【文献】
CEDRIC BOUZIGUES et al.,CARTOGRAPHIER LA CONCENTRATION INTRACELLULAIRE D'ESPECES OXYGENEES REACTIVES,M/S MEDECINE SCIENCES,2014年,Vol.30,PP.848-850
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の波長がフォトルミネセンス性の第1の試薬の酸化型を代表し、第2の波長が光学的に活性な試薬の還元型を代表する、請求項1、請求項2及び請求項6のいずれか1項に記載の方法。
前記粒子が、1種以上の官能化生体分子に並びに/又はターゲティング分子及びステルス剤から選択される公知の関心のある生体分子にさらにカップリングされている、請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の方法。
診断、特に生理学的に許容されない1種以上の活性酸素種(ROS)の発現に関連する生理学的障害(病理学的であるか否かを問わない)の診断のための、請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の方法の使用。
1種以上の活性酸素種(ROS)の過剰発現に関連する障害(病理学的であるか否かを問わない)に関する活性物質の有効性のスクリーニングのための、請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の方法の使用。
【背景技術】
【0002】
試料中の酸化性化学種の存在を検出するための数多くの方法が既に提案されている。
【0003】
さらに具体的に目標とされる酸化性化学種は、特に様々なシグナル伝達経路に関与する細胞メッセンジャーである。それらの調節は、免疫反応並びにある種の癌、循環器疾患及び神経変性疾患のような疾病において極めて重要である。従って、試験試料中、特に生物学的試料中の酸化性化学種の存在、その存在の定量化及びその濃度の経時的変化を測定するための有効な方法を有していると特に有利である。
【0004】
ただし、酸化性化学種の検出は、他に数多くの用途をもつことに留意すべきである。例えばフランス出願公開第2980847号には、酸化性化学種の検出に基づく爆発物検出方法が提示されている。
【0005】
公知の方法のいくつかは、試料中の酸化性化学種の存在によって発光が強まる有機蛍光試薬(又はフルオロフォア)の使用を提案する。ジクロロフルオレセインは、この種の有機蛍光試薬の一例であり、オキシダントの存在下でその蛍光が強まり、生環境下で使用することができる。
【0006】
しかし、この種の有機蛍光試薬は強い光退色を起こし、周囲環境で自発的に酸化し易く、そのため実際には長期の定量測定ができなくなることが知られている。さらに、蛍光の増大に続いて不可逆的酸化反応が起こり、そのため時間分解測定を行うことができなくなる。
【0007】
蛍光タンパク質を蛍光試薬として、特に遺伝子改変生物において使用することも知られている。cpYFP、HyPer(1、2及び3)又はroGFPは、この種の蛍光タンパク質の公知の例である。しかしながら、これらの試薬は、特定の酸化性化学種だけに特異的であったり、応答時間が長かったり、或いは検出範囲が限られていたりすることがあり、例えば、Hyperタンパク質の中で最も性能の良いHyper3は500nmol/Lで飽和し、ある種の用途、特に生物学的用途には適合しない。しかし、Bilan et al., ACS Chem. Biol 2013は、これらの蛍光タンパク質が生細胞中の酸化性化学種の検出に使用できるが、オキシダントの絶対濃度の測定値は得られないことを示している。
【0008】
さらに、Didier Casanova et al., Nature Nanotechnology, Vol. 4, September 2009の「Single europium−doped nanoparticles measure temporal pattern of reactive oxygen species production inside cells」という論文から、酸化状態IIIのユウロピウムをドープしたY
0.6Eu
0.4VO
4のナノ粒子をフォトルミネセンス性試薬として用いる、酸化性化学種の定量的検出方法が知られている。従って、これらの粒子の使用には、それらを酸化可能にするため、事前にそれらを還元しておく必要がある。この還元は、ユウロピウム元素を酸化数II、従って1種以上の酸化性化学種によって酸化できる形態にするため、レーザー照射下でその場で実施される。ここで、酸化可能なユーロピウム種を生成させるためのこの光還元は、時として同時に存在する細胞に有害であることが判明している。この光還元は、さらに、巨視的試料又はインビボでは達成するのが困難である。
【0009】
さらに、試験試料中での酸化性化学種の濃度の経時的変化の測定には、この論文に記載された方法では、ナノ粒子の光度及びこの信号の時間微分を決定する必要がある。この導関数の決定には、光度のいくつかの連続した測定値が必要であり、そのためかかる方法の時間分解能が約30秒に制限される。
【0010】
最後に、かかる方法は、発光の絶対強度の測定に基づいており、従ってナノ粒子の個別化された態様での観察を仮定しており、巨視的な容積でのいかなる検出もできなくなる。
【0011】
本発明の目的は、先行技術で公知の方法の短所をもたない酸化性化学種の検出方法を提案することである。特に、本発明は、バルク測定に適合し及び/又は時間分解能に優れる方法、好ましい変形例では、酸化可能な種のその場での生成を必要としない方法を提案することを目的とする。
【発明の概要】
【0012】
この目的のため、本発明は、主に、試料中、特に生物学的試料中、の酸化性化学種の分析に使用できる方法であって、以下のステップ:
i)試料を、フォトルミネセンス性の第1の試薬及び光学的に活性な第2の試薬と接触させるステップであって、フォトルミネセンス性の第1の試薬が、希土類でドープされかつ酸化可能なナノ粒子を少なくとも含んでおり、
・フォトルミネセンス性の第1の試薬の発光が、少なくとも1つの第1の波長において、酸化性化学種の量と共に変化し、かつ
・光学的に活性な第2の試薬によって放出されるシグナルが、第1の波長とは異なる少なくとも1つの第2の波長において、一定であるか、或いは酸化性化学種の量と共に、フォトルミネセンス性の第1の試薬の発光とは逆方向に、変化するステップと、
ii)試料中のフォトルミネセンス性の第1の試薬及び光学活性な第2の試薬を励起するステップと、
iii)少なくとも第1の波長及び少なくとも第2の波長において、試料の光度を測定するステップと、
iv)前記測定された光度の解釈及び場合によって基準値の参照によって、酸化性化学種の存在及び/又は量を推定するステップと
を含む方法を提案する。
【0013】
本発明の意味するところでは、「酸化性化学種の分析」は、酸化性化学種の有無の検出又は定性的キャラクタリゼーションの態様並びに酸化性化学種のアッセイ又は定量的キャラクタリゼーションの態様を包含する。
【0014】
本発明の意味するところでは、光学的に活性な試薬とは、光子による励起後に光子(おそらくは異なる波長のもの)を放出する試薬を意味する。
【0015】
このように、提案した方法は、フォトルミネセンス性の第1の試薬及び光学的に活性な第2の試薬の発光強度の同時測定に基づいており、これら2種類の試薬の少なくとも一方の発光強度は、酸化性化学種の存在の関数として変化する。二重同時測定は、発光波長の異なる試薬の選択によって可能となる。本発明者らは、さらに、この二重測定によって、以下でさらに詳しく説明する通り、巨視的又は微視的試料での大量の測定を、向上した時間分解能で実施できるようになることを実証した。
【0016】
さらに正確には、第1の波長は、フォトルミネセンス性の第1の試薬の酸化型又は還元型を代表する発光波長に対応する。
【0017】
その部分に関しては、第2の波長は、光学的に活性な第2の試薬に特有の、かつ該当する場合にはその還元型又は酸化型を代表する、発光波長に対応する。
【0018】
好ましい変形例によれば、第1の発光波長は、フォトルミネセンス性の第1の試薬の酸化型を代表する。従って、酸化性化学種の存在は、この波長での増大した光度の可視化によって確認される。
【0019】
第1の変形例によれば、フォトルミネセンス性の第1の試薬は、酸化性化学種の濃度によって光度が変化しない光学的に活性な試薬との組合せで用いられる。この変形例では、光学的に活性な試薬に特有の光度は、フォトルミネセンス性の第1の試薬に特有の光度の増加の有無を確認するための基準値として直接使用することができ、いかなる増加も1種以上の酸化性化学種の存在を示す。
【0020】
フォトルミネセンス性の第1の試薬と光学的に活性な第2の試薬との組合せに基づくこの実施形態は、巨視的容積における分析、特に非表面環境、例えば液体容積又は試料厚さにおける分析に特に有利である。
【0021】
第2の変形例によれば、フォトルミネセンス性の第1の試薬は、光学的に活性な試薬であって、その第2の波長における光度も酸化性化学種の濃度の関数として変化するが、フォトルミネセンス性の第1の試薬の示すものとは逆方向に変化する光学的に活性な試薬との組合せで用いられる。2種類のナノ粒子が、例えば表面への堆積又は細胞内に内在化した後で、個別に観察される。従って、第1の発光波長がフォトルミネセンス性の第1の試薬の酸化型を代表する本発明の方法の好ましい変形例では、光学的に活性な試薬に特有の第2の波長はこの試薬の還元型を代表する。こうして、酸化性化学種の存在は、この第2の波長の光度の減少の可視化によって確認される。
【0022】
この変形例では、2つの光度の測定値の解釈は、予め確立された基準値を参照することによって有利に実施される。
【0023】
さらに正確には、試料中の酸化性化学種の量は、ステップiii)で測定された光度の対に対応する値を標準シート上で読み取ることによって求めることができる。この標準シートは、既知の量の酸化性化学種を有する試料で、好ましくは試料の試験条件と同一の条件下で実施される測定によって予め確立されたシートであり、これら同一の条件は、特に溶媒、pH及び試験温度の1以上を含む。
【0024】
フォトルミネセンス性の第1の試薬と光度の変化する光学的に活性な第2の試薬との組合せに基づくこの実施形態は、分析試料中の酸化性化学種の濃度の定量的値を、第1及び第2の試薬を代表する光度の対の1回の測定から、従って迅速に、記録装置の取得速度でしか制限されずに、しかも信頼性をもって、得ることができるという点で特に有利である。
【0025】
ある実施形態によれば、本発明の方法は、フォトルミネセンス性の第1の試薬として、A
xEu
1−x(VO
4)
y(PO
4)
(1−y)、特にA
xEu
1−xVO
4のナノ粒子(式中、AはY、Gd及びLaから選択される1種であり、0≦x≦1、0≦y≦1である。)であって、ユーロピウム元素が少なくとも部分的に還元された状態にあって、従って酸化数IIを有するナノ粒子を用いる。
【0026】
還元された酸化状態のユウロピウム元素の存在を考慮すると、対応するナノ粒子は、酸化状態IIIのEu元素しか含んでいないので酸化物と呼ばれるA
xEu
1−x(VO
4)
y(PO
4)
(1−y)のナノ粒子とは対照的に、直接酸化可能である。
【0027】
そこで、本発明の別の態様によれば、本発明は、試料中、特に生物学的試料中の酸化性化学種の分析に使用できる方法であって、以下のステップ:
i)A
xEu
1−x(VO
4)
y(PO
4)
(1−y)(式中、AはY、Gd及びLaから選択される1種であり、0≦x≦1、0≦y≦1である。)のフォトルミネセンス性のナノ粒子であって、酸化数IIのユーロピウム元素を含むナノ粒子を用意するステップと、
ii)アッセイ試料中に前記ナノ粒子を導入するステップと、
iii)前記ナノ粒子を励起するステップと、
iv)前記ナノ粒子の酸化型又は還元型を代表する1以上の波長で前記試料によって放射された光度を測定するステップと、
iv)前記測定の解釈及び場合によって基準又は較正の参照によって、酸化性化学種の存在及び/又は量を推定するステップと
を含む方法にも関する。
【0028】
本発明の方法は、分析、特に試料中の酸化性化学種の検出及び/又はアッセイに特に有用である。
【0029】
従って、本発明の方法は、工業的な洗浄及び漂白プロセスからのオキシダントの排出の生態学的影響を調べるために使用し得る。また、爆発物の検出のため気相での酸化性化学種の検出も可能になる。
【0030】
ただし、本発明の方法は、ライフサイエンスの分野に関連する、活性酸素種(ROS)のキャラクタリゼーションに関して特に関心がもたれる。
【0031】
従って、別の態様によれば、本発明は、診断、特に生理学的に許容されない1種以上の活性酸素種の発現に関連する生理学的障害(病理学的であるか否かを問わない)の診断のための本発明の方法の使用に関する。
【0032】
実際、活性酸素種は、数多くの生物学的機能、特にシグナル伝達、神経伝達、平滑筋の弛緩、血小板凝集、動脈圧の調節、免疫系の制御、細胞増殖の調節、幾多の生体分子の合成、炎症及び生体異物の代謝に必須であるとともに関与している。
【0033】
生物学的試料中で分析し得る活性酸素種の代表例として、特に、スーパーオキシド(O
2.−)、ヒドロペルオキシド(HO
2.−)、ヒドロキシル(HO
.)、ペルオキシド(ROO
.)、一酸化窒素(NO
.)、二酸化窒素(NO
2.)ラジカルのようなフリーラジカルだけでなく、例えば過酸化水素(H
2O
2)、一重項酸素(
1O
2)、次亜塩素酸(HOCl)、ペルオキシ亜硝酸アニオン(ONOO
−)、ペルオキシ亜硝酸(ONOOH)、ニトロソペルオキシカーボネートアニオン(ONOOCO
2−)、ニトロニウムカチオン(NO
2+)、三酸化二窒素(N
2O
3)のような非ラジカル種も挙げることができる。
【0034】
従って、これらの酸化性化学種が過剰に産生されるとき或いは逆にそれらの生理学的含有量が不十分なときは、例えばある種のタンパク質のような生体分子の酸化の形態の生理学的障害を招く。同様に、通常の生理学的レベルと一致しない量のキャラクタリゼーションは、例えば代謝障害の兆候又は炎症のような病理的状態の兆候であり得る。
【0035】
そこで、本発明の方法によって、生物学的試料中の1種以上の酸化性化学種の量を効率的に決定するとともに、実施した測定に基づいて、これらの酸化性化学種の濃度が生理学的に許容されるか否かを確認することができる。
【0036】
生物学的試料は、生体、又は生物組織、特に生体から単離されたもの(エクスビボ又は固定組織)、細胞、又は特に生体分子を含有する溶液であり得る。
【0037】
この方法が容積スケールで有効であるという事実により、インビボでの生物学的標的のレベル或いは組織抽出物又は生物学的流体のレベルでの使用が可能となる。
【0038】
従って、本発明の方法は、容積試料で有利に実施され、インビボ、エクスビボ及びインビトロでの使用に適合する。使用の例として、分析すべき試料を含む容器を用いて測定を行うことができる。2種類の試薬が溶液中でそこに添加され、特定の光源で励起され、各々に関連する光度を2つの光電子増倍管で収集する。組織の分析については、ナノ粒子の混合物の注入及びマクロスコープ上でのスペクトル分離による検出によって実施し得る。
【0039】
特定の実施形態によれば、本発明の方法は、診断、特に生理学的に許容されない1種以上の活性酸素種の発現に関連する生理学的障害(病理学的であるか否かを問わない)の診断のためのエクスビボ用途に用いられる。
【0040】
さらに別の態様によれば、本発明は、1種以上の活性酸素種(ROS)の過剰発現に関連する障害(病理学的であるか否かを問わない)に関する活性物質の有効性のスクリーニングのための本発明の使用、特にエクスビボでの使用に関する。
【0041】
従って、本発明の方法は、治療活性物質で処置された患者から得られる生物学的試料中の酸化性化学種の量を分析し、そうして得られた測定値を、基準値(例えば同じ患者の治療前の生物学的試料を代表するもの)との比較によって評価するために使用し得る。
【0042】
このタイプのスクリーニングは、研究室での一群の潜在的有効物質の試験のために実験規模で実施することもでき、それらの有効性は、それらの存在下及び非存在下で評価される酸化性化学種のアッセイによって確認し得る。
【0043】
別の態様によれば、本発明は、本発明の方法を実施するためのシステムであって、
・試料中のフォトルミネセンス性の第1の試薬及び光学的に活性な第2の試薬を励起するための1又は2波長でのレーザー照明用装置と、
・フォトルミネセンス性の第1の試薬及び光学的に活性な第2の試薬からの発光を異なる波長に応じてフィルタリングし、もって試料の2つの別個のフィルター処理画像を形成するためのスペクトルスプリッターと、
・2つのフィルター処理画像の少なくとも2点の光度を決定するための手段と
を含むシステムを提案する。
【0044】
添付の図面を参照しながら、専ら例示を目的として示す非限定的な以下の説明を読むことによって本発明の理解を深めることができよう。
【発明を実施するための形態】
【0046】
酸化性化学種の検出方法10は、試料を、フォトルミネセンス性の第1の試薬及び光学的に活性な第2の試薬と接触させる第1のステップ12を含む。
【0047】
上述の通り、光学的に活性な試薬は、光子による励起後に光子(おそらくは異なる波長のもの)を放出する試薬を意味する。従って、フォトルミネセンス性の試薬は、この種の光学的に活性な試薬である。第二高調波発生試薬も、本願でいう光学的に活性な試薬である。このような第二高調波発生試薬の例は、例えばKTP(リン酸チタニルカリウム(KTiOPO
4)を表す。)の粒子である。これ以降の説明では、光学的に活性な第2の試薬は、フォトルミネセンス性の第2の試薬である。別途記載しない限り、フォトルミネセンス性の第2の試薬に関して記載したことは、この第2の試薬が光学的に活性である場合、特に第二高調波発生試薬である場合にも当てはまる。
【0048】
フォトルミネセンス性の第1の試薬は、希土類でドープされたナノ粒子を含む。
【0049】
ここで、「ナノ粒子」とは、直径がナノメートルの桁、特に1nm超及び/又は500nm未満の粒子を意味する。ここで、「直径」とは、ナノ粒子の最大寸法を意味する。
【0050】
好ましい実施形態では、フォトルミネセンス性の第2の試薬も、希土類でドープされたナノ粒子を含む。
【0051】
フォトルミネセンス性の第1及び第2の試薬は、異なる発光波長を有する。換言すると、フォトルミネセンス性の第1の試薬によって放射される光だけを検出できる少なくとも1つの第1の波長と、第2の試薬によって放射される光だけを検出できる少なくとも1つの第2の波長であって第1の波長とは異なる第2の波長とが存在する。これらのフォトルミネセンス性の試薬は、好ましくは、スペクトル的に分離できるようにそれらのライン幅が十分に小さいものが選択される。これによって、フォトルミネセンス性の第1及び第2の試薬からの発光の検出が容易になる。この検出をさらに容易にするとともに精度を高めるため、フォトルミネセンス性の試薬はそれらの最大発光波長が異なるように選択され、検出はそれらの最大発光波長で行われる。
【0052】
さらに、フォトルミネセンス性の第1の試薬は、検出波長で放射されるその発光(以下、その発光と略す。)の強度が、それと共存する酸化性化学種の量と共に変化するように選択される。以下、フォトルミネセンス性の第1の試薬の発光の光度が、それと共存する酸化性化学種の量と共に増加する場合について検討する。
【0053】
フォトルミネッセンス性の試薬は、試料上又は試料中で低い表面密度が得られるように堆積し得、試料は例えばスライドガラス上に受けることができる。「低い表面密度」とは、1μm
−2未満の表面密度を意味する。
【0054】
ただし、本発明の方法で考慮されるフォトルミネッセンス性の試薬は、有利には、容積試料、例えば液体試料の容積又は試料のバルク中に直接導入し得る。
【0055】
フォトルミネセンス性の第1の試薬
フォトルミネセンス性の第1の試薬は、有利には、A
xEu
1−x(VO
4)
y(PO
4)
(1−y)(式中、AはY、Gd及びLaから選択される1種であり、0≦x≦1、0≦y≦1である。)のナノ粒子を含む。
【0056】
特に、以降では、フォトルミネセンス性の第1の試薬がGd
0.6Eu
0.4VO
4のナノ粒子によって形成されている特定の場合について検討する。
【0057】
好ましい実施形態では、これらのナノ粒子は、分析すべき試料と接触させる前に還元される。
【0058】
この種のフォトルミネセンス性の第1の試薬の還元されたナノ粒子は、特に、フォトルミネセンス性の第1の試薬を得るためナノ粒子を還元することからなる予備ステップ14から得ることができる。
【0059】
以下で詳しく説明する通り、還元は、
・物理的に、特に例えばレーザー、電子又はガンマ線照射によって、或いは
・化学的に、化学的還元剤の使用によって、
実施し得る。
【0060】
第1の実施形態によれば、分析試料と接触させる前に、A
xEu
1−x(VO
4)
y(PO
4)
(1−y)のナノ粒子を物理的に、特にレーザー励起によって還元する。
【0061】
この実施形態に関して、ナノ粒子は、それらを分析試料と接触させるときには、Eu
2+の形態のユウロピウムを既に含んでいる。例えば、Gd
0.6Eu
0.4VO
4の粒子を使用する場合、この粒子のEu
3+イオン粒子は本発明の方法のステップ14においてEu
2+イオンに可逆的に還元し得る。
【0062】
A
xEu
1−x(VO
4)
y(PO
4)
(1−y)のナノ粒子のこのような還元された種は、その場で、つまりアッセイ試料中で、例えばEu種が基本的にEu
3+の形態であるA
xEu
1−x(VO
4)
y(PO
4)
(1−y)のナノ粒子の光還元によってでも、生成し得ると理解される。このアプローチは、特にCasanova et al., Nature Nanotech(2009)に記載されている。
【0063】
しかし、出発反応体として、還元型のEuを既に導入したナノ粒子(例えばGd
0.6Eu
0.4VO
4)を用いることからなる実施形態が、その効率及び簡単さのために好ましい。さらに、この変形例は、アッセイ試料中に存在する生物細胞の完全性に影響を与えない。
【0064】
別の実施形態によれば、分析試料と接触させる前に、A
xEu
1−x(VO
4)
y(PO
4)
(1−y)のナノ粒子を還元剤を用いて化学的に還元する。
【0065】
化学的に還元するこのサブステップに続いて、過剰の還元剤を除去するため、還元ナノ粒子を洗浄することからなるサブステップを行ってもよい。例えば、粒子を、還元剤を含有する溶液中に希釈し、次いで遠心分離し、次いで還元剤の存在しない新鮮な溶液(例えば純水)中に再度分散させ、こうして連続的洗浄作業が可能になる。
【0066】
使用される還元剤は、特にNaBH
4であり得る。その場合、最終ステップは、過剰の還元剤を除去するため還元ナノ粒子を洗浄することからなり得る。
【0067】
例えば、Gd
0.6Eu
0.4VO
4のナノ粒子は、ステップ14において水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)で可逆的に還元し得る。
【0068】
図2は、1MのNaBH
4による処理前、処理直後、7時間後及び2日後の、波長466nmのレーザー照明下でのGd
0.6Eu
0.4VO
4のナノ粒子の溶液の発光レベルの比較を示す。
【0069】
本発明者らは、今回、還元剤による還元後に得られる粒子が、酸化性化学種、例えばH
2O
2を、レーザー励起によってEu
3+イオンが予めEu
2+に還元された粒子によるH
2O
2の検出と同様に、検出できることを示す。
【0070】
従って、本発明の別の目的によれば、本発明は、試料中、特に生物学的試料中の酸化性化学種の分析に使用できる方法であって、以下のステップ:
i)A
xEu
1−x(VO
4)
y(PO
4)
(1−y)(式中、AはY、Gd及びLaから選択される1種であり、0≦x≦1、0≦y≦1である。)のフォトルミネセンス性のナノ粒子であって、特に還元剤を用いて化学的に、特にNaBH
4によって、前もって還元されたナノ粒子を用意するステップと、
ii)アッセイ試料中に前記ナノ粒子を導入するステップと、
iii)前記ナノ粒子を励起するステップと、
iv)前記ナノ粒子の酸化型又は還元型を代表する1以上の波長で前記試料によって放射された光度を測定するステップと、
iv)前記測定の解釈によって、場合によって基準又は較正の参照によって、酸化性化学種の存在及び/又は量を推定するステップと
を含む方法に関する。
【0071】
化学薬品(例えばNaBH
4)でのA
xEu
1−x(VO
4)
y(PO
4)
(1−y)粒子の還元が、酸化性化学種(例えばH
2O
2)を検出することのできる酸化可能なナノ粒子をもたらし得ることは決して自明ではなかった。
【0072】
理論に束縛されることは望まないが、本発明者らは、今回、還元のメカニズムが、2つの場合で同じではないことを示す。
【0073】
レーザー励起による還元の場合、Eu
3+イオンの電子遷移と共鳴するレーザー励起の結果はEu
2+イオンの出現であり、これは粒子を酸化可能にするとともに酸化性化学種を検出できるようにする。しかしながら、化学薬品によるナノ粒子の還元の場合、Eu
3+イオンの数に持続的な有意の変化はなく、化学薬品での還元は、おそらくはEu
3+イオンの発光に作用する消光現象に関与し、粒子の再酸化によりルミネセンスの回復が可能になる。
【0074】
光学的に活性な第2の試薬
光学的に活性で好ましくはフォトルミネセンス性の第2の試薬は、その発光(又はその発光の光度)が一定でであるか、或いは、好ましくは、酸化性化学種の量と共に変化するように、選択される。
【0075】
従って、上述した酸化性化学種の検出方法10の第1の変形例によれば、光学的に活性な特にフォトルミネセンス性の第2の試薬の発光の強度は、酸化性化学種の存在下でほぼ一定である。
【0076】
「ほぼ一定」とは、光度の変動が±10%、好ましくは±5%の範囲内であることを意味する。この場合、光学的に活性な第2の試薬は、特に、LaPO
4:Eu、LaPO
4:Er、LaPO
4:Nd、LaPO
4:Tb、LaF
3:RE(RE=希土類)、NaYF
4:Yb、NaYF
4:Er、YAG:Euのナノ粒子、蛍光性半導体ナノ結晶CdSe/ZnS、CdTe/ZnS、或いはKTP及び/又はBaTiO
3のような第二高調波発生による発光特性を有する粒子を含み得る又はからなり得る。この方法の変形例も、試験試料中の酸化性化学種の存在を検出できるようになる。
【0077】
上述した酸化性化学種の検出方法10の第2の好ましい変形例によれば、光学的に活性な第2の試薬の発光の強度は、酸化性化学種の量の関数として、フォトルミネセンス性の第1の試薬の第1の波長で観察される発光の変化とは逆方向に、変化する。
【0078】
従って、これ以降の説明では、フォトルミネセンス性の第2の試薬の発光は、それと共存する酸化性化学種の量と共に減少すると想定する。例えば、フォトルミネセンス性の第2の試薬は、YAG:Ce及び/又はLaPO
4:Ceのナノ粒子を含有する溶液からなり得る。これ以降の説明では、フォトルミネセンス性の第2の試薬は、YAG:Ceのナノ粒子によって形成されると想定する。
【0079】
図3は、濃度0μΜ、5μΜ、10μΜ及び50μΜの既知濃度の過酸化水素を含む酸化性媒体中でのGd
0.6Eu
0.4VO
4の還元粒子及びYAG:Ceのそれぞれの発光強度応答曲線50〜56及び58〜64を示す。曲線50〜64の各々は、個別に検出された約10個のナノ粒子のモニタリングからの平均値である。
【0080】
本発明に従って酸化性化学種の有無を決定する
酸化性化学種の存在を決定する方法10は、試料中のフォトルミネセンス性の第1及び第2の試薬を励起することからなるステップ16に続く。この目的のため、試料を二重発光励起(特にレーザーによるもの)に付してもよい。本明細書で想定するフォトルミネセンス性試薬の例の場合、試料のこの二重励起は、例えば396nm(Gd
0.6Eu
0.4VO
4に対して)及び488nm(YAG:Ceに対して)の波長において、それぞれレーザーダイオード及びアルゴンレーザーによって実施し得る。
【0081】
酸化性化学種の検出方法10は、次いでフォトルミネセンス性の第1の試薬の発光波長に対応する少なくとも1つの第1の波長及びフォトルミネセンス性の第2の試薬の発光波長に対応する少なくとも1つの第2の波長において、試料によって放射される光度を測定するステップ18に続く。ここで、第1の波長と第2の波長は異なる。ここで想定する例では、試料によって放射される光度は、Eu
3+及びCe
3+の2つの発光波長、すなわちそれぞれ617nm及び550nmで測定される。
【0082】
実際、試料中の酸化性化学種の存在は、Eu
2+及びCe
3+イオンからそれぞれEu
3+及びCe
4+イオンへの酸化を引き起こす。これは、波長550nmでのセリウム系粒子の発光の光度の低下及び波長617nmでのユーロピウム系粒子の光度の増加に反映される。
【0083】
分析すべき酸化性化学種の濃度とは無関係に第2の試薬が一定の発光を有する実施形態では、その発光シグナルを基準尺度として直接使用し得る。そこで、このシグナルによって、フォトルミネセンス性の第1の試薬の酸化型又は還元型を代表する波長又は複数の波長の1つの光度に変化があるか、或いはこの光度に変動がないかを証明できるようになる。光度の変化は、酸化性化学種の存在を表す。逆に、光度の変動がないことは、分析すべき試料中に酸化性化学種が存在しないことを示す。
【0084】
別の実施形態において、本方法は、試験した試料中の酸化性化学種の量を決定するため、標準値に対してフォトルミネセンス性試薬の各々の発光の、個々のナノ粒子のスケールでの、測定光度を比較するステップ20を含む。このステップは、特に、フォトルミネセンス性の第2の試薬の光度も分析試料中の酸化性化学種の量と共に変化する場合に必要である。酸化性化学種の量は、特に、試験した試料中の酸化性化学種の濃度であり得る。
【0085】
ここで、基準値は、
図4に示すようなシート30から決定し得る。このシートは、以下の3つに対応する点の組を表す。
・ユーロピウム系粒子を含むフォトルミネセンス性試薬の発光の光度、
・セリウム系粒子を含むフォトルミネセンス性試薬の発光の光度、及び
・酸化性化学種(
図3に示す例の場合、H
2O
2)の濃度。
【0086】
このシート30は、特に、
図3の曲線50〜64から少なくとも部分的に得ることができる。この場合、実際に、2種類のフォトルミネセンス性試薬は、酸化性化学種の量の関数として逆方向の発光応答を有するので、酸化性化学種の1つの同一の濃度に対応する曲線50〜64の各対によってシート30の1点を決定することができる。変形例として、正規化された光度の対が酸化性化学種の濃度に一義的に対応する場合には、シート30は、曲線50〜64のデータセットに基づいて補間することができる。
【0087】
従って、有利には、オキシダント濃度に対して2種類の試薬の発光が異なる単調な依存性を示す場合には、2種類の試薬の瞬時発光に基づいてオキシダントの濃度を一義的に定めるシートを構築することができる。2種類の試薬に関していくつかのタイプの発光応答を想定し得る。ただし、好ましい変形例は、オキシダントに対する応答が逆方向の発光の変化を有する2種類の試薬の使用である。
【0088】
このシート30の変形例として、基準値は、テーブル又はソフトウェアから得ることもでき、測定された強度の対の測定点から、酸化性化学種の濃度を補間してもよい。
【0089】
いずれの場合も、基準値に対する測定光度の対のこの比較によって、Casanova et al., Nat. Nanotech(2009)に記載された方法で必要とされる光度の導関数の測定はなくすことができる。本方法は、従って優れた時間分解能をもたらす。
【0090】
Eu
3+及びCe
3+イオンの発光波長で測定される光度によって、試験した試料中に存在する酸化性化学種の濃度に一義的に対応するシート30の点を決定することができる。この濃度の一義性は、フォトルミネセンス性試薬の発光強度が、それらと共に存在する酸化性化学種の量の関数としての異なる単調な変化をすることによって確保される。
【0091】
従って、本発明の酸化性化学種の検出方法は、光度の二重測定から試料中の酸化性化学種の量を迅速かつ比較的簡単に決定するのに特に有利である。
【0092】
本方法は、レシオメトリック測定が可能となる。特に、フォトルミネセンス性の第1の試薬の発光が酸化性化学種の量の関数として変化するが、光学的に活性な第2の試薬によって放射される光度が酸化性化学種の濃度とは無関係にほぼ一定である場合、酸化性化学種の濃度を決定するために第1の試薬と第2の試薬の発光強度の比を使用するのが有利であり得る。
【0093】
本方法は、さらに、活性酸素種(すなわちROS)のバルクでの検出に特に適している。実際、かかる検出は、フォトルミネセンス性試薬の濃度にも、試験すべき試料の容積にも依存しない。本方法は、特に生体組織(エクスビボ又はインビボで採取)における酸化性化学種の産生のモニタリングに使用することができる。
【0094】
ROSがある種の癌、神経変性疾患及び循環器疾患のような疾病において異常に産生されることが知られていることがここで想起される。ここに記載された方法は、従って、この分野で実施された多くの研究を補完し、これらの疾患によってもたらされる公衆衛生上の課題に答えることに資することができる。
【0095】
提案される方法は、また、特にフォトルミネセンス性試薬の励起の光度を変化させることによって、酸化性化学種の変動する濃度に有利に適応可能である。本方法を用いて検出することができる酸化性化学種には、H
2O
2、NO及びClOが含まれるが、これらに限定されない。本方法は、試料中の酸化性化学種の絶対濃度を決定することができる。本方法は、公知の方法よりも優れた空間及び時間分解能を提供する。本方法は、いかなる副反応も引き起こさないし、生体適合性である。本方法は、細胞又は生物学的組織における酸化性化学種のアッセイに使用し得るだけでなく、生体分子の溶液中の酸化性化学種の検出及び/又はアッセイにも使用し得る。
【0096】
上述の方法10は、特に
図5に示すような酸化性化学種の存在を決定するためのシステム100によって実施することができる。
図5において、試料102中の酸化性化学種の存在を検出するためのシステムは、まず、ここでは2つの異なるレーザー源106,108から形成され、かつ異なる波長のビームを放射するように構成されたレーザー照明装置104を備える。フォトルミネセンス性試薬がGd
0.6Eu
0.4VO
4及びYAG:Ceである上記で想定した例において、第1のレーザー源106は波長488nmの第1のレーザービーム110を放射するように構成され、第2のレーザー源108は波長396nmの第2のレーザー光112を放射する。
【0097】
システム100は、次いで、第1及び第2のレーザービーム110,112を結合し、ビーム110,112を試験試料102のゾーンに集束させるための光学レンズ116にそれらを導くダイクロイックミラー114を備える。このゾーンは例えば数mm
2の表面積に相当し得る。試料102は、試料ホルダー103上又は試料ホルダー103内に配置し得ることに留意すべきである。特に、試料がガスである場合、この試料ホルダ103は、試験試料102の分散を防ぐため、閉鎖空間の形態を取る。試料ホルダ103は、特に試料102が溶液の形態である場合、セル又はキュベットの形態も取り得る。
【0098】
試験試料は、フォトルミネセンス性の第1の試薬及び光学的に活性な第2の試薬(この例ではフォトルミネセンス性)と接触させる。既に想定した例のように、この例のフォトルミネセンス性試薬は、以下の2つの異なる種類の粒子の形態:
・YAG:Ceの粒子(
図5では「*」と示す。)、及び
・Gd
0.6Eu
0.4VO
4の還元粒子(
図5では「o」と示す。)
を取る。
【0099】
第1及び第2のレーザービーム110,112は、試料102中のフォトルミネセンス性の第1及び第2の試薬を励起する。異なる種類のフォトルミネセンス性試薬は、2つのレーザービームのうちの一方の励起に応答し、好ましくは、2つの異なる波長範囲で発光することにより選択的に(すなわち、一方のみに)応答する。「2つの異なる波長範囲」とは、2つの波長範囲が、他の波長範囲に含まれない1以上の波長を含むことを意味する。例えば、YAG:Ce粒子は、488nmの第1のレーザービームの励起に対して550nmの第1の波長で発光することにより応答する。Gd
0.6Eu
0.4VO
4の還元粒子は、396nmの第2のレーザービームの励起に対して617nmの第2の波長で発光することにより応答する。
【0100】
対物レンズ116は、フォトルミネセンス性試薬の2つの応答波長を含む2種類のフォトルミネセンス性試薬118の発光を、任意的には発光が透過するダイクロイックミラー114を介して、スペクトルスプリッター120に集束させることができるようにする。すると、ダイクロイックフィルター114は、レーザー源を反射し、フォトルミネセンス性試薬の発光に透明であることによって、一方ではレーザー源106,108と試料102との間、及び他方では試料102とスペクトルスプリッター120との間に機能的に介在する分割プレートとしての役割を果たす。
【0101】
変形例として、対物レンズは、試料102とスペクトルスプリッター120との間に機能的に介在する光学装置、特に顕微鏡に組み込まれる。この顕微鏡は、特に蛍光顕微鏡(好ましくは広視野)、マクロスコープ又は実体顕微鏡であり得る。
【0102】
スペクトルスプリッター120によって、単一の入射ビーム118から、2つの異なる波長(ここでは試料102と接触するフォトルミネッセンス性試薬の応答波長)でフィルタリングされた2つの出力画像122,124を得ることができる。換言すると、スペクトルスプリッター120は、フォトルミネセンス性試薬の発光を異なる波長でフィルタリングし、もって試験試料102の2つの別個のフィルター処理画像を形成することを可能にする。
【0103】
この目的のため、この例におけるスペクトルスプリッター120は、ダイクロイックミラー126を含む。フォトルミネセンス性試薬の応答波長にそれぞれ対応する波長の第1のフィルター130及び第2のフィルター132は、それぞれ、ダイクロイックミラー126によって反射されるビーム122の経路及びダイクロイックミラー126を通過するビーム124の経路に配置される。これにより、異なる波長のビームを、2つの別個のセンサで又は単一のセンサ(例えばカメラ134)の2つの異なる領域で検出するために空間的に分離することができる。
【0104】
システム100は、2つのフィルター処理画像に付随する光度を決定するための手段をさらに備える。ここで、こうした手段は、カメラ134、例えば2種類のフォトルミネセンス性試薬の各々の応答に対応する2つのフィルター処理画像をそれぞれの領域136,138の各々で検出するためのレコーダー(例えばコンピュータ)に接続されたEMCCDカメラ(EMCCD:「電子増倍電荷結合素子」)を備える。
【0105】
或いは、光度を決定するために用いられる手段は、異なる波長での2つの光検出器、特に光電子増倍管又はフォトダイオード型のものを含む。これらの光検出器は、照明試料全体から届く全光度の測定を空間分解能なしで可能にする。
【0106】
ここで、システム100は、各々のタイプの粒子を同時にかつ個別に検出することができることに留意すべきである。カメラ134のような全視野装置を使用する場合、試料の低い表面密度のため、粒子をさらに個別に検出し、空間的に局在化することができる。従って、これら2つのルミネッセンス発光及びそれらの変化の各単一粒子のスケールでのモニタリングは、試料中の酸化性化学種の定量的、局所的(特に40nmの位置精度)及び100msのオーダー(特に33ms)の取得速度での時間分解測定が可能となる。測定の時間分解能は、実際に、カメラ134の取得速度によって与えられる。
【0107】
励起レーザーのパワーは、さらに、検出される酸化性化学種の濃度の範囲を変更するために調節し得る。従って、酸化性化学種を検出するための方法及びシステムは、炎症又はある種の腫瘍におけるROSの検出のような数多くの用途に使用し得る。
【実施例】
【0108】
例1
タンパク質による刺激後に哺乳動物細胞で産生される酸化性化学種を検出するために行った実験例について以下で詳しく説明する。
【0109】
最初に、哺乳動物細胞を調製した。この目的のため、マウス血管平滑筋細胞(初代培養)を、10%ウシ胎児血清及び抗生物質(本例ではペニシリン及びストレプトマイシン)を含むRPMI(「ロズウェルパーク記念研究所」培地)で培養した。コンフルエンスが80%に達したときに、細胞を採取し、スライドガラス上に付着させる。この特定の例では、典型的には1.5×10
4個の細胞がスライドガラス上に配置される。次いで、細胞をスライドガラス上で完全培地中で48時間培養し、次いで血清なしの培地中で24時間培養する。
【0110】
さらに、ほぼ1mMに等しい濃度のGd
0.6Eu
0.4VO
4の安定コロイド溶液を調製する。溶液を次いで加速度5000×gで5分間遠心分離して粒子を沈殿させる。上清を除去し、ペレットを濃度1Mの水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)の水溶液中に再懸濁する。NaBH
4と粒子及び水との反応は、泡の形態の水素分子H
2を生じる。従って、反応混合物を閉じ込めないように注意を払うべきである。数分後に、溶液を加速度5000×gで5分間再度遠心分離する。上清を除去し、ペレットを蒸留水に再懸濁する。洗浄操作を2回繰り返して残留還元性イオンを除去する。
【0111】
約1mMのYAG:Ce(4%)の安定溶液を、水を主溶媒として調製する。これらの粒子は、グリコサーマル法によってエタノール中の分散液の形態で合成される。洗浄サイクルが行われる:必要な遠心分離を加速度5000×gで5分間行い、次いで粒子を測定用に選択した溶媒(ここで説明する例では水)に再懸濁させる。
【0112】
さらに、YAG:Ceの懸濁液10μLと、還元しかつ洗浄したGd
0.6Eu
0.4VO
4粒子の懸濁液15μLとを、高張培地の市販溶液(LifeTechnologies社)中で混合する。細胞をこの溶液で10分間、次いで70%のRPMI及び30%の滅菌蒸留水を含む低張液中で2分間インキュベートする。細胞は次いでそれらの完全培地中で30〜60分間培養する。
【0113】
次いで、ナノ粒子がロードされた細胞を含むスライドを試料ホルダーに配置し、1mLの緩衝生理学的培地(HBSS/1mM HEPES)を添加する。次いで、スライドを、個々の粒子の観察のための落射蛍光顕微鏡(オリンパスIX71、対物×63、NA=1.4)に装着する。次いで、細胞を、
図6に示すように白色光透過、及び
図7に示すように二重照明下(488nm及び396nmのレーザー源)で観察する。適切な形態を有する細胞、すなわち付着性の生細胞を選択する。50秒間観察した後に、最初の培地を270nMのエンドセリン−1(ET−1)を含有する生理学的培地で交換し、全視野センサー(ImageEM EM−CCDカメラ(浜松ホトニクス))で個々のナノ粒子の発光を数分間観察する。
図8は、Eu系及びCe系の粒子にそれぞれ対応する応答曲線200,202を示す。Eu系粒子の光度の増加とCe系粒子の光度の低下が観察される。
【0114】
次に、観察された粒子(Ce又はEuがドープされたもの)の強度の経時的な変化を、画像処理又は計算ソフトウェア(例えば、Matlab)を用いて決定する。得られる各曲線を、最初の測定値を対照として正規化する。過酸化水素の濃度は、
図4のシート30から得られる。こうして
図9に示す曲線204及び対応する平滑化曲線206が得られ、これは試験した試料中のH
2O
2の変動を時間の関数として示す。
【0115】
例2
図10は、本発明の方法の別の使用例を示し、分析すべき試料が容器内に収容されている。YAG:CeとGdVO
4:Euの2種類の試薬を溶液中で容器に入れる。それらは特定の源で励起される。2mMの過酸化水素を添加(t=0)した後、550nm及び617nmで検出される各試薬のルミネセンスを2つの光電子増倍管で収集して、それぞれ2つの曲線208,210を形成する。
【0116】
例3
血管平滑筋細胞は血管の壁を覆う。エンドセリン−1(ET−1)のような強力な血管収縮剤による刺激は、それらの収縮を引き起こし、動脈圧の上昇を誘発する。この応答を担う細胞シグナル伝達プロセスは、過酸化水素(酸化性化学種)の産生を誘導することが知られている。さらに、膜受容体EGFR(上皮増殖因子受容体)もこのプロセスに関与することが知られている。ただし、それらの寄与、特にそれらのオキシダント生成に対する影響は依然として不明である。これは、この現象のキャラクタリゼーションのための十分迅速な定量的検出方法がないためである。
【0117】
この例では、血管収縮剤ET−1に対する応答におけるEGFR受容体のトランス活性化を、本発明の方法によって研究した。
【0118】
そのため、例1と同じプロトコール、すなわち血管平滑筋細胞の培養、YAG:Ce及びGd
0.6Eu
0.4VO
4還元粒子の懸濁液の調製、及び懸濁液での培養細胞のインキュベーションを行った。
【0119】
これらの粒子の存在は、例1(
図11)に示した通り、蛍光顕微鏡法及びスペクトル分解によって観察した。スライドガラス(170μm)上に付着させた血管平滑筋細胞にナノ粒子の混合物(事前に化学的に還元したGdVO
4:EuとYAG:Ce)を内在化させ、このスライドを個々の粒子の観察のため落射蛍光顕微鏡(オリンパスIX71、対物×63、NA=1.4)に取り付けたが、この落射蛍光顕微鏡には分光スプリッターが備え付けられていて、各タイプの粒子のフォトルミネセンスを超高感度カメラ(EM−CCD、Evolve 512(Roper Scientific社))の2つの異なる領域に投影できるようになっていた。
【0120】
正常細胞及び薬剤AG1478(刺激の30分前に適用し、顕微鏡での観察のため培地に添加)の存在によってEGFRが特異的に阻害された細胞の刺激を、270nMの濃度のエンドセリン−1で行った。刺激後すぐに、細胞内の異なる粒子によって放射された発光シグナルを収集した。こうして、
図12は、ET−1による刺激(EGFRの阻害の存在下又は非存在下)後に得られたナノ粒子YAG:Ce(1未満)及びGdVO
4:Eu(1超)の光ルミネセンスをそれらの初期値で正規化したものを示す。
【0121】
次に、上述の較正により、2通りの細胞状態(正常又はEGFR阻害)の下での過酸化水素の絶対濃度の経時的変動を推定した(
図13)。このステップによって、シグナル伝達プロセス全体へのEGFRチャネルの寄与を定量化することができるようになる。阻害細胞で産生される過酸化水素の量が正常細胞の半分であるので、この寄与は50%に達する。また、過酸化水素の生成キネティクスに対するこの阻害の効果を定量化することもできるようになり、例えばBouzigues et al., Chem. Biol., 2014; 21:647−56とは対照的に、EGRのトランス活性化は1秒未満で起こり、上記の生成キネティクスを<1分に制御することが判明した。
【0122】
無論、本発明は上述の例に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲内で数多くの変形例が当業者によって想起し得る。
【0123】
従って、例えば、光学的に活性な第2の試薬は、例えば半導体ナノ結晶のようなあらゆるタイプの光安定な試薬からなることができる。
【0124】
さらに、粒子は、特に細胞レベルでの測定の場合の特定の細胞区画或いは組織又はインビボ(生体)レベルでの測定の場合の特定の細胞タイプ(例えば癌細胞)のいずれかをターゲティングするため、官能化しかつ関心のある1以上の生体分子にカップリングしてもよい。
【0125】
さらに正確には、生物活性分子は、ターゲティング分子、すなわち器官、体液(例えば血液)、細胞タイプ(例えば血小板、リンパ球、単球、腫瘍細胞など)又は細胞区画への本発明の粒子の特異的ターゲティングを可能にする分子である。従って、この特異的ターゲティングは、モノクローナル又はポリクローナル抗体、或いは細胞受容体のタンパク質又はポリペプチドリガンドを用いて達成することができる。非限定的な例として、以下の受容体/リガンド対:TGF/TGFR、EGF/EGFR、TNFα/TNFR、インターフェロン/インターフェロン受容体、インターロイキン/インターロイキン受容体、GMCSF/GMCSF受容体、MSCF/MSCF受容体及びGCSF/GCSF受容体を挙げることができる。リガンドとしてトキシン断片又は解毒トキシン及びそれらの細胞受容体を挙げることもできる。抗体に関しては、その抗体が対象とする1以上の抗原の機能によって選択される。
【0126】
別の実施形態では、1以上の生物活性分子は、体内でのステルス性を粒子に付与し、それによって血液中でのそれらの循環時間を増加させるための、ポリエチレングリコール(PEG)又はデキストランのようなステルス剤である。
【0127】
特定の実施形態では、本発明の粒子は、上記で定義したターゲティング分子及びステルス分子によって官能化し得る。
【0128】
実施形態にかかわらず、生物活性分子は、粒子の表面又は適宜調製層に、共有結合又は非共有結合によって、直接又は官能基を有する層を介して結合させることができる。これらの生物活性分子の結合は、生物活性分子との、粒子の表面、調製層及び/又は官能基を有する層の酸化、ハロゲン化、アルキル化、アシル化、付加、置換又はアミド化の従来技術によって達成される。
【0129】
調製層は、共有結合又は吸収のいずれかによって粒子に直接施用される。この調製層は、親水性又は疎水性であり得る。特定の実施形態では、この調製層は非晶質である。
【0130】
粒子と生体分子との間のカップリングは、例えば国際公開第2012/010811号に記載されている。さらに、国際公開第2013/123197号は、生体分子とカップリングした粒子をもたらすことができる粒子のコーティングを記載している。
【0131】
さらに、信号雑音比を向上させるため、ほとんどの蛍光体と比較して長い励起状態の寿命を有するユーロピウムドープ粒子によって放出される信号の遅延検出を使用することもできる。選択的に活性化できる、光度検出手段の(特に機械的又は電子的)掩蔽(occultation)のための装置の助けを借りて、このアプローチは、第1及び第2の試薬の励起用のレーザーパルスの後、設定時間後に放出された光子のみを検出することからなる。この設定時間は、他の発光体から入射する光子(例えば自発蛍光によるもの)を検出せずに、YVO
4:Euナノ粒子によって放射される光子のみを検出するように選択し得る。