(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係る樹脂ワニスは、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの反応生成物であるポリイミド前駆体を含有する樹脂ワニスであって、上記ポリイミド前駆体の重量平均分子量が10,000以上180,000以下であり、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物がビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を含み、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物100モル%に対するビフェニルテトラカルボン酸二無水物の含有量が25モル%以上95モル%以下である。
【0016】
当該樹脂ワニスは、上記構成を有することにより、塗布性に優れ、かつ耐湿熱劣化性及び可撓性に優れる絶縁層を形成できる。当該樹脂ワニスが上記構成を有することにより上記効果を奏する理由は定かではないが、例えば以下のように推察される。すなわち、当該樹脂ワニスは、重量平均分子量が上記下限以上と比較的高分子量であるポリイミド前駆体を含有するため、導体の外周側への塗工及び加熱により、比較的高分子量のポリイミドを主成分とする絶縁層を形成できる。このような比較的高分子量のポリイミドは、伸長性に優れ、かつ加水分解を生じたとしても一定の分子量を維持し易いため、上記絶縁層の可撓性及び耐湿熱劣化性を向上すると考えられる。また、当該樹脂ワニスは、加水分解性の低いBPDAを上記ポリイミド前駆体の原料として特定量用いることで、形成される絶縁層の主成分であるポリイミドに加水分解性の低い構造を導入できる。その結果、当該樹脂ワニスは、上記ポリイミド前駆体を極端に高分子量化せず、その重量平均分子量を上記上限以下としても上記絶縁層の耐湿熱劣化性を十分に向上できると考えられる。さらに、当該樹脂ワニスは、上記ポリイミド前駆体の重量平均分子量を上記上限以下とすることで、極端な粘度の増大を抑制して塗布性を向上でき、特にポリイミド前駆体の濃度を高めた場合においても優れた塗布性を維持できる。さらに、当該樹脂ワニスは、上記ポリイミド前駆体の原料である芳香族テトラカルボン酸二無水物に対するBPDAの含有量を上記上限以下とすることで、上記BPDAの結晶化に由来する塗布欠陥の発生を抑制できる。これらにより、当該樹脂ワニスは、塗布性に優れ、かつ耐湿熱劣化性及び可撓性に優れる絶縁層を形成できると考えられる。ここで「重量平均分子量」とは、JIS−K7252−1:2008「プラスチック−サイズ排除クロマトグラフィーによる高分子の平均分子量及び分子量分布の求め方−第1部:通則」に準拠し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した値をいう。
【0017】
上記芳香族テトラカルボン酸二無水物がピロメリット酸二無水物をさらに含むとよく、この場合、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物100モル%に対するピロメリット酸二無水物の含有量としては、5モル%以上75モル%以下が好ましい。このように、上記芳香族テトラカルボン酸二無水物がピロメリット酸二無水物を特定量含むことで、形成される絶縁層の主成分であるポリイミドに剛直な構造を導入できるため、上記絶縁層の耐熱性を向上できる。
【0018】
上記芳香族ジアミンがジアミノジフェニルエーテルを含むとよい。このように、上記芳香族ジアミンがジアミノジフェニルエーテルを含むことで、形成される絶縁層の靭性を向上できる。
【0019】
上記ポリイミド前駆体の樹脂ワニス中の濃度としては、25質量%以上50質量%以下が好ましい。このように、上記ポリイミド前駆体の樹脂ワニス中の濃度を上記範囲とすること、つまり比較的高濃度とすることで、一回の塗工工程及び加熱工程で形成される皮膜を厚くできるため、塗工工程及び加熱工程を繰り返す場合にその回数を低減でき、かつ製造工程全体での樹脂ワニスの合計使用量を低減でき、これらの結果、絶縁電線の製造コストを低減できる。
【0020】
上記ポリイミド前駆体の重量平均分子量としては、130,000以下が好ましい。このように、上記ポリイミド前駆体の重量平均分子量を上記上限以下とすることで、より塗布性を向上できる。
【0021】
上記課題を解決するためになされた本発明の別の態様に係る絶縁電線は、導体と、この導体の外周側に積層される1又は複数の絶縁層とを備える絶縁電線であって、上記1又は複数の絶縁層のうち少なくとも1層が上述の樹脂ワニスの硬化物である。
【0022】
当該絶縁電線は、当該樹脂ワニスを用いて絶縁層を形成するため、耐湿熱劣化性及び可撓性に優れる絶縁層を備える。
【0023】
本発明の別の態様に係る絶縁電線の製造方法は、導体と、この導体の外周側に積層される1又は複数の絶縁層とを備える絶縁電線の製造方法であって、導体の外周側に上述の樹脂ワニスを塗工する塗工工程と、上記塗工された樹脂ワニスを加熱する加熱工程とを備える。
【0024】
当該絶縁電線の製造方法は、当該樹脂ワニスを用いて絶縁層を形成するため、耐湿熱劣化性及び可撓性に優れる絶縁層を備える絶縁電線を容易かつ確実に製造できる。
【0025】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明の一態様に係る樹脂ワニスと、本発明の別の態様に係る絶縁電線及びその製造方法とをこの順番で説明する。
【0026】
<樹脂ワニス>
当該樹脂ワニスはポリイミド前駆体(ポリアミック酸)を含有する。また、当該樹脂ワニスは通常有機溶剤をさらに含有する。以下、各成分について説明する。
【0027】
[ポリイミド前駆体]
当該樹脂ワニスが含有するポリイミド前駆体は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重合によって得られる反応生成物である。つまり、上記ポリイミド前駆体は、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを原料とする。
【0028】
上記ポリイミド前駆体の重量平均分子量の下限としては、10,000であり、15,000が好ましい。一方、上記重量平均分子量の上限としては、180,000であり、130,000が好ましい。上記重量平均分子量が上記下限より小さい場合、当該樹脂ワニスにより形成される絶縁層の耐湿熱劣化性及び可撓性が不十分となるおそれがある。逆に、上記重量平均分子量が上記上限を超える場合、当該樹脂ワニスが顕著に増粘し、塗布性が不十分となるおそれがある。
【0029】
上記ポリイミド前駆体の原料として用いる芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとのモル比(芳香族テトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン)としては、ポリイミド前駆体の合成容易性の観点から、例えば95/105以上105/95以下とすることができる。
【0030】
(芳香族テトラカルボン酸二無水物)
上記ポリイミド前駆体の原料として用いる芳香族テトラカルボン酸二無水物は、BPDAを含む。BPDAとしては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(3,3’,4,4’−BDPA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(2,3,3’,4’−BDPA)、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(2,2’,3,3’−BDPA)等が挙げられ、これらの中で、3,3’,4,4’−BDPAが好ましい。
【0031】
上記芳香族テトラカルボン酸二無水物100モル%に対するBPDAの含有量の下限としては、25モル%であり、35モル%が好ましく、60モル%がより好ましい。一方、上記BPDAの含有量の上限としては、95モル%であり、80モル%が好ましい。上記BPDAの含有量を上記範囲とすることで、当該樹脂ワニスにより形成される絶縁層の耐湿熱劣化性をより向上できる。上記BPDAの含有量が上記下限より小さい場合、当該樹脂ワニスにより形成される絶縁層の耐湿熱劣化性が不十分となるおそれがある。逆に、上記BPDAの含有量が上記上限を超える場合、当該樹脂ワニスにより形成される絶縁層の主成分であるポリイミドが結晶構造を取り易くなるため、結晶化に伴う不透明化や、部位毎の結晶化のバラツキによる色ムラ等の塗布欠陥が生じるおそれがある。
【0032】
上記ポリイミド前駆体の原料として用いる芳香族テトラカルボン酸二無水物のうち、BPDA以外の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えばピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。上記その他の芳香族テトラカルボン酸二無水物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0033】
上記ポリイミド前駆体の原料として用いる芳香族テトラカルボン酸二無水物は、PMDAをさらに含むことが好ましい。ポリイミド前駆体の原料として剛直な構造を有するPMDAを用いることで、イミド化後のポリイミドに剛直な構造を導入できるため、当該樹脂ワニスにより形成される絶縁層の耐熱性を向上できる。
【0034】
上記ポリイミド前駆体の原料として用いる芳香族テトラカルボン酸二無水物100モル%に対するPMDAの含有量の下限としては、5モル%が好ましく、20モル%がより好ましい。一方、上記PMDAの含有量の上限としては、75モル%が好ましく、65モル%がより好ましく、40モル%がさらに好ましい。上記PMDAの含有量が上記下限より小さい場合、当該樹脂ワニスにより形成される絶縁層の耐熱性が不十分となるおそれがある。逆に、上記PMDAの含有量が上記上限を超える場合、当該樹脂ワニスにより形成される絶縁層の主成分であるポリイミドにBPDAに由来する構造を十分に導入することができず、その結果、上記絶縁層の耐湿熱劣化性が低下するおそれがある。
【0035】
(芳香族ジアミン)
上記ポリイミド前駆体の原料として用いる芳香族ジアミンとしては、例えば4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−ODA)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(3,4’−ODA)、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル(3,3’−ODA)、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル(2,4’−ODA)、2,2’−ジアミノジフェニルエーテル(2,2’−ODA)等のジアミノジフェニルエーテル(ODA)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、2,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、2,4’−ジアミノジフェニルスルホン、2,2’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,2’−ジアミノジフェニルスルフィド、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、p−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ベンゾフェノンジアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。これらの芳香族ジアミンは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0036】
上記ポリイミド前駆体の原料として用いる芳香族ジアミンは、ODAを含むことが好ましい。上記ポリイミド前駆体の原料としてODAを用いることで、当該樹脂ワニスにより形成される絶縁層の靭性を向上できる。上記ODAとしては、4,4’−ODAが好ましい。
【0037】
上記芳香族ジアミン100モル%に対するODAの含有量の下限としては、50モル%が好ましく、90モル%がより好ましく、99モル%がさらに好ましい。このように、上記ODAの含有量を上記下限以上とすることで、当該樹脂ワニスにより形成される絶縁層の靭性をより向上できる。また、上記ODAの含有量としては、100モル%が特に好ましい。
【0038】
なお、上記ポリイミド前駆体は、芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンと、その他の原料との重合によって得られる反応生成物であってもよい。上記その他の原料としては、例えば1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸二無水物、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンなどが挙げられる。
【0039】
上記ポリイミド前駆体は、実質的にBPDA、PMDA及びODAのみを原料として得られる反応生成物であることが好ましい。具体的には、上記ポリイミド前駆体の全原料におけるBPDA、PMDA及びODAの合計割合の下限としては、95モル%が好ましく、99モル%がより好ましい。また、上記合計割合は、100モル%が最も好ましい。
【0040】
上記ポリイミド前駆体の当該樹脂ワニス中の濃度の下限としては、25質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。一方、上記濃度の上限としては、50質量%が好ましく、40質量%がより好ましい。上記濃度が上記下限未満である場合、当該樹脂ワニスを用いて絶縁層を形成する際に、所望の厚さの絶縁層を得るために製造工程全体で必要となる樹脂ワニス量が増加するおそれや、塗工工程及び加熱工程の回数が増加するおそれがある。逆に、上記濃度が上記上限を超える場合、当該樹脂ワニスの粘度が増大することで塗布性が低下するおそれがある。
【0041】
(ポリイミド前駆体の合成方法)
上記ポリイミド前駆体は、上述した芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの重合反応により得ることができる。上記重合反応の方法としては、従来のポリイミド前駆体の合成と同様とすることができる。上記重合反応の具体的な方法としては、例えば芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを有機溶剤中で混合し、この混合液を加熱する方法等が挙げられる。この方法により、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとが重合し、ポリイミド前駆体が有機溶剤に溶解した溶液を得ることができる。
【0042】
上記重合の際の反応条件としては、使用する原料等により適宜設定すればよいが、例えば反応温度を10℃以上100℃以下、反応時間を0.5時間以上24時間以下とすることができる。
【0043】
上記重合に用いる芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとのモル比(芳香族テトラカルボン酸二無水物/芳香族ジアミン)は、重合反応を効率的に進行させる観点から、100/100に近いほど好ましい。上記モル比としては、例えば95/105以上105/95以下とすることができる。このように、上記モル比を上記範囲とすることで、得られるポリイミド前駆体の重量平均分子量を増加させ易くなる。
【0044】
上記重合に用いる有機溶剤としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン等の非プロトン性極性有機溶剤を使用できる。これらの有機溶剤は単独で用いても2種以上を併用しても良い。ここで「非プロトン性極性有機溶剤」とは、プロトンを放出する基を持たない極性有機溶剤をいう。
【0045】
上記有機溶剤の使用量は、芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンを均一に溶解、分散させることができる使用量であれば特に制限されない。上記有機溶剤の使用量としては、例えば芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンの合計100質量部に対し、100質量部以上1,000質量部以下とすることができる。
【0046】
上記重合では、反応系に分子量調整剤を添加してもよい。このように、上記重合で反応系に分子量調整剤を添加することで、得られるポリイミド前駆体の重量平均分子量を適度に低減することができる。上記分子量調整剤としては、例えばモノアミンやジカルボン酸無水物等が挙げられ、具体的には、アニリン、トルイジン、クロロアニリン等の芳香族モノアミンや、フタル酸無水物等の芳香族ジカルボン酸無水物などが挙げられる。上記重合における分子量調整剤の添加量としては、例えば芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミンの合計使用量100モル%に対し、1モル%以上100モル%以下とすることができる。
【0047】
[有機溶剤]
当該樹脂ワニスに用いる有機溶剤は、当該樹脂ワニスの塗布性を向上する。また、上記有機溶剤を含有する当該樹脂ワニスは、導体の周面側への塗工工程及び加熱工程を繰り返して複数の絶縁層を形成する際、2回目以降の塗工工程において当該樹脂ワニス中の有機溶剤が前回の工程で形成された絶縁層中のポリイミドを若干溶解するため、形成される複数の絶縁層の各層間の密着力を向上させることができる。
【0048】
上記有機溶剤としては、非プロトン性極性有機溶剤が好ましい。ポリイミド前駆体は非プロトン性極性有機溶剤に対する溶解性が高いため、上記有機溶剤として非プロトン性極性有機溶剤を用いることにより、上記ポリイミド前駆体の当該樹脂ワニス中の濃度を高める場合においても上記ポリイミド前駆体を確実に溶解させることができる。また、上記有機溶剤として非プロトン性極性有機溶剤を用いることにより、上述の2回目以降の塗工工程において当該樹脂ワニス中の有機溶剤が前回の工程で形成された絶縁層中のポリイミドを溶解し易くなるため、形成される複数の絶縁層の各層間の密着力をより向上させることができる。
【0049】
上記非プロトン性極性有機溶剤としては、ポリイミド前駆体の溶解性向上及び絶縁層間の密着力向上の観点から、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン及びこれらの組み合わせが好ましく、NMPがより好ましい。
【0050】
有機溶剤は、上述したポリイミド前駆体の重合反応に使用した有機溶剤をそのまま使用してもよく、ポリイミド前駆体を得た後、別途添加してもよいが、作業性の観点から、ポリイミド前駆体の重合反応に使用した有機溶剤をそのまま使用することが好ましい。当該樹脂ワニスにおける有機溶剤の含有量としては、例えばポリイミド前駆体100質量部に対して100質量部以上300質量部以下の範囲とすることができる。
【0051】
当該樹脂ワニスは、上述した成分以外に顔料、染料、無機又は有機のフィラー、潤滑剤、密着向上剤等の各種添加剤や反応性低分子などを含有しても良い。この中で、密着向上剤としてメラミン化合物を含有することで、形成される絶縁層と導体との密着力を向上できる。さらに、当該樹脂ワニスは、本発明の趣旨を損ねない範囲で他の樹脂を含有してもよい。当該樹脂ワニスに上述の成分を含有させる場合、当該樹脂ワニスにおける上述の成分の含有量としては、ポリイミド前駆体100質量部に対し、例えば0.5質量部以上30質量部以下とすることができる。
【0052】
<樹脂ワニスの製造方法>
当該樹脂ワニスの製造方法としては、例えばポリイミド前駆体の合成方法で説明したポリイミド前駆体が有機溶剤に溶解した溶液をそのまま当該樹脂ワニスとする方法が挙げられる。また、当該樹脂ワニスの製造方法としては、例えば上記ポリイミド前駆体が有機溶剤に溶解した溶液からポリイミド前駆体を精製した後に、得られた精製ポリイミド前駆体と有機溶剤等の他の成分とを混合する方法も挙げられる。
【0053】
<絶縁電線>
次に、当該樹脂ワニスを用いて絶縁層を形成した当該絶縁電線について説明する。当該絶縁電線は、導体と、この導体の外周側に積層される1又は複数の絶縁層とを備え、この複数の絶縁層のうち少なくとも1層が上述の当該樹脂ワニスの硬化物である。当該絶縁電線は、当該樹脂ワニスにより形成される絶縁層を備えるため、耐湿熱劣化性及び可撓性に優れる。
【0054】
当該樹脂ワニスの硬化物である上記絶縁層は、ポリイミドを主成分とする。示差走査熱量計で20℃/minの昇温条件において測定される上記ポリイミドの結晶融解ピークの熱量の上限としては、5J/gが好ましく、3J/gがより好ましい。上記ポリイミドの結晶融解ピークの熱量は、0J/gが最も好ましい。
【0055】
当該絶縁電線は、上記ポリイミドの結晶融解ピークの熱量を上記上限以下とすること、つまりポリイミドの結晶化を抑制することで、後述する理由により絶縁層の曲げ加工性及び外観性を向上できる。ここで、上記ポリイミドの結晶融解ピークの熱量はポリイミドの構造と絶縁層の形成条件とによって決まるが、BPDAに由来する構造を過剰に含むポリイミドは、BPDAが有するビフェニル構造により分子同士のパッキングが促進されるため結晶化し易く、絶縁層の形成条件の制御だけで結晶融解ピークの熱量を上記上限以下とすることは困難である。一方、当該絶縁電線は、上記ポリイミド前駆体の原料におけるBPDAの含有量を上記上限以下とし、ポリイミドに含まれるBPDAに由来する構造を一定以下とするため、容易かつ確実に結晶融解ピークの熱量を上記上限以下とすることができる。
【0056】
当該絶縁電線が上記結晶融解ピークの熱量を上記上限以下とすることで絶縁層の曲げ加工性及び外観性に優れる理由は以下の通りであると考えられる。すなわち、ポリイミドを主成分とする絶縁層を形成する方法としては、ポリイミド前駆体(ポリアミック酸)を含有する樹脂ワニスを導体の外周側に塗工する塗工工程と、得られた塗膜を加熱する加熱工程とを備える方法が一般的である。上記方法では、一回の塗工工程及び加熱工程では数μm程度の比較的薄い絶縁層しか形成できないため、通常塗工工程及び加熱工程を繰り返して所定の厚さ(数10μm程度)となるまで複数の絶縁層を順次積層する。この2回目以降の塗工工程の際、樹脂ワニスに含まれる溶剤が下地層(前回の塗工工程及び加熱工程で形成された絶縁層)に含まれるポリイミドを若干溶解する場合には、上記下地層と新たに積層する絶縁層とが馴染み易くなるため、各層間の密着力が向上すると考えられる。ここで、結晶化度が高いポリイミドは結晶部に溶剤が浸透し難いため耐溶剤性が過度に高くなる傾向にあると考えられる。
【0057】
当該絶縁電線は、上記ポリイミドの結晶融解ピークの熱量を上記上限以下とすることで、その耐溶剤性を適度に低減でき、その結果、上述のポリイミドの溶解に起因する絶縁層の各層間の密着力向上効果を発揮させることができる。これにより、当該絶縁電線に曲げ加工等によって絶縁層に大きな変形を施した際に、絶縁層の各層間の剥離による絶縁性等の低下が抑制され、優れた曲げ加工性が発揮されると考えられる。また、結晶化度が高いポリイミドは、その結晶部及び非晶部の界面で生じる光の散乱によって白濁するおそれがある。当該絶縁電線は、上記ポリイミドの結晶融解ピークの熱量を上記上限以下とすることで、上記白濁を抑制でき、その結果、絶縁層の外観性を向上できると考えられる。
【0058】
上記導体の材質としては、導電率が高く、かつ機械的強度が大きい金属が好ましい。このような金属としては、例えば銅、銅合金、アルミニウム、ニッケル、銀、軟鉄、鋼、ステンレス鋼等が挙げられる。当該絶縁電線の導体は、これらの金属を線状に形成した材料や、このような線状の材料にさらに別の金属を被覆した多層構造のもの、例えばニッケル被覆銅線、銀被覆銅線、銅被覆アルミニウム線、銅被覆鋼線等を用いることができる。
【0059】
当該絶縁電線の導体の平均断面積の下限としては、0.01mm
2が好ましく、0.1mm
2がより好ましい。一方、上記導体の平均断面積の上限としては、10mm
2が好ましく、5mm
2がより好ましい。上記導体の平均断面積が上記下限より小さい場合、抵抗値が増大するおそれがある。逆に、上記導体の平均断面積が上記上限を超える場合、誘電率を十分に低下させるために絶縁層を厚く形成しなければならず、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
【0060】
当該絶縁電線の1又は複数の絶縁層は、導体の外周側に積層され、少なくとも1層が当該樹脂ワニスにより形成される。当該絶縁電線が複数の絶縁層を備える場合、各絶縁層は上記導体の外周側に断面視で同心円状に順次積層される。この場合、各絶縁層の平均厚さとしては、例えば1μm以上5μm以下とすることができる。また、上記複数の絶縁層の平均合計厚さとしては、例えば10μm以上200μm以下とすることができる。さらに、複数の絶縁層の合計層数としては、例えば2層以上200層以下とすることができる。なお、上記複数の絶縁層は、全ての絶縁層が当該樹脂ワニスより形成されることが好ましいが、一部の絶縁層が当該樹脂ワニス以外の他の樹脂ワニスにより形成される層であってもよい。上記他の樹脂ワニスに用いる合成樹脂としては、例えばポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリウレタン、ポリエーテルイミド等が使用できる。
【0061】
当該絶縁電線は、1又は複数の絶縁層の外周側にさらに他の層が積層されていてもよい。上記他の層としては、例えば表面潤滑層等が挙げられる。
【0062】
<絶縁電線の製造方法>
次に、当該絶縁電線の製造方法について説明する。当該絶縁電線の製造方法は、導体の外周側に当該樹脂ワニスを塗工する塗工工程と、上記塗工された当該樹脂ワニスを加熱する加熱工程とを備える。当該絶縁電線の製造方法は、上記塗工工程及び加熱工程を繰り返すことが好ましい。当該絶縁電線の製造方法によれば、当該絶縁電線を容易かつ確実に製造できる。以下、本実施形態の各工程について説明する。
【0063】
[塗工工程]
本工程では、導体の外周側に当該樹脂ワニスを塗工する。塗工方法としては、特に限定されないが、例えば当該樹脂ワニスを貯留した樹脂ワニス槽と塗工ダイスとを備える塗工装置を用いた方法等が挙げられる。この塗工装置によれば、導体が樹脂ワニス槽内を挿通することで当該樹脂ワニスが導体外周面に付着した後、塗工ダイスを通過することで当該樹脂ワニスが導体外周面に均一な厚さで塗工される。なお、本工程では、導体の外周面に当該樹脂ワニスを直接塗工してもよく、導体の外周面に予め密着改良層等の中間層を設けておき、その中間層の外周側に当該樹脂ワニスを塗工してもよい。
【0064】
なお、当該絶縁電線の製造方法で上記塗工工程及び加熱工程を繰り返す場合、複数の塗工工程のうち一部の塗工工程では、当該樹脂ワニス以外の樹脂ワニスを用いてもよい。
【0065】
[加熱工程]
本工程では、例えば当該樹脂ワニスを塗工した導体を加熱炉内で走行させる方法等により、導体に塗工された当該樹脂ワニスを加熱する。この加熱工程によって、当該樹脂ワニスが含有するポリイミド前駆体がイミド化されると共に有機溶剤等の揮発成分が除去され、導体の外周側に焼付層である絶縁層が積層される。加熱方法としては、特に限定されず、例えば熱風加熱、赤外線加熱、高周波加熱等の従来公知の方法により行うことができる。加熱温度としては、例えば350℃以上500℃以下とすることができる。加熱時間としては、通常5秒以上100秒以下とすることができる。なお、当該樹脂ワニスを塗工した導体を加熱炉内で走行させることで加熱する場合、加熱炉内の設定温度を上記加熱温度と見なすものとする。
【0066】
当該絶縁電線の製造方法で上記塗工工程及び加熱工程を繰り返す場合、上記塗工工程及び加熱工程を繰り返す回数としては、例えば2回以上200回以下とすることができる。
【0067】
[その他の実施形態]
上記開示された実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【実施例】
【0068】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
なお、実施例中、ポリイミド前駆体の重量平均分子量は、JIS−K7252−1:2008「プラスチック−サイズ排除クロマトグラフィーによる高分子の平均分子量及び分子量分布の求め方−第1部:通則」に準拠し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される。
【0070】
[樹脂ワニスNo.8]
4,4’−ODA100モル%をN−メチル−2−ピロリドンに溶解させた後、得られた溶液にPMDA10モル%と、3,3’,4,4’−BPDA90モル%と、分子量調整剤としての適量のジカルボン酸無水物(フタル酸無水物)とを加え、窒素雰囲気下で撹拌する。その後、撹拌しながら80℃で3時間反応させた後、室温に冷却することにより、有機溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドンにポリイミド前駆体が溶解している樹脂ワニスNo.8が製造できる。この樹脂ワニスNo.8中のポリイミド前駆体濃度は30質量%である。また、樹脂ワニスNo.8が含有するポリイミド前駆体の重量平均分子量は9,000とする。
【0071】
[樹脂ワニスNo.1〜7及び9〜35]
PMDA、3,3’,4,4’−BPDA及び4,4’−ODAの使用量と重量平均分子量とを表1に示す通りとした以外は、樹脂ワニスNo.8と同様に操作し、樹脂ワニスNo.1〜7及び9〜35を製造する。なお、ポリイミド前駆体の重量平均分子量を9,000超に増大する場合、分子量調整剤の使用量を樹脂ワニスNo.8よりも適宜減量する。
【0072】
<評価>
樹脂ワニスNo.1〜35を用いて以下の通り絶縁電線の絶縁層を形成し、各樹脂ワニスの塗布性と、形成される絶縁層の耐湿熱劣化性及び可撓性とを評価する。評価結果を表1に示す。
【0073】
[絶縁電線の製造]
銅を主成分とする平均厚さ1.5mm、平均幅3mmの平角導体を用意する。樹脂ワニスNo.1〜35を上記導体の外周面に塗工する工程と、上記樹脂ワニスを塗工した導体を加熱炉の設定温度400℃、加熱時間30秒の条件で加熱する工程とを10回ずつ繰り返し行うことで、上記導体と、この導体の外周面に積層される平均厚さ35μmの絶縁層とを備える絶縁電線を得る。
【0074】
[塗布性]
樹脂ワニスの塗布性は、形成された絶縁層を目視で観察し、厚さが不均一な箇所、かすれ、色ムラ、剥離、窪み、ピンホール等の欠陥が観察されなかった場合を「A(良好)」とする。上記欠陥が観察された樹脂ワニスについては、塗布性を向上するための工夫を加えた上で再度絶縁電線の製造を行い、塗布性を再評価する。塗布性を向上するための工夫としては、例えば塗工の際、変質しない温度範囲で樹脂ワニスを加温して粘度を低減する等の操作を行う。上記工夫により上記欠陥が解消された場合を「B(条件付きで良好)」、上記工夫によっても上記欠陥が解消されなかった場合を「C(良好でない)」とする。
【0075】
[耐湿熱劣化性]
絶縁層の耐湿熱劣化性は、絶縁電線を長手方向に10%伸長しつつ、温度85℃、相対湿度95%、750時間の条件で湿熱処理を行う。処理後の絶縁電線を目視で観察して表面に亀裂が観察されなかった場合を「A(良好)」、表面に亀裂が観察されたが、その数及び大きさが顕著でない場合を「B(あまり良好でない)」、表面に亀裂が観察され、その数及び大きさが顕著な場合を「C(良好でない)」とする。
【0076】
[引張伸び]
電気分解処理により絶縁電線から導体を除去し、チューブ状の絶縁層を採取する。絶縁層の引張伸びは、この絶縁層について、引張試験機(島津製作所社の「AG−IS」)を用いて引張速度10mm/分の引張条件で測定する。引張伸び(%)は、その数値が大きいほど伸長性に優れるため絶縁層の可撓性が良好であることを示し、10%以上の場合を「A(良好)」、10%未満の場合を「B(良好でない)」とする。
【0077】
【表1】
【0078】
樹脂ワニスNo.9〜13、16〜20及び23〜27は、ポリイミド前駆体の重合において芳香族テトラカルボン酸二無水物100モル%に対してBPDAを25モル%以上95モル%以下使用し、かつ上記ポリイミド前駆体のMwを10,000以上180,000以下とすることで、良好な塗布性、可撓性及び耐湿熱劣化性が発揮される。また、樹脂ワニス9〜12、16〜19及び23〜26は、上記Mwを130,000以下とすることで、塗布性をさらに向上することができる。
【0079】
一方、樹脂ワニスNo.1〜7は、芳香族テトラカルボン酸二無水物100モル%に対するBPDAの含有量を95モル%超としたため、十分な塗布性を発揮できない。また、樹脂ワニスNo.29〜35は、上記BPDAの含有量を25モル%未満としたため、BPDAを用いることによる耐湿熱劣化性の向上効果を十分に得られない。
【0080】
樹脂ワニスNo.8、15及び22は、上記ポリイミド前駆体のMwを10,000未満としたため、耐湿熱劣化性及び可撓性のうち少なくとも一方が良好でない。また、樹脂ワニスNo.14、21及び28は、上記ポリイミド前駆体のMwを180,000超としたため、塗布性が良好でない。