特許第6865984号(P6865984)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6865984
(24)【登録日】2021年4月9日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】合成繊維用処理剤、及び炭素繊維前駆体
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/322 20060101AFI20210419BHJP
   D06M 13/17 20060101ALI20210419BHJP
   D06M 13/188 20060101ALI20210419BHJP
   D06M 15/65 20060101ALI20210419BHJP
   D06M 15/643 20060101ALI20210419BHJP
   D06M 15/647 20060101ALI20210419BHJP
   D06M 101/28 20060101ALN20210419BHJP
【FI】
   D06M13/322
   D06M13/17
   D06M13/188
   D06M15/65
   D06M15/643
   D06M15/647
   D06M101:28
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2020-117183(P2020-117183)
(22)【出願日】2020年7月7日
【審査請求日】2020年7月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 旬
(72)【発明者】
【氏名】土井 章弘
(72)【発明者】
【氏名】西川 武志
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−308274(JP,A)
【文献】 特表平05−500534(JP,A)
【文献】 特開平02−084541(JP,A)
【文献】 特開2012−255244(JP,A)
【文献】 特開2020−094304(JP,A)
【文献】 特開平04−034073(JP,A)
【文献】 特開2010−059566(JP,A)
【文献】 特開2016−089324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00−15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コハク酸イミド化合物、及び非イオン性界面活性剤を含有することを特徴とする合成繊維用処理剤であり、
前記合成繊維が、炭素繊維前駆体である合成繊維用処理剤。
【請求項2】
前記非イオン性界面活性剤が、炭素数4〜30の1価アルコール1モルに対し炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを合計で1〜50モルの割合で付加させた化合物、及び炭素数4〜30のアルキルアミン1モルに対し炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを合計で1〜50モルの割合で付加させた化合物の少なくとも一つを含む請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
前記コハク酸イミド化合物の含有量と前記非イオン性界面活性剤の含有量との質量比が、コハク酸イミド化合物/非イオン性界面活性剤=5/95〜95/5である請求項1又は2に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
さらに、ブレンステッド酸を含有する請求項1〜のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
さらに、エポキシ化合物を含有する請求項1〜のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
前記エポキシ化合物が、エポキシ変性シリコーン、及びエポキシ・ポリエーテル変性シリコーンから選ばれる少なくとも一つを含むものである請求項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
さらに、アミノ変性シリコーン、ジメチルシリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンから選ばれる少なくとも一つを含有する請求項1〜のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする炭素繊維前駆体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維用処理剤、及び炭素繊維前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、炭素繊維は、アクリル樹脂等を紡糸する紡糸工程、紡糸された繊維を乾燥して緻密化する乾燥緻密化工程、乾燥緻密化した繊維を延伸して合成繊維である炭素繊維前駆体を製造する延伸工程、炭素繊維前駆体を耐炎化する耐炎化処理工程、及び耐炎化繊維を炭素化する炭素化処理工程を行なうことにより製造される。
【0003】
合成繊維の製造工程において、繊維の集束性を向上させるために、合成繊維用処理剤が用いられることがある。また、合成繊維用処理剤が付着した繊維に熱が加わると、合成繊維用処理剤からタールが生じる場合がある。
【0004】
特許文献1には、アミノ変性シリコーンと、界面活性剤と、分子内にポリオキシアルキレン基及び2つ以上の1級アミン基を有するアミン化合物とを含む合成繊維用処理剤としての繊維処理剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/003347号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、合成繊維用処理剤には、合成繊維の製造工程における集束性を向上させる効果のさらなる性能向上が求められている。また、合成繊維の製造工程において合成繊維用処理剤から生じるタールの低減が求められている。
【0007】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、合成繊維の製造工程における集束性の向上、及びタールの低減を可能にした合成繊維用処理剤を提供することにある。また、この合成繊維用処理剤が付着した炭素繊維前駆体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
記課題を解決するための合成繊維用処理剤は、コハク酸イミド化合物、及び非イオン性界面活性剤を含有することを特徴とする合成繊維用処理剤であり、前記合成繊維が、炭素繊維前駆体であることを要旨とする。
上記合成繊維用処理剤について、前記非イオン性界面活性剤が、炭素数4〜30の1価アルコール1モルに対し炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを合計で1〜50モルの割合で付加させた化合物、及び炭素数4〜30のアルキルアミン1モルに対し炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを合計で1〜50モルの割合で付加させた化合物の少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0009】
上記合成繊維用処理剤について、前記コハク酸イミド化合物の含有量と前記非イオン性界面活性剤の含有量との質量比が、コハク酸イミド化合物/非イオン性界面活性剤=5/95〜95/5であることが好ましい。
【0010】
上記合成繊維用処理剤について、さらに、ブレンステッド酸を含有することが好ましい。
上記合成繊維用処理剤について、さらに、エポキシ化合物を含有することが好ましい。
【0011】
上記合成繊維用処理剤について、前記エポキシ化合物が、エポキシ変性シリコーン、及びエポキシ・ポリエーテル変性シリコーンから選ばれる少なくとも一つを含むものであることが好ましい。
【0012】
上記合成繊維用処理剤について、さらに、アミノ変性シリコーン、ジメチルシリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンから選ばれる少なくとも一つを含有することが好ましい。
【0013】
記課題を解決するための炭素繊維前駆体は、上記合成繊維用処理剤が付着していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、合成繊維の製造工程における集束性を好適に向上させることができるとともに、タールを低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
本発明に係る合成繊維用処理剤(以下、単に処理剤ともいう。)を具体化した第1実施形態について説明する。
【0016】
本実施形態の処理剤は、コハク酸イミド化合物、及び非イオン性界面活性剤を含有する。
上記コハク酸イミド化合物を含有することにより、合成繊維の集束性を好適に向上させることができる。また、処理剤から生じるタールを低減することができる。
【0017】
上記コハク酸イミド化合物を構成するコハク酸としては、コハク酸の他、コハク酸誘導体も含まれる。コハク酸誘導体としては、例えばアルキルコハク酸無水物、アルケニルコハク酸無水物等が挙げられる。コハク酸に付加されるアルキル基又はアルケニル基としては、直鎖状であっても分岐鎖構造を有してもよい。コハク酸又はその誘導体と反応し、イミン化合物を形成するアミンとしては、第1級アミンが挙げられる。第1級アミンとしては、モノアミン、ジアミン、ポリアミンのいずれであってもよい。第1級アミンの具体例としては、例えばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ペンチレンジアミン等のジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジ(メチルエチレン)トリアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、ペンタペンチレンヘキサミン等のポリアルキレンポリアミン等が挙げられる。コハク酸イミドは、モノタイプであっても、ポリアミン鎖の両端に無水コハク酸が付加したビスタイプのものであってもよい。
【0018】
上記コハク酸イミド化合物は、下記の化1、又は化2で示されるものであることが好ましい。
【0019】
【化1】
【0020】
【化2】
(化1、化2において
〜R:数平均分子量200〜8000のポリオレフィンから末端の1個の水素原子を除いた残基。
【0021】
,X:炭素数2〜6のアルキレン基
:炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のヒドロキシアルキル基又は水素原子(但し、p=0の場合は水素原子を除く)
p,q:0〜10の整数)
化1又は化2中のX又はXを構成するアルキレン基の具体例としては、例えばエチレン基、プロピレン基、メチルエチレン基、テトラメチレン基、2−メチルプロピレン基、ペンタメチレン基、2−メチルテトラメチレン基、ヘキサメチレン基、2−メチルペンタメチレン基等が挙げられる。
【0022】
化1中のYを構成するアルキル基、アルケニル基、又はヒドロキシアルキル基の具体例としては、例えばメチル基、エチル基、エテニル基、プロピル基、プロペニル基、イソプロピル基、イソプロペニル基、ブチル基、ブテニル基、イソブチル基、イソブテニル基、ペンチル基、ペンテニル基、イソペンチル基、イソペンテニル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、2−メチルヘプチル基、ドデシル基、2−メチルウンデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシイソプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシイソブチル基、ヒドロキシペンチル基、ヒドロキシヘキシル基、ヒドロキシオクチル基、ヒドロキシデシル基、ヒドロキシドデシル基、ヒドロキシテトラデシル基、ヒドロキシヘキサデシル基、ヒドロキシオクタデシル基、ヒドロキシイコシル基が挙げられる。
【0023】
化1又は化2中のR又はR又はRの具体例としては、例えばプロペン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテン、イソブテン、イソペンテン、イソヘキセン、イソオクテン等の重合物からなるポリオレフィンであって数平均分子量200〜8000のポリオレフィンから末端の1個の水素原子を除いた残基である。
【0024】
これらの中でも、ポリブテニル無水コハク酸のイミド化物、ポリイソブテニル無水コハク酸のイミド化物であることが好ましい。
上記コハク酸イミド化合物の具体例としては、例えばポリブテン部分の数平均分子量が1500であるポリブテニル無水コハク酸とトリエチレンテトラアミンを反応させて得られた化合物、ポリブテン部分の数平均分子量が1200であるポリブテニル無水コハク酸とジエチレントリアミンを反応させて得られた化合物、ポリブテン部分の数平均分子量が3000であるポリブテニル無水コハク酸とジエチレントリアミンを反応させて得られた化合物、ポリブテン部分の数平均分子量が6000であるポリブテニル無水コハク酸とトリエチレンテトラアミンを反応させて得られた化合物、ポリブテン部分の数平均分子量が1500であるポリブテニル無水コハク酸とトリプロピレンテトラアミンを反応させて得られた化合物、ポリブテン部分の数平均分子量が3000であるポリブテニル無水コハク酸とエチレンジアミンを反応させて得られた化合物、ポリブテン部分の数平均分子量が1500であるポリブテニル無水コハク酸とジエチレントリアミンを反応させて得られた化合物、ポリイソブチレン部分の数平均分子量が900であるポリイソブテニル無水コハク酸とトリエチレンテトラアミンを反応させて得られた化合物、ポリブテン部分の数平均分子量が600であるポリブテニル無水コハク酸とテトラエチレンペンタアミンを反応させて得られた化合物、ポリブテン部分の数平均分子量が2000であるポリブテニル無水コハク酸とトリブチレンテトラアミンを反応させて得られた化合物、ポリプロピレン部分の数平均分子量が1500であるポリプロペニル無水コハク酸とトリブチレンテトラアミンを反応させて得られた化合物、テトラプロペニル無水コハク酸とジエチレントリアミンを反応させて得られた化合物等が挙げられる。
【0025】
上記コハク酸イミド化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記コハク酸イミド化合物は、後述のように、非イオン性界面活性剤等と混合して処理剤を調製する際に、希釈剤で希釈された溶液として用いられることが好ましい。
【0026】
希釈剤としては、例えば水、有機溶剤、鉱物油等が挙げられる。有機溶剤の具体例としては、ヘキサン、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチルエーテル、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、クロロホルム等が挙げられる。鉱物油としては、例えば、芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等が挙げられる。より具体的には、例えばスピンドル油、流動パラフィン等が挙げられる。鉱物油の粘度は、80〜190レッドウッド秒であることが好ましい。これらの鉱物油は、市販品を適宜採用することができる。
【0027】
コハク酸イミド化合物及び希釈剤の含有割合に制限はない。コハク酸イミド化合物、及び希釈剤の含有割合の合計を100質量部とすると、コハク酸イミド化合物を40〜90質量部、及び希釈剤を10〜60質量部の割合で含むことが好ましい。
【0028】
上記非イオン性界面活性剤は、特に限定されないが、炭素数4〜30の1価アルコール1モルに対し炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを合計で1〜50モルの割合で付加させた化合物、及び炭素数4〜30のアルキルアミン1モルに対し炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを合計で1〜50モルの割合で付加させた化合物の少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0029】
1価アルコールとしては、直鎖状又は分岐鎖構造を有する脂肪族アルコールであっても芳香族アルコールであってもよく、また第2級アルコールであってもよい。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中におけるアルコール1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。
【0030】
上記アルキレンオキサイドの具体例としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等を挙げることができる。重合配列としては、特に限定されず、ランダム付加物であっても、ブロック付加物であってもよい。
【0031】
上記非イオン性界面活性剤の具体例としては、例えばドデシルアルコール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物、イソドデシルアルコール1モルに対してエチレンオキサイドを12モル付加させた化合物、トリデシルアルコール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル付加させた化合物、テトラデシルアルコール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル付加させた化合物、ペンタデシルアルコール1モルに対してエチレンオキサイドを15モル付加させた化合物、テトラデシルアルコール1モルに対してエチレンオキサイドを15モル付加した後、プロピレンオキサイドを18モル付加させた化合物、2級トリデシルアルコール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物、ドデシルアルコール1モルに対してエチレンオキサイドを2モル、プロピレンオキサイドを6モルランダム付加させた化合物、トリスチレン化フェノール1モルに対してエチレンオキサイドを15モル、プロピレンオキサイドを9モル付加させた化合物、ドデシルアミン1モルに対してエチレンオキサイドを4モル付加させた化合物、ドデシルアミン1モルに対してエチレンオキサイドを8モル付加させた化合物、オクタデシルアミン1モルに対してエチレンオキサイドを15モル付加させた化合物等が挙げられる。
【0032】
上記非イオン性界面活性剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
コハク酸イミド化合物の含有量と非イオン性界面活性剤の含有量との質量比に制限はないが、コハク酸イミド化合物の含有量と非イオン性界面活性剤の含有量との質量比は、コハク酸イミド化合物/非イオン性界面活性剤=5/95〜95/5であることが好ましい。
【0033】
上記処理剤は、さらに、ブレンステッド酸を含有することが好ましい。
上記ブレンステッド酸を含有することにより、合成繊維の集束性をより好適に向上させることができる。ブレンステッド酸は、プロトンを有し、かつ、水を含有する液体組成物中で当該プロトンを放出又は解離できる酸であり、ルイス酸のようなプロトンを有さない酸とは異なる。
【0034】
ブレンステッド酸の具体例としては、特に限定されないが、例えば酢酸、ポリオキシエチレン(n=10)ラウリルエーテル酢酸、ポリオキシエチレン(n=4.5)ラウリルエーテル酢酸等のアルキルエーテル酢酸、オレオイルサルコシネート、ラウロイルサルコシネート、トリデシルアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物のリン酸エステル、ヘキサデシルリン酸エステル等のリン酸エステル、乳酸、クエン酸、リン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸、硫酸等が挙げられる。
【0035】
上記ブレンステッド酸は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
処理剤中のブレンステッド酸の含有量は、特に限定されないが、0.01〜10質量%であることが好ましい。
【0036】
上記処理剤は、さらに、エポキシ化合物を含有することが好ましい。
上記エポキシ化合物を含有することにより、後述のように、処理剤が付着した合成繊維を用いて炭素繊維を製造した際に、炭素繊維の毛羽(以下、「CF毛羽」ともいう。)を抑制することができる。
【0037】
エポキシ化合物としては、特に制限はなく、エポキシ変性シリコーン、及びエポキシ・ポリエーテル変性シリコーンから選ばれる少なくとも一つを含むものであることが好ましい。
【0038】
エポキシ化合物が、上記エポキシ変性シリコーン、及びエポキシ・ポリエーテル変性シリコーンから選ばれる少なくとも一つを含むものであることにより、CF毛羽をより好適に抑制することができる。
【0039】
エポキシ化合物の具体例としては、例えば25℃における動粘度が6000mm/s、当量が3700g/molである側鎖型脂環式エポキシ変性シリコーン、25℃における動粘度が8000mm/s、当量が3300g/molである側鎖型グリシジルエポキシ変性シリコーン、25℃における動粘度が120mm/s、当量が2700g/molである両末端型グリシジルエポキシ変性シリコーン、25℃における動粘度が2800mm/s、当量が2800g/molである側鎖型グリシジルエポキシポリエーテル変性シリコーン、25℃における動粘度が5000mm/s、当量が4200g/molである側鎖型脂環式エポキシ変性シリコーン、25℃における動粘度が3100mm/s、当量が10200g/molである側鎖型グリシジルエポキシポリエーテル変性シリコーン、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(平均分子量370)、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(平均分子量470)、ビスフェノールFジグリシジルエーテル(平均分子量340)、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ポリグリセリンのグリシジルエーテル化物(平均分子量1000)等が挙げられる。
【0040】
上記エポキシ化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、エポキシ化合物等の25℃における動粘度は、キャノンフェンスケ粘度計を用いて、25℃の条件下で公知の方法により測定することができる。
【0041】
処理剤中のエポキシ化合物の含有量は、特に限定されないが、1〜50質量%であることが好ましい。
上記処理剤は、さらに、上記エポキシ変性シリコーン、及びエポキシ・ポリエーテル変性シリコーン以外のシリコーン(以下、「その他のシリコーン」ともいう。)を含有することが好ましい。その他のシリコーンを含有することにより、後述のように、処理剤を付着させた合成繊維を用いて製造した炭素繊維の強度をより向上させることができる。
【0042】
その他のシリコーンとしては、アミノ変性シリコーン、ジメチルシリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンから選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
その他のシリコーンの具体例としては、例えば25℃における動粘度が250mm/s、当量が7600g/molであるジアミン型のアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が1300mm/s、当量が1700g/molであるジアミン型のアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が1700mm/s、当量が3800g/molであるモノアミン型のアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が80mm/s、当量が4000g/molであるジアミン型のアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が5000mm/sであるジメチルシリコーン、25℃における動粘度が1700mm/s、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=40/60、シリコーン/ポリエーテルの質量比=20/80のポリエーテル変性シリコーン等が挙げられる。
【0043】
(第2実施形態)
本発明に係る合成繊維を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の合成繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している合成繊維である。合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ乳酸エステル等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、(5)セルロース系繊維、(6)リグニン系繊維等が挙げられる。
【0044】
合成繊維としては、後述する炭素化処理工程を経ることにより炭素繊維となる樹脂製の炭素繊維前駆体が好ましい。炭素繊維前駆体を構成する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、フェノール樹脂、セルロース樹脂、リグニン樹脂、ピッチ等を挙げることができる。
【0045】
第1実施形態の処理剤を合成繊維に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤(溶媒を含まない)を合成繊維に対し0.1〜2質量%となるように付着させることが好ましく、0.3〜1.2質量%となるように付着させることがより好ましい。
【0046】
第1実施形態の処理剤を繊維に付着させる際の形態としては、例えば有機溶媒溶液、水性液等が挙げられる。
処理剤を合成繊維に付着させる方法としては、例えば、第1実施形態の処理剤の有機溶媒溶液、水性液等を用いて、公知の方法、例えば浸漬法、スプレー法、ローラー法、計量ポンプを用いたガイド給油法等によって付着させる方法を適用できる。
【0047】
本発明に係る処理剤、及びこの処理剤が付着した合成繊維を用いた炭素繊維の製造方法について説明する。
炭素繊維の製造方法は、下記の工程1〜3を経ることが好ましい。
【0048】
工程1:合成繊維を紡糸するとともに、第1実施形態の処理剤を付着させる紡糸工程。
工程2:前記工程1で得られた合成繊維を200〜300℃、好ましくは230〜270℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程。
【0049】
工程3:前記工程2で得られた耐炎化繊維をさらに300〜2000℃、好ましくは300〜1300℃の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程。
紡糸工程は、さらに、樹脂を溶媒に溶解して紡糸する湿式紡糸工程、湿式紡糸された合成繊維を乾燥して緻密化する乾燥緻密化工程、及び乾燥緻密化した合成繊維を延伸する延伸工程を有していることが好ましい。
【0050】
乾燥緻密化工程の温度は特に限定されないが、湿式紡糸工程を経た合成繊維を、例えば、70〜200℃で加熱することが好ましい。処理剤を合成繊維に付着させるタイミングは特に限定されないが、湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間であることが好ましい。
【0051】
耐炎化処理工程における酸化性雰囲気は、特に限定されず、例えば、空気雰囲気を採用することができる。
炭素化処理工程における不活性雰囲気は、特に限定されず、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空雰囲気等を採用することができる。
【0052】
本実施形態の処理剤、及び合成繊維によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の処理剤は、コハク酸イミド化合物、及び非イオン性界面活性剤を含有する。したがって、合成繊維の集束性を好適に向上させることができるとともに、合成繊維が加熱された際のタールを低減することができる。
【0053】
(2)湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間において、処理剤を合成繊維に付着させている。したがって、紡糸工程のうち、特に乾燥緻密化工程を経た合成繊維の集束性を向上させることができる。
【0054】
(3)合成繊維として炭素繊維前駆体に適用された場合、耐炎化処理工程におけるタールを抑制することができる、また、炭素繊維の強度を向上でき、炭素化後のCF毛羽を抑制することができる。
【0055】
上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。上記実施形態、及び、以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・本実施形態では、湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間において、処理剤を合成繊維に付着させていたが、この態様に限定されない。乾燥緻密化工程と延伸工程の間において処理剤を合成繊維に付着させても良いし、延伸工程と耐炎化処理工程の間において処理剤を合成繊維に付着させても良い。
【0056】
・本実施形態において、例えば、合成繊維が、耐炎化処理工程を行なうものの、炭素化処理工程までは行わない繊維であってもよい。また、耐炎化処理工程と炭素化処理工程の両方を行わない繊維であってもよい。
【0057】
・本実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤や制電剤、帯電防止剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤(シリコーン系化合物)等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0059】
試験区分1(合成繊維用処理剤の調製)
(実施例1)
以下の方法により、表1に示されるコハク酸イミド化合物(a1−1)が42部、希釈剤(a2−1)が18部の配合割合で含有するコハク酸イミド化合物の溶液(A−1)を調製した。
【0060】
まず、ガラス製反応器に、トリエチレンテトラアミン100質量部と、100レッドウッド秒の鉱物油385部を加えた。窒素気流下、ガラス製反応器を150℃に昇温した。ポリブテン部分の数平均分子量が1500であるポリブテニル無水コハク酸800部を徐々に滴下して、2時間反応させた。
【0061】
ガラス製反応器を200℃に昇温し、未反応のトリエチレンテトラアミンと生成水を減圧除去した。ガラス製反応器を140℃に降温後、濾過して、コハク酸イミド化合物の溶液(A−1)を調製した。表1に示されるA−2〜A−12もこのA−1の合成方法に沿って調製した。
【0062】
コハク酸イミド化合物の種類、及び含有量、希釈剤の種類、及び含有量、溶液中のコハク酸イミド化合物の含有量は、表1の「コハク酸イミド化合物」欄、「希釈剤」欄、「溶液中のコハク酸イミド化合物の含有量」欄にそれぞれ示すとおりである。
【0063】
【表1】
(コハク酸イミド化合物)
a1−1:ポリブテン部分の数平均分子量が1500であるポリブテニル無水コハク酸とトリエチレンテトラアミンを反応させて得られた化合物
a1−2:ポリブテン部分の数平均分子量が1200であるポリブテニル無水コハク酸とジエチレントリアミンを反応させて得られた化合物
a1−3:ポリブテン部分の数平均分子量が3000であるポリブテニル無水コハク酸とジエチレントリアミンを反応させて得られた化合物
a1−4:ポリブテン部分の数平均分子量が6000であるポリブテニル無水コハク酸とトリエチレンテトラアミンを反応させて得られた化合物
a1−5:ポリブテン部分の数平均分子量が1500であるポリブテニル無水コハク酸とトリプロピレンテトラアミンを反応させて得られた化合物
a1−6:ポリブテン部分の数平均分子量が3000であるポリブテニル無水コハク酸とエチレンジアミン反応させて得られた化合物
a1−7:ポリブテン部分の数平均分子量が1500であるポリブテニル無水コハク酸とジエチレントリアミンを反応させて得られた化合物
a1−8:ポリイソブチレン部分の数平均分子量が900であるポリイソブテニル無水コハク酸とトリエチレンテトラアミンを反応させて得られた化合物
a1−9:ポリブテン部分の数平均分子量が600であるポリブテニル無水コハク酸とテトラエチレンペンタアミンを反応させて得られた化合物
a1−10:ポリブテン部分の数平均分子量が2000であるポリブテニル無水コハク酸とトリブチレンテトラアミンを反応させて得られた化合物
a1−11:ポリプロピレン部分の数平均分子量が1500であるポリプロペニル無水コハク酸とトリブチレンテトラアミンを反応させて得られた化合物
a1−12:テトラプロペニル無水コハク酸とジエチレントリアミンを反応させて得られた化合物
(希釈剤)
a2−1:鉱物油(レッドウッド粘度計での粘度が100秒)
a2−2:流動パラフィン(レッドウッド粘度計での粘度が80秒)
a2−3:鉱物油(レッドウッド粘度計での粘度が150秒)
a2−4:流動パラフィン(レッドウッド粘度計での粘度が100秒)
a2−5:鉱物油(レッドウッド粘度計での粘度が120秒)
a2−6:鉱物油(レッドウッド粘度計での粘度が190秒)
次に、表2に示される各成分を用いて、コハク酸イミド化合物の溶液(A−1)が60部、非イオン性界面活性剤(B1−1)が20部、ブレンステッド酸(C−1)が0.5部、エポキシ化合物(D−1)が7.5部、その他のシリコーン(E−1)が10部、その他化合物が2部となるようにビーカーに加えた。これらをよく撹拌して合成繊維用処理剤を調製した。
【0064】
(実施例2〜25及び比較例1〜3)
実施例2〜25及び比較例1〜3の各コハク酸イミド化合物の溶液は、表1、2に示される各成分を使用し、実施例1と同様の方法にて調製した。各例の処理剤中におけるコハク酸イミド化合物の溶液の種類と含有量、非イオン性界面活性剤の種類と含有量、ブレンステッド酸の種類と含有量、エポキシ化合物の種類と含有量、その他のシリコーンの種類と含有量、その他化合物の種類と含有量、及びコハク酸イミド化合物と非イオン性界面活性剤の質量比は、表2の「コハク酸イミド化合物の溶液」欄、「非イオン性界面活性剤」欄、「ブレンステッド酸」欄、「エポキシ化合物」欄、「その他のシリコーン」欄、「その他化合物」欄、及び「コハク酸イミド化合物/非イオン性界面活性剤」欄にそれぞれ示すとおりである。
【0065】
【表2】
表2の記号欄に記載するB1−1〜B1−9、B2−1〜B2−3、C−1〜C−11、D−1〜D−11、E−1〜E−6、F−1〜F−5の各成分の詳細は以下のとおりである。
【0066】
(非イオン性界面活性剤)
B1−1:ドデシルアルコール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物
B1−2:イソドデシルアルコール1モルに対してエチレンオキサイドを12モル付加させた化合物
B1−3:トリデシルアルコール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル付加させた化合物
B1−4:テトラデシルアルコール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル付加させた化合物
B1−5:ペンタデシルアルコール1モルに対してエチレンオキサイドを15モル付加させた化合物
B1−6:テトラデシルアルコール1モルに対してエチレンオキサイドを15モル付加させた後、プロピレンオキサイドを18モル付加させた化合物
B1−7:2級トリデシルアルコール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物
B1−8:ドデシルアルコール1モルに対してエチレンオキサイドを2モル、プロピレンオキサイドを6モルランダム付加させた化合物
B1−9:トリスチレン化フェノール1モルに対してエチレンオキサイドを15モル、プロピレンオキサイドを9モル付加させた化合物
B2−1:ドデシルアミン1モルに対してエチレンオキサイドを4モル付加させた化合物
B2−2:ドデシルアミン1モルに対してエチレンオキサイドを8モル付加させた化合物
B2−3:オクタデシルアミン1モルに対してエチレンオキサイドを15モル付加させた化合物
(ブレンステッド酸)
C−1:酢酸
C−2:ポリオキシエチレン(n=10)ラウリルエーテル酢酸
C−3:ポリオキシエチレン(n=4.5)ラウリルエーテル酢酸
C−4:オレオイルサルコシネート
C−5:ラウロイルサルコシネート
C−6:トリデシルアルコールのエチレンオキサイド5モル付加物のリン酸エステル
C−7:ヘキサデシルリン酸エステル
C−8:乳酸
C−9:クエン酸
C−10:リン酸
C−11:ドデシルベンゼンスルホン酸
(エポキシ化合物)
D−1:25℃における動粘度が6000mm/s、当量が3700g/molである側鎖型脂環式エポキシ変性シリコーン
D−2:25℃における動粘度が8000mm/s、当量が3300g/molである側鎖型グリシジルエポキシ変性シリコーン
D−3:25℃における動粘度が120mm/s、当量が2700g/molである両末端型グリシジルエポキシ変性シリコーン
D−4:25℃における動粘度が2800mm/s、当量が2800g/molである側鎖型グリシジルエポキシポリエーテル変性シリコーン
D−5:25℃における動粘度が5000mm/s、当量が4200g/molである側鎖型脂環式エポキシ変性シリコーン
D−6:25℃における動粘度が3100mm/s、当量が10200g/molである側鎖型グリシジルエポキシポリエーテル変性シリコーン
D−7:ビスフェノールAジグリシジルエーテル(平均分子量370)
D−8:ビスフェノールAジグリシジルエーテル(平均分子量470)
D−9:ビスフェノールFジグリシジルエーテル(平均分子量340)
D−10:テトラグリシジルジアミンジフェニルメタン
D−11:ポリグリセリンのグリシジルエーテル化物(平均分子量1000)
(その他のシリコーン)
E−1:25℃における動粘度が250mm/s、当量が7600g/molであるジアミン型のアミノ変性シリコーン
E−2:25℃における動粘度が1300mm/s、当量が1700g/molであるジアミン型のアミノ変性シリコーン
E−3:25℃における動粘度が1700mm/s、当量が3800g/molであるモノアミン型のアミノ変性シリコーン
E−4:25℃における動粘度が80mm/s、当量が4000g/molであるジアミン型のアミノ変性シリコーン
E−5:25℃における動粘度が5000mm/sであるジメチルシリコーン
E−6:25℃における動粘度が1700mm/s、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=40/60、シリコーン/ポリエーテルの質量比20/80のポリエーテル変性シリコーン
(その他化合物)
F−1:分子量600のポリエチレングリコールの両末端に3−アミノプロピル基を付加したもの
F−2:ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物のジドデシルエステル
F−3:1−エチル−2−(ヘプタデセニル)−4,5−ジハイドロ−3−(2−ハイドロキシエチル)−1H−イミダゾリニウムのエチル硫酸塩
F−4:トリメチルオクチルアンモニウムジメチルホスフェート
F−5:イソトリデシルイソステアレート
試験区分2(合成繊維、及び炭素繊維の製造)
試験区分1で調製した合成繊維用処理剤を用いて、合成繊維、及び炭素繊維を製造した。
【0067】
まず、工程1として、アクリル樹脂を湿式紡糸した。具体的には、アクリロニトリル95質量%、アクリル酸メチル3.5質量%、メタクリル酸1.5質量%からなる極限粘度1.80の共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解してポリマー濃度が21.0質量%、60℃における粘度が500ポイズの紡糸原液を作成した。紡糸原液は、紡浴温度35℃に保たれたDMACの70質量%水溶液の凝固浴中に孔径(内径)0.075mm、ホール数12,000の紡糸口金よりドラフト比0.8で吐出した。
【0068】
凝固糸を水洗槽の中で脱溶媒と同時に5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維ストランド(原料繊維)を作成した。このアクリル繊維ストランドに対して、固形分付着量が1質量%(溶媒を含まない)となるように、試験区分1で調製した合成繊維用処理剤を給油した。合成繊維用処理剤の給油は、合成繊維用処理剤の4%イオン交換水溶液を用いた浸漬法により実施した。その後、アクリル繊維ストランドに対して、130℃の加熱ローラーで乾燥緻密化処理を行い、更に170℃の加熱ローラー間で1.7倍の延伸を施した後に巻き取り装置を用いて糸管に巻き取った。
【0069】
次に、工程2として、巻き取られた合成繊維から糸を解舒し、230〜270℃の温度勾配を有する耐炎化炉で空気雰囲気下1時間、耐炎化処理した後に糸管に巻き取ることで耐炎化糸(耐炎化繊維)を得た。
【0070】
次に、工程3として、巻き取られた耐炎化糸から糸を解舒し、窒素雰囲気下で300〜1300℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維に転換後、糸管に巻き取ることで炭素繊維を得た。
【0071】
試験区分3(評価)
実施例1〜25及び比較例1〜3の処理剤について、処理剤を付着させた合成繊維の集束性、タールの発生状況、炭素繊維の強度、及び炭素繊維の毛羽の有無を評価した。各試験の手順について以下に示す。また、試験結果を表1の“集束性”、“タール”、“強度”、及び“CF毛羽”欄に示す。
【0072】
(集束性)
試験区分2の工程1において、合成繊維用処理剤を給油したアクリル繊維ストランドが加熱ローラーを通過する際の集束状態を目視で確認して、以下の基準で集束性の評価を行った。
【0073】
・合成繊維の集束性の評価基準
◎(良好):集束性が良く、加熱ローラーへの巻きつきもなく、操業性に全く問題ない場合
〇(可):やや糸がばらけることがあるが断糸は無く操業性に問題ない場合
×(不良):糸のばらけが多く、頻繁に断糸が発生して操業性に影響がある場合
(タール)
本発明の処理剤を1%付与した合成繊維を用意した。具体的には、本発明の処理剤を1%付着させた炭素繊維前駆体としてのアクリル繊維であって、フィラメント数が約6000本のアクリル繊維を用意した。このアクリル繊維を、230℃に加熱した直径20mmのCr梨地円柱状擦過体に接触角度90℃で接触させた。この状態でアクリル繊維を10m/分の速度で2時間走行させた後、Cr梨地円柱状擦過体に蓄積したタールの状態を目視で観察し、以下の基準でタールの発生状況の評価を行った。
【0074】
・タールの発生状況の評価基準
〇(可):タールの蓄積がほとんど確認できない場合
×(不良):タールの蓄積が確認された場合
(強度)
試験区分3の工程3で得られた炭素繊維を用いて、JIS R 7606に準じて炭素繊維の強度を測定した。以下の基準で炭素繊維の強度の評価を行った。
【0075】
・強度の評価基準
◎◎(優れる):強度が4.5GPa以上
◎(良好):強度が4.0GPa以上、4.5GPa未満
〇(可):強度が3.5GPa以上、4.0GPa未満
×(不良):強度が3.5GPa未満
(CF毛羽)
試験区分3の工程3において、糸管に巻き取られる炭素繊維を目視で観察し、10分間当たりの毛羽数を以下の基準で評価した。
【0076】
・CF毛羽の評価基準
◎◎(優れる):毛羽数が10個未満
◎(良好):毛羽数が10個以上、30個未満
〇(可):毛羽数が30個以上、50個未満
×(不良):毛羽数が50個以上
表1の結果から、本発明によれば、合成繊維の集束性を好適に向上させることができる。また、本発明の合成繊維用処理剤は、タールを抑制することができる。また、本発明の合成繊維用処理剤を付着させた合成繊維を用いて製造した炭素繊維は、強度が向上するとともに、毛羽が抑制される。
【要約】      (修正有)
【課題】合成繊維の製造工程における集束性を好適に向上させるとともに、製造工程において合成繊維用処理剤から生じるタールを低減する、合繊繊維用処理剤の提供。
【解決手段】コハク酸イミド化合物、及び非イオン性界面活性剤を含有する合成繊維用処理剤。好ましくは、非イオン性界面活性剤が、炭素数4〜30の1価アルコール1モルに対し炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを合計で1〜50モルの割合で付加させた化合物、及び炭素数4〜30のアルキルアミン1モルに対し炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを合計で1〜50モルの割合で付加させた化合物の少なくとも一つを含む。
【選択図】なし