(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記指標が、前記覚醒時間帯の拍動間隔の変数項、前記覚醒時間帯のLF/HFの変数項、前記覚醒時間帯の活動量の変数項、前記睡眠時間帯のLF/HFの変数項、前記睡眠時間帯の活動量の変数項、前記睡眠時間帯の時間の変数項、前記覚醒時間帯のHF×活動量の変数項と、前記睡眠時間帯のHF/活動量の変数項の少なくともいずれか1つを含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
前記指標が、前記覚醒時間帯のSDNNの変数項、前記睡眠時間帯のSDNNの変数項、前記覚醒時間帯のCVRRの変数項、前記睡眠時間帯のCVRRの変数項、前記覚醒時間帯のRMSSDの変数項、前記睡眠時間帯のRMSSDの変数項、前記覚醒時間帯のNN50の変数項、前記睡眠時間帯のNN50の変数項、前記覚醒時間帯のpNN50の変数項、前記睡眠時間帯のpNN50の変数項の少なくともいずれか1つを含む請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
ここで、SDNNは前記拍動間隔の標準偏差、CVRRは前記SDNNを拍動間隔の平均値で除して100を乗じた値、RMSSDは隣接する拍動間隔の差の2乗の平均値の平方根、NN50は隣接する拍動間隔の差が50msを超える総数、pNN50は隣接する拍動間隔の差が50msを超える拍動の割合である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
1.精神神経状態を判別する指標の作成方法
本発明の精神神経状態を判別する指標の作成方法は、被検者の拍動間隔と、被検者の動きに伴う加速度または角速度で表される活動量と、被検者の身長方向の加速度TAと、を計測するステップと、後述する条件(1)〜(3)により、負加速度NAを算出して、第1臥位時間帯、第2臥位時間帯、覚醒時間帯および睡眠時間帯を算出するステップと、定数項と、覚醒時間帯の拍動間隔×活動量の変数項と、を含む式で表される指標を作成するステップと、を有する。各ステップの詳細について説明する。
【0027】
(A)計測ステップ
上記方法は、被検者の拍動間隔と、被検者の動きに伴う加速度または角速度で表される活動量と、被検者の身長方向の加速度TAと、を計測するステップを有する。
【0028】
拍動間隔とは心拍あるいは脈拍の間隔を指す(単位:ms)。心拍間隔は、心電図からR波とR波の間隔を読み取ること、あるいは隣り合う心拍同士の間隔を計測することにより取得する。脈拍間隔は、隣り合う脈拍同士の間隔を計測することにより取得する。拍動間隔またはその搖動は、身体的・精神的ストレスの指標になるといわれており、自律神経系である交感神経・副交感神経の精神神経状態のバランスを反映している。
【0029】
拍動間隔として、心電信号におけるR波とR波との間隔であるRR間隔(以下、「RRI」と記載する)を用いることが好ましい。RRIは信号のピークがはっきり出ることによりピーク位置の誤認識が起こりにくいため、拍動間隔の精度を高められる。
【0030】
活動量とは、被検者の動きに伴う加速度または角速度である。加速度Aは、被検者の動きに伴う加速度と被検者に作用する重力加速度の合成値であり、重力加速度g(=9.8m/s
2)に対する比で表される(単位:無次元量)。具体的には、以下の(1)式で表されるように、加速度Aは、被検者の動きに伴う加速度であるX軸、Y軸、Z軸方向の加速度x、y、zの二乗和の平方根から、被検者に作用する重力加速度g(=9.8m/s
2)分として(g/g)=1を減じた値である(ここで単位gは重力加速度の大きさを表す)。被検者の立位時であって動きがないときには、x、y、zの値はほぼ0となるため、被検者の身長方向の加速度の大きさはほぼ1である。
【0032】
角速度Ωは被検者のX軸、Y軸、Z軸周りの角速度ω
x、ω
y、ω
zの二乗和の平方根であり、単位はrad/sまたは1/sである。角速度Ωは以下の(2)式で表される。
【0034】
角速度は回転を検出するため、例えば、睡眠時間帯における被検者の寝返りの頻度などを検出するのに適している。なお、被検者の姿勢を検知しやすくするためには、活動量は加速度であることが好ましい。
【0035】
精神障害の場合、睡眠時間帯の活動量が過度に多かったり、覚醒時間帯の活動量が過度に少なかったりするため、活動量も精神神経の状態を示しているといえる。
【0036】
被検者の身長方向の加速度TAは、後述する第1臥位時間帯、第2臥位時間帯、覚醒時間帯および睡眠時間帯の算出に用いられる。身長方向とは、被検者の足部から頭部へ向かう方向である。一般に、身長方向の加速度が立位時に負の値となるように加速度計が調整されている場合、臥位の身長方向の加速度は、立位や座位の身長方向の加速度と比べて大きい傾向にある。被検者の立位時であって動きがないときには、被検者の身長方向の加速度の大きさは1である。精神障害の場合、睡眠時間帯の活動が過度に多かったり、覚醒時間帯の活動が過度に少なかったりするため、被検者の身長方向の加速度TAは精神神経の状態を示しているといえる。
【0037】
計測ステップでは、拍動間隔、活動量および身長方向の加速度TAを所定計測時間計測することが好ましい。所定計測時間とは、計測を行う合計時間を指す。後述する(C)指標作成ステップでは覚醒時間帯のデータを使用するが、覚醒時間帯の算出には睡眠時間帯を特定する必要があるため、所定計測時間は、1以上の睡眠時間帯と、1以上の覚醒時間帯が得られる時間長であることが好ましい。あるいは、所定計測時間は、2以上の覚醒時間帯と、2以上の睡眠時間帯が得られる時間長であってもよい。したがって、所定計測時間は2日間以上であることが好ましく、3日間以上であることがより好ましく、4日間以上であることがさらに好ましい。また、所定計測時間が長いほど信頼性の高いデータが取得できるが被検者への負担を考慮して、所定計測時間は、例えば14日間以内、より好ましくは10日間以内に設定することができる。なお、睡眠時間帯は、被検者が眠っている時間帯であり、覚醒時間帯は、被検者が起きている時間帯であるが、これら時間帯については詳しく後述する。
【0038】
(B)時間算出ステップ
上記方法は、下記条件(1)〜(3)により、負加速度NAを算出して、第1臥位時間帯、第2臥位時間帯、覚醒時間帯および睡眠時間帯を算出するステップを有する。
【0039】
条件(1)負加速度NAの算出
被検者の立位時においてTA≧0の場合、NA=(−1)×(TA)
被検者の立位時においてTA<0の場合、NA=TA
【0040】
負加速度NAは、符号がマイナスの加速度であり、重力加速度g(=9.8m/s
2)に対する比で表される(単位:無次元量)。負加速度の算出には、前記(A)計測ステップで計測した身長方向の加速度TAを用いる。
【0041】
条件(2)第1臥位時間帯と第2臥位時間帯の算出
第1臥位時間帯L
m1:NA≧C1(C1は定数)が第1所定時間T
1以上である時間帯
第2臥位時間帯L
m2:第1臥位時間帯L
m1が2以上あって、隣り合う2つの第1臥位時間帯L
m11、L
m12の間のNA<C1である間隙時間帯L
smが第2所定時間T
2以内の場合、隣り合う2つの第1臥位時間帯L
m11、L
m12と間隙時間帯L
smを合計した時間帯
【0042】
臥位時間帯は、臥位の姿勢、例えば、仰向け姿勢である仰臥位、横向きで寝た姿勢である側臥位、うつぶせ姿勢である伏臥位になった時間帯を示し、睡眠、うたた寝、昼寝などの時間を含む。本発明では、臥位時間帯を第1臥位時間帯と第2臥位時間帯に分けて算出する。
【0043】
第1臥位時間帯L
m1はNA≧C1(C1は定数)が第1所定時間T
1以上である時間帯である。負加速度NAがC1以上とは、被検者が臥位であることを示している。第1臥位時間帯L
m1の算出では、覚醒時間帯と睡眠時間帯の算出精度を高めるために第1所定時間T
1によるしきい値を設けている。
【0044】
第1所定時間T
1は、例えば、好ましくは30分以上、より好ましくは45分以上、さらに好ましくは1時間以上に設定することができるが、2時間以下、または1時間半以下に設定することもできる。NA≧C1が第1所定時間T
1未満である時間帯も実際には臥位であるといえるが、比較的短い時間のうたた寝や昼寝等、活動リズムの観点では本来の睡眠と評価することができない時間を睡眠時間帯と算出することを防ぐために、NA≧C1が第1所定時間T
1未満である時間帯を臥位時間帯とみなしていない。
【0045】
第2臥位時間帯L
m2は、第1臥位時間帯L
m1が2以上あって、隣り合う2つの第1臥位時間帯L
m11、L
m12の間のNA<C1である間隙時間帯L
smが第2所定時間T
2以内の場合、隣り合う2つの第1臥位時間帯L
m11、L
m12と間隙時間帯L
smを合計した時間帯である。NA<C1は、臥位以外の姿勢を取っていることを示している。このように第2臥位時間帯を算出しているのは、第1臥位時間帯L
m1が細切れになっている場合、2つの第1臥位時間帯L
m11、L
m12の間の間隙時間帯L
smも含めて1つの臥位時間帯(第2臥位時間帯L
m2)として算出するためである。これにより、被検者が睡眠時間帯に頻繁に臥位以外の姿勢を取っても、睡眠時間帯を算出しやすくなる。
【0046】
第2所定時間T
2は、例えば、好ましくは30分以上、より好ましくは45分以上、さらに好ましくは1時間以上に設定することができ、2時間以下、または1時間半以下に設定することもできる。また、第1所定時間T
1と第2所定時間T
2は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0047】
定数C1(単位:無次元量)の値は特に制限されないが、例えば−0.75以上であることが好ましく、−0.62以上であることがより好ましく、−0.5以上であることがさらに好ましい。定数C1は、−0.4以下、または−0.45以下であっても許容される。
【0048】
条件(3)覚醒時間帯と睡眠時間帯の算出
睡眠時間帯:所定計測単位時間中、第1臥位時間帯L
m1と、第2臥位時間帯L
m2のうち最長の時間帯
覚醒時間帯:所定計測単位時間から睡眠時間帯を除いた時間帯
【0049】
睡眠時間帯は、被検者が眠っている時間帯であり、所定計測単位時間中、第1臥位時間帯L
m1と、第2臥位時間帯L
m2のうち最長の時間帯を指す。覚醒時間帯は被検者の目が覚めている、つまり起きている時間帯を指し、睡眠時間帯以外の時間帯である。被検者に自己申告してもらう場合、思い込みや思い違いが入り込む余地があるが、本発明では計測された被検者の身長方向の加速度TAを用いているため、覚醒時間帯と睡眠時間帯の算出を客観的にかつ精度よく行うことができる。
【0050】
所定計測単位時間は、日毎の睡眠時間帯を推定するために設定される時間長である。所定計測単位時間は12時間以上であることが好ましく、18時間以上であることがより好ましく、また、24時間以内であることが好ましい。つまり、覚醒時間帯と睡眠時間帯の数は日毎にそれぞれ1つであることが好ましい。日勤者でも夜勤者でも18時前後には覚醒しているのが一般的であるから、所定計測単位時間の始点は、17時〜19時に好ましく設定される。
【0051】
上記条件(3)において、覚醒時間帯と睡眠時間帯を算出する場合、例えば、身長方向の加速度TAや負加速度NAで表される当該加速度は、加速度−時間波形に対してモルフォロジー演算を行った後の値であることが好ましい。モルフォロジー演算は、画像処理でノイズ除去のために用いられる。このため、加速度−時間波形に対してモルフォロジー演算を行った後の値を各条件式に適用すれば、得られた加速度のうち、所定計測時間と比較して短時間(例えば、所定計測時間の1/150時間以内)に変化する値は除去される。このため、加速度−時間波形の全体の輪郭が抽出されて、覚醒時間帯と睡眠時間帯を算出しやすくなる。モルフォロジー演算は、身長方向の加速度TAに対して行ってもよく、負加速度NAに対して行ってもよい。
【0052】
モルフォロジー演算に先立ち、身長方向の加速度TAに対して二値化処理を行ってもよい。二値化処理では、例えば、負加速度NAがしきい値C2(単位:無次元量)以上であれば負加速度NAは0とみなされ、負加速度NAがC2未満であれば1とみなされる。二値化処理により、モルフォロジー演算に要する処理時間を短縮することができる。しきい値C2の値は特に制限されないが、例えば−0.75以上であることが好ましく、−0.62以上であることがより好ましく、−0.5以上であることがさらに好ましい。しきい値C2は、−0.4以下、または−0.45以下であっても許容される。なお、負加速度NAのデータに対してモルフォロジー演算を行う例を説明したが、身長方向の加速度TAに対してモルフォロジー演算を行った後、負加速度NAを算出してもよい。
【0053】
モルフォロジー演算は、例えば、線を太くする処理を行う膨張演算、線を細くする処理を行う収縮演算、収縮演算後に膨張演算を行うオープニング処理、膨張演算後に収縮演算を行うクロージング処理がある。モルフォロジー演算後の加速度を用いて覚醒時間帯と睡眠時間帯を算出する場合、モルフォロジー演算が、所定の時間幅で行われるオープニング処理とクロージング処理の少なくともいずれか一方であることが好ましい。また、モルフォロジー演算として、オープニング処理およびクロージング処理の両方を行うことがより好ましい。膨張演算と収縮演算を組み合わせることによって、加速度−時間波形の全体の輪郭を抽出しやすくなるため、覚醒時間帯と睡眠時間帯をより一層算出しやすくなる。
【0054】
オープニング処理やクロージング処理を行う回数は特に限定されないが、オープニング処理、クロージング処理をそれぞれ1回以上実施することが好ましく、オープニング処理、クロージング処理をそれぞれ2回以上実施することがより好ましい。
【0055】
膨張演算や収縮演算を行う際の時間幅についても適宜設定すればよいが、処理回数を重ねる毎に、処理時の時間幅を大きくすることが好ましい。このように、オープニング処理およびクロージング処理の時間幅を段階的に大きくすることで、所定計測時間と比較して短時間に変化した加速度のデータが除去されることを抑止する。
【0056】
(C)指標作成ステップ
上記方法は、定数項と、覚醒時間帯の拍動間隔×活動量の変数項と、を含む式で表される指標を作成するステップを有する。指標の作成は、多数のデータを処理する必要があるため計算機等の機械により行われることが好ましい。
【0057】
指標は、定数項と変数項を含む式である。定数項a
0は、任意の実数であり、その値は特に限定されず0であってもよい。変数項は、n次の変数x
iと、任意の実数である係数a
iの積で表される。覚醒時間帯の拍動間隔×活動量の変数項とは、変数項がn次の(覚醒時間帯の拍動間隔)×(覚醒時間帯の活動量)の変数x
iを含んでいることを意味している。変数x
iの次数nは、式を簡素化するためには1以上または2以上であることが好ましく、式の複雑化を防ぐためには5以下または4以下であることが好ましい。
【0058】
本発明の方法は、簡単に測定可能なパラメータである拍動間隔および活動量から、容易に精神神経状態を判別する指標を作成することができる。また、作成された指標を用いることで客観的に精神神経状態を判別することが可能である。
【0059】
(C)指標作成ステップにおいて、覚醒時間帯の拍動間隔および活動量は、覚醒時間帯における拍動間隔×活動量の平均値であることが好ましく、計測された全ての覚醒時間帯における拍動間隔×活動量の平均値であることがより好ましい。このように変数項を設定することにより、指標を作成しやすくなる。後述する他の変数項においても同様に、覚醒時間帯または睡眠時間帯における変数の平均値を用いることが好ましい。
【0060】
(C)指標作成ステップに先立ち、多変量解析によって指標を表す式に含まれる定数項の値と変数項の係数の値の少なくともいずれか一方を算出しておくことが好ましい。これにより、目的変数としての精神神経状態と、説明変数としての覚醒時間帯の拍動間隔×活動量の関連性を定量的に推定することができる。定数項や変数項の係数の算出では、複数の被検者の精神障害の有無、種類または重症度のデータを用いることが好ましい。多変量解析で必要な被検者数は、説明変数(変数項)の数×10以上であることが好ましく、より好ましくは説明変数の数×50以上、さらに好ましくは説明変数の数×100以上である。
【0061】
目的変数である精神神経状態は、精神障害の有無、種類または重症度に応じて数値化されていることが好ましい。精神神経状態の数値化は、精神障害の有無で2値化する方法や、公知の判定基準に基づき精神障害の種類または重症度に応じて分類する方法が挙げられる。公知の判定基準としては、精神障害の判定基準であるDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、精神障害の診断と統計マニュアル)、ストレスの判定基準であるHSCL、うつ病の判定基準であるCES−D、HAMD、YMRS、統合失調症の判定基準であるPANSS(Positive and Negative Syndrome Scale、陽性・陰性症状評価尺度)、自律神経失調症の判定基準である東邦メディカルインデックス等を用いることができる。
【0062】
多変量解析には単回帰分析や重回帰分析等の線形回帰分析、2項ロジスティック回帰分析、多項ロジスティック回帰分析、累積ロジスティック回帰分析等のロジスティック回帰分析を用いることができる。精神神経状態を示す指標をYとする。線形回帰分析の場合、指標Yは、Y=a
0+a
1x
1+a
2x
2+・・・+a
ix
iで表される。精神障害の有無を判別する指標を作成するには2項ロジスティック回帰分析を用いることが好ましい。その場合、指標Yは、Y=1/{1+exp(−b)}、b=a
0+a
1x
1+a
2x
2+・・・+a
ix
iで表されることが好ましい。なお、a
1、a
2、・・・a
iは説明変数の係数であり、任意の実数であるが、a
1≠0である。x
1、x
2、・・・x
iは変数であり、iは1以上の整数である。2項ロジスティック回帰分析により作成された指標は、精神神経状態を0および1の二値、または0〜1の間の数値で表される。
【0063】
指標を用いた精神神経状態の判別精度を高めるために、覚醒時間帯の拍動間隔および活動量の変数項以外の変数項が含まれていてもよい。指標の式において、各変数項の係数は任意の実数であれば、その大小関係は特に規定されない。
【0064】
上記方法は、さらに、拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得たパワースペクトルを周波数Lf1からLf2まで定積分した値であるLFと、パワースペクトルを周波数Hf1からHf2まで定積分した値であるHFを算出するステップを有していてもよい。
【0065】
LFは、時間信号fである拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得たパワースペクトルを周波数Lf1からLf2まで定積分した値であり、HFは、前記パワースペクトルを周波数Hf1からHf2まで定積分した値であり、Hf1>Lf1、Hf2>Lf2である。例えば、LFは、時間信号fである拍動間隔を周波数スペクトル変換したもの(周波数スペクトルF)を二乗することにより得られるパワースペクトルF
2(第1のパワースペクトル)を周波数Lf1からLf2まで定積分した値であり、HFは、前記パワースペクトルF
2(第1のパワースペクトル)を周波数Hf1(>Lf1)からHf2(>Lf2)まで定積分した値とすることができる。第1のパワースペクトルF
2を用いて計算されるLF、HFの単位はms
2である。周波数スペクトル変換の方法としては、例えば高速フーリエ変換(FFT)、ウェーブレット解析、最大エントロピー法などを用いることができる。なお、本明細書においては、FFTを用いた場合を例として説明するが、もちろん他の方法を用いることも可能である。
【0066】
本明細書では、拍動間隔をスプライン補間しサンプリング間隔Δtで再サンプリングした拍動間隔RRI
kの離散フーリエ変換Gは、以下の(3)式で表され、パワースペクトルF
2(第1のパワースペクトル)(単位:ms
2/Hz)は、以下の(4)式で表される。ここで、kは時系列、Nはデータ数を表し、Sは任意のスケールであり、一般にパワースペクトラムではS=1である。
【0069】
他方、LFおよびHFの値として、拍動間隔を周波数スペクトル変換した値から得たパワースペクトルF(第2のパワースペクトル)(単位:ms)を所定の区間で定積分したものも本発明の方法に含まれる。このように、パワースペクトルとして拍動間隔を周波数スペクトル変換した値を用いれば、より簡便にLFおよびHFの値を算出することができる。第2のパワースペクトルFを用いて計算されるLF、HFの単位は無次元量である。パワースペクトルF(第2のパワースペクトル)は、以下の(5)式で表される。
【0071】
LF、HFの詳細な算出方法について、
図1を用いて説明する。
図1は、本発明に係るパワースペクトル積分の説明図である。
図1の縦軸はパワースペクトル密度(単位:ms
2/Hz)であり、横軸は周波数(単位:Hz)である。LFは、パワースペクトル(例えば第1のパワースペクトルF
2)を例えば0.04Hz(Lf1)から0.15Hz(Lf2)まで定積分した値であり、
図1において斜線によりハッチングがされている部分の面積である。ここで、Lf1<Lf2である。一方、HFは、パワースペクトル(例えば第1のパワースペクトルF
2)を例えば0.15Hz(Hf1)から0.4Hz(Hf2)まで定積分した値であり、
図1において縦線によりハッチングがされている部分の面積である。ここで、Hf1<Hf2である。
図1では、Lf2とHf1がいずれも0.15Hzと等しくなるように積分範囲を設定したが、Lf1<Hf1およびLf2<Hf2の関係を満たしていれば、Lf2とHf1は同一の値であっても異なる値でもよい。ここでは、パワースペクトル積分の方法を、第1のパワースペクトルF
2を用いて説明したが、第2のパワースペクトルFによる定積分も同様に行うことができる。
【0072】
周波数スペクトル変換により得られるパワースペクトルは、血圧の変動に由来する成分でMayer−Wave関連成分ともいわれるLFと、呼吸に由来する成分HFとに分けられる。血圧変動成分LFは0.1Hz周辺のパワースペクトルであり、交感神経活動と副交感神経活動の双方に関連している。一方、呼吸由来の成分HFは0.3Hz周辺のパワースペクトルで、副交感神経活動に関連していると考えられている。以上のことから、交感神経活動および副交感神経活動を示すLFの積分範囲は、少なくとも0.1Hzを含み、Lf1<0.1<Lf2であることが好ましい。また、Lf1は0.03Hz以上であることがより好ましく、0.04Hz以上であることがさらに好ましい。また、Lf1は、0.05Hz以下であることが好ましく、0.045Hz以下であることがより好ましい。Lf2は0.13Hz以上であることが好ましく、0.14Hz以上であることがより好ましく、また、0.16Hz以下であることが好ましく、0.15Hz以下であることがより好ましい。副交感神経活動を示すHFの積分範囲は、少なくとも0.3Hzを含み、Hf1<0.3<Hf2であることが好ましい。Hf1は0.14Hz以上であることがより好ましく、0.15Hz以上であることがさらに好ましく、また、0.17Hz以下であってもよく、0.16Hz以下であってもよい。Hf2は0.38Hz以上であることが好ましく、0.39Hz以上であることがより好ましく、また、0.41Hz以下であることがより好ましく、0.4Hz以下であることがさらに好ましい。
【0073】
(C)指標作成ステップの前に、算出された拍動間隔、活動量、LF、HFの少なくともいずれか1つに異常値とみなすべきものが含まれていないかを判別し、異常値と判別された値を指標作成の対象から除外することが好ましい。これにより、異常値が指標やこれを用いた判別結果に影響を及ぼすことを防止できる。
【0074】
上記方法が、LF、HFの算出ステップを有する場合、指標が睡眠時間帯の(LF/HF)×活動量の変数項を含むことが好ましい。LFは交感神経活動と副交感神経活動の両方を示しているため、LF/HFは副交感神経活動に対する交換神経活動の優位性を表している。精神神経状態とは、自律神経系のバランスの状態であり、LF、LF/HFは精神神経の状態を示しているといえる。上記のように変数項を設定することにより、判別精度の高い指標が得られる。
【0075】
上記方法において、指標が、第1臥位時間帯の合計時間の変数項を含むことが好ましい。第1臥位時間帯は、睡眠時間帯を含めて臥位姿勢を取っている時間帯を示しているが、不規則な生活や、慢性疲労、うつ状態、不眠症などの症状がある場合、第1臥位時間帯の合計時間が長くなる傾向がある。このため、第1臥位時間帯の合計時間も精神神経の状態を示しているといえる。このため、上記のように変数項を設定することにより、判別精度の高い指標が得られる。なお、第1臥位時間帯の合計時間は、所定計測単位時間あたりの第1臥位時間帯の合計時間であることが好ましい。
【0076】
指標が、睡眠時間帯の拍動間隔の変数項を含むことが好ましい。上述したとおり、睡眠時間帯の拍動間隔は精神神経の状態を示しているため、このように変数項を設定することにより、判別精度の高い指標が得られる。中でも、指標は、定数項と、覚醒時間帯の拍動間隔×活動量の変数項、睡眠時間帯の(LF/HF)×活動量の変数項、第1臥位時間帯の合計時間の変数項および睡眠時間帯の拍動間隔の変数項からなる式で表されることが好ましい。このように指標を設定することにより、精神神経状態の判別精度をより一層高めることができる。
【0077】
指標が、覚醒時間帯の(LF/HF)/活動量の変数項を含むことが好ましい。(LF/HF)と活動量はいずれも精神神経の状態を示しているため、このように変数項を設定することにより、判別精度の高い指標が得られる。
【0078】
指標が、睡眠時間帯の拍動間隔/活動量の変数項を含むことが好ましい。拍動間隔と活動量はいずれも精神神経の状態を示しているため、このように変数項を設定することにより、判別精度の高い指標が得られる。中でも、指標は、定数項と、覚醒時間帯の拍動間隔×活動量の変数項と、睡眠時間帯の(LF/HF)×活動量の変数項、第1臥位時間帯の合計時間の変数項、睡眠時間帯の拍動間隔の変数項、覚醒時間帯の(LF/HF)/活動量の変数項、睡眠時間帯の拍動間隔/活動量の変数項からなる式で表されることが好ましい。このように指標を設定することにより、判別精度をより一層高めることができる。
【0079】
本方法は、さらに、NA≧C1である時間帯が第3所定時間T
3以内である第3臥位時間帯を算出するステップを有していてもよい。その場合、第3所定時間T
3は、第1所定時間T
1未満であり、指標が、第3臥位時間帯の合計時間の変数項を含むことが好ましい。第3臥位時間帯は、第1臥位時間帯以外で臥位姿勢を取っている時間帯を示しているが、その時間(第3所定時間T
3)は第1所定時間T
1未満と比較的短い時間であるといえる。しかし、短時間であっても覚醒時間帯に臥位姿勢を取っている場合、例えば、交感神経と副交感神経のバランスが崩れている可能性があるため、睡眠時間帯の時間も精神神経の状態を示しているといえる。このため、上記のように変数項を設定することにより、判別精度の高い指標が得られる。なお、第3臥位時間帯の合計時間は、所定計測単位時間あたりの第3臥位時間帯の合計時間であることが好ましい。
【0080】
第3所定時間T
3は、例えば、好ましくは30分以上、より好ましくは45分以上、さらに好ましくは1時間以上に設定することができ、2時間以下、または1時間半以下に設定することもできる。
【0081】
指標は、覚醒時間帯の拍動間隔の変数項、覚醒時間帯のLF/HFの変数項、覚醒時間帯の活動量の変数項、睡眠時間帯のLF/HFの変数項、睡眠時間帯の活動量の変数項、睡眠時間帯の時間の変数項、覚醒時間帯のHF×活動量の変数項、睡眠時間帯のHF/活動量の変数項の少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。上述したとおり、拍動間隔、LF/HF、活動量はいずれも精神神経の状態を示している。また、睡眠時間帯の時間が過度に短いまたは長い場合には交感神経と副交感神経のバランスが崩れるなど、睡眠時間帯の時間も精神神経の状態を示しているといえる。このため、上記のように変数項を設定することにより、判別精度の高い指標が得られる。
【0082】
指標が、定数項と、覚醒時間帯の拍動間隔×活動量の変数項と、睡眠時間帯の(LF/HF)×活動量の変数項と、第1臥位時間帯の合計時間の変数項と、睡眠時間帯の拍動間隔の変数項と、覚醒時間帯の(LF/HF)/活動量の変数項と、睡眠時間帯の拍動間隔/活動量の変数項と、第3臥位時間帯の合計時間の変数項と、覚醒時間帯の拍動間隔の変数項と、覚醒時間帯のLF/HFの変数項と、覚醒時間帯の活動量の変数項と、睡眠時間帯のLF/HFの変数項と、睡眠時間帯の活動量の変数項と、睡眠時間帯の時間の変数項からなる式で表されることが好ましい。このように指標を設定することにより、判別精度をより一層高めることができる。
【0083】
また、指標が、定数項と、覚醒時間帯の拍動間隔×活動量の変数項と、睡眠時間帯の(LF/HF)×活動量の変数項と、第1臥位時間帯の合計時間の変数項と、覚醒時間帯の(LF/HF)/活動量の変数項と、睡眠時間帯の拍動間隔/活動量の変数項と、第3臥位時間帯の合計時間の変数項と、睡眠時間帯の時間の変数項と、覚醒時間帯のHF×活動量の変数項と、睡眠時間帯のHF/活動量の変数項からなる式で表されてもよい。このように指標を設定することによっても、精神神経状態の判別精度をより一層高めることができる。
【0084】
指標が、覚醒時間帯のHFの変数項と、睡眠時間帯のHFの変数項の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。覚醒時間帯または睡眠時間帯のHFは精神神経の状態を示しているため、さらに判別精度の高い指標を作成することができる。中でも、指標が、定数項と、覚醒時間帯の拍動間隔×活動量の変数項と、睡眠時間帯の(LF/HF)×活動量の変数項と、第1臥位時間帯の合計時間の変数項と、睡眠時間帯の拍動間隔の変数項と、覚醒時間帯の(LF/HF)/活動量の変数項と、睡眠時間帯の拍動間隔/活動量の変数項と、第3臥位時間帯の合計時間の変数項と、覚醒時間帯の拍動間隔の変数項と、覚醒時間帯のLF/HFの変数項と、覚醒時間帯の活動量の変数項と、睡眠時間帯のLF/HFの変数項と、睡眠時間帯の活動量の変数項と、睡眠時間帯の時間の変数項と、覚醒時間帯のHF×活動量の変数項と、睡眠時間帯のHF/活動量の変数項と、覚醒時間帯のHFの変数項と、睡眠時間帯のHFの変数項からなる式で表されることが好ましい。このように指標を設定することによっても、判別精度をより一層高めることができる。
【0085】
指標が、覚醒時間帯のSDNNの変数項、睡眠時間帯のSDNNの変数項、覚醒時間帯のCVRRの変数項、睡眠時間帯のCVRRの変数項、覚醒時間帯のRMSSDの変数項、睡眠時間帯のRMSSDの変数項、覚醒時間帯のNN50の変数項、睡眠時間帯のNN50の変数項、覚醒時間帯のpNN50の変数項、睡眠時間帯のpNN50の変数項の少なくともいずれか1つを含むことが好ましい。また、指標が、覚醒時間帯のSDNNの変数項、睡眠時間帯のSDNNの変数項、覚醒時間帯のCVRRの変数項、睡眠時間帯のCVRRの変数項、覚醒時間帯のRMSSDの変数項、睡眠時間帯のRMSSDの変数項、覚醒時間帯のNN50の変数項、睡眠時間帯のNN50の変数項、覚醒時間帯のpNN50の変数項、睡眠時間帯のpNN50の変数項の全てを含むことがより好ましい。SDNN(Standard Deviation of the Normal to Normal Interval)は、拍動間隔の標準偏差である。CVRR(Coefficient of Variation of R−R intervals)は前記SDNNを拍動間隔(好ましくは心拍間隔)の平均値で除して100を乗じた値である。RMSSD(Root Mean Square of the Successive Differences)は隣接する拍動間隔の差の2乗の平均値の平方根である。NN50は隣接する拍動間隔の差が50msを超える総数であり、pNN50は隣接する拍動間隔の差が50msを超える拍動の割合である。SDNN、CVRR、RMSSD、NN50、pNN50はいずれも精神神経の状態を示しているため、さらに判別精度が高い指標を作成することができる。
【0086】
上記方法は、さらに、拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得たパワースペクトルを周波数Lf3からLf4まで定積分した値であるVLFを算出するステップを有していてもよい。その場合、指標が、覚醒時間帯のVLFの変数項と睡眠時間帯のVLFの変数項の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。ここで、Lf3<Lf4である。VLFは、交感神経活動に関連していると考えられているため、このように指標を設定することによっても、精神神経状態を判別することができる。Lf3は、0.0025Hz以上であることが好ましく、0.003Hz以上であることがより好ましく、0.0033Hz以上であることがさらに好ましい。Lf3は、0.005Hz以下であることが好ましく、0.004Hz以下であることがより好ましい。Lf4は、0.025Hz以上であることが好ましく、0.03Hz以上であることがより好ましく、また、0.06Hz以下であることが好ましく、0.05Hz以下であることがより好ましく、0.04Hz以下であることがさらに好ましい。また、Lf4は、Lf1未満であってもよく、Lf1以上であってもよいが、Lf4=Lf1であることが好ましい。
【0087】
上記方法は、さらに、拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得たパワースペクトルを周波数Lf5からLf6まで定積分した値であるULFを算出するステップを有していてもよい。その場合、指標が、覚醒時間帯のULFの変数項と睡眠時間帯のULFの変数項の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。ここで、Lf5<Lf6である。ULFは、交感神経活動に関連していると考えられているため、このように指標を設定することによっても、精神神経状態を判別することができる。Lf5は、0.0015Hz以下であることが好ましく、0.001Hz以下であることがより好ましく、また、0Hz以上であってもよいが、0Hzであることがより好ましい。Lf6は、0.0025Hz以上であることが好ましく、0.003Hz以上であることがより好ましく、0.0033Hz以上であることがさらに好ましく、また、0.0045Hz以下であることが好ましく、0.004Hz以下であることがより好ましい。また、Lf6は、Lf3未満であってもよく、Lf3以上であってもよいが、Lf3=Lf6であることが好ましい。
【0088】
VLFやULFの算出には、パワースペクトルとして、例えば第1のパワースペクトルF
2を用いてもよく、第2のパワースペクトルFを用いてもよい。
【0089】
指標は、うつ状態、うつ病(大うつ病性障害)、双極性障害、統合失調症、パニック障害、強迫性障害、自律神経失調症、睡眠障害等の精神障害の有無や程度を示すことが好ましい。作成した指標を用いることで、具体的な精神障害の有無や程度を判別することができる。
【0090】
本発明には、さらに、作成した指標を用いて精神神経状態を判別するステップを有する精神神経状態の判別方法も含まれる。その場合、指標の基準(例えば、指標が数値X以上であればうつ病と判別する等、指標のランク付けの基準)が、従来公知の判定基準(例えば、うつ病の場合にはCES−D等)と同一または相関があることが好ましい。指標の基準としては、好ましい目的変数として上述した判定基準を用いることができる。これにより、指標を用いて精神神経状態を数値化したときに、その数字の意味するところが明確となる。精神神経状態を判別する方法の具体例を説明する。上記方法で作成した指標を準備する。ここでは、指標が、定数項と、覚醒時間帯の拍動間隔×活動量の変数項と、を含む式で表される例を示すが、変数項の「覚醒時間帯の拍動間隔×活動量」の値として、例えば計測された全ての覚醒時間帯における被検者の拍動間隔×活動量の平均値を代入する。得られた指標を基準と比較することによって、精神神経状態を判別することができる。なお、指標を用いた精神神経状態の判別は、計算機等の機械により行われることが好ましい。
【0091】
精神神経状態を判別するステップでは、指標にしきい値を設けて、精神神経状態を判別してもよい。計算された指標がしきい値以上の場合には精神障害に罹患しており(または罹患している可能性があり)、しきい値未満の場合には精神障害に罹患していない(または罹患している可能性が低い)と客観的に判別することができる。しきい値の値は特に制限されないが、例えば2項ロジスティック回帰分析によって得た指標の場合、しきい値は0.4以上、0.5以上、または0.6以下に設定してもよい。例えば、しきい値を0.5に設定し、0.5未満を健常状態、0.5以上をうつ状態と判別することができる。
【0092】
本発明の指標の作成方法によれば、被検者の負担を軽減しながら、客観的に判別可能な指標の作成および判別が可能である。このような指標は、精神障害の有無、種別または重症度のチェックやスクリーニングに有用である。
【0093】
2.精神神経状態を判別する指標の作成装置
本発明の精神神経状態を判別する指標の作成装置は、覚醒時間帯と睡眠時間帯を算出する時間算出部と、精神神経状態を判別する指標を作成する指標作成部と、を有している。以下では、「精神神経状態を判別する指標の作成装置」を単に「装置」と称することがある。装置としては、各種データの送受信や各種演算処理を行うことが可能なパソコン、マイコン等の計算機(コンピュータ)、タブレット端末、スマートフォンが挙げられる。
【0094】
(実施の形態1)
図2は、本発明の実施の形態1に係る装置10(10A)の構成を示すブロック図である。
図2に示すように、装置10Aには、被検者の拍動間隔、活動量および身長方向の加速度TAを計測可能なセンサ50から送信されたデータを受信する受信部11が設けられていてもよい。ここで、活動量は、被検者の動きに伴う加速度または角速度である。
【0095】
センサ50は、拍動間隔、活動量および身長方向の加速度TAを検出する計測部51を備える。拍動間隔は心拍あるいは脈拍の間隔を指すが、拍動間隔としてはRR間隔(RRI)を用いることが好ましい。なお、本実施の形態では、拍動間隔としてRRIを、活動量として加速度を計測した例を示す。
【0096】
拍動間隔として心拍間隔を用いる場合、センサ50は、小型軽量であり、本体裏面の電極を被検者の胸部の肌に本体ごと取り付けられるものであることが好ましい。また、センサ50は、電極と本体が一体である必要はなく、導電性繊維や導電性シート・フィルムからなる電極を有する衣服、下着、ベルト等を電極として用いてもよい。センサ50の計測部51では、電極を被検者の胸部に密着させた状態で心電信号を計測し、この心電信号に基づきRRIを算出して装置10Aに送信する。電極は胸部の他、腹部、背部、腰部に配することもできる。なお、RRIは受信部11や時間算出部12で算出されてもよい。
【0097】
センサ50の計測部51では脈波を測定してもよい。脈波は、人の指先や耳たぶ等に波長が700nm〜1200nmの近赤外線を照射し、近赤外線の反射量を接触あるいは非接触で測定することができる。脈波を測定するセンサは、体に取り付け易いという利点があり、特に非接触で測定するタイプは、センサを体に取り付ける煩わしさがなくなるので、広く普及する可能性がある。
【0098】
センサ50の計測部51では、被検者の動きに伴う加速度または角速度で表される活動量を計測して、時間算出部12に送信する。また、センサ50の計測部51では、身長方向の加速度TAを計測して時間算出部12に送信する。活動量は加速度であることが好ましい。これにより、活動量と身長方向の加速度TAを別々に計測する必要がない。加速度を計測するセンサ50の種類は特に限定されず、例えば、ピエゾ抵抗体型加速度センサ、圧電型加速度センサ、静電容量型加速度センサなどを用いることができる。ピエゾ抵抗体型加速度センサは、半導体を用いているため小型で量産化がしやすい。圧電型加速度センサは、比較的高い加速度の検出がしやすい。静電容量型加速度センサはピエゾ抵抗体型加速度センサに比べて高感度で、検出可能な加速度の範囲が広く、温度依存性も小さい。角速度を計測するセンサの種類は特に限定されず、例えば、回転型、振動型、ガス型、光ファイバー型、リングレーザー型の角速度センサを用いることができる。
【0099】
受信部11は、時間算出部12や指標作成部13に設けられてもよい。センサ50から装置10Aにデータを送受する方法としては、無線通信を用いてもよいし、有線通信を用いてもよい。特に無線通信でデータを送受する場合は、内蔵するバッテリーの持ちを向上させるために、複数個分、例えば3個分のRRIをまとめて送信することにより送受信の頻度を下げることが好ましい。
【0100】
時間算出部12は、受信部11を介して、センサ50から送信された被検者の拍動間隔、活動量および身長方向の加速度TAのデータを受信する。時間算出部12は、下記条件(1)〜(3)により、被検者の身長方向の加速度TAから負加速度NAを算出して、第1臥位時間帯、第2臥位時間帯、覚醒時間帯および睡眠時間帯を算出する。
[条件:
(1)負加速度NAの算出
被検者の立位時においてTA≧0の場合、NA=(−1)×(TA)
被検者の立位時においてTA<0の場合、NA=TA
(2)第1臥位時間帯と第2臥位時間帯の算出
第1臥位時間帯L
m1:NA≧C1(C1は定数)が第1所定時間T
1以上である時間帯
第2臥位時間帯L
m2:前記第1臥位時間帯L
m1が2以上あって、隣り合う2つの第1臥位時間帯L
m11、L
m12の間のNA<C1である間隙時間帯L
smが第2所定時間T
2以内の場合、前記隣り合う2つの第1臥位時間帯L
m11、L
m12と前記間隙時間帯L
smを合計した時間帯
(3)覚醒時間帯と睡眠時間帯の算出
睡眠時間帯:所定計測単位時間中、前記第1臥位時間帯L
m1と、前記第2臥位時間帯L
m2のうち最長の時間帯
覚醒時間帯:所定計測単位時間から前記睡眠時間帯を除いた時間帯]
第1臥位時間帯、第2臥位時間帯、覚醒時間帯、睡眠時間帯の算出方法の詳細は、「1.精神神経状態を判別する指標の作成方法」で記載したとおりである。
【0101】
時間算出部12では、センサ50から送信されたデータを、覚醒時間帯と睡眠時間帯のデータに分類することが好ましい。装置10Aの時間算出部12では、覚醒時間帯の拍動間隔と、覚醒時間帯の活動量の値が算出される。
【0102】
時間算出部12は、第1臥位時間帯の合計時間を算出してもよい。これにより、指標作成部13で第1臥位時間帯の合計時間の変数項を含む指標を作成することができる。
【0103】
時間算出部12は、さらに、NA≧C1である時間帯が第3所定時間T
3以内である第3臥位時間帯を算出してもよい。これにより、指標作成部13で第3臥位時間帯の合計時間の変数項を含む指標を作成することができる。
【0104】
図示していないが、時間算出部12は、モルフォロジー演算部を有していてもよい。モルフォロジー演算部では、負加速度−時間波形のノイズを除去するためにモルフォロジー演算を行う。また、時間算出部12は、モルフォロジー演算部での処理前に、所定値をしきい値として負加速度の値の大きさを二値化する二値化処理部を有していてもよい。モルフォロジー演算や二値化処理は、上述した方法で行うことができる。
【0105】
指標作成部13は、時間算出部12で得られた覚醒時間帯と睡眠時間帯のデータを用いて、精神神経状態を判別する指標を作成する。指標は、定数項と、拍動間隔および活動量と、覚醒時間帯の拍動間隔×活動量の変数項と、を含む式で表される。指標作成部13では、多変量解析(より好ましくは回帰分析)により指標に含まれる定数項や変数項の係数が作成されることが好ましい。指標作成部13は、各時間帯におけるデータの平均値を算出する平均算出部を有していてもよい。図示していないが、平均算出部では、例えば、覚醒時間帯の拍動間隔の平均値や覚醒時間帯の活動量の平均値を算出することができる。
【0106】
指標作成部13で作成される指標は、第1臥位時間帯の合計時間の変数項を含んでいてもよく、第3臥位時間帯の合計時間の変数項を含んでいてもよい。これらの指標に限られず、指標作成部13で作成される指標は、睡眠時間帯の拍動間隔の変数項と、睡眠時間帯の拍動間隔/活動量の変数項と、覚醒時間帯の拍動間隔の変数項と、覚醒時間帯の活動量の変数項と、睡眠時間帯の活動量の変数項と、睡眠時間帯の時間の変数項の少なくともいずれか1つを含んでいてもよい。
【0107】
図示していないが、装置10Aは、データの異常値を除去する機能を有していてもよい。すなわち、装置10Aは、異常値検出部と異常値除去部を備えていてもよい。異常値検出部および異常値除去部は、時間算出部12の前段または指標作成部13の前段に好ましく設けることができる。これにより、異常値が除去されたデータを指標作成部13に送信することができるため、精度が高い指標を作成することができる。
【0108】
さらに、計算機1には、指標作成部13で作成された指標に基づき、精神神経状態を判別する判別部20が設けられていてもよい。判別部20で、作成された指標と基準を比較することによって、精神障害の有無や程度を客観的かつ機械的に判別することができる。
【0109】
図示していないが、計算機1には、判別部20から精神神経状態の判別結果を被検者等に通知する通知部が設けられていてもよい。通知方法は、音声、静止画、動画など特に限定されない。医師やカウンセラーなどの専門家、被検者やその家族等、通知対象者の専門知識レベルに応じて通知内容を変えることも可能である。計算機1とは別の通知用機器に判別結果を送信し、被検者等へ結果を通知してもよい。通知用機器としては、例えば外付けモニタ、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、スピーカー、イヤホンなどが挙げられる。
【0110】
(実施の形態2)
実施の形態2は、さらにLF、HFを算出する処理部を有する装置の構成例である。
図3は、本発明の実施の形態2に係る装置10(10B)の構成を示すブロック図を表す。なお、実施の形態1の装置10Aと同様の構成要素には同一の番号を付し、その説明を省略する。装置10Bは、時間算出部12と、指標作成部13と、処理部14(以下、「第1処理部14A」と称する)と、を有している。
【0111】
第1処理部14Aでは、変数項の作成に必要なデータのうち、周波数領域に係るデータの算出が行われる。詳細には、第1処理部14Aは、拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得たパワースペクトルを周波数Lf1からLf2まで定積分した値であるLFと、前記パワースペクトルを周波数Hf1からHf2まで定積分した値であるHFを算出するものであることが好ましい。また、第1処理部14AはLF/HFも算出することが好ましい。
【0112】
図示していないが、第1処理部14Aは周波数スペクトル変換部、パワースペクトル積分算出部を備えていてもよい。周波数スペクトル変換部では、FFT等の周波数スペクトル変換方法を用いて、受信部11から送信された時間信号であるRRIを周波数スペクトルに変換する。次に、パワースペクトル積分算出部では、周波数スペクトル変換部で得られたスペクトルからパワースペクトルを算出して、所定の周波数範囲で積分を行うことにより、LFおよびHFを求める。LF、HFの具体的な算出方法は、「1.精神神経状態を判別する指標の作成方法」で上述したとおりである。パワースペクトルとして、例えば第1のパワースペクトルF
2を用いてもよく、第2のパワースペクトルFを用いてもよい。
【0113】
装置10Bの時間算出部12では、上記条件(1)〜(3)に基づき、第1処理部14Aで算出されたLF、HFと、受信部11から送信された活動量のうち、睡眠時間帯の算出条件に該当するデータを抽出する。これにより、睡眠時間帯の(LF/HF)と、睡眠時間帯の活動量の値が算出される。
【0114】
第1処理部14Aでは、拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得たパワースペクトルを周波数Lf3からLf4まで定積分した値であるVLFと、拍動間隔を周波数スペクトル変換するステップを含んで得たパワースペクトルを周波数Lf5からLf6まで定積分した値であるULFの少なくともいずれか一方を算出してもよい。第1処理部14AでVLFを算出することにより、指標作成部13でVLFの変数項を含む指標を作成することができる。また、第1処理部14AでULFを算出することにより、指標作成部13でULFの変数項を含む指標を作成することができる。
【0115】
指標作成部13では、時間算出部12および第1処理部14Aで得られたデータを用いて、覚醒時間帯の拍動間隔×活動量の変数項と、睡眠時間帯の(LF/HF)×活動量の変数項を含む式で表される指標を作成する。
【0116】
実施の形態2では指標がさらに睡眠時間帯の(LF/HF)×活動量の変数項を含む例を挙げて説明したが、装置10Bに第1処理部14Aが設けられる場合、作成される指標は、覚醒時間帯の(LF/HF)/活動量の変数項、覚醒時間帯のLF/HFの変数項、睡眠時間帯のLF/HFの変数項、覚醒時間帯のHF×活動量の変数項と、睡眠時間帯のHF/活動量の変数項、覚醒時間帯のHFの変数項、睡眠時間帯のHFの変数項、覚醒時間帯のVLFの変数項、睡眠時間帯のVLFの変数項、覚醒時間帯のULFの変数項、睡眠時間帯のULFの変数項の少なくともいずれか一つを含んでいてもよい。
【0117】
(実施の形態3)
実施の形態3は、さらに拍動間隔のデータをSDNN等のデータに加工する処理部を有する装置の構成例である。
図4は、本発明の実施の形態3に係る装置10(10C)の構成を示すブロック図を表す。なお、実施の形態1、2の装置10A、10Bと同様の構成要素には同一の番号を付し、その説明を省略する。装置10Cは、時間算出部12と、指標作成部13と、処理部14(以下、「第2処理部14B」と称する)と、を有している。
【0118】
第2処理部14Bでは、拍動間隔のデータを用いて、SDNN、CVRR、RMSSD、NN50、pNN50の少なくともいずれか一つを算出されることが好ましい。これにより、SDNN、CVRR、RMSSD、NN50、pNN50の少なくともいずれか一つを変数項として含む指標を作成することができる。
【0119】
図示していないが、装置10Cには、第1処理部14Aと第2処理部14Bの両方が設けられていてもよい。これにより、判別精度が高い指標を作成することができる。
【0120】
(検証)
本発明の方法に従って、うつ病患者および健常者を含む被検者31名分のデータについて、以下の目的変数および説明変数を設定し、2項ロジスティクス回帰分析により回帰式を作成した。統計解析ソフトには、SPSS Statistics(IBM社製)を用いた。
目的変数:うつ状態を1、健常を0とした2項データ
説明変数:覚醒時間帯の拍動間隔×活動量、睡眠時間帯の(LF/HF)×活動量、第1臥位時間帯の合計時間、睡眠時間帯の拍動間隔
得られた指標としての回帰式は、Y=1/{1+exp(−b)}、b=a
0+a
1×(覚醒時間帯の拍動間隔×活動量)+a
2×{睡眠時間帯の(LF/HF)×活動量}+a
3×(第1臥位時間帯の合計時間)+a
4×(睡眠時間帯の拍動間隔)、a
0=6.94、a
1=−0.034、a
2=−0.004、a
3=0.002、a
4=11.412であった。
【0121】
被検者31名に対して作成した指標を適用した。指標により計算されたスコアが0.5以上の場合をうつ状態、0.5未満の場合を健常と判別した。CES−Dの問診結果でうつ状態と判定された被検者の検出率は85%、CES−Dの問診結果で健常と判定された被検者の検出率は89%であった。本発明で作成した指標を用いることにより、高い精度で精神神経状態を判別できることが分かった。