(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態1>
以下、
図1〜
図13を参照しつつ、金属材料のクリープ損傷を評価する評価装置ついて詳細に説明する。尚、クリープ損傷とは、高温及び応力負荷環境下で使用されることにより、金属材料が損傷することを意味する。具体的には、絶対温度で融点の半分以上であって、応力が少しでも加わった環境下で使用されることにより、金属材料が損傷することを意味する。
【0013】
1.評価装置1の構成
図1には、金属材料のクリープ損傷を評価する評価装置のブロック図を示す。評価装置1は、測定部5と、データ処理装置20とを備えている。測定部5は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)10と、EBSD(Electron Back Scatter Diffraction)検出器14と、3つの制御ユニット17、18、19を有している。
【0014】
走査型電子顕微鏡10は、内部に試料Wを固定可能な試料ステージ11が配された試料室12と、この試料Wに電子線を照射可能な電子銃13とを備えた一般的な構成のものである。また、EBSD検出器14は、試料Wへの電子線照射によって生じる電子後方散乱回折像を投影するスクリーン15と、投影された電子後方散乱回折像を撮像するための高感度カメラ16とを備えた一般的な構成のものである。
【0015】
3つの制御ユニット17、18、19は、電子銃による電子線照射を制御する電子線制御ユニット17、試料ステージ11の位置及び角度を制御するステージ制御ユニット18、および、高感度カメラ16による撮像を制御するカメラ制御ユニット19からなる。これらの制御ユニット17、18、19はデータ処理装置20に接続されており、CPU21からの指令により試料ステージ11、電子銃13および高感度カメラ16を制御する。
【0016】
データ処理装置20は、コンピュータにより構成されており、電子線照射の制御や回折像の取得、方位解析等を行う測定・解析用プログラムを実行するCPU21と、ハードディスク22とを備えている。ハードディスク22には、データ記憶領域23、プログラム記憶領域24がそれぞれ確保されている。データ記憶領域23には、後述する相関曲線Lのデータ等が記憶されている。また、プログラム記憶領域24には、結晶方位の解析及び金属材料の損傷率Zを評価するためのプログラムなどが記憶されている。
【0017】
本実施形態において、クリープ損傷の評価対象となるのは、ニッケル基超合金等の金属材料であり、特に応力集中部を有する材料である。
例えば、ガスタービンなどの動翼30は、ニッケル基超合金から構成されている。
図2に示すように、動翼30は、タービンディスク40に取り付けられており、
図3に示すように、冷却用の空気孔35が形成されている。こうした動翼30は、ガスタービンの駆動時は、高速で回転し、高温下で負荷が継続的に加わる状態となることから、空気孔35の周囲に応力が集中し、金属材料はクリープ損傷する。
【0018】
尚、応力集中部としては、空気孔35などの孔以外にも、切欠き部等を例示することが出来る。
【0019】
2.クリープ試験と相関曲線Lの取得
クリープ試験は、試験片100に対して高温状態下で一定の応力を加え続ける試験である。クリープ試験の試験片100は、損傷評価の試料と同じ材料であって、応力集中部の形状を模した形状となっている。
【0020】
具体的には、試験片100の材料はニッケル基超合金であり、化学成分の概略及び引張特性は、
図4に示す通りである。また、本実施形態では、応力集中部の形状として、切欠き形状を想定しており、試験片100は、
図5に示すように、中央部両側に概ねV字型の切欠き部120を有した形状となっている。
図5の(a)は、試験片100の全体を示し、(b)は切り欠き部120を拡大して示している。
【0021】
尚、試験片100の寸法は、次の通りである。
試験片100の全長Aは68mm、両端部105の長さBは24mm、中央部110の長さCは20mmである。
試験片100の幅W1は8mm、中央部110の幅W2=4mm、板厚は1.5mmである。
切欠き部120の長さΦ1は0.23mm、深さDは0.25mm、角度θは30°である。
【0022】
図6は、クリープ試験機の正面図である。クリープ試験機70は、試験片100の周囲温度を高温状態にするためのヒータ71と、試験片100に応力を加える引張部75を有している。
【0023】
そして、
図6に示す試験機70を使用して、試験片100に対してクリープ試験を行った。具体的には、周囲温度880℃にて、試験片100に対して294MPaの応力を加え続けた。
【0024】
試験中は、常時、光学顕微鏡を通してき裂の発生、成長等の損傷挙動を観察した。
図7は、切欠き部周辺における結晶方位の変化を示した図であり、(a)は初期状態における各点の結晶方位差、(b)は損傷率Z=0.45の状態における各点の結晶方位差、(c)は損傷率Z=0.73の状態における各点の結晶方位差、(d)破断直前の状態における各点の結晶方位差である。
【0025】
損傷率Zは、クリープ環境下(高温で応力が継続的に加わる環境下)における、金属材料の損傷度合であり、本明細書では下記の(1)式にて定義する。
【0026】
Z=T/Tf・・・・・・(1)式
「T」は初期からの経過時間である。「Tf」は初期から破断までの経過時間であり、本試験では156.8時間である。
【0027】
図7の(b)〜(d)に示すように、結晶方位の変化は、切欠き部120の周囲で顕著に現れている。結晶方位の変化は、損傷率Zが高くなるに連れ大きく、切欠き部120を中心として範囲が広がり、最終的に破断に至っている。
【0028】
上記したクリープ試験中において、
図8に示した一点鎖線枠で示すように、切欠き部120を含む所定の測定エリアEを対象として、試験片表面に電子線を照射して、各測定点Pの結晶方位を電子後方散乱回折法により測定した。尚、結晶方位の計測間隔は一例として5ミクロンである。そして、各損傷率Zについて、各測定点Pにおける結晶方位差Hを算出した。そして、更に、得られたデータから各損傷率Zに対応する第1損傷パラメータU1を算出した。
【0029】
第1損傷パラメータU1は、各測定点Pの結晶方位差Hの合計値であり、本明細書では下記の(2)式にて定義する。
【0030】
U1=ΣH・・・・(2)式
「H」は各測定点の結晶方位差(ただし、結晶方位差が閾値Xより小さいものは除く)
【0031】
尚、電子後方散乱回折法による各測定点Pの結晶方位の測定、各測定点Pにおける結晶方位差Hの算出、第1損傷パラメータU1の算出は、後述するS20〜S60と同様の方法で行っている。
【0032】
図9に示す相関曲線Lは、上記したクリープ試験から得られたものであり、「第1損傷パラメータU1」と「切欠き部120を有する試験片100の損傷率Z」との関係を示している。本実施形態では、相関曲線Lのデータをハードディスク22に記憶しており、相関曲線Lを利用して、切欠き部120を有する金属材料の損傷率Zを評価する。
【0033】
以下、切欠き部120を有する金属材料のクリープ損傷による損傷率Zを評価する方法について説明する。
損傷率Zの評価方法は、
図10に示すように、S10〜S70の7つのステップから構成されている。以下の説明において、金属材料は、試験片100と同じくニッケル基超合金であり、試験片100と同形状で同寸法の切欠き部120を含む形状であるものとする。
【0034】
S10では、測定者が試料の準備を行う。すなわち、高温及び応力負荷環境下で使用された評価対象の金属材料から、切欠き部120を含む一部が試料として採取される。そして、電子後方散乱回折法による分析に適した表面状態となるように準備される。ここで、機械的研磨、電解研磨等の一般的な手法を用いることにより、電子後方散乱法による評価用の試料を作成することが出来る。
【0035】
続く、S20では、走査型電子顕微鏡10の試料ステージ11上にセットされた評価対象の試料について、各測定点Pの結晶方位を、電子後方散乱回折法により測定する。具体的には、まず、クリープ損傷範囲を含む任意の測定エリアEを設定する。本例では、切欠き部120を含む任意の測定エリアEを設定する。そして、設定した測定エリアEを対象として、試料表面に電子線を所定ピッチで照射する。
【0036】
電子線の照射により、電子後方散乱回折像が生じ、スクリーン15上に投影される。投影された電子後方散乱回折像は、高感度カメラ16により撮影され、画像データとしてデータ処理装置20に出力される。
【0037】
続く、S30では、データ処理装置20のCPU21は、得られた電子後方散乱回折像を解析し、各測定点Pにおける結晶方位を得る。なお、この処理は、例えばTSLソリューションズ社製「OIM」等の測定・解析用プログラムを用いて公知の方法で行うことができる。得られた結晶方位は、各測定点Pの座標データとともにハードディスク22のデータ記憶領域23に記録される。尚、S20、S30の処理が本発明の「測定ステップ」に相当する。また、結晶方位の計測間隔は一例として5ミクロンである。
【0038】
続く、S40では、データ処理装置20のCPU21は、S30で得られた各測定点Pの結晶方位に基づき、各測定点Pにおける結晶方位差Hを決定する。具体的には、対象となる測定点Pの結晶方位と基準方位(粒平均方位)との差が、その測定点Pにおける結晶方位差(GROD:Grain Reference Orientation Deviation)として算出される。この処理は、上記ステップS30と同様、例えばTSLソリューションズ社製「OIM」等、公知の測定・解析用プログラムを用いて行うことができる。尚、S40の処理が本発明の「方位差算出処理」、「方位差算出ステップ」に相当する。また、
図11では、結晶粒内の基準点(基準方位の点)Poと各測定点Pとの結晶方位差Hを示している。
【0039】
続く、S50では、データ処理装置20のCPU21は、S40で得られた全測定点Pについて、結晶方位差Hを閾値Xと比較して、結晶方位差Hが閾値Xより大きい測定点Pを抽出する処理を行う。尚、閾値Xは、損傷部位の結晶方位差Hと未損傷部位の結晶方位差Hの境界値である。
【0040】
図12は評価対象と同一の金属材料について、未損傷品の結晶方位差Hの分布を示している。
図12に示すように、未損傷の場合でも、結晶方位差Hは存在している。
図12の場合、結晶方位差Hは、1°以下に99%が収まっており、本例では、結晶方位差Hの閾値Xを1°としている。
【0041】
上記のように、結晶方位差Hを閾値Xと比較することで、S30で算出した全測定点Pの中から、損傷部位の測定点Pを抽出することが出来、未損傷部位の測定点Pは以降の処理から除外することが出来る。
【0042】
その後、S60では、データ処理装置20のCPU21は、第1損傷パラメータU1を算出する。第1損傷パラメータU1は、S50で抽出した各測定点Pの結晶方位差Hの合計値である。尚、S50、S60の処理が本発明の「合計値算出処理」、「合計値算出ステップ」に相当する。
【0043】
そして、S70では、データ処理装置20のCPU21は、S60にて算出した第1損傷パラメータU1に基づいて、金属材料の切欠き部120の損傷率Zを評価する。
【0044】
具体的には、ハードディスク22から、
図9に示す相関曲線Lのデータを読み出す。そして、S60にて算出した第1損傷パラメータU1を、
図9に示す相関曲線Lに参照することで、切欠き部120の損傷率Zを評価する。例えば、S60で算出した第1損傷パラメータU1の値が「Ua」の場合、切欠き部120の損傷率Zは「Za」であると評価出来る。尚、S70の処理が本発明の「評価処理」、「評価ステップ」に相当する。
【0045】
以上のように、本実施形態の評価装置1では、金属材料の切欠き部120の損傷率Zを、測定エリアE内における各測定点Pの結晶方位差Hの合計値に基づいて評価することから、平均値に比べて、損傷率Zを精度よく評価できる。
【0046】
具体的に説明すると、
図13は、切欠き部120などの応力集中部が存在しない試料について、破断状態(Z=1.00)における、各点の結晶方位差Hを示している。
図13に示すように、応力集中部が存在しない場合、結晶方位の変化は、試料の全体に概ね均一に表れる。そのため、応力集中部が存在しない場合であれば、結晶方位差Hの平均値から、金属材料の損傷率Zを精度よく推定することが可能である。
【0047】
一方、切欠き部120を有する金属材料は、
図7の(a)〜(d)に示すように、切欠き部120の周囲に結晶方位の変化が集中し、それ以外の部位では、結晶方位の変化は小さい。そのため、平均をとると、結晶方位の変化が大きな部分が小さな部分によって平均化されてしまうことから、誤差が大きくなり、金属材料の損傷率Zを精度よく推定することは困難である。
【0048】
結晶方位差Hの合計値であれば、結晶方位の変化が大きな部分が小さな部分によって平均化されないことから、誤差が小さく、切欠き部120の損傷率Zを精度よく推定することが可能である。
【0049】
しかも、評価装置1では、測定エリアEに含まれる各測定点Pのうち、結晶方位差Hが閾値Xより大きいものだけを評価の対象としている。すなわち、未損傷部位の結晶方位差Hは合計から除外し、損傷部位の結晶方位差Hだけで、結晶方位差Hの合計値を算出している。このようにすることで、切欠き部120の損傷率Zを精度よく推定することが可能である。すなわち、本構成では、測定エリアEのうち、評価する範囲(結晶方位差の合計を求める範囲)を損傷部位に絞りこむことが出来るため、評価する範囲の選択による誤差を抑えることが可能であり、切欠き部120の損傷率Zを精度よく推定することが可能である。
【0050】
<実施形態2>
実施形態1では、試験片100の一例として、中央部110の上下両側に切欠き部120を有する両側切欠きタイプの試験片を示した。実施形態2では、応力集中部の形状として、
図5に示す切欠きタイプと、
図14に示す孔タイプの2パターンについて、下記の(a)〜(e)に示す5種の試験片を用意した。尚、
図14の(a)は試験片100の全体を示し、(b)は孔130を拡大して示している。
【0051】
そして、各試験片100を対象に、
図6に示す試験機70でクリープ試験(周囲温度880℃にて、294MPaの応力負荷)を行い、損傷率Zと第1損傷パラメータU1との関係を評価した。尚、第1損傷パラメータU1は、実施形態1と同様、結晶方位差Hの合計値である。
【0052】
(a)両側切欠き形状品(
図5参照)
(b)片側切欠き形状品
(c)孔形状品1(
図14参照)
(d)孔形状品2
(e)孔形状品3
【0053】
図16は、損傷率Zと第1損傷パラメータU1との関係を示すグラフであり、「◆」は両側切欠き品のデータ、「△」は片側切欠き品のデータである。また、「●」は孔形状品1のデータ、「□」は孔形状品2のデータである。
【0054】
両側切欠き形状品は、実施形態1で説明した試験片100と同一形状である。また、片側切欠き形状品は、
図5に示す試験片について、切欠き部120を上下いずれか一方にした形状である。
【0055】
孔形状品1は、実施形態1で説明した試験片100に対して応力集中部の形状が相違しており、孔形状品1は、
図14に示すように、試験片100の中央部110に孔130を有する形状となっている。孔130の直径Φは0.5mmである。孔形状品2は、孔形状品1に対して中央部110の幅W2のみ異なっており、孔形状品1はW2=4mmであるのに対して、孔形状品2はW2=6mmである。尚、
図15には、各試験片100の切欠き部120の長さΦ1、孔130の直径Φ2の大きさをまとめている。
【0056】
図16に示すように、「◆」で示す両側切欠き品と「△」で示す片側切欠き品は、各損傷率Zに対する第1損傷パラメータU1の数値が概ね同じ値を示しており、「◆」で示す両側切欠き品と「△」で示す片側切欠き品は、損傷率Zと第1損傷パラメータU1との関係を相関曲線Laで表すことが出来る。尚、両側切欠き品と片側切欠き品の相関曲線が共通していることは、切欠き部120の個数によらず、損傷率Zと第1損傷パラメータU1の関係は、概ね変わらないことを示している。
【0057】
また「●」で示す孔形状品1、「□」で示す孔形状品2についても、各損傷率Zに対する第1損傷パラメータU1の数値が概ね同じ値を示しており、「●」で示す孔形状品1と「□」で示す孔形状品2は、損傷率Zと第1損傷パラメータU1との関係を相関曲線Lbで表すことが出来る。尚、孔形状品1と孔形状品2の相関曲線が共通していることは、孔周りの余肉部分の幅によらず、損傷率Zと第1損傷パラメータU1の関係は、変わらないことを示している。
【0058】
従って、応力集中部の形状に応じた相関曲線La、Lbを選択して使用することで、第1損傷パラメータU1から試料の損傷率Zを求めることが出来る。すなわち、切欠きタイプの場合、切欠き部120の形状と大きさが同じであれば、切欠き部120の個数に関係なく、相関曲線Laを利用して、第1損傷パラメータU1から金属材料の損傷率Zを求めることが出来る。また、孔タイプの場合、孔130の大きさが同一であれば、余肉部分の幅によらず、相関曲線Lbを利用して、第1損傷パラメータU1から金属材料の損傷率Zを求めることが出来る。
【0059】
「〇」で示す孔形状品3は、孔形状品1に対して孔130の直径Φ2が異なっており、孔形状品1はΦ2が0.5mmであるのに対して、孔形状品3は、Φ2が0.25mmである。
【0060】
「〇」で示す孔形状品3のデータは、各損傷率Zに対する第1損傷パラメータU1の数値が、孔形状品1とは異なる数値を示しており、相関曲線Lbから外れている。
【0061】
この事は、孔130の直径Φ2の相違により、相関曲線Lが異なることを示している。そのため、第1損傷パラメータU1を用いた場合、孔130の直径Φ2に応じて、それぞれ相関曲線Lが必要であることを示している。
【0062】
図17は、損傷率Zと第2損傷パラメータU2との関係を示すグラフであり、「◆」は両側切欠き品のデータ、「△」は片側切欠き品のデータである。また、「●」は孔形状品1のデータ、「□」は孔形状品2のデータ、「〇」は孔形状品3のデータである。
【0063】
第2損傷パラメータU2は、各測定点Pの結晶方位差Hの合計値ΣHを、応力集中部の応力方向の長さΦで除した数値であり、本明細書では下記の(3)式にて定義する。
【0064】
U2=ΣH/Φ・・・・(3)式
「H」は各測定点の結晶方位差(ただし、結晶方位差が閾値Xより小さいものは除く)
「Φ」は応力集中部の応力方向の長さ
【0065】
尚、応力方向とは、試料に対して応力が作用する方向である。本例では、クリープ試験時、試験片100に対して、その長手方向(
図5、6、14のR方向)に荷重を加えている。従って、試験片100の長手方向(荷重方向)が応力方向である。
【0066】
そのため、応力集中部の応力方向に沿った長さΦは、
図5に示す切欠きタイプの試験片100の場合、切欠き部120の長さΦ1であり、
図14に示す孔タイプの試験片100の場合、孔130の直径Φ2である。
【0067】
図17に示すように、第2損傷パラメータU2を用いると、全5種の試験片とも、損傷率Zと第2損傷パラメータU2との相関性を1本の相関曲線Lsで表すことが出来る。
【0068】
これは、以下の理由によるものと推察することができる。
図7は切欠きタイプの試験片100について損傷の進行に伴う結晶方位の変化を示した図、
図18は孔タイプの試験片100について損傷の進行に伴う結晶方位の変化を示した図である。
【0069】
図7や
図18に示すように、結晶方位の変化は、切欠き部120や孔130など応力集中部の周囲に集中しており、その範囲は、損傷の進行に伴って広がっている。具体的には、結晶方位の変化は、応力集中部の周囲において、応力方向(
図7、18に示すR方向)に対して広がっている。そのため、同じ損傷率Zで比較すると、結晶方位差Hの合計値は、応力方向(R方向)に沿った応力集中部の長さに比例して、大きくなる傾向を示す。
【0070】
従って、結晶方位差Hの合計値を、応力集中部の応力方向の長さΦで除算して、単位長さ当たりの数値に換算することで、応力方向に沿った長さΦの相違によらない、損傷パラメータUが得られると考えられる(損傷パラメータの正規化)。
【0071】
図19は、実施形態2に適用される損傷率Zの評価方法のフローチャート図である。実施形態2の評価方法は、実施形態1の評価方法に対して、S10〜S60の処理は共通しており、S65の処理が追加されている。
【0072】
S65では、S60にて算出した結晶方位差Hの合計値ΣHを、応力集中部の応力方向に沿った長さΦで除算して、第2損傷パラメータU2を算出する。
【0073】
続くS70では、S65にて算出した第2損傷パラメータU2に基づいて、試料の損傷率Zを評価する。
【0074】
具体的には、S65にて算出した第2損傷パラメータU2を、
図17に示す相関曲線Lsに参照することで、試料の損傷率Zを評価することが出来る。例えば、S65で算出した第2損傷パラメータU2が「Ub」の場合、試料の損傷率Zは「Zb」であると評価することが出来る。
【0075】
このように、実施形態2の構成では、第2損傷パラメータU2を用いて、金属材料の損傷率Zを算出する。そのため、相関曲線Lsを、応力集中部の形状や寸法の違いごとに設ける必要がない、というメリットがある。
【0076】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0077】
(1)実施形態1、2では、金属材料の一例として「ニッケル基超合金」を例示した。評価対象の金属材料は、例えば、「ニッケル基合金」、「アルミ合金」、「SUS」など、未損傷の状態では結晶方位差Hが少なく、クリープ損傷の進行により結晶方位差Hが拡大する特性を持つ金属材料(合金系の金属材料)であれば、広く適用することが出来る。
【0078】
(2)実施形態1では「結晶方位差Hの合計ΣH」を第1損傷パラメータU1とした。実施形態2では「結晶方位差Hの合計ΣHを応力集中部の応力方向の長さΦで徐した数値」を、第2損傷パラメータU2とした。この他にも、下記の(4)式や(5)式にて示すように、第1損傷パラメータU1や第2損傷パラメータU2に対して、結晶方位の計測間隔(
図11に示す寸法Q)の自乗を乗算した値を、第3損傷パラメータU3としてもよい。このようにすることで、結晶方位の計測間隔Qによらない、損傷パラメータとすることが出来る。尚、
図11では、縦方向と横方向で計測間隔Qが相違しているが、実際の計測では、縦方向と横方向の計測間隔は概ね等しい。
【0079】
U3=U1×Q
2・・・・・(4)式
U3=U2×Q
2・・・・・(5)式
【0080】
尚、第3損傷パラメータU3を使用する場合も、第1損傷パラメータU1や第2損傷パラメータU2を用いる場合と同様であり、まず、電子後方散乱回折法により、各測定点Pの結晶方位を測定する。そして、測定結果から各測定点Pの結晶方位差Hを算出し、更に、上記した第3損傷パラメータU3を算出する。その後、第3損傷パラメータU3を、相関曲線(第3損傷パラメータU3と損傷率Zの関係を示す相関曲線)に参照することで、試料の損傷率Zを評価することが出来る。
【0081】
(3)実施形態1では、測定エリア内の全測定点Pのうち、結晶方位差Hが閾値Xより小さい測定点Pは除外して、結晶方位差Hの合計値ΣHを算出した例を示した。これ以外にも、結晶方位差Hが閾値Xより小さい計測点Pについても対象に含め、全計測点Pを対象として、結晶方位差Hの合計値ΣHを算出してもよい。また、実施形態1では、閾値Xを1°としたが、閾値Xは「未損傷品」と「損傷品」の結晶方位差Hの境界値であればよく、実施形態の例に限定されない。