【実施例1】
【0010】
実施例1におけるアップシフト制御装置は、前進9速・後退1速の変速段を有する自動変速機を搭載したエンジン車に適用したものである。以下、実施例1の構成を、「全体システム構成」、「自動変速機の詳細構成」、「1-2オートアップシフト中のエンジン上限トルク変更制御処理構成」に分けて説明する。
【0011】
[全体システム構成]
図1は実施例1のアップシフト制御装置が適用された自動変速機を搭載するエンジン車を示す。以下、
図1に基づき、全体システム構成を説明する。
【0012】
エンジン車の駆動系には、
図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、自動変速機3と、プロペラシャフト4と、駆動輪5と、を備える。自動変速機3には、変速のためのスプールバルブや油圧回路やソレノイドバルブ等によるコントロールバルブユニット6が取り付けられている。このコントロールバルブユニット6に有するアクチュエータは、ATコントローラ10からの制御指令を受けて作動する。
【0013】
エンジン車の制御系には、
図1に示すように、ATコントローラ10と、エンジンコントローラ11と、CAN通信線12と、を備える。
【0014】
ATコントローラ10は、タービン回転数センサ13、出力軸回転数センサ14、ATF油温センサ15、アクセル開度センサ16、エンジン回転数センサ17、インヒビタースイッチ18等からの信号を入力する。
【0015】
タービン回転数センサ13は、トルクコンバータ2のタービン回転数(=変速機入力軸回転数)を検出し、タービン回転数Ntの信号をATコントローラ10に送出する。出力軸回転数センサ14は、自動変速機3の出力軸回転数(=車速VSP)を検出し、出力軸回転数No(VSP)の信号をATコントローラ10に送出する。ATF油温センサ15は、ATF(自動変速機用オイル)の温度を検出し、ATF油温TATFの信号をATコントローラ10に送出する。アクセル開度センサ16は、ドライバのアクセル操作によるアクセル開度を検出し、アクセル開度APOの信号をATコントローラ10に送出する。エンジン回転数センサ17は、エンジン1の回転数を検出し、エンジン回転数Neの信号をATコントローラ10に送出する。インヒビタースイッチ18は、運転者によるセレクトレバー19やセレクトボタン等へのセレクト操作により選択されたレンジ位置を検出し、レンジ位置信号をATコントローラ10に送出する。
【0016】
ATコントローラ10では、変速マップ上での車速VSPとアクセル開度APOによる運転点(VSP,APO)の変化を監視することで、
1.オートアップシフト(アクセル開度を保った状態での車速上昇による)
2.足離しアップシフト(アクセル足離し操作による)
3.足戻しアップシフト(アクセル戻し操作による)
4.パワーオンダウンシフト(アクセル開度を保っての車速低下による)
5.小開度急踏みダウンシフト(アクセル操作量小による)
6.大開度急踏みダウンシフト(アクセル操作量大による:「キックダウン」)
7.緩踏みダウンシフト(アクセル緩踏み操作と車速上昇による)
8.コーストダウンシフト(アクセル足離し操作での車速低下による)
と呼ばれる基本変速パターンによる変速制御を行う。
【0017】
ATコントローラ10には、アクセル開度を保った状態での車速上昇に伴って1-2オートアップシフトを実行する場合、エンジントルクの上限トルクを変更制御する上限トルク変更処理部10aを有する。上限トルク変更処理部10aには、エンジントルクの1速段上限トルク(1st上限トルク)より2速段上限トルク(2nd上限トルク)が高く設定されている。
【0018】
上限トルク変更処理部10aは、1-2オートアップシフトのイナーシャフェーズが開始されると、上限トルクを、イナーシャフェーズ中、1速段上限トルクから2速段上限トルク(>1速段上限トルク)へ向かって上昇させる。
【0019】
エンジンコントローラ11は、エンジン単体の様々な制御に加え、変速制御との協調制御によりエンジントルク制限制御等を行うもので、ATコントローラ10とエンジンコントローラ11は、双方向に情報交換可能なCAN通信線12を介して接続されている。よって、ATコントローラ10からトルク情報リクエストが入力されると、推定したエンジントルクTeの情報をATコントローラ10に出力する。また、ATコントローラ10から上限トルクによるエンジントルク制限要求が入力されると、エンジントルクを有効トルク(ドライバ要求トルクを上限トルクにより制限したトルク)とするエンジントルク制限制御が実行される。なお、エンジントルク制限制御には、スロットルバルブの閉じ制御によりエンジントルクを制限するスロートルク制限制御と、エンジンリタード制御によりエンジントルクを制限するファーストトルク制限制御とがある。
【0020】
[自動変速機の詳細構成]
図2は実施例1のアップシフト制御装置が適用された自動変速機3の一例を示すスケルトン図であり、
図3は自動変速機3での締結表であり、
図4は自動変速機3での変速マップの一例を示す。以下、
図2〜
図4に基づいて自動変速機3の詳細構成を説明する。
【0021】
自動変速機3は、
図2に示すように、ギアトレーンを構成する遊星歯車として、入力軸INから出力軸OUTに向けて順に、第1遊星歯車PG1と、第2遊星歯車PG2と、第3遊星歯車PG3と、第4遊星歯車PG4と、を備えている。
【0022】
第1遊星歯車PG1は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第1サンギヤS1と、第1サンギヤS1に噛み合うピニオンを支持する第1キャリアC1と、ピニオンに噛み合う第1リングギヤR1と、を有する。
【0023】
第2遊星歯車PG2は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第2サンギヤS2と、第2サンギヤS2に噛み合うピニオンを支持する第2キャリアC2と、ピニオンに噛み合う第2リングギヤR2と、を有する。
【0024】
第3遊星歯車PG3は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第3サンギヤS3と、第3サンギヤS3に噛み合うピニオンを支持する第3キャリアC3と、ピニオンに噛み合う第3リングギヤR3と、を有する。
【0025】
第4遊星歯車PG4は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第4サンギヤS4と、第4サンギヤS4に噛み合うピニオンを支持する第4キャリアC4と、ピニオンに噛み合う第4リングギヤR4と、を有する。
【0026】
自動変速機3は、
図2に示すように、入力軸INと、出力軸OUTと、第1連結メンバM1と、第2連結メンバM2と、トランスミッションケースTCと、を備えている。変速により締結/解放される摩擦要素として、第1ブレーキB1と、第2ブレーキB2と、第3ブレーキB3と、第1クラッチK1と、第2クラッチK2と、第3クラッチK3と、を備えている。
【0027】
入力軸INは、エンジン1からの駆動力がトルクコンバータ2を介して入力される軸で、第1サンギヤS1と第4キャリアC4に常時連結している。そして、入力軸INは、第2クラッチK2を介して第1キャリアC1に断接可能に連結している。
【0028】
出力軸OUTは、プロペラシャフト4及び図外のファイナルギヤ等を介して駆動輪5へ変速した駆動トルクを出力する軸であり、第3キャリアC3に常時連結している。そして、出力軸OUTは、第1クラッチK1を介して第4リングギヤR4に断接可能に連結している。
【0029】
第1連結メンバM1は、第1遊星歯車PG1の第1リングギヤR1と第2遊星歯車PG2の第2キャリアC2を、摩擦要素を介在させることなく常時連結するメンバである。第2連結メンバM2は、第2遊星歯車PG2の第2リングギヤR2と第3遊星歯車PG3の第3サンギヤS3と第4遊星歯車PG4の第4サンギヤS4を、摩擦要素を介在させることなく常時連結するメンバである。
【0030】
第1ブレーキB1は、第1キャリアC1の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。第2ブレーキB2は、第3リングギヤR3の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。第3ブレーキB3は、第2サンギヤS2の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。
【0031】
第1クラッチK1は、第4リングギヤR4と出力軸OUTの間を選択的に連結する摩擦要素である。第2クラッチK2は、入力軸INと第1キャリアC1の間を選択的に連結する摩擦要素である。第3クラッチK3は、第1キャリアC1と第2連結メンバM2の間を選択的に連結する摩擦要素である。
【0032】
図3は、自動変速機3において6つの摩擦要素のうち三つの同時締結の組み合わせによりDレンジにて前進9速後退1速を達成する締結表を示す。以下、
図3に基づいて、各変速段を成立させる変速構成を説明する。
【0033】
1速段(1st)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第3クラッチK3の同時締結により達成する。2速段(2nd)は、第2ブレーキB2と第2クラッチK2と第3クラッチK3の同時締結により達成する。3速段(3rd)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第2クラッチK2の同時締結により達成する。4速段(4th)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第1クラッチK1の同時締結により達成する。5速段(5th)は、第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第2クラッチK2の同時締結により達成する。以上の1速段〜5速段が、ギヤ比が1を超えている減速ギヤ比によるアンダードライブ変速段である。
【0034】
6速段(6th)は、第1クラッチK1と第2クラッチK2と第3クラッチK3の同時締結により達成する。この第6速段は、ギヤ比=1の直結段である。
【0035】
7速段(7th)は、第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第3クラッチK3の同時締結により達成する。8速段(8th)は、第1ブレーキB1と第1クラッチK1と第3クラッチK3の同時締結により達成する。9速段(9th)は、第1ブレーキB1と第3ブレーキB3と第1クラッチK1の同時締結により達成する。以上の7速段〜9速段は、ギヤ比が1未満の増速ギヤ比によるオーバードライブ変速段である。
【0036】
さらに、1速段から9速段までの変速段のうち、隣接する変速段へのアップ変速を行う際、或いは、ダウン変速を行う際、
図3に示すように、架け替え変速により行う構成としている。即ち、隣接する変速段への変速は、三つの摩擦要素のうち、二つの摩擦要素の締結は維持したままで、一つの摩擦要素の解放と一つの摩擦要素の締結を行うことで達成される。
【0037】
Rレンジ位置の選択による後退速段(Rev)は、第1ブレーキB1と第2ブレーキB2と第3ブレーキB3の同時締結により達成する。なお、Nレンジ位置及びPレンジ位置を選択したときは、6つの摩擦要素B1,B2,B3,K1,K2,K3の全てが解放状態とされる。
【0038】
そして、ATコントローラ10には、
図4に示すような変速マップが記憶設定されていて、Dレンジの選択により前進側の1速段から9速段までの変速段の切り替えによる変速は、この変速マップに従って行われる。即ち、そのときの運転点(VSP,APO)が
図4の実線で示すアップシフト線を横切るとアップシフト変速要求が出される。又、運転点(VSP,APO)が
図4の破線で示すダウンシフト線を横切るとダウンシフト変速要求が出される。
【0039】
以下の説明において、変速パターンとして、
図4のAの矢印の枠内特性に示すように、車両停止からの踏み込み発進後、全開域のアクセル開度APOを保ったままで車速VSPが上昇することにより1-2アップシフト線を横切って1-2アップシフトが実行される「1-2オートアップシフト」を取り扱う。1速段→2速段の架け替えによる1-2オートアップシフトの場合、第2クラッチK2が解放状態から締結状態へと移行する“締結クラッチ”であり、第3ブレーキB3が締結状態から解放状態へと移行する“解放クラッチ”である。
【0040】
[1-2オートアップシフト中の上限トルク変更制御処理構成]
図5は、実施例1のATコントローラ10にて実行される1-2オートアップシフト中の上限トルク変更制御処理の流れを示すフローチャートである。以下、1-2オートアップシフト中の上限トルク変更制御処理構成をあらわす
図5の各ステップについて説明する。
【0041】
ステップS1では、車両停止状態からアクセル全開域で加速発進する際、1-2オートアップシフト要求有りか否かを判断する。YES(1-2オートアップシフト要求有り)の場合はステップS2へ進み、NO(1-2オートアップシフト要求無し)の場合はステップS1の判断を繰り返す。
【0042】
ステップS2では、ステップS1での1-2オートアップシフト要求有りとの判断に続き、1速段から2速段へと変速する1-2オートアップシフトを開始し、ステップS3へ進む。
【0043】
ここで、1-2オートアップシフトを開始すると、解放状態の第2クラッチK2に対し締結油圧指令の出力を開始すると共に、締結状態の第3ブレーキB3に対し解放油圧指令の出力を開始する。
【0044】
ステップS3では、ステップS2での1-2オートアップシフトの開始、或いは、ステップS4での1st補間開始ギヤ比に未到達であるとの判断に続き、ギヤ比とドライバ要求トルクを算出し、ステップS4へ進む。
【0045】
ここで、「ギヤ比」は、タービン回転数センサ13からのタービン回転数Nt(=変速機入力軸回転数)と出力軸回転数センサ14からの出力軸回転数No(=変速機出力軸回転数)とを用いた回転数比により算出する。「ドライバ要求トルク」は、アクセル開度センサ16からのアクセル開度APOの大きさと出力軸回転数センサ14からの車速VSPにより算出する。
【0046】
ステップS4では、ステップS3でのギヤ比とドライバ要求トルクの算出に続き、自動変速機3のギヤ比が、1st補間開始ギヤ比に到達したか否かを判断する。YES(1st補間開始ギヤ比に到達)の場合はステップS5へ進み、NO(1st補間開始ギヤ比に未到達)の場合はステップS3へ戻る。
【0047】
ここで、「1st補間開始ギヤ比」は、1st上限トルクと2nd上限トルクとのトルク補間演算を開始するギヤ比であり、1速ギヤ比よりも少し2速ギヤ比側にオフセットしたギヤ比に設定される。つまり、回転数センサ13,14からのセンサ検出値は誤差等を含むものであるため、誤差等の影響を排除したセンサ検知によるイナーシャフェーズ開始ギヤ比とされる。よって、1st補間開始ギヤ比に到達するタイミングは、実際にギヤ比が変化を開始するイナーシャフェーズ開始タイミングから少し遅れたタイミングになる(
図7参照)。
【0048】
ステップS5では、ステップS4での1st補間開始ギヤ比に到達との判断、或いは、ステップS9での2nd補間終了ギヤ比に未到達との判断に続き、ギヤ比と変速進行度を算出し、ステップS6へ進む。
【0049】
ここで、「変速進行度」とは、1速段から2速段への変速する際のイナーシャフェーズ中における変速進行度合いをいう。つまり、1st補間開始ギヤ比から2nd補間終了ギヤ比までアップシフトが進行したときの変速進行度を100%とすると、算出されたギヤ比が1st補間開始ギヤ比と2nd補間終了ギヤ比との中間ギヤ比のときの変速進行度は50%になる。そして、変速進行度を算出する際、今回算出されたギヤ比が前回算出されたギヤ比よりハイ側ギヤ比になると今回算出されたギヤ比を用い、今回算出されたギヤ比が前回算出されたギヤ比よりロー側ギヤ比になると前回算出されたギヤ比を用いる。つまり、変速進行度が戻らないようにする。
【0050】
ステップS6では、ステップS5でのギヤ比と変速進行度の算出に続き、ステップS3で算出されたドライバ要求トルクが、2nd上限トルク未満であるか否かを判断する。YES(ドライバ要求トルク<2nd上限トルク)の場合はステップS7へ進み、NO(ドライバ要求トルク≧2nd上限トルク)の場合はステップS8へ進む。
【0051】
ここで、「2nd上限トルク」は、2速段での上限トルクであり、1速段での上限トルクである1st上限トルクより高いトルク値に予め設定されている(
図7参照)。
【0052】
ステップS7では、ステップS6でのドライバ要求トルク<2nd上限トルクであるとの判断に続き、ドライバ要求トルクを2nd補間終了ギヤ比での目標上限トルクとし、1st上限トルクとドライバ要求トルクと変速進行度を用いたトルク補間演算により上限トルクを算出し、ステップS9へ進む。
【0053】
ここで、ステップS7での「トルク補間演算」では、ドライバ要求トルクTdと1st上限トルクTL1とのトルク乖離幅ΔT1を100%としたとき、変速進行度N%により変速進行トルク差ΔTN(=ΔT1×N/100)を算出する。そして、1st上限トルクTL1に、変速進行トルク差ΔTNを加えた値を上限トルクTlimとして算出する。
【0054】
ステップS8では、ステップS6でのドライバ要求トルク≧2nd上限トルクであるとの判断に続き、2nd上限トルクを2nd補間終了ギヤ比での目標上限トルクとし、1st上限トルクと2nd上限トルクと変速進行度を用いたトルク補間演算により上限トルクを算出し、ステップS9へ進む。
【0055】
ここで、ステップS8での「トルク補間演算」では、2nd上限トルクTL2と1st上限トルクTL1とのトルク乖離幅ΔT2を100%としたとき、変速進行度N%により変速進行トルク差ΔTN(=ΔT2×N/100)を算出する。そして、1st上限トルクTL1に、変速進行トルク差ΔTNを加えた値を上限トルクTlimとして算出する。
【0056】
ステップS9では、ステップS7又はステップS8での上限トルクの算出に続き、算出されたギヤ比が2nd補間終了ギヤ比に到達したか否かを判断する。YES(2nd補間終了ギヤ比に到達)の場合はステップS10へ進み、NO(2nd補間終了ギヤ比に未到達)の場合はステップS5へ戻る。
【0057】
ここで、「2nd補間終了ギヤ比」は、1st上限トルクと2nd上限トルクとのトルク補間演算を終了するギヤ比であり、2速ギヤ比よりも少し1速ギヤ比側にオフセットしたギヤ比に設定される。つまり、回転数センサ13,14からのセンサ検出値は誤差等を含むものであるため、誤差等の影響を排除したセンサ検知によるイナーシャフェーズ終了ギヤ比とされる。よって、2nd補間終了ギヤ比に到達するタイミングは、実際にギヤ比が2速ギヤ比に到達するタイミングより少し前のタイミングになる(
図7参照)。
【0058】
ステップS10では、ステップS9での2nd補間終了ギヤ比に到達であるとの判断、或いは、ステップS11での上限トルクの保持に続き、1-2オートアップシフトが完了したか否かを判断する。YES(1-2オートアップシフト完了)の場合はステップS12へ進み、NO(1-2オートアップシフト未完了)の場合はステップS11へ進む。
【0059】
ここで、「1-2オートアップシフト完了」は、第2クラッチK2への締結油圧指令が最大指令値になり、第3ブレーキB3への解放油圧指令がゼロになったタイミングをいう。
【0060】
ステップS11では、ステップS10での1-2オートアップシフト未完了であるとの判断に続き、そのときに出力されている上限トルクを保持し、ステップS10へ戻る。
【0061】
ここで、「上限トルクを保持する」とは、例えば、ギヤ比が2nd補間終了ギヤ比に到達したときに出力されている上限トルクがドライバ要求トルクの場合、ドライバ要求トルクを保持する(
図7参照)。
【0062】
ステップS12では、ステップS10での1-2オートアップシフト完了であるとの判断に続き、上限トルクを2nd上限トルクに切り替え、エンドへ進む。
【0063】
ここで、上限トルクが既に2nd上限トルクまで上昇しているときは、2nd上限トルクを維持し、上限トルクがドライバ要求トルクまで上昇しているときは、ドライバ要求トルクから2nd上限トルクに切り替えられる。
【0064】
次に、実施例1の作用を、「1-2オートアップシフト中の上限トルク変更制御処理作用」、「上限トルク変更制御の対比作用」に分けて説明する。
【0065】
[1-2オートアップシフト中の上限トルク変更制御処理作用]
以下、
図5のフローチャートに基づいて1-2オートアップシフト中の上限トルク変更制御処理作用を説明する。
【0066】
車両停止状態からアクセル全開域で加速発進する際、1-2オートアップシフト要求があると、
図5のフローチャートにおいて、ステップS1からステップS2→ステップS3→ステップS4へと進み、ステップS2にて1-2オートアップシフトが開始される。ステップS4にて1st補間開始ギヤ比に未到達と判断されている間は、ステップS3→ステップS4へと進む流れが繰り返される。ステップS3では、1-2オートアップシフト開始後のギヤ比と、主にアクセル開度APOに基づいてドライバ要求トルクが算出される。
【0067】
ステップS4にて1st補間開始ギヤ比に到達と判断されると、ステップS4〜ステップS5→ステップS6へと進み、ステップS5では、1st補間開始ギヤ比に到達した後のギヤ比と変速進行度が算出される。ステップS6では、ステップS3で算出されたドライバ要求トルクが、2nd上限トルク未満であるか否かが判断される。
【0068】
ステップS6にてドライバ要求トルク<2nd上限トルクと判断された場合、ステップS6からステップS7→ステップS9へと進む。ステップS7では、ドライバ要求トルクを2nd補間終了ギヤ比での目標上限トルクとし、1st上限トルクとドライバ要求トルクと変速進行度を用いたトルク補間演算により上限トルクが算出される。つまり、ドライバ要求トルクTdと1st上限トルクTL1とのトルク乖離幅ΔT1を100%としたとき、変速進行度N%により変速進行トルク差ΔTN(=ΔT1×N/100)を算出し、1st上限トルクTL1に、変速進行トルク差ΔTNを加えた値を上限トルクTlimとする。
【0069】
ステップS6にてドライバ要求トルク≧2nd上限トルクと判断された場合、ステップS6からステップS8→ステップS9へ進む。ステップS8では、2nd上限トルクを2nd補間終了ギヤ比での目標上限トルクとし、1st上限トルクと2nd上限トルクと変速進行度を用いたトルク補間演算により上限トルクが算出される。つまり、2nd上限トルクTL2と1st上限トルクTL1とのトルク乖離幅ΔT2を100%としたとき、変速進行度N%により変速進行トルク差ΔTN(=ΔT2×N/100)を算出し、1st上限トルクTL1に、変速進行トルク差ΔTNを加えた値を上限トルクTlimとする。
【0070】
ステップS9では、ステップS7又はステップS8での上限トルクの算出に続き、算出されたギヤ比が2nd補間終了ギヤ比に到達したか否かが判断される。そして、2nd補間終了ギヤ比に未到達と判断されている間(イナーシャフェーズ中)、ステップS5からステップS9へと進む流れが繰り返され、変速進行度を用いたトルク補間演算により上限トルクが算出される。
【0071】
そして、2nd補間終了ギヤ比に到達と判断されると、ステップS9からステップS10へ進み、ステップS10にて1-2オートアップシフト未完了であると判断されている間、ステップS10→ステップS11へと進む流れが繰り返される。ステップS11では、そのときに出力されている上限トルクが保持される。その後、ステップS10にて1-2オートアップシフト完了であると判断されると、ステップS10からステップS12→エンドへと進む。ステップS12では、上限トルクが2nd上限トルクに切り替えられる。
【0072】
このように、1-2オートアップシフト中の上限トルク変更制御処理では、1st補間開始ギヤ比に到達すると、2nd補間終了ギヤ比に到達するまでの間、変速進行度を用いたトルク補間演算により上限トルクが算出される。そして、変速進行度を用いたトルク補間演算は、ドライバ要求トルク<2nd上限トルクと判断された場合、ドライバ要求トルクを2nd補間終了ギヤ比での目標上限トルクとするトルク補間演算とされる。一方、ドライバ要求トルク≧2nd上限トルクと判断された場合、2nd上限トルクを2nd補間終了ギヤ比での目標上限トルクとするトルク補間演算とされる。
【0073】
[上限トルク変更制御の対比作用]
図6は、比較例のATコントローラにて実行される1-2オートアップシフト中の上限トルク変更制御での各特性を示すタイムチャートである。
【0074】
比較例は、アクセル踏み込み操作による発進時、車速上昇により1速段から2速段へのオートアップシフトが実行されると、シフト完了時点で上限トルクを、1st上限トルクから2nd上限トルクへと切り替えるものとする。
【0075】
時刻t1は1-2オートアップシフトの開始時刻、時刻t2は1-2オートアップシフトでのイナーシャフェーズ開始時刻、時刻t3は1-2オートアップシフト完了時刻である。
【0076】
比較例では、時刻t1から時刻t2までの1-2オートアップシフトの準備区間では、上限トルクが1st上限トルクとされ、有効トルクも1st上限トルクとされる。時刻t2から時刻t3までのイナーシャフェーズ区間では、準備区間に引き続き、上限トルクが1st上限トルクとされ、有効トルクも1st上限トルクとされる。そして、1-2オートアップシフト完了時刻t3になると、上限トルクが、1st上限トルク(例えば、400Nm程度)から2nd上限トルク(例えば、700Nm程度)に切り替えられる。
【0077】
このため、矢印Bの枠内特性に示すように、1-2オートアップシフト完了時刻t3になると、有効トルクが、1st上限トルクからドライバ要求トルクまでステップ的に上昇変化する。この有効トルクの急上昇により、1-2オートアップシフト完了後、突き上げショックが発生する。
【0078】
つまり、突き上げショックの発生を抑えるように上限トルクを緩やかに切り替えたいという要求がある。この上限トルクを緩やかに切り替える場合、1-2オートアップシフトが完了した後、1st上限トルクから2nd上限トルクまで所定の上昇勾配により立ち上げてゆくという案がある。しかし、1-2オートアップシフトが完了した後に緩やかに切り替えると、有効トルクがドライバ要求トルクまで上昇するまでに時間を要し、駆動力不足により発進加速性能の低下を招く。
【0079】
本発明は、発進加速性能を確保しつつ突き上げショックを抑制したいという課題に着目してなされたもので、1-2オートアップシフトにてイナーシャフェーズが開始されると、上限トルクを、イナーシャフェーズ中に1st上限トルクから2nd上限トルクに向かって所定勾配により上昇させる構成を採用した。
【0080】
図7は、実施例1のATコントローラ10の上限トルク変更処理部10aにて実行される1-2オートアップシフト中の上限トルク変更制御での各特性を示すタイムチャートである。
【0081】
時刻t1は1-2オートアップシフトの開始時刻、時刻t2は1-2オートアップシフトでのイナーシャフェーズ開始時刻、時刻t3は1st補間開始ギヤ比到達時刻、時刻t4は2nd補間終了ギヤ比到達時刻、時刻t5は1-2オートアップシフト完了時刻である。
【0082】
実施例1では、時刻t1から時刻t2までの1-2オートアップシフトの準備区間では、上限トルクが1st上限トルクとされ、有効トルクも1st上限トルクとされる。時刻t2から時刻t3までのイナーシャフェーズ開始区間では、準備区間に引き続き、上限トルクが1st上限トルクとされ、有効トルクも1st上限トルクとされる。
【0083】
そして、1st補間開始ギヤ比到達時刻t3になると、2nd補間終了ギヤ比到達時刻t4までのイナーシャフェーズ中は、上限トルクが、ドライバ要求トルクを目標上限とし、1st上限トルクからドライバ要求トルクまで変速進行度に応じた上昇勾配によりトルク上昇する特性に切り替えられる。
【0084】
2nd補間終了ギヤ比到達時刻t4になると、1-2オートアップシフト完了時刻t5まで上限トルクがドライバ要求トルクのまま保持され、1-2オートアップシフトの完了時刻t5になると、2nd上限トルクに切り替えられる。
【0085】
このため、矢印Cの枠内特性に示すように、1st補間開始ギヤ比到達時刻t3から2nd補間終了ギヤ比到達時刻t4までのイナーシャフェーズ中は、有効トルクが、1st上限トルクからドライバ要求トルクまで緩やかに上昇変化する。この有効トルクの緩やかな上昇変化により、1-2オートアップシフト完了後、突き上げショックが発生するのが防止される。
【0086】
加えて、1-2オートアップシフト完了時刻t5に到達する前に、有効トルクをドライバ要求トルクまで上昇させるようにしている。このため、矢印Dの枠内特性に示すように、1-2オートアップシフト完了時刻t5に到達した後、有効トルクをドライバ要求トルクまで上昇させる場合に比べ、発進加速性能が向上する。
【0087】
このように、イナーシャフェーズ中に上限トルクを徐々に上昇させて2nd上限トルクに繋ぐことで、車速上昇による1-2オートアップシフトが実行される際、発進加速性能を確保しつつ突き上げショックの発生を抑制することができる。
【0088】
以上述べたように、実施例1の自動変速機3の制御装置にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0089】
(1) 走行用駆動源(エンジン1)と、走行用駆動源に連結され、複数の変速段と複数の摩擦要素を有する自動変速機3と、変速要求があると摩擦要素の架け替えにより変速を実行するATコントローラ10と、ATコントローラ10から上限トルクによるトルク制限要求を入力すると、走行用駆動源(エンジン1)のトルク制限制御を実行する走行用駆動源コントローラ(エンジンコントローラ11)と、を備える。ATコントローラ10は、車速上昇に伴って低速段(1速段)から高速段(2速段)へ変速するオートアップシフト(1-2オートアップシフト)を実行する場合、上限トルクを、低速段上限トルク(1st上限トルク)から低速段上限トルクより高トルクに設定された高速段上限トルク(2nd上限トルク)へ変更する上限トルク変更処理部10aを有する。上限トルク変更処理部10aは、オートアップシフト(1-2オートアップシフト)にてイナーシャフェーズが開始されると、上限トルクを、イナーシャフェーズ中に低速段上限トルク(1st上限トルク)から高速段上限トルク(2nd上限トルク)に向かって所定勾配により上昇させる。このため、車速上昇によるオートアップシフト(1-2オートアップシフト)が実行される際、加速性能を確保しつつ突き上げショックの発生を抑制することができる。
【0090】
(2) 上限トルク変更処理部10aは、オートアップシフト(1-2オートアップシフト)でのイナーシャフェーズが開始されると、低速段ギヤ比(1速ギヤ比)から高速段ギヤ比(2速ギヤ比)に向かうギヤ比の時間変化による変速進行度を算出する。上限トルクの上昇勾配を、変速進行度に応じて低速段上限トルク(1st上限トルク)からトルクを上昇させるトルク補間演算により決める。このため、イナーシャフェーズ中の上限トルクの上昇勾配が、オートアップシフト(1-2オートアップシフト)の変速進行度に応じたものになり、上限トルクにより決まる有効トルクを、違和感を抑えた最適な変化にすることができる。
【0091】
(3) 上限トルク変更処理部10aは、一定の時間間隔で算出されるギヤ比に基づいて変速進行度を算出する際、今回算出されたギヤ比が前回算出されたギヤ比よりハイ側ギヤ比になると今回算出されたギヤ比を用い、今回算出されたギヤ比が前回算出されたギヤ比よりロー側ギヤ比になると前回算出されたギヤ比を用いる。このため、オートアップシフト(1-2オートアップシフト)のとき、ギヤ比がダウンシフト側へ戻る場合に変速進行度が戻ってしまうのを抑え、上限トルク(=有効トルク)がイナーシャフェーズ中に低下するのを防止することができる。
【0092】
(4) 上限トルク変更処理部10aは、オートアップシフト中(1-2オートアップシフト中)におけるドライバ要求トルクを算出する。ドライバ要求トルクが高速段上限トルク(2nd上限トルク)よりも小さいと判断された場合、ドライバ要求トルクをイナーシャフェーズ終了時の目標上限トルクとする。上限トルクを、低速段上限トルク(1st上限トルク)とドライバ要求トルクとのトルク乖離幅と、変速進行度に基づくトルク補間演算により決める。このため、ドライバ要求トルクが高速段上限トルク(2nd上限トルク)よりも小さい場合、イナーシャフェーズ中のトルク上昇勾配を抑えながら、イナーシャフェーズ終了時に有効トルクとなるドライバ要求トルクまで上昇させることができる。
【0093】
(5) 上限トルク変更処理部10aは、ドライバ要求トルクが高速段上限トルク(2nd上限トルク)以上であると判断された場合、高速段上限トルク(2nd上限トルク)をイナーシャフェーズ終了時の目標上限トルクとする。上限トルクを、低速段上限トルク(1st上限トルク)と高速段上限トルク(2nd上限トルク)とのトルク乖離幅と、変速進行度に基づくトルク補間演算により決める。このため、ドライバ要求トルクが高速段上限トルク(2nd上限トルク)以上である場合、トルク段差が生じることがないスムーズな上限トルクの上昇変化により高速段上限トルク(2nd上限トルク)まで上昇させることができる。
【0094】
(6) 上限トルク変更処理部10aは、オートアップシフト(1-2オートアップシフト)の変速が完了すると、上限トルクを、高速段上限トルク(2nd上限トルク)に切り替える。このため、オートアップシフト(1-2オートアップシフト)の変速が完了して高速段(2速段)へ移行するタイミングで、確実に高速段上限トルク(2nd上限トルク)に切り替えることができる。
【0095】
以上、本発明の自動変速機の制御装置を実施例1に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0096】
実施例1では、オートアップシフトとして、車両停止状態からアクセル全開域で加速発進する際の1-2オートアップシフトの例を示した。しかし、アクセル踏み込みによるドライブ走行時、車速上昇に伴うオートアップシフトであり、低速段上限トルクより高速段上限トルクが高トルクに設定されているオートアップシフトの走行シーンであれば、1-2オートアップシフト以外の場合のオートアップシフトの場合も適用できる。
【0097】
実施例1では、上限トルク変更処理部10aとして、1-2オートアップシフトでのイナーシャフェーズが開始されると、1速ギヤ比から2速ギヤ比に向かう変速進行度を算出する。この変速進行度は、ギヤ比が時間の経過とともに1速ギヤ比から2速ギヤ比に向かって変化するギヤ比の時間変化によって算出される。上限トルクの上昇勾配を、変速進行度に応じて1st上限トルクからトルクを上昇させるトルク補間演算により決める例を示した。しかし、上限トルク変更処理部としては、変速進行度を用いないで予め決められた上昇勾配にて上限トルクを上昇させる例も含まれる。
【0098】
実施例1では、上限トルク変更処理部10aとして、1-2オートアップシフト中におけるドライバ要求トルクを算出する。そして、ドライバ要求トルクが2nd上限トルクよりも小さいか否かを判断し、ドライバ要求トルク<2nd上限トルクの場合とドライバ要求トルク≧2nd上限トルクの場合とで目標上限トルクを異ならせる例を示した。しかし、上限トルク変更処理部としては、ドライバ要求トルクとは無関係に、例えば、2nd上限トルクを目標上限トルクとする例としても良い。
【0099】
実施例1では、自動変速機として、前進9速後退1速の自動変速機3の例を示した。しかし、自動変速機としては、前進9速後退1速以外の有段変速段を持つ自動変速機の例としても良い。また、実施例1では、エンジン車に搭載される自動変速機の制御装置の例を示したが、エンジン車に限らず、ハイブリッド車や電気自動車等の自動変速機の制御装置としても適用することが可能である。