(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
走行用駆動源と変速機構との間に介装されるトルクコンバータと、締結によりトルクコンバータ入力軸とトルクコンバータ出力軸を直結するロックアップクラッチと、を備えた自動変速機のロックアップ制御方法であって、
前記ロックアップクラッチのスリップ締結の要求時に、
目標差回転数に基づくコンバータトルクフィードフォワード補償分を演算し、
差回転数偏差に基づくコンバータトルクフィードバック補償分を演算し、かつこのフィードバック補償分が積分項の積算により過大とならないように制限を施し、
前記コンバータトルクフィードバック補償分と前記コンバータトルクフィードバック補償分とからコンバータトルクを演算し、
前記トルクコンバータへの入力トルクを演算し、
前記入力トルクから前記コンバータトルクを差し引いて目標ロックアップトルクを演算し、
この目標ロックアップトルクに従ってロックアップ油圧を供給する、
自動変速機のロックアップ制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の自動変速機のロックアップ制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
【0010】
実施例におけるロックアップ制御装置は、トルクコンバータと前後進切替機構とバリエータと終減速機構により構成されるベルト式無段変速機(自動変速機の一例)を搭載したエンジン車に適用したものである。以下、実施例の構成を、「全体システム構成」、「ロックアップ制御装置の構成」、「ロックアップ制御処理構成」に分けて説明する。
【0011】
[全体システム構成]
図1は、実施例の自動変速機のロックアップ制御装置が適用されたエンジン車の駆動系と制御系を示す。以下、
図1に基づいて、全体システム構成を説明する。
【0012】
エンジン車の駆動系は、
図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、前後進切替機構3と、バリエータ4と、終減速機構5と、駆動輪6,6と、を備えている。ここで、ベルト式無段変速機CVTは、トルクコンバータ2と前後進切替機構3とバリエータ4と終減速機構5を図外の変速機ケースに内蔵することにより構成される。
【0013】
エンジン1は、ドライバーによるアクセル操作による出力トルクの制御以外に、外部からのエンジン制御信号により出力トルクを制御可能である。このエンジン1は、スロットルバルブ開閉動作や燃料カット動作等によりトルク制御を行う出力トルク制御アクチュエータ10を有する。例えば、アクセル足離し操作によるコースト走行時、燃料カット制御が実行される。
【0014】
トルクコンバータ2は、トルク増大機能やトルク変動吸収機能を有する流体継手による発進要素である。トルクコンバータ2は、トルク増大機能やトルク変動吸収機能を必要としないとき、エンジン出力軸11(=トルクコンバータ入力軸)とトルクコンバータ出力軸21を直結可能なロックアップクラッチ20を有する。このトルクコンバータ2は、ポンプインペラ23と、タービンランナ24と、ステータ26と、を構成要素とする。ポンプインペラ23は、エンジン出力軸11にコンバータハウジング22を介して連結される。タービンランナ24は、トルクコンバータ出力軸21に連結される。ステータ26は、変速機ケースにワンウェイクラッチ25を介して設けられる。
【0015】
前後進切替機構3は、バリエータ4への入力回転方向を前進走行時の正転方向と後退走行時の逆転方向で切り替える機構である。この前後進切替機構3は、ダブルピニオン式遊星歯車30と、複数枚のクラッチプレートによる前進クラッチ31と、複数枚のブレーキプレートによる後退ブレーキ32と、を有する。前進クラッチ31は、Dレンジ等の前進走行レンジ選択時に前進クラッチ圧Pfcにより油圧締結される。後退ブレーキ32は、Rレンジ等の後退走行レンジ選択時に後退ブレーキ圧Prbにより油圧締結される。なお、前進クラッチ31と後退ブレーキ32は、Nレンジ(ニュートラルレンジ)の選択時には、前進クラッチ圧Pfcと後退ブレーキ圧Prbをドレーンすることでいずれも解放される。
【0016】
バリエータ4は、プライマリプーリ42と、セカンダリプーリ43と、プーリベルト44と、を有し、ベルト接触径の変化により変速比(バリエータ入力回転とバリエータ出力回転の比)を無段階に変化させる無段変速機能を備える。プライマリプーリ42は、バリエータ入力軸40の同軸上に配された固定プーリ42aとスライドプーリ42bにより構成され、スライドプーリ42bはプライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧Ppriによりスライド動作する。セカンダリプーリ43は、バリエータ出力軸41の同軸上に配された固定プーリ43aとスライドプーリ43bにより構成され、スライドプーリ43bはセカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧Psecによりスライド動作する。プーリベルト44は、プライマリプーリ42のV字形状をなすシーブ面と、セカンダリプーリ43のV字形状をなすシーブ面とに掛け渡されている。このプーリベルト44は、環状リングを内から外へ多数重ね合わせた2組の積層リングと、打ち抜き板材により形成され、2組の積層リングに沿って挟み込みにより環状に積層して取り付けられた多数のエレメントにより構成されている。なお、プーリベルト44としては、プーリ進行方向に多数配列したチェーンエレメントを、プーリ軸方向に貫通するピンにより結合したチェーンタイプのベルトであっても良い。
【0017】
終減速機構5は、バリエータ出力軸41からのバリエータ出力回転を減速すると共に差動機能を与えて左右の駆動輪6,6に伝達する機構である。この終減速機構5は、減速ギヤ機構として、バリエータ出力軸41に設けられたアウトプットギヤ52と、アイドラ軸50に設けられたアイドラギヤ53及びリダクションギヤ54と、デフケースの外周位置に設けられたファイナルギヤ55と、を有する。そして、差動ギヤ機構として、左右のドライブ軸51,51に介装されたディファレンシャルギヤ56を有する。
【0018】
エンジン車の制御系は、
図1に示すように、油圧制御ユニット7と、CVTコントロールユニット8と、エンジンコントロールユニット9と、を備えている。電子制御系であるCVTコントロールユニット8とエンジンコントロールユニット9は、互いの情報を交換可能なCAN通信線13により接続されている。
【0019】
油圧制御ユニット7は、プライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧Ppri、セカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧Psec、前進クラッチ31への前進クラッチ圧Pfc、後退ブレーキ32への後退ブレーキ圧Prb、等を調圧するユニットである。この油圧制御ユニット7は、走行用駆動源であるエンジン1により回転駆動されるオイルポンプ70と、オイルポンプ70からの吐出圧に基づいて各種の制御圧を調圧する油圧制御回路71と、を備える。油圧制御回路71には、ライン圧ソレノイド弁72と、プライマリ圧ソレノイド弁73と、セカンダリ圧ソレノイド弁74と、セレクトソレノイド弁75と、ロックアップ圧ソレノイド弁76と、を有する。なお、各ソレノイド弁72,73,74,75,76は、CVTコントロールユニット8から出力される制御指令値(指示電流)によって調圧動作を行う。
【0020】
ライン圧ソレノイド弁72は、CVTコントロールユニット8から出力されるライン圧指令値に応じ、オイルポンプ70からの吐出圧を、指令されたライン圧PLに調圧する。このライン圧PLは、各種の制御圧を調圧する際の元圧であり、駆動系を伝達するトルクに対してベルト滑りやクラッチ滑りを抑える油圧とされる。
【0021】
プライマリ圧ソレノイド弁73は、CVTコントロールユニット8から出力されるプライマリ圧指令値に応じ、ライン圧PLを元圧として指令されたプライマリ圧Ppriに減圧調整する。セカンダリ圧ソレノイド弁74は、CVTコントロールユニット8から出力されるセカンダリ圧指令値に応じ、ライン圧PLを元圧として指令されたセカンダリ圧Psecに減圧調整する。
【0022】
セレクトソレノイド弁75は、CVTコントロールユニット8から出力される前進クラッチ圧指令値又は後退ブレーキ圧指令値に応じ、ライン圧PLを元圧として指令された前進クラッチ圧Pfc又は後退ブレーキ圧Prbに減圧調整する。
【0023】
ロックアップ圧ソレノイド弁76は、CVTコントロールユニット8から出力される指示電流Aluに応じ、ロックアップクラッチ20を締結/スリップ締結/解放するロックアップ油圧Pluに調圧する。
【0024】
CVTコントロールユニット8は、ライン圧制御や変速制御や前後進切替制御やロックアップ制御、等を行う。ライン圧制御では、アクセル開度等に応じた目標ライン圧を得る指令値をライン圧ソレノイド弁72に出力する。変速制御では、目標変速比(目標プライマリ回転Npri
*)を決めると、決めた目標変速比(目標プライマリ回転Npri
*)を得る指令値をプライマリ圧ソレノイド弁73及びセカンダリ圧ソレノイド弁74に出力する。前後進切替制御では、選択されているレンジ位置に応じて前進クラッチ31と後退ブレーキ32の締結/解放を制御する指令値をセレクトソレノイド弁75に出力する。ロックアップ制御では、ロックアップクラッチ20を締結/スリップ締結/解放するロックアップ油圧Pluを制御する指示電流Aluをロックアップ圧ソレノイド弁76に出力する。
【0025】
CVTコントロールユニット8には、プライマリ回転センサ90、車速センサ91、セカンダリ圧センサ92、油温センサ93、インヒビタスイッチ94、ブレーキスイッチ95、タービン回転センサ96、セカンダリ回転センサ97、プライマリ圧センサ98、等からのセンサ情報やスイッチ情報が入力される。
【0026】
エンジンコントロールユニット9には、エンジン回転センサ12、アクセル開度センサ14、等からのセンサ情報が入力される。CVTコントロールユニット8は、エンジン回転情報やアクセル開度情報をエンジンコントロールユニット9へリクエストすると、CAN通信線13を介し、エンジン回転数Neやアクセル開度APOの情報を受け取る。さらに、エンジントルク情報をエンジンコントロールユニット9へリクエストすると、CAN通信線13を介し、エンジンコントロールユニット9において推定演算される実エンジントルクTeの情報を受け取る。
【0027】
図2は、Dレンジ選択時に自動変速モードでの無段変速制御をバリエータ4により実行する際に用いられるDレンジ無段変速スケジュールの一例を示す。
【0028】
「Dレンジ変速モード」は、車両運転状態に応じて変速比を自動的に無段階に変更する自動変速モードである。「Dレンジ変速モード」での変速制御は、車速VSP(車速センサ91)とアクセル開度APO(アクセル開度センサ14)により特定される
図2のDレンジ無段変速スケジュール上での運転点(VSP,APO)により、目標プライマリ回転数Npri
*を決める。そして、プライマリ回転センサ90からの実プライマリ回転数Npriを、目標プライマリ回転数Npri
*に一致させるプーリ油圧制御により行われる。
【0029】
即ち、「Dレンジ変速モード」で用いられるDレンジ無段変速スケジュールは、
図2に示すように、運転点(VSP,APO)に応じて最Low変速比と最High変速比による変速比幅の範囲内で変速比を無段階に変更するように設定されている。例えば、車速VSPが一定のときは、アクセル踏み込み操作を行うと目標プライマリ回転数Npri
*が上昇してダウンシフト方向に変速し、アクセル戻し操作を行うと目標プライマリ回転数Npri
*が低下してアップシフト方向に変速する。アクセル開度APOが一定のときは、車速VSPが上昇するとアップシフト方向に変速し、車速VSPが低下するとダウンシフト方向に変速する。
【0030】
[ロックアップ制御装置の構成]
図3は、実施例のロックアップ制御装置を示す。以下、
図3に基づいてロックアップ制御装置の概要構成を説明する。なお、以下では、ロックアップを“LU”と略称し、フィードフォワードを“F/F”と略称し、フィードバックを“F/B”と略称する。
【0031】
ロックアップ制御装置が適用される駆動系は、
図3に示すように、エンジン1(走行用駆動源)と、ロックアップクラッチ20を有するトルクコンバータ2と、前後進切替機構3と、バリエータ4と、終減速機構5と、駆動輪6と、を備えている。
【0032】
ロックアップ制御装置が適用される制御系は、
図3に示すように、CVTコントロールユニット8と、エンジンコントロールユニット9と、ロックアップ圧ソレノイド弁76と、を備えている。CVTコントロールユニット8には、ロックアップクラッチ20のクラッチ状態を、様々な要求に応じて締結状態/スリップ締結状態/解放状態とするロックアップ制御部80が設けられている。
【0033】
ロックアップ制御部80でのロックアップ制御は、運転者の意図する目標駆動力Fd
*を推定し、駆動輪6へ出力される実駆動力Fdが目標駆動力Fd
*になるようにロックアップクラッチ20のスリップ制御を行う点を特徴とする。その際、スリップ制御におけるコントロール性を高めるために、目標駆動力Fd
*を目標エンジン回転数Ne
*に変換する。この目標エンジン回転数Ne
*に実エンジン回転数Neを収束させる制御(F/F制御+F/B制御)を実行することでコンバータトルクTcnvを演算する。そして、
図3に示すように、Tadj=Tcnv+Tluの関係が成り立つことで、ロックアップクラッチ20の目標LUトルクTlu
*を算出し、目標LUトルクTlu
*を得る指示電流Aluをロックアップ圧ソレノイド弁76に出力する。このように、目標エンジン回転数Ne
*を得るようにトルクコンバータ2のトルク比を制御することで、ロックアップクラッチ20のスリップ制御中、運転者の意図する目標駆動力Fd
*を実現することができる。
【0034】
図4は、CVTコントロールユニット8のロックアップ制御部80を構成する各ブロックを示す。以下、
図4に基づいてロックアップ制御部80のブロック構成を説明する。
【0035】
ロックアップ制御部80は、
図4に示すように、駆動力デマンドブロック81と、要求調停ブロック82と、目標算出ブロック83と、トルク容量演算ブロック84と、実現ブロック85と、を有する。
【0036】
駆動力デマンドブロック81は、アクセル開度APOや車速VSPに基づいて目標駆動力Fd
*を演算し、エンジン全性能特性を用いて目標駆動力Fd
*を目標エンジン回転数Ne
*に変換することで、目標エンジン回転数Ne
*のプロファイルを演算する。そして、ロックアップクラッチ20の完全解放中、クラッチスリップ制御により目標エンジン回転数Ne
*のプロファイルを実現するときに締結要求フラグを出力する。一方、ロックアップクラッチ20の完全締結中、クラッチスリップ制御により目標エンジン回転数Ne
*のプロファイルを実現するときに解放要求フラグを出力する。
【0037】
要求調停ブロック82は、駆動力デマンドブロック81からの締結要求フラグと解放要求フラグを入力し、各種要求からロックアップ要求を演算し、要求を調停して優先順位を決める。各種要求としては、基本要求、DP要求(DPはDriving pleasureの略)、運転性要求、保護要求、FS要求(FSはFail Safeの略)、技術限界要求、ほかのシステム要求、コーストスリップ要求、等がある。
【0038】
目標算出ブロック83は、要求調停ブロック82からの即解放要求フラグ・解放要求フラグ・スリップ要求フラグ・締結要求フラグを入力し、これらのLU要求から差回転目標として目標差回転数ΔN
*を演算する。なお、目標算出ブロック83では、駆動力デマンドブロック81により演算された目標エンジン回転数Ne
*を入力する。
【0039】
トルク容量演算ブロック84は、目標算出ブロック83から目標差回転数ΔN
*と先読みタービン回転数Ntpreと実エンジン回転数Neを入力する。そして、補正エンジントルクTadjの演算とコンバータトルクTcnvの演算(F/F制御+F/B制御)により、目標差回転数ΔN
*を実現する指示トルク(目標LUトルクTlu
*)を演算する。
【0040】
実現ブロック85は、トルク容量演算ブロック84から目標LUトルクTlu
*を入力し、目標ロックアップトルクTlu
*をロックアップ油圧Pluに変換し、さらに、ロックアップ油圧Pluを指示電流Aluに変換する。
【0041】
図5は、ロックアップ制御部80を構成する目標算出ブロック83とトルク容量演算ブロック84と実現ブロック85を示す。以下、
図5に基づいて各ブロック83,84,85の詳細構成を説明する。
【0042】
目標算出ブロック83は、先読みタービン回転数算出器83aと、第1差分器83bと、を有する。
【0043】
先読みタービン回転数算出器83aは、バリエータ4の先読み変速比とセカンダリ回転センサ97からのセカンダリ回転数Nsecを入力し、ロックアップ油圧制御での油圧応答遅れ分を補償する先読みタービン回転数Ntpreを算出する。なお、バリエータ4の先読み変速比は、そのときの変速比と変速比進行速度と油圧応答遅れ時間を用い、油圧応答遅れ時間を経過したときに到達するであろうと推定される変速比とする。
【0044】
第1差分器83bは、駆動力デマンドブロック81により算出された目標エンジン回転数Ne
*と先読みタービン回転数算出器83aにより算出された先読みタービン回転数Ntpreの差により目標差回転数ΔN
*を算出する。
【0045】
トルク容量演算ブロック84は、先読み分エンジントルク算出器84aと、第1加算器84bと、ポンプ負荷トルク算出器84cと、第2差分器84dと、を補正エンジントルク演算エリア841に有する。
【0046】
先読み分エンジントルク算出器84aは、アクセル開度APOと実エンジン回転数Neを入力し、エンジン全性能マップを用いて現時点のエンジントルクから油圧応答遅れ時間までに変動すると推定される先読み分エンジントルクΔTepreを算出する。なお、現時点のエンジントルクは、現時点のアクセル開度APOと実エンジン回転数Neとエンジン全性能マップにより取得される。先読み分エンジントルクΔTepreは、アクセル開度APOや実エンジン回転数Neの変化速度と油圧応答遅れ時間を用い、現時点から油圧応答遅れ時間を経過するまでのエンジントルクの変化幅(正又は負)とする。
【0047】
第1加算器84bは、エンジンコントロールユニット9から取得した実エンジントルクTeと先読み分エンジントルク算出器84aからの先読み分エンジントルクΔTepreを加算することで、先読みエンジントルクTepreを算出する。
【0048】
ポンプ負荷トルク算出器84cは、エンジン1により回転駆動されるときのオイルポンプ70による負荷トルクであるポンプ負荷トルクTopを算出する。
【0049】
第2差分器84dは、第1加算器84bにより算出された先読みエンジントルクTepreとポンプ負荷トルク算出器84cにより算出されたポンプ負荷トルクTopの差により補正エンジントルクTadj(=Tepre−Top)を算出する。
【0050】
トルク容量演算ブロック84は、F/F補償器84eと、第3差分器84fと、第4差分器84gと、F/B補償器84hと、最小値選択器84iと、第2加算器84jと、をコンバータトルク演算エリア842に有する。
【0051】
F/F補償器84eは、第1差分器83bからの目標差回転数ΔN
*(=目標スリップ回転数)を入力し、目標差回転数ΔN
*に応じたコンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffを算出する。
【0052】
第3差分器84fは、エンジン回転センサ12からの実エンジン回転数Neと、先読みタービン回転数算出器83aにより算出された先読みタービン回転数Ntpreを入力する。そして、実エンジン回転数Neと先読みタービン回転数Ntpreの差により実差回転数ΔNを算出する。
【0053】
第4差分器84gは、第1差分器83bからの目標差回転数ΔN
*(=目標スリップ回転数)と、第3差分器84fからの実差回転数ΔN(=実スリップ回転数)を入力する。そして、目標差回転数ΔN
*と実差回転数ΔNの差により差回転数偏差δを算出する。
【0054】
F/B補償器84hは、第4差分器84gからの差回転数偏差δを入力し、差回転数偏差δに応じたコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)を、PIフィードバック制御(P:比例、I:積分)により算出する。このF/B補償器84hは、要求調停ブロック82にてコーストスリップ制御の開始条件の成立によりコーストスリップ要求があると、それまでのコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)を初期値にリセットする。
【0055】
最小値選択器84iは、F/B補償器84hからのコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)と、コンバータトルクF/B補償分の上限トルク値Tcnv_maxを入力する。そして、最小値選択によりコンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbを出力する。
【0056】
ここで、コンバータトルクF/B補償分の上限トルク値Tcnv_maxは、
Tcnv_max=Tadj−Tcnv_ff−K(K:固定値) …(1)
であらわされる式(1)、つまり、補正エンジントルクTadjとコンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffに応じた可変トルク値で与える。なお、固定値Kは、ロックアップクラッチ20のスリップ締結シーンのときに目標LUトルクTlu
*の上昇を促す上限トルク値Tcnv_maxになるように設定する。しかし、固定値Kを低過ぎるトルク値に設定した場合、コンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffと固定値Kの和により、トルクコンバータ2への入力トルクである補正エンジントルクTadjを超えないことがある。つまり、ロックアップクラッチ20のスリップ解放シーンのときに目標LUトルクTlu
*がゼロとはならず、ロックアップクラッチ20を解放することができない。よって、固定値Kは、ロックアップクラッチ20のスリップ解放シーンを考慮し、コンバータトルクF/F補償分との和により、トルクコンバータ2への入力トルクである補正エンジントルクTadjを超え得るトルク値のうち最小域の値に設定する。
【0057】
第2加算器84jは、F/F補償器84eからのコンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffと最小値選択器84iからのコンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbを加算し、コンバータトルクTcnvを算出する。
【0058】
トルク容量演算ブロック84は、補正エンジントルク演算エリア841とコンバータトルク演算エリア842の外部に第5差分器84kを有する。第5差分器84kは、第2差分器84dからの補正エンジントルクTadjと、第2加算器84jからのコンバータトルクTcnvを差し引いて目標LUトルクTlu
*を算出する。
【0059】
実現ブロック85は、トルク→油圧変換器85aと、油圧→電流変換器85bと、を有する。トルク→油圧変換器85aは、トルク容量演算ブロック84から入力される目標LUトルクTlu
*をLU油圧Pluに変換する。油圧→電流変換器85bは、トルク→油圧変換器85aから入力されたLU油圧Pluを指示電流Aluに変換する。
【0060】
[ロックアップ制御処理構成]
図6は、実施例のCVTコントロールユニット8のロックアップ制御部80にて実行されるロックアップ制御処理の流れを示す。以下、実施例のロックアップ制御処理構成をあらわす
図6の各ステップについて説明する。なお、この処理は、所定の制御周期により繰り返し処理動作が行われる。
【0061】
ステップS1では、スタートに続き、先読みタービン回転数Ntpreを算出し、ステップS2へ進む。
【0062】
ここで、先読みタービン回転数Ntpreとは、ロックアップ油圧制御での油圧応答遅れ分を補償するタービン回転数である。先読みタービン回転数Ntpreは、先読みタービン回転数算出器83aにおいて、バリエータ4の先読み変速比とセカンダリ回転センサ97からのセカンダリ回転数Nsecに基づいて算出される。
【0063】
ステップS2では、ステップS1での先読みタービン回転数Ntpreの算出に続き、先読みエンジントルクTepreを算出し、ステップS3へ進む。
【0064】
ここで、先読みエンジントルクTepreとは、ロックアップ油圧制御での油圧応答遅れ分を補償するエンジントルクである。先読みエンジントルクTepreは、先読み分エンジントルク算出器84aと第1加算器84bにおいて、エンジンコントロールユニット9から取得した実エンジントルクTeと先読み分エンジントルクΔTepreを加算することで算出される。
【0065】
ステップS3では、ステップS2での先読みエンジントルクTepreの算出に続き、補正エンジントルクTadjを算出し、ステップS4へ進む。
【0066】
ここで、補正エンジントルクTadjとは、トルクコンバータ2に入力されるエンジントルクである。補正エンジントルクTadjは、第2差分器84dにおいて、先読みエンジントルクTepreとポンプ負荷トルクTopの差により算出される。
【0067】
ステップS4では、ステップS3での補正エンジントルクTadjの算出に続き、目標差回転数ΔN
*に基づいて、目標差回転数ΔN
*に応じたコンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffを算出し、ステップS5へ進む。
【0068】
目標差回転数ΔN
*は、第1差分器83bにおいて、目標エンジン回転数Ne
*と先読みタービン回転数Ntpreの差により算出される。コンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffは、目標差回転数ΔN
*(=目標スリップ回転数)を入力するF/F補償器84eにおいて、目標差回転数ΔN
*に収束させるロックアップトルクのF/F補償分として算出される。
【0069】
ステップS5では、ステップS4でのコンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffの算出に続き、差回転数偏差δに基づいて、差回転数偏差δに応じたコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)を算出し、ステップS6へ進む。
【0070】
ここで、差回転数偏差δは、第4差分器84gにおいて、第1差分器83bからの目標差回転数ΔN
*(=目標スリップ回転数)と、第3差分器84fからの実差回転数ΔN(=実スリップ回転数)の差により算出される。コンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)は、F/B補償器84hにおいて、実スリップ回転数を目標スリップ回転数に一致させるコンバータトルクF/B補償分として算出される。
【0071】
ステップS6では、ステップS5でのコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)の算出に続き、コンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)が、コンバータトルクF/B補償分の上限トルク値Tcnv_max以下であるか否かを判断する。YES(Tcnv_fb(c)≦Tcnv_max)の場合はステップS7へ進み、NO(Tcnv_fb(c)>Tcnv_max)の場合はステップS8へ進む。
【0072】
ステップS7では、ステップS6でのTcnv_fb(c)≦Tcnv_maxであるとの判断に続き、コンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbを、コンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)とし、ステップS9へ進む。
【0073】
ステップS8では、ステップS6でのTcnv_fb(c)>Tcnv_maxであるとの判断に続き、コンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbを、コンバータトルクF/B補償分の上限トルク値Tcnv_maxとし、ステップS9へ進む。
【0074】
ここで、ステップS6〜ステップS8によるコンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbの選択は、最小値選択器84iにおいて行われる。
【0075】
ステップS9では、ステップS7又はステップS8でのコンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbの設定に続き、コンバータトルクTcnvを算出し、ステップS10へ進む。
【0076】
ここで、コンバータトルクTcnvは、F/F補償器84eからのコンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffと、最小値選択器84iからのコンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbを加算することで算出される。
【0077】
ステップS10では、ステップS9でのコンバータトルクTcnvの算出に続き、目標LUトルクTlu
*を算出し、ステップS11へ進む。
【0078】
ここで、目標LUトルクTlu
*は、第5差分器84kにおいて、ステップS3にて算出された補正エンジントルクTadjと、ステップS9にて算出されたコンバータトルクTcnvを差し引くことで算出する。
【0079】
ステップS11では、ステップS10での目標LUトルクTlu
*の算出に続き、トルク→油圧変換器85aにおいて、目標LUトルクTlu
*をLU油圧Pluに変換し、ステップS12へ進む。
【0080】
ステップS12では、ステップS11でのLU油圧Pluへの変換に続き、油圧→電流変換器85bにおいて、LU油圧Pluを指示電流Aluに変換し、ステップS13へ進む。
【0081】
ステップS13では、ステップS12での指示電流Aluへの変換に続き、ロックアップ圧ソレノイド弁76へ指示電流Aluを出力し、エンドへ進む。
【0082】
次に、実施例の作用を、「比較例でのロックアップ制御とその課題について」、「ロックアップ制御作用」に分けて説明する。
【0083】
[比較例でのロックアップ制御とその課題について]
図7は、比較例でのLU解放→スリップLU→LU締結への移行シーンにおける各特性を示すタイムチャートである。以下、
図7に基づいて比較例でのロックアップ制御とその課題について説明する。
【0084】
比較例は、ロックアップクラッチの目標差回転数に基づくフィードフォワード補償と差回転数偏差に基づくフィードバック補償によりコンバータトルクを算出する。そして、エンジントルクからコンバータトルクを差し引いた値に基づきロックアップクラッチの差圧を制御するものとする。
【0085】
この比較例の場合、ロックアップクラッチ解放状態において、
図7の時刻t1にて締結要求フラグが立つと、ロックアップ油圧Pluの供給が開始される。そして、アクセル踏み込み操作の開始により時刻t2にてスリップ要求フラグが立つと、スリップ締結制御が開始される。
【0086】
スリップ締結制御開始時刻t2では、ロックアップクラッチの実差回転数(実エンジン回転数Ne−タービン回転数Nt)が目標差回転数(目標エンジン回転数Ne
*−タービン回転数Nt)より大きい運転状態となる。つまり、差回転数偏差(目標差回転数−実差回転数)が負になることで、コンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbが一気に低下する。時刻t2から時刻t3を過ぎるまでは、ロックアップクラッチの目標エンジン回転数Ne
*の上昇により負の差回転数偏差が小さくなることで、コンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbの低下が緩やかになる。
【0087】
時刻t3にて目標エンジン回転数Ne
*が実エンジン回転数Neを上回ると、
図7の矢印Aの枠内特性に示すように、時刻t3以降において目標エンジン回転数Ne
*と実エンジン回転数Neの差回転数を拡大し、時刻t4に向かって差回転数が縮小してゆく。このように、ロックアップクラッチの実差回転数が目標差回転数より小さい運転状態が続くと、時刻t3〜時刻t4までの間、コンバータトルクを大きくする方向、すなわちロックアップクラッチの差圧を小さくする方向にフィードバック補償での積分項が積算される。このため、コンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbが、時刻t3の直後から積分項の積算による上昇を開始し、時刻t4付近にて積分項の積算量が最も大きくなる。つまり、
図7の矢印Bの枠内特性に示すように、コンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbが急上昇し、途中で補正エンジントルクTadjを超えてしまう。よって、
図7の矢印Cの枠内特性に示すように、目標LUトルクTlu
*は、コンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbの急上昇に伴って低下してゆく。
【0088】
時刻t3から少し経過して以降は、目標LUトルクTlu
*の低下により、ロックアップクラッチが締結トルク不足となりクラッチ解放側のスリップ制御になる。このため、実エンジン回転数Neが上昇し、
図7の矢印Dの枠内特性に示すように、再び、ロックアップクラッチの実差回転数が目標差回転数より大きい運転状態に移行する。これにより、エンジン回転数差ΔNeが生じ、実エンジン回転数Neの目標エンジン回転数Ne
*への収束性が悪化する。
【0089】
そして、時刻t4以降のロックアップクラッチの目標差回転数が小さくなってゆく領域においては、コンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbがピーク状態から緩やかな低下勾配にて低下する。つまり、差圧を小さくする方向に積算されていた積分項が元に戻るまでに時間を要し、元に戻るまでの時間の分、ロックアップクラッチの差圧が大きくなるまでの時間が長くなる。この結果、ロックアップクラッチをスリップ締結するとき、スリップ締結制御開始時刻t2からロックアップ締結時刻t6までの時間TCが長くなるというように、実差回転数が小さくなるまでに要する時間が長くなってしまう。
【0090】
[ロックアップ制御作用]
本発明者等は、上記比較例の場合、スリップ締結制御中、エンジン回転数差ΔNeが生じ、実エンジン回転数Neの目標エンジン回転数Ne
*への収束性が悪化する課題や実差回転数が小さくなるまでに要する時間が長くなってしまうという課題を見出した。そして、この課題の発生原因を探求したところ、目標エンジン回転数Ne
*が急上昇するようなスリップ締結シーンにおいて、コンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbの積分項が積算されることが原因であると解明された。
【0091】
そこで、フィードバック補償器84hにて差回転数偏差δに対する積分項を含みながら計算されるコンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbに着目し、コンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbを、積分項の積算によるトルク上昇を抑える制限を施す構成を採用した。より具体的には、フィードバック補償器84hにて計算されるコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)の上昇を上限トルク値Tcnv_maxにより制限するようにした。
【0092】
このように、コンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbに制限を施すことで、目標エンジン回転数Ne
*が急上昇して積分項が積算されるようなスリップ締結シーンにおいて、積分項の積算によるスリップ制御への影響が軽減される。この結果、ロックアップクラッチ20をスリップ締結する際、実差回転数ΔNが小さくなるまでに要する時間が長くなるのを抑制することができる。
【0093】
まず、
図6に示すフローチャートに基づいてロックアップ制御処理作用を説明する。
ロックアップクラッチ20のスリップ制御中、Tcnv_fb(c)≦Tcnv_maxであるときは、
図6のフローチャートにおいて、S1→S2→S3→S4→S5→S6→S7→S9→S10→S11→S12→S13→エンドへと進む。
【0094】
即ち、ステップS6においてコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)が上限トルク値Tcnv_max以下であると判断されると、ステップS7へ進む。ステップS7においては、コンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)がそのままコンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbとして用いられる。
【0095】
一方、ロックアップクラッチ20のスリップ制御中、Tcnv_fb(c)>Tcnv_maxであるときは、
図6のフローチャートにおいて、S1→S2→S3→S4→S5→S6→S8→9→S10→S11→S12→S13→エンドへと進む。
【0096】
即ち、ステップS6においてコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)が上限トルク値Tcnv_maxを超えていると判断されると、ステップS8へ進む。ステップS8においては、上限トルク値Tcnv_maxがコンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbとして用いられる。
【0097】
そして、ステップS9では、コンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffとコンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbを加算してコンバータトルクTcnvが算出される。ステップS10では、補正エンジントルクTadjからコンバータトルクTcnvを差し引くことで目標LUトルクTlu
*が算出される。ステップS11では、目標LUトルクTlu
*がLU油圧Pluに変換され、次のステップS12では、LU油圧Pluが指示電流Aluに変換される。そして、ステップS13へでは、ロックアップ圧ソレノイド弁76へ指示電流Aluが出力される。
【0098】
次に、
図8に示すタイムチャートに基づいてLU解放→スリップLU→LU締結への移行シーンでのロックアップ制御作用を説明する。
【0099】
この実施例の場合、ロックアップクラッチ解放状態において、
図8の時刻t1にて締結要求フラグが立つと、ロックアップ油圧Pluの供給が開始される。そして、アクセル踏み込み操作の開始により時刻t2にてスリップ要求フラグが立つと、スリップ締結制御が開始される。
【0100】
スリップ締結制御開始時刻t2では、ロックアップクラッチの実差回転数が目標差回転数より大きい運転状態となる。つまり、差回転数偏差が負になることで、コンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbが一気に低下する。時刻t2から時刻t3を過ぎるまでは、ロックアップクラッチの目標エンジン回転数Ne
*の上昇により負の差回転数偏差が小さくなることで、コンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbの低下が緩やかになる。
【0101】
時刻t3にて目標エンジン回転数Ne
*が実エンジン回転数Neを上回ると、時刻t3以降において目標エンジン回転数Ne
*と実エンジン回転数Neの差回転数を拡大し、その後、時間の経過に伴って差回転数が縮小してゆく。このように、ロックアップクラッチの実差回転数が目標差回転数より小さい運転状態が続くと、コンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)が、時刻t3の直後から積分項の積算による上昇を開始し、時刻t4’に到達するまでの間、コンバータトルクを大きくする方向、すなわちロックアップクラッチの差圧を小さくする方向にフィードバック補償での積分項が積算される。
【0102】
しかし、時刻t4’において、コンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)が上限トルク値Tcnv_maxに到達すると、コンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbの上昇が抑えられ、補正エンジントルクTadjを超えることなく時刻t4を通過する。つまり、
図8の矢印Eに示すように、比較例における時刻t4でのコンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbが上限トルク値Tcnv_maxまで低く抑えられる。よって、目標LUトルクTlu
*は、コンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbの上昇抑制に伴って時刻t4以降から上昇してゆく。
【0103】
時刻t4’以降は、目標LUトルクTlu
*の上昇により、ロックアップクラッチ20の締結トルクが確保され、クラッチ締結側のスリップ制御になる。このため、実エンジン回転数Neの上昇が抑えられ、比較例のように、ロックアップクラッチ20の実差回転数が目標差回転数より大きい運転状態に移行することもない。これにより、
図8の矢印Fの枠内特性に示すように、時刻t4’以降、実エンジン回転数Neが目標エンジン回転数Ne
*に対し徐々に収束するというように、収束性が確保される。
【0104】
そして、時刻t4’以降のロックアップクラッチの目標差回転数が小さくなってゆく領域においては、コンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbが緩やかな上昇勾配にて上昇する。つまり、時刻t4’以降は目標LUトルクTlu
*の上昇(∝ロックアップ油圧Pluの上昇)が促されることで、ロックアップクラッチ20の差圧が大きくなるまでの時間が短くなる。この結果、ロックアップクラッチ20をスリップ締結するとき、スリップ締結制御開始時刻t2からロックアップ締結時刻t5(<t6)までに要する時間TI(<TC)が短くなるというように、実差回転数が小さくなるまでに要する時間が短縮される。
【0105】
以上説明したように、実施例のベルト式無段変速機CVTのロックアップ制御装置にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0106】
(1) トルクコンバータ2と、ロックアップクラッチ20と、変速機コントローラ(CVTコントロールユニット8)と、を備える。
トルクコンバータ2は、走行用駆動源(エンジン1)と変速機構(バリエータ4)との間に介装される。
ロックアップクラッチ20は、トルクコンバータ2に有し、締結によりトルクコンバータ入力軸とトルクコンバータ出力軸を直結する。
変速機コントローラ(CVTコントロールユニット8)は、ロックアップクラッチ20の締結/スリップ/解放の制御を行う。
変速機コントローラ(CVTコントロールユニット8)に、目標差回転数ΔN
*に基づくフィードフォワード補償と差回転数偏差δに基づくフィードバック補償によりコンバータトルクTcnvを演算し、トルクコンバータ2への入力トルク(補正エンジントルクTadj)からコンバータトルクTcnvを差し引いて演算される目標ロックアップトルクTlu
*を得るスリップ制御を実行するロックアップ制御部80を設ける。
ロックアップ制御部80は、フィードバック補償にて差回転数偏差δに対する積分項を含みながら計算されるコンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbに、積分項の積算によるトルク上昇を抑える制限を施す。
このように、コンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbに含まれる積分項の積算によるスリップ制御影響を軽減することで、ロックアップクラッチ20をスリップ締結する際、実差回転数ΔNが小さくなるまでに要する時間が長くなるのを抑制することができる。
【0107】
(2) ロックアップ制御部80は、フィードバック補償にて計算されるコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)の上昇を上限トルク値Tcnv_maxにより制限する。
上限トルク値Tcnv_maxを、ロックアップクラッチ20のスリップ締結シーンのときに目標ロックアップトルク(目標LUトルクTlu
*)の上昇を促しつつ、ロックアップクラッチ20のスリップ解放シーンのときにロックアップクラッチ20の解放が保証されるトルク値に設定する。
このように、上限トルク値Tcnv_maxを、スリップ締結とスリップ解放を考慮して設定することで、スリップ締結からクラッチ締結への移行時間を短縮しながら、スリップ解放からクラッチ解放への移行を保証することができる。
【0108】
(3) ロックアップ制御部80は、上限トルク値Tcnv_maxを、トルクコンバータ2への入力トルク(補正エンジントルクTadj)からコンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffと固定値Kを差し引いた式(1)により与える。
固定値Kを、コンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffとの和でトルクコンバータ2への入力トルク(補正エンジントルクTadj)を超え得るトルク値のうち最小域の値に設定する。
このように、上限トルク値Tcnv_maxを、スリップ締結時間短縮とスリップ解放保証を両立する値のうち最小域の値に設定することで、有効なスリップ締結時間短縮と確実なスリップ解放保証との両立を達成することができる。
【0109】
(4) ロックアップ制御部80は、ドライバーが要求する目標駆動力Fd
*を走行用駆動源(エンジン1)の目標駆動源回転数(目標エンジン回転数Ne
*)に変換する。そして、フィードフォワード補償器(F/F補償器84e)と、フィードバック補償器(F/B補償器84h)と、を有する。
フィードフォワード補償器(F/F補償器84e)は、目標駆動源回転数(目標エンジン回転数Ne
*)とタービン回転数(先読みタービン回転数Ntpre)の差である目標差回転数ΔN
*に基づくフィードフォワード補償を行う。
フィードバック補償器(F/B補償器84h)は、実駆動源回転数(実エンジン回転数Ne)とタービン回転数(先読みタービン回転数Ntpre)の差による実差回転数ΔNを算出し、目標差回転数ΔN
*と実差回転数ΔNの差である差回転数偏差δに基づくフィードバック補償を行う。
このように、目標エンジン回転数Ne
*を得るようにトルクコンバータ2のトルク比を制御することで、ロックアップクラッチ20のスリップ制御中、運転者の意図する目標駆動力Fd
*を実現することができる。
【0110】
以上、本発明の自動変速機のロックアップ制御装置を実施例に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0111】
実施例では、ロックアップ制御部80として、F/B補償器84hにて計算されるコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)の上昇を上限トルク値Tcnv_maxにより制限する例を示した。しかし、ロックアップ制御部としては、F/B補償器にて計算されるコンバータトルクF/B補償分計算値の上昇傾きを制限する例としても良い。
【0112】
実施例では、上限トルク値Tcnv_maxを、トルクコンバータ2への入力トルクである補正エンジントルクTadjからコンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffと固定値Kを差し引いた式(1)により与える例を示した。しかし、ロックアップ制御部としては、上限トルク値を、補正エンジントルクのみにより設定したり、コンバータトルクF/F補償分のみにより設定したり、予め設定した固定値とする例であっても良い。さらに、コンバータトルクF/B補償分が上昇するシーン判別により、シーン判別の間だけ制限するような例としても良い。
【0113】
実施例では、ロックアップクラッチ20のスリップ制御として、運転者の意図する目標駆動力Fd
*を実現する制御を行う例を示した。しかし、ロックアップクラッチのスリップ制御としては、先行技術の公報に記載されているように、目標スリップ回転数を決めて制御を行うような例であっても良い。
【0114】
実施例では、本発明のロックアップ制御装置を、自動変速機としてベルト式無段変速機CVTを搭載したエンジン車に適用する例を示した。しかし、本発明のロックアップ制御装置は、自動変速機として、ステップATと呼ばれる有段変速機を搭載した車両や副変速機付き無段変速機を搭載した車両等に適用しても良い。また、適用される車両としても、エンジン車に限らず、走行用駆動源にエンジンとモータを搭載したハイブリッド車、走行用駆動源にモータを搭載した電気自動車等に対しても適用できる。