減衰する吸収素材からなる。ただし、消化器、呼吸器、泌尿器、あるいは耳鼻咽喉科用途では、腫瘍等の処置にNd:YAGレーザが用いられることがある。そのため、Nd:YAGレーザの波長に対してほぼ100%の反射率を有する多層光学干渉膜を、色補正フィルタの片面、または両面に施しておくことが望ましい。
【0085】
接合レンズCL1は、低屈折率硝材の正の第3レンズL3と高屈折率硝材の負の第4メニスカスレンズL4とで構成している。そして、接合面に負の屈折力を持たせることで、非点収差やコマ収差を補正している。更に、接合面の物体側の屈折率と像側の屈折率との差を大きくとることで、接合面の曲率半径が小さくなり過ぎないように配慮している。これにより、偏心に伴う収差変動を抑えている。接合レンズCL1より物体側には、倍率色収差を補正できるレンズが無い。そのため、接合レンズCL1の負の第4メニスカスレンズL4には超高分散ガラスを使用し、接合レンズCL1で倍率色収差をまとめて補正している。
【0086】
実施例1の内視鏡対物光学系の倍率色収差について述べる。最大像高IHは0.652mmである。
図2(e)に示したように倍率色収差は1.5μm以下、これは対角の片側の0.23%に相当する。一般的に、倍率色収差が3画素以下ならば、画質に影響することはない。仮にフルHD(横1920画素×縦1080画素)の撮像素子を使用した場合であっても、対角の半分は1101画素、その0.23%は2.5画素となり、3画素以下となる。
【0087】
実施例1の内視鏡対物光学系の全長について述べる。レンズの物体側第1面から像面までの距離は、焦点距離の5.38倍であり、先行文献よりも短い。そのため、先端部が小型かつ高画質な内視鏡の対物光学系に適している。
【0088】
(実施例2)
次に、実施例2に係る内視鏡対物光学系について説明する。
図3(a)は、実施例2に係る内視鏡対物光学系のレンズ断面図である。
図3(b)は球面収差(SA)、
図3(c)は非点収差(AS)、
図3(d)は歪曲収差(DT)、
図3(e)は倍率色収差(CC)を示している。
【0089】
実施例2の内視鏡対物光学系は、
図3(a)に示すように、物体側から順に、負屈折力の前群GFと、明るさ絞りSと、正屈折力の後群GRと、からなる。
【0090】
実施例2の内視鏡対物光学系は、正の第2メニスカスレンズL2にnd=1.816の硝材、接合レンズCL1の負の第4メニスカスレンズL4にnd=1.569の硝材を使用している。
【0091】
実施例2におけるレンズ構成は、実施例1におけるレンズ構成と同じである。このため、重複する説明は省略する。
【0092】
実施例2の内視鏡対物光学系の倍率色収差について述べる。最大像高IHは0.615mmである。
図3(e)に示したように倍率色収差は1.4μm以下、これは対角の片側の0.23%に相当する。実施例1の内視鏡対物光学系と同様に、倍率色収差は問題にならないと考えられる。
【0093】
実施例2の内視鏡対物光学系の全長について述べる。レンズの物体側第1面から像面までの距離は、焦点距離の5.7倍であり、先行文献よりも短い。そのため、先端部が小型かつ高画質な内視鏡に用いる対物光学系として適している。
【0094】
(実施例3)
次に、実施例3に係る内視鏡対物光学系について説明する。
図4(a)は、実施例3に係る内視鏡対物光学系のレンズ断面図である。
図4(b)は球面収差(SA)、
図4(c)は非点収差(AS)、
図4(d)は歪曲収差(DT)、
図4(e)は倍率色収差(CC)を示している。
【0095】
実施例3の内視鏡対物光学系は、
図4(a)に示すように、物体側から順に、負屈折力の前群GFと、明るさ絞りSと、正屈折力の後群GRと、からなる。
【0096】
実施例3の内視鏡対物光学系は、正の第2メニスカスレンズL2にnd=1.772の硝材、接合レンズCL1の負の第4メニスカスレンズL4にnd=1.538の硝材を使用している。
【0097】
実施例3におけるレンズ構成は、実施例1におけるレンズ構成と同じである。このため、重複する説明は省略する。
【0098】
実施例3の内視鏡対物光学系の倍率色収差について述べる。最大像高IHは0.625mmである。
図4(e)に示したように倍率色収差は1.4μm以下、これは対角の片側の0.23%に相当する。実施例1の内視鏡対物光学系と同様に、倍率色収差は問題にならないと考えられる。
【0099】
実施例3の内視鏡対物光学系の全長について述べる。レンズの物体側第1面から像面までの距離は、焦点距離の5.54倍であり、先行文献よりも短い。そのため、先端部が小型かつ高画質な内視鏡に用いる対物光学系として適している。
【0100】
(実施例4)
次に、実施例4に係る内視鏡対物光学系について説明する。
図5(a)は、実施例4に係る内視鏡対物光学系のレンズ断面図である。
図5(b)は球面収差(SA)、
図5(c)は非点収差(AS)、
図5(d)は歪曲収差(DT)、
図5(e)は倍率色収差(CC)を示している。
【0101】
実施例4の内視鏡対物光学系は、
図5(a)に示すように、物体側から順に、負屈折力の前群GFと、明るさ絞りSと、正屈折力の後群GRと、からなる。
【0102】
実施例4の内視鏡対物光学系は、負の第1レンズL1にnd=1.883の硝材、正の第2メニスカスレンズL2にnd=1.816の硝材、接合レンズCL1の負の第4メニスカスレンズL4にnd=1.64の硝材を使用している。
【0103】
実施例4では、負の第1レンズL1の硝材にサファイア以外の光学ガラスを用いている。機械的耐久性はサファイアに劣るが、加工性はサファイアよりも優れている。硝材の価格、および加工のし易さの優位性により、サファイアを用いる場合に比べて低コストで製造することが可能である。
【0104】
実施例4におけるレンズ構成は、実施例1におけるレンズ構成と同じである。このため、重複する説明は省略する。
【0105】
実施例4の内視鏡対物光学系の倍率色収差について述べる。最大像高IHは0.622mmである。
図5(e)に示したように倍率色収差は1.6μm以下、これは対角の片側の0.26%に相当する。実施例1の内視鏡対物光学系と同様に、倍率色収差は問題にならないと考えられる。
【0106】
実施例4の内視鏡対物光学系の全長について述べる。レンズの物体側第1面から像面までの距離は、焦点距離の5.74倍であり、先行文献よりも短い。そのため、先端部が小型かつ高画質な内視鏡に用いる対物光学系として適している。
【0107】
(実施例5)
実施例5に係る内視鏡対物光学系について説明する。
図6(a)は、実施例5に係る内視鏡対物光学系のレンズ断面図である。
図6(b)は球面収差(SA)、
図6(c)は非点収差(AS)、
図6(d)は歪曲収差(DT)、
図6(e)は倍率色収差(CC)を示している。
【0108】
実施例5の内視鏡対物光学系は、
図6(a)に示すように、物体側から順に、負屈折力の前群GFと、明るさ絞りSと、正屈折力の後群GRと、からなる。
【0109】
前群GFは、物体側が平面である平凹の負の第1レンズL1からなる。
【0110】
後群GRは、物体側が凹面である正の第2メニスカスレンズL2と、両凸の正の第3レンズL3と、像側に凸面を向けた負の第4メニスカスレンズL4と、からなる。ここで、両凸の正の第3レンズL3と負の第4メニスカスレンズL4とで、正屈折力の接合レンズCL1を形成している。
【0111】
明るさ絞りSは、負の第1レンズL1と正の第2メニスカスレンズL2の間に設けられている。後群GRの像側には、固体撮像素子のカバーガラスが配置されることを想定して、ガラスブロックCGが配置されている。
【0112】
接合レンズCL1とガラスブロックCGとの間をピント調整間隔とし、調整幅を十分確保できるよう光学設計している。
【0113】
実施例5の内視鏡対物光学系は、正の第2メニスカスレンズL2にnd=1.816の硝材、接合レンズCL1の負の第4メニスカスレンズL4にnd=1.622の硝材を使用している。
【0114】
実施例5における、前群GFの負の第1レンズL1、および後群GRの構成や条件式は、実施例1における構成や条件式と同じである。このため、重複する説明は省略する。
【0115】
実施例5の内視鏡対物光学系の倍率色収差について述べる。最大像高IHは0.664mmである。
図6(e)に示したように倍率色収差は1.5μm以下、これは対角の片側の0.23%に相当する。実施例1の内視鏡対物光学系と同様に、倍率色収差は問題にならないと考えられる。
【0116】
実施例5の内視鏡対物光学系の全長について述べる。レンズの物体側第1面から像面までの距離は、焦点距離の5.05倍であり、先行文献よりも短い。そのため、先端部が小型かつ高画質な内視鏡に用いる対物光学系として適している。
【0117】
(実施例6)
次に、実施例6に係る内視鏡対物光学系について説明する。
図7(a)は、実施例6に係る内視鏡対物光学系のレンズ断面図である。
図7(b)は球面収差(SA)、
図7(c)は非点収差(AS)、
図7(d)は歪曲収差(DT)、
図7(e)は倍率色収差(CC)を示している。
【0118】
実施例6の内視鏡対物光学系は、
図7(a)に示すように、物体側から順に、負屈折力の前群GFと、明るさ絞りSと、正屈折力の後群GRと、からなる。
【0119】
実施例6の内視鏡対物光学系は、負の第1レンズL1にnd=1.883の硝材、正の第2メニスカスレンズL2にnd=1.816の硝材、接合レンズCL1の負の第4メニスカスレンズL4にnd=1.651の硝材を使用している。
【0120】
実施例6では、負の第1レンズL1の硝材にサファイア以外の光学ガラスを用いている。機械的耐久性はサファイアに劣るが、加工性はサファイアよりも優れている。硝材の価格、および加工のし易さの優位性により、サファイアを用いる場合に比べて低コストで製造することが可能である。
【0121】
実施例6における、後群GRの構成や条件式は、実施例5における構成や条件式と同じである。このため、重複する説明は省略する。
【0122】
実施例6の内視鏡対物光学系の倍率色収差について述べる。最大像高IHは0.625mmである。
図4(e)に示したように倍率色収差は1.5μm以下、これは対角の片側の0.24%に相当する。実施例1の内視鏡対物光学系と同様に、倍率色収差は問題にならないと考えられる。
【0123】
実施例6の内視鏡対物光学系の全長について述べる。レンズの物体側第1面から像面までの距離は、焦点距離の5.38倍であり、先行文献よりも短い。そのため、先端部が小型かつ高画質な内視鏡に用いる対物光学系として適している。
【0124】
以下に、上記各実施例の数値データを示す。
記号は、rは、各面の曲率半径、
dは、各光学部材の肉厚または空気間隔、
ndは、各光学部材のd線に対する屈折率、
νdは、各光学部材のd線に対するアッベ数、
IHは、最大像高、
ndCLnは、後群GRの接合レンズCL1のうちの負の第4メニスカスレンズL4のd線の屈折率、
ndL2は、後群GRの正の第2メニスカスレンズ(単レンズ)L2のd線の屈折率、
ΔνdCLは、後群GRの接合レンズCL1のうちの、正レンズL3のアッべ数と負の第4メニスカスレンズL4のアッベ数の差、
ftは、内視鏡対物光学系全系の焦点距離、
fL2は、後群GRのうちの正の第2メニスカスレンズ(単レンズ)L2の焦点距離、
R1L1は、前群GFの負の第1レンズ(単レンズ)L1の像側面の曲率半径、
R1は、後群GRのうちの正の第2レンズ(単レンズ)L2の物体側面の曲率半径、
R2は、後群GRのうちの正の第2レンズ(単レンズ)L2の像側面の曲率半径、
R1CLは、後群GRの接合レンズCL1の接合面の曲率半径、
Ls2は、明るさ絞りから正の第2メニスカスレンズ(単レンズ)L2の像側面までの光軸AXに沿った距離、
Lgfは、前群GFの負の第1レンズ(単レンズ)L1の物体側面から明るさ絞りSまでの光軸AXに沿った距離、
Lgrは、明るさ絞りSから後群GRのレンズのうちの最も像側の面までの光軸AXに沿った距離、
D1は、前群GFの負の第1レンズ(単レンズ)L1の像側面の球欠(凹)部の光軸AXに垂直方向の半径、
FNOは、Fナンバー、
ωは、半画角、
を表している。
また、r、d、IH、ft、fL2、R1L1、R1、R2、R1CL、Ls2、Lgf、Lgr、D1の単位はmmである。ωの単位は°(度)、絞りは明るさ絞りである。
【0125】
数値実施例1
単位 mm
面データ
面番号 r d nd νd
1 ∞ 0.28 1.76820 71.79
2 0.667 0.17 1 -
3 ∞ 0.40 1.52100 65.13
4 ∞ 0.02 1 -
5(絞り) ∞ 0.03 1 -
6 -3.320 0.71 1.81600 60.08
7 -0.729 0.08 1 -
8 1.740 0.54 1.56883 50.80
9 -0.874 0.23 1.95906 17.47
10 -2.744 0.44 1 -
11 ∞ 0.98 1.51633 64.14
12撮像面I ∞
各種データ
IH 0.652
ft 0.726
Ls2 0.740
Lgf 0.870
Lgr 1.590
D1 0.409
FNO 5.540
2ω 121.9
【0126】
数値実施例2
単位 mm
面データ
面番号 r d nd νd
1 ∞ 0.28 1.76820 71.79
2 0.667 0.17 1 -
3 ∞ 0.40 1.52100 65.13
4 ∞ 0.02 1 -
5(絞り) ∞ 0.03 1 -
6 -3.397 0.79 1.83480 42.73
7 -0.746 0.08 1 -
8 1.783 0.50 1.58313 59.38
9 -0.843 0.20 1.95906 17.47
10 -2.744 0.43 1 -
11 ∞ 0.98 1.51633 64.14
12撮像面I ∞
各種データ
IH 0.615
ft 0.686
Ls2 0.818
Lgf 0.870
Lgr 1.603
D1 0.409
FNO 5.233
2ω 121.1
【0127】
数値実施例3
単位 mm
面データ
面番号 r d nd νd
1 ∞ 0.28 1.76820 71.79
2 0.667 0.17 1 -
3 ∞ 0.40 1.52100 65.13
4 ∞ 0.02 1 -
5(絞り) ∞ 0.03 1 -
6 -3.142 0.73 1.77250 49.60
7 -0.690 0.08 1 -
8 1.643 0.58 1.53775 74.70
9 -0.943 0.21 1.95906 17.47
10 -2.744 0.36 1 -
11 ∞ 0.98 1.51633 64.14
12撮像面I ∞
各種データ
IH 0.625
ft 0.699
Ls2 0.763
Lgf 0.870
Lgr 1.633
D1 0.409
FNO 5.330
2ω 121.9
【0128】
数値実施例4
単位 mm
面データ
面番号 r d nd νd
1 ∞ 0.30 1.88300 40.76
2 0.820 0.17 1 -
3 ∞ 0.44 1.52100 65.13
4 ∞ 0.02 1 -
5(絞り) ∞ 0.03 1 -
6 -4.433 0.78 1.81600 46.62
7 -0.750 0.08 1 -
8 2.172 0.68 1.64000 60.08
9 -0.823 0.20 1.95906 17.47
10 -3.048 0.30 1 -
11 ∞ 0.98 1.51633 64.14
12撮像面I ∞
各種データ
IH 0.622
ft 0.699
Ls2 0.810
Lgf 0.929
Lgr 1.773
D1 0.473
FNO 5.312
2ω 119.5
【0129】
数値実施例5
単位 mm
面データ
面番号 r d nd νd
1 ∞ 0.28 1.76820 71.79
2 0.687 0.44 1 -
3(絞り) ∞ 0.03 1 -
4 -3.900 0.71 1.81600 46.62
5 -0.734 0.08 1 -
6 2.500 0.63 1.62230 53.17
7 -0.840 0.18 1.95906 17.47
8 -2.545 0.45 1 -
9 ∞ 0.98 1.51633 64.14
10 撮像面I ∞
各種データ
IH 0.664
ft 0.754
Ls2 0.740
Lgf 0.722
Lgr 1.629
D1 0.416
FNO 5.650
2ω 121.2
【0130】
数値実施例6
単位 mm
面データ
面番号 r d nd νd
1 ∞ 0.30 1.88300 40.76
2 0.820 0.46 1 -
3(絞り) ∞ 0.03 1 -
4 -4.600 0.78 1.81600 46.62
5 -0.753 0.08 1 -
6 2.022 0.74 1.65100 56.16
7 -0.790 0.17 1.95906 17.47
8 -3.492 0.26 1 -
9 ∞ 0.98 1.51633 64.14
10 撮像面I ∞
各種データ
IH 0.625
ft 0.711
Ls2 0.810
Lgf 0.755
Lgr 1.795
D1 0.473
FNO 5.318
2ω 121.0
【0131】
条件式対応値を以下に示す。
【表1】
【0132】
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態のみに限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で、これら実施形態の構成を適宜組合せて構成した実施形態も本発明の範疇となるものである。