(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。本明細書において「〜」を用いて記載される数値範囲は、その前後に記載される数値を含むものである。
【0021】
<1.非水系二次電池の全体構成>
本実施形態の電解液は、例えば、非水系二次電池に用いることができる。本実施形態の非水系二次電池としては、例えば、アルミニウム箔集電体の片面又は両面に、リチウムを吸蔵/脱離できる正極活物質層を有する正極と、集電体の片面又は両面に、リチウムを吸蔵/脱離できる負極活物質層を有する負極と、を備えるリチウムイオン二次電池が挙げられる。
【0022】
本実施形態の非水系二次電池としては、具体的には、
図1及び2に図示される非水系二次電池であってもよい。ここで、
図1は非水系二次電池を概略的に表す平面図であり、
図2は
図1のA−A線断面図である。
【0023】
非水系二次電池100は、2枚のアルミニウムラミネートフィルムで構成した電池外装110の内側に形成された空間120内に、正極150と負極160とをセパレータ170を介して積層して構成した積層電極体と、非水系電解液(図示せず)とを収容している。電池外装110は、その外周部において、上下のアルミニウムラミネートフィルムを熱融着することにより封止されている。正極150、セパレータ170、及び負極160を順に積層した積層体には、非水系電解液が含浸されている。なお、
図2では、図面が煩雑になることを避けるために、電池外装110を構成している各層、並びに正極150及び負極160の各層を区別して示していない。
【0024】
電池外装110を構成しているアルミニウムラミネートフィルムは、アルミニウム箔の両面をポリオレフィン系の樹脂でコートしたものであることが好ましい。
【0025】
正極150は、電池100内で正極リード体130と接続している。図示していないが、負極160も、非水系二次電池100内で負極リード体140と接続している。そして、正極リード体130及び負極リード体140は、それぞれ、外部の機器等と接続可能なように、片端側が電池外装110の外側に引き出されており、それらのアイオノマー部分が、電池外装110の1辺と共に熱融着されている。
【0026】
図1及び2に図示される非水系二次電池100は、正極150及び負極160が、それぞれ1枚ずつの積層電極体を有しているが、容量設計により正極150及び負極160の積層枚数を適宜増やすことができる。正極150及び負極160をそれぞれ複数枚有する積層電極体の場合には、同一極のタブ同士を溶接等により接合したうえで1つのリード体に溶接等により接合して電池外部に取り出してもよい。上記同一極のタブとしては、集電体の露出部から構成される態様、集電体の露出部に金属片を溶接して構成される態様等が可能である。
【0027】
正極150は、正極合剤から作製した正極活物質層と、正極集電体とを有して構成される。負極160は、負極合剤から作製した負極活物質層と、負極集電体とを有して構成される。正極150及び負極160は、セパレータ170を介して正極活物質層と負極活物質層とが対向するように配置される。
【0028】
以下、正極及び負極の総称として「電極」、正極活物質層及び負極活物質層の総称として「電極活物質層」、正極合剤及び負極合剤の総称として「電極合剤」とも略記する。
【0029】
これらの各部材としては、本実施形態における各要件を満たしていれば、従来のリチウムイオン二次電池に備えられる材料を用いることができ、例えば、後述の材料であってもよい。以下、非水系二次電池の各部材について詳細に説明する。
【0030】
<2.電解液>
本実施形態における電解液は、非水系溶媒(以下、単に「溶媒」ともいう。)と、リチウム塩としてLiPF
6、LiBF
4、リチウムジフルオロオキサラトボレート(LiFOB)とを、少なくとも含む。
【0031】
本実施形態における電解液は、水分を含まないことが好ましいが、本発明の課題解決を阻害しない範囲であれば、ごく微量の水分を含有してもよい。そのような水分の含有量は、電解液の全量に対して、好ましくは0〜100ppmである。
【0032】
電解液に含有されるLiPF
6は、イオン伝導度に優れるものの、熱安定性が十分でないうえ、溶媒中の微量水分によって加水分解してフッ化リチウム及びフッ化水素を発生し易い性質を有する。LiPF
6が分解すると、該LiPF
6を含有する電解液のイオン伝導度が低下するとともに、生成したフッ化リチウム及びフッ化水素が、電極、集電体等の材料を腐食し、或いは溶媒を分解する等の、電池に致命的な悪影響を及ぼす場合がある。しかし、本実施形態においては、LiPF
6の他に、LiBF
4とLiFOBを共存させることにより、正極の集電体表面に保護皮膜を形成し、腐食を防止することが可能となる。リチウム塩共存の効果については<2−2.リチウム塩>の項で詳細に説明する。
【0033】
<2−1.非水系溶媒>
本実施形態でいう「非水系溶媒」とは、電解液中からLiPF
6、LiBF
4、LiFOB、及び更に添加する別途のリチウム塩がある場合はそれも除いた成分をいう。すなわち、電解液中に、後述するその他の添加剤を含んでいる場合には、溶媒と電極保護用添加剤とを併せて「非水系溶媒」という。
【0034】
非水系溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類;非プロトン性溶媒等が挙げられる。中でも、非プロトン性極性溶媒が好ましい。
【0035】
非プロトン性溶媒の具体例としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネート、トランス−2,3−ブチレンカーボネート、シス−2,3−ブチレンカーボネート、1,2−ペンチレンカーボネート、トランス−2,3−ペンチレンカーボネート、シス−2,3−ペンチレンカーボネート、及びビニレンカーボネートに代表される環状カーボネート;フルオロエチレンカーボネート、1,2−ジフルオロエチレンカーボネート、及びトリフルオロメチルエチレンカーボネートに代表される環状フッ素化カーボネート;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン、及びε−カプロラクトンに代表されるラクトン;スルホラン、ジメチルスルホキシド、及びエチレングリコールサルファイトに代表される硫黄化合物;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、及び1,3−ジオキサンに代表される環状エーテル;エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、ジブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、及びメチルトリフルオロエチルカーボネートに代表される鎖状カーボネート;トリフルオロジメチルカーボネート、トリフルオロジエチルカーボネート、及びトリフルオロエチルメチルカーボネートに代表される鎖状フッ素化カーボネート;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、及びアクリロニトリルに代表されるモノニトリル;メトキシアセトニトリル及び3−メトキシプロピオニトリルに代表されるアルコキシ基置換ニトリル;マロノニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、1,4−ジシアノヘプタン、1,5−ジシアノペンタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,7−ジシアノヘプタン、2,6−ジシアノヘプタン、1,8−ジシアノオクタン、2,7−ジシアノオクタン、1,9−ジシアノノナン、2,8−ジシアノノナン、1,10−ジシアノデカン、1,6−ジシアノデカン、及び2,4−ジメチルグルタロニトリルに代表されるジニトリル;ベンゾニトリルに代表される環状ニトリル;プロピオン酸メチルに代表される鎖状エステル;ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3−ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、及びテトラグライムに代表される鎖状エーテル;Rf
4−OR
5(Rf
4はフッ素を含有するアルキル基、R
5はフッ素を含有してもよい有機基)に代表されるフッ素化エーテル;アセトン、メチルエチルケトン、及びメチルイソブチルケトンに代表されるケトン類等の他、これらのフッ素化物に代表されるハロゲン化物が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0036】
これらの非水系溶媒のうち、アセトニトリルを用いることが好ましい。アセトニトリルは単独でも、またそれ以外の上述の非プロトン性溶媒を含んでいてもよい。アセトニトリル以外の非プロトン性溶媒を混合して用いる場合は、アセトニトリルの含有量は、非水系溶媒の全体量に対して1〜100体積%であることが好ましく、より好ましくは30体積%以上、更に好ましくは40体積%以上、それより好ましくは70体積%以上である。
【0037】
アセトニトリルの含有量が30体積%以上である場合、イオン伝導度が増大して高出力特性を発現できる傾向にあり、更に、リチウム塩の溶解を促進することができる。非水系溶媒中のアセトニトリルの含有量が上述の範囲内にある場合、アセトニトリルの優れた性能を維持しながら、貯蔵特性及びその他の電池特性を、一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0038】
アセトニトリルに対する他の非プロトン性溶媒の組み合わせとしては、環状カーボネート及び鎖状カーボネートのうちの1種以上をアセトニトリルと共に使用することが好ましい。ここで、環状カーボネート及び鎖状カーボネートとして前記に例示したもののうちの1種のみを選択して使用していてもよく、2種以上(例えば、前記例示の環状カーボネートのうちの2種以上、前記例示の鎖状カーボネートのうちの2種以上、又は前記例示の環状カーボネートのうちの1種以上及び前記例示の鎖状カーボネートのうちの1種以上からなる2種以上)を使用してもよい。これらの中でも、環状カーボネートとしてはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、又はフルオロエチレンカーボネートがより好ましく、鎖状カーボネートとしてはエチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、又はジエチルカーボネートがより好ましい。そして、環状カーボネートを使用することが更に好ましい。
【0039】
非水系二次電池の充放電に寄与するリチウム塩の電離度を高めるために、非水系溶媒は、環状の非プロトン性極性溶媒を1種以上含むことが好ましく、環状カーボネートを1種以上含むことがより好ましい。
【0040】
アセトニトリルは、電気化学的に還元分解され易い。そのため、これを、別の溶媒と混合すること、及び、電極への保護皮膜形成のための電極保護用添加剤を添加すること、のうちの少なくとも1つを行うことが好ましい。
【0041】
アセトニトリルはイオン伝導性が高く、電池内におけるリチウムイオンの拡散性を高めることができる。そのため、電解液がアセトニトリルを含有する場合には、特に、正極活物質層を厚くして正極活物質の充填量を高めた正極においても、高負荷での放電時にはリチウムイオンが到達し難い集電体近傍の領域にまで、リチウムイオンが良好に拡散できるようになる。よって、高負荷放電時にも十分な容量を引き出すことが可能となり、負荷特性に優れた非水系二次電池とすることができる。
【0042】
非水系電解液の非水系溶媒にアセトニトリルを用いることにより、前記のとおり、非水系電解液のイオン伝導性が向上することから、非水系二次電池の急速充電特性を高めることもできる。非水系二次電池の定電流(CC)−定電圧(CV)充電では、CV充電期間における単位時間当たりの充電容量よりも、CC充電期間における単位時間当たりの容量の方が大きい。非水系電解液の非水系溶媒にアセトニトリルを使用した場合には、CC充電できる領域を大きく(CC充電の時間を長く)できる他、充電電流を高めることもできるため、非水系二次電池の充電開始から満充電状態にするまでの時間を大幅に短縮できる。
【0043】
<2−2.リチウム塩>
本実施形態における電解質塩としての含フッ素リチウム塩は、LiPF
6と、LiBF
4と、リチウムジフルオロオキサラトボレート(LiFOB)を含むことを特徴とする。非水系電解液中の、LiPF
6と、LiBF
4と、LiFOBの合計濃度は0.5〜2.0mol/Lであることが好ましい。より好ましくは0.8mol以上である。また、LiPF
6と、LiBF
4と、LiFOBの合計濃度は、約1〜2mol/L程度であることが更に好ましい。この値は、非水系溶媒1Lに対して15mol以下であることが好ましく、4mol以下であることがより好ましく、2.8mol以下であることが更に好ましい。含フッ素リチウム塩の合計含有量が上述の範囲内にある場合、イオン伝導度が増大し高出力特性を発現できる傾向にあり、貯蔵特性及びその他の電池特性を一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0044】
電解液中に含有される含フッ素リチウム塩のうちでは、モル分率としてLiPF
6が一番多く含有される。これはLiPF
6が良好なイオン伝導性を有することに拠る。ただし、加水分解によるフッ酸発生の影響を抑制する処置が必要となる。
【0045】
含フッ素リチウム塩は、正極集電体として汎用的なアルミニウムと反応して、AlF
3不動態皮膜を形成することが知られている。この不動態皮膜形成により、アルミニウム集電体表面が耐食性を有するようになる。しかし、AlF
3は絶縁性であるため、形成される不動態皮膜が厚すぎると、内部抵抗の増大を引き起こすので、適度な厚みで、欠陥無く形成されることが好ましい。LiPF
6のみを用いると、LiPF
6の反応性が高いために、不動態皮膜の厚みが必要以上に厚くなる傾向がある。ここに、LiBF
4およびLiFOBを共存させることにより、薄く、均一性の高い不動態皮膜を形成することが可能となる
。
【0046】
また、LiBF
4と、LiFOBの含有量は、モル分率でLiFOBをLiBF
4より多く含有することが好ましい。LiFOBは、正極集電体の不動態皮膜の形成のみならず、負極活物質表面皮膜形成にも寄与している。LiFOBよりもLiBF
4を多く含有すると、理由は不明であるが、負極表面のSEI膜形成が阻害される傾向が見られる。
【0047】
電解液中には、LiPF
6、LiBF
4以外のフッ素含有無機リチウム塩を含んでいてもよい。「フッ素含有無機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含まず、フッ素原子をアニオンに含み、非水系溶媒に可溶なリチウム塩をいう。本実施形態におけるフッ素含有無機リチウム塩は、正極集電体である金属箔の表面に不働態皮膜を形成し、正極集電体の腐食を抑制する。フッ素含有無機リチウム塩は、溶解性、伝導度、及び電離度という観点から電解質塩として優れている。LiPF
6、LiBF
4以外に用いられるフッ素含有無機リチウム塩の具体例としては、例えば、LiAsF
6、Li
2SiF
6、LiSBF
6、Li
2B
12F
bH
12−b〔bは0〜3の整数、好ましくは1〜3の整数〕、LiN(SO
2F)
2等が挙げられる。
【0048】
本実施形態で使用できるリチウム塩としては、フッ素含有無機リチウム塩以外に、非水系二次電池用に用いられている無機リチウム塩、及び/又は有機リチウム塩を補助的に添加してもよい。「無機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含まず、非水系溶媒に可溶なリチウム塩をいう。「有機リチウム塩」とは、炭素原子をアニオンに含み、非水系溶媒に可溶なリチウム塩をいう。
【0049】
具体例としては、例えば、LiClO
4、LiAlO
4、LiAlCl
4、LiB
10Cl
10、クロロボランLi等のフッ素原子をアニオンに含まない無機リチウム塩;LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、Li
2C
2F
4(SO
3)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、LiC
nF
2n+1SO
3(n≧2)、低級脂肪族カルボン酸Li、四フェニルホウ酸Li等の有機リチウム塩;LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2等のLiN(SO
2C
mF
2m+1)
2〔mは1〜8の整数〕で表される有機リチウム塩;LiPF
5(CF
3)等のLiPF
n(C
pF
2p+1)
6−n〔nは1〜5の整数、pは1〜8の整数〕で表される有機リチウム塩;LiBF
3(CF
3)等のLiBF
q(C
sF
2s+1)
4−q〔qは1〜3の整数、sは1〜8の整数〕で表される有機リチウム塩;LiB(C
2O
4)
2で表されるリチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB);ハロゲン化LiBOB;LiBF
2(C
2O
4)で表されるリチウムオキサラトジフルオロボレート(LiODFB);LiB(C
3O
4H
2)
2で表されるリチウムビス(マロネート)ボレート(LiBMB);LiPF
4(C
2O
4)で表されるリチウムテトラフルオロオキサラトフォスフェート、LiPF
2(C
2O
4)
2で表されるリチウムジフルオロビス(オキサラト)フォスフェート等の有機リチウム塩、多価アニオンと結合されたリチウム塩;下記一般式(1a)、(1b)、及び(1c):
LiC(SO
2R
6)(SO
2R
7)(SO
2R
8) (1a)
LiN(SO
2OR
9)(SO
2OR
10) (1b)
LiN(SO
2R
11)(SO
2OR
12) (1c)
{式中、R
6、R
7、R
8、R
9、R
10、R
11、及びR
12は、互いに同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を示す。}のそれぞれで表される有機リチウム塩等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を、フッ素含有無機リチウム塩と共に使用することができる。
【0050】
非水系二次電池の負荷特性改善及び充放電サイクル特性改善のためには、シュウ酸基を有する有機リチウム塩を補助的に添加することが好ましく、LiB(C
2O
4)
2、LiPF
4(C
2O
4)、及びLiPF
2(C
2O
4)
2から成る群より選択される1種以上を添加することが特に好ましい。このシュウ酸基を有する有機リチウム塩は、非水系電解液に添加する他、負極(負極活物質層)に含有させてもよい。これらのシュウ酸基を含有する有機リチウム塩は負極表面の皮膜形成剤として機能する。
【0051】
前記のシュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液への添加量は、その使用による効果をより良好に確保する観点から、非水系電解液の非水系溶媒1L当たりの量として、0.005モル以上であることが好ましく、0.02モル以上であることがより好ましく、0.05モル以上であることが更に好ましい。ただし、前記のシュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液中の量が多すぎると析出するおそれがある。よって、前記のシュウ酸基を有する有機リチウム塩の非水系電解液への添加量は、非水系電解液の非水系溶媒1L当たりの量で、1.0モル未満であることが好ましく、0.5モル未満であることがより好ましく、0.2モル未満であることが更に好ましい。
【0052】
<2−3.電極保護用添加剤>
本実施形態における電解液には、電極を保護する添加剤が含まれていてもよい。電極保護用添加剤としては、本発明による課題解決を阻害しないものであれば特に制限はない。リチウム塩を溶解する溶媒としての役割を担う物質(すなわち上述の非水系溶媒)と実質的に重複してもよい。電極保護用添加剤は、本実施形態における電解液及び非水系二次電池の性能向上に寄与する物質であることが好ましいが、電気化学的な反応には直接関与しない物質をも包含する。
【0053】
電極保護用添加剤の具体例としては、例えば、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、シス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、トランス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4,5−トリフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4,5,5−テトラフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、及び4,4,5−トリフルオロ−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オンに代表されるフルオロエチレンカーボネート;ビニレンカーボネート、4,5−ジメチルビニレンカーボネート、及びビニルエチレンカーボネートに代表される不飽和結合含有環状カーボネート;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、δ−カプロラクトン、及びε−カプロラクトンに代表されるラクトン;1,4−ジオキサンに代表される環状エーテル;エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、ブチレンサルファイト、ペンテンサルファイト、スルホラン、3−メチルスルホラン、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、及びテトラメチレンスルホキシドに代表される環状硫黄化合物が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0054】
非水系溶媒としてアセトニトリルを含有する場合、アセトニトリルは電気化学的に還元分解され易いため、該アセトニトリルを含む非水系溶媒は、負極への保護皮膜形成のための添加剤として環状の非プロトン性極性溶媒を1種以上含むことが好ましく、不飽和結合含有環状カーボネートを1種以上含むことがより好ましい。
【0055】
本実施形態における電解液中の電極保護用添加剤の含有量については、特に制限はない。しかし、非水系溶媒の全量に対する電極保護用添加剤の含有量として、0.1〜30体積%であることが好ましく、2〜20体積%であることがより好ましく、5〜15体積%であることが更に好ましい。
【0056】
本実施形態においては、電極保護用添加剤の含有量が多いほど電解液の劣化が抑えられる。しかし、電極保護用添加剤の含有量が少ないほど非水系二次電池の低温環境下における高出力特性が向上することになる。従って、電極保護用添加剤の含有量を上述の範囲内に調整することによって、非水系二次電池としての基本的な機能を損なうことなく、電解液の高イオン伝導度に基づく優れた性能を最大限に発揮することができる傾向にある。このような組成で電解液を調製することにより、非水系二次電池のサイクル性能、低温環境下における高出力性能及びその他の電池特性の全てを一層良好なものとすることができる傾向にある。
【0057】
<2−4.その他の任意的添加剤>
本実施形態においては、非水系二次電池の充放電サイクル特性の改善、高温貯蔵性、安全性の向上(例えば過充電防止等)等の目的で、非水系電解液に、例えば、無水酸、スルホン酸エステル、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、tert−ブチルベンゼン、リン酸エステル〔エチルジエチルホスホノアセテート(EDPA):(C
2H
5O)
2(P=O)−CH
2(C=O)OC
2H
5、リン酸トリス(トリフルオロエチル)(TFEP):(CF
3CH
2O)
3P=O、リン酸トリフェニル(TPP):(C
6H
5O)
3P=O等〕等、及びこれらの各化合物の誘導体等から選択される任意的添加剤を、適宜含有させることもできる。特に前記のリン酸エステルは、貯蔵時の副反応を抑制する作用があり、効果的である。
【0058】
<3.正極>
正極150は、正極合剤から作製した正極活物質層と、正極集電体とを有して構成される。正極150は、非水系二次電池の正極として作用するものであれば特に限定されず、公知のものであってもよい。正極活物質層は、正極活物質を含有し、場合により導電助剤及びバインダーを更に含有する。
【0059】
正極活物質層は、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料を含有することが好ましい。正極活物質層は、正極活物質とともに、必要に応じて導電助剤及びバインダーを含有することが好ましい。このような材料を用いる場合、高電圧及び高エネルギー密度を得ることができる傾向にあるので好ましい。
【0060】
正極活物質としては、例えば、下記の一般式(2a)及び(2b):
Li
xMO
2 (2a)
Li
yM
2O
4 (2b)
{式中、Mは少なくとも1種の遷移金属元素を含む1種以上の金属元素を示し、xは0〜1.1の数、yは0〜2の数を示す。}のそれぞれで表されるリチウム含有化合物、及びその他のリチウム含有化合物が挙げられる。
【0061】
一般式(2a)及び(2b)のそれぞれで表されるリチウム含有化合物としては、例えば、LiCoO
2に代表されるリチウムコバルト酸化物;LiMnO
2、LiMn
2O
4、及びLi
2Mn
2O
4に代表されるリチウムマンガン酸化物;LiNiO
2に代表されるリチウムニッケル酸化物;Li
zMO
2(MはNi、Mn、及びCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含み、且つ、Ni、Mn、Co、Al、及びMgからなる群より選ばれる2種以上の金属元素を示し、zは0.9超1.2未満の数を示す。)で表されるリチウム含有複合金属酸化物等が挙げられる。
【0062】
一般式(2a)及び(2b)のそれぞれで表されるリチウム含有化合物以外のリチウム含有化合物としては、リチウムを含有するものであれば特に限定されない。このようなリチウム含有化合物としては、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物、リチウムを有する金属カルコゲン化物、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸金属化合物、及びリチウムと遷移金属元素とを含むケイ酸金属化合物(例えばLi
tM
uSiO
4、Mは一般式(3a)と同義であり、tは0〜1の数、uは0〜2の数を示す。)が挙げられる。より高い電圧を得る観点から、リチウム含有化合物としては、特に、リチウムと、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、及びチタン(Ti)からなる群より選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素と、を含む複合酸化物、及びリン酸金属化合物が好ましい。
【0063】
リチウム含有化合物としてより具体的には、リチウムと遷移金属元素とを含む複合酸化物又はリチウムと遷移金属元素とを含む金属カルコゲン化物、及びリチウムを有するリン酸金属化合物がより好ましく、例えば、それぞれ以下の一般式(3a)及び(3b):
Li
vM
ID
2 (3a)
Li
wM
IIPO
4 (3b)
{式中、Dは酸素又はカルコゲン元素を示し、M
I及びM
IIはそれぞれ1種以上の遷移金属元素を示し、v及びwの値は、電池の充放電状態によっており、vは0.05〜1.10、wは0.05〜1.10の数を示す。}のそれぞれで表される化合物が挙げられる。
【0064】
上述の一般式(3a)で表されるリチウム含有化合物は層状構造を有し、上述の一般式(3b)で表される化合物はオリビン構造を有する。これらのリチウム含有化合物は、構造を安定化させる等の目的から、Al、Mg、又はその他の遷移金属元素により遷移金属元素の一部を置換したもの、これらの金属元素を結晶粒界に含ませたもの、酸素原子の一部をフッ素原子等で置換したもの、正極活物質表面の少なくとも一部に他の正極活物質を被覆したもの等であってもよい。
【0065】
本実施形態における正極活物質としては、上記のようなリチウム含有化合物のみを用いてもよいし、該リチウム含有化合物とともにその他の正極活物質を併用してもよい。
【0066】
このようなその他の正極活物質としては、例えば、トンネル構造及び層状構造を有する金属酸化物又は金属カルコゲン化物;イオウ;導電性高分子等が挙げられる。トンネル構造及び層状構造を有する金属酸化物、又は金属カルコゲン化物としては、例えば、MnO
2、FeO
2、FeS
2、V
2O
5、V
6O
13、TiO
2、TiS
2、MoS
2、及びNbSe
2に代表されるリチウム以外の金属の酸化物、硫化物、セレン化物等が挙げられる。導電性高分子としては、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、及びポリピロールに代表される導電性高分子が挙げられる。
【0067】
上述のその他の正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられ、特に制限はない。しかしながら、リチウムイオンを可逆安定的に吸蔵及び放出することが可能であり、且つ、高エネルギー密度を達成できることから、前記正極活物質層がNi、Mn、及びCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有することが好ましい。
【0068】
正極活物質として、リチウム含有化合物とその他の正極活物質とを併用する場合、両者の使用割合としては、正極活物質の全部に対するリチウム含有化合物の使用割合として、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましい。
【0069】
導電助剤としては、例えば、グラファイト、アセチレンブラック、及びケッチェンブラックに代表されるカーボンブラック、並びに炭素繊維が挙げられる。導電助剤の含有割合は、正極活物質100質量部に対して、10質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは1〜5質量部である。
【0070】
バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、及びフッ素ゴムが挙げられる。バインダーの含有割合は、正極活物質100質量部に対して、6質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5〜4質量部である。
【0071】
正極活物質層は、正極活物質と、必要に応じて導電助剤及びバインダーとを混合した正極合剤を溶剤に分散した正極合剤含有スラリーを、正極集電体に塗布及び乾燥(溶媒除去)し、必要に応じてプレスすることにより形成される。このような溶剤としては、特に制限はなく、従来公知のものを用いることができる。例えば、N―メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、水等が挙げられる。正極合剤含有スラリー中の固形分濃度は、好ましくは30〜80質量%であり、より好ましくは40〜70質量%である。
【0072】
正極集電体は、アルミニウム箔を用いる。集電体表面にカーボンコートが施されていてもよく、メッシュ状に加工されていてもよい。正極集電体の厚みは、5〜40μmであることが好ましく、7〜35μmであることがより好ましく、9〜30μmであることが更に好ましい。
【0073】
上記の如く調製した正極合剤含有スラリーを正極集電体に塗布し、乾燥して正極活物質層を形成する。乾燥後に得られた正極活物質層をロールプレス等により圧縮することで正極活物質層が形成される。圧縮後の正極合剤厚さは10〜300μmであることが好ましく、20〜280μmであることがより好ましく、30〜250μmであることが更に好ましい。
【0074】
<4.負極>
負極160は、負極合剤から作製した負極活物質層と、負極集電体とを有して構成される。負極160は、非水系二次電池の負極として作用するものであれば特に限定されず、公知のものであってもよい。
負極活物質層は、負極活物質とともに、必要に応じて導電助剤及びバインダーを含有することが好ましい。
【0075】
負極活物質としては金属リチウム、リチウム合金の他に、リチウムイオンをドーブ・脱ドーブすることが可能な材料が用いられる。例えば、炭素材料、酸化スズ、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化チタン、チタン酸リチウム(Li
4Ti
5O
12)、シリコン、遷移金属窒素化物等が挙げられる。その中でも、電池電圧を高められるという観点から、リチウムイオンを0.4V vs.Li/Li
+よりも卑な電位で吸蔵することが可能な材料を用いることが好ましい。そのような材料は炭素系材料であり、例えば、アモルファスカーボン(ハードカーボン)、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛、熱分解炭素、コークス、ガラス状炭素、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭、グラファイト、炭素コロイド、及びカーボンブラックに代表される炭素材料が挙げられる。負極活物質は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0076】
導電助剤としては、例えば、グラファイト、アセチレンブラック、及びケッチェンブラックに代表されるカーボンブラック、並びに炭素繊維が挙げられる。導電助剤の含有割合は、負極活物質100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.1〜10質量部である。
【0077】
バインダーとしては、例えば、PVDF、PTFE、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、及びフッ素ゴムが挙げられる。バインダーの含有割合は、負極活物質100質量部に対して、10質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5〜6質量部である。
【0078】
負極活物質層は、負極活物質と必要に応じて導電助剤及びバインダーとを混合した負極合剤を溶剤に分散した負極合剤含有スラリーを、負極集電体に塗布及び乾燥(溶媒除去)し、必要に応じてプレスすることにより形成される。このような溶剤としては、特に制限はなく、従来公知のものを用いることができる。例えば、N―メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、水等が挙げられる。負極合剤含有スラリー中の固形分濃度は、好ましくは30〜80質量%であり、より好ましくは40〜70質量%である。
【0079】
負極集電体は、例えば、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔等の金属箔により構成される。また、負極集電体は、表面にカーボンコートが施されていてもよいし、メッシュ状に加工されていてもよい。負極集電体の厚みは、5〜40μmであることが好ましく、6〜35μmであることがより好ましく、7〜30μmであることが更に好ましい。
【0080】
上記の如く調製した負極合剤含有スラリーを負極集電体に塗布し、乾燥して負極活物質層を形成する。乾燥後に得られた負極活物質層をロールプレス等により圧縮することで負極活物質層が形成される。圧縮後の負極合剤厚さは10〜300μmであることが好ましく、20〜280μmであることがより好ましく、30〜250μmであることが更に好ましい。
【0081】
<5.セパレータ>
本実施形態における非水系二次電池100は、正極150及び負極160の短絡防止、シャットダウン等の安全性付与の観点から、正極150と負極160との間にセパレータ170を備えることが好ましい。セパレータ170としては、公知の非水系二次電池に備えられるものと同様のものを用いてもよく、イオン透過性が大きく、機械的強度に優れる絶縁性の薄膜が好ましい。セパレータ170としては、例えば、織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜等が挙げられ、これらの中でも、合成樹脂製微多孔膜が好ましい。
【0082】
合成樹脂製微多孔膜としては、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレンを主成分として含有する微多孔膜、或いは、これらのポリオレフィンの双方を含有する微多孔膜等のポリオレフィン系微多孔膜が好適に用いられる。不織布としては、例えば、ガラス製、セラミック製、ポリオレフィン製、ポリエステル製、ポリアミド製、液晶ポリエステル製、アラミド製等の耐熱樹脂製の多孔膜が挙げられる。
【0083】
セパレータ170は、1種の微多孔膜を単層又は複数積層した構成であってもよく、2種以上の微多孔膜を積層したものであってもよい。セパレータ170は、2種以上の樹脂材料を溶融混錬した混合樹脂材料を用いて単層又は複数層に積層した構成であってもよい。
【0084】
<6.電池外装>
本実施形態における非水系二次電池100の電池外装110の構成は特に限定されないが、例えば、電池缶及びラミネートフィルム外装体のいずれかの電池外装を用いることができる。電池缶としては、例えば、スチール又はアルミニウムからなる金属缶を用いることができる。ラミネートフィルム外装体としては、例えば、熱溶融樹脂/金属フィルム/樹脂の3層構成からなるラミネートフィルムを用いることができる。
【0085】
ラミネートフィルム外装体は、熱溶融樹脂側を内側に向けた状態で2枚重ねて、又は熱溶融樹脂側を内側に向けた状態となるように折り曲げて、端部をヒートシールにより封止した状態で外装体として用いることができる。ラミネートフィルム外装体を用いる場合、正極集電体に正極リード体130(又は正極端子及び正極端子と接続するリードタブ)を接続し、負極集電体に負極リード体140(又は負極端子及び負極端子と接続するリードタブ)を接続してもよい。この場合、正極リード体130及び負極リード体140(又は正極端子及び負極端子のそれぞれに接続されたリードタブ)の端部が外装体の外部に引き出された状態でラミネートフィルム外装体を封止してもよい。
【0086】
アセトニトリル系電解液を使用した場合、ヒートシール時にラミネートセルの膨れが生じやすいため、アルミニウムラミネートの封止部のうち、電解液を注液する封止部の積層体又は捲回体からの距離を15〜40mmとすることが好ましい。上記の距離にすることにより、セルの膨れを防止することができる。
【0087】
<7.電池の製造方法>
本実施形態における非水系二次電池100は、上述の非水系電解液、集電体の片面又は両面に正極活物質層を有する正極150、集電体の片面又は両面に負極活物質層を有する負極160、及び電池外装110、並びに必要に応じてセパレータ170を用いて、公知の方法により作製される。
【0088】
先ず、正極150及び正極160、並びに必要に応じてセパレータ170からなる積層体を形成する。例えば、長尺の正極150と負極160とを、正極150と負極160との間に該長尺のセパレータを介在させた積層状態で巻回して巻回構造の積層体を形成する態様;正極150及び負極160を一定の面積と形状とを有する複数枚のシートに切断して得た正極シートと負極シートとを、セパレータシートを介して交互に積層した積層構造の積層体を形成する態様;長尺のセパレータをつづら折りにして、該つづら折りになったセパレータ同士の間に交互に正極体シートと負極体シートとを挿入した積層構造の積層体を形成する態様;等が可能である。
【0089】
次いで、電池外装110(電池ケース)内に上述の積層体を収容して、本実施形態に係る電解液を電池ケース内部に注液し、積層体を電解液に浸漬して封印することによって、本実施形態における非水系二次電池を作製することができる。
【0090】
或いは、電解液を高分子材料からなる基材に含浸させることによって、ゲル状態の電解質膜を予め作製しておき、シート状の正極150、負極160、及び電解質膜、並びに必要に応じてセパレータ170を用いて積層構造の積層体を形成した後、電池外装110内に収容して非水系二次電池100を作製することもできる。
【0091】
本実施形態における非水系二次電池100の形状は、特に限定されず、例えば、円筒形、楕円形、角筒型、ボタン形、コイン形、扁平形、ラミネート形等が好適に採用される。
【0092】
なお、電極の配置が、負極活物質層の外周端と正極活物質層の外周端とが重なる部分が存在するように、又は負極活物質層の非対向部分に幅が小さすぎる箇所が存在するように設計されている場合、電池組み立て時に電極の位置ずれが生じることにより、非水系二次電池における充放電サイクル特性が低下するおそれがある。よって、該非水系二次電池に使用する電極体は、電極の位置を予めポリイミドテープ、ポリフェニレンスルフィドテープ、PPテープ等のテープ類、接着剤等により、固定しておくことが好ましい。
【0093】
本実施形態における非水系二次電池100は、初回充電により電池として機能し得るが、初回充電の際に電解液の一部が分解することにより安定化する。初回充電の方法について特に制限はないが、初回充電は0.001〜0.3Cで行われることが好ましく、0.002〜0.25Cで行われることがより好ましく、0.003〜0.2Cで行われることが更に好ましい。初回充電が、途中に定電圧充電を経由して行われることも好ましい結果を与える。定格容量を1時間で放電する定電流が1Cである。リチウム塩が電気化学的な反応に関与する電圧範囲を長く設定することによって、SEIが電極表面に形成され、正極150を含めた内部抵抗の増加を抑制する効果があることの他、反応生成物が負極160のみに強固に固定化されることなく、何らかの形で、正極150、セパレータ170等の、負極160以外の部材にも良好な効果を与える。このため、非水系電解液に溶解したリチウム塩の電気化学的な反応を考慮して初回充電を行うことは、非常に有効である。
【0094】
本実施形態における非水系二次電池100は、複数個の非水系二次電池100を直列又は並列に接続した電池パックとして使用することもできる。電池パックの充放電状態を管理する観点から、1個あたりの使用電圧範囲は2〜5Vであることが好ましく、2.5〜5Vであることがより好ましく、2.75V〜5Vであることが特に好ましい。
【0095】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0096】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明する。各種評価は以下のようにして実施した。
【0097】
(1)正極の作製
正極活物質としてリチウム、ニッケル、マンガン及びコバルトの複合酸化物(LiNi
0.5Mn
0.2Co
0.3O
2)と、導電助剤としてアセチレンブラック粉末と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、100:3.5:3の質量比で混合し、正極合剤を得た。得られた正極合剤に溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを投入して更に混合して、正極合剤含有スラリーを調製した。正極集電体となる厚さ15μmのアルミニウム箔に、この正極合剤含有スラリーを、目付量が約95.0g/m
2になるように調節しながらアルミニウム箔の片面に塗布した。正極合剤含有スラリーをアルミニウム箔に塗布する際には、アルミニウム箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで正極活物質層の密度が1.90g/cm
3になるように圧延することにより、正極活物質層と正極集電体とからなる正極を得た。
【0098】
次に、この正極を、正極活物質層の面積が30mm×50mmで、且つアルミニウム箔の露出部を含むように切断し、アルミニウム箔の露出部に電流を取り出すためのアルミニウム製のリード片を溶接し、120℃で12時間真空乾燥を行うことによりリード付き正極を得た。
【0099】
(2−1)黒鉛負極の作製
負極活物質である黒鉛と、バインダーであるカルボキシメチルセルロースとスチレンブタジエンラテックスとを、100:1.1:1.5の質量比で混合し、更に適量の水を添加した後に十分に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。このスラリーを、厚みが10μmの銅箔の片面に一定厚みで銅箔の片面に塗布した。負極合剤含有スラリーを銅箔に塗布する際には、銅箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで負極活物質層の密度が1.20g/cm
3になるように圧延することにより、負極活物質層と負極集電体とからなる負極を得た。
【0100】
次に、この負極を、負極活物質層の面積が32mm×52mmで、且つ銅箔の露出部を含むように切断し、更に、銅箔の露出部に電流を取り出すためのニッケル製のリード片を溶接し、80℃で12時間真空乾燥を行うことによりリード付き負極を得た。
【0101】
(2−2)LTO負極の作製
負極活物質である数平均粒子径7.4μmのLi
4Ti
5O
12(密度3.30g/cm
3)と、導電助剤として数平均粒子径48nmのアセチレンブラック(密度1.95g/cm
3)と、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF;密度1.75g/cm
3)とを、82.0:8.0:10.0の質量比で混合し、負極合剤を得た。得られた負極合剤に溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを固形分45質量%となるように投入して更に混合して、負極合剤含有スラリーを調製した。このスラリーを、厚みが10μmの銅箔の片面に一定厚みで銅箔の片面に塗布した。負極合剤含有スラリーを銅箔に塗布する際には、銅箔の一部が露出するように未塗布領域を形成した。その後、ロールプレスで負極活物質層の密度が1.86g/cm
3になるように圧延することにより、負極活物質層と負極集電体とからなる負極を得た。
【0102】
次に、この負極を、負極活物質層の面積が32mm×52mmで、且つ銅箔の露出部を含むように切断し、更に、銅箔の露出部に電流を取り出すためのニッケル製のリード片を溶接し、80℃で12時間真空乾燥を行うことによりリード付き負極を得た。
【0103】
(3)単層ラミネート電池の組み立て
裁断後の前記リード付き正極と前記リード付き負極とを、ポリエチレン製微多孔膜セパレータ(厚み21μm)を介して重ね合わせて積層電極体とし、この積層電極体を、90mm×80mmのアルミニウムラミネートシート外装体内に収容し、水分を除去するために80℃で5時間真空乾燥を行った。続いて、電解液を外装体内に注入した後、外装体を封止して、
図1に示す外観で、
図2に示す断面構造の単層ラミネート型非水系二次電池(以下、単に「単層ラミネート電池」ともいう)を作製した。この単層ラミネート電池は、定格電流値が23mAh、定格電圧値が4.2Vのものである。
【0104】
(4)単層ラミネート電池の評価
上述のようにして得られた単層ラミネート電池について、先ず、以下の(4−1)の手順に従って初回充放電処理を行った。次に、以下の(4−2)の手順に従って、正極集電体不動態膜の形成状態を評価し、以下の(4−3)の手順に従って、出力特性を評価した。充放電は、アスカ電子(株)製の充放電装置ACD−01(商品名)及び二葉科学社製の恒温槽PLM−73S(商品名)を用いて行った。
【0105】
ここで、1Cとは満充電状態の電池を、定電流で放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。下記においては、4.2Vの満充電状態から定電流で3.0Vまで放電して1時間で放電終了となることが期待される電流値を意味する。
【0106】
(4−1)単層ラミネート電池の初回充放電処理
単層ラミネート電池の周囲温度を25℃に設定し、0.05Cに相当する1.125mAの定電流で充電して電池電圧が4.2Vに到達するまで充電を行った後、4.2Vの定電流で合計3時間充電を行った。その後0.3Cに相当する7.5mAの定電流で3.0Vまで放電した。
【0107】
(4−2)正極集電体不動態膜の形成状態評価
(4−1)の処理後、電池をArボックス中で解体した。取り出した正極をテトラヒドロフランで洗浄し、次に大気下で水洗して、N−メチル−2−ピロリドンにて、正極活物質層を剥離した。乾燥後、予め測定しておいたアルミ箔の重量を差し引いて、集電体アルミニウム箔上に残存した物質を不動態皮膜として重量を測定した。残存物の比重を2g/cm
3として、集電体に形成された不動態皮膜の厚みを算出した。
【0108】
(4−3)出力特性(放電容量維持率)
下記に記す実施例2及び比較例2で得られた各単層ラミネート電池について、25℃において、0.5mA/cm
2の電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、1時間4.2Vで定電圧充電を行った。充電後の各単層ラミネート電池について、1.5mA/cm
2、15mA/cm
2のそれぞれの電流値で3.0Vになるまで定電流で放電して、それぞれの電流値での放電容量を測定した。
【0109】
そして、1.5mA/cm
2の放電容量を15mA/cm
2の放電容量で除した値を放電容量維持率とし、百分率で表した。
【0110】
(5)Li浸漬試験
電解液組成によって負極表面SEIの形成状態が異なるため、次のような簡易評価を実施した。評価を行う組成の電解液5mlに、Li金属箔(厚さ200μm、3mm四方)を浸漬し、Ar雰囲気下、50℃で7日間保存した。SEI形成が不良のため、Li金属が溶出して、電解液が着色した場合は「×(不良)」とし、SEI形成が良好で、Li金属が溶出せず、電解液が着色しなかった場合は「○(良好)」とした。
【0111】
[実施例及び比較例]
アセトニトリル/プロピレンカーボネート/ビニレンカーボネート/エチレンサルファイト=47/38/11/4(体積比)の非水系溶媒に、Li塩が表1の濃度となるように溶解した電解液を調製し、実施例および比較例の電池に組み込んだ。実施例1、比較例1及び比較例3では負極活物質としてLi
4Ti
5O
12(以降、LTOと略す)を用い、実施例2及び比較例2では負極活物質として黒鉛を用いた。これらの電池の正極集電体不動態膜の厚み、および、これらの組成の電解液における負極表面SEI形成状態簡易評価の結果を表1に示す。
【0112】
【表1】
【0113】
比較例1では、(4−1)の初期充放電処理後、電池を解体してみたところ、正極活物質層が集電体から剥離しているのが確認された。この剥離は、不動態皮膜が厚膜化したことに起因するものであり、内部抵抗値の増大を示唆するものである。
【0114】
また、良好なAl不動態を形成し、Li浸漬試験の結果も良好である実施例2と、良好なAl不動態を形成してはいるが、Li浸漬試験の結果は不良であった比較例2について、(4−3)の比較を行った。その結果を表2に示す。
【0115】
【表2】
【0116】
以上の結果から、本実施形態の電解液を用いた非水系二次電池は、正極集電体表面の不動態皮膜の形成が良好であり、かつ、負極表面SEIも良好に形成されるため、内部抵抗が低く、高温下における負極上での還元劣化による保存劣化が低減されたものであると判明した。