【文献】
PLoS ONE,2010年,Vol. 5:e14095,p. 1-9
【文献】
STEM CELLS AND DEVELOPMENT,2015年,Vol. 24,p. 1366-1373
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ第1の実施形態における多能性幹細胞(以下iPS細胞とも表記する)の無染色評価支援方法を実施する顕微鏡1と演算装置20の構成について説明する。
図1は、顕微鏡1と演算装置20の構成を示す図である。
【0015】
顕微鏡1は、生体細胞等の位相物体の構造を像強度分布として表す光学像を結像する微分干渉顕微鏡である。顕微鏡1は、照明光学系2と、標本Sを固定する図示しないステージと、結像光学系3と、撮像素子15を備えている。また、顕微鏡1は、演算装置20と接続されている。
【0016】
標本Sは、iPS細胞等の生体細胞を含むコロニーや、培養液等を含む生体標本であり、光を透過し、透過する光に位相差を生じさせる位相物体である。標本Sを固定する不図示のステージは、各種光学系の光軸方向及びその直交する面上を移動可能に制御される。
【0017】
照明光学系2は、光源4と、コレクタレンズ5と、ミラー7と、偏光板8と、λ/4板16と、微分干渉(Differential interference contrast microscope; DIC)プリズム9と、コンデンサレンズ6とを備えている。結像光学系3は、対物レンズ10と、DICプリズム12と、偏光板13と、ミラー11と、結像レンズ14を備えている。撮像素子15は、例えばCCDカメラであり、光を画像信号に変換する。尚、DICプリズム9、12はそれぞれコンデンサレンズ6、対物レンズ10の瞳位置、若しくは瞳共役位置に配置される。
【0018】
照明光学系2において、偏光板8は、入射する光を単一の振動面をもつ偏光に変換する。DICプリズム9は、ノマルスキープリズムとも呼ばれ、偏光板8を介して入射してきた光を互いに直交する振動面を持つ2つの偏光に分割する。この2偏光は、標本Sのわずかに異なるズレ量(以下シアー量とも記載する)だけずれた位置に入射する。そのため、2偏光は、それぞれ標本Sの厚みや屈折率が異なる位置を通過し、異なる光学的光路長を経て結像光学系3において結像されることから、この2偏光間には位相差が生じる。この位相差をリターデーションとも記載する。また、この2偏光のずれる方向をシアー方向とも記載する。
【0019】
結像光学系3において、DICプリズム12は、入射してきた2偏光を単一振動面の光に統合する。この過程で光の干渉が起こり、2偏光が有する位相差に基いてコントラストが形成された微分像として、撮像素子15に結像される。即ち、顕微鏡1は、標本Sが有する構造を、位相分布を像強度分布に変換することで画像化することができる顕微鏡である。
【0020】
さらに、DICプリズム9、12はそれぞれ回転制御されることでシアー方向を変更するように制御される。また、偏光板8も回転制御されることで、リターデーションを変更するように制御される。より詳しくは、偏光板8は、リターデーションを変更することで、撮像素子15に結像される像コントラストを変化するように制御される。即ち、顕微鏡1は、特開2014−209085号公報に記載される顕微鏡システム100の構成と同様に、シアー方向が切り替え可能な顕微鏡であり、像コントラストの異なる複数の画像を取得するように機能する顕微鏡である。尚、上記DICプリズム9、12、偏光板8について行われる制御は、例えば、顕微鏡1に接続されるコンピュータによって連動して行われてもよい。
【0021】
演算装置20は、撮像素子15に接続されており、撮像素子15が撮像した画像信号を演算する機能を有するコンピュータである。また、演算装置20は、不図示のモニタ等の画像表示媒体と接続され、演算処理をした画像信号を画像表示媒体へ出力することで画像表示を行う。尚、上記DICプリズム9、12、偏光板8の制御を実施するコンピュータと演算装置20が一つのコンピュータであってもよい。即ち、一つのコンピュータが演算装置20の機能を有し、また、上記DICプリズム9、12、偏光板8の制御を実行するものとしてもよい。
【0022】
図2は、演算装置20の機能構成を示す図である。演算装置20は、その機能構成として、通信部21と、記憶部22と、演算部23とにわけられる。
【0023】
通信部21は、撮像素子15が撮像した画像信号を受信し、演算装置20によって演算処理をした画像信号等のデータを、画像表示媒体へ出力する処理を行う。
【0024】
記憶部22は、通信部21が受信した画像信号を演算部23へ送信し、また、演算部23から受信した画像信号を通信部へ送信する。また、記憶部22は、一時的に画像信号を記憶する記憶手段として機能する。
【0025】
演算部23は、記憶部22から受信した画像信号を用いて演算処理を実行する。演算部23が実行する演算処理は、大きく分けて三つであり、一つ目は、標本Sの複数の画像信号から標本Sの位相分布である第1の位相分布を算出する処理である。二つ目は、第1の位相分布から、特定の位相量以上の位相量を有する領域を抽出する処理である。三つ目は、特定の位相量以上の位相量を有する領域を用いて、標本Sの状態をユーザが評価するための指標となる評価情報を作成する処理である。
【0026】
特定の位相量とは、iPS細胞が変異することで体細胞となった場合に、その細胞が有する位相量である。即ち、特定の位相量以上の位相量を有する領域とは、iPS細胞が変異している等によって、分化多能性を有するiPS細胞が存在しない領域に等しい。尚、本実施形態では、特定の位相量として体細胞のミトコンドリアの位相量を用いている。この理由として、iPS細胞は、iPS細胞が変異し得るその他の体細胞と比べてミトコンドリアの代謝が異なり、結果として細胞が有する位相量が変わることから、iPS細胞の変異の有無を判別する判断基準となり得るためである。
【0027】
通常の体細胞では、ミトコンドリアの中でエネルギーが生み出されるプロセスであるTCAサイクルが活発に行われる。一方で、iPS細胞では、ミトコンドリアの働きが活発ではなく、体細胞に比べてミトコンドリアの形態や数量が異なることが知られている。そのため、iPS細胞と、iPS細胞が変異し得るその他の体細胞とでは、ミトコンドリアの形態や数量の違いに起因して、位相量に違いが生じる。
【0028】
従って、特定の位相量(体細胞のミトコンドリアの位相量)以上の位相量を有する領域を算出し、特定の位相量以上の位相量を有する領域とから体細胞のミトコンドリアの細胞内分布量に基づいた生体標本の状態を評価するための評価情報を作成することで、ユーザはiPS細胞の変異の有無を判別することが可能となる。具体的なiPS細胞の評価方法については後述する。
【0029】
以上の構成を有する顕微鏡1と演算装置20を用いて、標本Sに含まれるiPS細胞の良否を判断するための指標となる情報(評価情報)をユーザに提供する無染色の評価支援方法を実行する。具体的には、その評価支援方法は、iPS細胞の変異を識別するための評価情報を提供することで、ユーザが行うiPS細胞の良否判断を支援するものである。
図3は、本実施形態におけるiPS細胞の無染色評価支援方法の手順を示すフローチャートである。以下
図3を用いてiPS細胞の無染色評価支援方法を説明する。尚、ステップS1からステップS4までの第1の位相分布を算出する工程は、特開2014−209085号公報に記載される技術を用いて実行することが可能である。
【0030】
ステップS1では、顕微鏡1によって標本Sの像コントラストの異なる複数の位相分布画像を取得する。より具体的には、ある特定のシアー方向において、リターデーションが±θとなるように偏光板8が制御されることで、計2枚の位相分布画像を取得する。さらに、DICプリズム9、12によってシアー方向を変更された状態で、同様に偏光板8が制御されることで計2枚の位相分布画像を取得する。即ち、ステップS1では、顕微鏡1によってシアー方向毎に像コントラストの異なる2枚の位相分布画像がそれぞれ取得される。尚、取得された位相分布画像は、いずれも演算装置20に送信され、通信部21と記憶部22を介して、演算部23へ送信される。
【0031】
ステップS2では、演算部23が、ステップS1で得られた位相分布画像から差演算画像と和演算画像を形成し、差演算画像を和演算画像で割ることで、規格化された位相分布画像を算出する。差演算画像は、リターデーションが対称(±θ)な画像を差演算することで得られる画像であり、iPS細胞の位相分布に対応した画像成分である。和演算画像は、リターデーションが対称(±θ)な画像を和演算することで得られる画像であり、iPS細胞を観察するときの照明分布等を表す画像成分である。従って、差演算画像を和演算画像で割ることで、差演算画像が規格化され、標本Sの位相分布と顕微鏡1の光学的応答特性(OTF:Optical Transfer Function光学的伝達関数ともいう)がコンボリューションされた像成分のみを抽出することができる。尚、演算部23は、各シアー方向毎に、規格化された位相分布画像を算出するため、ここでは二枚の規格化された位相分布画像が得られる。
【0032】
ステップS3では、演算部23が、規格化された位相分布画像に対し、大きさの異なる複数のカーネルを用いた演算処理を行うことで、位相分布画像を三つの空間周波数成分に分解する。分解される空間周波数成分は、空間周波数が最も低い背景成分と、標本S内部で屈折する光によって形成される屈折成分と、標本Sの内部の構造で回折する光によって形成される空間周波数が最も高い構造成分とにわけられる。まず、大きいカーネルサイズ(例えばカーネルサイズが100×100)の平均化フィルターによって平均化処理を複数回行い、位相分布画像の背景成分を算出する。次に、規格化された位相分布画像から背景成分を引き算した視野ムラ等の外乱が除去された画像に対し、小さいカーネルサイズ(例えばカーネルサイズが20×20)の平均化フィルターによって平均化処理を複数回行い、位相分布画像の屈折成分を算出する。そして、規格化された位相分布画像から背景成分と、屈折成分を引き算することで、位相分布画像の構造成分を算出する。尚、演算部23は、ステップS2で得られた、シアー方向の異なる二枚の規格化された位相分布画像をそれぞれ分解して、背景成分と屈折成分と構造成分を算出する。
【0033】
ステップS4では、ステップS3で求めた構造成分に対し、対応したOTFを用いてデコンボリューション処理を実行することで、構造成分の位相分布を算出する。尚、演算部23は、シアー方向毎に、視野ムラなどの外乱等(背景成分、屈折成分)を取り除いた構造成分の位相分布を算出する。最後に、各シアー方向において算出された構造成分の位相分布を合成することでシアー方向の影響が排除された標本Sの第1の位相分布を算出する。ステップS1からS4の演算処理で算出された第1の位相分布は、合焦位置近傍に存在する構造成分の位相分布である。尚、この段階で一度、通信部21によって第1の位相分布から生成される第1の位相分布の画像が画像表示媒体へ出力されてもよい。
【0034】
図4は、第1の位相分布の画像を画像表示媒体へ出力した画像の一例を示す図である。ミトコンドリアは、微細な構造をもつことが知られているため、以下のステップでは、ステップS1からS4までで算出した構造成分の位相分布(第1の位相分布)からミトコンドリアに対応した位相量の抽出を実行する。
【0035】
ステップS5では、演算部23は、第1の位相分布から特定の位相量以上の位相量を有する領域を抽出する。特定の位相量は、上述したように体細胞のミトコンドリアの位相量である。ここでいう、特定の位相量以上の位相量を有する領域とは、分化多能性を有するiPS細胞が存在しない領域のことを示す。
【0036】
ステップS5では、例えば、予め体細胞のサンプルの位相量を顕微鏡1と演算装置20を用いて測定し、体細胞のミトコンドリアに対応する位相量の値を算出しておき、その値を閾値として構造成分の位相分布における閾値以上の特定の位相量以上の位相量を有する領域を抽出すればよい。
【0037】
尚、特定の位相量以上の位相量を有する領域を抽出する範囲を計測範囲としたとき、その計測範囲は、設定により変更が可能である。例えば、ステップS4の段階で出力された第1の位相分布の画像(例えば
図4に示したような画像)をユーザが視認して画像内の領域を指定することで計測範囲を決定してもよい。計測範囲は、細胞が形成する集合体の輪郭や、輪郭内部の任意の範囲とすることもできる。特に、計測範囲を細胞一個の画像面積に設定すれば、細胞単位での評価を行うことが可能となる。
【0038】
また、特定の位相量以上の位相量を有する領域を抽出する計測範囲は、ユーザが任意に決定した範囲に限らず、第1の位相分布から生体細胞が存在する範囲を求めてその範囲を計測範囲としてもよい。例えば、生体細胞が存在しない範囲は、位相分布に変化がなく、像コントラストは低くなる。そのため、規格化された位相分布画像にシアー方向に微分する行列演算子でコンボリューション処理を行うことで、像コントラストの低い生体細胞の存在しない範囲を抽出することができる。即ち、生体細胞の存在する範囲を抽出でき、その範囲を計測範囲とすることができる。
【0039】
図5は、
図4に示した第1の位相分布において、生体細胞が存在する範囲を計測範囲として設定した場合の計測範囲を示す画像であり、計測範囲(画素)を1、それ以外の部分(画素)を0として2値化した画像である。図中の領域Aは、計測範囲を示し、領域Bがそれ以外の領域を示している。
【0040】
図6は、
図5の計測範囲において、ステップS5を実行して算出した特定の位相量以上の位相量を有する領域を示す画像であり、特定の位相量以上の位相量を有する領域(画素)を1、それ以外の部分(画素)を0として2値化した画像である。図中の領域Cは、特定の位相量以上の位相量を有する領域を示し、領域Dは、それ以外の領域を示している。尚、ステップS5における計測範囲を設定する工程と特定の位相量以上の位相量を有する領域を抽出する工程は、演算装置20で内部処理されるため、実際には
図5、6で示すような画像を画像表示媒体に出力する必要はないが、ここでは説明の都合上、対応する画像を示した。
【0041】
ステップS6では、演算部23は、第1の位相分布から作られる画像中の特定の位相量以上の位相量を有する領域を他の領域と区別した画像を生成する。例えば、第1の位相分布の画像に特定の位相量以上の位相量を有する領域を重畳した画像信号を作成し、通信部21を介して画像表示媒体へ出力する。
図7は、
図6の特定の位相量以上の位相量を有する領域を特定の色で
図4に示す第1の位相分布の画像に重畳して画像表示媒体へ出力したときの画像を示す。以上の工程により、フローチャートを終了する。
【0042】
ステップS6によって画像表示媒体に表示された画像によれば、iPS細胞が変異したために分化多能性が低くなっている箇所が特定の色で区別されて示されているため、iPS細胞が変異した箇所を容易に判別することができる。言い換えるならば、iPS細胞が分化多能性を維持している領域を容易に判別することが可能となる。即ち、ステップS6の工程は、第1の位相分布の画像と、特定の位相量以上の位相量を有する領域を用いて、ユーザが標本Sの状態を評価するための指標となる画像(評価情報)を作成して、その画像をユーザに提示する工程である。
【0043】
以上の本実施形態の無染色評価支援方法によれば、良好にiPS細胞の良否判断を行うための指標となる評価情報を提供することができる。本実施形態では、第1の位相分布の画像に特定の位相量以上の位相量を有する領域を重畳した画像から、分化多能性を失った細胞が存在する箇所をコロニー内部において、容易に判別することが可能となる。
【0044】
また、生体細胞が存在する範囲を計測範囲として設定した場合、生体細胞を含まない範囲を自動的に除外することから、計測範囲がユーザにより任意に設定される場合よりも正確にiPS細胞が変異した割合を算出することができる。
【0045】
以下、第1の実施形態の変形例である無染色評価支援方法を以下に示す。
図8は、変形例であるiPS細胞の無染色評価支援方法の手順を示すフローチャートである。尚、
図8におけるステップS1からS5までの工程(第1の位相分布を算出し、特定の位相量以上の位相量を有する領域を抽出する工程)は、
図3に示したステップS1からS5までの工程と等しいため、説明を省略する。
【0046】
ステップS7では、演算部23は、特定の位相量以上の位相量を有する領域が画像の計測範囲内において占有する面積を算出する。その面積を算出するにあたり、例えば、
図6に示すように特定の位相量以上の位相量を有する部分(画素)を1、それ以外の部分(画素)を0として画像信号中の領域を2値化する。1が割り当てられた画素の面積を算出することで特定の位相量以上の位相量を有する領域が占有する面積を算出することができる。
【0047】
ステップS8では、演算部23は、計測範囲において、特定の位相量以上の位相量を有する領域が占有する面積の比率を算出して、その面積比率を通信部21を介して画像表示媒体へ出力する。
【0048】
ステップS8によって画像表示媒体に表示される面積比率を参照することで、iPS細胞が変異した領域の割合を把握することができる。言い換えるならば、計測範囲内においてiPS細胞が分化多能性を維持している領域の割合を把握することができ、その割合の大小から標本Sに含まれるiPS細胞の良否判断を行うことができる。即ち、ステップS8の工程は、特定の位相量以上の位相量を有する領域を用いて、ユーザが標本Sの状態を評価するための指標となる面積比率(評価情報)を生成して、ユーザに提示する工程である。
【0049】
以上の変形例である無染色評価支援方法によっても、良好にiPS細胞の良否判断を行うための指標となる評価情報を提供することができる。特に本変形例では、iPS細胞が変異した領域の面積と計測範囲の面積の比を算出することで、計測範囲の中でiPS細胞が変異した割合を具体的な数値として表すことができるため、ユーザはより客観的な指標によってiPS細胞の良否判断を行うことが可能となる。また、計測範囲の中でiPS細胞が変異した領域の単位面積当たりの比率を知ることで、細胞単位での比率を近似的に求めることもできる。
【0050】
さらに、上記の第1の実施形態と変形例を組み合わせることでiPS細胞の良否判断を行うための無染色評価支援方法を実施してもよい。例えば、演算装置20が、第1の位相分布の画像に特定の位相量以上の位相量を有する領域を重畳した画像を作成して画像表示媒体へ表示し、表示された画像からユーザがさらに特定の領域(例えば特定のコロニーまたは細胞)を指定して、演算装置20が、その領域において特定の位相量以上の位相量を有する領域が占有する面積の比率を算出し、その面積比率を画像表示媒体へ表示してもよい。この方法によれば、第1の位相分布に特定の位相量以上の位相量を有する領域を重畳した画像から、ユーザは分化多能性を失った細胞が存在する箇所を判断できるとともに、その画像の中からより客観的な評価を実施したい特定の細胞やコロニーにおいて、特定の位相量以上の位相量を有する領域の面積比率を得ることでより客観的なiPS細胞の良否判断を行うことが可能となる。
【0051】
以下、
図9を用いて第2の実施形態におけるiPS細胞の無染色評価支援方法を実施する顕微鏡30と演算装置43の構成について説明する。
図9は、顕微鏡30と演算装置43の構成を示す図である。
【0052】
顕微鏡30は、生体細胞等の位相物体の構造を像強度分布として表す光学像を結像する位相差顕微鏡である。顕微鏡30は、照明光学系31と、標本Sを固定する図示しないステージと、結像光学系37と、撮像素子42を備えている。また、顕微鏡30は、演算装置43と接続されている。標本Sは、第1の実施形態で説明したものと同様、標本Sは、iPS細胞等の生体細胞を含むコロニーや、培養液等を含む生体標本である。
【0053】
顕微鏡30は、照明光学系31として、光源32と、コレクタレンズ33と、ミラー36と、リングスリット35と、コンデンサレンズ34と、を備えている。また顕微鏡30は、結像光学系37として、対物レンズ38と、液晶素子40と、ミラー39と、結像レンズ41を備えている。撮像素子42は、例えばCCDカメラであり、光を画像信号に変換する。
【0054】
液晶素子40は、リングスリット35と共役な位置に配置されており、顕微鏡30では、液晶素子40の位相量を変化させることで結像される像のコントラストを変化させる。
【0055】
演算装置43は、演算装置20と同様の機能構成を有しており、顕微鏡30によって撮像された標本Sの画像信号から第1の位相分布算出し、特定の位相量以上の位相量を有する領域を抽出する。
【0056】
従って、位相差顕微鏡である顕微鏡30を用いても顕微鏡1と同様に、液晶素子40の位相量を±ψに変化させたときの2枚の像コントラストの異なる画像を撮像し、それらの画像から差演算画像と和演算画像を算出し、規格化された位相分布画像を算出することができる(
図3のステップS2までの工程に相当)。以下、第1の実施形態と同様の手順により、演算装置43によってiPS細胞の無染色評価支援方法を実施することが可能である。尚、本実施形態の顕微鏡30では、標本Sの異なる位置に照射した2偏光から像コントラストを変化させた画像を算出していないため、シアー方向の影響を排除する工程が含まれない点で第1の実施形態の無染色評価支援方法とは異なる。
【0057】
以上の本実施形態の無染色評価支援方法によっても、良好にiPS細胞の良否判断を行うための指標となる評価情報を提供することができる。
【0058】
以下、
図10を用いて第3の実施形態におけるiPS細胞の無染色評価支援方法を実施する顕微鏡50と演算装置62の構成について説明する。
図10は、顕微鏡50と演算装置61の構成を示す図である。
【0059】
顕微鏡50は、生体細胞等の位相物体の構造を像強度分布として表す光学像を結像する偏斜照明顕微鏡である。顕微鏡50は、照明光学系51と、標本Sを固定する図示しないステージと、結像光学系55と、撮像素子59を備えている。また、顕微鏡50は、演算装置60と接続されている。標本Sは、第1の実施形態で説明したものと同様、標本Sは、iPS細胞等の生体細胞を含むコロニーや、培養液等を含む生体標本である。
【0060】
顕微鏡50は、照明光学系51として、光源であるLED52と、コンデンサレンズ53と、ミラー54を備えている。また顕微鏡50は、結像光学系55として、対物レンズ56と、ミラー57と、結像レンズ58を備えている。撮像素子59は、例えばCCDカメラであり、光を画像信号に変換する。
【0061】
LED52は、
図11に示すように照明光学系51の光軸から偏心した4つの位置に配置された4枚のLED61、62、63、64から構成されており、それぞれ光の発光と消灯を制御する。即ち、顕微鏡50では、
図11に示す水平方向(X方向)と垂直方向(Y方向)で計4つの方向から偏斜照明を行うことができる。
【0062】
演算装置60は、演算装置20と同様の機能構成を有しており、顕微鏡50によって撮像された標本Sの画像信号から第1の位相分布を算出し、特定の位相量以上の位相量を有する領域を抽出する。
【0063】
従って、偏斜照明顕微鏡である顕微鏡50を用いても顕微鏡1と同様に、水平方向に配置されたLED61、62による偏斜照明(それぞれ±ωの角度で標本Sに照明される)により画像を撮像し、それらの画像から差演算画像と和演算画像を算出し、規格化された位相分布画像を算出することができる(
図3のステップS2までの工程に相当)。また、垂直方向に配置されたLED65、66からも偏斜照明によって同様に規格化された位相分布画像を算出する。そして、
図3のステップS3、S4の工程のように、規格化された位相分布画像から背景成分と、屈折成分と、構造成分とを抽出し、構造成分の位相分布を算出することができる。そして、第1の位相分布は、それぞれ垂直方向と水平方向とから求められた構造成分の位相分布をベクトル合成して求めることができる。以下、第1の実施形態と同様の手順により、演算装置60によってiPS細胞の無染色評価支援方法を実施することが可能である。
【0064】
尚、本実施形態の顕微鏡50においても、第1の実施形態のように標本Sの異なる位置に照射した2偏光から像コントラストを変化させた画像を算出していないため、シアー方向の影響を排除する工程が含まれない点で第1の実施形態の無染色評価支援方法とは異なる。
【0065】
以上の本実施形態の無染色評価支援方法によっても、良好にiPS細胞の良否判断を行うための指標となる評価情報を提供することができる。
【0066】
以下、
図12を用いて第4の実施形態におけるiPS細胞の無染色評価支援方法を実施する顕微鏡70と演算装置83の構成について説明する。
図12は、顕微鏡70と演算装置83の構成を示す図である。
【0067】
顕微鏡70は、生体細胞等の位相物体の構造を像強度分布として表す光学像を結像する偏心開口顕微鏡である。顕微鏡70は、照明光学系71と、標本Sを固定する図示しないステージと、結像光学系77と、CCDカメラ等の撮像素子82を備えている。また、顕微鏡70は、演算装置83と接続されている。また、標本Sは、第1の実施形態で説明したものと同様、iPS細胞等の生体細胞を含むコロニーや、培養液等を含む生体標本である。
【0068】
顕微鏡70は、照明光学系71として、光源72と、コレクタレンズ73と、ミラー75と、コンデンサレンズ76を備えている。また、顕微鏡70は、結像光学系77として、対物レンズ78と、ミラー79と、結像レンズ81を備えている。また、顕微鏡70は、照明光学系71中に開口絞り74を備え、標本Sと撮像素子82との間であって、対物レンズ78の瞳位置に遮光手段80を備えている。
【0069】
遮光手段80は、標本Sからの光を遮断する遮光手段であり、結像光学系77の光軸から偏心した位置に、偏心開口である開口部80aを有している。また、遮光手段80は、結像光学系77の光軸を中心軸として回転制御され、結像光学系77の光軸に垂直な平面上で開口部80aの位置を変更することができる。
【0070】
図13は、遮光手段80と、開口部80aとの位置関係を示す図である。ハッチングで記載した領域85は、照明光学系71により照明された標本Sからの光であって、標本Sによって回折されない光、すなわち位相物体である標本Sがない、または、標本Sの位相が均一であるとしたときの光(0次光)が対物レンズ78の瞳84へ到達する領域を示している。即ち、
図13における開口部80aは、0次光が開口部80aの一部分を通過するような位置に設けられている。そのため、標本Sによって回折された特定方向の1次回折光が開口部80aを通過する。また、照明光学系71の開口絞り74と対物レンズ78の瞳84は、ほぼ光学的に共役な位置に配置されており、領域85は、開口絞り74の投影像を示している。そのため、開口絞り74を所定の径に絞ることによって、対物レンズ78の瞳84で光束の径を調節することができ、ここでは
図13のように、瞳84のすべてを満たさない所定の径になるよう設定される。
【0071】
上記のような構成では、標本Sに対して垂直に照明光が照明される場合であっても、遮光手段80が有する開口部80aを標本Sで回折した特定方向の1次回折光が通過するような構成となる。従って、偏斜照明を行うときと同様に標本Sの特定方向のコントラストを際立たせるような像を撮像素子82に結像させることができる。
【0072】
演算装置83は、演算装置20と同様の機能構成を有しており、顕微鏡70によって撮像された標本Sの画像信号から第1の位相分布を算出し、特定の位相量以上の位相量を有する領域を抽出する。
【0073】
以上から、顕微鏡70と演算装置83を用いた場合でも、遮光手段80を回転制御し、
図13のX軸上の対称な2方向と、
図13のY軸上の対称な2方向と、の4方向の一次回折光による像を取得することができるため、第3の実施形態と同様の手順で第1、2の位相分布を算出し、演算装置83によってiPS細胞の無染色評価支援方法を実施することが可能である。
【0074】
上述した実施形態は、発明の理解を容易にするために具体例を示したものであり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。上記の無染色評価支援方法、演算装置、及びプログラムは、特許請求の範囲に記載した本発明を逸脱しない範囲において、さまざまな変形、変更が可能である。