(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ボデー内に回転自在に設けたボールと、このボールとシール接続するシートリテーナと、このシートリテーナをシール側に弾発力を付与するバネ部材とを有するトラニオン型ボール弁であって、前記シートリテーナとボデーとの間に、キャビティ内の流体圧が前記シートリテーナの背面側に加わることが可能な状態でクリアランスが設けられ、且つ、前記ボールに、このボール内の流路と前記キャビティとの間を流体が流通可能な状態で連通孔が設けられていることを特徴とする高圧用トラニオン型ボール弁。
前記シートリテーナは、前記ボール側が拡径部、前記ボールから離れた側が前記拡径部よりも縮径された縮径部とされ、前記クリアランスは、少なくとも前記キャビティ内の流体圧が前記縮径部に加わる状態で前記拡径部とボデーとの間に設けられている請求項1に記載の高圧用トラニオン型ボール弁。
前記縮径部の外周面にシール用Oリングが装着され、このOリングを介して前記シートリテーナの端部側が前記ボデーとの間に保持されている請求項2に記載の高圧用トラニオン型ボール弁。
前記連通孔は、前記ボール内の流路の略中央付近からボール外周の一、二次側に向けてボール内流路と傾斜する方向に形成されると共に、前記連通孔が前記ボールの中心位置から点対称の状態で互いに略平行に設けられている請求項1乃至3の何れか1項に記載の高圧用トラニオン型ボール弁。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したような一般の高圧用トラニオン型ボール弁では、特に、バルブの開閉を高速でおこなった場合、流体がキャビティやシートリテーナの背面側に移動しにくくなり、これらの部位に十分に圧力が加わらなくなる。この場合、背面側の流体圧を利用してシートをボールに押し付ける力、いわゆる自緊力が小さくなる。流体のシートリテーナの背面側への移動が十分でないと、場合によってはこの自緊力が発生しなくなり、シートリテーナに対してボールをシールする方向とは逆のボールから離れる方向の力が働き、シートリテーナとボールとの間に漏れが生じるおそれがある。
さらに、流体が液体や粘性を有する粘性流体であるときには、ガスに比べて流路からキャビティ、キャビティからシートリテーナ背面側への流体の移動が一層生じにくくなることで、自緊力がより失われて一層漏れを生じやすくなる。
【0007】
これに対して、前者の特許文献1では、ボールの上軸部に均圧孔が設けられ、この均圧孔より弁開時のキャビティ内の圧力を抜くことが可能になっている。しかし、この均圧孔は、キャビティ圧>流路の流体圧の関係でキャビティ内の圧力を流路にリリーフすることを目的としたものであり、シートリテーナの背面側に流体圧を移動させて自緊力を高めようとするものではない。
【0008】
一方、後者の特許文献2では、2つのシートリテーナのうち、第1シートリテーナに通孔が設けられ、この通孔を介してキャビディ部の圧力が第1シートリテーナをボール側に押すように作用され、これによって流路の流体圧を利用してシートリテーナをボール側に押圧しようとしている。しかし、このバルブでは通孔が小径の孔であり、第1シートと第2シートとの間に設けられている。このことから、流体に異物が含まれていたり、流体が液体や粘性液体等の流動性が低いものである場合には、バルブ開閉を高速で実施したときに、流路からキャビティやシートリテーナ背面側までの隙間の一部或は全部が防がれ、これらがシールされた状態になる可能性がある。そのため、流体圧がシートリテーナ背面側まで加わりにくくなり、自緊力が十分に得られなくなることがある。
【0009】
本発明は、上記の課題点を解決するために開発したものであり、その目的とするところは、特に高圧流体に適しており、高速でバルブを開閉する場合でも、内部を流れる流体圧を利用して安定した自緊力を発生させ、この自緊力によりシートリテーナとボールとのシール性を十分に確保して漏れを防止できる高圧用トラニオン型ボール弁およびこれを用いた水素ステーションを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、ボデー内に回転自在に設けたボールと、このボールとシール接続するシートリテーナと、このシートリテーナをシール側に弾発力を付与するバネ部材とを有するトラニオン型ボール弁であって、シートリテーナとボデーとの間に、キャビティ内の流体圧がシートリテーナの背面側に加わることが可能な状態でクリアランスが設けられ、且つ、ボールに、このボール内の流路とキャビティとの間を流体が流通可能な状態で連通孔が設けられている高圧用トラニオン型ボール弁である。
【0011】
請求項2に係る発明は、シートリテーナは、ボール側が拡径部、ボールから離れた側が拡径部よりも縮径された縮径部とされ、クリアランスは、少なくともキャビティ内の流体圧が縮径部に加わる状態で拡径部とボデーとの間に設けられている高圧用トラニオン型ボール弁である。
【0012】
請求項3に係る発明は、縮径部の外周面にシール用Oリングが装着され、このOリングを介してシートリテーナの端部側がボデーとの間に保持されている高圧用トラニオン型ボール弁である。
【0013】
請求項4に係る発明は、連通孔は、ボール内の流路の略中央付近からボール外周の一、二次側に向けてボール内流路と傾斜する方向に形成されると共に、連通孔がボールの中心位置から点対称の状態で互いに略平行に設けられている高圧用トラニオン型ボール弁である。
【0014】
請求項5に係る発明は、バルブ本体が、液体用又は粘性流体用である高圧用トラニオン型ボール弁である。
【0015】
請求項6に係る発明は、高圧水素の供給ラインに高圧用トラニオン型ボール弁が用いられた状態で構成されている水素ステーションである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明によると、特に高圧流体に適したバルブであり、ボールに設けた連通孔を介してボール内流路の圧力がキャビティに移動し、このキャビティ内の圧力が、シートリテーナとボデーとの間に設けたクリアランスを介してシートリテーナ背面側に加わる。これにより、流体が気体である場合に加えて、液体や粘性流体、異物を含む場合であるときに、高速でバルブを開閉する場合であっても、これらの流体圧を利用してシートリテーナ背面から加えて自緊力を機能させ、この自緊力の作用によりシートリテーナをボール側に押圧してこれらのシール性を十分に確保し、流体漏れを確実に防止することが可能になる。
【0017】
請求項2に係る発明によると、ボール側を拡径部、ボールから離れた側を縮径部とし、拡径部とボデーとの間にクリアランスを設けていることで、このクリアランスを介してキャビティ内の流体を拡径部から縮径部まで確実に導き、縮径部に加わる流体圧を利用して自緊力を発揮して高シール性を確保する。
【0018】
請求項3に係る発明によると、シール用Oリングによりシートリテーナ末端側とボデー側との間をシールしてキャビティから流路側への高圧流体の漏れを防止する。Oリングでシートリテーナ末端側を保持していることで、他のシートリテーナの保持機構とともに、シートリテーナの軸芯方向のずれを防ぎつつ、シートリテーナの拡径部とボデーとのクリアランスを大きく確保する。これにより、ボールに対するシートリテーナの同心性を確保し、弁開閉の動作時にも高シール性を維持できる。
【0019】
請求項4に係る発明によると、ボール内の流路の略中央付近からボール外周の一、二次側に向けてボール内流路と傾斜する方向に連通孔を設けていることで、弁開時におけるボール内流路から流路方向に傾斜した連通孔に流体が流れ込みやすくなる。さらに、連通孔の傾斜を流路と平行に近づけるようにすれば、キャビティ内に流体を一層導きやすくなる。これらの場合、特に、流体が液体や粘性流体、異物を含んでいる場合であっても、ボール内流路からキャビティまでスムーズに移動させ、キャビティからシートリテーナ背面側への流体圧の作用により自緊力を発揮させてシール性を向上できる。しかも、一、二次側の連通孔を、ボールの中心位置から点対称の状態で互いに略平行に設けていることで、ボールの一、二次側に流体圧を略均等に導いて、一、二次側に自緊力を均等に働かせて双方からの漏れを確実に防止する。
【0020】
請求項5に係る発明によると、バルブ本体が、液体用又は粘性流体用であることにより、高圧流体として液体や粘性流体が流れる場合でもこれら流体が滞ることなく流れ、この高圧流体を利用した自緊力を確実に発揮する。
【0021】
請求項6に係る発明によると、特に高圧流体に適しており、流体が気体である場合に加えて、液体や粘性流体、異物を含んだものであるときに、高速でバルブを開閉した場合にも、シートリテーナの背面側まで圧力を送って自緊力を機能させ、高シール性を発揮する高圧用トラニオン型ボール弁を備え、このボール弁により流体漏れを確実に防ぎつつ水素を供給または停止できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明における高圧用トラニオン型ボール弁と水素ステーションの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1においては、本発明における高圧用トラニオン型ボール弁の実施形態の縦断面図、
図2においては、
図1のボール弁のシートリテーナ付近の一部拡大断面図を示している。
【0024】
図において、本発明における高圧用トラニオン型ボール弁(以下、バルブ本体1という)は、特に、高圧流体を流す場合に好適なトラニオン構造のボールバルブからなり、蓋部材2を有するボデー3と、その内部にボール10、シートリテーナ12、バネ部材13、シール用Oリング(シール部材)14、バネ押え15、補助リング16、軸受17、軸装シール機構18とを有している。
【0025】
本実施形態における高圧とは、例えば、21MPa程度の高圧や、或は35MPa以上の高圧であり、バルブ本体を水素ステーション用の配管設備用バルブとして用いる場合には、70〜105MPa、具体的には103MPa程度の高圧を想定している。そして、本発明におけるバルブ本体1は、例えば、−50〜85℃までの流体の温度変化にも対応可能であり、特に、液体用又は粘性流体用の材料により形成され、これらが流れる場合に適している。
【0026】
バルブ本体1は、例えば2.5kg程度の重さに設けられ、このバルブ本体1のボデー3は、ステンレス鋼(SUS)からなり、このボデー3において、内部の流路方向(
図1における水平方向)には穴状の装着部21が設けられ、ボデー3上部側のボール10の軸装方向(
図1における鉛直方向)に軸装穴22が設けられ、ボデー3の下部側(ボトム側)に装入穴23が設けられ、この装入穴23の内周の一部にはメネジ部24が設けられている。
バルブ内部の軸装穴22のボール10側には、略環状の係合部30が軸装穴22よりも拡径して段部状に設けられている。
【0027】
蓋部材2は、例えばSUSにより蓋状に形成され、メネジ部24に螺合するオネジ部31を有し、このオネジ部31を介してボデー3のボトム側から螺着される。蓋部材2の内部にはボデー3の軸装穴22と同径の軸装穴32が設けられ、この軸装穴32のボール10側には、ボデー3と同様に略環状の係合部33が軸装穴32よりも拡径して段部状に設けられる。蓋部材2の底面側には、軸装穴32に続けてリリーフ孔34が穿設されている。リリーフ孔34は、バルブ本体1の組立て時の部品挿入時における空気抜きの機能を発揮し、組立て後には、リークポートの機能を発揮する。メネジ部24の奥側(ボール10側)には、例えば銅製からなる環状ガスケット35が装着され、このガスケット35によりボデー3と蓋部材2とがシールされる。
【0028】
ボデー3の装着部21には、ボール10やシートリテーナ12等が装着可能に設けられ、ボデー3内には流路40が形成されている。ボデー3の両側にはめねじ3aが設けられ、このめねじ3aに、例えばSUSからなるキャップ状の流入部42と流出部43とにそれぞれ設けられたおねじ42a、43aが螺着され、この流入部42、流出部43がそれぞれボデー3に固着される。めねじ3aの奥側(ボール側)には、環状ガスケット35が装着され、このガスケット35によりボデー3と流入部42、流出部43との間がシールされる。
【0029】
流入部42、流出部43のボデー3接続側には、段状の装着穴44、44がそれぞれ形成される。これら装着穴44、44には、それぞれシートリテーナ12、バネ部材13、Oリング14、バネ押え15、補助リング16が装着され、これらによりボール10が流路方向の一、二次側で保持される。流入部42、流出部43における装着穴44の他方側には、それぞれ雌ねじ45、45が形成され、これら雌ねじ45、45を介して図示しない外部の配管が接続可能に設けられる。
【0030】
上記ボデー3内の流入側、流出側には、双方とも同じ弁座シール構造、すなわち、
図1に示すような左右対称構造に設けられている。一方、ボール10の軸装方向には、軸受17、軸装シール機構18が配設され、これらによりボール10が軸装側で保持される。このように、ボール10は、流路方向と軸装方向とで保持されてボデー3内に回転自在に設けられる。
【0031】
図1〜
図3において、ボール10は、例えばSUSを材料としてφ20mm程度の外径に形成され、このボール10の上下部には互いに同一径の上ステム50と下ステム51とがそれぞれ延設されてボール部材52が構成される。上ステム50、下ステム51のボール10近傍位置には、それぞれ鍔部53が形成される。ボール部材52は、軸装方向において上下ステム50、51が軸受17、軸装シール機構18で支承されつつ、流路方向においてシートリテーナ12でシール接続される。
【0032】
ボール10には
図3のボール孔10aによりボール内流路が設けられ、このボール内流路10aには、ボール外面と連通する2つの連通孔55が設けられ、これら連通孔55を介してボール内流路10aとバルブ本体1内に形成されるキャビティCとの間を流体が流通可能になっている。
【0033】
図3に示すように、各連通孔55は、ボール内流路10aの略中央付近からボール外周の一、二次側に向けてボデーの流路40と傾斜する方向に形成される。これに加えて、連通孔55は、ボールの中心位置から点対称の状態で互いに略平行に設けられる。
【0034】
ボール10は、ボデー3のボトム側より装入可能に設けられ、これによりボデー3内の軸装穴22に上ステム50が軸装される。この状態でボデー3のボトム側が蓋部材2で被蓋され、この蓋部材2の軸装穴32に下ステム51が軸装される。
【0035】
ボール10の流路方向において、
図2に示すシートリテーナ12は、ボデー3内の装着部21に装着され、例えばBeCu合金(ベリリウム銅合金)などの銅基合金を母材として形成され、この母材に適宜の熱処理を行うことで、例えばビッカース硬さHv360〜450程度の硬度に設けられる。シートリテーナ12を銅基合金で形成した場合には、水素による脆化が防がれる。
【0036】
シートリテーナ12は、ボール10側に対向配置される拡径部60と、ボール10から離れた側であって拡径部60よりも縮径した縮径部61とを有し、拡径部60側でボール10とシール接続可能に設けられている。拡径部60のボール10側との対向面にはシール面62が設けられ、このシール面62には、例えばDLC(ダイヤモンドライクカーボン)によるコーティング層が施される。DLCは、主に炭化水素、或は炭素の同素体からなるアモルファスの硬質膜であり、高硬度であって、潤滑性、耐摩耗性、表面平滑性、化学的安定性などの特性に優れている。DLCを施す際の製法としては、例えば、プラズマCVD法やPVD法などの成膜法がある。
【0037】
シートリテーナ12とボデー3との間には所定の空間であるクリアランスCLが設けられ、このクリアランスCLにより、キャビティC内の流体圧が、シートリテーナ12の背面側に加わることが可能な状態になっている。クリアランスCLは、少なくともキャビティC内の流体圧が縮径部61に加わる状態で、拡径部60とボデー3との間に設けられている。
【0038】
シートリテーナ12の縮径部61の外周には、Oリング14、バネ部材13、バネ押え15、補助リング16が装着され、この状態で前記の装着穴44に装入されることでシートリテーナ12が流路方向に移動可能になっている。
【0039】
Oリング14は、例えばエチレンプロピレンゴム等のゴム、或はPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)により設けられ、バックアップ用の補助リング16の間に両側から挟まれた状態で、バネ押え15により装着穴44の奥側に装着される。この状態でシートリテーナ12がOリング14の内周側に装着されることで、縮径部61の外周面にOリング14が装着され、このOリング14を介してシートリテーナ12の端部12a側がボデー3との間に保持された状態で、シートリテーナ12外周がシールされる。
【0040】
バネ部材13は、例えばSUSにより皿バネ状に設けられ、シートリテーナ12の拡径部60とバネ押え15との間に弾発状態で装着される。このバネ部材13により、シートリテーナ12に対してボール10をシールする側に弾発力が付与される。バネ部材13を皿バネとした場合、適宜のばね係数で形成したものを複数枚使用することにより、小さい設置スペースで高荷重を得ることができ、特にボール弁の流入側と流出側とが低差圧の状態下におけるシール性を向上することが可能になる。バネ部材13は、皿バネに限られることはなく、例えば、図示しないコイルスプリングであってもよい。
【0041】
バネ押え15は、例えばSUSにより略筒状に形成され、拡径環状部位と、この拡径環状部位よりも縮径した挿入筒部位とを有している。拡径環状部位の内周側には、上記バネ部材13が装着され、挿入筒部位は、装着穴44の縮径側に装着される。
【0042】
一方、ボール10の軸装方向において、上下ステム50、51外周の軸装穴22、32に、軸受17、17、軸装シール機構18、18がそれぞれ装着され、これらを介してボデー3内にボール部材52が回転自在に取付けられる。ボール10は、上ステム50により回動操作され、このボール内流路10aとシートリテーナ12の内部流路12bとが連通したときに、バルブ本体1内に流体が流れることとなる。
【0043】
軸受17は、例えば、アルミニウム青銅等の合金材料により、ボール10の上下側と、各軸装シール機構18、18との間に装着可能な長さに形成され、略円筒状の筒部70と、この筒部70よりも外径方向に突出した係止部61とを有する形状に一体成形される。この一体成形により、複数部材を組み合わせた場合のように、部材間にガタや芯ズレが生じるおそれがなく、コストダウンも図られる。軸受17は、シール機能を有することなく、ボデー3への装着後には内周側、外周側ともに流体が通過可能に設けられている。
【0044】
係止部71は、バルブ内部の係合部30、33に係止可能な外径の鍔状により、軸受17の端部側に形成される。係止部71は、バルブ内部の係合部30、33にそれぞれ係止され、この状態により軸受17のボール10の反対側への移動が防がれている。
【0045】
上記軸受17は、この軸受17に働こうとするラジアル方向の荷重(ラジアル荷重)とスラスト方向の荷重(スラスト荷重)、及び軸受17とボール10との位置関係をそれぞれ考慮しながら、その外形や大きさなどを設定すればよい。
【0046】
また、軸装シール機構18は、Uリングシール80、バックアップリング81、金属リング82を有しており、これらの各部品の内径、外径寸法は、略同一に設定されている。
軸装シール機構18において、ボール10側にUリングシール80が設けられ、このUリングシール80にバックアップリング81が積層され、このバックアップリング81の外周位置(ボール10から見た外周側の位置)に金属リング82が積層されている。
【0047】
Uリングシール80は、例えば、ポリエチレン製の外周部位と芯金(スプリング)部位とからなり、シール機能を発揮させるために、その内径が上ステム50の外径よりもやや小さく、外径が軸装穴32の内径よりもやや大きく設定されている。このUリングシール80は、市販のUパッキンと同等に設けられ、U字形断面の外周部位がリップ部位となり、このリップ部位が流体圧により拡径し、上下ステム50、51とボデー3、蓋部材2とをシールする構造となる。従って、一般的なOリング部材のように押圧力を加える構造のシール部品に比べてシール領域を小さくでき、摺動抵抗を小さくできる。このようなUリングシール80は、リップパッキンとも称される。
【0048】
バックアップリング81は、例えば、ポリエチレンからなり、Uリングシール80と金属リング82との間に介在され、Uリングシール80の軸装穴32中心側へのはみ出しを防ぎ、かつ、Uリングシール80と金属リング82との間でクッションの役割を果たしており、キャビティC側からの高圧にも耐えうる。このバックアップリング81の材質や構造を変えることにより、軸受としての機能を発揮させることも可能となる。
【0049】
金属リング82は、例えば、アルミニウム銅合金からなっている。金属リング82が配置されるボデー3の軸装穴32の上部は小径に設けられ、この小径部分によって段状に形成されている。金属リング82は、段状部分によって上面が係止される。金属リング82の内径は、上下ステム50、51の外径よりもやや大きく、小径部分の内径よりも小さく設定される。これにより、金属リング82の内径側は、小径部分の上方から視認可能な状態になり、軸装穴32の外側からこの金属リング82を適宜の治具等で押すことも可能になる。そのため、軸装穴32に挟まって取出しにくいUリングシール80やバックアップリング81を、分解時等において金属リング82を上方から押出すことで同時に取外しできる。金属リング82には、スラストベアリングとしての機能は不要になっている。
【0050】
軸装シール機構18、18のうち、下ステム51に装着される軸装シール機構18は、蓋部材2に内挿される。蓋部材2は、バルブ本体1の内方側(ボール10側)が最小径部になるように形成され、この最小径部に軸受17が内挿されている。本実施形態においては、最小径部をボール10の球径よりもやや大きく形成することにより、最小径部に対応する蓋部材2の装入穴23の奥部を介してボール10をバルブ本体1内に内挿するようにしている。
【0051】
図示しないが、
図1において、バルブ本体1には手動ハンドルが装着される。手動ハンドルは、上ステム50の上端部に着脱可能に装着可能に設けられ、ボール10回転操作用の把持部が設けられている。一方、上ステム50への取付け側には、把持部の先端側には突出部位が形成されている。
【0052】
ボデー3上面には、複数のストッパ部85が一体に突設形成され、このストッパ部85に回転操作時のハンドルの突出部位が当接可能に設けられている。これにより、ハンドルの回転がストッパ部85により所定の操作角度内に規制される。すなわち、複数のストッパ部85を、ハンドルを略90°の範囲で操作可能に形成しておけば、ハンドルを介してボールを90°の回転に規制し、容易に所定の弁閉又は弁開状態にできる。また、弁開・弁閉用のストッパ部85を複数組設けることで、操作方向やバルブ本体1に対する向きを変更しながらハンドルを取付けることも可能となる。
【0053】
バルブ本体1には、図示しないアクチュエータを搭載して自動でバルブ開閉操作をおこなうこともできる。この場合、図示しないが、アクチュエータが搭載されるボデー3の上面側に、適宜の高さ寸法の円筒部材を載置し、この円筒部材を介してアクチュエータの図示しない出力軸と上ステム50とを接続すればよい。このように、円筒部材を介在させることで、ストッパ部85がアクチュエータ搭載の邪魔になることがなく、かつ、アクチュエータとバルブ本体1に対して所定間隔で搭載することが可能になる。さらに、円筒部材の高さを適宜設定することで、各種の規格に対応したアクチュエータの搭載も可能となる。
【0054】
次に、本発明における高圧用トラニオン型ボール弁の上記実施形態における作用を説明する。
一般的の構造のトラニオン型ボールバルブにおいては、弁閉状態のバルブ本体内に高圧流体が流れる状態で、高速でバルブの開閉動作を繰り返すと、流路内の流体圧がキャビティ内に十分に伝わりにくくなり、シートリテーナによる自緊力を発揮するためのキャビティ圧が不足する。このとき、キャビティ圧<流路の流体圧の関係になっている。
【0055】
これに対して、本発明の高圧用トラニオン型ボール弁は、ボール内流路10aとキャビティCとの間を流体が流通可能となる連通孔55をボール10に設けている。このように設けたことで、上記のキャビティ圧<流路の流体の関係を利用して、連通孔55を介してボール内流路10aから流体圧をキャビティC内に伝えることが可能となる。しかも、この連通孔55により、ボール10の中間開度に限ることなく全閉時から全開時までの間で高圧流体をキャビティC内に送ることが可能になっている。
【0056】
この場合、2つの連通孔55、55をボール内流路10aの略中央付近からこのボール内流路10aと傾斜する方向に形成していることで、連通孔55をボール内流路10aに対して垂直方向に設ける場合に比較して流路の向きに近づき、特に、弁開時には、ボール内流路10aからキャビティC内に流体が流れ込みやすくなる。このため、液体や粘性流体などの流動性が低い場合や、流体に異物が含まれている場合にも、これら高圧流体を連通孔からキャビティCまで確実に送り、キャビティC内をボデー内流路40と略均圧状態まで昇圧できる。
【0057】
しかも、2つの連通孔55、55をボール10の中心から点対称の状態で互いに略平行に設けていることで、これら連通孔55を介してキャビティCの一、二次側に略均等に流体圧を加え、キャビティC内を略均圧状態に昇圧する。
【0058】
そして、シートリテーナ12とボデー3との間にクリアランスCLを設けていることから、連通孔55からキャビティC内に加わった流体圧が、クリアランスCLを介して一、二次側のシートリテーナ12、12の背面側に迅速に回り込むように移動する。このため、バルブ本体1内を流れる高圧流体が、液体や粘性流体であったり、或は高圧流体に異物が混入している際に、高速でバルブの開閉を繰り返した場合でも、流体圧をシートリテーナ12背面から加え、ボール10の一、二次側から高い自緊力を略均等に働かせて高い自封性を発揮できる。
【0059】
この場合、シートリテーナ12のボール10側が拡径部60、ボール10から離れた側が縮径部61であり、この縮径部61に流体圧が加わることが可能な状態で、拡径部60とボデー3との間にクリアランスCLが設けられている。このことにより、シートリテーナ12に貫通孔などの加工を施すことなく、クリアランスCLを介してシートリテーナ12背面まで流体圧を導くことが可能となる。
【0060】
さらに、縮径部61の外周面に装着したシール用Oリング14を介してシートリテーナ12の端部12a側をボデー3との間に保持しているため、高圧流体が縮径部61側から流路40側に漏れることを防止し、流体圧をシートリテーナ12の背面側に高い効率で送ることで自封性が向上する。このように、Oリング14で端部12a側を保持しつつ、シートリテーナ12の先端側であるシール面62をボール10に当接させていることで、シートリテーナ12を先後端の両側で位置決めして流路40に対して同心状態に装着でき、シートリテーナ12をボデー3に組付けるだけで、略均等幅のクリアランスCLをシートリテーナ12とボデー3との間に形成できる。このように、シートリテーナ12の装着位置を調整することなく正確な幅のクリアランスCLを設けることができ、このクリアランスCLからシートリテーナ12背面側に均等に圧力が加わるようにできる。
【0061】
図4においては、ボールの他例を示している。なお、以降の例において、前記実施形態と同一部分は同一符号によって表し、その説明を省略する。このボール90の上下部には、互いに同一径の上ステム50と下ステム51とがそれぞれ延設されてボール部材91が構成され、ボール90の近傍位置には、それぞれ鍔部53が形成される。
【0062】
ボール90の内部には4つの連通孔92が形成され、これら連通孔92は、ボール内流路90aの略中央付近から、このボール内流路90aの中心並びに上下ステム50、51の中心に対して対称になるように、ボール外周の一、二次側に向けてボール内流路90aと傾斜する方向に形成される。このような連通孔92を形成した場合、これら連通孔92を介してバルブのキャビティCの一、二次側の上下側に均等に流体圧を伝えることが可能になり、一、二次側のシートリテーナ12による自緊力を均圧状態に発揮させることが可能となる。さらに、図示しないが、連通孔の数や向き(角度)に加えて、穴径も適宜変更することができる。
【0063】
一方、
図5においては、シートリテーナの他例を示している。このシートリテーナ100では、拡径部60の背面側に縮径部61に向けてテーパ状に縮径するテーパ面部101が形成され、このテーパ面部101と縮径部61との境目には、段差部102が形成されている。テーパ面部101を設けたシートリング100を
図1のバルブ本体1に装着した場合、拡径部60外周面がストレート状である場合と比較して、テーパ面部101によりボデー3との間のクリアランスCが広がり、このクリアランスCを介して流体の回り込みを一層生じやすくできる。これによって、流体を利用した自緊力を安定して生じさせることが可能となる。
【0064】
その際、段差部102に一点鎖線で示したバネ部材13の中央付近が当接し、このバネ部材13からの荷重を段差部102で受けるようになっている。このため、段差部102を、バネ部材13からの荷重を十分に受けることができる高さに設ける必要がある。その場合、バネ部材13の弾発力で、特に低差圧において確実にシートリテーナ100を
図1のボール10方向に押圧してシールできる。
【0065】
図6においては、高圧用トラニオン型ボール弁の他の実施形態を示している。このバルブ本体105では、シートリテーナ60の拡径部60背面側とバネ部材13との間にスペーサ106が配置され、このスペーサ106は、シートリテーナ拡径部60やバネ部材13よりも外径の小さい略リング状に設けられている。
スペーサ106を設けた場合、シートリテーナ拡径部60の背面側とバネ部材13との間にあらたな空間が形成され、この空間によってクリアランスCが広がる。このため、この拡大したクリアランスCを介してシートリテーナ拡径部60背面側に流体が一層回り込みやすくなり、十分な自緊力が得られることとなる。
【0066】
この場合、スペーサ106は、環形状の一部が切欠かれた略C字形状に形成されている。このようにスペーサ106をC字状に設けていることで、流体が切欠き部分の切れ目107を通ってスペーサ106内径側に入り込み、可能な限りシートリテーナ拡径部60背
【0067】
面の内周側に近い位置まで回り込んで、シートリテーナ60に対して背面圧が十分に加わるようになる。切れ目107は、360°の環形状に対して、例えば45°の角度で形成されているとよいが、その角度は任意に設定可能である。また、切れ目107を設けることなく、スペーサ106を環形状に設けるようにしてもよい。
【0068】
図7においては、本発明の高圧用トラニオン型ボール弁を設けた水素ステーションの一例を示している。この水素ステーションは、本体側を自動車側よりも高圧にし、自動車接続側との差圧のみで水素充填をおこなう、いわゆる差圧充填式により設けられる。図の水素ステーション以外にも、蓄圧することなく圧縮機から自動車に直接水素を充填する、いわゆる直充填式の水素ステーションに本発明の高圧用トラニオン型ボール弁を設けることもできる(図示せず)。
【0069】
図の水素ステーションに対して、前述したバルブ本体1が接続され、このバルブ本体1は、例えば、水素ステーションの高圧水素の供給ラインや後述の圧縮機111内部の図示しない非圧縮流体の供給ラインなどに用いられる。
水素ステーションは、蓄圧器110、圧縮機111、ディスペンサ112、プレクール熱交換器113、迅速継手114、充填ホース115、充填ノズル116、車載タンク117を有し、これらにより高圧水素の供給ライン122としてシステムが構成される。
【0070】
バルブ本体1は、圧力損失が小さいため、圧縮機111内部の非圧縮性流体の供給ラインのほか、蓄圧器110の二次側に設けたり、その他の供給ラインに設けることによって、システム全体の圧力損失が小さくなり、
図7のシステムに好適となる。そして、高速でバルブの開閉を繰り返す場合であっても高い自緊力を発揮し、液体や粘性流体等である場合にも確実に漏れを防止し、高圧水素ガスの供給ラインの場合にも極めて高いシール性を発揮する。
【0071】
図に示すように、水素ステーションの各ユニットの接続部位には手動弁120が設けられ、各ユニットの一次側又は二次側に適宜に自動弁121が設けられて開閉制御される。
【0072】
蓄圧器110の内部は、複数のタンクに分かれており、それぞれのタンクと圧縮機111とを接続するバルブ120、及びそれぞれのタンクとディスペンサ112とを接続するバルブ120を適宜切り替えることにより、所定圧に至ったタンクから水素をディスペンサ112に供給する一方、所定の下限値圧を下回ったタンクには、圧縮機111から水素を前記所定圧に至るまで充填する。
【0073】
図の水素ステーションのブロック図の供給ライン122に示したように、所定のプログラムによってシステムにおける水素供給を制御したり、車両供給量に応じて適宜に水素を供給制御可能になる。
【0074】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明は、前記実施の形態記載に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲に記載されている発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の変更ができるものである。