(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6865580
(24)【登録日】2021年4月8日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】金属基板の表面処理方法
(51)【国際特許分類】
C23C 22/53 20060101AFI20210419BHJP
C23C 2/26 20060101ALI20210419BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20210419BHJP
C25D 11/34 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
C23C22/53
C23C2/26
C23C28/00 C
C25D11/34 303
【請求項の数】9
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-510898(P2016-510898)
(86)(22)【出願日】2014年4月29日
(65)【公表番号】特表2016-519220(P2016-519220A)
(43)【公表日】2016年6月30日
(86)【国際出願番号】AT2014050110
(87)【国際公開番号】WO2014176621
(87)【国際公開日】20141106
【審査請求日】2017年4月25日
【審判番号】不服2019-5065(P2019-5065/J1)
【審判請求日】2019年4月17日
(31)【優先権主張番号】A50294/2013
(32)【優先日】2013年4月29日
(33)【優先権主張国】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】513069145
【氏名又は名称】フォエスタルピネ スタール ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】ラッケンダー,ジェラルド
(72)【発明者】
【氏名】ステルンバーガー,カール−ハインツ
【合議体】
【審判長】
中澤 登
【審判官】
亀ヶ谷 明久
【審判官】
平塚 政宏
(56)【参考文献】
【文献】
Timothy Alexander Keppert 外3名, ”Influence of the pH value on the corrosion of Zn−Al−Mg hot−dip galvanized steel sheets in chloride containing environments”, Corrosion Conference and Expo 2012, NACE international, 2012年, Volume 5 of 7, p.3978−3992
【文献】
J.D.Yoo 外4名,”The effect of an artificially synthesized simonkolleite layer on the corrosion of electrogalvanized steel”,Corrosion Science,2013年,Vol.70,p.1−10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C23C 22/00-22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn系の保護被覆を施した金属基板の表面処理方法であって、前記保護被覆上に水とNaClとHClとから成る塩化物含有溶液を塗布し、それにより少なくとも部分的に、ハイドロジンサイトとサイモンコライトとを有する防食層を形成する方法において、保護被覆した基板を、酸を用いてpH値を4〜6に調整し、かつ1.8〜18.5重量%の塩化物を含有する前記塩化物含有溶液とを最長20分間反応させることにより、前記塩化物含有溶液と保護被覆との反応により、層厚が150nm〜1.5μmの防食層において、ハイドロジンサイト含有量に比べてサイモンコライト含有量を多く生成させることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記保護被覆がZn−Al−Mg系であり、前記保護被覆上に前記塩化物含有溶液を塗布し、それにより少なくとも部分的に、ハイドロジンサイトとサイモンコライトとハイドロタルサイトとを有する防食層を形成することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記塩化物含有溶液のpH値をHClで調整することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記塩化物含有溶液と反応させる際に前記金属基板を陽極に帯電させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記塩化物含有溶液の温度を30〜60℃に調整することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記Zn系の保護被覆を、溶融めっき法を用いて薄板に塗布することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記塩化物含有溶液と保護被覆との反応により、サイモンコライトの含有量が少なくとも80%である防食層を形成することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記Zn−Al−Mg保護被覆において、Al/(Al+Mg)の比率が0.5であることを特徴とする、請求項1〜7のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記金属基板は、鋼板であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Zn系の保護被覆を施した金属基板、特に鋼板の表面処理方法であって、この保護被覆上に塩化物含有溶液を塗布し、それにより少なくとも部分的に、
ハイドロジンサイトとサイモンコライトとを有する防食層を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術から、鋼板の耐食性を高めるためにZn−Al−Mg系の保護被覆を施した鋼板を提供することが知られている。しかしながら、意外にも、この保護被覆した鋼板は、耐食性の変動が比較的大きいことが示されている。
【0003】
この保護被覆した鋼板に、pH値をNaOHで調整した5%NaCl水溶液を用いて、DIN EN ISO 9227(NSS)に基づく腐食試験を実施すると、成分としてハイドロタルサイトと
ハイドロジンサイトとサイモンコライトとを有する腐食層の形成が示された(非特許文献1)。腐食層において、
ハイドロジンサイトZn5(CO3)2(OH)6の濃度は、サイモンコライトZn5(OH)8Cl2・H2Oの濃度よりはるかに高かった。さらに、腐食層にはハイドロタルサイト(Zn,Mg)6Al2(OH)16CO3・4H2Oが認められた。加えて、サイモンコライトについては、
ハイドロジンサイトと比べて高い耐食性を示すことが知られている。
【0004】
サイモンコライトの濃度を高めるために、特許文献1は、Zn系の保護被覆におけるAlとMgとの重量比を調整することにより、腐食時にサイモンコライトの生成を容易にすることを提案している。保護被覆における(Mg+Al)に対するAlの比率が0.38〜0.48の範囲内にあるよう提案している。もっとも、この種の配合指示の欠点は、特に溶融めっき法を用いて薄板に保護被覆を塗布する場合、比較的費用がかかることである。すなわち、この方法の再現性を保証することは難しい。さらに、この種の指示がもたらすのは、たいていの場合、腐食挙動の改善と、それに対する機械的、化学的および/または電気的特性に望ましくない変化との妥協にすぎない。そのため、この方法で保護被覆した薄板の使用性は明らかに限定される可能性がある。
【0005】
さらに特許文献2、3および4は、鋼板における、Zn、Mgおよび/またはAlを含有する被覆を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2012/091385号
【特許文献2】特開平01−127683号公報
【特許文献3】特開平04−165082号公報
【特許文献4】特開2011−168855号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“XPS investigation on the surface chemestry of corrosion products on ZnMgAl−coated steel”,Duchoslav et al.,AOFA 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明は、冒頭に記述した先行技術に基づき、Zn系の保護被覆を施した薄板の表面処理方法を変化させることにより、耐食性を高め、その変動幅を縮小し、その製造速度を上げることを課題とする。さらに、方法の高い再現性を保証し、Zn系の保護被覆の組成に関係なく方法が使用可能であることが求めらる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、酸を用いてpH値を4〜6に調整し、かつ1.8〜18.5重量%の塩化物を含有する溶液を用いて、保護被覆した基板を反応させ、防食層において、
ハイドロジンサイト含有量に比べてサイモンコライト含有量を多く生成させることにより、上記の課題を解決する。
【0010】
酸を用いてpH値を4〜6に調整し、かつ1.8〜18.5重量%の塩化物を含有する溶液を用いて、保護被覆した基板を反応させると、それにより、保護被覆上に特に有利な防食層が実現できる。すなわち、この本発明による溶液、同様にとりわけ水溶液は、処理または腐食した保護被覆表面におけるサイモンコライトの生成を大幅に促進できる。特に防食層の組成に対し、この防食層において、
ハイドロジンサイト含有量に比べてサイモンコライト含有量が常に多く生成されるような方向に影響を及ぼすことができる。それにより、保護被覆した基板の高い耐食性を確実に見込むことができる。さらに、保護被覆のこの目的性のある処理または腐食は、Zn系の保護被覆の組成に関係なく実施できる。各配合は、その耐食性に関して改善可能である。すなわち、普遍的に適用可能かつ再現可能な方法が利用でき、その方法では、溶融めっき法が、耐食性、すなわち層厚の一貫性の変動幅と組成とに及ぼす影響を著しく低減できる。
【0011】
しかしながら特に本発明による方法は、保護被覆がZn−Al−Mg系であり、その保護被覆上に塩化物含有溶液を塗布し、それにより少なくとも部分的に、
ハイドロジンサイトとサイモンコライトとハイドロタルサイトとを有する防食層が形成させると、耐食性を向上させるのに優れている。それにより、少なくとも部分的に、
ハイドロジンサイトとサイモンコライトとハイドロタルサイトとを有する防食層の形成が実現できる。すなわち、その腐食しやすい金属間表面層にサイモンコライトを補い、耐食性を高めることができる。また、その結果、比較的緻密な表面被覆が形成され、それにより保護被覆の機械的強度を向上させることができる。さらに、それによって、例えばラッカーなどの他の層との接合性が改善され、この保護被覆で利用できる。加えて、溶液の塩化物含有量を高めることにより、耐食性が改善した保護被覆の製造速度が上がり、それにより、方法を比較的迅速に実施できる。
【0012】
5〜30重量%のNaClを含有する溶液が特に有利であることがわかった。この溶液は、安価かつ容易に製造できるだけでなく、手順上好ましい影響も有する。5〜10重量%のNaClが、溶液中の塩化物含有量を、方法に十分な高さにするのにとりわけよく適している可能性がある。
【0013】
溶液のpH値をHClで調整すれば、腐食反応の活性化を、とりわけサイモンコライトを生成する方向に加速できるだけでなく、溶液の組成において、成分の数を変化させずに済む。これは、方法の再現性に有利に作用する可能性がある。
【0014】
保護被覆に塗布する溶液が水とNaClとHClとから成る場合、特に有利に製造できる。当然のことながら、この溶液には、製造上不可避の不純物がさらに含まれる可能性がある。この − それゆえ製造が容易な − 溶液は、とりわけZn−Al−Mg保護被覆との反応において有利であることを明らかにできた。この反応では、保護被覆の処理した領域において、サイモンコライトの含有量が80%超となった。
【0015】
溶液を最長20分間、被覆と反応させることにより、比較的高いサイモンコライトの含有量を確保することができる。この比較的短い反応時間であっても、本発明による方法は、とりわけ迅速な進行が確保でき、結果として産業用途にも適している。
【0016】
溶液と保護被覆との反応時間は、溶液と反応させる際に金属基板を陽極に帯電させると、さらに短縮させることができる。
【0017】
溶液の温度を30〜60℃に調整すると、サイモンコライトの生成を促し、それにより方法をさらに加速させることができる。
【0018】
本発明は、溶融めっき法を用いて薄板に塗布した − すなわち薄板上に形成した − Zn系の保護被覆において特に優れている。溶融めっき法の既知のパラメーター変動は、溶融めっき法により形成した保護被覆の耐食性に影響を及ぼす可能性があるが、この変動は、これによりすなわち調整可能である。したがって、本発明による方法は、薄板においてとりわけ再現可能な最高の防食を確保できる。
【0019】
溶液と保護被覆との反応により、層厚が150nm〜1.5μmの防食層を形成すると、サイモンコライトを有する十分に緻密な反応層がもたらされ、それにより、保護被覆した基板の耐食性を再現可能に高めることができる。
【0020】
溶液と保護被覆との反応により、サイモンコライトの含有量が少なくとも80%、特に少なくとも90%である防食層を形成すると、Zn系の保護被覆の耐薬品性をさらに高めることができる。
【0021】
本発明による方法は、とりわけZn−Al−Mg保護被覆において、Al/(Al+Mg)の比率が0.5〜1.0であるとき、特にAl/(Al+Mg)の比率が0.5であるときに、優れている可能性がある。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0023】
耐食性が改善されたことを確認するために、Zn−Al−Mgで被覆した鋼板2枚を、本発明に従って、NaClとHClと水とから成り、製造上不可避の不純物も含まれる溶液で表面処理し、次いで、Zn−Al−Mgで被覆し、本発明による表面処理を施していない鋼板と比較した。Zn−Al−Mg保護被覆領域のAl/(Al+Mg)の比率は0.5に調整されている。
【0024】
試験した、保護被覆した鋼板を表1に示す。
【0025】
表1:保護被覆した鋼板1、2、3に対する試験の概要
【0027】
本発明による溶液で処理した、保護被覆した薄板は、それぞれ150nm〜1.5μmの層厚を有する緻密な防食層を示した。
【0028】
Zn−Al−Mg保護被覆の耐食性の向上は、保護被覆した鋼板2において、10分後かつ30℃の溶液温度ですでに達成でき、このとき、溶液と保護被覆との反応に際して陽極に帯電(20V、50Am
−2)させた。
【0029】
保護被覆した鋼板3では、20分後かつ60℃の溶液温度で、Zn−Al−Mg保護被覆の同様に高い耐食性を達成できた。この例では、保護被覆の陽極帯電は実施せずに済ませることができた。