(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6865957
(24)【登録日】2021年4月9日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】柄カバー
(51)【国際特許分類】
A63B 69/02 20060101AFI20210419BHJP
【FI】
A63B69/02 C
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-5340(P2017-5340)
(22)【出願日】2017年1月16日
(65)【公開番号】特開2018-114023(P2018-114023A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2020年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】507295657
【氏名又は名称】株式会社ケンプロ
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 宏子
(74)【代理人】
【識別番号】100169247
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 佳世
(72)【発明者】
【氏名】田村 啓二
【審査官】
田中 洋行
(56)【参考文献】
【文献】
登録実用新案第3049300(JP,U)
【文献】
実開平02−102272(JP,U)
【文献】
実開昭59−000173(JP,U)
【文献】
特開2016−106842(JP,A)
【文献】
実開昭63−011068(JP,U)
【文献】
特開2015−002849(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2004−0024830(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC A63B69/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
竹刀の柄部に装着して用いる柄カバーであって、
当該竹刀の柄部を覆う本体と、当該本体の所定の位置の厚みを増加させる断面形状調整部材を備え、
当該断面形状調整部材は、寸法が異なる複数の厚さ調整部材を有し、当該柄カバーを当該竹刀の柄部に装着したときに、外周断面が楕円形で且つアスペクト比(断面でみたときに、最大径をXとし、この最大径Xに対して垂直方向の最大径をYとしたときの比率Y/X)が0.6〜0.9となるよう、当該本体の表面にサイズの大きなものから順に当該厚さ調整部材を積層したものであることを特徴とする柄カバー。
【請求項2】
前記断面形状調整部材は、前記本体の外面に備えた請求項1に記載の柄カバー。
【請求項3】
前記断面形状調整部材は、前記本体の内面に備えた請求項1に記載の柄カバー。
【請求項4】
前記断面形状調整部材は、滑り止め手段を備えた請求項1〜請求項3のいずれかに記載の柄カバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願に係る発明は、剣道用竹刀の柄カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
剣道用の竹刀は、一般的に、丸竹を縦に割った竹片を4枚合わせ、その中央付近を中じめ革で束ね、先端に先革を嵌め、基部に革製の柄を嵌めるようにした構造となっている。そして、当該竹刀は、剣先の先革から柄までに一本の弦を張り、弦が張られた側を棟(又は峰)、その反対側を刃に見立てている。
【0003】
ここで、剣道用の竹刀は、加工性の面から、柄の断面が略円形となるものが主流となっている。しかしながら、柄の断面が略円形の竹刀は、打突の際に持ち手(小手)の中で柄が滑り回転し易い。竹刀は構成する竹片が全て略同形状同色であるため、棟側に張られた弦の位置が確認出来ないと、当該竹刀を適切な形で把持しているか否かの確認が出来なくなる。そのため、特に剣道の初心者には、竹刀の適切な部位(刃に見立てている部位)で安定的に打ち込むことが困難となっていた。一般に、剣道の試合では、竹刀の適切な部位にて打突がなされなければ「一本」の判定はなされない(全日本剣道連盟の剣道試合審判規則第12条、第13条を参照のこと。)。また、竹刀は、適切な部位で打ち込まないと、竹刀に不必要な負荷がかかり破損し易い。
【0004】
上述した問題に対し、柄の断面を楕円形(小判型)とした竹刀がある(非特許文献1の第44〜45頁を参照のこと。)。このような小判型の竹刀によれば、竹刀を適切な形で把持しているか否かの確認が容易となり、また、柄の正確な握りを習得し易くなる。従って、この小判型の竹刀によれば、竹刀の適切な部位にて安定して打ち込むことが可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】武道具総合カタログ2016 株式会社三恵 第44〜45頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この小判型の竹刀は、高い加工技術が求められ、加工コストが増大する。また、小判型の竹刀は、竹片4枚を合わせた状態で断面が楕円形となるように切削加工を施すため、一部の竹片が破損した場合でも破損した竹片のみの交換が出来ず、経済的ではない。
【0007】
本件発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、安価でありながら、柄の断面が略円形の竹刀であっても、安定的に竹刀を適切な形で把持することの出来る柄カバーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本件発明者等は、鋭意研究を行った結果、以下に述べる柄カバーを採用することで、上記課題を解決することに想到した。
【0009】
本件発明に係る柄カバーは、竹刀の柄部に装着して用いる柄カバーであって、当該竹刀の柄部を覆う本体と、当該本体の所定の位置の厚みを増加させる断面形状調整部材を備え
、当該断面形状調整部材は、寸法が異なる複数の厚さ調整部材を有し、当該柄カバーを当該竹刀の柄部に装着したときに、外周断面が楕円形で且つアスペクト比(断面でみたときに、最大径をXとし、この最大径Xに対して垂直方向の最大径をYとしたときの比率Y/X)が0.6〜0.9となるよう、当該本体の表面にサイズの大きなものから順に当該厚さ調整部材を積層したものであることを特徴とする。
【0010】
本件発明に係る柄カバーにおいて、前記断面形状調整部材は、前記本体の外面に備えたことが好ましい。
【0011】
本件発明に係る柄カバーにおいて、前記断面形状調整部材は、前記本体の内面に備えたことが好ましい。
【0012】
本件発明に係る柄カバーにおいて、前記断面形状調整部材は、滑り止め手段を備えたことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本件発明に係る柄カバーによれば、竹刀の柄の形状を問わず、誰もが安定的に竹刀を適切な形で把持することが可能となる。また、本件発明に係る柄カバーは、簡易な構造であることから、低価格化を実現出来る。よって、本件発明に係る柄カバーによれば、使用者を選ばず正しい竹刀の握りを習得でき、誰もが適切な部位にて打ち込みを行うことが出来る。更に、本件発明に係る柄カバーを用いることで、竹刀を適切な形で把持することが出来るため、打ち込みの際に竹刀に不必要な負荷が加わらず、当該竹刀の耐久性を向上させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本件発明に係る柄カバーを装着する前の竹刀の概略図である。
【
図2】本件発明に係る柄カバーの一実施形態を示す断面図である。
【
図3】本件発明に係る柄カバーの別の実施形態を示す断面図である。
【
図4】(a)は
図2又は
図3に示す柄カバーの展開図であり、(b)はその断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本件発明に係る柄カバーの実施の形態について図を用いて示しながら説明する。
【0016】
図1は、本件発明に係る柄カバーを装着する前の竹刀の概略図である。一般的に普及されている竹刀10は、4枚の竹片が周方向に組み合わされて細長い筒状に形成された竹刀本体11を備え、竹刀本体11は刀身部12と柄部13とを有している。刀身部12は、先端に先革14が嵌められ、中央付近が中しめ革15で束ねられて構成されている。また、柄部13は、柄革17が被覆されると共に、鍔18が挿通されてその鍔18が鍔止19により固定される。また、竹刀本体11は、刀身部12の先端部から柄部13までの間に一本の弦16が張られ、弦16が張られた側を棟(又は峰)、その反対側を刃に見立てている。
【0017】
剣道の竹刀10は、上述したように、加工性の面から、持ち手となる柄部13の断面が略円形となっているものが主流となっている。また、竹刀10の柄部13には柄革17と称されるカバーが装着されるが、この柄革17は使い込むに従い汗等を吸い込み表面が硬化して滑らかになるため、柄部13が持ち手(小手)の中で滑り回転し易くなる傾向が生じる。よって、特に初心者がこのような柄部13の断面が略円形となる竹刀10を用いると、握りが安定せず滑りが生じ易いため、正確な打ち込みを行うことが困難となる。しかし、以下に示す本件発明に係る柄カバー1をこの竹刀10の柄部13に装着することで、このような問題も生じない。ここで、本件発明に係る柄カバーを竹刀10の柄部13に装着するに際しては、柄革17の上に直接装着させても良い。
【0018】
図2は、本件発明に係る柄カバーの一実施形態を示す断面図である。また、
図3は、本件発明に係る柄カバーの別の実施形態を示す断面図である。
【0019】
本件発明に係る柄カバー1は、竹刀10の柄部13に装着して用いる竹刀10の柄カバーであって、当該竹刀10の柄部13を覆う本体2と、当該本体2の所定の位置の厚みを増加させる断面形状調整部材3を備えた
ものである。
【0020】
本件発明における本体2は、竹刀10の柄部13の一部又は全部を覆うものであって、その材質、大きさ、及び形状に関しては問わない。
【0021】
また、本件発明における断面形状調整部材3は、柄カバー1の所定の位置を隆起させるための部材であって、その材質、大きさ、及び形状に関しては問わない。本件発明における断面形状調整部材3は、寸法が異なる複数の厚さ調整部材(
図2及び
図3における符号3a,3b,3c,3d)を有し、本体2の表面に、サイズの大きなものから順に当該厚さ調整部材3a〜3dを積層したものであっても良い。ここで、厚さ調整部材3a〜3dの積層に関しては、特に限定されず、例えば縫合糸で縫い付けたり、接着剤を用いて固着する等の方法を採用することが出来る。また、断面形状調整部材3は、これら厚さ調整部材3a〜3dを積層した形状と略同一形状に形成された生地や合成樹脂等の部材とすることも出来る。更に、断面形状調整部材3は、上述した本体2と同一体とすることも出来る。
【0022】
本件発明に係る柄カバー1は、断面形状調整部材3を備えることで所定の位置の厚みを適宜増加させることが出来るため、柄部13の断面が略円形の場合でも柄カバー1を装着した竹刀10の柄部13の断面を略楕円形にすることが出来る。従って、本件発明に係る柄カバー1によれば、柄部13の断面が略円形の竹刀10に対して用いた場合でも、安定的に竹刀10を適切な形で把持することが可能となる。柄部13の断面が略円形の竹刀10は、部品交換が可能であることから、一部の竹片が破損した場合でも破損した竹片のみの交換を行うことができ、経済的である。
【0023】
また、本件発明に係る柄カバー1は、断面形状調整部材3を備えることで所定の位置の厚みを適宜増加させることが出来るため、様々な柄部13の形状(断面形状、太さ)に対応することが出来る。例えば、本件発明に係る柄カバー1は、断面が略円形のみならず楕円形や多角形の等の柄部13に対しても対応することが出来る。竹刀10の柄部13は、断面が楕円形であっても、使用者によって手の大きさや形が異なることから、更なる調整を施さないと竹刀10を適切な形で把持することが出来ない場合がある。しかし、本件発明に係る柄カバー1によれば、柄部13の元の形状を問わずに、柄部13を使用者が望む形状に変化させることが出来るため、このような問題は生じない。
【0024】
ここで、本件発明に係る柄カバー1において、断面形状調整部材3は、本体2の外面に備えたことが好ましい(
図2を参照のこと。)。断面形状調整部材3が本体2の外面に備わる場合には、竹刀10の柄カバー1において隆起させる位置をより細かく設定することが出来る。そのため、例えば、柄カバー1において、指の配置位置が窪むように断面形状調整部材3を備えることで、初心者が正しい竹刀の握り方を習得することが出来る。
【0025】
また、本件発明に係る柄カバー1において、断面形状調整部材3は、本体2の内面に備えることも好ましい(
図3を参照のこと。)。断面形状調整部材3が本体2の内面に備わる場合には、竹刀10の柄カバー1の耐久性を向上させると共に、見栄えをより向上させることが出来る。
【0026】
そして、本件発明に係る柄カバー1において、断面形状調整部材3は、その外表面に滑り止め手段を備えたことが好ましい。ここで、滑り止め手段は、接触するものとの摩擦力を大きくするものであれば良く、例えばゴム系やシリコン系の塗料、接着剤、生地等を用いることが出来る。本件発明に係る柄カバー1は、断面形状調整部材3の外表面に滑り止め手段を備えることで、例えば、断面形状調整部材3が本体2の外面に備わる場合には握り手の滑り止めの効果を効果的に高めることが出来る。また、例えば、断面形状調整部材3が本体2の内面に備わる場合には、竹刀10の柄部13に対する柄カバー1の滑り止めの効果を効果的に高めることが出来る。
【0027】
以上に、本件発明に係る柄カバー1を竹刀10の柄部13に装着する例を説明したが、当該柄カバー1は、竹刀10の柄部13の長手方向に沿って短冊状の断面形状調整部材3を備えることで、安定的に竹刀10を適切な形で把持することが出来る。参考までに、竹刀10の柄革17は、一般的に、短冊状の革の長辺同士を縫合して有底筒状に製作されるが、本件発明に係る柄カバー1も同様の方法で製作することが出来る。
【0028】
図4(a)は
図1又は
図2に示す竹刀の柄カバーの展開図であり、
図4(b)はその断面図である。本件発明に係る柄カバー1は、短冊状の本体2の長辺同士を縫合して有底筒状に製作する場合、
図4(a)に示す如く本体2の短辺の中央位置で且つ本体2の長辺の端部付近を結ぶ位置に、断面形状調整部材3を備えることが出来る。このときに、断面形状調整部材3は、
図4(b)に示す如く本体2の短辺の中央位置が最も高くなると共に、短辺の端部に向かって等間隔で厚さが小さくなるように短冊状の厚さ調整部材3a〜3dを備えることで、略直線状の竹刀10の柄部13のどの位置で握っても、左右の手の拇指球が常に竹刀10の柄部13の上側に配置され、且つ左右の手の人差し指の中節骨付近から小指の基節骨付近の領域が常に竹刀10の柄部13の下側に配置されることとなる。その結果、このようにして製作された竹刀10の柄カバー1は、柄部13の断面が楕円形(小判型)の高価な竹刀と同等以上の握り心地を得ることが出来る。
【0029】
ここで、略直線状の竹刀10の柄部13に用いる柄カバー1は、当該竹刀10の柄部13に装着したときに、外周断面のアスペクト比(断面でみたときに、最大径をXとし、この最大径Xに対して垂直方向の最大径をYとしたときの比率Y/X(
図2及び
図3を参照のこと。))が0.6〜0.9となるように断面形状調整部材3の厚さを調整することで、万人が竹刀を適切な形で把持出来る。また、当該比率Y/Xは、0.8〜0.9とすることがより好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本件発明に係る竹刀の柄カバーによれば、誰もが安定的に竹刀を適切な形で把持出来るようになる。従って、本件発明に係る竹刀の柄カバーによれば、使用者のレベルを問わず、正確な打ち込みを行うことが可能となる。また、本件発明に係る竹刀の柄カバーは、簡易な構造であることから、低価格化を実現出来るため、初心者にも好適である。
【符号の説明】
【0031】
1 柄カバー
2 本体(柄カバー)
3 断面形状調整部材
3a〜3d 厚さ調整部材
10 竹刀
11 竹刀本体
12 刀身部
13 柄部
14 先革
15 中しめ革
16 弦
17 柄革
18 鍔
19 鍔止