特許第6865749号(P6865749)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6865749
(24)【登録日】2021年4月8日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】電気化学セルおよび方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20210101AFI20210419BHJP
   C25B 1/01 20210101ALI20210419BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20210419BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20210419BHJP
   C25B 11/03 20210101ALI20210419BHJP
【FI】
   C25B9/00 Z
   C25B1/00 Z
   C25B13/04 301
   C25B15/08 302
   C25B11/03
【請求項の数】13
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-525348(P2018-525348)
(86)(22)【出願日】2016年11月2日
(65)【公表番号】特表2019-502019(P2019-502019A)
(43)【公表日】2019年1月24日
(86)【国際出願番号】EP2016076454
(87)【国際公開番号】WO2017084877
(87)【国際公開日】20170526
【審査請求日】2019年10月16日
(31)【優先権主張番号】1520210.4
(32)【優先日】2015年11月16日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】517291346
【氏名又は名称】シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー ヒューズ
【審査官】 西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−185582(JP,A)
【文献】 特開2009−084615(JP,A)
【文献】 特開2013−209685(JP,A)
【文献】 特表2009−544843(JP,A)
【文献】 特表2014−503689(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0299871(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103261483(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0284591(US,A1)
【文献】 特開2012−025985(JP,A)
【文献】 特表2015−529740(JP,A)
【文献】 韓国登録特許第10−1392828(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 9/00
C25B 1/01
C25B 11/03
C25B 13/04
C25B 15/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード(28)およびカソード(24)の各表面に対して露出し、窒化物伝導性の溶融塩を含有する第一の容積を有し、蒸気を第一の容積内に入れる蒸気入口(5)も備える、前記蒸気および窒素からアンモニアを生成するための電気化学セル(10)において、
前記蒸気入口からの蒸気が前記アノード(28)に達するのを防ぐように、固体酸化物伝導材料層(4)が位置していることを特徴とする、
前記電気化学セル(10)。
【請求項2】
前記固体酸化物伝導材料層がイットリア安定化ジルコニアを含有する、請求項1記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記固体酸化物伝導材料層がスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)またはガドリニウムドープセリアを含有する、請求項1記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記固体酸化物伝導材料層がペロブスカイト材料を含有する、請求項1記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記カソード(24)が、多孔質カソードおよび第二の容積(2)を有するガス電極である、請求項1から4までのいずれか1項記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記アノード(28)が、多孔質アノードおよび第三の容積(3)を有するガス電極である、請求項1から5までのいずれか1項記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記蒸気入口(5)が蒸気拡散器(22)を備える、請求項1から6までのいずれか1項記載の電気化学セル。
【請求項8】
ガス状生成物を第一および第二の供給材料から生成するための装置であって、
アノード(28)およびカソード(24)の各表面に対して露出している第一の容積を有し、第一の供給材料を第一の容積内に入れる入口(5)も備える電気化学セルであって、前記入口(5)からの前記第一の供給材料が前記アノード(28)に達するのを防ぐように、固体酸化物伝導材料層(4)が位置している、電気化学セルと、
前記入口(5)を含む、前記第一の供給材料を前記第一の容積(1)内に導入する手段(5、22)と、
前記第一の容積(1)内に設けられた窒化物伝導性の溶融塩を含有する電解質(20)と、
を有し、
前記第一の供給材料が蒸気(HO)であり、
前記第二の供給材料が窒素(N)であり、
前記ガス状生成物がアンモニア(NH)である
装置。
【請求項9】
前記アノード(28)に正電圧+Vを印加するために、かつ前記カソード(24)に負電圧−Vを印加するために配置された電源(7)をさらに有する、請求項8記載の装置。
【請求項10】
前記ガス状生成物を捕捉するための設備(6)をさらに有する、請求項8または9記載の装置。
【請求項11】
請求項8から10までのいずれか1項記載の装置を使用してガス状生成物を生成する方法であって、前記カソード(24)が、多孔質カソードおよび第二の容積(2)を有するガス電極であり、
前記方法が以下のステップを含む、すなわち、
正電圧+Vを前記アノード(28)に印加するステップと、
負電圧−Vを前記カソード(24)に印加するステップと、
第一の供給材料を前記第一の容積(1)内に導入するステップと、
第二の供給材料を前記第二の容積(2)内に導入し、前記第二の供給材料を前記カソードで反応させ、第一の容積(1)中の電解質に第一のイオン成分をもたらすステップと、
前記第一のイオン成分と前記第一の供給材料との間の反応によりガス状生成物を生じさせるステップと、
を含む、方法。
【請求項12】
前記第一の容積内で生成された前記ガス状生成物を収集するステップ(6)をさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記アノードで生じた副生成物を収集するステップをさらに含む、請求項11または12記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セル、特にアンモニア(NH)を合成するための電気化学セルに関する。また、本発明は、アンモニア(NH)を合成するための方法に関する。
【0002】
アンモニアの合成に関する要求への公知のアプローチには、
(1)ハーバー・ボッシュ法−鉄触媒を用いたNおよびHの加圧および加熱;
(2)溶融塩電解質およびガス電極による電気化学的な合成[1〜3];および
(3)固体電解質、および電極触媒を用いた電極による電気化学的な合成[4〜6]
が含まれる。
[1]Murakami T.、T.Nishikiori、T.NohiraおよびY.Ito著「Electrolytic Synthesis of Ammonia in Molten Salts Under Atmospheric Pressure」、J.Amer.Chem.Soc.125(2)、334〜335頁(2003)
[2]Murakami T.等著「Electrolytic Ammonia Synthesis from Water and Nitrogen Gas in Molten Salt Under Atmospheric Pressure」、Electrochim.Acta50(27)、5423〜5426頁(2005)
[3]米国特許第6,881,308号明細書(US Patent6,881,308B2)
[4]Marnellos,G.、Zisekas,S.およびStoukides,M.(2000)、Synthesis of ammonia at atmospheric pressure with the use of solid state proton conductors、J.Catal.193、80〜88、doi:10.1006/jcat.2000.2877
[5]Lan,R.、Irvine,J.T.S.およびTao,S.(2013)、Synthesis of ammonia directly from air and water at ambient temperature and pressure、Sci.Rep.3、1145、doi:10.1038/srep01145
[6]Skodra,A.およびStoukides,M.(2009)、Electrocatalytic synthesis of ammonia from steam and nitrogen at atmospheric pressure、Solid State Ionics180、1332〜1336。
【0003】
本発明は、水および窒素(N)からアンモニアを合成するための代替的な方法および装置の提供を目的とする。
【0004】
よって、本発明により、添付の特許請求の範囲に規定されている方法および装置が提供される。
【0005】
本発明の上記およびさらなる対象、特徴および利点は、添付の特許請求の範囲との関連で、本発明の特定の実施形態についての以下の記載からより明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明の実施形態により提供される例示的な電気化学セルを図示している。
【0007】
図1に示されている本発明の実施形態は、多孔質体で区分された3つの容積1〜3を有する電気化学セル10である。
【0008】
第一の容積1は、共晶溶融塩のような窒化物伝導体20、例えばLiCl/KCl/LiNを含有する。使用時において、この第一の容積に蒸気入口5を通して蒸気(HO)が導入される。入口蒸気の幅広い分布を保証するために、蒸気拡散器22を設けることができる。
【0009】
第二の容積2は、カソードガス電極である。窒素ガス(N)26は、このガス電極に、窒化物伝導体20とは反対側の多孔質電極24の表面で導入される。
【0010】
第三の容積3は、アノードガス電極である。多孔質電極28は、窒化物伝導体20と片側で接触している。
【0011】
DC電源7により、2つの多孔質電極24、28の間に電位差がもたらされ、アノードガス電極3に印加される正電圧+Vが増加するほど、カソードガス電極2に印加される負電圧−Vも増加する。一般的に、もたらされる電位差は、0.5V〜2Vの範囲にあり得る。
【0012】
使用時において、窒素ガスは、ガスカソード2において還元されて、窒化物イオンになる:
【数1】
【0013】
窒化物伝導体20内部で、窒化物イオンは、アノードとカソードとの間の電圧勾配の影響のもと、アノードに向かって移動する。窒化物伝導体20内部で、窒化物イオンが蒸気(水)と衝突および反応して、アンモニアが生成される:
【数2】
【0014】
よって、アンモニアは窒素ガスおよび蒸気から生成される。アンモニアは、窒化物伝導体20を通って拡散して、窒化物伝導体の表面に発生する。設備6は、発生したアンモニアガスを捕捉し、これを回収することができる。ここで生じる酸化物イオンは電極間の電位勾配のもとアノードに向かって移動する。このアノード反応により、電子がDC電源に返送され、かつガスアノード電極内へと酸素が生じる:
【数3】
【0015】
本発明の特徴によると、固体酸化物伝導材料層4、例えばイットリア安定化ジルコニア層は、多孔質アノード28と窒化物伝導体20との間に置かれている。固体酸化物伝導材料層は、多孔質アノード28に結合可能であるか、または単に窒化物伝導体中に浸漬可能である。酸化物イオン(O2−)は、アノード28とカソード24との間の電位勾配の影響のもと、電気絶縁多孔質材料4を通ってアノード28に拡散する。O2−イオンは、固体酸化物伝導材料層を通って拡散することができるが、水分子はこの層を通過することができない。適切な固体酸化物伝導材料の例は、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)(しばしば8%がY8SZを成す)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)(通常9mol%のSc−9ScSZ)およびガドリニウムドープセリア(GDC)を含む。その他の選択肢は、ペロブスカイト材料、例えばLa1−xSrxGa1−yMgy03−δ(LSGM)を含む。
【0016】
酸化物イオン伝導体内部で、電流は、酸化物イオンが結晶格子を通って動くことで流れる。この動きは、酸化物イオンが熱活性により動かされて、電界方向へのドリフトが重なって結晶格子サイトから結晶格子サイトへと動いた結果である。結果として、酸化物イオン伝導体のイオン伝導性は、強く温度に依存することになる。高温では、この伝導性を1S.cm−1に近い値に近づけることができ、これは、液体電解質に見られるイオン伝導性の水準に匹敵する。
【0017】
固体酸化物伝導材料層4は、多孔質アノードを窒化物伝導体中の水分子(蒸気)から守る。このように電気絶縁多孔質材料により守られない場合、以下の不所望な還元がアノードにおいて起こり、発生したアンモニア(NH)が水素(H)で汚染され、また競合副反応がもたらされ、これにより効率が低下するだろう:
【数4】
【0018】
アンモニアガスは、窒化物伝導体20を通って拡散して、設備6内で捕捉される。これを必要に応じて乾燥および浄化することができ、後に使用するために貯蔵することができる。
【0019】
アンモニアを合成するための従来の方法および装置では水素(H)が一般的であったが、本発明の電気化学セルの構造は、アンモニア生成物における水素源として、蒸気(HO)を使用することができる。これにより、水素(H)を生じさせるための個別の電気分解段階を必要とすることなく、または水素(H)を購入および貯蔵する必要なく、アンモニア(NH)を電気化学的に合成することができ、システム設計がはるかに単純になる。
【0020】
本発明固有の特徴は、電極保護材として働く固体酸化物伝導材料層4であり、この層は、蒸気がアノードに達するのを防止する。固体酸化物伝導材料層は、もたらされた電位勾配の影響のもと、酸化物イオン(O2−)を通過させるべきであるが、水分子(HO)を拡散させるべきではない。
【0021】
蒸気および窒素ガスからアンモニアを合成する適用を特に参照して本発明を説明してきたが、他方で、本発明の電気化学セルおよび合成方法は、第一および第二のイオン成分からその他のガス状生成物を生成するために適用することができる。
【0022】
一般的に、第一の供給材料5(上記の例では蒸気(HO))を第一の容積1に導入する手段が設けられており、かつ第二の供給材料26(上記の例では窒素(N))をカソード24に導入する手段が設けられている。電解質(上記の例では窒化物伝導体の形態)がアノード28とカソード24との間に設けられている。電圧+Vおよび−Vが、それぞれアノードおよびカソードに印加される。カソードでは、第一のイオン成分(上記の例ではN3−)が第二の供給材料から生成される。第一のイオン成分は、アノードと出発電極(ground electrode)との間の電圧勾配の影響のもと、アノードに向かって電解質を横断する。電解質内部で、第一のイオン成分は、第一の供給材料と衝突し、生成物(上記の例ではアンモニア(NH))およびイオン副生成物(上記の例では酸化物イオン(O2−))を生じさせる反応が起こる。イオン副生成物は、アノードと出発電極との間の電圧勾配の影響のもと、アノードに向かって電解質を横断し続ける。イオン副生成物は、アノードに達すると、その電荷を放出して、副生成物(上記の例では酸素(O))が発生する。
【0023】
生成物および好ましくは発生した副生成物も収集する手段を設けるべきである。また、アノードまたはカソードで生じる副生成物を収集する手段も設けることができる。
【0024】
アノードは、ガス状副生成物を収集するために配置されたガス電極として記載されているものの、このような配置は、異なる反応を実施するために構成されている電気化学セルでは不必要であり得る。このような場合、固体カソードを設ければ十分なことがあり、この場合、第三の容積3を省略することができる。
【0025】
当業者にとって明らかなように、添付の特許請求の範囲により規定されている本発明の範囲において、さらなる変更および変法が可能である。
図1